特許第6291568号(P6291568)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6291568材料にマーキングする方法、材料にマーキングするためのシステム、及び該方法によってマーキングされた材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6291568
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】材料にマーキングする方法、材料にマーキングするためのシステム、及び該方法によってマーキングされた材料
(51)【国際特許分類】
   A44C 27/00 20060101AFI20180305BHJP
   C30B 33/00 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   A44C27/00
   C30B33/00
【請求項の数】15
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-515616(P2016-515616)
(86)(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公表番号】特表2016-521593(P2016-521593A)
(43)【公表日】2016年7月25日
(86)【国際出願番号】CN2014074438
(87)【国際公開番号】WO2014190801
(87)【国際公開日】20141204
【審査請求日】2017年3月31日
(31)【優先権主張番号】13106425.7
(32)【優先日】2013年5月30日
(33)【優先権主張国】HK
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515199002
【氏名又は名称】チョウ タイ フック ジュエリー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】フイ クーン チュン
(72)【発明者】
【氏名】チン ホ
(72)【発明者】
【氏名】コン チン トム
【審査官】 青木 正博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−285733(JP,A)
【文献】 特開昭56−051322(JP,A)
【文献】 特開2005−059071(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101456534(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44C 27/00
B23K 15/00
C30B 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体材料の研磨ファセットの外面上に前記研磨ファセットから外側に延びる1又はそれ以上の突出部を形成する方法であって、
(i)固体材料の研磨ファセットの外面に向けて、上面に突出部を形成するように集束不活性ガスイオンビームの局所的照射を適用するステップ、を含み、
前記集束不活性ガスイオンビームから照射された照射集束不活性ガスイオンは、前記固体材料の前記研磨ファセットの前記外面を貫通し、
前記照射集束不活性ガスイオンは、前記固体材料の固体結晶格子の膨張を引き起こすような圧力で、前記外面の下方の前記固体結晶格子内に膨張歪みを生じさせ、前記固体材料の前記研磨ファセットの前記外面上に前記研磨ファセットの前記外面から外側に延びる前記突出部を形成する、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記集束不活性ガスイオンビームは、5keV〜50keVのビームエネルギーと、1fA〜200pAのプローブ電流とを有する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固体結晶格子は、単結晶、多結晶又は非晶質の形態をとる、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記固体材料は、宝石であり、好ましくは、ダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルド、パール、翡翠を含む群から選択された材料である、
請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記集束不活性ガスイオンビームは、周期律表のVIII族に含まれるいずれかの不活性ガスからのイオン源である、
請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記固体材料の前記研磨ファセットは、50nm未満の平均表面粗さを有する、
請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記突出部は、ナノメートル又はマイクロメートルオーダーの平均幅と、ナノメートル又はマイクロメートルオーダーの平均高さとを有する、
請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記固体材料の前記外面から、該外面の下方の照射された不活性ガスの蓄積領域までの距離は、1nm〜100μmである、
請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記1又はそれ以上の突出部は、識別可能マーク又はパターンを形成するように提供される、
請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記識別可能マークは、単一の又は一連の、点、柱状、ドーム状、半球、線、不規則形状、対称又は非対称形状の形をとり、前記識別可能マークは、周期的線配列、穴/点配列、円形配列、螺旋配列、フラクタル配列、又は多周期配列として提供されることができる、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記識別可能マークは、任意のパターンを形成する連続突出形状として提供される、
請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
裸眼では見えない情報マークを提供するように、ナノメートルサイズの複数の突出部が形成される、
請求項1から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記突出部は、特定の照明条件及びカメラ付き顕微鏡によって可視光及び不可視光範囲内で見える周期的配列で配置される、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記1又はそれ以上の突出部は、識別可能なセキュリティマークを形成する、
請求項1から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記固体材料の完全性が維持され、質量損失が実質的に存在しない、
請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体材料にマーキングを行う方法に関する。特に、本発明は、宝石などの固体材料の表面に、光学的に見えないマーキングを行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体材料、特に高価な宝石などのマーキングは、例えば識別又は品質のマーキングにおいて必要になることがある。宝石のマーキングでは、宝石を損傷せず、又はあらゆる損傷を最小化し、宝石の完全性を保ち、有意な質量損失を生じず、残留化学物質を残さず、そしてマーキングによって宝石の透明度又は色が損なわれないようにマーキングを行うことが望ましい。
【0003】
装飾宝石では、美的観点から宝石の品質を損なわないように、マーキング技術が裸眼で見えるべきではなく、目に見えるマーキングの識別は、視覚的結果を損ね、宝石の価値の低下を招くことがある。
【0004】
先行技術には、エッチング処理、エングレービング処理及びマイクロミリング処理の技術が存在するが、これらの技術は、宝石の完全性及び品質に悪影響を与え、見栄えを不利にしてしまうことがある。さらに、このような処理の結果、材料が若干失われ、やはり見栄えが不利になることもある。
【0005】
先行技術には、米国特許第6391215号に開示されるような、導電層で被覆したダイヤモンド又は炭化ケイ素宝石の研磨ファセットに情報マークを施す技術を含む他のマーキング技術も存在する。導電層によって宝石の帯電を防ぎ、集束イオンビームによってマークを形成し、表面の一部を必要な深さまで除去し、その後に強力な酸化剤を利用して、マークを施した表面を洗浄する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6391215号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、固体材料にマーキングを行う方法、及びこのようなマーキングを有する固体材料を提供することにより、先行技術に関連する欠陥の少なくとも一部を克服又は少なくとも部分的に改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、第1の態様において、固体材料の研磨ファセットの外面上に1又はそれ以上の突出部を形成する方法であって、
(i)固体材料の研磨ファセットの外面に向けて、上面材料を突出させるように集束不活性ガスイオンビームの局所的照射を適用するステップを含み、
集束不活性ガスイオンビームから照射された照射集束不活性ガスイオンが、固体材料の研磨ファセットの外面を貫通し、
照射集束不活性ガスイオンが、固体材料の固体結晶格子の膨張を引き起こして固体材料の研磨ファセットの外面上に突出部を形成するような圧力で、外面の下方の固体結晶格子内に膨張歪みを生じさせる、方法を提供する。
【0009】
集束不活性ガスイオンビームは、5keV〜50keVのビームエネルギーと、1fA〜200pAのプローブ電流とを有することが好ましい。
【0010】
固体結晶格子は、単結晶、多結晶又は非晶質の形態をとることができ、固体材料は、周囲温度、及び大気圧から高真空までの圧力下において固体形態の材料である。
【0011】
固体材料は、宝石であることが好ましい。固体材料は、ダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルド、パール、翡翠などを含む群から選択された材料であることがさらに好ましい。
【0012】
集束不活性ガスイオンビームは、周期律表のVIII族に含まれるいずれかの不活性ガスから選択することができるイオン源である。
【0013】
固体材料の研磨ファセットは、50nm未満の平均表面粗さを有することが好ましい。
【0014】
突出部は、ナノメートル又はマイクロメートルオーダーの平均幅と、ナノメートル又はマイクロメートルオーダーの平均高さとを有することが好ましい。
【0015】
前記固体材料の外面から、外面の下方の照射不活性ガスの蓄積領域までの距離は、1nm〜100μmであることが好ましい。
【0016】
突出部は、識別可能マーク又はパターンを形成するように提供され、識別可能マークは、単一の又は一連の点、柱状、ドーム状、半球、線、不規則形状、対称又は非対称形状などの形をとる。
【0017】
識別可能マークは、周期的線配列、穴/点配列、円形配列、螺旋配列、フラクタル配列、又は多周期配列などとして提供することができる。
【0018】
或いは、識別可能マークは、任意のパターンを形成する連続突出形状として提供することもできる。
【0019】
光学的限界におけるレイリー基準に起因して裸眼では見えない情報マークを提供するように、ナノメートルサイズの複数の突出部を形成することができる。突出部は、特定の照明条件及びカメラ付き顕微鏡によって可視光及び不可視光範囲内で見える周期的配列で配置することができる。1又はそれ以上の突出部は、識別可能なセキュリティマークを形成する。
【0020】
この方法は、質量損失が実質的に存在しないように固体材料の完全性を維持することが好ましい。
【0021】
本発明は、第2の態様において、1又はそれ以上の突出部を有する固体材料であって、この1又はそれ以上の突出部は、固体材料の研磨ファセットの外面上に形成されるとともに、
(i)固体材料の研磨ファセットの外面に向けて、上面材料を突出させるように集束不活性ガスイオンビームの局所的照射を適用するステップ、
を含む方法によって形成され、前記集束不活性ガスイオンビームから照射された照射集束不活性ガスイオンが、前記固体材料の前記研磨ファセットの外面を貫通し、
照射集束不活性ガスイオンが、固体材料の固体結晶格子の膨張を引き起こして前記固体材料の研磨ファセットの外面上に突出部を形成するような圧力で、前記外面の下方の固体結晶格子内に膨張歪みを生じさせる、固体材料を提供する。
【0022】
集束不活性ガスイオンビームは、5keV〜50keVのビームエネルギーと、1fA〜200pAのプローブ電流とを有することが好ましい。
【0023】
固体結晶格子は、単結晶、多結晶又は非晶質の形態をとることができる。固体材料は、周囲温度、及び大気圧から高真空までの圧力下において固体形態の材料である。
【0024】
固体材料は、宝石であることが好ましく、ダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルド、パール、翡翠などを含む群から選択された材料であることがさらに好ましい。
【0025】
前記1又はそれ以上の突出部を形成するために利用される集束不活性ガスイオンビームは、周期律表のVIII族に含まれるいずれかの不活性ガスから選択することができるイオン源である。
【0026】
固体材料の研磨ファセットは、50nm未満の平均表面粗さを有することが好ましい。
【0027】
突出部は、ナノメートル又はマイクロメートルオーダーの平均幅と、ナノメートル又はマイクロメートルオーダーの平均高さとを有することが好ましい。
【0028】
前記固体材料の外面から、外面の下方の照射不活性ガスの蓄積領域までの距離は、1nm〜100μmであることが好ましい。
【0029】
1又はそれ以上の突出部は、識別可能マーク又はパターンを形成するように提供されることが好ましい。識別可能マークは、単一の又は一連の点、柱状、ドーム状、半球、線、不規則形状、対称又は非対称形状などの形をとることができる。
【0030】
或いは、識別可能マークは、周期的線配列、穴/点配列、円形配列、螺旋配列、フラクタル配列、又は多周期配列などとして提供することができ、又は任意のパターンを形成する連続突出形状として提供することもできる。
【0031】
固体材料は、光学的限界におけるレイリー基準に起因して裸眼では見えない情報マークを提供するように形成されたナノメートルサイズの複数の突出部を有することができる。突出部は、特定の照明条件及びカメラ付き顕微鏡によって可視光及び不可視光範囲内で見える周期的配列で配置することができる。
【0032】
1又はそれ以上の突出部は、識別可能なセキュリティマークを形成することができる。
【0033】
1又はそれ以上の突出部の形成中に固体材料の質量損失が実質的に存在しないように、固体材料の完全性が維持される。
【0034】
本発明は、第3の態様において、固体材料の研磨ファセットの外面上に1又はそれ以上の突出部を形成するためのシステムであって、
固体材料の研磨ファセットの外面に向けて集束不活性ガスイオンビームの局所的照射を適用する集束不活性ガスイオンビーム装置と、
集束不活性ガスイオンビームの局所的照射の放出を固体材料の研磨ファセットの外面に向けて制御するコンピュータ制御装置と、
を備え、コンピュータ制御装置が、集束不活性ガスイオンビームから照射された照射集束不活性ガスイオンを、前記固体材料の前記研磨ファセットの外面を貫通し、固体材料の固体結晶格子の膨張を引き起こして前記固体材料の前記研磨ファセットの外面上に突出部を形成するような圧力で、前記外面の下方の固体結晶格子内に膨張歪みを生じさせるように制御する、システムを提供する。
【0035】
集束不活性ガスイオンビーム装置は、5keV〜50keVのビームエネルギーと、1fA〜200pAのプローブ電流とを有することが好ましい。
【0036】
前記1又はそれ以上の突出部を形成するために利用される集束不活性ガスイオンビームは、周期律表のVIII族に含まれるいずれかの不活性ガスから選択することができるイオン源である。
【0037】
システムは、ナノメートル又はマイクロメートルオーダーの平均幅と、ナノメートル又はマイクロメートルオーダーの平均高さとを有する突出部を提供する。
【0038】
システムは、前記固体材料の外面から外面の下方の照射不活性ガスの蓄積領域までの距離が1nm〜100μmである突出部を提供するように適合されることが好ましい。
【0039】
システムは、固体材料の研磨ファセットの外面上に識別可能マーク又はパターンを提供するように適合されることが好ましい。システムによって提供される識別可能マークは、単一の又は一連の点、柱状、ドーム状、半球、線、不規則形状、対称又は非対称形状などの形をとることができる。
【0040】
或いは、識別可能マークは、周期的線配列、穴/点配列、円形配列、螺旋配列、フラクタル配列、又は多周期配列などとして提供することもできる。識別可能マークは、任意のパターンを形成する連続突出形状として提供することもできる。
【0041】
システムは、光学的限界におけるレイリー基準に起因して裸眼では見えない情報マークを提供するようにナノメートルサイズを有する複数の突出部を提供するように適合されることが好ましい。
【0042】
システムは、特定の照明条件及びカメラ付き顕微鏡によって可視光及び不可視光範囲内で見える周期的配列で配置された複数の突出部を提供するように適合されることが好ましい。
【0043】
システムは、識別可能なセキュリティマークを形成するように1又はそれ以上の突出部を提供するように適合することができる。
【0044】
システムは、1又はそれ以上の突出部の形成中に前記固体材料の完全性を維持し、固体材料の質量損失が実質的に存在しないように適合される。
【0045】
システムは、宝石の外面上に1又はそれ以上の突出部を提供するように適合されることが好ましい。システムは、ダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルド、パール、翡翠などの外面上に1又はそれ以上の突出部を提供するように適合されることがさらに好ましい。
【0046】
システムは、50nm未満の平均表面粗さを有する固体材料の研磨ファセット上に1又はそれ以上の突出部を提供するように適合されることが好ましい。
【0047】
システムは、固体材料の外面上に、ナノメートル又はマイクロメートルオーダーの平均幅と、ナノメートル又はマイクロメートルオーダーの平均高さとを有する1又はそれ以上の突出部を提供するように適合されることが好ましい。
【0048】
システムは、固体材料の外面上に、外面の下方の照射不活性ガスの蓄積領域までの距離が1nm〜100μmになるように1又はそれ以上の突出部を提供するように適合されることが好ましい。
【0049】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態をほんの一例としてさらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】本発明の実施形態において利用する集束不活性ガスイオンビームシステムの構成の例示的な概略図である。
図2】本発明の実施形態による、入射エネルギー集束不活性ガスイオンと固体材料試料の上面領域とのコンピュータシミュレーションした相互作用体積の例示的な概略図である。
図3】本発明の実施形態による、一次入射エネルギー不活性ガスイオンと固体材料試料との相互作用の、入射イオンの変位経路に沿った電子及びイオンなどの荷電粒子の生成を示す例示的な概略図である。
図4】本発明の実施形態による、実験的に突出させたナノメートルサイズの点の配列のイオン顕微鏡像を示す図である。
図5】本発明の実施形態による、実験的に突出させたさらなるナノメートルサイズの点の配列のイオン顕微鏡像を示す図である。
図6】本発明の実施形態による、実験的に突出させた別のナノメートルサイズの点の配列のイオン顕微鏡像を示す図である。
図7a】未処理平面の表面プロファイルの概略図を示すグラフである。
図7b】本発明の実施形態による、突出面のプロファイルの概略図を示すグラフである。
図8図4図5及び図6を参照して説明する実験結果に関する、比例寸法による平面上の突出面プロファイルの概略的3次元輪郭図である。
図9a】本発明の実施形態による、集束不活性ガスイオンビームが入射するようにプログラムした点配列を含む単結晶ダイヤモンドファセット上の未処理表面のイオン顕微鏡像を示す図である。
図9b】本発明の実施形態による、図9aの単結晶ダイヤモンドファセットの表面の、ダイヤモンド試料表面の割り当て位置に集束不活性ガスイオンビームが入射した後のイオン顕微鏡像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
図1を参照すると、本発明のマーキング法の実施形態に従って利用する、集束不活性ガスイオンビームシステム100の構成の例示的な概略図を示している。
【0052】
集束不活性ガスイオンビームシステム100は、典型的な走査型電子顕微鏡(SEM)と比べて同様の基本構成を有し、図1の概略図には、本発明の実施形態による、突出するナノメートルサイズの点の配列を生成して画像化するための集束不活性ガスイオンビームシステム100の構成を示す。
【0053】
静電レンズカラム102の最上部のガス源101は、周期律表のVIII族に含まれるあらゆる既知の不活性ガスとすることができ、利用する不活性ガス源の選択は、結果としてもたらされる必要な解像度及び加工時間に依存する。さらに、マーキングする試料の電気的、光学的又は化学的特性のあらゆる変化を最小限に抑えるためにも、不活性ガスを利用することが好ましい。
【0054】
例えば、以下で図4図5及び図6に示し、これに関連してさらに説明するナノメートルサイズの点の加工では、集束不活性ガスイオンビームシステム100のガス源にとって、ヘリウム又はネオンガスなどの軽い原子質量を有する低圧の不活性ガスが好ましい。
【0055】
不活性ガスイオンは、ガス源101から放出されると加速され、静電レンズカラム102の頂部に沿って集束された後に、典型的にはメインフレームコンピュータ制御システムなどのコンピュータシステムによって制御される走査デフレクタ103及び104によって偏向され、最終的に試料109の表面に入射する走査集束不活性ガスイオンビーム105を形成する。
【0056】
集束不活性ガスイオンビーム105が試料109の表面に入射する走査又は連続入射中には、電子フラッドガン又は電荷補償器などの放出装置106及び107から放出された電子又は負電荷のビーム108を用いて、試料面109上の連続的なガスイオン入射によって正電荷を帯びた試料表面109を補償する。
【0057】
帯電したイオンは、集束不活性ガスイオン105のさらなる入射を妨げるので、この結果、必要な突出マークの位置又は形状において画像にギザギザ又はドリフトが生じる。
【0058】
試料109の表面上への集束不活性ガスイオンビーム105の入射中には、入射する不活性ガスイオンと試料109の表面との相互作用によって電子又はイオンなどの異なる荷電種110が生成され、これらの荷電種110は、イオン又は電子検出器111によって検出され、画像化、種族定性化及び定量化を受ける。
【0059】
図2を参照すると、本発明による、入射エネルギー集束不活性ガスイオンと固体材料試料203の上面領域202とのコンピュータシミュレーションした相互作用体積の例示的な概略図を示しており、この図には、入射エネルギー集束不活性ガスイオンと固体材料試料203の上面領域202との相互作用中の入射イオン204の軌道を示すコンピュータシミュレーションしたモンテカルロ・プロットが示されている。
【0060】
この相互作用のモンテカルロ・シミュレーションは、入射エネルギー集束不活性ガスイオンビーム201のソースとしてのヘリウムイオンを30keVに加速したものに基づき、固体材料試料203はシリコン基板である。
【0061】
固体材料試料203の相互作用体積の断面は、侵入深さ205と、入射イオンの侵入深さ205に垂直な分散幅206とを用いて定められ、モンテカルロ・シミュレーションによる侵入深さ205と分散幅206の数値結果は約100nmである。
【0062】
さらに、ヘリウムガスイオンは、シリコン基板内への侵入深さが大きく、横方向分散が小さいので、必要なナノメートルサイズの構造又はマークの形成において本発明の実施形態の必要基準を満たすには、10nmの範囲内の上面領域202における集束イオンビームスポット207のサイズは、1nm又はそれ以下ほどの小さなものである。
【0063】
図3を参照すると、本発明の実施形態に従って利用する、入射エネルギー不活性ガス301と固体材料305との詳細な相互作用を概略的に示している。
【0064】
この実験環境は、本発明の実施形態の説明を目的として、5×10-6Torr又はそれ以下の圧力などの高真空を想定しており、経路302に沿って入射するエネルギー不活性ガスイオン301は、真空と固体試料305との間の表面又は界面304に対して入射角303を成す。
【0065】
エネルギー不活性ガスイオン301が試料表面又は界面304に入射する際には、固体試料305からの2次電子、オージェ電子、X線、2次イオン、スパッタ粒子、或いは後方散乱エネルギー不活性ガスイオン301などの、可能なエネルギー種306が生成されることがある。
【0066】
この可能なエネルギー種の状況は、エネルギー不活性ガスイオン301の原子質量及び搬送エネルギー、固体試料305の密度及び結晶性、原子間の化学結合、並びに試料表面又は界面304の荷電状態に依存する。
【0067】
エネルギー不活性ガスイオンが十分なエネルギーを有する場合には、このエネルギー種が固体試料305内に入り込んで侵入し続ける可能性が高い。
【0068】
エネルギー不活性ガスイオン301は、場合によっては固体試料305内の近接する原子と伝搬経路309及び312に沿って非弾性衝突することがあり、1つの可能性として、2次イオン又は2次電子などのエネルギー種311が生成され、場合によっては経路310に沿って試料表面又は界面304から出てくることがある。
【0069】
別の可能性としては、例えば固体試料305内に示す308及び313などの特定の局所領域において不活性ガスイオンの蓄積又は結晶の非晶質化を引き起こすエネルギー損失に起因して、局所領域308及び313において上記エネルギー種が停止してしまう。
【0070】
エネルギー不活性ガスイオンの入射角303、加速電圧、及びエネルギー不活性ガスイオン301の種選択の条件を適切に制御することにより、入射エネルギー不活性ガスイオン301は、領域308において停止し、結晶構造よりも密度が低く体積が大きな局所領域において不活性ガスイオンの蓄積及び結晶の非晶質化の一方又は両方をもたらする可能性が高くなる。
【0071】
これにより、固体試料305内の試料表面又は界面304のわずかに下方において局所的内部歪みが高まり、この歪みが最終的に試料表面又は界面304において固体晶質格子を膨張させる結果、本発明の実施形態による突出点307を形成する。
【0072】
図4に示すイオン顕微鏡像を参照すると、集束不活性ガスイオンビームによって単結晶ダイヤモンドファセット402上にナノメートルサイズの点401を実験的に突出させた配列を示している。
【0073】
利用したガスイオンの加速電圧は約35keVであり、利用したビーム電流は、約0.1nC/μm2のイオン線量で約0.5pAであり、滞留時間は約1μsである。当然ながら、他の適用可能な加速電圧及びビーム電流を利用することもでき、これらも本発明の範囲に含まれる。例えば、5keV〜50keVの範囲のビームエネルギー及び1fA〜200pAの範囲のプローブ電流を有する集束不活性ガスイオンビームを利用する集束不活性ガスイオンビーム装置を適用できると理解されるであろうが、当業者であれば、5keV〜50keV、及び1fA〜200pAの範囲のプローブ電流以外のパラメータを生成できる装置の利用を本発明の実施形態に適用することもできると考えられる。
【0074】
集束不活性ガスイオンビームの入射位置は、コンピュータによってプログラムされた後に、図1に関連して例示し説明した走査レンズカラム103及び104によって制御され、図4に示すような結果として、3×3のナノメートルサイズの突出点の配列が形成され、各ナノメートルサイズの突出点401は、約130nmの直径を有し、ダイヤモンドファセットの平面を基準とする垂直方向周期403及び水平方向周期405と、隣接するナノメートルサイズの突出点401の中心間の変位量とは、同じ約200nmである。
【0075】
この例における垂直方向及び水平方向に示す画像全体の視野は、57,150×の倍率下で2.00μm×2.00μmであり、この例では、ナノメートルサイズの突出点401の加工後に同じ集束不活性ガスイオンビームによって、また同じ加速電圧のガスイオンではあるが走査モードよりも低いビーム電流を用いて画像化される。
【0076】
スケールバー404は、ナノメートルサイズの突出点401の寸法を参照するために示している。
【0077】
図5には、図4と同様に、集束不活性ガスイオンビームによって単結晶ダイヤモンドファセット502上に加工したナノメートルサイズの点501の配列の例示的な実施形態を示しているが、この例におけるナノメートルサイズの突出点501の直径は80nmに縮小されており、垂直方向周期503及び水平方向周期505は、いずれも約400nmに拡大されている。
【0078】
ナノメートルサイズの突出点501の直径の縮小は、不活性ガスイオンのドーズ量を0.05nC/μm2未満に減少させ、ビーム電流も0.5pA未満に減少させることによって達成される。
【0079】
図5の画像化条件は図4の設定と同じであり、参照のためにスケールバー504を示す。
【0080】
さらなる例示的な実施形態として、不活性ガスイオンのドーズ量を、例えば0.03nC/μm2以下までさらに減少させ、ビーム電流も0.4pA以下までさらに減少させると、図6に示すように、単結晶ダイヤモンドファセット602上に加工されたナノメートルサイズの突出点601の直径は50nmまで縮小される。
【0081】
ナノメートルサイズの点601の配列は、図5に示すものと同じ垂直方向周期603及び水平方向周期605を有し、参照及び比較のために同じスケールバーを示す。
【0082】
当業者であれば理解し認識するように、図4図5及び図6に関連して説明した例示的な実施形態では、入射ガスイオンのドーズ量及びプローブ電流、従って入射ガスイオンのビームサイズを適切に調整することにより、ナノメートルサイズの突出点の直径を、図4に示す200nmの直径から、図6に示す50nmというかなり小さなサイズにまで制御できることが分かる。
【0083】
さらに、ナノメートルサイズの突出点の配列における、図4に示す200nmから図5及び図6の両方に示す400nmまでの垂直方向周期及び水平方向周期の両方の変化は、集束不活性ガスイオンビームが、一例として、周期的線配列、穴/点配列、円形配列、螺旋配列、フラクタル配列又は多周期配列の単一の又は一連の点、柱状、ドーム状、半球、線、不規則形状、対称又は非対称形状、或いは任意の形状の形をとる突出マークの結果として、試料表面上の任意の位置にこれらのナノメートルサイズの突出点を加工するために利用される能力及び有効性を有することを示す。
【0084】
ナノメートルサイズの突出点の幾何形状についてさらに説明するために、未処理の平坦な試料面702の表面プロファイルと、ナノメートルサイズの点を含む突出面703の表面プロファイルとの断面を概略的なグラフによって示す図7a及び図7bを参照する。
【0085】
Z方向軸701については、図7aの未処理平面702はZ=0のレベルであるのに対し、図7bの突出面703はZ方向のプラス記号の方に変形し、従って未処理平面702よりも高いプロファイルを有する。
【0086】
Z方向のプラス記号内では、未処理平面702又は突出面703よりも上方のさらなる空間が空気/真空に晒されていると考えることができ、Z方向のマイナス側では、試料深さが有限又は半無限であると考えることができる。
【0087】
突出面703の高さ705は、Z=0から突出面703の頂点までの変位によって定められ、突出面703又は突出点の幅又は直径704は、突出面703の表面プロファイルのZ=0のすぐ上の2つの最も低い地点間の最大変位として定められる。
【0088】
図8を参照すると、集束不活性ガスイオンビームによって平面802上に加工された突出マーク801の形状の図、認識及び理解を高めるように、突出マーク801のプロファイルの概略的3次元輪郭図の例を示している。
【0089】
突出マークの高さの定義は、図7bに関連して説明し考察した705の定義と同じであり、突出マーク801は、軸803に関して平面802から延び、幅及び奥行の定義は、図7a及び図7bに関連して説明し考察した704の定義と同じ定義であり、突出マーク801の幅及び奥行は、804及び805にそれぞれ関連する。
【0090】
図4図5及び図6に示すナノメートルサイズの突出点に対する図8の説明例の参照では、全ての軸803、804及び805の寸法単位はナノメートルである。
【0091】
図9a及び図9bに示すイオン顕微鏡像を参照すると、プログラムされた配列903によって単結晶ダイヤモンドファセット902及び906上に所定の設計のナノメートルサイズの連続パターン又はマーク905を加工し、白点901として示す位置にエネルギー不活性ガスイオンが入射する実行可能性を実証する本発明の例示的な実施形態を示している。スケールバー904を参照すると、隣接する白点901の中心間の変位は約120nmである。
【0092】
120nm以上の直径を有する各ナノメートルサイズの突出点を実現するために、入射エネルギー不活性ガスイオンのドーズ量及びビーム電流を制御することにより、図9bに示すように、連続する突出線905と、スケールバー908を参照して分かるように約800nm×800nmのサイズの2次元突出パターン又はマーク907を離散点の代わりにファセット906上に形成した。
【0093】
当業者であれば、本発明は、様々な用途の要件に応じてこのような用途に合わせて固体材料に所定の方式でマーキングを行うように、本発明の方法及び処理を利用する数多くの他の及び代替の実施形態を提供することもできると認識するであろう。
【0094】
本発明は、固体材料にマーキングする用途のための方法及びシステム、並びにこの結果として得られるマーキングされた固体材料、好ましくは宝石を提供するとともに、以下のような利点を有するマーキングを提供する。
(i)見た目が良く、観察及び識別のための特定パラメータについての知識が無ければ容易には見えないマーキング。
(ii)宝石又は宝石用原石に適用した時に、セキュリティを目的とする識別、並びに追跡及び起源購入、宝石業界における便益及び優位性を可能にするマーキング。
(iii)不正、盗難などの場合に識別できる固体材料のマーキングのためのセキュリティ目的。
(iv)エッチング、アブレーション、ミリング、エングレービングなどの破壊的かつ侵食的方法に関連する不利点を伴わない固体材料のマーキング。
(v)マーキングを適用すべき固体材料の材料除去、或いは重量又は質量の有意な損失を生じない方法及びその産物。
(vi)固体材料の光学特性を変化させず、固体材料の透明度又は色に有害な影響を与えない方法及びその産物。
(vii)不活性ガスを利用して固体材料に汚染物質又は不純物を導入しない方法及びその産物。
(viii)固体材料を後処理する必要がない方法及びその産物。
(ix)固体材料の表面から材料を大幅に除去する必要がない方法及びその産物。
(x)マーキングを施す前に固体材料の被覆を前処理する必要がない方法及びその産物。
(xi)残留化学物質を伴わない方法及びその産物。
(xii)後処理、並びに化学的洗浄及びプラズマ洗浄などの複雑な後処理技術を利用する必要がない方法及びその産物。
【0095】
本発明は、固体材料に対する破壊的、侵食的及び切除的なものとして懸念されている上面材料のエッチング、エングレービング、ミリング又は除去を行う代わりに、下部の結晶の不活性ガス蓄積又は非晶質化の力による上面下部の固体結晶格子の膨張に基づいて材料の上面を上方に突出させてパターン又はマークを形成する形で集束不活性ガスイオンビームの局所的照射を適用することによって固体材料の表面にマーキングする方法を提供することにより、先行技術をしのぐ大幅な利点を提供する。
【0096】
当業者であれば、例示的な実施形態及びその実施例において説明した用途に加え、他の用途においても利用及び実装が可能なこのような固体材料へのマーキング技術及び方法に関連する利点を認識するであろう。
【0097】
上述した実施例又は好ましい実施形態を参照することによって本発明を説明したが、これらは本発明の理解に役立つ例であり、制限を意味するものではないと理解されるであろう。これらの改善のみならず、当業者に明白又は自明な変形又は修正も本発明の同等物として見なすべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7a-7b】
図8
図9a
図9b