(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6292384
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】多角缶及びその成形方法
(51)【国際特許分類】
B21D 51/26 20060101AFI20180305BHJP
B65D 1/00 20060101ALI20180305BHJP
B65D 1/18 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
B21D51/26 F
B21D51/26 B
B21D51/26 R
B21D51/26 A
B65D1/00 120
B65D1/18
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-36244(P2014-36244)
(22)【出願日】2014年2月27日
(65)【公開番号】特開2015-160221(P2015-160221A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2017年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092200
【弁理士】
【氏名又は名称】大城 重信
(74)【代理人】
【識別番号】100110515
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 益男
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(74)【代理人】
【識別番号】100189083
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 圭介
(72)【発明者】
【氏名】小林 具実
(72)【発明者】
【氏名】松本 尚也
(72)【発明者】
【氏名】藍原 武志
【審査官】
豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭51−106677(JP,A)
【文献】
特開平11−208634(JP,A)
【文献】
特開2006−321508(JP,A)
【文献】
特開2007−045458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 51/26
B65D 1/00
B65D 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加飾面を持つ胴部と底部からなる円筒素缶から成形された多角缶であって、底部周縁ならびに胴部横断面が直線部と角部とからなる略多角形形状で、前記円筒素缶の加飾面と成形後の多角缶胴部の加飾面とが、実質的に等長変換の関係にあり、且つ横断面において角部となる予定の前記円筒素缶の底部外周部の内側に位置する缶底の一部に材料供給部が形成されている前記円筒素缶から成形されてなることを特徴とする多角缶。
【請求項2】
前記多角缶胴部にエンボスが形成されている請求項1に記載の多角缶。
【請求項3】
開口部にフランジ成形され缶蓋が巻締可能となっている請求項1又は2に記載の多角缶。
【請求項4】
前記開口部はネジ部を備えネジ蓋が装着可能な円筒口部となっている請求項1〜3の何れかに記載の多角缶。
【請求項5】
前記多角缶は、缶底部に糸底の突起が形成されている請求項1〜4の何れかに記載の多角缶。
【請求項6】
加飾面を持つ胴部と底部からなる円筒素缶から成形された多角缶の成形方法であって、多角缶の横断面において角部となる予定の前記円筒素缶の缶底部に内側に凸となる材料供給部を形成する工程、該材料供給部を押し潰しながら缶底外周部を半径方向外方へ移動することで角部を形成する工程、前記円筒素缶を半径方向内方へ押し込むことにより缶底の一部に材料が引き込まれる引き込み部を形成する工程からなり、変形前と変形後の缶胴の周長が実質的に等長関係にあるように成形することを特徴とする角形缶の成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加飾面を有する有底の円筒素缶から成形した多角缶
及びその成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属製の多角缶の製造は、2ピース缶の場合、ブランクを絞りしごき成形して有底の円筒素缶を成形し、該円筒素缶を角形ダイと角形パンチで多角缶に成形する方法が一般に知られている(例えば、特許文献1)。また、他の方法として、軟質アルミニウム合金のスラグからパンチとダイで一工程で有底の多角缶を成形するインパクト成形法、3ピース缶の場合は、内型を水圧で膨らませて缶胴を外型形状に沿わして成形するバルジ成形法、あるいはシーム接合した無底の円筒体を断面山形状の加工面を有する外型により円筒体を内側方向に押圧して側壁部を形成するとともに、先端に断面円弧状の加工面を有する内型により角部となる円筒体の一部を外側方向に押圧して角部を成形する方法が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−167459号公報
【特許文献2】特開2011−50979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来の有底円筒缶を多角缶に成形する方法は、缶底部を円形から角形へ変形するに際して、必然的に缶底に角部及び直線部となるところが縮径加工及び伸び加工を伴うため歪みが生じ、それが胴部に伝わり側壁面に曲がりや歪みが生じる問題点がある。
一方、近年金属缶により美麗な印刷や塗装を施して加飾した加飾缶が流通している。円筒缶の場合それらの加飾は多色の曲面印刷により一工程で行うことができるが、多角缶の場合、曲面印刷は適用できないので円筒缶と同様な加飾品質を得るためには4面別々に印刷する必要がある。その場合缶の位置決め等複雑な印刷工程及び装置が必要となり、円筒缶と比較して生産性が悪化すると共に専用の加飾ラインを設けなければならない。それを回避するために、例えば
図11(a)に示すように円筒素缶Aの状態で曲面印刷により缶胴に画像Eを印刷または塗装して加飾し、その後該円筒缶を多角缶に成形する方法が考え
られるが、缶底を有する円筒缶(いわゆる2ピース缶)の場合、上記従来の方法で円筒缶から多角缶に成形すると、缶底の一部が側壁へ回り込み側壁の加飾面に同図(b)に示すように歪みや曲がりが生じて変形し、高品位な加飾が得られていないという問題点がある。缶胴に歪みが生じることによって、インキを保護するために最外面に塗られている仕上げワニスのグロス(光沢)が低下することや、網点印刷の場合は、網点の配列が不均一にゆがみ、モアレ縞が生じることがある。さらに、ベタ塗り印刷の部分においては、インキの盛り量が不均一になったり、微細なひび割れが顕微鏡観察により顕在化するなどにより
、高品位の画像が得られない問題が生じる。この問題はフィルムラベルにおいても同様に生じる問題である。
【0005】
また、陳列性の観点から円筒缶と多角缶を比較した場合、円筒缶の場合は常に製品名などを正面に向けて陳列することは正確な位置決め操作を要し作業性が悪いのに対し、多角缶は容易に製品名などを手前に向けて陳列することができ、且つ隙間なく陳列できるので、収納効率が高いという利点を有するが、前記理由で高品位な加飾を有する多角缶は得られていない。
そこで、本発明は、円筒缶から多角缶への成形時に缶胴側壁に曲がりや歪みを生じさせずに円筒缶と同等の高品位の加飾効果が得られる多角缶
及びその成形方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
有底円筒缶を角形ダイで多角缶に成形する場合に缶胴(加飾面)に歪が生じる原因は、
図1及び
図3に模式図で示すように、円筒缶Aの缶底を多角缶Bの缶底に成形するに際して、多角缶の角部B−1となる円筒缶の部分A−1は多角缶の角部B−1の内側に位置するのでその部分は外側に押し出されて伸び、逆に直線部B−2となる部分A−2は多角缶Bの外側に位置するので、部分A−2が押し込まれた際、縮径に伴い余る缶底材料の一部が側壁へ回り込み、それらが原因となって側壁に歪や変形が発生することにある。本発明は、該知見に基づき研究した結果、到達したものである。
すなわち、上記課題を解決する本発明の多角缶は、加飾面を持つ胴部と底部からなる円筒素缶から成形された多角缶であって、底部周縁ならびに胴部横断面が直線部と角部とからなる略多角形形状で、前記円筒素缶の加飾面と成形後の多角缶胴部の加飾面とが、実質的に等長変換の関係にあり
、且つ横断面において角部となる予定の前記円筒素缶の底部外周部の内側に位置する缶底の一部に材料供給部が形成されている円筒素缶から成形されてなることを特徴とするものである。
前記多角缶は、横断面において直線部となる予定の前記円筒素缶の底部外周部の内側に位置する缶底の一部に引込み部を形成しながら成形されることによって、直線部が確実に等長変化により得られる。
さらに、前記多角缶は、横断面において角部となる予定の前記円筒素缶の底部外周部の内側に位置する缶底の一部に材料供給部が形成されている円筒素缶から成形されることによって、角部が確実に等長変化により得られる。
前記多角缶は、必要に応じてその胴部にエンボスを形成してもよい。
また、多角缶の形態として、開口部がフランジ成形され、缶蓋が巻締可能となっていることによって、通常の巻締装置で缶蓋を巻締することができる。円形にフランジ成形されていれば、円筒缶と同様の巻締装置により円形缶蓋を巻締することができる。
さらに、前記多角缶は、開口部にネジ部を備え、ネジ蓋が装着可能となっていることによって、加飾された角形のボトル缶を提供することができる。
さらに、前記多角缶は、缶底部に糸底状の突起を形成することによって、搬送性などを向上することができる。
【0007】
上記多角缶を成形する本発明の多角缶成形方法は、加飾面を持つ胴部と底部からなる円筒素缶から成形された多角缶の成形方法であって、多角缶の横断面において角部となる予定の前記円筒素缶の缶底部に内側に凸となる材料供給部を形成する工程、該材料供給部を押し潰しながら缶底外周部を半径方向外方へ移動することで角部を形成する工程、前記円筒素缶を半径方向内方へ押し込むことにより缶底の一部に材料が引き込まれる引き込み部を形成する工程からなり、変形前と変形後の缶胴の周長が実質的に等長関係にあるように成形することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、円筒素缶の加飾面と成形後の多角缶胴部の加飾面とが、実質的に等長変換の関係にあるので、側壁は単に曲げられるだけとなり、加飾画面に歪みや変形が生じなくなり、インキを保護するために最外面に塗られている仕上げワニスのグロス(光沢)が低下することがない。また、網点印刷の部分は、網点の配列が不均一にゆがむことがなく、モアレ縞を生じない。さらに、ベタ塗り印刷の部分においては、インキの盛り量が均一に保たれ、顕微鏡観察においても微細なひび割れは観察されず、高品位な加飾を施した多角缶を得ることができる。これは、印刷フィルムを接着したラベル加飾方法においても同様の効果がもたらされ、成形によるフィルムの剥離を防止する。さらに、ホログラム加飾を用いた場合には加飾画面に歪みが生じないため、加飾の品位や発色性が保たれる。
また、前記多角缶は、横断面において直線部となる予定の前記円筒素缶の底部外周部の外側に位置する缶底の一部に引込み部を形成しながら成形されてなることによって、缶底周縁の直線部成形時の余剰材料が缶底面の引込み部に移動するので、胴部に回り込むことがなく等長変化の多角缶が容易に得られる。
さらに、前記多角缶は、横断面において角部となる予定の円筒素缶の底部外周部の内側に位置する缶底の一部に材料供給部が形成されている円筒素缶から成形されてなることによって、角部成形時の不足材料が材料供給部から供給されるので、缶胴に歪を生じない等長変形の多角缶が容易に得られる。
【0009】
また、多角缶は、その胴部にエンボスが形成されることによって、缶胴部の剛性が増し、例えば負圧缶の場合に側壁に歪みを生じさせることが防止され、高品位の加飾面を保つことができると共に、缶材の薄肉化を促進することができる。
前記多角缶は、開口部が角形に限らず、フランジが成形されて角形または円形等の缶蓋が巻締可能となっている多角缶、或いは開口部にネジ部を備えた口部となっていて、ネジ蓋が巻締可能となっている多角缶等、多様な形態の多角缶を得ることができる。
【0010】
そして、本発明の多角缶成形方法によれば、上記請求項1及び請求項2に係る多角缶を缶胴部に歪を生じさせることなく成形することができ、高品位の角形缶を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明による円筒素缶から成形された多角缶の特徴部分を模式的に示す概念図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る多角缶の斜視図である。
【
図3】本発明に係る多角缶の成形方法の原理を示す模式図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る多角缶の成形方法における直線部の成形部の断面を示し、(a)は成形開始前、(b)は成形終了後の状態を示す。
【
図5】その角部の成形部の断面を示し、(a)は成形開始前、(b)は成形終了後の状態を示し、(c−1)及び(c−2)は材料供給部の他の実施形態を示す。
【
図6】本発明の実施形態に係る多角缶の成形方法を適用した多角缶製造工程を示すブロック線図である。
【
図7】(a)〜(c)は多角缶の側壁に施すエンボス模様の実施形態を示す正面図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る他の多角缶の実施形態を示す斜視図である。
【
図9】本発明のさらに他の実施形態に係る多角缶の実施形態を示す斜視図である。
【
図10】本発明により得られる多角缶の缶底部に設けた糸底状の突起の形状の一例を示す。
【
図11】従来の成形方法によって有底円筒缶から得られる加飾面を有する多角缶の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る多角缶の成形方法の実施形態を、図面を基に説明する。
図1は、(a)で示す有底円筒素缶Aから成形により(b)に示す有底の多角缶Bを得た概念図である。有底円筒缶の缶胴には任意の画像Eが施されて加飾され、該円筒缶を後述する方法で成形することにより、同図(b)に示す本発明に係る有底の多角缶B(以下、本実施形態に係る多角缶10とする。)が得られる。該多角缶10は、底部周縁11ならびに胴部横断面が直線部と角部とからなる略多角形形状で、前記円筒素缶の加飾面Eと成形後の多角缶胴部の加飾面Eとが実質的に等長変換の関係にある。その結果、多角缶に成形時に側壁は曲げられるだけで加飾面Eに歪みが生じることなく、成形後も円筒素缶の加飾面を高品位に維持している。
なお、缶胴部について成形前後において、実質的に等長変換の関係にあることを確かめるには、仕上げワニスが塗られている場合は、仕上げワニスのグロス(光沢)を、市販されているグロスチェッカーで簡便に測定すればよく、ベタ塗り印刷の部分においては、顕微鏡観察により微細なひび割れを確認することで判断ができる。それ以外の場合でも、モアレ縞や歪みの有無で確認可能である。
【0013】
以下に、有底円筒缶から本発明の多角缶を成形する成形方法の実施形態を
図3〜
図5を基に詳細に説明する。
図3は、本発明の実施形態に係る成形方法の基本概念を説明するために同一周長の円筒缶Aと多角缶Bを軸心を一致させて缶底からみた仮想図である。該図において、円筒缶Aから同一周長の多角缶Bに成形する場合、多角缶の角部B−1に相当する部分A−1は多角缶の内側に位置するのでその部分は外側に拡開されて伸びてB−1となり、不足した材料は缶底部及び缶胴部から引き込まれるため、底部近傍の缶胴にも歪が生じる。逆に直線部B−2となる部分A−2は多角缶の直線部より外側に位置しているので、部分A−2を外側から押し込んで直線部B−2を形成することになる。従って、その際、直線部となる
ところは縮径となって材料が余りそれが側壁部に回るため側壁部に歪みが生じることになる。
【0014】
それを解消するために、本実施形態の多角缶の成形方法では次の方法を採用した。
工程1:絞りしごきにより円筒缶を成形する際に、多角缶の横断面において角部となる予定の缶底部に、内側に凸形状の材料供給部Cを形成した。本実施形態では、
図5(a)に示すように、材料供給部Cを角部となる4つの位置に互いに対角線上に位置するように形成したが必ずしもそれに限るものではない。円筒缶に加飾を施す場合には、円筒缶に材料供給部Cを形成する前に行うこともできるし、後に行っても良い。
工程2:
図5(a)(b)に示すように、前記円筒缶Aの缶底部に設けた上記材料供給部Cをシャフト5の端面で押し潰しながら、拡張具6により缶底外周部を半径方向外方へ移動することで、4隅の角部を成形する。
工程3:
図4(a)(b)に示すように、前記円筒缶Aを押圧具3により半径方向内方へ押し込む。その際、缶底の一部に材料が引き込まれる引込み部Dを形成することにより、半径方向に押し込まれる材料が引込み部に吸収されるようにする。
【0015】
以上の工程を経ることにより、多角缶の角部となる予定の缶底外周部A−1近傍の缶底の一部に材料供給部Cを予め形成することによって、角部成形に際して円筒缶の外周部から外方へ突出成形される角部へ前記材料供給部から材料を供給することができ、缶胴部への成形歪みの影響を低減させることができる。また、同時に押圧具により側壁が押し込まれるのに伴って缶底部に材料引込み部Dが形成され、縮径による余った材料が引込み部に引きこまれるので、缶胴部への材料の移動が阻止されて缶胴に生じる歪みを軽減させることができる。
その結果、円筒缶の缶底部外周の形状を多角缶の横断面に相当する形状に変形し、変形前と変形後の缶胴の周長が実質的に変わらないようにすることができ、側壁は単に曲げられるだけとなり、缶胴面に歪みや曲がりが生じなくなる。
【0016】
本実施形態の多角缶成形装置は、円筒缶の内部に挿入するシャフト5と多角缶の直線部となる位置を外部より押圧する押圧具3、及び下型4との組み合わせにより構成されている。
多角缶の直線部及び底部を成形するシャフト5は角部となる位置を外側に移動して角部を成形する4個の拡張具6(
図5)の組み合わせからなり、シャフト5の端面には、直線部となる位置の円周内側に引き込み部を形成する凹部8(
図4)がそれぞれ形成されている。前記シャフトの端面は、成形する多角缶の直線部内周面形状に一致する形状に形成されている。
【0017】
下型4は、シャフト5と協働して多角缶の底部を成形する成形型であり、前記シャフト端面の凹部8に対応する位置に直線部となる外周部の内側の缶底の一部に複数個の引込み部Dとしての凸部を形成するように材料を引き込むための複数個の突起9(
図4)が形成されている。
【0018】
以上のような構造からなる多角缶成形装置で、別途成形された有底の円筒缶Aから多角缶Bを次のように成形する。
加飾缶の場合は円筒缶の状態で外周面に適宜印刷や塗装等の加飾を施しておく。該円筒缶を成形するに際して多角缶の角部となる予定の各位置の内周内側に材料供給部Cとなる凸部を形成しておく。該凸部が形成された円筒缶Aの内部にシャフト5が位置するようにセットして成形開始時には、
図3に示す角部の対角線断面I―Iは
図5(a)に示す状態であり、直線部の断面II―IIは
図4(a)に示す状態である。
この状態からさらにシャフト5を下降させながら、拡張具6を互いに対角線方向外側に移動すると、円筒缶の缶底部の材料供給部Cである凸部がシャフト5の端面で平らに潰されながら拡張具6によって缶底外周側壁を押し広げて角部が成形される。その際材料供給部から成形される角部に材料が流れることになるので、缶底外周側壁に歪みを与えることなく、角部を成形することができる。
【0019】
一方、直線部成形面では角部成形と同時にシャフト5を下降させながら、押圧具3を外側4面から缶内方に向けて収縮移動することによって、円筒缶の外周部を押圧して四角側面を成形する。その際、押圧具3の収縮に伴ってシャフト5が下降することで、缶底の底面が下型4の頂面に形成された突起9に当たり、該突起と対向して形成されたシャフト端面の凹部8に押し込まれ、押圧具3によって押し込まれて縮径される缶底の余剰材料がシャフトの凹部8に引き込まれる(
図4(b))ので、缶底の直線部の縮径による缶底外周部に与える歪みを極力軽減することができる。
その結果、缶底外周部は直線部及び角部とも歪みを極力軽減して実質的に等長変換させて角形に成形することができる。それに伴い、缶底周壁の上部の缶胴部は単に曲げ加工を受けるだけの等長変換で成形されるので、加飾面に歪みを生じることなく、円筒缶外周面に施した加飾効果を維持することができる。
【0020】
以上のように、本発明の多角缶の成形方法により加飾多角缶を得る場合、
図6のブロック線図で示すように、2ピース円筒缶の既存の製造ラインにおける加飾工程まではそのまま利用でき、多角缶成形ラインで加飾された有底円筒缶を本実施形態に係る成形方法で多角缶を成形し、その後、多角缶成形ラインでネックフランジ成形等を行なうことによって、円筒缶と同様に加飾された多角缶を製造効率よく得ることができる。
【0021】
また、必要に応じて多角缶に成形された缶胴直線部に例えば
図7に示すようなエンボス成形を施すことができる。エンボス成形は角形成形後に別工程で行なうこともでき、角形成形と同一工程で施すことも可能である。成形と同時に行なう場合は、シャフトの直線部成形面にエンボス型を形成すると共に、押圧具の対向する面に対向型を形成することによって、円筒缶から多角缶の直線部を形成すると同時に押圧具とシャフトの協働作用により直線面にエンボスを施すことができる。また、エンボス形状を例えば
図7(a)−(c)に示すF1〜F3に示すように、水平線或いは垂直線を有する形状にすることによって、
胴部の剛性を増大させ、側壁の垂直度を確保することができて缶胴の変形を低減させ、負圧缶等に対してより有効な加飾缶を得ることができる。または、印刷画面に対応した形状のエンボスを施すこともできる。
【0022】
角形に成形された缶は、その後必要に応じてネックイン成形及びフランジ成形を行う。
なお、ネックイン成形に際して缶開口部を角形にネックイン成形することによって、四角形の缶蓋を巻締する四角缶を得ることができるし、缶開口部を円形にネックイン成形することによって、
図8に示す円形蓋を巻締した頂端が円形の多角缶を得ることができる。
図8は、得られた多角缶の開口部を円筒状にネック成形後フランジ成形して缶本体を成形し、ステイオンタブ付の缶蓋53を巻締した状態を示している。
さらに、
図9に示すように、開口部にネジ部を有する口頸部を形成することによってネジキャップ63を装着できる胴部が角形のいわゆるボトル缶を得ることができる。
以上のようにして、円筒缶から成形された多角缶50、60は、缶胴部51、61にしわや歪がなく、円筒缶に多色曲面印刷により印刷した画像52、62にも歪がなく、高品位の加飾缶が得られた。
【0023】
以上、本発明を実施する多角缶及びその成形方法の一実施例を説明したが、本発明は上記実施例に限らずその技術的思想の範囲内で種々の設計変更が可能である。例えば、拡張具ならびに押圧具の駆動は図示しないが、シャフトの下降位置に同期して、油圧もしくは空圧、サーボモーターなどのアクチュエータによって行うことができる。さらに、円筒缶の缶底に形成される材料供給部及び引込み部は、一つの角部に対して凸部が1個の場合に限らず、小さい複数の凸部や適宜形状の凸部が採用でき、また引込み部も一つの直線部に対して1個の凸部を形成する場合に限らず、複数個の微小な凸部や適宜形状の凸部あるい
は缶底中央部に1個の大きな凹部を形成できるように、下型に形成される凸部の形状や個数は任意に変更可能である。また、凸部の方向は、缶底の内側に限らず外側へ向けて設けることもできる。さらに、材料供給部の形状は
図5(c−1)のように例えば張出し成形したり、インパクト成形により円筒缶を成形する場合には、
図5(c−2)のように板厚分布を変えるものでも良い。
缶の材料は、スチールやアルミニウムなど公知のものおよびそれらの複合材が適用できる。また、加飾面は印刷や塗装したものに限らず、缶胴にフィルムラベルをラミネートしたものなど、公知の加飾方法も適用できる。当然のことながら本発明は加飾缶に限らず、通常の缶体の成形にも適用できる。さらに、缶胴の横断面形状が五角形、六角形など多角形の缶にも適用できる。
この成形方法によって成形された多角缶について、搬送性向上などのため、さらに缶底部に糸底状の突起54を追加工して形成してもよい。
図10はその一例を示す外観図である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、有底の円筒缶から得られる有底の多角缶であり、特に円筒缶の状態で胴部に印刷や塗装等により加飾を施した円筒缶を、缶胴部に歪を生じさせることなく角形に成形できるので、高品位で陳列効果の高い角形加飾缶を得ることができ、産業上の利用可能性がきわめて高い。
【符号の説明】
【0025】
3 押圧具
4 下型
5 シャフト
6 拡張具
8 凹部
9 突起
50、60 角型缶
52、60 画像
A 円筒缶
A−1 角部となる予定の円筒缶の缶底外周部
A−2 直線部となる予定の円筒缶の缶底外周部
B 多角缶
B−1 多角缶の角部
B−2 多角缶の直線部
C 材料供給部
D 引込み部
F エンボス