特許第6291995号(P6291995)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6291995立方晶窒化ホウ素多結晶体、切削工具、耐摩工具、研削工具、および立方晶窒化ホウ素多結晶体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6291995
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】立方晶窒化ホウ素多結晶体、切削工具、耐摩工具、研削工具、および立方晶窒化ホウ素多結晶体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/5831 20060101AFI20180305BHJP
   C01B 21/064 20060101ALI20180305BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20180305BHJP
   B23B 27/20 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   C04B35/5831
   C01B21/064 M
   B23B27/14 B
   B23B27/20
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-86372(P2014-86372)
(22)【出願日】2014年4月18日
(65)【公開番号】特開2015-205789(P2015-205789A)
(43)【公開日】2015年11月19日
【審査請求日】2016年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 雄
(72)【発明者】
【氏名】山本 佳津子
(72)【発明者】
【氏名】角谷 均
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/031681(WO,A1)
【文献】 特公昭49−027518(JP,B1)
【文献】 特開2014−034487(JP,A)
【文献】 特開2014−055078(JP,A)
【文献】 特開平11−246271(JP,A)
【文献】 特開2004−250278(JP,A)
【文献】 特表2002−525262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/5831−35/5835
C01B 21/064
B23B 27/14−27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶窒化ホウ素を含み、
前記立方晶窒化ホウ素は、150nm以下の平均粒径を有し、
23℃±5℃における試験荷重4.9Nのヌープ硬度の測定において、ヌープ圧痕の対角線の長い方の対角線の長さaと短い方の対角線の長さbとの比b/aが0.085以下となる、立方晶窒化ホウ素多結晶体。
【請求項2】
前記立方晶窒化ホウ素は、100nm以下の平均粒径を有する、請求項1に記載の立方晶窒化ホウ素多結晶体。
【請求項3】
前記立方晶窒化ホウ素多結晶体は、ウルツ鉱型窒化ホウ素を0.01体積%以上含む、請求項1または請求項2に記載の立方晶窒化ホウ素多結晶体。
【請求項4】
前記立方晶窒化ホウ素多結晶体は、圧縮型六方晶窒化ホウ素を0.01〜0.5体積%含む、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の立方晶窒化ホウ素多結晶体。
【請求項5】
前記立方晶窒化ホウ素は、X線回折において、(111)面のX線回折強度I(111)に対する(220)面のX線回折強度I(220)の比I(220)/I(111)が0.1以上0.3以下である、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の立方晶窒化ホウ素多結晶体。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の立方晶窒化ホウ素多結晶体を備えた切削工具。
【請求項7】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の立方晶窒化ホウ素多結晶体を備えた耐摩工具。
【請求項8】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の立方晶窒化ホウ素多結晶体を備えた研削工具。
【請求項9】
出発物質として粒径0.5μm以下の六方晶窒化ホウ素粉末を準備する工程と、
圧力をP(GPa)、温度をT(℃)としたときに、
P≧0.0000122T2−0.0531T+65.846、
T≦2200、および
P≦25
という条件を満たす温度および圧力において、前記六方晶窒化ホウ素粉末を立方晶窒化ホウ素およびウルツ鉱型窒化ホウ素に変換させ、かつ焼結させる工程と
を備えた、立方晶窒化ホウ素多結晶体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立方晶窒化ホウ素多結晶体、切削工具、耐摩工具、研削工具、および立方晶窒化ホウ素多結晶体の製造方法に関し、特に鉄系材料の切削工具、耐摩工具、および研削工具として有用な立方晶窒化ホウ素多結晶体、切削工具、耐摩工具、研削工具、および立方晶窒化ホウ素多結晶体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
立方晶窒化ホウ素(以下「cBN」とも記す)はダイヤモンドに次ぐ硬度を有し、熱的安定性および化学的安定性にも優れる。また、鉄系材料に対しては、ダイヤモンドよりも安定なため、鉄系材料の加工工具としてcBN焼結体が用いられてきた。
【0003】
しかし、このcBN焼結体には、10〜40体積%程度のバインダーが含まれており、このバインダーが、焼結体の強度、耐熱性、熱拡散性を低下させる原因となっていた。そのため、特に鉄系材料を高速で切削加工する場合に、熱負荷が大きくなり、刃先の欠損や亀裂が生じやすく工具の寿命を短くしていた。
【0004】
この問題を解決する手法として、バインダーを用いずに、触媒を用いてcBN焼結体を製造する方法がある。この方法では、六方晶窒化ホウ素(hBN)を原料とし、ホウ窒化マグネシウム(Mg3BN3)等を触媒として反応焼結させる。この方法で得られたcBN焼結体は、バインダーを含まないため、cBN同士が強く結合しており、熱伝導率が高くなる。そのため、ヒートシンク材やTAB(Tape Automated Bonding)ボンディングツールなどに用いられている。しかし、この焼結体の中には触媒が少量残留しているため、熱を加えると触媒とcBNとの熱膨張差による微細クラックが入りやすく、切削工具等には向かない。また、粒径が10μm前後と大きいため、熱伝導率が高いものの、強度は弱く、負荷の大きい切削用途等には耐えられない。
【0005】
一方、hBN等の常圧型BN(窒化ホウ素)を、超高圧高温下で触媒を用いず、直接hBNからcBNへ変換させると同時に焼結させること(直接変換焼結法)によってもcBN焼結体は得られる。たとえば、特開昭47−034099号公報(特許文献1)や特開平03−159964号公報(特許文献2)に、hBNを超高圧高温下でcBNに変換させcBN焼結体を得る方法が示されている。また、熱分解窒化ホウ素(pBN)を原料とし、cBN焼結体を得る方法がある。この種の方法が、例えば特開昭54−033510号公報(特許文献3)や特開平08−047801号公報(特許文献4)に示されている。この方法では7GPa、2100℃以上の条件が必要である。
【0006】
上記の条件よりもマイルドな条件でcBN焼結体を得る方法が、特公昭49−027518号公報(特許文献5)および特開平11−246271号公報(特許文献6)に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭47−034099号公報
【特許文献2】特開平03−159964号公報
【特許文献3】特開昭54−033510号公報
【特許文献4】特開平08−047801号公報
【特許文献5】特公昭49−027518号公報
【特許文献6】特開平11−246271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献5は、圧力6GPa、1100℃という条件でcBN焼結体を得る方法を開示している。この方法では原料であるhBNの粒子を3μm以下にするため、hBNが数質量%程度の酸化ホウ素不純物や吸着ガスを含む。したがって、これらの不純物や吸着ガスの影響により、焼結が十分に進行せず、また、酸化物を含むために硬度、強度、耐熱性が低くなり、切削工具および耐摩工具等として用いることができない。
【0009】
特許文献6は、上記の問題を解決するために、低結晶性の六方晶窒化ホウ素を原料とし、6〜7GPa、1550〜2100℃の条件で合成する方法を開示している。また、この方法で合成されたcBN多結晶体では結晶粒径が0.1〜1μm程度であることが開示されている。
【0010】
しかしながら、仕上げ加工用および精密加工用などに有用な小さい粒径のcBN多結晶体を得るために焼結温度を低くすると、焼結性が低くなり多結晶体の強度が低くなる。さらに、粒径が小さくなると靭性が低くなり、工具が欠けやすくなるという課題もある。
【0011】
そこで、上記のような課題に鑑み、小さい粒径で、かつ強靭な立方晶窒化ホウ素多結晶体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様に係る立方晶窒化ホウ素多結晶体は、立方晶窒化ホウ素を含み、該立方晶窒化ホウ素は、150nm以下の平均粒径を有し、23℃±5℃における試験荷重4.9Nのヌープ硬度の測定において、ヌープ圧痕の対角線の長い方の対角線の長さaと短い方の対角線の長さbとの比b/aが0.085以下となるものである。
【0013】
また、本発明の一態様に係る立方晶窒化ホウ素多結晶体の製造方法は、
出発物質として粒径0.5μm以下の六方晶窒化ホウ素粉末を準備する工程と、
圧力をP(GPa)、温度をT(℃)としたときに、
P≧0.0000122T2−0.0531T+65.846、
T≦2200、および
P≦25
という条件を満たす温度および圧力において、該六方晶窒化ホウ素粉末を立方晶窒化ホウ素およびウルツ鉱型窒化ホウ素に変換させ、かつ焼結させる工程と
を備えている。
【発明の効果】
【0014】
上記によれば、立方晶窒化ホウ素多結晶体は、それを構成する立方晶窒化ホウ素の粒径が微細で、かつ強靭な多結晶体となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ヌープ圧痕を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、高圧高温下において、粒径0.5μm以下の六方晶窒化ホウ素粉末を立方晶窒化ホウ素に変換することにより、微細な組織を有し、かつ強靱な立方晶窒化ホウ素多結晶体が得られることを見出した。
【0018】
[1]すなわち、本発明の一態様に係る立方晶窒化ホウ素多結晶体は、立方晶窒化ホウ素を含み、該立方晶窒化ホウ素は、150nm以下の平均粒径を有し、23℃±5℃における試験荷重4.9Nのヌープ硬度の測定において、ヌープ圧痕の対角線の長い方の対角線の長さaと短い方の対角線の長さbとの比b/aが0.085以下となるものである。この立方晶窒化ホウ素多結晶体は、それを構成する立方晶窒化ホウ素の粒径が微細で、かつ強靭な多結晶体となる。
【0019】
[2]上記立方晶窒化ホウ素は、100nm以下の平均粒径を有することが好ましい。このように平均粒径をさらに小さくすることにより、小さな粒径が求められる用途への適用がより好適になる。
【0020】
[3]上記立方晶窒化ホウ素多結晶体は、ウルツ鉱型窒化ホウ素を0.01体積%以上含むことが好ましい。これにより、多結晶体の組織がより緻密なものとなる。
【0021】
[4]上記立方晶窒化ホウ素多結晶体は、圧縮型六方晶窒化ホウ素を0.01〜0.5体積%含むことが好ましい。これにより、亀裂の進展を阻止し靭性を向上させることができる。
【0022】
[5]上記立方晶窒化ホウ素は、X線回折において、(111)面のX線回折強度I(111)に対する(220)面のX線回折強度I(220)の比I(220)/I(111)が0.1以上0.3以下であることが好ましい。これにより、多結晶体が等方的なものとなり、工具等とした場合に偏摩耗が低減される。
【0023】
[6]本発明の一態様の切削工具は、上記の立方晶窒化ホウ素多結晶体を備えたものである。この切削工具は、鉄系材料の切削に有用である。
【0024】
[7]本発明の一態様の耐摩工具は、上記の立方晶窒化ホウ素多結晶体を備えたものである。この耐摩工具は、鉄系材料の加工に有用である。
【0025】
[8]本発明の一態様の研削工具は、上記の立方晶窒化ホウ素多結晶体を備えたものである。この研削工具は、鉄系材料の研削に有用である。
【0026】
[9]本発明の一態様に係る立方晶窒化ホウ素多結晶体の製造方法は、
出発物質として粒径0.5μm以下の六方晶窒化ホウ素粉末を準備する工程と、
圧力をP(GPa)、温度をT(℃)としたときに、
P≧0.0000122T2−0.0531T+65.846、
T≦2200、および
P≦25
という条件を満たす温度および圧力において、該六方晶窒化ホウ素粉末を立方晶窒化ホウ素およびウルツ鉱型窒化ホウ素に変換させ、かつ焼結させる工程と
を備えている。この製造方法により得られる立方晶窒化ホウ素多結晶体は、それを構成する立方晶窒化ホウ素の粒径が微細で、かつ強靭な多結晶体となる。
【0027】
[本願発明の実施形態の詳細]
以下、本願発明の実施形態(以下「本実施形態」と記す)についてさらに詳細に説明する。
【0028】
<立方晶窒化ホウ素多結晶体>
本実施形態に係る立方晶窒化ホウ素多結晶体は、立方晶窒化ホウ素を含み、該立方晶窒化ホウ素は、150nm以下の平均粒径を有し、23℃±5℃における試験荷重4.9Nのヌープ硬度の測定において、ヌープ圧痕の対角線の長い方の対角線の長さaと短い方の対角線の長さbとの比b/aが0.085以下となるものである。
【0029】
このように本実施形態に係る立方晶窒化ホウ素多結晶体は、立方晶窒化ホウ素を含む。立方晶窒化ホウ素を含む限り、本実施形態の効果を示す範囲において不可避不純物を含んでいても差し支えない。不可避不純物としては、たとえば窒素(N2)、水素(H2)、酸素(O2)などを挙げることができる。該多結晶体は、実質的にバインダー、焼結助剤、触媒などを含んでおらず、本実施形態の立方晶窒化ホウ素多結晶体の有利な点の一つである。なぜなら、従来の立方晶窒化ホウ素焼結体のように、バインダーを含んだり、焼結助剤や触媒を含むことによるデメリットを解消できるからである。
【0030】
また、該立方晶窒化ホウ素多結晶体は、常圧型窒化ホウ素の含有率が0.1体積%以下であることが好ましい。常圧型窒化ホウ素が0.1体積%を超えて含有すると、強度が大幅に低下する可能性があるためである。
【0031】
なお、該立方晶窒化ホウ素多結晶体は焼結体であるが、通常焼結体とはバインダーを含むことを意図する場合が多いため、本実施形態では「多結晶体」という用語を用いている。
【0032】
<立方晶窒化ホウ素>
本実施形態の立方晶窒化ホウ素多結晶体に含まれる立方晶窒化ホウ素は、小さい粒径を有するものであり、150nm以下の平均粒径を有することが好ましく、100nm以下の平均粒径を有することがより好ましい。また、この平均粒径は、小さくなればなる程好ましいため、その下限をあえて限定する必要はないが、製造的観点からその下限は20nmである。
【0033】
このような立方晶窒化ホウ素の粒径は、応力集中が無く高強度になるという観点から均一であることが好ましく、このためここでいう平均粒径とは正規分布を示すことが好ましい。粒径が大きい粒子や小さい粒子が含まれる場合、そこに応力が集中してしまい強度が低くなるため、平均粒径は正規分布を示し、均一であることが好ましい。なお、本願において、単に立方晶窒化ホウ素の粒径という場合は、立方晶窒化ホウ素多結晶体を構成する立方晶窒化ホウ素の結晶粒の粒径を示すものとする。
【0034】
上記の平均粒径は、走査電子顕微鏡を用いた切断法により求めることができる。具体的には、まず走査電子顕微鏡(SEM)を用いて立方晶窒化ホウ素多結晶体を1000〜100000倍の倍率で観察し、SEM画像を得る。
【0035】
次にそのSEM画像に円を描き、その円の中心から8本の直線を放射状(各直線間の交差角度がほぼ等しくなるよう)に円の外周まで引く。この場合、上記の観察倍率および円の直径は、上記の直線1本あたりに載る立方晶窒化ホウ素粒子(結晶粒)の個数が10〜50個程度になるように設定することが好ましい。
【0036】
引続き、上記の各直線毎に立方晶窒化ホウ素の結晶粒界を横切る数を数え、直線の長さをその横切る数で割ることにより平均切片長さを求め、その平均切片長さに1.128をかけて得られる数値を平均粒径とする。なお、このような平均粒径は、より好ましくは数枚のSEM画像を用いて、各画像毎に上記のような方法で平均粒径を求め、その平均粒径の平均値を平均粒径とすることが好適である。また、上記のような方法による測定では、立方晶窒化ホウ素以外の粒子(たとえばウルツ鉱型窒化ホウ素の結晶粒)の粒径を含む可能性があるが、このように他の粒子の粒径を含む場合であっても、立方晶窒化ホウ素の平均粒径とみなすものとする。
【0037】
本実施形態の立方晶窒化ホウ素多結晶体に含まれる立方晶窒化ホウ素は、このように小さい粒径を有することにより、工具等に用いる場合に負荷の大きな用途や微細加工用途など広範囲の用途に適用することができるものとなる。
【0038】
<ヌープ硬度>
本実施形態の立方晶窒化ホウ素多結晶体は、23℃±5℃における試験荷重4.9Nのヌープ硬度の測定において、ヌープ圧痕の対角線の長い方の対角線の長さaと短い方の対角線の長さbとの比b/aが0.085以下となるものである。
【0039】
このようなヌープ硬度の測定は、たとえばJIS Z 2251で規定されているように工業材料の硬さを表す尺度の一つとして公知であり、所定の温度および所定の荷重(試験荷重)によりヌープ圧子を被測定材料に押圧させてその材料の硬度を求めるものである。
【0040】
ここでヌープ圧子とは、底面が菱型の四角柱の形状を有するダイヤモンド製の圧子である。そして、その底面の菱型は、対角線の長い方の対角線の長さaと短い方の対角線の長さbとの比b/aが0.141と規定されている。また、ヌープ圧痕とは、上記の温度および試験荷重でヌープ圧子を被測定材料(本実施形態では立方晶窒化ホウ素多結晶体)に押圧させた直後に該ヌープ圧子をリリースさせた箇所に残る痕跡をいう。
【0041】
本実施形態の立方晶窒化ホウ素多結晶体は、ヌープ圧痕の上記比b/a(0.085以下)が本来のヌープ圧子の比b/a(0.141)よりも小さくなることを特徴の一つとしている。これは被測定材料(すなわち本実施形態では立方晶窒化ホウ素多結晶体)が弾性的に振る舞い、圧痕が弾性的に元に戻ろうとする回復(弾性回復)が生じているからである。
【0042】
すなわち、ヌープ圧痕を概念的に示した図1を用いて上記の現象を説明すると、たとえば被測定材料が全く弾性回復を示さない場合はヌープ圧子の断面とヌープ圧痕とは等しい形状となるが(図1中の「本来のヌープ圧痕」として表示した部分)、図中の矢印の方向に弾性回復が生じやすいため、本実施形態のヌープ圧痕は、図中の実線で示した菱型となる。つまり、図中の矢印の方向の戻りが大きくなれば、比b/aの値は小さくなり、この値が小さいほど弾性回復(弾性的性質)が大きいことを示している。
【0043】
本実施形態の立方晶窒化ホウ素多結晶体は、上記のようなヌープ圧痕の比b/aを有することから明らかなように大きな弾性回復力を有するものであり、弾性回復が大きければ靭性は高くなり、以って強靭な立方晶窒化ホウ素多結晶体となる。以上のように、本実施形態におけるヌープ圧痕の比b/aは、立方晶窒化ホウ素多結晶体の弾性回復の多寡を示す指標となるものである。
【0044】
なお、ヌープ圧痕の比b/aは小さくなればなるほど弾性回復が大きくなることから好ましいといえ、このため、比b/aの下限を限定する必要は特にないが、弾性回復が大きくなり過ぎると、弾性的性質が大きくなる、つまり工具として使用した場合に加工中の弾性変形が大きくなり、加工性が悪化する。その観点からその下限値は0.060とすることが好ましい。このようなヌープ圧痕の比b/aは、さらに好ましくは0.070〜0.080である。
【0045】
<ウルツ鉱型窒化ホウ素>
本実施形態の立方晶窒化ホウ素多結晶体は、ウルツ鉱型窒化ホウ素(wBN)を含んでいても良く、このようなウルツ鉱型窒化ホウ素を0.01体積%以上含むことが好ましい。これにより、多結晶体の組織がより緻密なものとなる。なお、含有されるウルツ鉱型窒化ホウ素の含有量の上限は、ウルツ鉱型窒化ホウ素の特性の観点から65体積%以下である。ウルツ鉱型窒化ホウ素が存在すると亀裂進展を阻害し靱性を向上させる効果があるが、ウルツ鉱型窒化ホウ素は六方晶窒化ホウ素から立方晶窒化ホウ素への転移の間の準安定相であるため、立方晶窒化ホウ素よりも安定性に劣り、耐摩耗性が低いという特性を有する。ウルツ鉱型窒化ホウ素の含有量のより好ましい範囲は、0.01〜20体積%である。
【0046】
立方晶窒化ホウ素多結晶体がウルツ鉱型窒化ホウ素を含む場合、複数の立方晶窒化ホウ素の結晶粒と複数のウルツ鉱型窒化ホウ素の結晶粒とが、互いに分散するように構成される。そして、立方晶窒化ホウ素同士、ウルツ鉱型窒化ホウ素同士、さらに立方晶窒化ホウ素とウルツ鉱型窒化ホウ素とは、いずれも強固に結合し、緻密な組織を有することになる。
【0047】
なお、ウルツ鉱型窒化ホウ素の含有率が0.01体積%以上であって、残部が立方晶窒化ホウ素および不可避不純物で構成される立方晶窒化ホウ素多結晶体は、立方晶窒化ホウ素が28nm〜85nm程度の平均粒径を有し、ヌープ圧痕の比b/aが0.084以下となる。
【0048】
<圧縮型六方晶窒化ホウ素>
本実施形態の立方晶窒化ホウ素多結晶体は、圧縮型六方晶窒化ホウ素を含んでいても良く、このような圧縮型六方晶窒化ホウ素を0.01〜0.5体積%含むことが好ましい。これにより、亀裂の進展を阻止し靭性を向上させる作用をもたらすことができる。また圧縮型hBNの存在を許容することで、広い温度範囲で焼結が可能となり、生産性が向上する。ただし圧縮型hBNが0.5体積%を超えると、圧縮型hBNでの応力集中が大きくなり強度が低下する場合もある。したがって立方晶窒化ホウ素多結晶体が圧縮型hBNをさらに含む場合、その上限は0.5体積%である。圧縮型hBNの体積含有率は、より好ましくは0.01体積%以上0.1体積%以下であり、特に好ましくは0.05体積%以上0.1体積%以下である。
【0049】
<X線回折>
本実施形態の立方晶窒化ホウ素多結晶体に含まれる立方晶窒化ホウ素は、X線回折において、(111)面のX線回折強度I(111)に対する(220)面のX線回折強度I(220)の比I(220)/I(111)が0.1以上0.3以下であることが好ましい。これにより、多結晶体が等方的なものとなり、工具等とした場合に偏摩耗が低減される。
【0050】
比I(220)/I(111)が上記の範囲外である場合、多結晶体は配向することとなり、多結晶体に異方性が生じることになる。この場合、多結晶体に強度の分布が生じてしまい、強度の高い面と弱い面とが存在することなる。したがって、多結晶体を工具用途に用いることが不適切となる。特にエンドミルといった回転工具では摩耗もしくは欠損しやすい面としにくい面とに分かれてしまい、偏摩耗が生じる。上記の欠点を無くすために多結晶体を等方的にすることが好ましい。
【0051】
上記の比I(220)/I(111)は、より好ましくは0.15以上0.25以下である。
<用途>
本実施形態の立方晶窒化ホウ素多結晶体は、立方晶窒化ホウ素(結晶粒)の粒径が微細であり、かつ強靭であるため、切削工具、耐摩工具、研削工具などに用いることが好適となる。すなわち、本実施形態の切削工具、耐摩工具、および研削工具は、それぞれ上記の立方晶窒化ホウ素多結晶体を備えたものである。
【0052】
なお、上記の各工具は、その全体が立方晶窒化ホウ素多結晶体で構成されていても良いし、その一部(たとえば切削工具の場合、刃先部分)のみが立方晶窒化ホウ素多結晶体で構成されていても良い。また、各工具は、その表面にコーティング膜が形成されていても良い。
【0053】
ここで、上記切削工具としては、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ、切削バイト等を挙げることができる。
【0054】
また、上記耐摩工具としては、ダイス、スクライバー、スクライビングホイール、ドレッサーなどを挙げることができる。
【0055】
また、上記研削工具としては、研削砥石などを挙げることができる。
<製造方法>
本実施形態に係る立方晶窒化ホウ素多結晶体の製造方法は、
出発物質として粒径0.5μm以下の六方晶窒化ホウ素粉末を準備する工程(以下「準備工程」とも記す)と、
圧力をP(GPa)、温度をT(℃)としたときに、
P≧0.0000122T2−0.0531T+65.846、
T≦2200、および
P≦25
という条件を満たす温度および圧力において、該六方晶窒化ホウ素粉末を立方晶窒化ホウ素およびウルツ鉱型窒化ホウ素に変換させ、かつ焼結させる工程(以下「焼結工程」とも記す)と
を備えている。
【0056】
上記の製造方法により、上記で説明してきた立方晶窒化ホウ素多結晶体を製造することができる。すなわち、この製造方法により得られる立方晶窒化ホウ素多結晶体は、それを構成する立方晶窒化ホウ素の粒径が微細(すなわち平均粒径が150nm以下)で、かつ強靭な多結晶体となる。
【0057】
上記準備工程において、出発物質である六方晶窒化ホウ素粉末の粒径は、得られる立方晶窒化ホウ素多結晶体の立方晶窒化ホウ素の平均粒径よりも少し大きな粒径を有するものを採用しても良い。六方晶窒化ホウ素から立方晶窒化ホウ素へと転移する際にhBN間の結合を切って、原子の組み換えを経て再結合するために原料の粒径よりも立方晶窒化ホウ素の粒径が小さくなるためである。ただし、原料の粒径が小さいと本来のhBN間の結合が無い粒界が多くなるため、変換後の立方晶窒化ホウ素の粒径は小さくなる。逆に原料の粒径が大きいと立方晶窒化ホウ素の粒径が大きくなり、比b/aの値が大きくなる。したがって、六方晶窒化ホウ素粉末の粒径は0.5μm以下とし、製造的理由からその下限値は0.05μmである。より好ましい粒径は、0.1μm以上0.5μm以下である。
【0058】
なお、六方晶窒化ホウ素粉末の粒径は、レーザー光を利用したレーザー回折散乱法により測定された平均粒径をいう。
【0059】
このような準備工程は、上記の六方晶窒化ホウ素粉末を準備するものである限り、その手段は限定されず、たとえば六方晶窒化ホウ素粉末を従来公知の合成法により製造したり、市販の六方晶窒化ホウ素粉末を入手する等の手段を挙げることができる。
【0060】
また、上記の焼結工程における圧力P(GPa)および温度T(℃)は、高温側では粒成長、低温側では未変換hBNの残留などの問題が発生し、比b/aが0.085を超えてしまうという理由から、以下の
P≧0.0000122T2−0.0531T+65.846、
T≦2200、および
P≦25
という条件を満たすことが必要である。
【0061】
ここで、温度T(℃)は、立方晶窒化ホウ素多結晶体が得られる温度であれば特に限定はなく、その下限値を規定する必要はない。この温度T(℃)は、より好ましくは1300〜2100℃である。
【0062】
また、圧力P(GPa)も、立方晶窒化ホウ素多結晶体が得られる圧力であれば特に限定はなく、その下限値を規定する必要はない。この圧力P(GPa)は、より好ましくは10〜20GPaである。
【0063】
上記した好適な範囲の温度および圧力を採用しかつ上記の関係式を満たす焼結工程を実行すると、得られる立方晶窒化ホウ素多結晶体のヌープ圧痕の比b/aは、0.085以下、好ましくは0.072〜0.084となる。
【0064】
なお、上記焼結工程における上記温度および圧力の適用時間は、5分〜20分である。5分より短い場合、焼結が不十分となり、20分より長くしても焼結状態に差はなく経済的に不利となる。より好ましい適用時間は、10分〜20分である。
【0065】
このような焼結工程は、六方晶窒化ホウ素粉末を立方晶窒化ホウ素およびウルツ鉱型窒化ホウ素に変換させ、かつ焼結させる工程であるが、六方晶窒化ホウ素粉末の立方晶窒化ホウ素およびウルツ鉱型窒化ホウ素への変換は、焼結助剤や触媒を用いることなく、六方晶窒化ホウ素が単独で直接立方晶窒化ホウ素およびウルツ鉱型窒化ホウ素に変換されるものであり、通常この変換は焼結と同時に行なわれることになる。
【0066】
上記のような製造方法により得られる立方晶窒化ホウ素多結晶体は、それを構成する立方晶窒化ホウ素の粒径が微細で、かつ弾性的な振舞を示すため、耐欠損性が向上した強靭な多結晶体となる。このため、立方晶窒化ホウ素多結晶体は、負荷の大きな高速の微細加工等の用途に使用される切削工具、耐摩工具、研削工具等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0068】
<実施例1〜5>
実施例1〜実施例5に係る立方晶窒化ホウ素多結晶体を以下の方法で作製した。まず、出発物質として粒径0.5μmの六方晶窒化ホウ素粉末(以下の表1の出発物質の欄に「微粒hBN粉末」と示す)を準備した(準備工程)。
【0069】
次いで、上記で準備した六方晶窒化ホウ素粉末を高融点金属からなるカプセルに入れ、超高圧高温発生装置を用いて表1(「合成条件」の欄)に記載した温度および圧力において20分間保持することにより、六方晶窒化ホウ素粉末を立方晶窒化ホウ素およびウルツ鉱型窒化ホウ素に変換させ、かつ焼結させた(焼結工程)。これにより、立方晶窒化ホウ素多結晶体を得た。
【0070】
なお、表1の温度および圧力は、P≧0.0000122T2−0.0531T+65.846という条件を満たしている。
【0071】
<比較例1>
比較例1に係る立方晶窒化ホウ素多結晶体を以下の方法で作製した。まず、出発物質として粒径0.5μmの六方晶窒化ホウ素粉末(以下の表1の出発物質の欄に「微粒hBN粉末」と示す)を準備した(準備工程)。
【0072】
次いで、上記で準備した六方晶窒化ホウ素粉末を高融点金属からなるカプセルに入れ、超高圧高温発生装置を用いて表1(「合成条件」の欄)に記載した温度および圧力において20分間保持することにより、六方晶窒化ホウ素粉末を立方晶窒化ホウ素に変換させ、かつ焼結させた(焼結工程)。これにより、立方晶窒化ホウ素多結晶体を得た。
【0073】
なお、上記の条件は、温度が2400℃であるため、T≦2200という条件を満たさない。
【0074】
<比較例2>
比較例2に係る立方晶窒化ホウ素多結晶体を以下の方法で作製した。まず、出発物質として粒径0.5μmの六方晶窒化ホウ素粉末(以下の表1の出発物質の欄に「微粒hBN粉末」と示す)を準備した(準備工程)。
【0075】
次いで、上記で準備した六方晶窒化ホウ素粉末を高融点金属からなるカプセルに入れ、上下加圧式のベルト型高圧高温発生装置を用いて表1(「合成条件」の欄)に記載した温度および圧力において20分間保持することにより、六方晶窒化ホウ素粉末を立方晶窒化ホウ素およびウルツ鉱型窒化ホウ素に変換させ、かつ焼結させた(焼結工程)。これにより、立方晶窒化ホウ素多結晶体を得た。
【0076】
なお、上記の条件は、P≧0.0000122T2−0.0531T+65.846という関係を満たさない。
【0077】
<比較例3>
比較例3に係る立方晶窒化ホウ素多結晶体を以下の方法で作製した。まず、出発物質として粒径5μm以下の六方晶窒化ホウ素粉末(以下の表1の出発物質の欄に「粗粒hBN粉末」と示す)を準備した(準備工程)。
【0078】
次いで、上記で準備した六方晶窒化ホウ素粉末を高融点金属からなるカプセルに入れ、超高圧高温発生装置を用いて表1(「合成条件」の欄)に記載した温度および圧力において20分間保持することにより、六方晶窒化ホウ素粉末を立方晶窒化ホウ素およびウルツ鉱型窒化ホウ素に変換させ、かつ焼結させた(焼結工程)。これにより、立方晶窒化ホウ素多結晶体を得た。
【0079】
なお、上記の条件は、出発物質の粒径が5μm以下とされているため、実施例の出発物質に比し粒径が大きい点が異なっている。
【0080】
<比較例4>
比較例4に係る立方晶窒化ホウ素焼結体を以下の方法で作製した。まず、出発物質として平均粒径2μm以下の立方晶窒化ホウ素粉末とCo系の金属結合材粉末(以下の表1の出発物質の欄に「cBN粉末/金属結合材粉末」と示す)を準備した(準備工程)。
【0081】
次いで、上記で準備した立方晶窒化ホウ素粉末とCo系の金属結合材粉末とを高融点金属からなるカプセルに入れ、超高圧高温発生装置を用いて表1(「合成条件」の欄)に記載した温度および圧力において20分間保持することにより焼結させた(焼結工程)。これにより、立方晶窒化ホウ素焼結体を得た。
【0082】
なお、上記の条件は、出発物質が実施例の出発物質と異なっている。
<評価>
上記の様にして得られた実施例1〜5および比較例1〜3の立方晶窒化ホウ素多結晶体、比較例4の立方晶窒化ホウ素焼結体の組成、X線回折、粒径、ヌープ圧痕の比b/aを下記の手法で測定した。
【0083】
<組成>
各立方晶窒化ホウ素多結晶体および立方晶窒化ホウ素焼結体に含まれる立方晶窒化ホウ素(cBN)、圧縮型六方晶窒化ホウ素(hBN)、およびウルツ鉱型窒化ホウ素(wBN)を、X線回折装置により同定した。この装置のX線の線源はCuであり、波長1.54ÅのKα線であった。その結果を表1の「組成」の欄に示す。
【0084】
<X線回折>
各立方晶窒化ホウ素多結晶体および立方晶窒化ホウ素焼結体に含まれる立方晶窒化ホウ素について、X線回折装置により、(111)面のX線回折強度I(111)に対する(220)面のX線回折強度I(220)の比I(220)/I(111)を求めた。この装置のX線の線源はCuであり、波長1.54ÅのKα線であった。その結果を表1の「XRD I(220)/I(111)」の欄に示す。
【0085】
<粒径>
各立方晶窒化ホウ素多結晶体および立方晶窒化ホウ素焼結体に含まれる立方晶窒化ホウ素の平均粒径を、走査電子顕微鏡を用いた切断法により求めた。
【0086】
すなわち、まず走査電子顕微鏡(SEM)を用いて立方晶窒化ホウ素多結晶体および立方晶窒化ホウ素焼結体を観察し、SEM画像を得た。
【0087】
次にそのSEM画像に円を描き、その円の中心から8本の直線を放射状(各直線間の交差角度がほぼ等しくなるよう)に円の外周まで引いた。この場合、上記の観察倍率および円の直径は、上記の直線1本あたりに載る立方晶窒化ホウ素粒子の個数が10〜50個程度になるように設定した。
【0088】
引続き、上記の各直線毎に立方晶窒化ホウ素の結晶粒界を横切る数を数え、直線の長さをその横切る数で割ることにより平均切片長さを求め、その平均切片長さに1.128をかけて得られる数値を平均粒径とした。
【0089】
なお、上記のSEM画像の倍率は30000倍とした。その理由は、これ以下の倍率では、円内の粒の数が多くなり、粒界が見えにくくなるとともに数え間違いが発生する上、線を引く際に板状組織を含める可能性が高くなるからである。また、これ以上の倍率では、円内の粒の数が少な過ぎて、正確な平均粒径が算出できないからである。比較例1および4に関しては、粒径が大きすぎるため、倍率を3000倍とした。
【0090】
また、各実施例および各比較例毎に、1つの試料に対して別々の箇所を撮影した3枚のSEM画像を使用し、各SEM画像毎に上記の方法で平均粒径を求め、得られた3つの平均粒径の平均値を平均粒径とした。その結果を表1の「平均粒径」の欄に示す。
【0091】
<ヌープ圧痕の比b/aおよび硬度>
各立方晶窒化ホウ素多結晶体および立方晶窒化ホウ素焼結体について、ヌープ圧痕の比b/aを測定するために、以下の条件でヌープ硬度を測定した。
【0092】
すなわち、ヌープ圧子としてはマイクロヌープ圧子を使用し、23℃±5℃において4.9Nの試験荷重で、ヌープ硬度の測定を5回行なった。そして、各測定毎にヌープ圧痕の対角線の長い方の対角線の長さaと短い方の対角線の長さbとの比b/aをレーザー顕微鏡を用いて測定し、その平均値をヌープ圧痕の比b/aとした。その結果を表1の「比b/a」の欄に示す。
【0093】
また、各試料の硬度として、上記のように5回測定した結果のうち、一番小さな値と大きな値とを除いた3つの値の平均値を求め、その結果を表1の「硬度」の欄に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
表1に示すように、実施例1〜5は、1.0〜60.5体積%のウルツ鉱型窒化ホウ素(wBN)を含有していることが確認された。また、実施例1〜5の立方晶窒化ホウ素の平均粒径は、28〜85nmであった。このとき、実施例1〜5のヌープ圧痕の比b/aは0.072〜0.084であった。
【0096】
これに対し、比較例1の立方晶窒化ホウ素の平均粒径は1030nmと実施例1〜5と比較して大きかった。また比較例1のヌープ圧痕の比b/aは0.102であり、実施例1〜5よりも弾性回復量が小さく、以って弾性的性質も小さいことは明らかである。
【0097】
また、比較例2は、合成条件がP≧0.0000122T2−0.0531T+65.846という関係を満たしておらず、また立方晶窒化ホウ素のX線回折における比I(220)/I(111)が0.03となっており、配向性が大きく、等方的ではない。
【0098】
また、比較例3は、粒径5μmの六方晶窒化ホウ素粉末を原料としており、平均粒径が191nmで実施例1〜5と比較して大きかった。このとき、ヌープ圧痕の比b/aが0.091であり、実施例1〜5よりも弾性回復量が小さく、以って弾性的性質も小さいことは明らかである。
【0099】
また、比較例4は立方晶窒化ホウ素粉末と結合材を原料としており、ヌープ圧痕の比b/aが0.113であり、実施例1〜5よりも弾性回復量が小さく、以って弾性的性質も小さいことは明らかである。
【0100】
さらに、各実施例および各比較例の立方晶窒化ホウ素多結晶体および立方晶窒化ホウ素焼結体を先端径0.5mmのボールエンドミル工具の先端に取り付け、切削性能について評価を行なった。被削材としてHRC60の焼入鋼を準備し、回転数60000rpm、切削速度200mm/min、切り込み量5μm、送り量3μmの条件で、24mの切削を行なった。切削終了時の工具の摩耗量を工具損耗相対比として表2に示す。
【0101】
【表2】
【0102】
表2に示すように、一番摩耗量が少なかった実施例2を基準とすると実施例の摩耗量は1〜2.2であった。これに対し、比較例1および比較例2はそれぞれ切削長12mおよび16mの段階で大きな欠けが発生し、加工を中止した。また、比較例3および4は実施例2に対して摩耗量が3.8倍と7.8倍と大きく摩耗していた。このため、実施例の立方晶窒化ホウ素多結晶体が比較例の立方晶窒化ホウ素多結晶体および立方晶窒化ホウ素焼結体に対し、強靭であることが確認された。
【0103】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
【0104】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
図1