(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
物流システムの効率化のため、複数のラックを平行に並べて配置し、ラック間の床部に敷設されたレール上にスタッカクレーンを走行可能に設置して構成された立体自動倉庫が知られている。スタッカクレーンは、主柱に沿って昇降する荷台と、パレット上の荷の積み下ろしを行うフォークとを備えている。ラックには、スタッカクレーンで荷の積み下ろしができるように、開口部が設けられている。この開口部には、フォークと平行に所定の幅の腕木が配置されており、保管する荷を積載したパレットが腕木の上に載置される。
【0003】
ラック構造体が地震によって揺れると、荷崩れを起すなどしてパレットが腕木から落下してしまうおそれがあるので、制振対策を施すようになっていた。従来の制振対策としては、ラック構造体の固有振動数に応じて調整された可動質量と可動質量の振動を減衰するためのダンパーとを備えた、いわゆるチューンド・マス・ダンパー(TMD)をラック頂部に設置する構造があった(たとえば、特許文献1,2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2のようなTMD方式では、制振方向が1方向に限られる場合が多い。制振方向を1方向に限った場合には、制振直交方向においては、ラック上部に荷物と同等以上の質量を有する装置を固定して設置することになるので、制振直交方向の加速度応答やラック部材応力を増大させる可能性がある。
【0006】
図7および
図8に、マス・ダンパー(同調していない場合を含め総称して「マス・ダンパー」と称し、「MD」と記す)なしの場合(「MD無」と表記)のラック応答加速度および斜材軸力と、荷物の出入れ方向の制振のために1方向制振のラック制振装置が設けられた場合であって、これに直交する方向であるラックの開口幅方向にはMDが固定された場合(「MD有−固定」と表記)のラック応答加速度および斜材軸力とを示す。ラック応答加速度および斜材軸力は、ラックの開口幅方向の数値であり、建築基準法で定められている告示波レベル2をラックの解析モデルに入力してシミュレーションした結果である。図示するように、開口幅方向のラック応答加速度および斜材軸力は、MDを設置しない場合よりも、直交方向にMDを設置した場合の方が部分的に大きくなっており、応答を増大させていることが分かる。
【0007】
なお、特許文献1のラック制振装置を二台設けて、X軸方向およびY軸方向の両方向を制振方向とすることもできるが、この場合は、ラック制振装置の複雑化および重量化を招いてしまう問題が発生してしまう。
【0008】
このような観点から、本発明は、装置の複雑化および重量化を防止しつつ、制振直交方向の応答を増大させないラック制振装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決するための請求項1に係る発明は、ラックに設けられる制振装置であって、水平1方向に摺動可能に支持された可動質量と、前記可動質量の摺動方向の変位を抑制するダンパーとを備えており、前記可動質量は、第一可動質量と、当該第一可動質量上に載置される第二可動質量とを備え、前記第二可動質量は、前記第一可動質量に対して、前記水平1方向に移動不能であるとともに前記水平1方向に直交する水平直交方向に移動可能となっており、
前記第一可動質量および前記第二可動質量の一方に、溝が形成され、前記第一可動質量および前記第二可動質量の他方に、前記溝に噛み合う突条が形成されており、前記溝および前記突条は、前記水平1方向に沿って延在しており、前記溝は、断面三角形状で凹み、前記突条は、断面三角形状で突出していることを特徴とするラック制振装置である。
【0010】
前記のような構成によれば、水平1方向では、第二可動質量は第一可動質量と一体化して摺動して、良好な制振効果を得ることができる。水平直交方向では、水平直交方向加速度が小さい場合には第二可動質量は第一可動質量と一体化して移動しないが、水平直交方向加速度が所定の加速度以上になると第二可動質量は第一可動質量に対して水平直交方向に移動し始める。これによって、慣性力が頭打ちとなるため、水平直交方向(制振直交方向)においてもラック応答加速度を抑制することができ、応答を増大させないので、良好な制振効果を得ることができる。また、複数方向の制振効果を得るために、ラック制振装置を二台設ける必要はなく、一のラック制振装置を設けるだけで済むので、装置の複雑化および重量化を防止することができる。
さらに、平常時には、第二可動質量を第一可動質量の所定位置に位置決めすることができる。一方、溝と突条の傾斜角を調整することによって、地震時に第二可動質量が動き出す際の加速度をコントロールすることができる。
【0011】
請求項2に係る発明は、
前記溝の傾斜角をθ、前記第一可動質量と前記第二可動質量間の摩擦係数をμとしたときに、前記傾斜角θと前記摩擦係数μは、関係式tanθ>μを満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のラック制振装置によれば、装置の複雑化および重量化を防止しつつ、制振直交方向の応答が増大するのを防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、
図1を参照しながら、ラック制振装置が設けられる立体自動倉庫1およびラック2の構成を説明する。
図1に示すように、立体自動倉庫1は複数列(本実施形態では2列)のラック2を平行に並べて配置し、ラック2間の床部に敷設されたレール3上にスタッカクレーン4を走行可能に設置して構成されている。ラック2は、物流システムの効率化のため、多段、多列に配置された複数のパレット収容部を備えている。スタッカクレーン4は、一対の主柱4a,4aと、主柱4aに沿って昇降する荷台4bと、パレット5の荷の積み降ろしを行うフォーク4c(スライド式フォーク)とを備えている。ラック2のクレーン側の面には、スタッカクレーン4により積み降ろしが出来るように、開口が設けられている。主柱4a,4a間には、所定の間隔で複数の腕木6がフォーク4cと平行に配置されており、保管する荷を積載したパレット5を腕木6上に収納する構造となっている。立体自動倉庫1の建屋の入口部分とラック棚の端部との間にはローラコンベア7が設けられている。ローラコンベア7には、建屋の入口部分においてフォークリフト(図示せず)などでパレットが載置される。パレット(図示せず)は、ローラコンベア7にてラック棚側に移送された後、スタッカクレーン4にて積み上げられて搬送され所望位置のラック2に収容される。
【0016】
次に、本発明の実施形態に係るラック制振装置の構成を説明する。なお、本実施形態においては、スタッカクレーン4側からラック制振装置10を見た方向を正面とする。また、スタッカクレーン4のフォーク4cの移動方向をX軸方向(
図2,4の上下方向、
図3の紙面垂直方向、
図5,6の左右方向)とし、クレーン側前面の開口幅方向をY軸方向(
図2〜4の左右方向、
図5,6の紙面垂直方向)とし、高さ方向をZ軸方向(
図2,4の紙面垂直方向、
図3,5,6の上下方向)として説明する。X軸とY軸は水平方向に延在している。
【0017】
ラック制振装置10は、立体自動倉庫1のラック2の頂部に設けられる。
図2乃至
図4に示すように、ラック制振装置10は、ラック2の腕木6上に設置されている。腕木6は、ラック2の支柱11,11から張り出すはね出し部材12,12に支持されている。腕木6とはね出し部材12は、クレーン側の面に形成された開口の両側にそれぞれ設けられている。これら腕木6とはね出し部材12の先端部がパレットの載置部を構成している。
【0018】
ラック制振装置10は、フレーム20と、フレーム20に支持されている可動質量30と、可動質量30の摺動方向の変位を抑制するダンパー50とを備えている。
【0019】
図3および
図5に示すように、フレーム20は、ラック2のパレット載置部に載置されている。フレーム20は、可動質量30を摺動可能に支持するとともに、ラック2に固定される。本実施形態のフレーム20は、上部フレーム21と下部フレーム22とを備えてなる。上部フレーム21は、横材を矩形に組み合わせた枠状を呈しており(
図2参照)、下部フレーム22上に固定されている。
【0020】
上部フレーム21には、可動質量30を摺動可能に支持する一対の摺動部23,23が設けられている。摺動部23には、リニアガイドまたはすべり材が用いられる。本実施形態では、すべり材を用いている。すべり材は、例えば、フッ素樹脂のような摩擦係数の小さい部材にて構成されている。すべり材の上には移動部材が設けられている。移動部材は、可動質量30の底面に固定され、可動質量30と一体化してすべり材上を摺動する。
【0021】
図3,
図4および
図6に示すように、可動質量30と上部フレーム21との間にはダンパー50並びにバネ部材55が設けられている。ダンパー50は、可動質量30の摺動方向の変位を抑制するために設けられている。ダンパー50は、可動質量30の摺動方向(X軸方向)に減衰力を発生させるように、可動質量30の摺動方向に沿って配置されている。ダンパー50は、例えばオイルダンパーからなるがこれに限定されるものではなく、粘弾性ダンパーや鋼材、摩擦を用いた履歴系のダンパーなどの他の方式のダンパーでもよい。バネ部材55は、可動質量30の摺動方向(X軸方向)に沿って配置されており、地震などの振動によって可動質量30が移動した後に、可動質量30を原点復帰させる役目を果たす。
【0022】
図2,
図3および
図5に示すように、可動質量30は、フレーム20に対して、荷物の出入れ方向(X軸方向)に摺動可能となっている(
図2参照)。可動質量30がフレーム20に対して摺動する際には、ダンパー50が可動質量30の摺動方向(水平1方向)に減衰力を発生する。
【0023】
可動質量30は、第一可動質量33と、当該第一可動質量33上に載置される第二可動質量37とを備えている。第二可動質量37は、第一可動質量33に対して、水平1方向(X軸方向)に移動不能であるとともに、水平1方向に直交する水平直交方向(Y軸方向)に移動可能となっている。
【0024】
第一可動質量33は、薄板状の平面視長方形形状を呈している。第一可動質量33は、第二可動質量37を移動可能に載置できる程度の強度を有していればよく、第二可動質量37と比較して非常に軽量となっている(たとえば可動質量30の全体質量の10〜20%程度)。第一可動質量33は、一対のガイド部材24,24上に架け渡されている。第一可動質量33の上面の周縁部には、立上り枠部34が設けられている。立上り枠部34は、断面L字状のアングル材を矩形に組み合わせて構成されており、第一可動質量33の外周縁に沿って配置されている。アングル材は、第一可動質量33の内側に立上り面が位置するように配置されている。立上り枠部34を構成するアングル材のうち、水平1方向(X軸方向)に延在するアングル材は、Y軸方向に移動する第二可動質量37のストッパー34aとなる。一方、水平直交方向(Y軸方向)に延在するアングル材は、第二可動質量37が移動する際のガイド34bとなる。
【0025】
第二可動質量37は、複数の板材を積層してなり(
図3,5参照)、平らな直方体形状を呈している。第二可動質量37は、可動質量30の質量の大部分(たとえば全体質量の80〜90%程度)を占める。第二可動質量37のX軸方向長さは、一対のガイド34b,34bの離間距離と同等(僅かに短い)となっているので、第二可動質量37は、第一可動質量33に対してX軸方向には移動しない。第二可動質量37のY軸方向長さは、一対のストッパー34a,34aの離間距離から、移動可能距離を引いた長さとなっている。これによって、第二可動質量37は、第一可動質量33に対して、ガイド34bに沿ってY軸方向に移動できる。
【0026】
第一可動質量33の上面には、摺動材35が敷設されている。摺動材35は、シート状のすべり部材からなり、立上り枠部34の内側のスペースに敷設されている。これによって、第二可動質量37が、摺動材35を介して、第一可動質量33上を摺動する。摺動材35上における第二可動質量37の水平直交方向への摺動開始加速度は、摺動開始加速度の数値を摩擦係数に換算したときに、第一可動質量33(摺動材35)と第二可動質量間37の摩擦係数が0.1〜0.4程度となるように設定する。
【0027】
図7は、水平直交方向(Y軸方向)における各層のラック応答加速度を示したグラフであって、
図8は、水平直交方向(Y軸方向)における各層の斜材軸力を示したグラフである。これらの数値は、建築基準法で定められている告示波レベル2をラックの解析モデルに入力してシミュレーションした結果である。前記のグラフでは、第一可動質量33と第二可動質量37の摩擦係数μが、0.1の場合(「MD有−μ=0.1」と表記)、0.2の場合(「MD有−μ=0.2」と表記)、0.3の場合(「MD有−μ=0.3」と表記)、0.4の場合(「MD有−μ=0.4」と表記)のラック応答加速度を示している。なお、比較のために、ラック制振装置のない場合(「MD無」と表記)と、可動質量の水平直交方向への摺動がない場合(「MD有−固定」と表記)も図示している。
【0028】
図7に示すように、摩擦係数μが0.1から0.4の範囲で大きくなるほど、概ね水平直交方向(Y軸方向)におけるラック応答加速度が小さくなっていることが分かる。なお、「MD有−固定」においては、部分的に水平直交方向(Y軸方向)におけるラック応答加速度が大きくなっている結果となった。
【0029】
図8に示すように、摩擦係数μが小さくなるほど、水平直交方向(Y軸方向)における斜材軸力が小さくなっていることが分かる。なお、「MD有−固定」においては、部分的に短期許容軸力を超える結果となった。
【0030】
以上のように、摺動材35の摩擦係数μが大きくなるに連れてラック応答加速度が小さくなり良好となる。一方、摩擦係数μが小さくなるに連れて斜材軸力が小さくなり良好となる。ここで、ラック応答加速度と斜材軸力のバランスを考慮すると、摩擦係数μが0.1から0.4の範囲にあるときに、ラック応答加速度と斜材軸力の両方が良好な値となり好ましい。
【0031】
次に、
図9を参照しながら他の実施形態について説明する。かかる可動質量は、第一可動質量33の上面に、たとえば断面三角形状の溝38が形成されており、第一可動質量33の下面には、溝38に噛み合う突条39が形成されている。なお、溝38の形状は断面三角形状に限定されるものではない。溝38および突条39は、第二可動質量37が摺動し始める加速度をコントロールするためのものであるとともに、第二可動質量37を第一可動質量33に対して原点復帰させるためのものである。溝38および突条39は、第二可動質量37の摺動方向と直交する方向(水平1方向)に沿って延在している。突条39は、第二可動質量37のX軸方向長さの全長に亘って形成されていてもよいし、部分的に形成されていてもよい。第一可動質量33の上面の摺動材35は、溝38の表面に沿って三角形形状に折り曲げられている。なお、その他の構成については、前記実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0032】
以上のような構成によれば、第二可動質量37は、溝38の傾斜面に沿って斜め上に移動し、Y軸方向に移動することとなる。ここで、突条39が溝38から飛び出さない範囲であれば、第二可動質量37の重量によって、突条39が溝38の中心位置に戻るので、第二可動質量37が原点復帰できる。なお、Y軸方向に移動する第二可動質量37は、ストッパーによって移動が規制される場合があるが、第二可動質量37の可動範囲は、突条39が溝38から飛び出さない範囲となっている。
【0033】
溝38および突条39を設けた場合に、第二可動質量37が摺動し始めるときのつり合い式は、下記の式(1)となる。ここで、M:第二可動質量37の質量、μ:第一可動質量33(摺動材35)と第二可動質量37間の摩擦係数、θ:溝38の傾斜角、g:重力加速度である。式(1)を変形させると、加速度(摺動開始加速度)αは、下記の式(2)によって表わされることとなる。つまり、摺動開始加速度αは、摩擦係数μと傾斜角θを調整することでコントロールすることができる。
【0034】
M・α・cosθ=M・g・sinθ+μ(M・α・sinθ+M・g・cosθ)・・・式(1)
α=g・[(sinθ+μcosθ)/(cosθ−μsinθ)]・・・式(2)
【0035】
そして、第二可動質量37が第一可動質量33に対して原点復帰するための傾斜角θと摩擦係数μとの関係は、下記の式(3)によって表わされる。下記の式(3)を満たすように摩擦係数μと傾斜角θを決定すれば、第二可動質量37が第一可動質量33に対して原点復帰することが可能となる。
【0037】
前記のようなラック制振装置10によれば、水平1方向においては、ダンパー50が可動質量30の摺動方向(X軸方向)に減衰力を発生させることによって、可動質量30の摺動方向の変位が抑制されて、制振効果が得られる。一方、水平直交方向においては、第二可動質量37が、所定の加速度以上になると、第一可動質量33に対して摺動し始め、慣性力が頭打ちとなるため、それ以上の地震力をラック2に伝達することを防止できる。また、第二可動質量37は、可動質量30の質量の大部分を占めているので、第二可動質量37が第一可動質量33に対して摺動することで、大きい制振効果が得られる。
【0038】
このように、前記ラック制振装置10を用いれば、水平1方向と水平直交方向の両方向においてラック応答加速度および斜材軸力が大きくならず、水平直交方向のラックの応答の増大を抑止できるので、良好な制振効果を得ることができる。また、水平直交方向のラックの応答を増大させることなく、制振が必要な方向に一台のラック制振装置10を設けるだけで済むので、装置の複雑化および重量化を防止することができる。
【0039】
また、第一可動質量33と第二可動質量37との摩擦係数を0.1〜0.4の範囲にしたことによって、水平直交方向においてラック応答加速度および斜材軸力を適度な範囲に押えることができるので、ラックに作用する力が小さくなり、ラック応答が過大になることがない。
【0040】
さらに、第一可動質量33に溝38を形成し、第二可動質量37に突条39を形成し、溝38に突条39を噛み合わせるようにすれば、平常時には、第二可動質量が第一可動質量の所定位置に位置決めされる。また、溝38と突条39の傾斜角を調整することによって、地震時に第二可動質量が摺動し始める際の加速度をコントロールすることができる。さらに、一定条件下においては、地震時にずれた第二可動質量37を、第一可動質量33に対して原点復帰させることができる。
【0041】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。例えば、前記実施形態では、第一可動質量33に溝38を形成し、第二可動質量37に突条39を形成しているが、第一可動質量33に上方に突出する突条を形成し、第二可動質量37に突条が噛み合う突条を形成してもよい。