特許第6291486号(P6291486)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6291486メタノールの存在下における二原子酸素のカソード還元用触媒のナノ粒子の調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6291486
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】メタノールの存在下における二原子酸素のカソード還元用触媒のナノ粒子の調製方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/88 20060101AFI20180305BHJP
   B01J 27/057 20060101ALI20180305BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20180305BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20180305BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20180305BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20180305BHJP
【FI】
   H01M4/88 K
   H01M4/88 Z
   B01J27/057 M
   H01M4/86 Z
   H01M4/86 B
   H01M4/92
   H01M4/90 X
   H01M8/10 101
【請求項の数】20
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-517771(P2015-517771)
(86)(22)【出願日】2013年6月20日
(65)【公表番号】特表2015-526843(P2015-526843A)
(43)【公表日】2015年9月10日
(86)【国際出願番号】EP2013062928
(87)【国際公開番号】WO2013190060
(87)【国際公開日】20131227
【審査請求日】2016年5月20日
(31)【優先権主張番号】1255944
(32)【優先日】2012年6月22日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】501089863
【氏名又は名称】サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェサイアンティフィク(セエヌエールエス)
(73)【特許権者】
【識別番号】508034934
【氏名又は名称】ユニベルシテ ドゥ ポワティエール
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ アロンソ−バンテ
(72)【発明者】
【氏名】マ チウェイ
(72)【発明者】
【氏名】アルド ガゴ
【審査官】 前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−134337(JP,A)
【文献】 特開2007−194217(JP,A)
【文献】 特開2009−021092(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0318106(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0122686(US,A1)
【文献】 特開2008−258150(JP,A)
【文献】 特開2010−003576(JP,A)
【文献】 特開2009−032420(JP,A)
【文献】 特表2005−508450(JP,A)
【文献】 特表2008−500694(JP,A)
【文献】 特開2006−252798(JP,A)
【文献】 特開2006−066306(JP,A)
【文献】 特表2001−502467(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0078052(US,A1)
【文献】 特表2009−501415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86−4/96
B01J 27/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)担持又は非担持いずれかの、白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、又はイリジウムから選択される少なくとも1種類の遷移金属を含む金属中心と、
(b)セレン又は硫黄から選択される、1未満の最大電極触媒活性のモル比R(カルコゲン/遷移金属)のカルコゲンの準単層と
を備えた二原子酸素のカソード還元用の、メタノールに耐性のある触媒ナノ粒子の調製方法(P1)であって、
i)1以下のモル比R(カルコゲン/遷移金属)のカルコゲンの準単層で被覆された担持又は非担持いずれかの遷移金属を含む触媒ナノ粒子を調製するステップ、
ii)作用電極、参照電極、及び補助電極と、メタノールを含む電解液と、作用電極1cm当たり0.010〜0.300mgの範囲の比質量で前記作用電極の表面に付着させた触媒ナノ粒子とを備えた電気化学セルを調製するステップ、
iii)不活性雰囲気下で0〜40分の範囲の期間、0.8〜1.4Vの範囲の酸化電位を印加することによって前記電気化学セルの電極触媒活性を測定するステップ、
iv)前記酸化電位の印加時間に応じた半波電位E1/2を決定するステップ、
v)前記半波電位E1/2が最大になる、前記カルコゲンによる前記金属中心の残存被覆率を決定するステップ、及び
vi)前記触媒の前記比Rの値を決定するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
前記比Rが、0.001〜1の範囲にある、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属中心が、担持された、白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、又はイリジウムから選択される少なくとも1種類の遷移金属を含む、請求項1又は2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記担体が炭素を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記担体が、無定形炭素、炭素ナノチューブ、又はグラフェンを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記担体が、TiO−炭素、WO−炭素、又はSnO−炭素複合体から選択される、又は酸化物−炭素複合体を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記遷移金属が白金であり、前記カルコゲンがセレンであり、前記比Rが0.5〜0.7の範囲にあり、かつ前記比Rが0.5未満である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記遷移金属が白金であり、前記カルコゲンが硫黄であり、前記比Rが0.5〜0.7の範囲にあり、かつ前記比Rが0.5以下である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記金属中心がまた、金、チタン、スズ、コバルト、ニッケル、鉄、又はクロムから選択される担持又は非担持いずれかの追加の金属を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ステップii)の前記作用電極が、金、チタン、スズ、コバルト、ニッケル、鉄、又はクロムから選択される金属を含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ステップii)の前記電解液が、酸溶液である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ステップii)の前記電気化学セルが、0.1M〜20Mの範囲のモル濃度のメタノールを含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記遷移金属が、白金、ロジウム、パラジウム、又はイリジウムから選択され、かつステップiii)の前記酸化電位が、1〜1.2Vの範囲にある、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記触媒ナノ粒子のサイズが1〜10nmの範囲にある、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
vii)担持又は非担持いずれかの前記遷移金属と、2/1〜10/1の範囲のv/v比の水及びイソプロパノールの混合物との混合物を、5〜60分の範囲の間撹拌することにより調製するステップ、
viii)カルコゲンを或るモル比R(カルコゲン/遷移金属)で含む無機化合物を加えるステップ、
ix)20〜50℃の範囲の温度で5〜24時間の範囲の間撹拌するステップ、
x)前記水及び前記イソプロパノールを蒸発させるステップ、及び
xi)不活性雰囲気下で100〜400℃の範囲の温度で30分〜2時間の範囲の間、か焼するステップ
をさらに含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
ステップi)の触媒のナノ粒子の前記調製が、
i.a)担持又は非担持いずれかの前記遷移金属と、2/1〜10/1の範囲のv/v比の水及びイソプロパノールの混合物との混合物を、5〜60分の範囲の間撹拌することにより調製するステップ、
i.b)1以下のモル比R(カルコゲン/遷移金属)のカルコゲンを含む無機化合物を加えるステップ、
i.c)20〜50℃の範囲の温度で5〜24時間の範囲の間撹拌するステップ、
i.d)前記水及び前記イソプロパノールを蒸発させるステップ、及び
i.e)不活性雰囲気下で100〜400℃の範囲の温度で30分〜2時間の範囲の間、か焼するステップ
を含む、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
(a)担持又は非担持いずれかの、白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、又はイリジウムから選択される少なくとも1種類の遷移金属を含む金属中心と、
(b)セレン又は硫黄から選択されるカルコゲンの準単層と
を備えたメタノールに耐性のある触媒のナノ粒子の調製方法(P2)であって、
i)担持又は非担持いずれかの前記遷移金属と、2/1〜10/1の範囲のv/v比の水及びイソプロパノールの混合物との混合物を、5〜60分の範囲の間撹拌することにより調製するステップ、
ii)カルコゲンを1以下のモル比R(カルコゲン/遷移金属)で含む無機化合物を加えるステップ、
iii)20〜50℃の範囲の温度で5〜24時間の範囲の間撹拌するステップ、
iv)前記水及び前記イソプロパノールを蒸発させるステップ、及び
v)不活性雰囲気下で100〜400℃の範囲の温度で30分〜2時間の範囲の間、か焼するステップ
を含む、方法。
【請求項18】
前記水/イソプロパノールのv/v比が、3/1〜7/1の範囲にある、請求項15〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記無機化合物が酸化物又は塩から選択される、請求項15〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
担持又は非担持いずれかの白金を含みかつ0.1〜0.5の範囲にある比(セレン/白金)のセレン又は0.1〜0.5の範囲にある比(硫黄/白金)の硫黄の準単層で被覆された金属中心を備える触媒ナノ粒子を含むマイクロ流体燃料電池用のカソード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二原子酸素のカソード還元用のメタノールに耐性のある触媒ナノ粒子の調製方法に関し、これらのナノ粒子は金属中心及びカルコゲンの準単層を備える。本発明はまた、上記方法により得ることができる触媒ナノ粒子に関する。本発明はまた、セル用の、特に上記ナノ粒子を含む直接メタノール燃料電池用のカソードに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、エネルギー変換効率を大幅に向上させ、有害排出物質を減らし、またエネルギー源としての石油への依存を低減させることができる。この技術は、輸送機関において、また携帯電話などの携帯用電気又は電子機器において広い用途を有する。
【0003】
燃料電池にメタノールを使用することはよく知られている。それにもかかわらず、特に白金から作られるこの型のセルに通常使用されるカソードは、メタノールを酸化する可能性があり、その結果、セルの効率がこれによって影響を受ける。
【0004】
幾つかの文書は、メタノールの存在下の燃料電池に使用されるカソードの改良について述べている。
【0005】
国際公開第2010/096616号パンフレットの文書には、メタノールの存在下の燃料電池用カソードとして炭素に担持されたCoSeナノ粒子を得る方法が記載されている。
【0006】
米国特許第7,851,399号明細書の文書には、メタノールの存在下の燃料電池用カソードとして遷移金属及びカルコゲンを含む触媒ナノ粒子の調製方法が記載されている。
【0007】
室温で硫黄と白金塩の反応により得られる化学的前駆物質の熱処理によって炭素に担持された白金−硫化物触媒を調製する方法が記載されている(Y. Gochi−Ponce, Electrochem. Commun, 2006, 8, 1487−1491)。
【0008】
錯化剤としてクエン酸ナトリウム及びトリフェニルホスフィンの存在下でのコロイドの有機修飾によって炭素に担持された白金−セレン触媒を調製する方法が記載されている(R. F. Wang, J. Power Sources, 2007, 171, 471−476)。
【0009】
しかしながら現状技術の触媒は、メタノールの存在下での電極触媒の活性と安定性の間の満足できる妥協を得る可能性を与えない。
【0010】
さらに現状技術の方法では、そのような妥協を得るための触媒の最適組成を決定する余地がない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって本発明の第一の目的は、現状技術の方法の問題の全部又は一部に対する解決策を提供する、二原子酸素のカソード還元用の、具体的にはメタノールに耐性のある触媒ナノ粒子の調製方法を提案することである。
【0012】
本発明の別の目的は、使い易くかつその収率が改善され、したがって工業規模で置き換えることができるとともに環境への影響が全く又はほとんどない、二原子酸素のカソード還元用の、具体的にはメタノールに耐性のある触媒ナノ粒子の調製方法を提案することである。
【0013】
本発明の別の目的は、新規な組成の触媒の入手を可能にする二原子酸素のカソード還元用の、具体的にはメタノールに耐性のある触媒ナノ粒子の調製方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的は、
(a)担持又は非担持いずれかの、白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、又はイリジウムから選択される少なくとも1種類の遷移金属を含む金属中心と、
(b)セレン又は硫黄から選択される、1未満の最大電極触媒活性のモル比R(カルコゲン/遷移金属)のカルコゲンの準単層と
を備えた二原子酸素のカソード還元用の、メタノールに耐性のある触媒ナノ粒子の調製方法(P1)である。この方法は、
i)1以下のモル比R(カルコゲン/遷移金属)のカルコゲンの準単層で被覆された担持又は非担持いずれかの遷移金属を含む触媒ナノ粒子を調製するステップ、
ii)作用電極、参照電極、及び補助電極と、メタノールを含む電解液と、作用電極1cm当たり0.010〜0.300mgの範囲の比質量で作用電極の表面に付着させた触媒ナノ粒子とを備えた電気化学セルを調製するステップ、
iii)不活性雰囲気下で0〜40分の範囲の期間、0.8〜1.4Vの範囲の酸化電位を印加することによってこの電気化学セルの電極触媒活性を測定するステップ、
iv)酸化電位の印加時間に応じた半波電位E1/2を決定するステップ、
v)半波電位E1/2が最大になる、カルコゲンによる金属中心の残存被覆率を決定するステップ、及び
vi)触媒の比Rの値を決定するステップ
を含む。
【0015】
カルコゲンの準単層とは、金属中心の表面でカルコゲンの不連続層により金属中心を被覆するものを意味する。
【0016】
最大電極触媒活性のモル比Rとは、メタノールの存在下で最大電極触媒活性を得る可能性を与える触媒のモル比(カルコゲン/遷移金属)を意味する。
【0017】
メタノールに耐性のある触媒とは、その電極触媒活性がメタノールの存在の影響を受けないか、ほんのわずかしか影響を受けない、好ましくはメタノールの存在下で電極触媒活性の減少が20%未満である触媒を意味する。
【0018】
本発明によれば、比Rは0.001〜1、好ましくは0.3〜0.9、有利には0.5〜0.7の範囲であることができる。
【0019】
本発明によれば、金属中心は、白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、又はイリジウムから選択される、少なくとも1種類の担持された遷移金属を含むことができる。
【0020】
有利には金属中心は、担持された白金を含む。
【0021】
本発明によれば担体は炭素を含むことができる。
【0022】
本発明によれば担体は、無定形炭素、炭素ナノチューブ、又はグラフェンを含むことができる。
【0023】
本発明によれば担体は、好ましくはTiO−炭素、WO−炭素、又はSnO−炭素複合体から選択される、酸化物−炭素複合体を含むことができる。
【0024】
有利にはこの方法(P1)はさらに、
vii)担持又は非担持いずれかの遷移金属と、2/1〜10/1の範囲のv/v比の水及びイソプロパノールの混合物との混合物を、5〜60分の範囲の間撹拌することにより調製するステップ、
viii)カルコゲンを或るモル比R(カルコゲン/遷移金属)で含む無機化合物を加えるステップ、
ix)20〜50℃の範囲の温度で5〜24時間、好ましくは10〜20時間の範囲の間撹拌するステップ、
x)水及びイソプロパノールを蒸発させるステップ、及び
xi)不活性雰囲気下で100〜400℃の範囲の温度で30分〜2時間の範囲の間、か焼するステップ
を含む。
【0025】
本発明によればこの水及びイソプロパノールのv/v混合物は、エタノールの体積に対してより大きな体積の水を含む。
【0026】
有利には、本発明によればステップvii)の水/イソプロパノールのv/v比は、3/1〜7/1の範囲にあり、好ましくは5/1に等しい。
【0027】
有利には、本発明によればステップviii)の無機化合物は、酸化物及び塩から選択することができるカルコゲンを含む。酸化物の例としてはセレン酸化物を挙げることができる。塩の例としては硫化ナトリウムを挙げることができる。
【0028】
本発明によれば、ステップx)の水及びイソプロパノールの蒸発は、当業者に知られている任意の通例の手法によって行うことができる。例えば、制御された雰囲気下での加熱による方法を挙げることができる。
【0029】
本発明によれば、ステップi)の触媒ナノ粒子の調製は、担持又は非担持いずれかの遷移金属を含み、表面をカルコゲンの準単層によって修飾された触媒ナノ粒子の調製を可能にする、当業者に知られている任意の方法により行うことができる。
【0030】
例えば、米国特許第7,851,399号明細書の文書に記載されている方法を挙げることができる。
【0031】
有利にはまた、ステップi)の触媒ナノ粒子の調製は、
i.a)担持又は非担持いずれかの遷移金属と、2/1〜10/1の範囲のv/v比の水及びイソプロパノールの混合物との混合物を、5〜60分の範囲の間撹拌することにより調製するステップ、
i.b)1以下のモル比R(カルコゲン/遷移金属)のカルコゲンを含む無機化合物を加えるステップ、
i.c)20〜50℃の範囲の温度で5〜24時間、好ましくは10〜20時間の範囲の間撹拌するステップ、
i.d)水及びイソプロパノールを蒸発させるステップ、及び
i.e)不活性雰囲気下で100〜400℃の範囲の温度で30分〜2時間の範囲の間、か焼するステップ
を含む。
【0032】
有利には、本発明によればステップi.a)の水及びイソプロパノールのv/v混合物は、エタノールの体積に対してより大きな体積の水を含む。
【0033】
有利には、本発明によればステップi.a)の水/イソプロパノールのv/v比は、3/1〜7/1の範囲にあり、好ましくは5/1に等しい。
【0034】
有利には、本発明によればステップi.b)のカルコゲンを含む無機化合物は、酸化物及び塩から選択することができる。酸化物の例としてはセレン酸化物を挙げることができる。塩の例としては硫化ナトリウムを挙げることができる。
【0035】
本発明によればステップi.d)の水及びイソプロパノールの蒸発は、当業者に知られている任意の通例の手法によって行うことができる。
【0036】
例えば、制御された雰囲気下での加熱による方法を挙げることができる。
【0037】
有利には本発明はまた、触媒ナノ粒子の調製のための改良された方法(P2)に関する。本発明によればこの方法(P2)は、使い易くかつその収率が改善され、したがって工業規模で置き換えることができるとともに環境への影響が全く又はほとんどない方法である。
【0038】
方法(P1)について示した遷移金属、カルコゲン、及び担体の定義及び好ましい特徴は、方法(P2)にも適用される。
【0039】
有利には、その遷移金属は白金であり、そのカルコゲンはセレンであり、その比Rは0.5〜0.7の範囲にあり、またその比Rは0.5未満、好ましくは0.3以下、有利には0.1〜0.3の範囲にある。
【0040】
有利にはまた、その遷移金属は白金であり、そのカルコゲンは硫黄であり、その比Rは0.5〜0.7の範囲にあり、またその比Rは0.5以下、好ましくは0.1〜0.3の範囲にある。
【0041】
有利にはまた、その遷移金属はルテニウムであり、その比Rは1以下であり、またその比Rは0.5以下、好ましくは0.05〜0.5の範囲にある。
【0042】
本発明によれば金属中心はまた、金、チタン、スズ、コバルト、ニッケル、鉄、又はクロム、好ましくはチタンから選択される担持又は非担持いずれかの追加の金属を含むことができる。
【0043】
有利にはこの追加の金属は担持される。
【0044】
方法(P1)で遷移金属について示した担体の定義及び好ましい特徴は、追加の金属の担体についても適用される。
【0045】
本発明によれば、方法(P1)における原子数比(遷移金属/追加金属)は、1〜19の範囲にある。
【0046】
本発明によれば、方法(P1)のステップii)の作用電極は、金、チタン、スズ、コバルト、ニッケル、鉄、又はクロムから選択される金属、好ましくは金又はチタンを含む。参照電極とは、電位を設定するための任意の電極を意味する。本発明によれば、方法(P1)における参照電極は、当業者に知られている通例の参照電極から選択することができる。参照電極の例としては標準水素電極(HSE)又は可逆水素電極(HRE)を挙げることができる。
【0047】
本発明によれば、方法(P1)における補助電極は、当業者に知られている通例の補助電極から選択することができる。補助電極の例としては炭素電極を挙げることができる。
【0048】
本発明によれば、方法(P1)におけるステップii)の電解液は、酸溶液であることができる。
【0049】
本発明によれば、方法(P1)におけるステップii)の電解液は、過塩素酸、リン酸、又は硫酸から選択される酸を含むことができる。有利にはこの電解液は硫酸を含む。
【0050】
本発明によれば、方法(P1)におけるステップii)の電解液の酸モル濃度は、0.1M〜2Mの範囲にあることができる。
【0051】
本発明によれば、方法(P1)におけるステップii)の電気化学セルのメタノールモル濃度は、0.1M〜20M、好ましくは0.5M〜5Mの範囲であることができる。
【0052】
本発明によれば、方法(P1)におけるステップiii)の酸化電位は、遷移金属の性質によって変えることができる。
【0053】
したがって有利には、遷移金属が白金、ロジウム、パラジウム、又はイリジウムから選択される場合、方法(P1)におけるステップiii)の酸化電位は1〜1.2Vの範囲にあることができる。
【0054】
半波電位とは、二原子酸素の還元反応の場合のような速度論的条件に依存する電気化学系の波の形状及びその位置を意味する。
【0055】
本発明によれば、方法(P1)におけるステップiv)の半波電位は、当業者に知られている任意の通例の測定法によって決定することができる。例としては、例えばBard等(Bard et al., Electrochemical Methods: Fundamentals and Applications, John Wiley & Sons, NY, 2nd Ed., 2002)が述べているような回転円盤電極(RDE)技術による測定法を挙げることができる。
【0056】
本発明によれば、方法(P1)におけるステップv)の残存被覆率の決定は、当業者に知られている任意の通例の方法によって行うことができる。
【0057】
本発明による金属中心の遷移金属の性質に応じて当業者は、最も適切な方法を決めることができる。
【0058】
白金及びロジウムに適した方法の例としては、例えばElezovic等の論文(Elezovic et al., Int. J. Hydrogen Energy 32(2007), 1991−1998)に記載されている水素のアンダーポテンシャル析出法を挙げることができる。
【0059】
また、例えばVidakovic等の文書(Vidakovic et al., Electrochim. Acta 52(2007), 5606−5613)に記載されている方法、いわゆるCOストリッピング法を挙げることができ、これは白金、ロジウム、ルテニウム、及びイリジウムに特に適している。
【0060】
また、例えばLan−lan等の論文(Lan−lan et al., Chinese J. Chem. Phys, 23(2010), 543−548)に記載されているパラジウム酸化物の単層をパラジウムに還元することによる方法を挙げることができ、これはパラジウムに特に適している。
【0061】
本発明によれば、ステップvi)の比Rの値は、ある電位域における水素の単層の吸着及び脱着によって決まる水素のアンダーポテンシャル析出によるステップv)の残存被覆率の値から求められる。この過程は、吸着された水素単層の210μC/cmの電荷に対応する。この方法は、Elezovic等の論文(Elezovic et al., Int. J. Hydrogen Energy 32(2007), 1991−1998)に特に記載されている。本発明によれば、この方法によるナノ粒子のサイズは、1〜10nm、好ましくは2〜3nmの範囲である。
【0062】
本発明の別の目的は、
(a)担持又は非担持いずれかの、白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、又はイリジウムから選択される少なくとも1種類の遷移金属を含む金属中心と、
(b)セレン又は硫黄から選択されるカルコゲンの準単層と
を備えたメタノールに耐性のある触媒のナノ粒子の調製方法(P2)に関し、この方法は、
i)担持又は非担持いずれかの遷移金属と、2/1〜10/1の範囲のv/v比の水及びイソプロパノールの混合物との混合物を、5〜60分の範囲の間撹拌することにより調製するステップ、
ii)カルコゲンを1以下、好ましくは0.001〜1の範囲のモル比(カルコゲン/金属中心)で含む無機化合物を加えるステップ、
iii)20〜50℃の範囲の温度で5〜24時間、好ましくは10〜20時間の範囲の間撹拌するステップ、
iv)水及びイソプロパノールを蒸発させるステップ、及び
v)不活性雰囲気下で100〜400℃の範囲の温度で30分〜2時間の範囲の間、か焼するステップ
を含む。
【0063】
本発明によれば、方法(P2)のステップi)の水及びイソプロパノールの混合物は、エタノールの体積含有量よりも大きい体積含有量の水を含む。
【0064】
本発明によれば、方法(P2)のステップi)の水/イソプロパノールのv/v比は、3/1〜7/1の範囲にあり、好ましくは5/1に等しい。
【0065】
本発明によれば、カルコゲンを含む方法(P2)のステップii)の無機化合物は、酸化物及び塩から選択することができる。
【0066】
酸化物の例としてはセレン酸化物を挙げることができる。
【0067】
塩の例としては硫化ナトリウムを挙げることができる。
【0068】
本発明によれば、方法(P2)のステップiv)の水及びイソプロパノールの蒸発は、当業者に知られている任意の通例の手法によって行うことができる。
【0069】
例えば、制御された雰囲気下での加熱による方法を挙げることができる。
【0070】
有利には、このモル比(カルコゲン/金属中心)は0.5未満、好ましくは0.3以下、有利には0.1〜0.3の範囲である。
【0071】
本発明によれば、方法(P1)又は(P2)からの触媒ナノ粒子は、セルを構成するカソードの表面に、カソード1cm当たり0.1〜2mgの範囲の量で付着される。
【0072】
本発明の別の目的は、本発明による方法(P1)又は(P2)によって得ることができる、担持又は非担持いずれかの白金を含みかつ0.1〜0.5、好ましくは0.1〜0.3の範囲にある比(セレン/白金)のセレンの準単層で被覆された金属中心を備える触媒ナノ粒子に関する。
【0073】
本発明の別の目的は、本発明による方法(P1)又は(P2)によって得ることができる、担持又は非担持いずれかの白金を含みかつ0.1〜0.5の範囲にある比(硫黄/白金)の硫黄の準単層で被覆された金属中心を備える触媒ナノ粒子に関する。
【0074】
本発明によればそのナノ粒子のサイズは、1〜10nm、好ましくは2〜3nmの範囲にある。
【0075】
本発明の別の目的は、メタノールの存在下での二原子酸素の還元反応用の触媒としての本発明による触媒ナノ粒子の使用に関する。
【0076】
本発明の別の目的は、本発明によるナノ粒子を含むセル用カソードに関する。
【0077】
本発明によればこのカソードは、直接メタノール燃料電池用のカソード及びマイクロ流体燃料電池用のカソードであることができる。
【0078】
マイクロ流体燃料電池とは、燃料と酸化剤が混合されずにマイクロ流路の流れ中で液体として一緒にされる層流燃料電池(Laminar Flow Fuel Cell)(LFFC)と呼ばれるセル、又は燃料と酸化剤が混合される混合反応体燃料電池(Mixed Reactant Fuel Cell)(MRFC)と呼ばれるマイクロ流体燃料電池を意味する。
【0079】
本発明の別の目的は、本発明によるナノ粒子を含むカソードを備えたセルに関する。
【0080】
本発明によればこのセルは、直接メタノール燃料電池であることができる。
【0081】
本発明によればこのセルは、マイクロ流体燃料電池であることができる。
【0082】
有利にはこのセルは、直接メタノールマイクロ流体燃料電池であることができる。
【0083】
本発明によれば、セル中に存在するカソードの表面は、1cm当たり0.1〜2mgの範囲にある量の触媒ナノ粒子を有する。
【図面の簡単な説明】
【0084】
図1】適用された様々なストリッピング継続時間についての定電位電解(chronoamperometry)を示す図である。
図2】様々なストリッピング時間について1.1Vでの定電位電解測定後に測定される900回転/分での還元二原子酸素の曲線を示す図である。
図3】ストリッピング継続時間に対する半波電位E1/2を示す図である。
図4】0分から40分の間に含まれるストリッピング時間に対する半波電位E1/2を20μgの量の付着触媒について示す図である。
図5】0分から40分の間に含まれるストリッピング時間に対する半波電位E1/2を81μgの量の付着触媒について示す図である。
図6】0分から40分の間に含まれるストリッピング時間に対する半波電位E1/2を162μgの量の付着触媒について示す図である。
図7】直接メタノール燃料電池(DMFC)において0.2に等しいモル比R(セレン/白金)を有する触媒ナノ粒子(PtSe0.2/C)の温度30℃、50℃、及び80℃での電流密度に対するセル電圧の曲線及び出力密度の曲線を同時に示す図である。
図8】直接メタノール燃料電池(DMFC)においてPt/C触媒の温度30℃、50℃、及び80℃での電流密度に対するセル電圧の曲線及び出力密度の曲線を同時に示す図である。
図9】直接メタノール燃料電池において温度30℃、50℃、及び80℃での、0.2に等しいモル比R(セレン/白金)を有する触媒ナノ粒子(PtSe0.2/C)と、触媒(Pt/C)の最大出力密度値を比較した一覧図である。
図10】LFFC(層流燃料電池)型及びMRFC(混合反応体燃料電池)型のマイクロ流体燃料電池において0.2に等しいモル比R(セレン/白金)を有する触媒のナノ粒子(PtSe0.2/C)の温度25℃での電流密度に対する電極電位の曲線(カソード及びアノード)及び出力密度の曲線を同時に示す図である。
【実施例】
【0085】
本発明の様々な目的及びそれらの実施形態は、下記の実施例を読むことによってより良く理解されるはずである。これらの実施例は、限定するものではなく示唆するものとして与えられる。
【0086】
例1:方法(P1)のステップi)又は方法(P2)による、炭素に担持され、かつ0.5に等しいモル比R(セレン/白金)のセレンの準単層で被覆された白金の触媒ナノ粒子(PtSe0.5/C)の調製
まず初めに、カルボニル法により炭素に担持された白金複合体(Pt/C)を合成した。
【0087】
式NaPtCl・6HOのヘキサクロロ白金酸ナトリウム(1モル)及び酢酸ナトリウム(6モル)の0.16に等しいモル比(ヘキサクロロ白金酸ナトリウム/酢酸ナトリウム)の混合物を30分間の窒素雰囲気下で生成させた。
【0088】
次にこの反応物を、一酸化炭素の存在下において55℃で15分間撹拌することにより活性化させた。
【0089】
24時間後に白金−カルボニル錯体が得られた。
【0090】
次に窒素流中で炭素を加え、次いでその溶液を窒素雰囲気下で12時間、撹拌を持続した。
【0091】
次に、窒素中で80℃に加熱することによって溶媒を蒸発した。
【0092】
次に、超純水で洗浄し濾過することによってPt/C化合物の粉末を回収した。
【0093】
続いて化合物(Pt/C)を、セレン化法によってその表面をセレン原子で修飾した。そのために、化合物Pt/C(62.5mg)及びセレン酸化物SeO(3.8mg)を、5に等しいv/v比(水/イソプロパノール)のイソプロパノールの水溶液(30mL)中で混合し、室温で12時間撹拌した。得られた粉末を窒素雰囲気下において200℃で1時間加熱した。その得られた触媒は、炭素に担持され、かつ表面を0.5に等しいモル比R(セレン/白金)のセレンの準単層で修飾された白金からなる。
【0094】
例2:方法(P1)による、炭素に担持され、かつ0.2に等しいモル比R(セレン/白金)のセレンの準単層で被覆された白金からなるメタノールに耐性のある触媒ナノ粒子(PtSe0.2/C)の調製
炭素に担持され、かつ0.2に等しいモル比(セレン/白金)のセレンの準単層で被覆された白金からなるメタノールに耐性のある触媒ナノ粒子(PtSe0.2/C)にするために、例1の触媒ナノ粒子を初期ナノ粒子として使用した。
【0095】
例1の触媒ナノ粒子を、
・0.071cmの表面積を有する作用電極としての金電極、
・補助電極としてのガラス質炭素電極、
・参照電極としての可逆水素電極(RHE)、及び
・水、モル濃度0.5Mに等しい硫酸(96%、Merck)、及びモル濃度0.5Mに等しいメタノール(99.9%、Sigma−Aldrich)を含む酸電解液
を備えたサーモスタット付き電気化学セルに導入した。
【0096】
この触媒ナノ粒子は、アルゴンで霧状にすることによって、20μgの触媒ナノ粒子の総質量に対応する0.27mg/cmの比質量で作用電極の表面に付着させた。
【0097】
次いで、ポテンショスタットによって1.1Vの酸化電位をこの電気化学セル内に印加した。酸化電位は、窒素で飽和した雰囲気下で10、15、20、25、及び30分の期間(ストリッピング期間と呼ばれる)印加された。
【0098】
ストリッピング時間が増すと二原子酸素還元反応のカソード曲線の混成領域が広がることを図2に見ることができる。
【0099】
これは、開路電位(OCP)が一定のままで半波電位E1/2が増加するという事実によって実証される。
【0100】
図2中の点線で示した炭素に担持された白金、すなわちPt/Cを含む触媒の場合、開路電位は、より負電位の方へ移動する。この混成電位は、同時に起こるメタノールの電気化学的酸化により、また二原子酸素還元反応により生じる。
【0101】
これは、炭素に担持された白金を含むが、セレンの準単層の存在しない触媒は、メタノールに対してより耐性が低いことを意味する。
【0102】
各ストリッピング時間に対する半波電位E1/2は、電流強度が限界拡散電流強度の半分に等しい電位を測定することによって求めた。
【0103】
半波電位の各値には、特定のモル比R(セレン/白金)によって特徴づけられる触媒の特定の組成が対応する。
【0104】
図3は、この触媒の半波電位が、20分に等しいストリッピング期間の場合にプラトーに到達し、それが0.8Vに近い値に対応することを示す。
【0105】
このストリッピング期間の場合、またこの半波電位の値において、そのセレン被覆率は、二原子酸素還元反応に対してより高い活性を示す(図2の曲線3参照)とともにメタノールによる被毒に対してより耐性が大きい。
【0106】
この20分に等しいストリッピング期間の場合、またこの0.8Vに近い半波電位の値において、セレンによる、担持された白金の残存被覆率は0.15〜0.2の範囲の値を有することが決定された。
【0107】
このために、例えばElezovic等の論文(Elezovic et al., Int. J. Hydrogen Energy 32(2007), 1991−1998)に記載されている、電位下での析出(水素のアンダーポテンシャル析出)の方法が使用された。
【0108】
この残存率からモル比(セレン/白金)が0.2に近い値であると決定された。
【0109】
このために、蛍光X線による透過型電子顕微鏡法の物理的計測と組み合わせた、水素電位又はCOストリッピング析出(CO−stripping deposition)法による活性表面の測定が行われた。
【0110】
こうして、メタノールに対する耐性の向上と相まって、メタノールの存在下での二原子酸素の還元反応の最大電極触媒活性が、炭素に担持され、かつ0.2に近いモル比R(セレン/白金)のセレンの準単層で被覆された白金を含む触媒の場合に得られることが決定された。
【0111】
例3:半波電位の最大値の決定に及ぼす作用電極の表面に付着した触媒PtSe0.5の量の影響の評価
作用電極の表面に付着させた触媒PtSe0.5の量20μg、81μg、及び162μgについて例1及び2による方法を再現した。
【0112】
図4、5、及び6に描かれた結果は、作用電極の表面に付着した触媒の量に応じて半波電位の最大値E1/2がほんの少ししか変わらず、その値は依然として0.8Vに近いままであることを示している。
【0113】
さらに、この様々な量の触媒の使用は、触媒を活性化するために使用される最適ストリッピング時間の決定を可能にした。最適ストリッピング時間は、半波電位E1/2の値が最大になる、したがって電極触媒活性が最大になる時間に対応する。
【0114】
触媒PtSe0.5の場合、その最適ストリッピング時間(tstrip)は、関係式tstrip=0.07mcat+18.87によって使用される触媒量(mcat)に関係している。
【0115】
したがって、様々な触媒の性質に対してその触媒を活性化するための最適ストリッピング時間を決定することができ、それによってこのことは、その触媒の工業生産の範囲内でその製造方法の単純化及び/又は最適化を可能にする。
【0116】
例4:直接メタノール燃料電池(DMFC)における温度30℃、50℃、及び80℃での、0.2に等しいモル比R(セレン/白金)を有する触媒のナノ粒子(PtSe0.2/C)の電流密度(mA/cm)に対する出力密度(mW/cm)の評価
Ptの1cm当たり0.9mgの比質量でカソードの表面に付着させた触媒PtSe0.2の量について例1による方法を再現した。
【0117】
この直接メタノール燃料電池は、アノードとカソードの間に挿入されたNafion(登録商標)N212(DuPont)膜を含むMEA(膜電極アセンブリ)アセンブリからなる。この膜の一方の面を、アノードとして使用される触媒PtRu/Cナノ粒子(Ptの1cm当たり1.5mgの比質量)で被覆し、またこの膜の他方の面を、カソードとして使用される触媒PtSe0.2/Cナノ粒子(Ptの1cm当たり0.9mgの比質量)で被覆する。
【0118】
電流密度(mA/cm)に対する出力密度(mW/cm)の値を、
・2Mに等しいモル濃度のメタノール(99.9%、Sigma−Aldrich)を含む水性相、
・この水溶液の100mL/分の流量、
・大気圧の酸素流
の実験条件下で得た。
【0119】
モル比R(セレン/白金)が0.2に等しい触媒ナノ粒子(PtSe0.2/C)を含むMEAアセンブリの出力密度の最大値が、温度80℃において21mW/cmに等しいことが分かる。
【0120】
例5:直接メタノール燃料電池におけるモル比R(セレン/白金)が0.2に等しい触媒ナノ粒子(PtSe0.2/C)と触媒(Pt/C)の出力密度の比較
Ptの1cm当たり1mgの比質量の、ある量の触媒Pt/Cをカソードの表面に付着させた。
【0121】
直接メタノール燃料電池について電流密度(mA/cm)に対する出力密度(単位mW/cm)の値を、例4と同一の実験条件下で得た。
【0122】
直接メタノール燃料電池におけるPt/Cナノ粒子を含むMEAアセンブリの出力密度の最大値が、温度80℃において7mW/cmに等しいことが分かる。
【0123】
0.2に等しいモル比R(セレン/白金)を有する触媒ナノ粒子(PtSe0.2/C)の出力密度の値はそれぞれ、温度30℃では6mW/cmに、温度50℃では12mW/cmに、また温度80℃では21mW/cmに一致することが分かる。これらの値は、温度に関係なく常にPt/C触媒の出力密度の値よりも大きい。また、0.2に等しいモル比R(セレン/白金)を有する触媒ナノ粒子(PtSe0.2/C)の出力密度の値は、温度80℃においてPt/C触媒の出力密度の値の3倍であることが分かる。
【0124】
例6:LFFC(層流燃料電池)型又はMRFC(混合反応体燃料電池)型のマイクロ流体燃料電池における温度25℃での0.2に等しいモル比R(セレン/白金)を有する触媒のナノ粒子(PtSe0.2/C)の電流密度に対する出力密度(mW/cm)と、電流密度に対するカソード及びアノードの電位E(V/RHE)との評価
Ptの1cm当たり0.9mgの比質量の、ある量でカソードの表面に付着させた触媒PtSe0.2について例1による方法を再現した。
【0125】
このLFFC(層流燃料電池)型のマイクロ流体燃料電池及びMRFC(混合反応体燃料電池)型のマイクロ流体燃料電池は、カソードの自己加湿モードで動作する。このモードは当業者に知られている。
【0126】
LFFC型のマイクロ流体燃料電池は、
・表面をPtの1cm当たり1.5mgの比質量の触媒PtRu/Cナノ粒子で被覆されたアノード、
・表面をPtの1cm当たり0.9mgの比質量の触媒PtSe0.2/Cナノ粒子で被覆されたカソード、
・高さ250μm、幅750μm、及び長さ2,000μmを有する10−750幾何構造を備えたSU−8マイクロ流路
からなる。
【0127】
このLFFC型のマイクロ流体燃料電池について電流密度(mA/cm)に対する出力密度(mW/cm)と、電流密度(mA/cm)に対するカソード及びアノードの電位(V/RHE)との値を、
・0.5Mの濃度の硫酸(Sigma−Aldrich)を含み、かつ5Mに等しいモル濃度のメタノール(99.9%、Sigma−Aldrich)を含む電解液の流れ、
・0.5Mの濃度の硫酸(Sigma−Aldrich)を含み、メタノールを含まない電解液の第二の流れ、
・両方の電解液ともに3.4mL/分の流量
の実験条件により得た。
【0128】
MRFC型のマイクロ流体燃料電池は、
・表面をPtの1cm当たり1.5mgの比質量の触媒PtRu/Cで被覆されたアノード、
・表面をPtの1cm当たり0.9mgの比質量の触媒PtSe0.2/Cナノ粒子で被覆されたカソード、
・10−750幾何構造のSU−8マイクロ流路
からなる。
【0129】
このLFFC型のマイクロ流体燃料電池について電流密度(mA/cm)に対する出力密度(mW/cm)と、電流密度(mA/cm)に対するカソード及びアノードの電位(V/RHE)との値を、
・0.5Mの濃度の硫酸(Sigma−Aldrich)を含み、かつ5Mに等しいモル濃度のメタノール(99.9%、Sigma−Aldrich)を含む電解液の流れ、
・0.5Mの濃度の硫酸(Sigma−Aldrich)を含み、メタノールを含まない電解液の第二の流れ、
・両方の電解液ともに3.4mL/分の流量
の実験条件により得た。
【0130】
カソードの開路電位の値は、LFFC型のマイクロ流体燃料電池及びMRFC型のマイクロ流体燃料電池の場合、それぞれ0.8V及び0.79Vであることが分かる。これらの両方の型のマイクロ流体燃料電池の間のこの小さな電位の違いは、本発明による触媒のナノ粒子が電解質媒体との関連において高度に選択的であることを示している。また、LFFC型又はMRFC型のマイクロ流体燃料電池において0.2に等しいモル比R(セレン/白金)を有する触媒のナノ粒子(PtSe0.2/C)の出力密度の最大値は、温度25℃においてそれぞれ3mW/cm及び3.7mW/cmに等しいことが分かる。本発明による触媒ナノ粒子を含むLFFC型のマイクロ流体燃料電池の出力密度と、本発明による触媒ナノ粒子を含むMRFC型のマイクロ流体燃料電池の出力密度の間のこの小さな違いは、本発明による触媒ナノ粒子がメタノールの存在下で劣化せず、それらが一定かつ長続きする電極触媒活性を維持することを示している。
【0131】
これらの結果は、本発明による触媒ナノ粒子がマイクロ流体燃料電池の型(LFFC又はMRFC)に関係なく似た挙動を有し、かつそれらの触媒効率を維持することを示している。本発明の実施態様の一部を以下の項目[1]−[25]に記載する。
[1]
(a)担持又は非担持いずれかの、白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、又はイリジウムから選択される少なくとも1種類の遷移金属を含む金属中心と、
(b)セレン又は硫黄から選択される、1未満の最大電極触媒活性のモル比R(カルコゲン/遷移金属)のカルコゲンの準単層と
を備えた二原子酸素のカソード還元用の、メタノールに耐性のある触媒ナノ粒子の調製方法(P1)であって、
i)1以下のモル比R(カルコゲン/遷移金属)のカルコゲンの準単層で被覆された担持又は非担持いずれかの遷移金属を含む触媒ナノ粒子を調製するステップ、
ii)作用電極、参照電極、及び補助電極と、メタノールを含む電解液と、作用電極1cm当たり0.010〜0.300mgの範囲の比質量で前記作用電極の表面に付着させた触媒ナノ粒子とを備えた電気化学セルを調製するステップ、
iii)不活性雰囲気下で0〜40分の範囲の期間、0.8〜1.4Vの範囲の酸化電位を印加することによって前記電気化学セルの電極触媒活性を測定するステップ、
iv)前記酸化電位の印加時間に応じた半波電位E1/2を決定するステップ、
v)前記半波電位E1/2が最大になる、前記カルコゲンによる前記金属中心の残存被覆率を決定するステップ、及び
vi)前記触媒の前記比Rの値を決定するステップ
を含む、方法。
[2]
前記比Rが、0.001〜1、好ましくは0.3〜0.9、有利には0.5〜0.7の範囲にある、項目1に記載の方法。
[3]
前記金属中心が、担持された、白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、又はイリジウムから選択される少なくとも1種類の遷移金属を含む、項目1又は2のいずれかに記載の方法。
[4]
前記担体が炭素を含む、項目1〜3のいずれか一項に記載の方法。
[5]
前記担体が、無定形炭素、炭素ナノチューブ、又はグラフェンを含む、項目1〜4のいずれか一項に記載の方法。
[6]
前記担体が、好ましくはTiO−炭素、WO−炭素、又はSnO−炭素複合体から選択される、酸化物−炭素複合体を含む、項目1〜4のいずれか一項に記載の方法。
[7]
前記遷移金属が白金であり、前記カルコゲンがセレンであり、前記比Rが0.5〜0.7の範囲にあり、かつ前記Rが0.5未満、好ましくは0.1〜0.3の範囲にある、項目1〜6のいずれか一項に記載の方法。
[8]
前記遷移金属が白金であり、前記カルコゲンが硫黄であり、前記比Rが0.5〜0.7の範囲にあり、かつ前記比Rが0.5以下、好ましくは0.1〜0.3の範囲にある、項目1〜6のいずれか一項に記載の方法。
[9]
前記金属中心がまた、金、チタン、スズ、コバルト、ニッケル、鉄、又はクロム、好ましくはチタンから選択される担持又は非担持いずれかの追加の金属を含む、項目1〜8のいずれか一項に記載の方法。
[10]
ステップii)の前記作用電極が、金、チタン、スズ、コバルト、ニッケル、鉄、又はクロム、好ましくは金又はチタンから選択される金属を含む、項目1〜9のいずれか一項に記載の方法。
[11]
ステップii)の前記電解液が、好ましくは硫酸を含む酸溶液である、項目1〜10のいずれか一項に記載の方法。
[12]
ステップii)の前記電気化学セルが、0.1M〜20M、好ましくは0.5M〜5Mの範囲のモル濃度のメタノールを含む、項目1〜11のいずれか一項に記載の方法。
[13]
前記遷移金属が、白金、ロジウム、パラジウム、又はイリジウムから選択され、かつステップiii)の前記酸化電位が、1〜1.2Vの範囲にある、項目1〜12のいずれか一項に記載の方法。
[14]
前記触媒ナノ粒子のサイズが1〜10nm、好ましくは2〜3nmの範囲にある、項目1〜13のいずれか一項に記載の方法。
[15]
vii)担持又は非担持いずれかの前記遷移金属と、2/1〜10/1の範囲のv/v比の水及びイソプロパノールの混合物との混合物を、5〜60分の範囲の間撹拌することにより調製するステップ、
viii)カルコゲンを或るモル比R(カルコゲン/遷移金属)で含む無機化合物を加えるステップ、
ix)20〜50℃の範囲の温度で5〜24時間、好ましくは10〜20時間の範囲の間撹拌するステップ、
x)前記水及び前記イソプロパノールを蒸発させるステップ、及び
xi)不活性雰囲気下で100〜400℃の範囲の温度で30分〜2時間の範囲の間、か焼するステップ
をさらに含む、項目1〜14のいずれか一項に記載の方法。
[16]
ステップi)の触媒のナノ粒子の前記調製が、
i.a)担持又は非担持いずれかの前記遷移金属と、2/1〜10/1の範囲のv/v比の水及びイソプロパノールの混合物との混合物を、5〜60分の範囲の間撹拌することにより調製するステップ、
i.b)1以下のモル比R(カルコゲン/遷移金属)のカルコゲンを含む無機化合物を加えるステップ、
i.c)20〜50℃の範囲の温度で5〜24時間、好ましくは10〜20時間の範囲の間撹拌するステップ、
i.d)前記水及び前記イソプロパノールを蒸発させるステップ、及び
i.e)不活性雰囲気下で100〜400℃の範囲の温度で30分〜2時間の範囲の間、か焼するステップ
を含む、項目1〜15のいずれか一項に記載の方法。
[17]
(a)担持又は非担持いずれかの、白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、又はイリジウムから選択される少なくとも1種類の遷移金属を含む金属中心と、
(b)セレン又は硫黄から選択されるカルコゲンの準単層と
を備えたメタノールに耐性のある触媒のナノ粒子の調製方法(P2)であって、
i)担持又は非担持いずれかの前記遷移金属と、2/1〜10/1の範囲のv/v比の水及びイソプロパノールの混合物との混合物を、5〜60分の範囲の間撹拌することにより調製するステップ、
ii)カルコゲンを1以下、好ましくは0.001〜1の範囲のモル比R(カルコゲン/遷移金属)で含む無機化合物を加えるステップ、
iii)20〜50℃の範囲の温度で5〜24時間、好ましくは10〜20時間の範囲の間撹拌するステップ、
iv)前記水及び前記イソプロパノールを蒸発させるステップ、及び
v)不活性雰囲気下で100〜400℃の範囲の温度で30分〜2時間の範囲の間、か焼するステップ
を含む、方法。
[18]
前記水/イソプロパノールのv/v比が、3/1〜7/1の範囲にあり、好ましくは5/1に等しい、項目15〜17のいずれか一項に記載の方法。
[19]
前記無機化合物が酸化物又は塩から選択される、項目15〜18のいずれか一項に記載の方法。
[20]
項目1〜19のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる、担持又は非担持いずれかの白金を含みかつ0.1〜0.5、好ましくは0.1〜0.3の範囲にある比(セレン/白金)のセレンの準単層で被覆された金属中心を備える触媒ナノ粒子。
[21]
項目1〜19のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる、担持又は非担持いずれかの白金を含みかつ0.1〜0.5の範囲にある比(硫黄/白金)の硫黄の準単層で被覆された金属中心を備える触媒ナノ粒子。
[22]
前記サイズが1〜10nm、好ましくは2〜3nmの範囲にある、項目20又は21のいずれかに記載のナノ粒子。
[23]
メタノールの存在下での二原子酸素の還元反応用の触媒としての項目20〜22のいずれか一項に記載のナノ粒子の使用。
[24]
項目20〜22のいずれか一項に記載のナノ粒子を含む直接メタノール燃料電池用のカソード。
[25]
項目20〜22のいずれか一項に記載のナノ粒子を含むマイクロ流体燃料電池用のカソード。
図1
図2
図3
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図10