(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のダイシング用基体フィルムは、芳香族ポリアミドを含む樹脂aを含有するA層を有することを特徴とする。以下、本発明のダイシング用基体フィルム及びそのダイシング用基体フィルムを有するダイシングフィルム等について詳細に説明する。
【0018】
1.ダイシング用基体フィルム
本発明のダイシング用基体フィルムは、A層のみからなる単層の基体フィルムであってもよく、また、ポリオレフィン樹脂を含有する樹脂bを含むB層をさらに有する多層構造の基体フィルムであってもよい。
【0019】
1−1.単層ダイシング用基体フィルム
単層のダイシング用基体フィルムは、前記樹脂aを含有するA層のみからなる。
【0020】
樹脂aに含まれる芳香族ポリアミドとしては、芳香族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸又はその誘導体との重縮合反応によって得られるポリアミド(結晶性芳香族ポリアミド);脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸又はその誘導体との重縮合反応によって得られるポリアミド(非晶性芳香族ポリアミド(アモルファスナイロン));及び芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸又はその誘導体との重縮合反応によって得られるポリアミド(全芳香族ポリアミド)が挙げられる。
【0021】
芳香族ジアミンとしては、メタキシレンジアミン、パラキシレンジアミン等が挙げられる。
【0022】
脂肪族ジカルボン酸としては、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。
【0023】
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。
【0024】
脂肪族ジカルボン酸又は芳香族ジカルボン酸等のジカルボン酸の誘導体としては、低級アルコール(例えばメタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1〜3のアルコール)とのエステル、酸クロライド、酸無水物等が挙げられる。
【0025】
好ましい結晶性芳香族ポリアミドとしては、ポリメタキシレンアジパミド(MXD−ナイロン)等が挙げられ、具体例としては、S−6007、S−6011(いずれも三菱ガス化学(株)製)等が例示される。
【0026】
好ましい非晶性芳香族ポリアミド(アモルファスナイロン)としては、ヘキサメチレンジアミン−テレフタル酸−ヘキサメチレンジアミン−イソフタル酸の共重合体等である。具体例としては、三井・デュポン・ポリケミカル(株)製のシーラーPA等が例示される。
【0027】
A層を構成する樹脂aは、前記芳香族ポリアミドのみ単独で使用してもよく、また、他の樹脂成分を含有していてもよい。ただし、芳香族ポリアミドは、樹脂a中、30質量%以上、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上で含有することが、ダイシング時に発生する切削屑を抑制できる観点から好ましい。
【0028】
A層を構成する樹脂a中に含まれる他の樹脂成分としては、芳香族ポリアミドとの相溶性が良好である点、ダイシング工程後に行われるエキスパンド工程において、十分なエキスパンド性が得られる点から、脂肪族ポリアミドが好ましい。
【0029】
脂肪族ポリアミドとしては、脂肪族ナイロン及びその共重合体が挙げられる。具体的には、ポリカプラミド(ナイロン−6)、ポリ−ω−アミノヘプタン酸(ナイロン−7)、ポリ−ω−アミノノナン酸(ナイロン−9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン−11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン−12)、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン−2,6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン−4,6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン−6,6)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン−6,10)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン−6,12)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン−8,6)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン−10,8)、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン−6/12)、カプロラクタム/ω−アミノノナン酸共重合体(ナイロン−6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン−6/6,6)、ラウリルラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン−12/6,6)、エチレンジアミンアジパミド/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン−2,6/6,6)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン−6,6/6,10)、エチレンアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン−6/6,6/6,10)等を例示できる。これらのうち、2種以上の脂肪族ポリアミドを混合しても良い。好ましい脂肪族ポリアミドとしては、ナイロン−6、ナイロン−6,6、ナイロン−6/6,6(ナイロン−6とナイロン−6,6の共重合体)が挙げられ、より好ましくはナイロン−6、ナイロン−6,6、ナイロン−6/6,6である。
【0030】
2種以上の脂肪族ポリアミドとしてはナイロン−6とナイロン−6,6の組み合わせ(質量比で50:50〜95:5程度)が好ましい。
【0031】
ナイロン−6としては、例えば宇部興産(株)製のUBEナイロン1013Bを、ナイロン−6,6としては、例えば宇部興産(株)製のUBEナイロン2015Bを、ナイロン−6/6,6としては、例えば宇部興産(株)製のUBEナイロン5023Bを用いることができる。
【0032】
他の樹脂成分(脂肪族ポリアミド)の含有割合としては、樹脂a中、1〜70質量%が好ましく、1〜60質量%がより好ましく、1〜50質量%がさらに好ましい。他の樹脂成分(結晶性ポリアミド)の含有割合を1質量%以上に設定することで、ダイシング工程後に行われるエキスパンド工程において、十分なエキスパンド性が得られる。また、他の樹脂成分(脂肪族ポリアミド)の含有割合を70質量%以下に設定することで、芳香族ポリアミドを含むことによる効果であるダイシング時に発生する切削屑の抑制が付与でき、好ましい。
【0033】
単層フィルムの厚さは、ダイシングブレードの切り込み深さよりも厚くし、且つ容易にロ−ル状に巻くことができる程度であれば良く、例えば50〜300μmであり、好ましくは60〜250μm、より好ましくは70〜200μmである。
【0034】
1−2.多層構造のダイシング用基体フィルム
本発明のダイシング用基体フィルムが多層構造である場合、次のA層/B層からなる二層のダイシング用基体フィルムが例示されるが、これに限定されない。
【0035】
二層ダイシング用基体フィルムとしては、例えば、A層/B層からなるダイシング用基体フィルムであって、A層は芳香族ポリアミドを30質量%以上含む樹脂aを含有し、B層はエチレン系樹脂、プロピレン系樹脂及びスチレン系樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するダイシング用基体フィルムが挙げられる。
【0036】
A層中に含有する樹脂aに含まれる芳香族ポリアミドとしては、上記「1−1.単層ダイシング用基体フィルム」で記載したものが挙げられる。また、A層を構成する樹脂aは、前記芳香族ポリアミドのみ単独で使用してもよく、また、他の樹脂成分を含有していてもよい。ただし、芳香族ポリアミドは、樹脂a中、30質量%以上、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上で含有することが、ダイシング時に発生する切削屑を抑制できる観点から好ましい。
【0037】
また樹脂aは、さらに他の樹脂成分として、脂肪族ポリアミドを含むことが好ましい。脂肪族ポリアミドとしては、上記「1−1.単層ダイシング用基体フィルム」で記載したものが挙げられる。
【0038】
他の樹脂成分(結晶性ポリアミド)の含有割合としては、樹脂a中、1〜70質量%が好ましく、1〜60質量%がより好ましく、1〜50質量%がさらに好ましい。
【0039】
B層は、半導体ウェハ等をダイシング後、エキスパンド工程において、十分なエキスパンド性を付与するために設ける。
【0040】
B層中に含まれる樹脂bは、エチレン系樹脂、プロピレン系樹脂及びスチレン系樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種以上の樹脂が含有される。エチレン系樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン若しくは超低密度ポリエチレン等のポリエチレン;エチレン−α−オレフィン共重合体である直鎖状低密度ポリエチレン若しくは超低密度ポリエチレンであって、α−オレフィンがプロピレン、ブテン−1、オクテン−1、4メチルペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1である樹脂;エチレンと共重合可能な成分との共重合体、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体、エチレン−メタアクリル酸メチル共重合体(EMMA)、エチレン−メタアクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン−メタアクリル酸エチル共重合体等のエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等を例示できる。プロピレン系樹脂としては、プロピレンの単独重合体、プロピレンを除く炭素数2〜10のα−オレフィンとの共重合体、例えば、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン共重合体、プロピレン−ヘキセン共重合体等を例示できる。また、ポリプロピレン中に、エチレン−プロピレンゴム等を微分散させたオレフィン系エラストマーもプロピレン系樹脂として例示できる。スチレン系樹脂としては、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン共重合体(SIS)やスチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体(SIBS)等の芳香族ビニル炭化水素−共役ジエン共重合体、スチレン−ブチルアクリレート共重合体等の芳香族ビニル炭化水素−脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体または耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)等を例示できる。また、スチレン系エラストマーであるスチレン−ブタジエン共重合体水素添加物(SEBS)もスチレン系樹脂として例示できる。
【0041】
これらエチレン系樹脂、プロピレン系樹脂、スチレン系樹脂はそれぞれ単独で用いることができる。また、エチレン系樹脂内での2種以上、プロピレン系樹脂内での2種以上、スチレン系樹脂内での2種以上の混合物を用いることもでき、エチレン系樹脂とプロピレン系樹脂、エチレン系樹脂とスチレン系樹脂、プロピレン系樹脂とスチレン系樹脂での2種以上の混合物、またはエチレン系樹脂、プロピレン系樹脂及びスチレン系樹脂での3種以上の混合物を用いることもできる。
【0042】
B層には、上記のエチレン系樹脂、プロピレン系樹脂、及びスチレン系樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を必須成分として含むが、必要に応じさらに帯電防止剤を含んでいてもよい。帯電防止剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤等の公知の界面活性剤を選択できるが、とりわけ持続性、耐久性の点から、ポリエーテルエステルアミド樹脂(以下「PEEA樹脂」と表記する)、親水性ポリオレフィン樹脂(以下「親水性PO樹脂」と表記する)等のノニオン性界面活性剤が好適である。
【0043】
前記PEEA樹脂は、親水性付与の主たるユニット成分であるポリエーテルエステルと、ポリアミドユニットとから構成されるポリマーであり、市販されているか、或いは公知の方法で容易に製造することができる。PEEA樹脂として、例えば、三洋化成工業(株)のペレスタットNC6321等が例示される。また、特開昭64−45429号公報、特開平6−287547号公報等にその製法が記載されており、これによれば、例えば、主鎖中にエーテル基を有するポリジオール成分にジカルボン酸成分を反応させて末端エステルに変え、これにアミノカルボン酸又はラクタムを反応させて製造できる。PEEA樹脂
は、前記いずれの層の樹脂とも相溶性が良く、ブリードアウトするような現象は一切ない。
【0044】
親水性PO樹脂としては、例えば、親水性ポリエチレン(以下「親水性PE樹脂」と表記する)又は親水性ポリプロピレン(以下「親水性PP樹脂」と表記する)が例示される。
【0045】
親水性PE樹脂又は親水性PP樹脂は、基本的にはポリエチレン鎖又はポリプロピレン鎖とポリオキシアルキレン鎖とがブロック結合したものであり、高い除電作用が発揮され静電気の蓄積をなくす。この結合は、エステル基、アミド基、エーテル基、ウレタン基等によって行われている。フィルム樹脂との相溶性の点から、この結合はエステル基又はエーテル基であるのが好ましい。親水性PP樹脂として、例えば、三洋化成工業(株)のペレスタット230等が例示される。
【0046】
親水性PE樹脂又は親水性PP樹脂におけるポリエチレン鎖又はポリプロピレン鎖の分子量は、例えば1200〜6000程度である。この分子量範囲であると、ポリオキシアルキレン鎖にポリエチレン又はポリプロピレンをブロック結合させる前段階の、ポリエチレン又はポリプロピレンの酸変性化が容易であるためである。
【0047】
また、親水性PE樹脂又は親水性PP樹脂におけるポリオキシアルキレン鎖の分子量は、耐熱性及び酸変性後のポリエチレン又はポリプロピレンとの反応性の点から、1000〜15000程度であるのが良い。なお、上記した分子量は、GPCを用いて測定した値である。
【0048】
親水性PE樹脂又は親水性PP樹脂は、例えば、前記した分子量を有するポリエチレン又はポリプロピレンを酸変性し、これにポリアルキレングリコールを反応させて製造することができる。より詳細については、例えば、特開2001−278985号公報、特開2003−48990号公報等に記載されている。
【0049】
B層が帯電防止剤を含む場合、帯電防止剤の含有量は、前記エチレン系樹脂、プロピレン系樹脂、及びスチレン系樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂100質量部に対し10〜45質量部、好ましくは20〜30質量部である。かかる範囲であれば、エキスパンドリングと接して一様にエキスパンドされる場合のB層の滑り性を損なうことなく、有効に半導電性が付与されるため、発生する静電気をすばやく除電することができる。例えば、上記した範囲で帯電防止剤を含有させた本発明の基体フィルムは、その裏面の表面抵抗率が10
7〜10
12Ω/□程度となるため好ましい。
【0050】
B層には、本発明の効果に悪影響を与えない範囲で、さらにアンチブロッキング剤等を加えてもよい。アンチブロッキング剤を添加することにより、ダイシング用基体フィルムをロール状に巻き取った場合等のブロッキングが抑えられ好ましい。アンチブロッキング剤としては、無機系又は有機系の微粒子を例示することができる。
【0051】
また、A層とB層間で層間剥離が生じ得る場合には、A層とB層の間に中間層を設けてもよい。中間層を設けることにより、A層とB層の接着性を向上させることができる。中間層に含まれる樹脂としては、A層とB層を接着させるこができる樹脂であれば特に限定されないが、例えば、不飽和カルボン酸またはその無水物をグラフト反応させて変性した酸変性ポリエチレン樹脂や酸変性ポリプロピレン樹脂等が挙げられる。具体的には、三井化学(株)製のアドマーLB540、アドマーLF128等を例示できる。
【0052】
A層及びB層を含む多層構造のダイシング用基体フィルムの厚さは、ダイシングブレードの切り込み深さよりも厚くし、且つ容易にロ−ル状に巻くことができる程度であれば良く、通常50〜300μmであり、好ましくは60〜250μm、より好ましくは70〜200μmである。
【0053】
二層構造のダイシング用基体フィルム全厚さに対し、A層の厚さの割合は、95〜50%、好ましくは90〜50%であり、B層の厚さの割合は、5〜50%、好ましくは10〜50%である。また、A層が、B層の厚さ1に対して、1〜19、好ましくは1〜9、より好ましくは3.3〜10である。
【0054】
ダイシング用基体フィルムの具体例としては、ダイシング用基体フィルムの全厚さが80〜180μmの場合、A層の厚さは40〜171μm、好ましくは40〜162μmである。B層の厚さは、9〜80μm、好ましくは18〜40μmである。
【0055】
2.ダイシング用基体フィルムの製法
本発明のダイシング用基体フィルムは、樹脂をフィルム成形することにより製造される。フィルム成形としては、押出成形が挙げられ、フィルムがA層及びB層を含む多層構造のフィルムである場合、各層の原料樹脂を共押出成形して製造する。具体的には、単層(A層)からなるダイシング用基体フィルムは、芳香族ポリアミドを30質量%以上含む樹脂a(A層用樹脂a)をフィルムに成形(押出成形)することにより製造することができる。
【0056】
また、A層/B層の二層からなるダイシング用基体フィルムは、芳香族ポリアミドを30質量%以上含む樹脂a(A層用樹脂a)、及びエチレン系樹脂、プロピレン系樹脂、及びスチレン系樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有する樹脂b(B層用樹脂b)を、共押出成形によりフィルムを成形することにより製造することができる。
【0057】
A層用樹脂aは、芳香族ポリアミドから調製する。また、A層用樹脂aが、芳香族ポリアミドとその他の樹脂(脂肪族ポリアミド)を含む場合には、所定割合の芳香族ポリアミドとその他の樹脂(脂肪族ポリアミド)をドライブレンド又は溶融混練し調製する。B層用樹脂bは、エチレン系樹脂、プロピレン系樹脂、及びスチレン系樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂から調製する。なお、B層を構成する樹脂bには、必要に応じてさらに帯電防止剤等の添加剤を加えてもよい。
【0058】
単層フィルムの場合、上記した単層(A層用)樹脂をバレル温度180〜280℃のスクリュー式押出機に供給し、240〜270℃の単層Tダイからフィルム状に押出し、これを15〜70℃の冷却ロ−ルに通しながら冷却して実質的に無延伸で引き取る。或いは、樹脂を一旦溶融混練しペレットとして取得した後、上記の様に押出成形してもよい。
【0059】
多層構造のフィルムの場合、上記した各層用樹脂をそれぞれこの順でバレル温度180〜280℃のスクリュー式押出機に供給し、240〜270℃の多層Tダイからフィルム状に押出し、これを15〜70℃の冷却ロ−ルに通しながら冷却して実質的に無延伸で引き取る。或いは、各層用樹脂を一旦溶融混練しペレットとして取得した後、上記の様に押出成形してもよい。
【0060】
なお、引き取りの際に実質的に無延伸とするのは、ダイシング後に行うフィルムの拡張を有効に行うためである。この実質的に無延伸とは、無延伸、或いは、ダイシングフィルムの拡張に悪影響を与えない程度の僅少の延伸を含むものである。通常、フィルム引き取りの際に、たるみの生じない程度の引っ張りであればよい。
【0061】
3.ダイシングフィルム
上記のダイシング用基体フィルムは、そのフィルム上に公知のアクリル系粘着剤をコートして粘着剤層が形成され、さらに必要に応じ該アクリル系粘着剤層(粘着剤層)上に離型フィルムが設けられて、ダイシングフィルムが製造される。つまり、ダイシング用基体フィルムのA層上に、アクリル系粘着剤層及び離型フィルムが形成される。
【0062】
アクリル系粘着剤層で用いられる粘着剤成分としては、公知のものが用いられ、例えば、特開平5−211234号公報等に記載された粘着剤成分を用いることができる。なお、離型フィルムも公知のものが用いられる。
【0063】
アクリル系粘着剤の具体例としては、(メタ)アクリル酸エステルを主たる構成単量体単位とする単独重合体及び共重合体から選ばれたアクリル系重合体、その他の官能性単量体との共重合体、及びこれら重合体の混合物が用いられる。例えば、(メタ)アクリル酸エステルとしては、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル等が好ましく使用できる。アクリル系重合体の分子量は、1.0×10
5〜10.0×10
5であり、好ましくは、4.0×10
5〜8.0×10
5である。
【0064】
また、上記のような粘着剤層中に放射線重合性化合物を含ませることによって、ウェハを切断分離した後、該粘着剤層に放射線を照射することによって、粘着力を低下させることができる。このような放射線重合性化合物としては、たとえば、光照射によって三次元網状化しうる分子内に光重合性炭素−炭素二重結合を少なくとも2個以上有する低分子量化合物が広く用いられる(例えば、特開昭60−196,956号公報、特開昭60−223,139号公報等)。
【0065】
具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートあるいは1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、市販のオリゴエステルアクリレート等が用いられる。
【0066】
さらに、放射線重合性化合物として、上記のようなアクリレート系化合物のほかに、ウレタンアクリレート系オリゴマーを用いることもできる。ウレタンアクリレート系オリゴマーは、ポリエステル型又はポリエーテル型等のポリオール化合物と、多価イソシアネート化合物とを反応させて得られる末端イソシアネートウレタンプレポリマーに、ヒドロキシル基を有するアクリレートあるいはメタクリレートを反応させて得られる。このウレタンアクリレート系オリゴマーは、炭素−炭素二重結合を少なくとも1個以上有する放射線重合性化合物である。
【0067】
さらに、粘着剤層中には、上記のような粘着剤と放射線重合性化合物とに加えて、必要に応じ、放射線照射により着色する化合物(ロイコ染料等)、光散乱性無機化合物粉末、砥粒(粒径0.5〜100μm程度)、イソシアネート系硬化剤、UV開始剤等を含有させることもできる。
【0068】
ダイシングフィルムは、通常テープ状にカットされたロール巻き状態で取得される。
【0069】
本発明のダイシングフィルムでは、ダイシング用基体フィルムの表面層(粘着剤層が形成される層、つまりA層)にアクリル系樹脂を添加することにより、アクリル系粘着剤との密着性が向上している。そのため、半導体チップをピックアップした際に、チップ側に粘着剤が残らないようにすることができ、半導体チップの汚染を防止することができる。
【実施例】
【0070】
以下に、本発明を実施例及び比較例を用いてより詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0071】
実施例及び比較例において下記の原料を用いた。
【0072】
・芳香族ポリアミド:ヘキサメチレンジアミン−テレフタル酸−ヘキサメチレンジアミン−イソフタル酸の共重合体(密度;1.18g/cm
3、MFR;3.5g/10分、ガラス転移点;125℃)
・脂肪族ポリアミド1:ナイロン−6とナイロン−6,6の混合物(質量比50:50)、ナイロン−6(ポリ−ε−カプロラクタム)(融点;220℃、相対粘度;2.47)、ナイロン−6,6(ポリヘキサメチレンアジパミド)(融点;260℃、相対粘度;2.45)
・脂肪族ポリアミド2:ナイロン−6とナイロン−6,6との共重合体(融点;196℃、相対粘度;3.04)
・エチレン系樹脂:分岐状低密度ポリエチレン(密度;0.924g/cm
3、融点;112℃、MFR;3.7g/10分)
実施例1(単層)
芳香族ポリアミドを原料樹脂とした。原料樹脂をバレル温度180〜280℃の押出機に投入し、270℃のTダイスから押出し、設定温度40℃の引き取りロールにて冷却固化して、無延伸の状態で巻き取った。得られたフィルムの厚さは、100μmであった。
【0073】
実施例2(単層)
芳香族ポリアミド(70質量%)と脂肪族ポリアミド1(30質量%)をブレンドして原料樹脂とした。原料樹脂を実施例1と同様の方法により、フィルムを成形した。得られたフィルムの厚さは、100μmであった。
【0074】
実施例3(単層)
芳香族ポリアミド(50質量%)と脂肪族ポリアミド2(50質量%)をブレンドして原料樹脂とした。原料樹脂を実施例1と同様の方法により、フィルムを成形した。得られたフィルムの厚さは、100μmであった。
【0075】
比較例1(単層)
脂肪族ポリアミド2を原料樹脂とした。原料樹脂を実施例1と同様の方法により、フィルムを成形した。得られたフィルムの厚さは、100μmであった。
【0076】
比較例2(単層)
芳香族ポリアミド(25質量%)と脂肪族ポリアミド2(75質量%)をブレンドして原料樹脂とした。原料樹脂を実施例1と同様の方法により、フィルムを成形した。得られたフィルムの厚さは、100μmであった。
【0077】
実施例4(多層)
芳香族ポリアミド(50質量%)と脂肪族ポリアミド2(50質量%)をブレンドしてA層用原料樹脂とした。また、エチレン系樹脂(100質量%)をB層用原料樹脂とした。A層用原料樹脂をバレル温度180〜230℃の押出機に、またB層用原料樹脂をバレル温度180〜280℃の押出機にそれぞれ投入し、270℃の多層Tダイスから押出し、設定温度40℃の引き取りロールにて冷却固化して、無延伸の状態で巻き取った。得られた多層フィルムの厚さは、A層50μm、B層50μmであり、全体厚み100μmであった。
【0078】
実施例5(多層)
芳香族ポリアミドをA層用原料樹脂とした以外は実施例4と同様の方法によりフィルムを成形した。得られた多層フィルムの厚さは、A層50μm、B層50μmであり、全体厚み100μmであった。
【0079】
得られた実施例1〜5及び比較例1〜3の各フィルムについて、以下の試験を行い物性を評価した。実施例1〜3及び比較例1〜2の評価結果を表1に、実施例4及び5の評価結果を表2に示す。
【0080】
[切削屑評価]
株式会社ディスコ製のダイシング装置(DAD−2H/6)を用い、ブレード(ZH05−SD2000−N1−90CD、刃300μm巾)、フィルム基材のみに、表面層から水量目盛1.2L/min、切り込み深さ40μmの条件で切り込みを入れた。
【0081】
形成された溝内部の切り屑の状態を目視し、以下の基準により評価3段階で評価した。なお、下記評価において、3が最も評価が良い。
【0082】
1: 50μm以上の切削屑が存在する
2: 10μm以上であって、50μm未満の切削屑が10本以上であり、50μm以上の切削屑が存在しない
3: 10μm未満の切削屑が10本以下である
なお上記の評価は、株式会社キーエンス製のデジタルマイクロスコープ(VHX−100)を用いて、倍率150倍に拡大した写真をもとに評価したものである。上記の実施例2及び比較例1基体フィルムに形成された溝の部分の拡大写真を
図1及び
図2にそれぞれ示す。
【0083】
[25%モジュラス]
得られた基体フィルムを、長さ110mm(標線間隔40mm+つかみシロ(上下に35mmずつ))、巾10mmの大きさに切り出し、引張スピード200mm/minでMD方向(押出し方向)、TD方向(フィルム成形により成形されたフィルムの幅方向)にそれぞれ25%伸ばした時の応力(N)をサンプル巾(10mm)で割った値を、25%モジュラスとして評価した。
なお、測定装置としては、(株)島津製作所製の「オートグラフAG−500NX TRAPEZIUM X」を用いた。
25%モジュラスの値が20MPa以下であれば、エキスパンド性は良好であり、30mm引き落としによるピックアップ工程において良好に使用することができる。
25%モジュラスの値が20MPaを超え、85MPa以下の場合、30mm引き落としには耐えられないが、5mm引き落としでのピックアップ工程において良好に使用することができる。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】