特許第6291798号(P6291798)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6291798
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】永久磁石式回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/27 20060101AFI20180305BHJP
   H02K 1/22 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   H02K1/27 501K
   H02K1/27 501M
   H02K1/22 A
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-233924(P2013-233924)
(22)【出願日】2013年11月12日
(65)【公開番号】特開2015-95954(P2015-95954A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年10月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】今盛 聡
(72)【発明者】
【氏名】大口 英樹
【審査官】 田村 惠里加
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−260920(JP,A)
【文献】 特開平09−285050(JP,A)
【文献】 特開2011−035997(JP,A)
【文献】 特開2009−273240(JP,A)
【文献】 特開2013−223407(JP,A)
【文献】 特開2010−193660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/00−1/34,15/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子コア、及び前記固定子コアに巻装された励磁コイルを有する固定子と、
前記固定子コアと所定の間隔を隔てて対向して回転自在に配置された回転子コア、前記回転子コアに設けられた複数の磁石スロット、及び前記複数の磁石スロット各々の内部に個別に配設された複数の永久磁石を有する回転子とを備える永久磁石式回転電機であって、
前記磁石スロットの前記固定子コア側の一端と前記永久磁石との間に、比透磁率が“1”より大きく前記回転子コアの比透磁率より小さい弱磁性材が設けられ、かつ前記磁石スロットの前記回転子コアの回転中心側の他端と前記永久磁石との間に空洞部が設けられていることを特徴とする永久磁石式回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の永久磁石式回転電機において、
前記励磁コイルの巻線は平角線であり、
前記弱磁性材は、比透磁率が“4.5”以下であることを特徴とする永久磁石式回転電機。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の永久磁石式回転電機において、
前記弱磁性材は、バインダと軟磁性粉末とを混合した材料からなることを特徴とする永久磁石式回転電機。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の永久磁石式回転電機において、
前記弱磁性材は、棒状に加工されたオーステナイト系ステンレスであることを特徴とする永久磁石式回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石式回転電機に関し、特に、励磁コイルを巻装した固定子と、回転子コアの磁石スロットに永久磁石が設けられた回転子とを有する永久磁石式回転電機に適用して有効な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
埋込磁石形の永久磁石式回転電機は、回転子内部に永久磁石を埋め込み、永久磁石から発生する磁束が固定子に巻回した励磁コイルとの鎖交磁束量に応じて発生するマグネットトルクに加えて、回転子鉄心の磁気抵抗を利用したリラクタンストルクを利用した回転電機である。永久磁石は、回転子の回転子コアに設けられた磁石スロットの内部に埋め込まれている。
【0003】
この種の永久磁石式回転電機では、コギングトルクと呼ばれる一種のトルク脈動が発生することが知られている。永久磁石式回転電機においてコギングトルクが大きい場合は、回転電機の制御性能が悪化したり、雑音が発生したりするといった問題が生じる。
コギングトルクは、回転子の回転に伴って磁気エネルギが変化するために発生する。即ち、回転子の位置によって磁気抵抗が変化するので、回転子の回転により磁気抵抗の変化が少なくなるようにすれば、コギングトルクを低減することができる。
【0004】
そこで、構造の工夫によりコギングトルクを低減する技術が、例えば特許文献1に開示されている。この技術は、回転子の回転子コアにスキューを施す、即ち、回転子コアを積層方向に複数分割し、これら分割した物を所定の角度ずらして回転子コアを構成することにより、コギングトルクを小さくするというものである。
また、特許文献2には、固定子コアにスキューを施す技術が開示されているが、この技術のように固定子コアにスキューを施すことにより、コギングトルクを小さくすることもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−80079号公報
【特許文献1】特開2012−196033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2のように、回転子コアや固定子コアにスキューを施しても十分にコギングトルクが低減できないケースが存在する。しかも、スキューを施すための余分な工程が必要であり、コスト高騰化の面で問題がある。
そこで、本発明者は、一般的な永久磁石式回転電機では、回転子コアの磁石スロットの内部において、磁石スロットの端と永久磁石との間に空洞部が設けられていることに着目し、本発明をなした。
【0007】
本発明の目的は、低コストでコギングトルクを低く抑えることができる永久磁石式回転電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る永久磁石式回転電機は、固定子コア、及び前記固定子コアに巻装された励磁コイルを有する固定子と、前記固定子コアと所定の間隔を隔てて対向して回転自在に配置された回転子コア、前記回転子コアに設けられた複数の磁石スロット、及び前記複数の磁石スロットの各々の内部に個別に設けられた複数の永久磁石を有する回転子とを備える永久磁石式回転電機であって、前記磁石スロットの前記固定子コア側の一端と前記永久磁石との間に、比透磁率が“1”より大きく前記回転子コアの比透磁率より小さい弱磁性材が設けられ、かつ前記磁石スロットの前記回転子コアの回転中心側の他端と前記永久磁石との間に空洞部が設けられている。
【0009】
この本発明の一態様に係る永久磁石式回転電機によれば、永久磁石からの磁束が弱磁性材に漏れるため、回転子の回転による磁気抵抗の変化が少なくなるので、コギングトルクを低く抑えることができる。また、回転子コアの磁石スロットの内部に永久磁石を設ける際、永久磁石と共に弱磁性材を設けることができるので、製造工程の増加や回転電機の形状の大幅な変更を招かずに済む。この結果、本発明の一態様に係る永久磁石式回転電機によれば、低コストでコギングトルクを低く抑えることができる。
【0010】
また、本発明の一態様に係る永久磁石式回転電機において、前記励磁コイルの巻線は平角線であり、前記弱磁性材は、比透磁率が“4.5”以下であることが好ましい。
この本発明の一態様に係る永久磁石式回転電機によれば、コギングトルクを低く抑えることができると共に、無負荷誘起電圧の低下を最小限に抑えることができる。
また、本発明の一態様に係る永久磁石式回転電機において、前記弱磁性材は、バインダと軟磁性粉末とを混合した材料からなることが好ましい。
また、本発明の一態様に係る永久磁石式回転電機において、前記弱磁性材は、棒状に加工されたオーステナイト系ステンレスであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低コストでコギングトルクを低く抑えることができる永久磁石式回転電機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る永久磁石式回転電機の概略構成を示す断面図である。
図2図1の回転子を抽出して示す断面図である。
図3】磁石スロットに埋め込む弱磁性材の比透磁率と、コギングトルク及び無負荷誘起電圧との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を詳細に説明する。なお、発明の一実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
本実施形態では、永久磁石式回転電機として、4極24スロットの埋込磁石形同期回転電機に本発明を適用した例について、図1乃至図3を用いて説明する。
【0014】
なお、本発明は、極数やスロット数、その他各部分の寸法などによって何ら制約を受けるものではなない。
本実施形態の埋込磁石形同期回転電機1は、円筒状フレーム2と、この円筒状フレーム2の内周側に配置された固定子10と、この固定子10の内周側に所定のエアギャップGを介して対向する回転子20とを備えている。回転子20は、その中心部に嵌挿された回転軸3に支持されて回転自在に配置されている。
【0015】
固定子10は、固定子コア11と、この固定子コア11の内周面側に円周方向に等間隔で形成された24個のスロット12及び24個の磁極ティース13とを有している。各磁極ティース13には、スロット12内に巻装された励磁コイル14が巻回されている。
ここで、励磁コイル14の巻き方については大別すると集中巻と分布巻とに分けられる。本発明は集中巻及び分布巻の両者において効果を発揮するものであり、図1において巻方を限定するものではない。
【0016】
回転子20は、積層鉄心で形成された回転子コア21と、この回転子コア21に設けられた4つの磁極22とを有している。この場合の回転子コア21の比透磁率は、通常1000〜10000程度である。
4つの磁極22の各々は、回転子コア21の周方向に90°の間隔を隔てて配置されている。4つの磁極22の各々は、回転子コア21の軸方向の両端まで(互いに反対側に位置する2つの側面に亘って)貫通する貫通孔からなる一対の磁石スロット23(23a,23b)と、これら一対のスロット23a,23bに挿入されて接着材又は充填材によって固定された永久磁石24とを有している。永久磁石24は、回転子20の隣接する磁極22間において極性が異なるように配置されている。
【0017】
一対の磁石スロット23a,23b及び永久磁石24は、回転子コア21の軸方向に沿って長尺状で形成され、回転子コア21の軸方向と直交する断面形状(開口形状)が矩形状で形成されている。永久磁石24は、例えば希土類磁石粉を焼結して形成された部材である。
一対の磁石スロット23a,23bは、回転子コア21の軸方向に沿う長手方向と直交する短手方向(図1及び図2の断面に沿う方向)の端部同士が回転子コア21の回転中心側に凸となるようにV字状に形成されている。これに応じて、一対の磁石スロット23a,23bにそれぞれ挿入された永久磁石24も、回転子コア21の軸方向に沿う長手方向と直交する短手方向の端部同士が回転子コア21の回転中心側に凸となるようにV字状に配置されている。
【0018】
一対の磁石スロット23a,23bは、その短手方向に互いに反対側に位置する両端(一端及び他端)おいて、一端が固定子コア11側に位置し、他端が回転子コア21の回転中心側に位置している。これに応じて、一対の磁石スロット23a,23bにそれぞれ挿入された永久磁石24も、その短手方向に互いに反対側に位置する両端(一端及び他端)おいて、一端が固定子コア11側に位置し、他端が回転子コア21の回転中心側に位置している。
【0019】
永久磁石24の短手方向の幅は、一対の磁石スロット23a,23bの短手方向の幅よりも小さな寸法になっている。これは、一対の磁石スロット23a,23bの各々に永久磁石24を挿入し易くするためである。したがって、一般的な埋込磁石形同期回転電機1では、本実施形態の図面を参照すれば、回転子コア21の磁石スロット23の内部において、永久磁石24の短手方向の両端側(一端側及び他端側)に空洞部、即ち、永久磁石24が無い領域を有している。本発明は、この永久磁石24が無い領域を積極的に活用するものである。本実施形態の埋込磁石形同期回転電機1では、永久磁石24の一端側(固定子コア11側)、即ち、一対の磁石スロット23a,23bの一端(固定子コア11側)と永久磁石24との間に、比透磁率μsが“1”よりも大きく回転子コア21の比透磁率よりも小さい弱磁性材25を埋め込んで設けている。一方、永久磁石24の他端側(回転子コア21の回転中心側)、即ち、一対の磁石スロット23a,23bの他端(回転子コア21の回転中心側)と永久磁石24との間には、空洞部26が設けられている。この空洞部26には、比透磁率が“1”である空気が設けられている。
【0020】
このように構成された本実施形態の埋込磁石形同期回転電機1は、複数の永久磁石24が発生する磁束と励磁コイル14に流れる電流との相互作用により回転子に回転トルクが発生する。
本実施形態の埋込磁石形同期回転電機1は、回転子20の各磁極22における永久磁石24間の円周方向の中央部と回転軸3の軸心とを結ぶ線がd軸となる。また、回転子20の隣接する磁極22間において極性の異なる永久磁石24間と回転軸3の軸心とを結ぶ線がq軸となる。このため、d軸方向の磁束の磁路にはエアギャップGと同じ磁気抵抗の大きな永久磁石24が存在し、磁束は通りにくいが、q軸方向の磁束は回転子コア21を通ることができるため、この方向の磁気抵抗は小さくなり、d軸インダクタンスLとq軸インダクタンスLとがL<Lの突極性を有する。このため、電機子巻線の自己インダクタンス及び相互インダクタンスは回転角の2倍で変化し、さらに永久磁石24の電機子鎖交磁束も回転子20の回転角の余弦で変化する。
【0021】
したがって、マグネットトルクにリラクタンストルクを加算した高トルク化を図ることができる。ここで、マグネットトルクは、永久磁石24の電機子鎖交磁束のみの変化によりエネルギ変換が行われて発生するトルクである。また、リラクタンストルクは電機子自己及び相互インダクタンスの変化に応じてエアギャップGに貯えられた磁気エネルギが機械エネルギに変換されて発生するトルクである。
【0022】
ところで、コギングトルクは、回転子20の回転に伴う磁気エネルギの変化によって発生するため、回転子20の位置によって磁気抵抗が変化する。つまり、回転子20の回転により磁気抵抗の変化が少なくなるようにすれば、コギングトルクを低減することができる。
そこで、本実施形態の埋込磁石形同期回転電機1は、磁石スロット23の固定子コア11側の一端と、この磁石スロット23内の永久磁石24との間に、比透磁率μsが“1”より大きく回転子コア21の比透磁率より小さい弱磁性材25を設けた構成になっている。
【0023】
したがって、本実施形態の埋込磁石形同期回転電機1によれば、永久磁石24からの磁束が、比透磁率μsが“1”より大きく回転子コア21の比透磁率より小さい弱磁性材25に漏れるため、回転子20の回転による磁気抵抗の変化が少なくなるので、コギングトルクを低く抑えることができる。
弱磁性材25は、樹脂、接着材などのバインダと軟磁性粉末とを所望の比透磁率μsになるような比率(好ましくは1<μs≦4.5)で混合し、磁石スロット23に練り込む、若しくは成形後に固化したものを差し込むことで容易に形成することができる。バインダに用いる具体的な材料としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。また、軟磁性粉末に用いる具体的な材料としては、Fe,Fe−Si,Fe−Si−Al,Fe−Ni,Fe−Co,Fe−Si−B系などの軟磁性アモルファス、Mn−Zn系などのソフトフェライトなどが挙げられる。
【0024】
また、弱磁性材25は、棒状に加工されたオーステナイト系ステンレスを差し込むことによって容易に形成することができる。オーステナイト系ステンレスは加工歪によって比透磁率が僅かに増加することが知られており、これを用いることができる。この場合、加工条件にもよるが、弱磁性材25の部材全体での平均的な比透磁率μsは、約1<μs≦3程度になる。
【0025】
回転子20の磁石スロット23は、鉄板を積層して回転子コア21を形成する前に鉄板にプレス機で打ち抜くことにより形成、又は鉄板を積層して回転子コア21を形成した後にプレス機で打ち抜くことにより形成される。また、永久磁石24は、磁石スロット23を有する回転子コア21を形成した後、この回転子コア21の磁石スロット23に挿入され、接着材又は充填材によって固定される。
【0026】
したがって、回転子コア21の磁石スロット23に永久磁石24を挿入して設ける際、磁石スロット23に弱磁性材25を練り込む、若しくは差し込むことにより、永久磁石24と共に弱磁性材25を容易に埋め込むことができるので、従来のように回転子コアや固定子コアにスキューを施す場合と比較して製造工程数の増加や回転電機の形状の大幅な変更を招かずに済む。この結果、本実施形態の埋込磁石形同期回転電機1によれば、低コストでコギングトルクを低く抑えることができる。
【0027】
ここで、埋込磁石形同期回転電機1では、回転子20の隣接する磁極22間において極性の異なる永久磁石24間のブリッジ部分21aが回転子コア21と同じ材料(鉄心)で形成されている。このように、ブリッジ部分21aが回転子コア21と同じ材料(鉄心)で形成されている場合は、このブリッジ部分21aに磁束が大量に漏れてしまい、無負荷誘起電圧が低下してしまう。そこで、一般的な埋込磁石形同期回転電機では、本実施形態の図面を参照すれば、磁石スロット23の一端(固定子10側)と永久磁石24との間に空洞部を設け、この空洞部に比透磁率が約“1”である空気を設けるようにすることで、ブリッジ部分21aへの磁束の漏れを抑制し、無負荷誘起電圧の低下を抑制することができる。しかしながら、磁石スロット23の一端と永久磁石24との間の空洞部の比透磁率を“1”にしてしまうと、今度はコギングトルクが増加してしまう。
【0028】
そこで、磁石スロット23に埋め込む弱磁性材25の比透磁率μsと、コギングトルク及び無負荷誘起電圧との関係について説明する。
埋込磁石形同期回転電機1のトルクTは、極対数P,磁石のつくる鎖交磁束Ψ,d軸インダクタンスL,q軸インダクタンスL,d軸電流i,q軸電流iとすると次式となる。
【0029】
T=PΨ+P(L−L)i ……(1)
上記の(1)式において、第1項は永久磁石24がつくる磁束と電流の相互作用によって生じるトルク、すなわちマグネットトルクを表し、第2項はリラクタンストルクを表している。また、Ψと無負荷誘起電圧は比例する関係にある。
上記の(1)式における第1項のΨが小さくなると、マグネットトルクが低下し、同一トルクを得るための電流が増加することは明らかである。
【0030】
よって、電磁界解析によりコギングトルクと無負荷誘起電圧を求め、磁石スロットに埋める弱磁性材25の適切な比透磁率μsを導出した。
図3に解析結果を示す。ただし、図2において、磁石スロット23の一端側(固定子コア側)の弱磁性材25の比透磁率μsのみを変化させ、磁石スロット23の他端側(回転子コアの中心軸側)の空洞部26は比透磁率μsを“1”に固定した。
【0031】
図3より、磁石スロット23の一端側(固定子コア11側)を埋める弱磁性材25の比透磁率μsが大きくなると、コギングトルクが低下することがわかる。同時に無負荷誘起電圧も低下している。
図3より、磁石スロット23の一端側を埋める弱磁性材25の比透磁率μsを“3”とすると、コギングトルクは約30%低減しているものの、無負荷誘起電圧の低下は約15%にとどまっている。
【0032】
無負荷誘起電圧が低下した場合、電流量を増やすことで所望のトルクを確保することができる。しかしながら、単純に電流量を増やすと銅損が増加して発熱し、絶縁の許容限界を超えてしまうなどの問題が発生する。
そこで、回転電機の形状を大幅に変更することなく、銅損を抑える方法として、一般的に励磁コイル14の巻線として使用される丸線を平角線に変更するという手法が考えられる。平角線は占積率90%程度で巻くことが可能であるので、丸線の場合の占積率70%と比較して巻線抵抗を9/7倍まで落とすことができる。これは、発生する銅損を増やさないという条件下では、電流を√(9/7)倍まで増やすことができるということを意味する。
【0033】
磁石スロット23に弱磁性材25を挿入することで無負荷誘起電圧がk倍になったと仮定すると、上記の(1)式よりマグネットトルクは無負荷誘起電圧と電流量の絶対値に比例するため、「弱磁性材挿入+巻線変更」でマグネットトルクは√(9/7)k倍になり、上記の(1)式よりリラクタンストルクは電流量の絶対値の二乗に比例するため、リラクタンストルクは9/7倍となる。
【0034】
ここで、本実施形態の埋込磁石形同期回転電機1におけるマグネットトルクとリラクタンストルクとの比率を8:2とすると、合計トルクが「弱磁性材挿入+巻線変更」の前と同じになるためには、下記の(2)式により、k=0.8189が許容限界である。
√(9/7)k×0.8+(9/7)×0.2=1 ……(2)
つまり、無負荷誘起電圧は18%の低下まで許容できる。この考え方では弱磁性材25の比透磁率μsは、図3より“3.5”付近まで許容できるということになる。
【0035】
上記の説明では、マグネットトルクとリラクタンストルクとの比率を8:2としているが、マグネットトルクとリラクタンストルクとの比率は9:1から7:3の範囲が一般的である。上記の(2)式によると、比率が9:1のときのkは約0.85、比率が7:3のときのkは約0.77となり、図3での比透磁率μsはそれぞれ“3”、“4.5”となる。
【0036】
したがって、磁石スロット23の一端(固定子コア11側の端)と永久磁石24との間に埋め込まれる弱磁性材25の比透磁率μsは“4.5”を上限とすることが好ましく、このように弱磁性材25の比透磁率μsを“1”より大きく“4.5”以下(1<μs≦4.5)とすることで、コギングトルクを低く抑えることができると共に、無負荷誘起電圧の低下を最小限に抑えることができる。
【0037】
なお、埋込磁石形同期回転電機1は、d軸で磁束が通り難い方がリラクタンストルクを稼げるが、磁石スロット23の内部において、磁石スロット23の他端(回転子コア21の回転軸側)と永久磁石24との間に弱磁性材25を埋め込むとd軸で磁束が通り易くなるので、磁石スロット23の他端(回転子コア21の回転軸側)と永久磁石24との間には弱磁性材25を埋め込まない方が好ましい。
【0038】
以上説明したように、本実施形態の埋込磁石形同期回転電機1によれば、以下の効果が得られる。
(1)本実施形態の埋込磁石形同期回転電機1は、磁石スロット23の固定子コア11側の一端と永久磁石24との間に、比透磁率が“1”より大きく回転子コア21の比透磁率より小さい弱磁性材25が設けられている。
【0039】
したがって、本実施形態の埋込磁石形同期回転電機1によれば、永久磁石24からの磁束が弱磁性材25に漏れるため、回転子20の回転による磁気抵抗の変化が少なくなるので、コギングトルクを低く抑えることができる。また、回転子コア21の磁石スロット23の内部に永久磁石24を埋め込む際、永久磁石24と共に弱磁性材25を埋め込むことができるので、従来のように回転子コアや固定子コアにスキューを施す場合と比較して製造工程の増加や回転電機の形状の大幅な変更を招かずに済む。この結果、本実施形態の埋込磁石形同期回転電機1によれば、低コストでコギングトルクを低く抑えることができる。
【0040】
(2)本実施形態の埋込磁石形同期回転電機1において、励磁コイル14の巻線は平角線とし、弱磁性材25の比透磁率は“4.5”以下とすることで、コギングトルクを低く抑えることができると共に、無負荷誘起電圧の低下を最小限に抑えることができる。
以上説明したように、本発明に係る永久磁石式回転電機は、低コストでコギングトルクを低く抑えることができるという効果を有し、励磁コイルを巻装した固定子と、磁石スロットの内部に永久磁石が設けられた回転子とを有する永久磁石式回転電機に有用である。
【符号の説明】
【0041】
1…埋込磁石形同期回転電機1(永久磁石式回転電機)、2…円筒状フレーム、3…回転軸
10…固定子、11…固定子コア、12…スロット、13…磁性ティース、14…励磁コイル
20…回転子、21…回転子コア、21a…ブリッジ部分、22…磁極、23…磁石スロット、24…永久磁石、25…弱磁性材、26…空洞部
図1
図2
図3