特許第6292655号(P6292655)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6292655
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】キトサン及びヒアルロナンを含むナノ粒子
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/73 20060101AFI20180305BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20180305BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20180305BHJP
   B82Y 5/00 20110101ALI20180305BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20180305BHJP
   A61K 8/365 20060101ALI20180305BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20180305BHJP
【FI】
   A61K8/73
   A61K8/02
   A61Q19/00
   B82Y5/00
   B82Y40/00
   A61K8/365
   B82Y30/00
【請求項の数】13
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2013-213218(P2013-213218)
(22)【出願日】2013年10月10日
(65)【公開番号】特開2014-114272(P2014-114272A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2016年9月12日
(31)【優先権主張番号】特願2012-226107(P2012-226107)
(32)【優先日】2012年10月11日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開催日:平成24年5月29日 集会名:第61回高分子学会年次大会にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 智典
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 保博
【審査官】 駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−100468(JP,A)
【文献】 特開平04−275207(JP,A)
【文献】 特開平02−300109(JP,A)
【文献】 特開2009−167124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00−8/99
A61Q 1/00−90/00
A61K 9/00−9/72
A61K47/00−47/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロナン、キトサン、及びヒアルロナン以外のアニオン性ポリマーを含む複合粒子であって、前記アニオン性ポリマーは、キトサンに対する親和性がヒアルロナンに比して高いことを特徴とする、複合粒子。
【請求項2】
前記アニオン性ポリマーは、硫酸化ポリマー、又はカルボキシル基高含有ポリマーである、請求項1に記載の複合粒子。
【請求項3】
前記硫酸化ポリマーは、硫酸化多糖である、請求項2に記載の複合粒子。
【請求項4】
前記硫酸化多糖は、コンドロイチン硫酸、デキストラン硫酸、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、フコイダン、ケラタン硫酸、ヘパリン、カラギナンである、請求項3に記載の複合粒子。
【請求項5】
前記カルボキシル基高含有ポリマーは、カルボキシル基高含有多糖である、請求項2〜4のいずれかに記載の複合粒子。
【請求項6】
前記カルボキシル基高含有多糖は、ペクチン、アルギン酸である、請求項5に記載の複合粒子。
【請求項7】
ヒアルロナンを40〜80質量%、キトサンを15〜45質量%、及び前記アニオン性ポリマーを1〜30質量%含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の複合粒子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の複合粒子の製造方法であって、
ヒアルロナン、キトサン、前記アニオン性ポリマーを、緩衝液の存在下で複合化することを特徴とする、複合粒子の製造方法。
【請求項9】
ヒアルロナンを緩衝液中に溶解する工程と、
キトサンを緩衝液中に溶解する工程と、
前記アニオン性ポリマーを、緩衝液中に溶解する工程と、
ヒアルロナン溶液、キトサン溶液、及びアニオン性ポリマー溶液を混合撹拌する工程と、
を含む、請求項8に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項10】
前記ヒアルロナン溶液、キトサン溶液、及びアニオン性ポリマー溶液を混合撹拌する工程において、混合液中のキトサンのアミノ基とヒアルロナンのカルボキシル基の電荷比が1:0.1〜1:5、かつ、混合液中のキトサンのアミノ基とヒアルロナン以外のアニオン性ポリマーのカルボキシル基と硫酸基の和の電荷比が、1:0.01〜1:2、となるように各溶液を混合することを特徴とする、請求項8又は9に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項11】
前記緩衝液がクエン酸緩衝液である、請求項8〜10のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれかに記載の複合粒子の保存方法であって、前記複合粒子を、緩衝液中で保存することを特徴とする、複合粒子の保存方法。
【請求項13】
前記緩衝液がクエン酸緩衝液である、請求項12に記載の複合粒子の保存方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚外用剤の原料として利用され得るナノ粒子、及びそのナノ粒子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
皮膚外用剤の有効成分を角質細胞層内に送達するためには、従来以下のような点が問題とされてきた。
皮膚の角層細胞層は、外界からの異物の侵入を防ぐためにバリア機能を有しており、有効成分が角層細胞層内に到達しにくい。
特に、有効成分が高分子化合物である場合には、高分子化合物が低浸透性であるため角層細胞層内に浸透しにくく、有効成分が皮膚表面で凝集してしまう。
【0003】
このような状況において、有効成分を角層細胞層内に送達するためのキャリアとして、ナノ粒子の開発が進められてきた。
特許文献1には、核酸、オリゴ核酸、又はその誘導体;カチオン性ポリマー又はカチオン性脂質若しくはそれを含む集合体;及びアニオン性ポリマーを含む複合体の凍結乾燥体が記載されている。
【0004】
特許文献2には、直径1μm未満の活性成分の投与用のナノ粒子を得る方法であって、a)ヒアルロナン塩の水溶液を調製し、b)カチオン性ポリマーの水溶液を調製し、c)ポリアニオン塩を前記ヒアルロナン塩溶液に加え、d)前記b)およびc)において得られた溶液を撹拌混合し、自然発生的にナノ粒子を得ることを含んでおり、前記a)、b)またはc)において得られた溶液のうち1つに、あるいは前記d)において得られたナノ粒子の懸濁液に、前記活性成分を溶解させ、ナノ粒子に吸着させる、方法が記載されている。
【0005】
特許文献3には、生物学的に活性な分子を放出するためのナノ粒子を含んでなる系であって、前記ナノ粒子が、a)少なくとも50重量%のキトサンまたはキトサン誘導体、およびb)50重量%未満のポリエチレングリコール(PEG)またはPEG誘導体を含んでなる共役物を含んでおり、前記料成分a)とb)とが、キトサンアミノ基を介して共有結合しており、前記ナノ粒子が架橋剤により架橋していることを特徴とする系が記載されている。
【0006】
特許文献4には、平均サイズ1マイクロメートル未満のナノ粒子を含み、ナノ粒子がa)ヒアルロナンまたはその塩;およびb)キトサンまたはその誘導体、を含む生物活性分子の放出のための系であって、キトサンまたはその誘導体の分子量が90kDa未満であることを特徴とする系が記載されている。また、生物活性分子として核酸等を含む系、網状化剤としてトリポリリン酸塩を含む系が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2007/132873号パンフレット
【特許文献2】特表2007−520424号公報
【特許文献3】特表2008−533108号公報
【特許文献4】特表2009−537604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、製造したナノ粒子を化粧水の成分などとして配合する際には、溶液中での安定性が問題となる。
特に、従来のナノ粒子は、溶液中でナノ粒子同士の凝集が起こり、粒子径が増大するという問題があった。
そこで、本発明は、キトサン及びヒアルロナンを含む、溶液中での安定性に優れた複合粒子を提供することを課題とする。特にキトサン及びヒアルロナンからなる二元複合粒子よりも溶液中での安定性に優れた複合粒子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、キトサン及びヒアルロナンを含む複合粒子の溶液中での安定性を高める技術を求めて鋭意研究努力を重ねた結果、キトサン及びヒアルロナンに、キトサンに対する親和性がヒアルロナンに比して高いアニオン性ポリマーを組み合わせることにより、複合粒子の安定性が顕著に高まることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、以下のとおりである。
【0010】
前記課題を解決するための本発明は、ヒアルロナン、キトサン、及びヒアルロナン以外のアニオン性ポリマーを含む複合粒子であって、前記アニオン性ポリマーは、キトサンに対する親和性がヒアルロナンより高いことを特徴とする。
キトサンに対する親和性が、ヒアルロナンに比して高いアニオン性ポリマーを、組み合わせることにより、複合粒子の溶液中での保存安定性が顕著に高まる。特に、ヒアルロナンとキトサンの二元系複合粒子は、低濃度、低温で保存した場合には、凝集を起こしやすいという問題があったが、本発明の三元系複合粒子は、このような条件でも問題となるような粒子径の増大をほとんど起こさない。すなわち、温度や濃度にかかわらず安定性が高いものである。
【0011】
前記アニオン性ポリマーとしては、硫酸化ポリマー、又はカルボキシル基高含有ポリマー等を用いることが可能である。
【0012】
例えば、前記硫酸化ポリマーは、硫酸化多糖である。本発明の複合粒子を皮膚外用剤、化粧料の成分として用いる場合には、その安全性から硫酸化多糖が好ましく用いられる。
【0013】
前記硫酸化多糖としては、例えば、コンドロイチン硫酸、デキストラン硫酸、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、フコイダン、ケラタン硫酸、ヘパリン及びカラギナンなどが挙げられる。
【0014】
例えば、前記カルボキシル基高含有ポリマーは、カルボキシル基高含有多糖である。
【0015】
前記カルボキシル基高含有多糖としては、アルギン酸、ペクチンなどが挙げられる。
【0016】
本発明の好ましい形態では、ヒアルロナンを40〜80質量%、キトサンを15〜45質量%、前記アニオン性ポリマーを1〜30質量%含む。
各成分を上記範囲で含むことにより、小さな粒子径の複合粒子を作製でき、しかも安定性も実現することが容易になる。
【0017】
本発明はまた、ヒアルロナン、キトサン、前記アニオン性ポリマーを、緩衝液の存在下で複合化することを特徴とする、複合粒子の製造方法である。
本発明の製造方法によれば、小さな粒子径であり、かつ溶液中での安定性の高い複合粒子を効率よく作製することができる。
【0018】
本発明の好ましい形態では、本発明の製造方法は、ヒアルロナンを緩衝液中に溶解する工程と、キトサンを緩衝液中に溶解する工程と、前記アニオン性ポリマーを、緩衝液中に溶解する工程と、ヒアルロナン溶液、キトサン溶液、及びアニオン性ポリマー溶液を混合撹拌する工程と、を含む。
このような方法によれば、凝集を防ぎながら粒子径の複合粒子を製造することが容易になる。
【0019】
本発明の好ましい形態では、本発明の製造方法は、前記ヒアルロナン溶液、キトサン溶液、及びアニオン性ポリマー溶液を混合撹拌する工程において、混合液中のキトサンのアミノ基とヒアルロナンのカルボキシル基の電荷比が1:0.1〜1:5、かつ、混合液中のキトサンのアミノ基とヒアルロナン以外のアニオン性ポリマーのカルボキシル基と硫酸基の和の電荷比が、1:0.01〜1:2、となるように各成分の混合比を調整する。
このように電荷比に基づいた混合比で混合され、作製された複合粒子は、粒子径が小さくなり、また、保存安定性に優れたものとなる。
【0020】
本発明の好ましい形態では、前記緩衝液はクエン酸緩衝液である。
緩衝液としてクエン酸緩衝液を用いることにより、ナノサイズ(たとえば、約100nm以下)の複合粒子を効率よく製造することが容易になる。特に、比較的大きな分子量(たとえば、600kDa以上)のヒアルロナンを用いた場合においても、ナノサイズの複合粒子を製造することができる。
【0021】
本発明は、上記製造方法により製造された複合粒子の保存方法であって、前記複合粒子を、緩衝液中で保存することを特徴とする。また、この場合の緩衝液としては、クエン酸緩衝液が好ましい。
本発明の複合粒子を、緩衝液中で保存することにより、粒子径の増大を引き起こさずに安定的に保存することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の複合粒子は、従来のヒアルロナンとキトサンの二元系複合粒子に比して、溶液中での安定性にきわめて優れる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】ヒアルロナン(480kDa)/キトサン(110kDa)/コンドロイチン硫酸(22kDa)三元複合粒子の各混合比における粒子径の個数分布を示すグラフである。
図2】ヒアルロナン(1300kDa)/キトサン(110kDa)/コンドロイチン硫酸(22kDa)三元複合粒子の各混合比における粒子径の個数分布を示すグラフである。
図3】ヒアルロナン(1300kDa)/キトサン(110kDa)/コンドロイチン硫酸(10kDa)三元複合粒子の各混合比における粒子径の個数分布を示すグラフである。
図4】ヒアルロナン(1300kDa)/キトサン(110kDa)/コンドロイチン硫酸(14kDa)三元複合粒子の各混合比における粒子径の個数分布を示すグラフである。
図5】ヒアルロナン(1300kDa)/キトサン(110kDa)/コンドロイチン硫酸(15kDa)三元複合粒子の各混合比における粒子径の個数分布を示すグラフである。
図6】ヒアルロナン(1300kDa)/キトサン(110kDa)/コンドロイチン硫酸(40kDa)三元複合粒子の各混合比における粒子径の個数分布を示すグラフである。
図7】ヒアルロナン(1300kDa)/キトサン(110kDa)/ヘパリン三元複合粒子の各混合比における粒子径の個数分布を示すグラフである。
図8】ヒアルロナン(1300kDa)/キトサン(110kDa)/ペクチン三元複合粒子の各混合比における粒子径の個数分布を示すグラフである。
図9】ヒアルロナン(1300kDa)/キトサン(110kDa)/κ-カラギナン三元複合粒子の各混合比における粒子径の個数分布を示すグラフである。
図10】ヒアルロナン(1300kDa)/キトサン(110kDa)/ι-カラギナン三元複合粒子の各混合比における粒子径の個数分布を示すグラフである。
図11】ヒアルロナン(1300kDa)/キトサン(110kDa)/アルギン酸(64kDa)三元複合粒子の各混合比における粒子径の個数分布を示すグラフである。
図12】ヒアルロナン(1300kDa)/キトサン(110kDa)/アルギン酸(110kDa)三元複合粒子の各混合比における粒子径の個数分布を示すグラフである。
図13】ヒアルロナン(480kDa)/キトサン(110kDa)/ニ元複合粒子の各作製濃度における粒子径の個数分布を示すグラフである。
図14】ヒアルロナン(480kDa)/キトサン(110kDa)/コンドロイチン硫酸(22kDa)三元複合粒子の各作製濃度における粒子径の個数分布を示すグラフである。
図15】ヒアルロナン(910kDa)/キトサン(110kDa)二元複合粒子の各作製濃度における粒子径の個数分布を示すグラフである。
図16】ヒアルロナン(910kDa)/キトサン(110kDa)/コンドロイチン硫酸(22kDa)三元複合粒子の各作製濃度における粒子径の個数分布を示すグラフである。
図17】ヒアルロナン(1300kDa)/キトサン(110kDa)ニ元複合粒子の各作製濃度における粒子径の個数分布を示すグラフである。
図18】ヒアルロナン(1300kDa)/キトサン(110kDa)/コンドロイチン硫酸(22kDa)三元複合粒子の各作製濃度における粒子径の個数分布を示すグラフである。
図19】ヒアルロナン(1300kDa)/キトサン(110kDa)/コンドロイチン硫酸(10kDa)三元複合粒子の各作製濃度における粒子径の個数分布を示すグラフである。
図20】ヒアルロナン(1300kDa)/キトサン(110kDa)/コンドロイチン硫酸(15kDa)三元複合粒子の各作製濃度における粒子径の個数分布を示すグラフである。
図21】ヒアルロナン(1300kDa)/キトサン(110kDa)/コンドロイチン硫酸(40kDa)三元複合粒子の各作製濃度における粒子径の個数分布を示すグラフである。
図22】ヒアルロナン(1300kDa)/キトサン(110kDa)/ヘパリン三元複合粒子の各作製濃度における粒子径の個数分布を示すグラフである。
図23】ヒアルロナン(1300kDa)/キトサン(110kDa)/ペクチン三元複合粒子の各作製濃度における粒子径の個数分布を示すグラフである。
図24】ヒアルロナン(1300kDa)/キトサン(110kDa)/アルギン酸(64kDa)三元複合粒子の各作製濃度における粒子径の個数分布を示すグラフである。
図25】ヒアルロナン(1300kDa)/キトサン(110kDa)/ι-カラギナン三元複合粒子の各作製濃度における粒子径の個数分布を示すグラフである。
図26】ヒアルロナンとキトサンの二元複合粒子の、4℃低濃度での粒子径の変化を示すグラフである。
図27】ヒアルロナン、キトサン、コンドロイチン硫酸の三元複合粒子の、4℃低濃度での粒子径の変化を示すグラフである。
図28】ヒアルロナンとキトサンの二元複合粒子の、室温低濃度での粒子径の変化を示すグラフである。
図29】ヒアルロナン、キトサン、コンドロイチン硫酸の三元複合粒子の、室温低濃度での粒子径の変化を示すグラフである。
図30】ヒアルロナンとキトサンの二元複合粒子の、37℃低濃度での粒子径の変化を示すグラフである。
図31】ヒアルロナン、キトサン、コンドロイチン硫酸の三元複合粒子の、37℃低濃度での粒子径の変化を示すグラフである。
図32】ヒアルロナンとキトサンの二元複合粒子の、4℃高濃度での粒子径の変化を示すグラフである。
図33】ヒアルロナン、キトサン、コンドロイチン硫酸の三元複合粒子の、4℃高濃度での粒子径の変化を示すグラフである。
図34】ヒアルロナンとキトサンの二元複合粒子の、室温高濃度での粒子径の変化を示すグラフである。
図35】ヒアルロナン、キトサン、コンドロイチン硫酸の三元複合粒子の、室温高濃度での粒子径の変化を示すグラフである。
図36】ヒアルロナンとキトサンの二元複合粒子の、37℃高濃度での粒子径の変化を示すグラフである。
図37】ヒアルロナン、キトサン、コンドロイチン硫酸の三元複合粒子の、37℃高濃度での粒子径の変化を示すグラフである。
図38】ヒアルロナン(1300kDa)/キトサン(110kDa)二元複合粒子の、4℃での粒子径の変化を示すグラフである。
図39】ヒアルロナン(1300kDa)/キトサン(110kDa)二元複合粒子の、室温(RT)での粒子径の変化を示すグラフである。
図40】ヒアルロナン(1300kDa)/キトサン(110kDa)二元複合粒子の、37℃での粒子径の変化を示すグラフである。
図41】ヒアルロナン(1300kDa)/キトサン(110kDa)/コンドロイチン硫酸(22kDa)三元複合粒子の、4℃での粒子径の変化を示すグラフである。
図42】ヒアルロナン(1300kDa)/キトサン(110kDa)/コンドロイチン硫酸(22kDa)三元複合粒子の、室温(RT)での粒子径の変化を示すグラフである。
図43】ヒアルロナン(1300kDa)/キトサン(110kDa)/コンドロイチン硫酸(22kDa)三元複合粒子の、37℃での粒子径の変化を示すグラフである。
図44】ヒアルロナン(1300kDa)/キトサン(110kDa)/コンドロイチン硫酸(15kDa)三元複合粒子の、室温(RT)での粒子径の変化を示すグラフである。
図45】ヒアルロナン(1300kDa)/キトサン(110kDa)/ヘパリン三元複合粒子の、室温(RT)での粒子径の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、ヒアルロナン、キトサン、ヒアルロナン以外のアニオン性ポリマーの複合粒子に関する。
まず、複合粒子を形成する各成分について説明する。
【0025】
<1>ヒアルロナン
本発明で用いられるヒアルロナンは、D−グルクロン酸およびD−N−アセチルグルコサミンの二糖を繰り返し単位とする多糖である。
【0026】
本発明で用いられるヒアルロナンの分子量は制限されないが、好ましくは100〜2000kDa、より好ましくは300〜1500kDa、さらに好ましくは400〜1300kDaのものを用いることができる。
【0027】
ヒアルロナンは、ヒアルロン酸、又はヒアルロン酸塩のいずれであっても良い。
ヒアルロン酸塩を形成する塩としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、マグネシウム、塩基性アミノ酸塩などが挙げられる。
ヒアルロナンは、市販品を用いることが可能である。
【0028】
<2>キトサン
キトサンは、キチンの脱アセチル化により得られ、グルコサミンを繰り返し単位とする多糖である。キトサンの脱アセチル化度は、例えば50〜98%程度である。
本発明で用いられるキトサンの分子量は制限されないが、例えば1〜500kDa、好ましくは10〜300kDa、さらに好ましくは19〜110kDaのものを用いることができる。また、小さな粒子径の複合粒子を作製する観点からは、キトサンの分子量は好ましくは20〜200kDa、より好ましくは50〜150kDa、さらに好ましくは、80〜120kDaのものが挙げられる。
【0029】
キトサンは、キトサンの誘導体であっても良い。たとえば、アセチル化、アルキル化、スルホン化、チオール化誘導体が挙げられる。また、塩酸、酢酸、クエン酸、硝酸、乳酸等の塩も使用できる。
キトサンは、市販品を用いることが可能である。
【0030】
<3>ヒアルロナン以外のアニオン性ポリマー
本発明で用いられるヒアルロナン以外のアニオン性ポリマーは、キトサンに対する親和性が、ヒアルロナンのキトサンに対する親和性より高いものである。
複合粒子における第三の成分としてキトサンに対する親和性がヒアルロナンよりも高いアニオン性ポリマーを用いることにより、形成される複合粒子を強固なものとすることができ、溶液中での粒子同士の凝集を防ぐことが可能となる。
【0031】
例えば、前記アニオン性ポリマーは、硫酸化ポリマー、又はカルボキシル基高含有ポリマーである。
硫酸化ポリマーとしては、コンドロイチン硫酸、デキストラン硫酸、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、フコイダン、ケラタン硫酸、ヘパリン、カラギナンなどの硫酸化多糖や、硫酸化ポリビニルアルコールなどの強酸性ポリマーが挙げられる。
カラギナンとしてはκ−カラギナン及びι−カラギナンが好ましく例示でき、より好ましくは硫酸化度が高いι−カラギナンが挙げられる。
カルボキシル基高含有ポリマーは、ヒアルロナンよりもキトサンに対して親和性が高いものとなるように多量のカルボキシル基を有しているポリマーと定義される。
カルボキシル基高含有ポリマーとしては、ポリアルギン酸、ペクチンなどのカルボキシル基含有多糖、ポリアクリル酸、ポリアスパラギン酸などが挙げられる。
本発明の複合粒子を皮膚外用剤、化粧料などに用いる場合には、その安全性から多糖を用いることが好ましく、硫酸化多糖、カルボキシル基含有多糖を用いることが特に好ましい。
前記アニオン性ポリマーの分子量は、好ましくは3〜60kDa、さらに好ましくは10〜50kDa、より好ましくは20〜40kDaである。
また、前記アニオン性ポリマーとしては、好ましくは3〜3000kDa、さらに好ましくは10〜2000kDa、より好ましくは20〜1800kDaのものを用いることもできる。
より具体的には、以下のものを用いることができる。
コンドロイチン硫酸・・・5〜50kDa
ヘパリン・・・2〜30kDa
カラギナン・・・1000〜2000kDa
ポリアルギン酸・・・40〜100kDa
ペクチン・・・30〜500kDa
【0032】
次に、本発明の複合粒子について説明する。
<4>複合粒子
本発明の複合粒子は、上述したヒアルロナン、キトサン、及びヒアルロナン以外のアニオン性ポリマーであって、キトサンに対する親和性がヒアルロナンよりも高いものの3成分を含む。
複合粒子における各成分の割合は、以下を基準とすることができる。
ヒアルロナン:好ましくは40〜80質量%、さらに好ましくは50〜75質量%、より好ましくは60〜70質量%
キトサン:好ましくは15〜45質量%、さらに好ましくは20〜40質量%、より好ましくは25〜35質量%
ヒアルロナン以外のアニオン性ポリマー:好ましくは1〜30質量%、さらに好ましくは2〜20質量%、より好ましくは3〜10質量%
【0033】
また、ヒアルロナンとキトサンの比率として、キトサン由来のアミノ基の数1に対して、ヒアルロン酸由来のカルボキシル基の数が、0.1以上、好ましくは0.3〜5、より好ましくは0.5〜1となるような比率とすることも好ましい。
また、キトサンとヒアルロナンの重量比として、キトサン1に対して、アニオン性ポリマーが、好ましくは0.1〜10、さらに好ましくは0.1〜0.3もしくは0.7〜2である。
また、キトサンとヒアルロナン以外のアニオン性ポリマーの重量比として、キトサン1に対して、アニオン性ポリマーが、好ましくは0.05〜5、さらに好ましくは0.1〜1.5である。
また、キトサンとヒアルロナン以外のアニオン性ポリマーの比率として、キトサン由来のアミノ基の数1に対して、ヒアルロン以外のアニオン性ポリマーのカルボキシル基と硫酸基の和が、0.005以上、好ましくは0.01〜15、より好ましくは0.05〜5、さらに好ましくは0.1〜1となるような比率とすることも好ましい。
【0034】
<5>複合粒子の製造方法
上述した複合粒子は、例えば、各成分を溶液中で複合することにより得ることができる。
この際、溶液として、緩衝液を用いることが好ましい。
緩衝液としては、クエン酸緩衝液、MOPS、PBSなどを用いることができるが、クエン酸緩衝液を用いることで、小さな粒子径の複合粒子を効率よく製造できる。特に、クエン酸緩衝液を用いることで、600kDa以上の大きい分子量のヒアルロナンを用いても、100nm以下のナノ粒子を形成することが可能となる。
クエン酸緩衝液のpHは、好ましくは7.0以下、さらに好ましくは6.8以下、より好ましくは6.5以下である。また、pHの下限値は特に制限されないが、例えば皮膚外用剤などに用いる場合には、皮膚への刺激性の観点などから、pH5.5程度を下限とすることが好ましい。
【0035】
また、クエン酸緩衝液におけるクエン酸濃度は、好ましくは0.1〜10mM、さらに好ましくは0.5〜5mM、特に好ましくは1〜2mMである。
【0036】
以下、具体的な製造方法について、説明する。
(1)ヒアルロナン溶液の調製
溶媒として、クエン酸緩衝液(pH6.5)を用い、ヒアルロナン溶液を調製する。
ヒアルロナン溶液におけるヒアルロナンの濃度は、200〜5000μg/mL、さらに好ましくは500〜3000μg/mL、より好ましくは1000〜2000μg/mLである。このような濃度に調節しておくことにより、後の工程でキトサン溶液と混合した際に、粒子の不要な凝集を回避することができる。
【0037】
(2)キトサン溶液の調製
溶媒として、上述したクエン酸緩衝液を用い、キトサン溶液を調製する。
キトサン溶液におけるキトサンの濃度は、好ましくは200〜5000μg/mL、さらに好ましくは500〜3000μg/mL、より好ましくは1000〜2000μg/mLである。このような濃度に調節しておくことにより、後の工程でヒアルロナン溶液と混合した際に、粒子の不要な凝集を回避することができる。
【0038】
(3)アニオン性ポリマー溶液
ヒアルロナン以外のアニオン性ポリマーの溶液(以下、アニオン性ポリマー溶液)におけるアニオン性ポリマーの濃度は、200〜5000μg/mL、さらに好ましくは500〜3000μg/mL、より好ましくは1000〜2000μg/mLである。
【0039】
(4)各溶液の混合
続いて、調製したヒアルロナン溶液、キトサン溶液、及びアニオン性ポリマー溶液を混合する。
各溶液の混合割合は、例えば以下を基準として決定することが好ましい。
キトサン由来のアミノ基の数1に対して、ヒアルロン酸由来のカルボキシル基の数が、0.1以上、好ましくは0.2〜5、より好ましくは0.5〜1である。
また、ヒアルロナンとキトサンの比率として、キトサン由来のアミノ基の数1に対して、ヒアルロン酸由来のカルボキシル基の数が、0.1以上、好ましくは0.3〜5、より好ましくは0.5〜1となるような比率とすることも好ましい。
また、キトサンとヒアルロナンの重量比として、キトサン1に対して、ヒアルロナンが、好ましくは0.1〜10、さらに好ましくは0.1〜0.3もしくは0.7〜2である。
また、キトサンとヒアルロナン以外のアニオン性ポリマーの重量比として、キトサン1に対して、アニオン性ポリマーが、好ましくは0.05〜5、さらに好ましくは0.1〜1.5である。
また、混合液中のキトサンのアミノ基とヒアルロナンのカルボキシル基の電荷比が1:0.05〜1:5、より好ましくは1:0.1〜1:2、さらに好ましくは1:0.2〜1:1、かつ、混合液中のキトサンのアミノ基とヒアルロナン以外のアニオン性ポリマーのカルボキシル基と硫酸基の和の電荷比が、1:0.01〜1:5、より好ましくは1:0.05〜1:2、さらに好ましくは1:0.1〜1:1、となるように各成分を混合するようにしてもよい。かかる混合比は、ヒアルロナン以外のアニオン性ポリマーとして、コンドロイチン硫酸(分子量は問わない)、ヘパリン、ペクチン、κ−カラギナン、ι−カラギナンを用いる場合に特に好ましい。
またヒアルロナン以外のアニオン性ポリマーとして、アルギン酸を用いる場合には、混合液中のキトサンのアミノ基とヒアルロナンのカルボキシル基の電荷比が1:0.05、より好ましくは1:0.1〜1:2、さらに好ましくは1:0.2〜1:1、かつ、混合液中のキトサンのアミノ基とアルギン酸のカルボキシル基と硫酸基の和の電荷比が、1:0.005〜1:1、好ましくは1:0.01〜1:0.5、さらに好ましくは1:0.05〜1:0.2、となるように調整する。
混合後の溶液に対するヒアルロナンの濃度が、好ましくは1〜2000μg/mL、さらに好ましくは10〜1000μg/mLである。
混合後の溶液に対するキトサンの濃度が、好ましくは1〜1000μg/mL、さらに好ましくは10〜500μg/mLである。
混合後の溶液に対するアニオン性ポリマーの濃度が、好ましくは0.2〜50μg/mL、さらに好ましくは0.5〜20μg/mLである。
【0040】
混合の方法としては、各溶液を一度に混合する方法、一つの溶液に、他の溶液を滴下する方法などが挙げられる。いずれも、溶液を撹拌しながら混合を行うことが、凝集を回避する観点から好ましい。
また、一つの溶液に、他の溶液を滴下する方法においては、ヒアルロナン溶液をキトサン溶液に滴下する方法が、より小さな粒径の粒子を作製する観点から好ましい。
また、アニオン性ポリマー溶液を、予めヒアルロナン溶液と混合しておいて、ここにキトサン溶液を滴下する方法が好ましく挙げられる。
【実施例】
【0041】
<試験例1>三元複合粒子の作製
複合粒子の作製には、以下の成分を用いた。
ヒアルロナン(HA、発酵法由来、MRCポリサッカライド社):480kDa、ヒアルロナン濃度34.3μg/mL(混合前の調製時濃度は103μg/mL、保存用の溶液の作製濃度は1mg/mL)
キトサン(焼津水産工業):34.3kDa、キトサン濃度16.7μg/mL(調製時濃度は50μg/mL、保存用の溶液の作製濃度は1mg/mL)
コンドロイチン硫酸(CS,硫酸化度:1.21%、生化学工業):22kDa、2.0μg/mL(調製時濃度は6.0μg/mL、保存用の溶液の作製濃度は1mg/mL)
クエン酸緩衝液(pH6.5):クエン酸濃度1mM
【0042】
上に示す割合で、ヒアルロナンとキトサンとの二元複合粒子と、ヒアルロナン、キトサン、コンドロイチン硫酸の三元複合粒子を作製した。
二元複合粒子については、クエン酸緩衝液を溶媒としてヒアルロン酸ナトリウム溶液とキトサン溶液を調製し、キトサン溶液を撹拌しながら、キトサン溶液にヒアルロン酸ナトリウム溶液を滴下することにより複合粒子を作製した。
また、三元複合粒子については、クエン酸緩衝液を溶媒としてヒアルロン酸ナトリウム溶液、キトサン溶液、コンドロイチン硫酸溶液を調製し、コンドロイチン硫酸溶液をヒアルロン酸ナトリウム溶液に加え、混合した後に、混合液にキトサン溶液を滴下して撹拌し、作製した。
すなわち、1mg/mL HAクエン酸溶液、1mg/mLキトサンクエン酸溶液、1mg/mL CSクエン酸溶液にクエン酸緩衝液(pH6.5)を所定量加え希釈し、室温で15分間静置した。希釈したHA溶液とCS溶液を十分混合した後、希釈したキトサン溶液を加えて室温で15分間静置することで、HA/キトサン/CS三元複合体ナノ粒子を作製した。混合比は、キトサンのアミノ基(N)、HAのカルボキシル基(C)、コンドロイチン硫酸のカルボキシル基と硫酸基の和(−)の電荷比N:C:(−)が1:0.5:0.5となるように調整されたものである。
二元複合粒子、三元複合粒子を、製造に用いたクエン酸緩衝液中、低温条件(4℃)で保存した。
表1に、複合粒子の粒子径、複合粒子の表面電荷(ゼータ電位)及び多分散指数を示す。
複合粒子の平均粒子径及び多分散指数は、Zetasizer Nano−Z ZEN3600、 Malvern社(動的光散乱法)を用いて測定した。
複合粒子の表面電荷は、Zetasizer Nano−ZS ZEN3600、 Malvern社(レーザードップラー法)を用いて測定した。
【表1】
【0043】
ゼータ電位においてヒアルロナン単体は約−63mV、キトサン単体は約3mVである。表1に示すように、本実施例で作製した粒子の表面電荷は、比較例1の二元複合粒子では−31.4mV、実施例1の三元複合粒子では−34.5mVであることから、単体との違いが見られた。すなわち、本試験例の処方によって二元複合粒子及び三元複合粒子が形成されていることが確認できた。
二元複合粒子と三元複合粒子を比較すると、平均粒子径はいずれも100nm程度であったが、多分散指数が二元複合粒子は0.255であるのに対して、三元複合粒子は0.166であった。つまり三元複合粒子の方が二元複合粒子に比して均一な粒子径を持つ集合として得られることがわかった。
【0044】
<試験例2>キトサンの分子量の検討
試験例1においては分子量34.3kDaのキトサンを用いてヒアルロナンとコンドロイチン硫酸との三元複合粒子が形成できることを示した。次に、キトサンの分子量を変更した場合にも三元複合粒子が形成されるのか否かについて検討を行った。
本試験例においては分子量110kDaのキトサン(脱アセチル化度:64.7%、焼津工業)と、試験例1で使用した分子量480kDaのヒアルロナン及び分子量22kDaのコンドロイチン硫酸を用いて三元複合粒子の作製を行った(実施例2)。なお、本実施例における三元複合粒子の作製は、試験例1と同じ方法により行った。また、各成分の作製濃度は以下に記載する通りである。
ヒアルロナン:17.2μg/mL(混合前の調製時濃度は103μg/mL、保存用の溶液の作製濃度は1mg/mL)
キトサン:24.7μg/mL(調製時濃度は50μg/mL、保存用の溶液の作製濃度は1mg/mL)
コンドロイチン硫酸:2.1μg/mL(調製時濃度は6.0μg/mL、保存用の溶液の作製濃度は1mg/1mL)
クエン酸緩衝液(pH6.5):クエン酸濃度1mM
各成分の混合比は、キトサンのアミノ基(N)、HAのカルボキシル基(C)、コンドロイチン硫酸のカルボキシル基と硫酸基の和(−)の電荷比N:C:(−)が1:0.5:0.5となるように調整されたものである。
【0045】
作製した複合粒子の平均粒子径、多分散指数及び表面電荷は、試験例1と同様の機器を用いて測定した。
表2に本試験例で作製した実施例2に係る三元複合粒子と、試験例1で作製した実施例1に係る三元複合粒子の平均粒子径、個数分布における100nm以下の粒子の割合、多分散指数(Pdi)、そして表面電位(ゼータ電位)を示す。
【0046】
【表2】
【0047】
表2より、ヒアルロナン/キトサン/コンドロイチン硫酸三元複合粒子の作製にあっては、低分子量(34.3kDa)のキトサンよりも、高分子量(110kDa)のキトサンを用いた方が、より小さい粒子径を持つ複合粒子を得られることが分かった。
【0048】
<試験例3>ヒアルロナンの分子量の検討
試験例1及び2においては分子量480kDaのヒアルロナンを用いた場合に、ヒアルロナン/キトサン/コンドロイチン硫酸三元複合粒子を作製することができることを示した。次に、分子量480kDa以外のヒアルロナンを用いた場合においても同様に三元複合粒子を作製することができるか否か検討を行った。
本試験例では、分子量910及び1300kDaのヒアルロナンを用いて三元複合粒子の作製を行った。本試験例における複合粒子の作製方法、各成分の作製濃度及び測定方法等は試験例2と同様である。なお、本試験例で使用した910kDaと1300kDaのヒアルロナンも発酵法由来、MRCポリサッカライド社製のものである。
表3に各分子量のヒアルロナンを用いた場合における三元複合粒子の平均粒子径、個数分布における100nm以下の粒子の割合、多分散指数(Pdi)、そして表面電位(ゼータ電位)を示す。
【0049】
【表3】
【0050】
表3に示す通り、分子量480、910及び1300kDaのヒアルロナンのいずれを用いた場合であっても、40nm前後の小さな複合粒子を形成できることが分かった。また、低分子量のヒアルロナンを用いた場合には、複合粒子の粒子径は小さくなるという傾向があることがわかった。
【0051】
<試験例4>コンドロイチン硫酸の分子量の検討
試験例1〜3においては分子量22kDaのコンドロイチン硫酸を用いた場合に、ヒアルロナン/キトサン/コンドロイチン硫酸三元複合粒子を作製することができることを示した。次に、分子量22kDa以外のコンドロイチン硫酸を用いた場合においても同様に三元複合粒子を作製することができるか否か検討を行った。
本試験例では、分子量10、14、15及び40kDaのコンドロイチン硫酸と、分子量1300kDaのヒアルロナンと、分子量110kDaのキトサンとの三元複合粒子の作製を行った。本試験例における複合粒子の作製方法、各成分の作製濃度及び測定方法等は試験例2と同様である。なお、本試験例で使用したコンドロイチン硫酸の硫酸化度は、分子量10kDaのものが1.02%、分子量14kDaのものが0.96%、分子量15kDaのものが1.06%、分子量40kDaのものが1.08%であり、いずれも生化学工業より購入したものである。
表4に各分子量のコンドロイチン硫酸を用いた場合における三元複合粒子の平均粒子径、個数分布における100nm以下の粒子の割合、多分散指数(Pdi)、そして表面電位(ゼータ電位)を示す。
【0052】
【表4】
【0053】
表4に示す通り、いずれの分子量のコンドロイチン硫酸を用いた場合であっても、比較例2の二元複合粒子よりも小さな粒子径の三元複合粒子が形成されることが分かった。この結果から、コンドロイチン硫酸はいずれの分子量であっても、ヒアルロナン/キトサン二元複合粒子よりも小さな粒子径を持つ、ヒアルロナン/キトサン/コンドロイチン硫酸三元複合粒子を形成することができることが分かった。
【0054】
<試験例5>コンドロイチン硫酸以外のアニオン性ポリマーの検討
試験例1〜4においては、ヒアルロナン/キトサン/コンドロイチン硫酸からなる三元複合粒子が形成されることについて示した。
本試験例では、コンドロイチン硫酸以外のアニオン性ポリマーであっても、三元複合粒子を形成することができるのか否かについて検討を行った。
本試験例では、コンドロイチン硫酸以外のアニオン性ポリマーとして、ヘパリン(分子量5〜20kDa、nakalai tesque)、ペクチン(分子量50〜350kDa、和光純薬工業)、アルギン酸(64kDa及び110kDa、和光純薬工業)、κ−カラギナン(1400kDa、MRCポリサッカライド)及びι−カラギナン(1600kDa、MRCポリサッカライド)を用いて検討を行った。
本試験例における複合粒子の作製方法及び測定方法等は試験例2と同様である。作製濃度は、ヒアルロナン(1300kDa)及びキトサン(110kDa)については試験例2と同様であり、コンドロイチン硫酸以外のアニオン性ポリマーについては以下に示す通りである。
ヘパリン:6.8μg/mL
ペクチン:8.0μg/mL
アルギン酸(64kDa及び110kDa):1.6μg/mL
κ−カラギナン:3.6μg/mL
ι−カラギナン:2.1μg/mL
上の混合比は、これまでの試験例と同様にキトサンのアミノ基(N)、HAのカルボキシル基(c)、コンドロイチン硫酸以外のアニオン性ポリマーのカルボキシル基と硫酸基の和(−)の電荷比N:C:(−)が1:0.5:0.5となるように調整されたものである。
表5に本試験例において作製した複合粒子の平均粒子径、個数分布における100nm以下の粒子の割合、多分散指数(Pdi)、そして表面電位(ゼータ電位)を示す。
【0055】
【表5】
【0056】
表5に示す通り、コンドロイチン硫酸以外のアニオン性ポリマーとしていずれの分子種を用いた場合であっても、100nm以下の三元複合粒子を形成できることがわかる。
【0057】
<試験例6>混合比の検討
これまでの試験例においてはキトサンのアミノ基(N)、ヒアルロナンのカルボキシル基(C)、ヒアルロナン以外のアニオン性ポリマーのカルボキシル基と硫酸基の和(−)の電荷比N:C:(−)が1:0.5:0.5となるように、各成分の濃度を調整し、三元複合粒子が形成されることを確認した。
本試験例では、N:C:(−)=1:0.5:0.5以外の混合比であっても三元複合粒子の形成ができるか否かについて検討を行った。
本試験例においてはN:C比は1:0.5で固定し、ヒアルロナン以外のアニオン性ポリマーの比率(−)を変更して試験を行った。本試験例における複合粒子の作製方法及び測定方法等は試験例2と同様である。作製濃度は、ヒアルロナン及びキトサンについては試験例2と同様であり、コンドロイチン硫酸以外のアニオン性ポリマーについては、試験例2〜5における濃度を基に、表6〜17に示す各実施例におけるヒアルロナン以外のアニオン性ポリマーの比率(−)に対応するように増減した。
表6〜17に、三元複合粒子の成分、混合比(N:C:(−)比)、作製した複合粒子の平均粒子径、個数分布における100nm以下の粒子の割合、多分散指数(Pdi)、そして表面電位(ゼータ電位)を示す。また、図1〜12に、作製した複合粒子の粒子径の個数分布を表すグラフを示す。
【0058】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
【表12】
【表13】
【表14】
【表15】
【表16】
【表17】
【0059】
表6〜11及び図1〜6に示すように、種々の分子量のコンドロイチン硫酸を用いた場合には、N:C:(−)=1:0.5:0.1、1:0.5:0.5、1:0.5:1のすべての場合において、すべての分子量のコンドロイチン硫酸において50nm前後の三元複合粒子を得ることができることがわかった。また、N:C:(−)=1:0.5:0.1、1:0.5:0.5のときには多分散指数も低く、溶液中に存在する複合粒子の粒子径の均一性も高いことが分かった。
【0060】
表12〜15及び図7〜10より、ヒアルロナン以外のアニオン性ポリマーとしてヘパリン、ペクチン、κ−カラギナン、ι−カラギナンを用いたときには、すべての混合比において100nm程度の粒子が形成されることがわかる。
また、N:C:(−)=1:0.5:0.1、1:0.5:0.5のときには多分散指数も低く、溶液中に存在する複合粒子の粒子径の均一性も高いことが分かった。
また、表14及び図9に示すようにκ−カラギナンを用いた場合には、混合比N:C:(−)=1:0.5:0.5、1:0.5:1のいずれにおいても、形成される三元複合粒子はι−カラギナンを用いた場合に比べ粒子径は大きく、且つ分散指数は高くなることがわかった。つまり、三元複合粒子の作製においてアニオン性ポリマーとしては、κ−カラギナンよりも硫酸化度が高いι−カラギナンの方がより好ましいということができる。
【0061】
表16及び図9より、ヒアルロナン以外のアニオン性ポリマーとして分子量64kDaのアルギン酸を用いる場合には、その混合比率が低い方が、多分散性の低い複合粒子を得ることができることがわかる。より多分散性の低い複合粒子を得ることができる混合比率はN:C:(−)=1:0.5:0.05及び1:0.5:0.1であった。
一方、表17及び図12より、分子量110kDaのアルギン酸を用いる場合にも同様に、その混合比率が低い方が多分散指数の低い複合粒子が得られることが分かった。より多分散性の低い複合粒子を得ることができる混合比率はN:C:(−)=1:0.5:0.01及び1:0.5:0.05であった。
【0062】
<試験例7>作製濃度の検討
本試験例においては、これまでの試験例における複合粒子の作製濃度を濃くした場合であっても、凝集することなく三元複合粒子を得ることができるのか否かについて検討を行った。
これまでの試験例で作製した実施例2〜5、7〜11及び13の三元複合粒子の作製時の各成分の濃度を5倍及び15倍にした時の平均粒子径等を測定した。本試験例における複合粒子の作製方法及び測定方法は、作製時の各成分の濃度以外は、これまでの比較例と同様である。
また、比較例として二元複合粒子の作製濃度を変更した場合に形成される複合粒子の平均粒子径等も測定した。
表18〜30に、本試験例で作製した複合粒子の平均粒子径、個数分布における100nm以下の粒子の割合、多分散指数(Pdi)、そして表面電位(ゼータ電位)を示す。なお、表中(×1)、(×5)及び(×15)とは、作製濃度が1倍(これまでの試験例と同じ)、5倍、15倍であることを示す。また、図13〜25に本試験例で作製した複合粒子の粒子径の個数分布を表すグラフを示す。
【0063】
【表18】
【表19】
【表20】
【表21】
【表22】
【表23】
【表24】
【表25】
【表26】
【表27】
【表28】
【表29】
【表30】
【0064】
表18〜23及び図13〜18に示すように、ヒアルロナンの分子量を種々のものに変更した場合では、ヒアルロナン/キトサン二元複合粒子においては作製濃度が高くなるに比例して粒子径が大きくなることがわかる。また。15倍の濃度で複合粒子を作製した場合には、その多分散指数は非常に大きくなってしまう。
一方、ヒアルロナン/キトサン/コンドロイチン硫酸(22kDa)三元複合粒子においては、いずれの分子量のヒアルロナンを用いた場合であっても、形成される三元複合粒子の平均粒子径は、作製濃度5倍までは100nm以下となることがわかった。また、15倍の濃度で作製した場合であっても、かかる三元複合粒子の多分散指数は、二元複合粒子と比較して低くなることがわかる。
これらの結果より、ヒアルロナン/キトサンを含む複合粒子を作製するにあたり、コンドロイチン硫酸(22kDa)を加えると、作製濃度を濃くしても小さい粒子径であり、且つ多分散性の低い(安定性の高い)複合粒子を得ることができることがわかる。
【0065】
表24〜30及び図19〜25から分かるように、コンドロイチン硫酸(22kDa)以外のアニオン性ポリマーであっても、コンドロイチン硫酸(22kDa)を用いた場合と同様に、二元複合粒子と比較して、高濃度で作製したときの粒子径及び多分散指数が低くなることがわかる。
以上の結果より、ヒアルロナン及びキトサンを含む複合粒子の作製において、ヒアルロナン以外のアニオン性ポリマーを加えると、作製濃度が高濃度であっても小さく安定性の高い複合粒子を得ることができることがわかった。
【0066】
<試験例8>保存安定性の検討(1)
これまでの試験例において、種々の分子量、分子種を用いて、ヒアルロナン、キトサン及びヒアルロナン以外のアニオン性ポリマーを含む三元複合粒子の形成ができることを示した。本試験例においては、かかる三元複合粒子の保存安定性について検討した。
【0067】
まず、試験例1において作製した実施例1及び比較例1に係る複合粒子の保存安定性について検討を行った。保存温度を4℃としたときのこれら複合粒子の作製時、1日後、1週間後における平均粒子径等を試験例1と同様の測定方法により測定した。表31にその結果を示す。また、この時の粒子径分布を図26及び27に示す。
【0068】
【表31】
【0069】
表31、図26及び27から分かるように、二元複合粒子は、作製1日後に平均粒子径が大きくなり、作製1週間後には、2倍近くまでに平均粒子径が大きくなった。一方、三元複合粒子は、作製1日後には平均粒子径がほとんど変わらず、作製1週間後でも、20%程度の増大であった。
【0070】
次に、比較例1及び実施例1に係る二元複合粒子及び三元複合粒子を、調製時および保存時のキトサン濃度は変えずに、室温、又は37℃で保存した。
表32、33に、複合粒子の粒子径と、複合粒子の表面電荷を示す。
また、図28〜31に、複合粒子の粒子径の変化を示す。
【0071】
【表32】
【0072】
【表33】
【0073】
表32、33及び図28〜31から分かるように、二元複合粒子及び三元複合粒子のいずれにおいても、作製直後と作製1週間後で平均粒径はほとんど変化しなかった。
これらの結果より、三元複合粒子は、二元複合粒子に比べて、低温保存時の粒子の安定性に大きく優れていることが分かった。
【0074】
次に、試験例1で用いた二元複合粒子及び三元複合粒子を、調製時および保存時のキトサン濃度を251μg/mL、ヒアルロナン濃度を516μg/mL、コンドロイチン硫酸濃度を29.3μg/mLとして、4℃、室温、又は37℃で保存した。すなわち、試験例1における作製濃度の15倍の濃度で二元及び三元複合粒子を作製した。
表34〜36に、複合粒子の粒子径と、複合粒子の表面電荷を示す。
また、図32〜37に、複合粒子の粒子径の変化を示す。
【0075】
【表34】
【0076】
【表35】
【0077】
【表36】
【0078】
表34〜36、図32〜37から分かるように、二元複合粒子及び三元複合粒子のいずれにおいても、作製直後と作製1週間後で平均粒径はほとんど変化しなかった。
試験例1の結果と併せて、三元複合粒子は、二元複合粒子に比べて、低濃度、低温保存時の粒子の安定性に大きく優れていることが分かった。
【0079】
<試験例9>保存安定性の検討(2)
次に試験例3〜5で作製した実施例4、7、9に係る三元複合粒子の保存安定性について検討を行った。実施例4に係る三元複合粒子については4℃、室温(RT)及び37℃における、作製時、1日後、1週間後、1か月後の平均粒子径等を測定した(表40〜42及び図41〜43参照)。なお、比較として、試験例4で作製した比較例2についても同様に平均粒子径等の継時的な変化を測定した(表37〜39及び図38〜40参照)。
また実施例7及び9に係る三元複合粒子の保存安定性については、室温においてのみ検討を行った(表43、44及び図44、45参照)。
【0080】
【表37】
【表38】
【表39】
【表40】
【表41】
【表42】
【表43】
【表44】
【0081】
表37〜39に示す通り、いずれの保存温度においても二元複合粒子は作製後、徐々に多分散性が上昇しているのがわかる。一方、表40〜42に示す通り、三元複合粒子は作製後一週間経過した後であっても多分散指数は0.1〜0.2程度を維持している。
また、表43及び44に示すように、分子量22kDaコンドロイチン硫酸に代えて分子量15kDaのコンドロイチン硫酸及びヘパリンを用いたときも、作製後1週間経過後であっても多分散指数は0.1〜0.2程度を維持できていることがわかる。
以上の結果より、ヒアルロナン及びキトサンを含む複合粒子の作製において、ヒアルロナン以外のアニオン性ポリマーを加えてできる三元複合粒子は、二元複合粒子と比較して保存安定性に優れていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、高分子化合物を有効成分として用いる化粧料の製造に応用できる。
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