(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6291775
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】超高圧焼結体切削インサート
(51)【国際特許分類】
B23B 27/14 20060101AFI20180305BHJP
B23B 27/20 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
B23B27/14 C
B23B27/20
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-213671(P2013-213671)
(22)【出願日】2013年10月11日
(65)【公開番号】特開2015-74072(P2015-74072A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100129403
【弁理士】
【氏名又は名称】増井 裕士
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(72)【発明者】
【氏名】安田 誠
【審査官】
青山 純
(56)【参考文献】
【文献】
実開平05−051506(JP,U)
【文献】
特開2003−127007(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/161176(WO,A1)
【文献】
国際公開第2012/153737(WO,A1)
【文献】
独国特許出願公開第01602799(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
B23B 27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体が超高圧焼結体よりなる板状のインサート本体の2つの側面に、該インサート本体をホルダに取り付けるための取付孔が貫通して開口しており、この取付孔は、上記2つの側面のうち1つの側面側から反対側の他の1つの側面側に向かうに従い内径が拡径した後に縮径する被係止部を、上記1つの側面側と上記他の1つの側面側との両方に有していることを特徴とする超高圧焼結体切削インサート。
【請求項2】
上記被係止部は、上記取付孔の中心線に沿った断面において、上記1つの側面側から反対側の他の1つの側面側に向かうに従い上記取付孔の内径が拡径する部分における最小内径となる位置と、この内径が拡径した後に縮径する部分における最小内径となる位置とを結んだ仮想直線に対し、上記内径が最大内径となる位置までの上記仮想直線に垂直な方向の拡径代が、0.010mm〜0.045mmの範囲とされていることを特徴とする請求項1に記載の超高圧焼結体切削インサート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、cBN(立方晶窒化ホウ素)焼結体やダイヤモンド焼結体等の超高圧焼結体よりなる超高圧焼結体切削インサートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
このような超高圧焼結体切削インサートとして、例えば特許文献1、2には、全体がcBN焼結体またはダイヤモンド焼結体よりなる平板状のインサート本体に、パルス発振で50〜100ワットの出力のYAGレーザーの局所エネルギー密度を高めて照射し、インサート本体をホルダに取り付けるための取付孔を形成したものが提案されている。ここで、特許文献1には取付孔として断面半円のくぼみ状の止まり孔を形成することが記載され、特許文献2には取付孔としてすくい面から着座面に向けて内径が減少する貫通孔を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2003/015968号
【特許文献2】特開2003−127007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された超高圧焼結体切削インサートは、同じく特許文献1に記載されているような断面半円すなわち半球状の凸部を有するクランプ駒を用いて、この凸部をくぼみ状の上記取付孔に係止してホルダに形成されたインサート取付座に引き込むことによる、ディンプルオン式のクランプ機構により取り付けられる。また、特許文献2に記載された超高圧焼結体切削インサートは、取付孔に挿通したクランプネジをインサート取付座底面のネジ孔にねじ込むことによる、スクリューオン式のクランプ機構によって取り付けられる。
【0005】
ところで、このような切削インサートのクランプ機構としては、このスクリューオン式のものの他に、例えば上述のようなディンプルオン式でも凸部が円柱状をなすものや、L字状のレバーに形成された同じく円柱状の凸部をインサート取付座の底面から突出させてインサート本体の着座面に開口する取付孔に係止し、このレバーを傾動させてインサート本体を引き込む、レバーロック式のものが知られている。また、取付孔をインサート本体のすくい面から着座面に貫通させて、これらすくい面と着座面の両面からインサート本体をクランプするダブルクランプ式のものも知られている。これらのクランプ機構では、取付孔の内周面は一定の内径の円筒面状とされる。
【0006】
しかしながら、レバーロック式のクランプ機構では、インサート本体の引き込みの際に凸部が、その突端に向かうに従い引き込み方向側に向かうように傾斜することになる。また、ディンプルオン式のクランプ機構でも同様に凸部が傾斜することがあり、そのような傾斜した凸部が円筒面状の取付孔に当接すると、インサート本体が不安定となって取付剛性が損なわれ、例えば鋳物(FCD材)あるいは焼結合金の粗加工や切り込みの大きな切削加工を行う場合にインサート本体がずれ動いてしまい、加工精度の劣化を招くおそれがあった。
【0007】
本発明は、このような背景の下になされたもので、全体が超高硬度焼結体により形成された取付孔付きの超高圧焼結体切削インサートにおいて、インサート本体の取付剛性を確保して加工精度の向上を図ることが可能な超高圧焼結体切削インサートを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、全体が超高圧焼結体よりなる板状のインサート本体の
2つの側面に、該インサート本体をホルダに取り付けるための取付孔が
貫通して開口しており、この取付孔は、上記
2つの側面のうち1つの側面側から反対側の他の1つの側面側に向かうに従い内径が拡径した後に縮径する被係止部を
、上記1つの側面側と上記他の1つの側面側との両方に有していることを特徴とする。
【0009】
従って、このように構成された超高圧焼結体切削インサートにおいては、取付孔が
上記1つの側面側から反対側の他の1つの側面側に向かうに従い内径が拡径した後に縮径する被係止部を有しているので、この取付孔にクランプ駒やレバーの凸部を挿入してインサート本体をインサート取付座に引き込むことにより取り付けるときに、凸部が突端に向かうに従い引き込み方向側に向かうように傾斜していても、この凸部を被係止部の内径が拡径した部分に引っ掛けるように係止して引き込むことができる。このため、高い取付剛性でインサート本体を取り付けることができ、大きな切削負荷が作用してもインサート本体のずれ動きによる加工精度の劣化を防ぐことができる。
【0010】
なお、全体が超高硬度焼結体よりなる超高圧焼結体切削インサートのインサート本体にこのような取付孔を形成するには、特許文献1、2に記載されているようにレーザーによって取付孔を形成する際に、被係止部を形成する
側面側から反対側の
側面側に向かうに従い取付孔の外周側に向かうようにレーザーを傾斜させて照射すればよい。
【0011】
また、
本発明では、上記取付孔が、上記インサート本体の上記1つの側面から上記他の1つの側面に貫通して
いて、この取付孔の上記1つの側面側と上記他の1つの側面側との両方に上記被係止部
が形成されており、これにより、例えばネガティブタイプの超高圧焼結体切削インサートにおいて表裏の一対の上記側面をそれぞれすくい面および着座面として切削に使用することができる。また、上述したダブルクランプ式のクランプ機構にも対応することが可能となる。
【0012】
なお、このように拡径する被係止部は、上記取付孔の中心線に沿った断面において、
上記1つの側面側から反対側の他の1つの側面側に向かうに従い上記取付孔の内径が拡径する部分における最小内径となる位置と、この内径が拡径した後に縮径する部分における最小内径となる位置とを結んだ仮想直線に対し、上記内径が最大内径となる位置までの上記仮想直線に垂直な方向の拡径代が、0.010mm〜0.045mmの範囲とされているのが望ましい。これよりも拡径代が小さいと、取付孔が円筒状に近くなって十分な取付剛性を確保することができなくなるおそれがあり、また拡径代がこれよりも大きすぎても、クランプ駒やレバーの凸部が
上記側面側の取付孔が縮径した部分に当接してしまい、やはり取付が不安定となるおそれがある。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、インサート本体の全体が超高硬度焼結体よりなる超高圧焼結体切削インサートにおいても、ホルダのインサート取付座への取付剛性を確保することができ、鋳物あるいは焼結合金の粗加工や切り込みの大きな切削加工を行う場合でも加工精度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態を示す超高圧焼結体切削インサートの取付孔中心線に沿った概略の断面図である。
【
図2】
図1に示す実施形態の一方の側面(
図1における上側の側面)2側における取付孔の内周面の取付孔中心線に沿った拡大断面図である。
【
図3】
図1に示す実施形態の他方の側面(
図1における下側の側面)2側における取付孔の内周面の取付孔中心線に沿った拡大断面図である(ただし、
図1に対して上下が反転して示されている。)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1ないし
図3は、本発明の一実施形態を示すものである。本実施形態において、インサート本体1は、その全体がcBN焼結体またはダイヤモンド焼結体の超高圧焼結体により形成されて、例えば菱形や正方形、長方形等の四角形または正三角形等の三角形状、あるいはその他の多角形や円形の板状をなし、特に本実施形態では上記多角形や円形をなす2つの側面2と、その周囲に配置される周面3とが垂直に交差したネガティブタイプの超高圧焼結体切削インサートとされている。
【0016】
これらの側面2と周面3との交差稜線部には切刃4が形成されている。また、インサート本体1の2つの側面2の中央部には、これらの側面2間を貫通する取付孔5が側面2の中心を通る取付孔中心線Cを中心として形成されている。取付孔5は、その両側面2側の開口部に面取りが施されているのを除いて、巨視的には
図1に示すように取付孔中心線Cを中心とした円筒面とされている。
【0017】
そして、この取付孔5は、巨視的に上記円筒状をなす部分に、微視的には
1つの側面2側から反対側の他の1つの側面2側に向かうに従い内径が拡径した後に縮径する被係止部6を有している。取付孔5が貫通孔とされた本実施形態では、取付孔5は1つの側面2側と他の1つの側面2側との両方にそれぞれ1つずつの上記被係止部6を有しており、すなわち例えば
図1の上側の1つの側面2側の被係止部6は、
図2に示すようにこの1つの側面2側(
図1、
図2において上側)から反対側の他の1つの側面2側(
図1、
図2において下側)に向かうに従い内径が拡径した後に縮径し、
図1の下側の他の1つの側面2側の被係止部6は、
図3に示すようにこの他の1つの側面2側(
図1において下側、
図2においては上側)から反対側の1つの側面2側(
図1において上側、
図2においては下側)に向かうに従い内径が拡径した後に縮径している。
【0018】
この被係止部6は、
図2および
図3に示すように上記取付孔中心線Cに沿った断面において、該被係止部6が形成された側の一方の側面2から反対側の他方の側面2に向かうに従い、取付孔5の内周側に向けて凸となる凸曲線を描くようにして内径が拡径し、次いで取付孔5の内周に対して凹となる凹曲線を描きつつ最も拡径した位置に達し、さらにこのような凹曲線を描きつつ内径が縮径して、再び取付孔5の内周側に向けて凸となる凸曲線を描いて縮径するようにされている。
【0019】
ここで、同じく取付孔中心線Cに沿った断面において
図2および
図3に示すように、被係止部6は、本実施形態では、
上記1つの側面2側から反対側の他の1つの側面2側に向かうに従い上記取付孔5の内径が拡径する部分における最小内径となる位置と、この内径が拡径した後に縮径する部分における最小内径となる位置とを結んだ仮想直線Sに対し、上記内径が最大内径となる位置までの上記仮想直線に垂直な方向の拡径代dが、0.010mm〜0.045mmの範囲とされている。なお、この仮想直線Sは、本実施形態では取付孔中心線Cに平行すなわち側面2に垂直なものではなく、被係止部6が形成された側の側面2に対し、極僅かに鋭角に交差する方向に延びている。
【0020】
このような被係止部6を有する取付孔5を備えた超高圧焼結体切削インサートは、特許文献1、2に記載された切削インサートと同様に、超高圧焼結体により形成された取付孔5のないインサート本体1にレーザー加工で取付孔5を形成することによって製造することができる。この取付孔5を形成する際に、例えば
図1における上側の側面2側の部分の取付孔5に被係止部6を形成するには、
図1に示すようにレーザーLを、被係止部6が形成される側の
1つの側面(
図1では上側の側面)2側から反対側の他の1つの側面(
図1では下側の側面)2側に向かうに従い取付孔5の外周側に向かうように僅かに傾斜させて照射すればよい。
【0021】
このような超高圧焼結体切削インサートは、2つの側面2の1つを着座面として刃先交換式バイト等のホルダに形成されたインサート取付座の底面に密着させた上で、このホルダに備えられたクランプ駒やレバー等のクランプ機構により取付孔中心線Cに垂直な方向に引き込まれ、この引き込み方向を向く周面3がインサート取付座の壁面に当接させられてクランプされる。このとき、1つの側面2の他の一つがすくい面とされ、このすくい面と周面3のうちインサート取付座の壁面と当接していない周面3との交差稜線部に形成された切刃4が切削に使用される。
【0022】
ここで、上記クランプ機構がクランプ駒のようにすくい面側から円柱状の凸部を取付孔5に挿入してインサート本体1をインサート取付座に引き込むものである場合には、すくい面とされた側面2側の被係止部6が上記凸部に係止される。また、レバーロック式の場合は、インサート取付座の底面から突出したレバーの凸部が着座面とされた側面2側の被係止部6が上記凸部に係止されてインサート本体1が引き込まれる。さらに、これらのクランプ機構を併用するダブルクランプ式の場合は、両方の被係止部6が係止される。
【0023】
そして、上記構成の超高圧焼結体切削インサートにおいては、このようにインサート本体1が引き込まれてインサート取付座に取り付けられる際に、クランプ機構の円柱状の凸部が、その突端に向かうに従い引き込み方向側に向かうように僅かに傾いても、この凸部の突端は、内径が拡径して取付孔5の外周側に凹んだ上記被係止部6に引っ掛かるようにして該被係止部6を係止することになる。このため、インサート本体1を高い取付剛性で安定的にインサート取付座に取り付けることができる。
【0024】
従って、このような超高圧焼結体切削インサートによれば、鋳物や焼結合金などの粗加工、あるいは切刃4の切り込み量が大きい場合などに大きな切削負荷が作用しても、インサート本体1がずれ動いたりするのを防ぐことができ、加工精度の向上を図ることができる。特に、インサート本体1の全体が超高圧焼結体によって形成された超高圧焼結体切削インサートは、有効切刃長を長くすることができるために深切り込みによる高能率加工が可能であるので、そのような超高圧焼結体切削インサートにおいて高い取付剛性を確保することができるのは有効である。
【0025】
また、本実施形態では、取付孔5がインサート本体1を上記1つの側面2から他の1つの側面2に貫通しており、この取付孔5には、これら1つの側面2側と他の1つの側面2側の両方に被係止部6を有している。このため、上述のようなダブルクランプ式のクランプ機構に対応することができるとともに、ネガティブタイプであるので、インサート本体1を反転してインサート取付座に取り付け直すことにより、着座面とされていた側面2をすくい面として、その切刃4を切削に使用することもできる。
【0027】
さらに、本実施形態では、被係止部6は、取付孔中心線Cに沿った断面において、上記
1つの側面2側から反対側の他の1つの側面2側に向かうに従い取付孔5の内径が拡径する部分における最小内径となる位置と、この内径が拡径した後に縮径する部分における最小内径となる位置とを結んだ仮想直線Sに対し、上記内径が最大内径となる位置までの仮想直線Sに垂直な方向の拡径代dが、0.010mm〜0.045mmの範囲とされているため、一層確実に取付剛性を確保して安定した高精度の切削加工を行うことができる。
【0028】
すなわち、拡径代dが0.010mmよりも小さいと取付孔5の内周面が円筒面状に近くなって上述した効果を得ることができなくなるおそれがある一方、拡径代dが0.045mmを上回るほど大きくても、クランプ機構の凸部が被係止部6の凹んだ部分ではなく、取付孔5の開口する
側面2側の内径が縮径した部分に当接してしまい、却ってインサート本体1の取付が不安定となるおそれがある。
【符号の説明】
【0029】
1 インサート本体
2 側面
3 周面
4 切刃
5 取付孔
6 被係止部
C 取付孔中心線
S 取付孔中心線Cに沿った断面において、被係止部6の
1つの側面2側から反対側の他の1つの側面2側に向かうに従い取付孔5の内径が拡径する部分における最小内径となる位置と、この内径が拡径した後に縮径する部分における最小内径となる位置とを結んだ仮想直線