特許第6291689号(P6291689)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 上岡 勇人の特許一覧

特許6291689黒鍵をランドマークとして図式化した鍵盤楽器練習用表示装置
<>
  • 特許6291689-黒鍵をランドマークとして図式化した鍵盤楽器練習用表示装置 図000002
  • 特許6291689-黒鍵をランドマークとして図式化した鍵盤楽器練習用表示装置 図000003
  • 特許6291689-黒鍵をランドマークとして図式化した鍵盤楽器練習用表示装置 図000004
  • 特許6291689-黒鍵をランドマークとして図式化した鍵盤楽器練習用表示装置 図000005
  • 特許6291689-黒鍵をランドマークとして図式化した鍵盤楽器練習用表示装置 図000006
  • 特許6291689-黒鍵をランドマークとして図式化した鍵盤楽器練習用表示装置 図000007
  • 特許6291689-黒鍵をランドマークとして図式化した鍵盤楽器練習用表示装置 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6291689
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】黒鍵をランドマークとして図式化した鍵盤楽器練習用表示装置
(51)【国際特許分類】
   G09B 15/00 20060101AFI20180305BHJP
   G10G 1/02 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   G09B15/00 C
   G10G1/02
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-545259(P2015-545259)
(86)(22)【出願日】2014年10月29日
(86)【国際出願番号】JP2014078731
(87)【国際公開番号】WO2015064623
(87)【国際公開日】20150507
【審査請求日】2016年10月12日
(31)【優先権主張番号】特願2013-226999(P2013-226999)
(32)【優先日】2013年10月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509071231
【氏名又は名称】上岡 勇人
(72)【発明者】
【氏名】上岡 勇人
【審査官】 瀬川 勝久
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭55−077263(JP,U)
【文献】 実開昭49−052653(JP,U)
【文献】 特許第4178813(JP,B2)
【文献】 実開昭49−096058(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 15/00−15/08
G10G 1/00−7/02
B42D 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵盤楽器の黒鍵をランドマークとして図式化して表示する表示装置であって、略n字図形をC、C♯、D、D♯、Eの5個の鍵の位置を示すためのランドマークとして表示し、略m字図形をF、F♯、G、G♯、A、A♯、Bの7個の鍵の位置を示すためのランドマークとして表示し、該略n字図形と該略m字図形を鍵盤楽器の黒鍵の配列にしたがって間隔を開けて交互に配列することで所望の音域を表示し、該n字図形と該m字図形の脚部および隣接する地の部分に押鍵位置をプロットすることを可能にしたことを特徴とする表示装置。
【請求項2】
前記表示装置が表示する音域が1オクターブを超えるとき、オクターブごとにオクターブを構成する前記略n字図形と前記略m字図形のペアを2系統の色や濃淡によって交互に異なる様態で表示し、前記表示装置が表示する音域に中央ド(Middle C)が含まれるとき、中央ドが位置する前記略n字図形に記号を追加、又は前記n字図形の高さや太さや模様などに変化を加えて識別可能にしたことを特徴とする請求項1記載の表示装置。
【請求項3】
前記略n字図形の脚部の2本の線上、及び、前記略m字図形の脚部の3本の線上に黒鍵の押鍵位置を示す押鍵マーク及び押鍵状態の継続を示す押鍵継続マークを表示し、該脚部に接する地の部分に白鍵の押鍵位置を示す押鍵マークおよび押鍵状態の継続を意味する押鍵継続マークを記載し、該押鍵マークは左右の手で異なる表示様態の図形または数字または記号で表示し、前記略n字図形と前記略m字図形の脚部の長さをプロットする該押鍵マークの数に応じて延長し、
押鍵が同時であることを強調する接続線や、フレーズの流れを強調する補助線を追加し、フレーズの区切りやフレーズのまとまりを視覚的に示すための、区切り線、括弧、囲み線などの図形要素を追加したことを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項記載の表示装置。
【請求項4】
黒鍵をランドマークとして図式化した表示装置がカードであり、該カードの表面は鍵盤の押鍵位置を表示し、該カードの裏面は該カード表面の表示に対応する音名、コード名、音階名、譜面などを表示することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の表示装置を利用したカード及びそのセット。
【請求項5】
鍵盤楽器の黒鍵をランドマークとして図式化した鍵盤イメージを表示する表示装置を利用した鍵盤楽器の練習方法であって、当該表示装置が請求項1から請求項3のいずれか一に記載された表示装置であることを特徴とする鍵盤楽器の練習方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵盤楽器、特にピアノの練習を補助するための表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ピアノに代表される鍵盤楽器の学習者の多くは、曲を暗譜し、それを繰り返し練習することで、その曲をレパートリーとすることを目的にしている。
暗譜とは、曲の演奏情報を脳にインプットすることであるが、通常は、譜面を鍵盤上の押鍵位置の情報に読み替えた後、それを繰り返し練習することで指の運動の習慣として記憶を固定する方法が取られている。つまり、暗譜イコール指の動きの記憶となっている。もちろん音の記憶なども伴っているが、ほとんどの学習者は「意識しなくても指が勝手に曲を演奏する状態を目指す」といった指の動きの記憶に特化した練習に励んでいる。
【0003】
しかし、暗譜には指の運動の記憶以外にさまざまな記憶があり、なかでも大きな役割を果たすのは耳の記憶、目の記憶である。耳の記憶とは曲を音で記憶するということで、例えば「頭の中で曲を最初から最後まで再生できる」という記憶のあり方である。また、目の記憶とは「指をどのように動かしたか」以外に、「どの鍵盤を押していったか」あるいは「譜面上で音符がどう動いていたか」といった記憶がある。もちろん、それ以外に姿勢や触感などさまざまな身体的記憶や、曲の進行に伴って動く感情の記憶などもある。
【0004】
しかしながら、現状のピアノ教育においては、それらの記憶情報の質的な違いを考慮に入れず、暗譜のための情報のインプットはひたすら指の運動の習慣化の練習を繰り返すことに頼っている。そのため、暗譜を効率的に行うための方策としては、もっぱら初心者を対象とした譜面を鍵盤上の押鍵位置に読み替える作業の負担の軽減に注意が向けられている。ピアノ学習に向けた既存の発明の多くは、発想の原点として「譜面が読めない初心者でも指の動きを覚えて暗譜できる」ことを主な目的としているがその表れである。
【0005】
例えば、特許文献1は、鍵盤楽器に直接、押鍵位置及び使用する指を指示するための演奏ガイドを表示する表示装置を備えることによって、暗譜のための譜面の読み取り過程を省いて指の運動の習慣化の練習のみで暗譜が行えるようにしたものであるが、専用の鍵盤楽器と用意された楽曲データが前提となるため汎用性に欠ける。特許文献2は鍵盤図を提示することで譜面を意識させないで指の運動の指示を可能にしたものであるが、演奏する音が少ない難易度の低い入門用の曲以外では、表示が難しくなるとともに、学習者の読み取りの負担が重くなる。
【0006】
一方、鍵盤をそのまま音高のグラフとして表示し、プロットされた押鍵の指示をそのまま視覚的に鍵盤上に投影できるような譜面が考案されている。その源流は19世紀末頃に考案された自動演奏のピアノやオルガン用のピアノロールと呼ばれる演奏情報の記録方式である。
【0007】
一般的に鍵盤楽器の鍵盤は、黒鍵と白鍵で構成されているが、鍵盤の手前側と奥側では鍵の配列の意味が異なっている。鍵盤の手前側の白鍵だけの配列はハ長調のダイアトニック音階の配列であり、ダイアトニック音階の音高グラフである従来の五線譜と対応関係がある。
一方、鍵盤の奥側においては、白鍵と黒鍵が半音間隔の音程で配列された、1次元的で均等な配列構造となっている。音楽的にはクロマティック音階の配列である。そして、ピアノロールを模したピアノロール譜面は鍵盤の奥側に対応したクロマティック音階の音高グラフとなっている。
例えば特許文献3、特許文献4および特許文献5に示される発明は、クロマティック音階の音高グラフそのままの形で構成されている。学習者はこれらのピアノロールを基本とした譜面を見て、そのまま図式的に押鍵位置を特定できる。しかし、多くの楽曲は基本的にダイアトニック音階で構成されているため、ピアノロール譜面では例えばハ長調の曲では非ダイアトニック音である黒鍵の領域が冗長な表示となる。また、ピアノロール譜面では個々の鍵盤(音高)の帯もしくはグリッドに施された黒鍵と白鍵の視覚的な差異によって押鍵位置を機械的(直感的)に特定できるが、クロマティック譜面を構成する背景の線などの図形要素が多いために、実際に鍵盤と見比べながら読むには視覚的な煩雑さが負担になるという欠点を持つ。さらに音価(音の長さ)を押鍵位置を示す表示子の長さで表現した場合は、従来の五線譜に比べて時間軸においても冗長になる。現状において、ピアノロール譜面はコンピュータミュージックでの機械(パソコンなどの情報機器)への演奏情報の入力および確認用画面として採用されている例が多いが、これは発音状態の俯瞰性が五線譜より優れているためであり、機械的な再生動作をチェックするのに向いているからである。つまり、基本的にピアノロール譜面はその由来からして機械(自動演奏ピアノ)向けのものであり、人間には負担が多い。
【0008】
特許文献6や特許文献7もクロマティックな譜面であるが、音高位置を示す方法として黒鍵位置を示す線だけに絞り込むことで、ピアノロール譜面における見た目の煩雑さがかなり解消されている。しかし、黒鍵が線に抽象化されることで音高が1次元のグラフであることがより強調されるため、実際の鍵盤に読み替えるときにグラフから鍵盤への視覚的な変換が直感的ではなくなってくる。さらに、演奏する音が多くなると、譜面を視覚的に記憶することが困難になってくるため、譜面と鍵盤とを何度も見直さなければならなくなったりする。つまり、初心者向けの曲以外には視覚的な読み取りにおける有用性が薄れる。
【0009】
このように、脳に暗譜情報をインプットする手段としては、現状のピアノロール譜などのクロマティック譜面が、従来の五線譜を使った練習と比べてそれほど優位であるとは言えず、また、指の運動を習慣化する練習から脱することもできない。
【0010】
指の運動を習慣化する練習の本質的な問題点として、「暗譜している曲を弾いていて途中でわからなくなると、曲の最初から弾き直さないと思い出せない」という事態に陥りがちな点がある。音の記憶が補完しているはずであるが、実際は音の記憶が指の記憶に副次的なものとなっているため、演奏に詰まるたびに習慣化した運動をはじめからやり直すしか方法がないという状態に陥りやすい。もちろん、卓越した読譜力を身に付けた学習者の場合、譜面の視覚的記憶とそれから想起される音の記憶が補完されるため、こうしたことは起こりにくくなる。しかし、ほとんどの学習者は自身の読譜力を育てるよりも、むしろ譜面を覚えて指を主体とした暗譜練習に専念する傾向があるため、十分な読譜力を得るには至らない。
【0011】
記憶の質そのものについても、指の動きの記憶に頼った暗譜では「頭のなかだけで指の動きを再現できない」場合が多い。つまり、実際に楽器を前にしないと何も想起できない記憶でしかないわけである。これの一番の原因は、鍵盤イメージが認知心理学で言うところの「心の眼」で捉えられていないためである。鍵盤が指のたんなる背景としか意識されていないため、ピアノに向かって実際に背景としての鍵盤が見える状況でないと指の動きも再現できなくなっているのである。
【0012】
逆に、もし鍵盤イメージを脳内に保持できれば、「こう動いたから次はこう動く」といった順次的に想起されていく単なる指の動きの記憶ではなく、「演奏すべき一連を押鍵位置をあらかじめ意識的に把握できる」といった視覚的に強固な記憶とすることができる。また、従来の譜面と鍵盤との視覚的な関係も習得しやすくなり読譜力の養成に役立つ。さらに、音の記憶も鍵盤イメージと結びつくことで、より強固で想起しやすい記憶として保持できる。記憶情報はさまざまな質の情報が互いに関連し合うほど強固に保持でき、想起(再生)しやすくなるが、その核となるのが鍵盤イメージである。
つまり、ピアノ教育において、学習者に「能動的に想起できる鍵盤イメージ」を効率的に習得させる手段が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2000−338972号公報
【特許文献2】特開平9−218639号公報
【特許文献3】米国特許第2157168号明細書
【特許文献4】米国特許第7439438号明細書
【特許文献5】米国特許第7767895号明細書
【特許文献6】米国特許第104393号明細書
【特許文献7】米国特許第1473495号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、能動的に使える強力な鍵盤イメージを学習者の脳内に保持させる手段を提供するとともに、それを基に演奏における視覚的及び空間的な押鍵位置情報の記憶と想起の訓練を可能にする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明者は、鍵盤楽器における2種類の黒鍵の並びを略n字図形及び略m字図形というランドマーク図形に図形化し、そこに押鍵位置をプロットすることによって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、鍵盤楽器の黒鍵をランドマークとして図式化して表示する表示装置であって、略n字図形をC、C♯、D、D♯、Eの5個の鍵の位置を示すためのランドマークとして表示し、略m字図形をF、F♯、G、G♯、A、A♯、Bの7個の鍵の位置を示すためのランドマークとして表示し、該略n字図形と該略m字図形を鍵盤楽器の黒鍵の配列にしたがって間隔を開けて交互に配列することで所望の音域を表示し、該n字図形と該m字図形の脚部および隣接する地の部分に押鍵位置をプロットすることを可能にしたことを特徴とする表示装置を提供する。
【0016】
さらに、この特徴に従う表示装置は、表示する音域が1オクターブを超えるとき、オクターブごとにオクターブを構成する前記略n字図形と前記略m字図形のペアを2系統の色や濃淡によって交互に異なる様態で表示するように構成することができ、また、前記表示装置が表示する音域に中央ド(Middle C)が含まれるとき、中央ドが位置する前記略n字図形に記号を追加、又は前記n字図形の高さや太さや模様などに変化を加えて識別可能にすることができる。
【0017】
さらに、この特徴に従う表示装置は、前記略n字図形の脚部の2本の線上、及び、前記略m字図形の脚部の3本の線上に黒鍵の押鍵位置を示す押鍵マーク及び押鍵状態の継続を示す押鍵継続マークを表示し、該脚部に接する地の部分に白鍵の押鍵位置を示す押鍵マークおよび押鍵状態の継続を意味する押鍵継続マークを記載し、該押鍵マークは左右の手で異なる表示様態の図形または数字または記号で表示し、前記略n字図形と前記略m字図形の脚部の長さをプロットする該押鍵マークの数に応じて延長し、押鍵が同時であることを強調する接続線や、フレーズの流れを強調する補助線を追加し、フレーズの区切りやフレーズのまとまりを視覚的に示すための、区切り線、括弧、囲み線などの図形要素を追加した表示装置として構成できる。
【0018】
また、本発明は、黒鍵をランドマークとして図式化した上記表示装置をカードとして構成することが可能であり、該カード表面は上記表示装置による表示方法で鍵盤の押鍵位置を表示し、該カードの裏面は該カード表面の表示に対応する音名、コード名、音階名、譜面などを表示するカード及びカードセットを提供する。
【0019】
さらに、本発明は、鍵盤楽器の黒鍵をランドマークとして図式化した鍵盤イメージを表示する表示装置を利用した鍵盤楽器の練習方法であって、当該表示装置が上記表示装置であることを特徴とする鍵盤楽器の練習方法を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、鍵盤楽器学習の初心者の段階から脳内に強固な鍵盤イメージを焼き付ける訓練が可能となり、押鍵位置の譜面からの同定、そして押鍵位置の記憶と再現(想起)の、すべての過程において、指の運動の記憶だけに頼らずに学習可能となる。そして、そこで得られた強固な鍵盤イメージは、
譜面上の音符と鍵盤イメージとの強化による譜面の読み取り能力の向上、
鍵盤イメージを土台にした押鍵位置の記憶と再現による暗譜力の向上、
和音や音階の鍵盤上でのパターンの記憶が容易になるため、調性をはじめとした音楽理解への深化、
ピッチと鍵盤イメージとの結合が自然に行えるため音感訓練への活用など、
鍵盤楽器学習のさまざまな面での能力開発の土台とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る黒鍵をランドマーク化した図形の一例を示す。
図2】本発明の一実施例による鍵盤上の12音の表示の一例とフォント化したデザインの一例を示す。
図3】本発明の一実施例による立体的な表示装置の一例を示す。
図4】本発明の一実施例による表示装置での記譜用シートの一例と鍵盤用パネルの一例を示す。
図5】本発明の一実施例による表示装置での譜面の一例と元の五線譜譜面を示す。
図6】本発明の一実施例による表示装置での譜面の一例と元の五線譜譜面を示す。
図7】本発明の一実施例による表示装置であるカードでの表示の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
まず本発明は、ピアノをはじめとした鍵盤楽器全般に有効な発明である。以下、鍵盤楽器をピアノに代表させて説明を進める。また、本発明の形態の説明に用いる「白鍵」と「黒鍵」という用語は、現代のピアノでの塗り分けに準じた呼称であり、すなわち、白鍵はハ長調のダイアトニック音階の鍵、黒鍵はそれ以外の鍵である。
以下に、図を参照して本発明に係る実施形態を詳細に説明する。
【0023】
図1は、黒鍵の並びを略n字11と略m字12に図形化したもので、本発明の本質である鍵盤地理の場所の特定に使う2種類のランドマーク図形である。黒鍵の並びを認識しやすい図形に図形化し、個々の鍵の位置は該ランドマーク図形との位置関係で表現する。黒鍵位置は、該ランドマーク図形上つまり該略n字と該略m字のそれぞれの脚部13によって示される。白鍵位置は前記脚部に隣接する地の部分14で示される。
【0024】
該略n字及び該略m字のランドマーク図形は、初心者から上級者までどの段階の鍵盤楽器学習者の脳内においても即座にインプット可能であり、押鍵位置を意識するときに常に想起することが可能である。これにより複数の鍵を同時にあるいは連続的に押鍵する場合にも、1個の視覚的なイメージとして表現できるため、押鍵位置の情報の脳への入力を効率化できるとともに、その記憶の維持および再生(想起)にとってきわめて効果的な手段となってくる。これは、楽器がなくてもいつでもどこでも脳内に鍵盤イメージを想起し演奏情報を再現するといった能力につながるものである。これは同時に、レパートリーの暗譜のためだけでなく、調や和音など音楽理論への理解を深めたり、音感を訓練する土台として活用できる技術であることも意味している。
【0025】
図2(A)は、本発明の表示装置での鍵盤楽器の12種類の鍵の表示例を表で示している。
略n字21と略m字22を、鍵盤地理におけるランドマークとして使用し、鍵盤の特定の位置を示すための押鍵マーク23を表示することで、12種類の鍵の区別ができる。該略n字21は、音名のC、C#、D、D#、Eのプロットに用いられ、該略m字22は、音名のF、F#、G、G#、A、A#、Bのプロットに用いられる。上記の音名で#(シャープ)が付いている音名は該略n字21と該略m字22のランドマーク図形の脚部上にプロットされ、シャープが付かない音名は白鍵の音であり、上記ランドマーク図形の脚部に隣接する地の部分にプロットされる。
【0026】
このように、本発明によって鍵盤の押鍵位置が抽象化され記号化されるので、電子的なディスプレイを用いた表示装置で使用する表示用のフォントおよびその印刷用フォントとして本発明を構成できることは容易に思いつく。
図2(B)は、本発明による鍵盤位置を示すフォントデザインの一例であり、12種類の音に対応する12文字を示している。すべての押鍵のパターンをこのフォントで表現するためには略n字型のランドマーク図形での0個から5個までの押鍵位置の組み合わせ32種類と、略m字型のランドマーク図形での0個から7個までの押鍵位置の組み合わせ128種類、つまり、合計160文字のフォントセットを構成すればよい。
【0027】
該フォント及びフォントセットは、鍵盤位置を端的に表現する手段として活用でき、とくに和音の構成音や音階の構成音などの鍵盤イメージの学習に、大いに活用できる。また、従来の五線譜の譜面を補完する情報として該フォントを表示するといった使用法なども考えられる。
【0028】
図3は、前記のランドマーク図形を立体的な構成物として実施する場合の一例を示す。
この実施例の構成に用いる材料の種類は特定の材料に限定されることなく、プラスチック、シリコン樹脂、ポリエステル素材、スポンジ、木、布、金属など、さまざまな素材で構成可能である。
略n字部32と略m字部31はそれぞれ土台部33に固定され、土台部33の両端の接続部34どうしを連結することで自由に音域を増やせるように構成している。接続部34の形状は、着脱可能であり、略n字部32どうしや略m字部31どうしでは接続できず、交互(n−m−n−m…の並び)にのみ接続できるような形態が望ましい。
【0029】
本発明を図3のような立体に構成することで、脳内の鍵盤イメージの強化に特化した練習学習補助装置となる。言い換えると 鍵盤の視覚的情報と触覚的な情報の両方を効果的に脳にインプットすることを目的とした立体の模擬鍵盤である。
学習者は、この模擬鍵盤上で音階や和音などの押鍵位置を指でプロット(押す、添える)する練習を繰り返すことによって、脳内の空間的な鍵盤イメージを鮮明化させていくことができる。これは、譜読み(譜面を読みながら演奏)をするとき、譜面から目を離さず鍵盤をほとんど見ないで演奏する能力の育成にもつながる。また、この模擬鍵盤を使用した練習での「音が出ない」という特徴は、指の触覚に対する学習者の集中力が増すという効果とともに、学習者が自分の頭の中で音を想起する訓練、つまり能動的な音感の強化にもつながる。
【0030】
図4(A)は、本発明の表示装置を鍵盤楽器の記譜用シートとして実施した場合の表示の一例を示す。基本的に、前記の略n字と略m字のランドマーク図形のペア(41と42)で1オクターブに含まれる12種類のすべての音を記譜できるので、それを所望の音域だけ配列する方式である。図4(A)の実施例では、丸みを帯びたデザインの略n字と略m字のペア41と角張ったデザインの略n字と略m字のペア42を交互に配置することで、視覚的な差異によってオクターブごとの区別が容易にできるようにしている。なお、ここでのオクターブごとの視覚的な差異は、形での違いだけでなく異なった色付けや異なった濃淡などによっても表現でき、ここでの実施方法に限定されるものではない。
【0031】
また、鍵盤の中央を示すために、中央ド(中央ハ、Middle C)の鍵盤が含まれる該略n字図形43の高さを増すことで視覚的な区別をつけている。この鍵盤の中央位置を示すための視覚的な差異についても、形の違いだけでなく異なった色付けや異なった濃淡、あるいは特定の記号などの図形要素の追加によっても表現でき、ここでの実施方法に限定されるものではない。
【0032】
上記の特徴を持つ略n字と略m字のペア(41と42)の配列を、縦方向に反復(ここでは3列のみを示している)表示することによって、鍵盤の押鍵位置を時間に沿って連続的に記録することができる。これらの表示を紙に印刷している場合には、学習者は、該略n字と該略m字のランドマークに対して、鉛筆などの筆記具によって、押鍵位置をプロット(記入)することができる。また、電子的なディスプレイ装置によって表示する場合は、その装置に接続されているキーボードやマウス、タッチパネルなどの入力装置によって、押鍵位置をプロットできるように構成できる。
【0033】
初心者のうちは、本発明の略n字および略m字のランドマーク図形と鍵盤楽器との直接的な視覚的な対応が直感的に理解できるように、使用する鍵盤楽器の黒鍵どうしを略n字や略m字のように見せかける装置を設置してもよい。例えば、黒鍵の2本の並び及び3本の並びの奥側を接続する線としてシールなどのアタッチメントを黒鍵上を装着したり、図4(B)に示されるような鍵盤の奥側に黒鍵を接続する線を描いたパネル44を設置する方法などが考えられる。もちろん、黒鍵が略n字及び略m字に見えるようにあらかじめ構成された鍵盤楽器であってもよい。
【0034】
なお、図4(A)で示している、略n字と略m字のペアで構成されるオクターブ(41と42)ごとの視覚的な差異は、単に音域の視覚的な把握の補助を目的にしたものではなく、従来の五線譜を使った譜面の表示構造との対応も考慮したものとなっている。例えばハ長調の音階で考えると、中央ドからの上のオクターブ内では、五線譜上で音名のC、E、G、Bが五線の線上の音符として表され、D、F、Aは五線の線間に位置する音符として表示される。これら譜面上の音符の視覚的な差異を言い表す用語として、五線の線上の音符は「セン」、五線の線間の音符は「カン」と呼ばれる。このように音階(正確にはダイアトニック音階)の7音をセンとカンで区別して表記するというのが五線譜というグラフでの音高表記の一番大きな原則であるが、7音という奇数をセンとカンという2値で区別するため、音階音とセンとカンの関係は、オクターブごとに逆転するという特徴につながる。つまり、中央ドから上に音名C、E、Gがセンの音符であるとき、その1オクターブ上(または下)のC、E、Gはカンになるということである。この従来の五線譜におけるセンとカンという視覚による音符の見分けは、学習者にとって譜面上の音符の並びを音名を介さず視覚的に鍵盤に移し替える技術習得の基礎となっている。つまり、図4(A)の記譜シートで施したようなオクターブごとの視覚的差異は、五線譜上でのオクターブごとのセンとカンの逆転を学習者に意識させる訓練となり、従来の五線譜の譜面を視覚的に効率的に読み取る技術を習得する予備練習となる。
【0035】
図5(A)は、本発明を利用して演奏用の譜面を構成した実施例を示す。この実施例では、濃い略n字511と濃い略m字512のペアと、薄い略n字521と薄い略m字522のペアを必要な音域分だけ配列している。なお、ここで施した略n字と略m字のペアの視覚的差異は、色の濃淡に限られるものではなく、色分けや形状の違いであってもよいのは言うまでもない。
また、中央ドが位置する略n字にはマーク53を追加して示している。
以上の特徴を施した略n字と略m字の配列を、図5(A)の例では小節ごとにランドマーク図形として用いており、鉛直方向に小節の時間的順列に対応して順次並べて表示している。これは、小節の区切りを空白の帯で表現しているとも言える。
【0036】
図5(B)は、図5(A)の譜面を従来の五線譜で示したもので、バッハの「Wach auf, mein Herz」の冒頭部である。この譜面で示されるように、この曲は4分の3拍子で、ソプラノ、アルト、テノール、バスの4つの声部が進行するコラールである。図5(A)は、これをそのまま略n字と略m字の黒鍵のランドマークを利用した譜面に写した鍵盤楽器用の譜面となっている。右手でソプラノとアルト、左手でテノールとバスのそれぞれの声部を演奏できるように、左手を四角形の押鍵マーク541で表し、右手を菱形の押鍵マーク542で表している。左手と右手の視覚的区別は、ここでの押鍵マークの形状の違い以外に色の違いなどによっての実施も可能であることは言うまでもない。
【0037】
図5(A)の譜面においては、音の長さは視覚的に表していないが、基本的に1拍分の四分音符を左右の手の押鍵マーク(541と542)で表示している。また、押鍵状態の継続は押鍵継続マーク543によって視覚的に表現される。同時に発音する音は基本的に同列に並ぶことで表されるが、視認性を高めるために該押鍵マークを接続する水平の補助線55を追加している。また、八分音符が現れる部分は該押鍵マークどうしを結ぶ補助線57を追加し短期的なフレーズの流れとして表現している。
さらに、読み取りやすさ及び教育的な意図に応じて、フレーズの流れを示す補助線56を必要に応じて追加する。ここでは該補助線56によってバス声部の流れを形で捉えられるようにしている。
なお、ここで示している補助線(55、56、57)の形状は、とくにここでの実施例の様態に限定されるものではなく、それぞれが視覚的に区別できる様態であればよい。
【0038】
図6(A)も、本発明を利用し練習用の譜面を構成した実施例を示す。
この実施例では略n字と略m字のペアは濃淡の塗り分けと形状の特徴の差異の両方によってオクターブごとの視覚的な差異を施している。すなわち、濃くて角張った略n字611と濃くて角張った略m字612のペアと、薄くて丸みを帯びた略n字621と薄くて丸みを帯びた略m字622のペアが必要な音域分だけ配列されている。
また、中央ドが位置する略n字63は、その上部の色を別の濃度や色で塗り分けることによって視覚的な区別を施している。
以上の特徴を施した略n字と略m字のランドマーク図形の配列を、ここでは小節単位ではなく、練習や暗譜のために望ましいフレーズのかたまりごとに、鉛直方向に並べる方式で表示している。このとき、該ランドマーク図形の脚部の長さは、そこにプロットする該押鍵マークの数に応じて延長する。
【0039】
ここで示されている図6(A)の譜面は、ショパンの「英雄ポロネーズ」の冒頭部分であり、図6(B)に示す従来の五線譜譜面から、音価(音の長さ)の情報を省き、押鍵位置のパターンの変化のみを抜き出した演奏情報となっている。つまり、鍵盤の視覚的(空間把握的)な記憶のインプットに特化した練習用の譜面である。
【0040】
図6(A)では、左手も右手も押鍵マークとして親指から小指に1から5の番号を割り当てた指番号を使用し、斜体で淡い色の数字を左手用の押鍵マーク641、通常のフォントで濃い色の数字を右手用の押鍵マーク642として用いている。このような様態で表現することで、左右の指が交差した状態で押鍵する状態も一目でわかるようになっている。例えば図6(A)の最初のランドマーク図形の最下端にプロットされている押鍵マーク(641と642)の並びがそうである。なお、これら押鍵マークの表示様態は、ここでの例に限定されるものではなく、左右の手の区別が付くようになっていればよい。例えば、指番号を丸囲みの数字と四角形で囲んだ数字とで表すことで左右の手を区別するといった方法も可能である。
同時に奏する音については図5(A)の譜面と同様に、水平の補助線65で押鍵マークを接続することによって、同時奏であることを強調している。
【0041】
さらに、図6(A)の譜面で特徴的な点は、視覚的に一連の動きとして強調したいフレーズについて囲み線66や括弧67を追加している点である。これによって学習者に対して、該括弧や該囲み線で強調されている部分が一連の動作として練習し記憶すべき部分であることを示すことができる。また、これらのフレーズを反復する場合、その反復回数を表す数字68を記すことで、記譜が冗長になることを防ぐことができ、記憶しやすい譜面が提供可能となる。そのほかフレーズの区切りを表す補助線などを追加してもよい。
【0042】
つまり、図6(A)で示される譜面は、音価や小節などの情報を取り除くことによって、押鍵位置の視覚的な情報を漏れなく効率的に学習者に意識づけすることが可能となっている。従来の五線譜での学習においては、五線譜から読み取った押鍵位置を主に指の運動を習慣化させる練習に傾きがちであり、鍵盤イメージはぼんやりとしたものでしか記憶されにくい。しかし、本発明による略n字と略m字の黒鍵ランドマークの譜面を使用することにより、鍵盤イメージが単なるぼんやりとした背景ではなく、記憶の中心物として意識されるようになるため、視覚的な演奏記憶が強化され、頭の中だけで演奏するイメージを再現するといったことも容易になってくる。このとき、例えば図3に示した実施例のような立体的に構成した学習用具を併用することで、指の触覚を基にした空間記憶も同時に意識的に脳にインプットできる。
このような脳内だけの鍵盤楽器を使わない練習は、学習者が自分で音を想起することによって鍵盤と音とのつながりをより能動的に意識する訓練となる。そして、鍵盤イメージを基にした能動的な音感を習得した学習者は、「譜面を見るだけで曲を頭の中で鳴らして理解できる」といった、脳内での初見演奏能力の習得も可能となってくる。
【0043】
図7は、本発明の表示装置をカードとして実施した場合のカードの両面を示すものである。
カードの表面711には本発明による黒鍵をランドマーク図形化した略n字722及び略m字721を使用し、メロディーやコード(和音)やスケール(音階)で奏される鍵の位置に押鍵マーク73をプロットする。さらにプロットした該押鍵マークがコードやスケールを示すものである場合、コードのルート(根音)やスケールのキーノート(主音)を示す三角形74を表示する。なお、ここでの該押鍵マークや該三角形の形状は、ここでの実施例での様態に限られるものではない。
【0044】
また、ここでは紙などに印刷したカードでの実施を想定しているが、パソコンやタブレット型のPCなどの電子的な表示装置、あるいは電子鍵盤楽器の表示パネル部分などの表示装置によって、該カードの表と裏の表示をワンタッチ操作で切り替えられるバーチャルなカードとしての実施も同様に行えることは言うまでもない。
【0045】
図7で示している押鍵マーク73は、黒鍵にプロットされる場合、白鍵に比べて表示位置を少しだけ高く表示することで視覚的な差異を施している。これは実際の鍵盤での白鍵と黒鍵の高低差に対応したもので、学習者に直感的に指の状態まで意識させることを意図したものである。なお、押鍵マーク73の表示の高低差については、ここで示した例のほかに、メロディーシークエンスの時間的な順序を反映させたり、コードでの「1度、3度、5度の基本の音」、「6度と7度」、「それ以外のテンション」の違いを反映させたりといった使い方なども考えられる。
【0046】
カードの裏面712は、表面711に示された押鍵位置について、和音名751やスケール名761、また、五線譜での表示(752と762)、あるいは音名などを記す。
【0047】
該カードは両面で学習用カードとして活用できる。学習者は、該カードの表面を見て、瞬間的にその名称や五線譜での音符を想起する練習をしたり、逆に、該カードの裏面のコード名やスケール名や譜面を見て瞬間的に鍵盤上での押鍵イメージを想起する練習を行う。ここで「瞬間的」が強調されるのは、押鍵位置が複数であっても、本発明の略n字と略m字というランドマーク図形と組み合わせることで、コードや音階やメロディーを、1個あるいは2個の図形のセットとして視覚的に捉えることが可能になるからである。このような、押鍵位置のパターンを一瞬で目に焼き付け、それを想起する練習は、鍵盤楽器習得への時間を大幅に短縮させることにつながるだけでなく、和声や音階などの音楽理論への理解を深める学習を効果的に行うことができる。
【0048】
ここでは実施の一例としてのカード1枚を示しているが、例えば学習レベルごとにまとめた和音や音階のカードセットとして構成することが望ましい。そのほか、習得したい曲を断片化することによって、暗譜と理論学習の両方が行えるようなカードセットとして構成することも可能である。もちろん、こうしたカードセットはパソコンやタブレットPCなどの電子機器で仮想的なカードとして構成可能であり、そこにインタラクティブな学習プログラムを追加することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る黒鍵をランドマークとして図式化した鍵盤楽器練習用表示装置は、従来の五線譜が読めない学習者に容易に鍵盤楽器の演奏方法を教示することを可能にするとともに、学習者の脳内に鍵盤イメージを定着させるのに効果的であることから、読譜や暗譜のための技能を飛躍的に向上させるとともに音感や音楽理論教育の土台を与えることが可能であり、音楽教育の産業分野において広く利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
11.黒鍵2個の並びを示す略n字
12.黒鍵3個の並びを示す略m字
23.押鍵位置を示す印
44.パネル
53.中央ドを示す印
541.左手の押鍵位置を示す印
542.右手の押鍵位置を示す印
543.押鍵継続を示す印
641.左手の押鍵位置を示す指番号
642.右手の押鍵位置を示す指番号
711.カードの表面
712.カードの裏面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7