特許第6291363号(P6291363)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6291363
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】生分解性分岐状ポリマー
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/06 20060101AFI20180305BHJP
   A61L 17/12 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   C08G63/06ZBP
   A61L17/12
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-127321(P2014-127321)
(22)【出願日】2014年6月20日
(65)【公開番号】特開2016-6141(P2016-6141A)
(43)【公開日】2016年1月14日
【審査請求日】2017年3月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100156845
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 威一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100112896
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 宏記
(72)【発明者】
【氏名】有村 英俊
【審査官】 水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭45−013595(JP,B1)
【文献】 特開平10−045885(JP,A)
【文献】 特開2005−336238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00−64/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合度が50〜150のポリグリコール酸からなるアーム部を少なくとも3個有し、
ア部と、該コア部から伸びる前記ポリグリコール酸からなるアーム部を少なくとも3つ有する星型ポリマーであることを特徴とする、分岐状ポリマー。
【請求項2】
ペンタエリスリトール残基又はジペンタエリスリトール残基をコア部として有し、ペンタエリスリトール又はジペンタエリスリトールの水酸基とアーム部を構成するポリグリコール酸のカルボキシル基がエステル結合により連結している構造を有する、請求項1に記載の分岐状ポリマー。
【請求項3】
下記一般式(1)又は(2)で示される化合物である、請求項1又は2に記載の分岐状ポリマー。
【化1】
[一般式(1)中、n1〜n4は、同一又は異なって0〜4の整数を示し、x1〜x4は、同一又は異なって0又は1を示し、R1〜R4は、同一又は異なって重合度が50〜150のポリグリコール酸又は水素原子を示し、且つR1〜R4の少なくとも3つは重合度が50〜150のポリグリコール酸を示す。]
【化2】
[一般式(2)中、m1〜m8は、同一又は異なって0〜4の整数を示し、y1〜y8は、同一又は異なって0又は1を示し、R5〜R10は、同一又は異なって、重合度が50〜150のポリグリコール酸又は水素原子を示し、且つR5〜R10の少なくとも3つは重合度が50〜150のポリグリコール酸を示す。]
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の分岐状ポリマーを含む、医療用材料。
【請求項5】
手術用縫合糸である、請求項4に記載の医療用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内での分解速度が速く、しかも、紡糸性、延伸性、及び糸状に成形した際の機械的強度が優れている分岐状ポリマーに関する。更に、本発明は、当該生分解性分岐状ポリマーを利用した医療用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、手術用縫合糸には、生体適合性がある天然繊維が利用されていた。しかしながら、天然繊維で製造された手術用縫合糸は、術後の抜糸が必要とされ、患者や医療関係者の負担が大きく、近年では、生体内で分解吸収され、抜糸の必要がない生体内分解吸収性の縫合糸が主流になっている。
【0003】
ポリグリコール酸は、生体適合性に加えて、生体内分解吸収性を備えており、生体内分解吸収性の手術用縫合糸の原料として使用されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、ポリグリコール酸を利用した従来の手術用縫合糸では、生体内で消失するまでの期間が長く、例えば、ラット皮下での実験では、完全に消失するまでに40〜70日程度もの期間を要することが知られている。通常、ポリグリコール酸の生体内での分解速度を向上させるには、重合度を小さくすればよいが、ポリグリコール酸の重合度を小さくなると、機械的強度が損なわれてしまうため、手術用縫合糸として利用できなくなる。そのため、従来技術では、ポリグリコール酸を利用した手術用縫合糸において、生体内での分解速度を向上させつつ、優れた機械的強度を備えさせることが困難となっている。
【0004】
また、生体内分解吸収性の手術用縫合糸は、使用する患部に応じて必要とされる分解挙動が異なっており、患部に長期間留まって固定しておくことが求められる場合と、比較的早く消失することが求められる場合がある。そのため、ポリグリコール酸を利用した従来の手術用縫合糸では、生体内での分解速度が遅く、比較的短期間で消失することが求められる患部に適用した場合には、望ましい生体内分解挙動を示すとはいえない。
【0005】
更に、手術用縫合糸の製造には、紡糸工程、延伸工程等を経て製造されるため、手術用縫合糸の原料として使用される生分解性ポリマーの要求性能として、優れた紡糸性や延伸性を備えていることも求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−238745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ポリグリコール酸を利用して、生体内での分解速度が速く、しかも紡糸性、延伸性、及び糸状に成形した際の機械的強度が優れている生分解性ポリマーを提供することを目的とする。更に、本発明は、当該生分解性ポリマーを利用し、生体内での分解速度が速く、しかも優れた機械的強度を備える医療材料(特に手術用縫合糸)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、重合度が50〜150のポリグリコール酸からなるアーム部を少なくとも3つ有する分岐状ポリマーは、生体内での分解速度が速く、しかも紡糸性、延伸性、及び糸状に成形した際の機械的強度が優れていることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 重合度が50〜150のポリグリコール酸からなるアーム部を少なくとも3個有することを特徴とする、分岐状ポリマー。
項2. 前記分岐状ポリマーが、コア部と、該コア部から伸びるポリグリコール酸からなるアーム部を少なくとも3つ有する星型ポリマーである、項1に記載の分岐状ポリマー。
項3. ペンタエリスリトール残基又はジペンタエリスリトール残基をコア部として有し、ペンタエリスリトール又はジペンタエリスリトールの水酸基とアーム部を構成するポリグリコール酸のカルボキシル基がエステル結合により連結している構造を有する、項1又は2に記載の分岐状ポリマー。
項4. 下記一般式(1)又は(2)で示される化合物である、項1〜3のいずれかに記載の分岐状ポリマー。
【化1】
[一般式(1)中、n1〜n4は、同一又は異なって0〜4の整数を示し、x1〜x4は、同一又は異なって0又は1を示し、R1〜R4は、同一又は異なって重合度が50〜150のポリグリコール酸又は水素原子を示し、且つR1〜R4の少なくとも3つは重合度が50〜150のポリグリコール酸を示す。]
【化2】
[一般式(2)中、m1〜m8は、同一又は異なって0〜4の整数を示し、y1〜y8は、同一又は異なって0又は1を示し、R5〜R10は、同一又は異なって、重合度が50〜150のポリグリコール酸又は水素原子を示し、且つR5〜R10の少なくとも3つは重合度が50〜150のポリグリコール酸を示す。]
項5. 項1〜4のいずれかに記載の分岐状ポリマーを含む、医療用材料。
項6. 手術用縫合糸である、項5に記載の医療用材料。
【発明の効果】
【0010】
本発明の分岐状ポリマーは、同じ分子量の従来のポリグリコール酸と比較して、生体内での分解速度が速く、生体内に留置すると所定時間強度を保持した後に、速やかに消失することができる。また、本発明の分岐状ポリマーは、十分な紡糸性及び延伸性を備えており、簡便に糸状に成形することができる。更に、本発明の分岐状ポリマーは、糸状に成形すると、優れた引張強度を示し、手術用縫合糸として必要とされる機械的特性を満たすことができる。そのため、本発明の分岐状ポリマーは、手術用縫合糸の原料として好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.分岐状ポリマー
本発明の分岐状ポリマーは、重合度が50〜150のポリグリコール酸からなるアーム部を少なくとも3個有する分岐状の構造を備えるものである。以下、本発明の分岐状ポリマーについて詳述する。
【0012】
本発明の分岐状ポリマーにおいて、ポリグリコール酸からなるアーム部の数については、3以上であればよいが、好ましくは3〜10、更に好ましくは4〜8、特に好ましくは4〜6が挙げられる。
【0013】
また、本発明の分岐状ポリマーにおいて、アーム部を構成するポリグリコール酸1本当たりの重合度は50〜150に設定される。このような重合度のポリグリコール酸でアーム部を3個以上形成することによって、生体内での分解速度が速く、しかも、紡糸性、延伸性、及び糸状に成形した際の機械的強度を向上させることができる。生体内での分解速度、紡糸性、延伸性、及び糸状に成形した際の機械的強度をより一層向上させるという観点から、アーム部を構成するポリグリコール酸1本当たりの重合度として、好ましくは50〜150、更に好ましくは70〜100が挙げられる。なお、本明細書において、ポリグリコール酸の重合度とは、ポリグリコール酸を構成するグリコール酸の数(平均重合度)を意味する。
【0014】
本発明の分岐状ポリマーにおける3以上のアーム部を構成するポリグリコール酸は、重合度が各々同一であってもよく、また各々異なっていてもよい。
【0015】
本発明の分岐状ポリマーの構造として、生体内での分解速度、紡糸性、延伸性、及び糸状に成形した際の機械的強度をより一層向上させるという観点から、好ましくは、重合度が50〜100のポリグリコール酸からなるアーム部を4〜6個有する分岐状の構造;より好ましくは、重合度が70〜100のポリグリコール酸からなるアーム部を4〜6個有する分岐状の構造;特に好ましくは、重合度が70〜100のポリグリコール酸からなるアーム部を4個有する分岐状の構造が挙げられる。
【0016】
本発明の分岐状ポリマーのメルトフローレートについて、特に制限されないが、例えば、5〜500g/10minが挙げられる。ここで、メルトフローレートは、JIS K7210に記載の方法にて測定される値である。
【0017】
本発明の分岐状ポリマーの構造については、重合度が50〜150のポリグリコール酸からなるアーム部を3個以上有し、これらのアーム部がコア部に連結している分岐状であることを限度として特に制限されず、星型、櫛型、H型、ボトルブラシ型、スターバースト型等のいずれであってもよい。生体内での分解速度、紡糸性、延伸性、及び糸状に成形した際の機械的強度をより一層向上させるという観点から、本発明の分岐状ポリマーの構造として、好ましくは星型が挙げられる。
【0018】
本発明の分岐状ポリマーにおけるコア部の構造については、特に制限されず、当該分岐状ポリマーの構造に応じて適宜設計すればよい。例えば、本発明の分岐状ポリマーにおけるコア部として、3価以上の多価アルコールの残基、又は3価以上の多価アミンの残基が挙げられる。コア部が3価以上の多価アルコールの残基で構成される場合、当該多価アルコールの水酸基がアーム部を構成するポリグリコール酸の末端カルボキシル基とエステル結合により連結した構造になる。また、前記コア部が3価以上の多価アミンの残基で構成される場合、当該多価アミンのアミノ基がアーム部を構成するポリグリコール酸の末端カルボキシル基とアミド結合により連結した構造になる。
【0019】
本発明の分岐状ポリマーにおけるコア部を構成する化合物として、具体的には、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ソルビトール、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシプロピルメタクリレート);グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトースなどの単糖類;ラクトース、スクロース、マルトース等の二糖類等の3価以上の多価アルコールが挙げられる。また、3価以上の多価アミンとして具体的には、トリエチレンテトラミン、ポリオキシエチレントリアミン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、トリアミノプロパンが挙げられる。
【0020】
本発明の分岐状ポリマーの好適な例として、ペンタエリスリトール残基、又はジペンタエリスリトール残基をコア部として有する星型ポリマー、即ち、重合度が50〜150のポリグリコール酸からなるアーム部4個がペンタエリスリトールからなるコア部に結合している星型ポリマー、及び重合度が50〜150のポリグリコール酸からなるアーム部6個がジペンタエリスリトールからなるコア部に結合している星型ポリマーが挙げられる。
【0021】
また、本発明の分岐状ポリマーの好適な例として、下記一般式(1)又は(2)で示される星型ポリマーが例示される。
【0022】
【化3】
【0023】
【化4】
【0024】
一般式(1)中、n1〜n4は、同一又は異なって0〜4の整数を示す。n1〜n4として、好ましくは0〜2の整数、更に好ましくは0が挙げられる。
【0025】
一般式(1)中、x1〜x4は、同一又は異なって0又は1を示す。x1〜x4として、好ましくは0が挙げられる。
【0026】
また、一般式(1)中、R1〜R4は、同一又は異なって、重合度が50〜150のポリグリコール酸又は水素原子を示し、且つR1〜R4の少なくとも3個は重合度が50〜150のポリグリコール酸を示す。一般式(1)で示される星型ポリマーの好適な例として、R1〜R4の全てが、重合度が50〜150のポリグリコール酸であるものが挙げられる。なお、R1〜R4を構成する少なくとも3個のポリグリコール酸は、重合度が50〜150である限り、各々同じ重合度であってもよく、また各々異なる重合度であってもよい。なお、R1〜R4を構成するポリグリコール酸は、末端カルボキシル基が、一般式(1)中の酸素原子とエステル結合を形成することによって連結している。
【0027】
一般式(2)中、m1〜m8は、同一又は異なって0〜4の整数を示す。m1〜m3及びm6〜m8として、好ましくは0〜2の整数、更に好ましくは0が挙げられる。m4及びm5として、好ましくは1〜3の整数、更に好ましくは1が挙げられる。
【0028】
一般式(2)中、y1〜y8は、同一又は異なって0又は1を示す。y1〜y8として、好ましくは0が挙げられる。
【0029】
また、一般式(2)中、R5〜R10は、同一又は異なって、重合度が50〜150のポリグリコール酸又は水素原子を示し、且つR5〜R10の少なくとも3個は、重合度が50〜150のポリグリコール酸を示す。一般式(2)で示される星型ポリマーとして、R5〜R10の内、少なくとも4個が、重合度が50〜150のポリグリコール酸であるものが好ましく、少なくとも5個が、重合度が50〜150のポリグリコール酸であるものが更に好ましく、これらの全てが、重合度が50〜150のポリグリコール酸であるものが特に好ましい。なお、R5〜R10を構成する少なくとも3つの乳酸−ε−カプロラクトン共重合体は、少なくとも3個のポリグリコール酸は、重合度が50〜150である限り、各々同じ重合度であってもよく、また各々異なる重合度であってもよい。なお、R5〜R10を構成するポリグリコール酸は、末端カルボキシル基が一般式(2)中の酸素原子とエステル結合を形成することによって連結している。
【0030】
2.製造方法
本発明の分岐状ポリマーの製造方法については、特に制限されないが、例えば、コア部を構成する多価アルコールの存在下で触媒を用いてグリコリド(グリコール酸の環状二量体)を開環重合する方法;コア部として3価以上の多価アルコールを使用する場合であれば、コア部を構成する多価アルコールの存在下でグリコール酸を脱水縮重合する方法等が挙げられる。また、コア部として3価以上の多価アミンを使用する場合には、予め片末端にカルボキシル基等の反応性官能基を有するポリグリコール酸を調製し、その後コア部を構成する化合物の水酸基やアミノ基等とのカップリング反応によって結合させることにより製造してもよい。開環重合により分岐状ポリマーを調製する方法は、反応効率が高く、本発明の分岐状ポリマーの製造方法として好適である。
【0031】
本発明の分岐状ポリマーの製造において、グリコリドの開環重合は、ポリグリコール酸の製造に使用されている公知の条件で行うことができる。
【0032】
グリコリドの開環重合に使用される触媒としては、例えば、2−エチルヘキサン酸スズ、オクチル酸スズ(II)、トリフェニルスズアセテート、酸化スズ、酸化ジブチルスズ、シュウ酸スズ、塩化スズ、ジブチルスズジラウレート、トリウムエトキシド、カリウム−t−ブトキシド、トリエチルアルミニウム、チタン酸テトラブチル、ビスマス等の金属触媒、有機オニウム塩等の有機塩基触媒等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはスズを含む金属触媒、更に好ましくは2−エチルヘキサン酸スズが挙げられる。
【0033】
グリコリドの開環重合における前記触媒の使用量は、グリコリドの開環重合反応を触媒し得る量であれば特に限定されないが、金属触媒の場合は金属換算で10〜150ppmが挙げられ、より具体的には、例えば2−エチルヘキサン酸スズを用いる場合であればスズ換算で20〜130ppm、好ましくは30〜110ppmが挙げられる。また、有機塩基触媒の場合はモノマーに対して0.1〜2.0mol%が例示される。
【0034】
グリコリドの開環重合によって本発明の分岐状ポリマーの製造する場合、開環重合を行う際の反応温度としては、例えば100〜250℃、好ましくは120〜240℃、更に好ましく140〜230℃が挙げられる。また、開環重合の際の雰囲気については特に限定されないが、減圧、真空等の条件下で行ってもよく、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0035】
本発明の製造方法においては、必要に応じて、製造された分岐状ポリマーを、従来公知の手法に従って、更に粉砕、精製、乾燥等の処理に供してもよい。
【0036】
3.用途
本発明の分岐状ポリマーは、生体適合性があり、生体内での分解速度が速いという生体内分解吸収性を備えている。従って、本発明の分岐状ポリマーは、医療材料、特に生体内に留置される医療用材料として好適に利用できる。医療材料としては、具体的には、手術用縫合糸、骨接合材、骨折用固定材、組織補填材、組織補強材、組織被覆材、組織再生用基材、組織補綴材、癒着誘発材、人工血管、人工弁、ステント、クリップ、繊維布、止血材等が挙げられる。
【0037】
また、本発明の分岐状ポリマーは、糸状に成形する際の紡糸工程や延伸工程における操作性に優れており、容易に糸状に成型できるという特性がある。また、本発明の分岐状ポリマーは、糸状に成形すると、優れた引張強度を示し、機械的特性が優れているという特性もある。このような特性を鑑みれば、本発明の分岐状ポリマーの用途として、好ましくは手術用縫合糸が挙げられる。
【0038】
本発明の分岐状ポリマーを用いた手術用縫合糸の製造は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、本発明の分岐状ポリマーを溶融紡糸して糸状にした後に、更に必要に応じて延伸工程、緩和工程等に供すればよい。
【0039】
本発明の分岐状ポリマーを手術用縫合糸に成形する場合、モノフィラメント又はマルチフィラメントのいずれであってもよく、またそれらを編み糸にしたものであってもよいが、ポリグリコール酸は結晶性が高く弾性率が高いことからマルチフィラメントの編み糸がより好適である。更に、本発明の分岐状ポリマーを手術用縫合糸に成形する場合、その繊度については、例えばアメリカ薬局方に示される縫合糸規格(USP規格)や欧州薬局方に示される規格(EP規格)の直径や引張強力に適合するよう適宜設定すればよい。更に、本発明の分岐状ポリマーを手術用縫合糸に成形する場合、その繊度として、具体的には、1フィラメント当たり、0.1〜100デニール、好ましくは0.5〜80デニール、更に好ましくは1〜50デニールが挙げられる。
【0040】
また、本発明の分岐状ポリマーを用いて成形された手術用縫合糸は、生体内での分解速度が速く、生体内に留置されると、留置後1〜5日程度は所望の強度を維持した後に、30〜40日程度で完全に分解されて消失するので、当該手術用縫合糸は、縫合糸による固定が比較的短期間必要とされる患部の縫合に好適に使用される。
【実施例】
【0041】
以下、実施例等に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0042】
1.分岐状ポリマーの製造
実施例1
グリコリド2000g(17.24モル)及びペンタエリスリトール7.814g(0.057モル)を、撹拌翼を備えたセパラブルフラスコに加えた。次に2−エチルヘキサン酸スズをグリコリドに対して30ppm添加し、真空下18時間室温にて乾燥を行った。その後、160℃に設定したオイルバスに浸漬し、窒素雰囲気下にて48時間重合を行った。所定時間経過後反応容器から反応物を取り出し、切断・粉砕を行った。得られた粉砕片を80℃真空下で12時間熱処理を行い未反応モノマーを除去し、分岐状ポリマーを得た。得られた分岐状ポリマーは、ペンタエリスリトール残基をコア部に対して重合度が75のポリグリコール酸からなるアーム部が4個結合した星型ポリマー(一般式(1)において、R1〜R4が、重合度が75のポリグリコール酸である分岐状ポリマー)であった。
【0043】
実施例2
ペンタエリスリトールの添加量が3.907g(0.029モル)に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、分岐状ポリマーを得た。得られた分岐状ポリマーは、ペンタエリスリトール残基をコア部に対して重合度が150のポリグリコール酸からなるアーム部が4個結合した星型ポリマー(一般式(1)において、R1〜R4が、重合度が150のポリグリコール酸である分岐状ポリマー)であった。
【0044】
実施例3
ペンタエリスリトールの代わりにジペンタエリスリトールを使用し、ジペンタエリスリトールの添加量を14.584g(0.057モル)に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、分岐状ポリマーを得た。得られた分岐状ポリマーは、ジペンタエリスリトール残基をコア部に対して重合度が50のポリグリコール酸からなるアーム部が6個結合した星型ポリマー(一般式(2)において、R5〜R10が、重合度が50のポリグリコール酸である分岐状ポリマー)であった。
【0045】
実施例4
ペンタエリスリトールの代わりにジペンタエリスリトールを使用し、ジペンタエリスリトールの添加量を7.292g(0.029モル)に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、分岐状ポリマーを得た。得られた分岐状ポリマーは、ジペンタエリスリトール残基をコア部に対して重合度が100のポリグリコール酸からなるアーム部が6個結合した星型ポリマー(一般式(2)において、R5〜R10が、重合度が100のポリグリコール酸である分岐状ポリマー)であった。
【0046】
比較例1
ペンタエリスリトールの添加量を1.954g(0.015モル)に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、分岐状ポリマーを得た。得られた分岐状ポリマーは、ペンタエリスリトール残基をコア部に対して重合度が300のポリグリコール酸からなるアーム部が4個結合した星型ポリマー(一般式(1)において、R1〜R4が、重合度が300のポリグリコール酸である分岐状ポリマー)であった。
【0047】
比較例2
ペンタエリスリトールの代わりにジペンタエリスリトールを使用し、ジペンタエリスリトールの添加量を3.646g(0.015モル)に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、分岐状ポリマーを得た。得られた分岐状ポリマーは、ジペンタエリスリトール残基をコア部に対して重合度が200のポリグリコール酸からなるアーム部が6個結合した星型ポリマー(一般式(2)において、R5〜R10が、重合度が200のポリグリコール酸である分岐状ポリマー)であった。
【0048】
2.紡糸及び手術用縫合糸の成形
上記で得られた各分岐状ポリマーを原料用いて、常法により、紡糸及び延伸を行い、糸(モノフィラメント)を成形した。紡糸時に、各分岐状ポリマーの紡糸性について、以下の判定基準に従って評価した。
【0049】
<紡糸性の判定基準>
◎:問題なく、溶融紡糸できた。
○:樹脂圧変動が若干あり、製造効率が若干低下した。
×:樹脂圧変動が顕著であり、製造効率が著しく低下した。
【0050】
<延伸性の判定基準>
◎:問題なく、延伸できた。
○:走糸速度が通常の30〜80%であり、製造効率がやや低下した。
×:走糸速度が通常の30%未満であり、製造効率が著しく低下した。
【0051】
3.性能評価
上記で得られた各糸(モノフィラメント)について繊度を測定した。また、上記で得られた各糸(モノフィラメント)を製品形態と同様の構成で試編みして手術用縫合糸(マルチフィラメント)を得た。得られた各手術用縫合糸について、引張強度、伸度及び加水分解強度保持率を以下の条件で測定した。
【0052】
[引張強度・伸度]
各手術用縫合糸について、オートグラフ(島津製作所製)にて定法により引張速度100mm/minで引張試験を行い、引張強度及び伸度を測定した。
【0053】
[加水分解強度保持率]
各手術用縫合糸を生理食塩水に浸漬し、37℃にて2週間保持した。所定期間後、各手術用縫合糸を取り出して表面の水をふき取り、オートグラフ(島津製作所製)にて定法により引張速度100mm/minで引張試験を行い、引張強度を測定した。生理食塩水浸漬後の引張強度を、生理食塩水浸漬前の引張強度で除した値を百分率で表記したものを加水分解強度保持率(%)とした。
【0054】
4.結果
得られた結果を表1に示す。この結果から、重合度が300のポリグリコール酸からなるアーム部を4個有する分岐状ポリマー(比較例1)及び重合度が200のポリグリコール酸からなるアーム部を6個有する分岐状ポリマー(比較例2)の場合では、延伸工程において走糸速度が通常の30%以下となり生産効率が著しく低下し、成型後の繊維度も350デニールを超えており、手術用縫合糸として実用化できるものではなかった。
これに対して、重合度が75のポリグリコール酸からなるアーム部を4個有する分岐状ポリマー(実施例1)、重合度が150のポリグリコール酸からなるアーム部を4個有する分岐状ポリマー(実施例2)、重合度が50のポリグリコール酸からなるアーム部を4個有する分岐状ポリマー(実施例3)、重合度が100のポリグリコール酸からなるアーム部を6個有する分岐状ポリマー(実施例4)では、いずれも、一般的な紡糸及び延伸工程に供することによって、手術用縫合糸を製造できた。また、実施例1〜4の分岐状ポリマーから製造された手術用縫合糸は、引張強度が良好であり、手術用縫合糸に必要とされる機械的特性を備えていた。また、実施例1〜4の分岐状ポリマーから製造された手術用縫合糸は、加水分解強度保持率が低く、生体内での分解速度が向上していた。特に、実施例1及び2の分岐状ポリマーから製造された手術用縫合糸は、速い分解速度と機械的強度とをバランスよく備えており、とりわけ、実施例1の分岐状ポリマーから製造された手術用縫合糸は、速い分解速度と機械的強度のバランスが卓越していた。
【表1】