(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6292267
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】ドセタキセル製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/337 20060101AFI20180305BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20180305BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20180305BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20180305BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
A61K31/337
A61K9/08
A61K47/10
A61K47/12
A61P35/00
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-179034(P2016-179034)
(22)【出願日】2016年9月13日
(62)【分割の表示】特願2012-64459(P2012-64459)の分割
【原出願日】2012年3月21日
(65)【公開番号】特開2016-216504(P2016-216504A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2016年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100163647
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】城内 豊
(72)【発明者】
【氏名】西田 誠司
【審査官】
茅根 文子
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2009/0275647(US,A1)
【文献】
米国特許第08044093(US,B1)
【文献】
国際公開第2011/047637(WO,A1)
【文献】
特表2008−543789(JP,A)
【文献】
特開2005−225818(JP,A)
【文献】
特表2011−523620(JP,A)
【文献】
特表2011−513299(JP,A)
【文献】
特表平06−507913(JP,A)
【文献】
特表2009−524700(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/139899(WO,A1)
【文献】
特開2013−194009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/337
A61K 9/08
A61K 47/10
A61K 47/12
A61P 35/00
CAplus/REGISTRY/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本質的にドセタキセルとポリエチレングリコールとpH調整剤と安定化剤とからなる点滴静脈注射のための一液製剤であって、
該ドセタキセルが10〜30mg/mLの濃度で含有されており、
該ポリエチレングリコールが490〜600mg/mLの濃度で含有されており、
pHが2.9〜3.7であり、
該ポリエチレングリコールがマクロゴール400であり、
該pH調整剤が無水クエン酸であり、そして
該安定化剤がポリソルベート80である、一液製剤。
【請求項2】
前記ポリエチレングリコールが490〜565mg/mLの濃度で含有されている、請求項1に記載の一液製剤。
【請求項3】
前記pHが2.9〜3.6である、請求項1または2に記載の一液製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドセタキセル製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
サノフィ・アベンティス株式会社が製造販売する抗癌剤のタキソテール(登録商標)点滴静注用製剤(非特許文献1)は、有効成分のドセタキセル水和物をポリソルベート80に溶解した主薬バイアルと13%エタノール溶液の添付溶解液とからなる二液製剤である。用時は、あらかじめ主薬バイアルに添付溶解液を加えるか、もしくはアルコールに過敏な患者には輸液を加えて均一になるまで混和し、輸液に混注して点滴静注する。
【0003】
このように、タキソテール(登録商標)は、用時製剤調製が必要であり、混和操作などが煩雑で時間を要し、混和操作で発生する泡立ちが消失するまで1時間以上要するなどの問題がある。
【0004】
これらの問題を改善するために、同社から一液製剤であるワンタキソテール(登録商標)点滴静注用製剤(非特許文献2)が発売された。ワンタキソテール(登録商標)は、あらかじめ無水エタノールで希釈されているため、混和操作が不要であり、製剤調製に伴う問題は解消されたものの、アルコールに過敏な患者には投与できないという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「タキソテール(登録商標)点滴静注用80mg,20mg」添付文書
【非特許文献2】「ワンタキソテール(登録商標)点滴静注20mg/1mL,80mg/4mL」添付文書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、アルコールに過敏な患者にも投与可能な一液製剤であるドセタキセル製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリエチレングリコールを共存させることによって、アルコールに過敏な患者にも投与可能な一液製剤であるドセタキセル製剤を提供できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明のドセタキセル製剤は、ドセタキセルとポリエチレングリコールとを含有し、アルコールを含有しない。
【0009】
1つの実施態様では、上記ポリエチレングリコールは、430〜650mg/mLの濃度で含有される。
【0010】
1つの実施態様では、上記製剤は、pHが2.9〜4.2である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アルコールに過敏な患者にも投与可能な一液製剤であるドセタキセル製剤を提供することができる。本発明のドセタキセル製剤は、従来製剤よりもドセタキセル由来の類縁物質の生成が少ないため、安全性が高い。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のドセタキセル製剤は、ドセタキセルとポリエチレングリコールとを含有する。
【0013】
ドセタキセルは、タキソイド類に属する化合物であり、分子式C
43H
53NO
14、分子量807.879、化学名(−)−(1S,2S,3R,4S,5R,7S,8S,10R,13S)−4−アセトキシ−2−ベンゾイルオキシ−5,20−エポキシ−1,7,10−トリヒドロキシ−9−オキソタキサ−11−エン−13−イル(2R,3S)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−ヒドロキシ−3−フェニルプロピオネートの白色の粉末である。高い親油性を有し、水にほとんど溶けない。抗癌作用の機序としては、チューブリンの重合を促進し、安定な微小管を形成するとともに、微小管の脱重合を抑制することによって、異常な形態の微小管束を形成し、細胞の有糸分裂を阻害する。
【0014】
ドセタキセルは、イチイ属の植物から抽出された前駆体(タキソイド10−デアセチルバッカチンIII)を原料に製造することができる。ドセタキセル水和物をポリソルベート80に溶解した溶解液が、タキソテール(登録商標)点滴静注用製剤としてサノフィ・アベンティス株式会社から市販されている。本発明のドセタキセルは、誘導体や類似の化合物も含み、無水物、水和物、塩などの形態も含む。ドセタキセルの濃度としては、特に限定されず、例えば10〜30mg/mL、好ましくは15〜25mg/mL、より好ましくは18〜22mg/mLである。
【0015】
ポリエチレングリコールとしては、特に限定されないが、好ましくはマクロゴール、より好ましくはマクロゴール400である。マクロゴールとは、日本薬局方(局方)または医薬品添加物規格(薬添規)に収載された規格を満たすポリエチレングリコールをいう。マクロゴール400は、平均分子量が400の分子で構成される常温で粘稠性の液体であり、製剤において、安定化剤、界面活性剤、可塑剤、滑沢剤、基剤、結合剤、光沢化剤、コーティング剤、溶解補助剤、乳化剤、崩壊剤、溶解補助剤などとして用いられる。ポリエチレングリコールの濃度としては、特に限定されないが、好ましくは430〜650mg/mL、より好ましくは490〜600mg/mLである。
【0016】
本発明のドセタキセル製剤は、アルコールを含有しない。
【0017】
本発明のドセタキセル製剤は、通常の製剤などに用いられる緩衝剤、pH調節剤、安定化剤などを必要に応じて含んでいてもよい。緩衝剤としては、特に限定されない。pH調整剤としては、特に限定されず、例えば、無水クエン酸、リン酸が挙げられる。好ましくは、無水クエン酸である。安定化剤としては、特に限定されず、例えば、ポリソルベート80、ポリオキシエチレンヒマシ油が挙げられる。好ましくは、ポリソルベート80である。
【0018】
本発明のドセタキセル製剤のpHは、特に限定されないが、好ましくは2.9〜4.2、より好ましくは3.1〜3.9である。pHが2.9未満または4.2を超えると、製剤の保存中にドセタキセルの分解産物である類縁物質の生成が促進される。類縁物質としては、10−オキソ体、7−エピ体、7−エピ−10−オキソ体が挙げられる。pH2.9〜4.2では、製剤の保存中に7−エピ−10−オキソ体がほとんど生成しない。
【0019】
本発明のドセタキセル製剤は、通常バイアルなどのガラス容器に封入されて、室温にて、好ましくは冷所にて保存される。用時、必要に応じて、生理食塩液またはブドウ糖液にて希釈して用いる。
【0020】
本発明のドセタキセル製剤は、例えば、非小細胞肺癌に適用する場合、成人に1日1回、ドセタキセルとして60mg/m
2(体表面積)を1時間以上かけて3〜4週間間隔で点滴静注する。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0022】
(実施例1)
ドセタキセル水和物21.34mg(ドセタキセルとして20mgおよび無水クエン酸(小松屋株式会社製、日本薬局方)1.2mgをポリソルベート80(三洋化成工業株式会社製、日本薬局方)540mgに溶かし、マクロゴール400(三洋化成工業株式会社、日本薬局方)560mgを混合して製剤を得た。
【0023】
(比較例1および2)
市販のタキソテール(登録商標)点滴静注用製剤500μLに無水エタノール395mgを添加した製剤を比較例1とした。マクロゴール400に代えてプロピレングリコールにしたこと以外は実施例1と同様にして調製した製剤を比較例2とした。
【0024】
(試験例1)
実施例1ならびに比較例1および2の製剤を60℃にて2週間保存し、保存後の製剤について、ドセタキセルの分解産物であるドセタキセル類縁物質をHPLCにて定量した。結果を製剤調製時のpHとともに表1に示す。なお、HPLC分析条件は以下のとおりである。
【0025】
<HPLC分析条件>
カラム:株式会社資生堂製CAPCELLPAK C
18MGII(4.6×250mm)
移動相:水/メタノール/アセトニトリル(21/16/13)
流量:ドセタキセルの保持時間が約24分になるように調整した。
温度:28℃付近の一定温度
検出波長:232nm
【0026】
【表1】
【0027】
表1から明らかなように、製剤保存後、実施例1の製剤は、比較例1の従来製剤と同等の類縁物質増加量であった。類縁物質としては、10−オキソ体、7−エピ体、7−エピ−10−オキソ体が主に認められた。一方、比較例2の製剤は、析出物が認められた。
【0028】
(実施例2〜7)
無水クエン酸の添加量を以下の表2に記載の処方にしたことおよびドセタキセル水和物をドセタキセルに変更したこと以外は実施例1と同様に調製した製剤を実施例2〜7とした。市販のワンタキソテール(登録商標)点滴静注用製剤を比較例3とした。
【0029】
(試験例2)
実施例3〜7および比較例3の製剤について、試験例1と同様に試験を行った。結果を製剤調製時のpHとともに表2に示す。なお、HPLC分析条件は以下のとおりである。製剤中のドセタキセル含量も残存率(%)として併せて示す。
【0030】
<HPLC分析条件>
カラム:株式会社資生堂製CAPCELLPAK C
18MGII(4.6×100mm)
移動相:水/メタノール/アセトニトリル(21/16/13)
流量:ドセタキセルの保持時間が約12分になるように調整した。
温度:40℃付近の一定温度
検出波長:232nm
【0031】
【表2】
【0032】
表2から明らかなように、製剤保存後、pH2.9〜3.6の実施例4〜7の製剤は、比較例3の従来製剤よりも類縁物質増加量が少なかった。特に、pH3.3の実施例5の製剤では、類縁物質の7−エピ−10−オキソ体がほとんど認められなかった。
【0033】
(実施例8〜12)
無水クエン酸の添加量を以下の表3に記載の処方にしたこと以外は実施例1と同様に調製した製剤を実施例8〜12とした。
【0034】
(試験例3)
実施例8〜12および比較例3の製剤について、60℃にて2週間保存に代えて40℃にて1箇月または1.5箇月保存にしたこと以外は試験例1と同様に試験を行った。結果を製剤調製時のpHとともに表3に示す。
【0035】
【表3】
【0036】
表3から明らかなように、製剤保存後、pH2.9〜3.7の実施例8〜12の製剤は、比較例3の従来製剤よりも類縁物質増加量が少なかった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、アルコールに過敏な患者にも投与可能な一液製剤であるドセタキセル製剤を提供することができる。