(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、実施の形態に係る電動パワーステアリング装置100の概略構成を示す図である。
電動パワーステアリング装置100(以下、単に「ステアリング装置100」と称する場合もある。)は、車両の進行方向を任意に変えるためのかじ取り装置であり、本実施の形態においては車両の一例としての自動車に適用した構成を例示している。
【0011】
ステアリング装置100は、自動車の進行方向を変えるために運転者が操作する車輪(ホイール)状のステアリングホイール(ハンドル)101と、ステアリングホイール101に一体的に設けられたステアリングシャフト102とを備えている。また、ステアリング装置100は、ステアリングシャフト102と自在継手103aを介して連結された上部連結シャフト103と、この上部連結シャフト103と自在継手103bを介して連結された下部連結シャフト108とを備えている。下部連結シャフト108は、ステアリングホイール101の回転に連動して回転する。
【0012】
また、ステアリング装置100は、転動輪としての左右の前輪150のそれぞれに連結されたタイロッド104と、タイロッド104に連結されたラック軸105とを備えている。また、ステアリング装置100は、ラック軸105に形成されたラック歯105aとともにラック・ピニオン機構を構成するピニオン106aを備えている。ピニオン106aは、ピニオンシャフト106の下端部に形成されている。これらラック軸105、ピニオンシャフト106などが、ステアリングホイール101の回転操作力を前輪150の転動力として伝達する伝達機構として機能する。ピニオンシャフト106は、前輪150を転動させるラック軸105に対して、回転することにより前輪150を転動させる駆動力(ラック軸力)を加える。
【0013】
また、ステアリング装置100は、ピニオンシャフト106を収納するステアリングギヤボックス107を有している。ピニオンシャフト106は、ステアリングギヤボックス107内にてトーションバー112を介して下部連結シャフト108と連結されている。そして、ステアリングギヤボックス107の内部には、下部連結シャフト108とピニオンシャフト106との相対回転角度に基づいて、言い換えればトーションバー112の捩れ量に基づいて、ステアリングホイール101に加えられた操舵トルクTを検出するトルク検出手段の一例としてのトルクセンサ109が設けられている。
【0014】
また、ステアリング装置100は、ステアリングギヤボックス107に支持された電動モータ110と、電動モータ110の駆動力を減速してピニオンシャフト106に伝達する減速機構111とを有している。減速機構111は、例えば、ピニオンシャフト106に固定されたウォームホイール(不図示)と、電動モータ110の出力軸に固定されたウォームギヤ(不図示)などから構成される。電動モータ110は、ピニオンシャフト106に回転駆動力を加えることにより、ラック軸105に前輪150を転動させる駆動力(ラック軸力)を加える。本実施の形態に係る電動モータ110は、電動モータ110の回転角度であるモータ回転角度θに連動した回転角度信号θsを出力するレゾルバ120を有する3相ブラシレスモータである。
【0015】
また、ステアリング装置100は、電動モータ110の作動を制御する制御装置10を備えている。制御装置10には、上述したトルクセンサ109からの出力信号が入力される。また、制御装置10には、自動車に搭載される各種の機器を制御するための信号を流す通信を行うネットワーク(CAN)を介して、自動車の移動速度である車速Vcを検出する車速センサ170などからの出力信号が入力される。
【0016】
以上のように構成されたステアリング装置100は、トルクセンサ109が検出した操舵トルクTに基づいて電動モータ110を駆動し、電動モータ110の発生トルクをピニオンシャフト106に伝達する。これにより、電動モータ110の発生トルクが、ステアリングホイール101に加える運転者の操舵力をアシストする。
【0017】
次に、制御装置10について説明する。
図2は、制御装置10の概略構成図である。
制御装置10は、CPU、ROM、RAM、バックアップRAM等からなる算術論理演算回路である。
制御装置10には、上述したトルクセンサ109にて検出された操舵トルクTが出力信号に変換されたトルク信号Td、車速センサ170にて検出された車速Vcが出力信号に変換された車速信号v、レゾルバ120からの回転角度信号θsなどが入力される。
【0018】
そして、制御装置10は、電動モータ110に供給する目標電流Itを算出(設定)する目標電流算出部20と、目標電流算出部20が算出した目標電流Itに基づいてフィードバック制御などを行う制御部30とを有している。
また、制御装置10は、電動モータ110のモータ回転角度θを算出するモータ回転角度算出部71と、モータ回転角度算出部71にて算出されたモータ回転角度θに基づいて、モータ回転速度Nmを算出するモータ回転速度算出部72と、ステアリングホイール101の回転角度である舵角Raを算出する舵角検出手段の一例としての舵角算出部73と、を備えている。
【0019】
目標電流算出部20は、トルク信号Tdおよび車速信号vに基づいて電動モータ110に供給する目標電流Itの基本となる基本目標電流Itfを算出(設定)する基本目標電流設定手段の一例としての基本目標電流算出部27を備えている。また、目標電流算出部20は、ラック軸105に生じる軸力の規範となる規範ラック軸力Frmとラック軸105に生じる実際の軸力である実ラック軸力Fraとの偏差に応じた電流であるラック軸力偏差電流Irを算出(設定)するラック軸力偏差電流算出部28と、基本目標電流Itfとラック軸力偏差電流Irとに基づいて最終的に目標電流Itを決定する目標電流決定手段の一例としての目標電流決定部29と、を備えている。
基本目標電流算出部27、ラック軸力偏差電流算出部28および目標電流決定部29については後で詳述する。
【0020】
図3は、制御部30の概略構成図である。
制御部30は、
図3に示すように、電動モータ110の作動を制御するモータ駆動制御部31と、電動モータ110を駆動させるモータ駆動部32と、電動モータ110に実際に流れる実電流Imを検出するモータ電流検出部33とを有している。
モータ駆動制御部31は、目標電流算出部20にて最終的に決定された目標電流Itと、モータ電流検出部33にて検出された電動モータ110へ供給される実電流Imとの偏差に基づいてフィードバック制御を行うフィードバック(F/B)制御部40と、電動モータ110をPWM駆動するためのPWM(パルス幅変調)信号を生成するPWM信号生成部60とを有している。
【0021】
フィードバック制御部40は、目標電流算出部20にて最終的に決定された目標電流Itとモータ電流検出部33にて検出された実電流Imとの偏差を求める偏差演算部41と、その偏差がゼロとなるようにフィードバック処理を行うフィードバック(F/B)処理部42とを有している。
【0022】
フィードバック(F/B)処理部42は、目標電流Itと実電流Imとが一致するようにフィードバック制御を行うものであり、例えば、偏差演算部41にて算出された偏差に対して、比例要素で比例処理し、積分要素で積分処理し、加算演算部でこれらの値を加算する。
PWM信号生成部60は、フィードバック制御部40からの出力値に基づいて電動モータ110をPWM(パルス幅変調)駆動するためのPWM信号を生成し、生成したPWM信号を出力する。
【0023】
モータ駆動部32は、所謂インバータであり、例えば、スイッチング素子として6個の独立したトランジスタ(FET)を備え、6個の内の3個のトランジスタは電源の正極側ラインと各相の電気コイルとの間に接続され、他の3個のトランジスタは各相の電気コイルと電源の負極側(アース)ラインと接続されている。そして、6個の中から選択した2個のトランジスタのゲートを駆動してこれらのトランジスタをスイッチング動作させることにより、電動モータ110の駆動を制御する。
モータ電流検出部33は、モータ駆動部32に接続されたシャント抵抗の両端に生じる電圧から電動モータ110に流れる実電流Imの値を検出する。
【0024】
モータ回転角度算出部71(
図2参照)は、レゾルバ120からの回転角度信号θsに基づいてモータ回転角度θを算出する。
モータ回転速度算出部72(
図2参照)は、モータ回転角度算出部71が算出したモータ回転角度θに基づいて電動モータ110のモータ回転速度Nmを算出する。
【0025】
舵角算出部73(
図2参照)は、ステアリングホイール101、減速機構111などが機械的に連結されているためにステアリングホイール101の回転角度(舵角Ra)と電動モータ110のモータ回転角度θとの間に相関関係があることに鑑み、モータ回転角度算出部71にて算出されたモータ回転角度θに基づいて舵角Raを算出する。舵角算出部73は、例えば、モータ回転角度算出部71にて定期的(例えば1ミリ秒毎)に算出されたモータ回転角度θの前回値と今回値との差分の積算値に基づいて舵角Raを算出する。
【0026】
次に、目標電流算出部20の基本目標電流算出部27について詳述する。
図4は、基本目標電流算出部27の概略構成図である。
基本目標電流算出部27は、基本目標電流Itfを設定する上でベースとなるベース電流Ibを算出するベース電流算出部21と、電動モータ110の慣性モーメントを打ち消すためのイナーシャ補償電流Isを算出するイナーシャ補償電流算出部22と、電動モータ110の回転を制限するダンパー補償電流Idを算出するダンパー補償電流算出部23とを備えている。また、基本目標電流算出部27は、ベース電流算出部21、イナーシャ補償電流算出部22、ダンパー補償電流算出部23にて算出された値に基づいて基本目標電流Itfを決定する基本目標電流決定部25を備えている。また、基本目標電流算出部27は、トルクセンサ109にて検出された操舵トルクTの位相を補償する位相補償部26を備えている。
なお、目標電流算出部20には、トルク信号Td、車速信号vなどが入力される。
【0027】
図5は、操舵トルクTおよび車速Vcとベース電流Ibとの対応を示す制御マップの概略図である。
ベース電流算出部21は、位相補償部26にてトルク信号Tdが位相補償されたトルク信号Tsと、車速センサ170からの車速信号vとに基づいてベース電流Ibを算出する。つまり、ベース電流算出部21は、位相補償された操舵トルクTと、車速Vcとに応じたベース電流Ibを算出する。なお、ベース電流算出部21は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、位相補償された操舵トルクT(トルク信号Ts)および車速Vc(車速信号v)とベース電流Ibとの対応を示す
図5に例示した制御マップに、位相補償された操舵トルクT(トルク信号Ts)および車速Vc(車速信号v)を代入することによりベース電流Ibを算出する。
【0028】
イナーシャ補償電流算出部22は、トルク信号Tsと、車速信号vとに基づいて電動モータ110およびシステムの慣性モーメントを打ち消すためのイナーシャ補償電流Isを算出する。つまり、イナーシャ補償電流算出部22は、位相補償された操舵トルクTと、車速Vcとに応じたイナーシャ補償電流Isを算出する。なお、イナーシャ補償電流算出部22は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、位相補償された操舵トルクTおよび車速Vcとイナーシャ補償電流Isとの対応を示す制御マップに、操舵トルクTおよび車速Vcを代入することによりイナーシャ補償電流Isを算出する。
【0029】
ダンパー補償電流算出部23は、トルク信号Tsと、車速信号vと、電動モータ110のモータ回転速度Nmとに基づいて、電動モータ110の回転を制限するダンパー補償電流Idを算出する。つまり、ダンパー補償電流算出部23は、位相補償された操舵トルクTと、車速Vcと、電動モータ110のモータ回転速度Nmに応じたダンパー補償電流Idを算出する。なお、ダンパー補償電流算出部23は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、位相補償された操舵トルクT、車速Vcおよびモータ回転速度Nmと、ダンパー補償電流Idとの対応を示す制御マップに、位相補償された操舵トルクT、車速Vcおよびモータ回転速度Nmを代入することによりダンパー補償電流Idを算出する。
【0030】
基本目標電流決定部25は、ベース電流算出部21にて算出されたベース電流Ib、イナーシャ補償電流算出部22にて算出されたイナーシャ補償電流Isおよびダンパー補償電流算出部23にて算出されたダンパー補償電流Idに基づいて基本目標電流Itfを決定する。基本目標電流決定部25は、例えば、ベース電流Ibに、イナーシャ補償電流Isを加算するとともにダンパー補償電流Idを減算して得た電流を基本目標電流Itfとして決定する。
【0031】
ここで、トーションバー112の捩れ量が零の状態を中立状態(中立位置)とし、中立状態(中立位置)からのステアリングホイール101の右回転時におけるステアリングホイール101(下部連結シャフト108)とピニオンシャフト106との相対回転角度が変化する方向(相対回転角度が生じる方向)をプラス(操舵トルクTがプラス)とする。他方、中立状態からのステアリングホイール101の左回転時におけるステアリングホイール101(下部連結シャフト108)とピニオンシャフト106との相対回転角度が変化する方向(相対回転角度が生じる方向)をマイナスとする(操舵トルクTがマイナス)。かかる場合、ステアリングホイール101とピニオンシャフト106との相対回転角度が中立状態より右回転方向に捩れている(トーションバーが右回転方向に捩れている)ときに、電動モータ110を一方の回転方向に回転させるようにベース電流算出部21にてベース電流Ibが算出され、そのベース電流Ibが流れる方向をプラスとする。つまり、
図5に示すように、トルクセンサ109にて検出された操舵トルクTがプラスのときにベース電流算出部21はプラスのベース電流Ibを算出し、電動モータ110を一方の回転方向に回転させる方向のトルクを発生させる。他方、ステアリングホイール101とピニオンシャフト106との相対回転角度が中立状態より左回転方向に捩れている(トーションバーが左回転方向に捩れている)ときに、ベース電流算出部21はマイナスのベース電流Ibを算出し、電動モータ110を他方の回転方向に回転させる方向のトルクを発生させる。
【0032】
また、ステアリングホイール101の回転角度(舵角Ra)が零度の状態から右回転されたときの舵角Raの符号をプラス、零度の状態から左回転されたときの舵角Raの符号をマイナスとする。また、ステアリングホイール101と機械的に連結されている電動モータ110の回転方向の符号を、ステアリングホイール101が右回転されたときの電動モータ110の回転方向(上述した一方の回転方向)をプラス、ステアリングホイール101が左回転されたときの電動モータ110の回転方向(上述した他方の回転方向)をマイナスとする。
【0033】
次に、ラック軸力偏差電流算出部28について詳述する。
図6は、ラック軸力偏差電流算出部28の概略構成図である。
ラック軸力偏差電流算出部28は、ラック軸105に生じる規範となる軸力である規範ラック軸力Frmを算出する規範ラック軸力算出手段の一例としての規範ラック軸力算出部280と、ラック軸105に生じる実際の軸力である実ラック軸力Fraを算出する実ラック軸力算出手段の一例としての実ラック軸力算出部287と、を備えている。また、ラック軸力偏差電流算出部28は、規範ラック軸力算出部280にて算出された規範ラック軸力Frmと実ラック軸力算出部287にて算出された実ラック軸力Fraとに基づいてラック軸力偏差電流Irを決定するラック軸力偏差電流設定手段の一例としてのラック軸力偏差電流決定部288を備えている。
【0034】
規範ラック軸力算出部280については後で詳述する。
【0035】
実ラック軸力算出部287は、トルクセンサ109にて検出された操舵トルクTと、モータ回転角度算出部71にて算出されたモータ回転角度θと、モータ電流検出部33にて検出された実電流Imとに基づいて実ラック軸力Fraを算出する。
ここで、実ラック軸力Fraは、本実施の形態に係るステアリング装置100がピニオン型の装置であることから、ピニオンシャフト106から与えられる軸力に等しいとして、ピニオンシャフト106に加えられたピニオントルクTpに基づいて算出する。実ラック軸力Fraは、ピニオントルクTpをピニオン106aのピッチ円半径rpで除算した値である(Fra=Tp/rp)。
【0036】
ピニオントルクTpは、ステアリングホイール101を介して運転者から加えられる操舵トルクTと電動モータ110の出力軸トルクToから加えられるモータトルクTmとを加算したトルクと推定することができる(Tp=T+Tm)。
【0037】
操舵トルクTは、トルクセンサ109からのトルク信号Tdに基づいて把握することができる。
モータトルクTmは、出力軸トルクToに減速機構111の減速比(ギア比)Nを乗算した値である(Tm=To×N)。
出力軸トルクToは、モータ回転角度算出部71にて算出されたモータ回転角度θおよびモータ電流検出部33にて検出された実電流Imを、予めROMに記憶しておいた算出式に代入することにより算出することができる。なお、モータ回転角度算出部71にて算出されたモータ回転角度θを用いる代わりに、モータ逆起電力から所定の式により算出したモータ回転角度θを用いてもよい。
【0038】
ラック軸力偏差電流決定部288は、実ラック軸力算出部287にて算出された実ラック軸力Fraから規範ラック軸力算出部280にて算出された規範ラック軸力Frmを減算することによりラック軸力偏差ΔF(=Fra−Frm)を算出すると共に、算出したラック軸力偏差ΔFに基づいてラック軸力偏差電流Irを算出する。
【0039】
図7は、ラック軸力偏差電流Irとラック軸力偏差ΔFとの対応を示す制御マップの概略図である。
ラック軸力偏差電流決定部288は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、ラック軸力偏差電流Irとラック軸力偏差ΔFとの対応を示す
図7に例示した制御マップに、ラック軸力偏差ΔFを代入することによりラック軸力偏差電流Irを算出する。
図7に例示した制御マップにおいては、ラック軸力偏差ΔFがプラス方向に大きくなるに従ってラック軸力偏差電流Irによるアシスト力が大きくなり、ラック軸力偏差ΔFがマイナス方向に大きくなるに従ってラック軸力偏差電流Irによるアシスト力が小さくなるように設定されている。つまり、実ラック軸力Fraが規範ラック軸力Frmよりも大きいほど、言い換えれば路面から受ける反力が大きいほど、ラック軸力偏差電流Irが大きくなり、他方、実ラック軸力Fraが規範ラック軸力Frmよりも小さいほど、言い換えれば路面から受ける反力が小さいほど、ラック軸力偏差電流Irが小さくなるように設定されている。
【0040】
ラック軸力偏差電流決定部288は、上述した手法にて算出したラック軸力偏差電流IrをRAMなどの記憶領域に記憶する。
そして、目標電流決定部29は、RAMなどの記憶領域に記憶された、基本目標電流Itfとラック軸力偏差電流Irとを加算した値を目標電流Itとして決定する。
【0041】
次に、規範ラック軸力算出部280について詳述する。
規範ラック軸力算出部280は、
図6に示すように、舵角算出部73にて算出された舵角Raと車速センサ170にて検出された車速Vcとに基づいて規範ラック軸力Frmのベースとなるベース規範ラック軸力Frmbを算出するベース規範ラック軸力算出部281を備えている。また、規範ラック軸力算出部280は、規範ラック軸力Frmを補正するために加算する補正加算値Pfを設定する補正加算値設定部282と、ベース規範ラック軸力算出部281が算出したベース規範ラック軸力Frmbと補正加算値設定部282が設定した補正加算値Pfとを加算することにより加算値(Frmb+Pf)を得る加算部283と、を備えている。また、規範ラック軸力算出部280は、車速Vcに基づいて規範ラック軸力Frmを補正するため第1車速補正係数Kv1を設定する第1車速補正係数設定部284と、第1車速補正係数設定部284が設定した第1車速補正係数Kv1と加算部283にて算出された加算値(Frmb+Pf)とに基づいて規範ラック軸力Frmを決定する規範ラック軸力決定部285と、を備えている。
【0042】
[ベース規範ラック軸力算出部281]
ベース規範ラック軸力算出部281は、舵角算出部73にて算出された舵角Raと車速センサ170にて検出された車速Vcとをパラメータとして、予め定められた規範伝達関数を用いてベース規範ラック軸力Frmbを算出する。規範伝達関数は、入力である舵角Raおよび車速Vcを、出力であるベース規範ラック軸力Frmbに応答性を持たせて変換する周知の関数である。
【0043】
図8は、舵角Raに対するベース規範ラック軸力Frmbの値を示す図である。
本実施の形態に係るベース規範ラック軸力算出部281にて用いられる規範伝達関数は、舵角Raが同じであっても、ステアリングホイール101が切込まれているときのベース規範ラック軸力Frmbと、切戻されているときのベース規範ラック軸力Frmbとの間に
図8に示すようなヒステリシスが生じるように定められている。また、規範伝達関数は、
図8に示すように、ステアリングホイール101の右回転方向におけるベース規範ラック軸力Frmbと左回転方向におけるベース規範ラック軸力Frmbとの間にヒステリシスを生じさせるように定められている。
【0044】
[補正加算値設定部282]
補正加算値設定部282は、モータ回転速度算出部72にて算出されたモータ回転速度Nm、舵角算出部73にて算出された舵角Raおよび車速センサ170にて検出された車速Vcに基づいて補正加算値Pfを設定する。
図9は、補正加算値設定部282の概略構成図である。
補正加算値設定部282は、切込み側加算値Ptのベースとなるベース切込み側加算値Ptbを算出するベース切込み側加算値算出部282aと、切戻し側加算値Prのベースとなるベース切戻し側加算値Prbを算出するベース切戻し側加算値算出部282bと、を備えている。また、補正加算値設定部282は、舵角算出部73にて算出された舵角Raの符号を抽出する符号抽出部282cと、モータ回転速度Nmに基づいて切込み側加算値Ptおよび切戻し側加算値Prを補正するための回転速度補正係数Kmを設定する回転速度補正係数設定部282dと、を備えている。また、補正加算値設定部282は、符号抽出部282cが抽出した符号、回転速度補正係数設定部282dが設定した回転速度補正係数Kmおよびベース切込み側加算値算出部282aが算出したベース切込み側加算値Ptbに基づいて切込み側加算値Ptを算出する切込み側加算値算出部282eと、符号抽出部282cが抽出した符号、回転速度補正係数Kmおよびベース切戻し側加算値算出部282bが算出したベース切戻し側加算値Prbとに基づいて切戻し側加算値Prを算出する切戻し側加算値算出部282fと、を備えている。
【0045】
また、補正加算値設定部282は、ステアリングホイール101の操舵状況を判定する操舵状況判定部282gと、車速Vcに基づいて補正加算値Pfを補正するため第2車速補正係数Kv2を設定する第2車速補正係数設定部282hと、を備えている。また、補正加算値設定部282は、切込み側加算値算出部282eが算出した切込み側加算値Ptと、切戻し側加算値算出部282fが算出した切戻し側加算値Prと、操舵状況判定部282gが判定した操舵状況と、第2車速補正係数設定部282hが設定した第2車速補正係数Kv2とに基づいて補正加算値Pfを決定する補正加算値決定部282iを備えている。
【0046】
図10は、舵角Raの絶対値とベース切込み側加算値Ptbとの対応を示す制御マップの概略図である。
ベース切込み側加算値算出部282aは、舵角算出部73にて算出された舵角Raに基づいてベース切込み側加算値Ptbを決定する。ベース切込み側加算値算出部282aは、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、舵角Raの絶対値とベース切込み側加算値Ptbとの対応を示す
図10に例示した制御マップに、舵角Raの絶対値を代入することによりベース切込み側加算値Ptbを算出する。
図10に例示した制御マップにおいては、ベース切込み側加算値Ptbは正(プラス)の値であり、舵角Raの絶対値が小さい場合にはベース切込み側加算値Ptbは小さめの値となり、舵角Raの絶対値が所定舵角Ra0付近でベース切込み側加算値Ptbが急激に大きくなるように設定されている。また、舵角Raの絶対値が所定舵角Ra0よりも大きい範囲では、舵角Raの絶対値が大きくなるに従ってベース切込み側加算値Ptbが徐々に小さくなるように設定されている。なお、所定舵角Ra0は、舵角Raの絶対値が所定舵角Ra0未満である場合に、運転者に対してステアリングホイール101のセンター感を感じさせる角度であることを例示することができる。
【0047】
図11は、舵角Raの絶対値とベース切戻し側加算値Prbとの対応を示す制御マップの概略図である。
ベース切戻し側加算値算出部282bは、舵角算出部73にて算出された舵角Raに基づいてベース切戻し側加算値Prbを決定する。ベース切戻し側加算値算出部282bは、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、舵角Raの絶対値とベース切戻し側加算値Prbとの対応を示す
図11に例示した制御マップに、舵角Raの絶対値を代入することによりベース切戻し側加算値Prbを算出する。
図11に例示した制御マップにおいては、ベース切戻し側加算値Prbは負(マイナス)の値であり、舵角Raの絶対値が大きくなるに従ってベース切戻し側加算値Prbが徐々に小さくなる(マイナス方向に大きくなる)ように設定されている。
【0048】
符号抽出部282cは、舵角算出部73にて算出された舵角Raの符号がプラスである場合にはプラスを抽出し、舵角算出部73にて算出された舵角Raの符号がマイナスである場合にはマイナスを抽出する。
【0049】
図12は、回転速度補正係数Kmとモータ回転速度Nmの絶対値との対応を示す制御マップの概略図である。
回転速度補正係数設定部282dは、モータ回転速度算出部72にて算出されたモータ回転速度Nmの絶対値に基づいて回転速度補正係数Kmを設定する。回転速度補正係数設定部282dは、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、回転速度補正係数Kmとモータ回転速度Nmの絶対値との対応を示す
図12に例示した制御マップに、モータ回転速度Nmの絶対値を代入することにより回転速度補正係数Kmを算出する。
【0050】
切込み側加算値算出部282eは、符号抽出部282cが抽出した抽出符号、回転速度補正係数設定部282dが設定した回転速度補正係数Kmおよびベース切込み側加算値算出部282aが算出したベース切込み側加算値Ptbを乗算することにより切込み側加算値Ptを算出する(Pt=抽出符号×Ptb×Km)。ベース切込み側加算値Ptbは正の値であり、符号抽出部282cが抽出した抽出符号は、舵角Raの符号がプラスである場合にはプラスで、舵角Raの符号がマイナスである場合にはマイナスであることから、舵角Raの符号がプラスである場合には切込み側加算値Ptは正の値となり、舵角Raの符号がマイナスである場合には切込み側加算値Ptは負の値となる。
【0051】
切戻し側加算値算出部282fは、符号抽出部282cが抽出した抽出符号、回転速度補正係数設定部282dが設定した回転速度補正係数Kmとベース切戻し側加算値算出部282bが算出したベース切戻し側加算値Prbとを乗算することにより切戻し側加算値Prを算出する(Pr=抽出符号×Prb×Km)。ベース切戻し側加算値Prbは負の値であり、符号抽出部282cが抽出した抽出符号は、舵角Raの符号がプラスである場合にはプラスで、舵角Raの符号がマイナスである場合にはマイナスであることから、舵角Raの符号がプラスである場合には切戻し側加算値Prは負の値となり、舵角Raの符号がマイナスである場合には切戻し側加算値Prは正の値となる。
【0052】
操舵状況判定部282gは、舵角算出部73にて算出された舵角Raとモータ回転速度算出部72にて算出されたモータ回転速度Nmとに基づいてステアリングホイール101の操舵状況を判定する。例えば、操舵状況判定部282gは、舵角Raとモータ回転速度Nmとを乗算することにより得た乗算値(=Ra×Nm)の符号がプラスである場合にはステアリングホイール101が切込まれていると判定し、乗算値の符号がマイナスである場合にはステアリングホイール101が切戻されていると判定する。
【0053】
図13は、第2車速補正係数Kv2と車速Vcとの対応を示す制御マップの概略図である。
第2車速補正係数設定部282hは、車速センサ170にて検出された車速Vcに基づいて第2車速補正係数Kv2を設定する。第2車速補正係数設定部282hは、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、第2車速補正係数Kv2と車速Vcとの対応を示す
図13に例示した制御マップに、車速Vcを代入することにより第2車速補正係数Kv2を算出する。
【0054】
補正加算値決定部282iは、操舵状況判定部282gが、ステアリングホイール101が切込まれていると判定した場合には、切込み側加算値算出部282eが算出した切込み側加算値Ptと第2車速補正係数設定部282hが設定した第2車速補正係数Kv2とを乗算して得た値を補正加算値Pfとして決定する(Pf=Pt×Kv2)。他方、補正加算値決定部282iは、操舵状況判定部282gが、ステアリングホイール101が切戻されていると判定した場合には、切戻し側加算値算出部282fが算出した切戻し側加算値Prと第2車速補正係数設定部282hが設定した第2車速補正係数Kv2とを乗算して得た値を補正加算値Pfとして決定する(Pf=Pr×Kv2)。
【0055】
[加算部283]
加算部283は、ベース規範ラック軸力算出部281が算出したベース規範ラック軸力Frmbと補正加算値設定部282が設定した補正加算値Pfとを加算することにより加算値(Frmb+Pf)を算出する。
【0056】
[第1車速補正係数設定部284]
図14は、第1車速補正係数Kv1と車速Vcとの対応を示す制御マップの概略図である。
第1車速補正係数設定部284は、車速センサ170にて検出された車速Vcに基づいて第1車速補正係数Kv1を設定する。第1車速補正係数設定部284は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、第1車速補正係数Kv1と車速Vcとの対応を示す
図14に例示した制御マップに、車速Vcを代入することにより第1車速補正係数Kv1を算出する。
【0057】
[規範ラック軸力決定部285]
規範ラック軸力決定部285は、加算部283にて算出された加算値(Frmb+Pf)と第1車速補正係数設定部284が設定した第1車速補正係数Kv1とを乗算することにより得た値を規範ラック軸力Frmとして決定する(Frm=Kv1×(Frmb+Pf))。
【0058】
図15は、舵角Raに対する加算値(Frmb+Pf)の値を示す図である。
上述した事項により、本実施の形態に係る補正加算値Pfは、ステアリングホイール101が右方向に切込まれている場合には正の値である切込み側加算値Ptが補正加算値Pfとして決定され、左方向に切込まれている場合には負の値である切込み側加算値Ptが補正加算値Pfとして決定される。他方、ステアリングホイール101が左方向に切戻されている場合には負の値である切戻し側加算値Prが補正加算値Pfとして決定され、右方向に切戻されている場合には正の値である切戻し側加算値Prが補正加算値Pfとして決定される。
【0059】
そして、切込み側加算値Ptおよび切戻し側加算値Prは、それぞれベース切込み側加算値Ptb、ベース切戻し側加算値Prbに基づいた値となる。第1車速補正係数Kv1は、正の値である。それゆえ、ステアリングホイール101の右回転方向における規範ラック軸力Frmと左回転方向における規範ラック軸力Frmとの間のヒステリシスは、舵角Raの絶対値が所定舵角Ra0未満の中立状態付近では小さく、舵角Raの絶対値が所定舵角Ra0よりも大きい場合には大きくなる。
【0060】
上述したように、本実施の形態に係る規範ラック軸力算出部280においては、ステアリングホイール101の操舵状況に応じて規範ラック軸力Frmを変更する。例えば、規範ラック軸力算出部280は、ステアリングホイール101を切込んでいるのか切戻しているのかに応じて規範ラック軸力Frmを変更する。そして、規範ラック軸力算出部280は、舵角Raが小さい場合には、ステアリングホイール101の一方の回転方向(例えば右回転方向)における規範ラック軸力Frmと他方の回転方向(例えば左回転方向)における規範ラック軸力Frmとの差が小さく、舵角Raが大きい場合には、一方の回転方向における規範ラック軸力Frmと他方の回転方向における規範ラック軸力Frmとの差が大きくなるように変更する。
【0061】
以上のように構成された本実施の形態に係る目標電流算出部20においては、ラック軸力偏差電流決定部288は、実ラック軸力算出部287にて算出された実ラック軸力Fraから規範ラック軸力算出部280にて算出された規範ラック軸力Frmを減算することにより得たラック軸力偏差ΔF(=Fra−Frm)に基づいてラック軸力偏差電流Irを算出し、算出したラック軸力偏差電流IrをRAMなどの記憶領域に記憶する。そして、目標電流決定部29は、RAMなどの記憶領域に記憶された、基本目標電流Itfとラック軸力偏差電流Irとを加算した値を目標電流Itとして決定する。
【0062】
そして、本実施の形態に係る目標電流算出部20においては、ラック軸105に生じる実ラック軸力Fraが規範ラック軸力Frmよりも大きくなるほど、ラック軸力偏差電流Irが大きくなり、目標電流Itが増大する。他方、ラック軸105に生じる実ラック軸力Fraが規範ラック軸力Frmよりも小さい場合は、ラック軸力偏差電流Irが小さくなり、目標電流Itが減少する。これにより、路面の変化などによる外乱入力が電動モータ110のアシスト力で低減されることとなる。
【0063】
また、本実施の形態に係る目標電流算出部20においては、目標電流Itは、基本目標電流算出部27が設定した基本目標電流Itfに、ラック軸力偏差電流算出部28が設定したラック軸力偏差電流Irが加算されることで補正される。そして、ラック軸力偏差電流Irは、規範ラック軸力算出部280が算出した規範ラック軸力Frmに対する実ラック軸力Fraの値に基づいて定まり、規範ラック軸力Frmと実ラック軸力Fraとの差がなければラック軸力偏差電流Irは零であり、規範ラック軸力Frmと実ラック軸力Fraとの偏差が大きいほどラック軸力偏差電流Irの絶対値が大きくなる。このことは、路面の変化などによる外乱入力に起因する実ラック軸力Fraと規範となる規範ラック軸力Frmとの差を小さくするようなラック軸力偏差電流Irが設定されることであり、ラック軸105に生じる軸力が規範ラック軸力Frmとなるような目標電流Itが設定されることを意味する。
【0064】
そして、規範ラック軸力Frmは、ベース規範ラック軸力Frmbに補正加算値Pfが加算された加算値(Frmb+Pf)や第1車速補正係数Kv1に基づいて定まる。また、補正加算値Pfは、ステアリングホイール101の操舵状況、回転速度補正係数Kmおよび第2車速補正係数Kv2に基づいて定まる。そして、第1車速補正係数Kv1、切込み側加算値Pt、切戻し側加算値Pr、回転速度補正係数Kmおよび第2車速補正係数Kv2は任意に設定可能であるため、ステアリングホイール101の操舵に対する規範ラック軸力Frmの発生を任意に設定可能である。それゆえ、車種や仕様に応じてこれらを任意に設定することで操舵フィーリングの向上を付加することができる。
【0065】
例えば、本実施の形態に係る規範ラック軸力算出部280においては、
図15に示すように、ステアリングホイール101の右回転方向における規範ラック軸力Frmと左回転方向における規範ラック軸力Frmとの間のヒステリシスが、舵角Raの絶対値が所定舵角Ra0未満の中立状態付近では小さく、舵角Raの絶対値が所定舵角Ra0よりも大きい場合には大きくなるように規範ラック軸力Frmを算出する。この本実施の形態に係る規範ラック軸力算出部280によれば、ステアリングホイール101のセンター感をはっきりすることができると共に舵角Raの絶対値が大きい保舵時においても保舵し易くすることができる。
【0066】
以上説明したように、本実施の形態に係るステアリング装置100によれば、外乱入力を低減することができると共に操舵フィーリングの向上を図ることができる。
【0067】
<プログラムの説明>
また以上説明した制御装置10が行なう処理は、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働することにより実現することができる。この場合、制御装置10に設けられた制御用コンピュータ内部のCPUが、制御装置10の各機能を実現するプログラムを実行し、これらの各機能を実現させる。
【0068】
よって制御装置10が行なう処理は、コンピュータに、車両のステアリングホイール101の回転角度である舵角Raと車両の移動速度である車速Vcとに基づいて、転動輪を転動させるラック軸105に生じる軸力の規範となる規範ラック軸力Frmを算出する規範ラック軸力算出機能と、ラック軸105に生じる実際の軸力である実ラック軸力Fraを算出する実ラック軸力算出機能と、規範ラック軸力算出機能にて算出された規範ラック軸力Frmと実ラック軸力算出機能にて算出された実ラック軸力Fraとの偏差に基づいてラック軸力偏差電流Irを設定するラック軸力偏差電流設定機能と、ステアリングホイール101の操舵トルクTに基づいて電動モータ110に供給する目標電流Itの基本となる基本目標電流Itfを設定する基本目標電流設定機能と、基本目標電流設定機能が設定した基本目標電流Itfとラック軸力偏差電流設定機能が設定したラック軸力偏差電流Irとに基づいて目標電流Itを決定する目標電流決定機能と、を備え、規範ラック軸力算出機能は、ステアリングホイール101の操舵状況に応じて規範ラック軸力Frmを変更することを実現させるプログラムとして捉えることもできる。
【0069】
なお、本実施の形態を実現するプログラムは、通信手段により提供することはもちろん、CD−ROM等の記録媒体に格納して提供することも可能である。