【実施例1】
【0024】
図1は、実施例1の光学フィルタの構成を示した図である。実施例1の光学フィルタは、
図1のように、SiO
2 からなる基板10と、基板10上に位置する高屈折率層11と、高屈折率層11上に位置するギャップ層12と、ギャップ層12上に位置する金属層13と、金属層13上に位置する保護層14と、によって構成されている。この光学フィルタは、その面に垂直に保護層14側から光を入射させ、基板側から出射される光を狭帯域とするものである。基板10、高屈折率層11、ギャップ層12、保護層14は、それぞれ本発明の第1誘電体層、第2誘電体層、第3誘電体層、第4誘電体層に相当している。
【0025】
基板10は、SiO
2 からなる。SiO
2 以外にも、高屈折率層11よりも屈折率の低い誘電体であれば任意の材料を用いることができる。
【0026】
高屈折率層11は、厚さ130nmで、基板10よりも屈折率の高い誘電体であるTiO
2 からなる。基板10よりも屈折率の高い誘電体材料であれば、他の材料を用いてもよく、たとえば、ZrO
2 などの酸化物や、SiNなどの窒化物である。この高屈折率層11を導入することにより、光の伝搬モードを限定し、所望の帯域の透過率を抑制することができる。詳細については後述する。
【0027】
ギャップ層12は、基板10と同様にSiO
2 からなり、高屈折率層11よりも屈折率が低くなっている。ギャップ層12の厚さは50nmである。ギャップ層12は基板10と同じ材料である必要はなく、高屈折率層11よりも屈折率の低い材料であればよい。ただし、基板10と同一の材料を用いることで、高屈折率層11の厚さの設計が容易となり、実施例1の光学フィルタの構成が簡易となり、また低コスト化を図ることができるので、同一材料もしくは誘電率がおよそ等しい材料とすることが望ましい。
【0028】
金属層13は、
図2に示すように、平面視において、Alからなる金属ドット15が正方格子状に配列されたパターンの周期的構造を有している。金属ドット15の形状は直方体であり、平面視で正方形である。金属層13の厚さは100nmである。また、この周期的構造は、周期長(金属ドット15の中心の間隔)は500nm、金属ドット15の大きさ(正方形の一辺の長さ)は250nmである。金属ドット15間の隙間は、保護層14によって埋められている。これにより、金属ドット15が酸化等によって腐食することを防止している。
【0029】
なお、金属層13の周期的構造は、
図2に示したものに限るものではなく、表面プラズモン共鳴を生じうる任意の周期的構造であってよい。たとえば、正方格子状以外にも、三角格子状などの任意の周期的パターンに金属ドット15を形成してもよい。また、金属ドット15ではなく、金属層13を貫通する孔を周期的に開けた構造としてもよい。この場合も孔の配列は正方格子状、三角格子状など任意の周期的パターンとすることができる。また、ストライプ状の溝あるいは凸部を設けることで周期的パターンとしてもよい。ただし、ストライプ状とすると、偏光方向がストライプ方向の光成分については、透過できない点に留意する。ドットあるいは孔の平面視での形状は、円、楕円、正三角形、正方形、正六角形など任意の形状を用いることができ、この形状によっても実施例1の光学フィルタの透過率等を制御することができる。また、ドットあるいは孔の側面は、傾斜を有していてもよい。また、ドット間の隙間や孔は、空洞であってもよいが、実施例1の金属層13のように誘電体(保護層14)によって埋められていることが望ましい。金属層13の酸化等の腐食を防止するとともに、光学フィルタの物理的な耐久性、安定性を高めることができるからである。
【0030】
金属層13の周期的構造の一例を
図3〜5に示す。
図3は、金属層13を貫通する正方形の孔17を正方格子状に配列したパターンである。
図4は、正方形の金属ドット15を三角格子状に配列したパターンである。
図5は、ストライプ状の金属からなる凸部18を設けたパターンである。
【0031】
たとえば、透過波長のピークを400〜2000nmの間にするには、孔またはドットが三角格子状あるいは正方格子状に配列したパターンとし、その周期(ドット間の距離または孔間の距離)を200μm以下とすることで可能となる。また、透過率や半値幅は、金属層13の厚さ、孔およびドットの大きさと形状によって制御可能であるが、透過率を60%以上とするには、金属層13の厚さを200nm以下、孔およびドットを円または多角形とし、その直径を周期の2/3以下とすることで達成できる。
【0032】
また、金属層13の材料はAlに限るものではなく、Au、Ag、Cu、Mg、Zr、In、Sn、Fe、Co、Ni、Rh、Ir、Ptなどの金属単体やそれらの合金を用いることができる。ITO(インジウム酸化スズ)、酸化亜鉛、などの導電性酸化物を用いることもできる。特に、表面プラズモン共鳴の効果が高いAl、Auまたはそれらの合金とすることが望ましい。
【0033】
保護層14は、SiO
2 からなり、金属層13を封止して酸化等の腐食を防止するための層である。また、光学フィルタの透過率を高めるための層である。ギャップ層12と金属層13との界面で生じる表面プラズモン共鳴だけでなく、金属層13と保護層14との界面で生じる表面プラズモン共鳴を利用することができるため、透過率を高めることができる。保護層14は金属層13上に位置するとともに、金属層13の金属ドット15の隙間を埋めている。保護層14はギャップ層12と異なる材料であってもよいが、透過波長の半値幅を狭くするためには、ギャップ層12と保護層14は同一材料とするか、もしくは誘電率がおよそ等しい材料とすることが望ましい。この保護層14は必ずしも必要ではないが、上記利点のため設けることが好ましい。また、金属ドット15の隙間を埋める部材を保護層14と異なるものとしてもよい。
【0034】
なお、金属層13以外の各構成の材料、つまり基板10、高屈折率層11、ギャップ層12は、無機材料であってもよいし、有機材料であってもよい。フレキシブルな有機材料を用いることで、フィルム状の光学フィルタとすることも可能である。
【0035】
また、保護層14上に、入射光の反射を防ぐ膜、たとえばARコート膜を形成してもよい。
【0036】
実施例1の光学フィルタは、以下の製造方法によって作製する。まず、基板10上に、スパッタや真空蒸着、CVDなどの方法によって誘電体層11、ギャップ層12を順に形成する。次に、ギャップ層12上に、スパッタや真空蒸着などの方法によって金属層を形成し、その上にEB描画、ナノインプリントなどを用いてレジストをパターニングする。そして、ICPエッチングなどを用いて金属層をエッチングすることで、周期的構造を有する金属層13を形成する。その後、金属層13上にスパッタ、真空蒸着、CVDなどの方法によって保護層14を形成する。以上によって実施例1の光学フィルタが作製される。
【0037】
次に、実施例1の光学フィルタの動作について説明する。
【0038】
実施例1の光学フィルタは、その光学フィルタの主面に垂直に保護層14表面側から光を入射させ、基板10裏面側から光を透過させて取り出すものである。光を光学フィルタの主面に垂直に、保護層14側から入射させると、保護層14と金属層13の金属ドット15との界面、および金属ドット15とギャップ層12との界面において生じる表面プラズモン共鳴によって、所定の波長帯のみが透過される。つまり、所望の波長に透過率のピークを有した透過特性を有する。
【0039】
この表面プラズモン共鳴を利用した波長フィルタリングでは、ピークよりも短波長側において十分に透過率を低減することができない。
【0040】
この短波長側の光は、高屈折率層11を設けたことで抑制される。高屈折率層11は、高屈折率層11よりも屈折率の低い基板10とギャップ層12との間に設けた層であり、この高屈折率層11を設けたことで、下記数式1を満たす伝搬モードのみが高屈折率層11内を平面方向に伝搬することができる。なお、光学フィルタの主面に垂直に光を入射しているにもかかわらず、高屈折率層11を平面方向に伝搬する光が存在するのは、金属層13の周期的構造による回折のためである。
【0041】
【数1】
【0042】
上記数式1において、k0は波数、βは伝搬定数、dは高屈折率層11の厚さ、ε1、ε2、ε3はそれぞれ基板10、高屈折率層11、ギャップ層12の誘電率、mは整数を示している。
【0043】
実施例1の光学フィルタでは、基板10とギャップ層12とで同一材料を用いているため、ε1=ε3であり、数式1は次の数式2のようになる。
【0044】
【数2】
【0045】
ギャップ層12を透過して高屈折率層11に入射した光のうち、この数式2を満たす伝搬モードの光は高屈折率層11中にトラップされ、高屈折率層11を透過して基板10へと入射することはない。したがって、基板10、高屈折率層11、ギャップ層12の3層の積層構造は、数式2を満たす波長帯を透過させない波長フィルタとして動作する。
【0046】
この数式2を満たす伝搬モードにおいて許容される波長帯と、表面プラズモン共鳴による波長フィルタリングでの透過波長ピークより左側の帯域とが重なるようにし、かつ、数式2の伝搬モードにおいて禁止される波長帯域(つまり高屈折率層11を透過する波長帯域)と、表面プラズモン共鳴による波長フィルタリングでの透過波長ピークとが重なるように、高屈折率層11の厚さdを設計する。実施例1の光学フィルタでは、高屈折率層11の厚さを130nmとすることで、750〜850nmの帯域を透過させないように設計している。これにより、表面プラズモン共鳴による波長フィルタリングで十分に抑制されなかった透過波長ピークの短波長側を、高屈折率層11の導入による波長フィルタリングによって抑制することができる。また、透過波長ピークの半値幅も、これにより一層狭くすることができる。
【0047】
図6は、実施例1の光学フィルタについて、透過率の波長依存性を示したグラフである。比較のため、実施例1の光学フィルタから高屈折率層11を省いた光学フィルタ(以下、比較例の光学フィルタ)についても透過率の波長依存性を示す。なお、
図6はシミュレーションにより求めたものである。
【0048】
図6のように、実施例1の光学フィルタの透過率の波長依存性は、860nm付近にピークを有した特性であり、そのピークでの透過率は70%、半値幅はおよそ40nmである。一方、比較例の光学フィルタの透過率の波長依存性は、875nm付近にピークを有した特性であり、そのピークでの透過率は70%である。また、半値幅はおよそ60nmであり、実施例1の光学フィルタに比べて半値幅が大きい特性となっている。実施例1と比較例の光学フィルタでは、その透過特性が次の点で大きく異なっている。750〜850nmの波長帯域では、実施例1の光学フィルタは10%程度の透過率であるのに対し、比較例の光学フィルタは30〜40%の透過率である。この波長帯域において実施例1の光学フィルタが比較例の光学フィルタよりも透過を抑制できているのは、高屈折率層11を導入したことによる波長フィルタリングの効果であることが理解できる。また、半値幅も高屈折率層11の導入により60nmから40nmに狭くなっている。
【0049】
以上のように、実施例1の光学フィルタは、表面プラズモン共鳴を利用した大域的な波長フィルタリングと、高屈折率層11を設けて伝搬モードを限定することを利用した波長フィルタリングとを行うものであり、この2つの波長フィルタリング動作によって透過率が高く、透過波長のピークの半値幅の狭い特性を得ることができる。また、実施例1の光学フィルタは、透過波長ピークが近赤外領域(700〜2500nm)にある。従来、近赤外領域に透過波長ピークを有する狭帯域な光学フィルタは、表面プラズモン共鳴を利用したものでは実現が難しかったが、本発明ではこれを実現することができている。