特許第6291472号(P6291472)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6291472ポリエステル樹脂組成物および該樹脂組成物を含む成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6291472
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂組成物および該樹脂組成物を含む成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20180305BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20180305BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20180305BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20180305BHJP
   C12P 7/62 20060101ALN20180305BHJP
【FI】
   C08L67/04ZBP
   C08L51/04
   C08K5/053
   !C08L101/16
   !C12P7/62
【請求項の数】9
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2015-500124(P2015-500124)
(86)(22)【出願日】2014年1月16日
(86)【国際出願番号】JP2014000188
(87)【国際公開番号】WO2014125764
(87)【国際公開日】20140821
【審査請求日】2016年11月28日
(31)【優先権主張番号】特願2013-24591(P2013-24591)
(32)【優先日】2013年2月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南 徹也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 紀之
【審査官】 松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−232230(JP,A)
【文献】 特開2006−137853(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0106162(US,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第1657280(EP,A1)
【文献】 国際公開第2006/121147(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0076191(US,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第1881036(EP,A1)
【文献】 国際公開第2006/121011(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0111921(US,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第1881035(EP,A1)
【文献】 特開2005−023165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08L 1/00 − 101/14
C08K 3/00 − 13/08
DB名 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580
(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヒドロキシアルカノエート(A)、グラフト共重合体(B)およびペンタエリスリトール(C)を含有する、脂肪族ポリエステル樹脂組成物であって、
前記ポリヒドロキシアルカノエート(A)は、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)単独重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシプロピオネート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘプタノエート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシオクタノエート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシノナノエート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシデカノエート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシウンデカノエート)共重合樹脂、及びポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)共重合樹脂から選択される1種以上であり、
前記グラフト共重合体(B)は、ポリオルガノシロキサン成分およびポリアルキル(メタ)アクリレート成分からなる複合ゴム(b1)、アクリル系ゴム(b2)、及び、ジエン系モノマーからなるジエン系ゴム(b3)からなる群から選択される少なくとも一種のゴムにビニル系単量体をグラフト重合して得られるものである、脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリヒドロキシアルカノエート(A)100重量部に対して、前記グラフト共重合体(B)を0.1〜100重量部含有する、請求項1に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記グラフト共重合体(B)における前記ビニル系単量体が、シアン化ビニル単量体、芳香族ビニル単量体、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種のビニル系単量体70〜100重量%、およびこれらと共重合可能な他のビニル系単量体30〜0重量%からなる、請求項1または2に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記グラフト共重合体(B)がアクリル系ゴム(b2)にビニル系単量体をグラフト重合して得られるものである、請求項1〜3の何れかに記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
前記アクリル系ゴム(b2)を構成する単量体が主としてアクリル酸エステルからなり、前記ビニル系単量体がメタクリル酸アルキルエステルを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
前記ジエン系ゴム(b3)が、ジエン系モノマー50〜100重量%、該ジエン系モノマーと共重合可能な他の単官能ビニル系モノマー50〜0重量%および1分子中に非共役の2重結合を2個以上有する多官能性単量体0〜5重量%(但し、ジエン系モノマー、他の単官能ビニル系モノマー及び多官能性単量体の合計は100重量%)を共重合して得られるものであり、前記ジエン系ゴム(b3)と、グラフト重合される前記ビニル系単量体の重量比が、ジエン系ゴム(b3)/ビニル系単量体=15/85〜90/10(wt/wt)であることを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリヒドロキシアルカノエート(A)100重量部に対して、前記ペンタエリスリトール(C)を0.05〜20重量部含有する、請求項1〜6の何れかに記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリヒドロキシアルカノエート(A)が、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)単独重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)共重合樹脂、及びポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)共重合樹脂から選択される1種以上である、請求項1〜の何れかに記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜の何れかに記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物を成形してなるポリエステル樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂組成物に関するものであり、特に微生物の働きによって分解される生分解性ポリエステル樹脂を、種々の産業用資材として適用するためのポリエステル樹脂組成物およびそれから構成される成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチック廃棄物が、生態系への影響、燃焼時の有害ガス発生、大量の燃焼熱量による地球温暖化等、地球環境への大きな負荷を与える原因となっている問題を解決できるものとして、生分解性プラスチックの開発が盛んになっている。
【0003】
中でも植物由来の生分解性プラスチックを燃焼させた際に出る二酸化炭素は、もともと空気中にあったもので、大気中の二酸化炭素は増加しない。このことをカーボンニュートラルと称し、二酸化炭素削減目標値を課した京都議定書の下、重要視され、積極的な使用が望まれている。
【0004】
最近、生分解性およびカーボンニュートラルの観点から、植物由来のプラスチックとして脂肪族ポリエステル樹脂が注目されており、特にポリヒドロキシアルカノエート(以下、PHAと称する場合がある)樹脂、さらにはPHA樹脂の中でもポリ(3−ヒドロキシブチレート)単独重合樹脂(以下、P3HBと称する場合がある)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート)共重合樹脂(以下、P3HB3HVと称する場合がある)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)共重合樹脂(以下、P3HB3HHと称する場合がある)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)共重合樹脂(以下、P3HB4HBと称する場合がある)およびポリ乳酸(以下、PLAと称する場合がある)等が注目されている。
【0005】
しかしながら、前記PHA樹脂はそのままでは耐衝撃強度や引張伸びが小さく、改善を図る必要がある。
【0006】
特許文献1には、ポリ乳酸系樹脂と、ポリオルガノシロキサンとアルキル(メタ)アクリレートゴムとを含有するポリオルガノシロキサン/アクリル系複合ゴムを用いたグラフト共重合体とからなる熱可塑性樹脂組成物の記載がある。しかし、樹脂組成物の耐衝撃強度が十分なものではない。
【0007】
特許文献2には、芳香族ポリエステルに、分散性の高い高分子量ビニル芳香族コポリマーを添加する事で、溶融強度を向上させる事ができると記載されている。しかしこのポリエステル樹脂組成物は、カーボンニュートラルという観点では好ましい材料ではない。
【0008】
特許文献3には、熱可塑性ポリマーであるポリエステルにアクリル化合物を配合して、真空成形、圧空成形等の成形加工性を改善できると記載されているが、ポリエステルとして、生分解性脂肪族ポリエステル系樹脂であるポリヒドロキシアルカノエートは挙げられていない。
【0009】
さらに、前記PHA樹脂は、結晶化速度が遅いことから、成形加工に際し、加熱溶融後、固化のための冷却時間を長くする必要があり、生産性が悪い、という問題点がある。
【0010】
このため、従来から、PHA樹脂に、窒化ホウ素、酸化チタン、タルク、層状ケイ酸塩、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、金属リン酸塩などの無機物を配合して結晶化を促進しようとする提案があった。しかし、その効果は不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−285258号公報
【特許文献2】特開平6−41376号公報
【特許文献3】特開2002−155207号公報
【特許文献4】特開2011−136428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、微生物の働きによって水と二酸化炭素に分解される生分解性ポリエステルの中でも、特にポリヒドロキシアルカノエートの欠点である結晶化の遅さ、並びに、耐衝撃強度及び引張伸びの低さを同時に改善して、射出成形などの成形加工における加工性を改善し、加工速度を向上するとともに、得られる成形品に靱性及び延性を付与することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、ポリヒドロキシアルカノエートに対して、特定のゴムにビニル系単量体をグラフト重合して得られるグラフト共重合体と、ペンタエリスリトールとを配合することで、加工性、耐衝撃強度及び引張伸びを同時に改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、ポリヒドロキシアルカノエート(A)、グラフト共重合体(B)およびペンタエリスリトール(C)を含有する、脂肪族ポリエステル樹脂組成物であって、前記グラフト共重合体(B)は、ポリオルガノシロキサン成分およびポリアルキル(メタ)アクリレート成分からなる複合ゴム(b1)、アクリル系ゴム(b2)、及び、ジエン系モノマーからなるジエン系ゴム(b3)からなる群から選択される少なくとも一種のゴムにビニル系単量体をグラフト重合して得られるものである、脂肪族ポリエステル樹脂組成物である。
【0015】
ポリヒドロキシアルカノエート(A)100重量部に対して、前記グラフト共重合体(B)を0.1〜100重量部、含有することが好ましい。
【0016】
前記グラフト共重合体(B)における前記ビニル系単量体が、シアン化ビニル単量体、芳香族ビニル単量体、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種のビニル系単量体70〜100重量%、およびこれらと共重合可能な他のビニル系単量体30〜0重量%からなることが好ましい。
【0017】
前記グラフト共重合体(B)がアクリル系ゴム(b2)にビニル系単量体をグラフト重合して得られるものであることが好ましい。
【0018】
前記アクリル系ゴム(b2)を構成する単量体が主としてアクリル酸エステルからなり、前記ビニル系単量体がメタクリル酸アルキルエステルを含むことが好ましい。
【0019】
前記ジエン系ゴム(b3)が、ジエン系モノマー50〜100重量%、該ジエン系モノマーと共重合可能な他の単官能ビニル系モノマー50〜0重量%および1分子中に非共役の2重結合を2個以上有する多官能性単量体0〜5重量%(但し、ジエン系モノマー、他の単官能ビニル系モノマー及び多官能性単量体の合計は100重量%)を共重合して得られるものであり、前記ジエン系ゴム(b3)と、グラフト重合される前記ビニル系単量体の重量比が、ジエン系ゴム(b3)/ビニル系単量体=15/85〜90/10(wt/wt)であることが好ましい。
【0020】
前記ポリヒドロキシアルカノエート(A)100重量部に対して、前記ペンタエリスリトール(C)を0.05〜20重量部含有することが好ましい。
【0021】
ポリヒドロキシアルカノエート(A)が、下記一般式(1)
[−CHR−CH−CO−O−] (1)
(式中、RはC2n+1で表されるアルキル基で、nは1以上15以下の整数である。)、で示される繰り返し単位を含むことが好ましい。
【0022】
ポリヒドロキシアルカノエート(A)が、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)単独重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート−コ−3-ヒドロキシヘキサノエート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)共重合樹脂、及びポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)共重合樹脂から選択される1種以上であることが好ましい。
【0023】
また本発明は、前記脂肪族ポリエステル樹脂組成物を成形してなるポリエステル樹脂成形体にも関する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の樹脂組成物によれば、ポリヒドロキシアルカノエートの結晶化の遅さ、並びに、耐衝撃強度及び引張伸びの低さを同時に改善して、射出成形などの成形加工における加工性を改善し、加工速度を向上するとともに、当該樹脂組成物から得られる成形品に靱性及び延性を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
【0026】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、PHA(A)と、グラフト共重合体(B)と、ペンタエリスリトール(C)とを含有することを特徴とする。
【0027】
本発明に用いるPHA(A)は、式(1) :[−CHR−CH−CO−O−](式中、RはC2n+1で表されるアルキル基で、nは1以上15以下の整数である。)で示される繰り返し単位を含む脂肪族ポリエステルである。
【0028】
PHAは、3−ヒドロキシブチレートが80モル%以上からなる重合樹脂であることが好ましく、より好ましくは85モル%以上からなる重合樹脂であり、微生物によって生産された物が好ましい。具体例としては、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)単独重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシプロピオネート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3-ヒドロキシバレレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘプタノエート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシオクタノエート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシノナノエート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシデカノエート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシウンデカノエート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)共重合樹脂等が挙げられる。特に、成形加工性および成形体物性の観点から、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)単独重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート−コ−3-ヒドロキシヘキサノエート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)共重合樹脂が好適に使用し得る。
【0029】
前記PHAにおいて、3−ヒドロキシブチレート(以下、3HBと称する場合がある)と、共重合しているコモノマー(例えば、3−ヒドロキシバレレート(以下、3HVと称する場合がある)、3−ヒドロキシヘキサノエート(以下、3HHと称する場合がある)、4−ヒドロキシブチレート(以下、4HBと称する場合がある))との構成比、即ち共重合樹脂中のモノマー比率としては、成形加工性および成形体品質等の観点から、3−ヒドロキシブチレート/コモノマー=97/3〜80/20(モル%/モル%)であることが好ましく、95/5〜85/15(モル%/モル%)であることがより好ましい。コモノマー比率が3モル%未満であると、成形加工温度と熱分解温度が近接するため成形加工し難い場合がある。コモノマー比率が20モル%を超えると、PHAの結晶化が遅くなるため生産性が悪化する場合がある。前記コモノマーは1種類であってもよいが、2種類以上を使用することもできる。前記コモノマーを2種類以上使用する場合であっても、共重合樹脂中のモノマー比率(3−ヒドロキシブチレート/コモノマー)の好ましい範囲は上記と同様である。
【0030】
前記PHAの共重合樹脂中の各モノマー比率は、以下のようにガスクロマトグラフィーによって測定できる。乾燥PHA約20mgに、2mlの硫酸/メタノール混液(15/85(重量比))と2mlのクロロホルムを添加して密栓し、100℃で140分間加熱して、PHA分解物のメチルエステルを得る。冷却後、これに1.5gの炭酸水素ナトリウムを少しずつ加えて中和し、炭酸ガスの発生が止まるまで放置する。4mlのジイソプロピルエーテルを添加してよく混合した後、上清中のPHA分解物のモノマーユニット比率をキャピラリーガスクロマトグラフィーにより分析することにより、共重合樹脂中の各モノマー比率を求められる。
【0031】
前記ガスクロマトグラフとしては、島津製作所社製「GC−17A」を用い、キャピラリーカラムにはGLサイエンス社製「NEUTRA BOND−1」(カラム長:25m、カラム内径:0.25mm、液膜厚:0.4μm)を用いる。キャリアガスとしてHeを用い、カラム入口圧を100kPaとし、サンプルは1μl注入する。温度条件は、8℃/分の速度で初発温度100℃から200℃まで昇温し、さらに200〜290℃まで30℃/分の速度で昇温する。
【0032】
本発明のPHAの重量平均分子量(以下、Mwと称する場合がある)は、20万〜250万が好ましく、25万〜200万がより好ましく、30万〜100万がさらに好ましい。重量平均分子量が20万未満では、機械物性等が劣る場合があり、250万を超えると、成形加工が困難となる場合がある。
【0033】
前記重量平均分子量の測定方法は、ゲル浸透クロマトグラフィー(昭和電工社製「Shodex GPC−101」)を用い、カラムにポリスチレンゲル(昭和電工社製「Shodex K−804」)を用い、クロロホルムを移動相とし、ポリスチレン換算した場合の分子量として求めることができる。この際、検量線は重量平均分子量31400、197000、668000、1920000のポリスチレンを使用して作成する。
【0034】
なお、前記PHAは、例えば、Alcaligenes eutrophusにAeromonas caviae由来のPHA合成酵素遺伝子を導入したAlcaligenes eutrophus AC32株(ブダペスト条約に基づく国際寄託、国際寄託当局:独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)、原寄託日:平成8年8月12日、平成9年8月7日に移管、寄託番号FERM BP−6038(原寄託FERM P−15786より移管))(J.Bacteriol.,179,4821(1997))等の微生物によって産生される。
【0035】
本発明に用いるグラフト共重合体(B)は、ポリオルガノシロキサン成分およびポリアルキル(メタ)アクリレート成分からなる複合ゴム(b1)、アクリル系ゴム(b2)、及び、ジエン系モノマーからなるジエン系ゴム(b3)からなる群から選択される少なくとも一種のゴムにビニル系単量体をグラフト重合して得られるものである。本発明においては、グラフト共重合体(B)を配合することにより、上記ポリヒドロキシアルカノエート(A)の耐衝撃強度及び引張伸びを改善することができる。
【0036】
まず初めに、ポリオルガノシロキサン成分およびポリアルキル(メタ)アクリレート成分からなる複合ゴム(b1)にビニル系単量体をグラフト重合して得られる複合ゴム系グラフト共重合体(以下、「グラフト共重合体(B1)」とも称する)について説明する。
【0037】
複合ゴム(b1)を構成するポリオルガノシロキサン成分は、シリコーンゴム鎖の主骨格を構成する成分であり、モノマーとして直鎖状または環状のオルガノシロキサンを使用することができる。これらのなかでも、乳化重合系への適用可能性および経済性の点から環状オルガノシロキサンが好ましい。その具体例としては、例えば、6〜12員環の、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
ポリオルガノシロキサン成分は、上記オルガノシロキサンと共に、必要に応じて使用される架橋剤、グラフト交叉剤およびその他のオルガノシランを共重合することにより得ることもできる。
【0039】
上記架橋剤は、上記オルガノシロキサンと共重合してシリコーンゴム中に架橋構造を導入してゴム弾性を発現するための成分である。その具体例としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリエトキシメチルシラン、トリエトキシエチルシラン、ブチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシランなど4官能あるいは3官能のシラン化合物が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
上記グラフト交叉剤は、分子内に重合性不飽和結合またはメルカプト基を有する反応性シラン化合物、分子内に重合性不飽和結合またはメルカプト基を有するオルガノシロキサンなどであり、上記オルガノシロキサンや上記架橋剤などと共重合することにより、共重合体の側鎖および(または)末端に重合性不飽和結合またはメルカプト基を導入するための成分である。上記重合性不飽和結合またはメルカプト基は本発明で用いられるグラフト共重合させるビニル系単量体のグラフト活性点になる。また、上記重合性不飽和結合またはメルカプト基はラジカル重合開始剤を用いてラジカル反応させた場合架橋点にもなる。なお、ラジカル反応によって架橋させた場合でも、一部はグラフト活性点として残るのでグラフトは可能である。
【0041】
分子内に重合性不飽和結合を有する上記反応性シラン化合物の具体例としては、例えば、β−メタクリロイルオキシエチルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジエトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリプロポキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジプロポキシメチルシラン、p−ビニルフェニルジメトキシメチルシラン、p−ビニルフェニルトリメトキシシラン、p−ビニルフェニルトリエトキシシラン、p−ビニルフェニルジエトキシメチルシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルメチルジメトキシシラン、アリルメチルジエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシランなどがあげられる。
【0042】
分子内にメルカプト基を有する上記反応性シラン化合物としては、例えば、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルジメトキシメチルシランなどがあげられる。
【0043】
これらのオルガノシロキサン、架橋剤、グラフト交叉剤およびその他のオルガノシランの使用割合は、通常、ポリオルガノシロキサン成分中オルガノシロキサン70〜99.9重量%、好ましくは85〜99.5重量%、架橋剤0〜10重量%、好ましくは0〜5重量%、グラフト交叉剤0〜10重量%、好ましくは0.3〜5重量%、その他のオルガノシラン0〜10重量%、好ましくは0〜5重量%であり、これらの合計が100重量%になるように使用するのが好ましい。なお、架橋剤およびグラフト交叉剤は同時に0%になることはなく、いずれかは0.1重量%以上使用するのが好ましい。上記オルガノシロキサンの割合が70重量%よりも少ない場合は、ゴムとしての性質に欠け、耐衝撃強度の発現効果が低くなる傾向にあり、また、99.9重量%よりも多い場合は、架橋剤、グラフト交叉剤及びその他のオルガノシランの量が少なくなりすぎて、これらを使用する効果が発現されにくくなる傾向にある。また、上記架橋剤あるいは上記グラフト交叉剤の割合があまりにも少ない場合には、耐衝撃強度の発現効果が低くなる傾向にあり、また、あまりにも多い場合にもゴムとしての性質に欠け、耐衝撃強度の発現効果が低くなる傾向にある。
【0044】
上記オルガノシロキサンは、ゴムラテックス状であることが好ましく、必要に応じて用いられる架橋剤およびグラフト交叉剤、さらには、これら以外のオルガノシランとの混合物を、乳化剤の存在下で機械的剪断により、水中に乳化分散して酸性状態で重合する方法により、ポリオルガノシロキサン成分を含有するシリコーンゴムラテックスを製造することができる。重合後に得られるシリコーンゴムの平均粒子径は、20〜600nmの範囲が好ましい。
【0045】
オルガノシロキサンのラテックスに使用する乳化剤は、酸性領域でも乳化剤として活性を失わないものであり、かかる乳化剤の例としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸、アルキルスルホン酸ナトリウム、(ジ)アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウムなどがあげられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。酸性状態としては、系に硫酸や塩酸などの無機酸やアルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、トリフルオロ酢酸などの有機酸を添加してpHを1.0〜3.0にするのが好ましい。
【0046】
ポリオルガノシロキサン成分を含有するシリコーンゴムラテックスを製造する際の重合温度としては、重合速度が適度である点から、60〜120℃が好ましく、70〜100℃がより好ましい。
【0047】
本発明で使用されるグラフト共重合体(B1)中の複合ゴム(b1)を構成するポリアルキル(メタ)アクリレート成分とは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を主成分とする単量体成分を重合することにより得られる重合体である。主成分である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と共に、必要により、分子内に重合性不飽和結合を2つ以上含む多官能性単量体及びその他の共重合可能な単量体などの単量体混合物を共重合することにより得られる重合体であってもよい。ポリ[アルキル(メタ)アクリレート]の重合方法は特に限定されないが、例えば、ラジカル重合開始剤および必要により連鎖移動剤も用いて通常の乳化重合法(例えば特開昭50−88169号公報や特開昭61−141746号公報に記載された方法など)によって重合する方法等が挙げられる。
【0048】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体は、ポリアルキル(メタ)アクリレート成分の主骨格を形成する成分である。その具体例としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどの炭素数1〜12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリルなどの炭素数4〜12のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル等があげられる。これらの単量体は単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。得られる重合体のガラス転移温度が低い点および経済性の点から、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体成分のうち、アクリル酸ブチルを40〜100重量%含むものが好ましく、60〜100重量%含むものがより好ましい。また、この場合、アクリル酸ブチル以外の共重合体成分として、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどを含んでもよい。
【0049】
上記分子内に重合性不飽和結合を2つ以上含む多官能性単量体は、ポリアルキル(メタ)アクリレート成分粒子に架橋構造を導入し、ネットワーク構造を形成してゴム弾性を発現させると共に、グラフト重合するビニル系単量体とのグラフト活性点を提供するために使用される成分である。その具体例としては、例えば、フタル酸ジアリル、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル、メタクリル酸アリル、アクリル酸アリル、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。これらのなかでは、架橋効率およびグラフト効率がよいという点から、メタクリル酸アリル、シアヌル酸トリアリルおよびイソシアヌル酸トリアリルが好ましい。
【0050】
複合ゴム(b1)中のポリアルキル(メタ)アクリレート成分を製造する際には、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、分子内に重合性不飽和結合を2つ以上含む多官能性単量体及びその他の共重合可能な単量体の合計量100重量%のうち、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を66.5〜99.9重量%使用するのが好ましく、85〜99.9重量%使用するのがより好ましい。また分子内に重合性不飽和結合を2つ以上含む多官能性単量体を0.1〜10重量%使用するのが好ましく、0.1〜5重量%するのがより好ましい。さらにその他の共重合可能な単量体を0〜20重量%使用するのが好ましく、0〜5重量%使用するのがより好ましい。なお、これらの成分は、その合計が100重量%となるように使用される。
【0051】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の使用割合が66.5重量%より少ない場合には、ゴムとしての性質に欠け、耐衝撃強度の発現効果が低下する可能性があり、99.9重量%よりも多い場合には、分子内に重合性不飽和結合を2つ以上含む多官能性単量体の割合が少なくなりすぎ、用いた効果が充分得られなくなる傾向がある。
【0052】
また、分子内に重合性不飽和結合を2つ以上含む多官能性単量体の使用割合が0.1重量%よりも少ない場合には、架橋密度が低すぎて耐衝撃強度の発現効果が低下するおそれがあり、10重量%よりも多い場合には、逆に架橋密度が高くなりすぎてやはり耐衝撃強度が低下する傾向ある。
【0053】
なお、その他の共重合可能な単量体は、屈折率や耐衝撃強度の調整などのために使用される成分で、所望の物性を得るために必要により添加することができる。その例として、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシル、メタクリル酸ヒドロキシルエチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸、アクリル酸、スチレン、置換スチレン、アクリロニトリル等が挙げられる。
【0054】
ポリオルガノシロキサン成分とポリアルキル(メタ)アクリレート成分とからなる複合ゴム(b1)は、例えば、上記のポリオルガノシロキサンを含有するシリコーンゴムラテックスの存在下に、ポリアルキル(メタ)アクリレート成分の単量体混合物をシード重合することにより得ることができる。また、逆に、ポリアルキル(メタ)アクリレート成分のゴムラテックスの存在下に、上記シリコーンゴムラテックスを製造するのに用いられる成分をそのままの状態で、またはエマルジョンにして追加して重合することにより得られる。また、ポリオルガノシロキサン成分のゴムラテックスとポリアルキル(メタ)アクリレート成分のゴムラテックスとを混合後、混合ラテックス100重量部(固形分)に対して、不飽和酸単量体1〜30重量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体35〜99重量%、およびこれらと共重合可能な他の単量体0〜35重量%を共重合させて調製した酸基含有共重合体ラテックス0.1〜15重量部(固形分)を添加して凝集共肥大させることにより複合ゴム(b1)が得られる。
【0055】
ポリオルガノシロキサン成分とポリアルキル(メタ)アクリレート成分との使用比率は、重量比でポリオルガノシロキサン成分/ポリアルキル(メタ)アクリレート成分=5/95〜90/10であるのが好ましく、10/90〜50/50であるのがより好ましい。上記比率が5/95よりも小さい場合には、アルキル(メタ)アクリレート成分が多くなり、耐衝撃強度が低下する傾向がある。また、上記比率が90/10よりも大きい場合には、重合転化率が著しく低くなり、未反応のオルガノシロキサンが多く残存して、製造効率が低下する傾向がある。
【0056】
本発明における複合ゴム(b1)の平均粒子径は、耐衝撃強度の発現の点から、0.02〜1.1μmが好ましく、0.03〜1μmがより好ましい。なお、本発明における複合ゴムの平均粒子径とは、透過型電子顕微鏡観察写真により、粒子50個の直径を測定した平均値である。
【0057】
本発明における複合ゴム(b1)のゲル含量は、70%以上が好ましく、80%以上が耐衝撃強度の発現の点から、より好ましい。
【0058】
なお、本発明におけるゲル含量とは、以下のようにして測定した値である。まずゴムラテックスの一部を塩析し、凝固、分離して洗浄した後、40℃で15時間乾燥させ、ゴムのクラムを得る。そのクラムを室温にて撹拌下、トルエンに8時間浸漬させ、その後、12000rpmにて60分間遠心分離してトルエン不溶分の乾燥重量分率を測定し、その値をゲル含量とする。
【0059】
グラフト共重合体(B1)において、複合ゴム(b1)にグラフト重合させる際に使用するビニル系単量体は特に限定されないが、好ましい具体例としては、例えば、アクリロニトリルやメタクリロニトリルなどのシアン化ビニル単量体、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレンなどの芳香族ビニル単量体、アクリル酸メチルやアクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸ヒドロキシエチルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸メチルやメタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸ヒドロキシエチルなどのメタクリル酸エステル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
グラフト共重合体(B1)においては、上記ビニル系単量体が、シアン化ビニル単量体、芳香族ビニル単量体、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種のビニル系単量体70〜100重量%、およびこれらと共重合可能な他のビニル系単量体30〜0重量%からなるのが好ましい。上記他のビニル系単量体としては無水マレイン酸、フェニルマレイミド、メタクリル酸、アクリル酸などがあげられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。より好ましくは、メタクリル酸アルキルエステル単量体10〜100重量%、アクリル酸アルキルエステル単量体0〜60重量%、芳香族ビニル単量体0〜90重量%、シアン化ビニル単量体0〜40重量%、およびこれらと共重合可能な他のビニル単量体0〜20重量%からなるものであり、その合計量が100重量%となるものである。
【0061】
複合ゴム(b1)にビニル系単量体をグラフト重合する際の、ビニル系単量体成分の添加および重合は、一段階で行っても良く、また多段階で行っても良く、特に限定はない。単量体成分の添加は、まとめて一括で添加して良く、連続して添加しても良く、2段階以上に分けて、それらの組み合わせで添加を行っても良く、特に限定はない。
【0062】
本発明においては、複合ゴム(b1)と上記ビニル系単量体の使用量の比が、重量比で複合ゴム(b1)/上記ビニル系単量体=5/95〜95/5であるのが好ましく、50/50〜90/10であるのがより好ましい。上記比が5/95よりも小さい場合にはゴム成分の含有量が少なくなりすぎて充分な耐衝撃強度が発現されなくなる傾向あり、95/5よりも大きい場合にはグラフトする単量体の量が少なく、ポリヒドロキシアルカノエート(A)と配合したときにマトリックス樹脂である該ポリヒドロキシアルカノエート(A)との相溶性が悪くなり、やはり耐衝撃強度が低下する傾向がある。
【0063】
上記グラフト重合は、通常の乳化重合法を用いることにより行うことができる。重合に用いるラジカル重合開始剤や連鎖移動剤は、通常のものが使用出来る。
【0064】
さらに、ビニル系単量体を別の重合機で重合した所謂フリーポリマーを、グラフト共重合体に添加することもできる。なお、グラフト組成とフリーポリマーの組成が同じでも、異なってもよいが、異なる場合には、互いに相溶性のある組成の方が物性面から好ましい。
【0065】
重合後の複合ゴム系グラフト共重合体(グラフト共重合体(B1))は、ポリヒドロキシアルカノエートと配合する際に、エマルジョンからポリマーを分離して使用してもよく、エマルジョンのまま使用してもよい。ポリマーを分離する方法としては、通常の方法、たとえばエマルジョンに塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムなどの金属塩を添加することによりエマルジョンを凝固、分離、水洗、脱水、乾燥する方法等があげられる。また、スプレー乾燥法も使用できる。
【0066】
次にアクリル系ゴム(b2)にビニル系単量体をグラフト重合して得られるグラフト共重合体(以下、「グラフト共重合体(B2)」とも称する)について説明する。
【0067】
グラフト共重合体(B2)は、アクリル系ゴム(b2)にビニル系単量体をグラフト重合して得られるグラフト共重合体である限り、その構造については特に限定されないが、アクリル系ゴム(b2)をコア層とし、ビニル系単量体からなる層をシェル層とするコア−シェル型グラフト共重合体であるのが好ましい。
【0068】
上記コア−シェル型グラフト共重合体において、コア層を形成するアクリル系ゴム(b2)は、1層のみの層構造を有するものであってもよく、あるいは2層以上の多層構造を有するものであってもよい。同様に、上記シェル層を形成する重合体も1層のみの層構造を有するものであってもよく、あるいは2層以上の多層構造を有するものであってもよい。通常、コア−シェル型グラフト共重合体は、ゴム状重合体と単量体混合物をグラフト共重合させて得られるものであり、多くの場合、ゴム状重合体を固形分として含むゴムラテックス存在下で単量体混合物をグラフト重合させて得られるものである。
【0069】
アクリル系ゴム(b2)を構成する単量体は、主としてアクリル酸エステルからなるのが好ましい。中でもアクリル系ゴム(b2)は主としてアクリル酸アルキルエステル単量体からなるものが好ましく、アクリル系ゴム(b2)を構成する単量体の全重量を100重量%とした場合に、アクリル酸アルキルエステル単量体50〜100重量%からなる単量体混合物を重合して得られる重合体であるのが特に好ましい。必要に応じ、他の成分として芳香族ビニル単量体、並びに、アクリル酸アルキルエステル単量体及び/又は芳香族ビニル単量体と共重合可能なビニル単量体から成る群から選択される単量体0〜50重量%を含んでもよい。また、必要に応じて、分子内に重合性不飽和結合を2つ以上含む多官能性単量体を0〜5重量%含んでもよい。これらの単量体の混合物を、例えば、乳化重合させることによって、アクリル系ゴムを含むゴムラテックスを得ることができる。乳化重合法により上記アクリル系ゴムを得た場合には、該アクリル系ゴムは水性媒体中に分散されたゴムラテックスの状態のままで、ビニル系単量体とのグラフト共重合に用いることができる。
【0070】
アクリル酸アルキルエステル単量体の具体例としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートなどの炭素数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらは、単独でも使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0071】
上記アクリル系ゴム(b2)におけるアクリル酸アルキルエステル単量体の使用量は、アクリル系ゴム(b2)を構成する単量体の全重量を100重量%とした場合に、50〜100重量%であるのが好ましく、60〜95重量%であるのがより好ましく、65〜95重量%であるのが更に好ましい。アクリル酸アルキルエステル単量体の使用量が50重量%未満では、最終的に得られる成形体の耐衝撃強度が充分に改善されない場合がある。
【0072】
アクリル系ゴム(b2)を構成する単量体として必要に応じて含まれてもよい芳香族ビニル単量体は、本発明のポリエステル樹脂組成物から最終的に得られる成形体の透明性を向上させる作用を有し、グラフト共重合体(B2)の屈折率とポリヒドロキシアルカノエート(A)の屈折率との差が小さくなるように調整するための成分である。芳香族ビニル単量体の具体例としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレンなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。ただし、屈折率の調整には、上記芳香族ビニル単量体を用いても、用いなくてもよい。
【0073】
アクリル系ゴム(b2)において、上記芳香族ビニル単量体は、アクリル系ゴム(b2)を構成する単量体の全重量を100重量%とした場合に、0〜50重量%の範囲で用いてもよい。50重量%を超えると、相対的にアクリル酸アルキルエステル単量体の使用量が少なくなり、耐衝撃強度の優れたアクリル系ゴム(b2)が得られにくくなる傾向がある。ただし、耐衝撃強度を重要視する場合には、0〜25重量%とすることが好ましく、0重量%とすることがより好ましい。
【0074】
なお、本発明に用いられるポリヒドロキシアルカノエート(A)と、アクリル系ゴム(b2)にビニル系単量体をグラフト重合して得られる上記グラフト共重合体(B2)との屈折率の差は、透明性を高める上で、0.02以下であることが好ましく、0.017以下であることがより好ましい。
【0075】
アクリル系ゴム(b2)を構成する単量体として必要に応じて含まれてもよい、アクリル酸アルキルエステル単量体及び/又は芳香族ビニル単量体と共重合可能なビニル単量体は、グラフト共重合体(B2)とポリヒドロキシアルカノエート(A)との相溶性の微調整を行うための成分である。これらの共重合可能なビニル単量体の具体例としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレートなどの炭素数1〜20のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル単量体や、4−ヒドロキシブチルアクリレートなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0076】
アクリル系ゴム(b2)において、アクリル酸アルキルエステル単量体及び/又は芳香族ビニル単量体と共重合可能なビニル単量体は、アクリル系ゴム(b2)を構成する単量体の全重量を100重量%とした場合に、0〜50重量%の範囲で用いてもよい。好ましくは0〜10重量%であり、より好ましくは0重量%である。50重量%を超えると、相対的にアクリル酸アルキルエステルの単量体の使用量が少なくなり、耐衝撃強度の優れたアクリル系ゴム(b2)が得られにくくなる場合がある。
【0077】
アクリル系ゴム(b2)を構成する単量体として必要に応じて含まれてもよい多官能性単量体は、得られるアクリル系ゴム(b2)中に架橋構造を形成させるための成分である。上記多官能性単量体の具体例としては、例えば、ジビニルベンゼン、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、ジアリルフタレート、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル、ジアクリレート系化合物、ジメタクリレート系化合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。上記多官能性単量体としては他に、マクロマーと呼ばれる両末端にラジカル重合可能な官能基を有する分子、例えば、α,ω−ジメタクリロイロキシポリオキシエチレンなどを用いることもできる。
【0078】
上記多官能性単量体は、アクリル系ゴム(b2)を構成する単量体の全重量を100重量%とした場合、0〜5重量%の範囲で用いてもよい。好ましくは0.1〜3重量%である。5重量%を超えると、相対的にアクリル酸アルキルエステル単量体の使用量が少なくなり、耐衝撃強度の優れたアクリル系ゴム(b2)が得られにくくなるため好ましくない。
【0079】
本発明におけるアクリル系ゴム(b2)を得る方法には特に限定がなく、アクリル酸アルキルエステル単量体、芳香族ビニル単量体、これらと共重合可能なビニル単量体、および多官能性単量体をそれぞれ所望量含有した単量体混合物に、水性媒体、重合開始剤、乳化剤などを配合し、例えば、通常の乳化重合法によって重合させ、ゴムラテックスに含有させた状態で得る方法などを採用することができる。
【0080】
アクリル系ゴム(b2)を得る際の、単量体混合物の添加および重合は、一段階で行っても良く、また多段階で行っても良く、特に限定はない。単量体混合物の添加は、まとめて一括で添加して良く、連続して添加しても良く、2段階以上に分けて、それらの組み合わせで添加を行っても良く、特に限定はない。
【0081】
上記単量体混合物は、水性媒体、開始剤、乳化剤などが予め導入された反応容器中に、アクリル酸アルキルエステル単量体、芳香族ビニル単量体、これらと共重合可能なビニル単量体、および多官能性単量体をおのおの別々に、あるいはそれらのいくつかの組み合わせで別々に導入し、反応容器中で撹拌混合して、ミセルの形で得ることもできる。この場合、反応容器内を重合開始可能な条件に移行することにより、例えば、通常の乳化重合法によって単量体混合物を重合させ、ゴムラテックスに含有させた状態でアクリル系ゴム(b2)を得ることができる。
【0082】
かくして得られるアクリル系ゴム(b2)のガラス転移温度は、0℃以下であるのが好ましく、−30℃以下であることがより好ましい。アクリル系ゴム(b2)のガラス転移温度が0℃を超えると、最終的に得られる成形体に大きな変形速度が加えられた場合に衝撃を吸収できない場合がある。
【0083】
上記グラフト共重合体(B2)において、アクリル系ゴム(b2)にグラフト重合されるビニル系単量体、特に上記コア−シェル型グラフト共重合体のシェル層を構成するビニル系単量体は、特に限定されないが、シアン化ビニル単量体、芳香族ビニル単量体、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種のビニル系単量体70〜100重量%と、上記ビニル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体0〜30重量%からなるものが好ましい。より好ましくは、メタクリル酸アルキルエステル単量体10〜100重量%、アクリル酸アルキルエステル単量体0〜60重量%、芳香族ビニル単量体0〜90重量%、シアン化ビニル単量体0〜40重量%、および上記ビニル系単量体と共重合可能な他のビニル単量体0〜20重量%からなるものであり、その合計量が100重量%となるものである。
【0084】
上記メタクリル酸アルキルエステル単量体は、グラフト共重合体とポリヒドロキシアルカノエートとの接着性を向上させ、本発明の最終的に得られる成形体の耐衝撃強度を向上させるために好ましい成分である。メタクリル酸アルキルエステル単量体の具体例としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレートなどの炭素数1〜5のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0085】
上記メタクリル酸アルキルエステル単量体は、ビニル系単量体の全重量を100重量%とした場合、好ましくは10〜100重量%の範囲で使用することができ、より好ましくは20〜100重量%であり、さらに好ましくは30〜100重量%である。メタクリル酸アルキルエステル単量体が10重量%未満では、最終的に得られる成形体の耐衝撃強度を充分に向上できない場合がある。さらに、メタクリル酸アルキルエステル単量体中に、好ましくは60〜100重量%、より好ましくは80〜100重量%のメチルメタクリレートを含有することにより、最終的に得られる成形体の耐衝撃強度を改善することができる。
【0086】
上記アクリル酸アルキルエステル単量体は、コア−シェル型グラフト共重合体のシェル層の軟化温度を調整することにより、最終的に得られる成形体中におけるグラフト共重合体(B2)のポリヒドロキシアルカノエート中への良好な分散を促進し、成形体の耐衝撃強度を向上させるための成分である。アクリル酸アルキルエステル単量体の具体例としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートなどの炭素数2〜12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0087】
上記アクリル酸アルキルエステル単量体は、ビニル系単量体の全重量を100重量%とした場合、0〜60重量%の範囲で使用することができ、好ましくは0〜50重量%であり、より好ましくは0〜40重量%である。アクリル酸アルキルエステル単量体が60重量%を超えると、相対的に上記メタクリル酸アルキルエステル単量体の使用量が少なくなり、最終的に得られる成形体の耐衝撃強度が充分に向上されない場合がある。
【0088】
上記芳香族ビニル単量体は、最終的に得られる成形体の透明性を向上させる作用を有し、グラフト共重合体(B2)の屈折率とポリヒドロキシアルカノエートの屈折率との差がなるべく小さくなるように調整するための成分である。芳香族ビニル単量体の具体例としては、例えば上記芳香族ビニル単量体の具体例として例示された単量体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0089】
上記芳香族ビニル単量体は、ビニル系単量体の全重量を100重量%とした場合、0〜90重量%の範囲で使用することができ、好ましくは0〜50重量%、より好ましくは0〜30重量%である。芳香族ビニル単量体が90重量%を超えると、相対的に上記メタクリル酸アルキルエステル単量体の使用量が少なくなり、最終的に得られる成形体の耐衝撃強度が充分に向上できない場合がある。
【0090】
上記シアン化ビニル単量体は、グラフト共重合体とポリヒドロキシアルカノエートとの相溶性の微調整を行うための成分である。シアン化ビニル単量体の具体例としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0091】
上記シアン化ビニル単量体は、ビニル系単量体の全重量を100重量%とした場合において、0〜40重量%での範囲で使用することができ、より好ましくは0重量%である。シアン化ビニル単量体40重量%を超えると、相対的に上記メタクリル酸アルキルエステル単量体の使用量が少なくなり、最終的に得られる成形体の耐衝撃強度が充分に向上されなくなる場合がある。
【0092】
上記共重合可能な他のビニル単量体は、ポリヒドロキシアルカノエートとの相溶性を改善したり、成形時の加工性を改良するための成分である。上記共重合能な他のビニル単量体の具体例としては、例えば、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、無水マレイン酸、フェニルマレイミド、メタクリル酸、アクリル酸などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0093】
上記共重合可能な他のビニル単量体は、ビニル系単量体の全重量を100重量%とした場合において、0〜20重量%の範囲で使用することができ、好ましくは0〜10重量%、より好ましくは0重量%である。上記共重合可能なビニル単量体が20重量%を超えると、相対的に上記メタクリル酸アルキルエステル単量体の使用量が少なくなり、最終的に得られる成形体の耐衝撃強度が充分に向上されなくなる場合がある。
【0094】
上記コア−シェル型グラフト共重合体は、上記アクリル系ゴム(b2)と上記ビニル系単量体を含有する単量体混合物とをグラフト共重合させて得られるものである。単量体混合物はグラフト共重合の結果としてコア−シェル型グラフト共重合体のシェル層を与える。
【0095】
コア−シェル型グラフト共重合体において、コア層を構成する上記アクリル系ゴム(b2)およびシェル層であるビニル系重合体の比率は、アクリル系ゴム(b2)5〜95重量部、シェル層重合体95〜5重量部であり、好ましくはアクリル系ゴム(b2)50〜95重量部、シェル層重合体50〜5重量部である。アクリル系ゴム(b2)が5重量部より少なく、シェル層重合体が95重量部より多くなると、最終的に得られる成形体の耐衝撃強度を充分に向上させることができないため好ましくない。また、アクリル系ゴム(b2)が95重量部より多く、シェル層重合体が5重量部より少なくなると、グラフト共重合体(B2)とポリヒドロキシアルカノエートとの接着性が失われて本発明の最終的に得られる成形体の耐衝撃強度、透明性が十分に向上されない場合がある。
【0096】
上記グラフト共重合体(B2)、特にコア−シェル型グラフト共重合体を得る方法には特に限定がなく、上記のごとく調製したガラス転移温度が0℃以下のアクリル系ゴム(b2)を含むゴムラテックスに、メタクリル酸アルキルエステル単量体、アクリル酸アルキルエステル単量体、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体、および共重合可能なビニル単量体をそれぞれ所望量含有した単量体混合物を添加し、重合開始剤などを配合して通常の重合法によって重合させ、グラフト共重合体ラテックスから粉末状のグラフト共重合体を得る方法などを採用することができる。
【0097】
なお、シェル層としての上記単量体混合物の添加および重合は、1段階で行ってもよく、多段階で行ってもよく、特に限定がない。上記単量体混合物の添加は、まとめて一括で添加して良く、連続して添加しても良く、2段階以上に分けてそれらの組み合わせで添加を行っても良く、特に限定されない。
【0098】
このようにして得られるコア−シェル型グラフト共重合体ラテックス中の粒子は、通常の電解質や酸の添加による塩析、凝析や熱風中に噴霧、乾燥させることにより、ラテックスから取り出される。また、必要に応じて、通常の方法により、洗浄、脱水、乾燥などが行なわれる。
【0099】
次に、ジエン系モノマーからなるジエン系ゴム(b3)に、ビニル系単量体をグラフト重合して得られるジエン系ゴムグラフト共重合体(以下、「グラフト共重合体(B3)」とも称する)について説明する。
【0100】
本発明におけるグラフト共重合体(B3)は、特に限定されないが、前記ジエン系ゴム(b3)と、前記ビニル系単量体の重量比が、ジエン系ゴム(b3)/ビニル系単量体=15/85〜90/10(wt/wt)であるのが好ましい。
【0101】
本発明のグラフト共重合体(B3)に使用されるジエン系ゴム(b3)は、特に限定されないが、ジエン系モノマー50〜100重量%、該ジエン系モノマーと共重合可能な他の単官能ビニル系モノマー50〜0重量%および、1分子中に非共役の2重結合を2個以上有する多官能性単量体0〜5重量%(但し、ジエン系モノマー、他の単官能ビニル系モノマー及び多官能性単量体の合計は100重量%)を共重合して得られるゴムであるのが好ましい。
【0102】
上記ジエン系モノマーとしては、例えば、ブタジエン、イソプレン等が挙げられ、ジエン系モノマーと共重合可能な他の単官能ビニル系モノマーとしては、例えば、シアン化ビニル単量体、芳香族ビニル単量体、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステル等が挙げられる。1分子中に非共役の2重結合を2個以上有する多官能性単量体として、例えば、フタル酸ジアリル、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル、メタクリル酸アリル、アクリル酸アリル、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。
【0103】
ジエン系ゴム(b3)の具体例としては、例えば、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、アクリル酸エステル−ブタジエンゴム、メタアクリル酸エステル−ブタジエンゴム、イソプレンゴム等が挙げられる。
【0104】
ジエン系ゴム(b3)の重合方法としては、溶液重合法、バルク重合法も可能であるが、グラフト重合の容易さ、ゴム粒径のコントロール、グラフト共重合体とポリヒドロキシアルカノエートとのブレンドのし易さから、乳化重合法が好ましい。
【0105】
乳化重合法は、公知の方法により実施することができ、例えば、ジエン系モノマー、水性媒体および、過酸化カリウム、ベンゾイルパーオキサイドなどの熱分解型開始剤、FeSO4−還元剤−有機パーオキサイド等のレドックス系等の開始剤などの公知の開始剤と、必要に応じて、メルカプタン化合物などの連鎖移動剤、乳化剤などを用いて重合することができる。
【0106】
ジエン系ゴム(b3)の重合時に使用する乳化剤としては、例えば、高級脂肪酸ナトリウム、高級脂肪酸カリウム、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸、アルキルスルホン酸ナトリウム、(ジ)アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウム等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0107】
上記乳化重合によりゴムラテックスを製造する際の重合温度は、重合速度が適度である点から、10〜90℃が好ましく、30〜70℃がより好ましい。
【0108】
上記ジエン系ゴム(b3)の平均粒子径は、0.05〜1μmの範囲が好ましく、0.1〜0.6μmがより好ましい。ジエン系ゴム(b3)の平均粒子径が0.05μm未満では、耐衝撃強度改善効果が不足する傾向があり、1μmを超えると、ジエン系ゴムラテックスが不安定になる傾向がある。
【0109】
なお、本発明におけるジエン系ゴム(b3)の平均粒子径とは、透過型電子顕微鏡観察において、粒子50個の直径を測定した平均値である。
【0110】
本発明のグラフト共重合体(B3)中のジエン系ゴム(b3)のゲル含量は、耐衝撃強度の発現の点から、50%以上が好ましく、70%以上がより好ましい。
【0111】
なお、ゲル含量とは、複合ゴム(b1)の説明部分にて述べた方法と同様の方法にて測定することができる。
【0112】
本発明のグラフト共重合体(B3)において、ジエン系ゴム(b3)にグラフト重合させる際に使用するビニル系単量体は特に限定されないが、好ましい具体例としては、例えば、アクリロニトリルやメタクリロニトリルなどのシアン化ビニル単量体、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレンなどの芳香族ビニル単量体、アクリル酸メチルやアクリル酸ブチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸ヒドロキシエチルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸メチルやメタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸ヒドロキシエチルなどのメタクリル酸エステル等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0113】
上記ビニル系単量体は、シアン化ビニル単量体、芳香族ビニル単量体、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種のビニル系単量体70〜100重量%および、これらと共重合可能な他のビニル系単量体30〜0重量%からなるものが、ポリヒドロキシアルカノエート(A)との相溶性の点から好ましい。シアン化ビニル単量体、芳香族ビニル単量体、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種のビニル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体としては、例えば、無水マレイン酸、フェニルマレイミド、メタクリル酸、アクリル酸などがあげられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0114】
本発明のグラフト共重合体(B3)におけるジエン系ゴム(b3)とビニル系単量体との重量比は、ジエン系ゴム(b3)/ビニル系単量体=15/85〜90/10(wt/wt)が好ましく、40/60〜80/20がより好ましい。上記比が15/85よりも小さい場合にはゴム成分の含有量が少なく、充分な耐衝撃強度が発現されなくなる傾向あり、90/10よりも大きい場合にはグラフトする単量体の量が少なく、ポリヒドロキシアルカノエート(A)と配合したときにマトリックス樹脂である該ポリヒドロキシアルカノエート(A)との相溶性が悪くなり、やはり耐衝撃強度が低下する傾向がある。
【0115】
上記グラフト重合は、通常の乳化重合法を用いることにより行うことができる。重合に用いるラジカル重合開始剤や連鎖移動剤は、通常のものが使用できる。
【0116】
さらに、ビニル系単量体を別の重合機で重合した所謂フリーポリマーを、グラフト共重合体に添加してもよいし、ポリヒドロキシアルカノエートとグラフト共重合体(B3)を配合する際に添加することもできる。なお、グラフト組成とフリーポリマーの組成が同じでも、異なってもよいが、異なる場合には、互いに相溶性のある組成の方が物性から好ましい。
【0117】
重合後のグラフト共重合体粒子は、ポリヒドロキシアルカノエートと配合する際にエマルジョンからポリマーを分離して使用してもよく、エマルジョンのまま使用してもよい。ポリマーを分離する方法としては、通常の方法、たとえばエマルジョンに塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムなどの金属塩あるいは塩酸、硫酸等の酸を添加することによりエマルジョンを凝固、分離、水洗、脱水、乾燥する方法等があげられる。また、スプレー乾燥法も使用できる。
【0118】
本発明におけるグラフト共重合体(B)(すなわち、グラフト共重合体(B1)、(B2)及び(B3))の使用量は、ポリヒドロキシアルカノエート(A)100重量部に対して、0.1〜100重量部である。上記使用量は、0.5〜50重量部が好ましく、0.5〜30重量部がより好ましい。グラフト共重合体(B)の使用量が0.1重量部未満では、耐衝撃強度改良効果が劣る傾向があり、100重量部を超えると、生分解性を阻害したり、ゴム成分が多くなり、柔らかくなる傾向がある。
【0119】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物には、ポリヒドロキシアルカノエートの結晶核剤としてペンタエリスリトール(C)が配合される。本発明では、ペンタエリスリトールは、ポリヒドロキシアルカノエートの結晶化速度を高めることに加えて、グラフト共重合体(B)との相乗的な効果により、ポリヒドロキシアルカノエートの耐衝撃強度及び引張伸びを改善する作用をも発揮する。
【0120】
ペンタエリスリトールとは、下記式(2)
【0121】
【化1】
【0122】
で示される化合物である。多価アルコール類の一種であり、融点260.5℃の白色結晶の有機化合物である。ペンタエリスリトールは糖アルコールに分類されるが、天然物由来ではなく、アセトアルデヒドとホルムアルデヒドを塩基性環境下で縮合して合成することができる。
【0123】
本発明で用いられるペンタエリスリトールは通常、一般に入手可能であるものであれば特に制限されず、試薬品あるいは工業品を使用し得る。試薬品としては、和光純薬工業株式会社、シグマ・アルドリッチ社、東京化成工業株式会社やメルク社などが挙げられ、工業品であれば、広栄化学工業株式会社品(商品名:ペンタリット)や東洋ケミカルズ株式会社品などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0124】
一般に入手できる試薬品や工業品の中には不純物として、ペンタエリスリトールが脱水縮合して生成するジペンタエリスリトールやトリペンタエリスリトールなどのオリゴマーが含まれているものがある。上記オリゴマーは脂肪族ポリエステル樹脂の結晶化には効果を有しないが、ペンタエリスリトールによる結晶化効果を阻害しない。従って、本発明で使用するペンタエリスリトールには、オリゴマーが含まれていてもよい。
【0125】
本発明で用いられるペンタエリスリトールの量は、ポリヒドロキシアルカノエート(A)の結晶化を促進し、耐衝撃強度及び引張伸びを改善できれば特に制限されない。しかし、ペンタエリスリトールの結晶核剤としての効果を得るためには、ペンタエリスリトールの含有量の下限値は、ポリヒドロキシアルカノエート(A)の含有量100重量部に対して、好ましくは0.05重量部であり、より好ましくは0.1重量部であり、更に好ましくは0.5重量部である。また、ペンタエリスリトールの量が多すぎると、溶融加工時の粘度が下がってしまい、加工し難くなる場合があるため、ペンタエリスリトールの含有量の上限値は、ポリヒドロキシアルカノエート(A)の含有量100重量部に対して、好ましくは20重量部であり、より好ましくは10重量部であり、更に好ましくは8重量部である。
【0126】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、ポリヒドロキシアルカノエート単独、あるいは、ポリヒドロキシアルカノエートとペンタエリスリトール以外の糖アルコール化合物を含む樹脂組成物に比べて、加工時の樹脂組成物の結晶化が幅広い加工条件で安定して進行する点で優れているので以下に示すような利点がある。
【0127】
ポリヒドロキシアルカノエートの中でも、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート(P3HB3HH)や、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート(P3HB3HV)などは、加熱溶融後に冷却して結晶化させる際、結晶化の進行は溶融時の樹脂温度の影響を受ける。すなわち、溶融時の樹脂温度が高いほど結晶化が進行し難くなる傾向がある。例えば、P3HB3HHは、溶融時の樹脂温度が樹脂の融点から170℃程度の温度の場合では、溶融時の樹脂温度が高いほど冷却時の樹脂の結晶化は進み難くなる傾向がある。また溶融時の樹脂温度が180℃程度以上の温度の場合では、冷却時の結晶化が数時間に渡って進行する傾向が有る。したがって、良好に成形加工を行なうためには、溶融時の樹脂温度を170〜180℃程度の温度範囲に制御しなければならないが、一般的な成形加工では溶融時の樹脂温度は均一でないため、上記の温度範囲で制御することは非常に困難である。
【0128】
本発明のポリエステル樹脂組成物の結晶化は、樹脂の溶融時の幅広い温度範囲に対して安定的に進行する。すなわち、溶融時の樹脂温度が樹脂の融点以上から190℃程度の温度範囲の場合であっても結晶化が安定的に早く進むため、本発明の樹脂組成物は、幅広い加工条件に対して優れた加工特性を有している。尚、溶融時の樹脂温度が200℃以上の温度で溶融加工する事は、熱劣化の観点で好ましくない。
【0129】
また、ポリヒドロキシアルカノエートの結晶化の進行は冷却温度にも依存している。例えば、P3HB3HHは、加熱溶融後の冷却温度が50〜70℃で最も結晶化が進行する傾向があり、冷却温度が50℃より低い、または70℃より高い場合は、結晶化が進行しにくくなる傾向がある。一般的な成形加工では金型温度が冷却温度に相関し、金型温度を上記温度範囲、すなわち50〜70℃の範囲で制御しなければならないが、金型温度を均一に制御するためには、金型の構造や形状を緻密に設計する必要が有り、非常に困難である。
【0130】
本発明のポリエステル樹脂組成物の結晶化は、溶融後の樹脂の幅広い冷却温度範囲に対して安定的に進行する。すなわち、加熱溶融後の冷却温度が20〜80℃の温度範囲の場合であっても結晶化が安定的に早く進むため、本発明の樹脂組成物は、幅広い加工条件に対して優れた加工特性を有している。
【0131】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、従来のポリヒドロキシアルカノエート樹脂、あるいは、ポリヒドロキシアルカノエート樹脂とペンタエリスリトール以外の糖アルコール化合物を含む樹脂組成物では得られなかった、上記のような利点を有するので、溶融時の樹脂温度や金型などの冷却温度を幅広く設定できる点で、優れた加工特性を有している。
【0132】
本発明のポリエステル樹脂組成物には、結晶化が安定的に早く進行することによって、以下に記すような特性が発現される。
【0133】
例えば、P3HB3HHは、成形時に十分に結晶化が進行しないため、成形後も徐々に結晶化が進行し球晶が成長するため、機械物性が経時変化し、成形品が徐々に脆化してしまう傾向があった。ところが、本発明のポリエステル樹脂組成物は、成形直後に多数の微結晶が生成するので、成形後には球晶が成長し難くなり、成形品の脆化も抑制されるため、製品の品質安定性の点で優れている。
【0134】
また、射出成形用の成形金型のキャビティ部のあわせ部(例えば、パーティングライン部、インサート部、スライドコア摺動部など)には、隙間があり、射出成形時に、その隙間に溶融した樹脂が入り込んでできる「バリ」が成形品に付着してしまう。ポリヒドロキシアルカノエートは、結晶化の進行が遅く樹脂が流動性を有する時間が長いため、バリが起こり易く、成形品の後処理に多大な労力を要する。ところが、本発明のポリエステル樹脂組成物では結晶化が早いのでバリができ難く、成形品の後処理の労力を低減できるため、実用上好ましい。
【0135】
本発明にかかるポリエステル樹脂組成物は、ポリヒドロキシアルカノエートの融点以上にまで加熱し混錬できる装置であれば公知の溶融混錬機により容易に製造できる。例えば、ポリヒドロキシアルカノエートとグラフト共重合体とペンタエリスリトールと、さらに必要であれば他の成分とを押出機、ロールミル、バンバリーミキサーなどにより溶融混練してペレット状とした後、成形に供する方法、ペンタエリスリトールの高濃度のマスターバッチを予め調製しておき、これをポリヒドロキシアルカノエートとグラフト共重合体に所望の割合で溶融混錬して成形に供する方法、などが利用できる。ペンタエリスリトールとグラフト共重合体とポリヒドロキシアルカノエートは混錬機に同時に添加してもよいし、あるいは先にポリヒドロキシアルカノエートとグラフト共重合体を溶融させた後ペンタエリスリトールを添加してもよい。
【0136】
本発明におけるポリエステル樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲において、各種添加剤を含有しても良い。ここで添加剤とは、たとえば、滑剤、ペンタエリスリトール以外の結晶核剤、可塑剤、加水分解抑制剤、酸化防止剤、離形剤、紫外線吸収剤、染料、顔料などの着色剤、無機充填剤等を目的に応じて使用できるが、それらの添加剤は、生分解性を有することが好ましい。
【0137】
他の添加剤としては、炭素繊維等の無機繊維や、人毛、羊毛等の有機繊維が挙げられる。また、竹繊維、パルプ繊維、ケナフ繊維や、類似の他の植物代替種、アオイ科フヨウ属1年草植物、シナノキ科一年草植物等の天然繊維も使用することが出来る。二酸化炭素削減の観点からは、植物由来の天然繊維が好ましく、特に、ケナフ繊維が好ましい。
【0138】
本発明のポリエステル樹脂組成物からなる成形体の製造方法を以下に例示する。
【0139】
まず、PHA、グラフト共重合体およびペンタエリスリトール、さらには必要に応じて、前記各種添加剤を押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロールなどを用いて溶融混練して、ポリエステル樹脂組成物を作製し、それをストランド状に押し出してからカットして、円柱状、楕円柱状、球状、立方体状、直方体状などの粒子形状のポリエステル樹脂組成物からなるペレットを得る。
【0140】
前記において、PHAとグラフト共重合体等を溶融混練する温度は、使用するPHAの融点、溶融粘度等やグラフト共重合体の溶融粘度等によるため一概には規定できないが、溶融混練物のダイス出口での樹脂温度が140〜200℃であることが好ましく、150〜195℃であることがより好ましく、160〜190℃がさらに好ましい。溶融混練物の樹脂温度が140℃未満であると、グラフト共重合体が分散不良となる場合があり、200℃を超えるとPHAが熱分解する場合がある。
【0141】
前記方法によって作製されたペレットを、40〜80℃で十分に乾燥させて水分を除去した後、公知の成形加工方法で成形加工でき、任意の成形体を得ることができる。成形加工方法としては、例えば、フィルム成形、シート成形、射出成形、ブロー成形、繊維の紡糸、押出発泡、ビーズ発泡等が挙げられる。
【0142】
フィルム成形体の製造方法としては、例えば、Tダイ押出し成形、カレンダー成形、ロール成形、インフレーション成形が挙げられる。ただし、フィルム成形法はこれらに限定されるものではない。フィルム成形時の成形温度は140〜190℃が好ましい。また、本発明のポリエステル樹脂組成物から得られたフィルムは、加熱による熱成形、真空成形、プレス成形が可能である。
【0143】
射出成形体の製造方法としては、例えば、熱可塑性樹脂を成形する場合に一般的に採用される射出成形法、ガスアシスト成形法、射出圧縮成形法等の射出成形法を採用することができる。また、その他目的に合わせて、上記の方法以外でもインモールド成形法、ガスプレス成形法、2色成形法、サンドイッチ成形法、PUSH−PULL、SCORIM等を採用することもできる。ただし、射出成形法はこれらに限定されるものではない。射出成形時の成形温度は140〜190℃が好ましく、金型温度は20〜80℃が好ましく、30〜70℃であることがより好ましい。
【0144】
本発明の成形体は、農業、漁業、林業、園芸、医学、衛生品、食品産業、衣料、非衣料、包装、自動車、建材、その他の分野に好適に用いることができる。
【実施例】
【0145】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によりその技術的範囲を限定されるものではない。
【0146】
・ポリヒドロキシアルカノエート原料A1:製造例1で得られたものを用いた。
【0147】
<製造例1>
培養生産にはKNK−005株(米国特許第7384766号参照)を用いた。
【0148】
種母培地の組成は1w/v% Meat−extract、1w/v% Bacto−
Tryptone、0.2w/v% Yeast−extract、0.9w/v% NaHPO・12HO、0.15w/v% KHPO、(pH6.8)とした。
【0149】
前培養培地の組成は1.1w/v% NaHPO・12HO、0.19w/v%
KHPO、1.29w/v% (NHSO、0.1w/v% MgSO・7HO、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v% FeCl・6HO、1w/v% CaCl・2HO、0.02w/v% CoCl・6HO、0.016w/v% CuSO・5HO、0.012w/v% NiCl・6HOを溶かしたもの)、とした。炭素源はパーム油を10g/Lの濃度で一括添加した。
【0150】
PHA生産培地の組成は0.385w/v% NaHPO・12HO、0.067w/v% KHPO、0.291w/v% (NHSO、0.1w/v%
MgSO・7HO、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N 塩酸に1.6w/v% FeCl・6HO、1w/v% CaCl・2HO、0.02w/v%
CoCl・6HO、0.016w/v% CuSO・5HO、0.012w/v% NiCl・6HOを溶かしたもの)、0.05w/v% BIOSPUREX200K(消泡剤:コグニスジャパン社製)とした。
【0151】
まず、KNK−005株のグリセロールストック(50μl)を種母培地(10ml)に接種して24時間培養し種母培養を行なった。次に種母培養液を1.8Lの前培養培地を入れた3Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDL−300型)に1.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度33℃、攪拌速度500rpm、通気量1.8L/minとし、pHは6.7〜6.8の間でコントロールしながら28時間培養し、前培養を行なった。pHコントロールには14%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。
【0152】
次に、前培養液を6Lの生産培地を入れた10Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDS−1000型)に1.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度28℃、攪拌速度400rpm、通気量6.0L/minとし、pHは6.7から6.8の間でコントロールした。pHコントロールには14%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。炭素源としてパーム油、を使用した。培養は64時間行い、培養終了後、遠心分離によって菌体を回収、メタノールで洗浄、凍結乾燥し、乾燥菌体重量を測定した。
【0153】
得られた乾燥菌体1gに100mlのクロロホルムを加え、室温で一昼夜攪拌して、菌体内のPHAを抽出した。菌体残渣をろ別後、エバポレーターで総容量が30mlになるまで濃縮後、90mlのヘキサンを徐々に加え、ゆっくり攪拌しながら、1時間放置した。析出したPHAをろ別後、50℃で3時間真空乾燥し、PHAを得た。得られたPHAの3HH比率分析は以下のようにガスクロマトグラフィーによって測定した。乾燥PHA20mgに2mlの硫酸−メタノール混液(15:85)と2mlのクロロホルムを添加して密栓し、100℃で140分間加熱して、PHA分解物のメチルエステルを得た。冷却後、これに1.5gの炭酸水素ナトリウムを少しずつ加えて中和し、炭酸ガスの発生がとまるまで放置した。4mlのジイソプロピルエーテルを添加してよく混合した後、遠心して、上清中のポリエステル分解物のモノマーユニット比率をキャピラリーガスクロマトグラフィーにより分析した。ガスクロマトグラフは島津製作所GC−17A、キャピラリーカラムはGLサイエンス社製NEUTRA BOND−1(カラム長25m、カラム内径0.25mm、液膜厚0.4μm)を用いた。キャリアガスとしてHeを用い、カラム入口圧100kPaとし、サンプルは1μlを注入した。温度条件は、初発温度100から200℃まで8℃/分の速度で昇温、さらに200から290℃まで30℃/分の速度で昇温した。上記条件にて分析した結果、化学式(1)に示すようなPHA、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HH)であった。3−ヒドロキシブチレート(3HB)の比率は、94.4モル%、3−ヒドロキシヘキサノエート(3HH)の比率は、5.6モル%であった。
【0154】
培養後、培養液から国際公開第2010/067543号に記載の方法にてP3HB3HHを得た。GPCで測定した重量平均分子量Mwは60万であった。
【0155】
・ポリヒドロキシアルカノエート原料A2:製造例2で得られたものを用いた。
【0156】
<製造例2>
KNK−005株の代わりにKNK−631株(国際公開第2009/145164号参照)を用いた他は、製造例1と同様にしてポリヒドロキシアルカノエート原料A2、P3HB3HHを得た。重量平均分子量Mwは62万、3HBの比率は、92.2モル%、3HHの比率は7.8モル%であった。
【0157】
・ポリヒドロキシアルカノエート原料A3:製造例3で得られたものを用いた。
【0158】
<製造例3>
KNK−631株および炭素源としてパーム核油を用いた以外は、製造例1と同様の方法でポリヒドロキシアルカノエート原料A3、P3HB3HHを得た。重量平均分子量Mwは65万、3HBの比率は、88.6モル%、3HHの比率は11.4モル%であった。
【0159】
・ポリヒドロキシアルカノエート原料A4:シグマ・アルドリッチ社製のポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート)を用いた(3HBの比率は、95モル%、3HVの比率は5モル%)。
【0160】
・ポリヒドロキシアルカノエート原料A5:Ecomann社製EM5400F(ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート))を用いた。
グラフト共重合体B1〜B5:以下の製品を用いた。
【0161】
B1:カネカ社製「カネエースM−581H」
B2:カネカ社製「カネエースM−400」
B3:カネカ社製「カネエースM−711」
B4:三菱レイヨン社製「メタブレンW−450A」
B5:三菱レイヨン社製「メタブレンS−2001」
カネエースM−581Hはアクリル系ゴム(ポリアクリル酸ブチル)85重量%に、ビニル系単量体としてメタクリル酸メチル15重量%をグラフト共重合した粒子である。
【0162】
カネエースM−400はアクリル系ゴム(ポリアクリル酸ブチル)92重量%に、ビニル系単量体としてメタクリル酸メチル8重量%をグラフト共重合した粒子である。
【0163】
カネエースM−711はジエン系ゴム(ポリブタジエン)78重量%に、ビニル系単量体としてメタクリル酸メチル22重量%をグラフト共重合した粒子である。
【0164】
メタブレンW−450Aはアクリル系ゴム(ポリアクリル酸ブチル)に、ビニル系単量体としてメタクリル酸メチルをグラフト共重合した粒子である。
【0165】
メタブレンS−2001はシリコーンアクリル複合ゴム(ポリオルガノシロキサンとポリアクリル酸ブチル)に、ビニル系単量体としてメタクリル酸メチルをグラフト共重合した粒子である。
【0166】
<実施例1>
(ポリエステル樹脂組成物の製造)
ポリヒドロキシアルカノエート原料A1、グラフト共重合体B1およびペンタエリスリトール(和光純薬工業株式会社製)を、表1に示した配合比率(以下、表中の配合比は、重量部を示す)で、同方向噛合型2軸押出機(日本製鋼社製:TEX30)を用いて、設定温度120〜140℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混錬し、ポリエステル樹脂組成物を得た。樹脂温度はダイスから出てくる溶融した樹脂を直接K型熱電対で測定した。当該ポリエステル樹脂組成物をダイスからストランド状に引き取り、ペレット状にカットした。
【0167】
(射出成形)
得られた樹脂組成物を原料として、射出成形機(東芝機械社製:IS−75E)を用い、成形機のシリンダー設定温度は120〜140℃、金型の設定温度は55℃で、ASTM D−256に準拠したバー状の試験片とASTM D−638に準拠したダンベル状の試験片を成形した。成形時の樹脂温度の実温は射出した樹脂を、また金型の実温度は金型の表面をK型熱電対で接触測定した。測定した金型の実温度を、各表で金型温度として示した。
【0168】
(離型時間)
本発明のポリエステル樹脂組成物の加工性は離型時間で評価した。金型内に樹脂を射出した後、金型を開いて突き出しピンによって試験片を変形させることなく突き出し、金型から離型させることができるまでに要する時間を離型時間とした。離型時間が短いほど結晶化が早く、成形加工性が良好で改善されていることを示す。
【0169】
(Izod衝撃強度)
射出成形で得られたバー状試験片を用い、ASTM D−256に準拠して、23℃におけるIzod衝撃試験を行い、Izod衝撃強度を測定した。Izod衝撃強度は高いほど良好である。
【0170】
(引張破断伸び)
射出成形で得られたダンベル状試験片を用い、ASTM D−638に準拠して、23℃における引張測定を行い、引張破断伸びを測定した。引張破断伸びは高いほど良好である。
【0171】
<実施例2〜7>
表1に示すような配合比で、実施例1と同様の方法で、ポリエステル樹脂組成物のペレットを作製し、射出成形の離型時間および得られた試験片のIzod衝撃強度と引張破断伸びを測定した。結果は表1に示した。
【0172】
<比較例1〜6>
表1に示すような配合比で、実施例1と同様の方法で、ポリエステル樹脂組成物のペレットを作製し、射出成形の離型時間および得られた試験片のIzod衝撃強度と引張破断伸びを測定した。結果は表1に示した。
【0173】
【表1】
【0174】
表1に示すように、比較例1では成形品の離型時間は20秒と良好であるが、グラフト共重合体が入っていないのでIzod衝撃強度は24J/m、引張破断伸びは12%と低い。また、比較例2〜6ではIzod衝撃強度は向上しているが、ペンタエリスリトールが入っていないので離型時間に60秒以上を要した。それに対して、実施例1〜7ではペンタエリスリトールとグラフト共重合体を併用した結果、射出成形時の離型時間は25秒以下となり、更に単独でグラフト共重合体を使用した比較例2〜6よりもIzod衝撃強度と引張破断伸びは向上している。ペンタエリスリトールとグラフト共重合体を併用することで、離型時間が早くなるだけでなく、相乗作用により靭性と延性が向上することがわかった。
【0175】
<実施例8〜11><比較例7〜14>
表2に示すような配合比で、実施例1と同様の方法で、ポリエステル樹脂組成物のペレットを作製し、射出成形の離型時間および得られた試験片の引張破断伸びを測定した。結果は表2に示した。
【0176】
【表2】
【0177】
表2に示すように、比較例7、9、11、13では比較例8、10、12、14と比較してIzod衝撃強度は向上しているが、ペンタエリスリトールが入っていないので離型時間に長時間を要した。また比較例8、10、12、14では成形品の離型時間は良好であるが、グラフト共重合体が入っていないのでIzod衝撃強度と引張破断伸びは低い。それに対して、実施例8〜11ではペンタエリスリトールとグラフト共重合体を併用した結果、射出成形時の離型時間は短く、かつ、Izod衝撃強度と引張破断伸びは高くなり、加工性および靭性と延性の両方に優れることがわかった。