(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
建設機械に搭載されたエンジン冷却装置に設けられ、このエンジン冷却装置を循環する冷却水の気液分離を大気に対し密閉された状態で行うエクスパンションタンクにおいて、
タンク内が隔壁によって、複数の分離室で構成される第1の分離室群と、複数の分離室で構成される第2の分離室群とに仕切られ、
前記エンジン冷却装置からタンク内に冷却水を導入するための導入口が前記第1の分離室に開口するように形成され、
タンク内から前記エンジン冷却装置に冷却水を送出するための送出口が所定の高さより低い位置で前記第2の分離室に開口するように形成され、
タンク内に冷却水を給水するための給水口が前記所定の高さより高い位置で前記第1の分離室に開口するように形成され、
前記第1の分離室群を構成する複数の分離室と前記第2の分離室群を構成する複数の分離室とは、前記隔壁の前記所定の高さ位置よりも低い位置に設けられた冷却水用連通穴を介して、連通されており、
前記第1の分離室群を構成する複数の分離室はそれぞれ、前記隔壁の前記所定の高さ位置より高い位置に設けられた第1の空気用連通穴を介して、他の前記第1の分離室群を構成する分離室と連通されており、
前記第2の分離室群を構成する複数の分離室はそれぞれ、前記隔壁の前記所定の高さ位置より高い位置に設けられた第2の空気用連通穴を介して、他の前記第2の分離室群を構成する分離室と連通されており、
前記第1の分離室群を構成する複数の分離室のうち少なくとも一つの分離室は、前記隔壁の前記所定の高さ位置に設けられた第3の空気用連通穴を介して、前記第2の分離室群を構成する複数の分離室のいずれかの分離室に連通し、
前記所定の高さは、前記冷却水の体積変化に伴う圧力変動を吸収可能な空気量に基づいて設定されていることを特徴とするエクスパンションタンク。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態では、クローラ式の油圧ショベルに搭載されたエンジン冷却装置に本発明を適用した場合を例に説明するが、本発明の適用対象はこれに限られず、ラジエータとエンジンとの間で冷却水を循環させてエンジンを冷却するエンジン冷却装置であれば、ホイール式の油圧ショベルや、油圧クレーン、ホイールローダ、トラクタ等の他の建設機械に搭載されたエンジン冷却装置にも広く適用できる。
【0014】
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態について、
図1〜
図9を用いて説明する。
【0015】
図1は、本実施形態に係るエクスパンションタンクを備えたエンジン冷却装置の全体構成を示す図である。エンジン冷却装置90は、ラジエータ80と、ウォーターポンプ91と、サーモスタット92と、ウォータージャケット93と、EGRクーラ94と、サーモスタット92と、エクスパンションタンク30とを備えている。ここで、
図1中の矢印は、冷却水(冷却水中に空気が含まれる場合も含む)が流路(配管、ホースを含む)及び流れ方向を示している。
【0016】
ラジエータ80は、ラジエータアッパーホース50を介してエンジン9からの冷却水が流入するアッパータンク80Aと、アッパータンク80Aの下側に接続され、複数の冷却水細管及び当該複数の冷却水細管の外周に設けられた複数の放熱フィンを有するラジエータコア80Bと、ラジエータコア80Bの下側に接続され、ラジエータコア80Bで冷却された冷却水をラジエータロアホース51を介してエンジン9に流出させるロアータンク80Cとを備えている。ラジエータコア80Bの冷却水細管に導入された冷却水の熱は、エンジン9によって回転駆動される冷却ファン10により機体外部から取り込んだ冷却風によって放熱される。なお、冷却ファン10の駆動源はこれにエンジン9に限られず、電動機などの他の駆動源を用いても良い。
【0017】
ウォーターポンプ91は、エンジン9の動力により駆動され、サーモスタット92またはロアータンク80Cから吸入した冷却水をウォータージャケット93及びEGRクーラ94に向けて吐出することで冷却水を循環させる。
【0018】
ウォータージャケット93は、エンジン9のシリンダ(図示せず)の周囲に設けられた水路であり、ウォーターポンプ91から送り出された冷却水は主にここを通過する際にエンジン9と熱交換してエンジン9を冷却する。
【0019】
EGRクーラ94は、EGR管路(図示せず)に設けられ、このEGR配管を通過するエンジン排気の一部(以下「EGRガス」という)と冷却水との熱交換によりEGRガスを冷却する。冷却されたEGRガスは、吸入空気と混合されて再度シリンダ内に導入される。なお、EGRクーラ94及びこれに関連する冷却系は省略が可能である。
【0020】
サーモスタット92は、冷却水温度に応じて水路を開閉する弁装置であり、冷却水温度が開弁温度以上のときに開き、これによりラジエータ80に冷却水が導入される。一方、開弁温度未満のときはサーモスタット92は閉じており、冷却水はラジエータ80に導入されることなく循環する。なお、
図1の例では、サーモスタット92は、エンジン9(ウォータージャケット93及びEGRクーラ94)の外部(アッパータンク80A)に冷却水が出ていく流路に設置されているが、外部(ロアータンク80C)からエンジン9の内部(ウォーターポンプ91)に冷却水が入ってくる流路に設置しても良い。
【0021】
エクスパンションタンク30は、完全密閉式のリザーブタンクであり、エンジン冷却装置90を循環する冷却水のエアを取り除く(気液分離を行う)とともに、タンク内の空気室を空気バネとして作用させることで冷却水の体積変化に伴う冷却水回路内の圧力変動を吸収する。
【0022】
タンク30の上面には冷却水を給水するための給水ポート31が設けられており、給水ポート31には給水時を除いてキャップ32が取り付けられている。冷却水の給水後にキャップ32を締めることでタンク30内が密閉される。また、タンク30の上部又はキャップ32には、タンク内部の空気圧を調整可能な圧力弁(図示せず)を設けることが好ましい。
【0023】
タンク30の側面にはタンク水位よりも高い位置にエア抜きポート34が設けられており、エア抜きポート34にはラジエータ80から空気を含んだ冷却水を導入するためのエア抜き配管52の一端が取り付けられている。エア抜き配管52の他端はラジエータ80のアッパータンク80Aの上端部に接続されている。
【0024】
タンク30の底面には、空気を除去した冷却水を冷却水回路に送出するメイクアップポート33が設けられており、メイクアップポート33には略垂直方向に設置されたメイクアップ配管54の上端が取り付けられている。メイクアップ配管54の下端はラジエータロアホース51に接続されている。また、タンク30は、メイクアップポート33がアッパータンク80Aの内部空洞の最上部よりも高くなるように配置されている。これにより、エア抜き配管52からタンク30に導入された冷却水は、タンク30内で気液分離された後、メイクアップ配管54を介してラジエータロアホース51に供給される。なお、
図1の例では、エア抜き配管52は、タンク30の側面に接続されているが、タンク30の上面や底面に接続しても良い。
【0025】
図2は、エンジン冷却装置90が搭載された建設機械の一例としての油圧ショベルの外観図である。油圧ショベル1は、自走可能な下部走行体2と、下部走行体2上に旋回可能に搭載された上部旋回体4と、土砂の掘削作業等を行う作業装置5とにより大略構成されている。なお、以下の説明で使用する「前」「後」「左」「右」は、運転席71に着座したオペレータを基準としている。
【0026】
下部走行体2は、左右のクローラフレーム21と、左右のクローラフレーム21のそれぞれに巻き掛けられた左右の履帯22と、左右の履帯22をそれぞれ独立に駆動する左右の走行モータ23(全て左側のみ図示)とを有する。
【0027】
上部旋回体4は、支持機構としての旋回フレーム6を有し、旋回フレーム6の前部左側には、オペレータが着座する運転席71、各油圧アクチュエータ2A,5D,5E,5Fを操作するための操作レバー(図示せず)等が配設されたキャブ7が設けられている。旋回フレーム6の後端部には、作業装置5との重量バランスをとるためのカウンタウエイト8が取り付けられている。旋回フレーム6の後部には、外装カバー11、エンジンカバー10及びカウンタウエイト8等により機械室25が画成されている。機械室25には、原動機としてのエンジン9(
図1参照)、エンジン冷却装置90(
図1参照)、エンジン9により駆動される油圧ポンプ、旋回装置3を駆動することにより下部走行体2に対して上部旋回体4(旋回フレーム6)を旋回駆動する旋回モータ(図示せず)、油圧ポンプの吐出油を各油圧アクチュエータ2A,5D,5E,5Fに分配して供給するコントロールバルブ等が搭載されている。また、外装カバー11には、エンジン冷却装置90(ラジエータ80)に冷却風を供給するための縦長の複数の孔からなる流入口13が形成されている。
【0028】
作業装置5は、上部旋回体4に俯仰動可能に取り付けられたブーム5Aと、ブーム5Aの先端に回動可能に取り付けられたアーム5Bと、アーム5Bの先端に回動可能に取り付けられたバケット5Cとを有する。ブーム5Aはブームシリンダ5Dの伸縮により俯仰動し、アーム5Bはアームシリンダ5Eの伸縮により回動し、バケット5Cはバケットシリンダ5Fの伸縮により回動する。
【0029】
エンジン冷却装置90が備えるエクスパンションタンク(以下単に「タンク」という)30の構成について、
図3〜
図8を参照して説明する。
【0030】
図3はタンク30の側面図であり、
図4はタンク30の上面図である。タンク30の内部は、隔壁42により互いに前後左右に隣り合う四角柱状の6個の分離室R1〜R6に仕切られている。タンク30の上面には、タンク30に冷却水を給水するための給水ポート31が分離室R5に開口するように形成されており、給水ポート31の上端には、給水時を除いて圧力弁付きキャップ32が取り付けられている。タンク30の側面には、エア抜き配管52を接続するためのエア抜きポート34が分離室R6に開口するように形成されている。タンク30の底面には、メイクアップ配管54を取り付けるためのメイクアップポート33が分離室R2に開口するように形成されている。タンク30の作業者が目視確認できる側面には、給水の目安を示すFULLライン40と、タンク30の気液分離性が十分に確保されるために必要な水位を示すLOWライン41とが表示されている。
【0031】
分離室R1〜R6のそれぞれは、隔壁42の下端付近に形成された冷却水用連通穴44を介して隣り合う分離室のいずれかと連通しているとともに、隔壁42の上端付近に形成された空気用連通穴45a,45b又は隔壁42のFULLライン40の高さ位置に形成された空気用連通穴45cを介して隣り合う分離室のいずれかと連通している。
【0032】
図5は
図3のA1−A1断面図であり、タンク30の空気用連通穴45a,45bの高さ位置における断面を示す図である。
図5に示すように、分離室R4〜R5は空気用連通穴45aを介して連通し、分離室群Xを構成している。一方、分離室R1〜R3は空気用連通穴45bを介して連通し、分離室群Yを構成している。分離室群Xを構成する分離室のそれぞれは、空気用連通穴45a,45bの高さ位置において、分離室Yを構成する分離室のいずれとも連通していない。なお、分離室群X及びYを構成する分離室の数は1つ以上であれば特に限定はない。また、分離室X又はYを1つの分離室で構成した場合は、空気用連通穴45a又は45bが不要となる。
【0033】
図6は
図3のB1−B1断面図であり、タンク30の空気用連通穴45c(FULLライン)の高さ位置における断面を示す図である。
図6に示すように、分離室R1と分離室R4が空気用連通穴45cを介して連通している。分離室R2,R3,R5,R6は、空気用連通穴45cの高さ位置において、他のいずれの分離室とも連通していない。
【0034】
図7は
図3のC1−C1断面図であり、タンク30の冷却水用連通穴44の高さ位置における断面を示す図である。
図7に示すように、分離室R1〜R6は冷却水用連通穴44を介して連通している。
【0035】
図8は、
図3のC1−C1断面において、冷却水の主な流れを示す図である。
図8に示すように、分離室R1〜R6は冷却水用連通穴44の高さ位置において一本の流路50を形成している。これにより、エア抜きポート34(
図4参照)から分離室R6に導入された冷却水の大部分は、流路50を形成している分離室R6,R5,R4,R1,R2を通過しながら気液分離され、分離室R2の底面に開口するメイクアップポート33から送出される。
【0036】
次に、タンク30にFULLライン40を超えて冷却水を給水した場合の分離室R1〜R6の水位の変化について、
図5〜
図7及び
図9を用いて説明する。
図9は、
図4のD1−D1断面において給水時のタンク30の水位の変化を示す図である。
【0037】
給水ポート31から分離室R5に供給された冷却水は、冷却水用連通穴44を介して他の分離室R1〜R4,R6に流入する(
図7参照)。ここで、冷却水用連通穴44よりも高い位置において、分離室R1〜R3は空気用連通穴45bを介して互いに連通し、分離室R4〜R6は空気用連通穴45aを介して互いに連通しており(
図5参照)、分離室R1と分離室R4とは空気用連通穴45cを介して連通しているため(
図6参照)、分離室R1〜R6の上部の空気は相互に流通可能である。そのため、
図9(a)に示すように、水位の上昇とともに分離室R1〜R6に滞留する空気は分離室R5に開口している給水ポート31から外部に排出され、分離室R1〜R6の水位は空気用連通穴45bの高さに達するまで均一に上昇する。
【0038】
分離室R1〜R6の水位が空気用連通穴45c(FULLライン40)の高さ位置に達して以降も給水を継続した場合は、
図9(b)に示すように、分離室群X(分離室R4〜R5)の空気は分離室R5に開口している給水ポート31から外部に排出されるため、分離室群X(分離室R4〜R6)の水位60aは均一に上昇する。ここで、空気用連通穴45cより高い位置において分離室群X(分離室R4〜R6)と分離室群Y(分離室R1〜R3)とは連通しておらず(
図5参照)、分離室群Y(分離室R1〜R3)に滞留している空気は分離室R5に開口している給水ポート31から外部に排出されないため、分離室群Y(分離室R1〜R3)の水位60bは空気用連通穴45c(FULLライン40)の高さ位置に保たれる。なお、空気用連通穴45cの高さは、冷却水の体積変化に伴う圧力変動を吸収可能な空気量が分離室群Y(分離室R1〜R3)に確保されるように設定するのが望ましい。
【0039】
以上のように構成したエクスパンションタンク30によれば、エア抜きポート34から導入された冷却水が複数(少なくとも5つ)の分離室を通過するように冷却水用連通穴44を配置したことにより、冷却水の気液分離性能を確保することができる。
【0040】
また、FULLライン40を越えて給水された場合でも、分離室群Y(分離室R1〜R3)に一定容量の空気室を確保することができ、この空気室を空気バネとして作用させることでエンジン冷却水の体積変化に伴う圧力変動を吸収することができる。
【0041】
さらに、冷却水の体積変化に伴う冷却水回路内の圧力変動を吸収するのに必要な空気量が分離室群Y(分離室R1〜R3)に確保されるように空気用連通穴45cの高さを設定したことにより、タンク30の上端付近まで給水された場合でも、エンジン冷却水の体積変化に伴う圧力変動を吸収することができる。
【0042】
また、分離室群X(分離室R4〜R6)内の空気を空気用連通穴45aを介して流通させるとともに、分離室群Y(分離室R1〜R3)の空気を空気用連通穴45bを介して流通させることにより、機体と共にタンク30が傾斜した場合でも、分離室群X(分離室R4〜R6)の水位と分離室群Y(分離室R1〜R3)の水位とがそれぞれ均一となり、タンク30内の流路50において流れが安定し、冷却水への空気の混入が抑えられる。
【0043】
さらに、空気用連通穴45cが形成された高さ位置にFULLライン40を表示したことにより、作業者はタンク水位がFULLライン40を目安に給水する。それにより分離室群X(R4〜R6)と分離室群Y(R1〜R3)の水位が等しくなり、タンク30内の流路50において流れがより安定し、冷却水への空気の混入が更に抑えられる。
【0044】
<第2の実施形態>
本発明の第2の実施形態について、
図10〜
図18を用いて説明する。なお、
図10〜
図18において、第1の実施形態(
図1〜
図9)で説明した構成要素と同様の構成要素には同一の符号を付し、重複した説明は適宜省略する。
【0045】
図10は、第2の実施形態におけるエンジン冷却装置の全体構成を示す図である。
図10に示すエンジン冷却装置90Aの構成は、エンジン9の冷却水流路から抜いた冷却水が導入されるエア抜き配管53がエクスパンションタンク30Aに接続されている点を除き、第1の実施形態と同様である。本実施形態においては、エア抜き配管53のエンジン側の端部は、エンジン9内に構成される冷却水流路において水位が最も高くなる部分に接続されており、当該部分から空気を含む冷却水が抽出される。また、タンク30Aは、メイクアップポート33がアッパータンク80Aの内部空洞の最上部よりも高く、エンジン9内に構成される冷却水流路において水位が最も高くなる部分よりも高い位置に来るように配置されている。なお、
図11の例では、EGRクーラ94の出口側に接続された流路がエンジン内で最も高い位置を通過しているため、当該流路にエア抜き配管53が接続されているが、冷却水流路の高さによっては、ウォータージャケット93からサーモスタット92に至る流路に接続されることもあるし、他の流路に接続されることもある。
【0046】
エンジン冷却装置90Aが備えるエクスパンションタンク(以下適宜「タンク」という)30Aの構成について、
図11〜
図16を用いて説明する。
【0047】
図11はタンク30Aの側面図であり、
図12はタンク30Aの上面図である。タンク30Aの内部は、隔壁42により互いに前後左右に隣り合う四角柱状の25個の分離室RA1〜RA25に仕切られている。タンク30Aの天面には、給水ポート31が分離室R12に開口するように形成されている。タンク30Aの側面には、ラジエータ側のエア抜き配管52を接続するためのエア抜きポート34aが分離室RA16に開口するように形成され、エンジン側のエア抜き配管53を接続するためのエア抜きポート34bが分離室RA6に開口するように形成されている。タンク30Aの底面には、メイクアップ配管54を取り付けるためのメイクアップポート33がタンク30Aの中心付近に配置された分離室RA13の底面に開口するように形成されている。
【0048】
分離室RA1〜RA25のそれぞれは、隔壁42の下端付近に形成された冷却水用連通穴44を介して隣り合う分離室のいずれかと連通しているとともに、隔壁42の上端付近に形成された空気用連通穴45a,45b又は隔壁42のFULLライン40の高さ位置に形成された空気用連通穴45cを介して隣り合う分離室のいずれかと連通している。
【0049】
図13は
図11のA2−A2断面図であり、タンク30Aの空気用連通穴45a,45bの高さ位置における断面を示す図である。
図13に示すように、タンク30Aの外周に配置された分離室RA1〜RA5,RA6,RA10,RA11,RA15,RA16,RA20〜RA25及び給水ポート31が開口している分離室RA12(破線枠36の外側に配置された分離室)は空気用連通穴45aを介して連通し、分離室群Xを構成している。一方、分離室RA7〜RA9,RA13,RA14,RA17〜RA19(破線枠36の内側に配置された分離室)も同様に空気用連通穴45bを介して連通し、分離室群Yを構成している。分離室群Xを構成する分離室のそれぞれは、空気用連通穴45a,45bの高さ位置において、分離室Yを構成する分離室のいずれとも連通していない。
【0050】
図14は
図11のB2−B2断面図であり、タンク30Aの空気用連通穴45c(FULLライン40)の高さ位置における断面を示す図である。
図14に示すように、分離室RA3と分離室RA8、分離室RA4と分離室RA9、分離室RA14と分離室RA15、分離室RA18と分離室RA23、及び分離室RA19と分離室RA24が空気用連通穴45cを介して連通している。それ以外の分離室は、空気用連通穴45cの高さ位置において、他のいずれの分離室とも連通していない。
【0051】
図15は
図11のC2−C2断面図であり、タンク30Aの冷却水用連通穴44の高さ位置における断面を示す図である。
図15に示すように、分離室RA1〜RA25のそれぞれは、冷却水用連通穴44を介して隣り合う分離室のいずれか少なくとも1つと連通している。
【0052】
図16は、
図11のC2−C2断面において、タンク30A内を通過する冷却水の主な流路を示す図である。
図16に示すように、分離室RA16,RA21,RA22,RA23,RA24,RA19,RA18,RA13は、ラジエータ側のエア抜きポート34aからメイクアップポート33に到るまでの主な流路50aを形成し、分離室RA6,RA1〜R4,RA9,RA8,RA13は、エンジン側のエア抜きポート34bからメイクアップポート33に到るまでの主な流路50bを形成している。ラジエータ側のエア抜きポート34a(
図12参照)から分離室RA16に導入された冷却水の大部分は、流路50aを形成している複数の分離室を通過しながら気液分離され、分離室RA13の底面に開口するメイクアップポート33から送出される。一方、エンジン側のエア抜きポート34b(
図12参照)から分離室RA6に導入された冷却水の大部分は、流路50bを形成している複数の分離室を通過しながら気液分離され、分離室RA13の底面に開口するメイクアップポート33から送出される。なお、
図16に示す流路50a,50bは、エア抜きポート34a,34bから均等に冷却水を導入した場合の一例であり、冷却水用連通穴44の配置、冷却水用連通穴44の径、エア抜きポート34a,34bのそれぞれから導入される流量に応じて異なる流路が形成される。
【0053】
次に、タンク30AにFULLライン40を超えて冷却水を給水した場合の分離室RA1〜RA25の水位の変化について、
図17及び
図18を用いて説明する。
図17は、FULLライン40を超えて給水した状態でのタンク30Aの上面図であり、
図18は
図17のD2−D2断面図である。
【0054】
本実施形態に係るタンク30Aに給水する場合も、第1の実施形態と同様に、分離室RA1〜RA25の水位は空気用連通穴45bの高さに達するまで均一に上昇する。分離室RA1〜RA25の水位が空気用連通穴45b(FULLライン40)の高さ位置に達して以降も給水を継続した場合は、分離室群Xの上部に滞留している空気は分離室R12に開口している給水ポート31から外部に排出されるため、分離室群X(
図17中、ハッチングで示す)の水位60aは均一に上昇する(
図18参照)。ここで、空気用連通穴45cより高い位置において分離室群Xと分離室群Yとは連通しておらず(
図13参照)、分離室群Yの空気は分離室R12に開口している給水ポート31から外部に排出されないため、分離室群Y(
図17中、無模様で示す)の水位60bは空気用連通穴45c(FULLライン40)の高さ位置に保たれる(
図18参照)。
【0055】
以上のように構成したエクスパンションタンク30Aによれば、エア抜きポート34a,34bから導入された冷却水がそれぞれ複数(少なくとも8つ)の分離室を通過するように冷却水用連通穴44を配置したことにより、エア抜きポート34a,34bから導入された冷却水の双方において気液分離性能を確保することができる。
【0056】
また、FULLライン40を越えて給水された場合でも、分離室群Xに一定容量の空気室を確保することができ、この空気室を空気バネとして作用させることでエンジン冷却水の体積変化に伴う圧力変動を吸収することができる。
【0057】
さらに、冷却水の体積変化に伴う冷却水回路内の圧力変動を吸収するのに必要な空気量が分離室群Xに確保されるように空気用連通穴45cの高さを設定したことにより、タンク30の上端付近まで給水された場合でも、エンジン冷却水の体積変化に伴う圧力変動を吸収することができる。
【0058】
また、分離室群Xを構成する分離室間で空気用連通穴45aを介して空気を流通させるとともに、分離室群Yを構成する分離室間で空気用連通穴45bを介して空気を流通させることにより、機体と共にタンク30Aが傾斜した場合でも、分離室群X及び分離室群Yの水位がそれぞれ均一となり、タンク30A内の流路50a,50bにおいて流れが安定し、冷却水への空気の混入が抑えられる。
【0059】
さらに、空気用連通穴45bが形成された高さ位置にFULLライン40を表示したことにより、作業者はタンク水位がFULLライン40を目安に給水する。それにより分離室群Xと分離室群Yの水位が等しくなり、タンク30A内の流路50a,50bにおいて流れがより安定し、冷却水への空気の混入が更に抑えられる。
【0060】
また、メイクアップポート33をタンク30Aの中心付近に配置された分離室RA13の底面に開口するように形成したことにより、機体と共にタンク30Aがいずれの方向に傾斜した場合でも、メイクアップポート33の開口部から水面までの距離が適度に保たれ、メイクアップポート33から冷却水回路内に空気が混入することを防止できる。
【0061】
さらに、FULLライン40を超えて水位が上昇し得る分離室群Xを、FULLライン40の高さに水位が保たれる分離室群Yの外周を囲むように配置したことにより、作業者はタンク30A内の冷却水量の変化を外部から正確に把握することが可能となり、給水時にタンク30Aから溢水させるおそれが少なくなる。
【0062】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例が含まれる。例えば、上記の実施形態におけるタンク30,30Aは、メイクアップポート33がアッパータンク80Aの内部空洞の最上部よりも高くなるように配置されているが、少なくともLOWライン41がアッパータンク80Aの内部空洞の最上部よりも高ければ、メイクアップポート33がアッパータンク80Aの内部空洞の最上部よりも低くなるように配置しても良い。また、本発明は、上記の実施形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。また、ある実施形態に係る構成の一部を、他の実施形態に係る構成に追加又は置換することが可能である。