特許第6291446号(P6291446)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6291446
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】導電性炭化珪素質焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/573 20060101AFI20180305BHJP
【FI】
   C04B35/573
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-64930(P2015-64930)
(22)【出願日】2015年3月26日
(65)【公開番号】特開2016-183081(P2016-183081A)
(43)【公開日】2016年10月20日
【審査請求日】2016年12月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098224
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 勘次
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【弁理士】
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】山田 知幸
(72)【発明者】
【氏名】清木 晋
(72)【発明者】
【氏名】徳田 浩次郎
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−217565(JP,A)
【文献】 特開平08−217568(JP,A)
【文献】 特開平08−012462(JP,A)
【文献】 特開平08−026827(JP,A)
【文献】 特開平07−089764(JP,A)
【文献】 特開平07−053265(JP,A)
【文献】 国際公開第00/007959(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/565−35/577
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素源である窒化珪素と炭素源とから炭化珪素を反応生成させることによりドーパントとして窒素を含む炭化珪素の相である導電性相を含む焼結体を得る反応焼成工程と、
該反応焼成工程を経た焼結体を、実質的に窒素ガスを含まない非酸化性雰囲気で加熱し、ドープされた窒素の一部を排出させることにより、少なくとも前記導電性相の外側に、前記導電性相における窒素の平均濃度より窒素の濃度が低い炭化珪素の相である高抵抗相を形成する高抵抗相形成工程と、を具備し、
酸化に伴う比抵抗値の変化が前記高抵抗相のない焼結体に比べて小さい焼結体を製造すると共に、
前記高抵抗相形成工程を経た焼結体におけるβ型炭化珪素の割合により、比抵抗値の温度依存性を異ならせた焼結体を製造する
ことを特徴とする導電性炭化珪素質焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記反応焼成工程は、珪素源である窒化珪素と炭素源に加えて骨材としてのα型炭化珪素を含む混合原料からβ型炭化珪素を含む焼結体を得る工程であり、
前記高抵抗相形成工程では、前記反応焼成工程で生成したβ型炭化珪素の一部をα型炭化珪素に転移させて前記高抵抗相を形成することにより、
前記高抵抗相形成工程を経た焼結体におけるβ型炭化珪素の割合を、14質量%〜34質量%とする
ことを特徴とする請求項1に記載の導電性炭化珪素質焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性炭化珪素質焼結体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素は、熱伝導率が高いことに加えて熱膨張率が小さいことから耐熱衝撃性に優れるため、高温下で使用されるフィルタ、触媒担体、熱交換体などの基体として適している。また、高純度の炭化珪素は電気抵抗が高く絶縁体に近いが、導電性が付与された炭化珪素質セラミックスは、通電により発熱させる自己発熱型の構造体として使用することが可能である。本出願人は過去に、炭化珪素を珪素源及び炭素源から反応生成させる際に窒素をドープすることにより、導電性が付与された炭化珪素質セラミックス焼結体を製造する方法を提案している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
炭化珪素は、酸素の存在下で高温に加熱されると、酸化してしまうという問題がある。炭化珪素の酸化により生成した二酸化珪素の皮膜で炭化珪素の表面が被覆されると、それ以上の酸化がある程度は抑制されると言われているが、それでは酸化の抑制としては不十分であるのが実情である。本出願人が過去に詳細に検討しているように、導電性炭化珪素質セラミックスの表面に二酸化珪素が生成すると、比抵抗値が変化する(例えば、特許文献2参照)。酸化によって焼結体の表面に形成される二酸化珪素の相は電気抵抗が大きいため、酸化の進行に伴って、炭化珪素質セラミックス焼結体の比抵抗値が増大する。そこで、高温下での使用を継続しても、比抵抗値が一定に保持される導電性炭化珪素質セラミックス焼結体が要請されていた。
【0004】
一方、導電性炭化珪素質セラミックス焼結体は、温度の上昇に伴って電気抵抗が大きく低下するNTC特性を有し、比抵抗値の温度依存性が高い。そのため、高温下で比抵抗値が小さくなり過ぎ、電流値が過大となって制御が困難となったり、過電流による過熱により焼結体が損傷したりする問題があり、比抵抗値の温度依存性が低減された導電性炭化珪素質セラミックス焼結体が要請されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3691536号公報
【特許文献2】特許第5539815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、酸化による比抵抗値の変化が抑制されていると共に、比抵抗値の温度依存性が低減されている導電性炭化珪素質焼結体を、製造することができる導電性炭化珪素質焼結体の製造方法の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる導電性炭化珪素質焼結体の製造方法(単に、「製造方法」と称することがある)は、
「ドーパントとして窒素を含む炭化珪素の相である導電性相を含む焼結体において、少なくとも前記導電性相の外側に、前記導電性相における窒素の平均濃度より窒素の濃度が低い炭化珪素の相である高抵抗相を形成することにより、酸化に伴う比抵抗値の変化が前記高抵抗相のない焼結体に比べて小さい焼結体を製造すると共に、
焼結体におけるβ型炭化珪素の割合により、比抵抗値の温度依存性を異ならせた焼結体を製造する」ものである。
【0008】
高純度の炭化珪素は電気絶縁体に近いが、ドーパントとして窒素を含むことによりn型半導体となる。このような炭化珪素の焼結体を酸素が存在する雰囲気で高温にて使用すると、炭化珪素の酸化によって焼結体の表面に二酸化珪素の相が生成する。炭化珪素の酸化により同一モル数の二酸化珪素が生成すると質量が増加するため、図5(a)に示すように、高温下での使用時間に伴う質量増加から、炭化珪素の酸化が進行していることが分かる。二酸化珪素の相は電気抵抗が大きいため、図5(b)に示すように、酸化の進行に伴い焼結体全体の比抵抗値が増大してしまう。なお、図5は、従来の炭化珪素焼結体A,Bを、空気雰囲気で1000℃の温度で加熱した酸化試験の結果であり、図5(a)の質量増加率(%)は、酸化試験に供する前の初期質量からの質量増加分の初期質量に対する割合であり、図5(b)の比抵抗値変化率(%)は、酸化試験に供する前の初期の比抵抗値を100%とした値である。また、炭化珪素焼結体A,Bは、何れも珪素源である窒化珪素と炭素源である炭素質物質からなる炭化珪素生成原料に、骨材としての炭化珪素を混合した混合原料から製造した焼結体であり、原料組成及び原料粉末の粒度が相違している。
【0009】
このように酸化に伴い比抵抗値が増大してしまう従来の炭化珪素焼結体とは異なり、本製造方法により製造される導電性炭化珪素質焼結体は、少なくとも導電性相の外側に、ドーパントとして窒素を含む炭化珪素の相であり、導電性相より窒素の平均濃度が低い炭化珪素の相を有している。この相は、窒素の濃度が低いことにより自由電子の数が少なく、導電性相より電気抵抗が大きいため、本発明では「高抵抗相」と称している。このように、元々電気抵抗が大きい相は、焼結体全体の電気伝導性に対する寄与度が小さい。
【0010】
導電性相の外側に高抵抗相が形成されている構成の焼結体では、酸素が存在する雰囲気で使用されたときに、酸化されるのは高抵抗相である。元々焼結体全体の電気伝導性に対する寄与度が小さい高抵抗相が酸化された場合は、焼結体全体の電気伝導性に対する寄与度が大きい相、すなわち導電性相が酸化された場合に比べ、焼結体全体の電気伝導性に及ぼす影響は小さい。加えて、導電性相の外側に高抵抗相が存在することにより、電気伝導性への寄与度の大きい導電性相まで、酸化反応が及びにくい。従って、本製造方法により製造される導電性炭化珪素質焼結体は、酸素の存在する雰囲気で高温で継続して使用されても、比抵抗値が変化しにくい。酸化に伴う比抵抗値の増大を抑制しようとする場合、炭化珪素の酸化を抑制する手段を採用しようとするのが、当業者の通常の考え方である。これに対し、本構成の製造方法によれば、これと全く異なるアプローチによって、酸化に伴う比抵抗値の変化が抑制された導電性炭化珪素質焼結体を製造することができる。
【0011】
加えて、検討の結果、詳細は後述するように、焼結体におけるβ型炭化珪素の割合を増加させることにより、比抵抗値の温度依存性を低減させることができることが見出された。従って、本製造方法によれば、高抵抗相の存在によって酸化に伴う比抵抗値の変化が抑制されていると共に、β型炭化珪素の割合によって比抵抗値の温度依存性が調整された導電性炭化珪素質焼結体を、製造することができる。なお、導電性相は高抵抗相に比べて焼結体の比抵抗値に対する寄与度が大きいため、導電性相におけるβ型炭化珪素の割合が、より重要である。
【0012】
なお、本製造方法により製造される導電性炭化珪素質焼結体は、少なくとも導電性相の外側に高抵抗相が形成されているものであれば、導電性相の外側ではない部分に導電性相より窒素の平均濃度が低い高抵抗の相を有していても構わない。例えば、導電性相の内部に骨材粒子を含む場合に、骨材粒子が非導電性であれば、この骨材粒子の相は導電性相の外側ではない部分に存在する高抵抗の相である。また、導電性相も単相である必要はなく、例えば、窒素の濃度の異なる複数の導電性相を有していてもよい。複数の導電性相を有する場合、「導電性相における窒素の平均濃度」は、複数の導電性相を総合して平均した窒素の濃度を指すものとする。なお、「導電性炭化珪素質焼結体」は、「導電性炭化珪素質セラミックス焼結体」と同意として使用している。また、ここでは、比抵抗値が1000Ωcm以上の場合に非導電性と称して、導電性と区別する。
【0013】
本発明にかかる導電性炭化珪素質焼結体の製造方法は、上記構成に加え、
「前記導電性相の外側の前記高抵抗相は、前記導電性相を含む焼結体を、実質的に窒素ガスを含まない非酸化性雰囲気で加熱する高抵抗相形成工程により形成する」ものとすることができる。
【0014】
「実質的に窒素ガスを含まない非酸化性雰囲気」は、アルゴンやヘリウム等の希ガス雰囲気とすることができる。この場合、雰囲気中の窒素ガスの濃度は理想的にはゼロであるが、窒素ガスの濃度は5000ppm未満であれば許容され、より好ましくは500ppm未満である。或いは、「実質的に窒素ガスを含まない非酸化性雰囲気」は、真空雰囲気とすることもできる。
【0015】
本発明者らは、ドーパントとして窒素を含む炭化珪素の相である導電性相を含む炭化珪素質セラミックスの焼結体を、実質的に窒素ガスを含まない非酸化性雰囲気で加熱することにより、一旦はドープされた窒素が焼結体から排出され、導電性相の外側に、窒素の濃度が低い炭化珪素の相が形成されることを見出した。この高抵抗相形成工程は、通常の焼成設備で行うことができ、特殊な設備や工程を要しないため、非常に簡易に高抵抗相を形成することができる。
【0016】
本発明にかかる導電性炭化珪素質焼結体の製造方法は、上記構成に加え、
「前記導電性相を含む焼結体は、珪素源及び炭素源から炭化珪素を反応生成させる反応焼成工程を経て得るものであり、
焼結体におけるβ型炭化珪素の割合は、前記反応焼成工程の焼成温度によって変化させる」ものとすることができる。
【0017】
詳細は後述するように、炭化珪素におけるβ型炭化珪素の割合を変化させる方法として、本発明者らは複数の方法を想到しているが、その中でも、珪素源及び炭素源から炭化珪素を反応生成させる際の焼成温度によってβ型炭化珪素の割合を調整する方法は、極めて簡易である。
【0018】
本発明にかかる導電性炭化珪素質焼結体の製造方法は、上記構成に加え、
「前記高抵抗相形成工程では、β型炭化珪素の一部をα型炭化珪素に転移させて前記高抵抗相を形成する」ものとすることができる。
【0019】
検討の結果、詳細は後述するように、炭化珪素におけるβ型炭化珪素の割合が高いほど、比抵抗値の温度依存性が低下することが分かった。つまり、比抵抗値の温度依存性を低下させるという目的においては、導電性炭化珪素質焼結体におけるβ型炭化珪素の割合は高いほど望ましい。そして、酸化に伴う比抵抗値の増大を抑制する目的で高抵抗相を形成するのに際し、窒素がドープされたβ型炭化珪素の焼結体から、結晶構造をβ型炭化珪素に維持したまま窒素を排出させることも可能である。しかしながら、本構成では、高抵抗相を形成するのに際し、β型炭化珪素の一部をα型炭化珪素に転移させる、すなわち、導電性相の外側においてβ型炭化珪素の一部をα型炭化珪素に転移させると共に窒素を排出させて高抵抗相とする手段を採用している。高抵抗相は導電性相に比べて比抵抗値に及ぼす寄与度が小さいため、比抵抗値の温度依存性に対する寄与度も小さく、β型炭化珪素の割合を高める意義が小さいからである。そして、α型炭化珪素はβ型炭化珪素より高温で安定であるため、β型炭化珪素の一部をα型炭化珪素に転移させる高抵抗相形成工程は、β型炭化珪素のまま窒素を排出させる場合より、高温で行うことができる。
【0020】
従って、本構成の製造方法によれば、実質的に窒素を含まない非酸化性雰囲気で加熱する高抵抗相形成工程を、より高温で行うことが可能となるため、効率的に窒素を排出して、簡易かつ短時間で高抵抗相を形成することができる。なお、炭化珪素は2350℃を超えると昇華するため、高温で行う高抵抗相形成工程の加熱温度は、2100℃〜2300℃とすることができる。
【0021】
次に、本発明にかかる導電性炭化珪素質焼結体の製造方法により製造される導電性炭化珪素質焼結体は、
「ドーパントとして窒素を含む炭化珪素の相である導電性相を含む焼結体であり、
少なくとも前記導電性相の外側に、前記導電性相における窒素の平均濃度より窒素の濃度が低い炭化珪素の相である高抵抗相が形成されており、
炭化珪素におけるβ型炭化珪素の割合は、前記高抵抗相より前記導電性相の方が大きい」ものである。
【0022】
これは、上記の製造方法のうち、「高抵抗相形成工程では、β型炭化珪素の一部をα型炭化珪素に転移させて前記高抵抗相を形成する」製造方法によって製造された導電性炭化珪素質焼結体の構成である。この製造方法では、導電性相の外側においてβ型炭化珪素の一部がα型炭化珪素に転移して高抵抗相となるため、高抵抗相はα型炭化珪素の割合が大きな相であり、炭化珪素におけるβ型炭化珪素の割合は高抵抗相より導電性相の方が大きなものとなる。つまり、本構成は、高抵抗相形成工程を高温で行うことにより、効率的に窒素を排出し、簡易かつ短時間で高抵抗相を形成することができる製造方法によって、製造される導電性炭化珪素質焼結体の構成である。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明の効果として、酸化による比抵抗値の変化が抑制されていると共に、比抵抗値の温度依存性が低減されている導電性炭化珪素質焼結体を、製造することができる導電性炭化珪素質焼結体の製造方法を、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】β型炭化珪素の割合と比抵抗値の温度依存性との関係を示すグラフである。
図2】実施例及び比較例の炭化珪素質焼結体について、酸化試験における比抵抗値変化率を示すグラフである。
図3図1に、耐酸化性の評価を加えた図である。
図4】高抵抗相形成工程を経た焼結体の粉砕に伴うα型及びβ型炭化珪素の存在比率の変化を示すグラフである。
図5】従来の炭化珪素焼結体の酸化試験における(a)質量増加率、及び(b)比抵抗値変化率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態である導電性炭化珪素質焼結体の製造方法、及び、該製造方法により製造される導電性炭化珪素質焼結体について説明する。本実施形態の導電性炭化珪素質焼結体の製造方法は、ドーパントとして窒素を含む炭化珪素の相である導電性相を含む焼結体を、実質的に窒素ガスを含まない非酸化性雰囲気で加熱する高抵抗相形成工程により、導電性相における窒素の平均濃度より窒素の濃度が低い炭化珪素の相である高抵抗相を導電性相の外側に形成することにより、酸化に伴う比抵抗値の変化が高抵抗相のない焼結体に比べて小さい焼結体を製造すると共に、焼結体におけるβ型炭化珪素の割合により、比抵抗値の温度依存性を異ならせた焼結体を製造するものである。
【0026】
ドーパントとして窒素を含む炭化珪素の相である導電性相を含む焼結体は、例えば、炭化珪素粉末を原料として成形体を得る成形工程と、窒素ガスを含む非酸化性雰囲気で焼成する焼成工程を経ることにより得ることができる。この場合、加圧下で焼成工程を行えば、雰囲気中の窒素を効率良く焼結体中にドープすることができる。また、原料の炭化珪素粉末に微細粒子を含めれば、微細粒子が焼結する際に、雰囲気中の窒素を効率良くドープすることができる。なお、窒素ガスを含む非酸化性雰囲気は、窒素ガス100%雰囲気、アルゴンやヘリウム等の希ガスと窒素ガスとの混合雰囲気とすることができる。なお、成形工程は、ハニカム構造の成形体を成形する工程とすることができる。
【0027】
或いは、ドーパントとして窒素を含む炭化珪素の相である導電性相を含む焼結体は、珪素源及び炭素源を含む原料で成形した成形体を、窒素ガスを含む非酸化性雰囲気で焼成することにより炭化珪素を反応生成させる反応焼成工程を経ることにより、得ることができる。ここで、「珪素源」としては、窒化珪素や珪素(単体)を使用可能である。「炭素源」としては、黒鉛、石炭、コークス、木炭、カーボンブラックなどの炭素質物質を使用可能である。化学量論的には珪素及び炭素のモル比(Si/C)が1のときに過不足なく炭化珪素が生成するが、Si/Cが0.8〜1.2であれば、珪素及び炭素の過剰分または不足分が少なく、望ましい。
【0028】
珪素源として窒化珪素を使用する場合は、炭化珪素の反応生成に伴い窒化珪素の分解により発生した窒素も、反応生成する炭化珪素にドープされるため、導電性相の窒素の濃度を大きなものとし、導電性相の電気伝導性をより高めることができる。これにより、少なくとも導電性相の外側に高抵抗相を形成することにより、焼結体において電気伝導性に寄与できる体積が減少しても、焼結体全体としての比抵抗値が増大するおそれを低減することができる。
【0029】
或いは、珪素源として窒化珪素を使用した場合は、窒化珪素の分解により発生する窒素のみをドーパントとし、反応焼成工程における雰囲気は窒素ガスを含まない非酸化性雰囲気とすることができる。窒素ガスを含まない非酸化性雰囲気は、アルゴンやヘリウム等の希ガス雰囲気、真空雰囲気とすることができる。
【0030】
また、上記の複数の製造方法において、成形体を得る原料には、骨材となる粒子を含有させることができる。骨材となる粒子は、炭化珪素であってもその他の材料であってもよく、導電性であっても非導電性であってもよい。骨材粒子が炭化珪素である場合、骨材粒子はドーパントとして窒素を含むものであっても含まないものであっても良いが、窒素の濃度が導電性相における平均濃度より低い場合、骨材粒子の相は「導電性相の外側にはない高抵抗相」に相当する。
【0031】
導電性相を含む焼結体を得る焼成工程と、導電性相を含む焼結体を実質的に窒素ガスを含まない非酸化性雰囲気で加熱する高抵抗相形成工程とは、被焼成体を搬送しながら焼成する連続焼成炉を使用して連続的に行うことができる。すなわち、連続焼成炉における搬送方向の上流側の雰囲気を窒素ガスを含む非酸化性雰囲気として、窒素がドープされた導電性相を有する焼結体を得ると共に、搬送方向の下流側の雰囲気を実質的に窒素ガスを含まない非酸化性雰囲気とし、導電性相の外側に高抵抗相を形成することができる。
【0032】
或いは、バッチ炉で成形体を焼成しながら、炉内に導入するガスを窒素ガスを含む非酸化性のガスから実質的に窒素ガスを含まない非酸化性のガスに切り替えることにより、導電性相を含む焼結体を得る焼成工程と導電性相の外側に高抵抗相を形成する高抵抗相形成工程とを、連続的に行うことができる。
【0033】
また或いは、バッチ炉に成形体を収容して窒素ガスを含む非酸化性雰囲気で焼成し、導電性相を含む焼結体を得る焼成工程の後で、バッチ炉に焼結体を収容して実質的に窒素ガスを含まない非酸化性雰囲気で加熱する高抵抗相形成工程を、不連続に行うことができる。
【0034】
焼結体におけるβ型炭化珪素の割合は、珪素源及び炭素源から炭化珪素を生成させる反応焼成工程の焼成温度によって、変化させることができる。或いは、原料としてβ型炭化珪素の粉末を使用して成形体を成形し、これを焼成する際の温度によって、β型からα型に転移させる炭化珪素の量を変化させることにより、導電性相を含む焼結体の炭化珪素におけるβ型炭化珪素の割合を変化させることができる。また或いは、高抵抗相を形成させる高抵抗相形成工程の温度によって、β型からα型に転移させる炭化珪素の量を変化させることにより、高抵抗相を有する焼結体の炭化珪素におけるβ型炭化珪素の割合を変化させることができる。
【実施例】
【0035】
炭化珪素を反応生成させる珪素源として窒化珪素を、炭素源としてグラファイトを使用し、珪素及び炭素のモル比(Si/C)を1とした反応生成原料に、骨材としての粗大粒子を混合した混合原料から成形体を成形し(成形工程)、所定の温度で4時間焼成し、窒素がドープされた炭化珪素の相である導電性相を含む焼結体を得た(反応焼成工程)。骨材としては、窒素などはドープされていない非導電性のα型炭化珪素であり、レーザ回折法により測定された粒子径が約20μmの粗大粒子を使用した。
【0036】
得られた焼結体を十分に粉砕してX線回折パターンを測定し、α型炭化珪素のピークとβ型炭化珪素のピークから、リートベルト法によりα型炭化珪素とβ型炭化珪素の比を求めた。ここで、結晶構造3Cのピークをβ型炭化珪素のピークとし、6H、15R、4Hなど、3C以外の結晶構造の炭化珪素のピークをα型炭化珪素のピークとして解析した。珪素源である窒化珪素と骨材としてのα型炭化珪素の割合(質量比)が異なる複数の試料S1〜S4について、反応焼成工程の焼成温度と、焼結体の炭化珪素全体におけるα型炭化珪素とβ型炭化珪素の比の測定結果とを、表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
骨材としてのα型炭化珪素の粗大粒子は、反応焼成後もそのままα型炭化珪素として存在すると考えられる。珪素源としての窒化珪素と炭素源としてのグラファイトから反応生成する炭化珪素が、仮に全てβ型炭化珪素であると仮定すると、骨材としてのα型炭化珪素と珪素源としての窒化珪素との質量比が1:1のとき、α型炭化珪素とβ型炭化珪素との比(α−SiC:β−SiC)は「54:46」である。反応焼成工程における焼成温度が1700℃と低温である試料S1は、α−SiC:β−SiCの比がこの計算値にほぼ等しく、珪素源としての窒化珪素と炭素源としてのグラファイトから反応生成した炭化珪素のほぼ全量が、β型炭化珪素であると考えられた。同様に、珪素源と炭素源とから反応生成する炭化珪素が全てβ型炭化珪素であると仮定すると、骨材としてのα型炭化珪素と珪素源としての窒化珪素との質量比が1:2のとき、α型炭化珪素とβ型炭化珪素との比(α−SiC:β−SiC)は「37:63」である。反応焼成工程における焼成温度が1700℃と低温である試料S3は、α−SiC:β−SiCの比がこの計算値にほぼ等しく、珪素源と炭素源とから反応生成した炭化珪素のほぼ全量が、β型炭化珪素であると考えられた。
【0039】
そして、表1から分かるように、反応焼成工程における焼成温度が試料S1より高い試料S2では、α型炭化珪素の割合が試料S1より大きくなっており、同じく反応焼成工程における焼成温度が試料S3より高い試料S4では、α型炭化珪素の割合が試料S3より大きくなっている。これらの結果から、反応焼成工程における焼成温度が高くなると、反応生成したβ型炭化珪素の一部が、高温で安定なα型に転移すると考えられた。すなわち、珪素源と炭素源とから炭化珪素を反応生成させる反応焼成工程における焼成温度によって、得られる焼結体の炭化珪素全体におけるβ型炭化珪素の割合を、変化させることができると考えられた。
【0040】
次に、珪素源である窒化珪素と骨材としてのα型炭化珪素の割合(質量比)、反応焼成工程における焼成温度、実質的に窒素ガスを含まない非酸化性雰囲気で加熱する高抵抗相形成工程における加熱温度のうち、少なくとも一つを異ならせた試料S11〜S17の試験片(サイズ、4.5mm×4.5mm×40mm)について、JIS R1650−2に準拠して、比抵抗値を四端子法で測定した。温度500℃における比抵抗値ρTh(Ω・cm)を常温における比抵抗値ρTn(Ω・cm)で除した値「ρTh/ρTn」を、表2に示す。この「ρTh/ρTn」は、比抵抗値の温度依存性の指標であり、値が大きいほど比抵抗値の温度依存性が低いことを示している。
【0041】
また、各試料について、上記と同様にX線回折パターンから、リートベルト法によりα型炭化珪素とβ型炭化珪素との比(α−SiC:β−SiC)を求めた。α型炭化珪素とβ型炭化珪素との比としては、比抵抗値を測定した後の試験片を小片(サイズ、4.5mm×2mm×5mm)に加工し、未加工の表面にX線を照射して測定したX線回折パターンから「α−SiC:β−SiC(焼結体表面)」を求め、レーザ回折法により測定される粒子径が20μmとなるまで焼結体を乳鉢で粉砕した粉末について測定したX線回折パターンから「α−SiC:β−SiC(粉砕物)」を求めた。測定結果を表2にあわせて示す。
【0042】
対比のために、反応焼成工程の後、高抵抗相を形成する高抵抗相形成工程を行わなかった比較例の試料R1,R2についても、上記と同様に、「α−SiC:β−SiC(焼結体表面)」、「α−SiC:β−SiC(粉砕物)」、及び「ρTh/ρTn」を求めた。その結果を表2にあわせて示す。
【0043】
【表2】
【0044】
表2から分かるように、高抵抗相を形成する高抵抗相形成工程を行った試料S11〜S17は、高抵抗相形成工程を行わなかった試料R1,R2に比べて、焼結体表面においてα型炭化珪素の割合が高く、90%以上がα型炭化珪素である。そして、試料S11〜S17について、「α−SiC:β−SiC」を焼結体表面と焼結体粉砕物とで比較すると、粉砕物の方がβ型炭化珪素の割合が大きくなっている。これらのことから、高抵抗相形成工程を2100℃以上の温度で行うことにより焼結体における外層(外表面に近い層)に形成された高抵抗相は、反応焼成工程により生成したβ型炭化珪素がα型に転移した相であり、高抵抗相形成工程を経た焼結体においては、炭化珪素の殆どがα型炭化珪素である高抵抗相の内側に、β型炭化珪素が存在しているということができる。換言すれば、高抵抗相形成工程を経た焼結体では、β型炭化珪素が多く存在する導電性相の外側に、殆どがα型炭化珪素である高抵抗相が形成されているということができる。例えば、試料R1と試料S13とを対比すると、反応焼成工程を経て生成されたβ型炭化珪素が高抵抗相形成工程でα型に転移することにより、炭化珪素全体におけるβ型炭化珪素の割合が16%減少し、その分だけα型炭化珪素が増加していると共に、α型炭化珪素の殆どが焼結体表面の近くに存在していることが分かる。
【0045】
ここで、粉砕の程度の異なる焼結体粉砕物について「α−SiC:β−SiC」を測定すると、図4に示すように、レーザ回折法による粒子径が30μmとなるまでは、粉砕が進むほどα型炭化珪素の割合が減少し、これに伴いβ型炭化珪素の割合が増加するが、粉砕によって30μmより粒子径が小さくなると、α型炭化珪素及びβ型炭化珪素の割合は変化しない。このことから、レーザ回折法による粒子径が20μmとなるまで焼結体を粉砕した粉砕物について測定した「α−SiC:β−SiC(粉砕物)」は、高抵抗相形成工程を経た焼結体の炭化珪素全体におけるα型炭化珪素とβ型炭化珪素物との比として、考えることができる。なお、図4は試料S11についての測定結果を例示しているが、他の試料についても同様である。
【0046】
このように「α−SiC:β−SiC(粉砕物)」は、高抵抗相形成工程を経た焼結体の炭化珪素全体におけるα型炭化珪素とβ型炭化珪素物との比であると考えると、他の条件が同じであれば、反応焼成工程における焼成温度が低いほど焼結体におけるβ型炭化珪素の割合を大きくすることができ(例えば、試料S12と試料S13との対比から)、高抵抗相形成工程における加熱温度が高いほど、多くの割合のβ型炭化珪素がα型に転移すると言うことができる(例えば、試料S11と試料S12との対比から)。
【0047】
なお、ここでは骨材としてα型炭化珪素を使用しているが、骨材は炭化珪素でなくてもよいため、各試料の焼結体(試料S11〜S17については高抵抗相形成工程を経た焼結体、試料R1,R2については反応焼成工程を経た焼結体)について、骨材に由来するα型炭化珪素と反応生成した炭化珪素(骨材に由来しないα型炭化珪素とβ型炭化珪素)とを区別すると、表3のようになる。
【0048】
【表3】
【0049】
高抵抗相形成工程を経た焼結体におけるβ型炭化珪素物の割合(質量%)に対して、温度500℃における比抵抗値ρTh(Ω・cm)を常温における比抵抗値ρTn(Ω・cm)で除した値「ρTh/ρTn」をプロットすると、図1のようになる。この図1から、焼結体におけるβ型炭化珪素物の割合が大きいほど「ρTh/ρTn」は大きくなっており、ほぼ線形の関係にあることが分かる。これにより、焼結体におけるβ型炭化珪素物の割合によって、比抵抗値の温度依存性を変化させることができ、β型炭化珪素物の割合を大きくするほど、比抵抗値の温度依存性を低下させることができることが判明した。
【0050】
出願人の経験から、導電性炭化珪素質焼結体の一般的な用途において、「ρTh/ρTn」が0.1より小さくなると、電流値の制御が困難となることが分かっている。そこで、図1における線形近似曲線から、「ρTh/ρTn」が0.1のときβ型炭化珪素物の割合を読み取ると14質量%である。従って、導電性炭化珪素質焼結体におけるβ型炭化珪素の割合を14質量%以上とすることにより、比抵抗値の温度依存性を実用的な範囲とすることができる。
【0051】
加えて、試料S11〜S17及び試料R1,R2について、酸化に伴う比抵抗値の変化を「耐酸化性」として評価した。各試料について空気雰囲気で1000℃の温度で加熱する酸化試験を行い、所定の時間間隔で上記と同様の方法で比抵抗値を測定し、酸化試験に供する前の初期の比抵抗値を100%とした比抵抗値変化率(%)を求めた。各試料について、酸化時間に対する比抵抗値変化率を表4に示すと共に、酸化時間128時間後の比抵抗値変化率が110%未満の場合を、耐酸化性が良好である(酸化に伴う比抵抗値の変化が小さい)として「○」と評価し、酸化時間128時間後の比抵抗値変化率が110%以上の場合を、耐酸化性が不良であるとして「×」と評価した。
【0052】
【表4】
【0053】
図5を用いて上述したように、空気雰囲気において1000℃の温度で128時間加熱すると、炭化珪素焼結体は酸化がかなり進行する。それにも関わらず、導電性相の外側に高抵抗相を形成した試料S11〜S17は、表4から分かるように、何れも酸化時間128時間後であっても比抵抗値は殆ど変化していない(比抵抗値変化率は100%に近い)。これに対し、高抵抗相を形成していない試料R1,R2は、酸化時間の経過に伴い比抵抗値が増加し続けている。従って、高抵抗相の存在により、酸化に伴う比抵抗値の変化が有効に抑制されていると考えられた。試料S11、R1、R2について、酸化時間に対する比抵抗値変化率をグラフ化して図2に示す。
【0054】
また、焼結体におけるβ型炭化珪素の割合と比抵抗値の温度依存性の関係とを示すために上記の説明で用いた図1について、耐酸化性が良好である試料と不良である試料とをマーカーで識別した場合の図を、図3に示す。本実施例のように、高抵抗相を形成する際に窒素を効率良く排出させるために、高抵抗相形成工程を2100℃以上の高温で行う場合は、導電性相の外側のβ型炭化珪素がα型に転移して高抵抗相となるため、その分だけβ型炭化珪素の割合が減少する。このような場合、比抵抗値の温度依存性を実用的な範囲とし、且つ、高抵抗相の存在により酸化に伴う比抵抗値の変化を十分に抑制するためには、図3に示すように、導電性炭化珪素質焼結体におけるβ型炭化珪素の割合を、14質量%〜34質量%とすることが望ましい。
【0055】
以上のように、導電性相を含む焼結体を、実質的に窒素ガスを含まない非酸化性雰囲気で加熱することにより、導電性相における平均濃度より窒素の濃度が低い高抵抗相を導電性相の外側に形成することにより、酸化に伴う比抵抗値の変化が抑制された導電性炭化珪素質焼結体を製造することができる。加えて、導電性炭化珪素質焼結体におけるβ型炭化珪素の割合を変化させることにより、比抵抗値の温度依存性の異なる導電性炭化珪素質焼結体を製造することができる。
【0056】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0057】
例えば、反応生成する炭化珪素の核となる骨材として、α型炭化珪素の粗大粒子を使用する場合を実施例として例示した。このα型炭化珪素は窒素などがドープされていない非導電性の粒子であったが、これに限定されず、骨材として導電性の材料を使用することができる。これにより、内部に骨材が含まれる導電性相の電気伝導性を、より高めることができる。
図1
図2
図3
図4
図5