特許第6291318号(P6291318)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6291318ロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6291318
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】ロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジ
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/28 20060101AFI20180305BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20180305BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   A61M5/28
   A61L31/12 100
   A61L31/06 100
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-73579(P2014-73579)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-195805(P2015-195805A)
(43)【公開日】2015年11月9日
【審査請求日】2017年1月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089060
【弁理士】
【氏名又は名称】向山 正一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 明
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 友紀
(72)【発明者】
【氏名】堀内 愛子
(72)【発明者】
【氏名】吉川 弘樹
【審査官】 杉▲崎▼ 覚
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/071138(WO,A1)
【文献】 特開2011−067362(JP,A)
【文献】 特開2002−301133(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/040522(WO,A1)
【文献】 特表2009−505741(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0266871(US,A1)
【文献】 国際公開第2007/119687(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 3/00− 9/00
A61M 31/00
A61M 39/00−39/28
A61L 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製外筒と、前記外筒内に収納され、前記外筒内を液密に摺動可能なガスケットと、前記外筒の先端開口を封止する封止部材とからなるシリンジと、前記シリンジ内に充填されたロクロニウム臭化物注射液からなるロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジであって、前記ガスケットは、無機補強剤および無機充填剤に分類される無機フィラーとして、焼成クレーのみが添加され、焼成クレー以外に無機補強剤および無機充填剤に分類される無機フィラーを含有せず、かつ加硫された塩素化ブチルゴムにより形成されており、さらに、前記焼成クレーは、平均粒子径が1.0μm以下であることを特徴とするロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジ。
【請求項2】
前記ガスケットが、塩素化ブチルゴム100重量部当り、前記焼成クレーを50〜110重量部添加したものである請求項1に記載のロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジ。
【請求項3】
前記合成樹脂が、ポリプロピレンまたは環状ポリオレフィンである請求項1または2に記載のロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジ。
【請求項4】
前記プレフィルドシリンジは、高圧蒸気滅菌されている請求項1ないしのいずれかに記載のロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジ。
【請求項5】
前記ガスケットは、焼成クレー以外の無機補強剤および無機充填剤に分類される無機フィラーであるシリカ、塩基性炭酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、炭酸カルシウム、クレー(焼成クレーを除く)、タルク、シリカ、ウォラストナイト、ゼオライト、瀝青質微紛体、珪藻土、けい砂、軽石粉、スレート粉、アルミナ・ホワイト、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、リトポン、硫酸カルシウムおよび二硫化モリブテンを含有していない請求項1ないし4のいずれかに記載のロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジ。
【請求項6】
加硫促進助剤および活性剤である酸化亜鉛、酸化マグネシウム、炭酸亜鉛または水酸化カルシウムは、前記無機補強剤および無機充填剤に分類される無機フィラーには該当しない請求項1ないし5のいずれかに記載のロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジ。
【請求項7】
前記焼成クレーが、カオリナイト焼成物である請求項1ないし6のいずれかに記載のロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製のシリンジにロクロニウム臭化物注射液を充填したロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジに関する。
【背景技術】
【0002】
注射液が充填されたプレフィルドシリンジとしては、多くのものが提案されている。上記のようなプレフィルドシリンジとしては、例えば、本願出願人が提案する特開2013−203675(特許文献1)がある。
特許文献1の発明において用いるロクロニウム臭化物は、神経筋接合部のシナプス後膜に存在するニコチン性アセチルコリン受容体に対して、アンタゴニストとして作用し、アセチルコリンによる神経から筋への興奮伝達を遮断する非脱分極性の筋弛緩作用を有する化合物である。
【0003】
ロクロニウム臭化物注射液製剤は、麻酔時の筋弛緩、気管挿管時の筋弛緩に用いられるため、緊急投与の可能性が高い製剤である。また、ロクロニウム臭化物注射液製剤は、静脈内投与または持続投与するバイアル製剤であり、注射筒への薬液の移し替え等の作業負担が医療現場では問題となっており、現場からの製剤改良の要望が強い。
一方、従来から、薬剤取り違え、院内感染防止、廃棄性、病院業務の効率などの理由から薬液を予め充填したプレフィルドシリンジが使用されている。また、プレフィルドシリンジのシリンジ材質として、ガラスや各種プラスチックが用いられている。合成樹脂製プレフィルドシリンジは、ガラス製のものに比べ、軽くて割れにくいため、医療現場ではより安全に調剤業務を行うことができる。
【0004】
上記の観点から、ロクロニウム臭化物注射液は、合成樹脂製のプレフィルドシリンジ製剤とすることが望ましい。しかしながら、シリンジの外筒あるいはゴム製ガスケットと薬剤が何らかの相互作用を起こす場合もあり、臭化ロクロニウム注射液のシリンジ製剤化には検討が必要であった。また、ロクロニウム臭化物注射液製剤の主成分であるロクロニウム臭化物は、一般的にpH4付近の水溶液中で安定であるため、酸性下で製剤化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−203675
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、ロクロニウム臭化物注射液製剤の主成分であるロクロニウム臭化物は、一般的にpH4付近の水溶液中で安定であるため、酸性下で製剤化されている。このような酸性条件下に、長期間曝された場合、ゴム製ガスケットが、変形、変性する可能性がある。そこで、本願発明者は、ロクロニウム臭化物注射液を充填した合成樹脂製シリンジにおいて、長期間保存におけるゴム製ガスケットの変形について鋭意研究を重ねた結果、特定の無機フィラーを用いることにより、意外にもゴム栓体に変形が生じることなく、ロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジが長期間安定に保存可能であることを知見した。
本発明の目的は、ロクロニウム臭化物注射液が充填されたプレフィルドシリンジにおいて、ガスケットの変形、変性がなく、長期間安定に保存可能なロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するものは以下のものである。
(1) 合成樹脂製外筒と、前記外筒内に収納され、前記外筒内を液密に摺動可能なガスケットと、前記外筒の先端開口を封止する封止部材とからなるシリンジと、前記シリンジ内に充填されたロクロニウム臭化物注射液からなるロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジであって、前記ガスケットは、無機補強剤および無機充填剤に分類される無機フィラーとして、焼成クレーのみが添加され、焼成クレー以外に無機補強剤および無機充填剤に分類される無機フィラーを含有せず、かつ加硫された塩素化ブチルゴムにより形成されており、さらに、前記焼成クレーは、平均粒子径が1.0μm以下であるロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジ。
【0008】
(2) 前記ガスケットが、塩素化ブチルゴム100重量部当り、前記焼成クレーを50〜110重量部添加したものである上記(1)に記載のロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジ。
) 前記合成樹脂が、ポリプロピレンまたは環状ポリオレフィンである上記(1)または(2)に記載のロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジ。
) 前記プレフィルドシリンジは、高圧蒸気滅菌されている上記(1)ないし()のいずれかに記載のロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジ。
(5) 前記ガスケットは、焼成クレー以外の無機補強剤および無機充填剤に分類される無機フィラーであるシリカ、塩基性炭酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、炭酸カルシウム、クレー(焼成クレーを除く)、タルク、シリカ、ウォラストナイト、ゼオライト、瀝青質微紛体、珪藻土、けい砂、軽石粉、スレート粉、アルミナ・ホワイト、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、リトポン、硫酸カルシウムおよび二硫化モリブテンを含有していない上記(1)ないし(4)のいずれかに記載のロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジ。
(6) 加硫促進助剤および活性剤である酸化亜鉛、酸化マグネシウム、炭酸亜鉛または水酸化カルシウムは、前記無機補強剤および無機充填剤に分類される無機フィラーには該当しない上記(1)ないし(5)のいずれかに記載のロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジ。
(7) 前記焼成クレーが、カオリナイト焼成物である上記(1)ないし(6)のいずれかに記載のロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジ。
【発明の効果】
【0009】
本発明のロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジは、合成樹脂製外筒と、外筒内に収納され、外筒内を液密に摺動可能なガスケットと、外筒の先端開口を封止する封止部材とからなるシリンジと、シリンジ内に充填されたロクロニウム臭化物注射液からなる。そして、ガスケットは、無機補強剤および無機充填剤に分類される無機フィラーとして焼成クレーのみが添加され、かつ加硫された塩素化ブチルゴムにより形成されている。
特に、ガスケットを塩素化ブチルゴムに無機補強剤および無機充填剤に分類される無機フィラーとして焼成クレーのみを単独で添加し、かつ加硫したものにより形成したことにより、長期的にロクロニウム臭化物を含有する酸性液に接触しても、変形、変性を生じることがない。このため、このロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジは、長期保存が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明のロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジの実施例の正面図である。
図2図2は、図1に示すプレフィルドシリンジの断面図である。
図3図3は、図1に示すプレフィルドシリンジの先端部分の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジを実施例を用いて説明する。
本発明のロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジ1は、合成樹脂製外筒21と、外筒21内に収納され、外筒内を液密に摺動可能なガスケット22と、外筒21の先端開口を封止する封止部材23とからなるシリンジ2と、シリンジ2内に充填されたロクロニウム臭化物注射液3とからなる。ガスケット22は、無機補強剤および無機充填剤に分類される無機フィラーとして焼成クレーのみが添加されかつ加硫された塩素化ブチルゴムにより形成されている。
【0012】
「無機補強剤および無機充填剤に分類される無機フィラーとして焼成クレーのみが添加」は、焼成クレー以外に無機補強剤および無機充填剤に分類される無機フィラーを含有しないと言い換えることができる。ここで言う無機補強剤および無機充填剤に分類される無機フィラーとしては、シリカ、塩基性炭酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、炭酸カルシウム、クレー、タルク、シリカ、ウォラストナイト、ゼオライト、瀝青質微紛体、珪藻土、けい砂、軽石粉、スレート粉、アルミナ・ホワイト、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、リトポン、硫酸カルシウム、二硫化モリブテン等を指し、加硫促進助剤および活性剤である酸化亜鉛、酸化マグネシウム、炭酸亜鉛、水酸化カルシウム等はこの範疇に含まない。また、着色剤としての酸化チタン、カーボンブラックもこの範疇に含まない。
【0013】
本発明のプレフィルドシリンジ1は、図2に示すように、シリンジ2と、シリンジ2内に充填されたロクロニウム臭化物注射液3とからなる。
そして、シリンジ2は、図1に示すように、外筒21と、外筒内に摺動可能に収納されたガスケット22と、外筒21の注射針取付部31に取り付けられ液密に密封するためのシールキャップ(封止部材)23と、ガスケット22に取り付けられたプランジャー24とからなる。
そして、ロクロニウム臭化物注射液3は、外筒21とガスケット22とシールキャップ23内に収納されたシール部材32により形成される空間内に収納されている。
【0014】
外筒21は、外筒本体部30と、外筒本体部30の先端部に設けられた注射針取付部31と、外筒本体部30の後端部に設けられたフランジ部34を備える。外筒21は、透明もしくは半透明である。外筒本体部30は、ガスケット22を液密かつ摺動可能に収納するほぼ筒状の部分である。また、外筒本体部30の先端部(肩部)は、注射針取付部31に向かってテーパー状に縮径している。
【0015】
注射針取付部31は、図2および図3に示すようにノズル部35と、カラー部36とを備える。ノズル部35は、図2に示すように、先端に向かって縮径する注射針装着用チップ部となっている。ノズル部35は、外筒21の先端に設けられており、先端に外筒内の薬液等を排出するための開口を備えるとともに先端に向かってテーパー状に縮径するように形成されている。カラー部内周面には、シールキャップ23のノズル部収納部の外周面に形成された螺旋状突出部53と螺合可能な螺旋状溝部37が形成されている。フランジ部34は、図1および図2に示すように、外筒21の後端全周より垂直方向に突出するように形成された楕円ドーナツ状の円盤部である。フランジ部34は、図1図2に示すように向かい合う幅広となった2つの把持部34a、34bを備える。
【0016】
外筒21の形成材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、アクリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、環状ポリオレフィンのような各種樹脂が挙げられるが、その中でも成形が容易で耐熱性があることから、ポリプロピレン、環状ポリオレフィンのような樹脂が好ましい。
【0017】
ガスケット22は、図1図2に示すようにほぼ同一外径にて延びる本体部と、この本体部に設けられた複数の環状リブ26,27(この実施例では2つ、2つ以上であれば、液密性と摺動性を満足できれば適宜数としてもよい)を備え、これらリブ26,27が、外筒21の内面に液密に接触する。また、ガスケット22の先端面は、外筒21の先端内面に当接した時に、両者間に極力隙間を形成しないように、外筒21の先端内面形状に対応した形状となっている。
【0018】
そして、ガスケット22は、無機補強剤および無機充填剤に分類される無機フィラーとして焼成クレーのみを含有する塩素化ブチルゴム(Cl−IIR)により形成されている。ガスケット22は、酸素透過性が低く、内容液の蒸散が著しくなく、耐蒸気滅菌性に優れた、ブチルゴムが用いられる。そして、ブチルゴムの中から、コスト、加硫反応速度、加硫成型性、生産性、加硫物の理化学的安全性などの観点から塩素化ブチルゴムを選定している。塩素化ブチルゴムは、ハロゲン化ブチルゴムの一種であり、ブチルゴムは、イソブチルとイソプレンの共重合体である。本発明で使用される塩素化ブチルゴムは、イソブチレンとイソプレンとの共重合体ゴムに塩素を付加したものである。また、ガスケット22は、加硫されている。言い換えれば、ガスケット22は、加硫された塩素化ブチルゴムにより形成されている。加硫は、一般的にはガスケット形状への成形と同時に行われる。
【0019】
添加される焼成クレーは、水簸精製したカオリナイトを焼成したものが好適である。また、塩素化ブチルゴムに対する分散性、加硫成型後のゴム物性等の観点から、焼成クレーの平均粒子径は1.0μm以下であることが好ましい。そして、ガスケットの形成材料としては、焼成クレー以外に無機補強剤および無機充填剤に分類される無機フィラーを含有しないことの他には、特に制限はなく、塩素化ブチルゴム配合に一般的に添加される従来公知の薬品を添加してもよい。
【0020】
そして、ガスケットは、塩素化ブチルゴム100重量部に対して、焼成クレーを50〜110重量部含有していることが好ましく、特に、60〜100重量部含有していることが好ましい。ガスケットのJIS A硬度は、特に限定されるものではないが、40〜70度が好ましく、50〜65度がより好ましい。また、ガスケットの圧縮永久ひずみも特に限定されないが、20%以下が好ましく、15%以下がより好ましい。ここで、圧縮永久歪とは、25%圧縮、70±1℃、22時間の条件で測定したときの値である。
焼成クレー以外のフィラーとして、有機フィラーを添加することができる。有機フィラーは、塩素化ブチルゴムに通常添加されるものであればいずれも使用することができる。好ましくは、ポリプロプレン微粉末、PTFE微粉末、超高分子量ポリエチレン微粉末などである。
【0021】
そして、ガスケット22には、その後端部より内部に延びる凹部が設けられ、この凹部は、雌ねじ状となっており、プランジャー24の先端部に形成された突出部の外面に形成された雄ねじ部と螺合可能となっている。両者が螺合することにより、プランジャー24は、ガスケット22より離脱しない。なお、プランジャー24は取り付けられておらず、使用時に取り付けるようにしてもよい。
【0022】
プランジャー24は、先端の円盤部に筒状に突出する突出部を備え、突出部の外面にはガスケット22の凹部と螺合する雄ねじが形成されている。また、プランジャー24は、断面十字状の軸方向に延びる本体部と、後端部に設けられた押圧用の円盤部を備えている。
【0023】
シールキャップ23は、キャップ本体50と、キャップ本体内に収納されたシール部材32とからなる。キャップ本体50は、図1図2図3に示すように、キャップ状に作製されており、ノズル部収納部51、カラー部収納部52を有する。また、シール部材32は、キャップ本体50のノズル部収納部51内に収納されている。
ノズル部収納部51は、シールキャップ23の中央部に設けられ、一端が閉塞し、他端が開口した円筒状部である。ノズル部収納部51の内径は、一端から他端までほぼ同一径となっている。また、ノズル部収納部51の閉塞部56の中央部には、閉塞部56の内面より、開口端方向に突出する環状突出部56aが形成されている。
【0024】
そして、キャップ本体50に収納されるシール部材32は、図3に示すように、この環状突出部56aと外筒21のノズル部35の先端35a間により、挟圧される。言い換えれば、シール部材32は、図5に示すように、キャップ本体50の環状突出部56aにより、外筒21のノズル部35の先端35aに圧接され、ノズル部35の先端35aを液密状態に封止する。
【0025】
また、ノズル部収納部51の外周面には、外筒21のカラー部36の内周面に形成された螺旋状溝部37と螺合可能な螺旋状突出部53が形成されている。これにより、注射針取付部31とシールキャップ23はノズル部収納部51の外周面と外筒21のカラー部36との間で螺合する。カラー部収納部52は、ノズル部収納部51を取り囲むように形成され、一端が閉塞し、他端が開口した円筒部である。また、図1に示すようにシールキャップ23の外側面(カラー部収納部52の外周面)には、シールキャップを回転させる時指等が滑らないようにするために縦方向に刻み加工が施されている。
【0026】
シールキャップの形成材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、アクリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、環状ポリオレフィンのような各種樹脂が挙げられるが、その中でも成形が容易で耐熱性があることから、ポリプロピレン、環状ポリオレフィンのような樹脂が好ましい。
【0027】
この実施例のプレフィルドシリンジでは、シール部材32は、円板状に形成されている。シール部材32の直径は、ノズル部収納部51の閉塞部の内径とほぼ同じもしくは若干小さいものとなっている。シール部材32としては、先端開口を液密に密封可能なように弾性部材であることが好ましい。
【0028】
シール部材32の形成材料としては、ガスケット22と同様に酸素透過性が低く、内容液の蒸散が著しくなく、耐蒸気滅菌性に優れた、ブチルゴムが用いられるが、特にコスト、加硫反応速度、加硫成型性、生産性、加硫物の理化学的安全性などの観点から塩素化ブチルゴムが好ましい。塩素化ブチルゴムは、イソブチレンとイソプレンとの共重合体ゴムに塩素を付加したものであり、従来公知の塩素化ブチルゴムを使用することができる。特に、シール部材32の形成材料としては、上述したガスケットにおいて説明したものが好適である。
そして、上述したように、シール部材32は、図3に示すように、キャップ本体50の環状突出部56aにより、外筒21のノズル部35の先端35aに圧接され、ノズル部35の先端35aを液密状態に封止する。
【0029】
本発明のプレフィルドシリンジ1は、図3に示すように、ロクロニウム臭化物注射液3を収納するとともに、螺旋状溝部37と螺旋状突出部53との螺合により、外筒21のノズル部35にシールキャップ23が装着され、ノズル部35の先端35aがシール部材32に圧接した密封状態となっている。なお、シール部材32を用いない場合等、シールキャップ23が収納されたロクロニウム臭化物注射液3と直接接触する場合には、シールキャップ23の形成材料として外筒21の形成材料と同じ材料を用いることが好ましい。
【0030】
本発明のプレフィルドシリンジ1には、例えば、日本薬局方のロクロニウム臭化物注射液が充填されている。そして、プレフィルドシリンジに充填されているロクロニウム臭化物注射液の液量としては、2〜10mlであることが好ましい。
また、本発明に用いられるロクロニウム臭化物注射液としては、ロクロニウムの濃度は、5mg/mL〜15mg/mLであることが好ましく、特に、8mg/ml〜12mg/mLであることが好ましい。さらに、ロクロニウム臭化物注射液には、緩衝剤や等張化剤を適宜配合してもよい。また、ロクロニウム臭化物注射液のpHは、薬剤の安定性の観点から、3〜5であることが好ましく、3.5〜4.5が好ましい。pH調整剤としては、酸及びアルカリを用いることができ、具体的には酢酸や水酸化ナトリウムなどを用いることができる。
【0031】
そして、この実施例のプレフィルドシリンジは、ロクロニウム臭化物注射液が充填された状態にてオートクレーブ滅菌されている。オートクレーブ滅菌は、ロクロニウム臭化物注射液が充填されたプレフィルドシリンジを、例えば、118〜122℃、0.8〜2.0kg/cm、15〜30分間程度さらすことにより行われる。
【実施例】
【0032】
以下に実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、これらにより本発明の範囲が限定されるものではない。
(実施例1)
ロクロニウム臭化物500mg、酢酸ナトリウム水和物100mg、塩化ナトリウム160mgを溶解した後、ロクロニウム臭化物10mg/mL濃度のロクロニウム臭化物含有水溶液を得た(pH約4)。そして、上記のロクロニウム臭化物含有水溶液を無菌濾過して、ロクロニウム臭化物注射液を作成した。
【0033】
塩素化ブチルゴム100重量部に対して、無機補強剤および無機充填剤に分類される無機フィラーとして焼成クレー(水簸精製したカオリナイト焼成物)のみを60重量部添加した配合物を準備し、この配合物を用いて、加硫成形することにより、塩素化ブチルゴム製のガスケットを作成した。
【0034】
ポリプロピレン製の外筒と、上記のガスケットと、ポリプロピレン製のシールキャップ、ポリプロピレン製のプランジャーを用いた10mL容量のシリンジを準備した。なお、シールキャップ内に配置されているシール部材としては、上記のガスケットと同じ材料にて形成したものを複数準備した。
そして、上記シリンジに、各5mL充填し、高圧蒸気滅菌をして、ロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジを製した。
【0035】
さらに、ロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジを脱酸素剤(商品名:エージレス:登録商標、三菱瓦斯化学株式会社製)と共にアルミ蒸着−ポリエチレンテレフタレートを有するガスバリア性及び遮光性ラミネート包材で密封包装した。このロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジを実施例1とした。
【0036】
(実施例2)
ガスケット形成材料として、塩素化ブチルゴム100重量部に対して、焼成クレー100重量部を添加した以外は、実施例1と同様にして、ロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジを得た。このロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジを実施例2とした。
【0037】
(比較例1)
塩素化ブチルゴム100重量部に対して、無機補強剤および無機充填剤に分類される無機フィラーとしてリグニン処理炭酸カルシウムのみを60重量部添加した配合物を準備し、この配合物を用いて、加硫成形することにより、塩素化ブチルゴム製のガスケットを作成した。ガスケットとして、上記のものを用いた以外は、実施例1と同様にして、ロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジを得た。このロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジを比較例1とした。
【0038】
(比較例2)
塩素化ブチルゴム100重量部に対して、無機補強剤および無機充填剤に分類される無機フィラーとしてタルクのみを60重量部添加した配合物を準備し、この配合物を用いて、加硫成形することにより、塩素化ブチルゴム製のガスケットを作成した。ガスケットとして、上記のものを用いた以外は、実施例1と同様にして、ロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジを得た。このロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジを比較例2とした。
【0039】
(比較例3)
塩素化ブチルゴム100重量部に対して、無機補強剤および無機充填剤に分類される無機フィラーとして湿式シリカのみを60重量部添加した配合物を準備し、この配合物を用いて、加硫成形することにより、塩素化ブチルゴム製のガスケットを作成した。ガスケットとして、上記のものを用いた以外は、実施例1と同様にして、ロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジを得た。このロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジを比較例3とした。
【0040】
(比較例4)
塩素化ブチルゴム100重量部に対して、無機補強剤および無機充填剤に分類される無機フィラーとして石英粉のみを60重量部添加した配合物を準備し、この配合物を用いて、加硫成形することにより、塩素化ブチルゴム製のガスケットを作成した。ガスケットとして、上記のものを用いた以外は、実施例1と同様にして、ロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジを得た。このロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジを比較例4とした。
【0041】
(比較例5)
塩素化ブチルゴム100重量部に対して、無機補強剤および無機充填剤に分類される無機フィラーとして、焼成クレーを55重量部と湿式シリカを5重量部を添加した配合物を準備し、この配合物を用いて、加硫成形することにより、塩素化ブチルゴム製のガスケットを作成した。ガスケットとして、上記のものを用いた以外は、実施例1と同様にして、ロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジを得た。このロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジを比較例5とした。
【0042】
(実験1) 表面観察
実施例1及び2、比較例1ないし5で得られた各ロクロニウム臭化物注射液充填製剤を60℃(湿度成り行き)にて保存し、試験開始時、1週間経過後のゴム栓体の表面状態を目視及び顕微鏡にて観察した。結果は、表1に示す通りであった。
【0043】
【表1】
【0044】
(実験2)安定性試験
実施例1及び2、比較例1ないし5で得られた各3本のロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジを60℃(湿度成り行き)にて保存し、試験開始時、1週間経過後のロクロニウム臭化物の残存率(%)を高速液体クロマトグラフィーにて測定した(表中の値はn=3の平均値)。結果は、表2に示す通りであった。
【0045】
(1)残存率測定法
各ロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジより、2mLの注射液を採取し、アセトニトリル/水混液(9:1)を加えて20mLとし、試料溶液とした。ロクロニウム臭化分標準品約50mgを精密に量り、アセトニトリル/水混液(9:1)に溶かし、正確に50mLとし、標準溶液とした。試料溶液及び標準溶液5μLにつき、次の条件で液体クロマトグラフィーにより試験を行った。それぞれの液のロクロニウムのピーク面積を求めた。
【0046】
(2)試験条件
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:210nm)
カラム:内径4.6mm,長さ25cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフ用シリカゲルを充填したもの
カラム温度:30℃付近の一定温度
移動相:リン酸でpH7.4に調整した4.53g/Lの水酸化テトラメチルアンモニウム五水和物溶液/アセトニトリル(10:90)
【0047】
【表2】
【符号の説明】
【0048】
1 ロクロニウム臭化物注射液充填プレフィルドシリンジ
2 シリンジ
3 ロクロニウム臭化物注射液
21 外筒
22 ガスケット
23 シールキャップ
図1
図2
図3