特許第6292973号(P6292973)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ニッタン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6292973-消火剤流量調整器 図000002
  • 特許6292973-消火剤流量調整器 図000003
  • 特許6292973-消火剤流量調整器 図000004
  • 特許6292973-消火剤流量調整器 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6292973
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】消火剤流量調整器
(51)【国際特許分類】
   A62C 35/68 20060101AFI20180305BHJP
【FI】
   A62C35/68
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-103947(P2014-103947)
(22)【出願日】2014年5月20日
(65)【公開番号】特開2015-217187(P2015-217187A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年3月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000111074
【氏名又は名称】ニッタン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(72)【発明者】
【氏名】牧野 徹
【審査官】 首藤 崇聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−296918(JP,A)
【文献】 特開2006−95004(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0137716(US,A1)
【文献】 実開平7−29371(JP,U)
【文献】 実開平7−392(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 35/68
A62C 5/02
A62C 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
消火を行う放出口へ送水される流水に対して消火剤原液を供給して混合させる消火剤混合装置において、消火剤水溶液の濃度を調節するために前記消火剤原液の供給流量を調整する消火剤流量調整器であって、
上流側に位置する消火剤原液の流路よりも狭小に形成された縮径部と、
前記消火剤原液の供給流量に応じて、供給流量が多い場合は前記縮径部の一部を閉鎖し少ない場合は一部を開放して、前記縮径部の縮径率を可変調節する可変手段と、
を備え、
前記可変手段は、前記消火剤原液が下から上方に向けて流入するように配設されたケース部と、前記ケース部内で自重により下降し前記消火剤原液の流入により上昇するように支持されたピストン部とを備え、前記ピストン部の上昇により前記縮径部の縮径率を小さくする調節を行うことを特徴とする消火剤流量調整器。
【請求項2】
前記縮径部は、前記ケース部に設けられた第1の開口部と、前記ピストン部の上端面に設けられた第2の開口部と第3の開口部とで構成されており、
前記第2の開口部は、前記ピストン部の前記消火剤原液の流入による上昇によって前記第1の開口部と連通する配置に形成され、前記第3の開口部は、前記ピストン部の前記消火剤原液の流入による上昇によって閉蓋される配置に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の消火剤流量調整器。
【請求項3】
前記第2の開口部は、前記第1の開口部よりも狭小に形成されており、
前記第1の開口部は、前記第2の開口部と前記第3の開口部を合わせた開口よりも狭小に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の消火剤流量調整器。
【請求項4】
前記ピストン部の上端側と下端側がそれぞれ、前記ケース部の内周面に沿って移動するようにガイドされ、前記ピストン部が上下動可能に支持されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の消火剤流量調整器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消火剤混合装置における消火剤流量調整器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、消火を行う放出口へ送水される流水に対して消火剤原液を供給して混合させる消火剤混合装置において、消火剤の供給流量を調整するために消火剤流量調整器が用いられている。
消火剤流量調整器として、例えば、消火剤原液が流入するケース部内で、消火剤原液の流入により移動可能に支持されたピストン部と、そのピストン部を消火剤原液の流入による移動方向とは逆の方向へ付勢するコイルバネとを備え、消火剤原液の流量に応じて配置が切り替わるピストン部によって消火剤の流路における縮径部の縮径率が調節されて、消火剤の供給流量が調整されるようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
つまり、この消火剤流量調整器では、コイルバネの弾性力に応じてピストン部の配置が切り替わる動作タイミングが設定されるようになっており、消火剤原液の流量が所定値を超えたタイミングでピストン部の配置が切り替わるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−296918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の消火剤流量調整器の場合、所望するタイミングにピストン部を動作させて消火剤の供給流量を調整するためには、所定の弾性力を有するコイルバネが必要となるが、ピストン部を精度よく動作させるコイルバネを精密に製作することは困難であり、コストアップを招くことが明らかになった。
【0005】
本発明の目的は、より容易に消火剤の供給流量を調整することができる消火剤流量調整器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、
消火を行う放出口へ送水される流水に対して消火剤原液を供給して混合させる消火剤混合装置において、消火剤水溶液の濃度を調節するために前記消火剤原液の供給流量を調整する消火剤流量調整器であって、
上流側に位置する消火剤原液の流路よりも狭小に形成された縮径部と、
前記消火剤原液の供給流量に応じて、供給流量が多い場合は前記縮径部の一部を閉鎖し少ない場合は一部を開放して、前記縮径部の縮径率を可変調節する可変手段と、
を備え、
前記可変手段は、前記消火剤原液が下から上方に向けて流入するように配設されたケース部と、前記ケース部内で自重により下降し前記消火剤原液の流入により上昇するように支持されたピストン部とを備え、前記ピストン部の上昇により前記縮径部の縮径率を小さくする調節を行うことを特徴とする。
なお、「縮径部」とは、流動方向に対して直交する断面積が、その上流側の流路よりも小さくなるように形成されている部分を示すものである。
【0007】
上記構成によれば、消火を行う放出口への送水に伴い、例えば、消火剤貯蔵タンクから消火剤原液の供給が開始されると、消火剤原液は縮径部を通過して流水に混合される。
そして、消火を行う放出口への送水流量が小さい場合には、消火剤原液の供給流量も小さくなるので、ピストン部が下降することで縮径部の縮径率を比較的大きくする調節を行って、消火剤水溶液の濃度が目的とする濃度になるように消火剤原液の流量を調整する。
また、消火を行う放出口への送水流量が大きい場合には、消火剤原液の供給流量も大きくなるので、ピストン部の上昇によって縮径部の縮径率を小さくする調節を行って、消火剤水溶液の濃度が目的とする濃度になるように消火剤原液の流量を調整する。
つまり、この消火剤流量調整器であれば、ケース部内で自重により下降し、消火剤原液の流入により上昇するように支持されたピストン部によって、縮径部の縮径率の調節を好適に行うことができ、より容易に消火剤の供給流量を調整することができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の消火剤流量調整器において、
前記縮径部は、前記ケース部に設けられた第1の開口部と、前記ピストン部の上端面に設けられた第2の開口部と第3の開口部とで構成されており、
前記第2の開口部は、前記ピストン部の前記消火剤原液の流入による上昇によって前記第1の開口部と連通する配置に形成され、前記第3の開口部は、前記ピストン部の前記消火剤原液の流入による上昇によって閉蓋される配置に形成されていることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、ピストン部の第3の開口部は、消火剤原液の流入によるピストン部の上昇によって閉蓋される配置にあるので、ピストン部の第3の開口部を通過した消火剤原液の噴流がケース部の内面に当たることで、ピストン部が上昇するのと逆向きの力が作用するようになる。
ここで、第3の開口部を通過した消火剤原液の噴流によってピストン部に作用する上昇とは逆向きの力の大きさは、第3の開口部の内径サイズを調節することで調整することができるので、消火剤原液が所定流量に達した際にピストン部の上端面がケース部に密接し最上昇位置となるタイミングを、第3の開口部の内径サイズを調節して設定することが可能になる。
つまり、ピストン部の第3の開口部の内径サイズを調節することで、消火剤原液が所定流量に達した際にピストン部が最上昇位置となるタイミングを設定することができるので、従来技術のように、精密なコイルバネを設計してピストン部を精度よく動作させること比べて、より容易に消火剤の供給流量の調整を行うことができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の消火剤流量調整器において、
前記第2の開口部は、前記第1の開口部よりも狭小に形成されており、
前記第1の開口部は、前記第2の開口部と前記第3の開口部を合わせた開口よりも狭小に形成されていることを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、消火を行う放出口への送水の流量が小さいときには、消火剤原液の流量も小さいので、ピストン部が自重により下降した状態にあり、消火剤原液はピストン部の第2の開口部と第3の開口部を通過し、さらにケース部の第1の開口部を通過してから流水に混合される。このとき、第1の開口部は、第2の開口部と第3の開口部を合わせた開口面積よりも狭小に形成されており、第2の開口部と第3の開口部を通過した消火剤原液の流量が、第1の開口部によって所定の流量となるように調整されるので、ピストン部が最上昇位置に達するまでに消火剤原液の流量に変動があっても、消火剤水溶液の濃度が目的とする濃度になるように調整される。
また、消火を行う放出口への送水の流量が大きくなると、消火剤原液の流量も大きくなり、消火剤原液が所定流量に達すると、ピストン部は自重に抗して最上昇位置に移動した状態になり、ピストン部の第3の開口部は閉塞され、消火剤原液は第2の開口部のみを通過し、さらに第1の開口部を通過してから流水に混合される。このとき、第2の開口部は、第1の開口部よりも狭小に形成されており、消火剤原液の流量がピストン部を最上昇位置まで移動させる流量を超えるほど大きくなった場合でも、ピストン部が最上昇位置に達した後の消火剤原液の流量は、第2の開口部によって所定の流量となるように調整されるので、消火剤水溶液の濃度が目的とする濃度になるように調整される。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載の消火剤流量調整器において、
前記ピストン部の上端側と下端側がそれぞれ、前記ケース部の内周面に沿って移動するようにガイドされ、前記ピストン部が上下動可能に支持されていることを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、ピストン部の上端側と下端側がケース部の内周面にガイドされて上下動するので、ピストン部の移動が安定し、縮径部の縮径率の調節を良好に行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、より容易に消火剤の供給流量を調整することができる消火剤流量調整器が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態の消火剤流量調整器を備えた消火剤混合装置を示す全体構成図である。
図2】消火剤混合装置の混合器を断面視して示す拡大図である。
図3】消火剤流量調整器の中心線に沿った断面図であり、消火剤の流量が小さな状態(A)と、消火剤の流量が大きな状態(B)とを示している。
図4】本実施形態の消火剤流量調整器を用いて、消火配管主管の流量と消火剤の混合濃度との関係を求めた試験の結果を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明に係る消火剤流量調整器の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
(全体構成)
消火剤流量調整器10は、建造物に設置され、放出口から消火剤水溶液を放射する消火設備の消火剤混合装置50に設けられている。
【0018】
消火剤混合装置50は、図1に示すように、消火ポンプから放出口までを接続する消火配管主管103の途中に設けられた混合器101と、消火剤の供給源である消火剤貯蔵加圧タンク102と、混合器101と消火剤貯蔵加圧タンク102との間を接続する加圧水側配管104及び消火剤側配管105と、消火剤貯蔵加圧タンク102から混合器101へ消火剤側配管105を介して供給される消火剤原液の供給流量を調整する消火剤流量調整器10とを備えている。
【0019】
この消火剤混合装置50の動作原理を、図2に基づいて説明する。
混合器101の内部に入口部101bよりも内径が小さい断面積狭小部(いわゆる縮径部)101aを設け、放出口の作動や試験弁の開放によって混合器101内に水流が発生すると、狭小部101aの水の速度(流速)は、混合器101の入口部101bの流速より速くなる。その結果、ベルヌーイの定理より混合器101の入口部101bの圧力に対し、狭小部101aの圧力は低くなり、入口部101bと狭小部101aの間には圧力差(差圧)が発生する。
【0020】
一方、消火剤貯蔵加圧タンク102は、その内部が隔膜によって加圧水領域と消火剤領域とに隔てられており、混合器101の入口部101bは加圧水側配管104を経て消火剤貯蔵加圧タンク102の加圧水領域に接続され、混合器101の狭小部101aは消火剤側配管105を経て消火剤貯蔵加圧タンク102の消火剤領域に接続されている。従って、入口部101b側の圧力が狭小部101aよりも高くなると、加圧水が消火剤貯蔵加圧タンク102の加圧水領域内に押し込まれ、隔膜を介して消火剤が消火剤貯蔵加圧タンク102から押し出される。押し出された消火剤は、消火剤側配管105を経て混合器101に送り込まれ、消火配管主管103を流れる水に混合される。
このように混合器101の狭小部101aで低下する圧力の大きさはそこを通過する流速に相対的な関係にあり、混合器101に発生する差圧も流速と相対的な関係にあるため、圧力によらず単位時間当たりの流量に応じた消火剤の送入が可能となる。
【0021】
消火剤混合装置50では、ポンプから送られる水の流量が変化しても一定の希釈混合濃度で消火剤を混合する必要があるため、消火剤側配管105の混合器101近くに消火剤流量調整器10を設けている。
そして、消火剤貯蔵加圧タンク102から圧送された消火剤の量を消火剤流量調整器10によって制御して混合器101内に送液し、水と消火剤を混合して所定混合濃度の消火剤水溶液を生成するようになっている。
【0022】
(消火剤流量調整器)
消火剤流量調整器10は、消火剤原液が通過するケース部20と、ケース部20内で上下動可能に支持されたピストン部30等を備えている。
【0023】
ケース部20は、図3(A)(B)に示すように、下ケース21と上ケース22とを備えている。下ケース21と上ケース22のフランジ部にはそれぞれボルト孔21a,22aが設けられており、互いに位置合わせしたボルト孔21a,22aにボルト27を挿通してナット28を締結することで、内部にピストン部30を収容可能な空間を有するケース部20が組み上がる。この下ケース21と上ケース22との間にはOリング26が介挿されており、下ケース21と上ケース22との間の水密性が保たれている。
【0024】
下ケース21には、消火剤の流入口23が形成されている。この流入口23に消火剤側配管105の消火剤供給方向の下流側端部が接続される。
上ケース22には、ケース部20の内径よりも狭小に形成されて縮径部として機能する第1の開口部24と、第1の開口部24を通過した消火剤の流出口25が設けられている。この流出口25は、混合器101の狭小部101aに接続される。
つまり、ケース部20の下端側の流入口23から上方に向けて消火剤原液が流入し、流出口25から流出するようになっている。なお、第1の開口部24は、ケース部20の内径よりも小径に形成され、第1の開口部24を通過する消火剤原液の流量が、所定の流量となるように調整されている。
【0025】
ピストン部30は、図3(A)(B)に示すように、ケース部20の内部空間に上下動可能に支持された状態で格納されている。ピストン部30は、略円筒形状を有しており、その上端面にはピストン部30の内径よりも小径であって縮径部として機能する第2の開口部31と第3の開口部32が形成されている。第2の開口部31はピストン部30の上端面の略中心に形成されており、第3の開口部32は第2の開口部31の周囲に形成されている。
このピストン部30の上端側の外径は、ケース部20の内部空間上部の内径とほぼ等しいサイズに設計されており、ピストン部30の上端側の外周面が上ケース22の内周面のガイド面22bに沿って移動するようにガイドされ、ピストン部30が中心線方向に沿って上下に移動することが可能になっている。
【0026】
また、ピストン部30の下部には、環状部材33で挟み込まれたダイヤフラム34がネジ35によって固定されている。
【0027】
環状部材33は、例えば円環形状を呈するゴム製の部材であり、ピストン部30の下部にダイヤフラム34を面接触させて取り付けるために配設されている。環状部材33の外縁にはピストン部30とは反対側に突出した縁部33aが設けられている。この縁部33aがケース部20の内部空間の下面に当接した際、環状部材33と下ケース21の間に所定の隙間を確保することができ、ピストン部30が下降した配置でもネジ35の頭部が下ケース21にぶつからないようになっている。
また、環状部材33の下端側の外径は、ケース部20の内部空間下部の内径とほぼ等しいサイズに設計されており、ピストン部30に取り付けられた環状部材33の下端側の外周面が下ケース21の内周面のガイド面21bに沿って移動するようにガイドされ、ピストン部30が中心線方向に沿って上下に移動することが可能になっている。
【0028】
ダイヤフラム34は、例えば円環形状を呈するゴム製の膜状の部材であり、その外縁には肉厚部が設けられている。ダイヤフラム34の肉厚部は、下ケース21と上ケース22との間に介挿されており、このダイヤフラム34によっても下ケース21と上ケース22との間の水密性が保たれるようになっている。
このダイヤフラム34によって、ピストン部30の外周から消火剤が第1の開口部24側に漏出することを防いでいる。なお、ダイヤフラム34は、ピストン部30の上下動を妨げないように、弛んだ遊びを有して取り付けられている。
【0029】
このピストン部30は、ケース部20の流入口23から流入した消火剤原液の流路となる。
ここで、第2の開口部31と第3の開口部32を合わせた開口面積は、ピストン部30内の流路の開口面積(断面積)よりも小さく形成され、第2の開口部31と第3の開口部32を通過する消火剤原液の流量が、所定の流量となるように調整されている。
【0030】
このピストン部30はケース部20内に、互いの中心線が同一軸上となるように配設されており、ピストン部30はその中心線方向(軸線方向)に沿って上下に進退することが可能になっている。
具体的に、ピストン部30は、消火剤混合装置50が作動していない状態では、ケース部20内で自重により下降し、図3(A)に示す位置にある。
一方、消火剤混合装置50が作動した場合には、ケース部20内への消火剤原液の流入によりピストン部30は上昇し、図3(B)に示す最上昇位置であって、ピストン部30の上端面がケース部20の内部空間の内側天面に密接する位置まで移動することが可能になっている。
そして、ケース部20内への消火剤原液の流入によりピストン部30が上昇し、ピストン部30の上端面がケース部20の内部空間の内側天面に密接した場合に、第2の開口部31は第1の開口部24と連通する配置に形成されており(図3(A)参照)、第3の開口部32は閉蓋される配置に形成されている(図3(B)参照)。
【0031】
つまり、ピストン部30が最上昇位置に達していないときには、流入口23からピストン部30内に流入した消火剤原液は、ピストン部30の第2の開口部31と第3の開口部32を通過し、ケース部20の第1の開口部24を通過するように流れるようになっている。
一方、ピストン部30が最上昇位置に達しているときには、流入口23からピストン部30内に流入した消火剤原液は、ピストン部30の第2の開口部31のみを通過し、ケース部20の第1の開口部24を通過するように流れるようになっている。
こうしてピストン部30の上昇により、第1の開口部24と第2の開口部31と第3の開口部32とで構成されている縮径部の縮径率の調節を行うことができる。
なお、第2の開口部31は、第1の開口部24よりも狭小に形成されており、第1の開口部24は、第2の開口部31と第3の開口部32を合わせた開口よりも狭小に形成されている。
【0032】
(消火剤流量調整器の動作説明)
次に、消火剤流量調整器10の動作について、消火剤混合装置50の動作を踏まえて説明する。
【0033】
消火剤混合装置50が作動し、放出口の開放によって混合器101内の水流の発生に伴い、入口部101bと狭小部101aの間には差圧が発生する。
この差圧によって、消火剤貯蔵加圧タンク102の加圧水側配管104側の加圧水領域の内部圧力が高まり、隔膜を介した消火剤領域から消火剤原液が押し出される。消火剤貯蔵加圧タンク102から押し出された消火剤原液は、消火剤側配管105を経て消火剤流量調整器10の流入口23から内部に流入する。
【0034】
混合器101内の水流の流量が小さいときには、消火剤原液の流量も小さく、消火剤流量調整器10のケース部20内では、図3(A)に示すように、ピストン部30は自重により下降し、ケース部20の内部空間の底部に位置している。この状態では、消火剤原液はピストン部30の第2の開口部31と第3の開口部32を通過し、さらにケース部20の第1の開口部24を通過してから混合器101の狭小部101aに送り込まれ、消火配管主管103内の流水に混合される。
【0035】
ここで、第2の開口部31と第3の開口部32を合わせた開口面積は、消火剤原液がピストン部30を最上昇位置まで移動させることができない低流量である場合でも、目標とする混合濃度に達する流量が確保可能な大きさに設定されているので、放水口に供給される消火剤水溶液は目標とする濃度が維持される。
特に、第1の開口部24は、第2の開口部31と第3の開口部32を合わせた開口面積よりも狭小に形成されており、第2の開口部31と第3の開口部32を通過した消火剤原液の流量が、第1の開口部24によって所定の流量となるように調整されるので、ピストン部30が最上昇位置に達するまでに消火剤原液の流量に変動があっても、消火剤混合装置50において所定混合濃度の消火剤水溶液を生成することが可能になっている。
【0036】
そして、混合器101内の水流の流量が大きくなると、消火剤原液の流量も大きくなり、消火剤流量調整器10のケース部20内ではピストン部30が上昇移動を開始する。このとき、ピストン部30の第3の開口部32を通過した消火剤原液の噴流がケース部20の内部空間の内側天面に当たることで、ピストン部30が上昇するのと逆向きの力が作用する。
消火剤原液が所定流量に達すると、図3(B)に示すように、ピストン部30は自重と噴流の反力に抗して最上昇位置に達した状態となる。この状態では、ピストン部30の第3の開口部32は閉塞され、消火剤原液は第2の開口部31のみを通過し、さらに第1の開口部24を通過してから混合器101の狭小部101aに送り込まれ、消火配管主管103内の流水に混合される。
【0037】
ここで、第2の開口部31の開口面積は、消火剤原液の流量がピストン部30を最上昇位置まで移動させる流量を超えるほど大きくなった場合でも、目標とする混合濃度を大きく越えて消火剤原液の浪費を発生することを抑制可能な大きさに設定されているので、放水口に供給される消火剤水溶液は目標とする濃度を大きく越えず、ほぼ安定して所定混合濃度を維持できる。
特に、第2の開口部31は、第1の開口部24よりも狭小に形成されているので、ピストン部30が最上昇位置に達した後の消火剤原液の流量は、第2の開口部31によって所定の流量となるように調整されるので、放水口に供給される消火剤水溶液は目標とする濃度を大きく越えず且つ消火剤原液の浪費も回避されるようになっている。
また、第3の開口部32を通過した消火剤原液の噴流によってピストン部30に作用する上昇とは逆向きの力の大きさは、第3の開口部32の内径サイズを調節することで調整することができるので、消火剤原液が所定流量に達した際にピストン部30が最上昇位置となるタイミングを、第3の開口部32の内径サイズを調節して設定することが可能になっている。
【0038】
このように、消火剤原液の流量に応じたケース部20とピストン部30の協働により、第1の開口部24が形成されているケース部20の内側天面と、第2の開口部31および第3の開口部32が形成されているピストン部30の上端面とが密接する状態と離隔する状態とが切り替えられる。
つまり、ケース部20とピストン部30は、消火剤原液の流量に応じて、第1の開口部24と第2の開口部31と第3の開口部32とからなる縮径部の縮径率の可変調節を行う可変手段として機能するようになっている。
ここで、「縮径率」とは、例えば、ピストン部30における第2の開口部31と第3の開口部32を合わせた開口面積に対するケース部20の第1の開口部24の開口面積の比率、あるいはピストン部30内の流路の開口面積(断面積)に対するピストン部30において流通可能な第2の開口部31および第3の開口部32の総開口面積の比率のことをいう。
【0039】
(消火剤流量調整器による消火配管主管の流量と消火剤の混合濃度との関係)
消火剤流量調整器10を用いて、消火配管主管103の送水流量(横軸)と消火剤水溶液の濃度(縦軸)との関係を求める試験を行い、その結果を線図として図4に示す。
【0040】
上記試験において、ケース部20の第1の開口部24の開口面積を9.62[mm](内径3.5[mm])、ピストン部30の第2の開口部31の開口面積を8.55[mm](内径3.3[mm])、ピストン部30の第3の開口部32の開口面積を25.13[mm](内径4.0[mm]×2ヵ所)とした消火剤流量調整器10を使用し、その試験結果を図4の折れ線Lに示した。なお、消火配管主管103の流量が30[L/min]未満の範囲と400[L/min]を越える範囲は、消火剤混合装置50の動作範囲外なので試験対象から外した。
また、第1の開口部24の開口面積の値をA、第2の開口部31の開口面積の値をB、第3の開口部32の開口面積の値をCとした場合、前述したように各開口部は、B<A<B+Cの関係を満たす開口サイズを有している。
【0041】
この試験結果によれば、消火剤流量調整器10は、消火配管主管103の流量(主管流量)が30〜100[L/min]の帯域ではピストン部30がまだ上昇を開始しておらず、かかる範囲では比較的高い混合濃度の消火剤水溶液が生成される。
主管流量が100[L/min]を越えるとピストン部30が上昇を開始して消火剤原液の供給量は徐々に制限され、150[L/min]でピストン部30は最上昇位置に到達して縮径率の切り替えが行われる。
そして、主管流量が150〜400[L/min]の帯域では、消火剤水溶液の混合濃度は約3.5%の安定した値に維持される。
【0042】
なお、消火剤流量調整器10を使用した場合に、主管流量が30〜100[L/min]の帯域で目標とする混合濃度より高くなっているが、混合器101を流れる流水流量が少ないため、混合器109に投入される消火剤の絶対量も少ない。そのため、消火剤の消費が設定放出時間内を維持できないほどの影響を生じることはない。
また、消火剤流量調整器10では、主管流量が150〜400[L/min]の帯域で目標濃度(3.5%)をやや超えているが、これは各開口部の内径の調整によって低減を図ることが可能である。
【0043】
以上のように、消火剤流量調整器10は、消火剤原液が低流量のときには、消火剤原液をピストン部30の第2の開口部31と第3の開口部32を通過させた後、ケース部20の第1の開口部24を通過させるようにして混合器101への供給を行い、消火剤原液が高流量のときには、ピストン部30の第3の開口部32は閉塞されており、消火剤原液を第2の開口部31のみを通過させた後、第1の開口部24を通過させるようにして混合器101への供給を行うようになっている。
このようにして消火剤流量調整器10は、消火配管主管103(混合器101)の送水流量が少ないときには、縮径部の縮径率を比較的大きくして消火剤の供給量不足を回避し、送水流量が増加したときには、縮径部の縮径率を比較的小さくして消火剤の過剰供給を回避するようにして、消火剤原液の供給量を適正範囲に調整し、生成する消火剤水溶液の濃度を安定した値に維持することができる。
【0044】
また、消火剤流量調整器10は、消火剤原液の供給量を適正範囲に調整することで、消火剤混合装置50において送水流量が増加したときに過分に消火剤原液が供給されることがなくなり、消火剤原液の浪費を防止することが可能となる。さらにこれに伴い、消火剤混合装置50の消火剤貯蔵加圧タンク102の大型化を図ることなく、設定された放出時間中、消火剤水溶液の放出を続けることが可能となる。
【0045】
また、消火剤流量調整器10は、ケース部20とピストン部30を主要部とする簡易な構成によって消火剤水溶液の混合濃度の安定化を図るので、消火剤流量調整器10の生産コストを低減し、生産性の向上を図ることが可能となる。
特に、消火剤流量調整器10は、ピストン部30の第3の開口部32の内径サイズを調節することで、第3の開口部32を通過した消火剤原液の噴流によってピストン部30に作用する上昇とは逆向きの力の大きさを調整して、消火剤原液が所定流量に達した際にピストン部30が最上昇位置となるタイミングを設定することができるので、従来技術のように、コイルバネを用いてピストン部が動作するタイミングを設定することに比べて、より容易に消火剤の供給流量の調整を行うことができる。
【0046】
また、この消火剤流量調整器10のように、コイルバネを用いずに消火剤原液の流量に応じてピストン部30を上下動させることによれば、コイルバネを用いている従来技術のものよりもピストン部30の移動はスムーズになるので、消火配管主管103の送水流量か少ないときと増加したときとの消火剤水溶液の濃度差を小さくすることができる。
【0047】
なお、以上の実施の形態においては、ピストン部30の第2の開口部31は上端面の略中心に形成され、第3の開口部32は第2の開口部31を挟む配置に形成されているとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、ピストン部30の上端面がケース部20の内側天面に密接した際に、第2の開口部31がケース部20の第1の開口部24と連通する配置形成され、第3の開口部32が閉蓋される配置に形成されていれば、ピストン部30の上端面のいずれに設けられていてもよい。
同様に、ケース部20の第1の開口部24は第2の開口部31と連通する配置であれば、上ケース22のいずれに設けられていてもよい。
【0048】
また、ケース部20の第1の開口部24や、ピストン部30の第2の開口部31、第3の開口部32の開口面積については、使用条件や設計条件等により適正値が変動し得るものであり、特定値に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0049】
10 消火剤流量調整器
20 ケース部(可変手段)
21 下ケース
21b ガイド面
22 上ケース
22b ガイド面
23 流入口
24 第1の開口部(縮径部)
25 流出口
30 ピストン部(可変手段)
31 第2の開口部(縮径部)
32 第3の開口部(縮径部)
33 環状部材
34 ダイヤフラム
50 消火剤混合装置
図1
図2
図3
図4