【実施例】
【0035】
炭化珪素を反応生成させる珪素源として窒化珪素を、炭素源としてグラファイトを使用し、珪素及び炭素のモル比(Si/C)を1とした反応生成原料に、骨材としての粗大粒子を混合した混合原料から成形体を成形し(成形工程)、所定の温度で4時間焼成し、窒素がドープされた炭化珪素の相である導電性相を含む焼結体を得た(反応焼成工程)。骨材としては、窒素などはドープされていない非導電性のα型炭化珪素であり、レーザ回折法により測定された粒子径が約20μmの粗大粒子を使用した。
【0036】
得られた焼結体を十分に粉砕してX線回折パターンを測定し、α型炭化珪素のピークとβ型炭化珪素のピークから、リートベルト法によりα型炭化珪素とβ型炭化珪素の比を求めた。ここで、結晶構造3Cのピークをβ型炭化珪素のピークとし、6H、15R、4Hなど、3C以外の結晶構造の炭化珪素のピークをα型炭化珪素のピークとして解析した。珪素源である窒化珪素と骨材としてのα型炭化珪素の割合(質量比)が異なる複数の試料S1〜S4について、反応焼成工程の焼成温度と、焼結体の炭化珪素全体におけるα型炭化珪素とβ型炭化珪素の比の測定結果とを、表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
骨材としてのα型炭化珪素の粗大粒子は、反応焼成後もそのままα型炭化珪素として存在すると考えられる。珪素源としての窒化珪素と炭素源としてのグラファイトから反応生成する炭化珪素が、仮に全てβ型炭化珪素であると仮定すると、骨材としてのα型炭化珪素と珪素源としての窒化珪素との質量比が1:1のとき、α型炭化珪素とβ型炭化珪素との比(α−SiC:β−SiC)は「54:46」である。反応焼成工程における焼成温度が1700℃と低温である試料S1は、α−SiC:β−SiCの比がこの計算値にほぼ等しく、珪素源としての窒化珪素と炭素源としてのグラファイトから反応生成した炭化珪素のほぼ全量が、β型炭化珪素であると考えられた。同様に、珪素源と炭素源とから反応生成する炭化珪素が全てβ型炭化珪素であると仮定すると、骨材としてのα型炭化珪素と珪素源としての窒化珪素との質量比が1:2のとき、α型炭化珪素とβ型炭化珪素との比(α−SiC:β−SiC)は「37:63」である。反応焼成工程における焼成温度が1700℃と低温である試料S3は、α−SiC:β−SiCの比がこの計算値にほぼ等しく、珪素源と炭素源とから反応生成した炭化珪素のほぼ全量が、β型炭化珪素であると考えられた。
【0039】
そして、表1から分かるように、反応焼成工程における焼成温度が試料S1より高い試料S2では、α型炭化珪素の割合が試料S1より大きくなっており、同じく反応焼成工程における焼成温度が試料S3より高い試料S4では、α型炭化珪素の割合が試料S3より大きくなっている。これらの結果から、反応焼成工程における焼成温度が高くなると、反応生成したβ型炭化珪素の一部が、高温で安定なα型に転移すると考えられた。すなわち、珪素源と炭素源とから炭化珪素を反応生成させる反応焼成工程における焼成温度によって、得られる焼結体の炭化珪素全体におけるβ型炭化珪素の割合を、変化させることができると考えられた。
【0040】
次に、珪素源である窒化珪素と骨材としてのα型炭化珪素の割合(質量比)、反応焼成工程における焼成温度、実質的に窒素ガスを含まない非酸化性雰囲気で加熱する高抵抗相形成工程における加熱温度のうち、少なくとも一つを異ならせた試料S11〜S17の試験片(サイズ、4.5mm×4.5mm×40mm)について、JIS R1650−2に準拠して、比抵抗値を四端子法で測定した。温度500℃における比抵抗値ρ
Th(Ω・cm)を常温における比抵抗値ρ
Tn(Ω・cm)で除した値「ρ
Th/ρ
Tn」を、表2に示す。この「ρ
Th/ρ
Tn」は、比抵抗値の温度依存性の指標であり、値が大きいほど比抵抗値の温度依存性が低いことを示している。
【0041】
また、各試料について、上記と同様にX線回折パターンから、リートベルト法によりα型炭化珪素とβ型炭化珪素との比(α−SiC:β−SiC)を求めた。α型炭化珪素とβ型炭化珪素との比としては、比抵抗値を測定した後の試験片を小片(サイズ、4.5mm×2mm×5mm)に加工し、未加工の表面にX線を照射して測定したX線回折パターンから「α−SiC:β−SiC(焼結体表面)」を求め、レーザ回折法により測定される粒子径が20μmとなるまで焼結体を乳鉢で粉砕した粉末について測定したX線回折パターンから「α−SiC:β−SiC(粉砕物)」を求めた。測定結果を表2にあわせて示す。
【0042】
対比のために、反応焼成工程の後、高抵抗相を形成する高抵抗相形成工程を行わなかった比較例の試料R1,R2についても、上記と同様に、「α−SiC:β−SiC(焼結体表面)」、「α−SiC:β−SiC(粉砕物)」、及び「ρ
Th/ρ
Tn」を求めた。その結果を表2にあわせて示す。
【0043】
【表2】
【0044】
表2から分かるように、高抵抗相を形成する高抵抗相形成工程を行った試料S11〜S17は、高抵抗相形成工程を行わなかった試料R1,R2に比べて、焼結体表面においてα型炭化珪素の割合が高く、90%以上がα型炭化珪素である。そして、試料S11〜S17について、「α−SiC:β−SiC」を焼結体表面と焼結体粉砕物とで比較すると、粉砕物の方がβ型炭化珪素の割合が大きくなっている。これらのことから、高抵抗相形成工程を2100℃以上の温度で行うことにより焼結体における外層(外表面に近い層)に形成された高抵抗相は、反応焼成工程により生成したβ型炭化珪素がα型に転移した相であり、高抵抗相形成工程を経た焼結体においては、炭化珪素の殆どがα型炭化珪素である高抵抗相の内側に、β型炭化珪素が存在しているということができる。換言すれば、高抵抗相形成工程を経た焼結体では、β型炭化珪素が多く存在する導電性相の外側に、殆どがα型炭化珪素である高抵抗相が形成されているということができる。例えば、試料R1と試料S13とを対比すると、反応焼成工程を経て生成されたβ型炭化珪素が高抵抗相形成工程でα型に転移することにより、炭化珪素全体におけるβ型炭化珪素の割合が16%減少し、その分だけα型炭化珪素が増加していると共に、α型炭化珪素の殆どが焼結体表面の近くに存在していることが分かる。
【0045】
ここで、粉砕の程度の異なる焼結体粉砕物について「α−SiC:β−SiC」を測定すると、
図4に示すように、レーザ回折法による粒子径が30μmとなるまでは、粉砕が進むほどα型炭化珪素の割合が減少し、これに伴いβ型炭化珪素の割合が増加するが、粉砕によって30μmより粒子径が小さくなると、α型炭化珪素及びβ型炭化珪素の割合は変化しない。このことから、レーザ回折法による粒子径が20μmとなるまで焼結体を粉砕した粉砕物について測定した「α−SiC:β−SiC(粉砕物)」は、高抵抗相形成工程を経た焼結体の炭化珪素全体におけるα型炭化珪素とβ型炭化珪素物との比として、考えることができる。なお、
図4は試料S11についての測定結果を例示しているが、他の試料についても同様である。
【0046】
このように「α−SiC:β−SiC(粉砕物)」は、高抵抗相形成工程を経た焼結体の炭化珪素全体におけるα型炭化珪素とβ型炭化珪素物との比であると考えると、他の条件が同じであれば、反応焼成工程における焼成温度が低いほど焼結体におけるβ型炭化珪素の割合を大きくすることができ(例えば、試料S12と試料S13との対比から)、高抵抗相形成工程における加熱温度が高いほど、多くの割合のβ型炭化珪素がα型に転移すると言うことができる(例えば、試料S11と試料S12との対比から)。
【0047】
なお、ここでは骨材としてα型炭化珪素を使用しているが、骨材は炭化珪素でなくてもよいため、各試料の焼結体(試料S11〜S17については高抵抗相形成工程を経た焼結体、試料R1,R2については反応焼成工程を経た焼結体)について、骨材に由来するα型炭化珪素と反応生成した炭化珪素(骨材に由来しないα型炭化珪素とβ型炭化珪素)とを区別すると、表3のようになる。
【0048】
【表3】
【0049】
高抵抗相形成工程を経た焼結体におけるβ型炭化珪素物の割合(質量%)に対して、温度500℃における比抵抗値ρ
Th(Ω・cm)を常温における比抵抗値ρ
Tn(Ω・cm)で除した値「ρ
Th/ρ
Tn」をプロットすると、
図1のようになる。この
図1から、焼結体におけるβ型炭化珪素物の割合が大きいほど「ρ
Th/ρ
Tn」は大きくなっており、ほぼ線形の関係にあることが分かる。これにより、焼結体におけるβ型炭化珪素物の割合によって、比抵抗値の温度依存性を変化させることができ、β型炭化珪素物の割合を大きくするほど、比抵抗値の温度依存性を低下させることができることが判明した。
【0050】
出願人の経験から、導電性炭化珪素質焼結体の一般的な用途において、「ρ
Th/ρ
Tn」が0.1より小さくなると、電流値の制御が困難となることが分かっている。そこで、
図1における線形近似曲線から、「ρ
Th/ρ
Tn」が0.1のときβ型炭化珪素物の割合を読み取ると14質量%である。従って、導電性炭化珪素質焼結体におけるβ型炭化珪素の割合を14質量%以上とすることにより、比抵抗値の温度依存性を実用的な範囲とすることができる。
【0051】
加えて、試料S11〜S17及び試料R1,R2について、酸化に伴う比抵抗値の変化を「耐酸化性」として評価した。各試料について空気雰囲気で1000℃の温度で加熱する酸化試験を行い、所定の時間間隔で上記と同様の方法で比抵抗値を測定し、酸化試験に供する前の初期の比抵抗値を100%とした比抵抗値変化率(%)を求めた。各試料について、酸化時間に対する比抵抗値変化率を表4に示すと共に、酸化時間128時間後の比抵抗値変化率が110%未満の場合を、耐酸化性が良好である(酸化に伴う比抵抗値の変化が小さい)として「○」と評価し、酸化時間128時間後の比抵抗値変化率が110%以上の場合を、耐酸化性が不良であるとして「×」と評価した。
【0052】
【表4】
【0053】
図5を用いて上述したように、空気雰囲気において1000℃の温度で128時間加熱すると、炭化珪素焼結体は酸化がかなり進行する。それにも関わらず、導電性相の外側に高抵抗相を形成した試料S11〜S17は、表4から分かるように、何れも酸化時間128時間後であっても比抵抗値は殆ど変化していない(比抵抗値変化率は100%に近い)。これに対し、高抵抗相を形成していない試料R1,R2は、酸化時間の経過に伴い比抵抗値が増加し続けている。従って、高抵抗相の存在により、酸化に伴う比抵抗値の変化が有効に抑制されていると考えられた。試料S11、R1、R2について、酸化時間に対する比抵抗値変化率をグラフ化して
図2に示す。
【0054】
また、焼結体におけるβ型炭化珪素の割合と比抵抗値の温度依存性の関係とを示すために上記の説明で用いた
図1について、耐酸化性が良好である試料と不良である試料とをマーカーで識別した場合の図を、
図3に示す。本実施例のように、高抵抗相を形成する際に窒素を効率良く排出させるために、高抵抗相形成工程を2100℃以上の高温で行う場合は、導電性相の外側のβ型炭化珪素がα型に転移して高抵抗相となるため、その分だけβ型炭化珪素の割合が減少する。このような場合、比抵抗値の温度依存性を実用的な範囲とし、且つ、高抵抗相の存在により酸化に伴う比抵抗値の変化を十分に抑制するためには、
図3に示すように、導電性炭化珪素質焼結体におけるβ型炭化珪素の割合を、14質量%〜34質量%とすることが望ましい。
【0055】
以上のように、導電性相を含む焼結体を、実質的に窒素ガスを含まない非酸化性雰囲気で加熱することにより、導電性相における平均濃度より窒素の濃度が低い高抵抗相を導電性相の外側に形成することにより、酸化に伴う比抵抗値の変化が抑制された導電性炭化珪素質焼結体を製造することができる。加えて、導電性炭化珪素質焼結体におけるβ型炭化珪素の割合を変化させることにより、比抵抗値の温度依存性の異なる導電性炭化珪素質焼結体を製造することができる。
【0056】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0057】
例えば、反応生成する炭化珪素の核となる骨材として、α型炭化珪素の粗大粒子を使用する場合を実施例として例示した。このα型炭化珪素は窒素などがドープされていない非導電性の粒子であったが、これに限定されず、骨材として導電性の材料を使用することができる。これにより、内部に骨材が含まれる導電性相の電気伝導性を、より高めることができる。