特許第6292858号(P6292858)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本合成化学工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6292858
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池電極用組成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20180305BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20180305BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   H01M4/139
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-258586(P2013-258586)
(22)【出願日】2013年12月13日
(65)【公開番号】特開2015-115289(P2015-115289A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004101
【氏名又は名称】日本合成化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】青山 真人
(72)【発明者】
【氏名】青木 康浩
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 光夫
【審査官】 松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−178962(JP,A)
【文献】 特開2009−108305(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/034064(WO,A1)
【文献】 特開2001−085065(JP,A)
【文献】 特開2013−089485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13−62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質、バインダーおよび溶媒(B)を含有するリチウム二次電池電極用組成物であって、
前記バインダーは、下記化学式(1)および(2)に示される構造単位を含むポリビニルアセタール系樹脂(A)を含み、
上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)における構造単位(2)の含有量が、0.1モ
ル%以上10モル%未満であって、
前記溶媒(B)における水の含有量は、溶媒(B)の20重量%未満であることを特徴
とするリチウムイオン二次電池電極用組成物。
【化1】
【化2】
(R1は水素または炭素数1〜10のアルキル基である。)
【請求項2】
上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)において、構造単位(1)の含有量が80〜99.9モル%である請求項1記載のリチウムイオン二次電池電極用組成物。
【請求項3】
上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)において、平均重合度が500以上である請求項1〜2いずれか記載のリチウムイオン二次電池電極用組成物。
【請求項4】
ポリビニルアセタール系樹脂(A)が、さらに下記化学式(3)に示される構造単位を有する請求項1〜3記載のリチウムイオン二次電池電極用組成物。
【化3】
(R2はエチレン性不飽和結合を含む官能基である。)
【請求項5】
上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)において、構造単位(3)の含有量が0.1〜
10モル%である請求項記載のリチウムイオン二次電池電極用組成物。
【請求項6】
重合開始剤(C)を含有する請求項またはいずれか記載のリチウムイオン二次電池電
極用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアセタール系樹脂を含むリチウムイオン二次電池電極用組成物、リチウムイオン二次電池電極、およびリチウムイオン二次電池に関するものであり、詳細には、アセタール構造単位含有量が特定少量のポリビニルアセタール系樹脂を含むリチウムイオン二次電池電極用組成物に関する。



【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池は大容量を必要とする電気・ハイブリッド自動車への搭載など、更なる高容量化や高性能化が求められている。その解決法として例えば、負極活物質として単位体積あたりのリチウム吸蔵量の多い珪素や錫、あるいはこれらを含む合金を用い、または、従来の黒鉛等の炭素と混合して使用することで充放電容量を増大させる方法が提案されている。
【0003】
しかし、珪素や錫、あるいはこれらを含む合金のような充放電容量の大きな活物質を用いると、充放電に伴って活物質が非常に大きな体積変化を起こす。そのため、これまでの黒鉛等の炭素を活物質として用いた電極で広く用いられていたポリフッ化ビニリデンやSBR等のゴム系の樹脂を結着樹脂として有するバインダーとして用いた場合、非常に大きな体積変化に追随できず、集電体と活物質層との界面で剥離が発生する。従って、電極内の集電構造が破壊され、電極の電子伝導性が低下して、電池のサイクル特性が容易に低下するという問題があった。
【0004】
このため、活物質の非常に大きな体積変化に対しても追随可能な結着樹脂成分を用いたリチウムイオン二次電池電極用組成物が求められていた。
【0005】
一方、リチウムイオン二次電池電極用組成物の結着樹脂成分としてポリビニルアセタール系樹脂を用いる技術が知られている(例えば、特許文献1)。かかる技術は、水酸基量33〜55モル%のポリビニルアセタール樹脂を用いることで、電極活物質と集電体との接着性に優れ、高容量のリチウムイオン二次電池を作成することが可能な組成物を提供するものである。かかる文献には、かかる技術を用いて得られた電極シート試験片は、電解液へ室温にて1時間放置した場合の溶出率が低いことが記載されている。
【0006】
しかし、上記の技術をもってしても、電極におけるバインダー結着樹脂成分が電解液(炭酸エステル系溶媒)に微量ながら溶出するので、電池を長期間に渡って安定使用しようとする場合に問題があった。また、電解液に対するバインダー結着樹脂成分の膨潤度が高いため、充放電サイクルに伴う放電容量保持率が低下するという問題がある(非特許文献1参照)。
【0007】
そこで、電極におけるバインダー結着樹脂成分として、炭酸エステル系電解液に対する溶出度および膨潤度が低い樹脂が求められている。
【0008】
また、リチウムイオン二次電池電極活物質をポリビニルアセタール系樹脂の架橋物で被覆する技術が知られている(例えば、特許文献2)。かかる技術はポリビニルアセタール系樹脂の他にリチウムイオン二次電池電極活物質用バインダーの併用を必須とするものであり、活物質とバインダーとの接着力を向上させ、かつ活物質の崩壊を抑制する目的で、ポリビニルアセタール系樹脂の架橋物にて活物質を被覆するものである。しかしながらかかる技術において、ポリビニルアセタール系樹脂の架橋物は、活物質の被覆剤として用いられているのみであり、バインダー結着樹脂成分はポリテトラフルオロエチレンやエチレン−プロピレン−ジエンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体からなるゴム系樹脂やポリエステルアミド等、従来使用されてきた樹脂であるため、上記と同様の問題があった。
【0009】
又、特定の水酸基量と水100gに対して1g以上の溶解度を有するポリビニルアセタール樹脂と水を用いたリチウム二次電池電極用組成物が提案されている(例えば特許文献3)が、かかる組成物は、電極集電体に塗布後、水を除去するために多大なエネルギーを費やさなくてはならず、省資源で電池を製造するには問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献1】日立化成テクニカルレポート第45号(2005年7月)
【0011】
【特許文献1】特開2012−195289号公報
【特許文献2】特開2000−48806号公報
【特許文献3】特開2013−178962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、炭酸エステル系電解液に対する溶出度および膨潤度が低く、良好な電気特性を有する電池を得ることが可能なリチウムイオン二次電池電極用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは鋭意検討の結果、電極用組成物として、バインダー結着樹脂成分としてアセタール構造単位含有量が特定少量のポリビニルアセタール系樹脂を用い、溶媒として水の含有量が特定少量、あるいは実質的に水を含まないものを用いることにより本発明の目的が達成されることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明の要旨は、活物質、バインダーおよび溶媒(B)を含有するリチウムイオン二次電池電極用組成物であって、前記バインダーは、下記化学式(1)および(2)に示される構造単位を含むポリビニルアセタール系樹脂を含み、上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)における構造単位(2)の含有量が0.1モル%以上10モル%未満であって、前期溶媒(B)における水の含有量は、溶媒(B)の20重量%未満であることを特徴とするリチウムイオン二次電池電極用組成物に存する。
【化1】
【化2】
(R1は水素または炭素数1〜10のアルキル基である。)
【発明の効果】
【0015】
上記のようにアセタール構造単位含有量が特定少量のポリビニルアセタール系樹脂(A)をバインダー結着樹脂成分として用いることにより、得られる電極におけるバインダー結着樹脂成分は、炭酸エステル系電解液に対して、溶出度と膨潤度が低いという利点を有している。
さらに、電解液で膨潤した状態でも弾性率が高いため、活物質粒子が充放電により膨張、収縮したときに、電極層全体の変形を小さくすることが出来、活物質同士の接触及び活物質と集電体との接触状態を良好に保つことが出来るので、初期充放電効率及び充放電サイクル特性を向上させることが出来るという効果を有する。
また、リチウムイオン二次電池電極用組成物が溶媒を含み、溶媒として水の含有量が特定少量、実質的に水を含まないことで、高効率で電池を製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
【0017】
本発明は、活物質、バインダーおよび溶媒(B)を含有するリチウムイオン二次電池電極用組成物であって、前記バインダーは、下記化学式(1)および(2)に示される構造単位を含むポリビニルアセタール系樹脂を含み、上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)における構造単位(2)の含有量が0.1モル%以上10モル%未満であって、前期溶媒(B)における水の含有量は、溶媒(B)の20重量%未満であることを特徴とするリチウムイオン二次電池電極用組成物である。
【化1】
【化2】
(R1は水素または炭素数1〜10のアルキル基である。)
【0018】
なお、ポリビニルアセタール系樹脂(A)において、下記化学式(3)に示すような架橋基含有アセタール構造単位を0.1〜10モル%含有しても良い。
【化3】
(R2はエチレン性不飽和結合を含む官能基である。)
【0019】
[バインダー]
本発明のリチウムイオン二次電池電極用組成物に用いるバインダーは、電極の活物質同士、及び、活物質と集電体とを接着する接着剤である。かかるバインダーを用いて得られる電極において、バインダーは炭酸エステル系電解液と接触する環境に長期間晒される。
本発明のリチウムイオン二次電池電極用組成物に用いるバインダーは、エステル系電解液に対して、溶出度と膨潤性が低く、電解液で膨潤した状態でも高い弾性率を保ち、活物質粒子が充放電により膨張、収縮したときに、電極層全体の変形を小さくすることが出来、活物質同士の接触及び活物質と集電体との接触状態を良好に保つことが出来るので、初期充放電効率及び充放電サイクル特性を向上させることが出来るという効果を有する。
【0020】
<(A)ポリビニルアセタール系樹脂の説明>
本発明のリチウムイオン二次電池電極用組成物のバインダーには、アセタール構造単位含有量が特定少量のポリビニルアセタール系樹脂(A)を用いる。以下、ポリビニルアセタール系樹脂(A)について説明する。
【0021】
ポリビニルアセタール系樹脂(A)における化学式(1)は、ビニルアルコール構造単位を示す。かかる構造単位は、通常、ポリビニルアセタール系樹脂の前駆体であるビニルアルコール系樹脂に由来するものである。
【化1】
【0022】
ポリビニルアセタール系樹脂(A)における化学式(1)に示される構造単位の含有量は通常80〜99モル%である。好ましくは85〜97モル%であり、特に好ましくは85〜95モル%である。かかる構造単位の含有量が、上記範囲内にある場合、本発明の効果が効率よく得られる傾向がある。
【0023】
ポリビニルアセタール系樹脂(A)における化学式(2)は、アセタール構造単位を示す。かかる構造単位は、通常、ビニルアルコール系樹脂をアルデヒド化合物を用いてアセタール化することにより得られる。
【化2】
(R1は水素または炭素数1〜10のアルキル基である。)
【0024】
化学式(2)中、R1は水素または炭素数1〜10のアルキル基であり、好ましくは水素または炭素数1〜5のアルキル基であり、特に好ましくは炭素数1〜5のアルキル基である。
R1はアルデヒド化合物に由来する官能基であるため、用いるアルデヒド化合物を選定することでR1を調整することが可能である。かかるアルデヒド化合物としては、ホルムアルデヒド(R1が水素)、アセトアルデヒド(R1が炭素数1のアルキル基)、ブチルアルデヒド(R1が炭素数3のアルキル基)、ペンチルアルデヒド(R1が炭素数4のアルキル基)、デカンアルデヒド(R1が炭素数9のアルキル基)が挙げられる。R1は1種でも良いし、2種以上を併用してもよい。すなわち、アルデヒド化合物は1種でもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
ポリビニルアセタール系樹脂(A)における化学式(2)の含有量は、ポリビニルアセタール系樹脂の前駆体であるビニルアルコール系樹脂の水酸基数を基準とし、このうちアルデヒド化合物でアセタール化された水酸基数の比率を意味する(かかる比率を「アセタール化度」と称する。)。すなわちアセタール化度の計算方法としては、アセタール化に供された水酸基数を数える方法を採用してアセタール化度のモル%を算出する。
ポリビニルアセタール系樹脂(A)における構造単位(2)に係るアセタール化度は0.1モル%以上10モル%未満である。好ましくは1モル%以上〜10モル%未満であり、特に好ましくは3〜5モル%である。かかるアセタール化度が高すぎる場合、電解液への溶出度および膨潤度が増大する傾向があり、低すぎる場合、本発明の効果が得られにくくなる傾向がある。
【0026】
本発明のリチウムイオン二次電池電極用組成物のバインダーにおいては、ポリビニルアセタール系樹脂(A)のアセタール構造単位含有量を特定少量とするのみで、電解液に対する溶出度と膨潤度がともに低いという効果が得られる。従って、他の新たな共重合化合物や変性用化合物を用意する必要がなく、経済的に電気特性の良好な電池を得ることができる。
【0027】
なお、ポリビニルアセタール系樹脂(A)において、下記化学式(3)に示すような架橋基含有アセタール構造単位を含有しても良い。かかる構造単位は、通常、ビニルアルコールをエチレン性不飽和結合を含む官能基を有するアルデヒド化合物を用いてアセタール化することにより得られる。
【化3】
(R2はエチレン性不飽和結合を含む官能基である。)
【0028】
化学式(3)中、R2はエチレン性不飽和結合を含む官能基である。かかる官能基がエチレン性不飽和結合を含むことにより、熱や光による架橋反応を行うことで架橋し、網目型構造を有する樹脂となる。かかるエチレン性不飽和結合は、末端ビニル構造、内部アルケン構造から選ばれる少なくとも1つである。
エチレン性不飽和結合を含む官能基におけるエチレン性不飽和結合の数は、通常1〜5であり、好ましくは1〜3である。このとき、芳香族化合物の芳香族性を構成するエチレン性不飽和結合は架橋能を有さないため、「エチレン性不飽和結合」に含まない。
なお、エチレン性不飽和結合を含む官能基はカルボニル基、アミド結合等、エチレン性不飽和結合以外の不飽和結合を有することも可能である。
【0029】
かかるR2はエチレン性不飽和基あたりの分子量(以下、不飽和基当量という)が通常200以下のエチレン性不飽和結合を含む官能基であり、特に好ましくはエチレン性不飽和基当量150以下のエチレン性不飽和結合を含む官能基である。
かかるR2の炭素数は通常3〜20であり、好ましくは3〜15であり、特に好ましくは3〜10である。
【0030】
かかるとは、例えばCH=CH−(不飽和基当量27)、CH=C(CH)−(不飽和基当量41)などの末端ビニル構造を含むアルキル基、CH−CH=CH−(不飽和基当量41)、CHCHCH=CH−(不飽和基当量55)、CH−CH=CH−CH=CH−(不飽和基当量33.5)、(CHC=CH−CHCHCH(CH)CH−(不飽和基当量125)等の内部アルケン構造を含むアルキル基、CCH=CH−(不飽和基当量103)等の芳香族官能基を含むアルキル基、CH=CHCONHCH−(不飽和基当量84)、CH=C(CH)CONHCH−(不飽和基当量98)等のアミド結合を含むアルキル基が挙げられる。
【0031】
R2はアルデヒド化合物に由来する官能基であるため、用いるアルデヒド化合物を選定することでR2を調整することが可能である。かかるアルデヒド化合物としては、例えばアクロレイン(R2がCH=CH−)、クロトンアルデヒド(R2がCH−CH=CH−)、メタクロレイン(R2がCH=C(CH)−)、トランス−2−ペンテナール(R2がCHCHCH=CH−)、トランス、トランス−2,4−ヘキサジエナール(R2がCH−CH=CH−CH=CH−)、シトロネラール(R2が(CHC=CH−CHCHCH(CH)CH−)、桂皮アルデヒド(R2がCCH=CH−)、アクリルアミドアセトアルデヒド(R2がCH=CHCONHCH−)、メタクリルアミドアセトアルデヒド(R2がCH=C(CH)CONHCH−)、全トランスレチナール(R2がC1927−)等が挙げられる。
【0032】
ポリビニルアセタール系樹脂(A)における化学式(3)の含有量は、ポリビニルアセタール系樹脂の前駆体であるポリビニルアルコールの水酸基数を基準とし、このうちエチレン性不飽和結合を含む官能基を有するアルデヒド化合物でアセタール化された水酸基数の比率を意味する(かかる比率を「架橋基変性度」と称する)。すなわち架橋基変性度の計算方法としては、エチレン性不飽和結合を含む官能基を有するアルデヒド化合物でアセタール化に供された水酸基数を数える方法を採用して架橋基変性度のモル%を算出する。
【0033】
ポリビニルアセタール系樹脂(A)における構造単位(3)に係る架橋基変性度は通常0.1〜10モル%である。好ましくは0.1〜8モル%であり、特に好ましくは0.1〜2モル%である。かかる架橋基変性度が高すぎる場合、弾性率高くなりすぎる為か、電極が脆くなったり、集電体との接着性が低下したりするなど、電池の耐久性が低くなる可能性がある。また、低すぎる場合、架橋の効果が薄く、本発明の効果が十分に得られない傾向がある。
【0034】
本発明においては、バインダー結着樹脂成分としてアセタール構造単位含有量が特定少量のポリビニルアセタール系樹脂(A)を用いることにより、溶出度と膨潤度がともに低いバインダーを提供することが可能となった。
【0035】
なお一般に、未架橋のポリマーが溶媒に溶解しても、架橋ポリマーは、同溶媒に対して溶解せず膨潤することが知られている。即ち、ポリマーの網目型構造に溶媒分子が浸入すると、未架橋のポリマーは網目型構造がほどけて溶解するが、架橋ポリマーの場合、網目間のポリマー鎖がゴム状弾性で収縮しようとする力が抑止力となって溶解できないためである。(古川淳二著「高分子物性」(化学同人) p.17)従って、バインダー結着樹脂成分の電解液に対する溶出度と膨潤度は相関性がない。
【0036】
ポリビニルアセタール系樹脂(A)は、ビニルエステルモノマー由来の構造単位(以下、ビニルエステル構造単位と称することがある)を含有する場合がある。かかるビニルエステル構造単位は、通常、ポリビニルアセタール系樹脂の前駆体であるビニルアルコール系樹脂に由来するものである。
ポリビニルアセタール系樹脂(A)におけるビニルエステル由来の構造単位は通常0〜5モル%である。好ましくは0〜3モル%であり、特に好ましくは0〜1モル%である。多すぎる場合電解液に溶出しやすくなり目的とする効果が得られにくい傾向がある。
【0037】
ポリビニルアセタール系樹脂(A)の平均重合度は前駆体であるポリビニルアルコール系樹脂と同一である。かかるポリビニルアセタール系樹脂(A)の平均重合度(JIS K6726に準拠して測定)は、通常500以上である。好ましくは1000〜3000であり、特に好ましくは2500〜3000である。高すぎる場合バインダーの粘度が高くなりすぎて電極製造作業性が低下する傾向があり、低すぎる場合本発明の効果が効率よく得られにくい傾向がある。
【0038】
ポリビニルアセタール系樹脂(A)の前駆体であるポリビニルアルコール系樹脂は、ポリビニルエステルをケン化することにより得ることができる。上記ビニルエステルとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられる。なかでも、経済性の観点から酢酸ビニルが好適である。
【0039】
上記ポリビニルアルコール系樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、エチレン性不飽和単量体を共重合したものであってもよい。上記エチレン性不飽和単量体としては特に限定されず、例えば、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ペンチレン、へキシレン、シクロヘキシレン、シクロヘキシルエチレン、シクロヘキシルプロピレン等のα−オレフィン;3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、3−ブテン1,2ジオール、等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類;さらにビニレンカーボネート類やアクリル酸、メタクリル酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸、等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル、アクリロニトリル等のニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン等の3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−ヒドロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−3−ヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン、4,5−ジヒドロキシ−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−1−ペンテン、4,5−ジヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジヒドロキシ−1−ヘキセン、5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセン、2−であるグリセリンモノアリルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、2−アセトキシ−1−アリルオキシ−3−ヒドロキシプロパン、3−アセトキシ−1−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロパン、グリセリンモノビニルエーテル、グリセリンモノイソプロペニルエーテルなどが挙げられる。ビニルエチレンカーボネートやビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルメチルジメトキシシラン、アリルジメチルメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルメチルジエトキシシラン、アリルジメチルエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルイソブチルジメトキシシラン、ビニルエチルジメトキシシラン、ビニルメトキシジブトキシシラン、ビニルジメトキシブトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメトキシジヘキシロキシシラン、ビニルジメトキシヘキシロキシシラン、ビニルトリヘキシロキシシラン、ビニルメトキシジオクチロキシシラン、ビニルジメトキシオクチロキシシラン、ビニルトリオクチロキシシラン、ビニルメトキシジラウリロキシシラン、ビニルジメトキシラウリロキシシラン、ビニルメトキシジオレイロキシシラン、ビニルジメトキシオレイロキシシラン等が挙げられる。また、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸等のチオール化合物の存在下で、酢酸ビニル等のビニルエステル系単量体とエチレンを共重合し、それをケン化することによって得られる末端変性ポリビニルアルコールも用いることができる。
【0040】
ビニルエステル系モノマーの重合は、公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合などにより行うことができる。得られた重合体のケン化についても、従来より行われている公知のケン化方法を採用することができる。すなわち共重合体をアルコール又は水/アルコール溶媒に溶解させた状態で、アルカリ触媒又は酸触媒を用いて行うことができる。前記アルカリ触媒としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートを用いることができる。
【0041】
得られたポリビニルアルコール系樹脂をアルデヒド化合物を用いてアセタール化することでポリビニルアセタール系樹脂を製造する。かかるアセタール化反応は公知一般の条件で行えばよい。通常、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液に酸触媒の存在下でアルデヒド化合物を配合し、アセタール化反応させる。アセタール化反応の進行に伴い、ポリビニルアセタール系樹脂粒子が析出し、以降不均一系で反応を進める方法が一般的に行われている。
【0042】
かかるアセタール化反応は、低温状態で開始することが好ましい。例えば、I)ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を冷却し、酸と所定量のアルデヒド化合物を配合し、反応を開始する方法、II)ポリビニルアルコール系樹脂水溶液にアルデヒド化合物を配合し、冷却してから酸を配合して反応を開始する方法、III)ポリビニルアルコール系樹脂水溶液に酸を配合し、冷却してからアルデヒド化合物を配合して反応を開始する方法が挙げられる。
なお、通常ポリビニルアルコール系樹脂を含む水溶液を調整するにあたり、液を加温溶解することが好ましいが、上記I)〜III)においては特記しない限り、加温溶解後常温に冷却した水溶液を意味する。
【0043】
かかるアルデヒド化合物には、上記構造単位(2){および所望により(3)}に示す構造を与えるような化合物を用いる。すなわち構造単位(2)としては、ホルムアルデヒド(R1が水素)、アセトアルデヒド(R1が炭素数1のアルキル基)、ブチルアルデヒド(R1が炭素数3のアルキル基)、ペンチルアルデヒド(R1が炭素数4のアルキル基)、デカンアルデヒド(R1が炭素数9のアルキル基)であり、構造単位(3)としては、上記したアルデヒド化合物を用いる。
これら上記構造単位(2){および所望により(3)}となるアルデヒド化合物は、通常、上記a)およびb)におけるアルデヒド化合物配合時に、共に一括して配合する。必要に応じて、一方を冷却前に配合しておき、一方を冷却後に配合することも可能である。好ましくは、ポリビニルアルコール系樹脂を水に溶解し水溶液を調製し、これを5〜50℃まで冷却し、ここに記構造単位(2){および所望により(3)}となるアルデヒド化合物を配合し、次いで酸を配合することにより反応を開始するアセタール化法、である。
【0044】
アセタール化反応に使用する酸としては、通常、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸やp−トルエンスルホン酸などの有機酸が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。また、アセタール化反応後に得られる粉末状の反応生成物を中和するのに用いられるアルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物のほか、アンモニア、トリエチルアミン、ピリジンなどのアミン系化合物が挙げられる。
【0045】
アセタール化反応は攪拌下に行うことが好ましい。また、アセタール化反応を完全に行うために、通常50〜80℃で反応を継続することが好ましい。アセタール化反応は通常1〜10時間行う。
アセタール化反応後に得られる粉末状の反応生成物を濾過し、アルカリ水溶液で中和した後、水洗、乾燥することにより、目的とするポリビニルアセタール系樹脂(A)が得られる。
【0046】
<溶媒(B)>
本発明のリチウムイオン二次電池電極用組成物は、溶媒(B)を含む。かかる溶媒(B)は、上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)を溶解するものである。さらに、かかる溶媒(B)における水の含有量が特定少量、あるいは実質的に水を含まないものである。本発明の本発明のリチウムイオン二次電池電極用組成物における溶媒(B)中の水含有量は、20重量%未満であり、好ましくは10重量%未満であり、特に好ましくは5〜0重量%である。溶媒(B)が多量に水を含む場合、上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)を完全に溶解し難くなる傾向がある。
【0047】
かかる溶媒(B)としては、例えば、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミドなどのアミド系溶媒、ジメチルスルホキサイドなどのスルホキサイド、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール等のアルコール系溶媒を用いることができる。取り扱いが容易で比較的安価という観点で好ましくはアミド系溶媒であり、特に好ましくはN−メチルピロリドンである。
溶媒(B)が上記のように水の含有量が特定少量、あるいは実質的に水を含まないことで、後述するように電極集電体に本発明の組成物を塗布後、乾燥させるときに、上記例示の溶媒を用いたときよりも多大なエネルギーを必要とするため経済的に不利となる傾向がある。好ましくは、溶媒(B)が実質的に水を含まないものである。
【0048】
<活物質>
本発明のリチウムイオン二次電池電極用組成物は、活物質を含む。
かかる活物質は、リチウムイオン二次電池電極に用いられる、公知一般の活物資を用いることが可能である。
正極用活物質としては、例えば、オリビン型リン酸鉄リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、三元系ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物等を用いることができる。
負極用活物質としては、炭素材料が好ましい。炭素材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛等の黒鉛系炭素材料(黒鉛)、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー、コークス、ソフトカーボン、ハードカーボン等が挙げられる。特に、リチウム含有金属複合酸化物、炭素粉末、珪素粉末、錫粉末、またはこれらの混合物を用いる場合、本発明の効果が有効に発揮されるため好ましい。スラリー中の活物質の含有量は、10〜95重量%、20〜80重量%、好ましくは35〜65重量%である。
【0049】
活物質の平均粒子径は通常1〜100μmであり、より好ましくは1〜50μmであり、さらに好ましくは1〜25μmである。なお、活物質の平均粒子径は、レーザ回折式粒度分布測定(レーザ回折散乱法)により測定された値を採用するものとする。
【0050】
<その他成分>
本発明の電極用組成物には、上記活物質、バインダーの他、その他の一般的に電極用組成物に含まれるような公知の配合剤を含んでもよい。例えば、導電助剤、難燃助剤、増粘剤、消泡剤、レベリング剤、密着性付与剤等が挙げられる。特に導電助剤とは、導電性を向上させるために配合される配合物をいう。導電助剤としては、黒鉛、アセチレンブラックなどのカーボン粉末や、気相成長炭素繊維(VGCF)などの種々の炭素繊維などが挙げられる。
これらの成分の配合量は、公知の一般的な範囲であり、その配合比についても、リチウムイオン二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。
【0051】
本発明のリチウムイオン二次電池電極用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、他の結着性能や活物質分散能を有する樹脂、架橋剤、シランカップリング剤等を含んでも良い。他の結着性能や活物質分散能を有する樹脂の例としては、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアセテート、セルロースアセテート、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。
特に、バインダーとして構造単位(3)を有するポリビニルアセタール樹脂(A)を用いる場合、重合開始剤(C)を含有することが好ましい。
また、上記添加剤の他にも、接着剤の構成成分の製造原料等に含まれる不純物等が少量含有されたものであっても良い。
【0052】
上記、重合開始剤(C)としては、光重合開始剤(c1)、熱重合開始剤(c2)などが挙げられる。
上記光重合開始剤(c1)としては、例えば、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)ブタノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノンオリゴマー等のアセトフェノン類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン類;ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4′−メチル−ジフェニルサルファイド、3,3′,4,4′−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−N,N−ジメチル−N−[2−(1−オキソ−2−プロペニルオキシ)エチル]ベンゼンメタナミニウムブロミド、(4−ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリド等のベンゾフェノン類;2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、2−(3−ジメチルアミノ−2−ヒドロキシ)−3,4−ジメチル−9H−チオキサントン−9−オンメソクロリド等のチオキサントン類;2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフォンオキサイド類;等が挙げられる。なお、これら光重合開始剤(c1)は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0053】
また、これらの助剤として、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、4,4′−ジメチルアミノベンゾフェノン(ミヒラーケトン)、4,4′−ジエチルアミノベンゾフェノン、2−ジメチルアミノエチル安息香酸、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸(n−ブトキシ)エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4−ジメチルアミノ安息香酸2−エチルヘキシル、2,4−ジエチルチオキサンソン、2,4−ジイソプロピルチオキサンソン等を併用することも可能である。
【0054】
これらの中でも、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾイルイソプロピルエーテル、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンを用いることが好ましい。
【0055】
また、上記熱重合開始剤(c2)としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルアセテートパーオキサイド、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、α,α′−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、イソブチリルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、スクシン酸パーオキサイド、m−トルオイルベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−3−メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ−s−ブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、α,α′−ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノオエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシマレート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメトルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシ−m−トルイルベンゾエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ビス(t−ブチルパーオキシ)イソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(m−トルイルパーオキシ)ヘキサン、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアリルモノカーボネート、t−ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、3,3′,4,4′−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン等の有機過酸化物系開始剤;2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、1−[(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、1,1′−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2′−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2′−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2′−アゾビス(2−メチル−N−フェニルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2′−アゾビス[N−(4−クロロフェニル)−2−メチルプロピオンアミジン]ジヒドリドクロリド、2,2′−アゾビス[N−(4−ヒドロフェニル)−2−メチルプロピオンアミジン]ジヒドロクロリド、2,2′−アゾビス[2−メチル−N−(フェニルメチル)プロピオンアミジン]ジヒドロクロリド、2,2′−アゾビス[2−メチル−N−(2−プロペニル)プロピオンアミジン]ジヒドロクロリド、2,2′−アゾビス[N−(2−ヒドロキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ジヒドロクロリド、2,2′−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2′−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2′−アゾビス[2−(4,5,6,7−テトラヒドロ−1H−1,3−ジアゼピン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2′−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2′−アゾビス[2−(5−ヒドロキシ−3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2′−アゾビス[2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン]ジヒドロクロリド、2,2′−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2′−アゾビス[2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド]、2,2′−アゾビス[2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル]プロピオンアミド]、2,2′−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2′−アゾビス(2−メチルプロピオンアミド)、2,2′−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2,2′−アゾビス(2−メチルプロパン)、ジメチル−2,2−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4′−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2′−アゾビス[2−(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]等のアゾ系開始剤;等が挙げられる。なお、これらの熱重合開始剤は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0056】
上記重合開始剤(C)の含有量は、上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)100重量部に対して通常0.5〜20重量部であり、好ましくは0.8〜15重量部、さらに好ましくは1〜10重量部ある。上記重合開始剤(C)の含有量が少なすぎると、架橋反応の効率が上がりにくい傾向があり、多すぎると未反応物が架橋後の樹脂に悪影響を与える傾向がある。
【0057】
〔電極用組成物の調製〕
上記バインダー、活物質、溶媒、所望によりその他成分を混合することにより、本発明のリチウムイオン二次電池電極用組成物を調製することができる。かかる混合には、攪拌機、脱泡機、ビーズミル、高圧ホモジナイザー等を利用することができる。また、電極用組成物の調製は、減圧下で行うことが好ましい。これにより、得られる活物質層内に気泡が生じることを防止することができる。
【0058】
本発明のリチウムイオン二次電池電極用組成物における活物質とポリビニルアセタール系樹脂(A)との含有比率は、活物質100重量部に対して、ポリビニルアセタール系樹脂(A)が、通常0.1〜10重量部であり、好ましくは0.1〜5重量部、特に好ましくは0.1〜4重量部である。ポリビニルアセタール系樹脂(A)の含有量が高くなりすぎると、活物質層に不活性な部分が多くなり、内部抵抗が増大することになったり、重量エネルギー密度等が低くなる傾向がある。一方、少なすぎると、所望の結着力が得られず、活物質が脱落しやすくなったり、集電体から剥がれやすくなり、電池性能が低下する傾向がある。
【0059】
本発明のリチウムイオン二次電池電極用組成物に含まれる樹脂固形分中のポリビニルブチラール樹脂(A)の含有量は、通常50〜100重量%であり、好ましくは70〜100重量%であり、さらに好ましくは80〜100重量%である。かかる値が低すぎると、本発明の効果が効率的に得られにくい傾向がある。また、電極用組成物中の樹脂固形分濃度は、ケットで測定した値で通常0.5〜18重量%であり、好ましくは1〜15重量%であり、さらに好ましくは1〜12重量%である。かかる値が低すぎると電極作成時に大量の溶媒(B)を除去する必要があって経済性が低下する傾向があり、高すぎると電極作成時に作業効率が低下したり、電極密度の制御の精度が低下したりする傾向がある。
【0060】
本発明のリチウムイオン二次電池電極用組成物は、通常スラリー状である。以上のようにして調製される電極用組成物を、集電体上に塗布する等して電極(層)を形成する。これを乾燥することにより電極を製造することができる。また、重合開始剤(C)を電極用組成物含有させる場合は、後述するように、熱または光にてポリビニルアセタール系樹脂(A)を架橋することが好ましい。
【0061】
電極に用いられる集電体としては、リチウムイオン二次電池の電極の集電体として用いられているものを使用できる。具体的には、負極の集電体としては、銅、ニッケルといった金属箔、エッチング金属箔、エキスパンドメタルなどが用いられる。正極の集電体としては、アルミニウム、銅、ニッケル、タンタル、ステンレス、チタン等の金属材料が挙げられ、目的とする蓄電デバイスの種類に応じて適宜選択して用いることができる。
【0062】
電極用組成物を集電体に塗布する方法としては、押し出しコーター法、ドクターブレード法、リバースロール法、コンマバー法、グラビヤ法、エアーナイフ法、アプリケーター法等が挙げられる。
電極形成後の乾燥条件としては、処理温度が通常20〜250℃であり、50〜150℃であることがより好ましい。また、処理時間は通常1〜120分間であり、5〜60分間であることがより好ましい。
得られる電極層の厚さは、通常20〜500μmであり、より好ましくは20〜300μmであり、さらに好ましくは20〜150μmである。
【0063】
重合開始剤(C)を含有する場合、かかる電極(層)を熱または光に晒し、バインダーであるポリビニルアセタール系樹脂(A)を架橋することで、一層効果を発揮した電極が得られる。必要に応じて、集電体上に電極を形成した後にプレスし、架橋反応前に樹脂密度を上げることが好ましい。
光で架橋反応を行う場合、通常、紫外線照射、電子線照射などの方法を採用できる。経済性と生産性の観点から紫外線照射という方法を採用することが好ましい。紫外線照射は、キセノンランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプなどを用いることが出来る。高圧水銀灯を使用する場合、80〜240W/cmのエネルギーを有するランプ1灯に対して搬送速度5〜60m/分で硬化させるのが好ましい。光で架橋反応をさせた後、さらに熱での架橋反応をさせると、開始剤を効率的に使用できて好ましい。
熱で架橋反応を行う場合、通常、20℃〜250℃の処理温度にて、通常、1〜120分間処理する。より好ましくは50〜150℃にて5〜60分反応させるという方法が好ましい。
熱で架橋反応を行う場合、上記電極形成後の乾燥処理時に、同時に硬化させることが出来るため好ましい。
【0064】
本発明のリチウムイオン二次電池電極用組成物は、バインダーであるポリビニルアセタール系樹脂(A)が未架橋の状態で活物質と集電体とを接合し(すなわち目的とする電極を形成し)、乾燥し、場合によっては熱や光を加えてポリビニルアセタール系樹脂(A)を架橋させることが好ましい。
活物質と集電体とを接合する前に架橋反応を行った場合、活物質と集電体を良好に接着できない傾向がある。
【0065】
[電極の説明]
本発明のリチウムイオン二次電池電極用組成物を用いて得られる電極は、以下の特性を有する。
【0066】
本発明のリチウムイオン二次電池電極用組成物を用いて作成した電極におけるバインダーの損失弾性率極大点温度は、通常70〜100℃であり、さらには80〜100℃、特には85〜100℃である。
また、ポリビニルアセタール系樹脂(A)が架橋基を含み、これを架橋した場合、バインダーの架橋密度は、通常5×10−5〜5×10−4mol/cmであり、さらには1×10−4〜4×10−4mol/cmである。
かかる損失弾性率極大点温度および架橋密度は、以下のように測定する。
バインダーのフィルム(25×5×0.02〜0.05mm)を、アイティ計測制御株式会社製動的粘弾性測定装置 DVA-225 を用い、JIS K-7244-4 に従って、測定周波数 10Hz にて損失弾性率と温度の関係を測定する。
室温以上で損失弾性率が極大を示した後に急減する箇所にて、極大を示した温度を 損失弾性率極大点とする。
バインダー成分の架橋密度を求める場合、架橋基を有さないバインダーのフィルムにおける損失弾性率極大点温度を、Tg0とする。また、ポリビニルアセタール系樹脂(A)が架橋基を有するバインダーの架橋後のフィルムにおける損失弾性率極大点温度を、Tgとする。
かかる損失弾性率極大点温度Tg、Tg0を元に、下記Nielsenの経験式から架橋密度を算出する。
(Nielsen の経験式)
Tg-Tg0=3.9×10-4×ν
Tg :架橋反応を行ったバインダーフィルムの損失弾性率極大点温度
Tg0:架橋基を有さないバインダーフィルムの損失弾性率極大点温度
ν :架橋密度 (mol/cm3)
【0067】
本発明のリチウムイオン二次電池電極用組成物を用いて作成した電極におけるバインダーの電解液膨潤度は通常0〜20%であり、0〜10%であることが好ましく、特に好ましくは0〜5%である。
かかる膨潤度とは、バインダーの100mm×15mm×20〜50μmのフィルム(バインダーたるポリビニルアセタール系樹脂(A)が架橋基を有し、架橋する場合は架橋後)を用い、120℃で4時間減圧乾燥させ、その重量を測定する(W0(g))。このフィルムを所定の電解液約10gに23℃で浸漬し、恒量になるまで保つ。その後、取り出して、このフィルム表面を濾紙で軽く拭き、重量を測定する(W1(g))。それらから、下式に従って、電解液膨潤度を算出する。
電解液膨潤度(%)=((W1−W0)/W0)×100
【0068】
本発明のリチウムイオン二次電池電極用組成物を用いて作成した電極におけるバインダーの電解液膨潤度は、用いる電解液にも依るが、通常0〜20%であり、0〜10%であることが好ましく、特に好ましくは0〜5%である。
かかる膨潤度とは、バインダーの100mm×15mm×20〜50μmのフィルム(バインダーたるポリビニルアセタール系樹脂(A)が架橋基を有し、架橋する場合は架橋後)を用い、120℃で4時間減圧乾燥させ、その重量を測定する(W(g))。このフィルムを所定の電解液約10gに23℃で浸漬し、恒量になるまで保つ。その後、取り出して、このフィルム表面を濾紙で軽く拭き、重量を測定する(W(g))。それらから、下式に従って、電解液膨潤度を算出する。
電解液膨潤度(%)=((W1−W0)/W0)×100
【0069】
また、本発明のリチウムイオン二次電池電極用組成物を用いて作成した電極におけるバインダーの弾性率は浸漬する電解液にも依るが、通常0.5〜5GPaであり、さらには1〜4GPaであり、特には2〜3GPaである。
かかる弾性率は、以下のように測定する。まず、バインダーの100mm×15mm×20〜50μmのフィルム(ポリビニルアセタール系樹脂(A)が架橋基を有し、架橋する場合は架橋後)を電解液約10gに23℃で浸漬し、恒量になるまで保つ。その後、取り出して、このフィルム表面を濾紙で軽く拭き、23℃、50RH% にて、
JIS K-7161 10.3 に従って弾性率を求める。
【0070】
[リチウムイオン二次電池]
上記のようにして作製される電極を備えたリチウムイオン二次電池について、説明する。
【0071】
リチウムイオン二次電池の電解液としては、リチウム塩を溶解する非プロトン性極性溶媒が用いられる。例えば、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、イソプロピルメチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、イソプロピルエチルカーボネート、ブチルメチルカーボネート、ブチルエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状炭酸エステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状炭酸エステル系溶媒、クロロエチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等のハロゲン含有環状炭酸エステル系溶媒等の炭酸エステル系溶媒、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン、1,3−ジオキソラン等の複素環状化合物系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、ギ酸メチル、ギ酸エチル等のカルボン酸エステル溶媒などが挙げられる。これら溶媒は通常炭素数2〜15、好ましくは炭素数3〜10、特に好ましくは炭素数3〜8である。これらは単独でも用いられるが、混合して用いることが好ましい。
特に電解液が炭酸エステル系溶媒を含む場合、本発明の効果が有効に得られる傾向がある。上記電解液は高誘電率・高沸点であるエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等、炭素数1〜10の環状炭酸エステル系溶媒に、低粘性率溶媒であるジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等、炭素数3〜10の鎖状炭酸エステル系溶媒を含有させて用いられることが多い。
【0072】
電解質のリチウム塩としては、LiClO4 、LiPF6 、LiBF4 、LiAsF6、LiCl、LiBr等の無機塩や、LiCF3SO3 、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2252 、LiC(SO2CF3)3、LiN(SO3CF32等の有機塩など、非水電解液の電解質として常用されているものを用いればよい。これらのなかでもLiPF6 、LiBF4 又はLiClO4を用いるのが好ましい。
【0073】
セパレータとしては、特に限定しないが、ポリオレフィンの不織布や多孔性フィルムなどを用いることができる。
【0074】
二次電池の構造としては、特に限定されず、積層型(扁平型)電池、巻回型(円筒型)電池など、従来公知のいずれの形態・構造にも適用し得る。また、リチウムイオン二次電池内の電気的な接続形態(電極構造)については、(内部並列接続タイプ)電池および双極型(内部直列接続タイプ)電池のいずれにも適用し得る。
【0075】
以上のようにして得られるリチウムイオン二次電池は、本発明の電極用組成物を用いたことに基づき、活物質同士、及び、活物質と集電体が充放電を繰り返しても良好に接着し、かつバインダー成分が電解液に膨潤し難いため、良好な出力特性を有する。
【実施例】
【0076】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中「部」「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。また、「v」は体積基準を意味する。
【0077】
〔測定評価方法〕
はじめに、以下の実施例で採用した測定評価方法について説明する。
【0078】
(1)電解液膨潤度の測定
ポリビニルアセタール系樹脂(A)を100×15×0.02〜0.05mmのフィルム状とし、120℃で4時間0.005MPa以下で乾燥させ、その重量を測定した(W0(g))。次に、このフィルムを所定の電解液約10gに23℃で浸漬し、恒量になるまで保った。その後、取り出して、このフィルム表面を濾紙で軽く拭き、重量を測定した(W1(g))。それらから、下式に従って、電解液膨潤度を算出した。
電解液膨潤度(%)=((W1−W0)/W0)×100
電解液として、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネートを用いた。
【0079】
(2)電解液溶出度の測定
上記電解液膨潤度測定を終えたフィルムを120℃、0.005MPa以下、4時間の条件で乾燥して重量測定した(W2(g))。
電解液溶出度(%)=(W0-W2)/W0×100
【0080】
(3)膨潤フィルムの弾性率測定
ポリビニルアセタール系樹脂(A)を100×15×0.02〜0.05mmのフィルム状とし、所定の電解液約10gに23℃で浸漬し、恒量になるまで保った。その後、取り出して、このフィルム表面を濾紙で軽く拭き、23℃ 50RH% にて、株式会社島津製作所製オートグラフ AG-IS を用い、JIS K-7161 に従って求めた。
電解液としてジエチルカーボネート、プロピレンカーボネートを用いた。
【0081】
[実施例1]<ポリビニルアセタール樹脂(A)の合成>
ポリビニルアルコール樹脂(JIS K6726で測定した重合度2600、けん化度99.5モル%)の6重量%水溶液を調整した。かかる水溶液670部を10℃に冷却し、塩酸(濃度35重量%)4.2部を加えた。
これを攪拌しながら、ブチルアルデヒド3.3部を10分掛けて滴下し、1時間攪拌を続けた。ここに塩酸24.5部(濃度35重量%)を10分掛けて滴下した。その後25℃に昇温し、30分攪拌を続けた後、60℃に昇温して6時間攪拌し、アセタール化反応を行った。
この反応液を炭酸ナトリウムで中和し、生成した沈殿を水でよく洗浄、乾燥させて、架橋基を有するポリビニルアセタール樹脂の淡黄色固体を得た。
得られたポリビニルアセタール樹脂をDMSO−D6に溶解し、1H−NMRの積分比からアセタール化度、架橋基変性度を求めた。得られたポリビニルアセタール樹脂の化学式(1)で示す構造単位含有量は91モル%であり、化学式(2)で示す構造単位(R1が炭素数3のアルキル基である)のアセタール化度は9モル%であった。
【0082】
<ポリビニルアセタール樹脂(A)フィルムの作成>
バインダーとして、上記のようにして得られたポリビニルアセタール樹脂(A)を用い、上記ポリビニルアセタール樹脂(A)8部をN−メチルピロリドン(NMP)92部に溶解させ、溶液を作成した。かかる溶液は水を含まない。
この溶液をポリエチレンテレフタレートフィルム上に350μmのアプリケーターでキャストし、60℃、0.005MPa以下で減圧乾燥させることにより、膜厚25μmのフィルムを作成した。さらにかかるフィルムを120℃、0.005MPa以下で減圧乾燥させ、NMPを完全に除去してポリビニルアセタール樹脂(A)フィルムを得た。
かかるフィルムについて、上記(1)〜(5)の評価を行った。
【0083】
[比較例1]
<化学式(2)で示す構造単位を多く有するポリビニルアセタール樹脂の合成>
実施例1において、アセタール化反応の際にブチルアルデヒドを21.0部使用した以外は同様にして、ポリビニルアセタール樹脂(淡黄色固体)を得た。得られたポリビニルアセタール樹脂の化学式(1)で示す構造単位含有量は35モル%であり、化学式(2)で示す構造単位(R1が炭素数3のアルキル基である)のアセタール化度は65モル%であった。
かかるポリビニルアセタール樹脂を用いて、実施例1と同様にしてフィルムを作成した。かかるフィルムについて、上記(1)〜(5)の評価を行った。
評価結果を表1に示す。
【0084】
[比較例2]
<化学式(2)で示す構造単位を多く有するポリビニルアセタール樹脂の合成>
実施例1において、アセタール化反応の際にブチルアルデヒドを13.0部使用した以外は同様にして、ポリビニルアセタール樹脂(淡黄色固体)を得た。得られたポリビニルアセタール樹脂の化学式(1)で示す構造単位含有量は58モル%であり、化学式(2)で示す構造単位(R1が炭素数3のアルキル基である)のアセタール化度は42モル%であった。
かかるポリビニルアセタール樹脂を用いて、実施例1と同様にしてフィルムを作成した。かかるフィルムについて、上記(1)〜(5)の評価を行った。
評価結果を表1に示す。
【0085】
[表1]
【0086】
実施例1は本発明の電極用組成物を用いたものである。ジエチルカーボネートを電解液に用いた場合に、実施例1の膨潤度および溶出度は、アセタール化度が65モル%と非常に大きいポリビニルアセタール樹脂を用いた比較例1の約10%、アセタール化度が42モル%とやや大きいポリビニルアセタール樹脂を用いた比較例2の約25%にまで抑制され、非常に優れた結果となった。
また、実施例1においてジエチルカーボネートで膨潤したフィルムの弾性率は、比較例1の35倍、比較例2の14倍と高い結果となった。
【0087】
また、プロピレンカーボネートを電解液に用いた場合に、実施例1の膨潤度は、アセタール化度が65モル%と大きいポリビニルアセタール樹脂を用いた比較例1の約50%、アセタール化度が42モル%とやや大きいポリビニルアセタール樹脂を用いた比較例2の約75%にまで抑制され、溶出度についてはそれぞれ、約5%、約33%にまで抑制され、非常に優れた結果となった。
また、実施例1においてジエチルカーボネートで膨潤したフィルムの弾性率は、比較例1の約2倍、比較例2の1.7倍と高い結果となった。
【0088】
なお、本発明において得られる電極の性能を評価するに際し、電極すなわち活物質とバインダーが共存する状態を評価するよりも、バインダーそのものを評価するほうが、より高レベルな性能差を評価することが可能である。本発明のリチウムイオン二次電池電極用組成物は、得られる電極におけるバインダーそのものの溶出度、膨潤度、弾性率を評価することで、非常に優れた性能を有する電極が得られる電極用組成物であることが明らかにわかる。従って本発明のリチウムイオン二次電池電極用組成物を用いて得られる電極および該電極を用いたリチウムイオン二次電池は、長時間の安定使用が可能であり、充放電サイクルに伴う放電容量保持率が良好であることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のリチウムイオン二次電池電極用組成物が含むバインダーは、炭酸エステル系電解液に対する溶出度と膨潤度が低く、活物質と集電体に対して良好な接着性を示す。本発明のリチウムイオン二次電池電極用組成物は、良好な電池特性のリチウムイオン二次電池を得るためのリチウムイオン二次電池電極用組成物にとして有用である。