特許第6292568号(P6292568)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人京都大学の特許一覧 ▶ 日本メジフィジックス株式会社の特許一覧

特許6292568ウレア誘導体化合物、これを含有する放射性医薬
<>
  • 特許6292568-ウレア誘導体化合物、これを含有する放射性医薬 図000012
  • 特許6292568-ウレア誘導体化合物、これを含有する放射性医薬 図000013
  • 特許6292568-ウレア誘導体化合物、これを含有する放射性医薬 図000014
  • 特許6292568-ウレア誘導体化合物、これを含有する放射性医薬 図000015
  • 特許6292568-ウレア誘導体化合物、これを含有する放射性医薬 図000016
  • 特許6292568-ウレア誘導体化合物、これを含有する放射性医薬 図000017
  • 特許6292568-ウレア誘導体化合物、これを含有する放射性医薬 図000018
  • 特許6292568-ウレア誘導体化合物、これを含有する放射性医薬 図000019
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6292568
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】ウレア誘導体化合物、これを含有する放射性医薬
(51)【国際特許分類】
   C07D 207/416 20060101AFI20180305BHJP
   A61K 51/04 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   C07D207/416CSP
   A61K51/04 200
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-230229(P2013-230229)
(22)【出願日】2013年11月6日
(65)【公開番号】特開2015-89881(P2015-89881A)
(43)【公開日】2015年5月11日
【審査請求日】2016年10月18日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第53回日本核医学会学術総会2013年9月30日発行一般社団法人日本核医学会 目次,第197頁に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24〜25年度「(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構 がん超早期診断・治療機器の総合研究開発/超早期高精度診断システムの研究開発:画像診断システムの研究開発/がんの性状をとらえる分子プローブ等の研究開発(がんの特性識別型分子プローブ)」の委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000230250
【氏名又は名称】日本メジフィジックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131613
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 章宏
(74)【代理人】
【識別番号】100168848
【弁理士】
【氏名又は名称】黒崎 文枝
(72)【発明者】
【氏名】佐治 英郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 寛之
(72)【発明者】
【氏名】松本 博樹
【審査官】 安藤 倫世
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−529919(JP,A)
【文献】 特開2014−051442(JP,A)
【文献】 HARADA, N. ET AL,Preparation of Asymmetric Urea Derivatives that Target Prostate-Specific Membrane Antigen for SPECT Imaging,Journal of Medicinal Chemistry,2013年 9月24日,56(20),7890-7901
【文献】 World Molecular Imaging Congress ウェブサイト,2012年 8月27日,http://wmis2012.omnibooksonline.com/data/papers/P654.htm
【文献】 CHEN. Y. ET AL,Radiohalogenated Prostate-Specific Membrane Antigen (PSMA)-Based Ureas as Imaging Agents for Prostate Cancer,Journal of Medicinal Chemistry,2008年,51(24),7933-7943
【文献】 CAI, W. ET AL,A thiol-reactive 18F-labeling agent, N-[2-(4-18F-fluorobenzamido)ethyl]maleimide, and synthesis of RGD peptide-based tracer for PET imaging of αvβ3 integrin expression,Journal of Nuclear Medicine,2006年,47(7),1172-1180
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
(式(1)中、mは0又は1、nは4の整数、Rはルボキシル基、Fは放射性フッ素を示す。)
で表わされるウレア誘導体化合物又はその塩。
【請求項2】
前記式(1)中、mが0を示す、請求項1に記載のウレア誘導体化合物又はその塩。
【請求項3】
前記式(1)中、mが1を示す、請求項1に記載のウレア誘導体化合物又はその塩。
【請求項4】
前記式(1)で表される化合物が、
・2−(3−(1−カルボキシ−2−((1−(5−カルボキシ−5−(4−18F]フルオロベンズアミド)ペンチル−2,5−ジオキソピロリジン−3−イル)チオ)エチル)ウレイド)ペンタン二酸;又は、
・2−(3−((1−カルボキシ−2−((1−(5−カルボキシ−5−(5−(4−18F]フルオロベンズアミド)ペンタミド)ペンチル)−2,5−ジオキソピロリジン−3−イル)チオ)エチル)ウレイド)ペンタン二酸
である、請求項1に記載のウレア誘導体化合物又はその塩。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか一項に記載のウレア誘導体化合物又はその塩を含有する、放射性医薬。
【請求項6】
請求項1乃至4いずれか一項に記載のウレア誘導体化合物又はその塩を有効成分として含有する、前立腺特異的膜抗原(PSMA)の放射性イメージング剤。
【請求項7】
下記式(2):
【化2】
(式(2)中、mは0又は1、nは4の整数、Rはカルボキシル基を示す。)
で表される化合物と、N−スクシンイミジル 18F]フルオロベンゾエートとを反応させる第1工程と、
前記第1工程で得られる反応生成物と、2−[3−[1−カルボキシ‐2−メルカプトエチル]ウレイド ペンタン二酸とを反応させて、下記式(1):
【化3】
(式(1)中、mは0又は1、nは4の整数、Rはカルボキシル基、F18を示す。)
で表されるウレア誘導体化合物を得る第2工程と、
を含む、ウレア誘導体化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前立腺特異的膜抗原(PSMA)に親和性を有するウレア誘導体化合物、及び、該化合物を含有する放射性医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
前立腺特異的膜抗原(PSMA)は、グルタミン酸カルボキシペプチダーゼII(GCPII)として知られている酵素(EC 3.4.17.21)である。PSMAは、N-アセチル-L-アスパルチル-L-グルタマーテペプチダーゼI(NAALADase I)、又は葉酸ヒドロラーゼとも呼ばれることがある。
【0003】
従来、米国では、PSMAを標的としたモノクローナル抗体をIn-111で標識したProstataScintなる商標のイメージング剤が臨床で使用されているが、この抗体はPSMAの膜内に位置するエピトープを認識するものであり、死滅または乾燥した前立腺癌細胞にしか結合しないと考えられており、広く普及するには至っていない(非特許文献1)。また、PSMAの膜外領域に結合するモノクローナル抗体をIn-111で標識したものも開発され、前立腺癌を移植したマウスに集積したことが報告されている(非特許文献2)。しかし、これらのモノクローナル抗体を利用したイメージング剤は、循環血漿中の半減期が長く、抗体の体内動態が遅く、固体腫瘍、特に骨転移部への浸透性が低く、In-111による画像が不鮮明になるなどの欠点を有している。
【0004】
そこで、PSMAに親和性の低分子化合物をPSMAプローブとして用いたイメージング剤が既に幾つか提案されている(特許文献1及び2)。本発明者も、チオールとマレイミドとの間の求核共役付加反応を利用して合成したウレア誘導体をI-123標識したPSMAプローブが、合成の容易さとPSMAに対する親和性の点で有望であることを見出している(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Ponsky L. et al., Prostate Cancer Prostatic Dis., 5, 132-135 (2002).
【非特許文献2】Liu H. et al., Cancer Res., 57, 3629-3634 (1997).
【非特許文献3】Harada N. et al., J. Med. Chem., 56 (20), 7890-7901 (2013).
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2013/028664号公報
【特許文献2】国際公開2010/014933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、I-123で標識したPSMAプローブの場合、シングル・フォト・エミッションCT(SPECT)で撮像することになるため、空間分解能や定量性の点で限界があり、ポジトロン・エミッション・トモグラフィー(PET)で撮像できるPSMAプローブが望まれている。
【0008】
本発明は、フッ素基を有しつつ、PSMAへの親和性が維持又は向上された、ウレア誘導体化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一局面によれば、下記式(1):
【化1】

(式(1)中、mは0又は1、nは1〜4の整数、Rは水素又はカルボキシル基、Fは非放射性フッ素又は放射性フッ素を示す。)
で表わされるウレア誘導体化合物又はその塩を提供する。
【0010】
また、本発明は、他の局面によれば、上記のウレア誘導体化合物又はその塩を含有する、放射性医薬を提供する。
【0011】
また、本発明は、他の局面によれば、上記のウレア誘導体化合物又はその塩を有効成分として含有する、前立腺特異的膜抗原(PSMA)の放射性イメージング剤を提供する。
【0012】
さらに、本発明は、下記式(2):
【化2】

(式(2)中、mは0又は1、nは1〜4の整数、Rは水素又はカルボキシル基を示す。)
で表される化合物と、N−スクシンイミジル フルオロベンゾエートとを反応させる第1工程と、
前記第1工程で得られる反応生成物と、2−[3−[1−カルボキシ‐2−メルカプトエチル]ウレイド ペンタン二酸とを反応させて、上記式(1)で表されるウレア誘導体化合物を得る第2工程と、
を含む、ウレア誘導体化合物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、フッ素基を有しつつ、PSMAへの親和性が維持又は向上された、ウレア誘導体化合物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】上記式(1)の化合物(但し、m=0)の代表的化合物の合成経路を示すスキームである。
図2】上記式(1)の化合物(但し、m=1)の代表的化合物の合成経路を示すスキームである。
図3】上記式(1)の化合物(但し、m=0)の代表的化合物の別の合成経路を示すスキームである。
図4】上記式(1)の化合物(但し、m=1)の代表的化合物の別の合成経路を示すスキームである。
図5】実施例13のインビボブロッキング評価結果を示すグラフである。
図6】実施例14において(2S)−2−(3−((1R)−1−カルボキシ−2−((1−((S)−5−カルボキシ−5−(4−[18F]フルオロベンズアミド)ペンチル−2,5−ジオキソピロリジン−3−イル)チオ)エチル)ウレイド)ペンタン二酸(化合物[18F]8a)を用いた場合のマウスのPET/CT画像であり、左パネルは矢状面画像であり、右パネルは冠状面画像である。
図7】実施例14において(2S)−2−(3−((1R)−1−カルボキシ−2−((1−((S)−5−カルボキシ−5−(5−(4−[18F]フルオロベンズアミド)ペンタアミド)ペンチル)−2,5−ジオキソピロリジン−3−イル)チオ)エチル)ウレイド)ペンタン二酸(化合物[18F]12c)を用いた場合のマウスのPET/CT画像であり、左パネルは矢状面画像であり、右パネルは冠状面画像である。
図8】実施例14において2−(ホスホノメチル)ペンタン二酸(2−PMPA)と(2S)−2−(3−((1R)−1−カルボキシ−2−((1−((S)−5−カルボキシ−5−(4−[18F]フルオロベンズアミド)ペンチル−2,5−ジオキソピロリジン−3−イル)チオ)エチル)ウレイド)ペンタン二酸(化合物[18F]8a)を同時投与した場合のマウスのPET/CT画像であり、左パネルは矢状面画像であり、右パネルは冠状面画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(本発明の化合物またはその塩)
本発明の化合物は、上記式(1)で表される化合物である。式(1)中、mは0又は1を示すが、PSMAに対する親和性が高く、かつ、非特異的吸着が少ない観点から、m=0が好ましい。
【0016】
また、式(1)中、nは1〜4の整数を示すが、PSMAに対する親和性が高い観点から、nは4の整数が好ましい。
【0017】
また、式(1)中、Rは水素又はカルボキシル基(COOH基)であるが、PSMAに対する親和性が高い観点から、カルボキシル基が好ましい。
【0018】
式(1)中、Fは非放射性フッ素又は放射性フッ素を示す。本明細書において、非放射性フッ素はフッ素−19であり、放射性フッ素とはフッ素の放射性同位体である。Fは放射性フッ素が好ましく、PETプローブとしてPSMAの非侵襲的画像化が可能になる観点から、フッ素−18がより好ましい。
【0019】
本発明に係るウレア標識化合物は、PSMAに対する親和性が向上する観点から光学異性体であることが好ましい。具体的には、下記式(3)で表される化合物が好ましい。
【化3】

(式(3)中、mは0又は1、nは1〜4の整数、Rは水素又はカルボキシル基、Fは非放射性フッ素又は放射性フッ素を示す。)
【0020】
本発明の化合物として、具体的には、以下のウレア誘導体化合物が挙げられる。
・2−(3−(1−カルボキシ−2−((1−(5−カルボキシ−5−(4−フルオロベンズアミド)ペンチル−2,5−ジオキソピロリジン−3−イル)チオ)エチル)ウレイド)ペンタン二酸(式(1)中、mは0、Rはカルボキシル基、Fは非放射性フッ素又は放射性フッ素を示す化合物);
・2−(3−(1−カルボキシ−2−((1−(5−(4−フルオロベンズアミド)ペンチル)−2,5−ジオキソピロリジン−3−イル)チオ)エチル)ウレイド)ペンタン二酸(式(1)中、mは0、Rは水素、Fは非放射性フッ素又は放射性フッ素を示す化合物);
・2−(3−(1−カルボキシ−2−((1−(5−カルボキシ−5−(2−(4−フルオロベンズアミド)アセタミド)ペンチル−2,5−ジオキソピロリジン−3−イル)チオ)エチル)ウレイド)ペンタン二酸(式(1)中、mは1、nは1、Rはカルボキシル基、Fは非放射性フッ素又は放射性フッ素を示す化合物);
・2−(3−(1−カルボキシ−2−((1−(5−(2−(4−フルオロベンズアミド)アセタミド)ペンチル−2,5−ジオキソピロリジン−3−イル)チオ)エチル)ウレイド)ペンタン二酸(式(1)中、mは1、nは1、Rは水素、Fは非放射性フッ素又は放射性フッ素を示す化合物)
・2−(3−(1−カルボキシ−2−((1−(5−カルボキシ−5−(5−(4−フルオロベンズアミド)ペンタミド)ペンチル)−2,5−ジオキソピロリジン−3−イル)チオ)エチル)ウレイド)ペンタン二酸(式(1)中、mは1、nは4、Rはカルボキシル基、Fは非放射性フッ素又は放射性フッ素を示す化合物);
・2−(3−(1−カルボキシ−2−((1−(5−(5−(4−フルオロベンズアミド)アセタミド)ペンチル)−2,5−ジオキソピロリジン−3−イル)チオ)エチル)ウレイド)ペンタン二酸(式(1)中、mは1、nは4、Rは水素、Fは非放射性フッ素又は放射性フッ素を示す化合物)。
【0021】
PSMAに対する親和性が向上する観点からは、下記のウレア誘導体化合物が好ましい。
・(2S)−2−(3−((1R)−1−カルボキシ−2−((1−((S)−5−カルボキシ−5−(4−フルオロベンズアミド)ペンチル−2,5−ジオキソピロリジン−3−イル)チオ)エチル)ウレイド)ペンタン二酸(式(3)中、mは0、Rはカルボキシル基、Fは非放射性フッ素又は放射性フッ素を示す化合物);
・(2S)−2−(3−((1R)−1−カルボキシ−2−((1−(5−(4−フルオロベンズアミド)ペンチル)−2,5−ジオキソピロリジン−3−イル)チオ)エチル)ウレイド)ペンタン二酸(式(3)中、mは0、Rは水素、Fは非放射性フッ素又は放射性フッ素を示す化合物);
・(2S)−2−(3−((1R)−1−カルボキシ−2−((1−(S)−5−カルボキシ−5−(2−(4−フルオロベンズアミド)アセタミド)ペンチル−2,5−ジオキソピロリジン−3−イル)チオ)エチル)ウレイド)ペンタン二酸(式(3)中、mは1、nは1、Rはカルボキシル基、Fは非放射性フッ素又は放射性フッ素を示す化合物);
・(2S)−2−(3−((1R)−1−カルボキシ−2−((1−(5−(2−(4−フルオロベンズアミド)アセタミド)ペンチル−2,5−ジオキソピロリジン−3−イル)チオ)エチル)ウレイド)ペンタン二酸(式(3)中、mは1、nは1、Rは水素、Fは非放射性フッ素又は放射性フッ素を示す化合物)
・(2S)−2−(3−((1R)−1−カルボキシ−2−((1−((S)−5−カルボキシ−5−(5−(4−フルオロベンズアミド)ペンタミド)ペンチル)−2,5−ジオキソピロリジン−3−イル)チオ)エチル)ウレイド)ペンタン二酸(式(3)中、mは1、nは4、Rはカルボキシル基、Fは非放射性フッ素又は放射性フッ素を示す化合物);
・(2S)−2−(3−((1R)−1−カルボキシ−2−((1−(5−(5−(4−フルオロベンズアミド)アセタミド)ペンチル)−2,5−ジオキソピロリジン−3−イル)チオ)エチル)ウレイド)ペンタン二酸(式(3)中、mは1、nは4、Rは水素、Fは非放射性フッ素又は放射性フッ素を示す化合物)。
【0022】
本発明のウレア誘導体化合物は、上記式(1)の化合物が、塩の形態であってもよい。
上記一般式(1)で表される化合物が塩基である場合、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸、又は、酢酸、トリフルオロ酢酸、マレイン酸、コハク酸、マンデル酸、フマル酸、マロン酸、ピルビン酸、シュウ酸、グリコール酸、サリチル酸、ピラノシジル酸(グルクロン酸、ガラクツロン酸など)、α‐ヒドロキシ酸(クエン酸、酒石酸など)、アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸など)、芳香族酸(安息香酸、ケイ皮酸など)、スルホン酸(p‐トルエンスルホン酸、エタンスルホン酸など)などの有機酸から誘導される塩にすることができる。
【0023】
また、上記式(1)で表される化合物が酸である場合、例えば、アミノ酸(グリシン、アルギニンなど)、アンモニア、第一級、第二級及び第三級アミン及び環状アミン(ピペリジン、モルホリン、ピペラジンなど)などの有機塩基、又は、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化マンガン、水酸化鉄、水酸化銅、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化リチウムなどの無機塩基から誘導される塩にすることができる。
【0024】
(本発明の化合物またはその塩の製造方法)
本発明のウレア誘導体化合物の製造方法は、上記式(2)で表される化合物と、N−スクシンイミジル フルオロベンゾエートとを反応させる工程(第1工程)と、第1工程で得られる反応生成物と、2−[3−[1−カルボキシ‐2−メルカプトエチル]ウレイド ペンタン二酸(Cys−CO−Glu)とを反応させて、上記式(1)で表されるウレア誘導体化合物を得る工程(第2工程)とを含むものである。
【0025】
上記式(2)で表される化合物は、アミニウム基を有するが、カウンターアニオンとしては、例えば、塩化物イオン、臭化物イオン、又はヨウ化物イオンといったハロゲンイオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、酢酸イオンなどの無機イオン;トリフルオロ酢酸イオン、マレイン酸イオン、コハク酸イオン、マンデル酸イオン、フマル酸イオン、マロン酸イオン、ピルビン酸イオン、シュウ酸イオン、グリコール酸イオン、サリチル酸イオン、ピラノシジル酸イオン(グルクロン酸イオン、ガラクツロン酸イオンなど)、α‐ヒドロキシ酸イオン(クエン酸イオン、酒石酸イオンなど)、スルホン酸イオン(p‐トルエンスルホン酸イオン、エタンスルホン酸イオンなど)などの有機酸イオンが挙げられる。
【0026】
第1工程は、例えば、アセトニトリルなどの非プロトン性極性溶媒中、N,N−ジイソプロピルエチルアミンなどの三級アミンを存在下に実行することができる。これにより、一方の末端にフルオロフェニル基を備え、他方の末端にマレイミド基を備える化合物を得ることができる。
【0027】
第2工程は、第1工程の後に、Cys−CO−Gluをそのまま加えればよいが、このとき、Cys−CO−Gluの水溶液を添加すると好ましい。これにより、チオールとマレイミドとの間の求核共役付加反応を生起させることができる。その後、固相カートリッジや高速液体クロマトグラフィーなどの、通常の精製法を採用することにより、上記式(1)で表されるウレア誘導体化合物を得ることができる。
【0028】
以下、図1、3、4を例に取りつつ、具体的に説明する。
上記式(1)中、m=0の化合物は、例えば、図1、3のスキームに従って製造することができる。上記式(2)(ただし、m=0)の化合物は、まず、プトレシンまたはオルニチンなどのジアミンのα炭素位のアミノ基をBoc基等のアミノ酸保護基で保護し、N−カルボキシマレイミドと反応させた後、上記アミノ酸保護基を脱保護し、2−アミノ−6−(2,5−ジヒドロ−2,5−ジオキソ−1H−ピロール)−1‐へキサン酸の酸性塩(上記式(2)中、mは0、Rはカルボキシル基の化合物)、又は、N−(5−アミノペンチル)マレイミド酸性塩の(上記式(2)中、mは0、Rは水素の化合物)を得ることができる。これらの化合物の具体的な製造方法は、既報(非特許文献3等)に記載されている。一方、N−スクシンイミジル フルオロベンゾエートは、フルオロ安息香酸とN‐ヒドロキシスクシンイミドを反応させることにより得ることができる。これらの化合物の具体的な製造方法は、既報(Nat Protoc. 2006;1:1655-1661)に記載されている。
【0029】
そして、式(2)で表される化合物のアミニウム基と、N−スクシンイミジル フルオロベンゾエートとの間にアミド結合を形成させることにより、一方の末端にフルオロフェニル基を備え、他方の末端にマレイミド基を備える化合物を得る(第1工程)。そして、マレイミド基に、Cys−CO−Gluを作用させて、チオールとマレイミドとの間の求核共役付加反応を生起させることにより、上記式(1)の化合物(ただし、m=0)を製造することができる(第2工程)。
【0030】
上記式(1)の化合物(ただし、m=1)は、図4のスキームに従って製造することができる。具体的には、アミノ吉草酸のような脂肪族アミノカルボン酸のα位のアミノ基をBoc基等のアミノ酸保護基で保護し、これとN−ヒドロキシスクシンイミドを反応させて2,5−ジオキソピロリジン−1−イル 5−アミノペンタノエートのアミノ保護体を得る。そして、2,5−ジオキソピロリジン−1−イル 5−アミノペンタノエートのアミノ保護体と、2−アミノ−6−(2,5−ジヒドロ−2,5−ジオキソ−1H−ピロール)−1‐へキサン酸又はN−(5−アミノペンチル)マレイミドとを反応させた後、アミノ基の保護基を脱保護し、5−((1−カルボキシ−5−(2,5−ジオキソ−2,5−ジヒドロ−1H−ピロール−1−イル)ペンチル)アミノ−5−オキソペンタン−1−アミニウム(上記式(2)中、mは1、nは1、Rはカルボキシル基の化合物)や、5−((5−(2,5−ジオキソ−2,5−ジヒドロ−1H−ピロール−1−イル)ペンチル)アミノ)−5−オキソペンタン−1−アミニウム(上記式(2)中、mは1、nは1、Rは水素の化合物)を得る。そして、これら式(2)で表される化合物と、N−スクシンイミジル フルオロベンゾエートとを反応させた後(第1工程)、Cys−CO−Gluを混合して反応条件を与えて、チオールとマレイミドとの間の求核共役付加反応を生起させることにより、上記式(1)の化合物(ただし、m=1)を製造することができる(第2工程)。
【0031】
なお、図1、3、4ではN−スクシンイミジル フルオロベンゾエートとしてN−スクシンイミジル 4−フルオロベンゾエートを用いた例が示されているが、N−スクシンイミジル 2−フルオロベンゾエートまたはN−スクシンイミジル 3−フルオロベンゾエートを使用することにより、これに対応してフェニル基の2位又は3位にフッ素原子が結合した式(1)の化合物を得ることができる。
【0032】
また、上記式(1)中、Fが放射性フッ素のウレア誘導体化合物又はその塩を得るときは、第1工程において、N−スクシンイミジル フルオロベンゾエートとして、N−スクシンイミジル[18F]フルオロベンゾエートを用いればよい。中でも、N−スクシンイミジル 4−[18F]フルオロベンゾエートを用いることが好ましい。N−スクシンイミジル 4−[18F]フルオロベンゾエートの具体的な製造方法は、既報(Nat Protoc. 2006;1:1655-1661)に記載されている。
【0033】
(本発明の放射性医薬)
本発明の放射性医薬は、式(1)中、Fが放射性フッ素のウレア誘導体化合物又はその塩を含有するものである。この放射性医薬は、他の一般に知られている放射性医薬と同様に、上記式(1)の化合物を所望により適当なpHに調整された水又は生理食塩水若しくはリンゲル液等に配合させた液として調製することができる。この場合における上記式(1)の化合物の濃度は、配合された当該化合物の安定性が得られる濃度以下とする必要がある。上記式(1)の化合物の投与量は、薬効を示すために十分な濃度であれば特に限定されない。上記式(1)の化合物は、被験者の状態に応じた必要量を、静脈投与又は局所投与して使用することができる。
【0034】
(本発明の放射性イメージング剤)
本発明の放射性イメージング剤は、式(1)中、Fが放射性フッ素のウレア誘導体化合物又はその塩を含有するものである。上記式(1)の化合物はPSMAに特異的に集積するので、該化合物を有効成分として含有する本発明の放射性イメージング剤は、例えば、PET用プローブとして有効であり、PSMAが多量に発現する前立腺癌細胞を特異的に検出できるだけでなく、PSMAの発現を伴う各種疾患の診断に使用することができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記の実施例のみに限定されるものではない。
【0036】
なお、以下の実施例において、実験材料及び操作は下記のとおり行った。
(S)−2−[3−[(R)−1−カルボキシ−2−メルカプトエチル]ウレイド−ペンタン二酸(化合物)、(2S)−2−アミノ−6−(2,5−ジヒドロ−2,5−ジオキソ−1H−ピロール)−1‐へキサン酸・塩酸塩(化合物5a)及びN−(5−アミノペンチル)マレイミド・塩酸塩(化合物5b)は、既報(非特許文文献3)の記載に従って調製した化合物を使用した。N−スクシンイミジル 4−フルオロベンゾエート(化合物)及びN−(4−フルオロベンゾイル)−グリシン(化合物9a)は既報(J Labelled Compd RAD, 53(4), 186-191; 2010)の記載に従って調製した化合物を使用した。 中圧分取液体クロマトグラフにはW−Prep 2XY(YAMAZEN社製)を使用した。
分取薄層クロマトグラフィー(PTLC)には、PLC Silica gel 60 F254,0.5mm(メルク社製)を使用した。
実施例中使用した水は、MQ Integra15(日本ミリポア社製)で調製した。
逆相高速液体クロマトグラフィー(逆相HPLC)は、LC−20AD(島津製作所社製)、SPD−20A UV検出器(波長220nm及び254nm)(島津製作所社製)、放射線検出器(NDW−351(日立アロカメディカル社製)、カラムとしてYMC Pack−ODS AQ(20×250mm)を使用し、移動相はメタノールと水(共に0.1体積%トリフルオロ酢酸を含有)を用い、流速5mL/min、メタノール濃度のグラディエントは30体積%‐80体積%(60分)とした。
H−NMRスペクトルは、LNM−AL500(JEOL社製)を用いて測定した。溶媒としては、重クロロホルム(CDCl)、ジメチルスルホキシド−d6(DMSO−d6),重メタノール(CDOD),重水(DO)を用い、テトラメチルシラン(Euriso−top社製)を内部標準とした。
マススペクトルは、LCMS−2010 EV(島津製作所社製),GCMS−QP2010 Plus(島津製作所社製),又はJMS−SX 102A QQ(JEOL社製)を使用した。
ヒト前立腺がん細胞:LNCaP(PSMA陽性)、及び、PC−3は、DSファーマバイオメディカル社から購入し、10%ウシ胎児血清、グルタミン、抗体(ペニシリン/ストレプトマイシン)ロスウェルパーク記念研究所1640培地(RPMI培地)で、高湿度COインキュベーター(37℃/5%二酸化炭素)内にて培養した。
C.B.−17/Icr +/+ Jclマウス、及び、C.B.−17/Icr scid/scid Jclマウス(いずれも雄性)は、日本クレア社から購入したものを使用した。
腫瘍移植マウスとしては、上記培養したヒト前立腺がん細胞を2.5g/Lトリプシン/1mmol/Lエチレンジアミンテトラ酢酸で処理し、リン酸バッファー生理食塩液で再懸濁したものと、BDマトリゲルTM基底膜マトリックスとの混合物(1:1、100μL)を1〜5×10細胞/匹ずつ、5週齢のC.B.−17/Icr scid/scid Jclマウスに移植(右脚にPC−3、左脚にLNCaP)して、腫瘍の大きさが約5〜10mmになるまで飼育したものを使用した。
【0037】
実施例1:(2S)−2−(3−((1R)−1−カルボキシ−2−((1−((S))−5−カルボキシ−5−(4−フルオロベンズアミド)ペンチル−2,5−ジオキソピロリジン−3−イル)チオ)ウレイド)ペンタン二酸(8a)の調製
図1のスキームに従い、下記(1)〜(2)の手順で調製した。
【0038】
(1)(S)−6−(2,5−ジオキソ−2,5−ジヒドロ−1H−ピロール−1−イル)−2−(4−フルオロベンズアミド)ヘキサン酸(7a)の調製
化合物(45mg)のアセトニトリル溶液(1mL)に化合物5a(50mg)とN,N−ジイソプロピルエチルアミン(49mg)を加えて、室温(25℃)下6時間撹拌した。反応溶液を飽和塩化アンモニウム水溶液に注ぎ込み、酢酸エチルで抽出した。硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下溶媒を留去した。PTLC(クロロホルム:メタノール=10:1(体積比))で粗精製を行い、その後に逆相HPLCで精製し、化合物7a(7.5mg,収率11%)を得た。HPLC保持時間:52分。
H−NMR(CDOD,500MHz)δ:1.39−1.46(m,2H),1.47−1.69(m,2H),1.81−2.03(m,2H),3.51(t,J=6.87Hz,2H),4.54(m,2H),6.77(s,2H),7.19(m,2H),7.90(m,2H)。
ESI−MS m/z:349[M+H]
【0039】
(2)化合物(8a)の調製
化合物7a(7.5mg)のアセトニトリル溶液(0.1mL)に化合物(6.3mg)の水溶液(0.7mL)を加え、2mol/L水酸化ナトリウム水溶液でpH7にした。室温(25℃)下2時間撹拌した後、逆相HPLCで精製し、化合物8a(7.3mg,収率52%)を得た。HPLC保持時間:43分。
H−NMR(DO,500MHz)δ:1.20−1.34(m,2H),1.45−1.56(m,2H),1.70−2.08(m,4H),2.37(dt,J=4.01,7.45Hz,2H),2.46(m,1H),2.77−3.17(m,3H),3.40(t,J=6.30Hz,2H),3.86(m,1H),4.15(m,1H),4.35−4.43(m,2H),7.12(t,J=8.59Hz,2H),7.71(dd,J=8.59,5.73Hz,2H)。
FAB−MS m/z:643[M+H]。
HRFAB−MS:calcd for C263212FS,643.1725[M+H];found 643.1721。
【0040】
実施例2: (2S)−2−(3−((1R)−1−カルボキシ−2−((1−(5−(4−フルオロベンズアミド)ペンチル)−2,5−ジオキソピロリジン−3−イル)チオ)エチル)ウレイド)ペンタン二酸(8b)の調製
図1のスキームに従い、下記(1)〜(2)の手順で調製した。
【0041】
(1)N−(5−(2,5−ジオキソ−2,5−ジヒドロ−1H−ピロール−1−イル)ペンチル−4−フルオロベンズアミド(7b)の調製
化合物(54mg)のアセトニトリル溶液(1.5mL)に化合物5b(50mg)とN,N−ジイソプロピルエチルアミン(30mg)を加えて、室温(25℃)下4時間撹拌した。反応溶液を飽和塩化アンモニウム水溶液に注ぎ込み、酢酸エチルで抽出した。硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下溶媒を留去した。中圧分取液体クロマトグラフ(ヘキサン:酢酸エチル=1:1(体積比))で精製し、化合物7b(54mg,収率77%)を得た。
H−NMR(CDCl,500MHz)δ:1.37(m,2H),1.66(m,4H),3.44(dt,J=6.30,5.73Hz,2H),3.55(t,J=6.87Hz,2H),6.09(broad s,1H),6.67(s,2H),7.11(m,2H),7.78(m,2H)。
EI−MS m/z:304[M],123(100),95(25)。
【0042】
(2)化合物(8b)の調製
化合物7b(6.2mg)のアセトニトリル溶液(0.15mL)に化合物(6.0mg)の水溶液(0.75mL)を加え、2mol/L水酸化ナトリウム水溶液でpH7にした。室温(25℃)下4時間撹拌した後、逆相HPLCで精製し、化合物8b(5.5mg,収率45%)を得た。HPLC保持時間:48分。
H−NMR(DO,500MHz)δ:1.19(tt,J=8.02,7.45Hz,2H),1.49(m,4H),1.847(m,1H),2.04(m,1H),2.38(m,2H),2.48(m,1H),2.80−3.16(m,3H),3.24(t,J=6.59Hz,2H),3.40(t,J=6.59Hz,2H),3.87(m,1H),4.15(m,1H),4.36(dd,J=6.87,5.16Hz,1H),7.11(t,J=8.59Hz,2H),7.65(dd,J=8.59,5.16Hz,2H)。
FAB−MS m/z:599[M+H]。
HRFAB−MS:calcd for C253210FS,599.1828[M+H];found 599.1823。
【0043】
実施例3:(2S)−2−(3−(1R)−1−カルボキシ−2−((1−(S)−5−カルボキシ−5−(2−(4−フルオロベンズアミド)アセタミド)ペンチル−2,5−ジオキソピロリジン−3−イル)チオ)エチル)ウレイド)ペンタン二酸(12a)の調製
図2のスキームに従い、下記(1)〜(3)の手順で調製した。
【0044】
(1)N−[2−[(2,5−ジオキソ−1−ピロリジニル)オキシ]−2−オキソエチル]−4−フルオロベンズアミド(10a)の調製
化合物9a(200mg)のN,N−ジメチルホルムアミド溶液(3mL)にN−ヒドロキシスクシンイミド(117mg)と水溶性カルボジイミド塩酸塩(194mg)を加えて室温(25℃)下1時間撹拌した。反応溶液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液に注ぎ込み、酢酸エチルで抽出した。硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下溶媒を留去した。生じた沈殿を濾取し、クロロホルムで洗浄した。(127mg, 収率43%)
H−NMR(DMSO−d6,500MHz)δ:2.81(s,4H),4.43(d,J=5.73Hz,2H),7.34(t,J=8.59Hz,2H),7.95(m,2H),9.20(t,J=5.73Hz,1H)。
【0045】
(2)(S)−6−(2,5−ジオキソ−2,5−ジヒドロ−1H−ピロール−1−イル)−2−(2−(4−フルオロベンズアミド)アセタミド)ヘキサン酸(11a)の調製
化合物10a(74mg)のアセトニトリル溶液(2.5mL)に化合物5a(66 mg)とN,N−ジイソプロピルエチルアミン(65mg)を加えて室温(25℃)下6時間撹拌した。反応溶液を飽和塩化アンモニウム水溶液に注ぎ込み、酢酸エチルで抽出した。硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下溶媒を留去した。PTLC(クロロホルム:メタノール=10:1(体積比))で粗精製を行い、その後に逆相HPLCで精製し、化合物11a(33mg,収率33%)を得た。
HPLC保持時間:48分。
H−NMR(DMSO−d6,500MHz)δ:1.26(m,2H),1.48(m,2H),1.59(m,1H),1.72(m,1H),3.38(t,J=6.87Hz,2H),3.87(d,J=5.73Hz,2H),3.93(m,2H),4.17(m,1H),6.99(s,2H),7.31(t,J=8.59Hz,2H),7.94(m,2H),8.14(d,J=8.02Hz,1H),8.70(t,J=5.73Hz,1H)。
ESI−MS m/z:406[M+H]
【0046】
(3)化合物(12a)の調製
化合物11a(13.8mg)のアセトニトリル溶液(0.3mL)に化合物(10mg)の水溶液(0.75mL)を加え、2mol/L水酸化ナトリウム水溶液でpH7にした。室温(25℃)下3時間撹拌し、逆相HPLCで精製して、化合物12a(9.0mg,収率39%)を得た。HPLC保持時間:41分。
H−NMR(DO,500MHz)δ:1.23(m,2H),1.49(m,2H),1.66(m,1H),1.84(m,2H),2.06(m,1H),2.39(m,2H),2.56(m,1H),2.95−3.26(m,3H),3.42(t,J=6.82Hz,2H),3.94(m,1H),4.03(m,2H),4.17(m,1H),4.30(m,1H),4.44(m,1H),7.16(t,J=8.59Hz,2H),7.77(m,2H)。
FAB−MS m/z:700[M+H]。
HRFAB−MS:calcd for C283513FS,700.1942[M+H];found 700.1936。
【0047】
実施例4:(2S)−2−(3−(1R)−1−カルボキシ−2−((1−(5−(2−(4−フルオロベンズアミド)アセタミド)ペンチル−2,5−ジオキソピロリジン−3−イル)チオ)エチル)ウレイド)ペンタン二酸(12b)の調製
図2のスキームに従い、下記(1)〜(2)の手順で調製した。
【0048】
(1)N−(2−((5−(2,5−ジオキソ−2,5−ジヒドロ−1H−ピロール−1−イル)ペンチル)アミノ−2−オキソエチル)−4−フルオロベンズアミド(11b)の調製
実施例3(1)と同じ方法で合成した化合物10a(50mg)のアセトニトリル溶液(2mL)に化合物5b(37mg)とN,N−ジイソプロピルエチルアミン(44mg)を加えて室温(25℃)下3時間撹拌した。反応溶液を飽和塩化アンモニウム溶液に注ぎ込み、酢酸エチルで抽出した。飽和食塩水で有機相を洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。減圧下溶媒を留去し、中圧分取液体クロマトグラフ(クロロホルム:メタノール=10:1(体積比))で精製し、化合物11b(37mg,収率60%)を得た。
H−NMR(CDCl,500MHz)δ:1.31(m,2H),1.59(m,4H),3.30(m,2H),3.52(t,J=7.16Hz,2H),4.10(d,J=5.16Hz,2H),6.10(broad s,1H),6.69(s,2H),6.98(broad s,1H),7.13(t,J=8.59Hz,2H),7.85(m,2H)。
ESI−MS m/z:362[M+H]
【0049】
(2)化合物(12b)の調製
化合物11b(8.6mg)のアセトニトリル溶液(0.15mL)に化合物(7.0mg)の水溶液(0.75mL)を加え、2mol/L水酸化ナトリウム水溶液でpH7にした。室温(25℃)下2時間撹拌した。逆相HPLCで精製し、化合物12b(6.0mg,収率38%)を得た。HPLC保持時間:44分。
H−NMR(DO,500MHz)δ:1.15(m,2H),1.43(m,4H),1.85(m,1H),2.06(m,1H),2.39(m,2H),2.58(m,1H),2.95−3.24(m,6H),3.39(t,J=7.16Hz,2H),3.94(s,2H),4.16(dd,J=5.16,9.16Hz,1H),4.42(m,1H),7.16(t,J=8.59Hz,2H),7.77(m,2H)。
FAB−MS m/z:656[M+H]。
HRFAB−MS:calcd for C273411FS,656.2040[M+H];found 656.2038。
【0050】
実施例5: (2S)−2−(3−((1R)−1−カルボキシ−2−((1−((S)−5−カルボキシ−5−(5−(4−フルオロベンズアミド)ペンタミド)ペンチル)−2,5−ジオキサピロリジン−3−イル)チオ)エチル)ウレイド)ペンタン二酸(12c)の調製
図2のスキームに従い、下記(1)〜(4)の手順で調製した。
【0051】
(1)5−[(4−フルオロベンゾイル)アミノ]ペンタン酸(9b)の調製
化合物(460mg)のアセトニトリル溶液(5mL)に5−アミノ吉草酸(250mg)とN,N−ジイソプロピルエチルアミン(275mg)を加えて室温(25℃)下4時間撹拌した。反応溶液を飽和塩化アンモニウム水溶液に注ぎ込み、酢酸エチルで抽出した。硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下溶媒を留去した。生じた沈殿を濾取してクロロホルムで洗浄した。(298mg,収率64%)
H−NMR(CDOD,500MHz)δ:1.67(m,4H),2.35(t,J=6.87Hz,2H),3.39(m,2H),7.17(t,J=8.59Hz,2H), 7.86(m,2H),8.46(s,1H).
EI−MS m/z:238[M],180(13),166(4),152(8),123(100),95(28)。
【0052】
(2)N−[5−[(2,5−ジオキソ−1−ピロリジニル)オキシ]−5−オキソペンチル]−4−フルオロベンズアミド(10b)の調製
化合物9b(297mg)のN,N−ジメチルホルムアミド溶液(7mL)にN−ヒドロキシスクシンイミド(143mg)とN,N´−ジイソプロピルカルボジイミド(157mg)を加えて室温(25℃)下一晩撹拌した。反応溶液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液に注ぎ込み、酢酸エチルで抽出した。硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下溶媒を留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)で精製して化合物10bを得た(211mg,収率50%)。
H−NMR(CDCl,500MHz)δ:1.76(m,2H),1.87(m,2H),2.69(t,J=6.87Hz,2H),2.85(s,4H),3.50(dd,J=6.87,12.6Hz),7.10(m,2H),7.79(m,2H).
EI−MS m/z:336[M],333(4),180(9),123(100),95(19).
【0053】
(3)(S)−6−(2,5−ジオキソ−ジヒドロ−1H−ピロール−1−イル)−2−(5−(4−フルオロベンズアミド)ペンタミド)ヘキサン酸(11c)の調製
化合物10b(80mg)のアセトニトリル溶液(2mL)に化合物5a(62mg)とN,N−ジイソプロピルエチルアミン(61mg)を加えて室温(25℃)下4時間撹拌した。反応溶液を飽和塩化アンモニウム水溶液に注ぎ込み、酢酸エチルで抽出した。硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下溶媒を留去した。PTLC(クロロホルム:メタノール=10:1(体積比))で粗精製を行い、その後に逆相HPLCで精製し、化合物11c(40mg,収率37%)を得た。HPLC保持時間:53分。
H−NMR(CDOD,500MHz)δ:1.37(m,2H),1.53−1.89(m,8H),2.29(t,J=7.16Hz,2H),3.38(m,2H),3.47(t,J=6.87Hz,2H),4.33(dt,J=4.58,9.16Hz,1H),6.77(s,2H),7.16(t,J=8.59Hz,2H),7.86(m,2H)。
ESI−MS m/z:448[M+H]
【0054】
(4)化合物(12c)の調製
化合物11c(10mg)のアセトニトリル溶液(0.2mL)に化合物(6.6mg)の水溶液(0.8mL)を加え、2mol/L水酸化ナトリウム水溶液でpH7にした。室温(25℃)下2時間撹拌した。逆相HPLCで精製し、化合物12c(9.0mg,収率55%)を得た。HPLC保持時間:46分。
H−NMR(DO,500MHz)δ:1.20(m,2H),1.43(m,2H),1.52−1.65(m,5H),1.74−1.90(m,2H),2.07(m,1H),2.25(t,J=6.87Hz,2H),2.39(m,2H),2.41−2.53(m,3H),2.94−3.18(m,3H),3.92(m,1H),4.20(m,2H),4.45(m,1H),7.12(t,J=8.59Hz,2H),7.68(m,2H)。
FAB−MS m/z:742[M+H]。
HRFAB−MS:calcd for C314113FS,742.2413[M+H];found 742.2406。
【0055】
実施例6:(2S)−2−(3−((1R)−1−カルボキシ−2−((1−(5−(5−(4−フルオロベンズアミド)ペンタミド)ペンチル)−2,5−ジオキソピロリジン−3−イル)チオ)エチル)ウレイド)ペンタン二酸(12d)の調製
図2のスキームに従い、下記(1)〜(2)の手順で調製した。
【0056】
(1)N−(5−((5−(2,5−ジオキソ−2,5−ジヒドロ−1H−ピロール−1−イル)ペンチル)アミノ)−5−オキソペンチル)−4−フルオロベンズアミド(11d)の調製
実施例5(1)〜(2)の方法で合成した化合物10b(50mg)のアセトニトリル溶液(1.3mL)に化合物5b(33mg)、及び、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(38mg)を加えて室温(25℃)下3時間撹拌した。反応溶液を飽和塩化アンモニウム水溶液に注ぎ込み、酢酸エチルで抽出した。飽和食塩水で有機相を洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。減圧下溶媒を留去し、中圧分取液体クロマトグラフ(クロロホルム:メタノール=10:1(体積比))で精製し、化合物11d(56mg,収率93%)。
H−NMR(CDCl,500MHz)δ:1.30(m,2H),1.50−1.69(m,6H),1.75(m,2H),2.25(t,J=6.87Hz,2H),3.25(m,2H),3.46(m,2H),3.51(t,J=7.16Hz,2H),5.62(broad s,1H),6.68(s,2H),6.74(broad s,1H),7.10(t,J=8.59Hz,2H),7.84(m,2H)。
ESI−MS m/z:404[M+H]
【0057】
(2)化合物(12d)の調製
化合物11d(8.3mg)のアセトニトリル溶液(0.15mL)に化合物(6.0mg)の水溶液(1.0mL)を加え、2mol/L水酸化ナトリウム水溶液でpH7にした。室温(25℃)下2時間撹拌した。逆相HPLCで精製し、化合物12d(5.7mg,収率40%)を得た。HPLC保持時間:49分。
H−NMR(DO,500MHz)δ:1.12(m,2H),1.37(m,4H),1.53(m,4H),1.86(m,1H),2.05(m,1H),2.16(t,J=6.87Hz,2H),2.39(dd,J=4.58,6.87Hz,2H),2.52(m,1H),2.93−3.17(m,5H),3.29(m,4H),3.91(m,1H),4.16(dd,J=5.16,8.59Hz,1H),4.43(broad s,1H),7.12(t,J=8.59Hz,2H),7.67(m,2H)。
FAB−MS m/z: 698[M+H]。
HRFAB−MS:calcd for C304111FS,698.2504[M+H];found 698.2507。
【0058】
実施例7:(S)−5−((1−カルボキシ−5−(2,5−ジオキソ−2,5−ジヒドロ−1H−ピロール−1−イル)ペンチル)アミノ−5−オキソペンタン−1−アミニウム塩化物(15a)の調製
図4のスキームに従い、下記(1)〜(3)の手順で調製した。
【0059】
(1)2,5−ジオキソピロリジン−1−イル 5−((tert−ブトキシカルボニル)アミノ)ペンタノエート(13)の調製
5−アミノ吉草酸の1,4−ジオキサン溶液(333mg,3mL)に、二炭酸ジ−tert−ブチル(0.75g)と2mol/L水酸化ナトリウム水溶液(0.23g,3mL)を0℃で加えた。室温(25℃)で16時間撹拌し、1mol/L塩酸と酢酸エチルで抽出し、有機相を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。減圧下溶媒を留去し、得られた無色の油状物質をジメチルホルムアミド(6mL)に溶解させた。N,N′−ジイソプロピルカルボジイミド(0.35g)とN−ヒドロキシスクシンイミド(0.32g)を加えて室温下16時間撹拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液と酢酸エチルで抽出し、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させた。減圧下溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=1/1(体積比))で精製し、化合物13(0.48g,収率54%)を得た。
H−NMR(DMSO−d6,500MHz)δ:6.82(t,J=5.16Hz,1H),2.93(m,2H),2.81(s,4H),2.66(t,J=7.45Hz,2H),1.59(tt,J=7.45Hz,7.45Hz,2H),1.46(tt,J=7.45Hz,7.45Hz,2H)。
【0060】
(2)(S)−2−(5−((tert−ブトキシカルボニル)アミノ)ペンタナミド)−6−(2,5−ジオキソ−2,5−ジヒドロ−1H−ピロール−1−イル)ヘキサン酸(14a)の調製
化合物13のアセトニトリル溶液(126mg/4mL)に化合物5a(105mg)とN,N−ジイソプロピルエチルアミン(103mg)を加えて室温(25℃)で6時間撹拌した。飽和塩化ナトリウム水溶液と酢酸エチルで抽出し、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させた。減圧下溶媒を留去し、PTLC(クロロホルム/メタノール=9/1(体積比))で精製し、化合物14a(35mg,収率21%)を得た。
H−NMR(CDOD,500MHz)δ:6.79(s,2H),4.13(s,1H),3.49(t,J=6.87Hz,2H),3.05(t,J=7.45Hz,2H),2.25(t,J=7.45Hz,2H),1.86(m,1H),1.64(m,5H),1.49(m,2H),1.42(s,9H),1.36(t,J=6.87Hz,2H)。
ESI−MS m/z:426[M+H]。
【0061】
(3)化合物(15a)の調製
化合物14a(35mg)に4mol/L塩酸の酢酸エチル溶液(4mL)を加えて、室温(25℃)下で容器を振とうさせた。生じた白色沈殿を濾取して酢酸エチルで洗浄した後、逆相HPLCで精製し、化合物15a(22mg,収率74%)を得た。HPLC保持時間:25分。
H−NMR(DO,500MHz)δ:6.71(s,2H),4.18(m,1H),3.36(m,2H),2.89(m,2H),2.23(m,2H),1.76(m,2H),1.44−1.55(m,6H),1.23(m,2H)。
ESI−MS m/z:326[M+H]。
【0062】
実施例8:5−((5−(2,5−ジオキソ−2,5−ジヒドロ−1H−ピロール−1−イル)ペンチル)アミノ)−5−オキソペンタン−1−アミニウム塩化物(15b)の調製
図4のスキームに従い、下記(1)〜(2)の手順で調製した。
【0063】
(1)tert−ブチル(5−((5−(2,5−ジオキソ−2,5−ジヒドロ−1H−ピロール−1−イル)ペンチル)アミノ)−5−オキソペンチル)カルバメート(14b)の調製
実施例7(1)で得られた化合物13のアセトニトリル溶液(80mg/2.5mL)に化合物5b(56mg)とN,N−ジイソプロピルエチルアミン(66mg)を加えて室温(25℃)で5時間撹拌した。飽和塩化ナトリウム水溶液と酢酸エチルで抽出し、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させた。減圧下溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=10/1(体積比))で精製し、化合物14b(92mg,収率95%)を得た。
H−NMR(CDOD,500MHz)δ:7.90(broad s,1H),6.80(s,2H),6.58(broad s,1H),3.49(t,J=6.87Hz,2H),3.14(m,2H),3.04(m,2H),2.17(t,J=7.45Hz,2H),1.45-1.63(m,6H),1.42(s,9H),1.29(m,2H)。
ESI−MS m/z:382[M+H]。
【0064】
(2)化合物(15b)の調製
化合物14b(70mg)に4mol/L塩酸の酢酸エチル溶液(10mL)を加えて、室温(25℃)下で容器を振とうさせた。生じた白色沈殿を濾取して酢酸エチルで洗浄し、化合物15b(22mg,収率38%)を得た。
H−NMR(DO,500MHz)δ:6.74(s,2H),3.40(t,J=6.87Hz,2H),3.06(t,J=6.87Hz,2H),2.91(t,J=6.30Hz,2H),2.17(t,J=6.87Hz,2H),1.38−1.56(m,8H),1.18(m,2H)。
【0065】
実施例9:放射化学合成
前駆体として化合物5a,化合物5b,化合物15a,化合物15bを用い、図3及び図4のスキームに従い、下記の通り、それぞれに対応する[18F]フッ素標識化合物;[18F]8a,[18F]8b,[18F]12c,[18F]12dを調製した。まず、N−スクシンイミジル 4−[18F]フルオロベンゾエートを、既報(Nat Protoc. 2006;1:1655-1661)記載の方法を用いて合成した。各前駆体0.5mgにN−スクシンイミジル 4−[18F]フルオロベンゾエートのアセトニトリル溶液(6−600MBq、50μL)とN,N−ジイソプロピルエチルアミン(10μL)を加えて室温(25℃)で5分反応させた。反応溶液に化合物(1.2mg)の水溶液(100μL)を加えて室温で5分反応させた。反応後に1mol/L塩酸を50μL加えて逆相HPLCで精製した。精製後はSep−Pak Light C18 Cartridgeに吸着させて水1mLで洗浄、メタノールで抽出した。窒素ガス気流下メタノールを除去し、生理食塩水に溶解させて各実験にて使用した。いずれの[18F]フッ素標識化合物も放射化学的純度95%以上で得た。各[18F]フッ素標識化合物の放射化学的収率(RCY,減衰補正)とHPLC保持時間(t)を以下の表1に示す。
なお、保持時間(t)は、下記条件の保持時間である。
カラム:COSMOCIL 5C18 AR−II 4.6×150mm(ナカライテスク社製)。
流速:1ml/min
移動相:水、メタノール(共に0.1%トリフルオロ酢酸を含む)。
グラディエント:メタノール30%−80%(60min)。
各[18F]フッ素標識化合物は1−オクタノールと0.1mmol/Lリン酸バッファー(pH7.4)を用いて分配計数(log D)を算出した。結果は以下の表1に併せて表記した。
【0066】
【表1】
【0067】
実施例10:親和性評価
ヒト前立腺がん細胞(LNCaP)を用いた結合阻害実験にて、実施例1〜6で得られた6つのウレア誘導体化合物;8a8b12a12b12c12dの親和性を評価した。ポジティブコントロールとして、2−(ホスホノメチル)ペンタン二酸(2−PMPA、Tocris Bioscience社製、以下同じ)の親和性を評価した。N−[N−[(S)−1,3−ジカルボキシプロピル]カルバモイル]−S−3−ヨード−L−チロシン([125I]DCIT、非特許文献3と同じ方法で調製)を放射性リガンドとして用いた。12ウェルプレート(4×10細胞/ウェル)に播種したLNCaP細胞を5%二酸化炭素雰囲気下、37℃で48時間インキュベートした。培地を取り去り、それぞれのウェルを500μLアッセイ培地(0.5%ウシ血清アルブミンが付加されたRPMI1640培地)で2度洗浄した。[125I]DCITのアッセイ培地溶液(29.6kBq/mL)を500μL/mLと、各ウレア誘導体化合物を加え、37℃で1時間インキュベートした。非特異的結合は、2−PMPAを0.5mmol/Lを加えることによって評価した。インキュベーションした後、各ウェルは500μLの上記アッセイ培地で二度洗浄し、細胞を0.2mol/L水酸化ナトリウム水溶液に溶解した。細胞に結合した放射能は、γカウンターで測定した。IC50値をGraphPad Prism5プログラム(GraphPad Software社製)で計算し、Ki値をCheng−Prusoff式を用いて計算した。6つのウレア誘導体化合物の親和性は以下の表2に示す通りとなった。
【0068】
【表2】
【0069】
実施例11:血漿中安定性
実施例9に示す方法で調製した[18F]フッ素標識化合物;[18F]8a,[18F]8b,[18F]12c,[18F]12dのインビトロでの安定性を、マウス血漿を用いて評価した。マウス血漿は、C.B.−17/Icr +/+ Jcl雄性マウス(20〜22g)をイソフルランで麻酔し、心臓から血液を収集して遠心分離(1500×g)にかけ、上澄みを‐80℃で保存したものを使用した。[18F]フッ素標識化合物(20μL、0.6−1.5MBq)をそれぞれマウス血漿100μLに加え、37℃で1時間インキュベートした。インキュベーション後、メタノール(150μL)を加え、遠心分離(5000×g)にかけた。上澄みを回収し、コスモナイスフィルター(S)(0.45μm、4mm)でろ過して、ろ液の分析を高速液体クロマトグラフィーで行った。このときの分析条件は、実施例9で示したものを用いた。その結果、各[18F]フッ素標識化合物;[18F]8a,[18F]8b,[18F]12c,[18F]12dはいずれも、分解物を認めず95%以上が安定に存在した。
【0070】
実施例12:体内分布実験
実施例9に示す方法で調製した[18F]フッ素標識化合物[18F]8a,[18F]8b,[18F]12c,[18F]12dの生体内分布を、ヒト前立腺がん細胞(LNCaP,PC−3)を前述の方法で移植した腫瘍移植マウス(22〜25g)を用いて評価した。生理食塩水に溶解させた各[18F]フッ素標識化合物(100μL、37kBq)をマウス(n=4)に尾静脈投与して、投与後2,15,60分後の各組織における放射能量を組織摘出法にて評価した。各[18F]フッ素標識化合物の生体内分布は以下の表3−1及び表3−2に示す通りとなった。表3−1及び表3−2の数値は平均±標準偏差として表記、単位は%ID/gとして示した(胃のみ%ID)。何れもLNCaPに集積し、中でも[18F]8aが最も高い集積を示した。PSMA非発現腫瘍(PC−3)への集積は認められなかった。
【0071】
【表3-1】
【0072】
【表3-2】
【0073】
実施例13: インビボブロッキング評価
最も高い腫瘍集積(LNCaP)を認めた化合物[18F]8a(100μL、37kBq)と2−PMPA(50mg/kg)を、腫瘍移植マウス(22−24g)に同時に尾静脈投与し、30分後に断頭して、実施例12の結果に対する腫瘍集積の変化を評価した。結果を図5に示す。図5から明らかなように、2−PMPAと同時投与を行った場合、LNCaPと血中放射能量の比は0.95となり、[18F]8a単独投与の場合の値16.9よりも有意に低下した。
【0074】
実施例14:PET撮像
放射性フッ素標識化合物[18F]8aと放射性フッ素標識化合物[18F]12cのPET/CT撮像を行った。PET/CT装置は、Gamma Medica-Ideas, Inc.製のものを用いた。腫瘍移植マウス(20〜25g)を2.5%イソフルラン/空気で麻酔し、温熱パッドに置いて体温を維持した。各放射性フッ素標識化合物(3.7−11.1MBq)を尾静脈投与した。競合実験は、[18F]8aと、2−PMPA(50mg/kg)とを含む生理食塩液(0.10mL)を尾静脈投与することにより行った。CTスキャンの後、PETスキャンを30〜64分収集した。
結果を図6及び図7に示す。図6、7中、矢印で指す部位がLNCaPの移植部位であり、破線で囲んだ部分がPC−3の移植部位である。図6及び図7から明らかなように、いずれのプローブもLNCaPを明瞭に描出した。放射性化合物[18F]8aは肝臓から速やかに消失し、投与1時間後(60〜65分)には腎臓、膀胱、LNCaPに高い集積を認めた。一方、放射性化合物[18F]12cは投与1時間後においても肝臓に放射能の集積を認めた。
2−PMPAと放射性化合物[18F]8aを同時に投与した結果を図8に示す。この場合、図8から明らかなように、腎臓とLNCaPにおける集積が阻害され、投与1時間後にはほぼ全ての放射能が膀胱に移行した。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の化合物は、PSMAへ特異的に集積するので、PSMAの発現が関与する各種疾患の診断に有用であり、放射性画像診断薬の分野で広く利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8