(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記紫外線の照射によって少なくとも表層が高分子化した状態の前記光硬化性樹脂、又は前記電子線硬化性樹脂に対して電子線を照射する電子線照射装置を備えることを特徴とする請求項4に記載の硬化システム。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1実施形態>
<硬化システム>
まず、本発明の硬化方法を用いた第1実施形態に係る硬化システム1を説明する。
この、第1実施形態では、硬化システム1の一例として、軟包装材に画像をインクジェット印刷するシステムを例示する。なお、本発明の硬化方法は、インクジェット印刷するシステムの他に、原板を用いてインクを転写する所謂オフセット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷に用いることができる。そして、本発明の硬化方法により原板を用いてインクを転写する硬化システムについては第2、3、4実施例として後述する。
【0021】
図1は、本実施形態に係る硬化システム1の構成を模式的に示す図である。
この硬化システム1は、長い帯状に形成された軟包装材をワークWとし、そのワークWの表面に光硬化性樹脂2を含むインクをインクジェット印刷により塗布し、それを硬化することで画像形成するシステムである。この硬化システム1は、
図1に示すように、搬送装置4と、インクジェット印刷装置6と、電子線照射装置8と、を備えている。
搬送装置4は、ワークWを搬送する装置であり、ワークWが巻き回された一対のローラー4A、4Bを備え、これらローラー4A、4Bの回転によりワークWが一方向に搬送される。
【0022】
インクジェット印刷装置6は、酸素濃度を所定濃度まで低下させた雰囲気下で、光硬化性樹脂2から成るインク22を塗布し、所定の波長帯の紫外線の照射によって高分子化させることで硬化させる装置である。本実施形態で用いる紫外線は、波長域が10nm〜200nm付近の真空紫外線と、波長域が100nm〜280nm付近のUV−Cと、波長域が280nm〜315nm付近のUV−Bである。インク22は、光重合開始剤を含まない光硬化性樹脂2に、各色に対応した顔料を混ぜ、また光重合性モノマーが約80%以上を占めるように希釈することで、液滴として噴射できるように粘度を下げたものである。
このインクジェット印刷装置6は、
図1に示すように、窒素パージボックス9と、3つのインクヘッド10(吐出手段)と、3つの光源装置12と、印刷制御部14と、光源制御部16と、雰囲気制御部18と、を備えている。
【0023】
光硬化技術の分野において、光硬化性樹脂が光重合開始剤を含有すること、及び、光重合開始剤を含有していない硬化性樹脂の硬化には紫外線に代えて電子線を照射することが技術常識であった。
これに対し、光重合開始剤を含有しない光硬化性樹脂に対し、酸素濃度が所定濃度以下の雰囲気下で紫外線を照射させることによって硬化させる方法がある。
【0024】
詳述すると、この硬化方法に用いられる光硬化性樹脂は、光吸収特性において少なくとも紫外線の波長領域の中に吸収を有する樹脂材料である。また、光硬化性樹脂は、光重合性オリゴマー、及び光重合性モノマーを含有し、光重合開始剤を含有していない樹脂組成物であり、用途に応じた粘度の液状体である。
光硬化性樹脂には、安定剤、フィラー、着色剤(顔料)等の各種の添加剤を、用途に応じて添加してもよい。
【0025】
光重合性オリゴマーには、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、或いは、ポリエステルアクリレートなどのアクリレート、又は、イソボルニルメタクリレート(IBXMA)、テトラヒドロフルフリルメタクリレート(THFMA)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)、ラウリルメタクリレート(LMA)などのメタクリレートを用いることができる。
一般に、光重合性オリゴマーは、光硬化性樹脂の硬化物性を支配しており、用途に応じて適宜の種類の光重合性オリゴマーが用いられる。
図3には、光重合性オリゴマーとして、幾つかのアクリレートオリゴマーごとに、それを光硬化性樹脂に用いたときの長所、及び短所と、そのアクリレートオリゴマーの構造を例示している。
この硬化方法においては、
図3のいずれの光重合性オリゴマーであっても、光硬化性樹脂が光重合開始剤を含有することなく、硬化させることができる。
【0026】
光重合性モノマーには、上述のとおり、光重合性モノマーの希釈剤として用いられるものであり、1官能アクリレート、2官能アクリレート、又は多官能アクリレートを用いることができる。
【0027】
紫外線は、少なくとも光硬化性樹脂が光を吸収する波長域にピークを有する発光スペクトルを有した光である。なお、ここで言う発光スペクトルのピークは、必ずしも全波長域における最大のピークである必要はない。また、発光スペクトルのピークは、光硬化性樹脂が光を吸収する波長域の中に位置し、或いは、ピークの幅の中に当該波長域の全部又は一部を含んでいればよい。
【0028】
窒素パージボックス9は、ワークWが内部を通って搬送される箱体であり、不活性ガスの一例たる窒素ガスが内部に送り込まれることで、内部の雰囲気が、上述した所定酸素濃度以下の雰囲気に維持されている。なお、窒素ガスに代えて、他の不活性ガスを用いてもよいことは勿論である。また、窒素パージボックス9に替えて、チャンバー内を真空ポンプで真空に(上述の所定酸素濃度以下の雰囲気に維持)した真空チャンバーを用いて、当該真空チャンバー内部を通してワークWを搬送する構成であっても良い。
雰囲気制御部18は、窒素パージボックス9への窒素ガスの導入量を制御し、内部の酸素濃度を制御する。
これら窒素パージボックス9、及び雰囲気制御部18によって、雰囲気の酸素濃度を所定濃度以下にする酸素濃度抑制手段が構成されている。雰囲気の酸素濃度は、雰囲気中の酸素と、紫外線の照射によって光硬化性樹脂の中に発生したラジカルとが反応して光重合反応が阻害(酸素阻害)されてしまう濃度よりも小さな濃度であればよい。
なお、雰囲気の酸素濃度が所定酸素濃度まで低めることができれば、当該酸素濃度抑制手段としては、任意の手段を用いることができる。
【0029】
インクヘッド10は、赤(R)のインク22、緑(G)のインク22、及び青(B)のインク22ごとに設けられており、インク22の液滴を吐出してワークWに塗布するものである。これら3つのインクヘッド10は、窒素パージボックス9の中に、搬送方向Pに沿って所定の間隔で配置されており、ワークWの搬送に伴って、赤(R)、緑(G)、及び青(B)のインク22が順にワークWに塗布される。
印刷制御部14は、ワークWの表面にインク22により形成する画像に基づいて、各インクヘッド10のインク22の吐出を制御する。
【0030】
なお、インクジェット印刷装置6には、黒のインクの液滴を吐出してワークWに塗布するインクヘッドを更に設けることもできる。
また、各色のインク22を塗布する順番は適宜に変更できる。
【0031】
光源装置12は、窒素パージボックス9の内部において、インクヘッド10ごとに、その下流側に隣接して配置され、ワークWに所定波長の紫外線24を照射する。この光源装置12の光源には、光硬化性樹脂2が上述の紫外域において吸収を示す波長域の光を放射するランプ光源が用いられる。ランプ光源には、例えば、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、エキシマランプ、キセノンランプ等の放電ランプ、LED光源、及び、レーザー光を用いることができる。
光源制御部16は、光源装置12のそれぞれの点滅を制御するものである。
【0032】
このインクジェット印刷装置6では、詳細については後述するが、光源装置12の各々の紫外線24の照射によって、各々の上流側のインクヘッド10で塗布されたインク22の表層22Aが速やかに高分子化されて硬化し固定化される。このため、それぞれのインクヘッド10で塗布されたインク22が混ざり合うことがなく、高品質な画像をワークWの表面上に形成できる。なお、本実施形態では、窒素パージボックス9の内部に複数のインクヘッド10と、インクヘッド10ごとに、その下流側に隣接して配置された光源装置12とが配設されている構成であるが、これに限られるものではない。例えば、窒素パージボックス9は、各インクヘッド10と光源装置12との対毎に設けられている構成であっても良い。また、いくつかのインクヘッド10と光源装置12との対が内部に備えられた窒素パージボックス9が複数設けられている構成であっても良い。
【0033】
電子線照射装置8は、インクジェット印刷装置6の下流側に配置され、ワークWに電子線26を照射するものである。この電子線照射装置8には、一般的な電子線硬化樹脂の硬化に用いられる装置を用いることができる。
【0034】
この電子線照射装置8の電子線26によって、ワークWの表面のインク22が内部まで高分子化されて硬化し、ワークWに画像が定着することになる。
さらに詳述すると、
図2(A)に示すように、インクジェット印刷装置6において、ワークWに塗布されたインク22に対し、低酸素濃度雰囲気下で紫外線24が照射されることで、光硬化性樹脂2を含有するインク22が高分子化する。
【0035】
このとき、紫外線24は波長が比較的短く、また、インク22の光硬化性樹脂2に強く吸収される。インク22の光硬化性樹脂2はラジカル重合反応するが、紫外線24の大部分はインク22の深部22Bに到達することなく表層22Aで吸収される。表層22Aは、紫外線24の照射によるラジカル重合反応で高分子化する。これにより、表層22Aには、インク22の厚みや光硬化性樹脂2の含有量に応じた厚みの硬化被膜が形成される。
このため、
図2(B)に示すように、インク22は、紫外線24の照射によって表層22Aが主として高分子化されて硬化し、深部22Bは概ね低分子状態のまま未硬化となる。
【0036】
そして、係る状態のインク22に対し、電子線照射装置8の電子線26を照射することで、インク22の深部22Bに残留する光重合性モノマーが高分子化されて硬化され、
図2(C)に示すように、インク22が表層22Aから深部22Bにわたって全体が硬化されることとなる。
【0037】
この電子線26の照射時には、インク22の表層22Aが高分子化されているため、表層22Aに硬化被膜が形成された状態となる。これにより、雰囲気中に残存する酸素のインク22への浸入が表層22Aの硬化被膜によって阻止される。これにより、上述した酸素阻害が防止され、電子線26による高分子化を効率良く行うことができる。
また一般に、インクジェット印刷装置においては、インク22の液滴を吐出してワークWに塗布するため、インク22は低分子のものが用いられる。低分子のインク22に電子線26を照射して樹脂硬化させる際には、光重合性モノマーが揮発して煙が発生し易くなる。これに対して、この硬化システム1においては、上述のように、電子線照射時には、インク22の表層22Aに紫外線照射による硬化皮膜が形成された状態となっているので、この硬化皮膜によって煙の発生が低減されることとなる。
【0038】
なお、ワークWの表面に塗布するインク22の厚みが薄く、光源装置12が照射する紫外線24がインク22の深部22Bにまで到達する場合には、電子線26を照射する必要はない。
換言すれば、電子線26の照射を併用することで、インク22(光硬化性樹脂2)が厚くても深部22Bに至るまで十分に硬化させることができる。
【0039】
このように、この硬化システム1によれば、インク22の光硬化性樹脂2に、光重合開始剤を含有することなく、紫外線24の照射によって高分子化して硬化させることができるので、光重合開始剤を含有することがない硬化物が得られる。
加えて、電子線照射によりインク22の深部22Bまで確実に硬化させているので、光重合性モノマーの残留も抑えることができる。
【0040】
特に、食品等の包装に用いられる軟包装材の表面への画像形成に硬化システム1を用いることで、形成後の画像が光重合開始剤を含有することなく、また、光重合性モノマーの残留も抑えるので、従来の画像形成方法に比べ、安全面等において、より品質が高い軟包装材が得られる。
【0041】
なお、この硬化システム1は、軟包装材への画像形成の他にも、各種のワークの表面へのハードコート処理などにも用いることができる。
また、この硬化システム1において、光重合開始剤を含有していない光硬化性樹脂2に代えて、電子線硬化性樹脂を用いることもできる。
【0042】
<硬化実験>
以下、発明者らが行った光硬化樹脂の硬化実験について説明する。
この硬化実験において、光硬化樹脂には、多官能アクリレート系の光重合性モノマーを含有し、光重合性オリゴマー、及び光重合開始剤を含有していない液状の樹脂組成物を用いた。
そして、この光硬化樹脂をPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムに、バーコーター(塗布試験機)にて約20μmの厚みで塗布し、サンプルを作製した。
雰囲気の酸素濃度の調整には窒素パージを用いた。
【0043】
(実験1)
この実験1では、岩崎電気株式会社製のUV洗浄改質装置(型番OC2506)を光源に用いた。
このUV洗浄改質装置は、6灯の25W(ワット)の低圧水銀ランプを有し、185nm紫外線、及び254nmの紫外線を放射するものであり、185nmの紫外線と254nmの紫外線の光量比は約1:10である。
またサンプル表面における185nmの紫外線の照度を1mW/cm
2とし、254nmの紫外線の照度を10mW/cm
2とした。
そして窒素パージにより酸素濃度を300ppm以下の低酸素濃度にした雰囲気下で、上記光源の光、すなわち185nmの紫外線、及び254nmの紫外線を含む光をサンプルに照射し、照射時間を変えてサンプルに塗布した光硬化性樹脂の硬化状態を観察した。
【0044】
図4は、実験1の結果を示す図である。
図4に示すように、この実験1では、いずれの照射時間であっても光硬化性樹脂が硬化することが観察された。また、硬化状態は、ある程度まで照射時間が短くなると、表面がべとべとした感じとなり、深部(内部)が未硬化状態になることが観察された。
したがって、この実験1の結果によれば、サンプルの光硬化性樹脂が光重合開始剤を含有していなくとも、低酸素濃度雰囲気下、及び185nmの紫外線、及び254nmの紫外線を有する光の照射により重合して硬化することが明らかになった。
【0045】
(実験2)
この実験2は、実験1において、雰囲気を低酸素濃度状態から空気中に代えて行ったものであり、この実験2の実験結果を
図5に示す。
図5に示すように、この実験2では、照射時間にかかわらず、サンプルの光硬化性樹脂の硬化は見られなかった。
したがって、この実験2の結果によって、実験1と同じ光源の光を照射した場合であっても、雰囲気が低酸素濃度状態ではなければ、サンプルの光硬化性樹脂は硬化しないことが明らかになった。
【0046】
(実験3)
この実験3は、実験2において、185nmの紫外線をカットして254nmの紫外線のみの光を照射して実験したものである。
ただし、この実験3の光源に用いた装置は実験1、及び実験2とは異なり、3灯の100Wの低圧水銀ランプと、これら低圧水銀ランプの放射光から185nmの紫外線をカットするフィルターとを備えたものとしている。
また、サンプル表面には、光源の254nmの紫外線を、30mW/cm
2の照度で照射した。この254nmの紫外線の照度は、実験2の3倍の照度に相当する。
【0047】
実験3の実験結果を
図6に示す。
図6に示すように、この実験3においても、照射時間にかかわらず、サンプルの光硬化性樹脂の硬化は見られなかった。
この実験3の結果により、実験2と同じ空気中の雰囲気下において、254nmの紫外線だけを照射した場合、例え254nmの紫外線の照度を3倍に高めて照射しても、サンプルの光硬化性樹脂が硬化しないことが明らかになった。
【0048】
(実験4)
この実験4は、実験3において、雰囲気を実験1と同じ低酸素濃度状態にして行ったものである。
この実験4の実験結果を
図7に示す。
図7に示すように、この実験4では、ある程度まで照射時間が短くなると、光硬化性樹脂は未硬化であるが、照射時間が長くなるほど硬化が促進されることが観察された。また、硬化状態は、照射時間がある程度長くなれば、185nmの紫外線の照射が重合する実験1の場合と同程度の状態となることが明らかになった。
【0049】
(実験5)
この実験5は、185nmの紫外線、254nmの紫外線の代わりに、172nmの紫外線を放射(キセノンエキシマランプからの放射)するものであり、サンプル表面における172nmの紫外線の照度を13mW/cm
2とした。また、この実験5は、雰囲気を実験1と同じ低酸素濃度状態にして行ったものである。
この実験5の実験結果を
図8に示す。
図8に示すように、この実験5では、いずれの照射時間であっても光硬化性樹脂が硬化することが観察された。また、短時間の照射でも、光硬化性樹脂が硬化することが明らかになった。
【0050】
(実験6)
この実験6は、実験5において、雰囲気を低酸素濃度状態から空気中に代えて行ったものであり、この実験6の実験結果を
図9に示す。
図9に示すように、この実験6では、照射時間にかかわらず、サンプルの光硬化性樹脂の硬化は見られなかった。
したがって、この実験6の結果によって、実験5と同じ光源の光を照射した場合であっても、雰囲気が低酸素濃度状態ではなければ、サンプルの光硬化性樹脂は硬化しないことが明らかになった。
【0051】
(実験7)
この実験7は、実験5において、172nmの紫外線の代わりに、365nmの紫外線を放射(紫外線LEDからの放射)するものであり、サンプル表面における365nmの紫外線の照度を15mW/cm
2とした。また、この実験7は、雰囲気を実験5と同じ低酸素濃度状態にして行ったものである。
この実験5の実験結果を
図10に示す。
図10に示すように、この実験7では、照射時間にかかわらず、サンプルの光硬化性樹脂の硬化は見られなかった。
【0052】
(実験8)
この実験は、実験1〜実験7において、光重合性樹脂に光重合性オリゴマー、及び添加剤を混ぜ、この光硬化性樹脂からサンプルを作製して行ったものである。光重合性オリゴマーにはアクリレート系オリゴマーを用い、添加剤には黒色の顔料を用いている。
またサンプルは、この光硬化性樹脂を溶剤に溶かして黒色のインクを生成し、このインクをPETフィルムに、バーコーターにて20μmの厚みで塗布し、ドライヤーで乾燥させたものを用いた。
この実験7の実験結果を、
図11に示す。
図11に示すように、光重合性樹脂が光重合性オリゴマー、及び添加剤を含有している場合でも、サンプルの光重合性樹脂の硬化状態としては、実験1〜実験7と同様な結果が得られた。
この実験8の結果により、光硬化性樹脂が光重合性オリゴマー、及び添加剤の含有の有無にかかわらず、光重合開始剤を含有しない光硬化樹脂は、低濃度酸素雰囲気下において、少なくとも185nmの紫外線を照射することで、重合反応を生じ硬化することが明らかとなった。
【0053】
発明者らは、これらの実験結果は、光重合性モノマーの光吸収特性に起因していると考察している。
図12は、石英板に樹脂を滴下して満遍なく広げたものをサンプルとして、分光光度計にて190nm〜400nmの光の透過性(光吸収スペクトル)を確認した結果を示す図である。なお、この
図12中の、破線は基板の石英板のみの透過率、実線は石英板に樹脂を滴下して満遍なく広げたサンプルの透過率をそれぞれ示す。
図12の光吸収スペクトルデータに示すように、光重合性モノマーとして用いた多官能アクリレートは、光吸収特性においてアクリロイル基が真空紫外の波長域である300nmに吸収を有している。このため、光子エネルギーが大きな紫外線(254nmの紫外線、または185nmの紫外線)の光子が効率良く光重合性モノマーのアクリロイル基に吸収されて当該アクリロル基が開裂し、ラジカルが生成されることで、重合したものと考察される。
なお、光重合性オリゴマーが、光吸収特性において真空紫外の波長域に吸収を有している場合にも、光重合性モノマーと同様に、重合するものと考察される。
【0054】
また、雰囲気中の酸素濃度は、上記酸素阻害に影響を与えることは勿論であるが、酸素は200nm以下の紫外線を吸収してオゾンを生成し、そのオゾンは260nm付近の紫外線を中心に幅を持って吸収するため、光硬化樹脂への照射においては光量が低下するので効率が低下する。そこで、雰囲気中の酸素濃度を低く抑えることで、光源からの300nm以下の紫外線の雰囲気中での吸収が抑えられて効率よく光重合性樹脂に照射される。これによっても、重合反応が効率良く行われたものと考察される。
【0055】
この考察によれば、所定の波長領域に光吸収特性を有する光重合性樹脂に対し、当該光吸収特性に対応した波長の紫外線を低酸素濃度の雰囲気下で照射することで、光重合性樹脂が光重合開始剤を含有せずとも、重合反応を生じさせ硬化できる。
また、電子線硬化性樹脂についても、所定の波長領域に光吸収特性を有していれば、当該光吸収特性に対応した波長の紫外線を低酸素濃度の雰囲気下で照射することで重合反応を生じさせ硬化できる、ということが導かれる。
【0056】
以上説明したように、本実施形態によれば、次の効果を奏する。
すなわち、本実施形態に係る硬化方法によれば、紫外線を光硬化性樹脂、又は電子線硬化性樹脂に照射して少なくとも表層22Aを高分子化させた後、電子線26を照射して深部22Bを高分子化させて、全体を硬化させているので、深部22Bまで確実に硬化させることができる。
また、電子線照射の前段階において、紫外線の照射によって表層22Aを高分子化して硬化させているので、電子線照射時の酸素阻害を確実に抑え、光重合性モノマー等の揮発による煙の発生を抑制できる。
【0057】
上述した、光重合開始剤を含有していない光硬化性樹脂2、又は電子線硬化性樹脂を用いた硬化方向は、インクジェット印刷の他に、オフセット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷等の原板を用いた硬化システムにも好適に用いることができる。以下、原板を用いた硬化システムの種々の実施形態について説明する。
【0058】
<第2実施形態>
上述の第1実施形態では、光硬化性樹脂2を含むインク22をインクジェット印刷により塗布し、それを硬化することで画像形成する硬化システム1について記述した。この第2実施形態では、光硬化性樹脂2を含むインク122を原板113を用いてワークWに転写するオフセット印刷(平版印刷)に本発明の硬化方法を用いた硬化システムについて説明する。上述したように、第1実施形態で説明したインクジェット印刷では、インク22を光重合性モノマーで希釈することで液滴として噴射するため、電子線26の照射による樹脂硬化時には、光重合性モノマーが揮発して煙が発生し易くなるという問題があった。そのため、紫外線を照射して表層22Aを高分子化して硬化させた後、電子線26を照射して深部を高分子化させ、全体を硬化させることで光重合性モノマー等の揮発による煙の発生を抑制していた。
【0059】
一方で、原板113を用いてワークWに転写する第2実施形態のオフセット印刷では、粘性の高いインク122を用いるため、インク122中の光重合性モノマーの比率が低く、インク122の揮発によって発生する煙への懸念は小さい。しかしながら、オフセット印刷では、ワークWにインク122を転写する際の印圧が高いため、複数色のインク122を重ねるためには、一色転写する毎にインク122を硬化させる必要があり、装置が高額になるという問題があった。
なお、第2実施形態において、上述した第1実施形態と同様の構成については、図中に同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0060】
図13は、本実施形態に係る硬化システム101の構成を模式的に示す図である。
この硬化システム101は、長い帯状に形成されたワークWの表面に、光重合開始剤を含まない光硬化性樹脂2から成るインク122を所謂平版の原板113を用いて塗布し、それを紫外線/電子線照射によって硬化させることで画像形成するシステムである。
硬化システム101は、オフセット印刷装置116を備える。オフセット印刷装置116は、酸素濃度を所定濃度まで低下させた雰囲気下で、光硬化性樹脂2から成るインク122をワークWの表面に塗布して所定の波長帯の紫外線の照射によって硬化させる装置である。インク122は、光重合開始剤を含まない光硬化性樹脂2に、各色に対応した顔料を混ぜたインクである。
【0061】
窒素パージボックス9の内部には、インク122が溜められた液槽110が設けられる。液槽110は、赤(R)のインク122、緑(G)のインク122、及び青(B)のインク122ごとに設けられている。また、各液槽110に対応するロール状の原板113が設けられる。原板113は、所謂平版と呼ばれるものであり、表面には細かい凹凸が付されている。原板113は、表面の一部が液槽110内のインク122に浸るように配置され、インク122に浸った際に凹部にインク122が塗布されるように構成されている。なお、図示は省略するが、原板113の表面に塗布されたインク122のうち、過剰なインク122を原板113の表面から除するドクターブレードが設けられている構成であっても良い。
【0062】
また、原板113の凹部に塗布されたインク122が転写される転写ロール114が原板113毎に設けられる。さらに、転写ロール114に凸状に転写されたインク122を、ワークWの表面に転写させる加圧ロール115が転写ロール114毎に設けられる。転写ロール114に凸状に転写されたインク122は、
図14に示すように、転写ロール114と、加圧ロール115との間に挟まれた状態で搬送されるワークWの表面に押し潰されるように転写される。
【0063】
光源装置12は、窒素パージボックス9の内部において、液槽110ごとに、その下流側に隣接して配置され、ワークWに所定波長の紫外線24を照射する。このオフセット印刷装置116では、光源装置12の各々の紫外線24の照射によって、各々の上流側の液槽110からワークWの表面に塗布されたインク122の表層が速やかに高分子化される。これにより、インク122の表層22Aに硬化被膜が形成された状態となるので、それぞれの液槽110から塗布されたインク122が混ざり合うことがない。また、インク122の表層22Aが高分子したことによる硬化被膜によって、インク122を重ねて塗布する際の印圧を上げることができ、高品質な画像をワークWの表面上に形成できる。
【0064】
オフセット印刷装置116の下流側には、電子線照射装置8が配置され、ワークWに電子線26が照射される。ワークWの表面に重ねて塗布されたインク122は、電子線照射装置8の電子線26によって、内部まで硬化して、ワークWに画像が定着する。
これらの構成によれば、光重合開始剤を含有することなく、且つ、各色の硬化を効率よく行って、紫外線/電子線の照射によるオフセット印刷を用いて高品質な画像を形成することができる。
なお、この硬化システム101において、光重合開始剤を含有していない光硬化性樹脂2に代えて、電子線硬化性樹脂を用いることもできる。
【0065】
<第3実施形態>
上述の第2実施形態では、インク122を所謂平版の原板113を用いてワークWに転写するオフセット印刷について説明した。この第3実施形態では、本発明の硬化方法を所謂凸版の原板を用いるフレキソ印刷に用いた硬化システム102について説明する。この第3の実施形態のフレキソ印刷では、第2実施形態のオフセット印刷と同様に、粘性の高いインク122を用いるため、インク122の揮発によって発生する煙への懸念は小さい。また、フレキソ印刷では、複数色のインク122を重ねるためには、一色転写する毎にインク122を硬化させる必要があり、装置が高額になるという問題があった。
なお、第3実施形態において、上述した第1実施形態、または第2実施形態と同様の構成については、図中に同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0066】
図15は、本実施形態に係る硬化システム102の構成を模式的に示す図である。
この硬化システム102は、長い帯状に形成されたワークWの表面に光重合開始剤を含まない光硬化性樹脂2から成るインク122を所謂凸版の原板123により塗布し、それを硬化することで画像形成するシステムである。なお、硬化システム102では、軟包装材をワークWとすることができる。
硬化システム102は、フレキソ印刷装置126を備える。フレキソ印刷装置126は、酸素濃度を所定濃度まで低下させた雰囲気下で、光重合開始剤を含まない光硬化性樹脂2から成るインク122をワークWの表面に塗布し、所定の波長帯の紫外線の照射によってインク122を硬化させる装置である。インク122は、光重合開始剤を含まない光硬化性樹脂2に、各色に対応した顔料を混ぜたインクである。
【0067】
窒素パージボックス9の内部には、インク122を浸み込ませたインクローラー120が設けられる。インクローラー120は、赤(R)のインク122、緑(G)のインク122、及び青(B)のインク122ごとに設けられている。インクローラー120には、図示は省略するが、ノズルでインク122供給する構成であっても良いし、インク122が溜められた液槽に浸してインク122を供給する構成であっても良い。
また、各インクローラー120に対応するロール状の原板123が設けられる。原板123は、所謂凸版と呼ばれるものであり、表面には凹凸が付されている。原板123は、表面の凸部にインクローラー120からインク122が塗布するように構成されている。そして、原板123の凸部に塗布されたインク122は、
図16に示すように、原板123と、加圧ロール124との間に挟まれた状態で搬送されるワークWの表面に押し潰されるように転写される。
【0068】
光源装置12は、窒素パージボックス9の内部において、インクローラー120ごとに、その下流側に隣接して配置され、ワークWに所定波長の紫外線24を照射する。このフレキソ印刷装置126では、光源装置12の各々の紫外線24の照射によって、各々の上流側のインクローラー120からワークWの表面に塗布されたインク122の表層22Aが速やかに高分子化され、表層22Aに硬化被膜が形成された状態となる。これにより、それぞれのインクローラー120から塗布されたインク122が混ざり合うことがない。また、インク122の表層22Aが高分子したことによる硬化被膜によって、インク122を重ねて塗布する際の印圧を上げることができ、高品質な画像をワークWの表面上に形成できる。
【0069】
フレキソ印刷装置126の下流側には、電子線照射装置8が配置され、ワークWに電子線26が照射される。ワークWの表面に重ねて塗布されたインク122は、電子線照射装置8の電子線26によって、内部まで高分子化されて、インク122の全体が硬化し、ワークWに画像が定着する。
これらの構成によれば、光重合開始剤を含有することなく、且つ、各色の硬化を効率よく行って、紫外線/電子線の照射によるフレキソ印刷を用いて高品質な画像を形成することができる。
なお、この硬化システム102において、光重合開始剤を含有していない光硬化性樹脂2に代えて、電子線硬化性樹脂を用いることもできる。
【0070】
<第4実施形態>
上述の第2実施形態では、オフセット印刷に本発明の硬化方法を用いた硬化システム101について、第3実施形態では、フレキソ印刷に本発明の硬化方法を用いた硬化システム102について説明した。この第4実施形態では、本発明の硬化方法を所謂凹版の原板を用いるグラビア印刷に用いた硬化システム103について説明する。この第4実施形態のグラビア印刷では、第2、3実施形態と同様に、粘性の高いインク122を用いるため、インク122の揮発によって発生する煙への懸念は小さい。一方で、グラビア印刷では、インク122がワークWの表面に厚塗りされるため、光硬化性樹脂、又は電子線硬化性樹脂を用いた場合に、光透過性が悪く、内部まで硬化させるのには時間がかかるという問題があった。また、複数色のインク122を重ねるためには、一色塗布する毎にインク122を硬化させる必要があり、印刷時間が長くなると共に、装置が高額になるという問題があった。
なお、第4実施形態において、上述した第1、2、3実施形態と同様の構成については、図中に同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0071】
図17は、本実施形態に係る硬化システム103の構成を模式的に示す図である。
この硬化システム103は、長い帯状に形成されたワークWの表面に光重合開始剤を含まない光硬化性樹脂2から成るインク122を所謂凹版の原板133により塗布し、それを硬化することで画像形成するシステムである。
硬化システム103は、グラビア印刷装置136を備える。グラビア印刷装置136は、酸素濃度を所定濃度まで低下させた雰囲気下で、光硬化性樹脂2から成るインク122をワークWの表面に塗布し、インク122を所定の波長帯の紫外線の照射によって硬化させる装置である。インク122は、光重合開始剤を含まない光硬化性樹脂2に、各色に対応した顔料を混ぜたインクである。
【0072】
窒素パージボックス9の内部には、インク122が溜められた液槽130が設けられる。液槽130は、赤(R)のインク122、緑(G)のインク122、及び青(B)のインク122毎に設けられている。また、液槽130毎にロール状の原板133が設けられる。原板133は、所謂凹版と呼ばれるものであり、表面には凹凸が付されている。原板133は、表面の一部が液槽130内のインク122に浸るように配置され、インク122に浸った際に凹部にインク122が塗布されるように構成されている。
【0073】
また、原板133の表面に塗布されたインク122のうち、過剰なインク122を原板133の表面から除するドクターブレード135が設けられる。さらに、原板133の凹部に塗布されたインク122を、ワークWの表面に転写させる加圧ロール134が原板133毎に設けられる。原板133の凹部に塗布されたインク122は、
図18に示すように、原板133と、加圧ロール134との間に挟まれた状態で搬送されるワークWの表面に転写される。これにより、ワークWの表面には、原板133の凹部に塗布されていたインク122が、凸状に厚く塗られる。
【0074】
光源装置12は、窒素パージボックス9の内部において、液槽130ごとに、その下流側に隣接して配置され、ワークWに所定波長の紫外線24を照射する。このグラビア印刷装置136では、光源装置12の各々の紫外線24の照射によって、各々の上流側の液槽130からワークWの表面に塗布されたインク122の表層22Aが速やかに高分子化されて硬化被膜が形成される。これにより、それぞれの液槽130から塗布されたインク122が混ざり合うことがなく、重ねて塗布され、高品質な画像をワークWの表面上に形成できる。
【0075】
グラビア印刷装置136の下流側には、電子線照射装置8が配置され、ワークWに電子線26が照射される。ワークWの表面に重ねて塗布されたインク122は、電子線照射装置8の電子線26によって、内部まで高分子化され、インク122全体が硬化し、ワークWに画像が定着する。
これらの構成によれば、光重合開始剤を含有することなく、且つ、各色の硬化を効率よく行って、紫外線/電子線の照射によるグラビア印刷を用いて高品質な画像を形成することができる。
なお、この硬化システム103において、光重合開始剤を含有していない光硬化性樹脂2に代えて、電子線硬化性樹脂を用いることもできる。
【0076】
ところで、第2の実施形態で示したオフセット印刷を用いた硬化システム、第3の実施形態で示したフレキソ印刷を用いた硬化システム、及び、第4の実施形態で示したグラビア印刷を用いた硬化システムでは、第1の実施形態のインクジェット印刷を用いた硬化システムと同様に、光重合開始剤を含有していない光硬化性樹脂、又は電子線硬化性樹脂を含むインクに紫外線を照射して表層を高分子化した後に、電子線を照射して内部まで高分子化させて硬化させる構成であった。
【0077】
しかしながら、オフセット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷などの原板を用いた印刷では、インクを吐出する必要がないため、インクジェット印刷に比べてインクのモノマーの含有率が1/3〜1/4程度である。また、原板を用いた印刷に用いられるインクに含有されるモノマーは、低分子ではなく、分子量の大きいモノマーが使用できる。また、原板を用いた印刷では、ワークWに加圧ロールを接触させてワークWにインクを転写させているため、印圧が高くなっている。このような因子により、オフセット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷などの原板を用いた印刷では、原板からワークに転写された光重合開始剤を含有していない光硬化性樹脂、又は電子線硬化性樹脂を含むインクに酸素濃度を所定濃度以下にした雰囲気中で紫外線を照射することで、インクを十分に硬化することができることを発明者らは発見した。
【0078】
よって、
図19に示すように、オフセット印刷を用いた硬化システムの変形例として、電子線照射装置を省略した硬化システム201の構成とすることができる。また、
図20に示すように、フレキソ印刷を用いた硬化システムの変形例として、電子線照射装置を省略した硬化システム202の構成とすることができる。さらに、グラビア印刷を用いた硬化システムの変形例として、電子線照射装置を省略した硬化システム203の構成とすることができる。
【0079】
なお、上述した実施形態は、あくまでも本発明の一態様の例示であり、本発明の要旨の範囲において任意に変形、及び応用が可能であることは勿論である。