(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を変更しない範囲で変更が可能である。なお、本明細書にて、「X〜Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0015】
≪1.ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物≫
本発明に係るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ともいう)は、ポリブチレンテレフタレート樹脂をベース樹脂とし、そのベース樹脂に対して、高水酸基価のグリセリン脂肪酸エステルと、低水酸基価の多価アルコール脂肪酸エステルとを配合してなるものである。具体的に、グリセリン脂肪酸エステルは、水酸基価が200以上400以下のエステルであり、多価アルコール脂肪酸エステルは水酸基価が100以下のエステルである。
【0016】
このように、本発明に係るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物では、ポリブチレンテレフタレート樹脂に対して、高水酸基価エステルと低水酸基価エステルとを併用して配合させることにより、その樹脂の機械的特性等の良好な特性を保持しながら、溶融時における流動性を向上させることができ、成形金型内で樹脂の流動不良や充填不良等の発生を防ぐことができる。
【0017】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂
本発明に係るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のベース樹脂であるポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸(テレフタル酸又はそのエステル形成誘導体)と、炭素数4のアルキレングリコール(1,4−ブタンジオール)又はそのエステル形成誘導体とを、少なくとも重合成分とする熱可塑性樹脂である。
【0018】
具体的に、このポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)としては、例えば、ブチレンテレフタレートに由来する繰り返し単位からなるホモポリエステル(ポリブチレンテレフタレート)、又は、ブチレンテレフタレートに由来する繰り返し単位を主成分として、共重合可能なモノマーに由来する繰り返し単位を、後述の割合で有するコポリエステル(ブチレンテレフタレート共重合体又はポリブチレンテレフタレートコポリエステル)等が挙げられる。
【0019】
コポリエステル(ブチレンテレフタレート共重合体又は変性PBT樹脂)における共重合可能なモノマー(以下、単に「共重合性モノマー」ともいう)としては、テレフタル酸を除くジカルボン酸成分、1,4−ブタンジオールを除くジオール、オキシカルボン酸成分、ラクトン成分等が挙げられる。共重合性モノマーは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0020】
ジカルボン酸(又はジカルボン酸成分又はジカルボン酸類)としては、脂肪族ジカルボン酸(例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、ダイマー酸等のC
4〜40ジカルボン酸、好ましくはC
4〜14ジカルボン酸)、脂環式ジカルボン酸成分(例えば、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ハイミック酸等のC
8〜12ジカルボン酸)、テレフタル酸を除く芳香族ジカルボン酸成分(例えば、フタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸等のC
8〜16ジカルボン酸)、又はこれらの反応性誘導体(例えば、低級アルキルエステル(ジメチルフタル酸、ジメチルイソフタル酸(DMI)等のフタル酸又はイソフタル酸のC
1〜4アルキルエステル等)、酸クロライド、酸無水物等のエステル形成可能な誘導体)等が挙げられる。さらに、必要に応じて、トリメリット酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸又はそのエステル形成誘導体(アルコールエステル等)等を併用してもよい。このような多官能性化合物を併用することで、分岐状のポリブチレンテレフタレート樹脂を得ることもできる。
【0021】
ジオール(又はジオール成分又はジオール類)には、例えば1,4−ブタンジオールを除く脂肪族アルカンジオール[例えば、アルカンジオール(例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール(1,6−ヘキサンジオール等)、オクタンジオール(1,3−オクタンジオール、1,8−オクタンジオール等)、デカンジオール等の低級アルカンジオール、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C
2〜12アルカンジオール、さらに好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C
2〜10アルカンジオール等);(ポリ)オキシアルキレングリコール(例えば、複数のオキシC
2〜4アルキレン単位を有するグリコール、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジテトラメチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等)等]、脂環族ジオール(例えば、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等)、芳香族ジオール[例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、ナフタレンジオール等のジヒドキシC
6〜14アレーン;ビフェノール(4,4’−ジヒドキシビフェニル等);ビスフェノール類;キシリレングリコール等]、及びこれらの反応性誘導体(例えば、アルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体等のエステル形成性誘導体等)等が挙げられる。さらに、必要に応じて、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール等のポリオール又はそのエステル形成性誘導体を併用してもよい。このような多官能性化合物を併用することで、分岐状のポリブチレンテレフタレート樹脂を得ることもできる。
【0022】
ビスフェノール類としては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールAD)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン等のビス(ヒドロキシアリール)C
1〜6アルカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のビス(ヒドロキシアリール)C
4〜10シクロアルカン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、及びこれらのアルキレンオキサイド付加体が例示できる。アルキレンオキサイド付加体としては、ビスフェノール類(例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールAD、ビスフェノールF)のC
2〜3アルキレンオキサイド付加体、例えば、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ジエトキシ化ビスフェノールA(EBPA)、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]プロパン、ジプロポキシ化ビスフェノールA等が挙げられる。アルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のC
2〜3アルキレンオキサイド)の付加モル数としては、例えば、各ヒドロキシ基に対して1〜10モル、好ましくは1〜5モル程度である。
【0023】
オキシカルボン酸(又はオキシカルボン酸成分又はオキシカルボン酸類)には、例えば、オキシ安息香酸、オキシナフトエ酸、ヒドロキシフェニル酢酸、グリコール酸、オキシカプロン酸等のオキシカルボン酸又はこれらの誘導体等が含まれる。ラクトンには、プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(例えば、ε−カプロラクトン等)等のC
3〜12ラクトン等が含まれる。
【0024】
これらの共重合性モノマーのうち、ジオール類[C
2〜6アルキレングリコール(エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサンジオール等の直鎖状又は分岐鎖状アルキレングリコール等)、繰り返し数が2〜4程度のオキシアルキレン単位を有するポリオキシC
2〜4アルキレングリコール(ジエチレングリコール等)、ビスフェノール類(ビスフェノール類又はそのアルキレンオキサイド付加体等)]、ジカルボン酸類[C
6〜12脂肪族ジカルボン酸(アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等)、カルボキシル基がアレーン環の非対称位置に置換した非対称芳香族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジメタノール等]等が好ましく用いられる。
【0025】
特に、ポリブチレンテレフタレート樹脂としては、ホモポリエステル(ポリブチレンテレフタレート)及び/又は共重合体(ポリブチレンテレフタレートコポリエステル)であることが好ましい。また、ポリブチレンテレフタレート樹脂は、その共重合性モノマーの割合(変性量)が、通常、45モル%以下(例えば、0モル%以上45モル%以下程度)、好ましくは35モル%以下(例えば、0モル%以上35モル%以下程度)、さらに好ましくは30モル%以下(例えば、0モル%以上30モル%以下程度)のコポリエステルであってもよい。
【0026】
なお、共重合体において、共重合性モノマーの割合は、例えば、0.01モル%以上30モル%以下程度の範囲から選択でき、通常、1モル%以上30モル%以下程度、好ましくは3モル%以上25モル%以下程度、さらに好ましくは5モル%以上20モル%以下程度である。また、ホモポリエステル(ポリブチレンテレフタレート)と共重合体(コポリエステル)とを組み合わせて使用する場合、ホモポリエステルとコポリエステルとの割合は、共重合性モノマーの割合が、全単量体に対して0.1モル%以上30モル%以下(好ましくは1モル%以上25モル%以下程度、さらに好ましくは5モル%以上25モル%以下程度)となる範囲であり、通常、前者/後者=99/1〜1/99(質量比)、好ましくは95/5〜5/95(質量比)、さらに好ましくは90/10〜10/90(重量比)程度の範囲から選択できる。
【0027】
また、ポリブチレンテレフタレート樹脂は、その末端カルボキシル基量が30meq/kg以下であることが好ましく、25meq/kg以下であることがより好ましい。ここで、末端カルボキシル基量については、例えば、以下のようにして測定することができる。すなわち、ポリブチレンテレフタレートの粉砕試料をベンジルアルコール中において215℃の温度条件で10分間溶解した後、0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液にて滴定を行うことによって測定することができる。
【0028】
このように、末端カルボキシル基量が30meq/kg以下のポリブチレンテレフタレート樹脂であることにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐加水分解性を高めることができる。なお、末端カルボキシル基量の下限値としては、特に限定されないが、一般的に5meq/kg未満のものは製造が困難である観点から、5meq/kg以上が好ましく、10meq/kg以上がより好ましい。
【0029】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度(IV)としては、1.30dl/g以下であること好ましく、1.2dl/g以下であることがより好ましい。固有粘度が1.30dl/gを超えると、樹脂組成物の流動性の向上効果が十分に得られず、成形金型内で樹脂の流動不良、充填不良等を引き起こす可能性がある。一方、固有粘度の下限値としては、特に限定されないが、0.6dL/g以上であることが好ましく、0.7dL/g以上であることがより好ましい。
【0030】
なお、異なる固有粘度を有するポリブチレンテレフタレート樹脂をブレンドすることによって、上述した好適な範囲の固有粘度を実現させるようにしてもよい。また、この固有粘度(IV)は、o−クロロフェノール中、温度35℃の条件で測定できる。
【0031】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、市販品を使用してもよく、また、テレフタル酸又はその反応性誘導体と1,4−ブタンジオールと必要により共重合可能なモノマーとを、慣用の方法、例えばエステル交換、直接エステル化法等により共重合(重縮合)することにより製造したものを使用してもよい。
【0032】
(B)グリセリン脂肪酸エステル
本発明に係るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物では、上述したベース樹脂のポリブチレンテレフタレート樹脂に対して、水酸基価が200以上400以下のグリセリン脂肪酸エステルを配合する。グリセリン脂肪酸エステルは、例えば、グリセリン及び/又はその脱水縮合物と炭素数12以上の脂肪酸とからなるエステルである。
【0033】
本発明に係るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物では、このように水酸基価が200以上400以下のグリセリン脂肪酸エステルを含有させることによって、ポリブチレンテレフタレート樹脂そのものが有する機械的強度や靱性等の優れた特性を保持しながら、その樹脂組成物の溶融時における流動性を効率よく向上させることができる。また、この樹脂組成物では、当該グリセリン脂肪酸エステルと、後述する低水酸基価の多価アルコール脂肪酸エステルとを併用することにより、従来に比してより一層に流動性を高めることができる。なお、この水酸基価が200以上400以下のグリセリン脂肪酸エステル多価水酸基含有化合物を、適宜、「高水酸基価エステル」ともいう。
【0034】
グリセリン脂肪酸エステルは、一分子中に水酸基を2個以上有する化合物であり、上述したように水酸基価が200以上であり、より好ましくは220以上、さらに好ましくは250以上である。水酸基価が200以上であることにより、樹脂組成物の流動性の向上効果をより高めることができる。一方、グリセリン脂肪酸エステルの水酸基価が大きすぎると、ポリブチレンテレフタレート樹脂との反応が過剰に進むようになり、その結果、そのポリブチレンテレフタレート樹脂の分子量が低下して、機械特性や耐熱性、耐薬品性といった特性が低下する可能性がある。このことから、ポリブチレンテレフタレート樹脂の機械的特性等を保持しながら流動性を効果的に向上させる観点から、水酸基価が400以下であり、より好ましくは350以下であり、さらに好ましくは300以下であるグリセリン脂肪酸エステルを用いる。
【0035】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中におけるグリセリン脂肪酸エステルの含有量としては、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して0.05質量部以上5質量部以下である。また、含有量は0.1質量部以上3質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上2質量部以下であることがより好ましい。グリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.05質量部以上であることにより、流動性向上の効果が十分に得られる傾向となるため好ましく、一方、含有量が5質量部以下であることにより、成形時のガス発生による成形品の外観不良や金型汚れが生じるおそれが殆どないため好ましい。
【0036】
ここで、グリセリン脂肪酸エステルは、上述したように、グリセリン及び/又はその脱水縮合物と炭素数12以上の脂肪酸とから構成される。このように、グリセリン脂肪酸エステルの中でも、炭素数12以上の脂肪酸を用いて得られるものが好ましく、炭素数が12以上の脂肪酸としては、ラウリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸等が挙げられる。また、その脂肪酸としては、炭素数12以上32以下のものであることがより好ましく、炭素数12以上22以下のものであることが特に好ましい。具体的には、ラウリン酸、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸のいずれかを用いることが特に好ましい。
【0037】
このように、グリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸として、炭素数12以上の脂肪酸を用いることによって、ポリブチレンテレフタレート樹脂の弾性等の機械的特性や耐熱性が十分に保持されるため好ましい。また、特に炭素数が32以下の脂肪酸を用いることによって、溶融時の流動性の向上効果をさらに高めることができる。
【0038】
具体的に、好ましいグリセリン脂肪酸エステルを例示すると、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、ジグリセリンモノステアレート、トリグリセリンモノステアレート、トリグリセリンステアリン酸部分エステル、テトラグリセリンステアリン酸部分エステル、デカグリセリンラウリン酸部分エステル、グリセリンモノ12−ヒドロキシステアレート等が挙げられる。
【0039】
なお、グリセリン脂肪酸エステルとしては、従来公知の方法で製造したものを使用してもよいし、市販品を購入して使用してもよい。
【0040】
(C)多価アルコール脂肪酸エステル
本発明に係るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物では、ベース樹脂のポリブチレンテレフタレート樹脂に対して、水酸基価が100以下の多価アルコール脂肪酸エステルを配合する。多価アルコール脂肪酸エステルは、例えば、エチレングリコール、グリセリン、1,2,4−ブタントリオール、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、エリスリトール、ヘキサントリオール等の多価アルコールと、炭素数10〜35の脂肪酸とからなるエステルである。
【0041】
本発明に係るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物では、上述した水酸基価が200以上400以下のグリセリン脂肪酸エステルとともに、水酸基価が100以下の多価アルコール脂肪酸エステルを併用することによって、当該樹脂組成物の溶融時における流動性を従来に比してより一層向上させることができる。なお、この水酸基価が100以下の多価アルコール脂肪酸エステルを、高水酸基価エステルであるグリセリン脂肪酸エステル多価水酸基含有化合物に対して、適宜、「低水酸基価エステル」ともいう。
【0042】
多価アルコール脂肪酸エステルは、上述したように水酸基価が100以下であり、より好ましくは80以下であり、さらに好ましくは50以下である。水酸基が100以下の当該多価アルコール脂肪酸エステルを、高水酸基価エステルであるグリセリン脂肪酸エステルと併せて配合することによって、樹脂組成物の流動性の向上効果をより高めることができる。
【0043】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中における多価アルコール脂肪酸エステルの含有量としては、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して0.05質量部以上5質量部以下である。また、含有量は0.1質量部以上3質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上2質量部以下であることがより好ましい。多価アルコール脂肪酸エステルの含有量が0.05質量部以上であることにより、流動性向上の効果が十分に得られる傾向となるため好ましく、一方、含有量が5質量部以下であることにより、成形時のガス発生による成形品の外観不良や金型汚れが生じるおそれが殆どないため好ましい。
【0044】
ここで、多価アルコール脂肪酸エステルは、上述したように、多価アルコールと例えば炭素数10〜35の脂肪酸とから構成される。多価アルコール脂肪酸エステルの中でも、好ましくは炭素数10以上、より好ましくは12以上、さらに好ましくは18以上の脂肪酸を用いて得られるエステルが好ましく、炭素数が10以上の脂肪酸としては、ラウリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸等が挙げられる。また、多価アルコールとしては、エチレングリコール、グリセリン、1,2,4−ブタントリオール、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、エリスリトール、ヘキサントリオール等が挙げられる。
【0045】
具体的に、好ましい多価アルコール脂肪酸エステルを例示すると、ペンタエリスリトールテトラパルミネート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ヘキサグリセリンテトラベヘネートテトラパルミネート、ヘキサグリセリンオクタベヘネート、ペンタグリセリンヘプタベヘネート、テトラグリセリンヘキサベヘネート、トリグリセリンペンタベヘネート、ジグリセリンテトラベヘネート、グリセリントリベヘネート、ジペンタエリスリトールヘキサミリステート、ジペンタエリスリトールヘキサパルミネート等が挙げられる。
【0046】
なお、多価アルコール脂肪酸エステルとしては、従来公知の方法で製造したものを使用してもよいし、市販品を購入して使用してもよい。
【0047】
[その他の成分]
(D)無機充填材
本発明に係るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、無機充填材を配合させてもよい。樹脂組成物中に無機充填材を含有させることで、得られる成形品の機械的強度等の物性を高めることができる。
【0048】
しかも、本発明に係るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物によれば、ポリブチレンテレフタレート樹脂に対して、水酸基価が200以上400以下のグリセリン脂肪酸エステル(高水酸基価エステル)と、水酸基価が100以下の多価アルコール脂肪酸エステル(低水酸基価エステル)とを併用配合していることにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂の機械的特性を保持しながら、従来に比しても、溶融時における流動性をより一層に向上させることができ、このように無機充填材を配合させた場合であっても、優れた流動性でもって成形を行うことができる。
【0049】
無機充填剤としては、特に限定されず、繊維状充填剤、粉粒状充填剤、板状充填剤等のいずれのものでも使用することができる。
【0050】
具体的に、繊維状充填剤として、例えば、ガラス繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、さらにステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物等の無機質繊維状物質が挙げられる。また、粉粒状充填剤としては、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ミルドガラスファイバー、ガラスバルーン、ガラス粉、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、ウォラストナイトの如き珪酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、アルミナの如き金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムの如き金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムの如き金属の硫酸塩、その他フェライト、炭化珪素、窒化珪素、窒化硼素、各種金属粉末等が挙げられる。また、板状充填剤としては、マイカ、ガラスフレーク、各種の金属箔等が挙げられる。
【0051】
なお、無機充填剤の種類や使用量としては、混合物に含まれる化合物の種類等に応じて適宜調整することが好ましい。例えば、無機充填剤の使用量としては、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、10質量部以上200質量部以下程度とする。
【0052】
(E)その他の成分
本発明に係るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物においては、本発明の効果を害さない範囲で、他の樹脂や強化用充填材、難燃剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、染料や顔料等の着色剤、潤滑剤、可塑剤、結晶核剤等の従来公知の添加剤を含有させることができる。また、他の成分として、エステル交換反応触媒、エステル交換反応停止剤を含有させることが好ましい場合がある。
【0053】
具体的に、エステル交換反応触媒を含有させることによって、ポリブチレンテレフタレート樹脂と、グリセリン脂肪酸エステル及び多価アルコール脂肪酸エステルとの間の反応が促進される。ベース樹脂であるポリブチレンテレフタレート樹脂と、グリセリン脂肪酸エステル及び多価アルコール脂肪酸エステルとの間の反応が遅く、所望の流動性に到達するまでに時間がかかるような場合には、樹脂組成物中にエステル交換反応触媒を含有させることによって、迅速に所望の流動性を実現することができる。
【0054】
エステル交換反応触媒としては、特に限定されず、例えば、金属化合物をエステル交換触媒として使用することができる。その中でも、チタン化合物、スズ化合物、アンチモン化合物を好適に使用することができる。チタン化合物の具体例としては、酸化チタン等の無機チタン化合物、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート、テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート等が代表的なものとして挙げられる。また、スズ化合物の具体例としては、ジブチルスズオキサイド、ヘキサエチルジスズオキサイド、ジドデシルスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、トリブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸等が挙げられる。また、アンチモン化合物としては三酸化アンチモン等が挙げられる。これらの中でも特に、テトラブチルチタネート、トリブチルスズアセテート、三酸化アンチモンの使用が好ましい。
【0055】
また、エステル交換反応が進みすぎることにより、樹脂組成物を成形してなる成形体の物性が低下するおそれがある。そのため、適宜、エステル交換反応停止剤を併せて含有させることで、物性低下等の問題を生じさせずに所望の流動性に調節することができる。
【0056】
エステル交換反応停止剤としては、リン化合物が好ましく使用できる。リン化合物の種類や量は特に限定されず、本発明の組成物に含まれる化合物の種類等の条件に応じて適宜調整することができる。具体的に、そのリン化合物としては、特に限定されず、ホスフィン系、ホスフィナイト系、ホスホナイト系、ホスファイト系、ホスフィナスアミド系、ホスホナスジアミド系、ホスホラストリアミド系、ホスホラミダイト系、ホスホロジアミダイト系、ホスフィンオキサイド系、ホスフィネート系、ホスホネート系、ホスフェイト系、ホスフィニックアミド系、ホスホノジアミデート系、ホスホラミド系、ホスホラミデート系、ホスホロジアミデート系、ホスフィンイミド系、ホスフィンサルファイド系のリン化合物を例示できる。また、リン化合物には、金属と塩を形成したものも含まれる。
【0057】
≪2.ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の特性≫
上述したように、本発明に係るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、ベース樹脂のポリブチレンテレフタレート樹脂に対して、高水酸基価エステルと低水酸基価エステルとを併合配合させてなる。具体的には、高水酸基価エステルとして、水酸基価が200以上400以下のグリセリン脂肪酸エステルを配合させ、低水酸基価エステルとして、水酸基価が100以下の多価アルコール脂肪酸エステルを配合させてなる。
【0058】
このようなポリブチレンテレフタレート樹脂組成物では、ポリブチレンテレフタレート樹脂の弾性等の機械的特性を保持しながら、溶融時における流動性を向上させることができ、成形に際して成形品金型への充填不足等による成形不良を防ぐことができる。
【0059】
具体的に、このポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の流動性は、ISO11443に準拠し、炉体温度260℃、キャピラリーφ1mm×20mmL、剪断速度1000sec
−1にて測定した溶融粘度が210Pa・s以下である。また、溶融粘度は、200Pa・s以下であることが好ましく、195Pa・s以下であることがさらに好ましい。
【0060】
また、このポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の機械的特性としては、ISO178に準拠した曲げ弾性率が、2400以上である。
【0061】
≪3.ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法≫
本発明に係るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法としては、特に限定されるものではなく、公知の設備と方法を用いて製造することができる。
【0062】
例えば、樹脂組成物に必要な成分を混合し、1軸又は2軸の押出機又はその他の溶融混練装置を使用して混練し、成形用ペレットとして調製することができる。押出機又はその他の溶融混練装置としては複数使用してもよい。また、全ての成分をホッパーから同時に投入してもよいし、一部の成分はサイドフィード口から投入してもよい。ここで、押出機中での樹脂温度としては、例えば240〜300℃となるように押出機シリンダー温度を設定することが好ましく、250〜270℃となるようにすることがより好ましい。
【0063】
なお、組成物を製造する際には、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂に対して、(B)グリセリン脂肪酸エステルと、(C)多価アルコール脂肪酸エステルとを同時に添加してもよく、あるいは、例えば(B)グリセリン脂肪酸エステルを先に添加して溶融混練した後に、(C)多価アルコール脂肪酸エステルを添加することもできる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
なお、実施例3は参考例と読み替えるものとする。
【0065】
<材料>
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂
A−1:ポリブチレンテレフタレート樹脂(固有粘度=0.68dL/g、末端カルボキシル基量=27meq/kg、ウィンテックポリマー株式会社製)
(B)高水酸基価エステル
B−1:トリグリセリンステアリン酸部分エステル(水酸基価:280、理研ビタミン株式会社製、「リケマールAF−70」)
B−2:グリセリンモノ12−ヒドロキシステアレート(水酸基価:480、理研ビタミン株式会社製、「リケマールHC−100」)
(C)低水酸基価エステル
C−1:ジグリセリンテトラベヘネート(水酸基価:30)
C−2:ペンタエリスリトールテトラステアレート(水酸基価:20)
C−3:モンタン酸エステル(水酸基価:20以下、クラリアントジャパン株式会社製、「リコワックスE」)
C−4:ソルビタントリドコサネート(水酸基価:80、理研ビタミン株式会社製、「リケマールB−150」)
C−5:低分子量ポリエチレン(水酸基価:0、三洋化成工業株式会社製、「サンワックス161−P」)
【0066】
なお、(B)グリセリン脂肪酸エステルと、(C)多価アルコール脂肪酸エステルの水酸基価については、日本油化学会2.3.6.2−1996 ヒドロキシル価(ピリジン−無水酢酸法)により測定した。
【0067】
<実施例1〜3、比較例1〜14>
上述した材料を、下記表1に示す配合組成で秤量後ドライブレンドし、二軸押出機(株式会社日本製鋼所製、TEX−30)にて、シリンダー温度を260℃、スクリュー回転数を130rpm、押出量を12kg/hとして、溶融混練を行い、吐出されたストランド状の溶融樹脂を冷却し、ペレタイザーによりカッティングすることにより、樹脂組成物のペレット状サンプルを得た。次いで、このペレットを用いて以下の各種評価を行った。
【0068】
[溶融粘度特性(MV)]
調製した樹脂組成物のペレットを、140℃で3時間乾燥した後、ISO11443に準拠し、キャピログラフ1B(東洋精機製作所社製)を用いて、炉体温度260℃、キャピラリーφ1mm×20mmL、剪断速度1000sec
−1にて測定した。表1に、測定結果を示す。
【0069】
[曲げ弾性率]
調製した樹脂組成物のペレットを、140℃で3時間乾燥した後、成形温度260℃、金型温度80℃で射出成形することによって曲げ試験片を作製し、ISO178に定められている評価基準に従って、曲げ弾性率を評価した。弾性率が2400MPa以上であれば「○」とし、弾性率が2400MPa未満である場合を「×」として評価した。表1に、評価結果を示す。
【0070】
【表1】