(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
金属材料を加熱し圧延し冷却し搬送するアクチュエータ群と、前記アクチュエータ群の制御実績値および前記金属材料の状態実績値を検出するセンサ群とを有する圧延ラインと、前記アクチュエータ群の制御目標値や前記金属材料の状態予測値を算出する設定計算機とを備えた圧延システムに接続される圧延シミュレーション装置であって、
前記設定計算機は、
前記圧延ラインにおける加熱、圧延、冷却、搬送の各プロセスの物理現象を表現したモデル式であって入力変数とモデルパラメータ群とを入力とする関数で表される第1モデル式を有し、
前記第1モデル式を用いて、前記金属材料を実際に圧延する実操業における製品品質や操業条件に関するプロセス条件を達成するように、前記アクチュエータ群の制御目標値と前記金属材料の状態予測値を算出し、
前記制御目標値および前記状態予測値と、前記センサ群が検出した前記制御実績値および前記状態実績値とを比較した比較値に基づいて、前記第1モデル式の前記モデルパラメータ群を随時更新し、
前記圧延シミュレーション装置は、
前記圧延ラインで前記金属材料とは別の仮想的に設定した仮想金属材料を仮想的に加熱し圧延し冷却し搬送する仮想操業における製品品質や操業条件に関するシミュレーション条件を設定するシミュレーション条件設定部と、
前記第1モデル式と同様の第2モデル式を有し、前記第2モデル式を用いて、前記シミュレーション条件を達成するように、前記アクチュエータ群の制御目標値と前記仮想金属材料の状態予測値を算出する仮想圧延ライン設定計算部と、
前記第1モデル式の前記モデルパラメータ群が更新された場合に、前記第1モデル式の前記モデルパラメータ群に基づいて、前記第2モデル式の前記モデルパラメータ群を更新するパラメータ更新部と、を備え、
前記パラメータ更新部は、
前記モデルパラメータ群を取得するに際し実操業の前記設定計算機に与える負荷が前記設定計算機の設定計算に影響しないタイミングであることを確認する更新タイミング指定部と、
前記タイミングにおいて、前記第1モデル式の前記モデルパラメータ群を、前記第2モデル式の前記モデルパラメータ群にコピーするパラメータコピー部と、
を備えることを特徴とする圧延シミュレーション装置。
【背景技術】
【0002】
鋼を始めとする金属材料において、機械的特性(強度、成形性、靭性等)、電磁的特性(透磁率等)などの材質は、その合金組成、加熱条件、加工条件、および、冷却条件によって変化する。合金組成は、成分元素の添加量を制御することで調整するが、成分調整時には例えば100トン前後の溶鋼を保持できる成分調整炉を用いるなど、1つのロット単位が大きい。そのため、15トン前後になる個々の製品ごとに添加量を変更することは不可能である。したがって、所望の材質の製品を製造するためには、加熱条件、加工条件、および、冷却条件を適正にし、材質を造り込むことが重要である。さらに、これらのプロセス条件は、材質のみならず製品寸法や形状などの製品品質や、安定した操業の実現にも重要である。
【0003】
熱間圧延プロセスにおいては、製品品質や操業条件に関するプロセス条件である様々なプロセスパラメータの目標値を変更することにより、製品を作り分けている。プロセスパラメータには、例えば、仕上入側温度、仕上出側温度、巻取温度などに代表される圧延ライン上の各ポイントにおける目標温度や、各パスの板厚スケジュールや、圧延機に備えられているデスケーラのパス毎の使用要否や、連続圧延機のスタンド間に配置されたインタースタンドクーリングの使用要否および使用初期流量や、仕上圧延機で用いる潤滑油量や、ランアウトテーブルで用いる冷却パターンなどがある。
【0004】
目標の製品品質を達成するように、つまり、上記の各種プロセスパラメータの目標値を達成するように、設定計算機によるプロセス制御がなされる。
【0005】
設定計算機は、加熱、圧延、冷却、搬送などの各プロセスの物理現象を表現したモデル式を用い、上記の各種プロセスパラメータの目標値を達成するように、設定計算を行う。設定計算では、各種アクチュエータの制御目標値の計算と、プロセスの各段階における圧延材(金属材料)の状態の予測計算とを繰り返し行う。
【0006】
設定計算で使用される、圧延荷重、変形抵抗、ロールギャップ、温度、粒径などの物理量を計算するモデル式は、入力変数、機械定数、調整項、学習項を入力とした関数で表される。
【0007】
特許文献1や特許文献2には、設定計算機が、モデル予測値と、圧延ラインに設けられたセンサから得られた温度、形状、板厚、板幅、圧延荷重などの実績値とを比較して、モデル式の学習項を、予め自動的に学習し、モデル式の精度およびそれを用いた制御精度を向上させる方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献3には、圧延材のミクロ組織の変化および最終製品の機械的性質を予測する材質予測モデルについて、一部の製品コイルに対して実施される引張試験や組織観察など機械的性質の測定試験結果で得られる機械的性質の実績値を用いてモデル学習する方法が提案されている。一般に、モデルパラメータ(機械定数、調整項、学習項)は、モデル誤差の生じやすい因子、例えば、鋼種、目標板厚、目標板幅、目標温度などで区分された層別テーブルを用いて、設定計算機に属するデータベース内で管理される。
【0009】
尚、出願人は、本発明に関連するものとして、上記の文献を含めて、以下に記載する文献を認識している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来、圧延操業のプロセスパラメータは、製品仕様毎に長年に亘る経験に基づいて決められ、これを達成するように、温度制御および寸法制御を行う方法が一般的であった。ところが、近年、製品仕様への要求の高度化、多様化が著しく、経験に基づく方法ではこれら目標値を必ずしも適正に決めることができず、所望の寸法や機械的性質といった目標の最終品質を達成できない場合がある。また、プロセスパラメータの目標値を、既存の設備で達成できるかの判断が難しい場合がある。
【0013】
このため、ある合金組成およびプロセスパラメータの下で製造された製品が所望の製品品質を得るかを事前検討するために、加熱、加工、および、冷却の各製造工程をモデル化したプロセスモデルを用いて、製造工程をオフラインでシミュレーションする装置が提案されている(例えば特許文献4)。シミュレーション装置は、時々刻々の金属材料の寸法、温度、製造ライン上の位置などの状態を予測し、金属材料の合金組成の情報および製造工程のシミュレーションから得られた加工履歴および温度履歴の情報を入力値とし、ミクロ組織予測モデルによって時々刻々の圧延材のミクロ組織の変化および最終製品の機械的性質を予測する。また、シミュレーション装置は、所望の品質を得るような合金組成およびプロセスパラメータの目標値を見出すためにも用いられる。
【0014】
シミュレーションでは、実操業の設定計算で用いられるモデルと同じモデル、簡易化したモデル、あるいは、一部をより物理現象に忠実にモデル化した高精度なモデルなどが使われる。シミュレーションには、実操業に用いられる設定計算機や、上記プロセスパラメータやモデルパラメータが管理されるデータベースは用いられず、シミュレーション専用の計算機およびデータベースが別途用意される。実際の圧延操業を模擬する用途でシミュレーションし、実操業の設定計算で用いられるモデル式と同じ関数を用いる場合であっても同様である。これは、シミュレーションのための、計算やデータベースへの読み書きによる負荷が、実操業に影響を及ぼすことがあってはならないからである。
【0015】
実操業では、1本の圧延材に対して、加熱炉在炉中は設定計算の試計算、加熱炉抽出時は設定計算、抽出後は圧延中に随時収集された実績値に基づき、数回から数十回の設定計算が繰り返し実行される。使用されるパラメータ、収集される実績値、設定計算の出力は、膨大でかつデータのやり取りが頻繁なため、データベースへの読み書きの負荷が大きい。さらに、当該圧延材前後の数本の圧延材に対しても、同様の設定計算やデータベースへの読み書きが行われる。計算負荷の急激な増加や、データベースに対する高頻度の読み書きによって、実操業の設定計算に問題が生じると、圧延操業を停止せざるを得ず、大きな損失になる。実操業の設定計算では、その設備の圧延ピッチや収集データ点数などに基づき、計算タイミングやデータベースへのアクセス方法やタイミングが綿密に設計されている。
【0016】
ところで、シミュレーションの場合、模擬されたプロセスをオフラインで計算するため、実際の圧延操業のプロセス制御と異なり、プロセスの各所に設置したセンサで得られる荷重や温度、寸法の実績値や製品コイルの機械的性質の実績値を得られない。よって、シミュレーションと同条件で実際の圧延を行った場合に、プロセスパラメータの目標値、ひいては、目標の製品品質が達成されるかは、シミュレーションからは完全には確認できない。また、実績値に基づいた圧延中のフィードフォワード、フィードバック、ダイナミックなどの各種制御は実施されないため、モデル予測誤差が生じた場合は、それが蓄積され、プロセスの後段ほど、プロセスパラメータの目標値と実績値との差が大きくなり、製品品質が正しく予測されない。よって、シミュレーションで使用されるプロセスのモデル式の精度(特に、モデルパラメータの精度)そのものが、シミュレーションの精度、つまり、実際の圧延操業をどの程度模擬できるかに、顕著に関わる。
【0017】
しかしながら、製造ラインおよび金属材料はシミュレータ上のモデルで模擬されたものであり、また、実操業の設定計算とは、計算機やそれに属するデータベースを共有していないため、モデル式内の調整項や学習項、各アクチュエータの機械特性を表す機械定数が更新されない。特許文献4では、設備更新がされた場合でも実機圧延ラインを模擬できるように、設備に係るモデルパラメータを容易に修正できる工夫がされている。しかし、モデルの学習項、調整項は、パラメータの種類が膨大で、なおかつ、圧延毎や調整毎のように頻繁に更新されるため、変更のたびにパラメータを適宜修正することは難しい。その場合、実操業の制御や予測に用いる計算機に内在するモデルとは異なり、実圧延プロセスを精度よく模擬できないため、シミュレーションで用いた合金組成やプロセスパラメータを実操業に適用しても、期待した製品品質が得られない問題があった。
【0018】
この発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、実操業の設定計算機とは異なる計算機上で、実操業の圧延ラインを用いた仮想金属材料の圧延過程を精度高くシミュレーションできる圧延シミュレーション装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、金属材料を加熱し圧延し冷却し搬送するアクチュエータ群および前記アクチュエータ群の制御実績値および前記金属材料の状態実績値を検出するセンサ群を有する圧延ラインと、前記アクチュエータ群の制御目標値や前記金属材料の状態予測値を算出する設定計算機とを備えた圧延システムに接続される圧延シミュレーション装置であって、
前記設定計算機は、
前記圧延ラインにおける加熱、圧延、冷却、搬送の各プロセスの物理現象を表現したモデル式であって入力変数とモデルパラメータ群とを入力とする関数で表される第1モデル式を有し、
前記第1モデル式を用いて、
前記金属材料を実際に圧延する実操業における製品品質や操業条件に関するプロセス条件を達成するように、前記アクチュエータ群の制御目標値と前記金属材料の状態予測値を算出し、
前記制御目標値および前記状態予測値と、前記センサ群が検出した前記制御実績値および前記状態実績値とを比較した比較値に基づいて、前記第1モデル式の前記モデルパラメータ群を随時更新し、
前記圧延シミュレーション装置は、
前記圧延ラインで
前記金属材料とは別の仮想的に設定した仮想金属材料を
仮想的に加熱し圧延し冷却し搬送する仮想操業における製品品質や操業条件に関するシミュレーション条件を設定するシミュレーション条件設定部と、
前記第1モデル式と同様の第2モデル式を有し、前記第2モデル式を用いて、前記シミュレーション条件を達成するように、前記アクチュエータ群の制御目標値と前記仮想金属材料の状態予測値を算出する仮想圧延ライン設定計算部と、
前記第1モデル式の前記モデルパラメータ群が更新された場合に、前記第1モデル式の前記モデルパラメータ群に基づいて、前記第2モデル式の前記モデルパラメータ群を更新するパラメータ更新部と、
を備え、
前記パラメータ更新部は、
前記モデルパラメータ群を取得するに際し実操業の前記設定計算機に与える負荷が前記設定計算機の設定計算に影響しないタイミングであることを確認する更新タイミング指定部と、
前記タイミングにおいて、前記第1モデル式の前記モデルパラメータ群を、前記第2モデル式の前記モデルパラメータ群にコピーするパラメータコピー部と、を備えることを特徴とする。
【0021】
また、第3の発明は、第1の発明において、
前記パラメータ更新部は、
前記第2モデル式の前記モデルパラメータ群のうち、前記仮想圧延ライン設定計算部における前記シミュレーション条件を用いたモデル計算に必要な一部のモデルパラメータ群を選択する更新パラメータ選択部と、
前記更新パラメータ選択部により選択された前記一部のモデルパラメータ群についてのみ、前記第1モデル式の前記モデルパラメータ群からコピーするパラメータコピー部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
第1の発明によれば、第1モデル式のモデルパラメータ群が更新された場合に、第1モデル式のモデルパラメータ群に基づいて、第2モデル式のモデルパラメータ群を更新する。これにより、圧延シミュレーション装置のモデルパラメータを、実操業の設定計算機における最新のデータに更新できる。このため、第1の発明によれば、実操業の設定計算機とは異なる計算機上で、実操業の圧延ラインを用いた仮想金属材料の圧延過程を精度の高くシミュレーションできる。
【0023】
第2又は第3の発明によれば、実操業の設定計算機における計算に与える負荷増大を抑制しつつ、圧延シミュレーション装置のモデルパラメータを、実操業の設定計算機における最新のデータに更新できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0026】
実施の形態1.
[実施の形態1のシステム構成]
(圧延ライン)
図1は、本発明の実施の形態1における熱間薄板圧延ラインの一例を示す図である。以後の説明の対象は、
図1に示した熱間薄板圧延ラインを模擬したシミュレータとする。なお、本シミュレータは、他の圧延ラインにも適用可能である。
【0027】
圧延ラインは、加熱装置、圧延機、冷却装置、巻取装置、これらを結ぶ搬送テーブルを備える。これらの装置は、電動機や油圧装置などのアクチュエータにより駆動される。具体的には、
図1に示す圧延ライン1は、搬送テーブル10の上流側から順に、加熱炉11、粗圧延機12、バーヒータ13、仕上圧延機入側温度計14、仕上圧延機15、仕上圧延機出側温度計16、ランアウトテーブル17、巻き取り機入側温度計18、巻き取り機19を備える。
【0028】
加熱炉11は、スラブを加熱するための炉である。加熱炉11は、所望のスラブ昇温パターン、加熱炉抽出温度を得るように制御される。粗圧延機12は、単数または複数のスタンドからなり、
図1に示す例では、1つのスタンドからなる可逆式粗圧延機である。バーヒータ13は、圧延製品(スラブから製品として完成するまでの途中の状態も含む、以下同様)の温度を制御するために、電磁誘導加熱等により、圧延製品を昇温する装置である。仕上圧延機15は、単数または複数のスタンドからなり、
図1に示す例では、7つのスタンドからなるタンデム式仕上圧延機である。ランアウトテーブル17は、圧延製品の温度を制御するために、冷却水により圧延製品を冷却する冷却装置である。なお、圧延ライン1は、冷却装置として冷却テーブル、強制冷却装置などを備えてもよい。巻き取り機19は、圧延製品を巻き取り、搬送容易な形状にするための装置である。搬送テーブル10は、各工程における圧延製品を次の工程に搬送するための装置である。これらの装置は電動機や油圧装置などのアクチュエータにより駆動される。
【0029】
図2は、本発明の実施の形態1における圧延システムを示すブロック図である。
図2に示す圧延システム20は、レベル0からレベル3までの階層構造を有する。レベル0は、圧延ライン1の各装置を駆動する電動機を制御するドライブ制御装置や、圧延ライン1の各装置を駆動する油圧装置から構成される。レベル1は、制御用コントローラ21から構成される。レベル2は、設定計算機23から構成される。なお、設定計算機23に代えてプロセスコントローラを用いる構成としてもよい。レベル3は、生産管理用の上位計算機25から構成される。圧延シミュレーション装置24は、実操業の圧延には影響しないが、パラメータ更新のために、設定計算機23と接続される。
【0030】
(設定計算機)
実操業の熱間圧延プロセスにおいては、製品品質や操業条件に関するプロセス条件、すなわち、上述した各種プロセスパラメータの目標値を変更することにより製品を作り分けている。目標の製品品質を達成するように、つまり、上記の各種プロセスパラメータの目標値を達成するように、設定計算機23によるプロセス制御がなされる。
【0031】
プロセスパラメータの目標値は、レベル2の設定計算機23の上位にあるレベル3の上位計算機25から指定される場合がある。そのほか、プロセスパラメータの目標値は、設定計算機23に属するデータベースにテーブルを持ち、鋼種、板厚、板幅などをキーとして指定される場合がある。また、プロセスパラメータの目標値は、オペレータによって圧延中に変更される場合がある。
【0032】
設定計算機23は、圧延ライン1における加熱、圧延、冷却、搬送などの各プロセスの物理現象を表現したモデル式(以下、設定計算機23が有するモデル式を「第1モデル式」とも記す。)を有する。設定計算機23は、第1モデル式を用いて、実操業において上記の各種プロセスパラメータの目標値(プロセス条件)を達成するように、設定計算を行う。設定計算では、各種アクチュエータの制御目標値の算出と、プロセスの各段階における圧延材の状態(金属材料の状態予測値)の算出とを、繰り返し行う。
【0033】
アクチュエータの制御目標値とは、圧延機のロールギャップや、圧延速度、搬送速度、デスケーラや各種スプレーの流量、ランアウトテーブルのバルブのON/OFFなどである。プロセスの各段階における圧延材の状態(金属材料の状態予測値)とは、寸法や形状、温度、ミクロ組織などである。
【0034】
制御用コントローラ21は、設定計算機23から設定計算結果を受け取り、制御目標値に追従するように、各種アクチュエータを制御する。実操業の熱間圧延プロセスでは、圧延ラインの随所に各種センサが設置され、温度、形状、板厚、板幅、圧延荷重など、プロセス制御に影響を及ぼすパラメータの実績値を監視、収集する。
【0035】
これらの実績値は、プロセス制御やモデル式(第1モデル式)の精度向上、品質管理に用いられる。プロセスパラメータの目標値と、各種センサで取得した実績値や、実績値と計算値から再計算された実績計算値とを比較し、プロセスパラメータの目標値が達成されていない場合、再度設定計算する。その結果に基づいて、フィードフォワード制御や、フィードバック制御や、ダイナミック制御などの各種制御がなされる。
【0036】
設定計算で使用される、圧延荷重、変形抵抗、ロールギャップ、温度、粒径などの物理量を計算するモデル式(第1モデル式)は、入力変数、モデルパラメータ群(機械定数、調整項、学習項)を入力とした関数で表される。入力変数は、モデル出力に相関のある物理量である。たとえば、モデル出力が圧延荷重の場合、変形抵抗、圧延材の幅、圧下量などが入力変数にあたる。機械定数は、圧延ロールのロール径、ミルカーブ、スプレー流量など、アクチュエータの機械特性を表す物理量である。機械定数は、ロール替えや設備の修繕や調整、経年変化によって変化するため、随時更新される。調整項や学習項は、モデル式の予測精度を高めるための項である。
【0037】
プロセスのモデル式が、どんなによく物理現象を模擬する場合でも、現実には、モデル予測誤差が生じる。よって、エンジニアがモデル式内の各項にかかる係数や定数を微調整し、モデル式の予測精度を高めている。調整項は、モデル式内の各項の係数や定数であり、モデル誤差の生じやすい因子、例えば、鋼種、目標板厚、目標板幅、目標温度などで区分された層別テーブルを用いて、層別毎に設定計算機23に属するデータベース内で管理される。調整項は、操業立ち上げ時の他は、主に、新しい鋼種の圧延時や、新しいプロセスパラメータの組み合わせで圧延される場合に調整される。調整項は、エンジニアが経験や数値解析結果に基づいて調整される場合や、近年では、ニューラルネットなどの統計的手法を用いて半自動調整される場合がある。学習項は、モデル出力と、実際のプロセスの出力との誤差を埋めるために、モデル式に対して乗算および加算される項である。
【0038】
(圧延シミュレーション装置)
図3は、本発明の実施の形態1における圧延シミュレーション装置24の機能を示すブロック図である。圧延シミュレーション装置24は、
図1に示した熱間薄板圧延ラインにおける各プロセスを模擬し、金属材料の寸法や合金組成、加熱、圧延、冷却の目標値およびプロセスを変更した場合の、操業安定性、プロセス途中の圧延材の状態、製品品質を予測する。圧延シミュレーション装置24は、シミュレーション条件設定部31と、仮想圧延ライン設定計算部32と、パラメータ更新部33とを備える。また、圧延シミュレーション装置24は、演算処理装置、記憶装置、入出力装置を備える計算機である。記憶装置は、上記各部の処理内容を記述したプログラムを記憶している。上記各部は、記憶装置からロードされたプログラムが演算処理装置に実行されることで実現される。
【0039】
((シミュレーション条件設定部))
シミュレーション条件設定部31は、圧延ライン1で仮想金属材料を加熱し圧延し冷却し搬送する仮想操業における製品品質や操業条件に関するシミュレーション条件を設定する。以下、詳細に説明する。
【0040】
シミュレーション条件設定部31は、圧延操業プロセスのパラメータをシミュレーション条件として圧延シミュレーション装置24に設定する。ここで、圧延操業プロセスのパラメータは、例えば、実操業では上位計算機25から与えられる圧延材の合金組成と寸法、目標板厚、目標板幅、加熱炉内でのスラブ昇温パターン、加熱炉出側温度、仕上出側目標温度、仕上入側目標温度、冷却パターン、巻取目標温度などである。また、圧延操業プロセスのパラメータは、例えば、実操業では設定計算機23に予め鋼種毎や目標板厚区分毎に設定された、もしくは、オペレータによってHMIから与えられる、各パスの圧下量や圧下率配分、通板速度や加速率などである。
【0041】
各シミュレーション条件は、実操業の上位計算機25や設定計算機23などに保存されている実操業で圧延した、もしくは、圧延予定の金属材料の操業条件を、通信LANや記憶媒体などを介してコピーして使うことができる。そのほか、手入力で全てもしくは一部の条件を設定することが可能である。また、過去に圧延シミュレーション装置で使用したシミュレーション条件の再利用や、一部を変更しての利用が可能である。
【0042】
図4は、仮想金属製品(仮想金属材料)の化学成分を入力するための入力画面である。実際の操業では、1つのロット単位が大きく、15トン前後になるため、製品ごとに合金成分の添加量を変更することは不可能である。そこで、シミュレーション条件設定部31では、合金組成を変更した場合の製品品質の変化を容易に計算できるように、仮想金属製品ひとつひとつに、例えば
図4のように各化学成分の含有量(wt%)を入力して設定する。実操業で圧延された金属製品の合金組成や過去のシミュレーションで使用した合金組成を参考値として呼び出し、その一部を変更してシミュレーションすることも可能である。
【0043】
図5は、加熱炉11内でのスラブ昇温パターンの一例を示す図である。加熱炉11内でのスラブ昇温パターンや加熱炉抽出温度も、製品材質および品質に影響を及ぼす。例えばスラブが十分加熱されない場合は、マイクロアロイの固溶量が十分得られず、固溶マイクロアロイによるSolute drag効果が減少することや、抽出後、圧延中および冷却中の析出量が減少し、析出物によるpinning効果が減少することが懸念される。さらに、低温の圧延材を圧延することは、硬い材料を圧延することになるので、圧延機での圧延荷重増加による圧延操業の不安定化や、圧延用電動機の消費電力増加が懸念される。シミュレーション条件設定部31は、
図5のように加熱炉11内でのスラブ昇温パターンを設定する。温度パターンが品質に影響を及ぼさない場合や簡易な計算をしたい場合には、加熱炉抽出温度の目標値のみが設定される。
【0044】
実操業では、圧延中の圧延材の温度を管理するために、仕上出側目標温度、仕上入側目標温度、巻取目標温度などのプロセスパラメータの目標値が、上位計算機25もしくはHMIを介してオペレータから与えられ、その目標値を追従するように、圧延速度、圧延ライン途中の加熱装置の昇温パターン、各種スプレー、ランアウトテーブル17での冷却パターンが制御される。冷却パターンについては、上位計算機25から指定される場合もある。シミュレーション条件設定部31では、圧延中の温度履歴を変化させた場合の、製品品質や圧延操業への影響をシミュレーションによって確認できるように、シミュレーション条件として、仕上出側目標温度、仕上入側目標温度、巻取目標温度、ランアウトテーブル17での冷却パターンを設定する。
図6と
図7は、ランアウトテーブル17での冷却パターンの設定例を説明するための図である。ランアウトテーブル17での冷却パターンには、
図6に示す上流側冷却設備を優先使用する前段冷却、下流側冷却設備を優先使用する後段冷却、すべての冷却設備を使用する緩冷却、の3パターンのいずれかを選択し、さらに水冷却するゾーンの冷却速度や、空冷却する時間を目標値として設定する方法がある。また、ランアウトテーブル17での冷却パターンには、
図7に示す冷却設備の上流側および下流側で水冷冷却し、中流では空冷却するパターンを選択し、例えば上流側の水冷却速度と、空冷時間と、ランアウトテーブル中間点での温度を目標値として設定する方法がある。
【0045】
実操業で用いる設定計算機23では、安定した圧延や通板のために、各パスの圧下量や圧下率配分、通板速度や加速率などのプロセスパラメータの目標値を、予め鋼種毎や目標板厚区分毎にデータベースに記憶させておく。もしくは、オペレータがプロセスパラメータの目標値を入力する。一方、仮想操業で用いる圧延シミュレーション装置24では、シミュレーション条件設定部31は、各パスの圧下量や圧下率配分、通板速度や加速率などを変化させた場合の、製品品質や圧延操業への影響を簡単に計算できるように、シミュレーション条件を設定する。
【0046】
((仮想圧延ライン設定計算部))
仮想圧延ライン設定計算部32は、第1モデル式と同様のモデル式(第2モデル式と称する。)を有し、第2モデル式を用いて、シミュレーション条件を達成するように、アクチュエータ群の制御目標値や仮想金属材料の状態予測値とを算出する。以下、詳細に説明する。
【0047】
仮想圧延ライン設定計算部32は、シミュレーション条件設定部31で与えられる各目標値に追従するように、仮想圧延ラインで仮想金属材料を圧延するための各プロセスの設定値、および、時々刻々の金属材料の寸法、位置、温度を計算する。
【0048】
図8は、仮想圧延ライン設定計算部32が有するモデル群とモデルパラメータテーブル群とを示す図である。仮想圧延ライン設定計算部32は、モデル群としてプロセスモデル、搬送モデル、温度モデル、材質モデルを有する。プロセスモデルは、加熱装置、圧延装置、冷却装置などの各圧延プロセスの設定値を計算する。搬送モデルは、各時刻における仮想金属材料の位置を計算する。温度モデルは、各場所の各時刻における仮想金属材料の温度を計算する。材質モデルは、合金組成、加工履歴、温度に基づき、仮想圧延ライン上の各場所の各時刻における金属材料のミクロ組織および最終製品材質を予測する。また、仮想圧延ライン設定計算部32は、上記の各モデルのパラメータを保存するモデルパラメータテーブル群を記憶するデータベース等の記憶装置を有し、各モデル式を連成計算する。
【0049】
プロセスモデルは、搬送モデルが与える各場所の各時刻における仮想金属材料の位置、および温度モデルが与える各場所の各時刻における仮想金属材料の温度の情報を用い、シミュレーション条件設定部31が与える目標値を追従するような、加熱炉11の設定温度パターン、圧延のパススケジュール、ロールギャップ、時々刻々の仮想金属材料の加工履歴、寸法および形状、圧延速度、各種スプレーのON/Off設定および流量設定、ランアウトテーブル17の冷却設定を計算する。
【0050】
搬送モデルは、各プロセス間の距離やプロセスモデルが与えるパススケジュールを用いて、各場所の各時刻における仮想金属材料の位置を計算する。また、搬送モデルは、温度モデルが与える仮想金属材料の温度情報を用いて、各目標温度を追従するような搬送速度を計算する。
【0051】
温度モデルは、各プロセスにおける仮想金属材料の寸法情報、機械諸元の情報と、シミュレーション条件設定部31やプロセスモデルから与えられるパススケジュール、ロールギャップ、圧延速度、搬送速度、圧延ライン途中の加熱装置への昇温パターンなどの指令値の情報などから、仮想圧延ライン上の各場所の各時刻における仮想金属材料の温度を計算する。
【0052】
材質モデルは、プロセスモデルが与える仮想金属の加工履歴および温度モデルが与える温度履歴の情報を用いて、圧延プロセス中および巻き取り後の仮想金属材料のミクロ組織を予測する。予測されるミクロ組織は、例えば、粒径、転位密度、オーステナイト、フェライト、パーライトなどの各組織の分率である。さらに、ミクロ組織予測結果を基に降伏応力や引張強さなどの機械的性質に関わるパラメータを計算する。冶金現象を数式化したミクロ組織予測モデルには、様々なものが提案されており、静的回復、静的再結晶、動的回復、動的再結晶、粒成長などを表す数式群からなるものが広く知られている。一例が、塑性加工技術シリーズ7板圧延(コロナ社)198〜229頁に掲載されている。金属組織情報および合金組成から、降伏応力や引張強さなどの機械的性質に代表される材質を予測できることが広く知られている。一例が、第173、174回西山記念技術講座「熱延鋼材の組織変化および材質の予測」((社)日本鉄鋼協会刊)の125頁に掲載されている。
【0053】
上記のプロセスモデル、搬送モデル、温度モデル、材質モデルは、熱間圧延の実操業に用いられる設定計算機23に内在するモデル式(第1モデル式)と同じ関数で表される。例えば、近年では、仮想計算機環境(Virtual Machine)によって、計算機のアーキテクチャを全てコピーし、異なる計算機上に仮想的に実現する方法が広く使われている。これによれば、実操業に用いられる設定計算機23のモデル式(第1モデル式)、およびそのモデルパラメータを管理するデータベース構造を、圧延シミュレーション装置24に移植することができる。そのため、圧延シミュレーション装置24は、第1モデル式と同様のモデル式(第2モデル式)を有する。モデル式は、入力変数、機械定数、調整項を入力とした関数で、以下の式で表される。
【0055】
ここで、
f:学習項を含まないモデル式
Y:学習項を含まないモデル式の出力
X
i:モデル式fに関わる入力変数
m
i:機械定数
a
j:調整項
【0056】
入力変数は、モデル出力に相関のある物理量である。たとえば、モデル出力が圧延荷重の場合、変形抵抗、圧延材の幅、圧下量などが入力変数にあたる。機械定数は、圧延ロールのロール径、ミルカーブ、スプレー流量など、機械特性を表す物理量である。機械定数は、ロール替え、定期修理、設備更新、経年変化などによって変化する。実操業では、機械定数は、実操業に用いられる設定計算機23に属するデータベースのテーブルで管理され、上記の変化に伴い、随時修正される。調整項は、モデル式の予測精度を高めるための項である。調整項は、モデル誤差縮小のために設けられ、補正が許されている係数や定数である。調整項は、モデル誤差の生じやすい因子、例えば、鋼種、目標板厚、目標板幅、目標温度などで区分された層別テーブルを用いて層別毎に実操業に用いられる設定計算機23に属するデータベース内に管理される。調整項は、実操業においては、操業立ち上げ時の他は、主に、新しい鋼種の圧延時や、新しいプロセスパラメータの組み合わせで圧延される場合に調整される。エンジニアが経験や実操業の数値解析結果に基づいて調整する場合や、近年では、ニューラルネットなどの統計的手法も用いて、半自動調整される場合がある。
【0057】
実操業の熱間圧延プロセスでは、圧延ライン1の随所に各種センサを設置し、温度、形状、板厚、板幅、圧延荷重などプロセス制御に影響を及ぼすパラメータの実績値を監視、収集する。これらの実績値は、プロセス制御やモデル式(第1モデル式)の精度向上、品質管理に用いられる。設定計算のモデル予測値と、各種センサで取得した実績値や、実績値と計算値から再計算された実績計算値とを比較して、モデル式を学習させ、モデル式の精度とモデル式を用いた制御精度を向上させる方法が用いられている。学習項は、モデルの出力と、実際のプロセスの出力との誤差を埋めるために、モデル式に対して乗算または加算される。乗算型と加算型は、それぞれ、以下のように表される。
【0058】
乗算型:
Y
L=Z
p・Y (2)
加算型:
Y
L=Y+Z
A (3)
【0059】
ここで、
Y
L:学習されたモデル式の予測結果
Y:学習項を含まないモデル式の出力
Z
p:乗算型学習項
Z
A:加算型学習項
【0060】
学習項は、モデル式の出力にあたるパラメータの実績値を、センサ等で得て更新される。例えば、乗算型では、以下のように学習項が更新される。
【0062】
ここで、
Z
PACT:実績値に基づいて計算した乗算型学習項
Y
ACT:モデル式出力に準ずるパラメータの実績値
Y:学習項を含まないモデル式出力
Z
PNEW:更新後の乗算型学習項
Z
POLD:更新前の乗算型学習項
α:平滑化ゲイン
【0063】
学習項は、モデル誤差の生じやすい因子、例えば、鋼種、目標板厚、目標板幅、目標温度などで区分された層別テーブルを用いて層別毎に、自動的に更新される。圧延材のミクロ組織の変化および最終製品の機械的性質を予測するミクロ組織の材質予測モデルについては、一部の製品コイルに対して実施される引張試験や組織観察など機械的性質の測定試験結果で得られる機械的性質の実績値を用いてモデルを学習する。実操業の設定計算に用いられるモデル式(第1モデル式)のモデルパラメータ、つまり、機械定数、調整項、学習項は、実操業の設定計算機23に属するデータベースで管理される。
【0064】
図8の圧延シミュレーション装置24の仮想圧延ライン設定計算部32が内在するプロセスモデル、搬送モデル、温度モデル、材質モデルのモデル式(第2モデル式)には、熱間圧延の実操業に用いられる設定計算機23に内在するモデル式(第1モデル式)と同じ定義の関数が使用される。また、機械定数、調整項、学習項の各パラメータが層別に格納されるモデルパラメータテーブル群は、仮想圧延ライン設定計算部32に属するデータベースで管理される。仮想圧延ライン設定計算部32に属するデータベースのテーブルは、実操業に用いられる設定計算機23に属するデータベース内の、機械定数、調整項、学習項を格納するテーブルと同じ構造を有する。
【0065】
((パラメータ更新部))
図9は、パラメータ更新部33が実行する処理について説明するための図である。パラメータ更新部33は、第1モデル式のモデルパラメータ群が更新された場合に、第1モデル式のモデルパラメータ群に基づいて、第2モデル式のモデルパラメータ群を更新する。以下、詳細に説明する。
【0066】
パラメータ更新部33では、
図9に示すように、仮想圧延ライン設定計算部32のモデル式のモデルパラメータ、すなわち、機械定数、調整項、学習項を、実操業の設定計算機23に属するデータベースのパラメータテーブル群に格納されているパラメータに基づき更新する。シミュレーションでは、実際の圧延操業のプロセス制御と異なり、プロセスの各所に設置したセンサで得られる荷重や温度、寸法の実績値や製品コイルの機械的性質の実績値を得られない。シミュレーションによる計算やデータベースへの読み書きによる負荷が、実操業の設定計算に影響を及ぼさないようにする必要がある。そのため、シミュレーションでは、実操業に用いられる設定計算機23やそのデータベースは用いられず、シミュレーション専用の計算機およびデータベースが用いられる。そのため、第2モデル式内の機械定数、調整項、学習項は、実操業に用いられる設定計算機23の第1モデル式と同じタイミングでは、更新されない。パラメータ更新部33は、実操業の設定計算に影響を及ぼさず、かつ、実操業の設定計算と同等のモデル精度が確保されるように、シミュレーションの仮想圧延ライン設定計算部32の第2モデル式のモデルパラメータ、すなわち、機械定数、調整項、学習項を更新する。
【0067】
図10は、パラメータ更新部33の構成を示すブロック図である。パラメータ更新部33は、
図10に示すように、更新タイミング指定部41、更新パラメータ選択部42、パラメータコピー部43を備える。更新タイミング指定部41は、シミュレータのパラメータを更新するタイミングを自動的に指定する。例えば、実操業において設定計算機23で計算が実行されないタイミングを指定する。更新パラメータ選択部42は、更新するパラメータを選択する。例えば、第2モデル式のモデルパラメータ群のうち、仮想圧延ライン設定計算部32におけるシミュレーション条件を用いたモデル計算に必要な一部のモデルパラメータ群を選択する。パラメータコピー部43は、更新タイミング指定部41から得た更新タイミングで、更新パラメータ選択部42で選択された一部のモデルパラメータ群についてのみ、実操業の設定計算機23に属するデータベースに格納されている第1モデル式のモデルパラメータ群からコピーする。
【0068】
ところで、実操業の設定計算では、圧延操業中は、1本の圧延材に対して、加熱炉在炉中には設定計算の試計算が実行され、加熱炉抽出時にアクチュエータのセットアップのための設定計算が実行され、抽出後も実績値を収集しながらその値に基づき、数回から数十回の設定計算が繰り返し実行される。使用されるパラメータ、収集される実績値、設定計算の出力も膨大でかつ頻繁なため、データベースへの読み書きの負荷が大きい。さらに、当該圧延材前後の数本の圧延材に対しても同様の設定計算やデータベースへの読み書きが行われるため、その設備の圧延ピッチ、収集データ点数などに基づき、計算タイミングやデータベースへのアクセス方法やタイミングは綿密に設計され、管理されている。
【0069】
しかし、圧延ラインが停止する時間、例えば、数時間毎の頻度で数十分間ラインを停止させるロール替えの期間や、数日ないしは数週間毎の頻度で数時間から数十時間ラインを停止させる定期修理の期間は、設定計算機23の計算負荷やデータベースへの読み書きがなくなる、もしくは、負荷や読み書きの頻度が著しく低下する。圧延シミュレーション装置24のパラメータ更新部33に内在する更新タイミング指定部41によって、上記の実操業でのロール替え、定期修理、設備更新の期間を、圧延シミュレーション装置24のモデルパラメータの更新タイミングとして選択すれば、実操業の設定計算に影響を与えない。
【0070】
実操業の設定計算に用いられるモデルパラメータ(機械定数、調整項、学習項)は、それぞれ更新されるタイミングが異なる。たとえば、機械定数のうち、圧延ロールの初期ロール径は、数時間おきのロール替え毎に変更される。機械定数でも、圧延機の伸びの指標となるミルカーブは、数ヶ月ないしは数年単位の比較的長期スパンで更新される。各種スプレーの流量は、経年変化するが、変化量が緩やかであり、また、流量計が予め設置されていない場合、流量を計測することは難しい。そのため、各種スプレーの流量は、不具合が生じた場合や設備を更新する場合など、特別な事情がない限り計測されない。調整項は、操業立ち上げ時の他は、主に、新しい鋼種の圧延時や、新しいプロセスパラメータの組み合わせで圧延される場合に調整される。学習項は、これらのうち、最も更新頻度が高い。学習項は、モデル誤差の生じやすい因子、例えば、鋼種、目標板厚、目標板幅、目標温度などで区分された層別テーブルで圧延毎に管理されており、圧延毎に、当該圧延に関わるモデル式の該当する層の学習項が更新される。実操業に用いられるモデルパラメータの更新頻度と同等の頻度で、圧延シミュレーション装置24で用いられるモデルパラメータを更新すれば、実操業の圧延を精度よく模擬できる。
【0071】
図11は、圧延シミュレーション装置24で用いられるモデルパラメータを最新の状態に更新するのに好適な更新タイミングを示す図である。例えば、
図11に示すタイミングで、圧延シミュレーション装置24で用いられる各パラメータに、実操業のパラメータと同じ値をコピーする。実操業においては、調整項や学習項は、それぞれ定期修理時およびロール替え時よりも高い頻度で、もしくは、異なるタイミングで更新される可能性がある。しかし、これらのパラメータの数は膨大であるため、全てのパラメータの自動更新は、実操業の圧延が停止しているタイミングにすべきである。一方、圧延シミュレーション装置24では、シミュレーション条件設定部31で与えるシミュレーション対象の圧延材の寸法や合金組成、目標製品寸法や材質や、圧下率配分や冷却パターンなどの圧延操業プロセスのパラメータなどを含むシミュレーション条件から、実行するシミュレーションに必要なモデルパラメータが明らかである。よって、シミュレーション実行時に、シミュレーションに必要な調整項および学習項を最新の状態に更新すれば、その条件での実操業の圧延を精度よく模擬できる。
【0072】
図12は、シミュレーション実行指令を受けた場合に、シミュレーションに必要な調整項および学習項を最新の状態に更新する処理の1つの具体例を示す図である。まず、シミュレーション条件のうち合金組成、目標板厚などから、シミュレーションに用いる仮想圧延材の鋼種と板厚区分を識別する。
図12に示す例では、シミュレーション条件設定部31は、シミュレーション条件として鋼種=C、0.1≦板厚<0.3を設定する。
【0073】
実操業の設定計算機23に属するデータベースのテーブル群と、圧延シミュレーション装置24に属するデータベースのテーブル群とは、同じテーブル構造を有し、データベース間でデータをコピーすることができる。データベースは、調整項のテーブル群、学習項のテーブル群、機械定数のテーブル群を有する。
図12に示す例では、更新パラメータ選択部42は、双方のテーブル群から、鋼種=C、かつ、0.1≦板厚<0.3であるパラメータを更新パラメータとして選択する。更新パラメータは、更新タイミング指定部41とパラメータコピー部43に通知される。更新タイミング指定部41は、選択されたパラメータの更新が、実操業の設定計算に影響しないことを確認する。影響しない場合には、更新タイミングを指定してパラメータコピー部43に通知する。そして、パラメータコピー部43は、指定された更新タイミングで、選択された更新パラメータを、実操業の設定計算機23に属するデータベースから、圧延シミュレーション装置24に属するデータベースにコピーする。
【0074】
(フローチャート)
図13は、仮想圧延ライン設定計算部32に内在される各モデルのパラメータを、実操業で用いられる最新のパラメータと同じ値に更新する処理ルーチンのフローチャートである。この処理ルーチンは、パラメータ更新部33により繰り返し実行される。
【0075】
ステップS131において、パラメータ更新部33は、圧延ライン1が定期修理中であるか否かを判定する。具体的には、更新タイミング指定部41は、制御用コントローラ21または設定計算機23に、圧延ライン1が定期修理中であるかを問い合わせる。更新タイミング指定部41は、問い合わせ結果に基づいて、圧延ライン1が定期修理中であるか否かを判定する。定期修理中である場合には、ステップS132の処理が実行される。定期修理中でない場合には、ステップS133の処理が実行される。
【0076】
ステップS132において、パラメータ更新部33は、全てのモデルパラメータを更新パラメータとして選択する。定期修理時には、仮想圧延ライン設定計算部32に内在される全てのパラメータを、実操業設定計算機23で用いられている最新のパラメータと同じ値に更新することが好ましい。そのため、更新パラメータ選択部42は、定期修理時には全パラメータを選択する。
【0077】
ステップS133において、パラメータ更新部33は、ロール替えが行われた否かを判定する。具体的には、更新タイミング指定部41は、制御用コントローラ21または設定計算機23に、圧延ライン1の運転モードがロールチェンジモードであるか否かを問い合わせる。更新タイミング指定部41は、問い合わせ結果に基づいて、ロールチェンジモードであるか否かを判定する。ロールチェンジモードである場合には、ステップS134の処理が実行される。ロールチェンジモードでない場合には、ステップS135の処理が実行される。
【0078】
ステップS134において、パラメータ更新部33は、ロールに関する機械定数および全ての学習項を更新パラメータとして選択する。具体的には、更新パラメータ選択部42は、ロールに関する機械定数および全ての学習項を更新すべきモデルパラメータとして選択する。
【0079】
ステップS135において、パラメータ更新部33は、シミュレーション実行指令がなされたか否かを判定する。具体的には、パラメータ更新部33の更新タイミング指令部41は、シミュレーション条件設定部31に、シミュレーション条件が入力されてシミュレーション実行指令がなされたか否かを問い合わせる。パラメータ更新部33は、問い合わせ結果に基づいて、シミュレーション実行指令がなされたか否かを判定する。シミュレーション実行指令がなされた場合には、ステップS136の処理が実行される。
【0080】
ステップS136において、パラメータ更新部33は、シミュレーションの計算実行前に、シミュレーション条件に関わる学習項、調整項を更新パラメータとして選択する。具体的には、更新パラメータ選択部42は、シミュレーション条件に関わる学習項、調整項を更新すべきモデルパラメータとして選択する。
【0081】
ステップS137において、パラメータ更新部33の更新タイミング指定部41は、更新パラメータ選択部42が選択しているパラメータの更新が、実操業の設定計算に影響を与えないかを否かを判定する。具体的には、更新タイミング指定部41は、更新パラメータ選択部42が選択しているパラメータを実操業の設定計算機23から取得する際に、設定計算機23に与える負荷を計算する。また、更新タイミング指定部41は、設定計算機23の負荷状況を確認する。これらに基づいて、更新タイミング指定部41は、パラメータ取得による負荷が生じても、実操業の設定計算に影響しないことを確認する。パラメータ更新が実操業の設定計算に影響を与えないと判断した場合には、ステップS139の処理が実行される。パラメータ更新が実操業の設定計算に影響を与えると判断した場合には、ステップS138の処理が実行される。
【0082】
ステップS138において、ステップS137の判定処理の実行回数が上限回数より少ないかを判定する。判定条件が成立する場合には、指定時間経過後に、ステップS137の処理が再実行される。判定条件が成立しない場合には、本ルーチンの処理は終了される。
【0083】
ステップS139において、パラメータコピー部43は、更新パラメータ選択部42によって選択されたモデルパラメータを、実操業の設定計算機23で用いられている最新のパラメータと同じ値に更新する。
【0084】
図14は、圧延シミュレーション装置24を用いて、合金組成および製造条件を検討する1つの手順を示すフローチャートである。
【0085】
まず、ステップS141において、パラメータ更新部33は、定期修理時に全てのモデルパラメータを更新する。ステップS141における処理は、上述した
図13のステップS131、ステップS132の処理と同様である。
【0086】
ステップS142において、パラメータ更新部33は、ロールに関する機械定数および全ての学習項を更新する。ステップS142における処理は、上述した
図13のステップS133、ステップS134の処理と同様である。
【0087】
ステップS143において、ユーザは、圧延シミュレーション装置24の入出力装置を用いて、シミュレーション条件を入力する。具体的には、ユーザは、シミュレーションに用いる仮想金属の初期スラブ情報(寸法、合金組成)、各種目標値(加熱炉抽出目標温度、仕上入側目標温度、仕上出側目標温度、巻取目標温度、粗圧延出側目標板厚、粗圧延出側目標板幅、目標板幅、目標板厚、目標クラウン比率、目標平坦度など)、加えてさらに詳細な条件(例えば加熱炉スラブ昇温パターン、粗出側目標温度、各パスの圧下量や圧下率配分、通板速度や加速率、ランアウトテーブルでの冷却パターン、各種スプレー設定、仕上圧延ベンダーおよびワークロールシフトなど)を必要に応じて入力する。入力されたシミュレーション条件は、シミュレーション条件設定部31に設定される。
【0088】
ステップS144において、パラメータ更新部33は、シミュレーションの計算実行前に、シミュレーション条件に関わる学習項、調整項を更新する。具体的には、更新パラメータ選択部42は、シミュレーション条件に関わる学習項、調整項を更新すべきモデルパラメータとして選択する。パラメータコピー部43は、選択されたモデルパラメータを、実操業に用いられる最新のパラメータと同じ値に更新する。
【0089】
ステップS145において、仮想圧延ライン設定計算部32は、設定されたシミュレーション条件に基づいて仮想圧延ラインで仮想金属材料を圧延した場合の、各プロセスの設定値および各時刻の金属材料の寸法、位置、温度をプロセスモデル、搬送モデル、温度モデルを用いて計算する。さらに、仮想圧延ライン設定計算部32は、材質モデルを用いて、与えられる仮想金属の加工履歴および温度履歴の情報を入力値として、最終製品材質を予測する。また、金属組織予測モデルを用いて、仮想金属の仮想圧延中の金属組織変化が予測される。また、機械的性質予測モデルを用いて、最終的に計算される仮想金属製品の組織と合金組成を入力値として、降伏応力や引張強さなどの機械的性質などの材質が予測される。
【0090】
ステップS146において、ユーザは、ステップS145での計算結果に基づいて仮想金属製品の品質を確認する。ステップS147において、ユーザは、各プロセスの設定値を確認する。また、ステップS148において、必要に応じてシミュレーション条件を変更してステップS144〜ステップS147の処理を繰り返す。ステップS149において、ユーザは、シミュレーション結果の実操業への適用を検討する。
【0091】
このような手順によれば、実操業圧延に影響を及ぼすことなく、かつ、実操業圧延を模擬した精度のよいシミュレーションが可能である。また、シミュレーション条件の変更をして上記のシミュレーションを繰り返し実施し、その結果を分析することで、実操業の加熱、圧延、および冷却条件やスラブ合金組成を改善する指針が得られる。