【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、超硬合金および被覆超硬合金について種々の検討を行った。その結果、本発明者らは、超硬合金の結合相の組成を工夫することにより、優れた耐欠損性を有する超硬合金を得ることができることを明らかにし、本発明に至った。さらには、該超硬合金の表面に形成する被覆層を工夫することにより、被覆層の密着性を改善した。その結果、優れた耐欠損性を有する被覆超硬合金を得ることができた。
【0010】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)85質量%以上97質量%以下の硬質相と、3質量%以上15質量%以下の結合相とからなる超硬合金であって、
前記硬質相の主成分は、炭化タングステンであり、
前記結合相は、Coと、Ru、Rh、Pd、Os、IrおよびPt からなる群より選択される少なくとも1種の白金族元素とを含み、
X線回折分析によって得られる前記Co のピークにおいて、立方晶Coの(200)面の強度I
Cocと、六方晶Coの(101)面の強度I
Cohが、以下の式(1)の関係を満たす、超硬合金。
0.1≦[I
Coh/(I
Coh+I
Coc)]≦0.6 ・・・(1)
(2)前記結合相に含まれるCoの量が2.5質量%以上14.5質量%以下であり、前記結合相に含まれる白金族元素の量が0.5質量%以上4質量%以下である(1)に記載の超硬合金。
(3)前記硬質相の平均粒径は、0.5μm以上5μm以下である(1)または(2)に記載の超硬合金。
(4)前記硬質相は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、CrおよびMoからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素と、CおよびNから選択される少なくとも1種の元素とからなる化合物をさらに含む(1)〜(3)のいずれかに記載の超硬合金。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の超硬合金と、前記超硬合金の表面に形成された被覆層とを備えた被覆超硬合金であって、
前記被覆層は、少なくとも1層の密着層を含み、
前記密着層は、前記超硬合金の表面に形成されており、
前記密着層は、式Al
xTi
yM
zNで表される組成を有し(式中、Mは、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Y、BおよびSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を表す。xは、Al元素とTi元素とM元素の合計に対するAl元素の原子比を表す。yは、Al元素とTi元素とM元素の合計に対するTi元素の原子比を表す。zは、Al元素とTi元素とM元素の合計に対するM元素の原子比を表す。0.65≦x≦0.9、0.1≦y≦0.35、0≦z≦0.2、x+y+z=1である。)、
X線回折分析によって得られる前記密着層のピークにおいて、立方晶の(200)面の強度I
cと、六方晶の(100)面の強度I
hが、以下の式(2)の関係を満たす、被覆超硬合金。
0.05≦[I
h/(I
h+I
c)]≦0.3 ・・・(2)
(6)前記密着層の平均厚さは0.5μm以上7μm以下である(5)に記載の被覆超硬合金。
(7)前記密着層の平均粒径が10nm以上400nm以下である(5)または(6)に記載の被覆超硬合金。
(8)前記被覆層の平均厚さは0.5μm以上10μm以下である(5)〜(7)のいずれかに記載の被覆超硬合金。
【0011】
本発明の超硬合金は、炭化タングステンを主成分とする硬質相と、結合相とからなる。硬質相の超硬合金全体(100質量%)に対する割合は、85〜97質量%であり、結合相が残部を占める。
【0012】
硬質相の割合が85質量%未満であると、超硬合金の耐摩耗性が低下する。硬質相の割合が97質量%を超えると、超硬合金の耐欠損性が低下する。また、硬質相の割合が97質量%を超えると、相対的に残部の結合相の量が減少するため、超硬合金の製造の際の原料の焼結性が低下する。したがって、硬質相の割合は、85〜97質量%であることが好ましい。硬質相の割合は、86〜92質量%であることがさらに好ましい。結合相は、硬質相以外の残部を占める。
【0013】
本発明の超硬合金の硬質相の主成分は、炭化タングステンである。主成分とは、硬質相全体を100質量%としたとき、50質量%を超えて含むことを意味する。硬質相全体が炭化タングステンのみからなってもよい。硬質相は、炭化タングステン以外の成分を含んでもよい。硬質相は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、CrおよびMoからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素と、CおよびNから選択される少なくとも1種の元素とからなる化合物を含むことが好ましい。硬質相がこのような化合物を含むと、超硬合金の耐摩耗性および耐塑性変形性が向上する。
【0014】
本発明の超硬合金の硬質相の平均粒径は、0.5μm以上5.0μm以下であると好ましい。硬質相の平均粒径が0.5μm未満であると、超硬合金の硬さが高くなるため、超硬合金の耐欠損性が低下する傾向がある。硬質相の平均粒径が5.0μmを超えると、超硬合金の硬さが低下するため、超硬合金の耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0015】
本発明の超硬合金の硬質相の平均粒径は、超硬合金の研磨された断面を観察して求められる。このような断面は、超硬合金の任意の断面を鏡面研磨して得られる。超硬合金を鏡面研磨するためには、例えば、ダイヤモンドペースト、コロイダルシリカ、またはイオンミリングを用いることができる。硬質相の平均粒径は、超硬合金の断面組織をSEMで2000〜10000倍に拡大した画像に対して、フルマンの式(1)を適用して求めることができる。
d=(4/π)・(NL/NS) (1)
(式中、dは平均粒径、πは円周率、NLは断面組織上の任意の直線によってヒットされる単位長さあたりの硬質相の数、NSは任意の単位面積内に含まれる硬質相の数である。)
【0016】
本発明の超硬合金の結合相は、Coと、Ru、Rh、Pd、Os、IrおよびPt からなる群より選択される少なくとも1種の白金族元素とを含む。結合相がCoを含むことにより、焼結性が向上する。これにより、超硬合金の靱性が向上するとともに、超硬合金の耐欠損性が向上する。また、結合相が白金族元素を含むことにより、超硬合金の耐熱性が向上する。これにより、拡散摩耗の進行が抑制されるとともに、切刃部の強度不足による欠損が抑制される。
【0017】
本発明の超硬合金の結合相は、Coを2.5質量%以上14.5質量%以下含み、白金族元素を0.5質量%以上4質量%以下含むことが好ましい。Co及び白金族元素の含有量がこの範囲にあると、超硬合金の耐欠損性と耐熱性が向上する傾向がある。Coの含有量が2.5質量%未満であると、超硬合金の耐欠損性が低下する傾向がある。また、Coの含有量が2.5質量%未満であると、相対的に白金族元素の割合が上昇するため、結合相が脆化し、超硬合金の耐欠損性が低下する傾向がある。Coの含有量が14.5質量%を超えると、超硬合金の耐摩耗性が低下する。また、Coの含有量が14.5質量%を超えると、相対的に白金族元素の割合が減少するため、超硬合金の耐熱性が低下する傾向がある。また、白金族元素の含有量が0.5質量%未満であると、超硬合金の耐熱性が低下する傾向がある。白金族元素の割合が4質量%を超えると、結合相が著しく脆化するため、超硬合金の耐欠損性が低下する傾向がある。本発明の超硬合金の結合相は、さらに、Wを2%以上9%以下含むことが好ましい。Wの含有量がこの範囲にあると、超硬合金の耐摩耗性が向上する。
【0018】
超硬合金の硬質相及び結合相の割合及び各組成は、以下のようにして求めることができる。
超硬合金の表面から深さ方向に500μmまでの断面組織を、エネルギー分散型X線分光器(EDS)付き走査電子顕微鏡(SEM)にて観察する。EDSにより、超硬合金の硬質相および結合相の各組成を測定する。その測定結果から、超硬合金の硬質相および結合相の割合を求めることができる。
【0019】
本発明の結合相のX線回折分析によって得られるCo のピークは、以下の特徴を有する。
立方晶Coの(200)面の強度を、I
Cocとする。
六方晶Coの(101)面の強度を、I
Cohとする。
I
CocとI
Cohの合計に対する、I
Cohの比率が、0.1以上0.6以下である。
0.1≦[I
Coh/(I
Coh+I
Coc)]≦0.6
I
Coh/(I
Coh+I
Coc)が0.1未満であると、六方晶Coの存在比率が小さいため、超硬合金中に十分な圧縮応力が付与されず、超硬合金の耐欠損性が低下する。
I
Coh/(I
Coh+I
Coc)が0.6を超えると、超硬合金中の圧縮応力が大きくなる。その結果、切削加工中にクラックが発生しやすくなり、超硬合金の耐欠損性が低下する。
そのため、I
Coh/(I
Coh+I
Coc)は、0.1以上0.6以下であることが好ましい。
【0020】
本発明の結合相について、立方晶Coの(200)面の強度I
Cocと、六方晶Coの(101)面の強度I
Cohは、市販のX線回折装置を用いて測定することができる。強度I
Coc、I
Cohの測定には、例えば、株式会社リガク製 X線回折装置RINT TTRIIIを用いることができる。また、測定には、Cu−Kα線を用いた2θ/θ集中法光学系のX線回折測定を用いることができる。X線回折の測定条件は、例えば、以下の通りである。
出力:50kV、250mA、
入射側ソーラースリット:5°、
発散縦スリット:2/3°、
発散縦制限スリット:5mm、
散乱スリット:2/3°、
受光側ソーラースリット:5°、
受光スリット:0.3mm、
BENTモノクロメータ、
受光モノクロスリット:0.8mm、
サンプリング幅:0.01°、
スキャンスピード:1°/min、
2θ測定範囲:30〜60°
X線回折図形から、立方晶Coの(200)面の強度I
Cocと、六方晶Coの(101)面の強度I
Cohとを求めることができる。このときに、X線回折装置付属の解析ソフトウェアを用いてもよい。解析ソフトウェアを用いるときには、三次式近似を用いてバックグラウンド処理およびKα2ピーク除去を行うとともに、Pearson−VII関数を用いてプロファイルフィッティングを行う。これにより、立方晶Coの(200)面の強度I
Cocと、六方晶Coの(101)面の強度I
Cohを求めることができる。
【0021】
さらに、本発明の超硬合金の表面に、被覆層を形成してもよい。超硬合金の表面に被覆層を形成することによって、超硬合金の耐摩耗性が向上する。
本発明の被覆層は、1層でもよく、多層でもよい。
本発明の被覆層全体の平均の厚さが0.5μm未満であると、被覆層の耐摩耗性が低下する傾向がある。被覆層全体の平均の厚さが10μmを超えると、被覆層の耐欠損性が低下する傾向がある。そのため、被覆層全体の平均の厚さは、0.5μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0022】
本発明の被覆層は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、SiおよびYからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、C、N、BおよびOからなる群から選択される少なくとも1種の元素とからなる化合物で構成されることが好ましい。被覆層がこのような化合物で構成されると、被覆層の耐摩耗性が向上する。
【0023】
本発明の被覆層は、少なくとも1つの密着層を含むことが好ましい。密着層は、超硬合金の表面に形成されることが好ましい。被覆層が密着層を含むと、超硬合金と被覆層との密着性が向上する。
また、本発明の被覆層は、少なくとも1つの上部層を含んでもよい。上部層は、密着層の表面に形成される。上部層は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、SiおよびYからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、C、N、BおよびOからなる群から選択される少なくとも1種の元素とからなる化合物で構成されることが好ましい。上部層は、このような化合物からなる単層または積層であることが好ましい。被覆層が上部層を含むことによって、被覆層の耐摩耗性が向上する。
【0024】
本発明の密着層は、立方晶と六方晶とを含むことが好ましい。X線回折分析によって得られる密着層のピークは、以下の特徴を有することが好ましい。
立方晶の(200)面の強度を、I
cとする。
六方晶の(100)面の強度を、I
hとする。
I
cとI
hとの合計に対する、I
hの比率が、0.05以上0.3以下である。
0.05≦[I
h/(I
h+I
c)]≦0.3
密着層のピークが上記の特徴を有することにより、超硬合金と被覆層との密着性が向上する。
I
h/(I
h+I
c)が0.05未満であると、六方晶の存在比率が小さいため、超硬合金と被覆層の密着性が低下する傾向がある。この場合、欠損の起点となる微小なチッピングを抑制することができない。
I
h/(I
h+I
c)が0.3を超えると、密着層の強度が低下することにより、耐欠損性が低下する傾向がある。
【0025】
六方晶Coを含む超硬合金の表面に、六方晶を含む密着層が形成されていることが好ましい。これにより、超硬合金と密着層の密着性が大幅に向上する。また、欠損の起点となる微小なチッピングを抑制することができる。
【0026】
本発明の密着層について、立方晶の(200)面の強度I
cと、六方晶の(100)面の強度I
hとは、市販のX線回折装置を用いて測定することができる。強度I
c、I
hの測定には、例えば、株式会社リガク製 X線回折装置RINT TTRIIIを用いることができる。また、測定には、Cu−Kα線を用いた2θ/θ集中法光学系のX線回折測定を用いることができる。X線回折の測定条件は、例えば、以下の通りである。
出力:50kV、250mA、
入射側ソーラースリット:5°、
発散縦スリット:2/3°、
発散縦制限スリット:5mm、
散乱スリット2/3°、
受光側ソーラースリット:5°、
受光スリット:0.3mm、
BENTモノクロメータ、
受光モノクロスリット:0.8mm、
サンプリング幅:0.01°、
スキャンスピード:1°/min、
2θ測定範囲:30〜70°。
X線回折図形から、立方晶の(200)面の強度をI
cと、六方晶の(100)面の強度をI
hとを求めることができる。このときに、X線回折装置付属の解析ソフトウェアを用いてもよい。解析ソフトウェアを用いるときには、三次式近似を用いてバックグラウンド処理およびKα2ピーク除去を行うとともに、Pearson−VII関数を用いてプロファイルフィッティングを行う。これにより、立方晶の(200)面の強度I
cと、六方晶の(100)面の強度I
hを求めることができる。
なお、密着層の表面に上部層が形成されている場合には、密着層が露出するまで上部層を研磨にて除去した後、露出した密着層をX線回折装置を用いることにより測定することができる。
【0027】
本発明の密着層は、Al
xTi
yM
zNで表される組成を有することが好ましい。密着層がこのような組成を有すると、欠損の起点となる微小なチッピングを抑制することができる。式中、Mは、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Y、BおよびSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を表す。xは、Al元素とTi元素とM元素の合計に対するAl元素の原子比を表す。yは、Al元素とTi元素とM元素の合計に対するTi元素の原子比を表す。zは、Al元素とTi元素とM元素の合計に対するM元素の原子比を表す。x、y、及びzは、0.65≦x≦0.9、0.1≦y≦0.35、0≦z≦0.2、x+y+z=1を満足する。xは、0.65≦x≦0.9であることが好ましい。yは、0.1≦y≦0.35であることが好ましい。zは、0≦z≦0.2であることが好ましい。x、y、及びzがこのような条件を満たすことにより、耐欠損性、耐摩耗性および耐酸化性のバランスが良好になる。
【0028】
本発明の密着層の平均の厚さは、さらに好ましくは、0.5μm以上7μm以下である。密着層の平均の厚さが0.5μm未満であると、耐摩耗性が低下する傾向がある。密着層の平均の厚さが7μmを超えると、耐欠損性が低下する傾向がある。
【0029】
本発明の被覆層を構成する各層の厚さは、被覆超硬合金の断面組織を観察することで測定することができる。被覆層全体の厚さも、被覆超硬合金の断面組織を観察することで測定することができる。被覆超硬合金の断面組織は、例えば、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)、または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察することができる。被覆層を構成する各層の平均の厚さは、被覆層の断面の3箇所以上において各層の厚さを測定し、その平均値を算出したものである。被覆層全体の厚さは、被覆層の断面の3箇所以上において被覆層全体の厚さを測定し、その平均値を算出したものである。
【0030】
本発明の密着層の平均粒径は、10nm以上400nm以下であると好ましい。平均粒径が10nm未満であると、耐摩耗性が低下する傾向がある。平均粒径が400nmを超えると、密着性が低下する傾向があり、欠損の起点となる微小なチッピングを抑制することができない。
【0031】
本発明の密着層の粒径は、被覆超硬合金の表面に対して平行な、密着層の断面組織を観察して求められる。
具体的には、被覆超硬合金の表面に対して平行に密着層を鏡面研磨する。これにより、密着層の断面組織を得ることができる。このとき、密着層の表面から内部に向かって、密着層を鏡面研磨することができる。あるいは、密着層と上部層の界面から内部に向かって、密着層を鏡面研磨することができる。表面の凹凸が無くなるまで密着層を鏡面研磨することによって、密着層の断面組織を得ることができる。
密着層の粒径を求めるために、密着層の表面近傍の断面組織を観察してもよい。あるいは、密着層の粒径を求めるために、密着層の内部の断面組織を観察してもよい。
密着層を鏡面研磨する方法の例としては、ダイヤモンドペーストまたはコロイダルシリカを用いて研磨する方法や、イオンミリングを挙げることができる。
直径100nm以上のドロップレットを除く断面組織を観察することによって、密着層の粒径を求めることができる。断面組織の観察には、例えば、FE−SEM、TEM、または電子線後方散乱回折装置(EBSD)を用いることができる。密着層の粒径とは、密着層を構成する粒子の面積と等しい面積の円の直径(円相当径)を意味する。
密着層の断面組織から粒径を求めるために、画像解析ソフトを用いてもよい。なお、密着層の断面組織において、直径100nm以上のドロップレットと、ドロップレット以外の領域は容易に区別できる。
密着層の断面組織を観察すると、ドロップレットは円形である。ドロップレットの周りには、厚さ数nm〜数十nmの空隙が存在する。ドロップレットは、鏡面研磨中に密着層から抜け落ちることがある。その場合、密着層の断面組織に、円形の孔が生じる。そのため、密着層の断面組織において、直径100nm以上のドロップレットと、ドロップレット以外の領域は容易に区別できる。
なお、密着層の表面側に上部層が形成されている場合には、密着層が露出するまで、上部層を鏡面研磨することが好ましい。このとき、上部層の表面から内部に向かって、上部層を鏡面研磨することが好ましい。密着層が露出した後、表面の凹凸が無くなるまで密着層を鏡面研磨することが好ましい。
【0032】
本発明の被覆超硬合金の主成分は、六方晶からなる炭化タングステンである。本発明の超硬合金の結合相は、六方晶Coを含む。本発明の超硬合金の表面には、立方晶と六方晶とを含む密着層が形成される。本発明によれば、超硬合金と密着層との密着性が向上する。その結果、インコネル(登録商標)等の難削材の加工において、溶着した切粉が剥がれるときに発生する微小なチッピングを起点とする欠損を抑制することができる。
【0033】
本発明の密着層は、化学蒸着法によって形成してもよく、物理蒸着法によって形成してもよい。本発明の密着層は、物理蒸着法によって形成することが好ましい。物理蒸着法として、例えば、アークイオンプレーティング法、イオンプレーティング法、スパッタ法、イオンミキシング法を挙げることができる。その中でも、アークイオンプレーティング法は、超硬合金と被覆層との密着性を向上させることができるため、さらに好ましい。
【0034】
次に、本発明の超硬合金の製造方法について、具体例を用いて説明する。なお、本発明の超硬合金の製造方法は、当該超硬合金の構成を達成し得る限り特に制限されるものではない。
【0035】
例えば、本発明の超硬合金の製造方法は、以下の工程(A)〜(F)を含む。
工程(A):以下の(1)〜(4)の粉末を、合計100質量%となるように用意する工程。
(1)平均粒径0.5〜5.0μmの炭化タングステン粉末:85〜97質量%
(2)平均粒径0.5〜5.0μmの、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、CrおよびMoからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素の、炭化物、窒化物、及び炭窒化物からなる群より選択される少なくとも1種の粉末:3〜40質量%
(3)平均粒径0.5〜3.0μmのCo粉末:2.5〜14.5質量%
(4)平均粒径1.0〜10.0μmの、Ru、Rh、Pd、Os、IrおよびPtからなる群より選択される少なくとも1種の白金族元素粉末:0.5〜4.0質量%
【0036】
工程(B):工程(A)で用意した粉末を湿式ボールミルにより10〜40時間混合する混合工程。
【0037】
工程(C):工程(B)で得られた混合物を、所定の工具の形状に成形する成形工程。
【0038】
工程(D):工程(C)で得られた成形体を、70Pa以下の真空にて、1400〜1550℃の温度まで昇温する第1昇温工程。
【0039】
工程(E):工程(D)を経た成形体を、100〜1330Paの不活性ガス雰囲気にて、1400〜1550℃の温度で30〜120分保持して焼結する第1焼結工程。
【0040】
工程(F):工程(E)を経た成形体を、70Pa以下の真空にて、1400〜1550℃の温度から常温まで、5〜30℃/分の速度で冷却する冷却工程。
【0041】
なお、工程(A)において使用される原料粉末の平均粒径は、米国材料試験協会(ASTM)規格B330に記載のフィッシャー法(Fisher Sub-Sieve Sizer(FSSS))により測定されたものである。
【0042】
工程(A)〜(F)は、以下の意義を有する。
工程(A)では、(1)炭化タングステン粉末、(2)Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、CrおよびMoからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素の、炭化物、窒化物、及び炭窒化物からなる群より選択される少なくとも1種の粉末、(3)Co粉末、及び(4)Ru、Rh、Pd、Os、IrおよびPtからなる群より選択される少なくとも1種の白金族元素粉末を用いる。これにより、特定の組成を有する超硬合金が得られる。
本発明の超硬合金は、Co中に白金族元素が固溶しており、六方晶Coへの変態が生じやすい。また、Co中の白金族元素の固溶量が多くなるほど、六方晶Coへ変態する割合が高くなる傾向がある。本発明の超硬合金を得るためには、Coと白金族元素の配合比[白金族元素(質量%)/Co(質量%)]を、0.1〜0.6に調整することが好ましい。
【0043】
工程(B)では、硬質相の平均粒径を調整することができる。工程(B)では、工程(A)で用意した原料粉末を均一に混合することができる。
【0044】
工程(C)では、得られた混合物を、所定の工具の形状に成形する。得られた成形体を、以下の焼結工程で焼結する。
【0045】
工程(D)では、成形体を、70Pa以下の真空で昇温する。これにより、液相出現前および液相出現直後での脱ガスを促進するとともに、以下の焼結工程における焼結性を向上させる。
【0046】
工程(E)では、成形体を、1400〜1550℃の温度で焼結する。これにより、成形体は緻密化し、成形体の機械的強度が高まる。
【0047】
工程(F)では、成形体を、70Pa以下の真空で、1400〜1550℃の温度から常温まで、5〜30℃/minの速度にてゆっくりと冷却する。これにより、立方晶のCoから六方晶のCoへの変態が起こる。立方晶のCoから六方晶のCoへの変態量を制御することにより、本発明の超硬合金が得られる。なお、本発明の超硬合金では、Co中に白金族元素を固溶させているため、六方晶Coへの変態が進行しやすい。Co中に白金族元素を固溶させていない場合には、焼結後に焼結体を徐冷しても、六方晶Coへの変態はほとんど進行しない。
【0048】
Coと白金族元素の配合比を大きくすると、立方晶Coから六方晶Coへの変態量が多くなる。焼結温度から常温までの冷却速度を遅くすると、立方晶Coから六方晶Coへの変態量が多くなる。Coと白金族元素の配合比を0.1〜0.6の範囲内で調整することにより、立方晶Coから六方晶Coへの変態量を制御することができる。さらに、焼結温度から常温までの冷却速度を5〜30℃/minの範囲内で調整することにより、立方晶Coから六方晶Coへの変態量を制御することができる。
より具体的には、白金族元素の配合割合が大きく、六方晶Coへの変態量が多すぎる場合には、冷却速度を早くする。白金族元素の配合割合が小さく、六方晶Coへの変態量が少なすぎる場合には、冷却速度を遅くする。Co及び白金族元素の配合割合と冷却速度を調整することにより、立方晶Coと六方晶Coの比率を調整することができる。このような調整により、I
CocとI
Cohとの合計に対する、I
Cohの比率を制御することができる。
【0049】
工程(A)から工程(F)を経て得られた超硬合金に対して、必要に応じて、研削加工や刃先のホーニング加工を施してもよい。
【0050】
次に、本発明の被覆超硬合金の製造方法について、具体例を用いて説明する。なお、本発明の被覆超硬合金の製造方法は、当該被覆超硬合金の構成を達成し得る限り特に制限されるものではない。
【0051】
工具形状に加工した本発明の超硬合金を、物理蒸着装置の反応容器内に入れる。
反応容器内を、圧力1×10
−2Pa以下になるまで真空引きする。
真空引きした後、反応容器内のヒーターで、超硬合金を200〜800℃の温度に加熱する。
加熱後、反応容器内にArガスを導入して、反応容器内の圧力を0.5〜5.0Paに調整する。
圧力0.5〜5.0PaのArガス雰囲気にて、超硬合金に、−200〜−1000Vのバイアス電圧を印加する。
反応容器内のタングステンフィラメントに5〜20Aの電流を流して、超硬合金の表面をArガスによるイオンボンバードメント処理をする。
超硬合金の表面をイオンボンバードメント処理した後、反応容器内を、圧力1×10
−2Pa以下になるまで真空引きする。
【0052】
次いで、超硬合金を200℃〜600℃の温度に加熱する。
その後、窒素ガスなどの反応ガスを反応容器内に導入し、反応容器内の圧力を0.5〜5.0Paに調整する。超硬合金に、−10〜−150Vのバイアス電圧を印加する。各層の金属成分に応じた金属蒸発源を、80〜150Aのアーク放電により蒸発させる。これにより、超硬合金の表面に、各層を形成することができる。
【0053】
本発明の密着層は、例えば、以下の方法で形成することができる。
反応容器内に、金属蒸発源を設置する。金属蒸発源に含まれるAl元素とTi元素とM元素の合計に対する、Al元素の原子比は、0.65以上である。超硬合金の表面を、イオンボンバードメント処理する。イオンボンバードメント処理の後、超硬合金を700℃〜900℃の温度に加熱する。その後、窒素ガスなどの反応ガスを反応容器内に導入し、反応容器内の圧力を0.5〜3.0Paに調整する。超硬合金に、−10〜−40Vのバイアス電圧を印加する。各層の金属成分に応じた金属蒸発源を、80〜100Aのアーク放電により蒸発させる。これにより、超硬合金の表面に、密着層の核を20〜100nmの厚さで分散して形成する(核形成工程)。核形成工程の後、超硬合金に、−80〜−150Vのバイアス電圧を印加する。各層の金属成分に応じた金属蒸発源を、100〜150Aのアーク放電により蒸発させる。これにより、超硬合金の表面に、密着層を形成することができる(成膜工程)。なお、密着層の核の厚さは、核形成工程における、単位時間当たりの核の成長速度から求めることができる。
【0054】
密着層に含まれる六方晶の比率を高めるためには、金属蒸発源に含まれるAl元素とTi元素とM元素の合計に対する、Al元素の原子比を大きくする。これにより、密着層の核の厚さが小さくなるため、密着層に含まれる六方晶の比率を高めることができる。