特許第6292451号(P6292451)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許62924511型TNF受容体と2型TNF受容体の存在バランスを調節する合成ペプチド及びその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6292451
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】1型TNF受容体と2型TNF受容体の存在バランスを調節する合成ペプチド及びその利用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/07 20100101AFI20180305BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   C12N5/07
   C07K14/705ZNA
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-536938(P2014-536938)
(86)(22)【出願日】2013年9月20日
(86)【国際出願番号】JP2013075536
(87)【国際公開番号】WO2014046247
(87)【国際公開日】20140327
【審査請求日】2016年7月1日
(31)【優先権主張番号】特願2012-207419(P2012-207419)
(32)【優先日】2012年9月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(72)【発明者】
【氏名】小林 菜穂子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 徹彦
【審査官】 横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】 特表平10−500304(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/142659(WO,A1)
【文献】 Am J Transplant, 2009, vol.9, no.12, p.2679-2696
【文献】 Invest Ophthalmol Vis Sci, 2011.03, vol.52, no.3, p.1384-1391
【文献】 Brain Res, 2008, vol.1215, p.30-39
【文献】 Science, vol.296, 2002, p.1634-1635
【文献】 Proc Natl Acad Sci U S A, 1991, vol.88, no.20, p.9292-9296
【文献】 Am J Pathol, 2006, vol.169, no.5, p.1886-1898
【文献】 日本心臓血管外科学会雑誌, 2001, vol.30, no.supplement, p.325
【文献】 リウマチ, 2001, vol.41, no.2, p.426
【文献】 日本産科婦人科学会雑誌, 2003, 第55巻、第2号, p.244
【文献】 第69回、日本癌学会学術総会記事, 2010.08.23, p.335
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
C12N 5/00
C07K 14/705
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インビトロ培養系において1型TNF受容体(TNF−R1)及び2型TNF受容体(TNF−R2)をいずれも発現可能な培養細胞の該TNF−R2の存在量をインビトロ培養系において増大させるか若しくは減少させる方法であって、
(1)該培養細胞に存在するTNF−R2の存在増大させるときは、少なくとも1種のTNF−R1のシグナルペプチド配列又は該配列中の1個、2個又は3個のアミノ酸残基が保守的に置換して形成された同類置換アミノ酸配列から構成される合成ペプチドを該培養細胞に供給すること、
(2)該培養細胞に存在するTNF−R2の存在減少させるときは、少なくとも1種のTNF−R2のシグナルペプチド配列又は該配列中の1個、2個又は3個のアミノ酸残基が保守的に置換して形成された同類置換アミノ酸配列から構成される合成ペプチドを該培養細胞に供給すること、
を包含し、
ここで前記TNF−R1のシグナルペプチド配列は、配列番号1〜5のいずれかに示すアミノ酸配列であり、前記TNF−R2のシグナルペプチド配列は、配列番号6〜8のいずれかに示すアミノ酸配列である、方法。
【請求項2】
インビトロ培養系において1型TNF受容体(TNF−R1)及び2型TNF受容体(TNF−R2)をいずれも発現可能な培養細胞におけるTNF−R2の存在量を増大させる組成物であって、
少なくとも1種のTNF−R1のシグナルペプチド配列であって配列番号1〜5のいずれかに示すアミノ酸配列又は該配列中の1個、2個又は3個のアミノ酸残基が保守的に置換して形成された同類置換アミノ酸配列から構成される合成ペプチドと、
薬学的に許容可能な担体と、
を含む、前記培養細胞におけるTNF−R1に対するTNF−R2の存在比を上昇させるための組成物。
【請求項3】
インビトロ培養系において1型TNF受容体(TNF−R1)及び2型TNF受容体(TNF−R2)をいずれも発現可能な培養細胞におけるTNF−R2の存在量を減少させる組成物であって、
少なくとも1種のTNF−R2のシグナルペプチド配列であって配列番号6〜8のいずれかに示すアミノ酸配列又は該配列中の1個、2個又は3個のアミノ酸残基が保守的に置換して形成された同類置換アミノ酸配列から構成される合成ペプチドと、
薬学的に許容可能な担体と、
を含む、前記培養細胞におけるTNF−R1に対するTNF−R2の存在比を低下させるための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象とする細胞の細胞膜に存在する1型TNF受容体(TNF−R1)及び2型TNF受容体(TNF−R2)の存在バランスを調節する材料と方法に関する。特に、該調節を行うために用いられる合成ペプチドとその利用に関する。
なお、本出願は2012年9月20日に出願された日本国特許出願2012−207419号に基づく優先権を主張しており、当該日本国出願の全内容は本明細書中に参照として援用されている。
【背景技術】
【0002】
一般にTNF(典型的にはTNF−α、TNF−β(LT−α)、LT−βの3種)と呼称される腫瘍壊死因子(Tumor Necrosis Factor)は、主として免疫系細胞において産生されるサイトカインである。その代表的存在であるTNF−αは、主としてマクロファージにおいて産生され、微小な血栓の形成やアポトーシスの誘導等、種々の生理作用を示す。また、TNF−αの産生量(発現)が過剰になると関節リウマチ等の疾病を招くことも知られている。
かかるTNFが結合する受容体として、分子量が約55kDaの1型TNF受容体(Tumor Necrosis Factor Receptor 1、以下「TNF−R1」と記載する場合がある。)、及び、分子量が約75kDaの2型TNF受容体(Tumor Necrosis Factor Receptor 2、以下「TNF−R2」と記載する場合がある。)が存在する。
【0003】
これら2種類のTNF受容体は、それぞれ異なる生理作用を生じさせることが知られている。例えばTNF−R1ノックアウトマウスとTNF−R2ノックアウトマウスを用いた試験において、上肢における動脈形成及び下肢における血管形成は、TNF−R1ノックアウトマウスでは増進し、逆にTNF−R2ノックアウトマウスでは減退することが報告されている(非特許文献1)。また、TNF−R2ノックアウトマウスでは緑内障の進行が野生型マウスと比較して遅くなることが報告されている(S. McKinnonらの口頭発表「Neuroinflammation in glaucoma」、XIX Biennial Meeting of the International Society for EYE RESEARCH、2010年7月18日〜23日)。また、網膜剥離による光受容体(Photoreceptor)の変性には、TNF−R2を介したTNF−αが関与する一方、TNF−R1の欠乏はかかる光受容体の変性にあまり影響しないことが報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】アメリカン・ジャーナル・オブ・パソロジー(The American Journal of Pathology)、169巻(5号)、2006年、pp.1886−1898
【非特許文献2】インベスティゲイティブ・オフサルモロジー・アンド・ビジュアル・サイエンス(Investigative Ophthalmology & Visual Science)、52巻(3号)、2011年、pp.1384−1391
【非特許文献3】ジャーナル・オブ・セルバイオロジー(The Journal ofCell Biology)、178巻(5号)、2007年、pp.829−841
【発明の概要】
【0005】
上記のとおり、ともにTNFの受容体でありながら、TNF−R1とTNF−R2とは相互に異なる生理活性を誘起させる受容体である。換言すれば、TNF(例えばTNF−α)が介在して発現する生理作用は、当該TNFがTNF−R1に結合した場合と、TNF−R2に結合した場合とで異なることを示している。
従って、対象とする生体器官、組織若しくは部位(より微視的にいえば該器官、組織若しくは部位に存在する細胞)においてTNF−R1とTNF−R2の存在量のバランス(例えば発現バランス)を調節することができれば、当該生体器官、組織若しくは部位において望ましい生理作用を発現させる(若しくは増進させる)こと、あるいは、当該生体器官、組織若しくは部位において望ましくない生理作用を発現させない(若しくは抑制させる)こと、が可能である。
【0006】
例えば、上述した報告例に関しては、目的の組織又は部位に存在する細胞(細胞膜)に存在している(若しくは発現している)TNF受容体の存在割合(発現割合)を通常よりもTNF−R2の存在率(発現率)が大きくなるように調節することにより、当該組織又は部位における動脈その他の血管形成を増進させることができる。また、網膜剥離等の網膜疾患の場合、網膜に存在する視細胞や神経節細胞におけるTNF受容体の存在割合(発現割合)を通常よりもTNF−R2の存在率(発現率)が小さくなるように調節することにより、視細胞等のアポトーシスを抑制することができる。
また、非特許文献3には、TNF−R1の遺伝子を欠失させたトランスジェニックマウスを用いた実験において、アミロイドβの生成が阻害され、脳中でのアミロイドβのプラーク形成が減少したことが記載されている。このことは、脳内においてTNF−R1とTNF−R2との存在バランスを変化させ、TNF−R2の存在率(発現率)を特異的に増大させることによってTNF(主としてTNF−α)のTNF−R1への結合を競合的に阻むことができ、結果、アルツハイマー病の治療や改善に貢献することが期待される。併せてTNF(主としてTNF−α)のTNF−R1への結合を競合的に阻むことにより、インスリン抵抗性の改善も期待される。
【0007】
しかしながら、従来、細胞膜に存在するTNF−R1とTNF−R2との存在バランス(例えば発現バランス)を容易に且つ高効率に調節する方法、薬剤類が存在しなかった。
そこで本発明は、生体内(in vivo)又は生体外(in vitro)において、所望する生体器官、組織若しくは部位に存在する少なくとも1種の細胞におけるTNF−R1とTNF−R2との存在バランス(例えば発現バランス)を調節する方法と、該方法に用いられる材料(薬剤組成物)を提供することを目的として創出された発明である。
【0008】
上記の目的を実現するべく、本発明によると、生体(典型的にはヒト、若しくはヒト以外の哺乳動物)内又は生体外において、対象とする所定の生体器官、組織若しくは部位に存在する少なくとも1種の細胞であって1型TNF受容体(TNF−R1)及び2型TNF受容体(TNF−R2)をいずれも発現可能な細胞の該TNF−R1とTNF−R2との存在バランス(即ち該細胞の典型的には細胞膜に存在するTNF−R1とTNF−R2との量比=存在比)を調節する方法が提供される。
即ち、ここで開示される調節方法は、(1)所定の生体器官、組織若しくは部位に存在する上記細胞に存在するTNF−R1に対するTNF−R2の存在比を上昇させるときは、少なくとも1種のTNF−R1のシグナルペプチド配列又は該配列中の1個又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加されて形成されたアミノ酸配列(以下、該シグナルペプチド配列についての「改変アミノ酸配列」ともいう。)から実質的に構成される合成ペプチドを該細胞に供給する。
その一方、(2)所定の生体器官、組織若しくは部位に存在する上記細胞に存在するTNF−R1に対するTNF−R2の存在比を低下させるときは、少なくとも1種のTNF−R2のシグナルペプチド配列又は該配列中の1個又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加されて形成されたアミノ酸配列(以下、該シグナルペプチド配列についての「改変アミノ酸配列」ともいう。)から実質的に構成される合成ペプチドを該細胞に供給する。
なお、本発明の調節方法において用いられる上記生体器官、組織、部位には、それぞれ、生体外において該方法を実施するために所定の生体(典型的にはヒト、若しくはヒト以外の哺乳動物)から採取された培養器官(臓器であり得る)、培養組織、培養細胞(例えば培養細胞の分散した培養物や細胞塊)が包含される。
【0009】
本発明者は、TNF受容体を構成するタンパク質のシグナルペプチド配列からなる合成ペプチドを種々の培養細胞に供給したところ、TNF−R1由来のシグナルペプチドと、TNF−R2由来のシグナルペプチドとの間で、TNF−R2の存在量(典型的には発現量)に及ぼす作用が全く異なることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、ここで開示される調節方法では、上記(1)の処理を施すことにより、対象とする器官、組織、又は部位に存在する細胞のTNF−R2の存在量を増大させることができる。その結果、TNF−R1に対するTNF−R2の存在比を上昇させることができる。
また、ここで開示される調節方法では、上記(2)の処理を施すことにより、対象とする器官、組織、又は部位に存在する細胞のTNF−R2の存在量を減少させることができる。その結果、TNF−R1に対するTNF−R2の存在比を低下させることができる。
【0010】
このように、ここで開示される調節方法では、対象とする細胞のTNF−R1とTNF−R2との存在バランスを、TNF−R1のシグナルペプチド配列又はその改変アミノ酸配列を主体として構成された合成ペプチド或いはTNF−R2のシグナルペプチド配列又はその改変アミノ酸配列を主体として構成された合成ペプチドのいずれかを該細胞に供給することによって、容易に調節(制御)することができる。
このため、ここで開示される調節方法は、TNF−R1とTNF−R2の存在バランス、より具体的にはTNF−R1に対するTNF−R2の存在比が影響してTNFが関与する種々の疾病や傷害(例えば種々の血管疾患やアルツハイマー病)の治療若しくは改善に資することができる。また、ここで開示される調節方法は、TNF−R1やTNF−R2が関与する疾病(障害)を改善させることを目標とした研究開発分野(例えば医学、薬学、遺伝学、生化学、生物学に関連する分野。以下同じ。)において好適に実施することができる。
【0011】
例えば、TNF−R1に対するTNF−R2の存在比を上昇させる上記(1)の処理を施すことにより、目的の組織又は部位(生体外でそのような処理を施した組織や細胞を移植する場合を含む。)における動脈その他の血管形成を増進させることができる。
或いはまた、網膜剥離等の網膜疾患の場合には、網膜に存在する視細胞や神経節細胞に対し、TNF−R1に対するTNF−R2の存在比を低下させる上記(2)の処理を施すことにより、視細胞等のアポトーシスを抑制することができる。
或いはまた、脳内や脊髄の中枢神経系細胞(脳や脊髄を構成する神経細胞及び/又はグリア細胞、ならびにこれら細胞に分化する前の神経幹細胞)においてTNF−R1に対するTNF−R2の存在比を上昇させることによってTNF(主としてTNF−α)のTNF−R1への結合を競合的に阻み、アルツハイマー病の治療や改善を実現することができる。
このように、ここで開示される調節方法の好適な一態様では、上記細胞として神経系を構成する細胞(典型的には神経細胞、グリア細胞、或いは神経幹細胞)を用いる。
【0012】
上述の説明から明らかなとおり、本発明はまた、ここで開示される調節方法に用いられる合成ペプチドと該合成ペプチドを成分とする組成物を提供する。
即ち、ここで開示される一つの組成物は、少なくとも1種のTNF−R1及びTNF−R2をいずれも発現可能な細胞におけるTNF−R2の存在量を増大させる組成物であって、少なくとも1種のTNF−R1のシグナルペプチド配列又は該配列中の1個又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加されて形成されたアミノ酸配列から実質的に構成される合成ペプチドと、薬学的に許容可能な担体とを含む、上記細胞におけるTNF−R1に対するTNF−R2の存在比を上昇させるための組成物である。
かかる薬学的組成物(即ち該組成物に含まれる上記合成ペプチド)を用いることによって、上記(1)の処理を行うことができる。
従って、本発明は別の一側面として、かかる薬学的組成物(即ち該組成物に含まれる上記合成ペプチド)を用いて上記(1)の処理を行うことを特徴とする、生体内又は生体外において、所定の生体器官、組織若しくは部位に存在する少なくとも1種のTNF−R1及びTNF−R2をいずれも発現可能な細胞の該TNF−R2の存在量を増大させる方法を提供する。また、本発明は、かかる薬学的組成物(即ち該組成物に含まれる上記合成ペプチド)を用いて上記(1)の処理を行うことを特徴とする、該TNF−R2の存在量を増大させた細胞の製造方法を提供する。
【0013】
また、ここで開示される他の一つの組成物は、少なくとも1種のTNF−R1及びTNF−R2をいずれも発現可能な細胞におけるTNF−R2の存在量を減少させる組成物であって、少なくとも1種のTNF−R2のシグナルペプチド配列又は該配列中の1個又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加されて形成されたアミノ酸配列から実質的に構成される合成ペプチドと、薬学的に許容可能な担体とを含む、上記細胞におけるTNF−R1に対するTNF−R2の存在比を低下させるための組成物である。
かかる薬学的組成物(即ち該組成物に含まれる上記合成ペプチド)を用いることによって、上記(2)の処理を行うことができる。
従って、本発明は別の一側面として、かかる薬学的組成物(即ち該組成物に含まれる上記合成ペプチド)を用いて上記(2)の処理を行うことを特徴とする、生体内又は生体外において、所定の生体器官、組織若しくは部位に存在する少なくとも1種のTNF−R1及びTNF−R2をいずれも発現可能な細胞の該TNF−R2の存在量を減少させる方法を提供する。また、本発明は、かかる薬学的組成物(即ち該組成物に含まれる上記合成ペプチド)を用いて上記(2)の処理を行うことを特徴とする、該TNF−R2の存在量を減少させた細胞の製造方法を提供する。
【0014】
本発明の実施においては、TNF−R1のシグナルペプチド配列は配列番号1〜5のいずれかに示すアミノ酸配列であることが好ましい。これら、ヒト(配列番号1)、マウス(配列番号2)、ラット(配列番号3)、ウシ(配列番号4)、ブタ(配列番号5)由来のTNF−R1のシグナルペプチド配列を用いることによって、上記(1)の処理を好適に行うことができる。
また、本発明の実施においては、TNF−R2のシグナルペプチド配列は配列番号6〜8のいずれかに示すアミノ酸配列であることが好ましい。これら、ヒト(配列番号6)、マウス(配列番号7)、ラット(配列番号8)由来のTNF−R2のシグナルペプチド配列を用いることによって、上記(2)の処理を好適に行うことができる。
また、本発明の実施において用いられる合成ペプチドは、総アミノ酸残基数が25以下の化学合成ペプチドであることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、抗TNF−R1ポリクローナル抗体及び抗TNF−R2ポリクローナル抗体(一次抗体)と蛍光色素標識二次抗体とを用いて行った蛍光抗体法に基づくマウス由来の培養細胞のTNF−R1及びTNF−R2の存在バランスを調べた結果を示すグラフである。
図2図2は、抗TNF−R1ポリクローナル抗体及び抗TNF−R2ポリクローナル抗体(一次抗体)と蛍光色素標識二次抗体とを用いて行った蛍光抗体法に基づくヒト由来の培養細胞のTNF−R1及びTNF−R2の存在バランスを調べた結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えばここで開示される合成ペプチドの一次構造や鎖長)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えばペプチドの化学合成法、細胞培養技法、ペプチドを成分とする薬学的組成物の調製に関するような一般的事項)は、細胞工学、生理学、医学、薬学、有機化学、生化学、遺伝子工学、タンパク質工学、分子生物学、遺伝学等の分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、以下の説明では、場合に応じてアミノ酸をIUPAC-IUBガイドラインで示されたアミノ酸に関する命名法に準拠した1文字表記(但し配列表では3文字表記)で表す。
また、本明細書中で引用されている全ての文献の全ての内容は本明細書中に参照として組み入れられている。
【0017】
本明細書において「合成ペプチド」とは、人為的な化学合成或いは生合成(即ち遺伝子工学に基づく生産)によって製造されるペプチドをいう。
また、本明細書において「ペプチド」とは、複数のペプチド結合を有するアミノ酸ポリマーを指す用語であり、ペプチド鎖に含まれるアミノ酸残基の数によって限定されないが、典型的には全アミノ酸残基数が概ね50以下(例えば25以下)のような比較的分子量の小さいものをいう。
また、本明細書において「アミノ酸残基」とは、特に言及する場合を除いて、ペプチド鎖のN末端アミノ酸及びC末端アミノ酸を包含する用語である。
【0018】
また、本明細書において所定のアミノ酸配列に対して「改変アミノ酸配列」とは、当該所定のアミノ酸配列が有する機能(即ちTNF−R2の存在量(発現量)を増大若しくは減少させる機能)を損なうことなく、1個又は数個(例えば2個又は3個)のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加(挿入)されて形成されたアミノ酸配列をいう。例えば、1個又は数個(典型的には2個又は3個)のアミノ酸残基が保守的に置換したいわゆる同類置換(conservative amino acid replacement)によって生じた配列(例えば塩基性アミノ酸残基が別の塩基性アミノ酸残基に置換した配列:例えばリジン残基とアルギニン残基との相互置換)、或いは、所定のアミノ酸配列について1個又は数個(典型的には2個又は3個)のアミノ酸残基が付加(挿入)した若しくは欠失した配列等は、本明細書でいうところの改変アミノ酸配列に包含される典型例である。
従って、ここで開示される調節方法に用いられる、TNF−R2の存在量を増大させ得る合成ペプチド(以下、「TNF−R2促進ペプチド」ともいう。)ならびにTNF−R2の存在量を減少させ得る合成ペプチド(以下、「TNF−R2抑制ペプチド」ともいう。)には、以下で説明する各配列番号のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列で構成される合成ペプチドに加え、各配列番号のアミノ酸配列において1個又は数個(典型的には2個又は3個)のアミノ酸残基が置換(例えば上記同類置換)、欠失若しくは付加したアミノ酸配列であって、同様にTNF−R2の存在量を増大させるか若しくは減少させる活性があり、TNF−R1とTNF−R2の存在バランスを調節し得る改変アミノ酸配列からなる合成ペプチドが包含される。
また、本明細書において「ポリヌクレオチド」とは、複数のヌクレオチドがリン酸ジエステル結合で結ばれたポリマー(核酸)を指す用語であり、ヌクレオチドの数によって限定されない。種々の長さのDNAフラグメント及びRNAフラグメントが本明細書におけるポリヌクレオチドに包含される。
【0019】
ここで開示される調節方法に用いられる組成物は、上記TNF−R2促進ペプチド或いはTNF−R2抑制ペプチドを有効成分として含有する組成物である。
上述のとおり、ここで開示されるTNF−R2促進ペプチドは、TNF−R1のシグナルペプチド配列又はその改変アミノ酸配列から実質的に構成される合成ペプチドであるという点において、自然界には存在しない合成ペプチドといえる。同様に、TNF−R2抑制ペプチドは、TNF−R2のシグナルペプチド配列又はその改変アミノ酸配列から実質的に構成される合成ペプチドであるという点において、自然界には存在しない合成ペプチドといえる。
ここで開示されるTNF−R2促進ペプチド若しくはTNF−R2抑制ペプチドを構成するアミノ酸配列の好適例を表1に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
これら列挙したアミノ酸配列のうち、No.1〜5はTNF−R2促進ペプチドとして好適なTNF−R1のシグナルペプチド配列の一例である。また、No.6〜8はTNF−R2抑制ペプチドとして好適なTNF−R2のシグナルペプチド配列の一例である。
具体的には、配列番号1に示すアミノ酸配列は、ヒトのTNF−R1のシグナルペプチド配列である。配列番号2に示すアミノ酸配列は、マウスのTNF−R1のシグナルペプチド配列である。配列番号3に示すアミノ酸配列は、ラットのTNF−R1のシグナルペプチド配列である。配列番号4に示すアミノ酸配列は、ウシのTNF−R1のシグナルペプチド配列である。配列番号5に示すアミノ酸配列は、ブタのTNF−R1のシグナルペプチド配列である。
他方、配列番号6に示すアミノ酸配列は、ヒトのTNF−R2のシグナルペプチド配列である。配列番号7に示すアミノ酸配列は、マウスのTNF−R2のシグナルペプチド配列である。配列番号8に示すアミノ酸配列は、ラットのTNF−R2のシグナルペプチド配列である。
【0022】
好ましくは、ここで開示されるTNF−R2促進ペプチド及びTNF−R2抑制ペプチドは、少なくとも一つのアミノ酸残基がアミド化されているものが好ましい。アミノ酸残基(典型的にはペプチド鎖のC末端アミノ酸残基)のカルボキシル基のアミド化により、合成ペプチドの構造安定性(例えばプロテアーゼ耐性)を向上させることができる。
また、使用する合成ペプチドとしては、ペプチド鎖を構成する全アミノ酸残基数が50以下が適当であり、30以下が望ましく、例えば25以下が特に好ましい。一般的なTNF−R1又はTNF−R2のシグナルペプチド配列のアミノ酸残基数はこのような範囲に収まる。TNF−R1若しくはTNF−R2のシグナルペプチド配列又はその改変アミノ酸配列のみから成るペプチドは、好適にここで開示される調節方法に用いられる。
なお、ここで開示されるTNF−R2促進ペプチド及びTNF−R2抑制ペプチドは、TNF−R1若しくはTNF−R2のシグナルペプチド配列又はその改変アミノ酸配列をペプチド鎖の実質的な構成部分(主体をなす構成部分)とするものであればよく、目的とする生理活性機能を失わない限りにおいてTNF−R1若しくはTNF−R2のシグナルペプチド配列又はその改変アミノ酸配列以外のアミノ酸残基を含むペプチドであってもよい。
このような鎖長の短いペプチドは、化学合成が容易であり、容易にTNF−R2促進ペプチド及びTNF−R2抑制ペプチドを提供することができる。なお、ペプチドのコンホメーション(立体構造)については、使用する環境下(生体外若しくは生体内)で目的の活性を発揮する限りにおいて、特に限定されるものではないが、免疫原(抗原)になり難いという観点から直鎖状又はへリックス状のものが好ましい。このような形状のペプチドはエピトープを構成し難いという観点からも好適である。
なお、ここで開示されるTNF−R2促進ペプチド又はTNF−R2抑制ペプチドとしては、全てのアミノ酸残基がL型アミノ酸であるものが好ましいが、アミノ酸残基の一部又は全部がD型アミノ酸に置換されているものであってもよい。
【0023】
ここで開示される合成ペプチドは、一般的な化学合成法に準じて容易に製造することができる。例えば、従来公知の固相合成法又は液相合成法のいずれを採用してもよい。アミノ基の保護基としてBoc(t-butyloxycarbonyl)或いはFmoc(9-fluorenylmethoxycarbonyl)を適用した固相合成法が好適である。ここで開示される合成ペプチドは、市販のペプチド合成機(例えば、PerSeptive Biosystems社、Applied Biosystems社等から入手可能である。)を用いた固相合成法により、所望するアミノ酸配列、修飾(C末端アミド化等)部分を有するペプチド鎖を合成することができる。
【0024】
或いは、遺伝子工学的手法に基づいてTNF−R2促進ペプチドやTNF−R2抑制ペプチドを生合成してもよい。すなわち、所望するペプチドのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(ATG開始コドンを含む。)のポリヌクレオチド(典型的にはDNA)を合成する。そして、合成したポリヌクレオチド(DNA)と該アミノ酸配列を宿主細胞内で発現させるための種々の調節エレメント(プロモーター、リボゾーム結合部位、ターミネーター、エンハンサー、発現レベルを制御する種々のシスエレメントを包含する。)とから成る発現用遺伝子構築物を有する組換えベクターを、宿主細胞に応じて構築する。
一般的な技法によって、この組換えベクターを所定の宿主細胞に導入し、所定の条件で当該宿主細胞又は該細胞を含む組織や個体を培養する。このことにより、目的とするTNF−R2促進ペプチド又はTNF−R2抑制ペプチドを細胞内で発現、生産させることができる。
そして、宿主細胞(分泌された場合は培地中)からペプチドを単離し、精製することによって、目的のTNF−R2促進ペプチド及びTNF−R2抑制ペプチドを得ることができる。なお、組換えベクターの構築方法及び構築した組換えベクターの宿主細胞への導入方法等は、当該分野で従来から行われている方法をそのまま採用すればよく、かかる方法自体は特に本発明を特徴付けるものではないため、詳細な説明は省略する。
【0025】
例えば、宿主細胞内で効率よく大量に生産させるために融合タンパク質発現システムを利用することができる。すなわち、目的のTNF−R2促進ペプチド又はTNF−R2抑制ペプチドのアミノ酸配列をコードする遺伝子(DNA)を化学合成し、該合成遺伝子を適当な融合タンパク質発現用ベクター(例えばノバジェン社から提供されているpETシリーズ及びアマシャムバイオサイエンス社から提供されているpGEXシリーズのようなGST(Glutathione S-transferase)融合タンパク質発現用ベクター)の好適なサイトに導入する。そして該ベクターにより宿主細胞(典型的には大腸菌)を形質転換する。得られた形質転換体を培養して目的の融合タンパク質を調製する。次いで、該タンパク質を抽出及び精製する。次いで、得られた精製融合タンパク質を所定の酵素(プロテアーゼ)で切断し、遊離した目的のペプチド断片(設計したTNF−R2促進ペプチド又はTNF−R2抑制ペプチド)をアフィニティクロマトグラフィー等の方法によって回収する。このような従来公知の融合タンパク質発現システム(例えばアマシャムバイオサイエンス社により提供されるGST/Hisシステムを利用し得る。)を用いることによって、本発明のTNF−R2促進ペプチド又はTNF−R2抑制ペプチドを製造することができる。
或いは、無細胞タンパク質合成システム用の鋳型DNA(即ちTNF−R2促進ペプチド又はTNF−R2抑制ペプチドのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む合成遺伝子断片)を構築し、ペプチド合成に必要な種々の化合物(ATP、RNAポリメラーゼ、アミノ酸類等)を使用し、いわゆる無細胞タンパク質合成システムを採用して目的のペプチドをインビトロ合成することができる。無細胞タンパク質合成システムについては、例えばShimizuらの論文(Shimizu et al., Nature Biotechnology, 19, 751-755(2001))、Madinらの論文(Madin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97(2), 559-564(2000))が参考になる。これら論文に記載された技術に基づいて、本願出願時点において既に多くの企業がペプチドの受託生産を行っており、また、無細胞タンパク質合成用キット(例えば、日本の東洋紡績(株)から入手可能なPROTEIOS(商標)Wheat germ cell-free protein synthesis kit)が市販されている。
【0026】
ここで開示されるTNF−R2促進ペプチド又はTNF−R2抑制ペプチドをコードするヌクレオチド配列及び/又は該配列と相補的なヌクレオチド配列を含む一本鎖又は二本鎖のポリヌクレオチドは、従来公知の方法によって容易に製造(合成)することができる。すなわち、設計したアミノ酸配列を構成する各アミノ酸残基に対応するコドンを選択することによって、TNF−R2促進ペプチド又はTNF−R2抑制ペプチドのアミノ酸配列に対応するヌクレオチド配列が容易に決定され、提供される。そして、ひとたびヌクレオチド配列が決定されれば、DNA合成機等を利用して、所望するヌクレオチド配列に対応するポリヌクレオチド(一本鎖)を容易に得ることができる。さらに得られた一本鎖DNAを鋳型として用い、種々の酵素的合成手段(典型的にはPCR)を採用して目的の二本鎖DNAを得ることができる。
本発明によって提供されるポリヌクレオチドは、DNAの形態であってもよく、RNA(mRNA等)の形態であってもよい。DNAは、二本鎖又は一本鎖で提供され得る。一本鎖で提供される場合は、コード鎖(センス鎖)であってもよく、それと相補的な配列の非コード鎖(アンチセンス鎖)であってもよい。
本発明によって提供されるポリヌクレオチドは、上述のように、種々の宿主細胞中で又は無細胞タンパク質合成システムにて、TNF−R2促進ペプチド又はTNF−R2抑制ペプチド生産のための組換え遺伝子(発現カセット)を構築するための材料として使用することができる。
【0027】
ここで開示されるTNF−R2促進ペプチド又はTNF−R2抑制ペプチドは、少なくとも1種のTNF受容体発現対象細胞(典型的には中枢若しくは抹消の神経系を構成する細胞、或いは免疫系を構成する細胞、血管その他の循環器を構成する細胞、網膜その他の目の組織を構成する細胞)に作用して選択的にTNF−R2の存在量(発現量)を増大又は減少させることができる。
このため、上述したTNF−R1とTNF−R2の存在バランスを適宜調節する組成物(薬学的組成物)の有効成分として好適に使用し得る。なお、これらペプチドは、目的とする生理活性を損なわない限りにおいて、塩の形態であってもよい。例えば、常法に従って通常使用されている無機酸又は有機酸を付加反応させることにより得られ得る該ペプチドの酸付加塩を使用することができる。或いは、他の塩(例えば金属塩)であってもよい。本明細書及び特許請求の範囲に記載の「合成ペプチド」は、かかる塩形態のものを包含する。
【0028】
ここで開示されるTNF−R1に対するTNF−R2の存在比を上昇又は低下させるための組成物は、有効成分であるTNF−R2促進ペプチド又はTNF−R2抑制ペプチドの生理活性が失われない状態で保持し得る限りにおいて、使用形態に応じて薬学(医薬)上許容され得る種々の担体を含み得る。希釈剤、賦形剤等としてペプチド医薬において一般的に使用される担体が好ましい。用途や形態に応じて適宜異なり得るが、典型的には、水、生理学的緩衝液、種々の有機溶媒が挙げられる。適当な濃度のアルコール(エタノール等)水溶液、グリセロール、オリーブ油のような不乾性油であり得る。或いはリポソームであってもよい。また、かかる組成物に含有させ得る副次的成分としては、種々の充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、表面活性剤、色素、香料等が挙げられる。
【0029】
TNF−R1に対するTNF−R2の存在比を上昇又は低下させるための組成物の典型的な形態として、液剤、懸濁剤、乳剤、エアロゾル、泡沫剤、顆粒剤、粉末剤、錠剤、カプセル、軟膏、水性ジェル剤等が挙げられる。また、注射等に用いるため、使用直前に生理食塩水又は適当な緩衝液(例えばPBS)等に溶解して薬液を調製するための凍結乾燥物、造粒物とすることもできる。
なお、TNF−R2促進ペプチド又はTNF−R2抑制ペプチド(主成分)及び種々の担体(副成分)を材料にして種々の形態の組成物(薬剤)を調製するプロセス自体は従来公知の方法に準じればよく、かかる製剤方法自体は本発明を特徴付けるものでもないため詳細な説明は省略する。処方に関する詳細な情報源として、例えばComprehensive Medicinal Chemistry, Corwin Hansch監修,Pergamon Press刊(1990)が挙げられる。この書籍の全内容は本明細書中に参照として援用されている。
【0030】
本発明の調節方法の適用対象とする器官、組織又は部位は、当該適用対象においてTNF−R1に加えてTNF−R2を発現可能な細胞が存在するのであれば特に制限されない。例えば脳や脊髄といった中枢神経系若しくは末梢神経系の細胞(例えば神経細胞(ニューロン)、グリア細胞)、免疫系の細胞(例えば種々のリンパ球、マクロファージ、好中球、好酸球、好塩基球、単球)、血管を含む循環器系の細胞(例えば心臓を構成する心筋細胞、血管内皮細胞)、網膜の細胞、等に対して本発明を適用することができる。
或いは、各種の腫瘍(癌)に含まれるがん細胞(腫瘍細胞)に対して本発明を適用することができる。
或いはまた、ES細胞(胚性幹細胞)、iPS細胞(人工多能性幹細胞)、脂肪肝細胞、軟骨幹細胞等の間葉系幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、等の幹細胞に対して本発明を適用することができる。
【0031】
ここで開示されるTNF−R2促進ペプチド又はTNF−R2抑制ペプチド(又はこれらのいずれかのペプチドを含む組成物)は、その形態及び目的に応じた方法や用量で使用することができる。
例えば、生体外で培養している細胞(細胞塊)、組織、器官に対しては、対象とする培養細胞(培養組織又は器官)の培地に目的のペプチドを添加するとよい。添加量及び添加回数は、培養物の種類、細胞密度(培養開始時の細胞密度)、継代数、培養条件、培地の種類、等の条件によって異なり得るため特に限定されないが、ヒト或いはヒト以外の哺乳動物の細胞、組織等を培養する場合、培地中のペプチド濃度が概ね0.1μM〜100μMの範囲内、好ましくは0.5μM〜20μM(例えば1μM〜10μM)の範囲内となるように、1〜複数回添加することが好ましい。
ここで開示されるTNF−R2促進ペプチド又はTNF−R2抑制ペプチドをインビトロ培養系に添加することにより、当該培養系においてTNF−R1に対するTNF−R2の存在比を調節することができる。
【0032】
或いはまた、生体内において所定の器官、組織若しくは部位(或いは所定の部位に移植した組織片若しくは細胞塊)においてTNF−R1に対するTNF−R2の存在比を調節する場合、即ちTNF−R2の存在量を増大させてTNF−R1に対するTNF−R2の存在比を上昇させたい場合は、TNF−R2促進ペプチドの適当量を液剤として、静脈内、筋肉内、皮下、皮内若しくは腹腔内への注射によって患者(即ち生体内)に所望する量だけ投与することができる。他方、TNF−R2の存在量を減少させてTNF−R1に対するTNF−R2の存在比を低下させたい場合は、TNF−R2抑制ペプチドの適当量を同様に投与すればよい。
或いは、錠剤等の固体形態のものや軟膏等のゲル状若しくは水性ジェリー状のものを直接所定の組織(即ち該組織を構成している細胞)に投与することができる。なお、添加量及び添加回数は、上記存在バランスを調節したい細胞の種類、該細胞が存在する部位、器官、組織等の条件によって異なり得るため特に限定されない。
【0033】
以上に記載のとおり、ここで開示されるTNF−R1とTNF−R2の存在バランスを調節する方法は、上記(1)の処理、又は上記(2)の処理のうちのいずれか一方を実施すればよい。或いは、目的、時期に応じて上記(1)の処理と(2)の処理とを、時期をずらしながら適宜組み合わせて、TNF−R1に対するTNF−R2の存在比の調節を適宜行うこともできる。
以下、本発明に関する試験例を説明するが、本発明をかかる例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0034】
<試験例1:ペプチド合成>
上述した表1に示す配列番号1のアミノ酸配列からなる合成ペプチド(TNF−R2促進ペプチド)と、配列番号2のアミノ酸配列からなる合成ペプチド(TNF−R2促進ペプチド)と、配列番号5のアミノ酸配列からなる合成ペプチド(TNF−R2促進ペプチド)と、配列番号6のアミノ酸配列からなる合成ペプチド(TNF−R2抑制ペプチド)と、配列番号7のアミノ酸配列からなる合成ペプチド(TNF−R2抑制ペプチド)とを市販のペプチド合成機(Intavis AG社製品)を用いてマニュアルどおりに固相合成法(Fmoc法)を実施して合成した。合成した各ペプチドを、配列番号に対応させてそれぞれサンプル1、2、5、6、7という。これらペプチドは、全体が21(サンプル1、2、5に係るTNF−R2促進ペプチド)若しくは22(サンプル6、7に係るTNF−R2抑制ペプチド)のアミノ酸残基から成る直鎖状の化学合成ペプチドである。なお、ペプチド合成機の使用態様自体は本発明を特徴付けるものではないため、詳細な説明は省略する。
【0035】
<試験例2:マウス由来の細胞株を用いた各合成ペプチドのTNF−R2発現促進活性又は抑制活性の評価試験>
上記試験例1において合成されたサンプル1およびサンプル6のペプチドの性能を、マウス脊髄の神経芽細胞腫由来の培養細胞である細胞株(Neuro2a株)を用いて調べた。コントロール区としてペプチド無添加区を設けた。本評価試験の詳細は以下のとおりである。
先ず、上記試験例1で合成した各ペプチドをPBS(リン酸緩衝生理食塩水)に溶かし、ペプチド濃度が1mMのストック液(少量のジメチルスルホキシド(DMSO)を含む。)を調製した。
次に、Neuro2a細胞株を8.5×10cells/mLの密度に直径6cmの培養ディッシュに播種した。培地は一般的なDMEM培地(10%のFBS、1%ペニシリンを含有する。)を用い、37℃、5%CO条件下のCOインキュベータ内で一晩培養した。
その一晩培養後、培地を2%のFBS、20μMのレチノイン酸、1%のペニシリンを含有するDMEM培地に交換し、同条件で7日間培養することによってレチノイン酸を用いた誘導を行った。その後、培地を2%のFBS、20μMのレチノイン酸、1%のペニシリンに加えて5μMとなる量のサンプル1に係るTNF−R2促進ペプチド若しくはサンプル6に係るTNF−R2抑制ペプチドを含有するDMEM培地(このときDMSOを12.5μL含む。)に交換し、同条件で2日間培養を継続した。なお、コントロール区(ペプチド無添加区)においては、ペプチド無しで上記の量のDMSOだけ加えたDMEM培地(2%FBS、20μMレチノイン酸、1%ペニシリンを含む。)を用いて2日間の培養を行った。
【0036】
上記培養終了後、各試験区の培養細胞を回収し、細胞数が同じになるようにして所定の試験管に分注した。次いで、以下の蛍光抗体法により、各試験区(TNF−R2促進ペプチド添加区、TNF−R2抑制ペプチド添加区)におけるTNF−R1とTNF−R2の存在バランスの変化について調べた。
具体的には、各試験区において、TNF−R1の測定は、抗TNF−R1ウサギポリクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology, Inc製品、SC-7895)を最終濃度:4×10−3mg/mLとなるように各試験管に添加し、37℃で所定時間インキュベートした。そして、二次抗体として蛍光色素(Alexa(登録商標)488)で標識した抗ウサギIgG抗体(ヤギ:Invitrogen社製品、A11034)を最終濃度:2×10−3mg/mLとなるように試験管に添加し、37℃で所定時間インキュベートした。
一方、TNF−R2の測定は、抗TNF−R2ヤギポリクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology, Inc製品、SC-1074)を最終濃度:4×10−3mg/mLとなるように各試験管に添加し、37℃で所定時間インキュベートした。そして、二次抗体として蛍光色素(Alexa(登録商標)488)で標識した抗ヤギIgG抗体(ロバ:Invitrogen社製品、A11055)を最終濃度:4×10−3mg/mLとなるように試験管に添加し、37℃で所定時間インキュベートした。
【0037】
而して、フローサイトメーター(Millipore社製品、Guava(登録商標) easyCyte 8HT)を用いて細胞の蛍光強度を測定した。結果を図1に示す。なお、TNF−R1の蛍光強度及びTNF−R2の蛍光強度のいずれについてもコントロール区(ペプチド無添加区)におけるTNF−R1又はTNF−R2の蛍光強度を1とした相対値で示している。
【0038】
図1に示すように、サンプル1に係るTNF−R2促進ペプチド(TNF−R1のシグナルペプチド)をマウス由来の細胞株(Neuro2a株)に添加すると、TNF−R1の存在量はあまり変化ないもののTNF−R2の存在量(発現量)が著しく増大した。これにより、TNF−R1に対するTNF−R2の存在比を著しく上昇させることができた。
その一方で、サンプル6に係るTNF−R2抑制ペプチド(TNF−R2のシグナルペプチド)をマウス由来の細胞株(Neuro2a株)に添加すると、TNF−R1の存在量はあまり変化ないもののTNF−R2の存在量(発現量)が著しく減少した。これにより、TNF−R1に対するTNF−R2の存在比を著しく低下させることができた。
本試験例から明らかなように、ここで開示されるTNF−R2促進ペプチド、TNF−R2抑制ペプチドを使用し、また使い分けることによって、目的とする細胞種におけるTNF−R1とTNF−R2との存在バランスを調節することができるとわかった。
【0039】
<試験例3:ヒト由来の細胞株を用いた各合成ペプチドのTNF−R2発現促進活性又は抑制活性の評価試験>
上記試験例1において合成した各ペプチドの性能を、ヒトの神経芽細胞腫由来の培養細胞である細胞株(SK−N−SH株)を用いて調べた。コントロール区としてペプチド無添加区を設けた。本評価試験の詳細は以下のとおりである。
先ず、上記試験例1で合成した各ペプチドをDMSOに溶かし、ペプチド濃度が4mMのストック液を調製した。
次に、SK−N−SH株を1.5×10cells/mLの密度に直径6cmの培養ディッシュに4mL播種した。培地は一般的なDMEM培地(10%のFBS(Hyclone社製品、KSD)、2mMのL−グルタミン、50ユニット/mLのペニシリン、及び50μg/mLのストレプトマイシンを含有する。)を用い、37℃、5%CO条件下のCOインキュベータ内で一晩培養した。細胞密度が低めであったため、更にもう一日培養を続けた。
その二晩培養後、新しいDMEM培地(2%のFBS、20μMのレチノイン酸、2mMのL−グルタミン、50ユニット/mLのペニシリン、及び50μg/mLのストレプトマイシンを含有する。)に交換し、同条件で5日間培養することによってレチノイン酸を用いた誘導を行った。
その後、2%のFBS、20μMのレチノイン酸、2mMのL−グルタミン、50ユニット/mLのペニシリン、50μg/mLのストレプトマイシンに加えて、5μMとなる量の上記試験例1で合成した各ペプチド(TNF−R2促進ペプチド若しくはTNF−R2抑制ペプチド)を含有するDMEM培地(このときDMSOを5μL含む。)に交換し、同条件で2日間培養を継続した。
なお、コントロール区(ペプチド無添加区)においては、ペプチド無しで上記の量のDMSOだけを加えたDMEM培地(2%のFBS、20μMのレチノイン酸、2mMのL−グルタミン、50ユニット/mLのペニシリン、及び50μg/mLのストレプトマイシンを含有する。)を用いて2日間の培養を行った。
【0040】
上記培養終了後、各試験区の培養細胞を回収し、細胞数が同じになるようにして所定の試験管に分注した。次いで、以下の蛍光抗体法により、各試験区(TNF−R2促進ペプチド添加区、TNF−R2抑制ペプチド添加区)におけるTNF−R1とTNF−R2の存在バランスの変化について調べた。
具体的には、各試験区において、TNF−R1の測定は、抗TNF−R1マウスポリクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology, Inc製品、SC-52739)を最終濃度:2×10−3mg/mLとなるように各試験管に添加し、氷冷中で所定時間インキュベートした。そして、二次抗体として蛍光色素(Alexa(登録商標)488)で標識した抗マウスIgG抗体(ヤギ:Invitrogen社製品、A10029)を最終濃度:4×10−3mg/mLとなるように試験管に添加し、氷冷中で所定時間インキュベートした。
一方、TNF−R2の測定は、抗TNF−R2ヤギポリクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology, Inc製品、SC-1074)を最終濃度:4×10−3mg/mLとなるように各試験管に添加し、氷冷中で所定時間インキュベートした。そして、二次抗体として蛍光色素(Alexa(登録商標)647)で標識した抗ヤギIgG抗体(ドンキー:Invitrogen社製品、A21447)を最終濃度:4×10−3mg/mLとなるように試験管に添加し、氷冷中で所定時間インキュベートした。
【0041】
而して、上記試験例2と同様に、フローサイトメーターを用いて細胞の蛍光強度を測定した。結果を図2に示す。なお、TNF−R1の蛍光強度及びTNF−R2の蛍光強度のいずれについてもコントロール区(ペプチド無添加区)におけるTNF−R1又はTNF−R2の蛍光強度を1とした相対値で示している。
【0042】
図2に示すように、サンプル1若しくはサンプル2若しくはサンプル5に係るTNF−R2促進ペプチド(TNF−R1のシグナルペプチド)をヒト由来の細胞株(SK−N−SH株)に添加すると、TNF−R1の存在量はあまり変化ないもののTNF−R2の存在量(発現量)が増大した。これにより、TNF−R1に対するTNF−R2の存在比を著しく上昇させることができた。
その一方で、サンプル6若しくはサンプル7に係るTNF−R2抑制ペプチド(TNF−R2のシグナルペプチド)をヒト由来の細胞株(SK−N−SH株)に添加すると、TNF−R1の存在量はあまり変化ないもののTNF−R2の存在量(発現量)が減少した。これにより、TNF−R1に対するTNF−R2の存在比を著しく低下させることができた。
以上の結果から明らかなように、ここで開示されるTNF−R2促進ペプチド、TNF−R2抑制ペプチドを使用し、また使い分けることによって、種々の細胞種におけるTNF−R1とTNF−R2との存在バランスを調節することができる。
【0043】
<試験例4:顆粒剤の調製>
上記各合成ペプチド(TNF−R2促進ペプチド若しくはTNF−R2抑制ペプチド)50mgと結晶化セルロース50mg及び乳糖400mgとを混合した後、エタノールと水の混合液1mLを加え混練した。この混練物を常法に従って造粒し、ここで開示されるTNF−R2促進ペプチド若しくはTNF−R2抑制ペプチドを主成分とする顆粒剤(顆粒状組成物)を得た。
【産業上の利用可能性】
【0044】
上述のように、本発明によると、対象とする器官、組織、又は部位に存在する細胞のTNF−R1とTNF−R2との存在バランスを調節することができる。従って、本発明は、TNF−R1に対するTNF−R2の存在比が影響してTNFが関与する種々の疾病や傷害の治療若しくは改善に資することができる。或いはまた、本発明は、TNF−R1やTNF−R2が関与する疾病(障害)を改善させることを目標とした研究開発分野において好適に実施することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0045】
図1
図2
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]