(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
環境汚染が深刻な問題となっている現在は、産業廃棄物をそのまま廃棄することが困難である。特に有害物質を含有する産業廃棄物は、洗浄等による有害物質の除去作業を行う必要がある。例えば、ポリ塩化ビフェニルは、電気絶縁性が良好で、有機溶媒や油によく溶解するため、電気機器類の変圧器(トランス)、コンデンサの絶縁油、接着剤、ワックス、潤滑油等に広く使用されてきた。しかし、ポリ塩化ビフェニルは、発癌性や皮膚障害、内臓障害、ホルモン異常等、生体に対する毒性が高く、また、脂肪組織に蓄積しやすい性質があり、現在は製造が禁止されている。このため、ポリ塩化ビフェニルの使用が認められていた時期に生産され、使用されていた電気機器等の廃棄物は、洗浄によるポリ塩化ビフェニルの除去が必要となる。ところが、ポリ塩化ビフェニルが絶縁油として使用されてきた電気機器である変圧器は、その内部に使用する絶縁油の量が多く、また内部構造が複雑であるため、洗浄作業が難しく、洗浄が行われないまま保管されている変圧器が大量に存在することが知られている。
【0003】
従来、電気機器に残留するポリ塩化ビフェニル含有絶縁油の洗浄は、電気機器を洗浄槽に入れ、洗浄用の溶剤に浸漬して洗い流す方法により行われてきた。例えば、特許文献1では、密閉可能な洗浄容器にPCBで汚染された処理対象物を入れ、洗浄容器内部を真空にして炭化水素系の液体洗浄剤を入れて超音波洗浄または揺動洗浄する第1処理と、洗浄容器内の洗浄剤を抜く第2処理と、を繰り返す真空洗浄処理方法が提案されている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施形態にかかるシステムを用いて洗浄する対象物である変圧器とは、交流電力の電圧を変換する電力機器のことであり、磁気的に結合した複数のコイルを主な構成部品とする。変圧器は、絶縁物の種類により油入変圧器、モールド変圧器、ガス変圧器があるが、本明細書では、特に、油を絶縁物として用いた油入変圧器のことを指す。油入変圧器は、油の容量が数万〜数十万kLの大型機器、数百から数千kLの中型機器、数百リットル以下の小型機器がある。油入変圧器の絶縁油中にはかつてポリ塩化ビフェニルが使用されており、ポリ塩化ビフェニルが内部に残留している変圧器が処理されることなく大量に存在している。このように廃棄処理が困難なために残存している変圧器を本実施形態を利用した洗浄の対象とする。
【0011】
本実施形態のシステムを用いて除去する対象のポリ塩化ビフェニル(以下、「PCB」と称する。)とは、分子内に存在する塩素の数および位置が異なる209種類の異性体の総称のことであり、特定の一種類の化合物を指すものではない。
【0012】
本実施形態のシステムは、少なくとも洗浄剤容器と、変圧器加熱装置と、洗浄剤回収容器と、冷却器と、液化装置と、減圧装置とを含む。洗浄剤容器は、システムを利用しての洗浄に用いる洗浄剤を一時的にまたか恒常的に貯蔵しておく容器である。ここで洗浄剤としては、変圧器内に残存する油を溶解させることができかつ当該油よりも沸点が低いものが好ましい。このような洗浄剤として、炭化水素系溶剤、ハロゲン系溶剤等を用いることができる。たとえば、炭素数が8〜15のアルカン、アルケン、シクロアルカン又はアルケン系溶剤(特に、炭素数が11〜13のアルカンやアルケン系溶剤)や、炭素数が1〜12のハロゲン系溶剤を用いることができる。具体的には、変圧器1の内側に残留しているPCB含有油を溶解しやすい炭化水素系溶剤である、アクアソルベントG71(アクア化学株式会社)、HC−370(東ソー株式会社)、MD−250(武蔵テクノケミカル株式会社)、Linpar12(Sasol Limited)、MACSOL−P(NSI株式会社)等のドデカンを主成分とする市販の溶剤を用いることができる。この他、場合により水、水系溶剤、アルコール等を用いることも可能である。よって洗浄剤容器はこれらの洗浄剤を貯蔵可能な耐久性を有するものである。
【0013】
変圧器加熱装置は、変圧器の少なくとも一部を加熱することが可能な加熱器具であれば如何なるものを用いても良い。たとえばリボンヒータ、スチームヒータ、オイルバス、電気ヒータ、電磁加熱器等のように、直接的あるいは間接的に変圧器絶縁油室を加熱する手段を挙げることができる。
【0014】
洗浄剤回収容器は、本実施形態のシステムを利用して汚染された変圧器を洗浄した後に生じた汚染洗浄剤を回収するための容器である。先に説明したとおり、洗浄剤として炭化水素系溶剤、ハロゲン系溶剤等を用いることができるため、洗浄剤回収容器も、これらの溶剤を貯蔵可能な耐久性を有するものである。
【0015】
冷却器は、洗浄対象物である変圧器に接続される。冷却器は変圧器の内部で気化させた洗浄剤を冷却し凝結させて、再び液体として変圧器に還流させるためのものである。冷却器は、気化洗浄剤を冷却し凝結させることができるものであれば如何なるものを用いても良いが、たとえば還流コンデンサを用いることができる。冷却器には、チラーを設けて変圧器内部に還流する液体温度を調整しても良い。
【0016】
液化装置は、先に説明した冷却器で還流しきれなかった気化洗浄剤をとらえて分離するためのものである。有機洗浄剤の外部への排出を可能な限り低減した閉鎖系または準閉鎖系にて本システムを稼働させるために、液化装置を設けておくことが非常に好ましい。液化装置は、気化洗浄剤を捕捉して分離することができるものであれば如何なるものを用いても良いが、たとえばデミスタ、あるいは熱交換機を用いることができる。なお、液化装置でとらえきれなかった洗浄剤等を最終的に完全に捕捉するために、活性炭塔をさらに設けることもできる。液化装置にチラーを設けて温度を調整しても良い。
【0017】
減圧装置は、系全体を減圧するためのものである。減圧装置で系全体を減圧することにより洗浄剤を気化させる温度を低下させることができる。減圧装置は、系全体を減圧することができるものであれば如何なるものを用いても良いが、たとえば真空ポンプを用いることができる。
【0018】
実施形態のシステムはこれらの装置と、これら装置を接続する配管および適切な数の開閉弁とを含むものであり、これらを収納手段に配置して成る。収納手段として、収納ラックまたは収納コンテナ等の、各装置を所定の位置に配置することができる容器を用いることができる。このように各装置を収納手段内にコンパクトに配置することで、システム全体を可搬型とすることができる。これらの装置から構成されるシステムを1台の車両等の移動手段に積載すれば、汚染変圧器の保管されている場所が遠方であってもシステム全体をその現場まで移動させることができる。システム全体がコンパクトであることから、高所や地下に存在する汚染変圧器に側にシステムを移動させることができ、その場で洗浄作業を行うことができる。
【0019】
続いて、本実施形態のシステムを利用して、PCBで汚染された変圧器を洗浄する方法を説明する。この洗浄方法は、変圧器内の油を洗浄剤に溶解して変圧器外に排出することを基本とする。まず、変圧器の内側に洗浄剤を供給し、変圧器を加熱して内側に供給された洗浄剤を気化させることにより、変圧器の内側に存在する油を洗浄剤に溶解させる。次いで油が溶解した洗浄剤を変圧器外に排出してこれを回収する。
【0020】
本実施形態のシステムによる洗浄方法は、変圧器の内側のみに洗浄剤を供給し、内側で洗浄剤を気化させるので、洗浄剤を気化させるための気化装置や洗浄槽等の大型の装置が不要である。本実施形態の洗浄方法では、変圧器内部で気化した洗浄剤が、積層物の間隙などの部分で凝縮および突沸を繰り返しながら入れ替わる性質を利用しており、複雑な構造を有する部分を漏れなく洗浄することができる。本実施形態の洗浄方法は、広大な場所を必要とせず、かつ洗浄剤使用量の少ない、ほぼ閉鎖系の、効率的な洗浄をもたらすことができる。
【0021】
本実施形態のシステムによる洗浄方法は、変圧器内の油を洗浄剤で洗い流すことを基本とする。多数の鉄板が積層された構造を有する鉄心がその内部に配置されている変圧器は、積層された鉄板と鉄板との間にも油が残留しており、この残留油を完全に洗浄することが非常に難しいことが知られている。まず、変圧器の内側に洗浄剤を供給し、変圧器を加熱して内側に供給された洗浄剤を気化させることにより、変圧器の内側に存在する油を洗浄剤に溶解させる。ここで気化とは、一般的には液体が気体に変化する現象をいい、液体表面からの蒸発と、液体内部からの沸騰を含む概念である。液体である洗浄剤を変圧器の内側に供給し、次いで加熱すると、まず洗浄剤表面から蒸発が起こる。変圧器の内側の温度が上昇してやがて洗浄剤の沸点に達すると、洗浄剤内部から沸騰が起こり、洗浄剤は完全に気化した状態となる。気化した洗浄剤は変圧器内部の空間に拡散して、変圧器の内側に配置されている構成部品に接触する。
【0022】
ここで本実施形態のシステムにおいて、気化した洗浄剤が変圧器の内側に残留している油を溶解していく仕組みを説明する。変圧器内部に配置された巻線のように、多数の板状のものが積層された構造を有する物体をそのままの形で洗浄することは非常に難しい。しかしながら松本らによるQuasi two-dimensional boiling under reduced pressure (Proceedings of the First Pacific Thermal Engineering Conference, PRTEC, March 13-17, 2016)によれば、減圧下、気化状態の溶剤が積層物の間隙部に入り込み、ここで凝縮と突沸とを繰り返しながら間隙部の溶剤が入れ替わる現象が見られる。密閉状態の容器内部の圧力を調整しつつ、気化状態の溶剤を積層物に接触させれば、積層物の間隙部分に気化状態の洗浄剤が入り込んでその部分に存在する油を溶解し、凝縮と突沸とを繰り返しながら新しい洗浄剤と入れ替わっていくと推察される。本実施形態のシステムは、この見地に着目し、PCBで汚染された変圧器内部に気化洗浄剤を接触させて、積層物の間隙部分までも洗浄する方法に利用可能である。ここで本実施形態のシステムは、洗浄剤を気化させるための特別な装置を必要とせず、加熱装置を利用して変圧器内部の洗浄剤を直接気化させる。したがって本システムの稼働には広大なスペースを必要としないばかりか、洗浄対象である変圧器自体を移動させる必要もない。
【0023】
続いて
図1を用いて本実施形態のシステムを説明する。
図1は本実施形態のシステムを模式的に説明する図である。
図1中、2は洗浄剤容器、3は加熱装置、4は洗浄剤回収容器、51および52は冷却器、61および62はチラー、7はデミスタ、81は真空ポンプ、82はドレンセパレータ、9は活性炭塔であり、101、102、103、104および105は、洗浄剤流路および減圧用流路に設けられる該流路を開閉するための開閉弁である。これらの開閉弁を開閉することにより、系の圧力を調節したり、洗浄剤の導入ならびに排出を行ったりすることができる。なお洗浄対象物である変圧器はここには図示していない。本実施形態のシステムは、図示された各システム部材を収納容器10に収納してある。収納容器10は、これらのシステム部材を安全に保護し、適切に収納しておくことができるものであれば如何なるものを用いても良く、たとえば収納ラックや収納コンテナを利用することができる。各システム部材は、直ちに変圧器を設置できる状態(
図1に示されるような状態)に収納容器10の内部に設置しておくことができる。各システム部材をそれぞればらばらに収納しておき、現地で
図1のように組み立てることも可能である。各システム部材をある程度組み立てた状態で収納容器10の内部に設置しておき、現地において適宜配管を接続して
図1のように組み立てることもできる。
【0024】
次いで
図2を用いて実施形態のシステムを用いて変圧器を洗浄する方法を説明する。
図2は、PCBを含有する油で汚染された変圧器1を実施形態のシステムと接続した様子を表す図である。ここで洗浄対象となる変圧器1は、いわゆる油入変圧器と呼ばれるタイプのものであり、絶縁物として油を使用する変圧器である。変圧器は、主に鉄心11、巻線12、絶縁材料(すなわち油)13、タップ切替装置14、および絶縁油室15とから主に構成され、その他
図2には記載していない、紙、木材あるいは陶磁器製等の部品を有するものである。変圧器には、油容量が数万〜数十万kLの大型機器、数百から数千kLの中型機器、数百リットル以下の小型機器がある。本実施形態のシステムはいずれの容量の変圧器も洗浄可能である。変圧器1の底部および/または周囲部分に加熱装置3を取り付け、変圧器1と、洗浄剤容器2、洗浄剤回収容器4および冷却器51とをそれぞれ開閉弁105、104および101を介して接続する。そして開閉弁101、102および103を開け、開閉弁104および105を閉じて真空ポンプ81を作動させて変圧器1内部を減圧する。この状態で開閉弁102を閉じ開閉弁104を開けると洗浄剤容器2に貯蔵されている洗浄剤が変圧器1内部に導入される。洗浄剤として、変圧器1内の油を溶解させることができかつ当該油よりも沸点が低い液体が好ましい。このような洗浄剤として、炭化水素系溶剤あるいはハロゲン系溶剤等を用いることができる。たとえば、炭素数が8〜15のアルカン、アルケン、シクロアルカン又はアルケン系溶剤(特に、炭素数が11〜13のアルカンやアルケン系溶剤)や、炭素数が1〜12のハロゲン系溶剤を用いることができる。具体的には、変圧器1の内側に残留しているPCB含有油を溶解しやすい炭化水素系溶剤である、アクアソルベントG71(アクア化学株式会社)、HC−370(東ソー株式会社)、MD−250(武蔵テクノケミカル株式会社)、Linpar12(Sasol Limited)、MACSOL−P(NSI株式会社)等のドデカンを主成分とする市販の溶剤を用いることができる。この他、場合により水、水系溶剤、アルコール等を用いることも可能である。
【0025】
洗浄剤を導入した後、開閉弁101および103を開けた状態、102、104および105を閉じた状態で、真空ポンプ81を作動させて、変圧器1内部を大気圧より低い圧力に減圧する。真空ポンプ81を作動させたままの状態で、変圧器1の底部および/または周囲部分に取り付けられた加熱装置3により変圧器1の絶縁油室15を加熱する。加熱装置3は、変圧器1の少なくとも一部を加熱することが可能な加熱器具であれば如何なるものを用いても良い。加熱装置として、たとえばリボンヒータ、スチームヒータ、オイルバス、電気ヒータ、電磁加熱器等のように、直接的あるいは間接的に絶縁油室15を加熱する手段を挙げることができる。加熱装置3を用いて絶縁油室15を加熱すると変圧器1の内側の温度が上昇し、変圧器1の内側で洗浄剤の気化が開始する。気化した洗浄剤は変圧器1の内側に拡散する。加熱装置3による加熱は、洗浄剤が気化(蒸発)する温度にまで行えばよい。しかし好ましくは洗浄剤が沸騰する温度、すなわち洗浄剤の沸点以上となるように変圧器1の内側を加熱する。変圧器内部1に導入された洗浄剤が蒸発し始め、やがて変圧器1の内側の温度が洗浄剤の沸点以上に達すると、気化洗浄剤が変圧器1内部に拡散する。変圧器1には冷却器51が接続されていて、変圧器1の外部に排出された気化洗浄剤は冷却器51で液体に戻り、変圧器1内部に還流する。このまま加熱と減圧を続けることで気化洗浄剤が変圧器1の内部の構成部品間にまで行き渡り、凝縮および突沸を繰り返しながら入れ替わり、PCB汚染油を溶解していく。変圧器1の内側には、鉄心、巻線、タップ切替装置、その他紙、木材あるいは陶磁器製の部品等の各種構成部品が配置されていて、構造が非常に複雑であるが、気化洗浄剤はこれらの構成部品同士の隙間にまで均一に拡散することができる。
【0026】
ここで変圧器の内側に供給する洗浄剤の量は、洗浄対象である変圧器の容量により変わりうる。たとえば、変圧器の容量の20%以下、特に10%以下の洗浄剤を供給すれば、変圧器の内側に存在する油を漏れなく凝縮ならびに溶解させることができる。場合によっては変圧器の容量の5%以下の洗浄剤を供給するだけで変圧器の内側の油を洗浄することも可能である。また加熱装置による加熱は、変圧器内が、供給した洗浄剤が気化する温度に達する程度に行えばよく、好ましくは洗浄剤の沸点に達する程度に行えばよい。変圧器内の圧力にもよるが、変圧器内の圧力を大気圧より低い圧力に維持して洗浄を行う場合は、一般的には変圧器内が50℃〜250℃、好ましくは100℃〜200℃の範囲の温度になるように加熱すると良い。
【0027】
このように減圧装置を利用すれば、洗浄剤を比較的低温で気化させることができる。系内を外部より低圧にするので洗浄剤が外部に漏洩することがなく、洗浄剤への引火を防止することができる。減圧装置としては、変圧器1内を減圧できるものであればどのようなものでも良いが、例えば、変圧器1、または洗浄剤流路のいずれかに減圧用流路を介して接続される真空ポンプを用いれば良い。
図2では真空ポンプ81を設けた態様を示している。たとえば、洗浄剤としてドデカンを用いた場合、減圧装置を用いて系の圧力を約0〜70kPaとすることで、変圧器内の温度を200℃程度とすれば洗浄剤を気化させることができる。
【0028】
図示しないが、変圧器1内の圧力を検出する圧力検出手段を設けても良い。これにより、変圧器1の内部が減圧されているか否かを予め確認することができる。また、圧力検出手段が検出した情報に基づいて開閉弁を制御し、変圧器1内の圧力を調節するようにしても良い。また、図示しないが、窒素や希ガス等の不活性ガスを供給できる不活性ガス供給用タンクと当該ガス供給用タンクと変圧器1とを接続する不活性ガス供給流路と、不活性ガス供給流路を開閉するための不活性ガス用開閉弁とを設けても良い。これにより、圧力検出手段が異常な圧力を検知した際に、加熱装置3による加熱を停止し、変圧器1内に不活性ガスを供給することができる。すなわち緊急時には変圧器1内に不活性ガスを供給することで、加熱状態の系を安全な状態に移行させることができる。
【0029】
気化した洗浄剤を還流させることによる変圧器1の洗浄は、閉鎖系もしくは準閉鎖系にて所定の時間行うことができる。洗浄操作の終了後、加熱手段3による加熱を停止し、変圧器1を冷却する。
図2には変圧器1の冷却手段を図示していないが、変圧器1に冷却手段を設ければ、加熱した変圧器1を速やかに冷却することができる。変圧器1内部の温度が低下すると、気化した洗浄剤が液化して変圧器1底部に溜まる。開閉弁104を開けて変圧器1底部に溜まった洗浄剤を洗浄剤回収容器4に排出させてこれを回収する。こうしてPCBで汚染された油を変圧器1内部から除去することができる。このとき図示していない不活性ガス供給タンクから不活性ガスを変圧器1の内部にフラッシュして、洗浄剤を押し出すこともできる。こうした洗浄操作を必要に応じて複数回繰り返して変圧器1の内部のPCB汚染油を完全に洗浄剤回収容器4に移行する。回収された汚染洗浄剤は、国の無害化処理認定を受けた処理施設において、たとえば焼却する等して廃棄することができる。
【0030】
洗浄操作の後、さらに好ましくは洗浄剤の回収操作の後、変圧器1を解体して構成部品ごとに分けることができる。たとえば
図1の変圧器1を構成部品ごとに分けると、おおまかには鉄心、巻線、タップ切替装置ならびに絶縁油室に分けることができる。鉄心は、複数のケイ素鋼帯が積層された巻鉄心や、複数のケイ素鋼帯が接合された積鉄心があり、それぞれのケイ素鋼帯に解体することが好ましい。また巻線は、銅線、ホルマール平角銅線、紙巻平角銅線、電着塗装平角銅線、転位導体、および銅条等が使用されており、たとえば紙巻平角銅線が巻線として使用されている場合は平角銅線部と巻紙部とにさらに解体することが好ましく、転位導体が使用されている場合は平角銅線と外装絶縁体とにさらに解体することが好ましい。同様にタップ切替装置はタップ板、およびタップ切換器等の構成部品の最小単位になるように解体する。このように変圧器1を解体して構成部品ごとに分けるとは、構成部品を形成する最小単位の部品または可能な限り最小単位の部品となるまで解体することを意味する。本明細書において構成部品という語は、変圧器の構成部品をさらに解体して得た最小単位の部品の意味をも包含するものとする。
【0031】
このように洗浄済み変圧器の解体で得られた構成部品の少なくとも一部について、PCBの残量を測定する検査を遂行することができる。検査は、洗浄済み変圧器の解体で得られた構成部品のうち少なくとも一部について行えばいいが、特に構成部品のうちPCBが残存しやすく、かつ洗浄剤と接触しにくい鉄心や巻線について検査を行うことが好ましい。構成部品におけるPCBの残量は、たとえば「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」に定められた方法で測定することができる。構成部品にPCBの残存が検出されなかった場合は、解体で得られた構成部品をそのまま廃棄することができる。
【0032】
逆に、検査により構成部品の一部にPCBが検出された場合は、構成部品に洗浄剤を噴射して、構成部品を再洗浄することが好ましい。構成部品の一部にPCBが検出された場合、検出された構成部品のみに洗浄剤を噴射することができ、解体で得られた構成部品のすべてに洗浄剤を噴射して再洗浄を行うこともできる。再洗浄工程で噴射する洗浄剤は、洗浄で使用することができる炭化水素系溶剤、ハロゲン系溶剤等である。たとえば、炭素数が8〜15のアルカン、アルケン、シクロアルカン又はアルケン系溶剤(特に、炭素数が11〜13のアルカンやアルケン系溶剤)や、炭素数が1〜12のハロゲン系溶剤を用いることができる。具体的には、炭化水素系溶剤であるアクアソルベントG71(アクア化学株式会社)、HC−370(東ソー株式会社)、MD−250(武蔵テクノケミカル株式会社)、Linpar12(Sasol Limited)、MACSOL−P(NSI株式会社)等のドデカンを主成分とする市販の溶剤を用いることができる。この他、場合により水、水系溶剤、アルコール等を用いることも可能である。洗浄工程で使用した洗浄剤と同じ洗浄剤を再洗浄工程においても使用することが特に好ましい。再洗浄工程の後、再洗浄した構成部品についてPCBが検出されるかどうか再度検査することができる。このように検査工程と再洗浄工程とを必要に応じて数回繰り返し、PCBを完全に洗い流した構成部品を得ることができる。PCBを完全に洗い流した各構成部品は、廃棄物として処理することができる。