(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(a)成分と(b)成分の合計量と(c)成分の質量比が、〔(a)+(b)〕/(c)で、0.001以上、25以下である請求項1記載の硬質表面用液体殺菌剤組成物。
【背景技術】
【0002】
不特定多数に食を提供している外食産業では、食の提供と共に、食材の品質を始め、食品の加工・調理、食品の流通に至る全てにおいて、安全、安心を消費者に提供することが業界の使命となっている。その為、食品加工設備、調理器具、厨房設備等の食品製造で使用されるさまざまな硬質表面において、衛生度を高める必要がある。
【0003】
食品製造分野の衛生管理の指針として、厚生労働省制定のガイドラインである「大量調理施設衛生管理マニュアル」がある。その方法は、アルコール製剤、次亜塩素酸ソーダ等のさまざまな薬剤を使用し、また、煩雑な作業を要するものであることから、設備面や時間的な負荷が生じる場合があり、必ずしも作業現場での実状と合致しない一面がある。正確な衛生管理作業が行われない場合は、食中毒や食品変敗等、菌による不利益が生じることが懸念される。
【0004】
特許文献1には、食品や厨房、厨房用具、食器類、布巾類、手指、皮膚等の殺菌、消毒・洗浄用に使用することができる殺菌用組成物として、プロタミンとポリリジンと柑橘系植物の種子抽出成分とを含む殺菌用組成物が開示されている。
【0005】
特許文献2には、ポリリジンおよび/またはプロタミンと、コンタクトレンズ表面上の汚れに作用する酵素とを含有する、コンタクトレンズの洗浄消毒用溶液が開示されている。
【0006】
特許文献3には、水に可溶な、しょ糖の脂肪酸エステルを含む、コンタクトレンズのケア用溶液が開示されている。
【0007】
特許文献4には、オシボリ等の衛生のために使用する、魚類白子から得られる塩基性たん白またはそれらの塩類を含有してなる殺菌洗剤が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、(a)成分:ポリリジン、(b)成分:プロタミン、(c)成分:蔗糖脂肪酸エステル及び水を含有することにより、食品加工設備、調理器具又は厨房設備等の硬質表面を、安全、簡単且つ確実に殺菌することができる硬質表面用液体洗浄剤組成物を提供するものである。
【0015】
<(a)成分>
ポリリジンとしては、必須アミノ酸であるL−リジンが直鎖上に重合したポリアミノ酸で、化学合成により製造されるα−ポリリジンと発酵法により製造されるε−ポリリジンが挙げられる。(a)成分のポリリジンは、殺菌性の観点から、好ましくはε−ポリリジンである。(a)成分のポリリジンの分子量は、殺菌性の観点から、好ましくは3,000以上、より好ましくは4,000以上であり、そして、好ましくは10,000以下、より好ましくは8,000以下、より好ましくは6,000以下、より好ましくは5,000以下である。この分子量は、GPC−LALLS法により測定された重量平均分子量である。また、(a)成分のポリリジンは、安全性の観点から、好ましくは食品添加物として使用できる品質水準のポリリジンである。
【0016】
<(b)成分>
プロタミンとしては、サケ、ニシン、ニジマス、マグロをはじめとする約50種類以上の魚からなる群より得られる1種以上の魚の白子を酸処理することにより、それぞれの魚の精子核中に存在するヌクレオプロタミンから精製されるプロタミンが挙げられる。(b)成分のプロタミンは、殺菌性、安全性、経済性及び入手性の観点から、好ましくはサケ、ニシン、ニジマス、マグロ、ボラの白子から得られるプロタミンであり、より好ましくはサケの白子から得られるプロタミンである。また、(b)成分のプロタミンは、安全性の観点から、好ましくは食品又は食品添加物として使用できる品質水準のプロタミンである。
【0017】
(b)成分のプロタミンは、遊離プロタミン、プロタミン酸塩が挙げられる。(b)成分のプロタミンは、殺菌性及び配合性の観点から、好ましくはプロタミン酸塩、より好ましくはプロタミン硫酸塩及びプロタミン塩酸塩から選ばれる1種以上であり、入手性の観点から、より好ましくはプロタミン塩酸塩である。
【0018】
<(c)成分>
蔗糖脂肪酸エステルは、(a)成分のポリリジンと(b)成分のプロタミンと併用することで、相乗的に殺菌性を増大する。
【0019】
蔗糖脂肪酸エステルの脂肪酸の炭素数は、殺菌性の観点から、好ましくは炭素数8以上、より好ましくは10以上、より好ましくは12以上であり、そして、溶解性の観点から、好ましくは14以下である。
【0020】
蔗糖脂肪酸エステルは、殺菌性及び入手性の観点から、好ましくは蔗糖ラウリン酸エステル及び蔗糖ミリスチン酸エステルから選ばれる1種以上、より好ましくは蔗糖ミリスチン酸エステルである。
【0021】
蔗糖脂肪酸エステルは、モノエステル、ジエステル、トリエステル、テトラエステル、ペンタエステル、ヘキサエステル、ヘプタエステル、オクタエステルがある。これらの中、殺菌性及び入手性の観点から、好ましくはモノエステル、ジエステル及びトリエステルから選ばれる1種または2種以上であり、より好ましくはモノエステル及びジエステルから選ばれる1種または2種以上であり、より好ましくはモノエステルである。
【0022】
また、蔗糖脂肪酸エステルは、殺菌性の観点から、モノエステル比率が、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上、より好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上であり、そして、入手性の観点から、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下である。
【0023】
また、蔗糖ラウリン酸エステル又は蔗糖ミリスチン酸エステルのモノエステル比率は、殺菌性及び入手性の観点から、好ましくは前記比率である。
【0024】
<液体殺菌剤組成物>
本発明の硬質表面用液体殺菌剤組成物は、(a)成分と(b)成分の合計量と(c)成分の質量比〔(a)+(b)〕/(c)が、殺菌性の観点から、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.005以上、より好ましくは0.008以上、より好ましくは0.015以上、より好ましくは0.1以上、より好ましくは0.15以上であり、そして、好ましくは25以下、より好ましくは10以下、より好ましくは5以下、より好ましくは4以下、より好ましくは2以下、より好ましくは0.3以下である。
【0025】
本発明の硬質表面用液体殺菌剤組成物は、(a)成分と(b)成分の質量比〔(a)/(b)が、殺菌性の観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、より好ましくは0.5以上、より好ましくは0.8以上であり、そして、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、より好ましくは2以下、より好ましくは1.2以下である。
【0026】
本発明の硬質表面用液体殺菌剤組成物中の(a)成分と(b)成分の合計含有量は、殺菌性の観点から、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.002質量%以上、より好ましくは0.04質量%以上であり、そして、殺菌性と経済性の観点から、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.7質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下、より好ましくは0.17質量%以下、より好ましくは0.07質量%以下である。
【0027】
本発明の硬質表面用液体殺菌剤組成物中の(c)成分の含有量は、殺菌性の観点から、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.18質量%以上であり、そして、好ましくは0.3質量%以下、より好ましくは0.25質量%以下、より好ましくは0.24質量%以下、より好ましくは0.21質量%以下である。
【0028】
本発明の硬質表面用液体殺菌剤組成物は、水を含有する。水は特に制限されるものではないが、殺菌性の観点から、好ましくはイオン交換水、蒸留水、滅菌水である。水の含有量は、経済性の観点から、組成物中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上であり、そして、殺菌性の観点から、好ましくは100質量%未満、より好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは99.8質量%以下である。
【0029】
本発明の硬質表面用液体殺菌剤組成物中の(a)成分、(b)成分、(c)成分及び水の合計含有量は、殺菌性の観点から、好ましくは94質量%以上、より好ましくは95質量%以上、より好ましくは96質量%以上であり、そして、経済性の観点から、好ましくは100質量%以下、より好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下である。
【0030】
本発明の硬質表面用液体殺菌剤組成物の20℃のpHは、使用時の安全性の観点から、好ましくは5以上、より好ましくは6以上であり、そして、好ましくは9以下、より好ましくは8以下である。
【0031】
本発明の硬質表面用液体殺菌剤組成物は、取扱い容易性の観点から、25℃の粘度が、好ましくは0.1mPa・s以上、より好ましくは0.5mPa・s以上であり、そして、好ましくは10mPa・s以下、より好ましくは5mPa・s以下である。尚、粘度はBM型粘度計(ローターNO.M1、回転数 60r/min、攪拌開始後から1分後)を用いて測定することができる。
【0032】
本発明の硬質表面用液体殺菌剤組成物は、発明の効果および安全性を損なわない範囲で、他の成分、例えば、(a)成分、(b)成分及び(c)成分以外の界面活性剤、香料、防腐剤、pH調整剤、着色料等を含有しても良い。
【0033】
本発明の硬質表面用液体殺菌剤組成物は、使い勝手及び殺菌効果の観点から、均一透明な液体であることが好ましい。
【0034】
本発明の硬質表面用液体殺菌剤組成物の製造方法は、特に限定されるものではないが、組成の大部分を構成している水を最初に仕込み、その後各成分を順不同で添加した後、均一透明になるまで撹拌することが好ましい。その後、pHを測定し、所定のpHになるように無機酸を用いて調整するのが望ましい。
【0035】
<殺菌方法>
本発明の殺菌方法では、本発明の硬質表面用液体殺菌剤組成物の硬質表面へ適用する。
【0036】
適用する硬質表面としては、特に限定されるものではないが、食品加工設備、調理器具、厨房設備等の硬質表面が挙げられる。
食品加工設備としては、食肉スライサー、製麺機、フライヤー、米飯製造機等の大型機器が挙げられる。また、これらの食品加工設備に設置されたネットコンベア又はベルトコンベアが挙げられる。
調理器具としては、まな板、包丁、ザル等が挙げられる。
厨房設備としては、冷蔵庫のドアノブ、作業台、食品保管用ショーケース等が挙げられる。
【0037】
本発明の硬質表面用液体殺菌剤組成物の硬質表面への適用方法は、硬質表面を硬質表面用液体洗浄剤組成物に浸漬する、硬質表面用液体洗浄剤組成物を硬質表面にスプレー、塗布等により付着することが挙げられる。
【0038】
本発明の殺菌方法では、硬質表面用液体殺菌剤組成物の硬質表面への適用量は、殺菌性の観点から、(a)成分、(b)成分、及び(c)成分が合計で、好ましくは4×10
-6g/cm
2以上、より好ましくは1×10
-5g/cm
2以上、そして、経済性の観点から、好ましくは1×10
-2g/cm
2以下、より好ましくは1×10
-3g/cm
2以下、より好ましくは1×10
-4g/cm
2以下となる量である。
【0039】
(a)成分、(b)成分及び(c)成分による殺菌効果を十分に発現させるために、本発明の殺菌方法では、殺菌剤組成物を適用後、一定時間放置することが好ましい。すなわち、本発明の殺菌方法では、硬質表面に適用後、(a)成分、(b)成分及び(c)成分が硬質表面に付着した状態を保持することが好ましい。(a)成分、(b)成分及び(c)成分が硬質表面に付着した状態を保持する時間は、殺菌性の観点から、好ましくは15分以上、より好ましくは20分以上、より好ましくは50分以上であり、そして、経済性の観点から、好ましくは5日以下、より好ましくは3日以下、より好ましくは2日以下、より好ましくは24時間以下、より好ましくは20時間以下、より好ましくは12時間以下、より好ましくは6時間以下、より好ましくは3時間以下、より好ましくは2時間以下である。
【0040】
本発明の硬質表面用液体殺菌剤組成物の(a)成分、(b)成分、(c)成分は、それぞれ、食品添加物として使用できる品質水準の製品を用いることができ、その場合、付着したまま、より好ましくは濯ぐことなく、硬質表面を有する物品、例えば、食品加工設備、調理器具又は厨房設備を使用することができ、安全、簡便且つ確実に優れた殺菌性を維持することができる。
【実施例】
【0041】
特に断らない限り、以下の実験は25℃の環境下で行った。
【0042】
実施例1−1〜1−8、比較例1−1〜1−3
表1に記載の組成物を下記薬液の調製方法により調製し薬液とした。また、下記の方法で調製した黄色ブドウ球菌の菌液を作成した。この菌液を用いて、下記殺菌性の評価方法により、それぞれの薬液の殺菌性を評価した。但し、殺菌性の評価方法の(2)の放置時間は60分で行った(殺菌性1)。
【0043】
実施例2−1〜2−5、比較例2−1〜2−3
表2に記載の組成物を下記薬液の調製方法により調製し薬液とした。また、下記の方法で調製したアシネトバクターの菌液を作成した。この菌液を用いて、下記殺菌性の評価方法により、それぞれの薬液の殺菌性を評価した。但し、殺菌性の評価方法の(2)の放置時間は60分で行った(殺菌性2)。
【0044】
実施例3−1〜3−8、比較例3−1〜3−4
表3に記載の組成物を下記薬液の調製方法により調製し薬液とした。また、下記の方法で調製した黄色ブドウ球菌の菌液を作成した。この菌液を用いて、下記殺菌性の評価方法により、それぞれの薬液の殺菌性を評価した。但し、殺菌性の評価方法の(2)の放置時間は30分で行った(殺菌性3)。
【0045】
<薬液の調製方法>
合計が100gとなるように、表に記載の含有量の割合で、水に(a)成分、(b)成分、及び(c)成分をこの順に添加し、25℃で均一になるまで攪拌混合した後、塩酸により、25℃のpHが7となるように調整した。
【0046】
<菌液の調製方法>
(1)所定の菌をSMA(標準寒天培地)播種し、37℃で18時間前培養した。
(2)培養後、培地を遠心洗浄して菌液を回収し、生理食塩水によりオプティカルデンシティ(OD)が0.1となるように菌液の菌濃度を調整した。
【0047】
<殺菌性の評価方法>
(1)薬液1mLに菌液1mLを添加し、混合して懸濁液とした。
(2)懸濁液を所定の時間放置した。
(3)放置後、懸濁液0.2mLをLP液1.8mLに素早く投入して抗菌剤の効果を停止し、直ちにSMA(標準寒天培地)に0.1mL塗抹した。
ここで、上記LP液は『LP 希釈液「ダイゴ」』(日本製薬株式会社製)30g(内訳:ポリペプトン 1g、レシチン 0.7g、ポリソルベート80 20g、精製水 8.3g)を精製水で1Lに希釈し、120℃、20分間滅菌処理したものである。
(4)さらに生理食塩水にて10質量倍希釈を段階的に行い、同様にSMAに塗抹した。
(5)塗抹した各SMAを37℃で24時間培養した後、発育したコロニー数をカウントし、懸濁液1mL当りの生菌数を算出し、10を底とする対数で表に示した。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
表1、表2及び表3記載の薬剤は以下の通りである。
・ポリリジン:ε−ポリリジン、食品添加物、重量平均分子量4,700(JNC株式会社製)
・プロタミン:サケ由来のプロタミン、プロタミン塩酸塩、加工食品(株式会社マルハニチロ食品製)
・蔗糖ラウリン酸エステル:リョートーシュガーエステルL−1695(三菱化学フーズ株式会社製、モノエステル比率含量約80%、ジ・トリ・ポリエステル含量約20%)
・蔗糖ミリスチン酸エステル:リョートーシュガーエステルM−1695(三菱化学フーズ株式会社製、モノエステル比率含量約80%、ジ・トリ・ポリエステル含量約20%)
【0052】
表1、表2及び表3の実施例及び比較例の対比から、本発明の硬質表面用液体殺菌剤組成物は、ポリリジンとプロタミンの殺菌性が蔗糖脂肪酸エステルにより相乗的に向上しており、殺菌性に優れることが分かる。
【0053】
以下に処方例を記載する。
処方例1:厨房用殺菌剤組成物
ポリリジン 0.1質量%
プロタミン塩酸塩 0.1質量%
蔗糖ラウリン酸エステル 0.05質量%
蔗糖ミリスチン酸エステル 0.05質量%
エタノール 2.5質量%
塩酸 pH7に調整する量
水 残部
合計 100質量%