(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6292871
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】電力測定装置
(51)【国際特許分類】
G01R 21/133 20060101AFI20180305BHJP
G01R 19/00 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
G01R21/133 A
G01R19/00 A
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-270682(P2013-270682)
(22)【出願日】2013年12月27日
(65)【公開番号】特開2015-125079(P2015-125079A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2016年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596157780
【氏名又は名称】横河計測株式会社
(74)【上記1名の代理人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】柳生 浩
【審査官】
名取 乾治
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−131769(JP,A)
【文献】
特開平08−184616(JP,A)
【文献】
特開2000−009765(JP,A)
【文献】
特開2011−133256(JP,A)
【文献】
特開2000−338149(JP,A)
【文献】
米国特許第05017860(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 21/133
G01R 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
減衰量の異なる複数のアッテネータを有する電圧測定チャンネルおよび電流測定チャンネルと、各測定チャンネルにおいて入力された電圧または電流をデジタル信号に変換するA/D変換手段とを備える電力測定装置において、
FPGAで構成され、前記各測定チャンネルから出力される電圧および電流に基づいて電力を演算する演算部と、
測定レンジの切り替えに連動して前記アッテネータの減衰量を切り替えるレンジ設定部と、
このレンジ設定部のレンジ設定変更に連動して、前記A/D変換手段のサンプリングクロックのタイミングを遅延させる可変遅延手段とを備え、
前記レンジ設定部は、前記可変遅延手段に設定すべき遅延量として、各測定チャンネルにおける遅延差を補償するための補償値が設定されており、
前記可変遅延手段は、前記FPGAに内蔵されているPLLの位相シフト機能を使用することを特徴とする電力測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力測定装置に関し、詳しくは、測定精度の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
図4は、従来の電力測定装置の一例を示すブロック図である。
図4において、電力測定装置全体は、入力部10と、演算部20と、CPU部30とで構成されている。入力部10の出力信号は演算部20に入力され、演算部20はバスを介してCPU部30に接続されている。
【0003】
入力部10は、電圧入力部11と、電圧入力部11から出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器12と、電流入力部13と、電流入力部13から出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器14と、高電圧の測定時に電圧入力端子の外部に接続される分圧器15と、大電流の測定時に電流入力端子の外部に接続される分流器16とで構成されている。
【0004】
電圧入力部11は分圧抵抗11aと演算増幅器11bとで構成され、分圧抵抗11aの分圧出力は演算増幅器11bで正規化されてA/D変換器12に入力される。高電圧の測定時に電圧入力端子の外部に接続される分圧器15は、入力可能範囲を超える高電圧を入力可能範囲の電圧に変換する。
【0005】
電流入力部13は分流抵抗13aと演算増幅器13bとで構成され、分流抵抗13aの分流出力は演算増幅器13bで正規化されてA/D変換器14に入力される。大電流の測定時に電流入力端子の外部に接続される分流器16は、入力可能範囲を超える大電流を入力可能範囲の電流に変換する。これらA/D変換器12および14の出力は、演算部20に入力される。
【0006】
演算部20はFPGA(Field Programmable Gate Array)で構成されていて、複数系統の入力部10からA/D変換器12および14の出力が入力されている。
【0007】
演算部20には、各入力系統のA/D変換器12の出力に基づき電圧の瞬時値を演算する電圧演算部21、A/D変換器14の出力に基づき電流の瞬時値を演算する電流演算部22、A/D変換器12および14の出力に基づき電力の瞬時値を演算する電力演算部23、これら電圧演算部21と電流演算部22および電力演算部23で演算された瞬時値を格納する瞬時値格納部24、瞬時値格納部24に格納されている電圧値と電流値および電力値についてそれぞれ所定区間(たとえば50msec〜20sec)の平均値を演算する平均値演算部25、これら平均値演算部25で演算された平均値を格納する平均値格納部26が設けられている。平均値格納部26に格納されている平均値は、CPU31からの割り込みに応じてCPU部30の測定データ格納部34に転送格納される。
【0008】
また、演算部20には、CPU部30の電圧オフセット格納部36および電流オフセット格納部37に格納されている各入力系統の電圧オフセット値および電流オフセット値が転送格納されるオフセット格納部27が設けられている。このオフセット格納部27に転送格納される電圧オフセット値および電流オフセット値は、電圧演算部21および電流演算部22における瞬時値の演算に用いられる。
【0009】
さらに、演算部20には、複数系統の入力部10から入力されるデジタル信号に対してFFT演算を行って実数部と虚数部に分けるFFT演算部28も設けられている。
【0010】
これら入力部10および演算部20をたとえば3系統実装することにより、三相の各相を同時に並行して測定できる。
【0011】
CPU部30は、相互にバス接続されたCPU31、操作部32、表示部33などで構成されている。CPU31は、装置全体の動作を統括制御する。操作部32は、測定条件やオフセット処理条件などを設定入力する。表示部33は、測定条件、オフセット処理条件、測定結果などを表示する。
【0012】
さらにCPU部30には、測定データ格納部34、測定値演算部35、電圧オフセット格納部36、電流オフセット格納部37、オフセット処理部38などが設けられている。
【0013】
測定データ格納部34には、前述のように、CPU31からの割り込みに応じて、平均値格納部26に格納されている平均値が転送格納されるとともに、FFT演算部28で演算された実数部と虚数部のデータ、測定値演算部35における各種の演算結果なども格納される。
【0014】
測定値演算部35は、測定データ格納部34に転送格納される電圧値、電流値、電力値の平均値、実数部と虚数部のデータなどに基づいて、各種電力、力率、位相差、負荷回路の各種パラメータ、電圧・電流・有効電力の高調波含有率や全高調波歪などを演算し、これらの演算結果を測定データ格納部34に格納する。
【0015】
電圧オフセット格納部36には、電圧入力信号の変化に伴い行われる電圧測定レンジ変更時に、電圧入力端子の外部に接続される分圧器15の入力端子を短絡した状態で測定される各入力系統の電圧オフセット値が格納される。
【0016】
電流オフセット格納部37には、電流入力信号の変化に伴い行われる電流測定レンジ変更時に、電流入力端子の外部に接続される分流器16の入力端子を短絡した状態で測定される各入力系統の電流オフセット値が格納される。
【0017】
オフセット処理部38は、測定データ格納部34に転送格納される電圧値および電流値の平均値に対して、電圧オフセット格納部36に格納される電圧オフセット値および電流オフセット格納部37に格納される電流オフセット値に基づく電圧測定値および電流測定値の直流オフセット補償演算処理を行う。具体的には、電圧測定値の平均値から電圧オフセット値を差し引き、電流測定値の平均値から電流オフセット値を差し引く。
【0018】
なお、CPU部30には装置と外部装置との間で各種データの授受などを行うための通信部なども設けられるが図示しない。
【0019】
図5は、
図4の構成における高調波測定動作の流れを説明するフローチャートである。まず、高調波の測定開始に先立ち、測定条件を含む各種パラメータの設定が行われる(ステップS1)。
【0020】
高調波を測定するための測定系統の各種パラメータの設定が完了すると、操作部32に設けられている図示しない測定開始ボタンが押し下げられたか否かが判断される(ステップS2)。測定開始ボタンが押し下げられると入力信号に対する高調波測定が開始され、表示器33に測定された高調波の測定データが表示される(ステップS3)。
【0021】
高調波の測定データが表示されるごとに、操作部32に設けられている図示しない測定停止ボタンが押し下げられたか否かが判断される(ステップS4)。
【0022】
このようにして、高調波測定動作は、操作部32に設けられている図示しない測定停止ボタンの押し下げが検出されるまで繰り返して実行される。
【0023】
測定停止ボタンの押し下げが検出されるとステップS1まで戻り、次の測定を行うための各種パラメータ設定を待機する。
【0024】
なお、ステップS2において、測定開始ボタンが押し下げが検出されるまで、ステップS1への戻りを繰り返す。
【0025】
非特許文献1には、高調波測定を有し、三相インバータの効率を1台で測定できる電力測定装置の構成が記載されている。
【0026】
特許文献1には、入力生成部等で付加される位相に起因して発生する計測誤差を補償するように構成された電力計測装置が記載されている。
【0027】
図6は入力部が電圧測定機能と電流測定機能に分離して構成された従来の構成例を示すブロック図であり、電圧測定機能の例を示している。
図6において、アナログ入力信号の入力端子41には減衰量の異なる複数のアッテネータ42が接続されている。アッテネータ42の出力端子にはセレクタ43を介してアンプ44が接続され、アンプ44の出力端子にはA/D変換器45が接続されている。
【0028】
A/D変換器45は、アンプ44から出力されるアナログ信号を、クロック発生部46から出力されるサンプリングクロックの周期にしたがってデジタル信号に変換する。
【0029】
レンジ設定部46は、所定のレンジになるように、アッテネータ42の減衰量およびアンプ44のゲインを連動して切り替える。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0030】
【非特許文献1】岩瀬 久、伊東 修、橘 勝也、「プレシジョンパワーアナライザWT3000」、横河技報、横河電機株式会社、2005年1月20日、Vol.49 No.1(2005) p.17−20
【特許文献】
【0031】
【特許文献1】特開2000−338149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
ところで、電力計測における重要なパラメータとして、電圧と電流間の位相差がある。一般的には位相差は位相角(Deg)で表現されるが、測定器における位相差は、時間遅延に他ならない。電圧と電流を同時に計測して電力計測を行う電力測定装置において、電圧測定チャンネルと電流測定チャンネルとの間の遅延差をゼロにすることが、計測精度を高めるために必須である。
【0033】
位相差ゼロの信号を電力測定装置に入力することにより、位相差ゼロとして解析されることを期待するが、実際には、入力部10を構成するアッテネータ、アンプの特性、切り替え回路の経路長差などにより、電圧と電流のチャンネル間での遅延差が変わり、これが位相差誤差として計測精度に影響を及ぼすことになる。
【0034】
近年、インバータ制御技術の発達に伴い、従来の商用周波数よりも高い周波数での電力解析や、評価を行うことの要求が高まっている。高い周波数になると、測定系の伝搬遅延が位相差の誤差要因として影響することになり、その影響が無視できなくなる。
【0035】
そこで、たとえば回路配線配置で位相差が少なくなるように考慮するが、レンジ切り替えなど、測定条件によって遅延差が発生することになる。
【0036】
この遅延差をキャンセルするため、入力信号のレンジごとに遅延素子を切り替えて調整することが考えられるが、レンジが多数の場合には多種類の遅延素子が必要となる。さらに、切り替え回路なども必要になり、コスト増、信号品位の劣化なども予想される。
【0037】
また、アナログ入力信号がA/D変換器で変換されたデジタル信号をFIFOメモリなどにより遅延を調整することが考えられるが、A/D変換器のサンプリングクロック周期以下の遅延差をキャンセルすることはできない。
【0038】
本発明は、このような課題を解決するものであり、その目的は、電力計測において誤差要因となる電圧と電流の位相差、すなわち、入力遅延差を小さくすることにある。
【0039】
そして、測定対象のアナログ信号に対して外乱を与えることなく、サンプリング周期以下の分解能で位相差を最小にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0040】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
減衰量の異なる複数のアッテネータを有する電圧測定チャンネルおよび電流測定チャンネルと、各測定チャンネルにおいて入力された電圧または電流をデジタル信号に変換するA/D変換手段とを備える電力測定装置において、
FPGAで構成され、前記各測定チャンネルから出力される電圧および電流に基づいて電力を演算する演算部と、
測定レンジの切り替えに連動して前記アッテネータの減衰量を切り替えるレンジ設定部と、
このレンジ設定部のレンジ設定変更に連動して、前記A/D変換手段のサンプリングクロックのタイミングを
遅延させる可変遅延手段
とを備え、
前記レンジ設定部は、前記可変遅延手段に設定すべき遅延量として、各測定チャンネルにおける遅延差を補償するための補償値が設定されており、
前記可変遅延手段は、前記FPGAに内蔵されているPLLの位相シフト機能を使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0043】
これらにより、測定対象のアナログ信号に対して外乱を与えることなく、サンプリング周期以下の分解能で位相差を最小にすることができ、測定精度の向上が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図2】電圧と電流のチャンネル間における遅延差の一例を示す波形図である。
【
図3】電圧と電流のチャンネル間における位相差の説明図である。
【
図4】従来の電力測定装置の一例を示すブロック図である。
【
図5】
図4の構成における高調波測定動作の流れを説明するフローチャートである。
【
図6】従来の電圧測定機能の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
図1は本発明の一実施例を示すブロック図であり、
図6と共通する部分には同一の符号を付けている。
図1と
図6の相違点は、クロック発生部47の出力系統における可変遅延回路48の有無にある。
【0046】
図1のA/D変換器45のクロック端子の系統には、可変遅延回路48が設けられている。この可変遅延回路48は、クロック発生部47からA/D変換器45のクロック端子に入力されるクロック信号を、レンジ設定部46のレンジ設定変更に連動して、所定時間遅延させる。
【0047】
レンジ設定部46には、可変遅延回路48に設定すべき遅延量として、各測定チャンネルにおいてあらかじめ求めた電圧と電流のチャンネル間における遅延差を補償するための補償値が設定されている。
【0048】
そして、A/D変換器45のクロックの位相を可変遅延回路48の遅延量に応じて変化させることによりサンプリングのタイミングを変化させ、電圧と電流のチャンネル間における遅延差をキャンセルして位相差ゼロを実現する。
【0049】
このようなクロックの位相変化は、たとえばFPGAに内蔵されているPLLの位相シフト機能を使用することにより、容易にサンプリング周期以下の分解能で所望の値に設定できる。
【0050】
たとえば、電圧波形と電流波形がA/D変換器に入力される場合において、電流波形が遅れてA/D変換器に到達する場合には、その遅れ分に応じて電圧波形のサンプルタイミングを遅らせることにより、A/D変換器の出力データ間における遅れ分がキャンセルされることになる。
【0051】
図1に示した電圧測定機能の実施例の場合には、電流波形の遅れ分に応じてA/D変換器45のクロックの位相を可変遅延回路48の遅延量に応じて変化させることによりサンプリングのタイミングを変化させ、電圧と電流のチャンネル間における遅延差をキャンセルして位相差をゼロにする。
【0052】
図2は、電圧と電流のチャンネル間における遅延差の一例を示す波形図である。
図2において、電流波形Iは、電圧波形Vに対して10度の位相差で遅れている。
【0053】
そこで、電圧をサンプリングするクロックの位相を、電圧と電流のチャンネル間における位相差10度に応じて10度だけずらせる。これにより、
図3に示すように、電流波形Iと電圧波形Vは、同じ位相でサンプリングされることになる。
【0054】
なお、それぞれのレンジに対する遅延量は、通常、既知でかつ不変であることから、レンジ設定ごとに位相シフト量を適切に選ぶことで、常に、電圧波形と電流波形の位相差を最小にできる。
【0055】
また、上記実施例では電圧測定機能ブロックの例を示しているが、電力測定にあたっては電流測定機能ブロックも必要である。
【0056】
また、同様な構成のものを複数用意することにより、単相電力測定や多相電力測定にも適応できる。
【0057】
このような構成によれば、アナログ信号に手を加えることがないため、遅延素子などによる減衰や歪などの外部からの影響を受けることなくタイミング調整が可能となり、測定精度の向上が図れる。
【0058】
以上説明したように、本発明によれば、電力計測の誤差要因となる電圧と電流の位相差である入力遅延差を小さくすることができ、正確な電力測定結果が得られる電力測定装置が実現できる。
【符号の説明】
【0059】
41 端子41
42 アッテネータ
43 セレクタ
44 アンプ
45 A/D変換器
46 レンジ設定部
47 クロック発生部
48 可変遅延回路