特許第6291721号(P6291721)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6291721
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】微生物の検査方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20180305BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20180305BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12Q1/68 A
   C12Q1/06
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-91512(P2013-91512)
(22)【出願日】2013年4月24日
(65)【公開番号】特開2014-212719(P2014-212719A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2016年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】特許業務法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】一色 淳憲
(72)【発明者】
【氏名】小梶 真実
(72)【発明者】
【氏名】田辺 卓
(72)【発明者】
【氏名】吉田 充裕
【審査官】 戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−200213(JP,A)
【文献】 食品と開発,2012年,vol.47, no.1,pp.38-40
【文献】 月刊HACCP,2013年 4月22日,vol.19, no.5,pp.40-43
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12Q 1/00−1/70
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/
WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境中から試料を採取して、得られた試料に含まれる微生物を培地にて培養する培養工程と、
前記微生物を培養することでコロニーが2以上形成された場合に、これら形成されたコロニーを2以上の集合に分けて、前記集合毎に前記集合に含まれる前記微生物の核酸を抽出する核酸抽出工程と、
抽出した核酸を用いて増幅対象領域を含む核酸断片を増幅させる核酸増幅工程と、
増幅された核酸断片を用いて、前記集合毎に前記集合に含まれる前記微生物を検出する微生物検出工程と、
前記微生物検出工程において2種類以上の微生物が検出された場合に、検出された前記微生物毎に、前記2以上の集合の総数である全集合数に対する、それぞれの微生物が検出された集合数の割合を算出し、該割合の最も高い種を前記環境中における微生物の優勢種と推定する優勢種推定工程と、を有する
ことを特徴とする微生物の検査方法。
【請求項2】
前記微生物を培養することでコロニーが4以上形成された場合に、前記核酸抽出工程において、これら形成されたコロニーを4以上の集合に分けて、前記集合毎に前記集合に含まれる前記微生物の核酸を抽出することを特徴とする請求項1記載の微生物の検査方法。
【請求項3】
前記微生物が、カビ、酵母、又はバクテリアであることを特徴とする請求項1又は2記載の微生物の検査方法。
【請求項4】
前記微生物検出工程において、前記増幅された核酸断片と相補的に結合する、前記微生物を検出するためのプローブが固定化された担体を用いて、前記集合毎に前記集合に含まれる前記微生物の種類を判定することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の微生物の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境中における微生物の存否等を確認するための検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品製造現場や臨床現場、文化財保護環境等において、カビや細菌などの微生物が存在するか否かを検査して、環境の安全性を確認するとともに、その繁殖を防止することが重要となっている。
例えば、カビの検査では、一般的に、環境中から試料を採取して前培養し、次いで菌種ごとに最適な培地で20日程度の培養を行った後に、形態的特徴を観察することで、カビを同定する形態観察法(培養法)が行われている(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、この方法では、カビ種ごとに分離培養することが必要であるため、検査工程が煩雑になるという問題があった。また、培養に長期間を要するため、例えばヒトが生活する屋内の検査や食物の検査など、迅速性が要求される検査には不向きであった。さらに、形態的特徴を表す胞子が形成されないと同定ができず、労力が無駄になってしまう場合があるという問題もあった。
【0004】
また、最近は、カビの検査においてDNAを用いた同定法も行われている。例えば、環境中から採取した試料を培養した後、培養細胞からDNAを抽出して、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法によりターゲット領域を増幅し、その増幅産物を解析することで、試料中のカビを同定することが行われている。増幅産物を解析する方法としては、例えば電気泳動によって増幅産物のサイズを分析する方法や、増幅産物と相補的に結合するプローブを固定化したDNAチップを用いて、試料中に存在するカビを同定する方法などが提案されている(特許文献2,3参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2007−195454号公報
【特許文献2】特開2008−278848号公報
【特許文献3】特開2008−278861号公報
【特許文献4】特開2001−238700号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このようなDNAを用いた同定法によれば、環境中における微生物の存否を確認することはできるが、その環境中において、どの微生物が優勢種であるのかまでは確認することができなかった。
また、特許文献1に記載のように、菌種ごとに分離培養を行って、形態的特徴の観察に基づきカビを同定する方法によれば、同定されたカビの個数を数えることにより、各カビの存在割合を把握することができるため、どのカビが優勢種であるかを確認することが可能である。しかしながら、この方法は、優勢種の確認に長期間を要するため、ヒトが生活する屋内の検査や食物の検査などの迅速な対応が望まれる検査には不向きであった。
ここで、生物集団等から2個以上の試料を得てDNAを抽出し、DNA、標的遺伝子特異的プライマー、およびコントロール遺伝子特異的プライマーを含有する反応液を調製して、定量的PCRに供して各増幅産物の量を測定し、増幅産物の量に基づき生物集団中の異種個体の存在割合を決定し、存在割合の信頼度を統計処理によって決定する生物集団中の異種個体の存在割合の定量的測定方法が提案されている(特許文献4参照)。
【0007】
しかしながら、このような増幅産物の量に基づき生物集団中の異種個体の存在割合を決定する方法では、個体間の増幅対象領域のサイズが大きく異なる場合には有効であるものの、増幅対象領域のサイズに十分な違いがない場合には有効に用いることができないという問題があった。
例えば、DNAを用いた微生物の検査では、複数種類の微生物について、DNAにおける同一領域を増幅対象領域とする場合が多い。このとき、検査対象の微生物によっては、異なる種類間において、それぞれの増幅対象領域のサイズがあまり違わないことがある。このような場合には、例えば電気泳動によって増幅産物の量を分析しても、複数種類の微生物由来の増幅産物が1つのバンドに入ってしまうため、各微生物の存在割合を決定することは困難であり、環境中における微生物の優勢種を判定することはできなかった。
【0008】
そこで、本発明者らは鋭意研究し、DNAを用いた微生物の検査にあたり、微生物の種類間の増幅対象領域のサイズがあまり違わない場合でも、環境中における微生物の優勢種を簡易に判定することが可能な方法を見いだした。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、環境中における微生物の優勢種を現実的な使用を考慮すればあまり問題にならない範囲でほぼ適切に簡易に推定することが可能な微生物の検査方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の微生物の検査方法は、環境中から試料を採取して、得られた試料に含まれる微生物を培地にて培養する培養工程と、微生物を培養することでコロニーが2以上形成された場合に、これら形成されたコロニーを2以上の集合に分けて、集合毎に集合に含まれる微生物の核酸を抽出する核酸抽出工程と、抽出した核酸を用いて増幅対象領域を含む核酸断片を増幅させる核酸増幅工程と、増幅された核酸断片を用いて、集合毎に集合に含まれる微生物を検出する微生物検出工程と、微生物検出工程において2以上の微生物が検出された場合に、検出された微生物毎に、2以上の集合の総数である全集合数に対する、それぞれの微生物が検出された集合数の割合を算出し、該割合の最も高い種を環境中における微生物の優勢種と推定する優勢種推定工程とを有する方法としてある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、環境中における微生物の優勢種をほぼ適切に簡易に推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る微生物の検査方法の効果を確認するための試験で用いたプライマーセットの塩基配列を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る微生物の検査方法の効果を確認するための試験で用いたプローブの塩基配列を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係る微生物の検査方法の効果を確認するための試験において、ITS領域の塩基配列をDNAシーケンサーにより解析するために用いたシーケンス用プライマーセットの塩基配列を示す図である。
図4】本発明の実施形態に係る微生物の検査方法の効果を確認するための試験結果(使用チップ数5,6)を示す図である。
図5】本発明の実施形態に係る微生物の検査方法の効果を確認するための試験結果(使用チップ数4)を示す図である。
図6】本発明の実施形態に係る微生物の検査方法の効果を確認するための試験結果(使用チップ数1,2)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の微生物の検査方法の一実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は、この実施形態及び後述する実施例の具体的な内容に限定されるものではない。
【0013】
[微生物の検査方法]
本実施形態の微生物の検査方法は、集合毎に集合に含まれる微生物を検出し、2種類以上の微生物が検出された場合、検出された微生物毎に、全集合数に対する各微生物が検出された集合数の割合を算出することにより、環境中における微生物の優勢種を判定することを特徴とする。
具体的には、以下のように、(a)微生物培養工程、(b)核酸抽出工程、(c)核酸増幅工程、(d)微生物検出工程、(e)優勢種判定工程を含むものとすることが好ましい。
【0014】
(a)微生物培養工程
環境中から試料を採取して、得られた試料に含まれる微生物を培地にて培養する工程である。
「環境中」には、環境検査、食品検査、疫学的環境検査、臨床試験、家畜衛生等における室内及び屋外の空気、液体、その他の検査対象が含まれる。また、飲食品や各種器具等の検査対象物も含まれる。
「微生物」には、カビや酵母などの真菌類の他、バクテリアなどの細菌類も含まれ、コロニーを形成する微生物であれば、本実施形態の微生物の検査方法を適用することが可能である。
【0015】
環境中から試料を採取する方法としては、特に限定されないが、例えば、エアーサンプラーなどを用いて、検査対象の環境中の空気等を採取することができる。
また、微生物の培養方法も特に限定されないが、採取した試料を専用培地に吹き付けて、試料に含まれるカビなどを寒天培地等で培養することができる。カビの培養条件としては、25℃で暗所に65時間以上静置することが好ましい。
【0016】
(b)核酸抽出工程
微生物を培養することでコロニーが2以上形成された場合に、これら形成されたコロニーを2以上の集合に分けて、当該集合毎に微生物の核酸を抽出する工程である。
コロニーが多数形成された場合には、2〜7コロニー程度ずつの集合に分けることが好ましい。1つの集合に1コロニーのみ含める場合、検査対象の微生物内における優勢種判定の精度は100%になるが、サンプル数が多すぎて実験が煩雑になる。また、1つの集合におけるコロニー数を増やすほど、1つの集合に複数種類の微生物が含まれる可能性が高くなるが、PCRにより同時に増幅する種類数が増えるほど、非特異産物が増幅されるリスクが高くなるのでPCRに用いるプライマーが有効に機能しなくなり、DNAチップに用いるプローブが有効に機能しない、あるいは非特異産物が目的産物の結合を阻害することになる。このような観点から1つの集合におけるコロニー数は、4又は5とすることがより好ましい。
【0017】
また、集合数が1の場合には、検出された微生物を優勢種と判定することはできるものの、試料に複数の微生物が含まれる場合、検出された微生物間での比較が行えないため、集合数は2以上にすることが好ましい。さらに、集合数を4以上にすれば、試料に検査対象の微生物が数種類含まれる場合に、それらの優勢順位もある程度判定できるため、より好ましい。
【0018】
微生物から核酸を抽出する方法としては、特に限定されないが、例えば次のように行うことができる。集合毎に、培地に生じた様々な種類の微生物のコロニーを一括して採取し、φ0.5mmジルコニアビーズを入れたバイアル瓶に入れ、液体窒素に浸して試料を凍結した後、振盪装置を用いて微生物の細胞を破砕する。そして、得られた微生物の細胞の破砕物から、CTAB法(Cetyl trimethyl ammonium bromide)やDNA抽出装置により、核酸を抽出することができる。
【0019】
(c)核酸増幅工程
抽出した核酸を用いて、標的領域(増幅対象領域)を含む核酸断片を増幅させる工程である。
「標的領域(増幅対象領域)」とは、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法などによって増幅させるターゲット領域を意味する。
「核酸断片」とは、PCR法などにより、プライマーセットを用いて増幅されるDNA等の一部分を意味する。
【0020】
核酸断片を増幅する方法としては、特に限定されないが、PCR法を好適に用いることができる。PCR法では、標的領域を増幅させるためのプライマーセットを含有するPCR反応液を用いて、標的領域を増幅させる。PCR装置としては、一般的なサーマルサイクラーなどを用いることができる。
本実施形態の微生物の検査方法において、例えば以下のような反応条件でPCRを行うことにより、微生物の標的領域を好適に増幅させることができる。
(a)95℃ 10分、(b)95℃(DNA変性工程) 30秒、(c)56℃(アニーリング工程) 30秒、(d)72℃(DNA合成工程) 60秒((b)〜(d)を40サイクル)、(e)72℃ 10分
【0021】
PCR用反応液としては、例えば以下の組成からなるものを使用することが好ましい。すなわち、核酸合成基質(dNTPmixture(dCTP、dATP、dTTP、dGTP))、プライマーセット、核酸合成酵素(Nova Taq HotStart DNA polymeraseなど)、蛍光標識試薬(Cy5−dCTPなど)、試料のゲノムDNA、緩衝液、及び残りの成分として水を含むPCR反応液を好適に使用することができる。なお、緩衝液としては、例えばAmpdirect(R)(株式会社島津製作所製)を用いることができる。
【0022】
本実施形態では、カビのゲノムDNAにおけるITS領域及び/又はβチューブリン遺伝子を標的領域として、DNA断片の増幅を行うことができる。
このとき、ITS領域を増幅させるためのプライマーセットとしては、図1に示す配列番号1及び2の塩基配列からなるもの(配列番号1:フォワードプライマー、配列番号2:リバースプライマー)を用いることができる。
また、βチューブリン遺伝子を増幅させるためのプライマーセットとしては、図1に示す配列番号3及び4の塩基配列からなるもの(配列番号3:フォワードプライマー、配列番号4:リバースプライマー)を用いることができる。
【0023】
(d)微生物検出工程
増幅された核酸断片を用いて、集合毎に集合に含まれる微生物を検出する工程である。
微生物の検査にあたっては、標的領域のサイズがあまり違わない複数種類の微生物を同時に増幅させ、その増幅産物にもとづき各微生物を識別することが必要となる場合がある。このため、微生物を検出する方法としては、DNAチップ(微生物検査用担体)を用いて増幅産物を対応するプローブに結合させ、増幅産物の蛍光標識を検出することにより、微生物の種類を判定する方法が、好適に用いられる。この方法によれば、増幅産物の配列が認識されることにより、各微生物の識別がより正確に行われるためである。
【0024】
具体的には、検査対象の微生物のゲノムDNAにおける標的領域から選択したプローブを、DNAチップ上に予め固定化させておく。プローブは、それぞれ対応する検査対象の微生物由来の増幅産物とのみハイブリダイズでき、それによって検査対象の微生物を特異的に検出可能にすることができる。
例えば、図2に示すように、ユーロチウム属菌(Eurotium sp.)を検出する場合には、ITS領域から選択されたプローブとして、配列番号5に示す塩基配列を有するものを好適に用いることができ、βチューブリン遺伝子から選択されたプローブとして、配列番号6に示す塩基配列を有するものを好適に用いることができる。
【0025】
また、アスペルギルス ペニシリオイデス菌(Aspergillus penicillioides)を検出する場合には、ITS領域から選択されたプローブとして、配列番号7に示す塩基配列を有するものを好適に用いることができ、βチューブリン遺伝子から選択されたプローブとして、配列番号8に示す塩基配列を有するものを好適に用いることができる。
また、アスペルギルス バージカラー菌(Aspergillus versicolor)を検出する場合には、ITS領域から選択されたプローブとして、配列番号9に示す塩基配列を有するものを好適に用いることができ、βチューブリン遺伝子から選択されたプローブとして、配列番号10に示す塩基配列を有するものを好適に用いることができる。
【0026】
また、ペニシリウム属菌(Penicillium sp.)を検出する場合には、ITS領域から選択されたプローブとして、配列番号11に示す塩基配列を有するものを好適に用いることができ、βチューブリン遺伝子から選択されたプローブとして、配列番号12に示す塩基配列を有するものを好適に用いることができる。
また、フザリウム属菌(Fusarium sp.)を検出する場合には、ITS領域から選択されたプローブとして、配列番号13に示す塩基配列を有するものを好適に用いることができる。
また、クラドスポリウム属菌(Cladosporium sp.)を検出する場合には、ITS領域から選択されたプローブとして、配列番号14に示す塩基配列を有するものを好適に用いることができる。
【0027】
ユーロチウム属菌、アスペルギルス ペニシリオイデス菌、及びアスペルギルス バージカラー菌については、ITS領域及びβ−チューブリン遺伝子から選択されたプローブの両方を用いて、これらの両方において陽性反応が得られた場合のみに当該カビが検出されたと判定することが好ましい。これらのカビについては、このようにすることで、偽陽性反応にもとづく過誤判断を防止することが可能なためである。
【0028】
ペニシリウム属菌については、少なくともITS領域又はβ−チューブリン遺伝子から選択されたプローブのいずれかにおいて陽性反応が得られた場合に、当該カビが存在していると判定することが好ましい。ペニシリウム属菌には、本実施形態においてペニシリウム属菌を検出するために用いられるITS領域から選択されたプローブ又はβチューブリン遺伝子から選択されたプローブの一方でしか検出できない種類のカビが含まれるが、それぞれのプローブの特異性は高く、偽陽性反応を生じることなくペニシリウム属菌のカビを検出することが可能なためである。
【0029】
フザリウム属菌、及びクラドスポリウム属菌については、ITS領域のみから選択されたプローブにおいて陽性反応が得られた場合に、当該カビが存在していると判定することが好ましい。これらのカビのITS領域から選択されたプローブは特異性が高く、偽陽性反応を生じることなくこれらのカビをそれぞれ検出することが可能なためである。
【0030】
本実施形態の微生物の検査方法において使用可能なDNAチップは、配列番号5〜14に示す塩基配列を有するプローブを用いて、既存の一般的な方法で製造することができる。
例えば、貼り付け型のDNAチップを作成する場合は、DNAスポッターによりプローブをガラス基板上に固定化して、各プローブに対応するスポットを形成することにより作成することができる。また、合成型DNAチップを作成する場合は、光リソグラフィ技術により、ガラス基板上で上記配列を備えた一本鎖オリゴDNAを合成することにより作成することができる。さらに、基板はガラス製に限定されず、プラスチック基板やシリコンウエハー等を用いることもできる。また、基板の形状は平板状のものに限定されず、様々な立体形状のものとすることもでき、その表面に化学反応が可能となるように官能基を導入したものなどを用いることもできる。
【0031】
このようにして得られたDNAチップに、核酸増幅工程で得られた増幅産物を滴下し、増幅産物をDNAチップに固定化されたプローブにハイブリダイズさせる。そして、ハイブリダイズした増幅産物の標識を検出することにより、環境中に存在している検査対象の微生物を特定することができる。
標識の検出は、蛍光スキャニング装置などの一般的な標識検出装置を用いて行うことができ、例えば東洋鋼鈑株式会社のBIOSHOTを用いて、増幅産物における蛍光標識の蛍光強度を測定することにより行うことができる。測定結果は、S/N比値(Signal to Noise ratio,(メディアン蛍光強度値−バックグラウンド値)÷バックグラウンド値)として得ることが好ましい。なお、標識としては蛍光に限定されず、その他のものを用いることもできる。
【0032】
(e)優勢種判定工程
微生物検出工程において2種類以上の微生物が検出された場合に、検出された微生物毎に、2以上の集合の総数である全集合数に対する、それぞれの微生物が検出された集合数の割合を算出することにより、環境中における微生物の優勢種を判定する工程である。
【0033】
具体的には、例えば全集合数を3とした場合であって、集合1から真菌Aと真菌Bが検出され、集合2から真菌Aと真菌Bが検出され、集合3から真菌Aと真菌Cが検出された場合に、真菌毎に検出された集合数の割合を算出する。このとき、真菌Aの割合は3/3で100.0%となり、真菌Bの割合は2/3で66.7%となり、真菌Cの割合は1/3で33.3%となる。この結果、第一番目の優勢種はAと判定され、第二番目の優勢種はBと判定され、第三番目の優勢種はCと判定される。
【0034】
このとき、仮にコロニー数が15で、これらを全て分離培養して、1個体ずつ形態観察法による同定を行った場合、例えば真菌Aが9個、真菌Bが4個、真菌Cが2個検出されると、それぞれの存在割合は、真菌Aが60.0%、真菌Bが26.7%、真菌Cが13.3%と正確に算出することができる。
しかしながら、この形態観察法による同定では、膨大な手間、時間、及びコストが必要になるという問題があった。また、その問題は、コロニー数が増加すればするほど膨大なものとなっていた。
【0035】
ところで、そもそも培地に生じたコロニーの数が少ない場合や、検査者が高度な形態同定能力を有しているような場合には、分離培養を行わずに優勢種を判定できる場合がある。このような場合には、本実施形態の微生物の検査方法を用いなくとも優勢種を判定することができる。
また、本実施形態の微生物の検査方法における優勢種の判定によれば、微生物を培養した培地から各集合へのコロニーの集め方が、判定結果に影響を与える可能性はある。
【0036】
さらに、環境中に存在する微生物は、その環境によって大きく相違する場合があるところ、本実施形態の微生物の検査方法で使用するDNAチップに、検査した環境中における優勢種のプローブが固定化されていない場合もあり得る。
したがって、本実施形態の微生物の検査方法により、あらゆる環境中の微生物の優勢種を完全に正確に検出できる分けではない。検出される可能性が高い微生物のプローブをDNAチップに数多く固定化しておいたとしても、環境によってはそれ以外の微生物が優勢種である可能性は存在する。
【0037】
しかしながら、本実施形態の微生物の検査方法の現実的な使用を考慮すれば、これらはあまり問題にはならない。
すなわち、本実施形態の微生物の検査方法によれば、通常は、類似した環境下での使用が多く想定され、検査対象の微生物内において優勢種をほぼ適切に判定することができる。そして、このように優勢種を簡単に判定できることは、従来の形態観察法による膨大な手間、時間、及びコストを考慮すると、大変有効なものである。また、優勢種の判定の精度は、集合数を増加させることにより、高めることができる。
【0038】
ここで、本実施形態の微生物の検査方法において、培地に生じた各コロニーの微生物が全て検査対象の微生物である場合、全集合数をコロニー数と同じにすれば、理論上、優勢種を完全に正確に判定できる(環境中からの試料の採取時点で微生物の採取漏れがあるケースや培養に失敗したケースなどの例外的なケースを除く。)。
しかしながら、コロニー数が多い場合、集合数を減らすことが、手間、時間、及びコスト低減の観点から望ましい。
そこで、以下の実施例により、本実施形態の微生物の検査方法の効果を確認した結果、集合数が2以上であれば優勢種を確認できることが示され、集合数が4以上であれば試料中に検査対象の微生物が複数含まれている場合に、優勢種のおおよその優勢の順位を確認できることも示された。
【0039】
このように本実施形態の微生物の検査方法によれば、環境中における微生物の優勢種を迅速かつ簡易に確認することが可能となる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施形態に係る微生物の検査方法の有効性を確認するために行った試験について、具体的に説明する。
【0041】
[本実施形態の微生物の検査方法による優勢種の判定]
(a)微生物培養工程
まず、施設環境から野生カビを採取し、これを検出対象カビとして使用した。具体的には、エアーサンプラーを用いて各種施設環境内の空気を採取し、これをサンプルA〜Jの各培地に吹き付けて培養した。培養は、25℃の暗所で、7日間静置させて行った。A〜Jの各培地には、いずれもM40Y培地を使用した。
【0042】
(b)核酸抽出工程
次に、サンプルごとに、培地に生じた様々な種類のカビの各コロニーの一部を、最大で5コロニー以下のグループ(集合)になるように、全てのコロニーを各グループに分けて、それぞれのカビをグループ毎に一括して採取した。
具体的には、図4に示すように、サンプルAには29コロニーが生じていた。このため、サンプルAにおけるグループは、5コロニーのグループが5個、4コロニーのグループが1個の合計6個(全集合数は6)とした。
また、同図に示すように、サンプルBには22コロニーが生じていた。このため、サンプルBにおけるグループは、5コロニーのグループが2個、4コロニーのグループが3個の合計5個(全集合数は5)とした。
また、同図に示すように、サンプルCには21コロニーが生じていた。このため、サンプルCにおけるグループは、5コロニーのグループが3個、4コロニーのグループが1個、2コロニーのグループが1個の合計5個(全集合数は5)とした。
【0043】
さらに、図5に示すように、サンプルDには20コロニーが生じていた。このため、サンプルDにおけるグループは、5コロニーのグループが4個の合計4個(全集合数は4)とした。
また、同図に示すように、サンプルEには19コロニーが生じていた。このため、サンプルEにおけるグループは、5コロニーのグループが3個、4コロニーのグループが1個の合計4個(全集合数は4)とした。
また、同図に示すように、サンプルFには18コロニーが生じていた。このため、サンプルFにおけるグループは、5コロニーのグループが3個、3コロニーのグループが1個の合計4個(全集合数は4)とした。
【0044】
さらに、図6に示すように、サンプルGには9コロニーが生じていた。このため、サンプルGにおけるグループは、5コロニーのグループが1個、4コロニーのグループが1個の合計2個(全集合数は2)とした。
また、同図に示すように、サンプルHには6コロニーが生じていた。このため、サンプルHにおけるグループは、5コロニーのグループが1個、1コロニーのグループが1個の合計2個(全集合数は2)とした。
また、同図に示すように、サンプルIには3コロニーが生じていた。このため、サンプルIにおけるグループは、3コロニーのグループが1個の合計1個(全集合数は1)とした。
また、同図に示すように、サンプルJには3コロニーが生じていた。このため、サンプルJにおけるグループは、3コロニーのグループが1個の合計1個(全集合数は1)とした。
【0045】
それぞれのグループのコロニーを、φ0.5mmジルコニアビーズを入れたバイアル瓶に入れ、液体窒素に浸して試料を凍結した後、振盪装置を用いて、コロニーにおけるカビの細胞を破砕した。そして、グループ毎に、DNA抽出装置によりカビのゲノムDNAを抽出した。
【0046】
(c)核酸増幅工程
次いで、PCR法により、各カビのITS領域とβ−チューブリン遺伝子とを同時に増幅した。
このとき、ITS領域増幅用プライマーセットとして、図1に示す配列番号1の塩基配列からなるフォワードプライマー(Fプライマー)及び配列番号2の塩基配列からなるリバースプライマー(Rプライマー)を用いた。また、β−チューブリン遺伝子増幅用プライマーセットとして、同図に示す配列番号3の塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号4の塩基配列からなるリバースプライマーを用いた。なお、いずれもオペロンテクノロジー株式会社により合成したものを使用した。
【0047】
また、PCR用反応液として、サンプルA〜Jのそれぞれについて、Ampdirect(R)(株式会社島津製作所製)を使用し、次の組成のものを20μl作成した。
1.Ampdirect(G/Crich) 4.0μl
2.Ampdirect(addition-4) 4.0μl
3.dNTPmix 1.0μl
4.Cy-5dCTP 0.2μl
5.ITS1-Fw primer(2.5μM)(配列番号1) 1.0μl
6.ITS1-Rv primer(2.5μM)(配列番号2) 1.0μl
7.BtF primer(10μM)(配列番号3) 1.0μl
8.BtR primer(10μM)(配列番号4) 1.0μl
9.Template DNA(サンプルA〜J毎にそれぞれ) 1.0μl
10.NovaTaq HotStart DNA polymerase 0.2μl
11.水(全体が20.0μlになるまで加水)
【0048】
上記各PCR用反応液を使用して核酸増幅装置(TaKaRa PCR Thermal Cycler Dice(R) Gradient タカラバイオ株式会社製)により、次の条件でDNAの増幅を行った。
(a)95℃ 10分
(b)95℃ 30秒
(c)56℃ 30秒
(d)72℃ 60秒((b)〜(d)を40サイクル)
(e)72℃ 10分
【0049】
(d)微生物検出工程
DNAチップには、ジーンシリコン(R)(東洋鋼鈑株式会社製)を用い、図2に示される、以下の全てのプローブを固定化したものを使用した。以下において、(ITS)はITS領域から選択されたプローブを示し、(β)はβチューブリン遺伝子から選択されたプローブを示している。
(1)ユーロチウム属菌用 配列番号5(ITS),配列番号6(β)
(2)アスペルギルス ペニシリオイデス菌用 配列番号7(ITS),配列番号8(β)
(3)アスペルギルス バージカラー菌用 配列番号9(ITS),配列番号10(β)
(4)ペニシリウム属菌用 配列番号11(ITS),配列番号12(β)
(5)フザリウム属菌用 配列番号13(ITS)
(6)クラドスポリウム属菌用 配列番号14(ITS)
【0050】
次に、サンプルA〜Jのそれぞれについて、PCR増幅産物に緩衝液(3×SSCクエン酸−生理食塩水+0.3%SDS)を混合して、94℃で5分間加温し、上記DNAチップに滴下した。
このDNAチップを45℃で1時間静置し、上記緩衝液を用いてハイブリダイズしなかったPCR産物をDNAチップから洗い流した。
【0051】
次いで、DNAチップを標識検出装置(GenePix4100A Molecular Devices社製)にかけて、各プローブにおける蛍光強度を測定し、S/N比値を算出した。
ここで、(1)ユーロチウム属菌、(2)アスペルギルス ペニシリオイデス菌、及び(3)アスペルギルス バージカラー菌については、ITS領域から選択されたプローブとβチューブリン遺伝子から選択されたプローブの両方のS/N比値が3以上を示した場合に陽性と判定した。
また、(4)ペニシリウム属菌については、ITS領域から選択されたプローブとβチューブリン遺伝子から選択されたプローブの少なくともいずれか一方のS/N比値が3以上を示した場合に陽性と判定した。
また、(5)フザリウム属菌、及び(6)クラドスポリウム属菌については、ITS領域から選択されたプローブのS/N比値が3以上を示した場合に陽性と判定した。
【0052】
(e)優勢種判定工程
その結果、図4に示すように、サンプルAにおけるグループでは、クラドスポリウム属菌が5グループで検出され(陽性を示したチップ数5枚)、ペニシリウム属菌が1グループで検出された(陽性を示したチップ数1枚)。使用したチップ数は6枚である。
したがって、本実施形態の微生物の検査方法における優勢種の判定方法によれば、クラドスポリウム属菌の集合数の割合は、検出された集合数5÷全集合数6=83.3%であり、ペニシリウム属菌の集合数の割合は、検出された集合数1÷全集合数6=16.7%である。
よって、サンプルAの優勢種は、第一番目がクラドスポリウム属菌であり、第二番目がペニシリウム属菌であると判定される。
【0053】
同様に、サンプルBにおけるグループでは、クラドスポリウム属菌が5グループで検出され(陽性を示したチップ数5枚)、ペニシリウム属菌が2グループで検出された(陽性を示したチップ数2枚)。使用したチップ数は5枚である。
したがって、本実施形態の微生物の検査方法における優勢種の判定方法によれば、クラドスポリウム属菌の集合数の割合は、検出された集合数5÷全集合数5=100.0%であり、ペニシリウム属菌の集合数の割合は、検出された集合数2÷全集合数5=40.0%である。
よって、サンプルBの優勢種は、第一番目がクラドスポリウム属菌であり、第二番目がペニシリウム属菌であると判定される。
【0054】
同様に、サンプルCにおけるグループでは、クラドスポリウム属菌が5グループで検出され(陽性を示したチップ数5枚)、ペニシリウム属菌が1グループで検出された(陽性を示したチップ数1枚)。使用したチップ数は5枚である。
したがって、本実施形態の微生物の検査方法における優勢種の判定方法によれば、クラドスポリウム属菌の集合数の割合は、検出された集合数5÷全集合数5=100.0%であり、ペニシリウム属菌の集合数の割合は、検出された集合数1÷全集合数5=20.0%である。
よって、サンプルCの優勢種は、第一番目がクラドスポリウム属菌であり、第二番目がペニシリウム属菌であると判定される。
【0055】
同様に、サンプルDにおけるグループでは、クラドスポリウム属菌が4グループで検出され(陽性を示したチップ数4枚)、ペニシリウム属菌が2グループで検出され(陽性を示したチップ数2枚)、ユーロチウム属菌が2グループで検出された(陽性を示したチップ数2枚)。使用したチップ数は4枚である。
したがって、本実施形態の微生物の検査方法における優勢種の判定方法によれば、クラドスポリウム属菌の集合数の割合は、検出された集合数4÷全集合数4=100.0%であり、ペニシリウム属菌の集合数の割合は、検出された集合数2÷全集合数4=50.0%であり、ユーロチウム属菌の集合数の割合は、検出された集合数2÷全集合数4=50.0%である。
よって、サンプルDの優勢種は、第一番目がクラドスポリウム属菌であり、第二番目がペニシリウム属菌とユーロチウム属菌であると判定される。
【0056】
同様に、サンプルEにおけるグループでは、クラドスポリウム属菌が4グループで検出され(陽性を示したチップ数4枚)、ペニシリウム属菌が2グループで検出され(陽性を示したチップ数2枚)、フザリウム属菌が1グループで検出された(陽性を示したチップ数1枚)。使用したチップ数は4枚である。
したがって、本実施形態の微生物の検査方法における優勢種の判定方法によれば、クラドスポリウム属菌の集合数の割合は、検出された集合数4÷全集合数4=100.0%であり、ペニシリウム属菌の集合数の割合は、検出された集合数2÷全集合数4=50.0%であり、フザリウム属菌の集合数の割合は、検出された集合数1÷全集合数4=25.0%である。
よって、サンプルEの優勢種は、第一番目がクラドスポリウム属菌であり、第二番目がペニシリウム属菌であり、第三番目がフザリウム属菌であると判定される。
【0057】
同様に、サンプルFにおけるグループでは、アスペルギルス バージカラー菌が3グループで検出され(陽性を示したチップ数3枚)、クラドスポリウム属菌が2グループで検出され(陽性を示したチップ数2枚)、アスペルギルス ペニシリオイデス菌が2グループで検出された(陽性を示したチップ数2枚)。使用したチップ数は4枚である。
したがって、本実施形態の微生物の検査方法における優勢種の判定方法によれば、アスペルギルス バージカラー菌の集合数の割合は、検出された集合数3÷全集合数4=75.0%であり、クラドスポリウム属菌の集合数の割合は、検出された集合数2÷全集合数4=50.0%であり、アスペルギルス ペニシリオイデス菌の集合数の割合は、検出された集合数2÷全集合数4=50.0%である。
よって、サンプルFの優勢種は、第一番目がアスペルギルス バージカラー菌であり、第二番目がクラドスポリウム属菌とアスペルギルス ペニシリオイデス菌であると判定される。
【0058】
同様に、サンプルGにおけるグループでは、クラドスポリウム属菌が2グループで検出され(陽性を示したチップ数2枚)、ペニシリウム属菌が1グループで検出された(陽性を示したチップ数1枚)。使用したチップ数は2枚である。
したがって、本実施形態の微生物の検査方法における優勢種の判定方法によれば、クラドスポリウム属菌の集合数の割合は、検出された集合数2÷全集合数2=100.0%であり、ペニシリウム属菌の集合数の割合は、検出された集合数1÷全集合数2=50.0%である。
よって、サンプルGの優勢種は、第一番目がクラドスポリウム属菌であり、第二番目がペニシリウム属菌であると判定される。
【0059】
同様に、サンプルHにおけるグループでは、クラドスポリウム属菌が2グループで検出された(陽性を示したチップ数2枚)。使用したチップ数は2枚である。
したがって、本実施形態の微生物の検査方法における優勢種の判定方法によれば、クラドスポリウム属菌の集合数の割合は、検出された集合数2÷全集合数2=100.0%である。
よって、サンプルHの優勢種は、クラドスポリウム属菌であると判定される。
【0060】
同様に、サンプルIにおけるグループでは、クラドスポリウム属菌が1グループで検出された(陽性を示したチップ数1枚)。使用したチップ数は1枚である。
したがって、本実施形態の微生物の検査方法における優勢種の判定方法によれば、クラドスポリウム属菌の集合数の割合は、検出された集合数1÷全集合数1=100.0%である。
よって、サンプルIの優勢種は、クラドスポリウム属菌であると判定される。
【0061】
同様に、サンプルJにおけるグループでは、アスペルギルス ペニシリオイデス菌が1グループで検出され(陽性を示したチップ数1枚)、クラドスポリウム属菌が1グループで検出された(陽性を示したチップ数1枚)。使用したチップ数は1枚である。
したがって、本実施形態の微生物の検査方法における優勢種の判定方法によれば、アスペルギルス ペニシリオイデス菌の集合数の割合は、検出された集合数1÷全集合数1=100.0%であり、クラドスポリウム属菌の集合数の割合は、検出された集合数1÷全集合数1=100.0%である。
よって、サンプルJの優勢種は、アスペルギルス ペニシリオイデス菌とクラドスポリウム属菌であると判定される。
【0062】
[DNA配列解析による優勢種の確認]
上記サンプルA〜Jごとに、培地に生じた様々な種類のカビの各コロニーの一部を個別に採取し、それぞれ25℃の暗所で7〜10日間分離培養した。A〜Jの各培地には、いずれもM40Y培地を使用した。
そして、分離培養された各コロニーのカビをDNA配列解析に供して、その菌種を確認した。
【0063】
具体的には、プライマーセットとして配列番号15に示す塩基配列を有するフォワードプライマーと配列番号16に示す塩基配列を有するリバースプライマーを使用し、核酸合成酵素としてTAKARA ExTaqポリメラーゼを使用し、核酸増幅装置としてTaKaRa PCR Thermal Cycler(R)Gradient(タカラバイオ株式会社製)を使用して、その他の条件は上述のPCR条件と同様にして、各カビのゲノムにおけるITS1領域を増幅した。
そして、それぞれの増幅産物と、上記プライマーセット(シーケンス用プライマーセット)をタカラバイオ株式会社に委託して、DNAシーケンサーによりDNA配列解析を行い、それぞれの増幅産物に対応するカビの種類を確認した。その結果を、図4〜6に示す。
【0064】
[試験結果]
サンプルAからは、DNA配列解析により、クラドスポリウム属菌とペニシリウム属菌の他に、Xylariales sp.、Diaporthe sp.、Pleosporales sp.、及びStereum hirsutumの4種類の微生物が検出された。これら4種類の微生物を検出するためのプローブは、本実施形態の微生物の検査方法において用いたDNAチップには固定化されておらず、これらは本試験において検査対象外の微生物となっている。
本実施形態の微生物の検査方法により判定されたサンプルAにおける優勢種は、第一番目がクラドスポリウム属菌、第二番目がペニシリウム属菌であった。
一方、DNA配列解析の結果、サンプルAにおけるコロニーのうち、実際の第一番目の優勢種は、Xylariales spであった。
しかしながら、これは本試験において検査対象外の微生物であり、検査対象としていたクラドスポリウム属菌とペニシリウム属菌は、それぞれ実際の第二番目、実際の第三番目の優勢種として検出されている。
したがって、この結果から、検査対象とする微生物内において、簡易な方法により、優勢種及びその優勢の順位を高い精度で判定できていることがわかる。
【0065】
サンプルBからは、DNA配列解析により、クラドスポリウム属菌とペニシリウム属菌の他に、Mycosphaerella crystallina、Xylariales sp.、Artrinium sp.、及びLeptosphaerulina chartaruの4種類の微生物が検出された。これら4種類の微生物を検出するためのプローブは、本実施形態の微生物の検査方法において用いたDNAチップには固定化されておらず、これらは本試験において検査対象外の微生物となっている。
本実施形態の微生物の検査方法により判定されたサンプルBにおける優勢種は、第一番目がクラドスポリウム属菌、第二番目がペニシリウム属菌であった。
DNA配列解析の結果、サンプルBにおけるコロニーのうち、実際の第一番目の優勢種はクラドスポリウム属菌であり、実際の第二番目の優勢種はペニシリウム属菌であった。
したがって、この結果から、検査対象とする微生物内において、簡易な方法により、優勢種及びその優勢の順位を高い精度で判定できていることがわかる。
【0066】
サンプルCからは、DNA配列解析により、クラドスポリウム属菌とペニシリウム属菌の他に、Arthrinium sp.、Periconia macrospinosa、Toxicocladosporium irritans、Dothideomycete sp.、Phoma sp.、Pleosporales sp.、及びUnknown(種類不明のもの)の7種類の微生物が検出された。これら7種類の微生物を検出するためのプローブは、本実施形態の微生物の検査方法において用いたDNAチップには固定化されておらず、これらは本試験において検査対象外の微生物となっている。
本実施形態の微生物の検査方法により判定されたサンプルCにおける優勢種は、第一番目がクラドスポリウム属菌、第二番目がペニシリウム属菌であった。
DNA配列解析の結果、サンプルCにおけるコロニーのうち、実際の第一番目の優勢種はクラドスポリウム属菌であり、実際の第二番目の優勢種はペニシリウム属菌であった。
したがって、この結果から、検査対象とする微生物内において、簡易な方法により、優勢種及びその優勢の順位を高い精度で判定できていることがわかる。
【0067】
サンプルDからは、DNA配列解析により、クラドスポリウム属菌、ペニシリウム属菌、及びユーロチウム属菌の他に、Unknown(種類不明のもの)、Pleosporales sp.、Diaporthe sp.、及びAureobasidium pullulansの4種類の微生物が検出された。これら4種類の微生物を検出するためのプローブは、本実施形態の微生物の検査方法において用いたDNAチップには固定化されておらず、これらは本試験において検査対象外の微生物となっている。
本実施形態の微生物の検査方法により判定されたサンプルDにおける優勢種は、第一番目がクラドスポリウム属菌、第二番目がペニシリウム属菌とユーロチウム属菌であった。
DNA配列解析の結果、サンプルDにおけるコロニーのうち、実際の第一番目の優勢種はクラドスポリウム属菌であり、実際の第二番目の優勢種はペニシリウム属菌であり、実際の第三番目の優勢種はユーロチウム属菌であった。
したがって、この結果から、検査対象とする微生物内において、簡易な方法により、優勢種を高い精度で判定できていることがわかる。また、その優勢の順位もある程度判定できていることがわかる。
【0068】
サンプルEからは、DNA配列解析により、クラドスポリウム属菌、ペニシリウム属菌、及びフザリウム属菌の他に、Leptosphaeria sp.、Unknown(種類不明のもの)の2種類の微生物が検出された。これら2種類の微生物を検出するためのプローブは、本実施形態の微生物の検査方法において用いたDNAチップには固定化されておらず、これらは本試験において検査対象外の微生物となっている。
本実施形態の微生物の検査方法により判定されたサンプルEにおける優勢種は、第一番目がクラドスポリウム属菌、第二番目がペニシリウム属菌、第三番目がフザリウム属菌であった。
DNA配列解析の結果、サンプルEにおけるコロニーのうち、実際の第一番目の優勢種はクラドスポリウム属菌であり、実際の第二番目の優勢種はペニシリウム属菌であり、実際の第三番目の優勢種はフザリウム属菌であった。
したがって、この結果から、検査対象とする微生物内において、簡易な方法により、優勢種及びその優勢の順位を高い精度で判定できていることがわかる。
【0069】
サンプルFからは、DNA配列解析により、アスペルギルス バージカラー菌、クラドスポリウム属菌、及びアスペルギルス ペニシリオイデス菌の他に、Leptosphaerulina chartarum、Leptosphaeria sp.、Sclerotinia sclerotiorum、Creosphaeria sassafrans、Fungal endophyte
sp.、及びUnknown(種類不明のもの)の6種類の微生物が検出された。これら6種類の微生物を検出するためのプローブは、本実施形態の微生物の検査方法において用いたDNAチップには固定化されておらず、これらは本試験において検査対象外の微生物となっている。
本実施形態の微生物の検査方法により判定されたサンプルFにおける優勢種は、第一番目がアスペルギルス バージカラー菌、第二番目がクラドスポリウム属菌とアスペルギルス ペニシリオイデス菌であった。
DNA配列解析の結果、サンプルFにおけるコロニーのうち、実際の第一番目の優勢種はアスペルギルス バージカラー菌であり、実際の第二番目の優勢種はクラドスポリウム属菌であり、実際の第三番目の優勢種はアスペルギルス ペニシリオイデス菌であった。
したがって、この結果から、検査対象とする微生物内において、簡易な方法により、優勢種を高い精度で判定できていることがわかる。また、その優勢の順位もある程度判定できていることがわかる。
【0070】
サンプルGからは、DNA配列解析により、クラドスポリウム属菌とペニシリウム属菌の他に、Phaeosphaeriopsis sp.が検出された。この微生物を検出するためのプローブは、本実施形態の微生物の検査方法において用いたDNAチップには固定化されておらず、これは本試験において検査対象外の微生物となっている。
本実施形態の微生物の検査方法により判定されたサンプルGにおける優勢種は、第一番目がクラドスポリウム属菌、第二番目がペニシリウム属菌であった。
一方、DNA配列解析の結果、サンプルGにおけるコロニーのうち、実際の第一番目の優勢種はクラドスポリウム属菌であったが、実際の第二番目の優勢種はPhaeosphaeriopsis sp.であり、ペニシリウム属菌は実際の第三番目の優勢種であった。
しかしながら、Phaeosphaeriopsis sp.は本試験において検査対象外の微生物であり、検査対象としていたクラドスポリウム属菌とペニシリウム属菌は、それぞれ実際の第一番目、実際の第三番目の優勢種として検出されている。
したがって、この結果から、検査対象とする微生物内において、簡易な方法により、優勢種及びその優勢の順位を高い精度で判定できていることがわかる。
【0071】
サンプルHからは、DNA配列解析により、クラドスポリウム属菌の他に、Pleosporales sp.が検出された。この微生物を検出するためのプローブは、本実施形態の微生物の検査方法において用いたDNAチップには固定化されておらず、これは本試験において検査対象外の微生物となっている。
本実施形態の微生物の検査方法により判定されたサンプルHにおける優勢種は、クラドスポリウム属菌であった。
DNA配列解析の結果、サンプルHにおけるコロニーのうち、実際の第一番目の優勢種はクラドスポリウム属菌であり、実際の第二番目の優勢種はPleosporales sp.であった。
したがって、この結果から、検査対象とする微生物内において、簡易な方法により、優勢種を高い精度で判定できていることがわかる。
【0072】
サンプルIからは、DNA配列解析により、クラドスポリウム属菌の他に、Alternaria alternataが検出された。この微生物を検出するためのプローブは、本実施形態の微生物の検査方法において用いたDNAチップには固定化されておらず、これらは本試験において検査対象外の微生物となっている。
本実施形態の微生物の検査方法により判定されたサンプルIにおける優勢種は、クラドスポリウム属菌であった。
DNA配列解析の結果、サンプルIにおけるコロニーのうち、実際の第一番目の優勢種はクラドスポリウム属菌であり、実際の第二番目の優勢種はAlternaria alternataであった。
したがって、この結果から、検査対象とする微生物内において、簡易な方法により、優勢種を高い精度で判定できていることがわかる。
【0073】
サンプルJからは、DNA配列解析により、アスペルギルス ペニシリオイデス菌とクラドスポリウム属菌が検出された。
本実施形態の微生物の検査方法により判定されたサンプルJにおける優勢種は、アスペルギルス ペニシリオイデス菌とクラドスポリウム属菌であった。
DNA配列解析の結果、サンプルJにおけるコロニーのうち、実際の第一番目の優勢種はアスペルギルス ペニシリオイデス菌であり、実際の第二番目の優勢種はクラドスポリウム属菌であった。
サンプルJは、使用したチップ数が1枚であるため、複数の微生物が存在している場合、これらの優勢種の違いは判定できないが、検査対象とする微生物内において、実際の優勢種を特定することはできている。
以上の通り、本実施形態の微生物の検査方法によれば、簡易な方法により、優勢種を高い精度で判定することが可能になっている。
【0074】
本発明は、以上の実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、上記の試験のPCR用反応液におけるITS領域増幅用プライマーセット及びβ−チューブリン遺伝子増幅用プライマーセット以外の成分については、適宜変更することができる。また、上記のようなDNAチップを用いて蛍光検出を行うのではなく、電流検出方式など他の検出方式のDNAチップにより、プローブにハイブリダイズした増幅産物を検出することなども可能である。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、環境検査、食品検査、疫学的環境検査、臨床試験、家畜衛生等において、環境中の微生物の存否を確認する検査を行うにあたり、微生物の種類と優勢種を迅速かつ簡易に検出する場合に、好適に利用することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]