(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態の増幅器について説明する。実施の形態の増幅器は、一例として、スマートフォン端末機又は携帯電話端末機等の送信回路の最終段に位置するパワーアンプとして用いられるものである。
【0012】
このため、まず
図1を用いて、スマートフォン端末機の送受信回路500について説明する。
【0013】
図1は、スマートフォン端末機の送受信回路500を示す図である。送受信回路500は、ベースバンド回路501、発振器502、アンテナスイッチ503、アンテナ504、変調回路511、ミキサ512、送信フィルタ513、及びパワーアンプ514を含む。また、送受信回路500は、さらに、LNA(Low Noise Amplifier)521、受信フィルタ522、ミキサ523、フィルタ524、復調回路525を含む。
【0014】
ベースバンド回路501は、ベースバンド信号を出力する。発振器502は、ミキサ512と523に接続されており、搬送波の信号をミキサ512と523に発振する。
【0015】
アンテナスイッチ503は、パワーアンプ514の出力端子、LNA521の入力端子、及びアンテナ504の間に設けられており、アンテナ504とパワーアンプ514又はLNA521とを接続する。
【0016】
アンテナ504は、スマートフォン端末機のアンテナであり、音声等のデータ又は通信データ等の送信及び受信を行う。
【0017】
変調回路511は、ベースバンド回路501から入力されるベースバンド信号を変調して出力する。ミキサ512は、ベースバンド回路501から入力されるベースバンド信号と、発振器502から入力される信号とを合成した送信信号を送信フィルタ513に出力する。
【0018】
送信フィルタ513は、バンドパスフィルタであり、ミキサ512から入力される信号から所望の帯域の送信信号のみを通過させてパワーアンプ514に出力する。
【0019】
パワーアンプ514は、送信フィルタ513から入力される送信信号を増幅し、アンテナスイッチ503を介してアンテナ504に出力する。
【0020】
なお、変調回路511、ミキサ512、送信フィルタ513、及びパワーアンプ514は、送信回路を構築する。
【0021】
LNA521は、アンテナ504からアンテナスイッチ503を介して入力される受信信号を増幅して受信フィルタ522に出力する。受信フィルタ522は、バンドパスフィルタであり、LNA521から入力される信号から所望の帯域の受信信号のみを通過させてミキサ523に出力する。
【0022】
ミキサ523は、受信フィルタ522から入力される受信信号と、発振器502から入力される搬送波の信号とに基づき、ベースバンド信号の周波数帯域の受信信号を抽出する。
【0023】
フィルタ524は、バンドパスフィルタであり、ミキサ523から入力される受信信号のうちの所望の帯域の成分のみを通過させて復調回路525に入力する。復調回路525は、フィルタ524から出力される受信信号を復調してベースバンド回路501に入力する。
【0024】
以上のように、送受信回路500では、ベースバンド回路501とアンテナ504との間で、送信信号又は受信信号の処理が行われる。本実施の形態では、パワーアンプ514として用いることができる増幅器について説明する。
【0025】
送信回路の最後段のパワーアンプ514は、アンテナ504を通じて基地局にまで信号を送る高周波アンプであるため、出力が大きく、送信信号の歪みが生じ易い。
【0026】
送信信号の歪みを少なく保つには、消費電流を大きくする必要があるが、スマートフォン端末機又は携帯電話端末機の消費電流においてパワーアンプ514が占める割合は大きいため、パワーアンプ514の消費電流を容易に増やすことはできない。
【0027】
従って、パワーアンプ514の消費電流の増大を出来るだけ抑えた上で、歪みを小さくする必要がある。
【0028】
ここで歪みの指標について説明する。歪みの指標としては様々なものがあるが、ここでは増幅器の歪みの大きさを表す指標として一般的な3次相互変調歪み(IM3信号)を用いる。
【0029】
また、IM3信号の説明には前提技術の増幅器1を用いる。
図2は、前提技術の増幅器1に生じるIM3信号を示す図である。
【0030】
IM3信号は、非線形的な利得特性を有する増幅器1にツートーン信号を入力した時に、増幅器1の非線形性によって生じる角周波数が2ω
1−ω
2と2ω
2−ω
1の信号成分である。IM3信号の発生過程を以下に示す。なお、ツートーン信号とは、振幅が等しく角周波数がω
1とω
2の2つの信号をいう。
【0031】
ツートーン信号x(t)を次式(1)で表す。
【0033】
この場合に、増幅器1の出力信号y(t)は次式(2)で表すことができる。ただしα
1>0である。
【0035】
出力信号y(t)の2ω
1−ω
2および2ω
2−ω
1の成分がIM3信号であり、IM3信号は、角周波数が2ω
1−ω
2と2ω
2−ω
1の2つの信号に分けて捉えることができる。なお、増幅器1が差動アンプである場合には、出力信号y(t)に含まれるα
2x(t)
2の項は消失する。
【0036】
そして、これらの2つのIM3信号は、隣接するチャンネル(増幅器1に入力する入力信号のチャンネルに隣接する他のチャンネル)に対する妨害信号となる。
【0037】
ここで、α
3<0の場合は、増幅器1の利得は減少関数となり、
図2(A)に示すように、IM3信号の位相はツートーン信号に対し逆位相となる。
【0038】
また、α
3>0の場合は、増幅器1の利得は増大関数となり、
図2(B)に示すように、IM3信号の位相はツートーン信号に対し同位相となる。
【0039】
また、ツートーン信号x(t)を三角関数の公式に従って変形した式を次式(3)に示す。
【0041】
式(3)より、周波数(ω
1+ω
2)/2の波形に、周波数(ω
1-ω
2)/2の波形が乗じられていることが分かる。
【0042】
ここで、実施の形態の増幅器について説明する前に、前提技術の増幅器1の詳細な構成と出力信号の歪みのシミュレーション結果について説明する。
【0043】
図3は、前提技術の増幅器1を示す図である。
図3(A)は増幅器1の全体構成を示し、
図3(B)は、DR段20及びPA段40の内部構成を示す図である。
【0044】
図3(A)に示すように、前提技術の増幅器1は、入力端子1A、出力端子1B、入力トランス10、DR段20、段間トランス30、PA段40、出力トランス50、及びバイアス回路60、70を含む。
【0045】
前提技術の増幅器1は、例えば、スマートフォン端末機又は携帯電話端末機等の送信回路の最終段に位置するパワーアンプとして用いられるものであり、
図1に示すパワーアンプ514の代わりに利用可能である。
【0046】
入力端子1Aは、増幅器1の前段のフィルタ等に接続され、送信信号が入力される端子である。入力端子1Aは、入力トランス10の一次巻線11の一端(図中上側の端子)に接続される。
【0047】
出力端子1Bは、増幅器1の後段のアンテナ等に接続される端子であり、増幅器1で増幅された送信信号を出力する。出力端子1Bは、出力トランス50の二次巻線52の一端(図中上側の端子)に接続される。
【0048】
なお、以下では、増幅器1の入力端子1Aに入力される送信信号を入力信号として取り扱い、増幅器1で増幅されて出力端子1Bから出力される送信信号を出力信号として取り扱う。
【0049】
入力トランス10は、一次巻線11と、一対の二次巻線12A、12Bとを有する。入力トランス10は、入力側の整合トランスとして機能する。一次巻線11は、一端(図中上側の端子)が入力端子1Aに接続され、他端(図中下側の端子)が接地される。
【0050】
二次巻線12Aは、一端(図中上側の端子)がDR段20の一方(図中上側)の入力端子に接続され、他端(図中下側の端子)は中点12Cに接続される。二次巻線12Aは、一次巻線11と同一極性で巻回されている。
【0051】
二次巻線12Bは、一端(図中上側の端子)が中点12Cに接続され、他端(図中下側の端子)がDR段20の他方(図中下側)の入力端子に接続される。二次巻線12Bは、一次巻線11及び二次巻線12Aとは逆極性で巻回されている。
【0052】
なお、中点12Cは、二次巻線12Aと12Bとの接続点であり、バイアス回路60の出力端子が接続される。中点12Cにはバイアス回路60からバイアス電圧が供給される。
【0053】
DR段20は、ドライブ(Drive)段又は初段として機能する増幅段である。DR段20は、一対の入力端子と、一対の出力端子を有する。DR段20の一対の入力端子はそれぞれ、二次巻線12Aの一端と、二次巻線12Bの他端とに接続されている。DR段20の一対の出力端子は、それぞれ、段間トランス30の一次巻線31Aの一端(図中上側の端子)と、一次巻線31Bの他端(図中下側の端子)とに接続されている。
【0054】
DR段20は、
図3(B)に示すように、一対のNMOS(N-channel Metal Oxide Silicon)トランジスタ21、22を有する。NMOSトランジスタ21は、ゲートが二次巻線12Aの一端に接続され、ソースが接地され、ドレインが一次巻線31Aの一端に接続される。NMOSトランジスタ22は、ゲートが二次巻線12Bの他端に接続され、ソースが接地され、ドレインが一次巻線31Bの他端に接続される。
【0055】
DR段20は、入力トランス10から入力される送信信号を増幅して段間トランス30に出力する。
【0056】
段間トランス30は、一次巻線31A、31Bと、二次巻線32A、32Bとを有し、DR段20とPA段40との間に位置する整合トランスとして機能する。
【0057】
一次巻線31Aの一端にはDR段20の一方の出力端子が接続され、一次巻線31Bの他端にはDR段20の他方の出力端子が接続される。一次巻線31Aの他端(図中下側の端子)と、一次巻線31Bの一端(図中上側の端子)とは中点31Cで接続されている。中点31Cには直流電源VDDが接続されており、バイアス電圧VDDが入力される。
【0058】
二次巻線32Aの一端(図中上側の端子)は、PA段40の一方(図中上側)の入力端子に接続され、二次巻線32Bの他端(図中下側の端子)は、PA段40の他方(図中下側)の入力端子に接続される。
【0059】
二次巻線32Aの他端(図中下側の端子)と、二次巻線32Bの一端(図中上側の端子)とは、中点32Cで接続される。中点32Cには、バイアス回路70の出力端子が接続されており、バイアス回路70からバイアス電圧が供給される。
【0060】
なお、一次巻線31Aと二次巻線32Aとは同一極性で巻回され、一次巻線31Bと二次巻線32Bとは同一極性で巻回される。一次巻線31Aと一次巻線31Bとは逆極性で巻回されており、二次巻線32Aと二次巻線32Bとは逆極性で巻回されている。
【0061】
一次巻線31Aと二次巻線32Aの極性は、一次巻線11と二次巻線12Aの極性と等しい。
【0062】
PA段40は、最終段として機能する増幅段である。PA段40は、一対の入力端子と、一対の出力端子を有する。PA段40の一対の入力端子はそれぞれ、二次巻線32Aの一端と、二次巻線32Bの他端とに接続されている。PA段40の一対の出力端子は、それぞれ、出力トランス50の一次巻線51Aの一端(図中上側の端子)と、一次巻線51Bの他端(図中下側の端子)とに接続されている。
【0063】
PA段40は、
図3(B)に示すように、一対のNMOS(N-channel Metal Oxide Silicon)トランジスタ41、42を有する。NMOSトランジスタ41は、ゲートが二次巻線32Aの一端に接続され、ソースが接地され、ドレインが一次巻線51Aの一端に接続される。NMOSトランジスタ42は、ゲートが二次巻線32Bの他端に接続され、ソースが接地され、ドレインが一次巻線51Bの他端に接続される。
【0064】
PA段40は、段間トランス30から入力される送信信号を増幅して出力トランス50に出力する。
【0065】
出力トランス50は、一次巻線51A、51Bと二次巻線52とを有する。出力トランス50は、出力側の整合トランスとして機能する。
【0066】
一次巻線51Aの一端(図中上側の端子)は、PA段40の一方の出力端子に接続され、一次巻線51Bの他端(図中下側の端子)は、PA段40の他方の出力端子に接続される。一次巻線51Aの他端(図中下側の端子)と一次巻線51Bの一端(図中上側の端子)とは中点51Cで接続される。
【0067】
中点51Cには直流電源VDDが接続されており、バイアス電圧VDDが供給される。
【0068】
二次巻線52は、一端(図中上側の端子)が出力端子1Bに接続され、他端(図中下側の端子)が接地される。二次巻線52は、一次巻線51Aと同一極性で巻回されている。なお、二次巻線52及び一次巻線51Aの極性は、段間トランス30の一次巻線31A及び二次巻線32Aと等しい。
【0069】
出力トランス50は、PA段40から一次巻線51A、51Bに伝送される差動形式の送信信号をシングルエンド形式の送信信号に変換して二次巻線52から出力端子1Bに出力する。
【0070】
このような前提技術の増幅器1において、バイアス回路60は、DR段20の回路特性を最適化する一定のDC電圧を入力トランス10の二次巻線12Aと12Bの中点12Cに供給する。
【0071】
同様に、バイアス回路70は、PA段40の回路特性を最適化する一定のDC電圧を段間トランス30の二次巻線32Aと32Bの中点32Cに供給する。
【0072】
図4は、
図3に示す前提技術の増幅器1の出力電力に対するIM3信号の信号レベルの特性(
図4(A))と、出力電力に対する消費電流及び利得の特性(
図4(B))を示す図である。
図4に示す特性は、シミュレーションで得られた結果である。このシミュレーション結果は、ハーモニックバランス解析を用いて得られたものである。尚、ハーモニックバランス解析とはトランジェント解析と交流解析を合わせたシミュレーション解析方法である。
【0073】
ここで、出力電力とは、
図3に示す増幅器1の出力端子1Bから出力される電力である。また、消費電流は、出力電力を増幅器1が出力するために消費する電流である。また、利得は、増幅器1の入力信号に対する出力信号の利得である。
【0074】
なお、ここでは、一例として、増幅器1の動作点は、27.0dBmであることとする。
【0075】
図4(A)には、太破線でIM3信号の許容上限レベルを示す。IM3信号の許容上限レベルは、
図4(A)に太破線で示すように、出力電力が27.0dBm以下では−32dBcであり、出力電力が27.0dBm以上では
図4(A)には上限を示せないレベルである。
【0076】
また、
図4(A)に細実線で示す2本の特性は、角周波数が2ω
1−ω
2と2ω
2−ω
1の2つのIM3信号(
図2(A)、(B)参照)を表す。ただし、2本のIM3信号の特性は略同様であるため、ここでは、2本のIM3信号のうちのどちらがどちらの角周波数であるかを区別せずに示す。
【0077】
図4(A)に示すように、2本のIM3信号は、出力電力が27.0dBmのあたりで許容上限を超えている。
【0078】
また、
図4(B)には出力電力に対する消費電流と利得の特性を示す。
図4(B)には太破線で消費電流の許容上限レベルを示す。消費電流の許容上限レベルは、出力電力が27.0dBm以下では440mAであり、出力電力が27.0dBm以上では
図4(B)には上限を示せないレベルである。
【0079】
図4(B)に示すように、消費電流は動作点である27.0dBmで許容上限を少し下回る程度でぎりぎりであり、これ以上増やすことができない。
【0080】
また、利得の特性は、出力電力が20.0dBm〜24.0dBm程度の小信号動作領域において、出力電力の増大に伴って緩やかに増大しており、出力電力が26.0dBm〜29.0dBm程度の大信号動作領域において、出力電力の増大に伴って急激に減少している。
【0081】
以上のように、前提技術の増幅器1では、動作点である27.0dBmにおいて、消費電流は許容上限ぎりぎりであり、IM3信号は許容上限を超えている。
【0082】
このようにIM3信号のレベルが高いのは、出力電力に対する利得の特性が一定ではなく、特に大信号動作領域において低下度合が大きく歪んだ特性になっているからである。
【0083】
また、IM3信号のレベルを低減するためには、一般的に、消費電流を増大させることが考えられるが、前提技術の増幅器1では消費電流は許容上限ぎりぎりであり、IM3信号のレベルを低減するために消費電流を増大させることは困難である。
【0084】
従って、前提技術の増幅器1においてIM3信号の信号レベルを低減するには、出力電力に対する利得の特性がフラット(一定)な特性に近づくように、補正を行うことが必要になる。
【0085】
なお、ここでは、歪みのレベルを評価するために、一例としてIM3信号のレベルを指標として検討を行うが、IM3信号以外の信号を用いて歪みレベルの評価を行ってもよい。IM3信号以外の信号を用いても、IM3信号を用いて歪みのレベルを評価する場合と同様に歪みのレベルを評価することが可能である。
【0086】
以下、本発明の増幅器を適用した実施の形態について説明する。
【0087】
<実施の形態>
図5は、実施の形態の増幅器100を示す図である。
図5において、前提技術の増幅器1(
図3参照)と同様の構成要素には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0088】
図5に示すように、実施の形態の増幅器100は、入力端子101A、出力端子101B、入力トランス10、DR段20、段間トランス30、PA段40、出力トランス50、及び制御回路110、160を含む。
【0089】
なお、入力トランス10は第1トランスの一例である。DR段20は第1差動増幅段の一例である。段間トランス30は、第2トランスの一例である。PA段40は、第2差動増幅段の一例である。出力トランス50は、第3トランスの一例である。
【0090】
実施の形態の増幅器100は、例えば、スマートフォン端末機又は携帯電話端末機等の送信回路の最終段に位置するパワーアンプとして用いられるものであり、
図1に示すパワーアンプ514として利用可能である。ここでは、実施の形態の増幅器100が
図1に示すパワーアンプ514として用いられる場合について説明する。
【0091】
入力端子101Aは、増幅器100の前段のフィルタ等(
図1ではフィルタ513)に接続され、送信信号が入力される端子である。入力端子101Aは、入力トランス10の一次巻線11の一端(図中上側の端子)に接続される。
【0092】
出力端子101Bは、増幅器100の後段のアンテナ等(
図1ではアンテナスイッチ503)に接続される端子であり、増幅器100で増幅された送信信号を出力する。出力端子101Bは、出力トランス50の二次巻線52の一端(図中上側の端子)に接続される。
【0093】
なお、以下では、増幅器100の入力端子101Aに入力される送信信号を入力信号(Vin)として取り扱い、増幅器100で増幅されて出力端子101Bから出力される送信信号を出力信号(Vout)として取り扱う。
【0094】
入力トランス10、DR段20、段間トランス30、PA段40、及び出力トランス50の構成は、それぞれ、前提技術の増幅器1(
図3参照)における入力トランス10、DR段20、段間トランス30、PA段40、及び出力トランス50と同様である。
【0095】
実施の形態の増幅器100の制御回路110及び160は、それぞれ、入力端子101Aから入力される入力信号に基づくフィードフォワード制御を行うことにより、入力トランス10及び段間トランス30の二次側の中点12C及び32Cに供給するバイアス電圧Vbias1、Vbias2を制御する。
【0096】
このため、制御回路110及び160は、入力端子101Aに接続されている。制御回路110及び160は、それぞれ、第1バイアス回路及び第2バイアス回路の一例である。
【0097】
より具体的には、制御回路110は、入力トランス10の二次側の中点12Cに供給するバイアス電圧Vbias1の電圧値を、入力信号の出力が大きい動作領域において入力信号の振幅に応じて増大させる。これは、DR段20の利得特性を大信号動作領域において、よりフラット(一定)な特性に補正するためである。
【0098】
このようにバイアス電圧Vbias1を制御することにより、DR段20の利得の特性を補正するのは、DR段20はPA段40よりもサイズが小さく、ゲート容量が小さいため、PA段40よりも駆動制御を行いやすいからである。
【0099】
このような駆動制御を実現するために、制御回路110によって、入力信号に追従可能なDR段20のカットオフ周波数を実現することにより、大信号動作時における出力電力に対する利得の調整を行う。なお、DR段20のサイズは、例えば、PA段40の1/2〜1/10程度である。
【0100】
また、制御回路160は、段間トランス30の二次側の中点32Cに供給するバイアス電圧Vbias2の電圧値を、入力信号の出力が小さい動作領域において大きくし、入力信号の出力が大きい動作領域において小さくする。これは、小信号動作時に、PA段40の利得特性をよりフラット(一定)な特性に補正するためである。
【0101】
PA段40は、DR段20よりもゲート容量が大きいため、制御回路160では、PA段40のカットオフ周波数を高くすることなく、小信号動作時における利得の特性を改善する。
【0102】
なお、制御回路110及び160の動作と、DR段20及びPA段40の動作との詳細については後述する。
【0103】
次に、
図6を用いて、増幅器100の入力信号について説明する。
【0104】
図6は、増幅器100に入力される入力信号を示す図である。増幅器100に入力される入力信号は、実線で示すツートーン信号Vinであり、これは、式(1)で示したツートーン信号x(t)と同様である。ツートーン信号Vinは、
図1に示すベースバンド回路501から出力されるベースバンド信号と、発振器502から出力される搬送波の信号とがミキサ512で合成され、フィルタ513を通過することによって得られる。
【0105】
図6に実線で示すツートーン信号Vinは、破線で示す包絡線の振幅を有する波形で表される。破線で示す包絡線は、ベースバンド回路501から出力されるベースバンド信号を表しており、ツートーン信号Vinの上下に示す一対の包絡線がベースバンド信号を表している。包絡線の周波数は、例えば、数MHzから20MHz程度である。
【0106】
図6には、包絡線の3つの腹と5つの節を示す。包絡線の腹の部分では、ベースバンド信号の振幅は大きくなっており、包絡線の節の部分では、ベースバンド信号の振幅は小さくなっている。
【0107】
実施の形態の増幅器100では、このようなツートーン信号Vinに含まれる包絡線の振幅(ベースバンド信号の振幅)を制御回路110及び160で検出し、入力トランス10及び段間トランス30の二次側の中点12C及び32Cに供給するバイアス電圧を制御する。
【0108】
なお、以下では、大信号動作時とは、増幅器100の出力電力が比較的大きい場合をいい、例えば、
図4(A)、(B)に示す出力電力が26.0dBm〜29.0dBm程度の動作領域を表す。大信号動作時には、入力信号Vinの包絡線の振幅(腹の部分の振幅)は大きくなる。これは、包絡線の振幅(すなわち、ベースバンド信号の振幅)は、出力電力に対応するからである。
【0109】
また、小信号動作時とは、増幅器100の出力電力が比較的小さい場合をいい、例えば、
図4(A)、(B)に示す出力電力が20dBm〜24dBm程度の動作領域を表す。小信号動作時には、入力信号Vinの包絡線の振幅(腹の部分の振幅)は小さくなる。
【0110】
次に、
図7を用いて、実施の形態の増幅器100に含まれる制御回路110について説明する。
【0111】
図7は、実施の形態の増幅器100の制御回路110を示す図である。
【0112】
制御回路110は、包絡線検波部120、IVコンバータ130、コアバイアス回路140、及びバッファ150を含む。
【0113】
包絡線検波部120は、入力端子121、トランジスタMp1、抵抗器R1、電流源122、キャパシタC1、C2、抵抗器R2、及びトランジスタMp2を含む。包絡線検波部120は、第1包絡線検波部の一例である。
【0114】
入力端子121は、増幅器100の入力端子101A(
図5参照)に接続され、入力信号Vinが入力される。入力端子121は、包絡線検波部120の内部では、キャパシタC1の一方の端子に接続される。
【0115】
トランジスタMp1は、PMOS(P-channel Metal Oxide Semiconductor)トランジスタである。トランジスタMp1のソースは直流電源VDDに接続され、ドレインは抵抗器R1及びR2に接続され、ゲートは抵抗器R1を介して自己のドレインに接続されるとともに電流源122の入力端子に接続される。
【0116】
トランジスタMp1は、抵抗器R1及び電流源122とともに、トランジスタMp2のゲートに供給するバイアス電圧を生成するバイアス回路を構築する。
【0117】
抵抗器R1は、トランジスタMp1及び電流源122とともに、トランジスタMp2のゲートに供給するバイアス電圧を生成するバイアス回路を構築する。
【0118】
電流源122は、入力端子が抵抗器R1とトランジスタMp1のゲートとに接続され、出力端子が接地される。電流源122は、電流Ib0を出力する。電流源122は、トランジスタMp1及び抵抗器R1とともに、トランジスタMp2のゲートに供給するバイアス電圧を生成するバイアス回路を構築する。
【0119】
キャパシタC1は、入力端子121とトランジスタMp2のゲートとの間に接続される。キャパシタC2は、直流電源VDDとトランジスタMp2のゲートとの間に接続される。また、抵抗器R2は、トランジスタMp2のゲートと、トランジスタMp1のドレイン及び抵抗器R1との間に接続される。
【0120】
トランジスタMp2は、トランジスタMp1、抵抗器R1、及び電流源122によって構築されるバイアス回路によってゲートが駆動されることにより、C級の増幅器として動作する。トランジスタMp1、抵抗器R1、及び電流源122によるバイアス回路は、トランジスタMp2のゲートに、トランジスタMp2の閾値以下の電圧を供給する。
【0121】
これにより、トランジスタMp2は、入力端子121に入力される入力信号Vinの振幅が所定値以上の場合に、入力信号Vinの振幅に応じた電流Idetを出力する。入力信号Vinは、ツートーン信号Vinであるため、
図6に示すような包絡線の振幅に応じた電流IdetがトランジスタMp2のドレインから出力されることになる。
【0122】
このようにして、包絡線検波部120は、入力信号Vin(ツートーン信号Vin)の包絡線の振幅が所定振幅以上である場合に、包絡線の振幅に応じた電流IdetをトランジスタMp2のドレインから出力する。
【0123】
なお、包絡線検波部120のトランジスタMp2のドレインに接続されるノードをノードVb3とし、ノードVb3の電圧をVb3とする。
【0124】
IVコンバータ130は、電流源131、オペアンプ132、トランジスタMp3、Mp4、Mp5、Mn2、Mn3を含み、入力される電流値を電圧値に変換する。IVコンバータ130は、第1変換回路の一例である。
【0125】
電流源131は、入力端子がトランジスタMp3のドレインに接続され、出力端子が接地されている。電流源131は、基準電流Irefを出力する。
【0126】
オペアンプ132は、非反転入力端子にノードVb2が接続され、反転入力端子にノードVb1が接続される。オペアンプ132の出力端子は、トランジスタMn2及びMn3のゲートに接続されている。
【0127】
トランジスタMp3及びMp4は、PMOSトランジスタ284であり、カレントミラー回路を構築している。トランジスタMp3のソースは直流電源VDDに接続され、自己のゲートとドレインとが接続され、ドレインは電流源131の入力端子に接続されている。すなわち、トランジスタMp3は、電流源131の入力端子にダイオード接続されている。
【0128】
トランジスタMp4のソースは直流電源VDDに接続され、ゲートはトランジスタMp3のゲートに接続され、ドレインはトランジスタMn3のドレインに接続されている。トランジスタMp4のドレインとトランジスタMn3のドレインとの接続点は、ノードVb3に接続されている。
【0129】
トランジスタMp5は、ソースが直流電源VDDに接続され、ゲートがトランジスタMp3及びMp4のゲートに接続され、ドレインがノードVb2を介して、トランジスタMn2のドレインとオペアンプ132の非反転入力端子とに接続されている。
【0130】
トランジスタMn2及びMn3は、ともにNMOS(N-channel Metal Oxide Semiconductor)トランジスタである。トランジスタMn2のドレインはノードVb2に接続され、ソースは接地され、ゲートはトランジスタMn3のゲートとオペアンプ132の出力端子とに接続されている。
【0131】
トランジスタMn3のドレインは、トランジスタMp4のドレインに接続され、ソースは接地され、ゲートはトランジスタMn2のゲートとオペアンプ132の出力端子とに接続されている。
【0132】
このようなIVコンバータ130において、ノードVb3から見たIVコンバータ130の入力抵抗は、トランジスタMp4とMn3の出力抵抗によって決まる。トランジスタMp4とMn3とはノードVb3に対して並列に接続されているため、ノードVb3から見たIVコンバータ130の入力抵抗は、トランジスタMp4の出力抵抗rdspと、トランジスタMn3の出力抵抗rdsnとの合成抵抗値となる。
【0133】
このような回路構成により、IVコンバータ130は、ノードVb3に流れる電流IdetをノードVb3から見た入力抵抗によって電圧値Vb3に変換している。
【0134】
コアバイアス回路140は、電流源141とトランジスタMn1を含む。電流源141は入力端子が直流電源VDDに接続され、出力端子がノードVb1を介して、トランジスタMn1のドレインとオペアンプ132の反転入力端子とに接続されている。電流源141は、電流Ib1を出力する。
【0135】
トランジスタMn1は、NMOSトランジスタであり、自己のドレインとゲートとが接続され、ドレインはノードVb1に接続され、ソースは接地される。
【0136】
このようなコアバイアス回路140は、電流Ib1を出力する電流源141にトランジスタMn1がダイオード接続されることにより、常に電流Ib1がノードVb1に流れている。このため、ノードVb1の電圧は、直流電圧Vb1となる。このように、コアバイアス回路140は、ノードVb1に直流電圧Vb1を生成する。
【0137】
また、コアバイアス回路140がノードVb1に直流電圧Vb1を生成することにより、ノードVb2の電圧Vb2は、ノードVb1の電圧Vb1と等しくなる。すなわち、ノードVb1の電圧Vb1は、ノードVb2に電圧Vb2としてコピーされる。
【0138】
また、IVコンバータ130において、トランジスタMp5とトランジスタMp4とのサイズ比は、トランジスタMn2とMn3とのサイズ比と等しくなるように設定されている。
【0139】
このため、ノードVb3の電圧Vb3は、ノードVb2の電圧Vb2と等しくなり、この結果、電圧Vb3は電圧Vb1と等しくなる。
【0140】
バッファ150は、オペアンプ151、出力端子152、及びインバータ153を含む。
【0141】
オペアンプ151は、非反転入力端子がノードVb3に接続され、反転入力端子が出力端子152に接続され、自己の出力端子がインバータ153の入力端子に接続されている。
【0142】
出力端子152は、インバータ153の出力端子に接続されている。出力端子152は、
図5に示す入力トランス10の二次側の中点12Cに接続されており、中点12Cにバイアス電圧Vbias1を供給する。
【0143】
インバータ153は、トランジスタMp6及びMn4を有し、入力端子がオペアンプ151の出力端子に接続され、自己の出力端子が出力端子152に接続される。
【0144】
トランジスタMp6は、PMOSトランジスタであり、ソースが直流電源VDDに接続され、ゲートがインバータ153の入力端子とトランジスタMn4のゲートとに接続され、ドレインがトランジスタMn4のドレインとインバータ153の出力端子とに接続される。
【0145】
トランジスタMn4は、ドレインがトランジスタMp6のドレインとインバータ153の出力端子とに接続され、ソースが接地され、自己のゲートがトランジスタMp6のゲートとインバータ153の入力端子とに接続される。
【0146】
なお、オペアンプ151の出力端子と、インバータ153の入力端子との間のノードをノードVb4とし、ノードVb4における電圧を電圧Vb4とする。
【0147】
バッファ150は、オペアンプ151の非反転入力端子に入力される電圧Vb3と、反転入力端子に入力されるバイアス電圧Vbias1とが等しくなるように動作する。従って、ノードVb3の電圧Vb3と、出力端子152から出力されるバイアス電圧Vbias1とは等しい。
【0148】
バッファ150は、ノードVb3の寄生容量を小さくすることにより、ノードVb3、ノードVb4、及び出力端子152における信号のカットオフ周波数を包絡線の周波数よりも高く設定するために設けられている。
【0149】
ここで、
図8を用いて、IVコンバータ130とバッファ150を設けることの効果について説明する。
【0150】
図8は、実施の形態の増幅器100の制御回路110においてIVコンバータ130とバッファ150を設けることの効果を説明する図である。
【0151】
まず、
図8(A)には、比較用に、
図7に示す制御回路110からIVコンバータ130とバッファ150を取り除いた制御回路110Aを示す。制御回路110Aでは、包絡線検波部120のトランジスタMp2のドレインと、コアバイアス回路140の電流源141及びトランジスタMn1の接続点との間からバイアス電圧Vbias1を出力する。
【0152】
図8(A)に示す制御回路110Aでは、IVコンバータ130がないため、包絡線検波部120から見た、コアバイアス回路140の電流源141及びトランジスタMn1の接続点(
図7に示すノードVb1に対応する点)における入力抵抗は小さくなる。
【0153】
このため、コアバイアス回路140の電流源141及びトランジスタMn1の接続点において電圧は電圧Vb1からあまり上昇せず、バイアス電圧Vbias1は、包絡線検波部120から出力される電流Idetに応じて増大しない。
【0154】
このため、入力トランス10の二次側の中点12Cに供給するバイアス電圧Vbias1は、電流Idetに応じた電圧ではなくなってしまう。
【0155】
このような理由から、包絡線検波部120とコアバイアス回路140との間に、ノードVb3(
図7参照)から見た入力抵抗の大きいIVコンバータ130を設けている。
【0156】
また、
図8(B)に示す制御回路110Bは、比較用に、
図7に示す制御回路110からバッファ150を取り除いたものである。制御回路110Bでは、包絡線検波部120のトランジスタMp2のドレインと、IVコンバータ130のトランジスタMp4及びMn3の接続点との間からバイアス電圧Vbias1を出力する。
【0157】
制御回路110Bでは、包絡線検波部120から見て、IVコンバータ130によって大きな入力抵抗が得られるが、バイアス電圧Vbias1を出力するノード110B1の寄生容量が大きくなってしまう。
【0158】
ノード110B1の寄生容量をCgとすると、ノード110B1におけるカットオフ周波数は、1/(2π×Rin×Cg)と表せる。Rinは、包絡線検波部120から見たIVコンバータ130の入力抵抗である。
【0159】
すなわち、寄生容量Cgが大きいと、ノード110B1におけるカットオフ周波数は低下する。
【0160】
本実施の形態では、包絡線検波部120から出力される電流Idetに追従して、入力トランス10の二次側の中点12Cにバイアス電圧Vbias1を供給する必要があるため、
図8(B)に示すノード110B1のカットオフ周波数を包絡線の周波数よりも高く設定したい。
【0161】
このような理由から、
図7に示すように、ノードVb3にバッファ150を接続し、バッファ150の出力端子152から、入力トランス10の二次側の中点12Cにバイアス電圧Vbias1を供給するようにしている。
【0162】
以上より、
図7に示すノードVb3、バッファ150のオペアンプ151の出力側のノードVb4、及び出力端子152におけるカットオフ周波数は、
図9に示すような関係を有するように、包絡線検波部120、IVコンバータ130、及びバッファ150を設計することが望ましい。
【0163】
図9は、実施の形態の増幅器100の各ノードにおけるカットオフ周波数の関係を示す図である。
【0164】
ノードVb3、バッファ150のオペアンプ151の出力側のノードVb4、及び出力端子152におけるカットオフ周波数を、それぞれ、ω
Vb3, ω
Vb4, ω
Vbias1とする。また、PA段40(
図5参照)に含まれるRCフィルタのカットオフ周波数をω
N1, ツートーン信号の周波数をω
1、ω
2、包絡線の周波数をω
2-ω
1とする。
【0165】
なお、ここでは、説明の便宜上、各周波数を角周波数ωで表して説明を行う。
【0166】
ここで、カットオフ周波数ω
Vb3は、IVインバータ130の入力抵抗Rinとオペアンプ151の寄生容量Copにより、1/(2π×Rin×Cop)と表される。また、カットオフ周波数ω
Vb4は、オペアンプ151の出力抵抗Rout1と、インバータ153の寄生容量Cinにより、1/(2π×Rout1×Cin)と表される。
【0167】
また、カットオフ周波数ω
Vbias1は、DR段20のゲート容量Cdrとインバータ153の出力抵抗Rout2により、1/(2π×Rout2×Cdr)と表される。
【0168】
図9に示すように、カットオフ周波数ω
Vb3, ω
Vb4, ω
Vbias1を包絡線の周波数をω
2-ω
1よりも高く設定することが好ましい。これは、包絡線検波部120から出力される電流Idetに追従したバイアス電圧Vbiasを制御回路110から出力できるようにするためである。
【0169】
また、PA段40(
図5参照)に含まれるRCフィルタのカットオフ周波数をω
N1は、包絡線の周波数をω
2-ω
1よりも低く設定する。これは、PA段40のゲート容量は、例えば、数10pF程度と非常に大きく、数MHzの周波数の包絡線に追従しながらゲート容量を充電することは困難だからである。このため、PA段40のカットオフ周波数は、包絡線の周波数よりもはるかに低く設定される。
【0170】
次に、
図10を用いて、包絡線検波部120から出力される電流Idetについて説明する。
【0171】
図10は、入力端子101Aに入力される入力信号Vin、包絡線検波部120から出力される電流Idet、及びバッファ150から出力されるバイアス電圧Vbias1の関係を示す図である。
【0172】
図10(A)は、実施の形態の増幅器100において得られる入力信号Vin、電流Idet、バイアス電圧Vbias1の関係を示し、
図10(B)は、比較用に、バイアス電圧Vbias1が電流Idetに追従できずに遅延している場合の各波形の関係を示す。
図10(B)は、バッファ150を用いない制御回路110B(
図8(B)参照)を
図7に示す制御回路110の代わりに用いた場合に得られる入力信号Vin、電流Idet、バイアス電圧Vbias1の関係を示す。
【0173】
図10(A)に示すように、電圧Vb3は電流Idetに応じた電圧として与えられる。電流Idetは、入力信号Vinの振幅がある程度大きい(所定振幅以上)ときに流れている。これは、包絡線検波部120のトランジスタMp2がC級の増幅器として動作することによって実現されている。なお、入力信号Vinの振幅は、包絡線(
図6参照)の腹の部分で大きく、節の部分で小さい。
【0174】
図10(A)では、バイアス電圧Vbias1は電流Idetに追従しているので、電圧Vb3と同じ振幅で、かつ、同じ位相で変化することになる。なお、ノードVb1、Vb2の電圧Vb1、Vb2は、電圧Vb3の最小電圧(電流Idetが流れずに一定になる区間の電圧)に等しい。これは、電流Idetが流れないときのノードVb3の電圧は、
図7に示す回路の対称性より、ノードVb2の電圧Vb2と等しくなるからである。
【0175】
これに対して、
図10(B)では、バイアス電圧Vbias1は電流Idetに対して遅延しており、追従できていない。これは、
図8(B)に示す制御回路110Bを
図7に示す制御回路110の代わりに用いると、ノードVb3の寄生容量が大きくなり、ノードVb3におけるカットオフ周波数が、包絡線の周波数よりも低くなり、電流Idetにバイアス電圧Vbias1が追従できなくなるからである。
【0176】
以上のように、バッファ150を設けることにより、
図10(A)に示すように、電流Idetに追従するバイアス電圧Vbias1を得ることができる。
【0177】
なお、バッファ150を設けない場合(すなわち、
図8(B)に示す制御回路110Bを
図7に示す制御回路110の代わりに用いた場合)は、2つのIM3信号の信号レベルが大きく異なる(スプリットを起こす)場合がある。このような2つのIM3信号のスプリットについて
図11を用いて説明する。
【0178】
図11は、2つのIM3信号のスプリットを示す図である。
図11では、2つのIM3信号をIM3+とIM3−として示す。IM3+は、周波数が2ω
2−ω
1の成分であり、IM3−は周波数が2ω
1−ω
2の成分である。
【0179】
2つのIM3信号IM3+、IM3−がスプリットを起こすと、一方のみが破線で示す許容上限を超えてしまう場合があり得る。このように2つのIM3信号のうちの一方だけでも許容上限を超える場合は、増幅器100の出力信号から歪みを十分に低減できていないことになる。
【0180】
このため、電流Idetにバイアス電圧Vbias1が追従できるように、ノードVb3、バッファ150のオペアンプ151の出力側のノードVb4、及び出力端子152におけるカットオフ周波数が包絡線の周波数よりも高くなるようにする必要がある。このようなカットオフ周波数の設定を実現するために、バッファ150を用いることは非常に有効的である。
【0181】
以上のような制御回路110を設計する際には、電流Idetの値を決める包絡線の所定振幅の値、及び、各部におけるカットオフ周波数等を最適化して上述の動作を実現できるようにするために、制御回路110に含まれる構成要素のサイズ(特にトランジスタのサイズ)、抵抗値、又はキャパシタンス等のパラメータを設定すればよい。
【0182】
次に、
図12を用いて、制御回路160について説明する。
【0183】
図12は、実施の形態の増幅器100の制御回路160を示す図である。
【0184】
制御回路160は、包絡線検波部170、電流付加回路180、及びコアバイアス回路190を含む。これらのうち、包絡線検波部170及びコアバイアス回路190は、
図7に示す包絡線検波部120及びコアバイアス回路140と同様の回路構成を有する。
【0185】
包絡線検波部170は、入力端子171、トランジスタMp1、抵抗器R1、電流源172、キャパシタC1、C2、抵抗器R2、及びトランジスタMp2を含む。これらは、それぞれ、包絡線検波部120の入力端子121、トランジスタMp1、抵抗器R1、電流源122、キャパシタC1、C2、抵抗器R2、及びトランジスタMp2と同様である。
【0186】
包絡線検波部170は、
図5に示す入力端子101Aから入力端子171に入力される入力信号Vinの包絡線の振幅が所定振幅以上の場合に、電流Idetを出力する。包絡線検波部170は、第2包絡線検波部の一例である。
【0187】
電流付加回路180は、入力端子181、電流源182、出力端子183、トランジスタMp7、Mp8、Mn7、Mn8、キャパシタC7、C8、C9、C10、抵抗器R3、R4を含む。
【0188】
入力端子181は、ノードVb3を介して、包絡線検波部170のトランジスタMp2のドレインに接続されており、包絡線検波部170から電流Idetが入力される。なお、ノードVb3から入力端子181を見た場合の入力抵抗は、トランジスタMp7とMn7の出力抵抗の合成抵抗によって決まる。入力端子181に対して、トランジスタMp7とMn7は並列に接続されているため、ノードVb3から見た入力端子181の入力抵抗は、トランジスタMp7の出力抵抗と、トランジスタMn7の出力抵抗とを並列接続して得る合成抵抗によって表される。
【0189】
トランジスタMp7は、PMOSトランジスタである。トランジスタMp7は、ソースが直流電源VDDに接続され、ドレインが入力端子181、トランジスタMn7のドレイン、及び自己のゲートに接続されている。
【0190】
トランジスタMp7のゲートは、抵抗器R3を介してトランジスタMp8のゲートに接続されている。また、トランジスタMp7のゲート−ソース間にはキャパシタC7が接続される。トランジスタMp7は、トランジスタMn7に対してダイオード接続されている。
【0191】
トランジスタMp8は、ソースが直流電源VDDに接続され、ドレインが出力端子183に接続される。トランジスタMp8のゲートは、抵抗器R3を介してトランジスタMp7のゲートに接続されている。また、トランジスタMp8のゲート−ソース間には、キャパシタC8が挿入されている。
【0192】
抵抗器R3とキャパシタC7及びC8とは、ローパスフィルタを構築する。このローパスフィルタのカットオフ周波数は、包絡線の周波数よりもかなり低くなるように設定される。このため、ローパスフィルタではトランジスタMp7のゲートから入力される信号の交流成分は除去され、直流成分だけが出力される。
【0193】
なお、ローパスフィルタからキャパシタC7を取り除いてもよい。ローパスフィルタにキャパシタC7を入れるか入れないかは、電流付加回路180の動作特性等に応じて決定すればよい。
【0194】
電流源182は、入力端子が直流電源VDDに接続され、出力端子がトランジスタMn8のドレイン及びゲートに接続される。電流源182は、直流電流Ib2を出力する定電流源である。
【0195】
トランジスタMn7は、ドレインが入力端子181と、トランジスタMp7のドレイン及びゲートとに接続され、ゲートが抵抗器R4を介してトランジスタMn8のゲート及びドレインに接続されている。
【0196】
抵抗器R4は、トランジスタMn7のゲートと、トランジスタMn8のゲートとの間に挿入されており、抵抗器R4の両端には、キャパシタC9、C10が接地電位点との間に分岐して接続されている。抵抗器R4、キャパシタC9、C10は、π型のローパスフィルタを構築する。このローパスフィルタのカットオフ周波数は、トランジスタMn7とMn8のゲート間における電圧の揺らぎを吸収できる程度に設定すればよい。
【0197】
トランジスタMn8とMn7は、カレントミラー回路を構築するため、トランジスタMn8に流れる電流Ib2は、トランジスタMn7にコピーされる。このため、トランジスタMn7に流れる電流は、Ib2に応じた電流Ib3に固定される。電流Ib3の電流値は、トランジスタMn8とMn7のサイズ比によって決まる。すなわち、電流Ib2とIb3との電流値の比は、トランジスタMn8とMn7のサイズ比によって決まる。
【0198】
ここで、包絡線検波部170から電流付加回路180に入力端子181を介して入力される電流Idetは、包絡線検波部170に入力される入力信号Vinの包絡線の振幅が所定振幅未満のときはゼロであり、包絡線の振幅が所定振幅以上になると、振幅に応じて増大する。
【0199】
すなわち、包絡線の振幅が所定振幅以上になるときに電流Idetは包絡線の振幅に応じた電流値になり、包絡線の振幅が所定振幅未満ときにはゼロである。
【0200】
このため、電流付加回路180のトランジスタMn7には、入力信号Vinの包絡線の振幅が所定振幅未満のときはトランジスタMp7のみから電流Ib7が流入する。
【0201】
また、電流付加回路180のトランジスタMn7には、入力信号Vinの包絡線の振幅が所定振幅以上になると、包絡線の振幅に応じた電流Idetが包絡線検波部170のトランジスタMp2から流入することにより、電流Idetの電流値に応じて、トランジスタMp7から流入する電流Ib7が減ることになる。
【0202】
従って、トランジスタMp7には、入力信号Vinの包絡線の振幅が所定振幅未満のときは、電流源182の出力電流Ib2に応じた電流Ib7が流れる。このときの電流Ib7は、電流Ib3と等しい。
【0203】
また、トランジスタMp7に流れる電流Ib7は、入力信号Vinの包絡線の振幅が所定振幅以上のときは、包絡線の振幅に応じて包絡線検波部170から出力される電流Idetの分だけ減ることになる。すなわち、このときの電流Ib7は、Ib3−Idetとなる。
【0204】
ここで、トランジスタMp7とカレントミラー回路を構築するトランジスタMp8には、トランジスタMp7とMp8とのサイズ比に応じたコピー電流Ib8が流れる。
【0205】
このため、トランジスタMp8から出力端子183に出力される電流Ib8は、入力信号Vinの包絡線の振幅が所定振幅未満のときは、包絡線検波部170の電流Idetがゼロであるため、電流Ib3にトランジスタMp7とMp8のサイズ比を乗じた電流になる。すなわち、このときの電流Ib8は、電流源182の出力電流Ib2に応じた電流である。
【0206】
従って、入力信号Vinの包絡線の振幅が所定振幅未満の場合には、トランジスタMp8から出力端子183に流れる電流Ib8は、電流源182の出力電流Ib2に応じた一定の電流になる。
【0207】
また、トランジスタMp8から出力端子183に流れる電流Ib8は、入力信号Vinの包絡線の振幅が所定振幅以上のときは、包絡線の振幅に応じて包絡線検波部170から出力される電流Idetに応じた分だけ減ることになる。これは、トランジスタMp7に流れる電流Ib7が電流Idetの分だけ減り、Ib3−Idetになるためである。
【0208】
また、電流Idetが交流的に変動しても、抵抗器R3とキャパシタC7、C8のローパスフィルタにより、トランジスタMp8のゲートに入力される電圧は直流電圧になる。
【0209】
従って、入力信号Vinの包絡線の振幅が所定振幅以上のときに、トランジスタMp8から出力端子183に流れる電流Ib8は、電流源182の出力電流Ib2に応じた一定の電流Ib3から、電流Idetの増加分に対応する直流電流を減じた直流電流になる。
【0210】
コアバイアス回路190は、入力端子191、電流源192、トランジスタMn1、及び出力端子193を含む。電流源192及びトランジスタMn1は、それぞれ、
図7に示すコアバイアス回路140の電流源141及びトランジスタMn1と同様であるが、電流源192の出力端子と、トランジスタMn1のドレインとの間に接続される入力端子191には、電流付加回路180の出力端子183が接続されている。
【0211】
コアバイアス回路190は、電流源192から出力される電流Ib1に、電流付加回路180から入力端子191に出力される電流Ib8を加えた合成電流(Ib1+Ib8)に応じたバイアス電圧Vbias2を出力端子193に出力する。
【0212】
電流付加回路180から入力端子191に入力される電流Ib8は、入力信号Vinの包絡線の振幅が所定振幅未満のときは、電流源182の出力電流Ib2に応じた一定の電流である。
【0213】
また、電流付加回路180から入力端子191に出力される電流Ib8は、入力信号Vinの包絡線の振幅が所定振幅以上のときは、電流源182の出力電流Ib2に応じた一定の電流Ib3から、電流Idetの増加分に対応する電流だけ減じた直流電流になる。
【0214】
従って、コアバイアス回路190の出力端子193から出力されるバイアス電圧Vbias2は、入力信号Vinの包絡線の振幅が所定振幅未満のときは、電流源192の出力電流Ib1と、電流源182の出力電流Ib2に応じた電流Ib8とを合わせた電流(Ib1+Ib8)によって定まる一定の電圧になる。
【0215】
また、コアバイアス回路190の出力端子193から出力されるバイアス電圧Vbias2は、入力信号Vinの包絡線の振幅が所定振幅以上のときは、電流Idetの増加分に対応する電圧だけ低い直流電圧になる。
【0216】
以上より、制御回路160のコアバイアス回路190の出力端子193から、段間トランス30の二次側の中点32Cに供給されるバイアス電圧Vbias2は、入力信号Vinの包絡線の振幅が所定振幅未満のときの方が、入力信号Vinの包絡線の振幅が所定振幅以上のときよりも高くなる。
【0217】
なお、電流付加回路180及びコアバイアス回路190は、第2変換回路の一例である。
【0218】
ここで、小信号動作時は、入力信号の包絡線の振幅が小さいので、包絡線の振幅が所定振幅以上になる割合は比較的少ない。これに対して、大信号動作時は、入力信号の包絡線の振幅が大きいので、包絡線の振幅が所定振幅以上になる割合は比較的多い。
【0219】
このため、段間トランス30の二次側の中点32Cに供給されるバイアス電圧Vbias2は、小信号での動作領域に比較的大きな直流電圧になり、大信号での動作時に比較的小さな直流電圧になる。
【0220】
実施の形態の増幅器100では、このような制御回路160が出力するバイアス電圧Vbias2を用いて、PA段40の利得特性を制御する。
【0221】
次に、
図13を用いて、PA段40の動作について説明する。
【0222】
図13は、入力端子101Aに入力される入力信号Vin、包絡線検波部170から出力される電流Idet、及びコアバイアス回路190から出力されるバイアス電圧Vbias2の関係を示す図である。
【0223】
図13(A)は、大信号動作時における、入力信号Vin、電流Idet、バイアス電圧Vbias2の関係を示す。
図13(B)は、小信号動作時における、各波形の関係を示す。
【0224】
なお、大信号動作時には、入力信号Vinの包絡線の振幅(腹の部分の振幅)は、
図13(A)に示すように大きくなる。また、小信号動作時には、入力信号Vinの包絡線の振幅(腹の部分の振幅)は、
図13(B)に示すように小さくなる。
【0225】
図13(A)に示すように、電圧Vb3は電流Idetに応じた電圧として与えられる。電流Idetは、入力信号Vinの振幅がある程度大きい(所定振幅以上)ときに流れている。これは、包絡線検波部170のトランジスタMp2がC級の増幅器として動作することによって実現されている。なお、入力信号Vinの振幅は、包絡線(
図6参照)の腹の部分で大きく、節の部分で小さい。入力信号Vinの振幅は、ベースバンド信号の振幅に対応する。
【0226】
従って、大信号出力時には、バイアス電圧Vbias2は、電流Idetの増加分に対応して低下した直流電圧になる。
【0227】
一方、
図13(B)に示すように、小信号動作時には、入力信号Vinの包絡線の振幅は、
図13(A)に示す大信号出力時における入力信号Vinの包絡線の振幅よりも小さい。
【0228】
そして、
図13(B)に示すように、小信号動作時における電流Idetのピーク値は、
図13(A)に示す大信号動作時に比べると低い。なお、
図13(B)には電流Idetが流れる場合を示すが、小信号動作時に入力信号Vinの包絡線の振幅が所定振幅を超えない場合には電流Idetは流れない。
【0229】
従って、小信号動作時におけるバイアス電圧Vbias2は、
図13(A)に示す大信号動作時におけるバイアス電圧Vbias2よりも高くなる。
【0230】
以上のように、制御回路160によれば、小信号動作時のバイアス電圧Vbias2を、大信号動作時におけるバイアス電圧Vbias2よりも高くすることができる。
【0231】
従って、制御回路160を用いれば、PA段40の小信号動作時における出力電力に対する利得の特性をよりフラット(一定)な特性に補正することができる。これは、
図4(B)の小信号動作時において出力電力の増大に伴って少しずつ増大する利得の特性をフラットな(一定の)特性に補正できることを意味する。
【0232】
なお、バイアス電圧Vbias2の電圧値は、電流源182及び192、トランジスタMn7、Mn7、Mp7、Mp8、ローパスフィルタ(C7、C8、R3)、及び、ローパスフィルタ(C9、C10、R4)等の特性と、包絡線の振幅に応じて出力される電流Idetとによって決まる。このため、PA段40の小信号動作時における利得の改善と、小信号動作時よりも出力電力の高い動作領域でのPA段40の動作特性とを両立できるように、制御回路160に含まれる構成要素のサイズ(特にトランジスタのサイズ)、抵抗値、又はキャパシタンス等のパラメータを設定すればよい。
【0233】
次に、
図14及び
図15を用いて、実施の形態の増幅器100の動作について説明する。
【0234】
ここで、実施の形態の増幅器100では、制御回路110及び160でそれぞれバイアス電圧Vbias1及びVbias2を上述のように制御するが、制御回路160によるバイアス電圧Vbias2の制御は必ずしも行わなくてもよい。例えば、小信号動作時における出力電力に対する利得の特性が、増幅器100の動作に際して問題にならない場合には、増幅器100は、制御回路160の代わりに、前提技術の増幅器1(
図3参照)のバイアス回路70を用いてもよい。
【0235】
図14及び
図15は、実施の形態の増幅器100の動作を示す図である。
図14は、制御回路160の代わりに、前提技術の増幅器1(
図3参照)のバイアス回路70を用いた場合の増幅器100の動作特性を示す。
図15は、制御回路110及び160の両方を用いてバイアス電圧Vbias1及びVbias2を制御する場合の増幅器100の動作特性を示す。
【0236】
図14(A)には、バイアス電圧Vbias1を実線で示し、バイアス電圧Vbias2を破線で示す。バイアス電圧Vbias1は制御回路110から出力され、バイアス電圧Vbias2は前提技術の増幅器1(
図3参照)のバイアス回路70から出力される。
【0237】
このため、バイアス電圧Vbias1は、出力電力の増大に伴って増大しており、特に、出力電力が26.0dBm以上の動作領域において二次関数的に増大している。
【0238】
一方、バイアス電圧Vbias2は出力電力が増大しても一定である。これは、
図14(A)に示すバイアス電圧Vbias2は前提技術の増幅器1(
図3参照)のバイアス回路70から出力されるものだからである。
【0239】
図14(B)において、増幅器100のIM3信号を細実線で示す。また、細破線は前提技術の増幅器1(
図3参照)のIM3信号であり、
図4(A)に細実線で示した特性と同一である。
【0240】
図14(B)から分かるように、IM3信号は、制御回路110でバイアス電圧Vbias1を
図14(A)に示すように制御することにより、動作点である27.0dBmにおいて低減された。
【0241】
なお、動作点(27.0dBm)よりも出力電力が低い領域では前提技術よりも増大したが、動作点でのIM3信号が低減されているため、前提技術よりも歪みの小さい良好な特性が得られたことが分かる。
【0242】
また、
図14(C)には、増幅器100の消費電流と利得を実線で示し、前提技術の増幅器1の消費電流と利得を破線で示す。
【0243】
増幅器100の消費電流は、出力電力が26.0dBm以上の領域で前提技術の増幅器1に比べて低減されており、増幅器100の利得は、出力電力が26.0dBm以上の領域で前提技術の増幅器1に比べて、よりフラットな特性となっており、一定の特性に近づけられたことが分かる。
【0244】
以上より、制御回路160の代わりに、前提技術の増幅器1(
図3参照)のバイアス回路70を用いた場合の増幅器100において、前提技術の増幅器100よりも、出力信号の出力に対する利得の特性が一定の特性に近づくように利得の特性を改善できることが分かった。
【0245】
次に、
図15を用いて制御回路110及び160でバイアス電圧Vbias1、Vbias2が制御される増幅器100の動作について説明する。
【0246】
図15(A)には、バイアス電圧Vbias1を実線で示し、バイアス電圧Vbias2を破線で示す。バイアス電圧Vbias1は制御回路110から出力され、バイアス電圧Vbias2は制御回路160から出力される。
【0247】
このため、バイアス電圧Vbias1は、出力電力の増大に伴って増大しており、特に、出力電力が26.0dBm以上の動作領域において二次関数的に増大している。
【0248】
また、バイアス電圧Vbias2は出力電力が低い領域で高く、出力電力が増大すると低下している。すなわち、バイアス電圧Vbias2は、小信号動作時に高く、大信号動作時に低くなる特性を有する。
【0249】
図15(B)において、増幅器100のIM3信号を細実線で示す。また、細破線は前提技術の増幅器1(
図3参照)のIM3信号であり、
図4(A)に細実線で示した特性と同一である。
【0250】
図15(B)から分かるように、IM3信号は、制御回路110及び160でバイアス電圧Vbias1及びVbias2を
図15(A)に示すように制御することにより、全体的に低減され、許容上限よりも低くなった。
【0251】
また、
図15(C)には、増幅器100の消費電流と利得を実線で示し、前提技術の増幅器1の消費電流と利得を破線で示す。
【0252】
増幅器100の消費電流は、出力電力が26.0dBm以下の領域で前提技術の増幅器1よりも少し増えているが、許容上限よりも十分に低いレベルに保たれている。また、出力電力が28.0dBm以上の動作領域において前提技術の増幅器1よりも低減されている。
【0253】
増幅器100の利得は、出力電力が24.0dBm以下の動作領域で増大しており、よりフラットな特性となっており、一定の特性に近づけられたことが分かる。また、出力電力が26.0dBm以上の大信号動作時においても、前提技術の増幅器1に比べて、よりフラットな特性となっており、一定の特性に近づけられたことが分かる。
【0254】
以上より、制御回路110及び160を用いた増幅器100では、前提技術の増幅器100よりも、出力信号の出力に対する利得の特性が一定の特性に近づくように利得の特性を改善できることが分かった。
【0255】
小信号動作時における利得の改善は、制御回路160でPA段40のゲートに入力するバイアス電圧Vbias2を小信号側で増大させたことによって得られたものである。
【0256】
また、大信号動作時における利得の改善は、制御回路110でDR段20のゲートに入力するバイアス電圧Vbias1を大信号側で増大させたことによって得られたものである。
【0257】
以上のように、実施の形態によれば、出力電力に対する利得の特性が一定の特性に近づくように利得の特性を改善した増幅器100を提供することができる。
【0258】
実施の形態の増幅器100において、制御回路110でDR段20に入力されるゲート電圧のバイアス電圧Vbias1を調整するのは、次のような理由による。DR段20はPA段40よりもサイズが小さく、ゲート容量が小さいため、PA段40よりも駆動制御を行いやすいからである。
【0259】
このため、包絡線に追従可能なカットオフ周波数の高いバイアス回路構成(制御回路110の回路構成)を実現することにより、大信号動作時における出力電力に対する利得の調整をDR段20で行っている。なお、DR段20のサイズは、例えば、PA段40の1/2〜1/10程度である。
【0260】
また、PA段40は、上述のようにゲート容量が大きいため、制御回路160では、包絡線検波部170が出力する電流Idetを用いて電流付加回路180及びコアバイアス回路190でバイアス電圧Vbias2を生成する過程で、電流Idetの電流値をローパスフィルタ等を用いて直流成分に変換している。このような制御回路160によってバイアス電圧Vbias2を生成することにより、小信号動作時における利得の特性を改善している。
【0261】
なお、以上では、入力トランス10がシングルエンド形式の入力信号を差動形式の信号に変換する形態について説明したが、入力信号が差動形式である場合は、入力トランス10の一次巻線を差動信号に対応させて2つ用意すればよい。
【0262】
また、以上では、DR段20とPA段40の2つの差動増幅段があり、初段側のDR段20の大信号動作時における利得の特性が一定の特性に近づくように、DR段20に供給するバイアス電圧Vbias1を制御回路110で制御する形態について説明した。
【0263】
しかしながら、差動増幅段が3段以上ある場合には、初段と最終段との間にある差動増幅段について、DR段20と同様に、大信号動作時における利得の特性が一定の特性に近づくように、バイアス電圧を制御してもよい。
【0264】
また、差動増幅段が4段以上ある場合には、最終段以外の差動増幅段について、DR段20と同様に、大信号動作時における利得の特性が一定の特性に近づくように、バイアス電圧を制御してもよい。
【0265】
また、ローパスフィルタの回路構成、各トランジスタのサイズ等は、適宜変更することができる。
【0266】
以上、本発明の例示的な実施の形態の増幅器について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
以上の実施の形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
(付記1)
入力信号が一次側に入力され、前記入力信号に基づく差動信号を二次側から出力する第1トランスと、
前記第1トランスの二次側に接続される第1差動増幅段と、
前記第1差動増幅段の出力側に接続される第2トランスと、
前記第2トランスの出力側に接続される第2差動増幅段と、
前記第2差動増幅段から出力される差動信号をシングルエンド形式の出力信号に変換する第3トランスと、
前記第1トランスの二次側コイルに第1バイアス電圧を供給する第1バイアス回路と
を含み、
前記第1バイアス回路は、前記出力信号の電力に対する利得の特性が、前記出力信号の電力に対して利得が一定になる特性に近づくように、前記入力信号に基づき、前記出力信号の電力が第1電力以上の動作領域において、前記第1バイアス電圧を第1電圧以上に制御する、増幅器。
(付記2)
前記入力信号は、ベースバンド信号と第1周波数の信号とを合成した信号であり、
前記第1バイアス回路は、前記入力信号の包絡線の振幅に応じて、前記出力信号の電力が第1電力以上の動作領域において、前記第1バイアス電圧を第1電圧以上に制御する、付記1記載の増幅器。
(付記3)
前記第1バイアス回路は、
前記包絡線の振幅が第1振幅以上のときに前記包絡線の振幅に応じた電流を出力する第1包絡線検波部と、
前記第1包絡線検波部から出力される電流を前記第1バイアス電圧に変換する第1変換回路と
を有する、付記2記載の増幅器。
(付記4)
前記第1包絡線検波部は、前記入力信号の振幅に応じてC級動作することにより、前記電流を出力するトランジスタを有する、付記3記載の増幅器。
(付記5)
前記第1バイアス回路は、さらに、前記第1変換回路から前記第1バイアス電圧を出力する出力ノードにおけるカットオフ周波数を前記包絡線のカットオフ周波数よりも高く設定するように制御するバッファを有する、付記3又は4記載の増幅器。
(付記6)
前記バッファは、
一方の入力端子に前記出力ノードが接続され、他方の入力端子が前記バッファの出力端子に接続されるオペアンプと、
前記オペアンプの出力端子に自己の入力端子が接続され、自己の出力端子が前記バッファの出力端子に接続されるインバータと
を有し、
前記バッファの出力端子から前記第1バイアス電圧を出力する、付記5記載の増幅器。
(付記7)
前記第2トランスの二次側コイルに第2バイアス電圧を供給する第2バイアス回路をさらに含み、
前記第2バイアス回路は、前記出力信号の電力に対する利得の特性が一定な特性に近づくように、前記入力信号に基づき、前記出力信号の電力が前記第1電力よりも低い第2電力以下の動作領域において、前記第2バイアス電圧を第2電圧以上に制御する、付記1乃至6のいずれか一項記載の増幅器。
(付記8)
前記第2バイアス回路は、
前記包絡線の振幅が第2振幅以上のときに前記包絡線の振幅に応じた電流を出力する第2包絡線検波部と、
前記第2包絡線検波部から出力される電流を前記第2バイアス電圧に変換する第2変換回路と
を有する、付記7記載の増幅器。
(付記9)
前記第1バイアス回路は、前記ベースバンド信号の振幅に応じて、前記出力信号の電力が前記第1電力以上の動作領域において、前記第1バイアス電圧を前記第1電圧以上に制御する、付記2乃至6のいずれか一つ記載の増幅器。