(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6292938
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】ソフトカプセル皮膜及びソフトカプセル
(51)【国際特許分類】
A61K 9/48 20060101AFI20180305BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20180305BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
A61K9/48
A61K47/36
A61K47/12
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-66728(P2014-66728)
(22)【出願日】2014年3月27日
(65)【公開番号】特開2015-189684(P2015-189684A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2017年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】503315676
【氏名又は名称】中日本カプセル 株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098224
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 勘次
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【弁理士】
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】山中 穰
(72)【発明者】
【氏名】山中 利恭
(72)【発明者】
【氏名】須原 渉
(72)【発明者】
【氏名】梅村 英行
【審査官】
横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−026262(JP,A)
【文献】
特開2001−245609(JP,A)
【文献】
特開昭61−151127(JP,A)
【文献】
特開平04−027352(JP,A)
【文献】
特開2010−047548(JP,A)
【文献】
特開2010−180159(JP,A)
【文献】
特開2014−015431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00−9/72
A61K47/00−47/69
A61J3/07
A23L33/00
A23L5/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータリーダイ式成形品であるソフトカプセルの皮膜であって、
塩の存在下で湿式加熱処理されたもち種トウモロコシ澱粉である湿式加熱処理澱粉と、
グルコン酸ナトリウム及びグルコン酸カリウムの何れかであり、前記湿式加熱処理澱粉100重量部に対して5.0重量部〜5.5重量部のグルコン酸塩と、
前記湿式加熱処理澱粉100重量部に対して40重量部〜45重量部のイオタカラギーナンと、
エステル化度が26%〜27%、且つ、アミド化度が20%〜22%であり、イオタカラギーナンに対する質量比が2:1〜1.8:1の低メトキシルペクチンと、を含有し、
ゼラチンを含有しないものであり、
腸溶性を示す
ことを特徴とするソフトカプセル皮膜。
【請求項2】
請求項1に記載のソフトカプセル皮膜に内容物が充填されている
ことを特徴とするソフトカプセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼラチンを使用しない腸溶性のソフトカプセル皮膜、及び、該ソフトカプセル皮膜を備えるソフトカプセルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ソフトカプセルの皮膜基剤として一般的に用いられているゼラチンは、温度変化により可逆的にゾル・ゲル変化すること、皮膜形成能に優れると共に形成された皮膜の機械的強度が高いこと、体内で崩壊又は溶解しやすいこと、それ自体が栄養的価値を有し体内に吸収され易いこと等、皮膜基剤としての利点を多く有している。
【0003】
一方、ソフトカプセルには、胃酸によって効能を失う成分や、胃の組織に刺激を与える成分等を内容物としたい場合があり、そのような場合、ソフトカプセル皮膜には、胃では崩壊又は溶解せずに腸に到達してから崩壊又は溶解する性質(腸溶性)を有することが要請される。しかしながら、ゼラチンは強酸性の胃液に容易に溶解してしまい、腸溶性を有していない。
【0004】
そこで、従来、成形されたゼラチン皮膜の外表面にツェインやセラック等の腸溶性物質をコーティングする技術、または、多価金属イオンによりゲル化して耐胃液性を示す多糖類を、ゼラチンを主成分とするソフトカプセル皮膜に含有させておき、成形されたソフトカプセル皮膜を多価イオンを含有する水溶液に浸漬することによって耐胃液性の外皮を形成させる技術(例えば、特許文献1参照)、或いは、多価金属イオンの非水溶性塩(難水溶性塩)を予めソフトカプセル皮膜に含有させておき、胃酸中で多価金属イオンを解離させて多糖類にゲル化反応を起こさせて耐胃液性の外皮を形成させる技術(例えば、特許文献2参照)が提案されている。また、本出願人は、エステル化度が所定範囲の低メトキシルペクチンを、ゼラチンに対して所定量含有させることで、ゼラチン皮膜に腸溶性を付与する技術を提案している(特許技術3参照)。
【0005】
しかしながら、ゼラチンは牛や豚などの動物の皮、骨、腱などを処理して得られる誘導タンパク質の一種であるため、狂牛病(牛海綿状脳症)対策や宗教上の理由などにより敬遠される傾向がある。そのため、上記の従来の腸溶性ソフトカプセル皮膜とは異なり、ゼラチンを使用していない腸溶性のソフトカプセル皮膜、及び、このようなソフトカプセル皮膜を備えるソフトカプセルが、要請されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−151127号公報
【特許文献2】特開平4−27352号公報
【特許文献3】特許第4252619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、ゼラチンを含有しないと共に腸溶性を備えているソフトカプセル皮膜、及び、該ソフトカプセル皮膜を備えるソフトカプセルの提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明にかかるソフトカプセル皮膜は、「塩の存在下で湿式加熱処理されたもち種トウモロコシ澱粉と、グルコン酸ナトリウム及びグルコン酸カリウムの何れかであるグルコン酸塩と、低メトキシルペクチンと、イオタカラギーナンとを含有し、ゼラチンを含有しない」ものである。
【0009】
「塩の存在下での湿式加熱処理」は、加熱しても糊化しない程度の水分の存在下で、塩と澱粉の混合物を温度100〜150℃に加熱する処理を指しており、「塩」としてはナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムの塩化物を例示することができる。なお、以下において、「塩の存在下で湿式加熱処理されたもち種トウモロコシ澱粉」を、「湿式加熱処理澱粉」と称する場合がある。
【0010】
「低メトキシルペクチン」は、ガラクチュロン酸とそのメチルエステルが重合した多糖類であるペクチンのうち、エステル化度が50%より低いペクチンである。ここで、「エステル化度(DE:Degree of Esterifiation)」とは、全ガラクチュロン酸のうちメチルエステルの形で存在するガラクチュロン酸の割合である。なお、エステル化度が50%以上のペクチンは「高メトキシルペクチン」と称されている。
【0011】
本発明者らは、湿式加熱処理澱粉、イオタカラギーナン、及び、低メトキシルペクチンを含有させたソフトカプセル皮膜について、組成等を異ならせて種々検討したものの、ソフトカプセル皮膜として適した物性を有すると共に腸溶性を有するソフトカプセル皮膜は、得られなかった。そこで、更に検討を進めた結果、グルコン酸ナトリウム及びグルコン酸カリウムの何れかを含有させることにより、ソフトカプセル皮膜として適した物性を有すると共に腸溶性を有するソフトカプセル皮膜を得られることを見出し、本発明に至ったものである。従って、本発明によれば、ゼラチンを含有しないと共に腸溶性を備えたソフトカプセル皮膜を、提供することができる。
【0012】
また、本発明のソフトカプセル皮膜は、上記の従来技術とは異なり、腸溶性を付与するためのコーティング工程や浸漬工程は不要であり、極めて簡易に製造することができる。
【0013】
本発明にかかるソフトカプセル皮膜は、上記構成に加え、「低メトキシルペクチンはエステル化度が26%〜27%であり、且つ、アミド化度が20%〜22%である」もの、「塩の存在下で湿式加熱処理されたもち種トウモロコシ澱粉100重量部に対して5重量部〜5.5重量部の前記グルコン酸塩を含有している」もの、「塩の存在下で湿式加熱処理されたもち種トウモロコシ澱粉100重量部に対して40重量部〜45重量部のイオタカラギーナンを含有している」もの、或いは、「イオタカラギーナンに対する質量比が2:1〜1.8:1の前記低メトキシルペクチンを含有している」もの
である。
【0014】
ペクチンの「アミド化度(DA:Degree of Amidation)」は、全ガラクチュロン酸のうちアミド基を有するガラクチュロン酸の割合である。
【0015】
上記組成とすることにより、後述のように、ソフトカプセル皮膜としてより適した物性と腸溶性に優れるソフトカプセル皮膜を得ることができる。
【0016】
次に、本発明にかかるソフトカプセルは、「上記に記載のソフトカプセル皮膜に内容物が充填されたソフトカプセル」である。
【0017】
「内容物」としては、医薬成分、健康食品成分、栄養補助成分などの目的物質を、油脂または油状物質に溶解または懸濁させたもの、或いは、上記の目的物質自体が油状やペースト状であるものを使用することができる。また、特に限定されるものではないが、乳酸菌など胃酸によって活性を失いやすい成分や、鉄分など胃の細胞壁に刺激を与えやすい成分は、本発明のソフトカプセルの内容物とする意義が高い。
【0018】
本構成により、ソフトカプセル皮膜にゼラチンを含有しないことにより需要者に受け容れられやすいソフトカプセルであり、且つ、腸溶性に優れたソフトカプセルを、提供することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明の効果として、ゼラチンを含有しないと共に腸溶性を備えたソフトカプセル皮膜、及び、該ソフトカプセル皮膜を備えるソフトカプセルを、提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態であるソフトカプセル皮膜、及び、該ソフトカプセル皮膜を備えるソフトカプセルについて説明する。
【0021】
本実施形態のソフトカプセル皮膜は、塩の存在下で湿式加熱処理されたもち種トウモロコシ澱粉と、グルコン酸ナトリウム及びグルコン酸カリウムの何れかであるグルコン酸塩と、低メトキシルペクチンと、イオタカラギーナンとを含有し、ゼラチンを含有しないものである。
【0022】
また、塩の存在下で湿式加熱処理されたもち種トウモロコシ澱粉100重量部に対して、5.0重量部〜5.5重量部のグルコン酸ナトリウム、40重量部〜45重量部のイオタカラギーナン、及び、イオタカラギーナンに対する質量比が2:1〜1.8:1の低メトキシルペクチンを含有している。また、低メトキシルペクチンはエステル化度が26%〜27%であり、且つ、アミド化度が20%〜22%である。
【0023】
本実施形態のソフトカプセル皮膜を、上記組成とした根拠について説明する。まず、表1に組成を示すように、湿式加熱処理澱粉100重量部に対して、5.0重量部のグルコン酸ナトリウム、40重量部のイオタカラギーナン、20重量部の低メトキシルペクチン(LMペクチン)、グリセリン、及び水から皮膜液を調製し、表2に示すように、低メトキシルペクチンとしてエステル化度(%)及びアミド化度(%)の異なる種類を使用した試料P1〜試料P11について、以下の方法で皮膜の物性と腸溶性を評価した。なお、湿式加熱処理澱粉としては、三和澱粉工業株式会社製、ソフトスターチSF−930を使用した。
【0024】
<皮膜の物性の評価>
ロータリーダイ式でソフトカプセルを成形することを想定して、皮膜液をガラス板に流延した後、乾燥させてゲル化した皮膜を常温で剥がす試験を行った。皮膜が切れない、皮膜が脆くなく適度な柔軟性を有する、皮膜が粘着せずガラス板から剥がれ易い場合を、「ソフトカプセル皮膜として適した物性」を有すると評価して「○」で表示し、そうでない場合を不適であると評価して「×」で表示した。評価結果を表2に示す。
【0025】
<腸溶性の評価>
日本薬局方に規定された崩壊試験法に則り、第一液及び第二液を使用して行った。ここで、第一液は耐胃液性を評価するためのpH1.2の試験液であり、試験液中でソフトカプセル皮膜を所定時間上下運動させ、その後の観察においてソフトカプセル皮膜が残存しているか否かを確認した。また、第二液は耐腸液性を評価するためのpH6.8の試験液であり、試験液中でソフトカプセル皮膜を所定時間上下運動させ、その後の観察において、ソフトカプセル皮膜が残存しているか否かを確認した。評価は、ソフトカプセル皮膜が、第一液による崩壊試験において残存し、第二液による崩壊試験において崩壊する場合に腸溶性を有するものとして「○」で表示し、それ以外の場合、つまり第一液による崩壊試験において崩壊する場合、及び、第一液による崩壊試験において残存するが、第二液による崩壊試験においても残存する場合は「×」と表示した。なお、第一液による崩壊試験において崩壊する場合は、第二液による試験は行わなかった。
【0028】
上述したように、グルコン酸塩を含有しない皮膜液からはソフトカプセル皮膜として適した物性を有すると共に腸溶性を有する皮膜が得られなかったところ、グルコン酸ナトリウムを混合させた場合、試料P1〜P5及び試料P10の皮膜は、ソフトカプセル皮膜として適した物性を有しており、そのうち試料P1,P2,P10は腸溶性を有していた。
【0029】
試料P1〜P11に用いた低メトキシルペクチンのエステル化度とアミド化度から、上記の組成において、低メトキシルペクチンのエステル化度が26%〜27%で、且つ、アミド化度20%〜22%である場合に、ソフトカプセル皮膜として適した物性を有すると共に腸溶性を有するソフトカプセル皮膜が得られると考えられた。
【0030】
ここで、表2に示した結果は、表1の組成においてグルコン酸ナトリウムに代替してグルコン酸カリウムを用いた場合においても同じ結果であった。グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウムは共に、pH調整剤として使用されることが多い。そこで、同じくpH調整剤として使用されるグルコン酸銅、グルコン酸亜鉛、グルコン酸カルシウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、リン酸水素二ナトリウム、ピロリン酸ナトリウムについて、表1においてグルコン酸ナトリウムに代替した組成で、表2と同様に低メトキシルペクチンの種類を異ならせて皮膜を成形したが、ソフトカプセル皮膜として適した物性と腸溶性とを共に有する皮膜を得ることはできなかった。
【0031】
また、グルコン酸ナトリウム及びグルコン酸カリウムをそれぞれ使用した表1の組成では、皮膜液のpHは5.2〜5.3であったため、上記の他のpH調整剤を混合した皮膜液のpHが同程度の値となるように、pH調整剤の添加量を調整した場合について、試料P1の低メトキシルペクチンを使用して皮膜を成形した。しかしながら、これらの場合も、ソフトカプセル皮膜として適した物性と腸溶性とを共に有する皮膜を得ることはできなかった。従って、グルコン酸塩の添加によってソフトカプセル皮膜として適した物性と腸溶性とを共に有する皮膜が形成される効果は、pH調整剤によるpH調整によるものではなく、グルコン酸ナトリウム及びグルコン酸カリウムに特異的な作用によると考えられた。
【0032】
次に、湿式加熱処理澱粉の配合量について検討した結果を示す。試料P1の低メトキシルペクチンを使用し、表1の組成において湿式加熱処理澱粉の配合量を増加させ、その分だけ水を減量した組成の試料S1〜S3について、皮膜液から皮膜を成形し、上記と同様に皮膜の物性と腸溶性を評価した。その結果を、表3に示す。
【0034】
表3に示すように、湿式加熱処理澱粉の配合量が、皮膜液の全量の20質量%を超える試料S2,S3では、ソフトカプセル皮膜として適した物性の皮膜を形成できるものの、腸溶性を有さないものであった。また、試料S2,S3の皮膜液は分散性が低く、皮膜の均一性も低いものであった。従って、湿式加熱処理澱粉の配合量は、皮膜液の全量の20質量%以下とするのが望ましく、配合できる最大量として20質量%とするのがより望ましい。ここで、皮膜液の全量の20質量%の湿式加熱処理澱粉は、表1の組成の皮膜液から製造されたソフトカプセル皮膜における湿式加熱処理澱粉、グルコン酸塩(グルコン酸ナトリウム又はグルコン酸カリウム)、イオタカラギーナン、及び低メトキシルペクチンの質量の総和に対し、61質量%に相当する。また、ソフトカプセル皮膜の水分含有率を6〜7質量%とすると、皮膜液の全量の20質量%の湿式加熱処理澱粉は、表1の組成の皮膜液から製造されたソフトカプセル皮膜においては38質量%に相当する。
【0035】
次に、イオタカラギーナンの湿式加熱処理澱粉に対する質量割合について、検討した結果を示す。湿式加熱処理澱粉を皮膜液の全量の20質量%とし、湿式加熱処理澱粉100重量部に対してグルコン酸ナトリウムを5重量部、イオタカラギーナンと試料P1の低メトキシルペクチンとの質量比を2:1として、イオタカラギーナンの割合(湿式加熱処理澱粉100重量部に対する割合)を変化させた試料S11〜S15について、上記と同様の方法で皮膜液を調製し、皮膜の物性の評価及び腸溶性の評価を行った。その結果を表4に示す。
【0037】
表4に示すように、試料S13,S14の皮膜は、ソフトカプセル皮膜として適した物性を有していると共に腸溶性を有していた。従って、湿式加熱処理澱粉100重量部に対するイオタカラギーナンの割合を40重量部〜45重量部とすることにより、ソフトカプセル皮膜に適した物性を有し腸溶性に優れたソフトカプセル皮膜が得られると考えられた。なお、イオタカラギーナンの質量割合が40重量部以下であると、皮膜が脆く切れやすく、45重量部以上では皮膜液の均一性が損なわれた。
【0038】
上記のように求められたイオタカラギーナンの質量割合の望ましい範囲である、湿式加熱処理澱粉100重量部に対する割合40重量部〜45重量部における、低メトキシルペクチンの望ましい質量割合を検討した結果を、次に示す。まず、イオタカラギーナンを上記範囲の下限である40重量部とし、湿式加熱処理澱粉を皮膜液の全量の20質量%、湿式加熱処理澱粉100重量部に対してグルコン酸ナトリウムを5重量部として、試料P1の低メトキシルペクチンの湿式加熱処理澱粉100重量部に対する割合を変化させた試料S21〜S25について、上記と同様の方法で皮膜液を調製し、皮膜の物性の評価及び腸溶性の評価を行った。その結果を表5に示す。
【0040】
表5に示すように、試料S22,S23の皮膜はソフトカプセル皮膜に適した物性を有していると共に腸溶性を有していた。従って、ソフトカプセル皮膜の組成において、湿式加熱処理澱粉100重量部に対する低メトキシルペクチンの割合を20重量部〜25重量部とすることにより、ソフトカプセル皮膜に適した物性を有し腸溶性に優れたソフトカプセル皮膜が得られると考えられた。これは、イオタカラギーナンと低メトキシルペクチンの質量比としては、2:1〜1.6:1に相当する。
【0041】
次に、イオタカラギーナンを上記範囲の上限である45重量部とし、同様に湿式加熱処理澱粉を皮膜液の全量の20質量%、湿式加熱処理澱粉100重量部に対してグルコン酸ナトリウムを5重量部として、試料P1の低メトキシルペクチンの湿式加熱処理澱粉100重量部に対する割合を変化させた試料S31〜S36について、上記と同様の方法で皮膜液を調製し、皮膜の物性の評価及び腸溶性の評価を行った。その結果を表6に示す。
【0043】
表6に示すように、試料S33,S34の皮膜はソフトカプセル皮膜に適した物性を有していると共に腸溶性を有していた。従って、ソフトカプセル皮膜の組成において、湿式加熱処理澱粉100重量部に対する低メトキシルペクチンの割合を22.5重量部〜25重量部とすることにより、ソフトカプセル皮膜に適した物性を有し腸溶性に優れたソフトカプセル皮膜が得られると考えられた。これは、イオタカラギーナンと低メトキシルペクチンの質量比としては、2:1〜1.8:1に相当する。
【0044】
表5及び表6に示した結果を考え合わせると、イオタカラギーナンの質量割合の望ましい範囲(湿式加熱処理澱粉100重量部に対する割合が40重量部〜45重量部)における、低メトキシルペクチンの望ましい質量割合は、イオタカラギーナンに対する質量比として、2:1〜1.8:1であると言うことができる。
【0045】
そこで、イオタカラギーナンの質量割合の望ましい範囲(湿式加熱処理澱粉100重量部に対する割合が40重量部〜45重量部)であり、且つ、低メトキシルペクチンの質量割合の望ましい範囲(イオタカラギーナンに対する質量比として2:1〜1.8:1)における、グルコン酸ナトリウムの望ましい質量割合を検討した。まず、イオタカラギーナンが上記範囲の下限(湿式加熱処理澱粉100重量部に対する割合が40重量部)である場合に、低メトキシルペクチンを上記範囲の下限(イオタカラギーナンに対する質量比として2:1)とし、湿式加熱処理澱粉を皮膜液の全量の20質量%として、グルコン酸ナトリウムの湿式加熱処理澱粉100重量部に対する割合を変化させた試料S41〜S49について、上記と同様の方法で皮膜液を調製し、皮膜の物性の評価及び腸溶性の評価を行った。その結果を表7に示す。
【0047】
表7に示すように、試料S42〜S48の皮膜は、ソフトカプセル皮膜に適した物性を有しており、そのうち試料S43,S44は腸溶性を有していた。このことから、ソフトカプセル皮膜の組成において、湿式加熱処理澱粉100重量部に対するグルコン酸ナトリウムの割合を5.0重量部〜5.5重量部とすることにより、ソフトカプセル皮膜に適した物性を有し、腸溶性に優れたソフトカプセル皮膜が得られると考えられた。
【0048】
同様に、湿式加熱処理澱粉を皮膜液の全量の20質量%とし、イオタカラギーナンが上記範囲の下限(湿式加熱処理澱粉100重量部に対する割合が40重量部)であり、且つ、低メトキシルペクチンが上記範囲の上限(イオタカラギーナンに対する質量比として1.8:1)である場合に、グルコン酸ナトリウムの湿式加熱処理澱粉100重量部に対する割合を変化させた試料S51〜S54、イオタカラギーナンが上記範囲の上限(湿式加熱処理澱粉100重量部に対する割合が45重量部)であり、且つ、低メトキシルペクチンが上記範囲の下限(イオタカラギーナンに対する質量比として2:1)である場合に、グルコン酸ナトリウムの湿式加熱処理澱粉100重量部に対する割合を変化させた試料S61〜S64、及び、イオタカラギーナンが上記範囲の上限(湿式加熱処理澱粉100重量部に対する割合が45重量部)であり、且つ、低メトキシルペクチンが上記範囲の上限(イオタカラギーナンに対する質量比として1.8:1)である場合に、グルコン酸ナトリウムの湿式加熱処理澱粉100重量部に対する割合を変化させた試料S71〜S74について、上記と同様の方法で皮膜液を調製し、皮膜の物性の評価及び腸溶性の評価を行った。その結果を、それぞれ表8、表9、及び表10に示す。
【0052】
表8〜表10に示すように、何れの試料の皮膜もソフトカプセル皮膜として適した物性を有しており、そのうち試料S52,S53、S62,S63,S72,S73は腸溶性を有していた。このことから、ソフトカプセル皮膜の組成において、湿式加熱処理澱粉100重量部に対するグルコン酸ナトリウムの割合を5.0重量部〜5.5重量部とすることにより、ソフトカプセル皮膜に適した物性を有し、腸溶性に優れたソフトカプセル皮膜が得られると考えられた。
【0053】
表7〜表10に示した結果を考え合わせると、イオタカラギーナンの質量割合の望ましい範囲(湿式加熱処理澱粉100重量部に対する割合が40重量部〜45重量部)であり、且つ、低メトキシルペクチンの質量割合の望ましい範囲(イオタカラギーナンと低メトキシルペクチンの質量比として、2:1〜1.8:1)における、グルコン酸ナトリウムの望ましい質量割合は、湿式加熱処理澱粉100重量部に対して5.0重量部〜5.5重量部であると言うことができる。
【0054】
以上の結果を総合すると、湿式加熱処理澱粉、湿式加熱処理澱粉100重量部に対して、グルコン酸ナトリウム及びグルコン酸カリウムの何れかであるグルコン酸塩を5.0重量部〜5.5重量部、イオタカラギーナンを40重量部〜45重量部、及び、エステル化度が26%〜27%であり、且つ、アミド化度が20%〜22%である低メトキシルペクチンを、イオタカラギーナンに対する質量比で2:1〜1.8:1の割合で含有し、ゼラチンを含有しないソフトカプセル皮膜は、ソフトカプセル皮膜として適した物性を有していると共に腸溶性を有しているということができる。
【0055】
また、このようなソフトカプセル皮膜を備えるソフトカプセルは、上記の組成に基づいて湿式加熱処理澱粉、イオタカラギーナン、低メトキシルペクチン、及び、グルコン酸塩を、可塑剤と共に水に溶解して皮膜液を調製し、例えば、ロータリーダイ式成形装置を用いて、皮膜の成形と同時に内容物を充填することにより、得ることができる。
【0056】
上記のように、本実施形態によれば、ソフトカプセル皮膜にゼラチンを含有しないことにより需要者に受け容れられやすいソフトカプセルであり、且つ、腸溶性に優れたソフトカプセルを提供することができる。
【0057】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0058】
例えば、可塑剤としてグリセリンを使用する場合を例示したが、ソルビトール、マルチトール、ポリエチレングリコール等を、単独または併用して使用することができる。