(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ベルトを介して駆動されるエンジン補機を、該補機に形成された複数のボルト挿通孔を挿通させたボルトを、エンジン本体側に形成されたネジ孔に螺合して取り付ける取付装置であって、
少なくとも1つの前記ボルト挿通孔は、その軸方向と直角な断面が、前記ネジ孔に近い側の孔部分では長円形状を有し、該断面長円形状の孔部分に連なって前記ボルトの頭部側に至る孔部分では前記長円形状の長径以上の直径を持つ真円形状を有することを特徴とするエンジン補機の取付装置。
前記長円形状の断面を有した孔部分は、鋳抜きされた状態の表面を有し、前記真円形状の断面を有した孔部分は、少なくとも前記長円形状の断面を有した孔部分と繋がる部分が切削加工された表面を有することを特徴とする請求項1に記載のエンジン補機の取付装置。
前記長円形状の断面を有した孔部分は、当該ボルト挿通孔の軸方向中間位置より、エンジン本体側に形成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエンジン補機の取付装置。
前記ボルト挿通孔は、3個以上形成され、第1ボルト挿通孔は、前記ネジ孔との嵌めあい隙間が最も小さく設定され、第2ボルト挿通孔は、前記第1ボルト挿通孔と前記第2ボルト挿通孔とを結ぶピッチ方向に長径を持ち、前記第1ボルト挿通孔の直径と同等の大きさの短径を持つ前記長円形状断面の孔部分を有することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載のエンジン補機の取付装置。
前記第2ボルト挿通孔における前記長円形状断面の長径は、前記第1ボルト挿通孔と前記第2ボルト挿通孔間のピッチと、これら2つのボルト挿通孔に対応する2つの前記ネジ孔間のピッチとの、ピッチ相互の寸法誤差に応じて、ボルトを前記第2ボルト挿通孔との干渉を抑制しつつネジ孔に螺合できる大きさを有することを特徴とする請求項4に記載のエンジン補機の取付装置。
前記第1ボルト挿通孔、第2ボルト挿通孔以外の他のボルト挿通孔は、該他のボルト挿通孔と、前記第1第1ボルト挿通孔及び第2ボルト挿通孔との間の各ピッチと、これら挿通孔に対応して前記エンジン本体側に形成された各対応するネジ孔間のピッチとの寸法誤差に応じて、ボルトを前記第3ボルト挿通孔との干渉を抑制しつつネジ孔に螺合できる大きさの直径を有した真円形状断面の孔であることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のエンジン補機の取付装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態を、図に基づいて説明する。
図1及び
図2は、本発明に係る取付装置によってエンジン本体に取り付けられるエンジン補機として、車両用空調システムに使用される圧縮機の正面図及び右側面図を示す。また、
図3は、
図1のX−X矢視断面図を示す。
【0012】
図示の圧縮機100は、駆動軸1の軸方向に沿ってフロントハウジング101と、センターハウジング102と、リアハウジング103とが、図示しないボルトを介して相互に締結されている。
駆動軸1の前端部はフロントハウジング101の前方に突出しており、ここに図示しない電磁クラッチを介してプーリ2が取り付けられている。
【0013】
前記プーリ2には、エンジン本体の駆動軸(クランク軸)、または該駆動軸に連動する回転軸に取り付けられたプーリ2との間にベルト3が掛けられる。これにより、プーリ2から電磁クラッチを介して入力される回転駆動力により、駆動軸1が回転駆動される。
【0014】
センターハウジング102内には、駆動軸1の回転によって容積変化する容積室を有したポンプ機構を備え、該容積室の容積変化によって、容積室内に導入した冷媒ガスを圧縮して吐出させるようになっている。
前記ポンプ機構から吐出された冷媒ガスは、リアハウジング103に形成された吐出室、吐出ポート4を経て外部に導出され、図示しない熱交換器(コンデンサ)に供給される。
【0015】
上記のように構成された圧縮機100の取付装置が以下のように構成されている。
フロントハウジング101には、駆動軸1と直角な方向に延びる上下2か所のボス部が設けられ、これらボス部にそれぞれ第1ボルト挿通孔5及び第2ボルト挿通孔6が形成されている。
【0016】
また、リアハウジング103にも、前記フロントハウジング101の2つの第1ボルト挿通孔5と第2ボルト挿通孔6との中間の高さ位置に設けられたボス部に第3ボルト挿通孔7が形成されている。
【0017】
そして、これら3個のボルト挿通孔5〜7に通した3本のボルト8の端部(オネジ形成部)を、エンジン本体側(エンジン本体又はエンジン本体に連結されたブラケット等の部材)の補機取付部9に形成されたネジ孔10に螺合して締結することにより、圧縮機100がエンジン本体側に取り付けられる。
【0018】
ここで、前記3本のボルト挿通孔5〜7が、以下のように形成されている。
上端の第1ボルト挿通孔5は、ボルト8との嵌合隙間を最も小さくした真円形状断面を有し、かつ、軸方向に同一径のストレートな孔に形成される。
【0019】
即ち、該第1ボルト挿通孔5は、取付位置の基準の孔となるように、補機取付部9に形成された対応するネジ孔10にボルト8を通して螺合した状態で、エンジン本体側に対して高精度な相対位置に維持されるように設定されている。
【0020】
一方、下端の第2ボルト挿通孔6は、第1ボルト挿通孔5と第2ボルト挿通孔6に、2本のボルト8通して補機取付部9の対応するネジ孔10に螺合した状態で、圧縮機100のエンジン本体側に対する相対位置を高精度に維持でき、かつ、ボルト8を第2ボルト挿通孔6との干渉(接触摩擦抵抗)を抑制しつつスムーズにネジ孔10に螺合できるように以下のように形成される。
【0021】
第2ボルト挿通孔6の補機取付部9に近い側の孔部分は、軸と直角方向の断面(以下、単に断面という)が長円形状を有し、反対側(ボルト頭部側)の孔部分は真円形状断面を有するように形成される。
【0022】
上記2つの孔部分は、まず、圧縮機100のフロントハウジング101を鋳造により形成する際に、
図4に示す長円形状断面を有した鋳抜きピン11と真円形状断面を有した鋳抜きピン12とを用いて形成される。
【0023】
長円形状断面の鋳抜きピン11は、一端部を軸方向に所定長さだけ一定の長円形状断面としたストレート部11Aと、鋳抜きを容易にするため該ストレート部11Aの基端から他端側に向かって長円形状断面の断面積が漸増するようにテーパを付けたテーパ部11Bとを有して形成される。
【0024】
一方、真円形状断面の鋳抜きピン12は、同じく鋳抜きを容易にするため断面積が一端から他端側に向かって全長に亘って漸増するようにテーパ状に形成されている。
【0025】
そして、
図4に示すように、鋳抜きピン11の長円形状断面の長径方向を第1ボルト挿通孔5と第2ボルト挿通孔6の中心軸相互を結ぶ方向に向けつつ、ストレート部11Bの端面と、真円形状断面の鋳抜きピン12の断面積最小側の端面とを、若干の間隙を開けて対向させて同心状に配設して、フロントハウジング101を鋳造する。
【0026】
これにより、
図5に示すように、2つの鋳抜きピン11,12を鋳抜きした後、これら鋳抜きピン11,12の断面形状に対応した2つの鋳抜き孔13、14が形成される。
ここで、鋳抜きピン11のストレート部11Aに対応するストレート孔13Aの長円形状断面の短径D
Sは、第1ボルト挿通孔5の直径D
1と同一長さに形成される。
【0027】
これに対し、長円形状断面の長径D
Lは、第1ボルト挿通孔5及び第2ボルト挿通孔6間のピッチと、これらボルト挿通孔5,6に対応する補機取付部9の2個のネジ孔10間のピッチとの間の寸法誤差に応じて、ボルト8を第2ボルト挿通孔6との干渉(接触摩擦抵抗)を抑制しつつネジ孔10に螺合できる長さに形成される。
【0028】
即ち、上記ピッチ相互の寸法誤差を±ΔLとするとき、長円形状断面の長径D
LをD
L>D
1+2ΔLとなるように形成する。
また、真円形状断面の鋳抜きピン12に対応して形成される真円形状断面の鋳抜き孔14は、断面積最少側の端部付近では、鋳抜き孔13のストレート孔13Aの長径より直径が小さいが、ボルト頭部側の端部付近では長径より直径が大きい。
【0029】
上記のように2つの鋳抜き孔13、14を形成した後、真円形状断面を有した鋳抜き孔14に、ドリルを入れて前記ストレート孔13Aの長径より大きい直径を持つ真円形状断面を有する切削孔14A(
図5に×印のハッチングで示す)を、その先端が鋳抜き孔13のストレート孔13Aに達するまで切削加工する。
【0030】
このように、切削孔14Aの直径をストレート孔13Aの長径より大きくすることにより、ストレート孔13Aを通ってネジ孔10に螺合されるボルト8と切削孔14Aとの干渉を回避できる。
【0031】
なお、2本の鋳抜きピンの先端相互を接触させて配設すると、対向する金型との間に干渉を生じ、鋳抜きピンに無理な負荷を生じて破損する可能性がある。そこで、上記のように鋳抜きピン11,12の先端同志を隙間を開けて配設する必要があるが、その場合、
図5に示すように、形成された2つの鋳抜き孔13、14の間に鋳バリを生じることとなる。したがって、この鋳バリを除去してボルト挿通孔を貫通させるための切削工程は必要不可欠であるが、本実施形態では、上記1回の切削加工によって同時に鋳バリも除去することができ、特に切削工程を増やす必要もない。
【0032】
次に、第3ボルト挿通孔7について説明すると、第3ボルト挿通孔7は、第1ボルト挿通孔5及び第3ボルト挿通孔7間のピッチと、これらボルト挿通孔5、7に対応する2個のネジ孔10間のピッチとの間の寸法誤差、及び、第2ボルト挿通孔6及び第3ボルト挿通孔7間のピッチと、これらボルト挿通孔6、7に対応する2個のネジ孔10間のピッチとの間の寸法誤差に応じて、ボルトを前記第3ボルト挿通孔との干渉を抑制しつつネジ孔に螺合できるように形成される。例えば、これら2つの寸法誤差のうちの大きい方の寸法誤差を±ΔLmaxとすると、第3ボルト挿通孔7の直径D
3>D
1+2ΔLmaxとなるように形成する。
【0033】
以上のようにして形成された、3つのボルト挿通孔5〜7にそれぞれボルト8を通して対応するネジ孔10に螺合し、圧縮機100を取り付ける場合、例えば、まず、第1ボルト挿通孔5、第2ボルト挿通孔6、第3ボルト挿通孔7に順次ボルト8を通して対応するネジ孔10に螺合して仮止めした後、3本のボルト8をさらに捩じ込んで強固に締結する。
【0034】
ここで、上記したように第1ボルト挿通孔5は、嵌合隙間を最小としつつエンジン本体側に対する相対位置が高精度に設定されている。
また、第2ボルト挿通孔6に挿通されるボルト8は、該ボルト8の直径より十分大きな真円形状断面の孔部分、及び、断面積最小のストレート部13Aを通ってネジ孔10に螺合される。
【0035】
この場合、ストレート部13Aの長円形状断面の長径が上記ピッチ間の寸法誤差に応じた大きさに形成され、かつ、真円形状断面の孔部分の直径が長円形状断面の長径より大きく設定されていることにより、ボルト8を第2ボルト挿通孔6との干渉を抑制しつつスムーズにネジ孔に螺合させることができる。
【0036】
一方、ストレート部13Aの長円形状断面の短径は、第1ボルト挿通孔5の直径と同一の大きさに設定されていることにより、該短径方向のボルト8の動きが最小の嵌合隙間以内に規制される。
【0037】
このように、第1ボルト挿通孔5と第2ボルト挿通孔6を通して2本のボルト8をネジ孔10に螺合することにより、圧縮機100をエンジン本体側に高精度に位置決めして取り付けることができる。
【0038】
また、第3ボルト挿通孔7は、上記各ピッチ間の寸法誤差に応じた大きさの直径を持つ真円形状断面を有するため、ボルト8を第3ボルト挿通孔7との干渉を回避しつつネジ孔10にスムーズに螺合させることができる。そして、これら3つのボルト挿通孔を通した3本のボルト8を介しての締結によって、圧縮機100を安定状態に支持することができる。
【0039】
以上のようにして、エンジン本体側に対して圧縮機100のプーリ2を適正位置に配設することができるため、ベルト3の外れ、片摩耗を良好に抑制することができる。
また、第2ボルト挿通孔6において、ボルト8の位置を規制するストレート孔13Aが、第2ボルト挿通孔6の軸方向中間位置よりネジ孔10に近い側に配設されるため、ボルト8の芯ずれを抑制でき、圧縮機100の取付位置精度をより良好に維持できる。
【0040】
また、圧縮機100の動きが第1ボルト挿通孔5と第2ボルト挿通孔6(のストレート孔13A)とによって、相直交する2方向に対してそれぞれ最小嵌合隙間以内に規制されるため、エンジン等の振動による圧縮機100の位置ずれも良好に抑制される。
【0041】
さらに、本発明は、上記のように圧縮機100を高精度に位置決めするための長円形状断面を有した第2ボルト挿通孔6の加工において、従来に比較して以下のような大きな利点を有する。
【0042】
具体的には、ボルト挿通孔を全長(例えば、70mm程度)に亘って長円形状断面を有した孔に形成しようとすると、従来ではボルト挿通孔の全長をエンドミルにより切削加工することになる。
【0043】
かかるエンドミルによる切削加工は、マニシングセンター等の設備を必要とし、ボール盤単能機で加工できる真円形状断面の孔の加工に比べ、加工時間も長く、加工コストが増大する。
【0044】
また、エンドミルでの加工では、ボルト挿通孔の全長以上の突出し長さの刃具を使用する必要があり、加工時の刃具の振れや切削抵抗により孔の直径及び真直度のバラツキが生じ実質的に孔径の減少となり、ボルト挿通の際、孔内面とボルトとの摩擦接触による抵抗のためボルト締結トルクに対して適正な軸力を発生させることができない惧れがある。
【0045】
また、長円形状断面の孔を一本の鋳抜きピンで鋳抜き形成しようとしても、上記のように鋳抜きを容易にするために1.5°以上のテーパ(鋳抜き勾配)を設ける必要があり、必要とする径を全長に亘って確保することは困難である。
【0046】
これに対し、本発明は、上記のように第2ボルト挿通孔6を断面長円形状の孔部分と断面真円形状の孔部分とに分割した構成により、断面長円形状の孔をボルト挿通孔の全長に亘って形成する必要がなく、必要最小限の工程で済み、加工時間の短縮、加工コストの低減、加工精度の向上を図れることを大きな特長とする。
【0047】
なお、本発明は、上記車両空調用圧縮機に限らず、ベルト駆動されるいかなるエンジン補機の取付装置にも適用できることは勿論である。