(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
重量平均分子量が100,000〜2,000,000であるジエン系ゴム(P)と、シリカ(R)と、シランカップリング剤(S)と、重量平均分子量が2,000〜20,000である低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(T)とを含有し、
前記ジエン系ゴム(P)の平均ガラス転移温度が、−30℃超であり、
前記ジエン系ゴム(P)が、芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム(Q)を90質量%以上含み、
前記芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム(Q)が、芳香族ビニル含有量が30〜45質量%であって共役ジエン中のビニル結合量が40〜70質量%である芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム(q)を80質量%以上含み、
前記シランカップリング剤(S)が、下記式(1)の平均組成式で表されるポリシロキサンであり、
前記シリカ(R)の含有量が、前記ジエン系ゴム(P)100質量部に対して60〜250質量部であり、
前記シランカップリング剤(S)の含有量が、前記シリカ(R)の含有量に対して2〜20質量%であり、
前記低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(T)の含有量が、前記ジエン系ゴム(P)100質量部に対して5〜100質量部である、タイヤ用ゴム組成物。
(A)a(B)b(C)c(D)d(E)eSiO(4-2a-b-c-d-e)/2 (1)
(式(1)中、Aはスルフィド基を含有する2価の有機基を表す。Bは炭素数5〜10の1価の炭化水素基を表す。Cは加水分解性基を表す。Dはメルカプト基を含有する有機基を表す。Eは炭素数1〜4の1価の炭化水素基を表す。a〜eは、0≦a<1、0<b<1、0<c<3、0<d<1、0≦e<2、0<2a+b+c+d+e<4の関係式を満たす。)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明のタイヤ用ゴム組成物、および、本発明のタイヤ用ゴム組成物を用いた空気入りタイヤについて説明する。
【0011】
[タイヤ用ゴム組成物]
本発明のタイヤ用ゴム組成物(以下、本発明の組成物ともいう)は、重量平均分子量が100,000〜2,000,000であるジエン系ゴム(P)と、シリカ(R)と、シランカップリング剤(S)と、重量平均分子量が2,000〜20,000である低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(T)とを含有し、上記ジエン系ゴム(P)の平均ガラス転移温度が、−30℃超であり、上記ジエン系ゴム(P)が、芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム(Q)を90質量%以上含み、上記芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム(Q)が、芳香族ビニル含有量が30〜45質量%であって共役ジエン中のビニル結合量が40〜70質量%である芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム(q)を80質量%以上含み、上記シランカップリング剤(S)が、後述する式(1)の平均組成式で表されるポリシロキサンであり、上記シリカ(R)の含有量が、上記ジエン系ゴム(P)100質量部に対して60〜250質量部であり、上記シランカップリング剤(S)の含有量が、上記シリカ(R)の含有量に対して2〜20質量%であり、上記低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(T)の含有量が、上記ジエン系ゴム(P)100質量部に対して5〜100質量部である。
【0012】
上述のとおり、本発明の組成物は、特定のジエン系ゴムと、シリカと、後述する式(1)の平均組成式で表されるポリシロキサン(以下、特定ポリシロキサンともいう)と、低分子量スチレン−ブタジエン共重合体を含有する。本発明の組成物はこのような構成をとるため、ウェットグリップ性能、剛性、持続性、耐摩耗性、および耐スコーチ性のいずれについても優れた特性を示すタイヤ用ゴム組成となると考えられる。
【0013】
その理由は明らかではないが、およそ以下のとおりと推測される。
後述するとおり、式(1)の平均組成式で表されるポリシロキサン(以下、特定ポリシロキサンともいう)は、加水分解性基とメルカプト基とを有する。
本発明の組成物は、上記特定のジエン系ゴムと上記特定ポリシロキサンと上記低分子量スチレン−ブタジエン共重合体とを併用するため、特定のジエン系ゴムと低分子量スチレン−ブタジエン共重合体との架橋によりヒステリシスロスと機械的物性とのバランスに優れた三次元網目構造が形成され、また、特定ポリシロキサンのメルカプト基および加水分解性基が、上記網目構造とシリカの双方と相互作用してゴム成分中でのシリカの分散性を向上させ、結果として、優れたウェットグリップ性能、剛性、持続性および耐摩耗性を示すものと考えられる。
特に、特定ポリシロキサンが上記網目構造に対して強く親和することが、優れたウェット特性を担保しているものと考えられる。このことは、低分子量スチレン−ブタジエン共重合体を配合しても特定ポリシロキサン以外のシランカップリング剤を使用した場合(後述する比較例1〜3)や、特定ポリシロキサンを配合しても低分子量スチレン−ブタジエン共重合体を配合しなかった場合(後述する比較例12)には、ウェットグリップ性能が不十分となる事実からも推測される。
さらに、特定ポリシロキサンのポリシロキサン構造により、特定ポリシロキサンのメルカプト基が安定化され、優れた耐スコーチ性が担保されるものと考えられる。このことは、特定ポリシロキサン以外のメルカプト系シランカップリング剤を使用した場合(後述する比較例1および3)には、耐スコーチ性が不十分となる事実からも推測される。
【0014】
以下、本発明の組成物に含有される各成分について詳述する。
【0015】
〔ジエン系ゴム(P)〕
本発明の組成物に含有されるジエン系ゴム(P)は、後述する芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム(Q)を90質量%以上含むジエン系ゴムである。なかでも、芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム(Q)からなるジエン系ゴムであることが好ましい。ジエン系ゴム(P)が、芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴムを90質量%以上含むため、本発明の組成物を用いたタイヤはウェットグリップ性能に優れる。
【0016】
ジエン系ゴム(P)は、芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム(Q)を90質量%以上含んでいれば、芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム以外のジエン系ゴムを含んでいてもよい。
芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム以外のジエン系ゴムとしては特に制限されないが、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br−IIR、Cl−IIR)、クロロプレンゴム(CR)などが挙げられる。
【0017】
ジエン系ゴム(P)の重量平均分子量は100,000〜2,000,000である。ジエン系ゴム(P)が上記特定の重量平均分子量を有するため、本発明の組成物を用いたタイヤは剛性、持続性および耐摩耗性に優れる。
なお、ジエン系ゴム(P)が複数の種類のゴムで構成されている場合、構成する全ての種類のゴムの重量平均分子量が100,000〜2,000,000であることが好ましい。
ジエン系ゴム(P)の重量平均分子量(Mw)は、テトラヒドロフランを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算で求めたものである。
【0018】
ジエン系ゴム(P)の平均ガラス転移温度(以下、平均Tgともいう)は−30℃超である。ジエン系ゴム(P)が上記特定の平均Tgを有するため、本発明の組成物を用いたタイヤはウェットグリップ性能と機械的物性とのバランスに優れる。
本願におけるジエン系ゴム(P)の平均Tgは、各ゴム成分のTgに各ゴム成分の質量%をそれぞれ掛け合わせて足し合わせたものである。なお、各ゴムのTgは、示差走査熱量計(DSC)を用いて20℃/分の昇温速度で測定し、中点法にて算出したものである。
【0019】
<芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム(Q)>
芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム(Q)は、後述する特定の構造を有する芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム(q)を80質量%以上含む芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴムである。芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム(Q)が、芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム(q)を80質量%以上含むため、本発明の組成物を用いたタイヤは剛性、持続性および耐摩耗性に優れる。
芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴムとしては、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、スチレン−イソプレン共重合体ゴムなどが挙げられる。なかでも、得られるタイヤのウェットグリップ性能がより優れる理由から、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)であることが好ましい。
芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム(Q)の重量平均分子量は、得られるタイヤの剛性、持続性および耐摩耗性がより優れる理由から、100,000〜2,000,000であることが好ましく、500,000〜1,500,000であることがより好ましい。重量平均分子量を求める方法は上述のとおりである。
【0020】
上記芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム(Q)を製造する方法は特に制限されず、従来公知の方法で製造することができる。
芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム(Q)を製造する際に使用される芳香族ビニル単量体および共役ジエン単量体は特に制限されない。
上記芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、α−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、4−tert−ブチルスチレン、ジビニルベンゼン、tert−ブトキシスチレン、ビニルベンジルジメチルアミン、(4−ビニルベンジル)ジメチルアミノエチルエーテル、N,N−ジメチルアミノエチルスチレン、ビニルピリジンなどが挙げられる。
上記共役ジエン単量体としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン(2−メチル−1,3−ブタジエン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどが挙げられる。
【0021】
(芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム(q))
芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム(q)は、芳香族ビニル含有量(例えば、スチレン含有量)が30〜45質量%であって共役ジエン中のビニル結合量が40〜70質量%である芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴムである。
ここで、本願におけるビニル結合量とは、共役ジエンの結合様式であるシス−1,4−結合、トランス−1,4−結合および1,2−ビニル結合のうち、1,2−ビニル結合の割合をいう。
芳香族ビニル含有量は、得られるタイヤのウェットグリップ性能、剛性および耐摩耗性のバランスがより優れる理由から、35〜40質量%であることが好ましい。
芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム(q)の重量平均分子量は、得られるタイヤの剛性、持続性および耐摩耗性がより優れる理由から、100,000〜2,000,000であることが好ましく、500,000〜1,500,000であることがより好ましい。重量平均分子量を求める方法は上述のとおりである。
【0022】
上記芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム(q)を製造する方法は特に制限されず、従来公知の方法で製造することができる。
芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム(q)を製造する際に使用される芳香族ビニル単量体および共役ジエン単量体の具体例は、上述した芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム(Q)と同様である。
【0023】
〔シリカ(R)〕
本発明の組成物に含有されるシリカ(R)は特に制限されず、タイヤ等の用途でゴム組成物に配合されている従来公知の任意のシリカを用いることができる。
上記シリカ(R)としては、例えば、湿式シリカ、乾式シリカ、ヒュームドシリカ、珪藻土などが挙げられる。上記シリカ(R)は、1種のシリカを単独で用いても、2種以上のシリカを併用してもよい。
【0024】
シリカ(R)は、得られるタイヤのウェットグリップ性能がより優れる理由から、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)吸着比表面積が100〜300m
2/gであることが好ましく、140〜250m
2/gであることがより好ましい。
ここで、本願におけるCTAB吸着比表面積は、シリカがシランカップリング剤との吸着に利用できる表面積の代用特性であり、シリカ表面へのCTAB吸着量をJIS K6217−3:2001「第3部:比表面積の求め方−CTAB吸着法」にしたがって測定した値である。
【0025】
シリカ(R)の含有量は、上記ジエン系ゴム(P)100質量部に対して60〜250質量部であり、得られるタイヤのウェットグリップ性能がより優れる理由から、70〜170質量部であることが好ましく、100〜150質量部であることがより好ましい。
シリカ(R)の含有量がジエン系ゴム(P)100質量部に対して60質量部未満であると、ウェットグリップ性能が不十分となる。また、シリカ(R)の含有量がジエン系ゴム(P)100質量部に対して250質量部を超えると、剛性、持続性および耐摩耗性が不十分となる。
【0026】
〔シランカップリング剤(S)〕
本発明の組成物に含有されるシランカップリング剤(S)は、下記式(1)の平均組成式で表されるポリシロキサン(特定ポリシロキサン)である。
(A)
a(B)
b(C)
c(D)
d(E)
eSiO
(4-2a-b-c-d-e)/2 (1)
【0027】
上記式(1)中、Aはスルフィド基を含有する2価の有機基(以下、スルフィド基含有有機基ともいう)を表す。なかでも、下記式(2)で表される基であることが好ましい。
*−(CH
2)
n−S
x−(CH
2)
n−
* (2)
上記式(2)中、nは1〜10の整数を表し、なかでも、2〜4の整数であることが好ましい。
上記式(2)中、xは1〜6の整数を表し、なかでも、2〜4の整数であることが好ましい。
上記式(2)中、*は、結合位置を示す。
上記式(2)で表される基の具体例としては、例えば、
*−CH
2−S
2−CH
2−
*、
*−C
2H
4−S
2−C
2H
4−
*、
*−C
3H
6−S
2−C
3H
6−
*、
*−C
4H
8−S
2−C
4H
8−
*、
*−CH
2−S
4−CH
2−
*、
*−C
2H
4−S
4−C
2H
4−
*、
*−C
3H
6−S
4−C
3H
6−
*、
*−C
4H
8−S
4−C
4H
8−
*などが挙げられる。
【0028】
上記式(1)中、Bは炭素数5〜10の1価の炭化水素基を表し、その具体例としては、例えば、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などが挙げられる。
【0029】
上記式(1)中、Cは加水分解性基を表し、その具体例としては、例えば、アルコキシ基、フェノキシ基、カルボキシル基、アルケニルオキシ基などが挙げられる。なかでも、下記式(3)で表される基であることが好ましい。
*−OR
2 (3)
上記式(3)中、R
2は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数6〜10のアラルキル基(アリールアルキル基)または炭素数2〜10のアルケニル基を表し、なかでも、炭素数1〜5のアルキル基であることが好ましい。上記炭素数1〜20のアルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、オクタデシル基などが挙げられる。上記炭素数6〜10のアリール基の具体例としては、例えば、フェニル基、トリル基などが挙げられる。上記炭素数6〜10のアラルキル基の具体例としては、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基などが挙げられる。上記炭素数2〜10のアルケニル基の具体例としては、例えば、ビニル基、プロぺニル基、ペンテニル基などが挙げられる。
上記式(3)中、*は、結合位置を示す。
【0030】
上記式(1)中、Dはメルカプト基を含有する有機基を表す。なかでも、下記式(4)で表される基であることが好ましい。
*−(CH
2)
m−SH (4)
上記式(4)中、mは1〜10の整数を表し、なかでも、1〜5の整数であることが好ましい。
上記式(4)中、*は、結合位置を示す。
上記式(4)で表される基の具体例としては、
*−CH
2SH、
*−C
2H
4SH、
*−C
3H
6SH、
*−C
4H
8SH、
*−C
5H
10SH、
*−C
6H
12SH、
*−C
7H
14SH、
*−C
8H
16SH、
*−C
9H
18SH、
*−C
10H
20SHが挙げられる。
【0031】
上記式(1)中、Eは炭素数1〜4の1価の炭化水素基を表す。
【0032】
上記式(1)中、a〜eは、0≦a<1、0≦b<1、0<c<3、0<d<1、0≦e<2、0<2a+b+c+d+e<4の関係式を満たす(ただし、aとbのいずれか一方は0ではない)。
【0033】
上記特定ポリシロキサンは、得られるタイヤのウェットグリップ性能、剛性および持続性、並びに、耐スコーチ性に優れる理由から、aが0よりも大きい(0<a)ことが好ましい。すなわち、スルフィド基含有有機基を有することが好ましい。なかでも、得られるタイヤの低転がり抵抗性がより優れる理由から、0<a≦0.50であることが好ましい。
【0034】
上記式(1)中、bは、得られるタイヤの低転がり抵抗性が優れる理由から、0<bであることが好ましく、0.10≦b≦0.89であることがより好ましい。
上記式(1)中、cは、得られるタイヤの低転がり抵抗性が優れる理由から、1.2≦c≦2.0であることが好ましい。
上記式(1)中、dは、得られるタイヤの低転がり抵抗性が優れる理由から、0.1≦d≦0.8であることが好ましい。
【0035】
上記特定ポリシロキサンは、得られるタイヤの低転がり抵抗性が優れる理由から、上記式(1)中、Aが上記式(2)で表される基であり、上記式(1)中のCが上記式(3)で表される基であり、上記式(1)中のDが上記式(4)で表される基であるポリシロキサンであることが好ましい。
【0036】
上記特定ポリシロキサンの重量平均分子量は、得られるタイヤの低転がり抵抗性が優れる理由から、500〜2300であるのが好ましく、600〜1500であるのがより好ましい。本願における特定ポリシロキサンの分子量は、トルエンを溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で求めたものである。
上記特定ポリシロキサンの酢酸/ヨウ化カリウム/ヨウ素酸カリウム添加−チオ硫酸ナトリウム溶液滴定法によるメルカプト当量は、加硫反応性に優れるという観点から、550〜700g/molであるのが好ましく、600〜650g/molであるのがより好ましい。
【0037】
上記特定ポリシロキサンは、得られるタイヤの低転がり抵抗性が優れる理由から、シロキサン単位(−Si−O−)を2〜50個有するものであることが好ましい。
【0038】
なお、上記特定ポリシロキサンの骨格には、ケイ素原子以外の金属(例えば、Sn、Ti、Al)は存在しない。
【0039】
上記特定ポリシロキサンを製造する方法は特に限定されないが、第1の好適な態様としては、下記式(6)で表される有機ケイ素化合物と、下記式(7)で表される有機ケイ素化合物とを加水分解縮合する方法が挙げられる。また、第2の好適な態様としては、下記式(5)で表される有機ケイ素化合物と、下記式(6)で表される有機ケイ素化合物と、下記式(7)で表される有機ケイ素化合物とを加水分解縮合する方法が挙げられる。また、第3の好適な態様としては、下記式(5)で表される有機ケイ素化合物と、下記式(6)で表される有機ケイ素化合物と、下記式(7)で表される有機ケイ素化合物と、下記式(8)で表される有機ケイ素化合物とを加水分解縮合する方法が挙げられる。
なかでも、得られるタイヤのウェットグリップ性能、剛性および持続性、並びに、耐スコーチ性に優れる理由から、上記第2の好適な態様であることが好ましい。
【0041】
上記式(5)中、R
51は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基または炭素数2〜10のアルケニル基を表し、なかでも、炭素数1〜5のアルキル基であることが好ましい。上記炭素数1〜20のアルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、オクタデシル基などが挙げられる。上記炭素数6〜10のアリール基の具体例としては、例えば、フェニル基、トリル基、ナフチル基などが挙げられる。炭素数2〜10のアルケニル基の具体例としては、例えば、ビニル基、プロペニル基、ペンテニル基などが挙げられる。
上記式(5)中、R
52は炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を表す。上記炭素数1〜10のアルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などが挙げられる。上記炭素数6〜10のアリール基の具体例は上記R
51と同じである。
上記式(5)中、nの定義および好適な態様は、上記nと同じである。
上記式(5)中、xの定義および好適な態様は、上記xと同じである。
上記式(5)中、yは1〜3の整数を表す。
【0042】
上記式(5)で表される有機ケイ素化合物の具体例としては、例えば、ビス(トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドなどが挙げられる。
【0044】
上記式(6)中、R
61の定義、具体例および好適な態様は、上記R
51と同じである。
上記式(6)中、R
62の定義、具体例および好適な態様は、上記R
52と同じである。
上記式(6)中、zの定義は、上記yと同じである。
上記式(6)中、pは5〜10の整数を表す。
【0045】
上記式(6)で表される有機ケイ素化合物の具体例としては、例えば、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルメチルジメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ペンチルメチルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルメチルジメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルメチルジエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルメチルジメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、オクチルメチルジエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルメチルジメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、デシルメチルジエトキシシランなどが挙げられる。
【0047】
上記式(7)中、R
71の定義、具体例および好適な態様は、上記R
51と同じである。
上記式(7)中、R
72の定義、具体例および好適な態様は、上記R
52と同じである。
上記式(7)中、mの定義および好適な態様は、上記mと同じである。
上記式(7)中、wの定義は、上記yと同じである。
【0048】
上記式(7)で表される有機ケイ素化合物の具体例としては、例えば、α−メルカプトメチルトリメトキシシラン、α−メルカプトメチルメチルジメトキシシラン、α−メルカプトメチルトリエトキシシラン、α−メルカプトメチルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシランなどが挙げられる。
【0050】
上記式(8)中、R
81の定義、具体例および好適な態様は、上記R
51と同じである。
上記式(8)中、R
82の定義、具体例および好適な態様は、上記R
52と同じである。
上記式(8)中、vの定義は、上記yと同じである。
上記式(8)中、qは1〜4の整数を表す。
【0051】
上記式(8)で表される有機ケイ素化合物の具体例としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルエチルジエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルメチルジメトキシシラン、プロピルメチルジエトキシシランなどが挙げられる。
【0052】
上記特定ポリシロキサンを製造する際には必要に応じて溶媒を用いてもよい。溶媒としては特に限定されないが、具体的にはペンタン、ヘキサン、ヘプタン、デカンなどの脂肪族炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶媒、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール系溶媒などが挙げられる。
【0053】
上記特定ポリシロキサンを製造する際には必要に応じて触媒を用いてもよい。触媒としては、例えば、塩酸、酢酸などの酸性触媒、アンモニウムフルオリドなどのルイス酸触媒、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カルシウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなどのアルカリ金属塩、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジンなどのアミン化合物などが挙げられる。
上記触媒は、金属としてSn、TiまたはAlを含有する有機金属化合物でないことが好ましい。このような有機金属化合物を使用した場合、ポリシロキサン骨格に金属が導入されて、上記特定ポリシロキサン(骨格には、ケイ素原子以外の金属(例えば、Sn、Ti、Al)は存在しない)が得られないことがある。
【0054】
上記特定ポリシロキサンを製造する際に使用される有機ケイ素化合物として、メルカプト基を有するシランカップリング剤[例えば、式(7)で表される有機ケイ素化合物]及びスルフィド基又はメルカプト基を有するシランカップリング剤以外のシランカップリング剤[例えば、式(6)や式(8)で表される有機ケイ素化合物]を併用する際、メルカプト基を有するシランカップリング剤とスルフィド基又はメルカプト基を有するシランカップリング剤以外のシランカップリング剤との混合比(モル比)(メルカプト基を有するシランカップリング剤/スルフィド基又はメルカプト基を有するシランカップリング剤以外のシランカップリング剤)は、ウェット性能、低転がり抵抗性、加工性により優れるという観点から、1.1/8.9〜6.7/3.3であるのが好ましく、1.4/8.6〜5.0/5.0であるのがより好ましい。
【0055】
上記特定ポリシロキサンを製造する際に使用される有機ケイ素化合物として、メルカプト基を有するシランカップリング剤[例えば、式(7)で表される有機ケイ素化合物]及びスルフィド基を有するシランカップリング剤[例えば、式(5)で表される有機ケイ素化合物]を併用する際、メルカプト基を有するシランカップリング剤とスルフィド基を有するシランカップリング剤との混合比(モル比)(メルカプト基を有するシランカップリング剤/スルフィド基を有するシランカップリング剤)は、ウェット性能、低転がり抵抗性、加工性により優れるという観点から、2.0/8.0〜8.9/1.1であるのが好ましく、2.5/7.5〜8.0/2.0であるのがより好ましい。
【0056】
上記特定ポリシロキサンを製造する際に使用される有機ケイ素化合物として、メルカプト基を有するシランカップリング剤[例えば、式(7)で表される有機ケイ素化合物]、スルフィド基を有するシランカップリング剤[例えば、式(5)および/またはで表される有機ケイ素化合物]、及びスルフィド基又はメルカプト基を有するシランカップリング剤以外のシランカップリング剤[例えば、式(6)や式(8)で表される有機ケイ素化合物]を併用する際、メルカプト基を有するシランカップリング剤の量は、前3者の合計量(モル)中の10.0〜73.0%であるのが好ましい。スルフィド基を有するシランカップリング剤の量は、前3者の合計量中の5.0〜67.0%であるのが好ましい。スルフィド基又はメルカプト基を有するシランカップリング剤以外のシランカップリング剤の量は、前3者の合計量中の16.0〜85.0%であるのが好ましい。
【0057】
上記シランカップリング剤(S)の含有量は、上記シリカ(R)の含有量に対して2〜20質量%であり、得られるタイヤのウェットグリップ性能および耐摩耗性がより優れる理由から、4〜18質量%であることが好ましく、5〜14質量%であることがより好ましく、8〜12質量%であることがさらに好ましい。
シランカップリング剤(S)の含有量がシリカ(R)の含有量に対して20質量%を超えると耐摩耗性および耐スコーチ性が不十分となる。
【0058】
〔低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(T)〕
本発明の組成物に含有される低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(T)は、重量平均分子量が2,000〜20,000の低分子量スチレン−ブタジエン共重合体である。重量平均分子量を求める方法は上述したジエン系ゴム(P)と同様である。
上記低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(T)の重量平均分子量は、得られるタイヤのウェットグリップ性能、剛性および耐摩耗性がより優れる理由から、3,000〜10,000であることが好ましい。
上記低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(T)のガラス転移温度は、得られるタイヤのウェットグリップ性能、剛性および耐摩耗性がより優れる理由から、−30〜−10℃であることが好ましい。
【0059】
上記低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(T)の含有量は、上記ジエン系ゴム(P)100質量部に対して5〜100質量部であり、得られるタイヤのウェットグリップ性能、剛性および耐摩耗性がより優れる理由から、10〜90質量部であることが好ましく、40〜70質量部であることがより好ましい。
低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(T)の含有量が上記ジエン系ゴム(P)100質量部に対して100質量部を超えると剛性、持続性および耐摩耗性が不十分となる。
【0060】
〔任意成分〕
本発明の組成物には、必要に応じて、その効果や目的を損なわない範囲でさらに添加剤を含有することができる。
上記添加剤としては、例えば、本発明の組成物に含有されるシランカップリング剤(S)以外のシランカップリング剤、シリカ(R)以外の充填剤(例えば、カーボンブラック)、酸化亜鉛(亜鉛華)、ステアリン酸、老化防止剤、加工助剤、アロマオイル、プロセスオイル、液状ポリマー、テルペン樹脂、熱硬化性樹脂、加硫剤、加硫促進剤などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤が挙げられる。
【0061】
<テルペン樹脂>
本発明の組成物は、得られるタイヤのウェットグリップ性能がより優れる理由から、テルペン樹脂を含有するのが好ましい。上記テルペン系樹脂は芳香族変性テルペン樹脂(特に、軟化点が60〜180℃のもの)であることが好ましい。
芳香族変性テルペン樹脂の含有量は、上記ジエン系ゴム(P)100質量部に対して10〜50質量部であることが好ましい。
【0062】
〔タイヤ用ゴム組成物の製造方法〕
本発明のタイヤ用ゴム組成物の製造方法は特に限定されず、その具体例としては、例えば、上述した各成分を、公知の方法、装置(例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなど)を用いて、混練する方法などが挙げられる。
また、本発明の組成物は、従来公知の加硫または架橋条件で加硫または架橋することができる。
【0063】
[空気入りタイヤ]
本発明の空気入りタイヤは、上述した本発明の組成物をタイヤ(好ましくはタイヤトレッド)に使用した空気入りタイヤである。
図1に、本発明の空気入りタイヤの実施態様の一例を表すタイヤの部分断面概略図を示すが、本発明の空気入りタイヤは
図1に示す態様に限定されるものではない。
【0064】
図1において、符号1はビード部を表し、符号2はサイドウォール部を表し、符号3はタイヤトレッド部を表す。
また、左右一対のビード部1間においては、繊維コードが埋設されたカーカス層4が装架されており、このカーカス層4の端部はビードコア5およびビードフィラー6の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されて巻き上げられている。
また、タイヤトレッド3においては、カーカス層4の外側に、ベルト層7がタイヤ1周に亘って配置されている。
また、ビード部1においては、リムに接する部分にリムクッション8が配置されている。
【0065】
本発明の空気入りタイヤは、例えば従来公知の方法に従って製造することができる。また、タイヤに充填する気体としては、通常のまたは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを用いることができる。
【0066】
本発明の空気入りタイヤはウェットグリップ性能、剛性、持続性および耐摩耗性に優れるため、特に競技ウェットタイヤに好適である。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0068】
(合成例1:特定ポリシロキサン1)
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた2Lセパラブルフラスコにビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(信越化学工業製 KBE−846)107.8g(0.2mol)、γ―メルカプトプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業製 KBE−803)190.8g(0.8mol)、オクチルトリエトキシシラン(信越化学工業製 KBE−3083)442.4g(1.6mol)、エタノール190.0gを納めた後、室温にて0.5N塩酸37.8g(2.1mol)とエタノール75.6gの混合溶液を滴下した。その後、80℃にて2時間攪拌した。その後、濾過、5%KOH/EtOH溶液17.0gを滴下し80℃で2時間攪拌した。その後、減圧濃縮、濾過することで褐色透明液体のポリシロキサン480.1gを得た。GPCにより測定した結果、平均分子量は840であり、平均重合度は4.0(設定重合度4.0)であった。また、酢酸/ヨウ化カリウム/ヨウ素酸カリウム添加−チオ硫酸ナトリウム溶液滴定法によりメルカプト当量を測定した結果、730g/molであり、設定通りのメルカプト基含有量であることが確認された。以上より、下記平均組成式で示される。
(−C
3H
6−S
4−C
3H
6−)
0.071(−C
8H
17)
0.571(−OC
2H
5)
1.50(−C
3H
6SH)
0.286SiO
0.75
得られたポリシロキサンを特定ポリシロキサン1とする。
【0069】
(合成例2:特定ポリシロキサン2)
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた2Lセパラブルフラスコにγ―メルカプトプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業製 KBE−803)190.8g(0.8mol)、オクチルトリエトキシシラン(信越化学工業製 KBE−3083)442.4g(1.6mol)、エタノール162.0gを納めた後、室温にて0.5N塩酸32.4g(1.8mol)とエタノール75.6gの混合溶液を滴下した。その後、80℃にて2時間攪拌した。その後、濾過、5%KOH/EtOH溶液14.6gを滴下し80℃で2時間攪拌した。その後、減圧濃縮、濾過することで無色透明液体のポリシロキサン412.3を得た。GPCにより測定した結果、平均分子量は850であり、平均重合度は4.0(設定重合度4.0)であった。また、酢酸/ヨウ化カリウム/ヨウ素酸カリウム添加−チオ硫酸ナトリウム溶液滴定法によりメルカプト当量を測定した結果、650g/molであり、設定通りのメルカプト基含有量であることが確認された。以上より、下記平均組成式で示される。
(−C
8H
17)
0.667(−OC
2H
5)
1.50(−C
3H
6SH)
0.333SiO
0.75
得られたポリシロキサンを特定ポリシロキサン2とする。
【0070】
(合成例3:比較ポリシロキサン1)
3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(0.1mol)を水および濃塩酸水溶液で加水分解し、その後、エトキシメチルポリシロキサン(100g)を添加し、縮合することでポリシロキサンを得た。得られたポリシロキサンを比較ポリシロキサン1とする。
上記比較ポリシロキサン1は、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランのメトキシ基とエトキシメチルポリシロキサンのエトキシ基とが縮合した構造を有する。すなわち、上記比較ポリシロキサン1が有する1価の炭化水素基はメチル基のみである。また、上記比較ポリシロキサン1はスルフィド基を含有する2価の有機基を有さない。
【0071】
(合成例4:比較ポリシロキサン2)
ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド(0.1mol)を水および濃塩酸水溶液で加水分解し、その後、エトキシメチルポリシロキサン(100g)を添加し、縮合することでポリシロキサンを得た。得られたポリシロキサンを比較ポリシロキサン2とする。
上記比較ポリシロキサン2は、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィドのエトキシ基とエトキシメチルポリシロキサンのエトキシ基とが縮合した構造を有する。すなわち、上記比較ポリシロキサン2が有する1価の炭化水素基はメチル基のみである。また、上記比較ポリシロキサン2はメルカプト基を含有する有機基を有さない。
【0072】
<タイヤ用ゴム組成物の調製>
下記第1表に示す成分を、下記第1表に示す割合(質量部)で配合した。
具体的には、まず、下記第1表に示す成分のうち硫黄および加硫促進剤を除く成分を、1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーを用いて5分間混合し、150±5℃に達したときに放出し、室温まで冷却してマスターバッチを得た。さらに、上記バンバリーミキサーを用いて、得られたマスターバッチに硫黄および加硫促進剤を混合し、タイヤ用ゴム組成物を得た。
第1表中、SBR1、2および4については、上段の値はSBR(油展品)の量(単位:質量部)であり、下段の値はSBRに含まれるSBRの正味の量(単位:質量部)である。
また、第1表中、「ジエン系ゴムの平均Tg(℃)」は、上述のとおり算出したものである。
【0073】
<評価用加硫ゴムシートの作製>
調製したタイヤ用ゴム組成物(未加硫)を、金型(15cm×15cm×0.2cm)中、160℃で20分間プレス加硫して、加硫ゴムシートを作製した。
【0074】
<tanδ(0℃)>
上述のとおり作製した加硫ゴムシートについて、JIS K6394:2007に準拠し、粘弾性スペクトロメーター(岩本製作所社製)を用いて、伸張変形歪率10%±2%、振動数20Hz、温度0℃の条件でtanδ(0℃)を測定した。
結果を第1表に示す。結果は比較例1のtanδ(0℃)を100とする指数で表した。指数が大きいほどtanδ(0℃)が大きく、タイヤにしたときにウェットグリップ性能に優れる。
【0075】
<300%モジュラス>
上述のとおり作製した加硫ゴムシートについて、JIS K6251:2010に準拠し、JIS3号ダンベル型試験片(厚さ2mm)を打ち抜き、温度20℃、引張り速度500mm/分の条件で300%モジュラス(300%変形時の応力)を測定した。
結果を第1表に示す。結果は比較例1の300%モジュラスを100とする指数で表した。指数が大きいほど300%モジュラスが大きく、タイヤにしたときに剛性に優れる。
【0076】
<破断強度>
上述のとおり作製した加硫ゴムシートについて、JIS K6251:2010に準拠し、JIS3号ダンベル型試験片(厚さ2mm)を打ち抜き、温度20℃、引張り速度500mm/分の条件で破断強度(破断時の応力)を測定した。
結果を第1表に示す。結果は比較例1の破断強度を100とする指数で表した。指数が大きいほど破断強度が大きく、タイヤにしたときに持続性に優れる。
【0077】
<耐摩耗性>
上述のとおり作製した加硫ゴムシートについて、JIS K6264−1、2:2005に準拠し、ランボーン摩耗試験機(岩本製作所製)を用いて、温度20℃、スリップ率50%の条件で摩耗減量を測定した。
結果を第1表に示す。結果は比較例1の摩耗量を100として、次式により指数化したものを表した。指数が大きいほど摩耗量が小さく、タイヤにしたときに耐摩耗性に優れる。
耐摩耗性=(比較例1の摩耗量/試料の摩耗量)×100
【0078】
<スコーチタイム>
調製したゴム組成物(未加硫)について、JIS K6300−1:2001に準拠し、L形ロータを用いて、試験温度125℃の条件でスコーチタイムを測定した。
結果を第1表に示す。結果は比較例1のスコーチタイムを100とする指数で表した。指数が大きいほどスコーチタイムが長く、耐スコーチ性(加工性)に優れる。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
上記第1表に示されている各成分の詳細は以下のとおりである。
・SBR1:E581(油展品(SBR100質量部に対して油展オイル37.5質量部を含む。SBR中のSBRの正味は72.7質量%。)、スチレン含有量:37質量%、ビニル結合量:42%、Tg:−27℃、重量平均分子量:1,260,000、旭化成社製)
・SBR2:E680(油展品(SBR100質量部に対して油展オイル37.5質量部を含む。SBR中のSBRの正味は72.7質量%。)、スチレン含有量:35質量%、ビニル結合量:64%、Tg:−13℃、重量平均分子量:1,470,000、旭化成社製)
・SBR3:Nipol NS616(スチレン含有量:23質量%、ビニル結合量:70%、Tg:−23℃、重量平均分子量:510,000、日本ゼオン社製)
・NR:天然ゴム(STR20、Tg:−60℃)
・SBR4:タフデン1834(油展品(SBR100質量部に対して油展オイル37.5質量部を含む。SBR中のSBRの正味は72.7質量%。)、スチレン含有量:19質量%、ビニル結合量:10%、Tg:−71℃、重量平均分子量:700,000、旭化成社製)
・シリカ:Zeosil 1165MP(CTAB比表面積=159m
2/g、ローディア社製)
・カーボンブラック:シースト9(N
2SA=142m
2/g、東海カーボン社製)
・シランカップリング剤X1:Si363(下記式(9)で表される化合物。ここで、R
91:−OC
2H
5、R
92:−O(C
2H
4O)
5−C
13H
27、R
94:−(CH
2)
3−、l=1、m=2、n=0。)(エボニックデグサ社製)
【0083】
【化5】
・シランカップリング剤X2:Si69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニックデグサ社製)
・シランカップリング剤X3:KBM−803(信越化学社製)(γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン)
・シランカップリング剤X4:上述のとおり合成された比較ポリシロキサン1
・シランカップリング剤X5:上述のとおり合成された比較ポリシロキサン2
・シランカップリング剤1:上述のとおり合成された特定ポリシロキサン1
・シランカップリング剤2:上述のとおり合成された特定ポリシロキサン2
・低分子量SB共重合体:RICON100(Tg:−15℃、重量平均分子量:4,500、Cray Valley社製)
・テルペン樹脂:YSレジンTO−125(芳香族変性テルペン樹脂、軟化点:125℃、ヤスハラケミカル社製)
・オイル:エキストラクト4号S(昭和シェル石油社製)
・亜鉛華:酸化亜鉛3種(正同化学工業社製)
・ステアリン酸:ビーズステアリン酸YR(日油社製)
・硫黄:金華印油入微粉硫黄(鶴見化学工業社製)
・加硫促進剤1:加硫促進剤DPG(ノクセラーD、大内新興化学工業社製)
・加硫促進剤2:加硫促進剤CBS(ノクセラーCZ−G、大内新興化学工業社製)
【0084】
第1表から分かるように、低分子量スチレン-ブタジエン共重合体(T)を含有するがシランカップリング剤(S)を含有せずに特定ポリシロキサン以外のシランカップリング剤を含有する比較例1〜3や、シランカップリング剤(S)を含有するが低分子量スチレン-ブタジエン共重合体(T)を含有しない比較例11は、ウェットグリップ性能が不十分であった。なかでも、特定ポリシロキサン以外のメルカプト系シランカップリング剤を含有する比較例1および3は、耐スコーチ性が不十分であった。また、シランカップリング剤(S)を含有せずに特定ポリシロキサン以外のポリシロキサンを含有する比較例12および13は、ウェットグリップ性能および耐スコーチ性が不十分であった。
【0085】
一方、シランカップリング剤(S)と低分子量スチレン-ブタジエン共重合体(T)とを併用する本願実施例1〜5はいずれも優れたウェット性能および耐スコーチ性を示し、かつ、剛性、持続性および耐摩耗性にも優れていた。
なかでも、シランカップリング剤(S)がスルフィド基含有有機基を有する(上記式(1)中、aが0よりも大きい)特定ポリシロキサンである実施例1〜3は、優れた剛性および耐スコーチ性を示した。
そのなかでも、芳香族変性テルペン樹脂を含有する実施例1および2は、より優れたウェットグリップ性能を示した。
さらにそのなかでも、低分子量スチレン-ブタジエン共重合体(T)の含有量がジエン系ゴム(P)100質量部に対して40質量部以上である実施例2は、さらに優れたウェットグリップ性能を示した。
【0086】
芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム(Q)中の特定の構造を有する芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム(q)の含有量が80質量%未満である比較例8は、剛性、持続性および耐摩耗性が不十分であった。
また、ジエン系ゴム(P)中の芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム(Q)の含有量が90質量%未満である比較例9は、ウェットグリップ性能が不十分であった。
また、ジエン系ゴム(P)の平均Tgが−30℃以下である比較例10は、ウェットグリップ性能、剛性および持続性が不十分であった。
また、シリカ(R)の含有量がジエン系ゴム(P)100質量部に対して60質量部未満である比較例6は、ウェットグリップ性能が不十分であった。
また、シランカップリング剤(S)の含有量がシリカ(R)の含有量に対して20質量%超である比較例4および5は、耐摩耗性および耐スコーチ性が不十分であった。
また、低分子量スチレン-ブタジエン共重合体(T)の含有量がジエン系ゴム(P)100質量部に対して100質量部超である比較例7は、剛性、持続性および耐摩耗性が不十分であった。