(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記易切削領域の中央部において、前記第1の樹脂製連結芯材または前記第2の樹脂製連結芯材の幅が、前記中央部より外側に配置された前記第1の樹脂製連結芯材の幅よりも大きい、請求項1に記載のシールド掘削用土留め壁。
前記易切削領域の中央部において、前記第1の樹脂製連結芯材または前記第2の樹脂製連結芯材の厚みが、前記中央部より外側に配置された前記第1の樹脂製連結芯材の厚みよりも大きい、請求項1または2に記載のシールド掘削用土留め壁。
【背景技術】
【0002】
従来より、地下鉄、道路、共同溝、および下水道等のトンネル工事として、シールド掘削機を利用したシールド工法が広く採用されている。
一般的なシールド工法においては、まず、開切工法によって、縦穴たる立坑(発進立坑)を形成し、この発進立坑内にシールド掘削機を運び込んで地下に到達させる。次に、発進立坑の掘削側面をシールド掘削機で掘削し、シールド掘削機を横方向に発進させて目的地点である終点までトンネルを掘削する。このようなシールド工法においては、通常、トンネルの終点または終点までの中間地点に、発進立坑と同様の縦穴(到達立坑)が形成されており、その到達立坑にシールド掘削機を到達させることによってトンネルが掘削される。
【0003】
開切工法によって形成された発進立坑および到達立坑(以下、双方を立坑と総称する)は、作業時における安全性確保の観点から、掘削壁面が補強される。具体的には、土圧および水圧(以下、双方を土圧等と総称する)による掘削壁面の崩壊、および掘削壁面からの地下水流出の防止の観点から、立坑の掘削壁面に、鉄筋コンクリート、溝矢板、またはH型鋼等を用いた仮壁としての土留め壁の構築、場合により、周辺地盤の地盤改良等の対策も講じられる。
【0004】
ところが、シールド工法においては、安全性等の観点から設けた土留め壁であっても、トンネル掘削のために、地盤改良の後に土留め壁を撤去する、または土留め壁に対してシールド掘削機を通過させるための開口を形成する作業(所謂鏡切り)を行う。これらの作業は掘削という限られた領域内で行う必要があることから、人力での作業を要し、従って、作業時の安全性への不安、工事の長期化、施工費の増大等を招いていた。
このため、シールド工法を用いたトンネル工事では、立坑における、安全性の向上および作業効率の向上が望まれている。
【0005】
そこで、ガラス繊維などの長繊維で補強されたポリウレタン発泡樹脂成形体(Fiber reinforced Foamed Urethane;FFU)により構成された部材を、立坑の土留め壁に組み込み、このFFUによって形成された部分をシールド掘削機で直接的に切削するシールド工法が行われている(Shield Earth retaining Wall system;SEW工法)。
【0006】
例えば、特開平9−13875号公報(特許文献1)には、FFUの積層体を所定厚に至るまで積層して形成された棒状の切削可能化部材を、発進・到達する位置に、1方向に伸びるように並列的に並べて形成した切削可能領域を備えた地中壁を採用している。すなわち、特許文献1では、FFUによって形成された切削可能領域を掘削側面を補強する壁面にしつつも、シールド掘削機によって当該領域を直接的に切削可能としたため、作業の安全性および作業の効率化を改善している。
【0007】
特開2013−122133号公報(特許文献2)には、地表から一定以上(例えば60m以上)の大深度であっても土圧等に耐えることができるよう、削切可能領域においてFFUが立体的に交差された立体格子部を有するように構成されたシールド掘削用土留め壁が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
通常、シールド掘削用土留め壁においては、中央部に内側引張りの曲げモーメントが発生し、周辺部に外側引張りの曲げモーメントが発生する。本来、FFUは、壁厚み方向の中央よりも引張り側に偏らせて配設させることにより有効高さ(FFUの厚み方向中央から土留め壁のコンクリート表面までの厚み)を十分確保することがコンクリートのひび割れ低減の観点から有利であるところ、上記の両方の曲げモーメントに対応させる目的でFFUを1段で配設する場合、内側引張りおよび外側引張りの両方に対する有効高さを確保しなければならないため、配設位置はおのずと壁厚み方向中央よりとなる。したがって、それぞれの曲げモーメントに対しコンクリートのひび割れを低減させるための十分な有効高さを同時に確保することは難しくなる。
【0010】
また、シールド掘削用土留め壁のFFUの断面積(FFU量に対応する量)を決める主要因は、中央部の曲げ耐力であるが、シールド掘削用土留め壁の大深度化および切削口径の大断面化への対応をさらに進めた場合、FFUの断面積を決める主要因は、端部に発生するせん断力へと変化することがある。この場合、シールド掘削用土留め壁に十分な曲げ耐力があっても、端部に発生するせん断力に対応させるためにFFUの断面積を増やさなければならず、材料効率が悪くなる問題が生じる。この問題は、せん断耐力が厚みに比例することに対し、曲げ耐力が厚みの2乗に比例することに起因する。
【0011】
したがって本発明の目的は、内側引張りの曲げモーメントおよび外側引張りの曲げモーメントの両方に効果的に対応しつつ、せん断荷重を受ける部分を特に補強することで、大深度、大断面で用いられる場合であっても、せん断荷重への耐性に優れ、かつ材料効率の良いシールド掘削用土留め壁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)
一局面に従うシールド掘削用土留め壁は、金属製芯材と、セメント系硬化体とを含むシールド掘削用土留め壁であり、壁構造の一部に易切削領域を含む。易切削領域は、複数の第1の樹脂製連結芯材と、複数の第2の樹脂製連結芯材と、複数の樹脂製補強芯材とを含む。第1の樹脂製連結芯材は、壁面に沿う方向に配設される。複数の第2の樹脂製連結芯材は、複数の第1の樹脂製連結芯材に立体交差するように重ねられる。複数の樹脂製補強芯材は、易切削領域の内縁部において、第1の樹脂製連結芯材上に重ねられる。この場合、複数の樹脂製補強芯材は、第1の樹脂製連結芯材および第2の樹脂製連結芯材の少なくともいずれかの延在方向に沿って延在するように重ねられる。
【0013】
複数の第1の樹脂製連結芯材の各々は、壁面に沿う方向に並行して配設される。複数の第2の樹脂製連結芯材の各々、および複数の樹脂製補強芯材の各々も、複数の第1の樹脂製連結芯材に重ねられることにより、壁面に沿う方向に並行して配設される。
内縁部は、壁構造に対する平面視において、易切削領域のせん断荷重を受ける部分の少なくとも一部に設定される。
【0014】
易切削領域の内縁部において樹脂製補強芯材が重なることにより、断面積が増加するため、せん断耐力を向上させることができる。なお、断面とは、壁面に対して垂直な面で、樹脂芯材の短手方向に切断した場合の断面をいう。さらに、内縁部における外側引張りモーメントと中央部における内側引張りモーメントとの両方に対し、セメント系硬化体のひび割れを低減させる十分な有効高さを同時に確保することができる。
このように、大深度化、大断面化に伴うせん断荷重の増加にも対応可能であり、かつ内縁部における外側引張りモーメントと中央部における内側引張りモーメントとの両方に効果的に対応した補強態様でありながら、材料効率の良いシールド掘削用土留め壁となる。
【0015】
なお、樹脂製補強芯材が第1の樹脂製連結芯材の延在方向に沿って延在する場合、樹脂製補強芯材は第1の樹脂製連結芯材が受け持つせん断力を補助することができ、樹脂製補強芯材が第2の樹脂製連結芯材の延在方向に沿って延在する場合、樹脂製補強芯材は第2の樹脂製連結芯材が受け持つせん断力を補助することができる。
【0016】
(2)
樹脂製補強芯材と、樹脂製補強芯材の延在方向に沿って延在する第1の樹脂製連結芯材および第2の樹脂製連結芯材の少なくともいずれかとは、材質が同じであることが好ましい。すなわち、樹脂製補強芯材が第1の樹脂製連結芯材の延在方向に沿って延在する場合、互いに重なる樹脂製補強芯材と第1の樹脂製連結芯材との材質が同じであることが好ましく、樹脂製補強芯材が第2の樹脂製連結芯材の延在方向に沿って延在する場合、互いに(第1の樹脂製連結芯材を介して)重なる樹脂製補強芯材と第2の樹脂製連結芯材との材質が同じであることが好ましい。
【0017】
この場合、同じ方向に重なる連結芯材同士の材質が同じであるため、当該材質が生来的に有する剛性などの機械的特性が揃い、荷重の偏りを好ましく防ぐことができる。
【0018】
(3)
樹脂製補強芯材と、樹脂製補強芯材の延在方向に沿って延在する第1の樹脂製連結芯材および第2の樹脂製連結芯材の少なくともいずれかとは、断面形状が同じであることが好ましい。すなわち、樹脂製補強芯材が第1の樹脂製連結芯材の延在方向に沿って延在する場合、互いに重なる樹脂製補強芯材と第1の樹脂製連結芯材との断面形状が同じであることが好ましく、樹脂製補強芯材が第2の樹脂製連結芯材の延在方向に沿って延在する場合、互いに(第1の樹脂製連結芯材を介して)重なる樹脂製補強芯材と第2の樹脂製連結芯材との断面形状が同じであることが好ましい。
【0019】
この場合、同じ方向に重なる連結芯材同士の断面形状が同じであるため、連結芯材の剛性などの機械的特性が揃い、荷重の偏りを好ましく防ぐことができる。
【0020】
(4)
易切削領域の中央部において、第1の樹脂製連結芯材または第2の樹脂製連結芯材の幅は、中央部より外側に配置された第1の樹脂製連結芯材の幅よりも大きくてよい。
【0021】
これにより、易切削領域の中央部において、引張荷重を分散することができる。特に、大断面のトンネルを掘削するための大面積の易切削領域の場合において有効である。
【0022】
(5)
易切削領域の中央部において、第1の樹脂製連結芯材または第2の樹脂製連結芯材の厚みは、中央部より外側に配置された第1の樹脂製連結芯材の厚みよりも大きくてよい。
【0023】
これにより、易切削領域の中央部において、土圧等に対するより強固な補強を行うことができる。特に、易切削領域の面積が大きい場合において有効である。
【0024】
(6)
第1の樹脂製連結芯材、第2の樹脂製連結芯材および樹脂製補強芯材の少なくともいずれかの材質は強化繊維を含む発泡樹脂であり、強化繊維は延在方向にそって延在するように配向されていることが好ましい。
【0025】
これによって、易切削性でありながら好ましい強度を確保することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によって、せん断荷重への耐性に優れ、かつ材料効率の良いシールド掘削用土留め壁を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の要素には同一の符号を付しており、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0029】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態に係るシールド掘削用土留め壁の模式的一部切り欠き斜視図である。説明の便宜上、
図1に示すように、x軸、y軸およびz軸で構成される三次元直交座標系が定義される。
以下、それぞれの図面について、この三次元直交座標系を基準として説明を行う。なお、
図1におけるx軸、y軸およびz軸の矢印は、各軸の正方向を指しており、その向きは他の図においても同じである。x軸方向は、地表水平線の方向を示し、y軸方向は、鉛直方向を示す。z軸方向は、地中におけるシールド掘削方向を示し、さらに、z軸負方向側は土砂側を示し、z軸正方向側は立坑内側を示す。
【0030】
[土留め壁100の基本構成]
本実施形態のシールド掘削用の土留め壁100は、
図1に示すように、地面から地中(y軸負方向)に向けて掘削された縦穴たる立坑800の側面の少なくとも一面をなす。より具体的には、土留め壁100は、トンネル900を掘削するために切削される仮壁であり、z軸負方向(発進の場合)またはz軸正方向(到達の場合)に進行するシールド掘削機によって直接切削される。土留め壁100は、主構造壁部200と、易切削領域300とを含む。
【0031】
図1に示すように、主構造壁部200は、金属製芯材210と、セメント系硬化体250とを含む。より具体的には、主構造壁部200は、鉄筋コンクリートである。
易切削領域300は、樹脂製芯材310と、セメント系硬化体250とを含む。より具体的には、易切削領域300は、FFU筋コンクリートである。易切削領域300は、主構造壁部200における金属製芯材210の骨組みの開口部に組み込まれるように配設される。
図1に示すように、金属製芯材210の骨組みの開口部は円形状であるため、易切削領域300も同様の円形状である。さらに、主構造壁部200を構成する金属製芯材210と、易切削領域300を構成する樹脂製芯材310とは、当該開口部近傍において互いに連結される。
【0032】
[樹脂製芯材310の骨組み]
図2は、
図1の土留め壁100における樹脂製芯材310の骨組みを示す模式的斜視図であり、
図3は、
図2の骨組の模式的分解図である。
図4は、
図1の土留め壁100における樹脂製芯材310の骨組みを含む模式的平面図である。
図5は、
図2および
図4のA−A線を含むx−z平面で切断した場合の断面図であり、
図6は、
図2および
図4のB−B線を含むy−z平面で切断した場合の断面図であり、
図7は、
図2および
図4のC−C線を含むy−z平面で切断した場合の断面図である。
【0033】
図3に示すように、樹脂製芯材310は、連結芯材311,312と補強芯材315とを含む。連結芯材311、連結芯材312および補強芯材315のそれぞれの骨組みは、主構造壁部200を構成する金属製芯材210の骨組みの円形開口部に対応して円形となるように構成される。このように構成された補強芯材315、連結芯材311および連結芯材312の骨組みは、z軸方向に順に重ね合わされる。
【0034】
図2および
図3に示すように、連結芯材311,312および補強芯材315は、それぞれ、長さ(長手方向の長さ)、幅(短手方向の長さ)、および厚さ(壁厚方向の長さ)の少なくともいずれかが異なる複数種の芯材を含む。連結芯材311は、具体的には、連結芯材3111,3113を含む。連結芯材312は、具体的には、連結芯材3121,3122,3123,3124を含む。補強芯材315は、具体的には、補強芯材3151,3152,3153を含む。連結芯材311、連結芯材312および補強芯材315を構成する全ての芯材は、壁面に沿う方向すなわちx−y平面に沿う方向に並列に配設される。
【0035】
図4においては、
図2に示した樹脂製芯材310の骨組みの、z軸方向にx−y平面をみた平面視図と、当該骨組みと連結する金属製芯材210の骨組みの一部とを示す。易切削領域300の周(
図4中破線円で示す。)が、主構造壁部200を構成する金属製芯材210の骨組みにおける円形開口部に相当する。本実施形態は、大断面のトンネル900(
図1参照)を掘削する場合に特に有用であり、易切削領域300の直径は、一例として16200mmである。
【0036】
[連結芯材311]
図4に示すように、樹脂製芯材310の円形骨組みの大きさは、易切削領域300の大きさよりも大となるように形成される。このため、連結芯材311の骨組みを構成する芯材(連結芯材3111,3113、
図3参照)それぞれは、y軸方向に平行に、易切削領域300の一端から他端に亘って延在するとともに、長手方向の長さ(一例としてL1)が、延在している易切削領域300の一端から他端の長さ(一例としてD1)より長い。さらに、連結芯材311それぞれの長手方向の両端部は、易切削領域300の周縁の外側近傍で、金属製芯材210と連結される。
【0037】
連結芯材311の幅(x軸方向の長さ)は、
図2および
図5に示すように、易切削領域300の中央部M1に配置されたもののほうが、中央部M1より外側(すなわち内縁部E、後に詳述)に配置されたものより大きい。より具体的には、例えば中央部M1に位置する連結芯材3111の幅w1が、内縁部Eに位置する連結芯材3113の幅w2より大きい。幅w1は、例えば500mm以上700mm以下である。幅w2は、例えば400mm以上500mm以下である。
【0038】
なお、本実施形態においては、連結芯材311は、等間隔のピッチで配置される。好ましくは、最も大きい幅W1よりも長いピッチ、例えば幅W1の2倍以上3倍以下のピッチで配置されることができる。これによって、少ない芯材で効率よく壁面強度を確保することができる。
【0039】
また、連結芯材311の厚み(z軸方向の長さ)は、
図2および
図5に示すように、易切削領域300の中央部M1に配置されたものの方が、中央部M1より外側(すなわち内縁部E)に配置されたものより大きい。より具体的には、例えば中央部M1に位置する連結芯材3111の厚みt1が、内縁部Eに位置する連結芯材3113の厚みt3より大きい。厚みt1は、例えば800mm以上1000mm以下である。厚みt3は、例えば500mm以上700mm以下である。
【0040】
中央部M1に配置する連結芯材311をより幅広のものとすることによって、易切削領域300の中央部M1で、引張荷重を分散することができる。さらに、中央部M1に配置する連結芯材311をより厚いものとすることによって、易切削領域300の中央部M1の、引張荷重に対する応力を補強することができる。
本実施形態の土留め壁100は、大断面のトンネル900(
図1参照)を掘削するための大面積の易切削領域300を有しているため、このような補強態様が特に有用である。
【0041】
[連結芯材312]
図3に示すように、連結芯材311の骨組みの一方の面側に、連結芯材312の骨組みが配設される。
図4に示すように、連結芯材312の骨組みの大きさは、連結芯材311の骨組みの大きさと同様である。
図3および
図4に示すように、連結芯材312の骨組みを構成する連結芯材3121,3122,3123,3124はそれぞれ、x軸方向に、易切削領域300の一端から他端に亘って延在するとともに、長手方向の長さ(一例としてL2)が、延在している易切削領域300の一端から他端の長さ(一例としてD2)より長い。さらに、連結芯材312それぞれの長手方向の両端部は、易切削領域300の周縁の外側近傍で、金属製芯材210と連結される。
【0042】
図2、
図4および
図7に示すように、y軸に平行な連結芯材311とx軸に平行な連結芯材312とは立体的に交差する。
図4および
図7に示すように、交差された部分(格子点DL)においては連結芯材311と連結芯材312とが重なるため、他の部分より、外力に対する抵抗力を補強することができる。易切削領域300は、その全体に亘って、上述のような抵抗力が補強された格子点DLを多数有するため、易切削領域300全体に対し、引張荷重に対する耐性を増強することができる。
これは、本実施形態の土留め壁100が、大深度のトンネル900(
図1参照)を掘削するための易切削領域300を有している場合に特に有用である。
【0043】
連結芯材312の幅(y軸方向の長さ)は、
図2および
図7に示すように、易切削領域300の中央部M2に配置されたもののほうが、中央部M2より外側に配置されたものより大となる傾向がある。より具体的には、例えば中央部M2に位置する連結芯材3121の幅w1は、外側に位置する連結芯材3122の幅w2より大であり、当該幅w2は、より外側に位置する連結芯材3124の幅w4より大きい。幅w1は、例えば500mm以上700mm以下である。幅w2は、例えば400mm以上500mm以下である。幅w4は、例えば200mm以上400mm以下である。
【0044】
なお、本実施形態においては、連結芯材312は、等間隔のピッチで配置される。好ましくは、最も大きい幅の長さW1よりも長いピッチ、例えば幅W1の2倍以上3倍以下のピッチで配置されることができる。これによって、少ない芯材で効率よく壁面強度を確保することができる。
【0045】
また、連結芯材312の厚み(z軸方向の長さ)は、
図2および
図7に示すように、易切削領域300の中央部M2に配置されたものの方が、中央部M2より外側に配置されたものより大となる傾向がある。より具体的には、例えば中央部M2に位置する連結芯材3121の壁厚方向の厚みt1が、外側に位置する連結芯材3123,3124の厚みt3より大きい。厚みt1は、例えば800mm以上1000mm以下である。厚みt3は、例えば500mm以上700mm以下である。
【0046】
中央部M2に配置する連結芯材312をより幅広のものとすることによって、易切削領域300の中央部M2に対し、引張荷重を分散することができる。さらに、中央部M2に配置する連結芯材312をより厚いものとすることによって、易切削領域300の中央部M2に対し、引張荷重に対する応力を補強することができる。
本実施形態の土留め壁100は、大断面のトンネル900(
図1参照)を掘削するための大面積の易切削領域300を有しているため、このような補強態様が特に有用である。
【0047】
本実施形態の場合、連結芯材311の骨組みにおける中央部M1と連結芯材312の骨組みにおける中央部M2の両方で、芯材の幅および厚みが大きくなるように構成されている。このため、z軸方向からx−y平面を見た平面視において、中央部M1と中央部M2とが交わる領域では、土圧等による引張荷重に対し相乗的な補強効果を得ることができる。
【0048】
[補強芯材315]
図3に示すように、連結芯材311の骨組みの他方の面側(すなわち、連結芯材312の骨組みが配設された側とは反対側)に、補強芯材315が配設される。
図3および
図4に示すように、補強芯材315の骨組みを構成する補強芯材3151,3152,3153はそれぞれ、易切削領域300の内縁部Eにおいて、x軸方向に延在するよう配設される。
【0049】
図4に示すように、易切削領域300の内縁部Eは、x−y平面に沿う平面において、易切削領域300のせん断荷重を受ける部分の少なくとも一部に設定される。具体的には、易切削領域300の周縁の少なくとも一部を含み、易切削領域300の中心部分を含まない領域である。内縁部Eのx軸方向の幅、つまり最長の補強芯材315の易切削領域300における長手方向長さは、易切削領域300の半径の例えば30%以上50%以下、好ましくは35%以上45%以下である。これによって、せん断荷重に対する補強を効果的に行うとともに、材料効率も良好とすることができる。
【0050】
図3および
図4に示すように、補強芯材315の骨組みを構成する補強芯材3151,3152,3153はそれぞれ、同形同大のものが、易切削領域300の、y軸に平行な中心線に対し線対称の対をなすように配設されている。
図4に示すように、補強芯材315の骨組みを構成する芯材はそれぞれ、長手方向(x軸方向)の一端部が主構造壁部200の金属製芯材210と連結される一方、他端部ではそのような連結はされていない。
【0051】
また、
図4および
図6に示すように、z軸方向からx−y平面を見た平面視において、連結芯材312と補強芯材315とは互いに重なるように配置されている。このような位置関係で連結芯材312と補強芯材315とが壁厚方向(z軸方向)に重なることによって、連結芯材312が補強芯材315で補強される。補強された部分は、
図6と
図7とに比較されるように、内縁部E断面(
図6)において、芯材の断面(図中斜線部分)の面積が増加することにより、連結芯材312が受け持つせん断力を補強芯材315が補助する。さらに、
図6に示されるように、補強のための補強芯材315と補強される連結芯材312との当該断面の形状は同じである。これによって、剛性などの機械的特性が揃い、荷重の偏りを好ましく防ぐことができる。
【0052】
さらにこの場合、補強芯材315は、
図2に示したように、連結芯材312のうち特に長尺の連結芯材3121,3122に対して補強される。つまり、より耐力が必要とされる長尺の連結芯材に対して補強を行うため、せん断荷重に対する補強がより効率的である。
【0053】
なお、連結芯材312と補強芯材315とが重なった部分SW(
図5参照)は、そのような重なりがない他の部分(具体的には、中央部M1)に比べて、単位体積あたりのセメント系硬化体250と芯材との接着部分が大きいため、安定である。
【0054】
また、補強芯材315は、上述のとおり中心部を含まない内縁部Eに配設される結果、より厚みが小さい連結芯材311に重ねられる。このため、補強芯材315を重ねることによって壁厚Tを厚くしすぎることなく、せん断荷重に対する耐性を増強することができる。壁厚Tは、一例として4000mmである。
【0055】
また、易切削領域300のうち、中央部M1(すなわち最も幅広の連結芯材311が配設された領域)の外側の領域全てが、補強芯材315により補強される内縁部Eとなるように設計することにより、連結芯材311の引張荷重に対する耐性と、補強芯材315で補強された内縁部Eにおける連結芯材312のせん断荷重に対する耐性とを、効果的に両立させることもできる。
【0056】
[樹脂製芯材310の材質]
樹脂製芯材310の材質は、切削可能な樹脂であればよい。このような樹脂は、繊維を含まない樹脂であってもよいが、強度の観点からは、繊維強化樹脂であることが好ましい。
【0057】
樹脂としては、例えば、ウレタン、ビニルエステル、不飽和ポリエステル、ポリアミド、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ナイロン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフイド、およびポリ(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。これらの樹脂は、単独で、または複数種を組み合わせて用いることができる。
【0058】
さらに、樹脂強化用繊維としては、ガラス繊維、セラミックス繊維、ボロン繊維などの無機繊維;PAN (ポリアクリロニトリル) 系炭素繊維およびピッチ系炭素繊維などの炭素繊維;ならびに、アラミド、ポリエステル、ポリエチレン、ナイロン、ビニロン、ポリアセタール、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール、高強度ポリプロピレンなどの有機繊維が挙げられる。これらの繊維は、単独で、または複数種を組み合わせて用いることができる。
【0059】
繊維強化樹脂における樹脂は、発泡樹脂であってよい。この場合、繊維強化発泡樹脂の比重は、一例として1.0である。
また、繊維強化樹脂における繊維は、芯材の長手方向に沿って配向されている長繊維、当該方向に対して傾斜して配向されている長繊維、2方向以上の方向に交差して配向された長繊維および、ランダム方向に配向されている短繊維のいずれであってもよい。
【0060】
本実施形態においては、補強のための補強芯材315と補強される連結芯材312との材質は、樹脂の種類、樹脂の発泡態様、繊維の種類および繊維の配向方向などにおいて同じである。これによって、剛性などの機械的特性が揃い、荷重の偏りを好ましく防ぐことができる。
【0061】
[セメント系硬化体250の材質]
セメント系硬化体は、ポルライトセメント、混合セメント(例えば高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント)、エコセメント、水和セメント、および未水和セメントからなる群から選ばれるセメントを含む硬化体である。セメント以外に、砂などの細骨材;ならびに砂利、砕石、石灰石などの粗骨材からなる群から選ばれる混和材が含まれていてもよい。より具体的には、モルタルおよびコンクリートが挙げられる。
【0062】
[第2実施形態]
本発明のシールド掘削用土留め壁における補強芯材は、上記実施形態のように、連結芯材312の延在方向に沿って配設されるものに限定されるものではない。
たとえば、
図8に示す樹脂製芯材310aのように、内縁部Eに、連結芯材311の延在方向に沿って配設された補強芯材3155が追加された補強芯材315aが用いられてもよい。
【0063】
本実施形態においては、z軸方向からx−y平面を見た平面視において、連結芯材311と補強芯材3155とは互いに重なるように配置されている。このような位置関係で連結芯材311と補強芯材3155とが壁厚方向(z軸方向)に重なることによって、連結芯材311が補強芯材3155で補強される。
【0064】
補強された部分は、芯材の断面の面積が増加することにより、連結芯材311が受け持つせん断力を補強芯材3155が補助する。したがって、補強芯材315aは、連結芯材312だけでなく連結芯材311に対しても補強可能であることにより、せん断荷重に対する補強をより一層強力に行うことができる。
【0065】
さらに、補強のための補強芯材3155と補強される連結芯材311との当該断面の形状、および材質は同じである。これによって、剛性などの機械的特性が揃い、荷重の偏りを好ましく防ぐことができる。
【0066】
[他の例]
上記の第2実施形態において、補強芯材315aは、補強芯材3155が第1実施形態と同様の補強芯材3151等に追加されたものとして説明したが、他の例においては、補強芯材が第1実施形態と同様の補強芯材3151等を含まず、補強芯材3155のみを含むものであってもよい。
【0067】
さらに他の例において、本発明のシールド掘削用土留め壁における樹脂製芯材の配設ピッチは、上記実施形態に示す等間隔に限定されるものではなく、異なる間隔であることも許容する。例えば、深度が深いほど土圧等が大きくなることに基づき、易切削領域300の深度(y軸負方向)がより大きい領域において、より配設ピッチが狭くなるように構成してもよい。
図9は、本発明のシールド掘削用土留め壁の他の例における樹脂製芯材310bの骨組の模式的分解図を示す。
図9に示すように、x軸方向に延在する連結芯材312bの配設ピッチが、易切削領域300の深度(y軸負方向)がより大きい領域において、より狭い。同じくx軸方向に延在する補強芯材315bの配設ピッチも、連結芯材312bの配設ピッチに従って同様である。
【0068】
さらに他の例において、本発明のシールド掘削用土留め壁における壁面構造は、上記実施形態に示す平板状に限定されるものではなく、曲面状であることも許容する。
図10は、本発明のシールド掘削用土留め壁の他の例を示す模式的斜視図である。
図10に示すように、立坑800cが円筒形である場合などが該当する。この場合、立坑800cの側面をなす土留め壁100cが、主構造壁部200cと易切削領域300cとを含む。易切削領域300cは、樹脂製芯材310cを骨組みとして構成される。樹脂製芯材310cは、特に地表に沿う方向に延在するものが、土留め壁100cの曲面に沿う方向に湾曲している。
【0069】
本発明においては、土留め壁100が「シールド掘削用土留め壁」に相当し、金属製芯材210が「金属製芯材」に相当し、セメント系硬化体250が「セメント系硬化体」に相当し、易切削領域300,300cが「易切削領域」に相当し、x−y平面方向が「壁面に沿う方向」に相当し、連結芯材311が「第1の樹脂製連結芯材」に相当し、内縁部Eが「内縁部」に相当し、補強芯材315,315a,315bが「樹脂製補強芯材」に相当し、z軸方向の長さが「厚み」に相当し、連結芯材312,312bが「第2の樹脂製連結芯材」に相当し、中央部M1,M2が「中央部」に相当する。
【0070】
本発明の好ましい実施形態は上記の通りであるが、本発明はそれらのみに限定されるものではなく、本発明の趣旨と範囲とから逸脱することのない様々な実施形態が他になされる。さらに、本実施形態において述べられる作用および効果は一例であり、本発明を限定するものではない。