特許第6291243号(P6291243)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6291243
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】水系顔料分散体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 17/00 20060101AFI20180305BHJP
   C09D 11/322 20140101ALN20180305BHJP
   C09B 67/20 20060101ALN20180305BHJP
【FI】
   C09D17/00
   !C09D11/322
   !C09B67/20 F
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-258154(P2013-258154)
(22)【出願日】2013年12月13日
(65)【公開番号】特開2015-113438(P2015-113438A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100149250
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】小田 斉
(72)【発明者】
【氏名】松本 敏幸
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−189487(JP,A)
【文献】 特開2001−247800(JP,A)
【文献】 特開2002−249690(JP,A)
【文献】 特開2005−187795(JP,A)
【文献】 特開2005−194322(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0210992(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00〜11/54、17/00
B41J 2/01〜 2/21
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)及び(2)を含む、水系顔料分散体の製造方法。
工程(1):塩生成基を有するポリマー、メチルエチルケトン、水及び顔料を含む混合物を、該メチルエチルケトンと水が相分離状態で撹拌型分散機で分散し、分散体を得る工程
工程(2):温度による調整により、工程(1)で得られた分散体を、該メチルエチルケトンと水が相分離しない均一相で分散する工程
【請求項2】
前記ポリマーがアニオン性モノマー由来の構成単位を有する水不溶性ポリマーである、請求項1に記載の水系顔料分散体の製造方法。
【請求項3】
工程(1)の水に対するメチルエチルケトンの質量比(メチルエチルケトンの質量/水の質量)が0.19以上1以下である、請求項1又は2に記載の水系顔料分散体の製造方法。
【請求項4】
工程(1)の温度に対する工程(2)の温度の差(工程(1)の温度−工程(2)の温度)が、5℃以上40℃以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の水系顔料分散体の製造方法。
【請求項5】
工程(1)の温度が20℃以上60℃以下であり、工程(2)の温度が20℃未満である、請求項1〜4のいずれかに記載の水系顔料分散体の製造方法。
【請求項6】
工程(1)の混合物が中和剤を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の水系顔料分散体の製造方法。
【請求項7】
工程(1)において、水に対するメチルエチルケトンの質量比(メチルエチルケトンの質量/水の質量:混合物の分散時における値)が0.19以上0.4以下である、請求項1〜6のいずれかに記載の水系顔料分散体の製造方法。
【請求項8】
工程(2)の分散を高圧ホモジナイザーで行なう、請求項1〜7のいずれかに記載の水系顔料分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系顔料分散体の製造法に関し、詳しくはインクジェット記録用水系インクに好適に使用しうる水系顔料分散体の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインクの液滴を記録部材に直接吐出し、付着させて文字や画像を得る記録方式であり、一般的に広く用いられている。
【0003】
特許文献1には、塩生成基を有する水不溶性ポリマー、水100重量部に対する溶解度が20℃において5〜40重量部である有機溶媒、中和剤及び水を含有する乳化組成物と顔料とを、不揮発成分率が15〜50重量%であり、かつ水に対する有機溶媒の重量比(有機溶媒の重量/水の重量)が0.1〜0.9となる条件下で混合し、得られた混合物を分散させた後、前記有機溶媒を除去する水系顔料分散体の製造法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、顔料系インクの製造法として、例えば、顔料、塩生成基を有する水不溶性ポリマー、有機溶媒及び水を含有する混合物を攪拌機で予備分散させた後、高圧ホモジナイザーで分散処理する顔料分散体の製造法であって、ある特定の積算動力値で前記混合物を予備分散させる工程を含むインクジェット記録用顔料分散体の製造法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−187795号公報
【特許文献2】特開2005−194322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1及び2の方法においては、予備分散において充分な処理効率が得られない、又は得られる分散体の保存安定性が必ずしも充分でないという課題を有していた。
本発明は、予備分散工程の処理効率を高めることで製造時間を短縮すると共に、得られる顔料分散体の保存安定性に優れた、水系顔料分散体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、下記工程(1)及び(2)を含む、水系顔料分散体の製造方法である。
工程(1):塩生成基を有するポリマー、水100質量部に対する溶解度が20℃において50質量部以下の有機溶媒、水及び顔料を含む混合物を、該有機溶媒と水が相分離状態で分散し、分散体を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた分散体を、該有機溶媒と水が相分離しない均一相で分散する工程
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、予備分散工程の処理効率を高めることで製造時間を短縮すると共に、得られる顔料分散体の保存安定性に優れた、水系顔料分散体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の水系顔料分散体の製造方法は、下記工程(1)(予備分散)及び工程(2)(本分散)を含む。
工程(1):塩生成基を有するポリマー、水100質量部に対する溶解度が20℃において50質量部以下の有機溶媒、水及び顔料を含む混合物を、該有機溶媒と水が相分離状態で分散し、分散体を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた分散体を、該有機溶媒と水が相分離しない均一相で分散する工程
本発明の水系顔料分散体の製造方法によれば、工程(1)の予備分散工程の処理効率を高め、得られる顔料分散体の保存安定性に優れた、水系顔料分散体の製造方法を提供することができる理由は定かではないが以下のように推定できる。
【0010】
工程(1)で、有機溶媒と水が相分離状態で分散することにより、顔料の有機溶媒の濡れ性を高めて、凝集エネルギーを低減し、粗大粒子を低減させることができる。そのため得られる分散体中の粗大粒子の含有量を減少させることができるため、工程(1)の処理時間を短縮し、更に工程(2)の分散時に分散機による処理を効果的に行うことができる。なお、分散体中に含まれる粗大粒子量は、ろ過性により評価できる。更に工程(2)においては、有機溶媒と水が相分離しない均一相で分散することで、塩生成基を有するポリマーが顔料に対して吸着しやすくなり、高い保存安定性が得られるものと考えられる。
【0011】
[工程(1)]
工程(1)では、塩生成基を有するポリマー、水100質量部に対する溶解度が20℃において50質量部以下の有機溶媒、水及び顔料を含む混合物を、該有機溶媒と水が相分離状態で分散し、分散体を得る。当該工程では、分散安定性の観点から、混合物中に中和剤が含まれていることが好適である。
以下、本工程で用いられる各成分及び当該工程の処理条件について詳細に説明する。
【0012】
(塩生成基を有するポリマー)
塩生成基を有するポリマー(以下、「ポリマーA」ともいう)は、顔料表面への吸着性が高く、水系顔料分散体における分散安定性が高いことから用いられる。
ポリマーAは、顔料の分散性を高めて、保存時の粒径安定性を高める観点から、好ましくは塩生成基を有する水不溶性ポリマーである。
ポリマーAとしては、例えば、ビニル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリウレタン系ポリマー等が挙げられる。これらの中では、好ましくはビニル系ポリマーである。
【0013】
〔ビニル系ポリマー〕
ビニル系ポリマーとしては、例えば、塩生成基含有モノマー、疎水性モノマー、マクロマー、ノニオン性の親水性モノマー等を含有するモノマー混合物(以下、単にモノマー混合物という)を重合させることによって得られたビニル系ポリマーが挙げられる。
【0014】
<塩生成基モノマー>
塩生成基含有モノマーとしては、例えば、アニオン性モノマー、カチオン性モノマーが挙げられ、好ましくはアニオン性モノマーである。アニオン性モノマーの例としては、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。
不飽和カルボン酸モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、スチレンカルボン酸、マレイン酸系モノマー〔無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸モノエステル及びマレイン酸モノアミドから選ばれた1種以上〕、イタコン酸等が挙げられ、これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリ」とは、「アクリ」及び「メタクリ」から選ばれる少なくとも1種を意味する。
【0015】
不飽和スルホン酸モノマーとしては、例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエタンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−アルキル(アルキル基の炭素数は好ましくは1以上4以下)プロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸等が挙げられ、これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
不飽和リン酸モノマーとしては、例えば、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられ、これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0016】
アニオン性モノマーの中では、顔料の分散性を高めて、保存時の粒径安定性を高める観点から、好ましくは不飽和カルボン酸モノマーであり、より好ましくはアクリル酸又はメタクリル酸、更に好ましくはメタクリル酸である。
【0017】
カチオン性モノマーの例としては、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ビニルピロリドン等の不飽和3級アミン含有モノマー、及びN,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート四級化物等の不飽和アンモニウム塩含有モノマーなどが挙げられる。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0018】
モノマー混合物における塩生成基含有モノマーの含量は、得られる水系顔料分散体の分散安定性を高めて、保存時の粒径安定性を高める観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは8質量%以上であり、また、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは15質量%以下である。
【0019】
<疎水性モノマー>
疎水性モノマーは、得られる水系顔料分散体の耐水性、耐擦過性、印字濃度及び得られる水系顔料分散体の分散安定性を高めて、保存時の粒径安定性を高める等を向上させるために用いられる。
疎水性モノマーとしては、例えば、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の炭素数1以上18以下の炭化水素基を有する(メタ)アクリレート;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン等の芳香環含有モノマー等が挙げられ、これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0020】
モノマー混合物における疎水性モノマーの含量は、耐水性、耐擦過性、印字濃度及び得られる水系顔料分散体の分散安定性を高めて、保存時の粒径安定性を高める観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、また、好ましくは93質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
【0021】
<マクロマー>
マクロマーとしては、ヒーター面の焦げ付きを抑制、分散安定性を高めて、保存時の粒径安定性等の観点から用いられ、例えば、スチレン系マクロマー、シリコーンマクロマー等が挙げられ、これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
スチレン系マクロマーとしては、例えば、片末端に重合性官能基を有するスチレン単独重合体又はスチレンと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。
マクロマーの数平均分子量は、好ましくは500以上、より好ましくは1,000以上であり、また、好ましくは100,000以下、より好ましくは10,000以下である。なお、マクロマーの数平均分子量は、溶媒として1ミリmol/Lのドデシルメチルアミン含有クロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
【0022】
モノマー混合物におけるマクロマーの含量は、バブルジェット(登録商標)タイプのインクジェットプリンターにおいて、ヒーター面の焦げ付きを抑制する観点及び分散安定性を高めて、保存時の粒径安定性を高める観点から、好ましくは0質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは5質量%以上、更により好ましくは8質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下である。
【0023】
<ノニオン性の親水性モノマー>
ノニオン性の親水性モノマーとしては、吐出安定性及び印字濃度等の観点から用いられ、例えば、ポリオキシアルキレン基を構成単位として有するポリオキシアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはポリオキシアルキレングリコールモノメタクリレートである。
ポリオキシアルキレン基のオキシアルキレンの平均付加モル数は、好ましくは1以上、より好ましくは6以上、更に好ましくは10以上であり、また、好ましくは30以下、より好ましくは25以下、更に好ましくは20以下である。
オキシアルキレン基としては、好ましくは、オキシエチレン基及びオキシプロピレン基から選ばれる少なくとも一種である。
ポリオキシアルキレン基の末端としては、水素原子、メチル基、ヘキシル基、ラウリル基等の炭素数1以上20以下の脂肪族炭化水素基、フェニル基等の炭素数6以上10以下のアリール基が挙げられる。
【0024】
モノマー混合物におけるノニオン性の親水性モノマーの含量は、吐出安定性及び印字濃度を高める観点から、好ましくは0質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、また、好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
【0025】
(塩生成基を有するポリマーの製造方法)
ポリマーAは、例えば、ラジカル重合開始剤等の重合開始剤の存在下で、メチルエチルケトン等の有機溶媒を用いた溶液重合法等の重合法でモノマー混合物を重合させることにより、容易に調製することができる。
【0026】
ポリマーAの重量平均分子量は、水系顔料分散体の保存安定性及び吐出性の向上、プリンタヘッドの焦げ付きの防止、並びに印刷後の印字物の耐久性の観点から、好ましくは3,000以上、より好ましくは4,000以上、更に好ましくは10,000以上であり、また、好ましくは300,000以下、より好ましくは200,000以下、更に好ましくは100,000以下である。
【0027】
なお、ポリマーAは、塩生成基を有する。塩生成基は、塩生成基含有モノマーを含有するモノマー混合物を重合させることにより、ポリマーAに導入することができる。また、ポリマーAが有する塩生成基は、中和剤で中和されていることが好ましい。
なお、水に対する水不溶性ポリマーの25℃における溶解度は、水不溶性ポリマーを有機溶媒に溶解させたり均一分散させる観点から、所望の中和度での中和した後において、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。
【0028】
(中和剤)
中和剤として、塩生成基の種類に応じて酸又は塩基を用いることができる。塩生成基モノマーがアニオン性モノマーの場合、好ましくは塩基が用いられる。酸としては、例えば、塩酸、硫酸等の無機酸、及び酢酸、プロピオン酸、乳酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、グリセリン酸、ポリエチレングリコール酸等の有機酸が挙げられる。塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、及びアンモニア、及びトリメチルアミン、トリエチルアミン等の3級アミン類等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはアルカリ金属水酸化物又はアンモニア、より好ましくはアルカリ金属水酸化物及びアンモニアの併用、更に好ましくは水酸化ナトリウム及びアンモニアの併用である。アンモニアに対するアルカリ金属水酸化物の量(アルカリ金属水酸化物の質量/アンモニアの質量)は、好ましくは30/70〜80/20,より好ましくは40/60〜70/30である。
中和度には、特に限定がないが、通常、水系顔料分散体の液性が中性、例えば、pHが4.5〜10となるように調整することが好ましい。
【0029】
(有機溶媒)
本発明に用いられる有機溶媒は、工程(1)において水と相分離させた状態で分散する観点、粗大粒子を低減しろ過速度を速める観点、及び保存安定性を高める観点から、水100質量部に対する溶解度が20℃において、50質量部以下である。
上記の観点から、有機溶媒の水100質量部に対する溶解度が、20℃において、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは20質量部以上であり、また、好ましくは45質量部以下、より好ましくは40質量部以下、より好ましくは30質量部以下である。
【0030】
有機溶媒としては、例えば、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、ハロゲン化脂肪族炭化水素系溶媒等が挙げられる。
ケトン系溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン(20℃における水への溶解量:29質量部(対水100質量部))等が挙げられる。
アルコール系溶媒としては、例えば、1‐ブタノール(20℃における水への溶解量:6.3質量部(対水100質量部))、2‐ブタノール(20℃における水への溶解量:12.5質量部(対水100質量部))等が挙げられる。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
これらの有機溶媒の中では、その安全性や、後処理において溶媒を除去する際の操作性を考慮すれば、好ましくはメチルエチルケトンである。
【0031】
(顔料)
顔料としては、有機顔料、無機顔料のいずれを使用することも可能である。
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジスアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
【0032】
有機顔料としては、より具体例には、C.I.ピグメント・イエロー13,74,83,109,110,128,151, C.I.ピグメント・レッド48,57,122,184,188, C.I.ピグメント・バイオレット19, C.I.ピグメント・ブルー15,15:1,15:2,15:3,15:4,16, C.I.ピグメント・グリーン7,36等が挙げられる。
【0033】
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、体質顔料、金属酸化物、金属硫化物、金属塩化物等が挙げられる。これらの中では、本発明の水系顔料分散体を黒色水系インクに用いる場合には、好ましくはカーボンブラックである。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
体質顔料としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。
【0034】
工程(1)では、塩生成基を有するポリマー、水100質量部に対する溶解度が20℃において50質量部以下の有機溶媒、水及び顔料を含む混合物(以下、単に「混合物」ともいう)を、該有機溶媒と水が相分離状態で、分散し、分散体を得る。
「相分離状態で」とは、有機溶媒と水とが相分離状態となる、有機溶媒/水の混合質量比、及び温度条件であることを意味する。工程(1)が相分離状態であるかの判断手法は、実施例に記載の方法による。
【0035】
工程(1)において、水に対する有機溶媒の質量比(有機溶媒の質量/水の質量:混合物の分散時における値)は、工程(1)の分散処理の温度で相分離状態となるように、有機溶媒の種類及び温度に応じて適宜選択されるが、好ましくは0.19以上、より好ましくは0.20以上、更に好ましくは0.25以上、更により好ましくは0.3以上であり、また、好ましくは1以下、より好ましくは0.8以下、更に好ましくは0.6以下、更により好ましくは0.5以下、より更に好ましくは0.4以下である。
【0036】
混合物中、ポリマーの含有量は、顔料を分散し、得られる水系顔料分散体の分散安定性を高めて、保存時の粒径安定性を高める観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上、より更に好ましくは7質量%以上であり、また、同観点から、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下、更により好ましくは10質量%以下である。
混合物中、有機溶媒の含有量は、顔料の濡れ性を高め、工程(1)の時間を短縮する観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、また、相分離する観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、より更に好ましくは25質量%以下である。
混合物中、水の含有量は、相分離させる観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、また、同様の観点から、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
混合物中、顔料の含有量は、顔料を分散する観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは7質量%以上、更により好ましくは10質量%以上であり、また、粗大粒子を低減し、工程(1)の時間を短縮する観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、更により好ましくは15質量%以下である。
ポリマーAに対する顔料の量(顔料/ポリマー)は、顔料の分散効率を高める観点から、好ましくは0.5以上、より好ましくは1以上、更に好ましくは1.5以上であり、また、得られる水系顔料分散体の分散安定性を高めて、保存時の粒径安定性を高める観点から、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、更に好ましくは3以下である。
中和剤の量は、得られる水系顔料分散体の分散安定性を高めて、保存時の粒径安定性を高める観点から、ポリマー100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上、更に好ましくは4質量部以上であり、また、同様の観点から、好ましくは30質量部以下、より好ましくは15質量部以下、更に好ましくは10質量部以下である。
【0037】
工程(1)の混合物の混合順序は、顔料を乳化組成物中に均一に分散させる観点から、好ましくは塩生成基を有するポリマー、水100質量部に対する溶解度が20℃において50質量部以下の有機溶媒、及び水、並びに任意で中和剤を含む乳化組成物を調製し、該乳化組成物と顔料とを混合して混合物を得ることが好ましい。
当該乳化組成物中のポリマー、有機溶媒、水の量は、混合する顔料の量を考慮して得られる混合物が上記の量となるように調整される。
【0038】
工程(1)での分散には、アンカー翼等の一般に用いられている撹拌型分散機を用いることができる。撹拌型分散機の中では、ウルトラディスパー〔浅田鉄工(株)製、商品名〕、エバラマイルダー〔荏原製作所(株)製、商品名〕、TKホモミクサー、TKパイプラインミクサー、TKホモジェッター、TKホモミックラインフロー、フィルミックス〔以上、特殊機化工業(株)製、商品名〕、クリアミックス〔エム・テクニック(株)製、商品名〕、ケイディーミル〔キネティック・ディスパージョン社製、商品名〕等の高速攪拌混合装置が好ましい。
【0039】
工程(1)の分散処理の温度は、相分離状態を達する観点、粗大粒子を低減し、ろ過速度を速める観点から、好ましくは0℃以上、より好ましくは5℃以上、更に好ましくは10℃以上、更により好ましくは20℃以上、より更に好ましくは25℃以上であり、相分離状態を達する観点から、好ましくは80℃以下、より好ましくは60℃以下、更に好ましくは50℃以下、更により好ましくは40℃以下である。
これらの中でも、温度により工程(1)の相分離と工程(2)の均一相とを調整する観点から、工程(1)の温度は、好ましくは20℃以上、より好ましくは25℃以上であり、また、好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下、更に好ましくは40℃以下である。
工程(1)の終点は、粗大粒子が低減されて、実施例に記載の方法において通液量が40gに達した時とすることができる。なお、粗大粒子が多く含まれたまま、工程(2)を行った場合、工程(2)で用いる分散機の詰まりの原因となるため、工程(2)に多大な時間を要する。
工程(1)の終了時、顔料の体積平均中位粒径(D50)が、粗大粒子を低減する観点から、好ましくは200nm以上、より好ましくは220nm以上であり、また、好ましくは400nm以下、より好ましくは300nm以下である。
【0040】
[工程(2)]
工程(2)は、工程(1)で得られた分散体を、該有機溶媒と水が相分離しない均一相で分散する。
「相分離状態しない均一相で」とは、有機溶媒と水とが均一相となる、有機溶媒/水の混合質量比、及び温度条件であることを意味する。工程(2)が均一相であるかの判断手法は、実施例に記載の方法による。
工程(2)では、ポリマーAの顔料への吸着を促進するために、均一相で分散する。これにより、保存時の粒径安定性が高くなる。
工程(1)で得られた分散体を均一相にする方法としては、例えば、温度を調整する方法(2a)、水に対する有機溶媒の質量比(有機溶媒の質量/水の質量)を調整する方法(2b)が挙げられ、生産性の観点から好ましくは、温度を調整する方法(2a)である。
上記方法(2b)としては、具体的には、有機溶媒を除去する、又は水を添加する等により、水に対する有機溶媒の質量比(有機溶媒の質量/水の質量)を低くする方法が挙げられる。
【0041】
工程(2)の温度は、均一相にする観点から、好ましくは0℃以上、より好ましくは5℃以上、更に好ましくは10℃以上であり、また、好ましくは80℃以下、より好ましくは60℃以下、更に好ましくは50℃以下、更により好ましくは40℃以下である。
これらの中でも、温度により工程(1)の相分離と工程(2)の均一相とを調整する(上記方法(2a))観点から、工程(2)の温度は、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下、更に好ましくは25℃以下、更により好ましくは20℃以下である。
また、工程(1)の温度に対する工程(2)の温度の差(工程(1)の温度−工程(2)の温度)は、温度により工程(1)の相分離と工程(2)の均一相とを調整する(上記方法(2a))観点から、好ましくは5℃以上、より好ましくは7℃以上、更に好ましくは10℃以上であり、また、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下、更に好ましくは20℃以下である。
【0042】
工程(2)では、顔料の平均粒径を小さくするために、工程(1)で得られた分散体を、剪断応力を加えて更に分散を行うことが好ましい。当該分散により、顔料が所望の粒径となるまで微粒化を行うことが好ましい。
【0043】
工程(2)の分散で用いる分散機としては、例えば、ロールミル、ニーダー、エクストルーダ等の混練機、高圧ホモゲナイザー〔(株)イズミフードマシナリ製、商品名〕、ミニラボ8.3H型〔Rannie社製、商品名〕に代表されるホモバルブ式の高圧ホモジナイザー、マイクロフルイダイザー〔Microfluidics社製、商品名〕、ナノマイザー〔ナノマイザー(株)製、商品名〕、アルティマイザー〔スギノマシン(株)製、商品名〕、ジーナスPY〔白水化学(株)製、商品名〕、DeBEE2000〔日本ビーイーイー(株)製、商品名〕等のチャンバー式の高圧ホモジナイザー等が挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの中では、混合物に含まれている顔料の小粒子径化の観点から、好ましくは高圧ホモジナイザーである。
【0044】
[水系顔料分散体]
本発明の製造方法により得られる水系顔料分散体は、顔料の体積平均中位粒径(D50)が、分散安定性の観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、更に好ましくは60nm以上、より更に好ましくは80nm以上であり、また、好ましくは170nm以下、より好ましくは150nm以下である。
【0045】
以上のように工程(1)及び工程(2)を経て、水系顔料分散体が得られる。水系顔料分散体に含まれる有機溶媒は、例えば減圧蒸留等による一般的な溶媒除去法で除去することができる。
本発明の製造法によって得られた水系顔料分散体は、インクジェット記録用水系インクに好適に使用しうるものである。インクジェット記録用水系インクにおける水系顔料分散体の含有量(固形分量)は、インク性能保持の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上であり、また、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%である。
インクジェット記録用水系インクにおける水の含有量は、インク性能保持の観点から、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上であり、また、好ましくは95質量%以下、より好ましくは85質量%以下である。
インクジェット記録用水系インクには、必要に応じて、湿潤剤、分散剤、消泡剤、キレート剤、防黴剤等の添加剤が含有されていてもよい。
【実施例】
【0046】
本実施例においては、以下の方法により測定及び評価を行なった。
【0047】
(1)分子量測定
ポリマーの重量平均分子量は、下記の方法により測定した。
ゲルクロマトグラフィー法
装置:東ソー株式会社製GPC装置(HLC−8220GPC)
溶離液:60mmol/Lのリン酸と50mmol/Lのリチウムブロマイドを含有するN,N−ジメチルホルムアミド
カラム:東ソー株式会社製カラム(TSK-GEL、α-M×2本)
流速:1mL/min
カラム温度:240℃
標準物質:ポリスチレン
【0048】
(2)予備分散体(工程(1)の分散体)の通液量測定
得られた予備分散体を常圧、常温下で200メッシュ金網(面積2cm2)を下部に取り付けた容器に300g充填し、金網が閉塞し通液しなくなるまで静地した。通液した液を回収し、質量を測定し通液量とした。なお、処理効率を評価する観点から、工程(1)の終点は、通液量が40gに達した時とした。
【0049】
(3)相状態
各工程の仕込み比率で有機溶媒とイオン交換水のみを合計10gとなるように混合し、分散処理の温度で、10分間撹拌混合後、常圧下で、目視により相状態を観察し、相分離しているか、均一な一相の状態であるかを判定した。
【0050】
(4)分散体の粒径の測定方法
大塚電子株式会社製、レーザー粒子解析システムELS−8000(20℃)を用いて、高圧ホモジナイザー処理後の顔料分散体の体積平均中位粒径(D50)を測定した。
【0051】
(5)1日保存後の粒径増大率
工程(2)の終了後、20℃で1日保存した後の粒径を上記の方法で測定し、分散直後の粒径からの増大率を計算した。
【0052】
製造例1(ポリマーAの調製)
反応容器内に、メチルエチルケトン20質量部及び重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.03質量部を入れ、モノマーとして、ベンジルメタクリレート、メタクリル酸、スチレンマクロマー〔東亜合成株式会社製、商品名:AS−6S、数平均分子量:6000、重合性官能基:メタクロイルオキシ基〕、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート〔エチレンオキシド12モル付加、日本油脂株式会社製、商品名:ブレンマーPP−800〕、フェノキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノメタクリレート〔エチレンオキシド6モル付加、プロピレンオキシド6モル付加、末端:フェニル基、日本油脂株式会社製、商品名:ブレンマー43PAPE−600B〕、及びスチレンモノマーのそれぞれを表1に示す分量の10質量%ずつ、合計10質量部を入れて混合し、十分に窒素ガス置換を行って混合溶液を得た。
一方、滴下ロートに、前記各モノマーの残りの90質量%の量(合計90質量部)を仕込み、重合連鎖移動剤2−メルカプトエタノール0.27質量部、メチルエチルケトン60質量部及び2,2’‐アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.2質量部を入れて混合し、十分に窒素ガス置換を行い、混合溶液を得た。
窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら65℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を3時間かけて徐々に滴下した。滴下終了から65℃で2時間経過後、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.3質量部をメチルエチルケトン5質量部に溶解した溶液を加え、更に65℃で2時間、70℃で2時間熟成させた後、溶媒を除去してポリマーAの固形分を得た。得られたポリマーAの重量平均分子量は55,000であった。
【0053】
【表1】
【0054】
(実施例1)
製造例1のポリマーA107.7g(7.3質量%)をメチルエチルケトン301.9g(20.5質量%)に溶かし、その中に5N水酸化ナトリウム水溶液20.1g(1.4質量%)及びイオン交換水832.7g(56.4質量%)及び25%アンモニア水溶液13.2g(0.8質量%)加えて乳化組成物を得た。
そしてイエロー顔料(ファストイエロー74、大日精化工業株式会社製、商品名:FY840)200g(13.6質量%)を加え、ディスパー翼で25℃で1時間混合して予備分散体を得た(工程(1))。なお、上記カッコ内の質量%の値は予備分散体原料の組成割合である。
通液量が40gになった地点で、分散を終了した。予備分散時間は5.3hであった。
次に、予備分散体1000gをマイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、高圧ホモジナイザー、商品名)を用いて、150MPaの圧力で10パスの連続方式による分散処理を行った(工程(2))。この際の処理温度は15℃であった。大塚電子株式会社製の粒径測定器(ELS−6100)で粒径を測定したところ144nmであった。また、処理温度で1日保存した際の粒径増大率は2%であった。
さらに、減圧下、温水加熱媒体を用いてメチルエチルケトンを除去し、更に一部の水を除去し、5μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フイルム株式会社製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジ(テルモ株式会社製)で濾過し、粗大粒子を除去することにより、固形分濃度20%の水系顔料分散体を得た。
【0055】
(実施例2)
実施例1において、工程(1)の温度を35℃に変更した他は実施例1と同様にして水系顔料分散体を得た。
【0056】
(比較例1)
実施例1において、工程(1)の温度を15℃に変更した他は実施例1と同様にして水系顔料分散体を得た。
【0057】
(比較例2)
実施例2において、メチルエチルケトンの量を105.9g、イオン交換水を1029gに変更した他は実施例2と同様にして水系顔料分散体を得た。
【0058】
(比較例3)
実施例2において、メチルエチルケトンをアセトンに変更した他は実施例2と同様にして水系顔料分散体を得た。
【0059】
(比較例4)
比較例3において、工程(1)の温度を15℃に変更した他は比較例2と同様にして水系顔料分散体を得た。
【0060】
(比較例5)
工程2の処理温度を35℃に変更した他は実施例2と同様にして水系顔料分散体を得た。
【0061】
【表2】
【0062】
実施例1,2では、工程(1)に要する時間が短く、得られた顔料分散体の保存安定性にも優れる。一方、比較例1〜4では、工程(1)及び工程(2)とも均一相のため、工程(1)に要する時間が長くなる。また、比較例5では、工程(1)工程(2)とも相分離しているため、工程(2)で得られた分散体の保存安定性に劣る。