(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記基材は、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリエステル、及びポリカーボネートから選択される少なくとも1種を含んで構成され、前記赤外線の透過率が90%以上である、請求項1に記載の定着部材。
前記フッ素含有樹脂は、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライド共重合体、及びポリビニリデンフルオライドから選択される少なくとも1種であり、
前記離型層は、外周面における表面自由エネルギーが30mN/m以下であり、前記赤外線の透過率が80%以上である、請求項1又は請求項2に記載の定着部材。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一例である実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0026】
[定着部材、定着装置]
<第1実施形態>
まず、本実施形態の定着部材を用いた第1実施形態の定着装置について説明する。
図1は、本実施形態にかかる定着装置を示す概略構成図である。
図1に示す定着装置60は、例えば、760nm以上900nm以下のうち少なくとも一部における波長領域の赤外線(以下、便宜上、単に「赤外線」と称する場合がある)に対して透過性を有し管状である定着部材30と、定着部材30に接して設けられた対向部材40と、定着部材30の外部に設けられ定着部材30を透過する前記赤外線のレーザ光(以下「赤外線レーザ光」と称する場合がある)を発する赤外線レーザ光照射装置70と、を備えて構成されている。
定着部材30の内部には、赤外線レーザ光照射装置70から発せられた赤外線レーザ光を集光するレンズ部材72と、定着部材30の内周面とレンズ部材72との間に設けられた摺動部材74と、定着部材30の内周面に潤滑剤を供給する潤滑剤供給部材76と、レンズ部材72、摺動部材74、及び潤滑剤供給部材76を支持する支持部材78と、が設けられている。
【0027】
定着部材30は、不図示の駆動源により矢印R方向に回転し、この回転に従動して、定着部材30の回転方向と反対の方向へ対向部材40が回転する。定着部材30の内部に配置されたレンズ部材72、摺動部材74、及び潤滑剤供給部材76は支持部材78によって固定されている。
潤滑剤供給部材76は、定着部材30の内周面に接するように設けられており、定着部材30が回転するにつれて、潤滑剤供給部材76から定着部材30の内周面に潤滑剤が供給され、それによって定着部材30が潤滑に回転する。
レンズ部材72は、定着部材30の内部において、定着部材30を介して対向部材40に加圧される状態で配置され、それによって接触部80が形成されている。
さらに、定着部材30の内周面とレンズ部材72との摺動抵抗を小さくし、定着部材30の内周面とレンズ部材72とが直接接触することによる傷の発生を防ぐため、レンズ部材72における定着部材30と接する面に摺動部材74が設けられている。すなわち、レンズ部材72が、摺動部材74を介して、定着部材30の内周面に接して配置されている。
【0028】
一方、表面に未定着トナー像Tが形成された記録媒体Pは、定着部材30の回転に伴って矢印Q方向に搬送され、接触部80において、未定着トナー像Tが定着部材30の外周面に直接接触するように、定着部材30と対向部材40とに挟み込まれる。なお、未定着トナー像Tは、例えば、赤外線吸収剤(赤外線を吸収し、熱としてエネルギーを放出する成分)を内添剤又は外添剤として含んだトナーを用いて形成されたものであり、記録媒体Pに定着される前のトナー像である。
【0029】
そして、定着部材30の外部に設けられた赤外線レーザ光照射装置70から、接触部80に向かって赤外線レーザ光Iが照射される。具体的には、例えば、赤外線レーザ光照射装置70から発せられた赤外線レーザ光Iは、定着部材30を透過して定着部材30の内部に入った後、レンズ部材72によって集光され、その後摺動部材74及び定着部材30を透過し、接触部80に到達する。
そして接触部80では、記録媒体P上の未定着トナー像Tが定着部材30と対向部材40とに挟み込まれた状態で、集光された赤外線レーザ光Iが未定着トナー像Tに照射されることで、未定着トナー像Tが記録媒体Pに圧接定着されて定着画像Fとなる。
【0030】
以下、本実施形態の定着装置を構成する各部材について詳細に説明する。
【0031】
−定着部材−
定着部材30(本実施形態にかかる定着部材)について説明する。
図2は、本実施形態にかかる定着部材の一例を示す概略斜視図であり、
図3は、
図2の3−3断面図である。
定着部材30は、
図3に示すように、管状(例えばロール状又はベルト状等)の基材32と、基材32の外周面上に設けられた弾性層34と、弾性層34の外周面上に設けられ、フッ素含有樹脂を含む離型層36と、を備え、前記赤外線に対して透過性を有する。
ここで、「前記赤外線に対して透過性を有する」とは、前記赤外線の透過率が80%以上(好ましくは90%以上)であることをいう。
【0032】
定着部材30は、前記の通り、前記赤外線に対して透過性を有する。そのため、赤外線に対して透過性を有さない定着部材を用いた場合に比べ、定着部材によって遮られる赤外線レーザ光Iの量が少なく、効率的に赤外線レーザ光Iが未定着トナー像Tに対して照射される。すなわち、前記赤外線に対して透過性を有する定着部材30を用いることで、効率的な赤外線レーザ光による画像の定着が実現される。
【0033】
特に
図1に示す定着装置60では、赤外線レーザ光照射装置70が定着部材30の外部に設けられ、赤外線レーザ光Iが定着部材30を2度以上透過したのちに未定着トナー像Tに到達する。そのため、例えば赤外線レーザ光照射装置70が定着部材30の内部に配置され、赤外線レーザ光Iが定着部材30を1度のみ透過したのちに未定着トナー像Tに到達する定着装置に比べて、定着部材30の高い赤外線透過性が求められる。しかしながら本実施形態の定着部材30は、上記のように前記赤外線に対して透過性を有するため、
図1に示す定着装置60に適用しても、効率的な赤外線レーザ光による画像の定着が実現される。
【0034】
そして本実施形態では、前記の通り、前記赤外線に対して透過性を有するだけでなく、基材32、弾性層34、及び離型層36を有する多層構造となっている。そのため、基材32のみで構成された定着部材や、基材32と離型層36とで構成された定着部材に比べて、赤外線レーザ光による画像の定着を実現しつつ、定着部材30で圧接させることにより平坦化され、定着画像に光沢性が付与される。
具体的には、例えば
図1の定着装置60において、定着部材30を透過した赤外線レーザ光Iが接触部80に挟み込まれている未定着トナー像Tに照射され、未定着トナー像Tに含有される赤外線吸収剤が赤外線レーザ光Iを吸収したのちに熱を放出する。そして未定着トナー像Tは、定着部材30及び対向部材40によって圧力がかけられつつ瞬間的に温度が上昇して溶融する。このとき、定着部材30の外周面が離型層36を介して弾性層34を有するため、弾性層34の弾性力によって圧力のムラや温度のムラが緩和されるとともに、表面の離型層36によって優れた剥離性が得られることで、光沢性が付与された定着画像が得られる。
さらに本実施形態では、その加熱加圧時間(すなわち、未定着トナー像Tが温度上昇により溶融し、定着部材30の圧接により平坦化される時間)が数msecと短く、高速定着でき、かつ、高エネルギーの赤外線レーザ光により未定着トナー像Tが選択的に加熱されるため、用紙を温めずに未定着トナー像Tの定着が行われる。そのため、両面定着時の定着性も安定しており、用紙剥離性も変化しないことにより、薄紙から厚紙、エンボス紙、連張紙,塗工紙、PETフィルム、シュリングフィルム等までの非浸透メディアなど広範囲の用紙適応性が得られる。
【0035】
なお、定着部材30は、前記の通り、760nm以上900nm以下のうち少なくとも一部における波長領域の赤外線に対して透過性を(透過率が少なくとも80%以上)有していればよい。すなわち、例えば赤外線レーザとして808nmの赤外線レーザ光を発する半導体レーザを用いる場合は、808nmの赤外線レーザ光に対して透過性を有していればよく、例えば800nm以上810nm以下の波長領域の赤外線に対して透過性を有していてもよく、780nm以上820nm以下の波長領域の赤外線に対して透過性を有していてもよい。
以下、本実施形態に係る定着部材30を構成する各層(前記赤外線に対する高い透過性を満たしつつ多層構造を実現させる構成)について説明する。
【0036】
(基材)
基材32は、管状であり、前記赤外線に対して透過性を有する(例えば前記赤外線の透過率が90%以上の)ものであれば特に限定されない。
前記赤外線に対して透過性を有する基材32に用いられる材料としては、例えば、ポリイミド、ポリイミドイミド、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアリレート(PAR)、ポリエステル、及びポリカーボネート(PC)等の樹脂材料が挙げられる。
【0037】
前記赤外線を透過するポリイミドとしては、例えば、脂肪族ポリイミド、環状ポリイミド、含フッ素ポリイミド(フッ素置換ポリイミド、芳香族ポリイミドのフッ化アルキル誘導体)、及び同種構成のポリアミドイミド、ポリエーテルイミド類などが挙げられる。
前記赤外線を透過するポリエチレンナフタレートとしては、例えば、ポリエチレンナフタレート及びそのポリカーボネート誘導体などが挙げられる。
前記赤外線を透過するポリエーテルスルホンとしては、例えば、ポリエーテルスルホン及びそのフッ素誘導体が挙げられる。
前記赤外線を透過するポリアリレートとしては、例えば芳香族ポリアリレート及び脂肪族ポレアリレートが挙げられる。
前記赤外線を透過するポリエステルとしては、例えば、延伸ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、又はポリ乳酸等が挙げられ、ポリエステルとポリプロピレンとの混合物やポリエステルとポリカーボネートとの混合物又はそのコポリマーであってもよい。
前記赤外線を透過するポリカーボネートとしては、例えば、芳香族ポリカーボネート類及び脂肪族ポリカーボネート類が挙げられる。
基材32に用いられる材料は、前記の中でも、耐熱性の観点から、ポリエーテルスルホンが好ましい。
【0038】
基材32は、前記赤外線に対する透過性を妨げない範囲で、前記樹脂に透明な繊維(フッ素樹脂粉末、ポリエステル、ポリアミド、ガラス繊維等)やフィラー(シリカなどの無機粒子)を配合して補強したものであってもよい。
【0039】
基材32の弾性率としては、定着部材30の形状を保ちながら回転させる観点から、例えば2GPa以上4GPa以下が挙げられる。
なお、弾性率の測定は、JIS−K7162(1994、1BA形、速度1mm/min)に準拠する。
基材32の厚みとしては、例えば、20μm以上1000μm以下が挙げられ、50μm以上200μm以下が好ましく、60μm以上130μm以下がより好ましい。
【0040】
(弾性層)
弾性層34は、赤外線に対して透過性を有する(例えば赤外線の透過率が90%以上の)ものであれば特に限定されない。
赤外線に対して透過性を有する弾性層34に用いられる材料としては、例えばシリコーンゴム、ウレタンゴム、及びオレフィンゴム等の弾性材料が挙げられる。
【0041】
赤外線を透過するシリコーンゴムとしては、例えば、付加重合タイプの2液ポリジメチルシロキサン類とその誘導体、及び光硬化タイプのアクリル変性シリコーンゴム等が挙げられる。
赤外線を透過するポリウレタンゴムとしては、例えば、ポリエーテルウレタン、ポリエステル系ウレタン類及びアクリル変性光硬化タイプのウレタン樹脂等が挙げられる。
赤外線を透過するオレフィンゴムとしては、例えば、EPDM、ポリプロピレンゴム、ブチルゴム、シクロオレフィン類、ノルボルネンゴム等が挙げられる。
【0042】
弾性層34に用いられる材料は、前記の中でも、100℃以上の耐熱性を有するものが望ましい。
ここで、「100℃以上の耐熱性を有する」とは、100℃以上に加熱した後でも、弾性(すなわち100Pa以下の外部圧力印加により変形しても、もとの形状に復元する性質)を損なわないことを言う。
弾性層34に用いられる材料が100℃以上の耐熱性を有するものであることにより、赤外線レーザ光で加熱されても用紙走行性と剥離性を損なわない弾性が得られる。そのため、ニップ形状を用紙幅全域に渡って維持して加熱定着することにより、圧接時の圧力ムラが軽減され、かつ、連続加熱走行による加温時での弾性と形状が維持されることにより、定着部材30の外周面と記録媒体の表面との界面における密着性が安定化し、シワの発生などが抑制される。
前記耐熱性は、100℃以上が望ましく、150℃以上がより望ましく、180℃以上がさらに望ましい。
前記耐熱性の測定は、例えば以下の方法で行う。具体的には、DSC,DGA、TMAなどの熱分析装置による溶融温度および熱重量測定、機械的強度評価による100℃以下でその変化の少ない弾性層が望ましい。
【0043】
前記赤外線を透過する弾性材料のうち、100℃以上の耐熱性を有するものとしては、例えば、シリコーンゴム、ウレタンゴム、オレフィンゴム、シクロオレフィンゴム等が挙げられる。
【0044】
弾性層34の厚みとしては、例えば50μm以上500μm以下が挙げられ、150μm以上450μm以下が好ましい。
【0045】
(離型層)
離型層36は、フッ素含有樹脂を含み、前記赤外線に対して透過性を有する(例えば前記赤外線の透過率が80%以上の)ものであれば特に限定されない。
前記フッ素含有樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライド共重合体(THV)、及びポリビニリデンフルオライド(PVDF)等が挙げられる。
【0046】
前記フッ素含有樹脂のうち、前記赤外線を透過するフッ素含有樹脂としては、例えばPFA、ポリビニリデンフルオライド、全フッ化環状エーテルポリマー等が挙げられる。
【0047】
離型層36の外周面における表面自由エネルギーは、トナーの離型性の観点から、例えば30mN/m以下が挙げられ、25mN/m以下が好ましい。
ここで、表面自由エネルギーの測定は、例えば、接触角計CAM−200(KSV社製)を用い、Zisman法を用いた装置内臓のプログラム計算にて算出する。
また離型層36の屈折率は、トナーの屈折率よりも低い方が、離型層36と未定着トナー像Tとの界面における赤外線レーザ光Iの反射が抑制される点で望ましい。
【0048】
離型層36の厚みとしては、例えば10μm以上50μm以下が挙げられ、12μm以上30μm以下が好ましい。
【0049】
定着部材30全体の厚みとしては、例えば80μm以上1550μm以下が挙げられ、100μm以上1000μm以下が好ましく、200μm以上500μm以下がより好ましい。
定着部材30の外周面における表面A硬度は、例えば10度以上90度以下が挙げられる。上記表面A硬度は、例えば、定着部材30の外周面にアスカーJA型硬度計(高分子計器社製)の押針を接触させ、1000g加重の条件にて表面A硬度を測定した。
【0050】
定着部材30は、基材32、弾性層34、及び離型層36で構成されているが、基材32と弾性層34とを接着させる接着層や、弾性層34と離型層36とを接着させる接着層等をさらに有していてもよい。その場合、前記接着層は赤外線に対して透過性を有することが望ましい。
赤外線に対して透過性を有する接着層に用いられる材料としては、例えば、シランカプラー、シリコーン系接着剤、またはウレタン系接着剤等が挙げられる。
なお、定着部材30は、前記の通り、トナー像に赤外線レーザ光を照射して記録媒体に定着させる定着装置に用いられるものであるため、例えば電磁誘導型定着装置に用いられる定着部材に設けられている発熱層等は必要ない。
【0051】
−対向部材−
対向部材40は、定着部材30と接触部80を形成し、記録媒体Pを挟み込む形状のものであれば特に限定されない。対向部材40の具体例としては、例えば、円柱状芯金と、円柱状芯金の外周面に設けられた弾性層と、弾性層の外周面に設けられた離型層と、を有する加圧ロール等が挙げられる。
対向部材40の外周面における表面A硬度としては、例えば10度以上95度以下が挙げられる。
【0052】
対向部材40は、定着部材30に対して圧力をかけることで接触部80を形成していてもよい。ただし前記圧力は、例えば赤外線レーザ光を用いずに熱源によって加熱する定着装置(以下「熱定着装置」と称する場合がある)に比べて低い圧力であることが望ましい。具体的には、例えば、熱定着装置において定着時にかける力が例えば10kgf以上50kgf以下であるのに対し、本実施形態の定着装置60において定着時にかける力としては、例えば5kgf以上10kgf以下が挙げられる。上記のように定着時にかける力を(圧力)を小さくすることで、大きい力をかけて定着する場合に比べ、例えば表面に凹凸を有する記録媒体を用いた場合でも、前記凹凸を維持しつつ、用紙上での剥離放電現象を抑え安定した画像が記録媒体に定着される。
定着部材30と対向部材40との接触部80の幅としては、例えば0.01mm以上30mm以下が挙げられ、0.5mm以上5mm以下が望ましい。
【0053】
−赤外線レーザ光照射装置−
赤外線レーザ光照射装置70は、波長が760nm以上900nm以下の赤外線レーザ光を発するものであれば特に限定されない。具体的には、例えば、半導体レーザや固体レーザ等の光源を備えるレーザ光照射装置等が挙げられる。
赤外線レーザ光の照射強度としては、例えば、接触部80において10mW/cm
2以上100mW/cm
2以下となる強度が挙げられる。また未定着トナー像Tへの赤外線照射量としては、例えば、50mJ/cm
2以上5000mJ/cm
2以下が挙げられる。
【0054】
−レンズ部材−
レンズ部材72は、波長が760nm以上900nm以下の赤外線に対して透過性を有し、赤外線レーザ光を集光するものであれば限定されない。レンズ部材72に用いられる材料としては、例えば、ガラス、PMMA等のアクリル樹脂等が挙げられる。
レンズ部材72は、例えば、接触部80に赤外線レーザ光の焦点が来る焦点距離を有するものを選択してもよく、レンズ部材72及び赤外線レーザ光照射装置70の位置を調整することで前記焦点の位置を制御してもよい。
【0055】
−摺動部材−
摺動部材74は、定着部材30の回転時に定着部材30の内周面とレンズ部材72とが直接接触してこれらの部材の表面が傷つくことを防ぎ、例えばレンズ部材72の表面に傷がつくことによる赤外線の透過率低下等を防ぐための部材である。
摺動部材74としては、波長が760nm以上900nm以下の赤外線に対して透過性を有し、定着部材30に対して摩擦係数が小さく耐摩耗性に優れた材質で構成されたものが適している。摺動部材74の材質としては、例えば、赤外線に対して透過性を有する樹脂(具体的には、例えばPTFE等の潤滑性フィラーを分散させたウレタンゴム、オレフィンゴム等)、ガラス等の繊維によって補強されたPFA樹脂、シリコーンオイル、及びシリコン系界面活性剤等で含浸又は表面処理されたシリコーンゴム等が挙げられる。
また摺動部材74の厚みとしては、例えば、0.01mm以上1mm以下が挙げられる。
さらに摺動部材74の内部に、ワックスやシリコーンオイル等を含浸させた発泡部材を設けることで潤滑性を向上させ、定着部材30が回転するときにおける摺動部材74と定着部材30との摩擦抵抗及び擦れを軽減させ、これらの部材に対する影響を軽減させてもよい。
【0056】
−潤滑剤供給部材−
潤滑剤供給部材76は、潤滑剤を保持し、定着部材30の内周面に潤滑剤を供給する部材である。
潤滑剤としては、例えばシリコーンオイル、パラフィンオイル、フッ素オイル、その他固形物質と液体とを混合させた合成潤滑油グリース、ワックス等が挙げられる。
なお、本実施形態では潤滑剤を定着部材30の内周面に供給する形態であるが、潤滑剤を用いない形態でもよい。
【0057】
本実施形態の定着装置60では、前記の通り、未定着トナー像Tが定着部材30と対向部材40とに挟み込まれた状態で、赤外線レーザ光Iが未定着トナー像Tに照射されることで、未定着トナー像Tが記録媒体Pに定着されて定着画像Fとなる方式である。
そのため、例えば前記熱定着装置に比べて、未定着トナー像Tの加熱及び冷却が迅速に行われる。具体的には、例えば熱定着装置では、画像定着を開始する前に定着部材を予熱する必要があり、定着時には記録媒体も加熱されるため定着後に記録媒体を冷却させる必要がある場合が多い。しかしながら本実施形態では、未定着トナー像Tが選択的に加熱されるため、上記定着部材の予熱や記録媒体の冷却が不要であり、高速定着が実現される。
また、未定着トナー像Tが定着部材30に接しない状態で赤外線レーザ光Iが照射されて記録媒体Pに定着される方式に比べ、空気流等による飛散物による画像の汚染が防止される。
【0058】
本実施形態の定着装置60では、赤外線レーザ光照射装置70が定着部材30の外部に設けられているため、定着部材30の内部に設ける場合に比べて、定着装置全体の小型化が実現される。
一方本実施形態において、赤外線レーザ光照射装置70を定着部材30の内部に設けてもよく、その場合は、定着部材の外部に設けた場合に比べて、赤外線レーザ光Iが定着部材30を透過する回数が減るため、効率的に赤外線レーザ光Iが未定着トナー像Tに照射される。
【0059】
<第2実施形態>
次に、本実施形態の定着部材を用いた第2実施形態の定着装置について説明する。
図4は、本実施形態の定着装置の他の一例を示す概略構成図である。
図4の定着装置は、本実施形態の定着部材として無端ベルト状の定着部材を備え、定着部材が対向部材を巻きつけるように接触し、定着部材が内側に変形して接触部が形成された定着装置である。なお、第1実施形態にかかる定着装置と同様な構成については同様の符号を用い、ここではその詳細な説明を省略する。
【0060】
図4に示すように、第2実施形態にかかる定着装置90は、例えば、赤外線に対して透過性を有し無端ベルト状(管状)である定着部材92と、定着部材92が巻き掛けるように接して設けられた対向部材40と、定着部材92の外部に設けられた赤外線レーザ光照射装置70と、を備えて構成されている。
定着部材92は、内部に配置された駆動ロール82と支持ロール84とによって支持されている。また定着部材92の内部に互いに間隔を持って設けられた押しつけロール86及び押しつけロール87が、定着部材92を介して対向部材40に押し付けることで、定着部材92における押しつけロール86と押しつけロール87との間の領域が内側に変形し、接触部80が形成される。
また定着部材92の内部には、赤外線レーザ光照射装置70から発せられた赤外線レーザ光を集光するレンズ部材72と、定着部材92の内周面とレンズ部材72との間に設けられた摺動部材74と、が設けられている。レンズ部材72は、定着部材92の内部において、定着部材92を介して対向部材40に加圧される状態で配置されている。そして摺動部材74は、定着部材92の内周面とレンズ部材72との摺動抵抗を小さくし、定着部材92の内周面とレンズ部材72とが直接接触することによる傷の発生を防ぐため、レンズ部材72における定着部材92と接する面に設けられている。
【0061】
定着部材92は、駆動ロール82の回転によって定着部材92が矢印S方向に回転し、それに伴って対向部材40が定着部材92の回転方向と反対の方向へ回転する。
一方、レンズ部材72及び摺動部材74は不図示の支持部材によって固定され、定着部材92が回転してもレンズ部材72及び摺動部材74は停止したままである。
また、摺動部材74が定着部材92の内周面とレンズ部材72との間に設けられていることによって、定着部材92の回転時に、レンズ部材72は摺動部材74を介して定着部材92の内周面に接触する。
【0062】
そして、表面に未定着トナー像Tが形成された記録媒体Pが、定着部材92の回転に伴って矢印U方向に搬送され、接触部80において、未定着トナー像Tが定着部材92の外周面に直接接触するように、定着部材92と対向部材40とに挟み込まれる。その状態で赤外線レーザ光照射装置70から接触部80に向かって赤外線レーザ光Iが発せられ、レンズ部材72によって集光された赤外線レーザ光Iが未定着トナー像Tに照射されることで、未定着トナー像Tが記録媒体Pに定着されて定着画像Fとなる。
【0063】
定着部材92は、前記定着部材30と同様に、管状の基材と、基材の外周面上に設けられた弾性層と、弾性層の外周面上に設けられ、フッ素含有樹脂を含む離型層と、を備え、赤外線に対して透過性を有するものである。
定着部材92は、基材の弾性率が2GPa以上4GPa以下であることが望ましく、それ以外の詳細な点は前記定着部材30と同様である。
また、第2実施形態におけるその他の部材についても、前記第1実施形態と同様である。
【0064】
第2実施形態における接触部80の幅(ニップ幅)としては、例えば0.005cm以上1cm以下が挙げられる。接触部80の幅を長くすると、例えば赤外線レーザ光を照射してから記録媒体に定着されるまでの時間が比較的長いトナーを用いても、良好な定着性が得られる。
【0065】
[画像形成装置]
次に、本実施形態の定着装置を用いた画像形成装置について説明する
図5は、本実施形態の定着装置(上記第1実施形態の定着装置)を備えた画像形成装置の構成を概略的に示した概略構成図である。
図5に示す画像形成装置100は、矢印A方向に回転する電子写真感光体10の周囲に、電子写真感光体10の表面を帯電する帯電器11、帯電した電子写真感光体10の表面に露光ビームBmを照射して静電潜像を形成するレーザ露光器12、トナーを収容し、電子写真感光体10上の静電潜像をトナーにより現像してトナー像を形成する現像器13、転写部15における静電転写に先立ち電子写真感光体10上のトナー像を帯電する転写前帯電器14、電子写真感光体10上に形成されたトナー像を転写部15において記録媒体である記録紙(用紙)Pに転写する転写ユニット20、電子写真感光体10上の残留トナーを除去するクリーニングブレード17a、潤滑材18を電子写真感光体10の表面に供給する繊維状部材16(ロール状)を備えたクリーニング手段17等が配置されている。さらには、記録媒体Pに転写された未定着トナー像を定着する定着装置60、各装置(各部)の動作を制御する制御部(不図示)を備えている。
【0066】
転写ユニット20は、駆動ロール22と従動ロール23とによって張力を持って架け渡された転写ベルト21と、転写ベルト21の内側に配設され、転写ベルト21を介して電子写真感光体10に押圧される転写ロール24とを備えている。転写ユニット20は、矢印B方向に回転する転写ベルト21により転写部15に搬送されてくる記録媒体Pに電子写真感光体10上のトナー像を転写する機能と、転写部15においてトナー像が転写された記録媒体Pを定着装置60まで搬送する機能とを有している。また、駆動ロール22を通過した後に転写ベルト21の表面上の付着物を掻き取るクリーニングブレード25が設けられている。
【0067】
また、本実施形態の画像形成装置は、用紙搬送系として、記録媒体Pを収容する記録媒体収容容器50、この記録媒体収容容器50に集積された記録媒体Pを予め定めたタイミングで取り出して搬送するピックアップロール51、ピックアップロール51により繰り出された記録媒体Pを搬送する搬送ロール52、搬送された記録媒体Pを予め定めたタイミングで転写部15に送り込むレジストロール54、レジストロール54から送り出された記録媒体Pを転写部15に導く搬送ガイド55、転写ユニット20によりトナー像が転写されて搬送されてくる記録媒体Pを定着装置60へ導く定着入口ガイド56等を備えている。
【0068】
次に、本実施形態に係る画像形成装置の基本的な画像形成プロセスについて説明する。
図1に示す画像形成装置100では、図示しない画像読取装置やパーソナルコンピュータ等から出力される画像データは、図示しない画像処理装置により画像処理が施される。画像処理が施された画像データは、レーザ露光器12に出力される。
【0069】
レーザ露光器12では、入力された画像データに応じて、例えば半導体レーザから出射された露光ビームBmを電子写真感光体10に照射する。電子写真感光体10では、帯電器11によって表面が帯電された後、このレーザ露光器12によって表面が走査露光され、静電潜像が形成される。
電子写真感光体の表面に形成された静電潜像は、現像器13によってトナー像として現像される。例えばトナーとキャリアからなる現像剤を保持した現像剤保持体13aに、図示しない電源から直流電圧からなる現像バイアス、又は交流電圧に直流電圧が重畳された現像バイアスが印加されて、電子写真感光体10との間に現像電界が形成される。それによって、現像剤保持体13a上のトナーが静電潜像の画像部に転移し、静電潜像がトナー像として可視像化される。
【0070】
電子写真感光体10上に形成されたトナー像は、電子写真感光体10と転写ユニット20とが接触する転写部15に搬送される。トナー像が転写部15に搬送されると、用紙搬送系では、トナー像が転写部15に搬送されるタイミングに合わせてピックアップロール51が回転し、記録媒体収容容器50から記録媒体Pが供給される。ピックアップロール51により供給された記録媒体Pは、搬送ロール52により矢印C方向に搬送されてレジストロール54に到達する。このレジストロール54においては、記録媒体Pは一旦停止され、トナー像が形成された電子写真感光体10の移動タイミングに合わせてレジストロール54が回転する。それによって、記録媒体Pの位置とトナー像の位置との位置合わせがなされ、記録媒体Pは搬送ガイド55から転写部15に送り出される。
【0071】
転写部15では、タイミングを合わせて搬送された記録媒体Pは、転写ユニット20の転写ベルト21を介して、電子写真感光体10と転写ロール24との間に挟み込まれる。その際に、転写ロール24にはトナーの帯電極性(例えばマイナス極性)と反対極性の電圧(転写バイアス)が印加されることで、転写ロール24から転写ベルト21に電子写真感光体10上のトナー帯電極性とは反対極性の電荷が付与される。それにより、電子写真感光体10上に保持された未定着トナー像は、電子写真感光体10と転写ロール24とによって押圧される転写部15において、記録媒体P上に静電転写される。
【0072】
その後、トナー像が静電転写された記録媒体Pは、転写ユニット20の転写ベルト21に静電吸着された状態で電子写真感光体10から剥離されて搬送され、転写ユニット20の記録媒体P搬送方向下流側に設けられた定着装置60まで送られる。なお、記録媒体Pが電子写真感光体10から剥離されず、電子写真感光体10に吸着されたままの状態となった場合には、転写部15の下流側に配設された分離爪(不図示)によって、記録媒体Pは電子写真感光体10から分離され、転写ベルト21に静電吸着されるように構成されている。
【0073】
転写ベルト21の定着装置60側の後端部では、転写ベルト21が駆動ロール22に巻き付く際の曲率、及び記録媒体Pのコシによって、記録媒体Pは転写ベルト21から剥離される。そして、記録媒体Pは、定着入口ガイド56に導かれて定着装置60に搬送される。
定着装置60に搬送された記録媒体P上の未定着トナー像は、定着装置60において赤外線レーザ光及び圧力による定着処理を受けることによって記録媒体P上に定着される。そして定着画像が形成された記録媒体Pは、画像形成装置の排出部に設けられた排紙部に搬送され、一連の画像形成動作が完了する。
上記のように本実施形態に係る定着装置60を備えた画像形成装置100を用いて画像形成を行うことで、赤外線レーザ光による画像の定着を実現しつつ、記録媒体Pに定着された画像に光沢性が付与される。
本実施形態では、レーザ加熱と加圧手段を融合することで、従来の熱源(赤外線ランプ、ハロゲンランプ、IHヒータ、フラッシュランプ)に比べ、トナー潜像に対してより短時間加熱で冷却剥離される。
また、例えば赤外線レーザ光照射装置を定着部材の外部に設ける構成とすることで、な定着部材の内部に設ける場合に比べて、より小型軽量で高速適正(100ppm以上)が得られる。
また、レーザ加熱に加えて圧力を加えることで、高グロスで広色域に対応し、記録媒体についても薄紙から厚紙、エンボス紙、連張紙、フィルム材、ラベル材、シュリンクフィルムまでメディア汎用性に優れる。
また、レーザ加熱を用いることで、従来の熱定着に比べて高速広幅で瞬間的に加熱及び冷却されるため、例えばトナーが揮発成分を含んでいても揮発しにくく、記録媒体が加熱されずに画像定着が行われる。そのため、例えば両面モードでの画像形成においても用いられる記録媒体が制限されず、連続定着性に優れる。さらに、加熱による弾性層や離型層の熱変形が少なく、定着部材の弾性を生かした圧力定着がなされ、より安定した加圧と平坦化による定着が行われる。また、トナーが瞬間的に溶融して冷却剥離が行われることで、熱による記録媒体等の劣化(摩耗や黄変、変形、異常放電現象等)が従来の熱定着に比べて少なく、長期の定着安定性が保持される。さらに、従来の熱定着に比べ、用紙加熱の効率や熱源の使用効率が良好であるため定着部材の劣化も起こりにくく、定着部材の交換頻度が少なく、ランニングコストも抑えられる。さらにレーザ加熱は非接触によって用紙面で加熱するため、過昇温になりにくく、トナーの表面張力のみでは光沢が上がりにくいが加圧手段を用いることで高い光沢が得られる。またレーザ加熱を適用した場合、高速広幅に対応するためには赤外線レーザの出力を上げればよく、高グロス、広色域で幅広く活用する。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本実施形態を詳細に説明するが、本実施形態は、これら実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、「部」及び「%」はすべて質量基準である。
【0075】
[定着部材1の製造]
(基材1の製造)
以下のようにして、管状の基材1を製造した。具体的には定着部材はBASF製E6020pポリエーテルスフォン樹脂をDMAC溶媒(ジメチルアセトアミド)に濃度が40質量%となるように溶解させ、φ29.9mmのアルミパイプ上に回転させフローコートし200℃で、1時間乾燥させ、脱型させることによりφ30mmの基材にすることで、前記赤外線を透過する樹脂の基材1を得た。
得られた基材1の厚みは65μmであった。
【0076】
基材1について、760nm以上900nm以下の赤外線の透過スペクトルを測定したところ、後述する半導体レーザが発する赤外線レーザ光の波長(808nm)における透過率が94%であり、かつ、780nm以上820nm以下の波長領域全体にわたって透過率が90%以上であることがわかった。
なお、前記赤外線の透過スペクトルは、測定装置として紫外可視分光光度計(日本分光社製、型番:JASCO−V560)を用い、350nmから950nm領域での測定条件において測定した。
また、基材1の弾性率を前述の方法で測定したところ、2.3GPaであることが分かった。
【0077】
(弾性層1の形成)
以下のようにして、基材1の外周面に弾性層1を形成した。具体的には、信越化学製KE109付加重合型2液のシリコーン樹脂を混合させ、得られた基材1の外周面に同様にフローコーターで回転塗布させ170℃で、1時間焼成することで、前記赤外線を透過する透明シリコーンゴムの弾性層1を形成した。
形成された弾性層1の厚みは220μmであった。
【0078】
基材1に弾性層1が形成されたものについて760nm以上900nm以下の赤外線の透過スペクトルを測定し、弾性層1のみの赤外線透過スペクトルを求めたところ、後述する半導体レーザが発する赤外線レーザ光の波長(808nm)における透過率が92%であり、かつ、780nm以上820nm以下の波長領域全体にわたって透過率が90%以上であることがわかった
また、弾性層1について前述の方法で耐熱性を調べたところ230℃以上の耐熱性を有するものであることがわかった。
【0079】
(離型層1の形成)
以下のようにして、弾性層1の外周面に離型層1を形成し、定着部材1を得た。具体的には、厚みが30μmであるφ29mmのPFAチューブの外周面にプラズマ処理し、弾性層1の外周面に信越化学製X33−197シラカップリング剤を膜厚5μmとなるように塗布(シランカップリング処理)し、100℃、5分乾燥させ、プラズマ処理した前記PFAチューブを拡張して弾性層1の外周面を被覆するように挿入させ、さらに200℃、1時間焼成接着することで、前記赤外線を透過するフッ素含有樹脂の離型層1を形成し、定着部材1を得た。
形成された離型層1の厚みは32μmであった。
【0080】
基材1に弾性層1及び離型層1が形成された定着部材1について760nm以上900nm以下の赤外線の透過スペクトルを測定し、離型層1のみの赤外線透過スペクトルを求めたところ、後述する半導体レーザが発する赤外線レーザ光の波長(808nm)における透過率は92%であり、かつ、780nm以上820nm以下の波長領域全体にわたって透過率が90%以上であることがわかった
また、離型層1の外周面における表面自由エネルギーを前述の方法で測定したところ、24mN/mであった。
【0081】
定着部材1全体の厚みは、317μmであった。
定着部材1について760nm以上900nm以下の赤外線の透過スペクトルを測定したところ、後述する半導体レーザが発する赤外線レーザ光の波長(808nm)における透過率が80%であり、定着部材1が赤外線に対して透過性を有することがわかった。
また、定着部材1の外周面における表面A硬度を前述の方法で測定したところ、65度であった。
【0082】
[定着部材2の製造]
(離型層2の形成)
基材1の外周面に直接、以下のようにして離型層2を形成し、定着部材2を得た。具体的には、基材1の外周面に直接、前記シランカップリング処理をし、前記離型層1で用いたPFAチューブを、前記離型層1の形成と同様にして装着挿入接着することで、前記赤外線を透過するフッ素含有樹脂の離型層2を形成し、定着部材2を得た。
形成された離型層2の厚みは33μmであった。
【0083】
定着部材2全体の厚みは、98μmであった。
定着部材2について760nm以上900nm以下の赤外線の透過スペクトルを測定したところ、後述する半導体レーザが発する赤外線レーザ光の波長(808nm)における透過率が88%であり、定着部材2が赤外線に対して透過性を有することがわかった。
また、定着部材2の外周面における表面A硬度を前述の方法で測定したところ、102度であった。
【0084】
[定着部材3の製造]
(弾性層3の形成)
前記弾性層1の形成と同様にして、基材1の外周面に、厚みが560μmの弾性層3を形成した。
基材1の外周面に弾性層3が形成されたものについて760nm以上900nm以下の赤外線の透過スペクトルを測定し、弾性層3のみの赤外線透過スペクトルを求めたところ、後述する半導体レーザが発する赤外線レーザ光の波長(808nm)における透過率が87%であることがわかった。
(離型層3の形成)
前記離型層1の形成と同様にして、基材1の外周面に形成された弾性層3の外周面に、厚みが35μmの離型層3を形成し、定着部材3を得た。
定着部材3全体の厚みは660μmであった。
定着部材3について760nm以上900nm以下の赤外線の透過スペクトルを測定したところ、後述する半導体レーザが発する赤外線レーザ光の波長(808nm)における透過率が75%であり、定着部材3が赤外線に対して透過性を有さないことがわかった。
また、定着部材3の外周面における表面A硬度を前述の方法で測定したところ、45度であった。
【0085】
[実施例1、比較例1、及び比較例2]
図1に示す定着装置60を備えた
図5の画像形成装置100において、定着部材30として得られた定着部材1〜定着部材3を用い、赤外線吸収剤を含むトナーを用いて定着画像(ソリッド画像)の形成を行った。
なお、定着部材の両端部には、定着部材を回転させるための歯付プラスチック部材を設けて支持し、定着部材の内部にはレンズ部材を設け、レーザ光が定着部材と記録媒体との接触部(用紙ニップ方向)全体にわたって照射されるように固定して、記録媒体の表面に集光させ使用した。
【0086】
対向部材40(対向加圧部材)については、アルミニウム製の円柱状芯金の外周面に、ベンガラの粒子及び酸化鉄の粒子を内部に分散させたシリコーゴム(厚みが2mm)の層(弾性層)を形成し、カーボンブラックを分散させた導電性PFAチューブ(厚みが30μm)をシリコーンオイルに含浸させたものを前記弾性層の外周面に被覆し、φ30mmで成形処理することにより得られた、弾性層を有する対向部材を用いた。得られた対向部材の表面A硬度は65度であった。また接触部80の幅は2mmであり、定着時にかける力は8kgfとした。
赤外線レーザ光照射装置70としては、半導体レーザ(エネオプチック社製、赤外線レーザ光の波長:808nm)を用いた。接触部80における赤外線照射強度は100W/cm
2であり、未定着トナー像Tへの赤外線照射量は200mJ/cm
2とした。
レンズ部材72としてはシリンドリカルレンズ(シグマ光機社製、型番:BK7)を用いた。
摺動部材74としては、PFAフィルム(厚み:105mm)を用いた。
トナーとしては、赤外線吸収剤としてスクアリリウム系顔料を含むトナーを用いた。
【0087】
(光沢性の評価)
得られた定着画像について、以下のようにして光沢性の評価を行った。具体的には、グロスメーター(BYK マイクロトリグロス光沢計(20+60+85゜)、ガードナー社製)を用いて、60°の角度における光沢度を指標とした。評価結果を表1に示す。
【0088】
(定着率の評価)
定着率の評価は、テープ剥離試験により行った。具体的には、定着画像に粘着テープ(スコットメンディングテープ;3M社製)を軽く貼り、円柱ブロックを円周方向に転がすことにより、250g/cmの線圧にて該テープを画像面に密着させ、しかる後、該テープを引き剥がし、下式で表されるテープ引き剥がし前後の画像の光学濃度比を定着率とした。評価結果を表1に示す。
【0089】
式:定着率(%)=(テープ剥離後の画像濃度/テープ剥離前の画像濃度)×100
ここで、定着画像の画像濃度は、分光測色計(CM−3700d;ミノルタ社製)を使用して波長域400nm〜800nmの反射光を測定し、吸光度が最も大きくなる波長での吸光度値を光学濃度とした。
【0090】
【表1】
【0091】
上記結果から、本実施例では、比較例に比べ、光沢性が高いことがわかる。
具体的には、実施例1に比べ比較例1では、弾性層を有していないため、圧接するニップ(定着部材と記録媒体との接触面積)が不足し、十分な定着率と光沢が得られなかった。また比較例2においては、定着部材表面における硬度が低く、弾性層が厚いため、定着時の画像転写性が低下し、オフセットし、残留トナーが定着部材の表面に残った。