(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
レンズによって集光されたレーザー光を、凹凸形状を有する基板に照射し、該基板からの反射光および/または散乱光の光強度を画像データとして取得して前記凹凸形状の高さの差異を検出する検出方法であって、
前記レンズの焦点位置よりも前記レンズに近い位置であって、前記レンズの焦点距離をf、前記基板を前記焦点位置から前記レンズに近づける距離をαとしたとき、α/fが所定の範囲内となるように設定されるαに応じた位置に前記基板の光照射面を配置し、該光照射面からの反射光および/または散乱光を検出光として受光し、該受光した光の強度の変化に基いて前記基板の高さの差異を検出することを特徴とする検出方法。
前記基板の光照射面を前記焦点位置に配置した場合に、該光照射面からの正反射光を前記検出光から分離する光学系を用いることを特徴とする請求項1に記載の検出方法。
凹凸形状が形成され、各々蛍光標識されたサンプルと結合可能な複数のプローブが配置されたマイクロアレイに対し、対物レンズを介して前記蛍光標識の励起波長を含む光を照射し、かつ前記マイクロアレイからの光を受光して、該受光した光に基づく画像をもとに前記マイクロアレイの解析を行うマイクロアレイの解析方法であって、
前記蛍光標識からの蛍光を検出して蛍光画像データを取得する蛍光画像データ取得ステップと、
前記対物レンズの焦点距離をf、前記マイクロアレイを前記対物レンズの焦点位置から前記対物レンズに近づける距離をαとしたとき、α/fが所定の範囲内となるように設定されるαに応じた位置に前記マイクロアレイの表面を配置し、前記マイクロアレイの表面からの光を検出して、前記蛍光画像データのアライメントを行うアライメント用画像データを取得するアライメント用画像データ取得ステップと、
前記アライメント用画像データの光強度の変化をもとに、前記凹凸形状の高さの差異を検出する検出ステップと、
前記検出ステップによって検出された前記凹凸形状の高さの差異に基づいて前記蛍光画像データを補正する補正ステップと、
前記補正ステップによって補正された前記蛍光画像データにおける各プローブの位置を決定する位置決定ステップと、
を含み、
前記アライメント用画像データ取得ステップは、前記マイクロアレイの表面を、前記対物レンズの焦点位置に対して該対物レンズに近い位置に配置した状態で、前記アライメント用画像データを取得することを特徴とするマイクロアレイの解析方法。
凹凸形状が形成され、各々蛍光標識されたサンプルと結合可能な複数のプローブが配置された基板から、前記蛍光標識の蛍光を含む光を受光して、該受光した光に基づく画像データを取得する蛍光読取装置であって、
少なくとも所定波長の励起光を含む照明光を出射する光源と、
前記照明光を前記基板に照射するとともに、該照明光が照射された前記基板の表面からの光を受光する対物レンズと、
前記対物レンズが受光した光を検出して、該検出した蛍光による蛍光画像データおよび前記基板からの光による基板画像データを取得する画像取得部と、
画像取得部によって取得された前記基板画像データをもとに、前記凹凸形状の高さの差異を検出する検出部と、
前記検出部によって検出された前記凹凸形状の高さの差異をもとに、前記蛍光画像データを補正する補正部と、
前記基板を保持する保持手段と、
前記保持手段を前記対物レンズの光軸に沿って移動させる駆動部と、
を備え、
前記駆動部は、前記画像取得部により前記基板画像データを取得する際、前記対物レンズの焦点位置に対して、前記対物レンズに近い位置であって、前記対物レンズの焦点距離をf、前記基板を前記焦点位置から前記対物レンズに近づける距離をαとしたとき、α/fが所定の範囲内となるように設定されるαに応じた位置に前記基板を配置するように前記保持手段を移動させることを特徴とする蛍光読取装置。
【背景技術】
【0002】
1990年以降、生物学、医学、薬学方面でマイクロアレイと呼ばれる技術の開発が進み利用されるようになってきた。マイクロアレイは、ガラスやプラスチックなどの基板上に、数十から数万のプローブを固定したものであって、蛍光分子などで標識されたサンプル(ターゲット)をこの基板にアプライし、プローブとサンプルとの結合反応を蛍光などで検出するためのものである。マイクロアレイは一度に網羅的な測定が可能であり、今後テーラーメード医療に必須のものになると期待されている。
【0003】
従来、DNAをプローブとして基板に固定したDNAマイクロアレイ(以下、DNAチップ)や、タンパク質をプローブとして基板に固定したタンパク質マイクロアレイ、多数の微小標本をプローブとして基板に固定化した組織マイクロアレイ、多数の低分子化合物をプローブとして基板に固定化した化合物マイクロアレイなどが知られている。
【0004】
このうち、DNAチップは、最も実用化が進んでおり、疾患に関連する遺伝子の探索や、その遺伝子を用いて検査、診断を行おうとする研究が活発に行われており、一部は実用化されている。
【0005】
以下にマイクロアレイの一形態であるDNAチップについて、詳細に説明する。
【0006】
DNAチップは、ガラスや樹脂等からなる基板の上にDNAをグリッド状にスポット(固定化)したものである。DNAチップ上には、標識されるDNAサンプルと特異的に反応可能なプローブとして、一本鎖のDNA(DNAプローブ)がスポットされている。なお、DNAプローブは、配列が既知のものが用いられる。一方、解析すべき未知配列のDNAサンプル(一本鎖DNA)には、光学的に検出可能な発光又は蛍光マークを付けておく。こうすると、解析すべき未知配列のDNAサンプルをDNAチップ上に流し込んだ場合、該DNAサンプルの配列がDNAプローブの配列と相補的な関係にあれば、DNAプローブとDNAサンプルとが結びついて二本鎖のDNAになる。したがって、DNAプローブと結びつかなかったDNAサンプルをすべて洗い流し、DNAチップ上に残存する判定したいDNAサンプルを発光させ、この発光を読取り装置(スキャナー)により読みとると、二本鎖となったDNAの状況を画像として観察することができる。すなわち、DNAチップ上で発光するマークの分布を解析することで、求める遺伝子の存在や、ある遺伝子が発現しているか否か、またはどの程度発現しているかを解析することができる。このように、DNAチップ上に既知の配列を有するDNAプローブセットを構成し、それぞれ異なる配列のDNAプローブをDNAチップ上に搭載することで、遺伝子の変異や遺伝子の発現量などを検出することができる。
【0007】
以下、
図13に、DNAチップ解析の一連の処理工程の詳細を示す。
【0008】
図13に示す前処理工程においては、検体から抽出したDNAサンプル中に含まれる未知のDNAを増幅し、これらのDNAに蛍光マーク(例えば、Cy3,Cy5など)を付与する(ステップS201)。
【0009】
次にハイブリダイゼーション工程において、多種類のDNAプローブが搭載されたDNAチップの基板上に、蛍光マークを付与したDNAサンプルを滴下する。ここで、DNAサンプルがスポットされたDNAプローブと相補的な関係にあれば、結びついて二本鎖になる(ステップS202)。
【0010】
次に、洗浄工程において、所定の洗浄液により、ハイブリダイズされたDNAチップを洗浄する(ステップS203)。これにより、グリッド状に配置されたDNAプローブと結びつかなかったDNAサンプルがすべて洗い流される。
【0011】
続いて、洗浄されたDNAチップに対し、光を照射してスキャニングする(ステップS204)。スキャニング工程においては、蛍光マークを励起するのに適した波長のレーザー光をDNAチップに照射し、各DNAプローブにそれぞれ結びついた(ハイブリダイズした)DNAサンプルからの蛍光を電気信号として取得する。これにより、スポットされた各DNAプローブ(遺伝子)と結合したDNAサンプルに付与された蛍光マークの発光量が測定され、それに基づいて解析処理を行う蛍光画像データを得ることができる。
【0012】
解析工程においては、得られた蛍光画像データに対してテンプレートを利用して各スポットの蛍光強度を算出し、各種の解析を実行する(ステップS205)。
【0013】
ここで、
図14に、DNAチップ解析に用いられるDNAチップ100の一例を示す。
図14に示すDNAチップ100は、凹凸形状を有する矩形の板状をなす。DNAチップ100は、板面が格子状に分割されてなる複数のブロック101を有する。このブロック101の上面には、略円柱状または円錘台状をなして設けられ、個々の遺伝子に対応するDNAプローブを複数固定し、行方向および列方向に所定数、マトリクス状に配列された複数のスポット102が形成されている。また、複数のブロック101は、角柱状に切り欠かれてなる凹部103の底部に形成されている。なお、スポット102上に配置されるDNAプローブは、既にその塩基配列が解読されている互いに異なる遺伝子にそれぞれ対応するものであり、ブロック101上におけるその配置位置は予め定められている。
【0014】
また、
図15に、DNAチップの蛍光画像データに対して適用されるテンプレートの一例を示す。
図15に示すように、テンプレートは、複数(例えば、
図15では32個)のブロック(ブロック101に対応)に分割されており、各ブロック内においてはm行n列(
図15では22×22)のマトリクス状に配置された検出エリア(DNAチップ100の個々のスポット102に対応する)が設けられている。
【0015】
上記の解析工程においては、読みとったDNAチップの蛍光画像データ中の個々のスポット102に、解析ツールが提供するテンプレートの検出エリアを当てはめ(アライメント)、当該検出エリアにおいて各スポット102の蛍光強度を算出する。このとき、正確な解析を実行するためには画像上の個々のスポット102に対してテンプレートの個々の検出エリアが正しく設定されるよう、アラインメント処理が正確に実行される必要がある。
【0016】
このアライメントの方法としては、ブロック単位でアライメントを行うパターンマッチング法や投影法などがある。そして、特許文献1が開示する技術のように、ポジティブコントロールと呼ばれる蛍光物質やどのような検体にでも含まれているハウスキーピング遺伝子をスポットしたチップを使用して、アライメントを正確に行なおうとする試みもなされている。
【0017】
さらには、特許文献2が開示する技術のように、基板からの反射光や散乱光で凹凸形状を画像化し、この画像からアライメントを行う方法も考案されている。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態にかかるスキャナーの光学系の一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本実施の形態にかかるスキャナーで読み取ったDNAチップの画像の一例を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態にかかるスキャナーの光学系の要部の構成を示す模式図である。
【
図4-1】
図4−1は、本発明の実施の形態にかかるスキャナーの光学系の要部の構成を示す模式図である。
【
図4-2】
図4−2は、本発明の実施の形態にかかるスキャナーの光学系の要部の構成を示す模式図である。
【
図5-1】
図5−1は、本発明の実施の形態にかかるスキャナーで読み取ったDNAチップの画像を説明する図である。
【
図5-2】
図5−2は、本発明の実施の形態にかかるスキャナーで読み取ったDNAチップの画像を説明する図である。
【
図5-3】
図5−3は、本発明の実施の形態にかかるスキャナーで読み取ったDNAチップの画像を説明する図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施の形態にかかる画像のアライメント処理を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、本発明の実施の形態にかかる
アライメント用画像データの四隅の座標の検出方法を説明する模式図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施の形態にかかるスキャナーで読み取ったDNAチップの画像を示す模式図である。
【
図9-1】
図9−1は、本発明の実施の形態にかかるスキャナーで読み取ったDNAチップの画像を説明する図である。
【
図9-2】
図9−2は、本発明の実施の形態にかかるスキャナーで読み取ったDNAチップの画像を説明する図である。
【
図9-3】
図9−3は、本発明の実施の形態にかかるスキャナーで読み取ったDNAチップの画像を説明する図である。
【
図10】
図10は、本発明の実施の形態にかかるスキャナーの光学系の他の例を示す模式図である。
【
図11-1A】
図11−1Aは、本発明の実施例にかかるDNAチップの画像を示す図である。
【
図11-1B】
図11−1Bは、本発明の実施例にかかるDNAチップにおける光強度変化のグラフである。
【
図11-2A】
図11−2Aは、本発明の実施例にかかるDNAチップの画像を示す図である。
【
図11-2B】
図11−2Bは、本発明の実施例にかかるDNAチップにおける光強度変化のグラフである。
【
図11-3A】
図11−3Aは、本発明の実施例にかかるDNAチップの画像を示す図である。
【
図11-3B】
図11−3Bは、本発明の実施例にかかるDNAチップにおける光強度変化のグラフである。
【
図11-4A】
図11−4Aは、本発明の実施例にかかるDNAチップの画像を示す図である。
【
図11-4B】
図11−4Bは、本発明の実施例にかかるDNAチップにおける光強度変化のグラフである。
【
図11-5A】
図11−5Aは、本発明の実施例にかかるDNAチップの画像を示す図である。
【
図11-5B】
図11−5Bは、本発明の実施例にかかるDNAチップにおける光強度変化のグラフである。
【
図11-6A】
図11−6Aは、本発明の実施例にかかるDNAチップの画像を示す図である。
【
図11-6B】
図11−6Bは、本発明の実施例にかかるDNAチップにおける光強度変化のグラフである。
【
図11-7A】
図11−7Aは、本発明の実施例にかかるDNAチップの画像を示す図である。
【
図11-7B】
図11−7Bは、本発明の実施例にかかるDNAチップにおける光強度変化のグラフである。
【
図11-8A】
図11−8Aは、本発明の実施例にかかるDNAチップの画像を示す図である。
【
図11-8B】
図11−8Bは、本発明の実施例にかかるDNAチップにおける光強度変化のグラフである。
【
図11-9A】
図11−9Aは、本発明の実施例にかかるDNAチップの画像を示す図である。
【
図11-9B】
図11−9Bは、本発明の実施例にかかるDNAチップにおける光強度変化のグラフである。
【
図11-10A】
図11−10Aは、本発明の実施例にかかるDNAチップの画像を示す図である。
【
図11-10B】
図11−10Bは、本発明の実施例にかかるDNAチップにおける光強度変化のグラフである。
【
図11-11A】
図11−11Aは、本発明の実施例にかかるDNAチップの画像を示す図である。
【
図11-11B】
図11−11Bは、本発明の実施例にかかるDNAチップにおける光強度変化のグラフである。
【
図11-12A】
図11−12Aは、本発明の実施例にかかるDNAチップの画像を示す図である。
【
図11-12B】
図11−12Bは、本発明の実施例にかかるDNAチップにおける光強度変化のグラフである。
【
図12-1】
図12−1は、本発明の実施例にかかるスライドガラスの画像を示す図である。
【
図12-2】
図12−2は、
図12−1の画像における矢印P
13−P
13’間における光強度変化を示すグラフである。
【
図12-3】
図12−3は、
図12−1の画像における矢印P
13−P
13’間におけるスライドガラス上の高さの差異を示すグラフである。
【
図13】
図13は、従来のDNAチップ解析の一連の処理工程の詳細を示すフローチャートである。
【
図14】
図14は、従来のDNAチップ解析に用いられるDNAチップの一例を示す模式図である。
【
図15】
図15は、従来のDNAチップの蛍光画像データに対して適用されるテンプレートの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により本発明が限定されるものではない。また、以下の説明において参照する各図は、本発明の内容を理解でき得る程度に形状、大きさ、および位置関係を概略的に示してあるに過ぎない。従って、本発明は各図で例示された形状、大きさ、および位置関係のみに限定されるものではない。
【0035】
一般的にマイクロアレイの蛍光読取装置(スキャナー)は、励起波長の光ビームおよび/またはマイクロアレイを一次元的または二次元的に走査して、基板上の検体からの蛍光を検出し、そのデータを画像化し、その画像を元に、各プローブ(サンプルに標識された蛍光標識)からの蛍光量を求める。本発明で用いるスキャナーの好ましい光学系を
図1に示す。
図1は、本発明の実施の形態にかかるスキャナーの光学系の一例を示す模式図である。
【0036】
例えば
図1に示すスキャナー1は、レーザー光源、対物光学系、光学フィルタ、蛍光画像データおよびアライメント用画像データ(基板画像データ)を取得する画像取得部等から構成され、スキャナー1は、上述したDNAチップ100(マイクロアレイ)を二方向に走査するための走査機構(図示しない、また本明細書ではDNAチップ100の主面において、基板の長手方向をy軸、それに直交する方向をx軸とする)と、DNAチップ100を複数載置するオートローダー機構(図示しない)と、を有する。
【0037】
具体的に、スキャナー1は、それぞれ特定波長の励起光を少なくとも含む照明光を基板表面に出射するレーザー光源11,12と、該励起光を受光したプローブからの蛍光を平行光にする対物レンズ13と、レーザー光源11,12および対物レンズ13の間に設けられ、レーザー光源11,12からそれぞれ出射された照明光であって、光路N1上を進行する照明光を対物レンズ13側に通過させる穴140が形成されるとともに、DNAチップ100から発せられた光の少なくとも一部を光路N2側に折り曲げる穴あきミラー14と、レーザー光源11から発せられた励起光に応じた波長の光をカットしつつDNAプローブとハイブリダイズしたサンプルからの蛍光に応じた波長の光のみを透過させる励起光カットフィルタ15a、およびレーザー光源12から発せられた励起光に応じた波長の光をカットしつつ、DNAプローブとハイブリダイズしたサンプルからの蛍光に応じた波長の光のみを透過させる励起光カットフィルタ15bを有するカットフィルタ15と、DNAプローブとハイブリダイズしたサンプルからの蛍光を結像する結像レンズ16と、DNAプローブとハイブリダイズしたサンプルからの蛍光を受光することによって蛍光画像データを取得するとともに、基板表面からの反射光を受光し、その受光強度からDNAチップ100のブロック101表面の凹凸形状を検出可能なアライメント用画像データとして取得する画像取得部17と、を備えている。なお、励起光カットフィルタ15a,15b(カットフィルタ15)は、穴あきミラー14と画像取得部17とを結ぶ光路N2に対して挿脱自在に設けられる。
【0038】
穴あきミラー14は、励起光をDNAチップ100(対物レンズ13)に入射させるための穴140が通常中央に設けられている。また、穴あきミラー14の穴140は、
図1に示すように、光読み取りの際に、ノイズとなる基板からの正反射光を画像取得部17側に導かないように、蛍光または励起光の反射光(検出光)と、基板からの正反射光とを幾何学的に分離する機能を有する。
【0039】
なお、
図1に示す態様においては、装置を小さくするために、レーザー光源11,12からの励起光をミラー18,19により屈折させてDNAチップ100に到達させる。
【0040】
また、走査機構の基準軸は、歪みの無い画像を得るために、直交していることが好ましい。走査機構としては、一般的に二軸共、スライダーを用いることが好ましい。
【0041】
さらに本実施の形態では、スキャナー1全体の制御を行う制御部20と、DNAチップ100を保持する保持部104(保持手段)を、DNAチップ100(ブロック101)の主面が対物レンズ13の光軸と平行な光路N1に沿うように移動させる制御を行う駆動部21と、を備える。駆動部
21の制御によって、DNAチップ100は、対物レンズ13に対して近接または離間する。
【0042】
また、制御部20は、DNAチップ100の表面における凹凸形状の高さの差異(以下、高さの差異という)を検出する検出部20aと、検出部20aが検出した高さの差異をもとに、画像取得部17が取得した画像を補正する補正部20bと、補正部20bが補正した画像に基づき、予め記録されている解析定義ファイルを参照して、DNAチップ100のスポット102の位置を決定する決定部20cと、を有する。
【0043】
本実施の形態では、サンプルに2種の蛍光マークを付け、それらの読み取りを行う装置としたため、当該2種の蛍光マークに対応した波長の光を出射するレーザー光源11,12と、出射される励起光の波長にそれぞれ対応した励起光カットフィルタ15a,15bとを備えている。しかしながら、サンプルに一種のみの蛍光マークをつけ、その読みとりを行う装置としてもよいし、3種以上の蛍光マークを付け、それらの読み取りを行う装置としてもよい。いずれの場合も、用いる蛍光マーク(蛍光色素)に対応したレーザー光源と励起光カットフィルタを設ければよい。
【0044】
次にスキャナー1での蛍光画像データの取得方法について述べる。まず、
図1を用いて蛍光画像データの取得方法について説明する。なお、以下では蛍光色素としてCy5、Cy3を用いた態様を説明するが、サンプルを標識するための蛍光色素はいずれか一方でもよいし、またこれらに限定されるものではない。蛍光色素としては例えば、Fluorescein、FITC、Alexa Fluor 555、Rhodamine、Cy3.5、Texas Red、TAMRA、Oyster 650、Cy5.5などを用いることができる。
【0045】
例えば、最初に蛍光色素Cy5を読み取るために、Cy5用のレーザー光源11(例えば波長635nmの光を発するレーザー光源)からレーザー光(すなわち蛍光色素Cy5の励起光)を照射する。レーザー光は、穴あきミラー14および対物レンズ13を介してDNAチップ100に照射される。照射されたレーザー光により励起発光した蛍光分子からの蛍光ならびにチップ表面で反射および/または散乱したレーザー光は、対物レンズ13で互いに略平行光にされ、光路N1において図中矢印方向に進行する。
【0046】
その後、蛍光ならびにレーザー光は、穴あきミラー14で反射されて光路N2上を進行し、光路N2上に配置されたCy5用の励起光カットフィルタ15aに入射する。なお、DNAチップ100の表面で正反射したレーザー光は、穴あきミラー14の穴140を通過する。励起発光した蛍光分子からの蛍光は、この励起光カットフィルタ15aを透過し、結像レンズ16で集光される。
【0047】
一方、励起光カットフィルタ15aに到達した励起光(チップ表面で反射および/または散乱した光)はカットされる。結像レンズ16で集光された蛍光は、画像取得部17に入射する。画像取得部17は、受光した光データに対して光電変換処理を施して、光の強弱に応じた電気信号(アナログ信号)を出力する。このような工程を、DNAチップ100を二方向に走査させて繰り返しつつ、画像取得部17から出力された電気信号をA/D変換して蛍光画像データを作成する。
【0048】
続いて、蛍光色素Cy3の読み込みを行う。蛍光色素Cy3の読み込みは、Cy5用のレーザー光源11をCy3用のレーザー光源12(例えばレーザー波長532nmの光を発するレーザー光源)に置き換えるとともに、Cy5用の励起光カットフィルタ15aをCy3用の励起光カットフィルタ15bに置き換える以外は、蛍光色素Cy5の読み込みと同様に行えばよい。すなわち、Cy3用のレーザー光源12からレーザー光(すなわち蛍光色素Cy3の励起光)を照射するとともに、Cy3用の励起光カットフィルタ15bにて該励起光カットフィルタ15bに到達した励起光(すなわちチップ表面で反射および/または散乱した光)を除去することで、蛍光色素Cy5と同様に蛍光画像データを作成する。
【0049】
図2は、本実施の形態にかかるスキャナー1で読み取ったDNAチップ100の画像の一例を模式的に示す図である。ここで、スキャナーの走査機構が2つのスライダーを備えたものである場合、これらスライダーが必ずしも直交しているとは限らない。装置組み立て時、もしくは時間の経過等に伴って、ずれてしまう場合がある。そのため、スキャナー1で読み取ったDNAチップ100の画像も、例えば
図2(a)に示すようにx軸に対して傾いている可能性がある。このように、取得した画像における走査機構の走査方向がx軸および/またはy軸と一致しない場合は得られた蛍光画像データが歪んでしまい、テンプレートの検出エリアを得られた画像に正しく位置合わせすることが出来ない。また、スライダーのx軸、y軸が機械的に直交していた場合でも、蛍光画像のx軸、y軸と、スライダーの軸とが直交していないため、DNAチップ100をセットした際に回転してしまい、結果的に蛍光画像が回転している場合もある。これらの場合も、テンプレートの検出エリアを得られた画像に正しく位置合わせすることができない。
【0050】
このため、画像から直交度のズレを検出して、スライダーが直交する走査機構で得られる画像と同等になるように補正することが好ましい。より具体的には、蛍光画像データをx軸に対してy軸方向に投影し、座標X毎の積算強度(各画素値の積算値)を算出する。この処理を、座標原点周りに蛍光画像データを予め設定した角度ずつ回転させて繰り返す。例えば、投影方向とスポットのy軸方向の配列方向がずれている場合の積算強度グラフは、
図2(b)に示すように振幅の小さいグラフになる。
【0051】
一方、投影方向とスポットのy軸方向の配列方向が一致した場合の積算強度グラフは、
図2(c)に示すように、一定の間隔で振幅に変化が生じ、信号の振幅が最大となる。投影データのこのような特徴を利用し、積算強度の標準偏差が最大値をとる角度を求めることで、スポット102のy軸に対する配列の角度を検出することができる。同様にx軸に対する配列の角度を求め、せん断変形等の画像処理を施すことでスポットの配列方向を直交させることが可能である。
【0052】
以上のようにして蛍光画像データを取得する場合、検体が非常に少ないと、蛍光色素Cy5、Cy3ともに、蛍光を発するDNAプローブ(DNAサンプルとハイブリダイズしたDNAプローブ)数が少なくなるためブロックの境界がわからず、また画像の直交度補正も出来ないため、アライメント処理が不可能となる。
【0053】
そこで、本発明においては、上記のような蛍光画像データのほかにDNAチップ100を再セットすることなく、アライメント用画像データも取得する。アライメント用画像データの取得の際には、対物レンズ13でレーザー光が集光された焦点位置よりも、DNAチップ100を対物レンズ13側に近づけて設置し、アライメント用画像データを取得することが好ましい。
図3は、本実施の形態にかかるスキャナー1の光学系の要部の構成を示す模式図である。
図4−1,4−2は、本実施の形態にかかるスキャナー1の光学系の要部の構成を示す模式図であって、
図4−1はDNAチップ100の凹部103において、傾斜を有する場合を示す図であり、
図4−2はDNAチップ100の凹部103において、傾斜を有しない場合を示す図である。
【0054】
図3は、入射光が穴あきミラー14を通してDNAチップ100のブロック101の表面(光照射面)に入射される様子を示している。入射光はレーザー光に代表される平行光である。入射光が対物レンズ13で集光された焦点位置(ジャストフォーカス位置、表面位置P0)にブロック101の表面があると仮定した場合、その正反射光は、対物レンズ13で集光され、理想的には入射光と同じ径となり、大部分の正反射光は、穴あきミラー14の穴140を通過し、画像取得部17側にはほとんど導かれない(
図3中実線矢印Y1)。但し、対物レンズ13の収差(球面収差、コマ収差、非点収差など)により、一部の反射光が穴あきミラー14で反射し、画像取得部17に導かれるが、その強度は小さい。
【0055】
一方、焦点位置よりも遠い位置(表面位置P1)にDNAチップ100のブロック101の表面がある場合、その表面からの正反射光は、対物レンズ13から見ると、焦点位置(表面位置P0)よりも遠い部分から発せられた点光源とみなされる。そのため、その反射光は対物レンズの入射光側で焦点を結ぶ(
図3中一点鎖線矢印Y2)。よって、穴あきミラー14の位置で、光の径が表面位置P0における表面からの光の径と比較して小さくなる。よって、大部分の正反射光は、穴あきミラー14の穴140を通過するため、画像取得部17側に導かれずさらに暗くなる。
【0056】
このような理由により、DNAチップ100の反射光を画像化すると、例えば、ブロック101の上面(対物レンズに近い部分)が明るく、凹部103の底部(対物レンズから遠い部分)が暗い画像を得ることができる。
【0057】
しかしながら、DNAチップ100の表面に微細な傷や付着物があった場合、そこで乱反射が生じる。その乱反射の光路を
図3の破線矢印Y3で示す。この乱反射した光は、穴あきミラー14で反射し、画像取得部17側に入る。このため、DNAチップ100の表面に微細な傷や付着物がある場合、乱反射による画像乱れが生じ、基板の凹凸を画像化出来ない場合が生じる。特に基板が樹脂製の場合、金型による成型で作製する場合が多いが、加工工具による金型の切削跡がそのまま基板に転写され、乱反射による画像乱れが生じる場合が多い。
【0058】
以上の不具合を解消するために、DNAチップ100の撮像対象表面を焦点位置(表面位置P0)よりも対物レンズ13に近づけた位置(表面位置P2)でアライメント用画像データを取得する。そうすると、
図3の点線矢印Y4で示すように、正反射光は、対物レンズ13から見て焦点距離よりも近い部分から発する点光源とみなされるので、対物レンズ13を通過しても発散し、穴あきミラー14で、画像取得部17側に反射する。このために、乱反射光(例えば、破線矢印Y3)の影響が少なくなり、基板の段差(エッジ)部分のみが暗くなる。
【0059】
撮像対象表面の表面位置P2は、対物レンズ13の焦点距離fと、DNAチップ100を焦点位置(表面P0)から対物レンズ13に近づける距離αとの関係α/fを用いて設定されることが好ましい。このα/fの好ましい範囲は、0.017〜0.17であり、更に好ましくは、0.033〜0.17である。駆動部21は、制御部20の制御のもと、設定されたαの位置にDNAチップ100の撮像対象面が配置されるように、保持部104を移動する制御を行う。
【0060】
ここで、
図4−1に示すように、DNAチップ100の凹部103の側面が角度θで傾斜している場合、その反射光は別の方向にけられる。また、凹部103の側面が垂直(角度θ=90度)に切り立っている場合(
図4−2)、レンズに戻る反射光は、2回反射となる。2回反射であると非常に光が弱くなる(通常、透明体の反射率は4%程度なので、2回反射の光量は、1回反射に対して1/25の強度となる)。そのため基板の段差部分が暗くなる。
【0061】
凹部103の角度θの好ましい範囲は、20度から90度である。90度より大きいと基板の作成が困難であり、20度未満であると、段差部分が画像データで認識できないことがある。
図14のようなDNAチップ100は、生産性の観点から樹脂を射出成形することで作製することが好ましい。その場合、成型の容易さ(金型からの抜きやすさ)という点から、角度θは、20度から80度であることが更に好ましい。
【0062】
このようにして得られたアライメント用画像の例を
図5−1〜5−3に示す。
図5−1〜5−3は、本実施の形態にかかるスキャナーで読み取ったマイクロアレイの画像を説明する図である。
図5−1は、アライメント用画像を示す図である。
図5−2は、
図5−1のアライメント用画像における矢印P−P’間における光強度変化を示すグラフである。
図5−3は、
図5−1のアライメント用画像における矢印P−P’間におけるDNAチップ100の高さの差異を示すグラフである。
図5−2より、DNAチップ100の凹部103の側面に対応する位置において反射光量が減っており、基板上の凹凸形状を画像化できていることが確認できる。これを元にアライメント用画像中のDNAチップ100の凹部103の位置を判断し、蛍光画像をアライメントすることが可能となる。
【0063】
アライメント用画像データ取得用の光源については、好ましくはレーザー光源(例えば波長405nm、532nm、635nm)を用いることが出来る。レーザー光源の場合は、平行光であるために、
図3で説明した現象により、アライメント用画像データにおいてエッジ(光強度差)を明確に検出可能である。
【0064】
ここで、具体的に上記の装置構成においてアライメント用画像データを取得するには、Cy5用のレーザー光源11からレーザー光を照射するとともに、Cy3用の励起光カットフィルタ15bを使用することが好ましい。Cy3用の励起光カットフィルタ15bには一般的に550〜600nmを透過するバンドパスフィルタを用いることが多いが、該励起光カットフィルタ15bは、一般的に、Cy5の励起光の波長の光(635nm)をわずかに透過するので(例えば、635nmの光のOD値が約5)、
図5−1に示すように、DNAチップ100の凹凸形状を画像化することが可能である。すなわち、特定波長の光によって励起発光した蛍光分子からの蛍光ではなく、基板表面からの反射光や散乱光を受光して、該基板そのものの凹凸形状を画像化することができる。
【0065】
アライメント用画像データを取得する際には、焦点位置よりもDNAチップ100を対物レンズ13に近い場所に配置することが好ましい。焦点位置は、対物レンズ13の高さを固定しDNAチップ100を高さ方向(対物レンズ13の光軸方向)に変化させて各DNAプローブからの蛍光量を測定し、その値が最も大きくなる高さを実測することにより求めることが出来る。逆にDNAチップ100の高さを固定し、対物レンズ13の高さを上下することも可能である。DNAチップ100の表面の反射光や散乱光を受光する際、上述したα/fの関係に基づき、DNAチップ100の表面(撮像対象面)の位置を焦点位置から100μm以上レンズ側に近づけることが好ましい。より好ましくは200μm以上である。近づける距離の上限については、DNAチップ100と対物レンズ13とが衝突しない程度であれば、特段の制限は無いが、スキャナー1のような装置においては通常3000μm以下である。アライメント用画像データ取得用の光源については、スキャナーの部品点数を少なくできることから、蛍光分子を励起するための励起光を出射する光源を用いることが好ましいが、別途、アライメント用画像データ取得用光源を設けてもかまわない。
【0066】
また、アライメント用画像データの取得時にフィルタを使わない方法も採用しうる。しかしながら、フィルタを用いない場合は、画像取得部に入る光量が大きくなりすぎるために画像取得部の光検出機構を損傷する可能性がある。よって、上記したように、Cy5用のレーザー光源11からレーザー光を照射する場合には励起光カットフィルタ15bを使用するなど、照射する光源の波長をわずかに透過するフィルタを用いることが好ましい。反対に、Cy3用のレーザー光源12からレーザー光を照射して励起光カットフィルタ15aを用いてもよい。また、励起光カットフィルタ15a,15bの代わりにNDフィルタを用いたり、励起光カットフィルタ15a,15bやNDフィルタを使用せずにレーザー光の出力自体を弱くしてアライメント用画像データを得たりしても構わない。もちろん、これらの組み合わせも適用できる。
【0067】
なお、
図5−1〜5−3では、焦点位置から基板(DNAチップ100)を250μmレンズ側に近づけて取得した。このように、積極的に焦点位置から基板をレンズ側に近づけ、レーザー光の反射光を積極的に受光することで、
図5−1のような、基板表面のエッジ形状が表れたアライメント用画像データが得られる。
【0068】
このようにして取得したアライメント用画像データを用いると、基板のエッジ(凹部103の外縁)を正確に検出することが可能である。以下、DNAチップ100を用いた場合の、上記の方法を含んだアライメントの具体的な手順例を記す。
図6は、本実施の形態にかかる画像のアライメント処理を示すフローチャートである。
【0069】
まず、スキャナー1にDNAチップ100をセットし、前述のとおり、画像取得部17によって蛍光色素Cy5およびCy3の蛍光画像データを読み込む(ステップS101)。続いて、DNAチップ100をセットしたまま、Cy5用のレーザー光源11からレーザー光を照射するとともに、Cy3用の励起光カットフィルタ15bを使用し、画像取得部17によってアライメント用画像データを読み込む(ステップS102)。この際、DNAチップ100は、上述したように、焦点位置よりも対物レンズ13に近い位置に配置される。なお、ステップS102においては、Cy3用のレーザー光源12からレーザー光を照射するとともにCy5用の励起光カットフィルタ15aを使用してもよい。
【0070】
そして、ステップS103以降で、アライメント用画像データを使用して蛍光画像データにおける各DNAプローブの位置を決定し、解析する。
【0071】
具体的には、まず、アライメント用画像データにおける少なくとも3つの基準点を検出する(ステップS103)。ここで、少なくとも3つの基準点としては、例えば
図7に示すとおり、アライメント用画像での四隅の座標を挙げることができる。かかる四隅の座標の検出方法は、検出部20aによって行なわれ、明暗情報を用いたエッジ検出による上述した凹部103の位置判断が挙げられる。
【0072】
図7に示すように、DNAチップ100において、検出部20aによって凹部103の外縁が検出され得る領域Ea1〜Ea4,Eb1〜Eb4を予め設定し、それぞれの領域において、
図5−1に示すような矢印P−P’間における光強度の変化を測定し、DNAチップ100の高さの差異を検出する。その後、検出部20aは、各領域Ea1〜Ea4,Eb1〜Eb4で検出された高さの差異の中心位置を用いて、領域Ea1の中心位置と領域Ea2の中心位置とを直線的に結んで凹部103の外縁の一辺とする。凹部103の外縁のその他の三辺についても、領域Ea3の中心位置および領域Ea4の中心位置、領域Eb1の中心位置および領域Eb2の中心位置、領域Eb3の中心位置および領域Eb4の中心位置をそれぞれ直線的に結ぶ。これにより、画像取得部17によって得られたアライメント画像における凹部103の外縁を形成する。また、それぞれ結ばれて形成された直線同士の交点(座標)を求めることにより、凹部103の4隅を基準点110a〜110dとして得ることができる。
【0073】
続いて、ステップS104,S105において、基準点に基づいて蛍光画像データの歪みを補正する。
【0074】
具体的には、補正部20bは、例えば前述の基準点110a〜110dの座標から、凹部103の外縁における各辺のx軸に対する傾斜角度θx、およびy軸に対する傾斜角度θyを検出する(ステップS104)。傾斜角度θx,θyは、四隅の座標を結んだ4本の線分について、該当方向の(対向する)2本の線分の角度の平均値を取ることが望ましい。なお、基準点が3点であっても、傾斜角度θx,θyを算出可能である。そして、補正部20bは、
図8(a),(b)に示すように、y軸に応じた辺(凹部103の外縁の辺)のy軸に対する
傾斜角度θyを補正角度として用い、蛍光画像データを回転させて、凹部103のy軸に応じた辺をy軸に対して平行にする。また、補正部20bは、
図8(b),(c)に示すように、x軸に応じた辺(凹部103の外縁の辺)のx軸に対する配列角度θxを補正角度として用い、蛍光画像データを回転させて、凹部103のx軸に応じた辺をx軸に対して平行にする。変換後は、
図8(c)に示すように、x軸、y軸に対して外縁がそれぞれ平行な画像を得ることができる。
【0075】
さらに、補正部20bは、回転後の画像に対して、上述のように検出した二方向に規則的に配列されているスポット102について、上述した傾斜角度θx,θyおよび下記式(1),(2)に基づいて、変換(せん断変形)を実施する(ステップS105)。これにより、画像のせん断変形歪みを補正する。ここで、下記式(1)の(x,y)は変換前の座標、(X,Y)は変換後の座標である。また、スキャナーの走査機構のずれ(走査機構の基準軸の直交度)に相当するθxyは、下記式(1),(2)に示すように、傾斜角度θxから傾斜角度θyを減じて求める。
【数2】
【0076】
さらに、DNAチップ100が樹脂成型品である場合、ハイブリダイゼーション工程や洗浄工程での吸湿や温度変化により樹脂が膨張する場合がある。各工程での処理時間にもよるが、数十μm膨張する場合があり、アライメントの精度に影響を与える。
【0077】
このため、補正部20bは、例えば上述した四隅の座標からx軸方向およびy軸方向のチップ長さを算出するとともに、設計値と一致するように、蛍光画像データに対して収縮膨張補正を行う(ステップS106,S107)。
【0078】
続いて、上記のようにして、補正部20bによって角度補正、せん断変形補正、収縮膨張補正が施された蛍光画像データに対して、決定部20cが、解析定義ファイルを参照して蛍光画像のアライメントを行なう。予め解析定義ファイルに保存しているテンプレートにおける各スポットの位置情報は、例えばチップ左上の隅(基準点110a)を原点とした、各スポットの中心座標となっている。このため、決定部20cは、ステップS107で収縮補正した後の画像について、例えば左上隅の座標を原点として、各スポット枠を計算することで各スポット(プローブ)の位置を決定し、
図9−1〜9−3に示すようなアライメントを行う(ステップS108)。なお、
図9−1がCy3の蛍光画像データに対してアライメントを行った結果を示す画像、
図9−2がCy5の蛍光画像データに対してアライメントを行った結果を示す画像である。これにより、各スポット102に対して、各スポット102に応じたテンプレート(
図15参照)を当てはめて、検出エリアと対応付けることができる。また、一例として、確認のためにアライメント用画像データに対してアライメントを行った結果を
図9−3に示す。
図9−3に示すように、アライメント処理によって、DNAチップ100の凹部103の外縁の一角における直線部分が、基準点1101において直交していることが分かる。
【0079】
その後、ステップS108で求めた各スポットの中心座標から、スポット半径内の画素の信号強度について、平均値、メディアン値、標準偏差等の統計量を算出し、スポットの属するブロック番号、スポットの行列番号、配置されているDNAプローブ名と合わせて、各種数値データをファイルとして出力する(ステップS109)。上述した処理によって、得られた蛍光画像データに対して歪み等の修正を行い、平均値、メディアン値、標準偏差等の正確な統計量を算出する。
【0080】
なお、上記ステップS101,S102の順序、およびステップS106,S107の順序は入れ替わってもよい。
【0081】
本発明においては、このようにしてDNAサンプルのDNAプローブへのハイブリダイズに基づいて得られた蛍光画像データを処理して所望の数値データを取得するが、得られる各種の数値データは、検体内で、求める遺伝子の存在や、ある遺伝子が発現しているか否か、またはどの程度発現しているかを解析するため等に用いられる。
【0082】
また、以上のようなDNAチップ100の解析においては、DNAチップ100に形成された凹凸を利用して画像の補正、アライメントを行う。そのため、検体から抽出したサンプル中に含まれるDNA量が少なく発光するDNAプローブが少ない画像、さらに、走査機構の精度が悪い読取り装置によって得られた画像に対しても、DNAチップ100上に配置された検出エリアの位置決め処理を高精度に実行可能となる。
【0083】
上述した実施の形態によれば、DNAチップ100の撮像対象表面を焦点位置(表面位置P0)よりも対物レンズ13に近づけた位置(表面位置P2)でアライメント用画像データを取得するようにしたので、基板の高さの差異を正確に検出可能な画像を取得することができる。これにより、ポジティブコントロールを配置していないDNAチップの解析や、サンプルに含まれるDNA量が少ないチップの解析の場合にも、アライメント処理を適切に行うことができ、解析が可能となる。
【0084】
ここで、
図10に本発明で使用するスキャナーに好適な光学系の他の態様を示す。なお、
図10において、
図1に示すスキャナー1の構成要素と同一のものには同一の符号が付してある。
図10に示すスキャナー2は、スキャナー1の穴あきミラー14に代えて微小ミラー14aを用いることにより、微小ミラー14aにて励起光を反射させてDNAチップ100に入射させるとともに、光読み取りの際、ノイズとなるDNAチップ100からの正反射光を画像取得部17側に導かないように、蛍光または励起光の反射光(検出光)と正反射光とを幾何学的に分離する機能を有する。これにより、正反射光を光路N3から分離することができる。この構成においても、上述したスキャナー1と同様の効果を得ることができる。
【0085】
上記実施形態においては、基板にDNAプローブがスポットされたDNAチップの実施形態を説明したが、本発明は、RNA、タンパク質、微小標本、低分子化合物、細胞等をスポットしたチップに対しても適用可能である。
【0086】
例えば、上記で説明した凹凸形状を有するDNAチップ100において、DNAプローブの代わりにタンパク質(抗体)を固定化し、検体との反応の有無や定量化を蛍光にて検出する場合でも、同様な方法を用いることができる。試料細胞の溶解液に存在するタンパク質をCy5、コントロール細胞溶解液に存在するタンパク質をCy3で標識して、両者を混合して抗体アレイと反応する場合や、タンパク質を蛍光標識する代わりにビオチン標識し、抗体アレイに結合後、酵素標識アビジンを用いてシグナルを増感する手法などがある。このような場合でも、本発明により、精度よくアライメントが可能となり、蛍光強度の各種数値データをファイルとして出力可能である。RNAアレイの場合でも、凹凸形状を有する基板(スポット102)上に固定化されたRNAと、蛍光標識したDNAやRNAとのハイブリダイゼーションを蛍光で検出する場合に本手法を用いることができる。微小標本・細胞アレイにおいても、凹凸形状を有する基板上に固定化された微小標本や細胞と蛍光標識検体(例えば抗体)との結合反応を蛍光により検出する際に、本発明を適応することが可能である。
【実施例】
【0087】
以下実施例等をあげて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0088】
超精密機械加工により、
図14に示すDNAチップ100のような形状の基板に対応する金型を作製し、この金型を用いて射出成型により、PMMA(ポリメチルメタクリレート)からなる基板をDNAチップ100として製作した。金型には、工具による切削跡があり、そのため、基板にも工具切削跡が転写されている状態であった。切削跡による基板高さの乱れは、実測したところ1μm以下であった。
【0089】
製作したDNAチップ100の凸部(スポット102)上面にDNAプローブを固定し、ハイブリダイゼーションまで行い、DNAチップスキャナー(3D−Gene Scanner(3D−Gene(登録商標)))で蛍光画像およびアライメント用画像の取得を行った。蛍光画像とアライメント用画像の取得にかかる装置構成および条件は以下(1)〜(4)の通りである。
【0090】
(1)スキャナーの光学系は、
図1に示すスキャナー1の光学系を用いた。すなわち、DNAチップ100へレーザー光を入射し、かつ、基板からの正反射光を通過するための穴あきミラー14を有しているものである。
【0091】
(2)スポット102からの蛍光取得時に、DNAチップ100の高さ(対物レンズ13とDNAチップ100との距離)を変化させ、蛍光強度が最も強くなる高さ位置を0とした。この位置が、レーザー光の焦点位置(表面位置P0)である。本実施例では、Cy5で標識化したDNAサンプルを用いたので、波長635nmのレーザーとCy5用のバンドパスフィルタを用いた。なお、本スキャナーには、基板とレンズとの距離を調整できる機能がついている。
【0092】
(3)Cy5の蛍光を測定するレーザー(波長635nm)を使用し、フィルタとしてはCy3を測定する際に使用するバンドパスフィルタと同じものを用いた。本実施例で使用したCy3用のフィルタは、635nmでOD値が約5であり、わずかに635nmの波長を透過する。レーザー光とフィルタの組合せを上述した組合せとすることにより、基板表面からの反射・散乱光を取得し画像データ化が可能である。
【0093】
(4)オフセット位置(焦点位置から基板表面までの距離)は、−500μmから+1500μmまで変化させ、反射・散乱光の画像の比較を行った(
図3)。なお、オフセット位置が0との表現は、基板が対物レンズで絞られたレーザー光の焦点位置(表面位置P0)にあることを示す。また、オフセット位置の符号がマイナスの場合は、焦点位置を基準として基板が対物レンズから遠い位置(表面位置P1)にあり、符号がプラスの場合は、基板が焦点位置を基準として対物レンズに近い位置(表面位置P2)にあることを示す。
【0094】
図11(
図11−1〜
図11−12)は、本発明の実施例にかかるスキャナー1で読み取ったDNAチップ100(基板)の画像(A)および光強度変化のグラフ(B)である。ここで、
図11−1は、オフセット位置が0の場合の画像、および画像中の矢印P
1−P
1’間における光強度変化を示すグラフである。
図11−2〜
図11−9は、オフセット位置が+100、+200、+300、+400、+500、+750、+1000、+1500の場合の画像、および画像中の矢印P
2−P
2’間、矢印P
3−P
3’間、矢印P
4−P
4’間、矢印P
5−P
5’間、矢印P
6−P
6’間、矢印P
7−P
7’間、矢印P
8−P
8’間、矢印P
9−P
9’間における光強度変化を示すグラフである。
図11−10〜
図11−12は、オフセット位置が−100、−200、−500の場合の画像、および画像中の矢印P
10−P
10’間、矢印P
11−P
11’間、矢印P
12−P
12’間における光強度変化を示すグラフである。なお、
図11に示す画像は、上述した補正部20bによって補正されたアライメント用画像データに応じた画像である。
【0095】
図11に示すように、オフセット位置が+200μm以上の場合は、基板のエッジ部分(実際の高さの差90μm、
図4−1で示す傾斜角度θは70度)に対応した明確なコントラストのついた画像および光強度変化のグラフが得られた(
図11−3A,11−3B〜
図11−9A,11−9B)。一方、オフセット位置が0μmでは、切削痕による、基板表面のあれ(高さ1μm以下)が原因で、乱反射が生じ、90μmの凹凸形状とは一致しないが、切削痕と一致する反射強度の乱れを生じていた(
図11−1B)。オフセット位置が+100μmの場合は、0μmと比較し、切削痕の影響は小さくなるものの、その影響は残っていた(
図11−2B)。また、オフセット位置が−100μm、−200μmでは、切削痕による、基板表面のあれ(高さ1μm以下)が原因で、乱反射が生じ、反射強度の乱れが生じていた(
図11−10B、
図11−11B)。オフセット位置が−500μmでは、基板表面の画像が取得できなかった(
図11−12A)。
【0096】
以上の結果により、オフセット位置が+200μm以上、+1000μm以下の間で、基板のエッジ部分が暗い特に好ましい画像が得られた。なお、オフセット位置が+1500μmでは、エッジ部分が認識できるものの全体的に暗くなる傾向が見られた。オフセット位置がマイナスの場合はエッジが全く認識できない画像しか得られなかった。
【0097】
また、これらの結果に基づき、アライメント用画像を取得する際のオフセット位置を−500μm、0μm、+100μm、+200μm、+500um、+1000μm、+1250μm、+1500μmと変化させ、画像のアライメント処理が適切に行えるかどうかの評価を次の手順(1)’〜(5)’で行った。
【0098】
(1)’ハイブリダイゼーション処理済みのDNAチップを合計20枚用意した。なお、DNAチップの基板の形状は
図14に示すとおりである。エッジ部分の高さの差は90μmであり、
図4−1で示す角度θは70度である。
【0099】
(2)’それぞれのDNAチップについて、オフセット位置が0μm(焦点位置)でCy5の蛍光画像を取得した。
【0100】
(3)’オフセット位置を−100μm、0μm、+100μm、+200μm、+500μm、+750μm、+1000μm、+1250μm、+1500μmとし、各位置においてアライメント用画像をそれぞれ取得した。このとき、Cy5の蛍光を測定するレーザー(波長635nm)を使用し、フィルタとしてはCy3を測定する際に使用するバンドパスフィルタと同じものを用いた。
【0101】
(4)’
図7の基準点110a〜110dに相当する基準点を、それぞれのアライメント用画像データに基づいて、明暗情報を用いたエッジ検出法により検出した。
【0102】
(5)’
図6のステップS104〜S108の工程まで行い、オフセット位置が−100μm、0μm、+100μm、+200μm、+500μm、+1000μm、+1250μm、+1500μmである位置において、それぞれ20枚のDNAチップに対し、蛍光画像が正しくアライメントされているかどうかを確認した。その結果を表1に示す。
【表1】
【0103】
以上のように、アライメント用画像を取得する際に、DNAチップを焦点位置に対して対物レンズに近づけることにより、明らかにアライメントの信頼性が増しているのが分かる。上記の実施例ではアライメント用画像を取得する際、焦点位置よりも基板を+200μm対物レンズ側に近づけて設置することにより、信頼性が大きく増していることが分かる。
【0104】
なお、本実施例にかかるスキャナー1に搭載されている対物レンズのf値は6.0mmであった。したがって、上記の結果から、オフセット位置(α)が+100〜+1000の範囲において、α/fの好ましい範囲は、0.017(100/6000)から0.17(1000/6000)の範囲であった。この範囲では、成功確率が95%以上である。更に好ましくは、オフセット位置が+200〜+1000の範囲であって、α/fの範囲は、0.033(200/6000)から0.17(1000/6000)である。この範囲であるとアライメントの成功確率は100%である。
【0105】
(参考例)
平らなスライドガラスの上に厚さ150μmのテープをはり、それを上記のスキャナー1にセットした。オフセット量+250μmの状態で、Cy5の蛍光を測定するレーザー(波長635nm)を使用し、フィルタとしてはCy3を測定する際に使用するバンドパスフィルタと同じものを用いて、アライメント用画像に相当する画像データを得た。この条件は
図4−1で示す角度θが90度に相当する。その結果を
図12−1〜12−3に示す。
【0106】
図12−1〜12−3は、本
参考例にかかるスライドガラスの画像および蛍光強度のグラフである。
図12−1は、スキャナー1により得られた画像である。
図12−2は、
図12−1の画像における矢印P
13−P
13’間における光強度変化を示すグラフである。
図12−3は、
図12−1の画像における矢印P
13−P
13’間におけるスライドガラス上の高さの差異を示すグラフである。これにより、スライドガラスに貼付されたテープであっても、光の強度変化から高さの差異を把握することができることがわかった。なお、エッジに相当する部分が暗くなっており、角度θが90度でも問題ないと考えられる。