特許第6291520号(P6291520)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6291520空気入りタイヤ及び空気入りタイヤの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6291520
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ及び空気入りタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60C 5/00 20060101AFI20180305BHJP
【FI】
   B60C5/00 F
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-96916(P2016-96916)
(22)【出願日】2016年5月13日
(65)【公開番号】特開2017-202790(P2017-202790A)
(43)【公開日】2017年11月16日
【審査請求日】2017年5月22日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】榊原 一泰
【審査官】 松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−202788(JP,A)
【文献】 特開2017−114163(JP,A)
【文献】 特開2016−94163(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0220816(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0325383(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0048669(US,A1)
【文献】 特表2007−513820(JP,A)
【文献】 特開2008−149864(JP,A)
【文献】 特表2009−532267(JP,A)
【文献】 特開2016−34779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 5/00
B60C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の貫通孔、及び両端が板面内に位置するスリットが形成されている板状部材と、
前記スリットに挿通され、前記スリットの両側の板状部分を互いに反対方向に支持する支持部材と、を備え、
前記板状部材とトレッド部内面との間に空間が形成されるように、前記板状部材が、前記スリットの両端よりも外側にそれぞれ位置する取付部によって前記トレッド部内面に取り付けられていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記スリットは、タイヤ周方向に沿って形成されていることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記支持部材は円筒状であって、その円筒軸方向が前記スリットの長さ方向と直交しており、
前記スリットの長さは、前記支持部材の外径以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記スリットの両端は、円形の前記貫通孔に達していることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記板状部材は、前記トレッド部内面に全周に亘って取り付けられており、前記スリットがタイヤ周方向に等間隔を空けて複数形成されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
板状部材に対して、複数の貫通孔、及び両端が板面内に位置するスリットを形成する工程と、
前記スリットに支持部材を挿通する工程と、
前記板状部材とトレッド部内面との間に空間が形成されるように、前記スリットの両端よりも外側にそれぞれ位置する取付部によって、前記板状部材を前記トレッド部内面に取り付ける工程と、を含むことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド部内面に板状部材を取り付けることにより、空洞共鳴音を低減し得る空気入りタイヤ及び空気入りタイヤの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両が荒れた路面を走行したり、路面の継ぎ目を乗り越えたりすると、車内にロードノイズと呼ばれる騒音が発生することがある。ロードノイズは、タイヤが関係する騒音の一つであり、路面の凹凸が入力となってタイヤが加振されると、その振動によってタイヤ内部での空洞共鳴音が励起され、車内での騒音を引き起こす。
【0003】
特許文献1には、ロードノイズを低減する目的で、リムと空気入りタイヤとで囲まれるタイヤ内腔にスポンジ材からなる制音材を配した空気入りタイヤが記載されている。しかし、このようなスポンジ材は、タイヤ全体の重量を増加させて燃費の悪化を引き起こすおそれがある。また、多くのスポンジ材を要するため、コストの上昇を招くという問題もある。
【0004】
特許文献2には、大きなコスト増を抑制しながらロードノイズの悪化を防止する目的で、タイヤ内周面とリム外周面との間に形成される空気室内に、該空気室内を周方向に区画する隔壁が設けられている空気入りタイヤが記載されている。隔壁により空気室内を周方向に区画することで、空気室内の気柱の等価長が短くなり、気柱共鳴の共鳴周波数をシフトさせることができるため、気柱共鳴によるロードノイズの悪化を防止できる。
【0005】
また、特許文献3には、重量の増加を抑制しながら空洞共鳴音に起因するロードノイズを低減する目的で、タイヤ内腔内をほぼ軸方向に延びる薄肉の弾性仕切板をタイヤの内壁に備える空気入りタイヤが記載されている。タイヤ内腔内に弾性仕切板を設けることで、タイヤ内腔内全体の音圧モードが変化し、車内騒音レベルが低減される。
【0006】
しかしながら、このような隔壁や仕切板は、それら自身が振動し、新たな音源として空洞共鳴音によるロードノイズを悪化させる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−306302号公報
【特許文献2】特開平7−117404号公報
【特許文献3】特開平5−294102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の目的は、重量増加やコスト増を抑制しつつ、空洞共鳴音を低減できる空気入りタイヤ及び空気入りタイヤの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、下記の如き本発明により達成できる。
即ち、本発明の空気入りタイヤは、複数の貫通孔、及び両端が板面内に位置するスリットが形成されている板状部材と、
前記スリットに挿通され、前記スリットの両側の板状部分を互いに反対方向に支持する支持部材と、を備え、
前記板状部材とトレッド部内面との間に空間が形成されるように、前記板状部材が、前記スリットの両端よりも外側にそれぞれ位置する取付部によって前記トレッド部内面に取り付けられていることを特徴とする。
【0010】
本発明の空気入りタイヤは、複数の貫通孔が形成された板状部材がトレッド部内面に取り付けられている。より具体的には、板状部材は、板状部材とトレッド部内面との間に空間が形成されるようにトレッド部内面に取り付けられている。これにより、トレッド部内面から浮いた状態となった板状部材に複数の貫通孔が形成されている。一般に、音が貫通孔を通過すると、空気と貫通孔の内壁面との摩擦による粘性減衰と、通過によって発生する渦による圧力損失減衰とが生じるため、音が減衰する。よって、貫通孔が形成された板状部材をトレッド部内面に取り付けることで、タイヤ内の音が貫通孔を通過するため、空洞共鳴音を減衰させて低減することができる。また、スポンジ材等の吸音材や制音材を大量に設ける必要がないため、重量増加やコスト増を抑制できる。さらに、本発明では、板状部材に形成されているスリットに挿通された支持部材が、スリットの両側の板状部分を互いに反対方向に支持するため、タイヤの回転に伴う遠心力により板状部材がトレッド部内面に押し潰されて貫通孔が閉塞されることを防ぐことができる。これにより、低速度〜中速度のみならず高速度においても空洞共鳴音を減衰させて低減することができる。
【0011】
本発明に係る空気入りタイヤにおいて、前記スリットは、タイヤ周方向に沿って形成されていることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、タイヤ内に発生するタイヤ周方向の空気の流れが貫通孔を通過しやすくなるため、空洞共鳴音を効果的に低減できる。
【0013】
本発明に係る空気入りタイヤにおいて、前記支持部材は円筒状であって、その円筒軸方向が前記スリットの長さ方向と直交しており、前記スリットの長さは、前記支持部材の外径以下であることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、走行中に支持部材がスリットから脱落するのを防止できる。また、支持部材を板状部材に対して接着剤等で固定する必要がないため、重量増加を抑制できる。
【0015】
本発明に係る空気入りタイヤにおいて、前記スリットの両端は、円形の前記貫通孔に達していることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、スリットの両端に応力が集中して板状部材が裂けることを防止できる。
【0017】
本発明に係る空気入りタイヤにおいて、前記板状部材は、前記トレッド部内面に全周に亘って取り付けられており、前記スリットがタイヤ周方向に等間隔を空けて複数形成されていることが好ましい。
【0018】
この構成によれば、トレッド部内面に全周に亘って板状部材が取り付けられているため、貫通孔によって空洞共鳴音を効果的に低減できる。また、タイヤ周方向の全周に亘って等間隔で形成した各スリットに支持部材を配置することにより、ユニフォミティや重量バランスの悪化を抑制できる。
【0019】
また、本発明の空気入りタイヤの製造方法は、板状部材に対して、複数の貫通孔、及び両端が板面内に位置するスリットを形成する工程と、
前記スリットに支持部材を挿通する工程と、
前記板状部材とトレッド部内面との間に空間が形成されるように、前記スリットの両端よりも外側にそれぞれ位置する取付部によって、前記板状部材を前記トレッド部内面に取り付ける工程と、を含むことを特徴とする。
【0020】
本発明の製造方法により製造される空気入りタイヤは、複数の貫通孔が形成された板状部材がトレッド部内面に取り付けられている。より具体的には、板状部材は、板状部材とトレッド部内面との間に空間が形成されるようにトレッド部内面に取り付けられている。これにより、トレッド部内面から浮いた状態となった板状部材に複数の貫通孔が形成されている。一般に、音が貫通孔を通過すると、空気と貫通孔の内壁面との摩擦による粘性減衰と、通過によって発生する渦による圧力損失減衰とが生じるため、音が減衰する。よって、貫通孔が形成された板状部材をトレッド部内面に取り付けることで、タイヤ内の音が貫通孔を通過するため、空洞共鳴音を減衰させて低減することができる。また、スポンジ材等の吸音材や制音材を大量に設ける必要がないため、重量増加やコスト増を抑制できる。さらに、本発明の製造方法により製造される空気入りタイヤでは、板状部材に形成されているスリットに挿通された支持部材が、スリットの両側の板状部分を互いに反対方向に支持するため、タイヤの回転に伴う遠心力により板状部材がトレッド部内面に押し潰されて貫通孔が閉塞されることを防ぐことができる。これにより、低速度〜中速度のみならず高速度においても空洞共鳴音を減衰させて低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の空気入りタイヤの一例を示す斜視図
図2A】空気入りタイヤのタイヤ子午線断面図
図2B】空気入りタイヤのタイヤ周方向断面図
図2C】板状部材を平面上に展開した展開図
図3】板状部材を拡大して示す拡大断面図
図4】板状部材の平面図
図5】他の実施形態に係る空気入りタイヤのタイヤ周方向断面図
図6】他の実施形態に係る空気入りタイヤのタイヤ周方向断面図
図7】他の実施形態に係る空気入りタイヤを示す斜視図
図8】他の実施形態に係る板状部材の展開図
図9】他の実施形態に係る支持部材の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
[第1実施形態]
図1は、空気入りタイヤの一例を示す斜視図である。図2Aは、空気入りタイヤのタイヤ子午線断面図の一例である。図2Bは、空気入りタイヤのタイヤ周方向断面図の一例である。ここで、Hはタイヤ断面高さを示している。なお、タイヤ断面高さHは、タイヤ子午線断面において、JATMA規定の空気圧を充填した状態で、ノミナルリム径からトレッド表面までの高さである。
【0024】
空気入りタイヤ1は、図1及び図2Aに示されるように、一対の環状のビード部11と、そのビード部11の各々からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部12と、そのサイドウォール部12の各々のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部13とを備えている。
【0025】
空気入りタイヤ1は、トレッド部内面13aに取り付けられた板状部材2を備える。板状部材2は、タイヤ周方向CDに間隔を空けて配置される2つの取付部2a,2bにてトレッド部内面13aに取り付けられている。
【0026】
図2Cは、板状部材2を平面上に展開した展開図である。板状部材2には、複数の貫通孔4、及び両端が板面内に位置するスリット41,42が形成されている。
【0027】
本実施形態では、2本のスリット41,42が形成されている。スリット41,42は、タイヤ周方向CDに沿って形成されている。スリット41は、延設方向の両端41aが板面内に位置し、同様に、スリット42は、延設方向の両端42aが板面内に位置している。
【0028】
スリット41,42には、支持部材3が挿通されている。本実施形態の支持部材3は、タイヤ幅方向WDに沿って延びる円筒状となっており、円筒軸方向がスリット41,42の長さ方向、すなわちタイヤ周方向CDと直交している。支持部材3の詳細は、後述する。
【0029】
支持部材3は、スリット41,42の両側の板状部分を互いに反対方向に支持する。具体的には、支持部材3は、スリット41,42よりもタイヤ幅方向外側の板状部分をタイヤ径方向外方に支持し、一方、スリット41,42よりもタイヤ幅方向内側の板状部分をタイヤ径方向内方に支持する。その結果、板状部材2のスリット41とスリット42で挟まれた板状部分は、トレッド部内面13aから浮いた状態となる。
【0030】
また、板状部材2は、板状部材2とトレッド部内面13aとの間に空間20が形成されるように、取付部2a,2bによってトレッド部内面13aに取り付けられている。言い換えると、板状部材2の一部は、トレッド部内面13aと非接触となっている。取付部2a,2bは、スリット41,42の両端41a,42aよりも外側にそれぞれ位置している。
【0031】
なお、本実施形態では、支持部材3のタイヤ径方向外側に位置する板状部材2のタイヤ幅方向WDの両端部は、トレッド部内面13aに接触しているが、トレッド部内面13aに固定されていない。空間20は、2つの取付部2a,2bの間であって、板状部材2の外表面とトレッド部内面13aとに囲まれた領域である。
【0032】
板状部材2には、複数の貫通孔4が形成されている。貫通孔4は、板状部材2の全面に形成されている。貫通孔4は、支持部材3に接するもののほか、支持部材3に接することなく、空間20に向かって形成されるものが存在する。
【0033】
ここで、貫通孔4による空洞共鳴音の減衰効果について説明する。音が貫通孔4を通過する際、媒質としての空気と貫通孔4の内壁面との摩擦によって空洞共鳴音が減衰する(粘性減衰)。また、音が貫通孔4を通過すると、通過によって発生する渦による圧力損失によって空洞共鳴音が減衰する(圧力損失減衰)。そのため、貫通孔4が形成された板状部材2をトレッド部内面13aに取り付けることで、タイヤ内の音が貫通孔4を通過するため、空洞共鳴音を減衰させて低減することができる。
【0034】
さらに、音が貫通孔4を通過する際の粘性減衰と圧力損失減衰には、空気の粒子速度が関係しており、粒子速度が大きい部位に貫通孔4を配置するほど空洞共鳴音の減衰に効果的である。さらに,空気の流れが速度に上乗せされるため、回転するタイヤにおいて、空気の流れが有る場所に貫通孔4を配置するのが好ましい。
【0035】
図3は、貫通孔4が形成された板状部材2を拡大して示す拡大断面図である(ただし、支持部材3は図示していない)。タイヤ内の空気の流れを矢印で示している。タイヤ内には路面との接地によるタイヤの変形により発生するタイヤ径方向の空気の流れSrと、変形の復元によって発生するタイヤ周方向CDの空気の流れScが存在する。トレッド部内面13aを覆うように板状部材2を配置することで、路面からの入力によって発生する音とタイヤ径方向の空気流れSrが貫通孔4を通過するため、空洞共鳴音を効果的に低減できる。さらに、板状部材2とトレッド部内面13aとの間に空間20が形成されるように、板状部材2をトレッド部内面13aに取り付けることで、タイヤ周方向CDに伝達する音とタイヤ周方向CDの空気流れScが貫通孔4を通過するため、空洞共鳴音を効果的に低減できる。
【0036】
また、空気の流れはトレッド部内面13aに近いほど速く、そのため、本発明では、貫通孔4が形成された板状部材2をトレッド部内面13aに取り付けている。
【0037】
板状部材2に形成されたスリット41,42には、支持部材3が挿通されている。板状部材2は、重量増加を抑制するためには板厚を薄くすることが好ましいが、板厚を薄くすると、タイヤが高速度で回転する場合に、遠心力により板状部材2がトレッド部内面13aに押し潰されて貫通孔4が閉塞され、貫通孔4による空洞共鳴音の低減効果が得られない、もしくは低下するおそれがある。一方、板状部材2を厚くしたり、硬くしたりすることで板状部材2の変形を抑えることができるが、重量が増加したり、タイヤの変形への追従性が阻害されたりするため、他性能や耐久面への悪影響の懸念がある。本発明によれば、支持部材3をスリット41,42に挿入し、スリット41,42の両側の板状部分を互いに反対方向に支持することで、板状部材2が押し潰されるのを防ぐことができるため、低速度〜中速度のみならず高速度においても空洞共鳴音を低減することができる。
【0038】
支持部材3は、多孔質材料で形成されていることが好ましい。これにより、支持部材3による重量増加を抑制しつつ、支持部材3自体の吸音効果を得ることができる。ここで、多孔質材料とは、例えば、スポンジ、不織布等である。多孔質材料としては、これらに限定されないが、軟質ポリウレタンフォームからなるスポンジが好ましく用いられる。また、多孔質材料として不織布を用いる場合には、不織布を丸めたり、折り畳んだりすることで支持部材3を形成する。
【0039】
本実施形態の支持部材3は、タイヤ幅方向WDに沿って延びる筒状となっている。支持部材3が筒状の場合、内部に空気層が形成されるため、多孔質材料からなる支持部材3を通過する音を吸音する効果が高くなる。ただし、支持部材3の形状は、板状部材2を遠心力に抗して支持可能な形状であれば特に限定されず、中実の柱状等でもよい。また、支持部材3は、板状部材2のタイヤ幅方向全体を支持する必要はなく、板状部材2の少なくとも一部を支持することができる形状であればよい。さらに、支持部材3は、板状部材2のタイヤ幅方向WDの幅を超えてタイヤ幅方向WDに沿って延びる形状であってもよい。
【0040】
また、支持部材3の形状は円筒状が特に好ましい。支持部材3が円筒状の場合、あらゆる角度からの音に対して吸音効果を発揮できる。ただし、支持部材3の断面形状は、円形のほか、三角形、四角形等の多角形でもよい。
【0041】
支持部材3は、スリット41,42に係止されていることが好ましい。支持部材3が上記のような多孔質材料で形成されている場合、支持部材3を圧縮した状態でスリット41,42に挿入すればよい。例えば、スリット41,42の長さを、円筒状の支持部材3の外径以下とすることで、スリット41,42で形成される最大の円周長が支持部材3の外周長よりも小さくなるため、支持部材3がスリット41,42から抜けにくくなる。
【0042】
板状部材2の板厚は、0.1〜10mmが好ましく、0.2〜2mmがより好ましい。板状部材2の板厚を0.1mmよりも薄くすると、板状部材2による空洞共鳴音の低減効果が小さくなる。一方、板状部材2の板厚を10mmよりも厚くすると、板状部材2によってトレッド部内面13aの局所的な重量増となり、高速ユニフォミティの悪化やそれに伴う振動、乗り心地が悪化する傾向にある。
【0043】
板状部材2のタイヤ赤道におけるトレッド部内面13aからの最大高さHpは、タイヤ断面高さHの1/10(または10mm)以上であることが好ましい。板状部材2の最大高さHpをタイヤ断面高さHの1/10(または10mm)より低くすると、板状部材2による空洞共鳴音の低減効果が小さくなる。一方、板状部材2の最大高さHpは、タイヤ断面高さHの1/2以下であることが好ましい。板状部材2の最大高さHpをタイヤ断面高さHの1/2より高くすると、リム組み付け時に板状部材2がリムフランジ等と接触して故障のおそれがある。
【0044】
板状部材2のタイヤ幅方向WDの幅Wpは、接地幅Wの30〜120%であることが好ましい。板状部材2の幅Wpを接地幅Wの30%より狭くすると、空洞共鳴音の低減効果が小さくなる。一方、板状部材2の幅Wpを接地幅Wの120%より広くすると、接地の際の変形によりサイドウォール内面との接触や曲面への追従性の悪化が懸念され、故障の原因となる可能性がある。
【0045】
板状部材2のタイヤ周方向長さLpは、接地長または接地長以下であることが好ましく、1/2程度であることがより好ましいが、取り付け個数やタイヤのサイズによってはその限りではない。板状部材2のタイヤ周方向長さLpは、踏込と蹴出における接地部をカバーするため、接地長にかかるサイズが好ましい。
【0046】
図4は、板状部材2の一部を平面状に広げた状態を示す平面図である。貫通孔4の孔径φは、0.4〜10mmが好ましく、1〜5mmがより好ましい。孔径φが0.4mmよりも小さいと、音や空気が通過する際の抵抗が過大となり、効果的でなくなる上、生産的にも困難である。一方、孔径φが10mmよりも大きいと、音や空気が通過する際の抵抗が過小となり、減衰の効果が小さくなる。
【0047】
また、開孔率Pは、1〜20%が好ましく、1〜10%がより好ましい。開孔率Pが1%よりも小さいと、音や空気が通過する際の抵抗が過大となり、効果的でなくなる。一方、開孔率Pが20%よりも大きいと、音や空気が通過する際の抵抗が過小となり、減衰の効果が小さくなる。貫通孔4同士の孔間隔をtとすると、本実施形態のように複数の貫通孔4を上下左右に並列に並べた場合の開孔率Pは、P=(π×φ)/(4×t)で定義される。例えば、孔径φを3mm、孔間隔tを10mmとすると、開孔率Pは約7%となる。
【0048】
貫通孔4同士の孔間隔tは、上記の式を用いることで開孔率Pと孔径φにより適宜設定されるが、例えば、孔間隔tは、1〜30mmが好ましく、5〜15mmがより好ましい。孔間隔tが1mmよりも小さいと、必然的に孔数が多くなり、音や空気が通過する際の抵抗が過小となり、減衰の効果が小さくなるうえ、板そのものの強度が損なわれる。一方、孔間隔tが30mmよりも大きいと、必然的に孔数が少なくなり,得られる減衰の効果が小さくなる。
【0049】
板状部材2は、板状もしくはフィルム状の樹脂で形成されている。樹脂としては、PET、PU、TPU、PVC、PC、PE、PEN等の汎用の樹脂が例示される。
【0050】
板状部材2は、取付部2a,2bにてトレッド部内面13aに取り付けられる。板状部材2は、接着剤や両面テープ等でトレッド部内面13aに固定される。このとき、図5に示すように、板状部材2は、クッション層5を介してトレッド部内面13aに固定されることが好ましい。クッション層5は、伸縮性を有するクッション層本体51と、クッション層本体51の両側の両面テープ52,53とで構成されている。これにより、クッション層5中のクッション層本体51が変形して、トレッド部内面13aの曲面の形状と接地時の変形に追従できるので、板状部材2をトレッド部内面13aに安定して固定することができる。
【0051】
板状部材2の重量は、15g以下が好ましく、10g以下がより好ましい。板状部材2の重量はトレッド部内面13aの局所的な重量増となり、高速ユニフォミティの悪化やそれに伴う振動、乗り心地が悪化する傾向にある。なお、上記のクッション層5を設ける場合には、板状部材2、支持部材3、及びクッション層5を合わせた総重量を20g以下とするのが好ましく、15g以下とするのがより好ましい。
【0052】
[第2実施形態]
前述の第1実施形態では、複数の貫通孔4、及び両端41a,42aが板面内に位置するスリット41,42が形成されている板状部材2と、スリット41,42に挿通され、スリット41,42の両側の板状部分を互いに反対方向に支持する一つの支持部材3と、を備える例を示した。しかし、図6に示すように、長尺の板状部材2をトレッド部内面13aの全周に亘って取り付け、スリット41,42をタイヤ周方向CDに等間隔を空けて複数形成し、これらのスリット41,42にそれぞれ支持部材3を挿通するようにしてもよい。
【0053】
[空気入りタイヤの製造方法]
次に、空気入りタイヤの製造方法について説明する。本発明に係る空気入りタイヤの製造方法は、板状部材2に対して、複数の貫通孔4、及び両端41a,42aが板面内に位置するスリット41,42を形成する工程と、スリット41,42に支持部材3を挿通する工程と、板状部材2とトレッド部内面13aとの間に空間20が形成されるように、スリット41,42の両端41a,42aよりも外側にそれぞれ位置する取付部2a,2bによって、板状部材2をトレッド部内面13aに取り付ける工程と、を含む。
【0054】
[他の実施形態]
(1)前述の実施形態では、2本のスリット41,42が形成されているが、スリットの本数はこれに限定されず、1本でも3本以上であってもよい。複数本のスリットを形成する場合、スリット同士の間隔は適宜設定可能である。
【0055】
図7は、4本のスリット41,42,43,44が形成されている例を示す。この例では、支持部材3が、スリット41よりもタイヤ幅方向外側の板状部分、スリット43とスリット44に挟まれた板状部分、及びスリット42よりもタイヤ幅方向外側の板状部分をタイヤ径方向外方に支持し、スリット41とスリット43に挟まれた板状部分、及びスリット42とスリット44に挟まれた板状部分をタイヤ径方向内方に支持している。しかし、支持部材3は、スリット41よりもタイヤ幅方向外側の板状部分、スリット43とスリット44に挟まれた板状部分、及びスリット42よりもタイヤ幅方向外側の板状部分をタイヤ径方向内方に支持し、スリット41とスリット43に挟まれた板状部分、及びスリット42とスリット44に挟まれた板状部分をタイヤ径方向外方に支持するようにしてもよい。ただし、タイヤ径方向内方に支持される板状部分に形成された貫通孔4の孔数が、タイヤ径方向外方に支持される板状部分に形成された貫通孔4の孔数よりも多くなることが好ましい。
【0056】
(2)図2Cに示す例では、スリット41,42と貫通孔4は、それぞれ独立して配置されているが、これに限定されない。例えば、図8に示すように、スリット41,42が複数の貫通孔4を横断するように配置されてもよい。また、この例では、スリット41,42の両端41a,42aは、円形の貫通孔4に達しており、両端41a,42aに応力が集中するのを避けることができる。
【0057】
(3)スリットは、タイヤ周方向CDに沿って形成されている必要はない。例えば、スリットをタイヤ幅方向WDに沿って形成してもよい。このとき、支持部材3の軸方向は、タイヤ周方向CDに沿って配置される。
【0058】
(4)図2Bに示す例では、支持部材3のタイヤ径方向外側に位置する板状部材2の外表面が、トレッド部内面13aに接触しているが、トレッド部内面13aに接触しないほうが好ましい(図5参照)。
【0059】
(5)支持部材3の形状は、前述のものに限定されない。例えば、中実の円柱状や中実の四角柱等でもよい。
【0060】
(6)また、支持部材3は、多孔質材料で形成されていなくともよい。例えば、支持部材3は、図9に示すような樹脂製のフレームでもよい。樹脂としては、PET、PU、TPU、PVC、PC、PE、PEN等の汎用の樹脂が例示される。なお、フレームの形状は、図9のような台形断面のものに限定されず、三角形断面、矩形断面などでも構わない。
【符号の説明】
【0061】
1 空気入りタイヤ
2 板状部材
2a 取付部
2b 取付部
3 支持部材
4 貫通孔
13a トレッド部内面
20 空間
41 スリット
41a スリットの両端
42 スリット
42a スリットの両端
CD タイヤ周方向


図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9