(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1または第2の照射工程のうち一方の照射工程の照射線量が、前記第1または第2の照射工程のうち他方の照射工程の照射線量の1%以上100%未満の値であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置の製造方法。
前記ウェハースタック内で隣接する半導体基板は、それぞれの第1の主面同士または第2の主面同士が互いに向かい合うように積層されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
前記ウェハースタック内の半導体基板の厚さの総厚は、前記半導体基板に対する前記電子線の飛程よりも薄いことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
前記ウェハースタック内の半導体基板の厚さの総厚は、前記半導体基板に対する前記電子線の飛程の半分よりも薄いことを特徴とする請求項8に記載の半導体装置の製造方法。
前記第1の照射工程における加速エネルギーは、前記第1の照射工程により前記2枚以上の半導体基板に導入される結晶欠陥の濃度分布が、前記ウェハースタックの一方の主面から他方の主面に向かって増加するような加速エネルギーであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
電子線照射において、1回で照射できる照射線量は、一般的におよそ10kGy程度である。所望の高速スイッチング特性を実現するために必要な照射線量が100kGyの場合は、10回の照射が必要であり、1回ごとのばらつきが照射回数分だけ増加する。固定された照射線量を必要なだけ複数回照射する理由として、一般に商用ベースでは、製品ごとの照射量の細かな調整は、コスト高やスループット低下の原因となることがある。このため、10回程度照射を繰り返すと、照射線量に20%程度のばらつきが生じる。この照射線量のばらつきは、半導体基板の結晶欠陥濃度のばらつきとなるため、素子特性のばらつきの原因となる。
【0010】
例えば、特許文献1に記載のように、1回の照射で複数枚に照射する場合、電子線源に最も近いウェハーから最も遠いウェハーとでは、厚さが数mmにわたるため、照射線量の違いやばらつきが大きくなりやすい。
【0011】
高速スイッチング特性は、電子線の照射線量と正の相関を有する。そのため、電子線照射の回数を多くすれば、スイッチング時間を短くでき、高速スイッチング特性を向上させることができる。しかしながら、上記のように照射線量のバラツキが多くなるために、結晶欠陥のばらつきによる特性の不均一が生じる。特に車載用途の場合、バラつきの低減と管理が厳しく求められており、電子線照射の低コスト化と特性の均一性向上の両立が可能な手段が必要となっている。
【0012】
また、特許文献2には、ウェハースタックへ電子線を照射する方法については記載されていない。
【0013】
この発明の目的は、前記の課題を解決し、低コストで特性の均一化された電子線照射を実現する半導体装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の目的を達成するために、特許請求の範囲に記載の発明によれば、
半導体基板を2枚以上積み重ねてなるウェハースタックの主面から電子線を照射する半導体装置の製造方法であって、
前記ウェハースタックの一方の主面から電子線を照射する第1の照射工程と、
前記電子線の照射における加速エネルギーと同じ加速エネルギーで、前記ウェハースタックの他方の主面から電子線を照射する第2の照射工程と、を有する半導体装置の製造方法とする。
【0015】
前記第2の照射工程の照射線量が、前記第1の照射工程の照射線量と同じであってもよい。
前記第1の照射工程の回数と前記第2の照射工程の回数が同じであってもよい。
前記第2の照射工程の照射線量が、前記第1の照射工程の照射線量と異ってもよい。
前記第1または第2の照射工程のうち一方の照射工程の照射線量が、前記第1または第2の照射工程のうち他方の照射工程の照射線量の1%以上100%未満の値であってもよい。
【0016】
前記第1の照射工程と前記第2の照射工程を一対とし、該一対の工程を複数回繰り返してもよい。
前記ウェハースタック内で隣接する半導体基板は、それぞれの第1の主面同士または第2の主面同士が互いに向かい合うように積層されていてもよい。
前記ウェハースタック内の半導体基板の厚さの総厚は、前記半導体基板に対する前記電子線の飛程よりも薄くてもよい。
前記ウェハースタック内の半導体基板の厚さの総厚は、前記半導体基板に対する前記電子線の飛程の半分よりも薄くてもよい。
前記第1の照射工程における加速エネルギーは、前記第1の照射工程により前記2枚以上の半導体基板に導入される結晶欠陥の濃度分布が、前記ウェハースタックの一方の主面から他方の主面に向かって増加するような記加速エネルギーであってもよい。
【0017】
あらかじめ照射線量モニターに電子線を照射し、前記ウェハースタックの一方の主面から他方の主面への複数の半導体基板の照射線量データを取得する取得工程と、
該取得工程で得られた前記照射線量データから、前記照射線量モニターに照射したときと同じ加速エネルギーにおける電子線の必要照射量とその照射回数を算出する算出工程と、を含み、該必要照射量とその照射回数にて前記第1の照射工程および第2の照射工程を行ってもよい。
【0018】
前記取得工程において、前記ウェハースタック内の半導体基板のうち、前記電子線を照射する電子線源に最も近い半導体基板の照射線量をxとし、
前記取得工程において、前記ウェハースタック内の半導体基板のうち、前記電子線を照射する電子線源から最も遠い半導体基板の照射線量をyとし、
前記算出工程において、半導体基板に必要な最低必要照射線量をDとして、前記第1の照射工程および第2の照射工程を合わせた電子線照射の回数を2D/(x+y)としてもよい。
【0019】
前記第2の照射工程の後に、熱処理を行う電子線照射後熱処理工程をさらに含めてもよい。
前記電子線照射後熱処理工程の雰囲気には水素が含まれてもよい。
前記電子線照射後熱処理工程の前に、表面電極を形成する工程をさらに含めてもよい。
前記電子線照射後熱処理工程の後に、表面電極を形成する工程をさらに含めてもよい。
前記表面電極がバリアメタルを含んでもよい
。
【発明の効果】
【0020】
この発明では、低コストで特性の均一化された半導体装置の製造方法とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明においては、電子線照射装置から被照射体(半導体ウェハー等)へ照射する電子線の照射量(ドーズ量等)を、電子線照射量とする。また、電子線を照射された被照射体の受けた線量を、照射線量とする。この照射線量は、電子線の照射量と、非照射体の組成(原子、分子の構成)等によって決まる線量である。
【0023】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1である半導体装置の製造方法について説明する。
【0024】
図1は、この発明の一実施例に係る半導体装置の製造方法であり、工程順に示した要部製造工程図である。
【0025】
例えば、表面11に、縦型MOSFETのMOSゲートおよびソース電極等が複数形成された表面部16を有する半導体ウェハー10を2枚、高分子材のセパレーターを挟んで順に積層させ、専用の高分子材のケースに入れる。ここで、表面11に形成されたMOSFETの表面構造は、半導体ウェハー10の直径に対して極めて微細な構造であるため、表面構造の記述は省略している。半導体ウェハーは、シリコン、SiC、GaN等がある。本実施の形態1では、シリコンを用いた。これにより、半導体ウェハー10のウェハースタック100が形成される。半導体ウェハー10の1枚あたりの厚さは、例えば200μm〜1000μm程度である。また、2枚目の半導体ウェハー10の表面11が、1枚目の半導体ウェハー10の裏面12と向かい合うように積層する。
【0026】
次に、ウェハースタック100内の半導体ウェハー10の表面側から、第一の電子線照射31を行う。第一の電子線照射31の加速エネルギーは、例えば5MeV程度である。1回の電子線照射量は20kGyとし、10回照射した。ここまでの工程が、
図1(a)に示す工程であり、第一の電子線照射工程とする。
【0027】
次に、前述高分子材のケースの天地を反転させて(ケースの反転20)、ウェハースタック100内の半導体ウェハー10の裏面12側から、第二の電子線照射32を行う。照射の加速エネルギーは前工程と同じ5MeVである。また、1回の電子線照射量を20kGyとし、10回照射する。これにより、全電子線照射量は前工程と同じ値となる。この工程が、
図1(b)に示す工程であり、第二の電子線照射工程とする。
【0028】
その後、ウェハースタックから半導体ウェハー10を抜き取り、抜き取った半導体ウェハー10を熱処理する。この熱処理により、MOSFETのチャネル近傍の欠陥を回復させる。熱処理の温度は、例えば320℃〜380℃程度である。
【0029】
熱処理工程の後は、半導体ウェハー10の裏面に電極を形成する工程を経て、ウェハー製造プロセスを完了させる。
【0030】
次に、電子線照射の前後の工程を説明しておく。
図10〜17は、より具体的な半導体装置の製造方法を示す断面図である。本実施の形態1では、半導体装置をMOSFET、特に超接合型のMOSFETとして説明する。表面構造は、スイッチングする電流(主電流)を半導体基板の表面から裏面に流す活性領域と、活性領域を取り囲み、オフ状態に広がる空乏層によって活性領域の外周の表面で増加する電界強度を低減させる電界緩和領域、すなわち接合終端領域の2つの領域からなる。活性領域には、主電流を流すソース電極と、MOSゲートに信号を送るゲート電極が並設される。なお、
図10〜
図17および以下の説明では、半導体ウェハー10の断面は、上記のウェハースタックにおける任意の半導体ウェハーの一枚とする。また、半導体はシリコンを例としているが、炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、砒化ガリウム(GaAs)といった化合物半導体でも同様に成り立つ。
【0031】
まず、
図10に示すように、半導体基板56を形成する。例えばアンチモンや砒素等のn型不純物(ドーパント)が過飽和となる程度まで高濃度にドーピングされたCZ(チョクラルスキー法)シリコンウェハー(n型高濃度基板)をn型ドレイン層42とする。n型ドレイン層42の一方の面(表面)に、n型ドレイン層42よりも不純物濃度の低いn型ドリフト層41を、所定の不純物濃度および厚さでエピタキシャル成長させる。このときのドーパントは、例えばリンである。続いて、所定の厚さのn型層をエピタキシャル成長させたあとに、所定の箇所に選択的にp型ドーパント(例えばボロン)をイオン注入等で導入する。このn型層のエピタキシャル成長からp型ドーパントのイオン注入までの工程を複数回繰り返した後、熱処理を加えて活性化させる。これにより、n型層とp型層が並設された並列pn構造55、すなわち、n型第1コラム層43と、p型第2コラム層44が並列に形成された、超接合ドリフト構造が、n型ドリフト層41の表面に形成される。n型第1コラム層43の不純物濃度は、n型ドリフト層41の不純物濃度より高くてもよい。n型ドリフト層41の厚さは0μm(つまり形成しない)〜30μm程度であってもよい。n型第1コラム層43およびp型第2コラム層44の厚さは、20μm〜60μmであってもよい。
【0032】
次に、活性領域の周辺に図示しないガードリング等の接合終端領域を形成する。続いて、
図11に示すように、活性領域にn型第1コラム層43とp型第2コラム層44の表面に、ゲート絶縁膜45とゲート電極46を選択的に形成する。このゲート絶縁膜45とゲート電極46に自己整合となるように、p型ベース層48とn型ソース層49をイオン注入および熱処理にて形成する。続いて、ゲート電極46を覆うように周知のPSG膜、BPSG膜等により層間絶縁膜47を形成し、さらに層間絶縁膜47を選択的にエッチングしてp型ベース層48とn型ソース層49の表面を露出し、開口部を形成する。ここまでで、活性領域にはMOSゲート構造(表面構造)が形成される。
【0033】
層間絶縁膜のアニール後、アルミニウム・シリコン合金膜等により、ソース電極50を形成し、熱処理によりシンタリングを行う。このとき、前述アルミニウム・シリコン合金膜等の形成前にチタン(Ti)、タングステン(W)、コバルト(Co)等を含有金属とするバリアメタルを形成してもよい。以上により、表面電極(ソース電極50)が形成され、基本的なMOSFET構造が完成する。なお、ここまでの加熱履歴は、層間絶縁膜47のアニールまでが例えば900℃以上、ソース電極のシンタリングが例えば200〜500℃程度である。また、シンタリングの後に、ポリイミド膜等により周知の表面保護膜(パシベーション膜)を形成してもよい。
【0034】
次に、
図12に示すように、例えばウェハーの表面側から、所定の線量で第一の電子線照射31を行う。電子線が照射される方向を矢印に示す。
【0035】
続いて、
図13に示すように、第一の電子線照射31で格子欠陥51(主に点欠陥)が形成されたウェハーについて、
図1で説明したようにウェハーケースを反転し、ウェハーの裏面側から、第一の電子線照射31と同じ線量で第二の電子線照射32を行う。
図13中の×印は、格子欠陥51を模式的に示したマークであり、格子欠陥51の位置および分布状態を厳密に示したものではない。なお、第二の電子線照射32では、線源からウェハーケースに向かう電子線の照射方向は、第一の電子線照射31と同じである。第二の電子線照射32では、ウェハーケースの反転により、ウェハーのもう一方の主面(
図13では裏面側)から電子線照射を行っている。すなわち、
図13では、第二の電子線照射を示す矢印を第一の電子線照射31と反転させることで、
図1におけるケースの反転20を行ったことを示している。
【0036】
続いて、
図14に示すように、第一の電子線照射31に第二の電子線照射32が加わることで、格子欠陥51が増加した照射ウェハー全てについて、熱処理(電子線照射後熱処理)を行う。電子線照射後熱処理の目的は、第一の電子線照射31および第二の電子線照射32により導入された格子欠陥51の欠陥密度を所定の値に低減することで、MOSFETに内蔵される内蔵ダイオード(寄生ダイオード、逆導通ダイオードともいう)の逆回復時間を所望の値にすることである。内蔵ダイオードは、MOSFETのp型ベース層48−p型第2コラム層44−n型第1コラム層43−n型ドリフト層41−n型ドレイン層42によって構成されるダイオードである。また、電子線照射をして熱処理をしない状態では格子欠陥51の密度が多すぎて、逆導通時に並列pn構造55およびn型ドリフト層41に蓄積されるキャリア濃度が少なくなり、内蔵ダイオードの順方向電圧降下の値が所望の値よりも高くなる。そのため、電子線照射後熱処理により、格子欠陥51の密度を低下させ、順電圧降下の値を所定の値に低下させる効果もある。また、MOSFETのチャネル(p型ベース層48のゲート絶縁膜との界面に形成される電子反転層)が形成されるp型ベース層48近傍の欠陥回復も目的とする。これにより、電子線照射によって生じるゲートしきい値の変動を抑える。
【0037】
図15は、電子線照射後熱処理により、格子欠陥51の欠陥密度が低減した状態を示す模式図である。この電子線照射後熱処理を、例えば均熱(一様な温度分布のこと)のとれた電気炉にて行う。これにより、電子線を照射した全てのウェハーの格子欠陥51の密度が、電子線の両面照射による密度分布の均一性を維持しながら一様に低下し、その結果、全てのウェハーで同じ程度の所望の格子欠陥密度となる。
【0038】
続いて、
図16に示すように、ウェハーの裏面側にあるn型ドレイン層42(前述のn型高濃度基板)に対して研削52をすることにより、ウェハーの厚みを薄板化する。この薄板化の目的として、本願半導体装置は一般に金属性フレームに半田を介して搭載されるため、半導体装置と金属性フレームとの熱膨張係数のちがいにより生ずる応力の緩和がある。また、電流の導通方向の厚さを薄くすることで、MOSFETの導通時の抵抗(オン抵抗)を低減する効果もある。さらに、薄板化により、MOSFETの熱容量を低減し、動作時の発熱を基板の両面から逃がし易くして、MOSFETの動作温度を低くする効果もある。
【0039】
最後に、
図17に示すように、ウェハーの裏面にn型で高濃度のn型コンタクト層54を形成し、ドレイン電極53を形成する。n型コンタクト層54は、例えばリンを裏面にイオン注入したあと、注入面をレーザーアニールすれば、表面電極の溶融やp型ベース層、並列pn構造等のpn接合の形状変化といった熱的なに影響無しに、低抵抗のオーミックコンタクトを形成できる。なお、n型高濃度基板のドーパントに砒素を用いる場合は、n型コンタクト層54は、省いても良い。砒素の飽和濃度は、アンチモンよりも1桁以上高く、n型コンタクト層54を形成しなくてもドレイン電極53とのオーミックコンタクトを形成できるためである。以上により、電子線照射の両面照射により均一な欠陥密度分布を有する超接合型MOSFET60を完成させる。
【0040】
図18および
図19に、上述の本発明の半導体装置の形成フローを示す。
図18は、この発明の実施の形態1に係る半導体装置の製造方法を示す製造工程のフロー図である。
図18では、層間絶縁膜形成までの表面構造形成工程(ステップS1)の後、ソース電極等の表面電極形成工程(ステップS2)を行う。続いて、耐湿性向上のための表面保護膜形成工程(ステップS3)を行ってもよい。続いて、所定の線量にて第一の電子線照射工程(ステップS4)をウェハーの表面から行い、ウェハーケースを反転させてS4と同じ線量の第二の電子線照射工程(ステップS5)をウェハーの裏面から行う。続いて所定の温度および時間にて電子線照射後熱処理工程(ステップS6)を行い、格子欠陥の密度を所望の値まで均一性を維持しながら低減させる。その後、ウェハーの厚さを研削により薄くする基板薄板化工程(ステップS7)を行い、研削面に高濃度のn型コンタクト層を形成する裏面コンタクト層形成工程(ステップS8)を行い、最後にドレイン電極といった裏面電極形成工程(ステップS9)を行う。なお、n型裏面コンタクト層形成工程S8は、n型高濃度基板のドーパントに砒素を用いる場合は省いても良い。
【0041】
なお、第一の電子線照射工程(ステップS4)と第二の電子線照射工程(ステップS5)を入れ替えてもよい。すなわち、最初に第二の電子線照射工程(S5)をウェハーの裏面側から行い、続いてウェハーケースを反転させて、第一の電子線照射工程(S4)をウェハーの表面側から行ってもよい。
図19は、この発明の実施の形態1に係る半導体装置の製造方法の他の製造工程フロー図である。
図19に示すように、ステップS5の工程の次にステップS4の工程を行う。
【0042】
さらに、S4とS5以外の各工程(ステップ)を、適宜入替ても良い。例えば、表面保護膜形成工程S3を、第一の電子線照射工程S4もしくは第二の電子線照射工程S5の後に行ってもよい。
図20は、の発明の実施の形態1に係る半導体装置の製造方法の他の製造工程フロー図である。
図20のように、表面保護膜形成工程S3を、第一の電子線照射工程S4および第二の電子線照射工程S5の後に行ってから、電子線照射後熱処理工程のステップS6を行ってもよい。
【0043】
さらに表面保護膜形成工程S3を、電子線照射後熱処理工程S6の後に行ってもよい。
図21は、この発明の実施の形態1に係る半導体装置の製造方法の他の製造工程フロー図である。
図21に示すように、電子線照射後熱処理工程S6の後に、表面保護膜形成工程S3を行ってもよい。特に、ポリイミドといた有機膜による表面保護膜の形成は、電子線照射後の熱処理温度(例えば300〜350℃)よりも同程度か若干高い(例えば350〜400℃)ので、それぞれの処理温度が高い方を先に行うとよい。これにより、電子線照射後熱処理工程S6で電子線照射による格子欠陥の密度を所望の値まで低減し、かつそれ以降の工程の処理温度で予期せぬ格子欠陥密度の低下を防止することができる。
【0044】
また、第一の電子線照射工程S4、第二の電子線照射工程S5および電子線照射後熱処理S6を、裏面電極形成工程S9の後にしてもよい。
図22は、この発明の実施の形態1に係る半導体装置の製造方法の他の製造工程フロー図である。
図22のように、第一の電子線照射工程S4、第二の電子線照射工程S5および電子線照射後熱処理S6を、裏面電極形成工程S9の後にしても構わない。これにより、電子線照射後熱処理工程S6の処理温度よりも裏面コンタクト層形成あるいは裏面電極形成の処理温度が高い場合は、電子線照射後熱処理工程S6で電子線照射による格子欠陥の密度を所望の値まで低減することができる。さらに、電子線照射後熱処理工程S6以降の工程の処理温度で、予期せぬ格子欠陥密度の低下を防止することができる。
【0045】
あるいは、表面構造形成工程S1の後で表面電極形成工程S2の前に行ってもよい。
図23は、この発明の実施の形態1に係る半導体装置の製造方法の他の製造工程フロー図である。
図23のように、表面構造形成工程S1の後に、第一の電子線照射工程S4、第二の電子線照射工程S5および電子線照射後熱処理S6を行う。その後、表面電極形成工程S2以降を行ってもよい。なお、この
図23に示す工程の順序については、後述する。また、
図20〜
図23における第一の電子線照射工程S4と第二の電子線照射工程S5は、前述の
図19ように順番を入れ替えても構わない。
【0046】
次に、電子線照射後熱処理と、ゲートしきい値との関係について説明する。ゲートしきい値は、電子線照射により、電子線照射を行わない場合に比べて低下する。このゲートしきい値低下の対策は、p型ベース層の不純物濃度やゲート絶縁膜の厚さを予め変更しておくことで対応してもよいが、チャネル(電子反転層)が形成されるp型ベース層のゲート絶縁膜との界面近傍で発生した格子欠陥を回復させることで対応しても良い。格子欠陥により変動したゲートしきい値は、長期的にも変動する可能性があり、MOSFETの長期信頼性を低下させるおそれがあるためである。このゲートしきい値の低下は、電子線照射後熱処理で回復可能であるが、このとき、電子線照射後熱処理の雰囲気を、水素含有雰囲気とすると良い。その理由は、上記の界面近傍の格子欠陥、特にダングリングボンドを水素が終端し、チャネル(電子反転層)に対する欠陥の影響を低減できるからである。
【0047】
なお、電子線照射後熱処理の段階で、既に表面電極(ソース電極)にチタン(Ti)等のバリアメタルを形成していると、ゲートしきい値の回復度合いが弱くなる。そこで、チタン等が形成されている場合は、ゲートしきい値低下を見込み、p型ベース層形成におけるイオン注入量を高濃度化する等、前述のようにあらかじめしきい値の調整をしてもよい。或いは、
図23に示すように、バリアメタルを含む表面電極形成工程S2を、電子線照射後熱処理工程S6の後にしてもよい。これにより、バリアメタルの影響を受けずにチャネル近傍のダングリングボンドを水素で終端することができる。この
図23に示す工程順序の場合は、電子線照射後熱処理工程S6の処理温度(例えば300〜380℃)よりも表面電極形成工程の処理温度を低く(例えば200〜350℃)すればよく、バリアメタルの低温スパッタ等を行えばよい。これにより、電子線照射後熱処理工程S6で電子線照射による格子欠陥の密度を所望の値まで低減し、かつそれ以降の工程の処理温度で予期せぬ格子欠陥密度の低下を防止することができる。
【0048】
次に、本発明の技術的特徴について説明する。
【0049】
図5は、任意の厚さの半導体ウェハー10(シリコン)を積層させたウェハースタック100の片面側から電子線を照射したときの、半導体ウェハー10の積算厚さ(総厚)に対する半導体ウェハー10の相対照射線量を示した分布図である。縦軸の相対照射線量(以下、相対線量)は、半導体ウェハー10の電子線の照射面における照射線量で規格化した値である。以下に述べるように半導体ウェハー10が複数の場合の電子線の照射面は、電子線が最初に入射する半導体ウェハー10の入射面とする。電子線は、半導体(シリコン)の電子阻止能と電子線の加速エネルギーに応じて、半導体中に照射線量分布を生じさせる。この照射線量の分布形状は、電子線照射により半導体中に生成される結晶欠陥の濃度分布の形状とほぼ一致する。すなわち、結晶欠陥の濃度分布は半導体への照射線量によってきまるので、一般的にはガウス分布に近い。そのため、
図5のように、電子線の加速エネルギーが高くなると、飛程Rpも高くなる。
【0050】
実際には、
図5に示すように半導体ウェハー10の最表面からRpの手前(数mm程度)までは、照射線量(もしくは結晶欠陥濃度)分布は、一次関数的に単調増加していると見なすことができる。このため、電子線が入射する最表面の半導体ウェハー10と、Rpに近い半導体ウェハー10とでは、照射線量が40%近く異なる。このような照射線量のばらつきは、半導体ウェハー10間の結晶欠陥密度分布の均一性を崩し、特性のばらつきとなる。本実施の形態1のようにパワーMOSFETであれば、内蔵ダイオードの導通損失(順電圧降下)と逆回復特性(逆回復時間や逆回復最大電流等)の特性バラつきに影響する。
【0051】
このようなウェハースタック100内における半導体ウェハー10間の照射線量のバラつきを回避するために、上述のように高分子材のケースの天地を反転させ、同じ照射条件にて電子線をウェハースタック100の裏面側からも照射する。以降では、この照射方法を両面照射と呼ぶことにする。また、両面照射と区別するために、従来の片面からのみの電子線照射方法を、片面照射と呼ぶことにする。
【0052】
(実施の形態2)
図2は、実施の形態2にかかる半導体装置の製造工程を示す図である。実施の形態1との相違点は、半導体ウェハー10を2枚以上、例えば10枚重ねてウェハースタック100を形成したことである。
【0053】
図5からもわかるように、ウェハースタック100の半導体ウェハー10の枚数が多くなるほど、片面照射による照射線量のバラつき(相違)は大きくなる。これに対して、ウェハースタック100の両側から電子線を照射する両面照射を行うことで、ウェハースタック100内の枚数が多くなっても、極めて高い照射線量(結晶欠陥密度分布)の均一性を得ることができる。
【0054】
本発明の両面照射による欠陥密度分布の均一化の効果は、特にウェハースタック100の枚数が増えるほど強くできる。この作用効果について以下説明する。
図6は、ウェハースタック100の表面側および裏面側から同一条件(加速エネルギー、電子線照射量)で電子線を両面照射したときの、相対的な照射線量分布を示した分布図である。
図5と同様に、縦軸の値は、ウェハースタック100で電子線源に最も近い半導体ウェハー10の最表面の照射線量で規格化している。第一の電子線照射工程S4による第1照射線量分布13と、第二の電子線照射工程S5による第2照射線量分布14は、ウェハースタック100のほぼ中間に対して線対称の分布となる。第二の電子線照射工程S5が終わった後の、ウェハースタック100内の半導体ウェハー10の照射線量分布は、総照射線量分布15のようになる。第1照射線量分布13が最大値となる飛程(Rp1)と第2照射線量分布14の飛程(Rp2)よりもそれぞれ照射面側となる領域Aにおいて、総照射線量分布15はほぼ一定となり、均一性が良くなることがわかる。特に、領域Aにおける照射線量分布の幅(標準偏差)はおよそ0.5%であり、片面照射の場合のバラつき(40%前後)に比べて極めて均一性が良くなっている。
【0055】
実際には、両面照射における第1および第2の片面からの照射時の電子線照射量は、片面照射だけの場合の電子線照射量よりも小さくするが、それを考慮しても、両面照射の場合の欠陥密度分布は、均一性が極めて高いことがわかる。なお、両面照射における電子線照射量の算出方法については後述する。
【0056】
電子線の複数回の両面照射は、表面からの照射1回と裏面からの照射1回を対として、この対を複数回繰り返してもよい。あるいは、最初に表面からの照射を複数回行い、次に裏面からの照射を複数回行ってもよい。工程における手間数は、後者の方が少なくて良いが、表面側からの照射回数と裏面側からの照射回数を同じとするよう、注意する必要がある。
【0057】
(実施の形態3)
図3は、実施の形態3にかかる半導体装置の製造工程における断面を示す図である。実施の形態1との相違点は、1枚目の半導体ウェハー10の裏面12に対向する2枚目の半導体ウェハー10の面を、同じ裏面12としたことである。両面照射を行うメリットは、
図6に示すように照射線量(あるいは結晶欠陥密度)分布の均一性を高めることである。ここで、本実施の形態3のように、表面11と裏面12を交互に配置することで、ウェハー間のバラつきをさらに吸収することができる。これにより、さらに素子特性の均一性を高めることができる。
【0058】
(実施の形態4)
図4は、実施の形態4にかかる半導体装置の製造工程における断面を示す図である。実施の形態2との相違点は、隣接する半導体ウェハー10同士の向き合う面を、実施の形態3のように表面11同士あるいは裏面12同士として積層し、ウェハースタック100を形成したことである。
【0059】
縦型MOSFETが複数配置された半導体ウェハー10を、例えば10枚(1枚の厚さは200μm〜1000μm程度)を、
図4に示すように全て表面-裏面、裏面-表面、表面-裏面と繰り返して重ね合わせ、専用の高分子材のケースに入れる。
【0060】
次に、加速エネルギーを10MeVとして、電子線を照射する。照射量は10kGyを20回繰り返し、計200kGyとした。10MeVの加速エネルギーでは、電子の飛程は約20mmであり、10枚程度でれば、飛程に到達せず、重ね合わせた半導体ウェハー10の全てに十分な照射ができる。ただし、
図5に示すように、半導体ウェハー10の最表面側から飛程までは半導体ウェハー10への照射線量(あるいは結晶欠陥密度)は増加しているが、飛程以降は急激に減少する。このため、半導体ウェハー10の積算厚さの目安として、飛程以下とする必要がある。片面照射の場合は、照射線量は、電子線を照射する最表面ウェハーとその反対側の端のウェハーとで40%程度前後のバラつき(不均一)が生じる。特に、半導体ウェハー10枚数が増えるほど積算厚さは増加し、その照射線量および欠陥密度分布の差は大きくなり、不均一性が増加する。そこで、ウェハースタック100をケースごと反転させ、かつ同量の電子線照射量にて両面照射を実施することで、照射線量の増減が相殺され特性の均一化ができる。
【0061】
なお、
図2のように、1方向にして半導体ウェハー10を重ねたほうが作業効率はよいため、1方向での重ねあわせで実施しすることも可能であるが、バラツキが若干(0.1%程度)大きくなる。そのため、より厳密なバラつき低減と管理を必要とする場合は、本実施の形態4のようにするとよい。
【0062】
(実施の形態5)
図7は、実施の形態5にかかる半導体装置の特性を示す図である。
【0063】
発明者により鋭意研究を行った結果、ウェハースタック100のシリコン基板における電子線の飛程Rp(mm)をyとし、電子線の加速エネルギーE(MeV)をxとすると、y=5.0×10
-7x
4−9.0×10
-5x
3+0.0046x
2+2.2591x−0.3599、の式で記述できることがわかった。この式についてグラフにしたのが、
図7である。すなわち、ウェハースタック100のウェハー積算厚さをW(mm)とすると、Wを電子線の飛程Rpの例えば80%として、この0.8Rpとなる電子線の加速エネルギーを上式を用いて算出し、電子線の両面照射を行う。これにより、ウェハースタック100内の複数枚の半導体ウェハー10を一度(必要な照射量分の照射回数)に電子線照射を行い、しかも極めて均一性の高い照射線量欠陥密度分布を得ることができる。
【0064】
あるいは、電子線照射装置において可能な加速エネルギーEから、上記式を用いて飛程Rpを算出し、この値からウェハー積算厚さをRp以下、例えば0.8RpとなるWとしてもよい。
【0065】
さらに好ましくは、ウェハー積算厚さWを飛程Rpの50%とすると、結晶欠陥密度ンの均一性を一層高めることができる。特に、ウェハースタック100の最表面ウェハー側から数mm程度の積算厚さまでは、欠陥密度分布は略一次関数的に増加している。このため、飛程よりも十分浅い領域、例えば飛程が20mmの場合、たとえば、10mm程度以下を使うことで、均一性を向上できる。
【0066】
(実施の形態6)
前述の実施の形態1および2における両面照射の照射回数について説明する。
【0067】
ウェハースタック100に対して、電子線照射を片面照射のみで行い、半導体ウェハー10に欠陥を導入する場合は、電子線源に最も近いウェハーが最も照射線量が低くなる。電子線照射は逆回復時間やスイッチング時間を短くする目的で行うので、電子線源に最も近い半導体ウェハー10で所望の特性が達成できる照射線量で電子線照射を行う必要がある。例えば、所望の特性を得るために、半導体ウェハー10の1枚あたりの必要な照射線量が100kGyとなる場合を考える。このとき、前述のように、ウェハースタック100の中で電子線源に最も近いウェハーの照射線量が100kGyとなるように照射する必要がある。そのために、電子線の加速エネルギーを、たとえば4MeVから10MeVの範囲で所定の加速エネルギーに固定する。この加速エネルギーにて、ウェハースタック100の一方の主面側に対して、1回あたりの電子線照射量が10kGyの電子線照射を10回繰り返す。すると、ウェハースタックの中で電子線源から最も遠い他方の主面側のウェハーでは、電子線の照射線量はたとえば150kGyとなり、50kGyもの過剰な照射線量となる。
【0068】
上述の照射線量の相違を低減するためには、ウェハースタック内の照射線量分布を把握する必要がある。照射線量の確認に関しては、照射の都度、モニター用の線量測定チップなどを用意し、ウェハーとともにウェハースタックに組み込み、電子線を照射してその線量を評価することが考えられる。しかしながら、照射の都度モニターを用意することは、作業効率を低下させる。
【0069】
そこで、事前に、低めの照射線量にてモニターに電子線を照射することで、照射線量の分布割合を把握しておくとよい。低めの照射線量とは、例えば電子線照射装置において、1回に照射できる電子線照射量における被照射体の照射線量などである。加速エネルギーや電子線の照射ドーズ量等の照射条件を一定にした場合を考えると、ウェハースタックの深さ方向に対する照射線量の分布割合は、照射ドーズ量の大小に関わらず一定である。よって、たとえば600kGy相当の照射線量を必要とする半導体装置を製造する場合も、600kGyのような高い線量のモニタリングする必要はなく、10kGy程度でその分布データを取得すれば良い。モニターへの電子線照射量は、例えば照射装置の最小照射単位としてもよい。
【0070】
図8は、ウェハースタック100の最も電子線源に近い半導体ウェハー10における照射線量を10kGyとしたときの、ウェハースタック100内の半導体ウェハー10の照射線量分布を示したグラフである。ここで、横軸の「底側」とは、ウェハースタック100内の半導体ウェハー10のうち、電子線源から最も遠い半導体ウェハー10のことである。
図8のように、ウェハー毎の照射線量は、電子線源から遠くなるに従い、おおよそ線形的に増加することが分かる。
【0071】
仮に、ウェハースタック100の最表面(電子線源に最も近いこと)にある半導体ウェハー10の照射線量をx、最底面(電子線源から最も遠いこと)のウェハーの照射線量をyとする。電子線源からの距離に対して、照射線量が線形的に増加している場合、その平均は概ね(x+y)/2である。そこで、x<yの条件下で、1回の電子線照射量を前述の照射線量xとし、所望の特性に必要な最低必要照射線量をDとする。このとき、片面照射のみであれば、必要となる電子線照射の照射回数は、D/x回である。一方、両面照射を行う場合は、両面合わせた照射回数は、前述の平均照射線量(x+y)/2でDを割った回数となるので、2×D/(x+y)回となる。すなわち、片面照射の回数に対して両面照射の回数は、2x/(x+y)<1の割合だけ少なくて済む。そのため、上述のような照射線量のウェハー間の均一性のみならず、照射回数等の低減による低コスト化が可能になる。
【0072】
<実施例>
本実施の形態6における具体的な実施例を説明する。
図8のように得られた照射線量分布を基に、実際の照射量を計算し、所望の倍数の照射を算出した。
図8に示す例では、照射線量の平均値(中心値)は、(10kGy+15kGy)÷2=12.5kGyである。これは、両面照射では、片面照射での最表面ウェハーへの電子線照射量と比べて、実質的には1回の照射で得られる線量が1.25倍であることを意味する。すなわち、同一の照射を片面照射で実施する場合にくらべて、両面照射では80%の回数で済む。
【0073】
図9は、
図8の分布データを得た後に、当該データから電子線照射の回数を設定し、実際に電子線照射を行ったときの、ウェハースタック内のウェハーの照射線量分布である。
図9に示すように、600kGyを得るためには、片面照射では1回あたりのシリコンへの電子線照射量を20kGyとして合計30回の照射が必要である。これに対し、両面照射では、第一の電子線照射工程S4において、1回あたりの電子線照射量を20kGyとして12回照射する。続けてウェハースタックを反転させて、第二の電子線照射工程S5を行う。第二の電子線照射工程S5では、1回あたりの電子線照射量は第一の電子線照射工程S4と同じ20kGyとし、12回実施した。その結果、片面照射の場合の最表面ウェハー上での照射線量が480kGy(20kGy×12回)の照射量で、スタック全体照射線量を600kGyにすることができる。
【0074】
同様に、ウェハー1枚あたり100kGyの照射線量が必要であれば、最表面ウェハーの照射量を80kGy分の照射量とし、第一の電子線照射工程S4と第二の電子線照射工程S5でそれぞれ40kGyとすればよい。また、ウェハー1枚あたり1000kGyの照射線量が必要であれば、最表面ウェハーの照射量を800kGy分の照射量とし、第一の電子線照射工程S4と第二の電子線照射工程S5でそれぞれ400kGyとすればよい。
【0075】
ここで、第一の電子線照射工程S4と第二の電子線照射工程S5の照射線量の合計値である全体照射線量(総照射線量ともいう)が同じであれば、第一の電子線照射工程S4の照射線量(1回あたりの照射線量やその照射回数)を、第二の電子線照射工程S5の照射線量(1回あたりの照射線量やその照射回数)と異なる値としても構わない。その理由は、シリコン厚さに対する照射線量のバラつき(相違)は、電子線照射を、片面側のみからの照射から両面からの照射にすることで、必ず減少するからである。簡単化した仮想的な例として、表面側から所定の加速エネルギーで、例えば
図5のように10MeVで、照射線量が100kGyの電子線照射を行い、一方、裏面側からは表面側からの100倍以上の加速エネルギーである1GeVで電子線照射を行った場合を考える。1GeVの電子線照射の照射線量分布は、10MeVの照射線量分布に対して、飛程が十分長いためほぼ平坦であると考えられる。1GeVの電子線照射の照射線量を、表面側からの照射線量の10%である10kGyとしても、両面照射後の照射線量分布は、平均的に110kGyの照射線量の分布となる。片面照射のみの場合、表面側からの10MeVの照射線量の相対線量の最大値が1.5、最小値が1.0とすると、相対線量の最大値と最小値との日は1.5である。これに対して、裏面側から照射線量10kGyで電子線を照射すると、その分の照射線量が底上げされるので、裏面側からの照射後の、相対線量の最大値と最小値の比は(1.5+0.1)/(1.0+0.1)=1.45となり、確実にバラつきは減少する。
【0076】
図26は、この発明の実施の形態6に係る半導体ウェハーの相対照射線量を示した分布図である。長い破線に、片面側(例えば表面側)からのみ10MeVで任意の照射線量a(単位は、例えばkGy)の電子線を照射したときの相対線量の分布を示す。これに対して、実線には、表面側から同じ加速エネルギーで照射線量が0.5a、裏面側からも照射線量が0.5aで両面照射したときの相対線量の分布を示す。aの係数は、前述のように、全体照射線量が片面照射のみの全体照射線量と同じになるよう補正をしている。
【0077】
ここで、一方の主面側(例えば裏面側)から電子線の照射線量を、他方の主面側(例えば表面側)からの電子線の照射線量で割った値を、線量比と定義する。長い破線で示す場合の線量比は、0.5a/0.5a=1.0である。また、線量比が1.0以上の値については、その逆数を取れば、単に表面側と裏面側の照射方向を入れ替えたことと等価である。よって、線量比の範囲は、0より大きく1以下とする。線量比が0とは、片面照射のことである。
【0078】
図26中の短い破線には、表面側から同じく照射線量を0.4a、裏面側からは照射線量0.6aで電子線を両面照射したときの相対線量の分布を示す。線量比は1.5である。さらに一点破線は、表面側から同じく照射線量0.66a、裏面側からは照射線量0.33aで電子線を両面照射したときの相対線量の分布を示す。線量比は0.5である。片面照射のみの長い破線に対して、相対線量分布が最も平坦に近いものは、表面側と裏面側の照射線量が同じ、つまり線量比が1.0のものである。一方、裏面側からの照射線量が表面側からの場合の1.5と、同じく0.5のもの、すなわち照射線量が表面側からと裏面側からとで違う場合も、相対線量分布は片面照射の身と比べて、最大値と最小値との比は小さくなっており、相対線量分布のバラつきが改善していることがわかる。このように、電子線照射をウェハー(スタック)に対して両面照射とすれば、表面側からと裏面側からとの線量比が異なっていても、バラつきは改善できる。
【0079】
理論的には、例えば線量比が0.1やそれ以下であっても、前述のようにバラつきは改善できる。一方、実際の照射では、照射線量の比が0.1〜1の範囲の値、さらには0.2〜1の範囲、好ましくは0.5〜1の範囲の値、より好ましくは0.8〜1の範囲の値、さらに好ましくは0.9〜1の範囲の値であるとよい。これにより、相対線量のバラつきの改善度合いが小さくなるのは明らかである。その結果として、MOSFETの内蔵ダイオードの逆回復特性等といったデバイスの電気的特性のバラつき低減に確実に反映することができる。言い換えると、例えば複数のウェハースタックで、一方の表面からの照射線量と他方の表面からの照射線量が異なる条件でも、電子線の照射が両面照射であれば、各ウェハーの電気的特性は、十分バラつきの小さいものとなる。
【0080】
(実施の形態7)
実施の形態7は、実施の形態1の製造方法を、IGBTに適用した場合である。
図24は、この発明の実施の形態7に係る半導体装置の製造方法を示す製造工程フロー図である。実施の形態7における製造方法の工程フローは、実施の形態1の
図18および
図19と、基本的には同じであるが、以下の相違を有する。
【0081】
第1に、IGBTの場合は、半導体基板に、FZ(フロートゾーン法)ウェハー、CZウェハー、MCZ(マグネッティックCZ法)ウェハーといった高比抵抗バルク切り出しウェハーを、n型ドリフト層として用いることである。また、第2に、ステップS1〜S5までは原則的には同じであるが、バルクウェハーを用いているので、第二の電子線照射工程S5の後に、n型ドリフト層自体の裏面を研削することである(基板薄板化工程S7)。第3には、基板薄板化工程S7の後に、例えば研削面である裏面側からn型のドーパントをイオン注入で導入し、n型フィールドストップ層を形成することである。n型ドーパントは、例えばリン、水素等である。その後、電子線照射後熱処理工程S6を行い、n型フィールドストップ層も同時に活性化させる。第4に、裏面コンタクト層形成工程S8では、n型ではなく、ボロン等のp型ドーパントを研削面に注入し、例えばレーザーアニール等を行って活性化させて、p型コレクタ層を形成することである。これにより、IGBTが完成する。
【0082】
他に、
図25に示すように、電子線照射後熱処理工程S6を第二の電子線照射工程S5後に行い、フィールドストップ層形成工程S10の後に別途、フィールドストップ層熱処理を行ってもよい。
図25は、この発明の実施の形態7に係る半導体装置の製造方法を示す他の製造工程フロー図である。工程は増えるものの、電子線照射による格子欠陥と、フィールドストップ層形成時の格子欠陥を、それぞれ別個に制御することができる。
【0083】
なお、当然のことながら、実施の形態2〜6の製造方法を適用することも可能である。また、n型フィールドストップ層のドーパントにセレンを用いる場合もあり得る。この場合、第一の電子線照射工程S4と第二の電子線照射工程S5、および電子線照射後熱処理工程S6を、基板薄板化工程S7および研削面へのセレン導入および熱拡散の後とする。セレンを拡散させるための拡散温度が850〜950℃といった高温のためである。
【0084】
以上の製造方法を適用することにより、高速動作が必要なIGBTにおいて、極めて均一でバラつきの無い格子欠陥密度を有する高速IGBTを提供することができる。
【0085】
(実施の形態8)
実施の形態8は、実施の形態1の製造方法を、p−i−n型ダイオード(以下、ダイオード)に適用した場合である。実施の形態8に係る半導体装置の製造方法を示す製造工程フロー図は、
図24と同じである。実施の形態8における製造方法の工程フローは、実施の形態1の
図18および
図19と、基本的には同じであるが、以下の相違を有する。
【0086】
第1に、ダイオードの場合は、半導体基板に、FZ(フロートゾーン法)ウェハー、CZウェハー、MCZ(マグネッティックCZ法)ウェハーといった高比抵抗バルク切り出しウェハーを、n型ドリフト層として用いることである。また、第2に、ステップS1〜S5までは原則的には同じであるが、バルクウェハーを用いているので、第二の電子線照射工程S5の後に、n型ドリフト層自体の裏面を研削することである(基板薄板化工程S7)。第3には、基板薄板化工程S7の後に、例えば研削面である裏面側からn型のドーパントをイオン注入で導入し、n型フィールドストップ層を形成することである。n型ドーパントは、例えばリン、水素等である。その後、電子線照射後熱処理工程S6を行い、n型フィールドストップ層も同時に活性化させる。第4に、半導体基板の表面にはMOSゲートは必要なく、例えばp型のアノード層を形成する。これにより、ダイオードが完成する。
【0087】
他に、実施の形態7と同様に、
図25に示すように、電子線照射後熱処理工程S6を第二の電子線照射工程S5後に行い、フィールドストップ層形成工程S10の後に別途、フィールドストップ層熱処理を行ってもよい。
図25は、この発明の実施の形態7に係る半導体装置の製造方法を示す他の製造工程フロー図である。工程は増えるものの、電子線照射による格子欠陥と、フィールドストップ層形成時の格子欠陥を、それぞれ別個に制御することができる。
【0088】
なお、当然のことながら、実施の形態2〜6の製造方法を適用することも可能である。また、n型フィールドストップ層のドーパントにセレンを用いる場合もあり得る。この場合、第一の電子線照射工程S4と第二の電子線照射工程S5、および電子線照射後熱処理工程S6を、基板薄板化工程S7および研削面へのセレン導入および熱拡散の後とする。セレンを拡散させるための拡散温度が850〜950℃といった高温のためである。
【0089】
以上の製造方法を適用することにより、高速逆回復動作が必要なダイオードにおいて、極めて均一でバラつきの無い格子欠陥密度を有する高速ダイオードを提供することができる。
【0090】
以上の実施形態1〜8で用いる半導体基板は、シリコンエピタキシャル基板(厚いn
+ ドレイン層もしくはp
+ コレクタ層上にn
- ドリフト層をエピタキシャル成長させた基板のこと)でもかまわない。あるいは、実施の形態1のような超接合型ではなく、従来のn型で一様な不純物濃度分布のドリフト層を有するパワーMOSFETであっても、本願発明は同様に適用可能である。この従来ドリフト構造のパワーMOSFETの場合は、半導体基板として、高濃度にアンチモンあるいは砒素がドープされたCZもしくはMCZウェハーに、n型エピタキシャル層が形成された基板がある。あるいは、高比抵抗のFZ、CZ、MCZ等のバルクウェハーで、片方の主面に拡散形成された高濃度のリン拡散層を有するウェハーを用いても良い。いずれの半導体基板(ウェハー)を用いる場合でも、この半導体基板を用いる場合でも、上述の
図18〜23のいずれかに記載の表面構造形成工程S1から半導体装置の製造を実施すればよい。
【0091】
また、実施の形態7のIGBT,実施の形態8についても、バルクウェハーではなく、半導体基板として、高濃度にアンチモンあるいは砒素がドープされたCZもしくはMCZウェハーに、n型エピタキシャル層が形成された基板を用いてもよい。この場合も、上述の
図18〜23のいずれかに記載の表面構造形成工程S1から半導体装置の製造を実施すればよい。
【0092】
また、本発明を適用できる半導体装置は、パワーMOSFET、IGBT、p−i−nダイオード等に限らず、バイポーラ動作の特性の向上にかかわるすべての半導体装置の製造方法に適用可能である。