(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6292308
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】アルミニウム電線の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22F 1/04 20060101AFI20180305BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20180305BHJP
C22C 21/00 20060101ALN20180305BHJP
H01B 1/02 20060101ALN20180305BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20180305BHJP
【FI】
C22F1/04 D
C22F1/04 H
H01B13/00 501B
H01B13/00 501D
!C22C21/00 A
!H01B1/02 B
!C22F1/00 602
!C22F1/00 625
!C22F1/00 630A
!C22F1/00 630B
!C22F1/00 630F
!C22F1/00 630K
!C22F1/00 661A
!C22F1/00 685Z
!C22F1/00 686B
!C22F1/00 691B
!C22F1/00 691C
!C22F1/00 691Z
!C22F1/00 692A
!C22F1/00 692B
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-543849(P2016-543849)
(86)(22)【出願日】2015年6月4日
(86)【国際出願番号】JP2015066226
(87)【国際公開番号】WO2016027550
(87)【国際公開日】20160225
【審査請求日】2017年2月1日
(31)【優先権主張番号】特願2014-166867(P2014-166867)
(32)【優先日】2014年8月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今里 文敏
(72)【発明者】
【氏名】大塚 保之
(72)【発明者】
【氏名】田口 欣司
(72)【発明者】
【氏名】小林 啓之
(72)【発明者】
【氏名】桑原 鉄也
(72)【発明者】
【氏名】草刈 美里
(72)【発明者】
【氏名】山田 健介
【審査官】
鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−241254(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/112636(WO,A1)
【文献】
特開2012−132073(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/071097(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/052644(WO,A1)
【文献】
国際公開第2013/147270(WO,A1)
【文献】
中国特許出願公開第102041418(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22F 1/04 − 1/057
C22C 21/00 − 21/18
H01B 1/02
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理型のアルミニウム合金材に溶体化処理を行う溶体化工程と、
前記溶体化処理を行ったアルミニウム合金材に伸線加工を行う伸線工程と、
前記伸線加工を行ったアルミニウム合金材に10秒以内の短時間で軟化処理を行う軟化工程と、
前記軟化処理を行ったアルミニウム合金材に時効処理を行う時効工程と、
を有することを特徴とするアルミニウム電線の製造方法。
【請求項2】
前記軟化処理の温度が300℃以上であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム電線の製造方法。
【請求項3】
前記軟化処理の加熱過程後の冷却過程が急冷過程であり、軟化処理の温度から100℃以下にするまでの時間が10秒以内であることを特徴とする請求項1または2に記載のアルミニウム電線の製造方法。
【請求項4】
前記時効処理の温度が0〜200℃の範囲内であり、前記時効処理の時間が1〜100時間の範囲内であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のアルミニウム電線の製造方法。
【請求項5】
前記溶体化処理の加熱過程後の冷却過程が急冷過程であり、溶体化処理の温度から100℃以下にするまでの時間が10秒以内であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のアルミニウム電線の製造方法。
【請求項6】
前記軟化処理の加熱が通電加熱または誘導加熱であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のアルミニウム電線の製造方法。
【請求項7】
前記時効処理を行う前に、前記軟化処理を行ったアルミニウム合金材に、10秒以内の短時間で軟化温度より低い温度に熱処理を行う再熱処理工程をさらに有することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のアルミニウム電線の製造方法。
【請求項8】
前記再熱処理工程の熱処理の温度が100〜200℃の範囲内であることを特徴とする請求項7に記載のアルミニウム電線の製造方法。
【請求項9】
前記再熱処理工程の加熱過程後の冷却過程が徐冷過程であることを特徴とする請求項7または8に記載のアルミニウム電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用電線として好適なアルミニウム電線の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用電線の導体には、電気伝導性に優れる純銅や低濃度銅合金、低濃度アルミニウム合金などの非熱処理型合金が用いられている。自動車用電線では、軽量化の要望から、細径化や比重の軽いアルミニウム系材料の適用が検討されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−74229号公報
【特許文献2】特開2013−76168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非熱処理型のアルミニウム合金は、導体製造工程の最終工程で加熱し、加工歪みの除去(軟化)を行っている。このため、材料の高強度化が必要であり、添加元素の濃度を上げる必要がある。しかし、非熱処理型のアルミニウム合金において添加元素の濃度を上げると、導電率の低下が大きい。
【0005】
一方で、熱処理型のアルミニウム合金を用いた導体も知られている(特許文献2)。しかし、熱処理型アルミニウム合金の一般的な調質方法は、溶体化処理および時効処理である。これにより、強度の向上が図られる。強度が重視される一般的な構造材ではこうした一般的な調質方法により調質が行われている。また、特許文献2でも、こうした一般的な調質方法により調質が行われている。しかし、こうした一般的な調質方法により得られる線材は、溶体化処理および時効処理を施すことで高強度であるものの、電線導体に必要な伸びがない。なお、特許文献2は、熱処理型アルミニウム合金の添加元素によって伸びを改良するものであり、調質方法によって伸びを改良するものではない。また、伸線加工後に溶体化処理を行っているため、素線同士が融着しやすく、製造性の点で改良を要する。
【0006】
本発明の解決しようとする課題は、細径電線においても高強度で高導電率を有しながら、伸びにも優れ、製造性も満足するアルミニウム電線の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明に係るアルミニウム電線の製造方法は、熱処理型のアルミニウム合金材に溶体化処理を行う溶体化工程と、前記溶体化処理を行ったアルミニウム合金材に伸線加工を行う伸線工程と、前記伸線加工を行ったアルミニウム合金材に10秒以内の短時間で軟化処理を行う軟化工程と、前記軟化処理を行ったアルミニウム合金材に時効処理を行う時効工程と、を有することを要旨とするものである。
【0008】
前記軟化処理の温度は300℃以上であることが好ましい。前記軟化処理の加熱過程後の冷却過程は急冷過程であり、軟化処理の温度から100℃以下にするまでの時間は10秒以内であることが好ましい。前記時効処理の温度は0〜200℃の範囲内であり、前記時効処理の時間が1〜100時間の範囲内であることが好ましい。前記溶体化処理の加熱過程後の冷却過程は急冷過程であり、溶体化処理の温度から100℃以下にするまでの時間は10秒以内であることが好ましい。前記軟化処理の加熱は通電加熱または誘導加熱であることが好ましい。
【0009】
前記時効処理を行う前に、前記軟化処理を行ったアルミニウム合金材に、10秒以内の短時間で軟化温度より低い温度に熱処理を行う再熱処理工程をさらに有することが好ましい。前記再熱処理工程の熱処理の温度は100〜200℃の範囲内であることが好ましい。前記再熱処理工程の加熱過程後の冷却過程は徐冷過程であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るアルミニウム電線の製造方法によれば、細径電線においても高強度で高導電率を有しながら、伸びにも優れ、製造性も満足するアルミニウム電線が得られる。熱処理型のアルミニウム合金材は金属化合物の析出強化によって優れた強度を発揮できるため、添加元素による導電性の低下を抑えつつ強度向上を図ることができる。つまり、強度と導電性を両立できる。そして、軟化処理を行うため、優れた伸びも確保できる。この軟化処理は10秒以内の短時間で行うため、軟化処理において粗大な金属化合物の析出が抑えられ、強度低下が抑えられる。つまり、伸線加工による歪みを除去しつつ強度低下を抑える。そして、伸線加工は溶体化処理を行った後に行うため、素線同士の融着は発生しにくく、製造性も満足する。この伸線加工が溶体化処理の後であるため、溶体化処理とは別の、加工歪みを除去するための熱処理として軟化処理を伸線加工後に行う。
【0011】
この際、時効処理の温度が0〜200℃の範囲内であり、時効処理の時間が1〜100時間の範囲内であると、析出物が微細分散され、強度と導電性のバランスが良好となる。そして、軟化処理の加熱が通電加熱や誘導加熱であると、急加熱・急冷却しやすいため、10秒以内の短時間で軟化処理を行いやすい。軟化処理の加熱が誘導加熱であると、非接触方式であるため、アルミニウム合金材の傷付きを防止できる。
【0012】
そして、時効処理を行う前に、軟化処理を行ったアルミニウム合金材に、10秒以内の短時間で軟化温度より低い温度に熱処理を行う再熱処理工程をさらに有すると、時効処理前に析出物を微細に析出させることができる。時効処理前に析出物を微細に析出させることで、材料全体に微細な析出物を均一に分散させることができる。時効処理工程では、その微細な析出物が核となって析出物が成長するため、材料全体に均一に分散した析出物が生成される。これにより、伸びがさらに向上する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0014】
本発明に係るアルミニウム電線の製造方法は、熱処理型のアルミニウム合金材を用いて行われ、溶体化工程と、伸線工程と、軟化工程と、時効工程と、を有する。
【0015】
熱処理型のアルミニウム合金は、熱処理によって析出させる析出物により強度を高めるものであり、Al−Cu−Mg系合金、Al−Mg系合金、Al−Zn−Mg系合金など、JIS規格の2000系合金、6000系合金、7000系合金などが挙げられる。
【0016】
アルミニウム合金材は、所定の組成の合金溶湯を鋳造・圧延することにより得られる。鋳造後の熱処理型のアルミニウム合金の結晶組織には、粗大な金属化合物が析出しており、粗大粒を起点とする破断が起こりやすく、強度が低い。
【0017】
溶体化工程は、鋳造・圧延により得られた熱処理型のアルミニウム合金材に溶体化処理を行う。溶体化処理は、熱処理型のアルミニウム合金材を固溶限温度以上の温度に加熱し、合金成分(固溶元素、析出強化元素)を十分に固溶させた後、冷却して過飽和固溶状態にする。溶体化処理は、合金成分を十分に固溶できる温度で行う。溶体化処理の温度は、450℃以上にするとよい。溶体化処理の温度は、600℃以下が好ましく、550℃以下がより好ましい。保持時間は、合金成分を十分に固溶できるように、30分以上であることが好ましい。また、生産性の観点から、5時間以内であることが好ましい。より好ましくは3時間以内である。
【0018】
溶体化処理の加熱過程後の冷却過程は急冷過程であることが好ましい。急冷とすることで、固溶元素の過度な析出を防止することができる。冷却速度は、溶体化処理の温度から100℃以下にするまでの時間が10秒以内であることが好ましい。このような急冷は、水などの液体に浸漬する、送風するなどの強制冷却により行うことができる。
【0019】
溶体化処理は、大気雰囲気、非酸化性雰囲気のいずれで行ってもよい。非酸化性雰囲気は、真空雰囲気(減圧雰囲気)、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気、水素含有ガス雰囲気、炭酸ガス含有雰囲気などが挙げられる。非酸化性雰囲気で行うと、アルミニウム合金材の表面に酸化被膜が形成されにくい。
【0020】
溶体化処理は、連続処理およびバッチ処理(非連続処理)のいずれで行ってもよい。連続処理であると、長尺な線材の全長にわたって均一な条件で熱処理を行いやすいため、特性のばらつきを小さくできる。加熱方法は特に限定されるものではなく、通電加熱、誘導加熱、加熱炉を用いた加熱のいずれであってもよい。加熱方法が通電加熱や誘導加熱であると、急加熱・急冷却しやすいため、短時間で溶体化処理を行いやすい。加熱方法が誘導加熱であると、非接触方式であるため、アルミニウム合金材の傷付きを防止できる。
【0021】
伸線工程は、アルミニウム合金材に伸線加工を行って、鋳造・圧延材から電線素線を形成する。電線素線は、電線導体を構成する線材であり、単線あるいは撚線を構成する。伸線加工は、溶体化処理を行ったアルミニウム合金材に行う。したがって、伸線工程は、溶体化工程の後の工程である。得られた伸線材は、所望の本数を撚り合わせることにより、撚線とすることができる。得られた伸線材は、通常、単線のまま、あるいは、撚線とした状態で、ドラムに巻きつけられ、次の処理が行われる。伸線工程が溶体化工程の前にあると、溶体化工程において素線同士が融着するため、製造性が満足しない。
【0022】
軟化工程は、アルミニウム合金材に軟化処理を行う。軟化処理は、伸線加工などの加工により生じた加工歪みの除去のために行われる。したがって、軟化工程は、伸線工程の後の工程である。伸線加工を行ったアルミニウム合金材に軟化処理を行う。軟化処理を行うことにより、熱処理型のアルミニウム合金材の一般的な調質方法では得られない伸びが得られ、その結果、電線特性として屈曲性やワイヤーハーネスへの加工性(柔軟性の向上)、衝撃荷重への耐性が得られる。
【0023】
軟化処理は、軟化に必要な温度以上の温度で行う。したがって、軟化処理の温度は、250℃以上であることが好ましい。より好ましくは300℃以上である。軟化処理の温度が250℃未満では、アルミニウム合金材が十分に軟化されにくい。一方、生産性の観点から、軟化処理の温度は600℃以下であることが好ましい。より好ましくは550℃以下である。
【0024】
軟化処理は、10秒以内の短時間で行う。軟化処理の温度は、時効析出が起こる温度であり、粗大な析出物が生じる温度であるため、溶体化処理された熱処理型のアルミニウム合金材において軟化処理の時間が長くなると、時効析出により強度が低下する。このため、粗大な析出物が生じない(時効析出が起こらない)ように、極短時間で軟化処理を行う必要があるからである。また、この観点から、軟化処理は、5秒以内の短時間であることがより好ましい。
【0025】
軟化処理は、バッチ加熱方式により行うと、加熱時間が長くなるため、短時間で行うことが難しい。そうすると、軟化と同時に時効析出が進行する。したがって、軟化処理は、連続加熱方式により行うことが好ましい。また、連続加熱方式にすれば、長尺な線材の全長にわたって均一な条件で熱処理を行いやすいため、特性のばらつきを小さくできる。連続加熱方式としては、通電加熱方式、誘導加熱方式、炉加熱方式などが挙げられる。通電加熱方式や誘導加熱方式であると、急加熱・急冷却しやすいため、短時間で溶体化処理を行いやすい。誘導加熱方式であると、非接触方式であるため、アルミニウム合金材の傷付きを防止できる。
【0026】
軟化処理の加熱過程後の冷却過程は急冷過程であることが好ましい。急冷とすることで、固溶元素の過度な析出を防止することができる。冷却速度は、軟化処理の温度から100℃以下にするまでの時間が10秒以内であることが好ましい。このような急冷は、水などの液体に浸漬する、送風するなどの強制冷却により行うことができる。
【0027】
軟化処理は、大気雰囲気、非酸化性雰囲気のいずれで行ってもよい。非酸化性雰囲気は、真空雰囲気(減圧雰囲気)、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気、水素含有ガス雰囲気、炭酸ガス含有雰囲気などが挙げられる。非酸化性雰囲気で行うと、アルミニウム合金材の表面に酸化被膜が形成されにくい。
【0028】
時効工程は、アルミニウム合金材に時効処理を行う。時効処理は、溶体化処理したアルミニウム合金の合金成分(固溶元素、析出強化元素)を加熱することにより化合物として析出させる。時効処理は、軟化処理を行ったアルミニウム合金材に行う。したがって、時効工程は、軟化工程の後の工程である。
【0029】
時効処理は、化合物の析出が可能な温度以上で行われるが、析出強化させる処理であり、軟化しない条件で行われる。したがって、時効処理の温度は、0〜200℃の範囲内であることが好ましい。時効処理の温度が200℃超では、アルミニウム合金材が軟化されやすくなる。
【0030】
時効処理は、低温で長時間行うほうが、析出物が微細分散され、強度が得られやすくなる。高温で行うと、析出物が粗大に不均一に析出し、強度が低下する。したがって、時効処理は、0〜200℃の範囲内で、1〜100時間の範囲内で行うことが好ましい。これにより、析出物が微細分散され、強度と導電性のバランスが良好となる。また、生産性の観点から、100〜200℃の範囲内で、1〜24時間の範囲内で行うことがより好ましい。
【0031】
時効処理は、大気雰囲気、非酸化性雰囲気のいずれで行ってもよい。非酸化性雰囲気で行うと、アルミニウム合金材の表面に酸化被膜が形成されにくい。時効処理は、連続処理およびバッチ処理(非連続処理)のいずれで行ってもよい。連続処理であると、長尺な線材の全長にわたって均一な条件で熱処理を行いやすいため、特性のばらつきを小さくできる。加熱方法は特に限定されるものではなく、通電加熱、誘導加熱、加熱炉を用いた加熱のいずれであってもよい。加熱方法が誘導加熱であると、非接触方式であるため、アルミニウム合金材の傷付きを防止できる。
【0032】
以上に示す本発明に係るアルミニウム電線の製造方法によれば、細径電線においても高強度で高導電率を有しながら、伸びにも優れ、製造性も満足するアルミニウム電線が得られる。熱処理型のアルミニウム合金材は金属化合物の析出強化によって優れた強度を発揮できるため、添加元素による導電性の低下を抑えつつ強度向上を図ることができる。つまり、強度と導電性を両立できる。そして、軟化処理を行うため、優れた伸びも確保できる。この軟化処理は10秒以内の短時間で行うため、軟化処理において粗大な金属化合物の析出が抑えられ、強度低下が抑えられる。つまり、伸線加工による歪みを除去しつつ強度低下を抑える。そして、伸線加工は溶体化処理を行った後に行うため、素線同士の融着は発生しにくく、製造性も満足する。この伸線加工が溶体化処理の後であるため、溶体化処理とは別の、加工歪みを除去するための熱処理として軟化処理を伸線加工後に行う。
【0033】
本発明に係るアルミニウム電線の製造方法は、軟化工程の後で、時効工程の前に、再熱処理工程をさらに有していてもよい。再熱処理工程は、10秒以内の短時間で軟化温度より低い温度に熱処理を行う。これにより、時効処理前に析出物を微細に析出させることができる。時効処理前に析出物を微細に析出させることで、材料全体に微細な析出物を均一に分散させることができる。時効処理工程では、その微細な析出物が核となって析出物が成長するため、材料全体に均一に分散した析出物が生成される。これにより、伸びがさらに向上する。
【0034】
再熱処理工程の熱処理の温度は、析出物を微細に析出させることで材料全体に微細な析出物を均一に分散させやすい、軟化工程によりアルミニウム合金材に付着する冷却水を除去しやすいなどの観点から、100℃以上であることが好ましい。より好ましくは120℃以上である。また、アルミニウム合金材の種類にもよるが、軟化温度より低い温度にしやすい、軟化温度との差を大きくしやすいなどの観点から、200℃以下であることが好ましい。より好ましくは180℃以下である。
【0035】
再熱処理工程の熱処理(加熱)は、軟化処理の加熱と同様、通電加熱や誘導加熱であることが好ましい。アルミニウム合金材を急加熱しやすいため、10秒以内の短時間で熱処理(加熱)を行いやすい。また、誘導加熱であれば、非接触方式であるため、アルミニウム合金材の傷付きを防止できる。
【0036】
再熱処理工程は、析出物を微細に析出させることで材料全体に微細な析出物を均一に分散させやすいなどの観点から、軟化工程の後、比較的早く行うことが好ましい。軟化工程の後から再熱処理工程までの時間が長いと、粗大な析出物が析出しやすくなる。再熱処理工程や時効工程の前に粗大な析出物が析出していると、これが核となって析出物が粗大化するため、材料全体において微細な析出物を均一に分散させにくくなる。この観点から、軟化工程の冷却過程後から再熱処理工程の熱処理開始までの時間は、12時間以内であることが好ましい。より好ましくは6時間以内である。
【0037】
再熱処理工程の加熱過程後の冷却過程は、析出制御の観点から、徐冷過程であることが好ましい。徐冷過程は、例えば冷却水などを用いて強制的に急冷する過程ではない冷却過程であり、例えば加熱過程後のアルミニウム合金材を室温で放置するなどして自然冷却することにより徐冷したり、加熱温度から室温までの時間を3時間以上にすることにより徐冷したりすればよい。
【0038】
以上により、引張強度200MPa以上、伸び5%以上で導電性に優れる線材が得られる。こうして得られた線材は、単線あるいは撚線とされ、電線導体を構成する。電線導体の外周に絶縁被覆を形成することにより、アルミニウム電線が得られる。絶縁被覆の材料は、特に限定されるものではなく、オレフィン系樹脂、塩化ビニル樹脂などの材料が用いられる。再熱処理工程を経れば、引張強度、導電性を維持したまま、伸びを10%以上に向上した線材が得られる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0040】
(実施例1)
Mg0.6質量%、Si0.5質量%含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる熱処理型のアルミニウム合金を用い、表1に記載の製造工程によりアルミニウム合金の素線を得た。この素線を用いて、強度、伸び、導電率、製造性を評価した。
【0041】
溶体化(処理):530℃×1時間、急冷(100℃以下まで10秒以内)
伸線(加工):φ9.5mm→φ0.3mm
連続軟化(処理):500℃×1秒、急冷(100℃以下まで10秒以内)
バッチ軟化(処理):350℃×3時間、徐冷(100℃以下まで3時間)
再加熱(処理):100℃×1秒、徐冷(30℃以下まで3時間)
時効(処理):150℃×10時間
【0042】
強度(MPa、引張強さ)および伸び(%、破断伸び)は、JIS Z2241(金属材料引張試験方法、1998)に準拠して、汎用の引張試験機を用いて測定した。導電率(%IACS)は、ブリッジ法により測定した。強度は、200MPa以上を「○」、200MPa未満を「×」とした。伸びは、10%以上を「◎」、5%以上を「○」、5%未満を「×」とした。導電率は、48%IACS以上を「○」、48%IACS未満を「×」とした。製造性は、ドラムへの巻き付け径400mmで1万m以上の長さの素線においても素線同士の融着が確認されなかった場合を「○」、素線同士の融着が確認された場合を「×」とした。
【0043】
【表1】
【0044】
本発明にしたがう実験No.1、11では、得られたアルミニウム電線は、強度、伸び、導電率、製造性のいずれも満足し、細径電線においても高強度で高導電率を有しながら、伸びにも優れ、製造性も満足することがわかる。これに対し、実験No.2では、伸線後の軟化処理がないため、伸びを満足しない。実験No.3では、軟化処理の時間が長すぎるため、軟化処理時の時効析出により粗大な析出物が生じて強度が満足しない。実験No.4では、時効処理がないため、強度および導電性を満足しない。実験No.5では、伸線後に溶体化処理を行っているため、素線同士が融着し、製造性が満足しない。実験No.11では、軟化工程後、時効工程前に再加熱工程を有するため、実験No.1と比較して、強度、導電性を維持したまま、伸びが向上していることがわかる。
【0045】
(実施例2)
Cu4.5質量%、Mg1.5質量%、Mn0.6質量%含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる熱処理型のアルミニウム合金を用い、表2に記載の製造工程によりアルミニウム合金の素線を得た。この素線を用いて、強度、伸び、導電率、製造性を評価した。
【0046】
溶体化(処理):500℃×1時間、急冷(100℃以下まで10秒以内)
伸線(加工):φ9.5mm→φ0.3mm
連続軟化(処理):500℃×1秒、急冷(100℃以下まで10秒以内)
バッチ軟化(処理):350℃×3時間、徐冷(100℃以下まで3時間)
時効(処理):30℃×100時間
【0047】
強度(MPa、引張強さ)および伸び(%、破断伸び)は、JIS Z2241(金属材料引張試験方法、1998)に準拠して、汎用の引張試験機を用いて測定した。導電率(%IACS)は、ブリッジ法により測定した。強度は、450MPa以上を「○」、450MPa未満を「×」とした。伸びは、5%以上を「○」、5%未満を「×」とした。導電率は、20%IACS以上を「○」、20%IACS未満を「×」とした。製造性は、ドラムへの巻き付け径400mmで1万m以上の長さの素線においても素線同士の融着が確認されなかった場合を「○」、素線同士の融着が確認された場合を「×」とした。
【0048】
【表2】
【0049】
表2から、合金種が変わっても、表1と同様の結果が得られている。本発明にしたがう実験No.6では、得られたアルミニウム電線は、強度、伸び、導電率、製造性のいずれも満足し、細径電線においても高強度で高導電率を有しながら、伸びにも優れ、製造性も満足することがわかる。
【0050】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。