(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記不陸調整板は、前記構成部材の前記平坦面に接着され、該不陸調整板の板厚と接着剤の塗布厚との総厚が、前記組み合わされた2つの構成部材の平坦面からなる前記段差と等しい又は略等しい、ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の骨組構造。
前記不陸調整板取付工程では、前記不陸調整板を前記構成部材の前記平坦面に接着し、該不陸調整板の板厚と接着剤の塗布厚との総厚が、前記組み合わされた2つの構成部材の平坦面からなる前記段差と等しく又は略等しくなるように、該接着剤を塗布する、ことを特徴とする請求項4記載の骨組構造の補強方法。
【背景技術】
【0002】
我が国は地震が頻発する国として知られ、近年では、東北地方太平洋沖地震や、兵庫県南部地震、新潟県中越地震など大きな地震が発生し、そのたびに様々な施設で甚大な被害を被ってきた。例えば工場などの生産施設は、地震による被害を受けると生産機能が停止し、機能を回復するまで関連する企業も含め大きな影響を受けることとなる。
【0003】
このような生産施設の建物では、一般的に、H形鋼や鋼管など鉄骨を主体とするいわゆる鉄骨構造で構築されている。
図8(a)は、代表的な鉄骨構造の一部を示す側面図であり、この図に示すように鉄骨構造は、床面FLから立ち上がる柱材Pと梁材Bからなるのが基本構造である。
【0004】
この基本構造には、耐震などの目的から補強材が設置されることがある。補強材の代表例として
図8(a)に示すような斜材Cを挙げることができる。斜材Cは、山形鋼や溝形鋼、H形鋼、鋼管あるいは鋼棒などが用いられることが多く、これを配置することによって柱材Pと梁材Bで構成される骨組構造が補強され、その結果、外力に対してより強く抵抗できる。補強材の他例としては、方杖材を挙げることができる。柱材PがH形鋼のように方向性を持つ部材である場合、斜材Cが柱材Pの弱軸方向を補強するのに対して、方杖材は柱材Pの強軸方向を補強する部材である。方杖材には、斜材Cと同様、山形鋼や溝形鋼などが用いられる。
【0005】
従来の斜材Cは、
図8(a)に一例を示すように、対角状に配置(斜方向に配置する場合もある)されるとともに、その端部が柱材Pと梁材Bからなる隅角部に固定されていた。
図8(b)は、斜材Cの端部を固定した詳細を示す図である。この図に示すように、隅角部にはガセットプレートGpが溶接固定され、このガセットプレートGpに斜材Cの端部がボルト固定される。一方、方杖材の場合は、柱材Pや梁材Bの表面に溶接固定されたガセットプレートGpに、方杖材の端部がボルト固定される。このように、従来の方法によれば斜材Cや方杖材を設置するため溶接作業を必要としていた。
【0006】
斜材Cや方杖材は、あらかじめ柱材Pや梁材Bと同時に設置される場合もあるが、供用中の鉄骨造建物を補強する目的で事後的に設置されることもある。事後的に斜材Cや方杖材を設置する場合、その設置作業に欠かせない溶接作業が問題になることがある。すなわち、溶接作業は火気を伴うため、供用中の鉄骨造建物内(以下、単に「室内」という。)に引火しやすい物を保管しているなど、火気を敬遠している場合にはこの溶接作業を行うことができない。また、稼働中の生産施設である場合、生産工程に影響を及ぼすためやはり溶接作業は避ける方が良い。さらに、既存の鉄骨構造が溶接に不向きな部材で構成されている場合、溶接できないため斜材Cや方杖材を設置することは困難となる。なお溶接に不向きな部材とは、例えば、溶接時の熱に耐えられない薄肉部材などである。
【0007】
そこで特許文献1では溶接作業に伴う難点を解消すべく、溶接を必要としない鉄骨構造の補強技術を提案している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1は、ガセットプレートGpを柱材Pや梁材Bの表面に接着することで溶接作業を不要とし、また、剥離防止手段を具備することで接着の弱点である剥離を防止している。
図9は、特許文献1に示す発明の一例を示す部分詳細図である。特許文献1の発明を採用すれば、稼働中の生産施設の鉄骨構造や、溶接に不向きな部材で構成されている鉄骨構造であっても、事後的に斜材Cや方杖材で補強することができる。
【0010】
ところで特許文献1の発明は、柱材Pや梁材Bの表面にガセットプレートGpを接着するため、柱材Pや梁材Bの表面(特に接着する面)が平坦面であることが望ましい。例えばH形鋼のフランジ表面や角形鋼管の表面などは、ガセットプレートGpの接着に適している。しかしながら、表面が平坦面であるH形鋼や角形鋼管がそのまま柱材Pや梁材Bとして利用される場合に限らず、複数の部材を組み合わせて柱材Pや梁材Bを構成することもあり、このような柱材Pや梁材Bの表面には段差が生じるケースがある。
【0011】
図2は、山形鋼を組み合わせた柱材Pを示す斜視図である。この図に示す柱材Pは、鋼板(プレート)の両端それぞれを2本一組の山形鋼で挟み、山形鋼とプレートを貫通するボルトで固定したものである。この柱材PにおけるH形鋼フランジに相当する表面は、2本一組の山形鋼で形成され、本来は平坦面となるはずであるが、ボルト孔の位置精度によっては2本の山形鋼の間に相当の段差を生じることがある。段差がある状態でガセットプレートGpを接着するとなると、他方よりも奥まった山形鋼の表面にはその段差分だけ厚く接着剤が塗布されることとなる。厚く塗布された接着剤はその状態を維持し難く(いわゆる「ダレやすく」)接着作業の施工性に劣るうえ、接着強度も低下する傾向にある。したがって、このような柱材Pに特許文献1の発明を採用することは難しく、溶接作業を必要とする従来技術の問題を適切に解決することができない。
【0012】
本願発明の課題は、従来の問題を解決することであり、すなわち、斜材や方杖材の設置の際に溶接作業を必要とせず、しかも柱材や梁材の表面に段差を生じていても採用可能である、骨組構造、及び骨組構造の補強方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明は、接着によってガセットプレートを柱材又は梁材(以下、「柱材等」という。)に取り付けるとともに、ガセットプレートの剥離防止も図り、さらに柱材等の表面に生じた段差をあらかじめ解消しておく、という発想に基づいて行われたものである。
【0014】
本願発明の骨組構造は、少なくとも柱材と梁材と補強材を含む構造である。柱材等には接合部が設けられており、補強材の一端(又は両端)はこの接合部に連結される。接合部が設けられる柱材等は、平坦面を有する複数の構成部材を含み、このうち少なくとも2つの構成部材の平坦面が段差を生じて略平行(平行含む)となるよう組み合わされたものである。接合部は、不陸調整板と、補強材を連結するためのガセットプレートと、剥離防止手段を備えており、このうち不陸調整板は、組み合わされた2つの構成部材のうち一方の構成部材の平坦面に取り付けられ、不陸調整板と他方の構成部材の平坦面によって略同一平面(同一平面含む)からなる「接着面」を形成する。そしてこの接着面に、ガセットプレートは接着固定され、離防止手段は、ガセットプレートと対向プレートによって構成部材の一部を挟持し、その状態でガセットプレートと対向プレートがボルト固定される。
【0015】
本願発明の骨組構造は、接合部が設けられる柱材等を、山形鋼又は溝形鋼を用いたものとすることもできる。この場合、接合部が設けられる柱材等は、山形鋼又は溝形鋼からなる構成部材と、中央プレート又はラチス材を含み、中央プレート又はラチス材の端部を少なくとも2つの構成部材で挟持して(あるいは中央プレートやラチス材の端部を一つの山形鋼に重ね合わせて)固定した構成である。
【0016】
本願発明の骨組構造は、不陸調整板と構成部材の平坦面によって形成される接着面を略同一平面(同一平面含む)とするため、適切な厚さの接着剤を塗布したものとすることもできる。この場合、不陸調整板の板厚と接着剤の塗布厚との総厚が、組み合わされた2つの構成部材の平坦面からなる段差と略等厚(等厚含む)となるように接着剤を塗布する。
【0017】
本願発明の骨組構造の補強方法は、少なくとも柱材と梁材を含む骨組構造を補強する方法であり、接合部を柱材等に設置する工程(接合部設置工程)と、接合部のうちガセットプレートに補強材の一端(又は両端)を連結する工程(補強材連結工程)を備えている。なお、接合部を設置する柱材等は、平坦面を有する複数の構成部材を含むとともに、少なくとも2つの構成部材の平坦面が段差を生じて略平行(平行含む)となるよう組み合わされたものである。接合部設置工程は、不陸調整板取付工程と、ガセットプレート接着工程と、剥離防止工程を有しており、このうち不陸調整板取付工程では、組み合わされた2つの構成部材のうち一方の構成部材の平坦面に不陸調整板を取り付け、この不陸調整板と他方の構成部材の平坦面によって略同一平面(同一平面含む)からなる接着面を形成する。また、ガセットプレート接着工程では、柱材等の接着面にガセットプレートを接着し、剥離防止工程では、ガセットプレートと対向プレートによって構成部材の一部を挟むように対向プレートを配置するとともに、これらガセットプレートと対向プレートをボルトで締め付ける。
【0018】
本願発明の骨組構造の補強方法は、不陸調整板と構成部材の平坦面によって形成される接着面を略同一平面(同一平面含む)とするため、適切な厚さの接着剤を塗布する方法とすることもできる。この場合の不陸調整板取付工程では、不陸調整板の板厚と接着剤の塗布厚との総厚が、組み合わされた2つの構成部材の平坦面からなる段差と略等厚(等厚含む)となるように接着剤を塗布する。
【発明の効果】
【0019】
本願発明の「骨組構造、及び骨組構造の補強方法」には、次のような効果がある。
(1)補強材を設置するので、柱材と梁材のみの骨組構造に比して、高い強度の構造が得られる。その結果、地震等の外力に対する抵抗力が向上し、より安心して鉄骨造建物等を利用することができる。
(2)溶接作業を必要としないので火災の心配がなく、あらゆる鉄骨造建物等に採用することができる。例えば、引火しやすい物を保管している倉庫や、薬品を取り扱う施設などにも採用することができる。
(3)また、溶接作業を必要としないので室内へ与える影響が小さく、対象が生産施設などの場合、継続して生産活動を行うことができる。
(4)剥離防止手段を備えているので、面外方向の外力によってガセットプレートが剥離するのを防止することができる。
(5)柱材や梁材の表面に段差がある場合でも、接着剤を厚く(例えば段差を埋める厚さ)塗布する必要がない。したがって、塗布する際に接着剤がダレにくいことから接着作業が容易となり、また適切な厚さ(例えば3mm以内)で接着剤を塗布できるので所定の強度を十分発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本願発明の骨組構造、及び骨組構造の補強方法の例を図に基づいて説明する。
【0022】
1.全体概要
図1は、本願発明の骨組構造の一例を示す側面図であり、(a)は斜材31を設置した場合、(b)は方杖材32を設置した場合の側面図である。この骨組構造は、オフィスビルや工場施設といった建造物を構成する主要構造の一部であり、柱材10、梁材20、そして斜材31や方杖材32といった補強材30によって形成される。
図1に示すように、2本の柱材10は床面FLから略鉛直に立ち上げられ、梁材20は床面から離れた位置で略水平に配置され、補強材30は柱材10と梁材20からなるフレーム内(面内)に対角状あるいは斜方向に設置される。
【0023】
2本の柱材10の間隔や床面FLから梁材20までの高さは、対象となる建造物に応じて適宜設計することができるが、通常の生産施設の場合、柱材10の間隔として5〜6m、梁材20の設置高さとして3〜4mを例示することができる。
図1は、あくまで本願発明を示す一例であって、本願発明の技術的特徴を備えていれば、この図に限らずあらゆる配置が本願発明に含まれる。
【0024】
補強材30(斜材31や方杖材32)は、建造物の建設時から柱材10や梁材20とともに設置することもできるが、既に供用している建造物を補強する目的で事後的に設置することもできる。いずれにしろこの補強材30の端部は、
図1に示すように、柱材10や梁材20の表面に接着固定されたガセットプレート41にボルトで固定される。なお、ガセットプレート41が接着される柱材10や梁材20は、山形鋼や溝形鋼など(以下、「構成部材11」という。)を組み合わせたものであり、例えば
図2に示すように中央プレート12の両端それぞれを2本一組の山形鋼11a(構成部材11)で挟み、この山形鋼11aと中央プレート12を貫通するボルト13で固定して形成される。
【0025】
複数の構成部材11からなる柱材10や梁材20は、複数の構成部材11の平坦面を略平行に配置した合成面を有しており、この合成面は例えばH形鋼のフランジに相当するものでガセットプレート41が接着される面となる。なお、この合成面は本来一様な平面となるはずであるが、製作精度によっては構成部材11の平坦面どうしにずれが生じ、つまり合成面に相当の段差が設けられる。段差がある状態でガセットプレート41を接着すると、既述のとおり種々の問題があることから、この段差を解消すべく他方よりも奥まった構成部材11の平坦面には不陸調整板が設置される。この不陸調整板と、他方の構成部材11(不陸調整板が設置されていない構成部材11)の平坦面によって、略一様な平坦面が形成され、これを接着面としてガセットプレート41が接着される。
【0026】
以下、本願発明を構成する主要な要素ごとに詳述する。
【0027】
2.柱材
柱材10は、鉛直及び水平荷重による曲げモーメント、せん断力や軸力に対して抵抗する部材であり、梁材20を支持する支点としての働きもある。既述のとおり、少なくともガセットプレート41が接着される柱材10は、構成部材11を組み合わせたものであり、
図2の斜視図に示す構成となる。つまり、H形鋼の腹板(ウェブ)に相当する中央プレート12を鉛直方向に配置し、その両端をそれぞれ2本1組の山形鋼11a(構成部材11)で挟み込み(あるいは、一つの山形鋼11aに中央プレート12を重ね合わせて)、さらに2本の山形鋼11aと中央プレート12にボルト13を挿通して締め付けて柱材10は形成され、床面に敷かれた台座プレート上に設置される。なお、2組の山形鋼11aの間に、中央プレート12に沿うように補強用の山形鋼14が一般的に設置されている。
【0028】
図2に示すように、2本を1組とする山形鋼11aは双方の平坦面が略平行(平行含む)に組み合わされ、これら2つの平坦面によって合成面が形成される。この合成面は、H形鋼のフランジに相当するが、一様な平面ではなく、双方の平坦面の間には段差が生じている。
図3(a)は、柱材10の構成部材11が山形鋼11aである場合の断面図である。この図の例では、左側の山形鋼11aの平坦面に比べると、右側の山形鋼11aの平坦面の方が奥まって(部材断面の中心側に)配置され、双方の平坦面には段差があることが分かる。また
図3(b)は、柱材10の構成部材11が溝形鋼11cである場合の断面図であり、この場合も左側に比べ右側の溝形鋼11cの平坦面の方が奥まって配置されているため、双方の平坦面には段差が生じている。
【0029】
3.梁材
梁材20は、おもに鉛直荷重による曲げモーメントやせん断力に対して抵抗する部材である。柱材10と同様、少なくともガセットプレート41が接着される梁材20は、構成部材11を組み合わせたものであり、2本を1組とする山形鋼11a(あるいは溝形鋼11c)の平坦面からなる合成面には、やはり段差が生じている。
【0030】
4.補強材
補強材30は、柱材10と梁材20で構成される骨組架構を補強するもので、具体的には斜材31や方杖材32といった部材である。
図1(a)に示す補強材30は、主軸(柱材10の軸と梁材20の軸からなる)に対して角度をもって配置されることから斜材あるいはブレース材とも呼ばれる。一方、
図1(b)に示す補強材30は、梁材20を下方から支持して補強するもので、方杖材と呼ばれる。補強材30は、おもに軸引張力や軸圧縮力が作用することから、部材軸方向に相当の強度を有する部材が用いられ、例えば、溝形鋼や山形鋼あるいは鋼棒などが例示できるが、そのほかH形鋼や鋼管など種々の部材を使用することができる。なお、補強材30として鋼棒を使用する場合、部材途中にターンバックルを設け、長さ調整を可能にすることもできる。
【0031】
通常、斜材31は支柱10又は梁材20(以下、「柱材10等」という。)の弱軸方向を補強するよう配置される。すなわち斜材31は、柱材10及び梁材20で構成される「架構面」に設置されるが、この「架構面」の面内方向は支柱10等の弱軸方向と一致する。なお、構成部材11を組み合わせた支柱10等の場合、既述のとおり合成面がH形鋼のフランジに相当し、中央プレート12がウェブに相当することから、中央プレート12の面方向が支柱10等の強軸方向、これと直交するのが弱軸方向となる。また、方杖材32は通常支柱10等の強軸方向を補強するよう配置される。すなわち方杖材32は、柱材10及び梁材20で構成される「架構面」に設置されるが、この「架構面」の面内方向は支柱10等の強軸方向と一致する。
【0032】
5.接合部
図4〜
図7は補強材30を柱材10等に取り付けるための接合部40を示す詳細図である。この接合部40は、
図4に示すように、少なくとも不陸調整板42と、ガセットプレート41、剥離防止手段で構成される。なお、
図4〜
図7は接合部40が柱材10に設けられた場合を示しているが、これに限らず接合部40を梁材20に設けることもできる。例えば、水平方向に配置した斜材31(いわゆる水平ブレース)を梁材20間に取り付けることができ、具体的には、斜材31の一端を梁材20に設けられた斜材用の接合部40に取り付け、斜材31の他端を他の梁材20の斜材用の接合部40に取り付ける。以下、接合部40を構成する部材ごとに詳しく説明する。
【0033】
(不陸調整板)
図5は、不陸調整板42を取り付けた状態を示す図であり、(a)はその斜視図、(b)はその断面図である。この図に示すように不陸調整板42は、構成部材11を組み合わせた柱材10等のうち合成面に生じた段差を埋めるもので、他方よりも奥まった構成部材11の平坦面に設置される。この不陸調整板42を設置することで、他方の構成部材11の平坦面、及びこの不陸調整板42によって、略一様な平坦面である「接着面」が形成される。
【0034】
不陸調整板42は、片面に接着剤が塗布されて柱材10等の表面に貼り付けられる。この場合、不陸調整板42の片面全体に接着剤を塗布することもできるが、設計上必要な面積に塗布することができれば当該片面のうち一部にのみ接着剤を塗布してもよい。また、接着剤の塗布厚も適宜設計により定めることができるが、鉛直面に塗布することからできる限り薄く塗布することが望ましく、3mm以内の塗布厚とするのがより好ましい。なお、不陸調整板42が段差を解消するためのものであることから、
図5(b)に示すように、不陸調整板42の板厚と接着剤の塗布厚との総厚が、当該段差と略等しい(等しい場合を含む)寸法となるよう設計することが望ましい。つまり、1組の構成部材11の平坦面からなる合成面に生じた段差と、不陸調整板42の板厚との差が3mm以内となるよう設計し、この差の分だけ接着剤を塗布すると好適である。
【0035】
柱材10等の表面に不陸調整板42を貼り付ける際、ショットブラストやワイヤーブラシ等により柱材10等の表面と不陸調整板42の貼付面を凹凸に仕上げると、より堅固に接着できるため好適となる。このときの表面粗さの目安としては、Rz(十点平均粗さ)30以上とするのが好ましい。
【0036】
ここで使用する接着剤は、従来から用いられているものの中から任意に選択できるが、垂直面に塗布してもその状態を維持しやすい(いわゆる「ダレない」)ものが望ましく、例えば二液混合形のエポキシ系接着剤を示すことができる。また、24時間以内に硬化する接着剤を選択すると、後続の工程に与える影響を抑えることができるので、さらに好適である。
【0037】
(ガセットプレート)
ガセットプレート41は、
図6に示すように、不陸調整板42、及び構成部材11の平坦面(不陸調整板42を設置しない方)からなる接着面に塗布された接着剤によって接着固定されるもので、接着部と連結部を備えている。接着部は接着面に接触する部分であり、連結部は補強材30の端部を実際に取り付ける部分である。なお、ガセットプレート41の接着に関しては、不陸調整板42と柱材10等の接着で説明した接着方法や、接着剤、設計手法と同様である。
【0038】
斜材31を連結するためのガセットプレート41(以下、「斜材用ガセットプレート41」という。)は、
図4に示すように、一つの材料(例えば、1枚の鋼板など)で接着部と連結部を形成する。接着面に接触して接着される部分が接着部であり、柱材10等から張り出し斜材31と連結する部分が連結部となる。既述のとおり斜材31を設置する面内方向は柱材10等の弱軸方向と一致し、柱材10等の接着面に斜材用ガセットプレート41は接着される。つまり、斜材用ガセットプレート41は、柱材10等のうち面内方向と略平行(平行含む)な接着面に接着される。
【0039】
一方、方杖材32を連結するためのガセットプレート41(以下、「方杖材用ガセットプレート41」という。)は、
図7に示すように、接着プレート41aと連結プレート41bの二つの材料(例えば、2枚の平鋼など)からなり、接着プレート41aに接着部が形成され、連結プレート41bに連結部が形成される。連結プレート41bは、接着プレート41aに略垂直(垂直含む)に突き当てられ、工場等で溶接固定される。既述のとおり方杖材32を設置する面内方向は柱材10等の強軸方向と一致し、柱材10等の接着面に方杖材用ガセットプレート41は接着される。つまり、方杖材用ガセットプレート41は、柱材10のうち面内方向と略垂直(垂直含む)な接着面に接着される。
【0040】
(剥離防止手段)
設計上求められた接着面積を確保して接着固定すれば、接着面がずれようとするせん断方向の荷重に対してガセットプレート41が柱材10等から剥離することはない。例えば、斜材31の場合は主に水平方向をせん断方向とするずれ、方杖材32の場合は主に鉛直方向をせん断方向とするずれに対しては、それぞれ防止することができる。しかしながら、接着面を引き剥がそうとする方向、つまりガセットプレート41に垂直な方向(以下、「接着面外方向」という。)に作用する外力に対して剥離しないだけの接着量(接着面積)を算定することは難しく、換言すれば、接着固定だけで接着面外方向の外力に抵抗することは極めて困難である。
図1のような骨組構造は、様々な方向からの荷重を受け、当然ながら接着面外方向の外力が作用することも想定される。そうすると柱材10等は接着面外方向に曲げ変形を生じ、平面状のガセットプレート41とは接触できない部分が現れ、その結果、ガセットプレート41の剥離が始まる。そこで、接着面外方向から力を受けた場合でも、柱材10等からガセットプレート41が剥がれないよう剥離防止手段を設置するわけである。
【0041】
剥離防止手段の基本構造は、ガセットプレート41と他のプレート(以下、「対向プレート43」という。)で柱材10等の一部を挟み込み、ボルトによって締め付けるものである。
図4や
図7で説明すると、山形鋼11aの内側に対向プレート43を配置し、つまりこの対向プレート43とガセットプレート41で山形鋼11aの一部を挟持し、その状態でボルト締めを行う。この場合のボルトは、普通ボルトを用いることができる。
【0042】
剥離防止手段について、さらに詳しく説明する。
図4や
図7に示すように剥離防止手段は、対向プレート43と締付ボルト44で構成されている。この締付ボルト44は、山形鋼11aから外れたところで挿通される(山形鋼11aは貫通しない)。つまり、対向プレート43には、山形鋼11aを挟み込むための接触部分と、締付ボルト44挿通のため山形鋼11aとは重ならない張り出し部分があり、この張り出し部分にボルト孔が設けられ、一方のガセットプレート41にも締付ボルト44挿通のためのボルト孔が設けられる。このようにガセットプレート41に設けられたボルト孔と、対向プレート43の張り出し部分にあるボルト孔それぞれの位置を合わせて締付ボルト44が挿通される。
【0043】
ガセットプレート41と、対向プレート43の張り出し部分との間には、当然ながら山形鋼11aがない。すなわち、ガセットプレート41と対向プレート43の間には、部分的に隙間ができる。この隙間には、
図7に示すようにスペーサ45を介在させることができる。このスペーサ45にもボルト孔を設け、スペーサ45を挟んだうえでガセットプレート41と対向プレート43を締付ボルト44で締め付けると、より強固に締め付けることができる。
【0044】
6.補強材とガセットプレートの取り付け
斜材用ガセットプレート41のうちの連結部には、斜材31の端部が連結される。この連結部にはボルト孔が設けられ、同じく斜材31端部にもボルト孔が設けられており、双方のボルト孔を合わせて高力ボルト50によって締め付けられる。一方、方杖材用のガセットプレート41は、既述のとおり接着プレート41aと連結プレート41bで構成されており、このうち連結プレート41bに方杖材32の端部が連結される。連結プレート41bにはボルト孔が設けられ、同じく方杖材32端部にもボルト孔が設けられており、双方のボルト孔を合わせて高力ボルト50によって締め付けられる。ここで使用されるボルトは、状況によって普通ボルトを使用することもできるが、原則は高力ボルトによる摩擦接合とされる。なお高力ボルトであれば、摩擦接合用高力六角ボルト、構造用トルシア形高力ボルト、溶融亜鉛メッキ高力ボルト、など従来のものの中から適宜選択できる。
【0045】
7.骨組構造の補強方法
山形鋼11aを組み合わせた支柱10に斜材31を取り付けることで、柱材10と梁材20からなる骨組構造を補強する場合を例に、本願発明の骨組構造の補強方法を説明する。
はじめに、補強対象となる既設の支柱10について説明する。この支柱10は、鉛直方向に配置された中央プレート12の両端を、それぞれ2本1組の山形鋼11a(構成部材11)で挟み込み、これら2本の山形鋼11aと中央プレート12にボルト13を挿通して締め付けられた構造であり、床面FL上に敷設した台座プレートの上に設置されている。なお支柱10は、山形鋼等によるラチス材でフランジを形成し、両フランジに山形鋼11aを取り付けた構造としてもよい。
以下、各工程について説明する。
次に、2本の山形鋼11aの平坦面で構成される合成面に生じた段差を埋めるため、他方よりも奥まった山形鋼11aの平坦面に不陸調整板42を接着する。このとき、不陸調整板42の板厚と接着剤の塗布厚との総厚が、当該段差と略等しくなるよう接着剤を塗布すると良い。この結果、山形鋼11aの平坦面、及び不陸調整板42によって、略一様な平坦面である「接着面」が形成される。(不陸調整板取付工程)
「接着面」に接着剤を塗布し、柱材10にガセットプレート41を接着固定する。また、他の柱材10の所定位置にある「接着面」にもガセットプレート41を接着固定する。このとき、柱材10のうち斜材31が設置される面内方向と略平行な面に、ガセットプレート41を接着する。(ガセットプレート接着工程)
それぞれ柱材10の内側に対向プレート43を配置し、さらにガセットプレート41と対向プレート43の間(フランジがない隙間)にスペーサ45を配置して、締付ボルト44で締め付ける。(剥離防止工程)
一方の柱材10に固定したガセットプレート41のうち連結部に、斜材31の一端を連結する。斜材31の他端は、他方の柱材10に固定したガセットプレート41に連結する。このとき双方に設けられたボルト孔を利用し、一次締め、マーキング、本締めの手順で高力ボルトによる締付けを行う。(補強材連結工程)
以上の工程を行うことで、骨組構造が補強される。