特許第6292610号(P6292610)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6292610
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】チューブ内面親水化方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/24 20060101AFI20180305BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   H05H1/24
   C08J7/00 306
   C08J7/00CEW
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-11535(P2014-11535)
(22)【出願日】2014年1月24日
(65)【公開番号】特開2015-138755(P2015-138755A)
(43)【公開日】2015年7月30日
【審査請求日】2017年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000145530
【氏名又は名称】株式会社潤工社
(73)【特許権者】
【識別番号】510223874
【氏名又は名称】公益財団法人名古屋産業振興公社
(72)【発明者】
【氏名】平松 重雄
(72)【発明者】
【氏名】高島 成剛
【審査官】 右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−060521(JP,A)
【文献】 特開昭60−258234(JP,A)
【文献】 特開2011−104945(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/24
C08J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出成形装置から連続的に排出される樹脂チューブの内側に、外表面に導電体成分でパターン図柄を構成し内表面を導電体で被覆した筒形状の誘電体から成る放電電極を配置し、さらに前記樹脂チューブと前記放電電極との間隙へガスを導入するためのガス導入機構と、前記樹脂チューブと前記放電電極との間隙からガスを排出するためのガス排出機構とを備え、前記ガス導入機構からガスを導入および前記ガス排出機構からガスの排出を行いながら、前記放電電極に高周波電源から電圧を印加することにより、前記樹脂チューブと放電電極の間に大気圧グロー放電プラズマを発生させ、前記大気圧グロー放電プラズマを前記樹脂チューブ内面と接触させて前記樹脂チューブ内面を表面処理することを特徴とする樹脂チューブの製造方法。
【請求項2】
前記樹脂チューブの内面と前記放電電極の外面の間隙は、0.1mm以上、8mm以下となるように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の樹脂チューブの製造方法。
【請求項3】
前記樹脂チューブの材質はフッ素樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂チューブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマを利用した樹脂チューブ内面の表面処理方法、およびこの方法で製造した樹脂チューブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属ロッドや樹脂ローラを被覆するための、樹脂フィルムや樹脂チューブは、熱的、化学的に安定で、剥離性に優れるなどの特性が求められることが多い。しかし、その特性のため、金属ロッドや樹脂ローラの外表面と、被覆樹脂フィルムや樹脂チューブとは接着性が悪く、接着性向上のため樹脂フィルムや樹脂チューブの接着側表面を改質し、接着性を向上させる検討がされてきた。例えば、チューブ内面にエッチング処理やプライマー処理などを施して接着性を高めることが提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、前述の方法は、一般に取り扱いに注意を要する化学薬品を使用しており、作業に手間がかかる上に、環境負荷の問題がある。
【0003】
一方、近年、大気圧下でグロー放電プラズマを発生させる技術が様々な用途で利用されており、フィルムやシートの表面改質処理にも用いられている。この技術は、一定の間隔で対向する高圧側電極と接地側電極との間に誘電体を挿入し、電極間に形成される放電部へプラズマ発生用ガスを導入するとともに高圧交流電圧を印加することにより、大気圧下でグロー放電プラズマを発生させるもので、電極上に誘電体層があることによって過度の電流が流れることによるアーク放電への移行を抑制している。この技術を用いて表面改質や薄膜形成などの表面処理を行う方法は、従来行われてきた真空下でのプラズマ処理と比較して、真空装置が不要であるため設備がコンパクトで安価であり、インラインの連続処理が容易であることなどからその方法についての検討が進められている。
【0004】
例えば、外周部に高圧電極と接地電極を交互に配置したチューブの一端部から反応性ガスと希ガスの混合ガスを導入し、大気圧下で高圧電極と接地電極との間に高圧交流電圧を印加して、チューブ内部にグロー放電プラズマを発生させ、チューブ内面、またはチューブ内部の物体を処理する方法が開示されている(特許文献2参照)。しかし、このような方法ではチューブ外周面に電極が配置されているため、チューブ内部だけでなくチューブ外周面上の隣り合う電極間でもグロー放電プラズマが発生して外表面もプラズマによって処理されてしまうため、チューブ外表面の特性をそのまま維持して内表面のみを処理したい場合には使うことが出来ない。また、チューブ外周面で発生するプラズマはチューブ内面の処理には寄与せずロスとなり、さらに、電極が発熱して高温となりやすく、その発熱で溶融または変形する樹脂には使用できないという問題があった。
【0005】
また、別な方法として例えば、外部電極として導電性液体を用い、その液体中に内部に内側電極を配置したチューブを導入しながら、導電性液体と内部電極との間に高周波電圧を印加することによりプラズマを発生させ、チューブ内面を処理する方法がある(特許文献3参照)。しかしながら、これらの方法では装置の構造上、チューブ内の圧力を上げるとチューブを排出する押出機へ逆流してしまうため、チューブ内圧だけで拡形状態を維持することは出来ず、チューブの拡径状態を保持するためのガイド部材を配置することが必要であり、チューブ内面に接触するように配置されているガイド部材によってチューブ内面にスジが発生する問題があった。同明細書に記載されるようなローラを被覆して接着する場合にしても、内面にスジがあると密着性、接着性の低下につながる虞があり好ましくない。また、被処理チューブ自体を誘電体としてグロー放電プラズマを発生させているため、誘電体つまり被処理チューブの肉厚が薄くなると、安定したグロー放電プラズマの発生を維持できる条件が非常に限定されるなど、被処理チューブの肉厚によってプラズマ発生条件が制限されて期待する効果が得られない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11‐302414号公報
【特許文献2】特開平5‐202481号公報
【特許文献3】WO2007/032425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような問題を解決するために、本発明の課題は、大気圧グロー放電プラズマを利用して樹脂チューブ内表面を処理するにあたり、チューブ内部で均一で安定的なグロー放電プラズマを発生させることにより、チューブ外表面の特性を維持しつつチューブ内表面のみを表面処理して、接着性に優れた樹脂チューブを製造する方法、およびこの方法で製造した樹脂チューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を進めた結果、従来のように高圧電極と接地電極をそれぞれ、チューブ内部とチューブ外部とに配置するのではなく、チューブ内部に両電極を配置することでチューブ内部に均一で安定なプラズマ発生領域を確保することができることを見出した。
【0009】
即ち、上記目的達成のため、本発明では、押出成形装置から連続的に排出される樹脂チューブの内側に、外表面に導電体成分でパターン図柄を構成し内表面を導電体で被覆した筒形状の誘電体から成る放電電極を配置し、さらに前記樹脂チューブと前記放電電極との間隙へガスを導入するためのガス導入機構と、前記樹脂チューブと前記放電電極との間隙からガスを排出するためのガス排出機構とを備え、前記ガス導入機構からガスを導入、および前記ガス排出機構からガスの排出を行いながら、前記放電電極に高周波電源から電圧を印加することにより、前記樹脂チューブと放電電極の間に大気圧グロー放電プラズマを発生させ、前記樹脂チューブ内面を表面処理することを特徴とする。
【0010】
本発明の製造方法では、従来公知の押出成形装置から樹脂チューブを連続的に排出する工程において、当該押出成形装置の先端の金型から排出された後に内径規制部材を配置し、その下流側に放電電極を配置したものである。放電電極は、筒形状の誘電体と導電体部材により構成され、誘電体の外面には導電体成分でパターン図柄を構成し、内面を導電体で被覆した構造である。誘電体外面側の導電体部材のパターンによって、放電電極表面全体におけるプラズマの発生密度を均一にすることが可能になり、プラズマガスの発生に使われる以外のロス電流を減らすことも可能になる。前記パターン図柄としては、限定されないが、プラズマガスの発生効率、発生密度を考慮したパターンとすることが必要である。電極はチューブ内部にのみ配置しており、発生するプラズマによる影響をチューブ外表面に与えることは一切ない。
【0011】
本発明に係る樹脂チューブの製造方法では、前記樹脂チューブの内面と前記放電電極の外面の間隙は、0.1mm以上、8mm以下となるように配置されていることが好ましく、より好ましくは0.1mm以上5mm以下である。これは、間隙が大きいとプラズマガス濃度が低下しその処理効果が十分に発揮されず、高電圧をかけないと処理の進行が遅くなるが、高電圧をかけることにより電極の温度が上昇し、樹脂チューブの温度が上昇して変形、極端な場合にはチューブが溶けるなどの現象が起こることを避けるためである。 勿論、条件を整えて更なる高電圧をかければ間隙を広くすることは可能だが、作業の危険性、発熱量の増加、電源が高価となるなど実用上問題がある。
【0012】
また、本発明では、樹脂チューブと放電電極との間隙にガスを導入しながら放電電極に電圧を印加して、前記樹脂チューブの内側と放電電極の間に発生したプラズマガスにより樹脂チューブの内面を表面処理する。使用する高周波電源は、周波数5〜50kHz、放電電圧5〜15kVrms、パルス変調周波数0〜5Hzの範囲に対応できるものが適しており、周波数、電圧などの条件は、処理速度、導入するガスの種類と濃度、電極の材質、処理する樹脂チューブの材質などによって適宜に設定する。
【0013】
本発明において、前記樹脂チューブはフッ素樹脂チューブであることが好適である。
【0014】
かかる構成によれば、大気圧グロー放電プラズマを利用して樹脂チューブ内表面を処理するにあたり、チューブ径、肉厚の大小に関わらず、チューブ内部で均一で安定的なグロー放電プラズマを発生させることが可能になり、さらに、チューブ外表面に一切影響を与えずチューブ内表面のみを表面処理することが可能であると同時に、チューブ内面にスジなどの傷をつけないことでより接着性に優れた樹脂チューブを提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】チューブ内面の表面処理機能を備えた溶融押出成形装置を説明する図である。
図2】押出機の先端に取り付けられた金型(ダイ)と内径規制部材とを説明する図である。
図3】樹脂チューブ内部に配置される電極の配置図である。
図4】電極の構造の一例を示す模式図である。(b)は側面図である。(a)は(b)のA−A´線における断面図である。
図5】(a)、(b)および(c)は、外面側電極パターンの他の実施形態の例を示す模式側面図である。
図6】電極の放電メカニズムの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に説明する実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の成立に必須であるとは限らない。
【0017】
図1は、チューブ内面の表面処理機能を備えた溶融押出成形装置の一実施形態を示す断面図である。図1に示す溶融押出成形装置は、ホッパー12より投入された樹脂材料を溶融状態に調整しスクリュー11の回転によって樹脂を押出す押出機1と、押出機の先端に取り付けられた金型(ダイ)2と、ダイ2から外部に排出された樹脂チューブAの内周面を接触させて冷却する内径規制部材3と、内径規制部材3により冷却・固化された樹脂チューブをテンションロールを介し一定の速度で引き取る引取機5と、引取機5により引き取られた樹脂チューブを連続的に巻き取る巻取り機6とから構成される、従来より公知のチューブ製造装置を基本としており、ここにチューブ内面の表面処理に必要な構成を設けたものである。本発明では、樹脂チューブ内面の表面処理のために、ダイ2から排出される樹脂チューブAの内部に、放電電極4を配置し、樹脂チューブAと放電電極4との間隙へガスを導入するためのガス導入機構と、樹脂チューブAと放電電極4との間隙内の圧力を一定に保つためのガス排出機構とが設けられる。
【0018】
図2は、押出機1の先端に取り付けられたダイ2と内径規制部材3の一実施形態を示す断面図である。図中の矢印は、樹脂の流れとチューブ排出方向を示す。図2に示すように、ダイ2の本体21には押出機(図示せず)から押し出された溶融状態の樹脂が通過する流路22と、溶融状態の樹脂をチューブ状に成形するための環状の出口孔23が形成されている。また、内径規制部材3は、本体21に環状に形成された出口孔23の中央部を貫通し、ダイ2より突出するように設けられている。図2に示した内径規制部材3は、円筒形状であるが、円錐もしくは円錐の上下面(底面と、底面に対向する面)を平面にした円錐形状などチューブ内面と接触する部分の断面形状が円形となるものであればよい。また、内径規制部材3の外径は、製造しようとする樹脂チューブの内径に応じて決定される。図面左側の押出機から排出された溶融樹脂は、ダイ2の出口孔23から排出され、一定速度で引き取られつつ、内径規制部材3の外周面と接触し、冷却・固化される。ここで、樹脂チューブAの材質は、押出成形可能なものであれば特に限定されないが、フッ素樹脂が特に好適である。フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、テトラフルオロエチレン‐パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂(PFA)、フッ化エチレン‐プロピレン共重合体樹脂(FEP)、エチレン‐テトラフルオロエチレン共重合体樹脂(ETFE)、ポリフッ化ビニル樹脂などがあげられる。これらの中でも、PFAが特に好ましい。
【0019】
図3は、樹脂チューブ内部に配置する放電電極の配置の一例を示す側面図である。図3に示すように、内径規制部材3の先に放電電極4を配置する。樹脂チューブAと放電電極4の間隙は、樹脂チューブAが放電電極4に触れない程度に小さいほど望ましく、0.1mm以上8mm以下とすることが好ましい。より好ましくは0.1mm以上5mm以下である。樹脂チューブAと放電電極4の間隙を小さくすることで、消費ガスを減らすことができ、樹脂チューブAの内面と放電電極4との間に形成される空間内のプラズマガス濃度を高めることで、より効果的に表面処理を行うことができる。内径規制部材3の内部には、内径規制部材3と放電電極4を冷却するための媒体を流すための冷却媒体流路31、樹脂チューブA内へガスを導入および樹脂チューブA内からガスを排出するためのガス導入・排出路32、および放電電極4につながる高周波電源45に接続された金属電線44が内部に配置されている。
【0020】
図4は、放電電極の構造の一例を示す模式図である。(b)は側面図、(a)は(b)のA‐A´線における断面図である。放電電極の構造は、先述のように筒形状の誘電体41の内面に導電体部材43を配置し、外面に導電体成分でパターン図柄を構成した導電体部材42を配置したものである。図4には、メッシュ状パターンの電極をあげたが、これに限定されず、他にも棒状、メッシュ状、スパイラル状などの様々の態様が可能である。図5(a)、(b)および(c)は、電極のパターンとして他の実施形態を示した模式側面図である。また、筒形状の誘電体は、円筒だけでなく、断面が楕円形、三角形、四角形などの処理物の形状に合わせた筒形状が選択可能である。誘電体の材質には、アルミナAlなどのセラミックスやガラスなど、耐熱性、誘電特性に優れる材料が適している。導電体部材の材質としては、銅、銀、ニッケル、アルミニウム、カーボンなどの種々の導電性材料を選択可能である。図3に示すように、放電電極4は、内径規制部材3の内部および金型2の内部を通して、電線44で高周波電源45に接続されている。筒形状誘電体41の外面の導電体部材42に電圧を印加し、内面の導電体部材43側でアースをとる接続としており、この両面の導電体部材42、43間に誘電体を挟んで電圧をかける構造である。筒形状の誘電体の内外を導電体で挟む電極構造のため、表面処理する樹脂チューブを誘電体としてチューブの外側にも電極を配置する従来の方法と異なり、誘電体の厚さを任意に調節することが可能で、グロー放電プラズマの条件の調整範囲を広げることが可能となる。電極間にかける電圧は、樹脂チューブに変形などの影響が出ない温度となるような条件とすれば問題ないが、出来れば50kHz以下とすることが望ましい。樹脂チューブ内部へ導入するガスの種類にもよるが、高周波過ぎると、誘電体が損傷するなどの虞がある。電圧が高すぎると電極が発熱して高温になり、発熱で消費するロスが大きくなる。また、グロー放電からアーク放電へと移行する場合があり望ましくない。アーク放電へ移行してしまうと、チューブを溶かすなどの問題が生じる。使用する高周波電源としては、放電電極をパターン図柄で構成しているのでプラズマガスの発生効率が高く、整合回路の必要がない周波数50kHz以下の安価なもので十分である。
【0021】
本発明では、樹脂チューブAと放電電極4との間隙に、プラズマ化しやすいガス(励起ガス)、もしくは励起ガスと反応性ガスとの混合ガスをガス導入・排出路32から供給し、放電電極4に高周波電源45より電圧を印加することでプラズマガスが発生する。このときの電極近傍の放電の状態を示す模式図が図6である。電極46から金属部材42に電圧が印加され、金属部材43との間に電界が発生する。この電界によって誘電体41が分極し、誘電体41の金属部材42がない表面と金属部材42の端部に電界が集中し、電子が加速し、部分放電が起こる。この部分放電は誘電体41の表面に沿って矢印の方向へ成長する。誘電体表面近傍のグロー放電領域47にある励起ガス分子と反応ガス分子は、高速の電子と衝突しプラズマとなる。このプラズマが樹脂チューブAの内面と接触し、樹脂チューブAの内表面のC‐C結合、もしくはC‐F結合を切断すると同時に、プラズマガス成分、樹脂チューブA内に存在していた水分、もしくは反応ガスの成分が、樹脂チューブAの内表面の官能基として導入される。樹脂チューブA内部へ導入するガスとしては、励起ガスとして、希ガス、窒素から選ばれる少なくとも1種のガスである。励起ガスのみでも構わないが、フッ素樹脂など親水性が低い樹脂の処理には反応性ガスを併用することが好ましい。反応性ガスは、プラズマによって分解するような低分子ガスであれば限定されることはないが、チューブの用途によってその成分を選ぶと良い。励起ガスと併用する反応性ガスの具体例として、水素ガス、珪素系ガス、一酸化炭素、メタンガス、プロパンガス、ブタンガス、アクリル酸エステル、アクリル酸、メタクリル酸、酢酸ビニル、アセトン、ヒドロキシエチルメタアクリレート、グリシジルメタアクリレート、プロパギルアルコール、水などをガス化させたものを例示できるが、これに限定されるものではない。これらのガスはプラズマ中の電子との衝突や紫外線、プラズマ生成された粒子との反応によって分解され、・SI、・OH、・C=O、・COOHなどのラジカル状態となり、同じくプラズマガスによってC‐C結合、C‐F結合を切断されたチューブ内表面に官能基として導入される。
【0022】
樹脂チューブA内部へガスを導入するガス導入・排出路32は複数配置し、ガス濃度の不均一が無いようにする。ガス導入・排出路32の形状は、樹脂チューブA内部へ均一に導入できるものであれば任意のものとすることができる。それぞれのガス導入速度は、処理速度に応じて増減させれば良いが、励起ガスは常温、大気圧下で0.2〜3L/minの範囲であり、反応性ガスは同じく0.01L/min以上で所望の処理の程度によって流量を調整するとよい。反応性ガスは、常温でガス状のものはそのまま導入するが、固体、もしくは液体状のものは、気化装置により気化させて導入する。励起ガスと反応ガスとの混合ガスを用いる場合は、混合した状態で樹脂チューブA内部に導入しても良いし、別々に導入しても良い。
【0023】
図1に示すように、押出機1によって排出され、内面の表面処理を施された樹脂チューブAは、引取機5で引き取られる。引取機5は、所定の間隔を設けて配置された1対のロールとこれら1対のロール間に掛け回された1本の無端ベルトとから構成される1組の回転体が、それぞれ無端ベルトの表面を接するように2組配置された構造をしている。樹脂チューブAは、引取機5の2組の回転体の無端ベルト部分に挟まれて一定の速度で引き取られる。引取り速度は、励起条件、所望の処理の程度などにより調整すれば良い。本発明では、チューブに折り目を付けたくないため、チューブの排出から引取りまでの工程を水平方向に配置して行った。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を、図1に示す溶融押出成形装置を用いて行った実施例を示し、より詳細に説明する。
【0025】
[実施例1]図1に概略を示した溶融押出成形装置を製作した。基本となる押出成形装置に口径25mmのダイを取り付け、そのダイの中央部を貫通しダイの先端から突出するように、内径規制部材を配置した。本実施例では、内径規制部材のチューブと接触する部分の外径が24.5mmのものを使用した。内径規制部材の先端には、放電電極を取り付けた。内径規制部材の内部には、内径規制部材を冷却するための冷却媒体流路が設けられ、放電電極を取り付けるアダプタを介して放電電極内部まで冷却媒体を送り込む流路を設けた。さらに、内径規制部材の内部には、樹脂チューブと放電電極との間隙へガスを導入、間隙からガスを排出するための導入・排出路を6箇所ずつ設けた。放電電極は、図4に示したように、外径22mm、内径20mmの円筒形状のアルミナセラミックス管の内面に厚さ80μmのアルミシートを接着させ、管外面にくし型形状の厚さ80μmのアルミシートを接着して作製した。くし型形状としては、歯の間隔が6mm、歯の太さが3mmのものを使用した。高周波電源には、最大能力50kHzのものを使用し、放電電極の外面側の導電体部材に電圧を印加して内面側の導電体部材でアースを取るような接続とした。本実施例では、放電電極外面と樹脂チューブ内面との距離が1mmとなるように電極外径を設定し、電極の長さは15cmとした。このようにして、表面処理樹脂チューブ成形装置を準備した。
【0026】
上記の成形装置を用いて、樹脂チューブの成形を行った。原料樹脂にダイキン工業株式会社製テトラフルオロエチレン‐パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂(PFA:451HP‐J)を使用し、押出温度390℃に設定した。引取機の引き取り速度は2m/minとして、チューブ外径24.5mm、肉厚30μmのチューブを成形した。本実施例では、励起ガスとして窒素ガス、反応性ガスとして水蒸気を使用した。窒素ガスの流量は、1L/min、水蒸気の濃度は25000ppmとし、励起ガスと反応ガスを混合した状態で放電電極の外面と樹脂チューブ内面との間の空間へ、ガス導入・排出路から導入した。チューブ内部の圧力は、ガスを排出することで調整した。電圧を、周波数5〜10kHz、放電電圧10kV、パルス変調なしの条件で放電電極の外面の高周波側電極に印加して、プラズマを発生させた。この発生したプラズマにより内面のみ表面処理されたPFAチューブを得た。
【0027】
[比較例1]先行技術文献3と同様にチューブ内部に高圧電極、チューブ外部に接地電極を配置した溶融押出成形装置を用いて、実施例1と同様にチューブを押出し、プラズマによる表面処理装置を通過させて処理を施したが、安定したグロー放電を維持した状態で所定の電圧まで上げることができず、十分な処理を施すことができなかった。
【0028】
[表面処理品の評価][1.親水性]表面処理による親水性の評価は、接触角測定によって行った。表面処理前のチューブ内面の接触角は135°であったが、実施例1のチューブ内面の接触角は83°であり、親水処理の効果が確認された。チューブの色は透明であり、化学処理を施した場合の褐色化は認められなかった。また、チューブ外面の接触角には変化は無かった。[2.接着性]実施例1のチューブの内面とシリコンゴムとの接着性を評価した。実施例1のチューブを切り開いて、その内面と1次加硫のシリコンゴムとを圧着し、ピール強度を確認した。圧着条件は、圧力1kg、温度200℃、圧着時間4時間で行った。ピール強度はJIS Z0237に定められた測定方法に基づいて測定した。表面処理前のチューブは全く接着しないが、実施例1のチューブは、40N/cmの接着強度を発現した。また、そのチューブとシリコンゴムとの接着シートを200℃で100時間暴露した後に、同じくピール強度を測定したところ、38N/cmの接着強度を維持しており、耐熱特性も良好であることが確認された。
【0029】
実施例1で本発明の方法を用いて作製したチューブは、従来公知の連続処理方法による処理チューブでは達成できなかった化学薬品処理と同等の親水性を示し、他材料との接着性についても化学薬品処理と同等、またはそれ以上の接着性であり、それはプライマーなどを用いることなく達成することができた。また、従来公知のプラズマ処理技術と比較して、励起ガスを生成させるために投入するエネルギーが低く抑えられ、安定して均一なプラズマを発生させることができた。そのため、チューブを連続的に成形しながらの短時間のプラズマ照射で十分な効果を示した。また、プラズマガスが均一で、低エネルギーでプラズマ化することが出来るため、チューブ肉厚が非常に薄い場合でも、チューブにピンホールや破れを生じることなく内面に表面処理を行うことが可能であった。さらに、チューブ外部には電極を配置せず、チューブ内部の電極でプラズマを発生させるため、チューブ外表面には一切影響を与えることがなかった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上説明したように本発明によれば、大気圧グロー放電プラズマを利用して樹脂チューブ内表面を処理するにあたり、チューブ径、肉厚の大小に関わらず、チューブ内部で均一で安定的なグロー放電プラズマを発生させることが可能になる。さらに、樹脂チューブ外表面を一切処理せずにチューブ内表面のみを表面処理することが可能であると同時に、チューブ内面にスジなどの傷をつけることなく、チューブ外面にも折り目や傷のない接着性に優れた樹脂チューブを提供することが出来る。本発明の方法で処理したチューブは、他材料との接着が必要な各用途において有用に用いられるものである。
【符号の説明】
【0031】
1 押出機、 11 スクリュー、 12 ホッパー、 2 金型(ダイ)、 21 金型本体、 22 樹脂流路、 23 出口孔、 3 内径規制部材、 31 冷却媒体流路、 32 ガス導入・排出路、 4 放電電極、 41 誘電体、 42 導電体部材(外面)、 43 導電体部材(内面)、 44 電線、 45 高周波電源、 46 電極、
47 グロー放電領域 5 引取機、 6 巻取り機、 A 樹脂チューブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6