特許第6291470号(P6291470)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6291470
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】摩擦伝動ベルト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16G 1/00 20060101AFI20180305BHJP
   F16G 1/08 20060101ALI20180305BHJP
   F16G 5/00 20060101ALI20180305BHJP
   F16G 5/06 20060101ALI20180305BHJP
   F16G 5/20 20060101ALI20180305BHJP
   B29C 35/02 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   F16G1/00 F
   F16G1/00 D
   F16G1/08 A
   F16G1/08 D
   F16G5/00 D
   F16G5/00 F
   F16G5/06 A
   F16G5/06 D
   F16G5/20 A
   B29C35/02
【請求項の数】11
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-245581(P2015-245581)
(22)【出願日】2015年12月16日
(65)【公開番号】特開2016-121806(P2016-121806A)
(43)【公開日】2016年7月7日
【審査請求日】2016年12月15日
(31)【優先権主張番号】特願2014-262804(P2014-262804)
(32)【優先日】2014年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(72)【発明者】
【氏名】勘場 裕司
【審査官】 高橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−253700(JP,A)
【文献】 特開2011−099457(JP,A)
【文献】 特開平10−237226(JP,A)
【文献】 特開2014−109009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 1/00
B29C 35/02
F16G 1/08
F16G 5/00
F16G 5/06
F16G 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部がプーリと接触可能な伝動面を有し、かつ第1のポリマー成分を含むゴム組成物で形成された圧縮ゴム層を含む摩擦伝動ベルトであって、前記伝動面の表面に、平均アスペクト比が10以下のポリビニルアルコール系樹脂粒子及び第2のポリマー成分を含むゴム組成物で形成された表層が積層されている摩擦伝動ベルト。
【請求項2】
ポリビニルアルコール系樹脂粒子を構成するポリビニルアルコール系樹脂が、下記(1)〜(4)の特性を有する請求項1記載の摩擦伝動ベルト。
(1)ビニルアルコール単位のケン化度が86〜97モル%である
(2)粘度平均重合度が300〜3500である
(3)融点が、ベルトの加硫温度よりも高い
(4)20℃における水への溶解度が60質量%以上である
【請求項3】
ポリビニルアルコール系樹脂粒子を構成するポリビニルアルコール系樹脂が、疎水基で変性されたポリビニルアルコール系樹脂である請求項1又は2記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項4】
第1及び第2のポリマー成分が、エチレン−α−オレフィンエラストマーである請求項1〜のいずれかに記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項5】
圧縮ゴム層がポリビニルアルコール系樹脂を含まない請求項1〜のいずれかに記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項6】
さらに芯体とベルト背面を形成する伸張ゴム層とを含み、前記伸張ゴム層の一方の面に圧縮ゴム層が形成され、かつ前記伸張ゴム層と前記圧縮ゴム層との間にベルト長手方向に沿って前記芯体が埋設されている請求項1〜のいずれかに記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項7】
Vリブドベルトである請求項1〜のいずれかに記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項8】
円筒状ドラムに未加硫ゴムシートを巻き付ける圧縮ゴム層巻付工程、前記未加硫ゴムシートを金型に押し付けて加硫する加硫成形工程を含み、前記圧縮ゴム層巻付工程及び前記加硫成形工程のいずれかの工程で表層を形成する請求項1〜のいずれかに記載の摩擦伝動ベルトの製造方法。
【請求項9】
圧縮ゴム層巻付工程において、未加硫ゴムシートとして、表層を形成するための未加硫ゴム層と圧縮ゴム層を形成するための未加硫ゴム層との積層シートを用いる請求項記載の製造方法。
【請求項10】
圧縮ゴム層巻付工程において、未加硫ゴムシートとして、圧縮ゴム層を形成するための未加硫ゴムシートの表面にポリビニルアルコール系樹脂粒子を塗布したシートを用いる請求項記載の製造方法。
【請求項11】
加硫成形工程において、金型として、未加硫ゴムシートとの接触面にポリビニルアルコール系樹脂粒子を塗布した金型を用いる請求項記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車エンジン補機駆動などに用いられる摩擦伝動ベルトに関し、詳しくは、摩擦伝動面の摩擦状態を安定化して耐発音性を向上できる摩擦伝動ベルト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム工業分野のなかでも、特に自動車用部品においては高機能、高性能化が望まれている。このような自動車用部品に用いられるゴム製品の一つとして摩擦伝動ベルトがあり、この摩擦伝動ベルトは、例えば、自動車のエアーコンプレッサーやオルタネータなどの補機駆動の動力伝動に広く用いられている。この種のベルトとしては、リブをベルト長手方向に沿って設けたVリブドベルトが知られているが、Vリブドベルトには、省燃費性や耐摩耗性などのベルト性能に加えて、耐発音性が要求される。特に、被水時での走行では、スティック−スリップ音の発生が問題となっている。詳しくは、摩擦伝動面の濡れ性が低く、ベルトとプーリ間の水の進入状態が均一でないと、水が進入していない箇所(乾燥状態)では摩擦係数が高く、水が浸入した箇所(被水状態)では、部分的に摩擦係数が著しく低下して、摩擦状態が不安定になり、スティック−スリップ音が発生する。
【0003】
特開2008−185162号公報(特許文献1)には、少なくとも摩擦伝動面が、エチレン・α−オレフィンエラストマー100質量部に対して、界面活性剤を1〜25質量部配合したゴム組成物で構成された摩擦伝動ベルトが開示されている。この摩擦伝動ベルトは、界面活性剤を配合することで摩擦伝動面を形成するゴム(エチレン−α−オレフィンエラストマー)と水との親和性を高めることができ、スティック−スリップによる異音を低減して被水時の耐発音性を向上できる。
【0004】
しかし、このベルトでは、摩擦伝動面に滲出した界面活性剤がベルト−プーリ間の摩擦状態を安定化するものの、ゴム中の界面活性剤の挙動が不安定であるためか、ゴム強度が低下し、耐磨耗性を維持できない虞がある。さらに、圧縮ゴム層全体に界面活性剤が配合されているため、圧縮ゴム層の力学特性(強度や伸びなど)が低下する。
【0005】
特開2006−118661号公報(特許文献2)には、心線のベルト底面側に圧縮ゴム層が配設された伝動ベルトにおいて、前記圧縮ゴム層に、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス(RFL)処理したゲル化可能なポリビニルアルコール繊維からなる短繊維が圧縮ゴム層表面に露出するように埋設された伝動ベルトが開示されている。この文献には、露出させたポリビニルアルコール短繊維が吸水してゲル化することにより、多量の水が入っても、水の膜が突き破られ、ベルトとプーリとの界面に発生した水層に起因するスリップによる伝動能力の低下と異音の発生を防止することが記載されている。さらに、実施例では、発音性能の評価として、2軸試験機でベルトを回転させて注水時の発音限界張力を測定している。
【0006】
しかし、この伝動ベルトに含まれる短繊維は、ゲル化可能なポリビニルアルコール繊維であるため、耐発音性を向上できない。すなわち、特許文献2の実施例では、注水時の2%スリップ時の負荷を測定しているが、比較例(ナイロン短繊維配合)に比べ、負荷が大きくなり、注水時の摩擦係数は大きくなっている。しかし、実車エンジンでは、回転変動があるため、注水時の摩擦係数が高いと、スティックスリップによる発音が生じ易くなる。そのため、摩擦伝動面を形成するゴムと水との親和性を高めて、均一な水膜を形成して、注水時の摩擦係数を下げ、かつ滑り速度に対する摩擦係数の変化を小さくする必要がある。しかし、特許文献2の短繊維では、吸水してゲル化した短繊維が摩擦伝動面で突出して水膜を突き破って除去するため、均一な水膜自体を形成できず、摩擦状態を安定化することができない。そのため、回転変動がある実車エンジンでは、耐発音性が十分ではない。
【0007】
また、ゲル化短繊維は吸水により軟化していると推定できるが、ベルト伝動時に突出した短繊維が摩滅するため、耐摩耗性も維持できない。
【0008】
さらに、短繊維は粒子に比べ圧縮ゴム層中へ分散し難く、加工性が低い。また、ゴム中に分散した短繊維は、ゴムとの接触面積が小さく、平滑な接触面となるため、ゴムとの接着性が低くなり、接着力向上のため、RFL処理などの表面処理が必要となる。さらに、短繊維が圧縮ゴム層全体に配合されているため、力学特性が低下する。
【0009】
特開2008−157445号公報(特許文献3)には、少なくとも摩擦伝動面の一部が、ゴム100質量部に対して、融点又は軟化点が80℃以下の水溶性高分子を5〜50質量部含有するゴム組成物で構成された摩擦伝動ベルトが開示されている。この文献には、前記水溶性高分子としては、ポリエチレンオキサイドが記載されている。
【0010】
しかし、水溶性高分子が圧縮ゴム層全体に配合されているため、力学特性が低下する。なお、特許文献3の実施例では、水溶性高分子としてポリビニルアルコールが配合されているが、注水時の発音限界張力が低い比較例として記載されている上に、その詳細も不明である。
【0011】
WO2011/114727号パンフレット(特許文献4)には、プーリに接触して動力を伝える圧縮ゴム層を備え、かつ前記圧縮ゴム層が、可塑剤の含有量が相対的に多く、かつ粒状の超高分子量ポリエチレン樹脂を含む表面ゴム層と、可塑剤の含有量が相対的に少ない内部ゴム層とを有する摩擦伝動ベルトが開示されている。また、特開2013−113343号公報(特許文献5)には、プーリに係合又は接触するための摩擦伝動面を有する圧縮ゴム層を備え、かつ前記摩擦伝動面にポリエチレン系樹脂で形成された滑剤が付着した摩擦伝動ベルトが開示されている。
【0012】
しかし、超高分子量ポリエチレン樹脂などのポリエチレン系樹脂では、摩擦係数の低減により耐発音性や耐磨耗性が改善できるが、被水時の発音を高いレベルで抑制できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−185162号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2006−118661号公報(請求項1、段落[0005][0006][0009])
【特許文献3】特開2008−157445号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献4】WO2011/114727号パンフレット(請求項1及び6)
【特許文献5】特開2013−113343号公報(請求項1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明の目的は、摩擦伝動面の摩擦状態を安定化して耐発音性を向上できる摩擦伝動ベルト及びその製造方法を提供することにある。
【0015】
本発明の他の目的は、強度や伸びなどの力学特性を維持しつつ、被水時における摩擦伝動面とプーリとの間のスリップによる発音を抑制できる摩擦伝動ベルト及びその製造方法を提供することにある。
【0016】
本発明のさらに他の目的は、耐摩耗性などのベルト性能を維持しつつ、耐発音性を向上できる摩擦伝動ベルト及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、摩擦伝動ベルトの圧縮ゴム層の伝動面の表面にポリビニルアルコール系樹脂を含む表層を積層すると、省燃費性や耐摩耗性などのベルト性能を維持しつつ、摩擦伝動面の摩擦状態を安定化して耐発音性を向上できることを見いだし、本発明を完成した。
【0018】
すなわち、本発明の摩擦伝動ベルトは、少なくとも一部がプーリと接触可能な伝動面を有し、かつポリマー成分を含むゴム組成物で形成された圧縮ゴム層を含む摩擦伝動ベルトであって、前記伝動面の表面にポリビニルアルコール系樹脂を含む表層が積層されている。前記表層は、ポリビニルアルコール系樹脂粒子及びポリマー成分を含むゴム組成物で形成されていてもよい。前記ポリビニルアルコール系樹脂粒子の平均アスペクト比は10以下であってもよい。前記表層は、ポリビニルアルコール系樹脂で形成されていてもよい。前記ポリビニルアルコール系樹脂粒子は、下記(1)〜(4)の特性を有していてもよい。
(1)ビニルアルコール単位のケン化度が86〜97モル%である
(2)粘度平均重合度が300〜3500である
(3)融点が、ベルトの加硫温度よりも高い
(4)20℃における水への溶解度が60質量%以上である。
【0019】
前記ポリビニルアルコール系樹脂は、疎水基で変性されたポリビニルアルコール系樹脂であってもよい。前記ポリマー成分は、エチレン−α−オレフィンエラストマーであってもよい。前記圧縮ゴム層は、ポリビニルアルコール系樹脂を含まない層であってもよい。
【0020】
本発明の摩擦伝動ベルトは、さらに芯体とベルト背面を形成する伸張ゴム層とを含み、前記伸張ゴム層の一方の面に圧縮ゴム層が形成され、かつ前記伸張ゴム層と前記圧縮ゴム層との間にベルト長手方向に沿って前記芯体が埋設されていてもよい。本発明の摩擦伝動ベルトは、Vリブドベルトであってもよい。
【0021】
本発明には、円筒状ドラムに未加硫ゴムシートを巻き付ける圧縮ゴム層巻付工程、前記未加硫ゴムシートを金型に押し付けて加硫する加硫成形工程を含み、前記圧縮ゴム層巻付工程及び前記加硫成形工程のいずれかの工程で表層を形成する前記摩擦伝動ベルトの製造方法も含まれる。前記圧縮ゴム層巻付工程において、未加硫ゴムシートとして、表層を形成するための未加硫ゴム層と圧縮ゴム層を形成するための未加硫ゴム層との積層シートを用いてもよい。また、前記圧縮ゴム層巻付工程において、未加硫ゴムシートとして、圧縮ゴム層を形成するための未加硫ゴムシートの表面にポリビニルアルコール系樹脂粒子を塗布したシートを用いてもよい。さらに、前記加硫成形工程において、金型として、未加硫ゴムシートとの接触面にポリビニルアルコール系樹脂粒子を塗布した金型を用いてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、摩擦伝動ベルトの圧縮ゴム層の伝動面の表面にポリビニルアルコール系樹脂を含む表層が積層されているため、摩擦伝動面の摩擦状態を安定化して耐発音性(特に被水時の耐発音性)を向上できる。特に、表層がポリビニルアルコール系樹脂を含むため、強度や伸びなどの力学特性を維持しつつ、ポリビニルアルコール系樹脂が適度に水に溶解して摩擦伝動面において均一な水膜を形成するためか、被水時における摩擦伝動面とプーリ間のスリップによる発音を抑制できる。さらに、耐摩耗性などのベルト性能を維持した(ゴムの架橋阻害による性能低下が起こらない)まま、耐発音性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は本発明のVリブドベルトの一例を示す概略断面図である。
図2図2は実施例での接触角の測定方法を説明するための概略図である。
図3図3は実施例でのミスアライメント発音試験を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[表層]
本発明の摩擦伝動ベルトは、少なくとも一部がプーリと接触可能な伝動面を有する圧縮ゴム層を含み、前記伝動面の表面にポリビニルアルコール系樹脂を含む表層が積層されている。ポリビニルアルコール系樹脂は水溶性であり、圧縮ゴム層の表面において、表層として存在することにより、圧縮ゴム層の摩擦伝動面の水に対する濡れ性(ゴムと水との親和性)を向上できる。そのため、走行時に水が侵入してもベルトとプーリ間に水膜が均一に拡がり、摩擦状態を安定化して自励振動による発音を抑制できる。特に、実車エンジンのような回転変動がある場合でも、滑り速度に対する摩擦係数の変化を小さくして、スティック−スリップによる異音を低減して被水時の耐発音性を向上できる。
【0025】
表層は、プーリと接触可能な伝動面に積層されていればよいが、生産性などの点から、圧縮ゴム層の表面全体(露出した表面全体)に積層されていてもよい。
【0026】
表層は、ポリビニルアルコール系樹脂を含んでいればよいが、ポリビニルアルコール系樹脂で形成された表層(単一層)と、ポリビニルアルコール系樹脂粒子及びポリマー成分を含むゴム組成物で形成された表層(複合層)とに大別できる。
【0027】
(単一層)
単一層を構成するポリビニルアルコール系樹脂としては、ビニルアルコール単位を主単位として含んでいればよく、ビニルアルコール単位に加えて、他の共重合性単位をさらに含んでいてもよい。
【0028】
他の共重合性単位を構成する単量体としては、例えば、オレフィン類(エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセンなどのα−C2−10オレフィンなど)、不飽和カルボン酸類[(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸C1−6アルキルエステル、(無水)マレイン酸など]、ビニルエーテル類(メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテルなどのC1−6アルキルビニルエーテル類、エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテルなどのC2−6アルカンジオール−ビニルエーテルなど)、不飽和スルホン酸類(エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸など)などが挙げられる。これらの単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの単量体のうち、エチレンやプロピレンなどのα−C2−4オレフィンが汎用される。
【0029】
他の共重合性単位の割合は、全単位に対して50モル%以下であってもよく、例えば、0〜30モル%、好ましくは0.1〜20モル%、さらに好ましくは1〜10モル%程度である。ポリビニルアルコール系樹脂は、ビニルアルコール単位単独で構成されたホモポリマーであってもよい。
【0030】
ポリビニルアルコール系樹脂は、ビニルアルコール単位が疎水基で変性されていてもよい。疎水基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基などのC1−10アルキル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基などのアリール基などが挙げられる。これらの疎水基は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの疎水基のうち、エチル基やプロピル基などのC2−4アルキル基が好ましい。
【0031】
本発明では、共重合性単位や疎水基の割合を調整することにより、ポリビニルアルコール系樹脂の水に対する溶解度などを調整でき、トルクロスを抑制できる。
【0032】
ポリビニルアルコール系樹脂のビニルアルコール単位のケン化度は30モル%以上であってもよく、例えば30〜99.7モル%、好ましくは50〜97モル%、さらに好ましくは60〜93モル%(特に80〜89.5モル%)程度である。ビニルアルコール単位のケン化度は、耐発音性(特に被水時の耐発音性)を向上できる点から、85モル%以上であってもよく、例えば85〜99.7モル%、好ましくは86〜97モル%、さらに好ましくは86.5〜93モル%(特に86.5〜89.5モル%)程度である。本発明では、摩擦伝動面で均一な水膜を形成し易い点から、97モル%以下のケン化度が好ましく、部分ケン化物(86.5〜89.5モル%)が特に好ましい。また、水への溶解性が高くなり、水との濡れ性が向上してベルトとプーリとの間に均一な水膜を形成して摩擦状態を安定化できる点から、80モル%以下(例えば50〜80モル%)のケン化度であってもよい。なお、完全ケン化物のケン化度は97.5モル%以上(特に98モル%以上)であってもよい。
【0033】
ポリビニルアルコール系樹脂の粘度平均重合度は、例えば50〜3500、好ましくは100〜3200、さらに好ましくは200〜3000程度である。粘度平均重合度は、耐発音性(特に被水時の耐発音性)を向上できる点から、例えば300〜3500、好ましくは400〜3200、さらに好ましくは500〜3000(特に1000〜2500)程度であってもよい。重合度が大きすぎると、摩擦伝動面で均一な水膜を形成するのが困難となり、小さすぎると、均一な層形状(後述する複合層では粒子形状)を維持するのが困難となる虞がある。なお、本発明では、粘度平均重合度は、JIS K6726(1994)に準じた方法などで測定できる。
【0034】
ポリビニルアルコール系樹脂の融点は、特に限定されず、例えば、ベルトの加硫温度よりも低い温度[例えば、ベルトの加硫温度よりも0〜50℃(特に5〜30℃)程度低い温度]であってもよいが、加硫しても層形状を維持し易い点(後述する複合層では、粒子形状を保持し易い点)から、ベルトの加硫温度よりも高い温度が好ましく、例えば、ベルトの加硫温度よりも10℃以上(特に50℃以上)高くてもよい。ポリビニルアルコール系樹脂の融点は、例えば150℃以上(特に180℃以上)であってもよく、例えば180〜300℃、好ましくは200〜280℃、さらに好ましくは210〜250℃程度であってもよい。融点が低すぎると加硫により層形状が変形する虞(後述する複合層では、粒子が溶融し、ゴム組成物中に均一に分散させるのが困難となる虞)がある。
【0035】
ポリビニルアルコール系樹脂粒子の20℃における水への溶解度は5質量%以上(特に10質量%以上)であってもよく、例えば30質量%以上(特に50質量%以上)、好ましくは60質量%以上(例えば60〜99質量%)、さらに好ましくは80質量%以上(例えば80〜95質量%)程度であってもよい。ベルトが被水すると、走行時のベルト温度が低下するため、常温付近での溶解度が低すぎると、より低温域(例えば、常温付近)での摩擦伝動面の濡れ性が低下し、耐発音性が低下する虞がある。
【0036】
(複合層)
複合層は、ポリマー成分に加えて、前記ポリビニルアルコール系樹脂を粒子の形態で含むゴム組成物で形成されている。
【0037】
(1)ポリマー成分
ポリマー成分としては、公知のゴム成分及び/又はエラストマー、例えば、ジエン系ゴム[天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、水素化ニトリルゴム(水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩との混合ポリマーを含む)など]、エチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどが例示できる。これらのポリマー成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのポリマー成分のうち、有害なハロゲンを含まず、耐オゾン性、耐熱性、耐寒性を有し、経済性にも優れる点から、エチレン−α−オレフィンエラストマー(エチレン−プロピレンゴム(EPR)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDMなど)などのエチレン−α−オレフィン系ゴム)が好ましい。
【0038】
(2)ポリビニルアルコール系樹脂粒子
複合層では、ポリビニルアルコール系樹脂は粒子の形態で存在するため、伝動面で前記粒子を略均一に分散して突出せずに露出できる。さらに、複合層中において、ポリビニルアルコール系樹脂粒子の分散形態は、特に限定されず、複合層の表面に一部が露出した粒子と複合層中に完全に埋没した粒子とが混在して略均一に分散した形態であってもよく、複合層の表面に一部が露出した粒子のみが略均一に分散した形態であってもよい。前者の分散形態は、予め粒子を分散させたゴム組成物をシート化することにより容易に調製でき、後者の分散形態は、圧縮ゴム層の表面に粒子を部分的に付着させることにより容易に調製できる。
【0039】
ポリビニルアルコール系樹脂粒子を構成するポリビニルアルコール系樹脂は、前記単一層の項で例示されたポリビニルアルコール系樹脂と同一である。
【0040】
ポリビニルアルコール系樹脂粒子の個数平均粒径は、例えば10〜300μm、好ましくは15〜200μm、さらに好ましくは20〜100μm(特に50〜100μm)程度である。また、ポリビニルアルコール系樹脂粒子の個数平均粒径は、耐発音性(特に被水時の耐発音性)を向上でき、かつベルト走行中の粒子の脱落や粒子−ゴム間での亀裂の発生も抑制できる点から、比較的小粒径であってもよく、例えば10〜100μm、好ましくは20〜80μm、さらに好ましくは30〜50μm(特に35〜45μm)程度であってもよい。小粒径の粒子が耐発音性を向上できる理由は、均一な分散により水に対する濡れ性が向上し、ベルト走行中の粒子の脱落や粒子−ゴム間での亀裂の発生を抑制できるためであると推定できる。粒径が大きすぎると、圧縮ゴム層の機械的特性や耐久性が低下する虞がある。一方、粒径が小さすぎると、ゴム組成物中に均一に充填、分散させるのが困難となり、耐発音性が低下する虞がある。なお、本発明では、個数平均粒径は、粒子が異方形状である場合、長径と短径との平均値で示す。
【0041】
ポリビニルアルコール系樹脂粒子の最大粒径は500μm以下であってもよく、例えば400μm以下、好ましくは350μm以下(例えば300μm以下)、さらに好ましくは200μm以下(特に180μm以下)であってもよい。ポリビニルアルコール系樹脂粒子の最小粒径は1μm以上であってもよく、例えば3μm以上、好ましくは5μm以上、さらに好ましくは8μm以上であってもよい。最大粒径が大きすぎると、耐発音性が低下する虞がある。
【0042】
ポリビニルアルコール系樹脂粒子の平均アスペクト比(短径に対する長径の比)が10以下(例えば1〜10)であってもよく、例えば1〜5、好ましくは1〜3、さらに好ましくは1〜2(例えば1.2〜1.9)程度である。また、ポリビニルアルコール系樹脂粒子のアスペクト比は、被水時の耐発音性を向上できる点から、例えば1.5〜5、好ましくは1.6〜3、さらに好ましくは1.8〜2.5程度であってもよい。アスペクト比が大きすぎると、ゴム組成物の変形時に界面へ応力集中を生じ、ゴム組成物の破断伸びが低下する虞がある。
【0043】
なお、本発明では、個数平均粒径、平均アスペクト比は、50倍で撮影した走査型電子顕微鏡写真を基に寸法を計測する方法などで測定できる。
【0044】
ポリビニルアルコール系樹脂粒子は、このような形状を有しているため、ゴム組成物の変形時に、ゴムとポリビニルアルコールとの界面におけるせん断や引張りの応力集中が生じ難い。そのため、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス(RFL)液などの接着成分により接着処理をしなくても、ゴム組成物中に粒子を固定できる。また、ポリビニルアルコールは水酸基(親水基)の他に酢酸基(疎水基)が存在するため、界面活性能を有し、表層を形成するポリマー成分へ容易に均一に分散できる。
【0045】
ポリビニルアルコール系樹脂粒子の割合は、ポリマー成分100質量部に対して1質量部以上程度であればよく、例えば1〜50質量部、好ましくは3〜40質量部(例えば5〜30質量部)、さらに好ましくは5〜35質量部(特に10〜30質量部)程度である。また、ポリビニルアルコール系樹脂粒子の割合は、被水時の耐発音性を向上できる点からは多い方が好ましく、ポリマー成分100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、例えば10〜50質量部、好ましくは15〜40質量部、さらに好ましくは20〜30質量部程度であってもよい。ポリビニルアルコール系樹脂粒子の割合が少なすぎると、耐発音性が低下する虞がある。
【0046】
(3)他の添加剤
ゴム組成物には、後述する圧縮ゴム層の項で例示される補強材、添加剤(又は配合剤)をさらに含んでいてもよい。これらのうち、少なくとも加硫剤を含むのが好ましいが、層間の密着性や生産性などの点から、圧縮ゴム層と同一の補強材及び添加剤を含んでいてもよい。補強材及び添加剤の割合も圧縮ゴム層に記載された範囲から選択でき、圧縮ゴム層と同一の割合であってもよい。
【0047】
(表層の厚み)
表層の厚み(平均厚み)は1〜1500μm程度から選択でき、単一層の場合、例えば1〜500μm、好ましくは5〜300μm、さらに好ましくは10〜150μm程度であり、複合層の場合、例えば100〜1500μm、好ましくは150〜800μm、さらに好ましくは200〜600μm程度である。表層の厚みが薄すぎると、耐発音性を向上する効果が低下する虞があり、耐発音性の耐久性も低下する虞がある。一方、表層の厚みが厚すぎると、圧縮ゴム層の力学特性が低下する虞がある。
【0048】
本発明では、表層の平均厚みは、走査型電子顕微鏡を用いて、摩擦伝動ベルトの圧縮ゴム層部分の断面を観察して測定し、ポリビニルアルコール系樹脂を含む表層について10箇所の平均値を算出することにより求めた。
【0049】
[圧縮ゴム層]
圧縮ゴム層は、ポリマー成分を含むゴム組成物で形成されている。ポリマー成分は、前記表層における複合層の項で例示されたポリマー成分を利用でき、好ましいポリマー成分も複合層と同様である。層間密着性の点から、複合層を構成するポリマー成分と同一のポリマー成分が好ましい。
【0050】
(補強材)
圧縮ゴム層のゴム組成物は、機械的強度を向上させるために、補強材を含んでいてもよい。補強材には、慣用の充填剤及び補強繊維などが含まれる。
【0051】
充填剤としては、例えば、炭素質材料(カーボンブラック、グラファイトなど)、金属化合物又は合成セラミックス(酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなどの金属酸化物、ケイ酸カルシウムやケイ酸アルミニウムなどの金属ケイ酸塩、炭化ケイ素や炭化タングステンなどの金属炭化物、窒化チタン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素などの金属窒化物、炭酸マグネシウムや炭酸カルシウムなどの金属炭酸塩、硫酸カルシウムや硫酸バリウムなどの金属硫酸塩など)、鉱物質材料(ゼオライト、ケイソウ土、焼成珪成土、活性白土、アルミナ、シリカ、タルク、マイカ、カオリン、セリサイト、ベントナイト、モンモリロナイト、スメクタイト、クレーなど)などが挙げられる。これらの充填剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。充填剤の形状は、粒状、板状、不定形状などである。充填剤の個数平均一次粒径は、種類に応じて、10nm〜10μm程度の範囲から適宜選択できる。これらの充填剤のうち、カーボンブラックなどの炭素質材料、シリカなどの鉱物質材料などが汎用され、カーボンブラックが好ましい。
【0052】
カーボンブラックの個数平均一次粒径は、5〜200nm程度の範囲から選択でき、例えば10〜100nm、さらに好ましくは15〜80nm(特に20〜50nm)程度である。粒径が大きすぎると、圧縮ゴム層の力学特性が低下する虞がある。
【0053】
補強繊維としては、例えば、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維など)、ポリアミド繊維(ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維、ポリアミド46繊維、アラミド繊維など)、ポリエステル繊維[ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維などのポリC2−4アルキレンC6−14アリレート系繊維など]、ビニロン繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維などの合成繊維;綿、麻、羊毛などの天然繊維;炭素繊維などの無機繊維が例示できる。これらの繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0054】
これらの短繊維のうち、アラミド繊維などのポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ビニロン繊維などから選択された少なくとも一種が好ましい。補強繊維はフィブリル化していてもよい。
【0055】
補強繊維は、通常、短繊維の形態で圧縮ゴム層に含有させてもよく、短繊維の平均長さは、例えば、0.1〜20mm、好ましくは0.5〜15mm、より好ましくは1〜10mmであり、1〜5mm(例えば、2〜4mm)程度であってもよい。補強繊維の平均繊維径は、例えば1〜100μm、好ましくは3〜50μm、さらに好ましくは5〜40μm(特に10〜30μm)程度である。
【0056】
補強材の割合は、ポリマー成分100質量部に対して40質量部以上であり、例えば45〜100質量部、好ましくは50〜90質量部、さらに好ましくは55〜80質量部(特に60〜70質量部)程度である。
【0057】
充填剤の割合は、ポリマー成分100質量部に対して10質量部以上であり、例えば20〜100質量部、好ましくは30〜90質量部、さらに好ましくは35〜80質量部(特に40〜70質量部)程度である。
【0058】
補強繊維の割合は、ポリマー成分100質量部に対して80質量部以下(例えば0〜80質量部)であり、例えば60質量部以下(例えば1〜60質量部)、好ましくは50質量部以下(例えば5〜50質量部)、さらに好ましくは40質量部以下(例えば10〜40質量部)程度である。
【0059】
(他の添加剤又は配合剤)
ゴム組成物は、必要により、慣用の添加剤又は配合剤を含んでいてもよい。配合剤としては、例えば、加硫剤又は架橋剤[例えば、オキシム類(キノンジオキシムなど)、グアニジン類(ジフェニルグアニジンなど)、金属酸化物(酸化マグネシウム、酸化亜鉛など)、有機過酸化物(ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイドなど)など]、加硫助剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、可塑剤、軟化剤(パラフィンオイル、ナフテン系オイルなどのオイル類など)、加工剤又は加工助剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィンなど)、老化防止剤(芳香族アミン系、ベンズイミダゾール系老化防止剤など)、接着性改善剤[レゾルシン−ホルムアルデヒド共縮合物、ヘキサメトキシメチルメラミンなどのメラミン樹脂、これらの共縮合物(レゾルシン−メラミン−ホルムアルデヒド共縮合物など)など]、着色剤、粘着付与剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤など)、潤滑剤、難燃剤、帯電防止剤などが例示できる。これらの配合剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用でき、ポリマー成分の種類や用途、性能に応じて適宜選択して用いられる。
【0060】
本発明では、表層がポリビニルアルコール系樹脂を含むため、圧縮ゴム層は、ポリビニルアルコール系樹脂を含む必要はなく、含む場合でも、圧縮ゴム層の力学特性を維持できる点から、表層よりも低濃度でポリビニルアルコール系樹脂を含むのが好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂(特にポリビニルアルコール系樹脂粒子)の割合は、ポリマー成分100質量部に対して50質量部未満であればよく、例えば20質量部以下(例えば0.001〜20質量部)、好ましくは10質量部以下(例えば0.005〜10質量部)、さらに好ましくは5質量部以下(例えば0.01〜5質量部)程度であり、力学特性の点からは、ポリビニルアルコール系樹脂粒子を実質的に含まないのが好ましく、ポリビニルアルコール系樹脂粒子を含まないのが特に好ましい。
【0061】
さらに、本発明では、表層のポリビニルアルコール系樹脂により、被水時の摩擦伝動面に均一な水膜を形成できるため、力学特性の点から、圧縮ゴム層は、ポリビニルアルコール系樹脂以外の界面活性剤を実質的に含んでいないのが好ましい。圧縮ゴム層において、ポリビニルアルコール系樹脂以外の界面活性剤の割合は、圧縮ゴム層を形成するゴム組成物全体に対して10質量%以下(特に1質量%以下)であってもよく、実質的に(不可避的不純物を除き)ポリビニルアルコール系樹脂以外の界面活性剤を含まないのが特に好ましい。
【0062】
[摩擦伝動ベルトの構造]
本発明の摩擦伝動ベルトは、通常、伸張ゴム層と、この伸張ゴム層の一方の面に積層された圧縮ゴム層と、この圧縮ゴム層の伝動面に積層された表層と、前記伸張ゴム層と前記圧縮ゴム層との間にベルト長手方向に沿って埋設される芯体(心線)とを備えている。詳しくは、本発明の摩擦伝動ベルトは、外周面を形成する伸張ゴム層と、この伸張ゴム層の一方の面に積層され、内周面を形成する圧縮ゴム層と、この圧縮ゴム層の伝動面に積層された表層と、前記伸張ゴム層と圧縮ゴム層との間に長手方向に延びて介在する芯体とを備えていてもよい。また、本発明の摩擦伝動ベルトは、伸張ゴム層と圧縮ゴム層との間に介在する接着ゴム層(接着層)をさらに有していてもよく、前記芯体は、前記接着ゴム層内に埋設してもよい。
【0063】
摩擦伝動ベルトの種類は特に限定されず、Vベルト[ローエッジベルト(断面V字形状などの形態のローエッジベルト)、ローエッジコグドベルト(ローエッジベルトの内周側又は内周側及び外周側の双方にコグが形成されたローエッジコグドベルト)]、Vリブドベルト、平ベルトなどが例示できる。これらのベルトのうち、伝動効率の高いVリブドベルトが好ましい。
【0064】
Vリブドベルトの形態は、特に制限されず、例えば、図1に示す形態が例示される。図1は本発明の摩擦伝動ベルトの一例を示す概略断面図である。この形態では、Vリブドベルト1は、ベルト下面(内周面)からベルト上面(背面)に向かって順に、表層6、圧縮ゴム層5、ベルト長手方向に芯体4を埋設した接着ゴム層3、カバー帆布(織物、編物、不織布など)で構成された伸張ゴム層2を積層した形態を有している。圧縮ゴム層5には、ベルト長手方向に伸びる複数の断面V字状の溝が形成され、この溝の間には断面V字形(逆台形)の複数のリブが形成されおり、このリブの二つの傾斜面(表面)が摩擦伝動面を形成し、プーリと接して動力を伝達(摩擦伝動)する。
【0065】
本発明の摩擦伝動ベルトはこの形態に限定されず、伸張ゴム層と圧縮ゴム層と、その間にベルト長手方向に沿って埋設される芯体とを備えていればよく、例えば、伸張ゴム層2をゴム組成物で形成してもよく、接着ゴム層3を設けることなく伸張ゴム層2と圧縮ゴム層5との間に芯体4を埋設してもよい。さらに、接着ゴム層3を圧縮ゴム層5又は伸張ゴム層2のいずれか一方に設け、芯体4を接着ゴム層3(圧縮ゴム層5側)と伸張ゴム層2との間、もしくは接着ゴム層3(伸張ゴム層2側)と圧縮ゴム層5との間に埋設する形態であってもよい。また、表層6の表面(特に、摩擦伝動面)にパウダー状繊維(例えば、綿、ナイロン、アラミドなど)を植毛した形態でもよく、潤滑剤などをスプレー塗布する形態であってもよい。
【0066】
なお、少なくとも表層及び圧縮ゴム層が前記ゴム組成物で形成されていればよく、伸張ゴム層及び接着ゴム層は、前記表層及び圧縮ゴム層の前記ゴム組成物で形成されていなくてもよい。なお、伸張ゴム層及び接着ゴム層を形成するゴム組成物は、通常、圧縮ゴム層を形成するゴム組成物で形成されている。
【0067】
芯体としては、特に限定されないが、通常、ベルト幅方向に所定の間隔で配列した心線(撚りコード)を使用できる。心線は、高モジュラスな繊維、例えば、ポリエステル繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維)、アラミド繊維などの合成繊維、炭素繊維などの無機繊維などが汎用され、ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート系繊維、ポリエチレンナフタレート系繊維)、アラミド繊維が好ましい。繊維はマルチフィラメント糸、例えば、繊度2000〜10000デニール(特に4000〜8000デニール)程度のマルチフィラメント糸であってもよい。
【0068】
心線としては、通常、マルチフィラメント糸を使用した撚りコード(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚りなど)を使用できる。心線の平均線径(撚りコードの繊維径)は、例えば、0.5〜3mm、好ましくは0.6〜2mm、さらに好ましくは0.7〜1.5mm程度であってもよい。心線はベルトの長手方向に埋設され、単数又は複数の心線がベルトの長手方向に平行に所定のピッチで並列的に埋設されていてもよい。
【0069】
ポリマー成分との接着性を改善するため、心線は、エポキシ化合物、イソシアネート化合物などによる種々の接着処理を施した後に、伸張ゴム層と圧縮ゴム層との間(特に接着ゴム層)に埋設してもよい。
【0070】
さらに、伸張ゴム層は補強布、例えば、織布、広角度帆布、編布、不織布などの布材(好ましくは織布)を有していてもよい。補強布は、必要であれば、前記接着処理を施し、伸張ゴム層の表面に積層してもよい。
【0071】
[ベルトの製造方法]
摩擦伝動ベルトの製造方法は、円筒状ドラムに未加硫ゴムシートを巻き付ける圧縮ゴム層巻付工程、前記未加硫ゴムシートを金型に押し付けて加硫する加硫成形工程を含む方法を採用でき、前記圧縮ゴム層巻付工程及び前記加硫成形工程のいずれかの工程で表層を形成する。
【0072】
表層を形成する方法以外は、金型で成形する方法であれば、特に限定されず、慣用の方法を利用できる。慣用の方法としては、例えば、円筒状ドラムに芯体を形成する心線を巻き付ける心線スピニング工程、巻き付けた心線の上に、未加硫ゴムシートを巻き付ける圧縮ゴム層巻付工程、前記心線及び前記未加硫ゴムシートを金型に押し付けて(金型で押圧して)加硫する加硫成形工程を含む方法を利用でき、伸張ゴム層や接着ゴム層を形成する場合は、心線スピニング工程の前工程として、円筒状の成形ドラムに装着された可撓性ジャケット(ブラダー)の上に、伸張ゴム層(ゴムシート又は補強布)を構成する部材、必要に応じて接着ゴム層を形成するゴムシートを巻き付ける工程を含んでいてもよく、巻き付けた部材の上さらに心線を螺旋状にスピニングしてもよい。
【0073】
具体的には、慣用の方法では、先ず、内型として外周面に可撓性ジャケットを装着した円筒状内型を用い、外周面の可撓性ジャケットに未加硫の伸張ゴム層用シートを巻きつけ、このシート上に芯体を形成する心線を螺旋状にスピニングし、さらに未加硫の圧縮ゴム層用シートを巻き付けて積層体を作製する。次に、前記内型に装着可能な外型として、内周面に複数のリブ型が刻設された筒状外型を用い、この外型内に、前記積層体が巻き付けられた内型を、同心円状に設置する。その後、可撓性ジャケットを外型の内周面(リブ型)に向かって膨張させて積層体(圧縮ゴム層)をリブ型に圧入し、加硫する。そして、外型より内型を抜き取り、複数のリブを有する加硫ゴムスリーブを外型から脱型した後、カッターを用いて、加硫ゴムスリーブをベルト長手方向に所定の幅にカットしてVリブドベルトに仕上げる。この方法では、伸張ゴム層、芯体、圧縮ゴム層を備えた積層体を一度に膨張させて複数のリブを有するスリーブ(又はVリブドベルト)に仕上げることができる。
【0074】
一方、他の方法として、例えば、特開2004−82702号公報に開示される方法(圧縮ゴム層のみを膨張させて予備成形体(半加硫状態)とし、次いで伸張ゴム層と芯体とを膨張させて前記予備成形体に圧着し、加硫一体化してVリブドベルトに仕上げる方法)を採用してもよい。
【0075】
表層を形成する方法は、このような慣用の方法において、圧縮ゴム層巻付工程及び加硫成形工程のいずれかの工程に組み込むことができ、例えば、(1)圧縮ゴム層巻付工程において、未加硫ゴムシートとして、表層を形成するための未加硫ゴム層(ゴム組成物)と圧縮ゴム層を形成するための未加硫ゴム層との積層シートを用いる方法、(2)圧縮ゴム層巻付工程において、未加硫ゴムシートとして、圧縮ゴム層を形成するための未加硫ゴムシートの表面にポリビニルアルコール系樹脂粒子を塗布したシートを用いる方法、(3)加硫成形工程において、金型として、未加硫ゴムシートとの接触面にポリビニルアルコール系樹脂粒子を塗布した金型を用いる方法などが挙げられる。
【0076】
方法(1)において、積層シートの調製方法は、特に限定されず、慣用の方法を利用でき、例えば、圧延などにより別個に作製した各々の未加硫シートを積層してもよく、共押出で成形した積層シートであってもよい。方法(1)では、通常、ポリビニルアルコール系樹脂粒子を含むゴム組成物で表層を調製できるため、表面に一部が露出した粒子と層中に完全に埋没した粒子とが混在して略均一に分散した形態を有する複合層を容易に形成できる。
【0077】
方法(2)及び(3)において、ポリビニルアルコール系樹脂粒子は、粒子自体を塗布(散布)又は付着させて(吹き付けて)もよく、溶媒中に粒子を分散させた液状組成物を塗布してもよい。また、ポリビニルアルコール系樹脂粒子を含む液状ゴム組成物(ゴム糊)を塗布又は吹き付けてもよい。
【0078】
ポリビニルアルコール系樹脂粒子自体を散布又は吹き付ける方法としては、粒子を帯電させて吹き付ける静電塗装方法や、特開2004−116755号公報に記載の方法及び装置を用いる方法などが挙げられる。
【0079】
塗布方法としては、慣用の方法、例えば、コーター法、流延法、ディップ法、スプレー法、スピナー法などが挙げられる。これらの方法のうち、コーター法やスプレー法などが汎用される。なお、必要であれば、塗布液は複数回に亘り塗布してもよい。
【0080】
液状組成物又は液状ゴム組成物を構成する溶媒としては、例えば、水、アルコール類(例えば、エタノール、イソプロパノールなどのアルカノール類など)、炭化水素類(例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類)、エーテル類(例えば、ジエチルエーテルなどの鎖状エーテル;ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどの鎖状ケトン;シクロヘキサノンなどの環状ケトン)、エステル類(例えば、酢酸エチルなどの酢酸エステル)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなど)、カルビトール類などの汎用の溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は混合溶媒としてもよい。これらの溶媒は用途に応じて選択でき、例えば、水及び/又はアルコール類を用いて、均一な単一層を形成してもよく、他の溶媒を用いて、粒子形状を維持した複合層を形成してもよい。
【0081】
液状ゴム組成物を形成するゴム成分は、特に限定されないが、密着性の点から、圧縮ゴム層を形成するゴム成分と同一のゴム成分が好ましい。
【0082】
方法(2)及び(3)では、塗布厚みや液状組成物の固形分濃度を大きくすることにより、単一層を容易に形成でき、粒子自体を伝動面に部分的に散布したり、液状組成物の固形分濃度を小さくすることにより、表面に一部が露出した粒子のみが略均一に分散した形態を有する複合層を容易に形成できる。
【実施例】
【0083】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例でゴム組成物の成分の詳細と、測定した評価項目の評価方法を以下に示す。
【0084】
[ゴム組成物の成分]
EPDM:三井化学(株)製「EPT2060M」
PVA−A:ポリビニルアルコール完全ケン化品、ケン化度98.7〜99.7モル%、粘度平均重合度1700、融点222℃、電気化学工業(株)製「デンカポバールK−17C」
PVA−B:ポリビニルアルコール部分ケン化品、ケン化度86.5〜89.5モル%、粘度平均重合度600、融点193℃、電気化学工業(株)製「デンカポバールB−05S」
PVA−C:ポリビニルアルコール疎水基変性品、ケン化度93.0〜97.0モル%、粘度平均重合度1700、融点206℃、疎水基の種類:アルキル基、電気化学工業(株)製「デンカポバールF−300S」
PVA−D:ポリビニルアルコール完全ケン化品、ケン化度99モル%以上、粘度平均重合度1700、融点222℃、電気化学工業(株)製「デンカポバールK−177」
PVA−E:ポリビニルアルコール低ケン化品、ケン化度50〜80モル%、粘度平均重合度100〜400、融点156℃、日本酢ビ・ポバール(株)製「JMR−10MD」
超高分子量ポリエチレン(PE):ヘキサインダストリー社製「GUR4150」、平均粒径80μm、融点135℃
フッ素樹脂(PTFE):旭硝子(株)製「フルオンG190」、平均粒径25μm
ステアリン酸:日油(株)製「ステアリン酸つばき」
酸化亜鉛:正同化学工業(株)製「酸化亜鉛3種」
カーボンブラックHAF:東海カーボン(株)製「シースト3」、平均粒径28nm
タルク:富士タルク工業(株)製「RL217」、メディアン径20μm
老化防止剤A:ジフェニルアミン系老化防止剤(大内新興化学工業(株)製「ノクラックCD」)
老化防止剤B:メルカプトベンゾイミダゾール系老化防止剤(大内新興化学工業(株)製「ノクラックMB」)
軟化剤(パラフィンオイル):出光興産(株)製「ダイアナプロセスオイル」
共架橋剤:ジベンゾイル・キノンジオキシム、大内新興化学工業(株)製「バルノックDMG」
有機過酸化物:ジクミルパーオキサイド。
【0085】
[接触角]
加硫ゴムシートの表面と水との接触角θ(水滴の接線と表面とがなす角)は、図2に示すように、表面に水を滴下した水滴の投影写真から、θ/2法を用いて以下の式より求めることができる。
【0086】
θ=2θ …(1)
tanθ=h/r → θ=tan−1(h/r) …(2)
(式中、θは、表面に対して、水滴の端点(図2では左端点)と頂点とを結ぶ直線の角度であり、hは水滴の高さ、rは水滴の半径を示す)
【0087】
式(2)を式(1)に代入して、以下の式(3)が得られる。
【0088】
θ=2tan−1(h/r) …(3)
【0089】
接触角の測定は、全自動接触角計(協和界面科学(株)製「CA−W型」)を用いて滴下した水滴の投影写真からrとhを測定し、式(3)を用いて算出した。測定は滴下直後(1秒後)及び60秒後の接触角を算出した。接触角θが小さいほど表面は水との親和性に優れている。
【0090】
[摩擦係数]
加硫ゴムシートから直径8mm×厚さ2mmの円板状試験片を採取し、ピンオンディスク摩擦係数測定装置を用いて、摩擦力を測定し、摩擦係数を算出した。詳しくは、表面粗さRaが0.8μmである相手材(SUS304)により荷重2.192kgf/cmで試験片を押し付けて、30ml/分の水量で測定するときのみ試験片に水をかけて注水しながら、摩擦速度0〜2.0m/秒で摩擦力を測定し、摩擦速度(相手材に対する滑り速度)に対する摩擦係数の曲線の傾き(μ−V特性)を最小二乗法により算出した。なお、この傾きは、滑り速度に対する摩擦係数の変化を表す。
【0091】
[ウイリアム摩耗量]
加硫ゴムシートを用いて、JIS K6264(1993)に準じて測定した。
【0092】
[発音限界角度試験:ミスアライメント発音試験]
ミスアライメント発音評価試験(発音限界角度)は、直径101mmの駆動プーリ(Dr.)、直径70mmのアイドラープーリ(IDL1)、直径120mmのミスアライメントプーリ(W/P)、直径70mmのアイドラープーリ(IDL2)、直径61mmのテンションプーリ(Ten)、直径70mmのアイドラープーリ(IDL3)を順に配置した図3にレイアウトを示す試験機を用いて行い、アイドラープーリ(IDL1)とミスアライメントプーリの軸離(スパン長)を135mmに設定し、全てのプーリが同一平面上(ミスアライメントの角度0°)に位置するように調整した。
【0093】
すなわち、試験機の各プーリにVリブドベルトを懸架し、室温条件下で、駆動プーリの回転数が1000rpm、ベルト張力が6kgf/Rib(リブ)となるように張力を付与し、駆動プーリの出口付近においてVリブドベルトの摩擦伝動面に定期的(約30秒間隔)に5ccの水を注水して、ミスアライメント(ミスアライメントプーリを各プーリに対し手前側にずらす)でベルトを走行させた時の発音(ミスアライメントプーリの入口付近)が発生するときの角度(発音限界角度)を求めた。発音限界角度が大きいほど静粛性に優れている。なお、通常、3°付近でベルトがプーリからはずれて(すなわち、リブずれとなり)正常に動力伝達しない状態になる。
【0094】
[ポリビニルアルコール粒子の形状]
走査型電子顕微鏡((株)キーエンス製「VE−7800」)を用いて、原料のポリビニルアルコール粒子を、倍率50倍にて撮影後、画像解析ソフトを使用して、ポリビニルアルコール粒子の粒径(長径及び短径)を測定し、ポリビニルアルコール粒子の平均粒径及びアスペクト比を算出した。結果を表1に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
[ゴム層の調製]
圧縮ゴム層及び表層として、表2に示すゴム組成物をバンバリーミキサーでゴム練りし、この練りゴムをカレンダーロールに通して所定厚みの未加硫圧延ゴムシートを作製した。得られたシートの所定寸法を採取した後、165℃及び30分間の加硫条件でプレス加硫し、加硫ゴムシートを作製した。
【0097】
得られた加硫ゴムシートについて、水との接触角、摩擦係数、μ−V特性(摩擦係数の滑り速度に対する変化)、ウイリアム摩耗量を測定した結果を表2に示す。
【0098】
【表2】
【0099】
表2の結果から明らかなように、PVA樹脂粒子を配合したゴム組成物B〜Hは、PVA樹脂粒子を含まないゴム組成物Aに比べると、水との濡れ性が向上し、摩擦係数変化(μ−V曲線の傾き)が小さくなった。
【0100】
一方、ゴム組成物Iは、耐磨耗性に優れ、μ−V特性は他の配合より小さいが、摩擦係数自体が非常に小さいため、ベルトの伝動面に用いた場合、伝達性能が低くなると考えられる。さらに、ゴム組成物Iは、接触角が大きい(水との濡れ性が悪い)ため、被水時の耐発音性が低下すると考えられる。
【0101】
[比較例1]
表2のゴム組成物Aをバンバリーミキサーでゴム練りし、この練りゴムをカレンダーロールに通して厚み2.3mmの未加硫圧延ゴムシート(圧縮ゴム層用シート)を作製した。また、ゴム組成物Aを用い、圧縮ゴム層用シートと同様の方法で厚み0.3mmの接着ゴム層用シート及び厚み0.5mmの伸張ゴム層用シートを作製した。
【0102】
次に、これらのシートを用いて、前述の製造方法によりベルトを作製した。すなわち、エアー供給口及び天板を備えた金型のブラダーの外周に、伸張ゴム層用シート及び接着ゴム層用シートを順次巻き付け、接着ゴム層用シートの外周面に芯体となる心線をスパイラル状に巻き付けた後、さらにこの芯体の上に圧縮ゴム層用シートを巻き付け、金型にベルトスリーブを装着した。
【0103】
さらに、ベルトスリーブを巻き付けた前記金型を加硫型内にセットし、加熱・冷却媒体導入口を備えた加熱・冷却ジャケットで加熱しながら、ブラダーを膨張させ、ベルトスリーブを加硫型の内周面に押し付けて加圧することによって加硫した。加硫の条件は165℃、1.0MPa、30分間に設定した。このとき、加硫型の成形用凹凸部がベルトスリーブに外周から食い込むことによって、ベルトスリーブの外周に溝が成形された。
【0104】
次に、加硫型から金型を抜き出し、加硫型内に残る加硫ベルトスリーブを加熱・冷却ジャケットで冷却した後、加硫ベルトスリーブを加硫型から取り出した。そして、この加硫ベルトスリーブをカッターにより輪切りするように切断することによって、幅方向のリブ数が6個、周長が1100mmのVリブドベルトを得た。
【0105】
[比較例2]
圧縮ゴム層用シートを巻き付けた後、粉体塗装装置を用いて、吹付け量100g/mの条件で、タルクを吹き付け、タルクが付着した側が外側になるように芯体の上に巻き付ける以外は比較例1と同様にしてVリブドベルトを得た。得られたVリブドベルトの圧縮ゴム層の表面には、タルクで形成された表層(単一層)が積層されていた。
【0106】
[比較例3]
タルクの代わりにフッ素樹脂を用いる以外は比較例2と同様にしてVリブドベルトを得た。得られたVリブドベルトの圧縮ゴム層の表面には、フッ素樹脂で形成された表層(単一層)が積層されていた。
【0107】
[比較例4]
ゴム組成物Aとゴム組成物Iとを用いて、各々別個に圧延機で圧延したシート(ゴム組成物Aを圧延したシートの厚み1.7mm、ゴム組成物Iを圧延したシートの厚み0.6mm)を重ね合わせて積層シートを得た。ゴム組成物Iで形成された層が外側になるように心線の上に巻き付ける以外は比較例1と同様にしてVリブドベルトを得た。
【0108】
[実施例1]
ゴム組成物Iの代わりにゴム組成物Eを用いる以外は比較例4と同様にしてVリブドベルトを得た。
【0109】
[実施例2]
ゴム組成物Iの代わりにゴム組成物Fを用いる以外は比較例4と同様にしてVリブドベルトを得た。
【0110】
[実施例3]
ゴム組成物Iの代わりにゴム組成物Dを用いる以外は比較例4と同様にしてVリブドベルトを得た。
【0111】
[実施例4]
ゴム組成物Iの代わりにゴム組成物Gを用いる以外は比較例4と同様にしてVリブドベルトを得た。
【0112】
[実施例5]
ゴム組成物Iの代わりにゴム組成物Hを用いる以外は比較例4と同様にしてVリブドベルトを得た。
【0113】
[実施例6]
タルクの代わりにPVA−Bを用いる以外は比較例2と同様にしてVリブドベルトを得た。得られたVリブドベルトの圧縮ゴム層の表面には、ポリビニルアルコールで形成された表層(単一層)が積層されていた。
【0114】
比較例及び実施例で得られたベルトの発音限界角度を測定した結果を表3に示す。
【0115】
【表3】
【0116】
表3の結果から明らかなように、表層にポリビニルアルコールを含む実施例は、比較例に比べて、乾燥時及び被水時の発音限界角度が高く、耐発音性が向上した。
【0117】
特に、同じ配合量においてポリビニルアルコールの種類で比較すると、被水時の発音限界角度は、疎水基変性(PVA−C)>部分ケン化(PVA−B)>完全ケン化(小粒径PVA−D)>低ケン化・低融点(PVA−E)>完全ケン化(大粒径PVA−A)の順に小さくなり、疎水基変性品が最も被水時の耐発音性が優れていた。
【0118】
また、実施例3と実施例4との比較から、ポリビニルアルコール完全ケン化品では、被水時(WET)での摩擦係数変化(μ−V曲線の傾き)は、小粒径の粒子を用いた実施例4の方が小さかった。
【0119】
さらに、実施例5の結果から、低融点のポリビニルアルコール低ケン化品でも、被水時の耐発音性が良好で、実用できるレベルであった。ケン化度が小さいために、水への溶解性が高くなり、水との濡れ性が向上してベルトとプーリとの間に均一な水膜を形成して摩擦状態を安定化したためであると推定できる。また、ポリビニルアルコールの融点がゴムの加硫温度より低く、低重合度であっても、ゴム組成物中に分散した粒子が加硫により溶融した場合でも分散状態を保ったまま冷却されて固化したと推定できる。
【0120】
これに対して、表層にポリビニルアルコール以外の粒子を含む比較例2〜4及び粒子を含まない比較例1は、実施例に比べ、被水時の発音限界角度が小さく、耐発音性が低かった。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の摩擦伝動ベルトは、耐発音性が求められる種々のベルト、例えば、Vベルト、Vリブドベルトなどの摩擦伝動ベルトとして利用できる。また、本発明の摩擦伝動ベルトは、被水時の静音性を改善できるため、自動車、自動二輪車、農業機械など屋外で使用される伝動装置にも好適に利用できる。
【符号の説明】
【0122】
1…Vリブドベルト
2…伸張ゴム層
3…接着ゴム層
4…芯体
5…圧縮ゴム層
6…表層
図1
図2
図3