特許第6292877号(P6292877)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6292877
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】光学ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/068 20060101AFI20180305BHJP
   C03B 5/225 20060101ALI20180305BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   C03C3/068
   C03B5/225
   G02B1/00
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-273451(P2013-273451)
(22)【出願日】2013年12月27日
(65)【公開番号】特開2015-127276(P2015-127276A)
(43)【公開日】2015年7月9日
【審査請求日】2016年11月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(72)【発明者】
【氏名】桃野 浄行
【審査官】 山田 貴之
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−518602(JP,A)
【文献】 特開2014−084235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00−14/00
C03B 5/225
G02B 1/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で、
La成分を20%以上60%以下、及び
成分を5%以上50%以下
含有し、
Sb成分を含有せず、
Pb化合物を実質的に含有せず、
1250℃におけるガラス融液の粘度η(単位dPa・s)が100以下であり、硫黄Sを1ppm以上300ppm未満含有していることを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
硫黄Sを10ppm以上含有していることを特徴とする請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
ガラス原料に硫酸塩を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
前記硫酸塩は、硫酸リチウム水和物(LiSO・HO)、硫酸ソーダ(NaSO)、硫酸カリウム(KSO)、硫酸マグネシウム(MgSO)、硫酸カルシウム水和物(CaSO・1/2HO)、硫酸ストロンチウム(SrSO)、硫酸亜鉛水和物(ZnSO・7HO)、硫酸ランタン水和物(La(SO・9HO)のうちから選ばれる1種であることを特徴とする請求項3に記載の光学ガラス。
【請求項5】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で、
Gd成分を0%以上30%以下、
成分を0%以上30%以下、
SiO成分を0%以上30%以下、
ZrO成分を0%以上10%以下、
TiO成分を0%以上30%以下、及び
Nb成分を0%以上30%以下
含有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の光学ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、特に、屈折率が高く低分散の光学ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学系を有する機器のデジタル化や高精細化が進んでおり、デジタルカメラ等の撮影機器や、プロジェクタ等の画像再生(投影)機器その他の各種光学機器の分野では、光学系で用いられるレンズ、プリズムその他の光学素子の枚数を削減し、光学系全体を軽量化及び小型化する要求が強まっている。
【0003】
このため、光学素子を作製する光学ガラスの中でも、特に、光学系全体の軽量化及び小型化を図ることが可能な、高い屈折率(n)と高いアッベ数(ν)を有する高屈折率低分散ガラスの需要が非常に高まっている。このような高屈折率低分散ガラスとして、ホウ酸−ランタン系の組成を有する光学ガラスが実用化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】再表2010/053214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、高屈折率低分散のホウ酸−ランタン系ガラスは、光学ガラス全般に比べて、清澄時間を長くとったり、清澄温度を極めて高くしないと十分な脱泡効果を得ることが難しいため、清澄性の優れた光学レンズを得ることが難しかった。
【0006】
これに対して、脱泡剤としてSb成分やAs成分を添加することが提案されていたが、Sb成分を添加すると、特に高屈折率のガラスにおいて、形成されるガラスが着色してしまうため、透過率の高い光学ガラスを得ることが難しいという問題があった。また、As成分は、環境上の規制等の観点から使用することが困難であった。
【0007】
そこで本発明は、Sb成分(アンチモン)の添加量を抑えつつ、脱泡を促進することのできる、高屈折率低分散の光学ガラスを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、所定量の硫黄成分を含有させることにより、As成分を用いることなく、かつ、Sb成分の使用量を大幅に削減しても十分な脱泡効果が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は、以下に述べる光学ガラスを提供するものである。
【0009】
(1)1250℃におけるガラス融液の粘度η(単位dPa・s)が100以下であり、硫黄Sを1ppm以上300ppm未満含有している光学ガラス。
【0010】
(2)硫黄Sを10ppm以上含有している(1)に記載の光学ガラス。
【0011】
(3)ガラス原料に硫酸塩を含む(1)又は(2)に記載の光学ガラス。
【0012】
(4)硫酸塩は、硫酸リチウム水和物(LiSO・HO)、硫酸ソーダ(NaSO)、硫酸カリウム(KSO)、硫酸マグネシウム(MgSO)、硫酸カルシウム水和物(CaSO・1/2HO)、硫酸ストロンチウム(SrSO)、硫酸亜鉛水和物(ZnSO・7HO)、硫酸ランタン水和物(La(SO・9HO)のうちから選ばれる1種である(3)に記載の光学ガラス。
【0013】
(5)酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で、
La成分を20%以上60%以下、
Gd成分を0%以上30%以下、
成分を0%以上30%以下、
成分を5%以上50%以下、
SiO成分を0%以上30%以下、
ZrO成分を0%以上10%以下、
TiO成分を0%以上30%以下、及び
Nb成分を0%以上30%以下
含有する(1)から(4)のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【0014】
(6)酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で、Sb成分が0.1%以下である(1)から(5)のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、所定量の硫黄成分を含有させることにより、As成分を用いることなく、かつ、Sbの使用量を大幅に削減しても十分な脱泡効果が得られ、これにより清澄性の優れた高屈折率低分散の光学ガラスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の光学ガラスは、1250℃におけるガラス融液の粘度η(単位dPa・s)が100以下であり、硫黄Sを1ppm以上300ppm未満含有している。ガラス原料として、例えば硫酸塩を用いて、硫黄Sを含有させることにより、Sb(アンチモン)の添加量を抑えつつ、脱泡を促進することのできる、高屈折率低分散の光学ガラスを得ることが可能となる。
【0017】
以下、本発明の光学ガラスの実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0018】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中において、各成分の含有率は特に断りがない場合は、全て酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%(wt%)で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩及び金属弗化物等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0019】
<含有量を抑えるべき成分について>
まず、本発明の光学ガラスにおいて含有量を抑えるべき成分について説明する。
Sb成分は、短波長の可視光に対するガラスの透過率を高める成分であるとともに、ガラスを溶融する際に脱泡効果を有する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。ここで、Sb成分の含有量を0.1%以下にすることで、特に高屈折率ガラスにおける着色を抑えることが可能となる。また、0.1%以下とすることにより、ガラス溶融時における過度の発泡が生じ難くなるため、Sb成分を溶解設備(特にPt等の貴金属)と合金化し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSb成分の含有量は、0.1%以下、好ましくは0.05%とする。
【0020】
なお、本明細書におけるSb成分の含有量は、ガラスに含まれるカチオン成分の全てと、それらカチオン成分の電荷に釣り合うだけの酸素と、が結合した酸化物によって本発明の光学ガラスが形成されていると仮定した上で、それら酸化物でできたガラスの全体の質量を100%として、Sb成分の含有量を質量%で表したもの(酸化物基準の質量に対する外割り質量%)である。
【0021】
<必須成分、任意成分について>
次に、本発明の光学ガラスとして好ましく用いられる、ガラスの必須成分及び任意成分について説明する。
【0022】
La成分は、ガラスの屈折率を高めるとともに、ガラスの化学的耐久性を向上する成分であり、本発明の光学ガラス中の必須成分である。特に、La成分の含有率を60%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めつつガラスの分散値(アッベ数)を大きくすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLa成分の含有率は、好ましくは60%を上限とし、より好ましくは58%、最も好ましくは55%を上限とする。一方、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLa成分の含有率は、好ましくは20%、より好ましくは25%、最も好ましくは30%を下限とする。La成分は、原料として例えばLa、La(NO・XHO(Xは任意の整数)等を用いてガラス内に含有できる。
【0023】
Gd成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、分散値(アッベ数)を大きくする成分であり、ガラス中の任意成分である。特に、Gd成分の含有率を30%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めつつ所望の光学数を得ることが可能である。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するGd成分の含有率は、好ましくは30%、より好ましくは20%、最も好ましくは15%を上限とする。一方、酸化物換算組成のガラス全質量に対するGd成分の含有率は、好ましくは0%超、より好ましくは3%、最も好ましくは5%を下限とする。Gd成分は、原料として例えばGd、GdF等を用いてガラス内に含有できる。
【0024】
成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、分散値(アッベ数)を大きくする成分であり、ガラス中の任意成分である。特に、Y成分の含有率を30%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めつつ所望の光学数を得ることが可能である。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するY成分の含有率は、好ましくは30%、より好ましくは20%、最も好ましくは15%を上限とする。一方、酸化物換算組成のガラス全質量に対するY成分の含有率は、好ましくは0%超、より好ましくは3%、最も好ましくは5%を下限とする。Y成分は、原料として例えばY、YF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0025】
成分は、安定なガラスの形成を促すことで耐失透性を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の必須成分である。特に、B成分の含有率を50%以下にすることで、B成分による屈折率の低下が抑えられるため、高屈折率を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するB成分の含有率は、好ましくは50%、より好ましくは45%、さらに好ましくは40%を上限とする。特に、屈折率および化学的耐久性に着目する場合、B成分の含有率は、35%を上限とする。一方、酸化物換算組成のガラス全質量に対するB成分の含有率は、好ましくは5%、より好ましくは10%、最も好ましくは15%を下限とする。B成分は、原料として例えばHBO、Na、Na・10HO、BPO等を用いてガラス内に含有できる。
【0026】
SiO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの着色を低減することで短波長の可視光に対する透過率を高めるとともに、安定なガラス形成を促すことでガラスの耐失透性を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、SiO成分の含有率を30%以下にすることで、SiO成分による屈折率の低下が抑えられるため、高屈折率を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSiO成分の含有率は、好ましくは30%、より好ましくは20%、最も好ましくは10%を上限とする。特に、短波長の可視光に対する透過率に着目する場合、SiO成分の含有率は、好ましくは2%を上限とする。一方、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSiO成分の含有率は、好ましくは0%超、より好ましくは1%、最も好ましくは3%を下限とする。SiO成分は、原料として例えばSiO、KSiF、NaSiF等を用いてガラス内に含有できる。
【0027】
ZrO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの着色を低減して短波長の可視光に対する透過率を高めるとともに、安定なガラス形成を促してガラスの耐失透性を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。一方で、ZrO成分の含有量を10.0%以下にすることで、ZrO成分の過剰な含有による失透を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するZrO成分の含有率は、好ましくは10%を上限とし、より好ましくは8%、最も好ましくは7%を上限とする。一方、酸化物換算組成のガラス全質量に対するZrO成分の含有率は、好ましくは0%超、より好ましくは1%、最も好ましくは3%を下限とする。ZrO成分は、原料として例えばZrO、ZrF等を用いてガラス内に含有できる。
【0028】
TiO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率及び分散値(アッベ数)を高め、且つガラスの化学的耐久性を高める成分であり、本発明の光学ガラスの任意成分である。特に、TiO成分を含むことで、高屈折率を得ることができ、且つ所望の分散値(アッベ数)を得ることができる。一方、TiO成分の含有率を30%以下にすることで、過剰な含有による失透を抑制し、かつ透過率の劣化を抑えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTiO成分の含有率は、好ましくは0%超を下限とする。ガラスの分散値(アッベ数)を特に高めることができる観点からも、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTiO成分の含有率は、好ましくは0%超、より好ましくは1%、最も好ましくは3%を下限とする。一方、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTiO成分の含有率は、好ましくは30%、より好ましくは20%、最も好ましくは10%を上限とする。TiO成分は、原料として例えばTiO等を用いてガラス内に含有できる。
【0029】
Nb成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率及び分散値(アッベ数)を高める成分であり、本発明の光学ガラスの任意成分である。特に、Nb成分を含ませることで、高屈折率を得ることができ、且つ所望の分散値(アッベ数)を得ることができる。一方、Nb成分の含有率を30%以下にすることで、ガラスの安定性を高めることで耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するNb成分の含有率は、好ましくは0%超、より好ましくは1%、最も好ましくは3%を下限とし、好ましくは30%、より好ましくは20%、最も好ましくは10%を上限とする。Nb成分は、原料として例えばNb等を用いてガラス内に含有できる。
【0030】
硫黄成分は、本発明の光学ガラスの必須成分であり、特に高屈折率のランタン系光学ガラスにおいて、ガラスを溶融する際に高い脱泡効果を発揮する。
硫黄成分は、例えば硫酸塩成分をガラス原料として添加することにより含有させることが好ましい。硫酸塩成分は、例えば、硫酸リチウム水和物(LiSO・HO)、硫酸ソーダ(NaSO)、硫酸カリウム(KSO)、硫酸マグネシウム(MgSO)、硫酸カルシウム水和物(CaSO・1/2HO)、硫酸ストロンチウム(SrSO)、硫酸亜鉛水和物(ZnSO・7HO)、硫酸ランタン水和物(La(SO・9HO)のうちから選ばれる1種である。
硫酸塩成分は、光学ガラス中に硫黄Sとして1ppm以上300ppm未満含有されるように添加することが好ましい。硫黄Sの含有量は、好ましくは1ppm、より好ましくは10ppm、さらに好ましくは20ppmを下限とする。また、硫黄Sの含有量は、好ましくは300ppm、より好ましくは150ppm、さらに好ましくは70ppmを上限とする。
【0031】
Al成分は、0%超含有する場合に、ガラスの化学的耐久性を向上しつつ、ガラス溶融時の粘度を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Al成分の含有率を10%以下にすることで、ガラスの溶融性を高めつつ、ガラスの失透傾向を弱めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するAl成分の含有率は、好ましくは10%、より好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限とする。Al成分は、原料として例えばAl、Al(OH)、AlF等を用いてガラス内に含有できる。
【0032】
Yb成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、分散値(アッベ数)を大きくする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Yb成分の含有量を15%以下にすることで、ガラスの所望の光学恒数が得易くなるとともに、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するYb成分の含有量は、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限とする。Yb成分は、原料として例えばYb等を用いてガラス内に含有することができる。
【0033】
Ta成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Ta成分の含有率を25%以下にすることで、ガラスを失透し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTa成分の含有率は、好ましくは25%、より好ましくは20%、さらに好ましくは15%を上限とする。特に、高価なTa成分を10.0%未満にすることで、ガラスの材料コストが低減されるため、より安価に光学ガラスを作製でき、これにより原料の熔解温度が低くなり、原料の熔解(溶解)に要するエネルギーが低減される。従って、光学ガラスの製造コストをも低減できる点では、Ta成分の含有量は、好ましくは10.0%未満、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とする。Ta成分は、原料として例えばTa等を用いてガラス内に含有できる。
【0034】
WO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を上げ、ガラスの分散値(アッベ数)を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、WO成分の含有率を20%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めるとともに、短波長の可視光に対するガラスの透過率の低下を抑えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するWO成分の含有率は、好ましくは20%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限とする。
【0035】
ZnO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの液相温度を下げ、且つガラスの耐失透性を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、ZnO成分の含有率を30%以下にすることで、高屈折率及び低分散を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するZnO成分の含有率は、好ましくは30%、より好ましくは20%、最も好ましくは10%を上限とする。ZnO成分は、原料として例えばZnO、ZnF等を用いてガラス内に含有できる。
【0036】
MgO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの液相温度を下げ、ガラスの耐失透性を高める任意成分であり、且つ、可視光に対する透過率を低下し難くする成分であり、ガラス中の任意成分である。特に、MgO成分の含有率を10%以下にすることで、高屈折率及び低分散を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するMgO成分の含有率は、好ましくは10%、より好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限とする。MgO成分は、原料として例えばMgCO、MgF等を用いてガラス内に含有できる。
【0037】
CaO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの液相温度を下げ、ガラスの耐失透性を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、CaO成分の含有率を10%以下にすることで、高屈折率及び低分散を得易くすることができ、且つガラスの耐失透性及び化学的耐久性の低下を抑えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するCaO成分の含有率は、好ましくは10%、より好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限とする。CaO成分は、原料として例えばCaCO、CaF等を用いてガラス内に含有できる。
【0038】
SrO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの液相温度を下げ、ガラスの耐失透性を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、SrO成分の含有率を10%以下にすることで、高屈折率及び低分散を得易くすることができ、且つガラスの耐失透性及び化学的耐久性の低下を抑えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSrO成分の含有率は、好ましくは10%、より好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限とする。SrO成分は、原料として例えばSr(NO、SrF等を用いてガラス内に含有できる。
【0039】
BaO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、ガラスの耐失透性を高める成分であり、且つ、可視光に対する透過率を低下し難くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、BaO成分の含有率を20%以下にすることで、高屈折率及び低分散を得易くすることができ、且つ耐失透性及び化学的耐久性の低下を抑えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するBaO成分の含有率は、好ましくは20%、より好ましくは10%、さらに好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限とする。BaO成分は、原料として例えばBaCO、Ba(NO、BaF等を用いてガラス内に含有できる。
【0040】
LiO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの溶解温度を下げる成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、LiO成分の含有率を10%以下にすることで、高屈折率を得易くすることができ、且つガラスの安定性を高めて失透等の発生を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLiO成分の含有率は、好ましくは10%、より好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限とする。LiO成分は、原料として例えばLiCO、LiNO、LiF等を用いてガラス内に含有できる。
【0041】
NaO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの溶解温度を下げる成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、NaO成分の含有率を10%以下にすることで、高屈折率を得易くすることができ、且つガラスの安定性を高めて失透等の発生を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するNaO成分の含有率は、好ましくは10%、より好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限とする。NaO成分は、原料として例えばNaCO、NaNO、NaF、NaSiF等を用いてガラス内に含有できる。
【0042】
O成分は、0%超含有する場合に、ガラスの溶解温度を下げる成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、KO成分の含有率を10%以下にすることで、高屈折率を得易くすることができ、且つガラスの安定性を高めて失透等の発生を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するKO成分の含有率は、好ましくは10%、より好ましくは5%、さらに好ましくは3%を上限とし、最も好ましくは含有しない。KO成分は、原料として例えばKCO、KNO、KF、KHF、KSiF等を用いてガラス内に含有できる。
【0043】
成分は、0%超含有する場合に、ガラス形成成分であり、且つガラスの溶解温度を下げる成分であり、本発明の光学ガラスの任意成分である。P成分の含有率を2%以下にすることで、高屈折率を得ることができる。従って、好ましくは2%、より好ましくは1%を上限とし、最も好ましくは含有しない。P成分は、原料として例えばAl(PO、Ca(PO、Ba(PO、BPO、HPO等を用いてガラス内に含有できる。
【0044】
F成分は、0%超含有する場合に、ガラスの脱泡性を高め、ガラスの溶融性を向上する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、F成分の含有率を2%以下とすることにより、ガラスの屈折率を低下し難くすることができ、脈理等の素地不良の発生を低減することができる。従って、酸化物換算組成におけるガラスの全質量に対するF成分の含有率は、各元素の一種又は二種以上の酸化物の一部又は全部と置換した弗化物のFとしての合計量で、好ましくは2%、より好ましくは1%を上限とし、最も好ましくは含有しない。なお、本発明の光学ガラスは、F成分を含有しなくとも所望の光学ガラスを得ることは可能であるが、F成分を含有することで、ガラスの脱泡性を高め、ガラスの溶融性を向上することができる。F成分は各種酸化物の導入において、原料形態を弗化物にて導入した際に、ガラス中に導入される。
【0045】
GeO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高めるとともに、安定なガラス形成を促すことでガラスの耐失透性を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、GeO成分の含有率を2%以下にすることで、ガラスの材料コストを低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するGeO成分の含有率は、好ましくは2%、より好ましくは1%を上限とし、最も好ましくは含有しない。GeO成分は、原料として例えばGeO等を用いてガラス内に含有できる。
【0046】
SnO成分は、0%超含有する場合に、脱泡剤として溶融ガラスを清澄すると共にガラス着色の原因となる上述のチタンイオン及びニオブイオンの還元を防ぐ効果を有する成分であり、本発明の光学ガラスの任意成分である。特に、SnO成分を含有させることで、上述の効果が得られ、しかもガラスの失透を生じ難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSnO成分の含有量は、好ましくは2%、より好ましくは1%を上限とし、最も好ましくは含有しない。SnO成分は、原料として例えばSnO、SnO、SnF、SnF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0047】
Ga成分は、0%超含有する場合に、ガラスの化学的耐久性を向上し、熔融ガラスの耐失透性を向上する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Ga成分の各々の含有量を2%以下にすることで、ガラスの失透傾向を弱めて、ガラスの安定性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するGa成分の各々の含有量は、好ましくは2%、より好ましくは1%を上限とし、最も好ましくは含有しない。Ga成分は、原料として例えばGa、Ga(OH)3等を用いてガラス内に含有することができる。
【0048】
Lu成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高めて分散を小さくする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。ここで、Lu成分の含有量を2%以下にすることで、ガラスを失透し難くすることができる。また、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLu成分の含有量は、好ましくは2%、より好ましくは1%を上限とし、最も好ましくは含有しない。Lu成分は、原料として例えばLu等を用いてガラス内に含有することができる。
【0049】
また、本発明の光学ガラスでは、酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で、
La成分を20%以上60%以下、
Gd成分を0%以上30%以下、
成分を0%以上30%以下、
成分を5%以上50%以下、
SiO成分を0%以上30%以下、
ZrO成分を0%以上10%以下、
TiO成分を0%以上30%以下、及び
Nb成分を0%以上30%以下
含有することが好ましい。
これにより、高屈折率及び低分散の光学ガラスが得られる。さらに、硫黄成分を含有させることにより、As成分を用いることなく、かつ、Sbの使用量を大幅に削減しても十分な脱泡効果が得られ、これにより清澄性の優れた高屈折率低分散の光学ガラスを提供することができる。
【0050】
<含有させるべきでない成分について>
次に、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない成分について説明する。
【0051】
本発明の光学ガラスには、他の成分を、本願発明のガラスの特性を損なわない範囲で、必要に応じて添加できる。
【0052】
ただし、Ti、Zr、Nb、W、La、Gd、Y、Yb及びLuを除く、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じる性質があるため、特に可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。
【0053】
さらに、PbO等の鉛化合物及びAs等のヒ素化合物、並びに、Th、Cd、Tl、Os、Be及びSeの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、不可避な混入を除き、これらを実質的に含有しないことが好ましい。これにより、光学ガラスに環境を汚染する物質が実質的に含まれなくなる。そのため、特別な環境対策上の措置を講じなくとも、この光学ガラスを製造し、加工し、及び廃棄できる。
【0054】
本発明のガラス組成物は、その組成が酸化物換算組成のガラス全物質量に対する質量%で表されているため直接的にモル%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たすガラス組成物中に存在する各成分のモル%表示による組成は、酸化物換算組成で概ね以下の値をとる。
成分 13.0〜64.0モル%
La成分 10.0〜25.0モル%
成分 0〜10モル%
Gd成分 0〜10モル%
Yb成分 0〜10モル%
Lu成分 0〜10モル%
ZrO成分 0〜9.0モル%
WO成分 0〜13.0モル%
TiO成分 0〜43モル%
Nb成分 0〜10モル%
ZnO成分 0〜30モル%
Ta成分 0〜30モル%
SiO成分 0〜25%
LiO成分 0〜15.0モル%
NaO成分 0〜10モル%
O成分 0〜20モル%
MgO成分 0〜20モル%
CaO成分 0〜20モル%
SrO成分 0〜20モル%
BaO成分 0〜20モル%
GeO成分 0〜10モル%
成分 0〜10モル%
Al成分 0〜10モル%
Ga成分 0〜10モル%
Sb成分 0〜1モル%
SnO成分 0%〜1.0モル%
さらに、上記各金属元素の1種又は2種以上の酸化物の一部又は全部と置換した弗化物のFとしての合計量 0〜1.0モル%
【0055】
[光学ガラスの物性]
本発明の光学ガラスは、1250°Cにおけるガラス融液の粘度η(単位dPa・s)が100以下になっている。粘度ηは、本発明の光学ガラスにおいて、好ましくは100、より好ましくは10、さらに好ましくは4.17を上限とし、好ましくは1.12、より好ましくは1.20、さらに好ましくは1.29を下限とする。
また、本発明の光学ガラスは、高い屈折率(n)を有するとともに、低い分散を有する。特に、本発明の光学ガラスの屈折率(n)は、好ましくは1.6、より好ましくは1.7、最も好ましくは1.75を下限とし、好ましくは2.1、より好ましくは2.0、最も好ましくは1.9を上限とする。
また、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)は、好ましくは20、より好ましくは30、最も好ましくは40を下限とし、好ましくは60、より好ましくは50、最も好ましくは45を上限とする。これらにより、光学設計の自由度が広がり、更に素子の薄型化を図っても大きな光の屈折量を得ることができる。
【0056】
本発明の光学ガラスは、屈折率(nd)が1.85未満でのガラスの透過率で表すと、厚み10mmのサンプルで分光透過率80%を示す波長(λ80)が480nm以下であり、より好ましくは450nm以下であり、最も好ましくは400nm以下である。また、分光透過率70%を示す波長(λ70)が450nm以下であり、より好ましくは420nm以下であり、さらに好ましくは400nm以下であり、最も好ましくは380nm以下である。
【0057】
また、屈折率(nd)が1.85以上でのガラスの透過率で表すと、厚み10mmのサンプルで分光透過率80%を示す波長(λ80)が700nm以下であり、より好ましくは600nm以下であり、さらに好ましくは400nm以下であり、最も好ましくは450nm以下である。また、分光透過率70%を示す波長(λ70)が550nm以下であり、より好ましくは450nm以下であり、さらに好ましくは400nm以下であり、最も好ましくは380nm以下である。
【0058】
また、本発明の光学ガラスにおける、厚み10mmのサンプルで分光透過率5%を示す最も短い波長(λ)は、好ましくは400nm、より好ましくは380nm、さらに好ましくは360nm、さらに好ましくは340nmを上限とする。
これにより、可視域におけるガラスの透明性が高められるため、この光学ガラスをレンズ等の光学素子の材料として用いることができる。なお、本発明では、ガラス材料を溶融して徐冷した後に熱処理を行ったガラスが上述の透過率を有していてもよいが、熱処理を行ってガラスの着色を抑える必要が無くなる観点から、熱処理を行う前のガラスの透過率が上述の透過率を有することがより好ましい。
【0059】
[ガラス成形体の製造方法]
本発明の光学ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、まず、上記ガラス原料を各成分が所定の含有率の範囲内になるように溶融槽で均一に混合し、作製した混合物を坩堝等に投入して粗溶融した後、1000〜1250℃の温度範囲で溶融してガラス融液とする(溶融工程)。次に、溶融工程で得られたガラス融液を冷却させずにそのまま清澄させる(清澄工程)。その後、清澄工程で清澄した溶融ガラスを攪拌して均質化して泡切れ等を行う(均質化工程)。さらに、均質化した溶融ガラスを適当な温度に下げてから金型に鋳込み、徐冷する。ここで、坩堝は、例えば、白金、白金合金、金、石英、アルミナ、イリジウムを用いることができ、ガラス原料・工程等に応じて選択することができる。
【0060】
また、上記工程に先立って、カレットを作製する一次溶解工程を行うこともできる。一次溶解工程は、ガラス原料を溶融する工程と、この工程で溶融したガラスを冷却する冷却工程を有する。
【0061】
このように作製した光学ガラスから光学素子を作成する手段は、リヒートプレスした後に研削及び研磨する方法、或いはプリフォームを作成してモールドプレスを行う方法を用いることができる。
【0062】
[光学素子の作製]
本発明の光学ガラスは、様々な光学素子及び光学設計に有用であるが、その中でも特に、本発明の光学ガラスに対してプレス成形を行って、レンズ、プリズム及びミラー等の光学素子を作製することが好ましい。これにより、得られる光学素子を、カメラ及びプロジェクタ等のような、可視光を透過させる光学機器に用いたときに、高精細で高精度な結像特性を実現しつつ、これら光学機器における光学系の小型化を図ることができる。
【実施例】
【0063】
本発明の実施例(No.1〜No.23)及び比較例の組成(質量%)、並びに、屈折率(n)、アッベ数(ν)、分光透過率が80%、70%及び5%を示す波長(λ80、λ70、λ)の結果、比重d、液相温度(°C)、1250°Cでの粘性(粘度)η(単位dPa・s)、ガラス中の硫黄Sの量(ppm)、及び、ガラス中の泡(気泡)の数(個/100g)を表1〜表3に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみ限定されるものではない。
【0064】
本発明の実施例(No.1〜No.23)の光学ガラス及び比較例のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度原料を選定し、表1〜表3に示した各実施例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1000〜1250℃の温度範囲で溶融し、攪拌均質化してから金型に鋳込み、試験片を作製した。
【0065】
ここで、実施例(No.1〜No.23)及び比較例のガラスの屈折率(n)及びアッベ数(ν)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS01―2003に基づいて測定した。なお、本測定では徐冷降温速度を−25℃/hrにして得られたガラスについて測定を行うことで求めた。
【0066】
また、実施例(No.1〜No.23)及び比較例のガラスの透過率は、日本光学硝子工業会規格JOGIS02に準じて測定した。なお、本発明においては、ガラスの透過率を測定することで、ガラスの着色の有無と程度を求めた。具体的には、ガラスバルク材を、対面を平行に研磨した厚さ10±0.1mmの試料とし、アニール後すみやかにJOGIS02−1975に規定される方法で光線透過率(分光透過率)λ80(透過率80%時の波長)、λ70(透過率70%時の波長)、λ(透過率5%時の波長)を求めた。
【0067】
実施例(No.1〜No.23)及び比較例のガラス中の泡の数は、日本光学硝子工業会規格JOGIS12−1994「光学ガラスの泡の測定方法」に基づいて行った。
【0068】
実施例(No.1〜No.23)及び比較例のガラス中の硫黄Sの量(ppm)は、ICP発光分析(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析)によって測定した。
【0069】
実施例(No.1〜No.23)及び比較例のガラスの粘度ηは、球引上げ式粘度計(有限会社オプト企業製BVM−13LH)を用いて測定した。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
表1〜表3に表されるように、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも屈折率(n)が1.6以上、より詳細には1.73以上であるとともに、この屈折率(n)は2.1以下、より詳細には2.06以下であり、所望の範囲内であった。一方、比較例のガラスの屈折率(n)は、1.9951であった。このため、本発明の実施例の光学ガラスは、比較例と同等の高い屈折率(n)が得られることが明らかになった。
【0074】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもアッベ数(ν)が20以上、より詳細には24.4以上であるとともに、このアッベ数(ν)は60以下、より詳細には53.94以下であり、所望の範囲内であった。一方で、比較例のガラスも、アッベ数(ν)は27.7であった。このため、本発明の実施例の光学ガラスは、比較例と同等の高いアッベ数(ν)が得られることが明らかになった。
【0075】
表1〜表3に表されるように、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも、λ80(透過率80%時の波長)が674nm以下であった。一方で、比較例のガラスは、λ80が700nmより大きかった。このため、本発明の実施例の光学ガラスは、比較例のガラスに比べて着色し難いことが明らかになった。
【0076】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも粘度η(単位dPa・s)が100以下、より詳細には4.17以下であるとともに、1.12以上、より詳細には1.29以上であった。一方、比較例のガラスは、粘度η(単位dPa・s)が3.1であった。このため、本発明の実施例の光学ガラスは、比較例と同等の低い粘性を有することが明確になった。
【0077】
表1〜表3に示すように、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも硫黄Sの量が300ppm以下、より詳細には70ppm以下であるとともに、1ppm以上、より詳細には20ppm以上であった。一方、比較例のガラスは、硫黄Sの量は10ppm未満であった。このため、本発明の実施例の光学ガラスは、比較例のガラスに比べて硫黄Sの含有量が多いことが明確になった。
【0078】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも泡数が5(個/100g)以下であった。これに対して、比較例のガラスは、泡数が約500(個/100g)であった。このため、本発明の実施例の光学ガラスは、比較例のガラスに比べて泡が十分に除去されており、脱泡効果が高いことが明確になった。
【0079】
従って、本発明の実施例の光学ガラスは、硫黄Sを所定量含有させることによって、所望の高透過率及び低分散を有しながらも、着色し難く、脱泡効果が高いことが明らかになった。
【0080】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。