【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的は、
(a)担持又は非担持いずれかの、白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、又はイリジウムから選択される少なくとも1種類の遷移金属を含む金属中心と、
(b)セレン又は硫黄から選択される、1未満の最大電極触媒活性のモル比R(カルコゲン/遷移金属)のカルコゲンの準単層と
を備えた二原子酸素のカソード還元用の、メタノールに耐性のある触媒ナノ粒子の調製方法(P1)である。この方法は、
i)1以下のモル比R
1(カルコゲン/遷移金属)のカルコゲンの準単層で被覆された担持又は非担持いずれかの遷移金属を含む触媒ナノ粒子を調製するステップ、
ii)作用電極、参照電極、及び補助電極と、メタノールを含む電解液と、作用電極1cm
2当たり0.010〜0.300mgの範囲の比質量で作用電極の表面に付着させた触媒ナノ粒子とを備えた電気化学セルを調製するステップ、
iii)不活性雰囲気下で0〜40分の範囲の期間、0.8〜1.4Vの範囲の酸化電位を印加することによってこの電気化学セルの電極触媒活性を測定するステップ、
iv)酸化電位の印加時間に応じた半波電位E
1/2を決定するステップ、
v)半波電位E
1/2が最大になる、カルコゲンによる金属中心の残存被覆率を決定するステップ、及び
vi)触媒の比Rの値を決定するステップ
を含む。
【0015】
カルコゲンの準単層とは、金属中心の表面でカルコゲンの不連続層により金属中心を被覆するものを意味する。
【0016】
最大電極触媒活性のモル比Rとは、メタノールの存在下で最大電極触媒活性を得る可能性を与える触媒のモル比(カルコゲン/遷移金属)を意味する。
【0017】
メタノールに耐性のある触媒とは、その電極触媒活性がメタノールの存在の影響を受けないか、ほんのわずかしか影響を受けない、好ましくはメタノールの存在下で電極触媒活性の減少が20%未満である触媒を意味する。
【0018】
本発明によれば、比R
1は0.001〜1、好ましくは0.3〜0.9、有利には0.5〜0.7の範囲であることができる。
【0019】
本発明によれば、金属中心は、白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、又はイリジウムから選択される、少なくとも1種類の担持された遷移金属を含むことができる。
【0020】
有利には金属中心は、担持された白金を含む。
【0021】
本発明によれば担体は炭素を含むことができる。
【0022】
本発明によれば担体は、無定形炭素、炭素ナノチューブ、又はグラフェンを含むことができる。
【0023】
本発明によれば担体は、好ましくはTiO
2−炭素、WO
3−炭素、又はSnO
2−炭素複合体から選択される、酸化物−炭素複合体を含むことができる。
【0024】
有利にはこの方法(P1)はさらに、
vii)担持又は非担持いずれかの遷移金属と、2/1〜10/1の範囲のv/v比の水及びイソプロパノールの混合物との混合物を、5〜60分の範囲の間撹拌することにより調製するステップ、
viii)カルコゲンを或るモル比R(カルコゲン/遷移金属)で含む無機化合物を加えるステップ、
ix)20〜50℃の範囲の温度で5〜24時間、好ましくは10〜20時間の範囲の間撹拌するステップ、
x)水及びイソプロパノールを蒸発させるステップ、及び
xi)不活性雰囲気下で100〜400℃の範囲の温度で30分〜2時間の範囲の間、か焼するステップ
を含む。
【0025】
本発明によればこの水及びイソプロパノールのv/v混合物は、エタノールの体積に対してより大きな体積の水を含む。
【0026】
有利には、本発明によればステップvii)の水/イソプロパノールのv/v比は、3/1〜7/1の範囲にあり、好ましくは5/1に等しい。
【0027】
有利には、本発明によればステップviii)の無機化合物は、酸化物及び塩から選択することができるカルコゲンを含む。酸化物の例としてはセレン酸化物を挙げることができる。塩の例としては硫化ナトリウムを挙げることができる。
【0028】
本発明によれば、ステップx)の水及びイソプロパノールの蒸発は、当業者に知られている任意の通例の手法によって行うことができる。例えば、制御された雰囲気下での加熱による方法を挙げることができる。
【0029】
本発明によれば、ステップi)の触媒ナノ粒子の調製は、担持又は非担持いずれかの遷移金属を含み、表面をカルコゲンの準単層によって修飾された触媒ナノ粒子の調製を可能にする、当業者に知られている任意の方法により行うことができる。
【0030】
例えば、米国特許第7,851,399号明細書の文書に記載されている方法を挙げることができる。
【0031】
有利にはまた、ステップi)の触媒ナノ粒子の調製は、
i.a)担持又は非担持いずれかの遷移金属と、2/1〜10/1の範囲のv/v比の水及びイソプロパノールの混合物との混合物を、5〜60分の範囲の間撹拌することにより調製するステップ、
i.b)1以下のモル比R
1(カルコゲン/遷移金属)のカルコゲンを含む無機化合物を加えるステップ、
i.c)20〜50℃の範囲の温度で5〜24時間、好ましくは10〜20時間の範囲の間撹拌するステップ、
i.d)水及びイソプロパノールを蒸発させるステップ、及び
i.e)不活性雰囲気下で100〜400℃の範囲の温度で30分〜2時間の範囲の間、か焼するステップ
を含む。
【0032】
有利には、本発明によればステップi.a)の水及びイソプロパノールのv/v混合物は、エタノールの体積に対してより大きな体積の水を含む。
【0033】
有利には、本発明によればステップi.a)の水/イソプロパノールのv/v比は、3/1〜7/1の範囲にあり、好ましくは5/1に等しい。
【0034】
有利には、本発明によればステップi.b)のカルコゲンを含む無機化合物は、酸化物及び塩から選択することができる。酸化物の例としてはセレン酸化物を挙げることができる。塩の例としては硫化ナトリウムを挙げることができる。
【0035】
本発明によればステップi.d)の水及びイソプロパノールの蒸発は、当業者に知られている任意の通例の手法によって行うことができる。
【0036】
例えば、制御された雰囲気下での加熱による方法を挙げることができる。
【0037】
有利には本発明はまた、触媒ナノ粒子の調製のための改良された方法(P2)に関する。本発明によればこの方法(P2)は、使い易くかつその収率が改善され、したがって工業規模で置き換えることができるとともに環境への影響が全く又はほとんどない方法である。
【0038】
方法(P1)について示した遷移金属、カルコゲン、及び担体の定義及び好ましい特徴は、方法(P2)にも適用される。
【0039】
有利には、その遷移金属は白金であり、そのカルコゲンはセレンであり、その比R
1は0.5〜0.7の範囲にあり、またその比Rは0.5未満、好ましくは0.3以下、有利には0.1〜0.3の範囲にある。
【0040】
有利にはまた、その遷移金属は白金であり、そのカルコゲンは硫黄であり、その比R
1は0.5〜0.7の範囲にあり、またその比Rは0.5以下、好ましくは0.1〜0.3の範囲にある。
【0041】
有利にはまた、その遷移金属はルテニウムであり、その比R
1は1以下であり、またその比Rは0.5以下、好ましくは0.05〜0.5の範囲にある。
【0042】
本発明によれば金属中心はまた、金、チタン、スズ、コバルト、ニッケル、鉄、又はクロム、好ましくはチタンから選択される担持又は非担持いずれかの追加の金属を含むことができる。
【0043】
有利にはこの追加の金属は担持される。
【0044】
方法(P1)で遷移金属について示した担体の定義及び好ましい特徴は、追加の金属の担体についても適用される。
【0045】
本発明によれば、方法(P1)における原子数比(遷移金属/追加金属)は、1〜19の範囲にある。
【0046】
本発明によれば、方法(P1)のステップii)の作用電極は、金、チタン、スズ、コバルト、ニッケル、鉄、又はクロムから選択される金属、好ましくは金又はチタンを含む。参照電極とは、電位を設定するための任意の電極を意味する。本発明によれば、方法(P1)における参照電極は、当業者に知られている通例の参照電極から選択することができる。参照電極の例としては標準水素電極(HSE)又は可逆水素電極(HRE)を挙げることができる。
【0047】
本発明によれば、方法(P1)における補助電極は、当業者に知られている通例の補助電極から選択することができる。補助電極の例としては炭素電極を挙げることができる。
【0048】
本発明によれば、方法(P1)におけるステップii)の電解液は、酸溶液であることができる。
【0049】
本発明によれば、方法(P1)におけるステップii)の電解液は、過塩素酸、リン酸、又は硫酸から選択される酸を含むことができる。有利にはこの電解液は硫酸を含む。
【0050】
本発明によれば、方法(P1)におけるステップii)の電解液の酸モル濃度は、0.1M〜2Mの範囲にあることができる。
【0051】
本発明によれば、方法(P1)におけるステップii)の電気化学セルのメタノールモル濃度は、0.1M〜20M、好ましくは0.5M〜5Mの範囲であることができる。
【0052】
本発明によれば、方法(P1)におけるステップiii)の酸化電位は、遷移金属の性質によって変えることができる。
【0053】
したがって有利には、遷移金属が白金、ロジウム、パラジウム、又はイリジウムから選択される場合、方法(P1)におけるステップiii)の酸化電位は1〜1.2Vの範囲にあることができる。
【0054】
半波電位とは、二原子酸素の還元反応の場合のような速度論的条件に依存する電気化学系の波の形状及びその位置を意味する。
【0055】
本発明によれば、方法(P1)におけるステップiv)の半波電位は、当業者に知られている任意の通例の測定法によって決定することができる。例としては、例えばBard等(Bard et al., Electrochemical Methods: Fundamentals and Applications, John Wiley & Sons, NY, 2nd Ed., 2002)が述べているような回転円盤電極(RDE)技術による測定法を挙げることができる。
【0056】
本発明によれば、方法(P1)におけるステップv)の残存被覆率の決定は、当業者に知られている任意の通例の方法によって行うことができる。
【0057】
本発明による金属中心の遷移金属の性質に応じて当業者は、最も適切な方法を決めることができる。
【0058】
白金及びロジウムに適した方法の例としては、例えばElezovic等の論文(Elezovic et al., Int. J. Hydrogen Energy 32(2007), 1991−1998)に記載されている水素のアンダーポテンシャル析出法を挙げることができる。
【0059】
また、例えばVidakovic等の文書(Vidakovic et al., Electrochim. Acta 52(2007), 5606−5613)に記載されている方法、いわゆるCOストリッピング法を挙げることができ、これは白金、ロジウム、ルテニウム、及びイリジウムに特に適している。
【0060】
また、例えばLan−lan等の論文(Lan−lan et al., Chinese J. Chem. Phys, 23(2010), 543−548)に記載されているパラジウム酸化物の単層をパラジウムに還元することによる方法を挙げることができ、これはパラジウムに特に適している。
【0061】
本発明によれば、ステップvi)の比Rの値は、ある電位域における水素の単層の吸着及び脱着によって決まる水素のアンダーポテンシャル析出によるステップv)の残存被覆率の値から求められる。この過程は、吸着された水素単層の210μC/cm
2の電荷に対応する。この方法は、Elezovic等の論文(Elezovic et al., Int. J. Hydrogen Energy 32(2007), 1991−1998)に特に記載されている。本発明によれば、この方法によるナノ粒子のサイズは、1〜10nm、好ましくは2〜3nmの範囲である。
【0062】
本発明の別の目的は、
(a)担持又は非担持いずれかの、白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、又はイリジウムから選択される少なくとも1種類の遷移金属を含む金属中心と、
(b)セレン又は硫黄から選択されるカルコゲンの準単層と
を備えたメタノールに耐性のある触媒のナノ粒子の調製方法(P2)に関し、この方法は、
i)担持又は非担持いずれかの遷移金属と、2/1〜10/1の範囲のv/v比の水及びイソプロパノールの混合物との混合物を、5〜60分の範囲の間撹拌することにより調製するステップ、
ii)カルコゲンを1以下、好ましくは0.001〜1の範囲のモル比(カルコゲン/金属中心)で含む無機化合物を加えるステップ、
iii)20〜50℃の範囲の温度で5〜24時間、好ましくは10〜20時間の範囲の間撹拌するステップ、
iv)水及びイソプロパノールを蒸発させるステップ、及び
v)不活性雰囲気下で100〜400℃の範囲の温度で30分〜2時間の範囲の間、か焼するステップ
を含む。
【0063】
本発明によれば、方法(P2)のステップi)の水及びイソプロパノールの混合物は、エタノールの体積含有量よりも大きい体積含有量の水を含む。
【0064】
本発明によれば、方法(P2)のステップi)の水/イソプロパノールのv/v比は、3/1〜7/1の範囲にあり、好ましくは5/1に等しい。
【0065】
本発明によれば、カルコゲンを含む方法(P2)のステップii)の無機化合物は、酸化物及び塩から選択することができる。
【0066】
酸化物の例としてはセレン酸化物を挙げることができる。
【0067】
塩の例としては硫化ナトリウムを挙げることができる。
【0068】
本発明によれば、方法(P2)のステップiv)の水及びイソプロパノールの蒸発は、当業者に知られている任意の通例の手法によって行うことができる。
【0069】
例えば、制御された雰囲気下での加熱による方法を挙げることができる。
【0070】
有利には、このモル比(カルコゲン/金属中心)は0.5未満、好ましくは0.3以下、有利には0.1〜0.3の範囲である。
【0071】
本発明によれば、方法(P1)又は(P2)からの触媒ナノ粒子は、セルを構成するカソードの表面に、カソード1cm
2当たり0.1〜2mgの範囲の量で付着される。
【0072】
本発明の別の目的は、本発明による方法(P1)又は(P2)によって得ることができる、担持又は非担持いずれかの白金を含みかつ0.1〜0.5、好ましくは0.1〜0.3の範囲にある比(セレン/白金)のセレンの準単層で被覆された金属中心を備える触媒ナノ粒子に関する。
【0073】
本発明の別の目的は、本発明による方法(P1)又は(P2)によって得ることができる、担持又は非担持いずれかの白金を含みかつ0.1〜0.5の範囲にある比(硫黄/白金)の硫黄の準単層で被覆された金属中心を備える触媒ナノ粒子に関する。
【0074】
本発明によればそのナノ粒子のサイズは、1〜10nm、好ましくは2〜3nmの範囲にある。
【0075】
本発明の別の目的は、メタノールの存在下での二原子酸素の還元反応用の触媒としての本発明による触媒ナノ粒子の使用に関する。
【0076】
本発明の別の目的は、本発明によるナノ粒子を含むセル用カソードに関する。
【0077】
本発明によればこのカソードは、直接メタノール燃料電池用のカソード及びマイクロ流体燃料電池用のカソードであることができる。
【0078】
マイクロ流体燃料電池とは、燃料と酸化剤が混合されずにマイクロ流路の流れ中で液体として一緒にされる層流燃料電池(Laminar Flow Fuel Cell)(LFFC)と呼ばれるセル、又は燃料と酸化剤が混合される混合反応体燃料電池(Mixed Reactant Fuel Cell)(MRFC)と呼ばれるマイクロ流体燃料電池を意味する。
【0079】
本発明の別の目的は、本発明によるナノ粒子を含むカソードを備えたセルに関する。
【0080】
本発明によればこのセルは、直接メタノール燃料電池であることができる。
【0081】
本発明によればこのセルは、マイクロ流体燃料電池であることができる。
【0082】
有利にはこのセルは、直接メタノールマイクロ流体燃料電池であることができる。
【0083】
本発明によれば、セル中に存在するカソードの表面は、1cm
2当たり0.1〜2mgの範囲にある量の触媒ナノ粒子を有する。