特許第6293062号(P6293062)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6293062
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】金属−樹脂複合材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20180305BHJP
【FI】
   B29C45/14
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-557969(P2014-557969)
(86)(22)【出願日】2012年9月26日
(65)【公表番号】特表2015-511190(P2015-511190A)
(43)【公表日】2015年4月16日
(86)【国際出願番号】CN2012082025
(87)【国際公開番号】WO2013123769
(87)【国際公開日】20130829
【審査請求日】2014年10月1日
【審判番号】不服2016-9029(P2016-9029/J1)
【審判請求日】2016年6月17日
(31)【優先権主張番号】201210043637.X
(32)【優先日】2012年2月24日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】505327398
【氏名又は名称】ビーワイディー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】BYD COMPANY LIMITED
(73)【特許権者】
【識別番号】512197733
【氏名又は名称】シェンゼェン ビーワイディー オート アールアンドディー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゴン、チン
(72)【発明者】
【氏名】チャン、シオン
(72)【発明者】
【氏名】チャン、イーウー
(72)【発明者】
【氏名】チョウ、ウェイ
【合議体】
【審判長】 小野寺 務
【審判官】 大島 祥吾
【審判官】 渕野 留香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−30177(JP,A)
【文献】 特開2005−342895(JP,A)
【文献】 特開平7−53865(JP,A)
【文献】 特開昭62−280258(JP,A)
【文献】 特開昭62−43458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00 - 45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属と樹脂との複合材を製造するための方法であって、下記の工程:
A)ナノ細孔を、形状化された金属の表面の少なくとも一部に形成する工程、および
B)熱可塑性樹脂を、形状化された金属の表面に直接に射出成形する工程
を含み、
熱可塑性樹脂は、主樹脂と、ポリオレフィン樹脂とを含み、主樹脂は、ポリフェニレンエーテルおよびポリフェニレンスルフィドの混合物を含み、ポリオレフィン樹脂は、65℃〜105℃の融点を有し、
熱可塑性樹脂が流動性向上剤をさらに含み、100重量部の熱可塑性樹脂に対して、流動性向上剤の量が1重量部〜5重量部であり、流動性向上剤は環状ポリエステルを含む、方法。
【請求項2】
工程A)において、ナノ細孔を形成することが、下記の工程:
形状化された金属の表面の少なくとも一部を陽極酸化して、ナノ細孔をその表面に有する酸化物層を形成する工程
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸化物層が1μm〜10μmの厚さを有し、ナノ細孔が10nm〜100nmの平均細孔サイズおよび0.5μm〜9.5μmの平均深さを有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
陽極酸化することが、
形状化された金属を、濃度が10wt%〜30wt%であるHSO溶液に陽極として置くこと、および
形状化された金属を10V〜100Vの電圧、10℃〜30℃の温度で1分〜40分間、電解処理し、1μm〜10μmの厚さを有する酸化物層を、形状化された金属の表面の少なくとも一部に形成すること
を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
工程A)において、ナノ細孔を形成することが、下記の工程:
酸化物層をその表面に有する形状化された金属をエッチング液に浸漬し、腐食細孔を酸化物層の外表面に形成する工程
をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
腐食細孔がナノ細孔と連通し、腐食細孔が200nm〜2000nmの細孔サイズおよび0.5μm〜9.5μmの深さを有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
エッチング液が、酸化物層を腐食する溶液を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
100重量部の熱可塑性樹脂に対して、主樹脂の量が70重量部〜95重量部であり、ポリオレフィン樹脂の量が5重量部〜30重量部である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
熱可塑性樹脂がガラス繊維をさらに含み、100重量部の熱可塑性樹脂に対して、ガラス繊維の量が1重量部〜30重量部である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
主樹脂におけるポリフェニレンエーテルおよびポリフェニレンスルフィドの重量比が3:1〜1:3である、請求項1または8に記載の方法。
【請求項11】
ポリオレフィン樹脂がグラフト化ポリエチレンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
形状化された金属が、アルミニウム、ステンレススチールおよびマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1つから作製される、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属−プラスチック一体成形の分野に関し、より具体的には、金属と樹脂との複合材を製造するための方法、および当該方法によって得ることができる金属−樹脂複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、家庭用器具および工業用機械などの物品を製造する分野では、金属と樹脂とが一緒にしっかりと接合されている必要がある。現在、従来の方法では、接着剤が、金属と合成樹脂とを一体的に接合するために常温または加熱下で使用される。1つの研究方針は、高い強度を有するエンジニアリング樹脂を、接着剤を用いることなく、直接、マグネシウム合金、アルミニウム合金または合金鉄、例えばステンレス鋼に一体的に接合することである。
【0003】
ナノ成形技術(NMT)は、金属シートの表面をナノ成形することにより、樹脂を金属シートの表面に直接に射出成形させ、その結果、金属−樹脂の一体成形物を得るようにする、金属と樹脂とを一体的に接合する技術である。金属と樹脂との効果的な接合のために、NMTは、低コストおよび高性能の金属−樹脂一体成形物を提供するように、一般に使用されているインサート成形あるいは亜鉛−アルミニウムまたはマグネシウム−アルミニウムのダイキャスティングに取って代わることができる。この接合技術と比較した場合、NMTは、成形物の全重量を軽減させることができ、また、機械的構造の優れた強度、高い加工速度、高い生産量、および多くの外観装飾方法を保証することができ、その結果として、車両、IT装置および3C製品に適用することができる。
【0004】
Japan Taisei Plas Co.,Ltd.により、金属と樹脂組成物とを一体成形するための方法を提案する一連の特許出願が提出された:例えば、CN1492804A、CN1717323A、CN101341023AおよびCN101631671A。この方法では、高い結晶性を有するポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)およびポリアミド(PA)を含有する樹脂組成物を射出成形材料として使用することによって、樹脂組成物が、ナノ成形されたアルミニウム合金層の表面に直接に射出成形されて、樹脂組成物がナノスケールのミクロ細孔に入り込むことを可能にし、その結果、ある特定の機械的強度を有する金属−樹脂一体成形物を得るようにする。しかしながら、この方法で使用される樹脂は全てが高結晶性樹脂であるので、より長い冷却時間および厳密な金型温度が、機械性能を保証するために成形過程において必要とされるはずであり、他方で、高結晶性樹脂は、多くの場合、プラスチック表面を加工困難にしており、これにより、外観用品において使用されるとき、金属元素との著しい相違が生じる。
【0005】
そのため、先行技術は、プラスチック品の表面装飾に関する問題を解決することができず、金属と樹脂とを一体成形するための方法は改善されなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の実施形態は、先行技術において存在する問題の少なくとも1つを少なくともある程度は解決しようとするものであり、具体的には、プラスチックがナノ成形技術(NMT)において高結晶性樹脂であるとき、複雑な成形プロセスの技術的問題、厳しい条件、プラスチック層の表面が加工困難であるという事実、プラスチック品の表面装飾、および低い機械的強度を解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様によれば、金属と樹脂との複合材を製造するための方法が提供される。この方法は、下記の工程:
A)ナノ細孔を形状化された金属の表面の少なくとも一部に形成する工程、および
B)熱可塑性樹脂を形状化された金属の表面に直接に射出成形する工程
を含み、
熱可塑性樹脂は、主樹脂と、ポリオレフィン樹脂とを含み、主樹脂はポリフェニレンエーテルおよびポリフェニレンスルフィドの混合物を含み、ポリオレフィン樹脂は約65℃〜約105℃の融点を有する。
【0008】
本開示の第2の態様によれば、本開示の第1の態様による方法によって得ることができる金属−樹脂複合材が提供される。
【0009】
本開示の第3の態様によれば、形状化された金属部分;樹脂から作製されるプラスチック部分;金属部分とプラスチック部分との間に形成される酸化物層を含む金属−樹脂複合材であって、酸化物層は、プラスチック部分と接触する表面における腐食細孔、および形状化された金属部分と接触する表面におけるナノ細孔を有し;ナノ細孔は約10nm〜約100nmの平均細孔サイズおよび約0.5μm〜約9.5μmの平均深さを有し、腐食細孔は約200nm〜約2000nmの平均細孔サイズおよび約0.5μm〜約9.5μmの平均深さを有し;腐食細孔の一部がナノ細孔の一部と連通しており;樹脂の一部がナノ細孔および腐食細孔に充填されている、金属−樹脂複合材が提供される。
【0010】
金属と樹脂とを本開示の実施形態に従って一体成形するための方法では、良好な表面光沢および良好な靭性を有する非結晶性樹脂、すなわち、ポリフェニレンエーテルおよびポリフェニレンスルフィドと、融点が約65℃〜約105℃であるポリオレフィン樹脂との混合物も使用される。したがって、特定の金型温度における射出成形が成形期間中に要求されない場合があり、その後のアニーリング処理も要求されない場合があり、成形プロセスが簡略化される場合があり、また、得られた金属−樹脂複合材は、高い機械的強度および良好な表面処理特性を有することによりプラスチック品の表面装飾の問題を解決し得、かつ、顧客の多様な要求を満たし得ることが保証される場合がある。
【0011】
本開示の実施形態のさらなる態様および利点は、以下の記載において部分的に付与され、以下の記載から部分的に明らかになり、または本開示の実施形態の実施から学び取られる。
【0012】
[関連出願に対する相互参照]
本出願は、中国国家知識産権局に2012年2月24日に提出された中国特許出願番号201210043637.Xの優先権および利益を主張し、その内容全体が参照によって本明細書中に組み込まれる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の実施形態に詳しく言及する。本明細書中に記載される実施形態は説明的かつ例示的であり、本開示を大まかに理解するために使用される。該実施形態は、本開示を限定すると解釈されてはならない。
【0014】
本開示の第1の態様によれば、金属と樹脂との複合材を製造するための方法が提供される。この方法は、下記の工程:
A)ナノ細孔を形状化された金属の表面の少なくとも一部に形成する工程、および
B)熱可塑性樹脂を形状化された金属の表面に直接に射出成形する工程
を含み、
上熱可塑性樹脂は、主樹脂と、ポリオレフィン樹脂とを含み、主樹脂は、ポリフェニレンエーテルおよびポリフェニレンスルフィドの混合物を含み、ポリオレフィン樹脂は、約65℃〜約105℃の融点を有する。
【0015】
先行技術において使用される樹脂は全てが高結晶性樹脂であるので、プラスチック層の表面は処理困難である場合がある。本開示では、この理由に基づいて、表面光沢および靭性がともに先行技術における高結晶性樹脂の表面光沢および靭性よりも優れている非結晶性樹脂が射出成形材料として使用され、また、融点が約65℃〜約105℃であるポリオレフィン樹脂も使用される。したがって、特定の金型温度における射出成形が成形期間中に要求されない場合があり、その後のアニーリング処理も要求されない場合があり、成形プロセスが簡略化される場合があり、また、得られた金属−樹脂複合材は、高い機械的強度および良好な表面処理特性を有することによりプラスチック品の表面装飾の問題を解決し得、かつ、顧客の多様な要求を満たし得ることが保証される場合がある。
【0016】
本開示において、金属−樹脂一体成形の機構は下記の通りである:ナノスケールのミクロ細孔が金属シートの表面に形成される;樹脂組成物が金属シートの表面で溶融し、このとき、溶融した樹脂組成物の一部がナノスケールのミクロ細孔中に浸透する;次いで、金属と樹脂組成物とが一体的に射出成形される。
【0017】
具体的には、工程A)において、ナノ細孔を金属シートの表面に形成することは、形状化された金属の表面の少なくとも一部を陽極酸化し、ナノ細孔をその表面に有する酸化物層を形成することを含む。この陽極酸化技術は当業者に周知である。いくつかの実施形態において、金属シートの表面を陽極酸化することは、形状化された金属を、濃度が約10wt%〜約30wt%であるHSO溶液に陽極として置くこと、および形状化された金属を約10V〜約100Vの電圧、約10℃〜約30℃の温度で約1分〜約40分間、電解処理し、約1μm〜約10μmの厚さを有する酸化物層を、形状化された金属の表面の少なくとも一部に形成することを含んでいてよい。陽極酸化装置は周知の陽極酸化装置であってよく、例えば、陽極酸化浴であってよい。
【0018】
陽極酸化することによって、ナノ細孔を伴って形成される酸化物層が金属シートの表面に形成される。好ましくは、酸化物層は厚さが約1μm〜約10μmであり、より好ましくは約1μm〜約5μmである。
【0019】
ナノ細孔は、好ましくは平均細孔サイズが約10nm〜約100nmであり、より好ましくは平均細孔サイズが約20nm〜約80nmであり、最も好ましくは平均細孔サイズが約20nm〜約60nmである。ナノ細孔は平均深さが約0.5μm〜約9.5μmであり、好ましくは平均深さが約0.5μm〜約5μmである。ナノ細孔の構造を最適化することによって、ナノ細孔における溶融樹脂組成物の充填度が高められ得、また、この深さを有するナノスケールのミクロ細孔が従来の射出成形プロセスにおける溶融樹脂により充填され得ることが保証され得、このことは、樹脂と酸化物層との間の結合面積を減少させない場合があるが、ナノ細孔間には隙間がないので、樹脂と金属との間の連結力をさらに改善し得る。
【0020】
1つの好ましい実施形態において、工程A)において、ナノ細孔を金属シートの表面に形成することは、酸化物層をその表面に有する形状化された金属をエッチング液に浸漬し、腐食細孔を酸化物層の外表面に形成する工程をさらに含んでいてよい。腐食細孔の少なくとも一部がナノ細孔の一部と連通している。腐食細孔およびナノ細孔によって形成される二重層の三次元細孔構造によって、樹脂組成物の浸透性がさらに高められ得、また、樹脂組成物と金属との間の連結力が改善され得、これにより成形をさらに容易にし得る。
【0021】
腐食細孔は、好ましくは平均細孔サイズが約200nm〜約2000nmであり、より好ましくは平均細孔サイズが約200nm〜約1000nmであり、最も好ましくは平均細孔サイズが約400nm〜約1000nmである。腐食細孔は平均深さが約0.5μm〜約9.5μmであり、好ましくは平均深さが約0.5μm〜約5μmである。腐食細孔の構造を最適化することによって、樹脂組成物の直接の注入および射出成形の際の樹脂組成物と合金との間の接合がさらに容易になり得る。
【0022】
エッチング液は、酸化物層を腐食し得るいずれの溶液を含んでいてもよい。一般に、エッチング液は、酸化物層を溶解し、かつ、調整される濃度を有し得る溶液、例えば、酸/塩基のエッチング液を含んでいてよい。好ましくは、エッチング液は、pHが約10〜約13である単一の塩基性溶液、または、複合緩衝液であってよい。pHが約10〜約13である単一の塩基性溶液は、NaCO水溶液、NaHCO水溶液およびNaOH水溶液からなる群から選択される少なくとも1つ、好ましくはNaCO水溶液および/またはNaHCO水溶液を含んでいてよく、これにより、腐食細孔が酸化物層の表面に均一に分布し、かつ、均一な細孔サイズを有することを可能にし、また、樹脂層とアルミニウム合金基体との間でのより良好な接合性能、ならびにアルミニウム合金複合材構造のより高い引張強度およびより良好な一体的接合を達成する。NaCO水溶液および/またはNaHCO水溶液は固形分が約0.1wt%〜約15wt%であってよい。複合緩衝液は、可溶性ヒドロリン酸塩および可溶性塩基の混合溶液、例えば、リン酸二水素ナトリウムおよび水酸化ナトリウムの水溶液であってよい。リン酸二水素ナトリウムおよび水酸化ナトリウムの水溶液は固形分が約0.1wt%〜約15wt%であってよい。
【0023】
酸化物層がその表面に形成される金属シートをエッチング液に浸漬することは、金属シートをエッチング液に2回〜10回繰り返し浸漬すること(各浸漬は約1分間から約60分間続く)、および金属シートを各浸漬の後で脱イオン水により清浄化することを含んでいてよい。金属シートを清浄化することは、金属シートを洗浄浴に置いて、金属シートを約1分間〜約5分間洗浄すること、または、金属シートを洗浄浴に置いて、金属シートを約1分間〜約5分間置くことを含んでいてよい。
【0024】
本開示において、融点が約65℃〜約105℃であるポリオレフィン樹脂を非結晶性の主樹脂において使用することによって、金属シートの表面でのナノスケールのミクロ細孔における樹脂の流動能が高められ得、これにより、金属とプラスチックとの間の強い接着力、ならびに金属−樹脂複合材の高い機械的強度が保証されることが、多くの実験により本発明者らによって見出された。好ましくは、100重量部の熱可塑性樹脂に対して、主樹脂の量が約70重量部〜約95重量部であり、ポリオレフィン樹脂の量が約5重量部〜約30重量部である。
【0025】
樹脂の流動能は、流動性向上剤を熱可塑性樹脂に含ませることによって高められ得、これにより、金属とプラスチックとの間の接着力および樹脂の射出成形性能がさらに高まることも、本発明者らによって見出された。好ましくは、100重量部の熱可塑性樹脂に対して、熱可塑性樹脂は約1重量部〜約5重量部の流動性向上剤を含んでいてよい。好ましくは、流動性向上剤は環状ポリカルボナートを含む。
【0026】
ガラス繊維を熱可塑性樹脂に含むことにより、プラスチックの収縮率を低減し得ることも、本発明者らによって見出された。好ましくは、100重量部の熱可塑性樹脂に対して、熱可塑性樹脂は約10重量部〜約30重量部のガラス繊維を含んでいてよい。
【0027】
上記のように、本開示では、主樹脂は非結晶性樹脂を含む。具体的には、主樹脂は、ポリフェニレンエーテル(PPO)およびポリフェニレンスルフィド(PPS)の混合物を含む。好ましくは、PPOおよびPPSの重量比が約3:1〜約1:3であり、より好ましくは2:1〜1:1である。
【0028】
本開示において、ポリオレフィン樹脂は約65℃〜約105℃の融点を有する。好ましくは、ポリオレフィン樹脂はグラフト化ポリエチレンであってよい。より好ましくは、ポリオレフィン樹脂は、融点が約100℃または約105℃であるグラフト化ポリエチレンであってよい。
【0029】
本開示において、金属は、先行技術において一般に使用されるいずれの金属であってもよく、その適用領域に従って適切に選択されてよい。例えば、金属は、アルミニウム、ステンレススチールおよびマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1つであってよい。
【0030】
本開示の第2の態様によれば、本開示の第1の態様による方法によって得ることができる金属−樹脂複合材も提供される。
【0031】
本開示の第3の態様によれば、形状化された金属部分;樹脂から作製されるプラスチック部分;金属部分とプラスチック部分との間に形成される酸化物層を含む金属−樹脂複合材であって、酸化物層は、プラスチック部分と接触する表面における腐食細孔、および形状化された金属部分と接触する表面におけるナノ細孔を有し;ナノ細孔は約10nm〜約100nmの平均細孔サイズおよび約0.5μm〜約9.5μmの平均深さを有し、腐食細孔は約200nm〜約2000nmの平均細孔サイズおよび約0.5μm〜約9.5μmの平均深さを有し;腐食細孔の一部がナノ細孔の一部と連通しており;樹脂の一部がナノ細孔および腐食細孔に充填されている、金属−樹脂複合材が提供される。
【0032】
本開示の実施形態による金属−樹脂複合材において、金属シートおよびプラスチック層は、強い接着力および高い機械的強度を有する一体的に形成された構造である。表1に示されるように、それぞれの金属−樹脂複合材が、約19MPa〜約22MPaの破壊強度と、約270J/m〜約350J/mの衝撃強度とを有する。
【0033】
本開示の技術的問題、技術的解決および好都合な効果をより明確にするために、本開示を、さらに、その実施例を参照して以下に詳しく記載する。本明細書中に記載される具体的な実施例は、本開示を理解するために単に使用されるだけであることが理解されよう。該実施例は、本開示を限定すると解釈されてはならない。実施例および比較例において使用される原料は、全て市販されており、特に限定されない。
【実施例】
【0034】
実施例1
(1)前処理:
厚さが1mmである市販のA5052アルミニウム合金プレートを18mm×45mmの矩形シートに切断し、次いで、これらを40g/LのNaOH水溶液に浸漬した。NaOH水溶液の温度は40℃であった。1分後、矩形シートを水で洗浄し、乾燥して、前処理されたアルミニウム合金シートを得た。
【0035】
(2)表面処理1:
陽極としての各アルミニウム合金シートを、20wt%のHSO溶液を含有する陽極酸化浴に置き、アルミニウム合金を20Vの電圧で18℃にて10分間、電解処理し、次いで、アルミニウム合金シートをドライヤーで乾燥した。
【0036】
表面処理1の後のアルミニウム合金シートの断面を金属顕微鏡によって観察して、厚さが5μmである酸化アルミニウム層が電解処理後のアルミニウム合金シートの表面に形成されたことを見出した。表面処理1の後のアルミニウム合金シートの表面を電子顕微鏡によって観察して、平均細孔サイズが約40nm〜約60nmであり、かつ、深さが1μmであるナノ細孔が酸化アルミニウム層に形成されたことを見出した。
【0037】
(3)表面処理2:
温度が20℃である500mlの10wt%炭酸ナトリウム溶液(pH=12)をビーカーにおいて調製した。工程(2)の後のアルミニウム合金シートをこの炭酸ナトリウム溶液に浸漬し、5分後に取り出し、浸漬される水を含有するビーカーに1分間置いた。5サイクルの後、最後に水に浸漬した後、アルミニウム合金シートをドライヤーで乾燥した。
【0038】
表面処理2の後のアルミニウム合金シートの表面を電子顕微鏡によって観察して、平均細孔サイズが300nm〜1000nmであり、かつ、深さが4μmである腐食細孔が浸漬後のアルミニウム合金シートの表面に形成されたことを見出した。酸化アルミニウム層における二重層の三次元細孔構造が存在したこと、および腐食細孔がナノ細孔と連通していたことも観察することができる。
【0039】
(4)成形:
46重量部のポリフェニレンエーテル(PPO)(ZhongLanChenGuang PPO LXR040)、23重量部のポリフェニレンスルフィド(PPS)(SiChuanDeYang PPS−HC1)、3重量部の流動度改善剤の環状ポリカルボナート(CBT100)、8重量部の、65℃の融点を有するグラフト化ポリエチレン(Arkema Lotader AX8900)、および20重量部のガラス繊維(ZheJiangJuShi 988A)を秤量し、均一に混合して、樹脂混合物を得る。次いで、射出成形機を使用して、溶融した樹脂混合物を工程(3)の後のアルミニウム合金シートの表面に射出成形して、本実施例における金属−樹脂複合材S1を得た。
【0040】
実施例2
本実施例における金属−樹脂複合材S2を、下記の点を除いて、実施例1における方法と実質的に同じである方法によって調製した。
【0041】
工程(1)において、実施例1におけるアルミニウム合金プレートの代わりに、厚さが3mmである市販のマグネシウム合金プレートを18mm×45mmの矩形シートに切断した。
【0042】
工程(2)において、陽極としての各マグネシウム合金シートを、20wt%のHSO溶液を含有する陽極酸化浴に置き、マグネシウム合金を15Vの電圧で18℃にて10分間、電解処理し、次いで、マグネシウム合金シートをドライヤーで乾燥した。
【0043】
表面処理1の後のマグネシウム合金シートの断面を金属顕微鏡によって観察して、厚さが5μmである酸化マグネシウム層が電解処理後のマグネシウム合金シートの表面に形成されたことを見出した。表面処理1の後のマグネシウム合金シートの表面を電子顕微鏡によって観察して、平均細孔サイズが20nm〜40nmであり、かつ、深さが1μmであるナノのミクロ細孔が酸化マグネシウム層に形成されたことを見出した。
【0044】
表面処理2の後のマグネシウム合金シートの表面を電子顕微鏡によって観察して、平均細孔サイズが300nm〜1000nmであり、かつ、深さが4μmである腐食細孔が浸漬後のマグネシウム合金シートの表面に形成されたことを見出した。酸化マグネシウム層における二重層の三次元細孔構造が存在したこと、および、腐食細孔がナノ細孔と連通していたことも観察することができる。
【0045】
上記工程の後、本実施例における金属−樹脂複合材S2を得た。
【0046】
実施例3
本実施例における金属−樹脂複合材S3を、下記の点を除いて、実施例1における方法と実質的に同じである方法によって調製した。
【0047】
工程(2)において、陽極としての各アルミニウム合金シートを、20wt%のHSO溶液を含有する陽極酸化浴に置き、アルミニウム合金を40Vの電圧で18℃にて10分間、電解処理し、次いで、アルミニウム合金シートをドライヤーで乾燥した。
【0048】
表面処理1の後のアルミニウム合金シートの断面を金属顕微鏡によって観察して、厚さが5μmである酸化アルミニウム層が電解処理後のアルミニウム合金シートの表面に形成されたことを見出した。表面処理1の後のアルミニウム合金シートの表面を電子顕微鏡によって観察して、平均細孔サイズが60nm〜80nmであり、かつ、深さが1μmであるナノ細孔が酸化アルミニウム層に形成されたことを見出した。
【0049】
表面処理2の後のアルミニウム合金シートの表面を電子顕微鏡によって観察して、平均細孔サイズが300nm〜1000nmであり、かつ、深さが4μmである腐食細孔が浸漬後のアルミニウム合金シートの表面に形成されたことを見出した。酸化アルミニウム層における二重層の三次元細孔構造が存在したこと、および腐食細孔がナノ細孔と連通していたことも観察することができる。
【0050】
上記工程の後、本実施例における金属−樹脂複合材S3を得た。
【0051】
実施例4
本実施例における金属−樹脂複合材S4を、下記の点を除いて、実施例1における方法と実質的に同じである方法によって調製した。
【0052】
工程(4)において、35重量部のポリフェニレンエーテル(PPO)(ZhongLanChenGuang PPO LXR040)、35重量部のポリフェニレンスルフィド(PPS)(SiChuanDeYang PPS−HC1)、10重量部の流動度改善剤のエポキシドオリゴエステル(CBT100)、8重量部の、105℃の融点を有するグラフト化ポリエチレン(Arkema Lotader AX8900)、および20重量部のガラス繊維(ZheJiangJuShi 988A)を秤量し、次いで、射出成形機を使用して、溶融した樹脂混合物を工程(3)の後のアルミニウム合金シートの表面に射出成形して、本実施例における金属−樹脂複合材S4を得た。
【0053】
実施例5
本実施例における金属−樹脂複合材S5を、下記の点を除いて、実施例2における方法と実質的に同じであった方法によって調製した。
【0054】
工程(4)において、59重量部のポリフェニレンエーテル(PPO)(ZhongLanChenGuang PPO LXR040)、30重量部のポリフェニレンスルフィド(PPS)(SiChuanDeYang PPS−HCL)、3重量部の流動度改善剤のエポキシドオリゴエステル(CBT100)、および8重量部の、65℃の融点を有するグラフト化ポリエチレン(Arkema Lotader AX8900)を秤量し、樹脂混合物を均一な混合の後で得た。次いで、射出成形機を使用して、溶融した樹脂混合物を工程(3)の後のアルミニウム合金シートの表面に射出成形して、本実施例における金属−樹脂複合材S5を得た。
【0055】
比較例1
本比較例における金属−樹脂複合材DS1を、下記の点を除いて、実施例1における方法と実質的に同じであった方法によって調製した。
【0056】
工程(4)において、51重量部のポリフェニレンエーテル(PPO)(ZhongLanChenGuang PPO LXR040)、26重量部のポリフェニレンスルフィド(PPS)(SiChuanDeYang PPS−HCL)、3重量部の流動度改善剤のエポキシドオリゴエステル(CBT100)、および20重量部のガラス繊維(ZheJiangJuShi 988A)を秤量し、樹脂混合物を均一な混合の後で得た。次いで、射出成形機を使用して、溶融した樹脂混合物を工程(3)の後のアルミニウム合金シートの表面に射出成形して、本比較例における金属−樹脂複合材DS1を得た。
【0057】
比較例2
本比較例における金属−樹脂複合材DS2を、下記の点を除いて、実施例1における方法と実質的に同じであった方法によって調製した。
【0058】
工程(4)において、89重量部のポリフェニレンスルフィド(PPS)(SiChuanDeYang PPS−HCL)、3重量部の流動度改善剤のエポキシドオリゴエステル(CBT100)、および8重量部の、105℃の融点を有するグラフト化ポリエチレン(Arkema Lotader AX8900)、樹脂混合物を均一な混合の後で得た。次いで、射出成形機を使用して、溶融した樹脂混合物を工程(3)の後のアルミニウム合金シートの表面に射出成形して、本比較例における金属−樹脂複合材DS2を得た。
【0059】
比較例3
本比較例における金属−樹脂複合材DS3を、下記の点を除いて、実施例1における方法と実質的に同じであった方法によって調製した。
【0060】
工程(4)において、91重量部のポリフェニレンスルフィド(PPS)(SiChuanDeYang PPS−HCL)、3重量部の流動度改善剤のエポキシドオリゴエステル(CBT100)、および8重量部の、105℃の融点を有するグラフト化ポリエチレン(Arkema Lotader AX8900)を秤量し、樹脂混合物を均一な混合の後で得た。次いで、射出成形機を使用して、溶融した樹脂混合物を工程(3)の後のアルミニウム合金シートの表面に射出成形し、物品全体を180℃でのアニール処理に1時間供して、本比較例における金属−樹脂複合材DS3を得た。
【0061】
比較例4
本比較例における金属−樹脂複合材DS4を、下記の点を除いて、実施例1における方法と実質的に同じであった方法によって調製した。
【0062】
工程(4)において、84重量部のポリフェニレンスルフィド(PPS)(SiChuanDeYang PPS−HCL)、3重量部の流動度改善剤のエポキシドオリゴエステル(CBT100)、8重量部の、105℃の融点を有するグラフト化ポリエチレン(Arkema Lotader AX8900)、および5重量部の柔軟剤(Arkema Lotader AX8840)を秤量し、樹脂混合物を均一な混合の後で得た。次いで、射出成形機を使用して、溶融した樹脂混合物を工程(3)の後のアルミニウム合金シートの表面に射出成形し、物品全体を180℃でのアニール処理に1時間供して、本比較例における金属−樹脂複合材DS4を得た。
【0063】
性能試験
1)金属−樹脂複合材S1〜S4およびDS1〜DS4を引張試験用の万能試験機に固定して、それらの最大負荷をそれぞれ得た。試験結果を表1に示した。
2)金属−樹脂複合材S1〜S4およびDS1〜DS4の標準サンプルの衝撃強度を、ASTM D256に開示される方法に従って片持ち梁衝撃試験機を使用して試験した。
試験結果を表1に示した。
【0064】
【表1】
【0065】
金属−樹脂複合材S1〜S5が19MPa〜22MPaの破壊強度を有すること(このことは、金属−樹脂複合材S1〜S5における金属シートとプラスチック層との間の連結力が非常に強いことを示している)、および金属−樹脂複合材S1〜S5が270J/m〜350J/mの衝撃強度を有すること(このことは、金属−樹脂複合材S1〜S5が高い機械的強度を有することを示している)が、表1における試験結果から分かる。
【0066】
金属−樹脂複合材S1の試験結果を金属−樹脂複合材DS3およびDS4の試験結果と比較することによって、先行技術において使用されるポリフェニレンオキシド樹脂の靭性が非常に不良であり、靭性が、強化剤により改質される場合でさえ依然として不良であることが分かる。
【0067】
説明的な実施形態が示され、記載されているが、上記の実施形態は、本開示を限定すると解釈され得ないこと、また、変更、代替および改変を、本開示の精神、原理および範囲から逸脱することなく、該実施形態においてなし得ることが、当業者によって理解されよう。