特許第6291903号(P6291903)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6291903
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】混練装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20180305BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20180305BHJP
   B01F 3/12 20060101ALI20180305BHJP
   B01F 7/08 20060101ALI20180305BHJP
   B01F 5/00 20060101ALI20180305BHJP
   B01F 5/06 20060101ALI20180305BHJP
   B01F 15/02 20060101ALI20180305BHJP
   B05C 11/10 20060101ALN20180305BHJP
【FI】
   H01M4/04 Z
   H01M4/139
   B01F3/12
   B01F7/08 B
   B01F5/00 B
   B01F5/06
   B01F15/02 B
   B01F15/02 C
   !B05C11/10
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-35749(P2014-35749)
(22)【出願日】2014年2月26日
(65)【公開番号】特開2015-162298(P2015-162298A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2017年1月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜一
(72)【発明者】
【氏名】藤井 崇文
(72)【発明者】
【氏名】布施 賢
(72)【発明者】
【氏名】三尾 巧美
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 英国特許出願公開第00818489(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/04
B01F 3/12
B01F 5/00
B01F 5/06
B01F 7/08
B01F 15/02
H01M 4/139
B05C 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも活物質を含む粉体および増粘剤の溶解液を混練する混練装置であって、
前記増粘剤を溶媒に溶解する溶解装置と、
投入される前記粉体および前記増粘剤の溶解液を撹拌することにより、前記粉体を前記増粘剤の溶解液に対し濡らしながら搬送してプレスラリとする予備混練装置と、
前記予備混練装置から供給される前記プレスラリを、対向して回転するテーパ面間の調整可能なギャップに通すことにより、前記プレスラリ中において前記粉体を分散させてスラリとする本混練装置と、
を備える混練装置。
【請求項2】
前記予備混練装置は、平行且つ並べて配置され、互いに噛み合って軸線回りに回転可能な一対のスクリュウを有し、前記一対のスクリュウの回転によりスクリュウ後端側に投入される前記粉体を前記スクリュウ後端側に投入される前記増粘剤の溶解液に対し濡らしながらスクリュウ前端側に向かって搬送して前記プレスラリとし、
前記本混練装置は、軸線回りに回転可能且つ軸線方向に移動可能な円錐台状の回転子、および前記回転子の外周面の傾斜と同方向の傾斜の内周面が設けられ、前記回転子を収納可能な収納容器を有し、前記予備混練装置の前記スクリュウ前端側から前記収容容器における前記回転子の一方の端面側の空間に供給される前記プレスラリを、前記回転子の軸線方向の移動で調整した前記回転子の外周面と前記収容容器の内周面とのギャップに通し、前記回転子の軸線回りの回転により前記プレスラリ中において前記粉体を分散させて前記スラリとし、前記収容容器における前記回転子の他方の端面側の空間に押し出して前記収容容器の外部に排出する、請求項1の混練装置。
【請求項3】
前記収容容器には、外部排出経路にバルブが設けられ、前記バルブを閉じて前記予備混練装置から供給される前記プレスラリが前記収容容器内を満たし、前記収容容器の内圧が所定値に達した後に前記バルブを所定量開いて前記スラリを外部に排出する、請求項2の混練装置。
【請求項4】
前記混練装置は、
前記粉体を振動させて前記予備混練装置に供給可能な供給装置、を備える、請求項1〜3の何れか一項の混練装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体と液体とを混練する混練装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池は、ハイブリッド自動車や電気自動車等に適用されている。リチウムイオン二次電池の電極は、先ず、活物質材料のスラリを得るために増粘剤の溶解液に活物質の粉体等を混練し、次に、活物質材料のスラリをアルミニウム箔等の基材に塗布して乾燥することにより製造される。
【0003】
混練装置として使用可能な例として、特許文献1には、半径方向外方に広がる同心円状で、半径方向に傾く勾配が設けられている階段状の段差部を対向して有するロータおよびステータを備えた装置が記載されている。この装置は、回転するロータとステータとの間において混練処理可能である。
特許文献2には、軸線方向に平行に並べて配置された一対のスクリュウを備えた装置が記載されている。この装置は、回転する一対のスクリュウの間において混練処理可能である。
【0004】
特許文献3には、先端外周部が円錐台状に形成された杵部材と、この杵部材が挿入可能であり、先端内周部が杵部材の先端外周部と接触可能な円錐台状に形成された臼部材とを備えた装置が記載されている。この装置は、回転する杵部材の先端外周部と臼部材の先端内周部との間において混練処理可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−90212号公報
【特許文献2】実開平1−83192号公報
【特許文献3】特開2013−11594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の活物質の粉体は、増粘剤の溶解液に濡れ難いため、特許文献1〜3に記載の装置で増粘剤、溶媒および活物質の粉体等を一時に投入して混練すると活物質の粉体が損傷するおそれがある。また、リチウムイオン二次電池は、需要の増加が著しく、上述の混練の連続処理化が望まれている。しかし、特許文献1〜3に記載の装置は、増粘剤、溶媒および活物質の粉体等を一時に投入して混練するバッチ処理の装置であるため、連続処理に対応させることは困難である。
【0007】
また、特許文献1に記載の装置は、回転するロータとステータとの間において疎水性液体および親水性液体を混練し、疎水性液体を親水性液体中に分散させる装置であるため、増粘剤の溶解液に濡れ難い活物質の粉体を混練することは困難である。
また、特許文献2の装置では、混練条件を変更する場合、すなわち一対のスクリュウ間のギャップを変更する場合、一対のスクリュウを交換する必要があり、交換段取り作業が煩雑である。特許文献3の装置では、混練条件を変更する場合、すなわち杵部材の先端外周部と臼部材の先端内周部との間のギャップを変更する場合、杵部材および臼部材を交換する必要があり、交換段取り作業が煩雑である。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、粉体と液体との安定的且つ連続的な混練が可能で、混練条件の変更が容易な混練装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(請求項1)本発明に係る混練装置は、少なくとも活物質を含む粉体および増粘剤の溶解液を混練する混練装置であって、前記増粘剤を溶媒に溶解する溶解装置と、投入される前記粉体および前記増粘剤の溶解液を撹拌することにより、前記粉体を前記増粘剤の溶解液に対し濡らしながら搬送してプレスラリとする予備混練装置と、前記予備混練装置から供給される前記プレスラリを、対向して回転するテーパ面間の調整可能なギャップに通すことにより、前記プレスラリ中において前記粉体を分散させてスラリとする本混練装置と、を備える。
【0010】
これにより、活物質を含む粉体は、増粘剤の溶解液と混練されるので、粉体、増粘剤および溶媒を一時に混練する場合と比較して増粘剤の溶解液に対し粉体を十分に濡らすことができる。そして、粉体は、液体に馴染んでから液体中に分散されることになるので、粉体の損傷を抑制することができる。また、粉体および液体を搬送してプレスラリとする間に搬送済みのプレスラリ中において粉体を分散させるので、連続的な混練が可能となる。また、本混練の条件変更は、対向して回転するテーパ面間のギャップの調整のみで行うことが可能であるので、本混練の条件変更作業が容易となる。
【0011】
(請求項2)前記予備混練装置は、平行且つ並べて配置され、互いに噛み合って軸線回りに回転可能な一対のスクリュウを有し、前記一対のスクリュウの回転によりスクリュウ後端側に投入される前記粉体を前記スクリュウ後端側に投入される前記増粘剤の溶解液に対し濡らしながらスクリュウ前端側に向かって搬送して前記プレスラリとし、前記本混練装置は、軸線回りに回転可能且つ軸線方向に移動可能な円錐台状の回転子、および前記回転子の外周面の傾斜と同方向の傾斜の内周面が設けられ、前記回転子を収納可能な収納容器を有し、前記予備混練装置の前記スクリュウ前端側から前記収容容器における前記回転子の一方の端面側の空間に供給される前記プレスラリを、前記回転子の軸線方向の移動で調整した前記回転子の外周面と前記収容容器の内周面とのギャップに通し、前記回転子の軸線回りの回転により前記プレスラリ中において前記粉体を分散させて前記スラリとし、前記収容容器における前記回転子の他方の端面側の空間に押し出して前記収容容器の外部に排出するようにしてもよい。
【0012】
これにより、粉体および液体は、一対のスクリュウにより撹拌されつつ押し出されるので、粉体を液体に十分に馴染ませて搬送することができる。また、プレスラリは、回転子の外周面と収容容器の内周面とのギャップを通るときにせん断力および圧縮力の作用を受けるので、プレスラリ中における凝集物を引き剥がすことができるとともにプレスラリ中において液体を粉体に含浸させることができる。
【0013】
(請求項3)前記収容容器には、外部排出経路にバルブが設けられ、前記バルブを閉じて前記予備混練装置から供給される前記プレスラリが前記収容容器内を満たし、前記収容容器の内圧が所定値に達した後に前記バルブを所定量開いて前記スラリを外部に排出するようにしてもよい。
これにより、収容容器内は、バルブを閉じることによりプレスラリおよびスラリで密な状態になるので、プレスラリに対するエネルギの伝達効率が良く、スラリの粘度が安定する。
【0014】
(請求項4)前記混練装置は、前記粉体を振動させて前記予備混練装置に供給可能な供給装置、を備えるようにしてもよい。
これにより、粉体は、架橋が発生することなくスムーズに供給される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態:混練装置の概略構成図である。
図2】本発明の実施の形態:混練装置の制御装置による処理を示すフローチャートである。
図3】増粘剤の溶解液の粘度と溶解度との関係を示す図である。
図4】マイクロ波による増粘剤の溶解液の粘度、撹拌力による増粘剤の溶解液の粘度および加熱による増粘剤の溶解液の粘度の経時変化を示す図である。
図5】活物質材料のスラリの粘度と本混練装置の回転子の周速との関係を示す図である。
図6】活物質材料のスラリの粘度と本混練装置のバルブの開度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(混練装置により混練される材料)
本実施形態による混練装置は、例えば、リチウムイオン二次電池の電極(正極および負極)を製造するための装置を構成する。リチウムイオン二次電池の電極は、アルミニウム箔や銅箔等の基材に活物質材料のスラリを塗布して乾燥することにより製造される。本実施形態の混練装置は、活物質材料のスラリを製造する装置である。
【0018】
活物質材料の具体例としては、正極の電極の場合、活物質としてリチウムニッケル酸化物等(固形分)、溶媒としてN−メチルピロリドン等(液体分)、導電助材としてアセチレンブラック等およびバインダとしてポリフッ化ビニリデン等がある。負極の電極の場合、活物質としてグラファイト等(固形分)、溶媒として水(液体分)、増粘材としてカルボキシメチルセルロース等およびバインダとしてSBRゴムやポリアクリル酸等がある。
【0019】
(混練装置の構成)
本実施形態の混練装置について、図1を参照して説明する。混練装置1は、溶解装置2と、供給装置3と、予備混練装置4と、本混練装置5と、制御装置6等とを備えて構成される。
【0020】
溶解装置2は、増粘剤を溶媒に溶解し、所定量の増粘剤の溶解液を予備混練装置4に供給する装置であり、ハウジング21と、マイクロ波装置22と、ホッパ23と、貯留タンク24と、供給管路25と、定量ポンプ26等とを備えている。ハウジング21は、中空円筒状に形成され、軸方向が鉛直方向となるように配置されている。マイクロ波装置22は、マグネトロンを備え、ハウジング21の上面に配置されている。
【0021】
ホッパ23は、増粘剤を収容してハウジング21内に投入可能なように、ハウジング21の上面に突設されている。貯留タンク24は、溶媒を収容してハウジング21内に投入可能なように、ハウジング21の上面に突設されている。供給管路25は、増粘剤を溶媒に溶解した溶解液を予備混練装置4に供給可能なように、ハウジング21の下面に配管されている。定量ポンプ26は、供給管路25の途中に配置されている。
【0022】
供給装置3は、ロスインウエイト制御により所定量の活物質の粉体を予備混練装置4に供給する装置であり、ハウジング31と、低周波発生装置32と、供給管路33等とを備えている。ハウジング31は、中空円筒状に形成され、軸方向が鉛直方向となるように配置されている。低周波発生装置32は、ハウジング31の外周に配置され、ソレノイドがハウジング31の外周面に固定されている。供給管路33は、活物質の粉体を予備混練装置4に供給可能なように、ハウジング31の下面に配管されている。
【0023】
予備混練装置4は、増粘剤の溶解液に対し活物質の粉体を濡らしながら搬送して活物質材料のプレスラリ、すなわち増粘剤の溶解液に対し活物質の粉体の分散度合いが低い状態のスラリとする装置であり、ハウジング41と、一対のスクリュウ42と、駆動モータ43と、ギヤ機構44と、供給管路45等とを備えている。ハウジング41は、略中空円筒状に形成され、軸方向が水平方向となるように配置されている。ハウジング41の一端面側の上部には、溶解装置2の供給管路25および供給装置3の供給管路33の各排出口が連接される開口41aが設けられている。
【0024】
一対のスクリュウ42は、ハウジング41の内部において平行且つ並べて配置され、互いに噛み合って軸線回りに同方向もしくは逆方向に回転可能なように、一対のスクリュウ42の回転軸が、ハウジング41の両端面に軸支持されている。駆動モータ43は、ハウジング41の一端面、すなわち一対のスクリュウ42の後端側の端面に固定され、駆動モータ43のモータ軸が、ギヤ機構44を介して一対のスクリュウ42の回転軸に連結されている。供給管路45は、活物質材料のプレスラリを本混練装置5に供給可能なように、ハウジング41の他端面、すなわち一対のスクリュウ42の前端側の端面に配管されている。
【0025】
本混練装置5は、活物質材料のプレスラリ中において活物質の粉体を分散させて活物質材料のスラリとする装置であり、ハウジング51と、回転子52と、収納容器53と、移動モータ54と、回転駆動モータ55と、排出管路56と、バルブ57等とを備えている。ハウジング51は、中空円筒状に形成され、軸方向が鉛直方向となるように配置されている。
【0026】
ハウジング51の外周面には、ハウジング51内に配置される収納容器53を冷却するための冷却水を給水および排水するための冷却管路51a,51bが配管されている。回転子52は、円錐台状に形成され、軸方向が鉛直方向となり小径端面が下方を向いて、回転子52の回転軸が収納容器53の上面の中心部に軸支持され、収納容器53内において軸線回りに回転可能且つ軸線方向に移動可能に配置されている。
【0027】
収納容器53は、回転子52を収納可能なように、回転子52の外周面の傾斜と同一の傾斜の内周面が設けられた中空円錐台状に形成され、ハウジング51内に配置されている。収納容器53の小径端面には、予備混練装置4の供給管路45の排出口がハウジング51を貫通して連接される開口53aが設けられている。移動モータ54は、ハウジング51の上面上部に固定され、ギヤ機構を介して回転子52の回転軸に連結されている。
【0028】
回転駆動モータ55は、移動モータ54の上部に固定され、ギヤ機構を介して回転子52の回転軸に連結されている。排出管路56は、活物質材料のスラリを本混練装置5の外部に排出可能なように、収納容器53の大径端面側の周面にハウジング51を貫通して配管されている。バルブ57は、排出管路56の途中に配置されている。
【0029】
制御装置6は、記憶部61と、溶解制御部62と、供給制御部63と、予備混練制御部64と、本混練制御部65等とを備えている。
記憶部61には、増粘剤の溶解液の溶解度と増粘剤の溶解液の粘度との関係を示すデータ(図3参照)、増粘剤の溶解液の粘度と増粘剤溶解時間との関係を示すデータ(図4参照)、活物質材料のスラリの粘度と本混練装置5の回転子52の周速との関係を示すデータ(図5参照)、活物質材料のスラリの粘度と本混練装置5のバルブ57の開度との関係を示すデータ(図6参照)、その他の溶解制御、混練制御等に関するデータが記憶されている。
【0030】
溶解制御部62は、溶解装置2の動作を制御する制御部であり、マイクロ波装置22を駆動してマイクロ波を発生させ、ハウジング21内の溶媒にマイクロ波を付与して増粘剤を溶媒に溶解する。そして、溶解制御部62は、定量ポンプ26を駆動制御して所定量の増粘剤の溶解液を供給管路25を介して予備混練装置4に供給する。
供給制御部63は、供給装置3の動作を制御する制御部であり、低周波発生装置32を駆動して低周波を発生させ、ハウジング31内の活物質の粉体の架橋を防止し、ロスインウエイト制御により所定量の活物質の粉体を供給管路33を介して予備混練装置4に供給する。
【0031】
予備混練制御部64は、予備混練装置4の動作を制御する制御部であり、駆動モータ43を駆動して一対のスクリュウ42を軸線回りで回転させ、ハウジング41の開口41aから供給される増粘剤の溶解液および活物質の粉体を撹拌することにより、スクリュウ後端側からスクリュウ前端側に向かって活物質の粉体を増粘剤の溶解液に対し濡らしながら搬送して活物質材料のプレスラリとし、この活物質材料のプレスラリを供給管路45を介して本混練装置5に供給する。
【0032】
本混練制御部65は、本混練装置5の動作を制御する制御部であり、冷却水を冷却管路51aから給水して冷却管路51bから排水することにより、ハウジング51内の収容容器53を冷却する制御、移動モータ54を駆動して回転子52を軸線方向に移動して回転子52の外周面と収容容器53の内周面とのギャップGを調整する制御、バルブ57を開閉する制御を行う。
【0033】
そして、本混練制御部65は、バルブ57を閉じ、回転駆動モータ55を駆動して回転子52を軸線回りで回転させ、収納容器53の開口53aから供給される活物質材料のプレスラリを、回転子52の外周面と収容容器53の内周面とのギャップGに通し、活物質材料のプレスラリ中において活物質の粉体を分散させて活物質材料のスラリとする。そして、本混練制御部65は、収容容器53内に活物質材料のプレスラリおよび活物質材料のスラリが満たされて収容容器53の内圧が所定値に達したら、バルブ57を所定量開け、活物質材料のスラリを排出管路56を介して外部に排出する。
【0034】
(制御装置による処理)
次に、制御装置6による処理について、図2を参照して説明する。制御装置6は、溶解装置2を駆動し増粘剤を溶媒に溶解する(図2のステップS1)。
具体的には、溶解制御部62は、記憶部61から増粘剤の溶解液の粘度と増粘剤の溶解液の溶解度との関係を示すデータ、および増粘剤の溶解液の粘度と増粘剤溶解時間との関係を示すデータを読み出す。
【0035】
そして、溶解制御部62は、所定量の増粘剤をホッパ23を介してハウジング21内に投入するとともに、所定量の溶媒を貯留タンク24を介してハウジング21内に投入し、マイクロ波装置22を駆動しハウジング21内の溶媒にマイクロ波を付与して増粘剤を溶解する。そして、溶解制御部62は、マイクロ波装置22を増粘剤の溶解液の溶解度が所定値に達する時間駆動したら、マイクロ波装置22の駆動を停止する。
【0036】
すなわち、図3に示すように、増粘剤の溶解液の粘度μは、溶媒に増粘剤を投入した直後の溶媒に増粘剤が溶解していない溶解度0%のときをμoとすると、溶解度が80%になるとμg(>μo)に上昇し、溶媒に増粘剤が完全に溶解した溶解度100%のときはμs(>μg)まで上昇する。そして、増粘剤の溶解液の溶解度が、80%に達するまでマイクロ波装置22を駆動するとした場合、図4に示すように、マイクロ波装置22の駆動時間、すなわち増粘剤溶解時間Tは、増粘剤の溶解液の粘度μがμoからμgに達するまでのTgとなる。
【0037】
ここで、マイクロ波による溶解は、溶媒にマイクロ波を照射して振動させ、溶媒を増粘剤に浸透させることにより行っている。このマイクロ波の周波数帯域としては、溶媒がマイクロ波のエネルギを吸収し易い帯域が望ましく、例えば溶媒として水を使用する場合、0.9GHz〜400GHzの周波数帯域が使用される。
【0038】
なお、増粘剤の溶媒に対する溶解は、従来のように撹拌することにより行ってもよいが、本実施形態ではマイクロ波により溶媒を振動させて増粘剤を溶媒に溶解している。図4に示すように、マイクロ波の振動による溶媒に対する増粘剤の溶解の方が、撹拌力による溶媒に対する増粘剤の溶解や加熱、例えば高温にした溶媒に対する増粘剤の溶解よりも効率よく行うことができるためである。
【0039】
すなわち、増粘剤の溶解液の目標値である粘度μsに調整する時間Tは、撹拌力による場合はT12、加熱による場合はT13(>T12)掛かるのに対し、マイクロ波による場合はT11(<T12<T13)に短縮することができる。よって、マイクロ波による溶解に必要な電力は、撹拌力による溶解に必要な電力よりも低減される。
【0040】
次に、制御装置6は、溶解装置2および供給装置3を駆動し、所定量の増粘剤の溶解液および活物質等の粉体を予備混練装置4に供給する(図2のステップS2)。
具体的には、溶解制御部62は、定量ポンプ26を駆動して所定量の増粘剤の溶解液を供給管路25を通じて予備混練装置4の開口41aから一対のスクリュウ42の後端側に供給する。供給制御部63は、低周波発生装置32を駆動して所定量の活物質等の粉体を供給管路33を通じて予備混練装置4の開口41aから一対のスクリュウ42の後端側に供給する。
【0041】
これにより、活物質等の粉体は、架橋が発生することなくスムーズに予備混練装置4に供給される。そして、活物質等の粉体は、増粘剤の溶解液と混練されるので、活物質、増粘剤および溶媒を一時に混練する場合と比較して増粘剤の溶解液に対し活物質等の粉体を十分に濡らすことができる。
【0042】
次に、制御装置6は、予備混練装置4を駆動して増粘剤の溶解液および活物質等の粉体の予備混練を行う(図2のステップS3)。
具体的には、予備混練制御部64は、駆動モータ43を駆動して一対のスクリュウ42を軸線回りで回転させ、ハウジング41の開口41aから供給される増粘剤の溶解液および活物質の粉体を混合する。
【0043】
これにより、活物質の粉体は、増粘剤の溶解液に対し濡れながらスクリュウ後端側からスクリュウ前端側に向かって搬送されて活物質材料のプレスラリとされ、活物質材料のプレスラリは、供給管路45を介して本混練装置5に供給される。このように、増粘剤の溶解液および活物質の粉体は、一対のスクリュウ42により撹拌されつつ押し出されるので、活物質の粉体を増粘剤の溶解液に十分に馴染ませて搬送することができる。
【0044】
次に、制御装置6は、本混練装置5を駆動して活物質材料のプレスラリの本混練を行う(図2のステップS4)。
具体的には、まず、本混練制御部65は、本混練装置5に活物質材料のプレスラリが供給される前に、以下の準備工程を行う。すなわち、本混練制御部65は、ハウジング51内の収容容器53を冷却するために、冷却水を冷却管路51aから給水して冷却管路51bから排水する。収容容器53を冷却する理由は、後述する回転子52の外周面と収容容器53の内周面とのギャップG間で行われる活物質材料のプレスラリの分散中において、活物質材料のプレスラリの温度上昇を抑制するためである。
【0045】
さらに、本混練制御部65は、移動モータ54を駆動して回転子52を軸線方向に移動して回転子52の外周面と収容容器53の内周面とのギャップGを調整し、バルブ57を完全に閉じる。回転子52の外周面と収容容器53の内周面とのギャップGを調整する理由およびバルブ57を閉じる理由は、後述する。
【0046】
次に、本混練制御部65は、本混練装置5に活物質材料のプレスラリが供給されたら、回転駆動モータ55を駆動して回転子52を軸線回りで所定の周速で回転させる。収納容器53の開口53aから供給される活物質材料のプレスラリは、回転子52の外周面と収容容器53の内周面とのギャップGを通るときにせん断力および圧縮力を受け、活物質材料のプレスラリ中において活物質の粉体は分散される。せん断力は、活物質材料のプレスラリ中において凝集物を引き剥がす作用を担い、圧縮力は、活物質材料のプレスラリ中において増粘剤の溶解液を活物質の粉体に含浸させる作用を担う。
【0047】
ここで、活物質材料のスラリの粘度は、電池の初期性能および塗布・乾燥工程の実行性の兼ね合いから定められる所定範囲内に調整する必要がある。図5に示すように、活物質材料のスラリの粘度は、回転子52の周速が大きくなるにつれて低下する。また、活物質材料のスラリの粘度は、回転子52の外周面と収容容器53の内周面とのギャップGが小さい方が低下率が大きい。よって、活物質材料のスラリの粘度が、上記所定範囲内となるように、回転子52の周速および回転子52の外周面と収容容器53の内周面とのギャップGを設定する。
【0048】
また、活物質材料のスラリの粘度は、同じ条件で本混練を行ってもばらつくことが多い。このばらつきは、収容容器53内における活物質材料のプレスラリおよび活物質材料のスラリの充満度に起因している。すなわち、活物質材料のプレスラリおよび活物質材料のスラリが、収容容器53内において疎な場合、エネルギの伝達効率が悪いので、活物質材料のスラリの粘度はばらつくが、収容容器53内において密な場合、エネルギの伝達効率が良いので、活物質材料のスラリの粘度は安定する。収容容器53内において活物質材料のプレスラリおよび活物質材料のスラリを密にするには、バルブ57を閉じて活物質材料のプレスラリを送り続ければよい。
【0049】
そして、活物質材料のプレスラリおよび活物質材料のスラリが、収容容器53内に満たされて密になったら、この密な状態を維持するため、活物質材料のプレスラリの流入圧および活物質材料のスラリの流出量を制御すればよいが、活物質材料のプレスラリの流入圧は一定であるため、活物質材料のスラリの流出量をバルブ57の開度を調整することにより行う。
【0050】
図6に示すように、活物質材料のスラリの粘度は、バルブ57の開度が小さくなるほど回転子52の外周面と収容容器53の内周面とのギャップGにおいてせん断力が活物質材料のプレスラリに作用するため低くなる。よって、活物質材料のスラリの粘度が、上記所定範囲内となるように、バルブ57の開度を設定する。また、活物質材料のプレスラリが回転子52の外周面と収容容器53の内周面とのギャップGを通過するときの速度や圧力は、バルブ57の開度により設定できるので、活物質材料のプレスラリ中において増粘剤の溶解液に対する活物質の粉体の分散度合いが良好となるバルブ57の開度に調節する。
【0051】
そして、本混練制御部65は、バルブ57が閉じられていることにより上昇する収容容器53の内圧を図略の圧力計により測定する。本混練制御部65は、収容容器53内に活物質材料のプレスラリおよび活物質材料のスラリが満たされて収容容器53の内圧が所定値に達したら、バルブ57を所定量開け、活物質材料のスラリを排出管路56を介して外部に排出する。
【0052】
上述の混練装置1によれば、粉体は、液体に馴染んでから液体中に分散されることになるので、粉体の損傷を抑制することができる。また、粉体および液体を搬送してプレスラリとする間に搬送済みのプレスラリ中において粉体を分散させるので、連続的な混練が可能となる。また、本混練の条件変更は、対向して回転する回転子52の外周面と収容容器53の内周面とのギャップGを調整するのみで行うことが可能であるので、本混練の条件変更作業が容易となる。
【0053】
なお、上述の実施形態では、リチウムイオン二次電池の負極用の活物質材料を製造する場合について説明したが、リチウムイオン二次電池の正極用の活物質材料を製造する場合も適用可能である。また、本発明が適用される材料としては、リチウムイオン二次電池の電極用の活物質材料に限定されるものではなく、例えばキャパシタの材料、医薬品用や化粧品用の微粒子スラリ、食品用のペースト等にも適用可能である。
【符号の説明】
【0054】
1:混練装置、 2:溶解装置、 3:供給装置、 4:予備混練装置、 5:本混練装置、 6:制御装置、 42:スクリュウ、 52:回転子、 53:収容容器、 57:バルブ、 :61:記憶部、 62:溶解制御部、 63:供給制御部、 64:予備混練制御部、 65:本混練制御部、 G:ギャップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6