特許第6293138号(P6293138)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6293138太陽電池モジュール及び太陽電池モジュールの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6293138
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】太陽電池モジュール及び太陽電池モジュールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0216 20140101AFI20180305BHJP
   H01L 31/0236 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   H01L31/04 240
   H01L31/04 282
【請求項の数】11
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2015-522879(P2015-522879)
(86)(22)【出願日】2014年6月13日
(86)【国際出願番号】JP2014065731
(87)【国際公開番号】WO2014203817
(87)【国際公開日】20141224
【審査請求日】2017年4月28日
(31)【優先権主張番号】特願2013-127062(P2013-127062)
(32)【優先日】2013年6月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 敏明
(72)【発明者】
【氏名】中田 年信
【審査官】 佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−9600(JP,A)
【文献】 特開2009−88503(JP,A)
【文献】 特開2010−70445(JP,A)
【文献】 特開2009−143775(JP,A)
【文献】 特開2013−40091(JP,A)
【文献】 特開2003−229584(JP,A)
【文献】 特開平9−199745(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0247531(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L31/02−31/078;
H01L31/18−31/20;
H01L51/42−51/48;
H02S10/00−10/40;
H02S30/00−99/00;
C03C19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス製であってその表面が巨視的に平面である板体と、光電変換部とを有し、前記板体側から前記光電変換部側に光を入射して前記光電変換部で電気を発生させる太陽電池モジュールにおいて、
前記板体の表面が微視的に凹凸状となっており、凹凸化された表面には、前記板体を巨視的に観察した巨視的平面に対して平行方向の成分を有する横向きクラックが多数存在し、
前記板体の表面には反射防止膜が積層され、かつ反射防止膜を構成する物質の一部が横向きクラックの内部に入り込んでおり、
横向きクラックの内部に形成される空間のうち、前記物質が入り込んだ部分の少なくとも一部では、前記板体の厚さ方向における全域に亘って前記物質が充填されていることを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項2】
前記板体の厚さ方向に切断した断面を観察したとき、横向きクラック内に3マイクロメートル以上に渡って反射防止膜を構成する物質の一部が入り込んでいる部分が前記板体の少なくとも一部に存在することを特徴とする請求項1に記載の太陽電池モジュール。
【請求項3】
前記板体を平面的に観察した際、巨視的平面に対して平行方向の最大成分が4マイクロメートル以上の横向きクラックが、1.69×104平方マイクロメートル当たり、10個以上存在する領域が、前記板体の少なくとも一部に存在することを特徴とする請求項1又は2に記載の太陽電池モジュール。
【請求項4】
前記板体を平面的に観察した際、巨視的平面に対して平行方向の最大成分が6マイクロメートル以上の横向きクラックが、1.69×104平方マイクロメートル当たり、15個以上存在する領域が、前記板体の少なくとも一部に存在することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の太陽電池モジュール。
【請求項5】
前記板体の厚さ方向に切断した断面を観察したとき、巨視的平面に沿った60マイクロメートルの長さの範囲に、複数の横向きクラックがあり、且つその横向きクラックの巨視的平面と平行方向の成分の合計が、8マイクロメートル以上である領域が前記板体の少なくとも一部に存在することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の太陽電池モジュール。
【請求項6】
前記反射防止膜の波長600nmの光に対する屈折率が1.35乃至1.60であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の太陽電池モジュール。
【請求項7】
前記反射防止膜は、チタン酸化物及びシリコン酸化物からなる微粒子を含む物質により形成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の太陽電池モジュール。
【請求項8】
入光面の算術平均粗さが0.4マイクロメートル〜2.0マイクロメートルであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の太陽電池モジュール。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の太陽電池モジュールを製造するための製造方法であって、
前記板体の表面にブラスト用研磨材を衝突させてブラスト加工を施し、前記板体の表面を凹凸化する第1凹凸化工程と、
前記第1凹凸化工程の後に、前記板体の表面に前記第1凹凸化工程よりも粒径が小さいブラスト用研磨材を衝突させてブラスト加工を施し、前記板体の表面を再度凹凸化する第2凹凸化工程と、
前記板体の表面に反射防止膜を形成するための反射防止膜を形成させると共に前記板体のクラックに反射防止膜を進入させる反射防止膜形成工程とを有することを特徴とする太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項10】
親水剤を用いた親水処理を実施することなく反射防止膜形成工程を実施し、
反射防止膜成形工程においては、前記反射防止膜を形成するための液体をスプレー塗布することを特徴とする請求項9に記載の太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項11】
反射防止膜形成工程に先立って、前記板体の表面を洗浄する洗浄工程を実施することを特徴とする請求項9又は10に記載の太陽電池モジュールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュールに関するものであり、より詳細には、防眩性を有する太陽電池モジュールに関するものである。
また本発明は、防眩性を有した太陽電池モジュールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光エネルギーにより発電を行う太陽光発電システムが急速に普及している。このような太陽光発電システムとして、太陽電池モジュールを建屋上に設置する屋上設置型と称されるシステムや、太陽電池モジュールを建屋の壁面や窓に設置する壁面設置型と称されるシステムがある。また、太陽電池モジュールを屋外の土地に設置する地上設置型と称されるシステムもある。
【0003】
この種の太陽光発電システムでは、太陽電池モジュールを設置する位置や角度によって、太陽電池モジュールからの反射光に起因する問題が生じる場合がある。例えば、一般住宅の屋根上に太陽電池モジュールを設置したとき、反射光が隣家の窓に差し込んでしまうという問題がある。つまり、太陽光が太陽光発電モジュール表面のガラス面で正反射し、隣家に意図しない強い光が差し込まれてしまい、近隣住民に不快感を与えてしまうという問題がある。
【0004】
そこで、防眩性の高い太陽電池モジュールの開発が望まれている。すなわち、太陽光が当たった際におけるガラス表面からの正反射が少ない太陽電池モジュールの開発が望まれている。
防眩性を有する太陽電池モジュールとして、特許文献1に開示されたものがある。特許文献1に開示された太陽電池モジュールは、ガラス基板の表面に反射防止膜を設けたものである。
ここで反射防止膜は、光の屈折率が、空気の屈折率とガラスの屈折率の間の値を持つ膜であり、特許文献1に開示された太陽電池モジュールは、光が入射する各界面(空気/反射防止膜、反射防止膜/ガラス)の屈折率の差を小さくして光の反射を抑えている。
【0005】
また太陽電池モジュールの表面で太陽光を乱反射させることを目的として、反射防止膜の表面を凹凸化する方策が、特許文献2に開示されている。
特許文献2に開示された方策によると、反射防止膜の屈折率変化による防眩性に加えて、表面の物理的凹凸構造によって、光を乱反射させることができ、より高い防眩性能が発揮される。
ただし、特許文献2に開示された方策を採用するためには、反射防止膜を相当の厚さに形成させることが必要であり、防眩膜自体の光吸収が増大して発電効率を低下させてしまうという問題がある。
【0006】
これらの問題を解決する発明として、特許文献3に開示された発明がある。
特許文献3に開示された発明では、ガラス基板の表面をブラスト加工してその表面を凹凸化し、さらにその上に反射防止膜を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−211202号公報
【特許文献2】特開2001−57438号公報
【特許文献3】特開2012−9600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3に記載の太陽電池モジュールは、本出願人が開発したものであり、防眩性が高く、且つ発電効率も高い。しかしながら、本発明者らが試作、研究を重ねた結果、特許文献3に開示された方策には、前述した特許文献2の方策には無かった欠点があることが判明した。
【0009】
具体的に説明すると、特許文献3に開示された太陽電池モジュールでは、ガラス基板をブラスト加工して表面を凹凸化する。
ここで、ブラスト加工は、微小な研磨粒子をワークに衝突させて表面を磨く表面処理方法であり、ブラスト加工においては、ガラス基板の表面が叩かれる。そのため、ガラス基板に微小なクラックが発生してしまう。
【0010】
すなわち、特許文献3に開示された方策は、図34(a)で示されるような表面が平滑なガラス板に対し、ブラスト用研磨材を衝突させて図34(b)で示されるように表面を凹凸化する。このとき、図34(c)で示されるように、衝突の衝撃によって、微細なクラック104が生じる。
【0011】
すなわち、中途半端な衝撃を受けた部位は、図34(c)で示されるように、割れ残り部105が生じ、ひび割れた状態となる。またクラック104には、ガラス基板の深さ方向に亀裂が進んだものや、ガラス基板と平行方向に亀裂が進んだものがある。ガラス基板と平行方向に亀裂が進んだクラック104は、ガラス基板の本体部分に対して破片が鱗片状に貼り付いたような構造となっている。
【0012】
そして、このようなクラック104が形成されると、図35(c)で示されるように、クラック104の内面と、ガラスとの間で反射が起こってしまう。特に、ガラス基板と平行方向に亀裂が進んだクラック104は、大きな面積で光を反射させてしまう。
つまり、クラック104をガラス基板側から観察すると、図35(a)で示されるように、表面側に反射防止膜があり、その内側に、ガラス基板がある。そしてガラス基板の表面にクラック104がある。またクラック104には、図35(b)で示されるように、ガラスの深さ方向に亀裂が進んだものや、ガラス基板と平行方向に亀裂が進んだものがある。そしてガラス基板と平行方向に亀裂が進んだクラック104の部分に光が当たると、図35(c)で示されるように、クラック104の内面とガラスとの間で反射が起こる。すなわち、クラック104がある部分では、最表面の反射に加えて、クラック内のガラス/空気の界面、及び空気/ガラスの界面の2ヶ所で反射が起こって、反射が強くなってしまう。その結果、図36で示されるようにクラック104の部分が白く光って見えることとなる。
【0013】
このようなクラック自体は、極めて小さいものであるが、ガラス基板と平行方向に亀裂が進んだクラックは、ガラスの本体部分に対して破片が鱗片状に貼り付いた様な構造となっているから、キラキラと輝く印象を与え、好ましくない。また反射した光は、当然に発光に寄与しない。
【0014】
そこで本発明は、特許文献3に開示された太陽電池モジュールをさらに改良し、高い防眩性を有すると共に、出力を高い状態に維持することが可能な太陽電池モジュールを提供することを課題とする。また、そのような太陽電池モジュールを製造するための太陽電池モジュールの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記した課題を解決するため、さらにクラック部分を拡大して観察し、光の反射具合を研究した。
そして本発明者らは、反射防止膜の成分、液状時の粘度、成膜方法を変えて実験を行い、クラックの隙間に、反射防止膜を進入させてみた。そして防眩性能を評価したところ、特許文献3に開示されたものよりも良好な結果を得ることができた。
【0016】
かかる知見に基づいて完成された本発明の1つの様相は、ガラス製であってその表面が巨視的に平面である板体と、光電変換部とを有し、前記板体側から前記光電変換部側に光を入射して前記光電変換部で電気を発生させる太陽電池モジュールにおいて、前記板体の表面が微視的に凹凸状となっており、凹凸化された表面には、前記板体を巨視的に観察した巨視的平面に対して平行方向の成分を有する横向きクラックが多数存在し、前記板体の表面には反射防止膜が積層され、かつ反射防止膜を構成する物質の一部が横向きクラックの内部に入り込んでおり、横向きクラックの内部に形成される空間のうち、前記物質が入り込んだ部分の少なくとも一部では、前記板体の厚さ方向における全域に亘って前記物質が充填されていることを特徴とする太陽電池モジュールである。
【0017】
ここで、横向きクラックの「横向き」とは、「巨視的平面に対して平行な成分を有する」こととする。
本様相の太陽電池モジュールでは、入光面の近傍に形成される横向きクラックの内部に、反射防止膜を形成するための物質を入れ込んだ構造となっている。このため、入光面に照射された光は、クラックが形成されている部分での反射が小さく、太陽電池モジュールの内部側(光半導体素子側)へ向かって進行することとなる。つまり、太陽電池モジュールの内部側に到達する光の量を多くすることが可能であり、出力を高い状態に維持することができる。また、表面に凹凸を形成することで反射光を分散することに加え、クラック部分での反射を抑制することにより、反射する光の量を少なくすることができる。このことにより、防眩性を高めることが可能となる。
【0018】
好ましくは、前記板体の厚さ方向に切断した断面を観察したとき、横向きクラック内に3マイクロメートル以上に渡って反射防止膜を構成する物質の一部が入り込んでいる部分が前記板体の少なくとも一部に存在する。
【0019】
理想的には、横向きクラック内の全ての領域に反射防止膜が行き渡っていることが望ましい。しかしながら、本発明において実際に形成される横向きクラックは開口面積が小さいので、横向きクラック内の全ての領域に反射防止膜を行き渡らせることは不可能である。
一方、クラックの奥の部位は、完全に剥離状態となっていない場合も多いから、当該部位における反射は、開口近傍に比べて小さい。すなわちクラックの開口近傍は、本体部分と破片部分との間が完全に開いているので、反射する面積が広いが、奥部分は、幾分接合した状況であって、反射に寄与する面積は小さい。そのため、横向きクラック内に3マイクロメートル以上に渡って反射防止膜を構成する物質の一部が入り込んでいるならば、従来技術に対して有為差のある結果が得られる。
【0020】
好ましくは、前記板体を平面的に観察した際、巨視的平面に対して平行方向の最大成分が4マイクロメートル以上の横向きクラックが、1.69×104平方マイクロメートル当たり、10個以上存在する領域が、前記板体の少なくとも一部に存在する。
【0021】
好ましくは、前記板体を平面的に観察した際、巨視的平面に対して平行方向の最大成分が6マイクロメートル以上の横向きクラックが、1.69×104平方マイクロメートル当たり、15個以上存在する領域が、前記板体の少なくとも一部に存在する。
【0022】
これらの好ましい様相の太陽電池モジュールは、横向きクラックが多く、発明の効果がより顕著に発揮される。
【0023】
好ましくは、前記板体の厚さ方向に切断した断面を観察したとき、巨視的平面に沿った60マイクロメートルの長さの範囲に、複数の横向きクラックがあり、且つその横向きクラックの巨視的平面と平行方向の成分の合計が、8マイクロメートル以上である領域が前記板体の少なくとも一部に存在する。
【0024】
この好ましい様相の太陽電池モジュールについても、横向きクラックが多く、発明の効果がより顕著に発揮される。
【0025】
好ましくは、前記反射防止膜の波長600nmの光に対する屈折率が1.35乃至1.60である。
【0026】
好ましくは、前記反射防止膜は、チタン酸化物及びシリコン酸化物からなる微粒子を含む物質により形成されている。
【0027】
この好ましい様相で採用する反射防止膜は、屈折率をガラスの屈折率と空気の屈折率の間の値にすることができる。そのためガラス表面における正反射を抑制することができる。ガラス表面の反射防止だけを目的とした場合は、反射防止膜の屈折率は、空気の屈折率1.0とガラスの屈折率約1.5〜1.6のちょうど中間の1.30〜1.4が理想的である。しかしながら、本様相では最表面の反射防止のみでなく、クラック内に反射防止膜を侵入させて、ガラス/反射防止膜/ガラスの界面の反射抑制も目的としている。この場合、反射防止膜の屈折率をガラスの屈折率と一致させると、クラック内のガラス/反射防止膜/ガラスの界面の反射が理想的には0になる。そのため、反射防止膜の屈折率は、ガラス表面の反射を抑制するため1.60以下が望ましく、クラック内のガラス/反射防止膜/ガラスの界面の反射を抑制するため1.35以上が望ましい。
【0028】
好ましくは、入光面の算術平均粗さが0.4マイクロメートル〜2.0マイクロメートルである。
【0029】
本発明の他の様相は、上記の太陽電池モジュールを製造するための製造方法であって、前記板体の表面にブラスト用研磨材を衝突させてブラスト加工を施し、前記板体の表面を凹凸化する第1凹凸化工程と、前記第1凹凸化工程の後に、前記板体の表面に前記第1凹凸化工程よりも粒径が小さいブラスト用研磨材を衝突させてブラスト加工を施し、前記板体の表面を再度凹凸化する第2凹凸化工程と、前記板体の表面に反射防止膜を形成するための反射防止膜を形成させると共に前記板体のクラックに反射防止膜を進入させる反射防止膜形成工程とを有することを特徴とする太陽電池モジュールの製造方法である。
【0030】
本様相は、上記した太陽電池の製造方法に係るものである。本様相ではブラスト加工を2回に渡って行う。ここで、第1凹凸化工程では、粒径の大きいブラスト用研磨材を使用するので、ガラス基板に強い衝撃が与えられ、板体の表面が抉られて凹凸形状が形成される。しかしながら、前記した様に、多数のクラックも発生させてしまう。
そこで、本様相の製造方法では、第2凹凸化工程を実施し、第1凹凸化工程で発生したクラックの多くを除去する。
すなわち第2凹凸化工程では、第1凹凸化工程よりも粒径が小さいブラスト用研磨材を使用する。そのため、第2凹凸化工程では、板体の表面を凹凸化する機能は低いが、剛性が低い部位を破壊する機能がある。そのため剛性の低い、クラック部分が破壊され、結果的にクラックの数が減少する。
そして本様相では、さらにその上に反射防止膜を設けると共に、残存するクラック内に反射防止膜の一部を進入させる。
【0031】
好ましくは、親水剤を用いた親水処理を実施することなく反射防止膜形成工程を実施し、反射防止膜成形工程においては、前記反射防止膜を形成するための液体をスプレー塗布する。
【0032】
この好ましい様相によると、クラックの中に反射防止膜の材料が入り込み易い。
【0033】
好ましくは、反射防止膜形成工程に先立って、前記板体の表面を洗浄する洗浄工程を実施する。
【0034】
第1凹凸化工程で使用する研磨材は、表示番手で#40から#600の範囲内であることが推奨される。
第2凹凸化工程で使用する研磨材は、表示番手で#400から#3000の範囲内であることが推奨される。
研磨材にホワイトアルミナが使用されていることが推奨される。
【発明の効果】
【0035】
本発明によると、高い防眩性を発揮可能であり、出力を高い状態に維持できる太陽電池モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の実施形態に係る太陽電池モジュールを示す一部破断斜視図である。
図2図1の太陽電池モジュールを概念的に示す模式図であり、(a)は拡大平面図、(b)は(a)のA−A断面図、(c)は(b)をさらに拡大した拡大断面図である。
図3図2(a)のクラック部分を拡大して示す説明図である。
図4】本発明の実施形態に係る太陽電池モジュールにおいて、クラックの部分が白く光る様子を示す説明図である。
図5図1の太陽電池モジュールの製造工程のうち、表面処理前に行う光電変換部製造工程を示す説明図であり、(a)〜(g)の順に太陽電池モジュールが形成されていく。
図6】凹凸化工程後のガラス基板の表面を示す光学像である。
図7】本発明の実施例1に係る太陽電池モジュールの入光面近傍を示す図であり、(a)はSEM像を示す写真であり、(b)は(a)のトレース図を示す。
図8図7の一部を拡大して示す拡大図であり、(a)はSEM像を示す写真であり、(b)は(a)のトレース図を示す。
図9】本発明の実施例1に係る太陽電池モジュールの入光面近傍のうち、図7とは異なる部分を示す図であり、(a)はSEM像を示す写真であり、(b)は(a)のトレース図を示す。
図10】本発明の実施例1に係る太陽電池モジュールの入光面近傍のうち、図7図9とは異なる部分を示す図であり、(a)はSEM像を示す写真であり、(b)は(a)のトレース図を示す。
図11】第1凹凸化工程と第2凹凸化工程を順次実施した後のガラス基板の表面を示す光学像である。
図12】第1凹凸化工程と第2凹凸化工程を順次実施し、さらに反射防止膜を形成した後のガラス基板の表面を示す光学像である。
図13】本発明の実施例2に係る太陽電池モジュールの入光面近傍を示す図であり、(a)はSEM像を示す写真であり、(b)は(a)のトレース図を示す。
図14】本発明の実施例2に係る太陽電池モジュールの入光面近傍のうち、図13とは異なる部分を示す図であり、(a)はSEM像を示す写真であり、(b)は(a)のトレース図を示す。
図15】本発明の実施例2に係る太陽電池モジュールの入光面近傍のうち、図13図14とは異なる部分を示す図であり、(a)はSEM像を示す写真であり、(b)は(a)のトレース図を示す。
図16図15の一部を拡大して示す拡大図であり、(a)はSEM像を示す写真であり、(b)は(a)のトレース図を示す。
図17】本発明の実施例2に係る太陽電池モジュールの正反射率と、従来技術で形成した太陽電池モジュール及び市販の屋根材における正反射率とを比較した結果を示すグラフである。
図18】本発明の実施例2に係る太陽電池モジュールと、従来技術で形成した太陽電池モジュールを日中の自然光の中で撮影した参考写真であり、(a),(b)はそれぞれ異なる場所で撮影している。
図19】本発明の実施例2に係る太陽電池モジュールと、従来技術で形成した太陽電池モジュールに対して防汚性試験を実施した様子を示す参考写真であり、(a)は砂を散布して付着させた汚れを除去する実験を示し、(b)は鉛筆と油性ペンで付着させた汚れを除去する実験を示す。
図20】本発明の実施例2に係る工程を実施した防眩ガラス板と、通常のガラス板のそれぞれの強度を測定した結果を示すグラフであり、(a)は通常のガラス板を示し、(b)は防眩ガラス板を示す。
図21】本発明の比較例1に係る太陽電池モジュールの入光面近傍を示す図であり、(a)はSEM像を示す写真であり、(b)は(a)のトレース図を示す。
図22図21の一部を拡大して示す拡大図であり、(a)はSEM像を示す写真であり、(b)は(a)のトレース図を示す。
図23】本発明の比較例1に係る太陽電池モジュールの入光面近傍を示す図であり、図21とは異なる部分を示すものであって、(a)はSEM像を示す写真であり、(b)は(a)のトレース図を示す。
図24】本発明の比較例1に係る太陽電池モジュールの入光面近傍を示す図であり、図21図23とは異なる部分を示すものであって、(a)はSEM像を示す写真であり、(b)は(a)のトレース図を示す。
図25図24の一部を拡大して示す拡大図であり、(a)はSEM像を示す写真であり、(b)は(a)のトレース図を示す。
図26】本発明の比較例2に係る太陽電池モジュールの入光面近傍を示す図であり、(a)はSEM像を示す写真であり、(b)は(a)のトレース図を示す。
図27図26の一部を拡大して示す拡大図であり、(a)はSEM像を示す写真であり、(b)は(a)のトレース図を示す。
図28】本発明の比較例2に係る太陽電池モジュールの入光面近傍を示す図であり、図26とは異なる部分を示すものであって、(a)はSEM像を示す写真であり、(b)は(a)のトレース図を示す。
図29図28の一部を拡大して示す拡大図であり、(a)はSEM像を示す写真であり、(b)は(a)のトレース図を示す。
図30】本発明の比較例2に係る太陽電池モジュールの入光面近傍を示す図であり、図26図28とは異なる部分を示すものであって、(a)はSEM像を示す写真であり、(b)は(a)のトレース図を示す。
図31図30の一部を拡大して示す拡大図であり、(a)はSEM像を示す写真であり、(b)は(a)のトレース図を示す。
図32】本発明の比較例2に係る太陽電池モジュールのガラス基板の表面を示す光学像である。
図33】本発明の実施例2に係る太陽電池モジュールのガラス基板の表面を示す光学像である。
図34】従来技術で形成した太陽電池モジュールの入光面近傍を概念的に示す説明図であり、(a)は入光面近傍の断面図、(b)は(a)拡大図、(c)は(b)の一部をさらに拡大した部分拡大図である。
図35】従来技術で形成した太陽電池モジュールを概念的に示す模式図であり、(a)は拡大平面図、(b)は(a)のA−A断面図、(c)は(b)をさらに拡大した拡大断面図である。
図36】従来技術で形成した太陽電池モジュールにおいて、クラックの部分が光る様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の太陽電池モジュール1を概念的に説明する。
本実施形態の太陽電池モジュール1は、薄膜型太陽電池モジュールと称されるものであり、図1で示されるように、ガラス基板2の裏面側に、光電変換部3が積層されたものである。なお、この光電変換部3は、透明電極層10と、半導体薄膜光電変換層11と、裏面透明電極層12と、裏面金属電極層13とが積層されたものである(図5参照)。
【0038】
さらに本実施形態では、図1で示されるように、光電変換部3の背面(図1の下方側に位置する面)側にバックシート4が設けられている。
【0039】
そして、本実施形態の太陽電池モジュール1では、ガラス基板2の表面側から光電変換部3側に光を入射して電気を発生させる。すなわちガラス基板2の一面が、太陽電池モジュール1の入光面を形成している。
【0040】
本実施形態で採用されているガラス基板2の表面は、巨視的に観察すると、図1で示されるような平滑面であるが、微視的に観察すると、表面は荒れており、微小な凹凸形状がある。すなわち、図2で示されるように、ガラス基板2の表面には物理的な加工が施されており、故意に凹凸形状とされている。具体的には、ガラス基板2の表面は、算術平均粗さが0.4マイクロメートル〜2.0マイクロメートルとなる程度の粗さを持っている。
【0041】
また、ガラス基板2には、クラック18が存在している。そして、クラック18には、ガラス基板2の巨視的平面に対して平行方向の成分を有する横向きで微小なクラック18(以下、横向きクラック18とも称す)が存在する。
このクラック18を平面視すると、鱗片状であり複雑な形状をしているが、説明の都合上、平面視して最も長い寸法をLとする(図3参照)。そして、以下の説明においては、この寸法を最大径Lと略称する。この最大径Lは、各クラック18における、巨視的平面に対する平行方向の最大成分であるといえる。
【0042】
本実施形態の太陽電池モジュール1では、最大径Lが4マイクロメートル以上である横向きクラック18が、1.69×104平方マイクロメートル当たり、10個以上存在する。なお、横向きクラック18は、偶発的に発生するものであるから、その分布は一様ではない。本実施形態においては、6マイクロメートル以上の横向きクラック18が、1.69×104平方マイクロメートル当たり、15個以上存在する領域が、少なくとも複数箇所存在する。
【0043】
また、図2(b)で示されるように、ガラス基板2の厚さ方向に切断した断面を観察したとき、巨視的平面に沿った横向きクラック18が複数認められる。
前記したように、横向きクラック18は、偶発的に発生するものであるから、その分布は一様ではないが、本実施形態においては、巨視的平面に沿った60マイクロメートルの長さの範囲に、複数のクラック18における巨視的平面と平行方向の成分の長さの合計が、8マイクロメートル以上である領域が少なくとも複数箇所存在する。
【0044】
さらに、本実施形態の太陽電池モジュール1には、ガラス基板2の表面に、反射防止膜19が積層されている。
【0045】
反射防止膜19は、水溶性チタニアシリコンコーティング剤を風乾したものであるが、本実施形態では、反射防止膜の一部が、横向きクラック18の中に進入している。
この横向きクラック18の中への反射防止膜19の進入は、故意に行ったものではあるが、実際には、横向きクラック18に対して、その最奥部まで反射防止膜19を進入させることは出来ず、進入は一部に止まっている。
【0046】
しかしながら、ガラス基板2の厚さ方向に切断した断面を観察したとき、横向きクラック18の内部に3マイクロメートル以上に渡って反射防止膜19を構成する物質の一部が入り込んでいる部分が、ガラス基板2の複数の箇所に存在する。
【0047】
そして反射防止膜19が進入しているクラック18は、クラック18の内部に形成される隙間が、反射防止膜19で塞がれており、クラック18の界面で光が反射しにくい。
【0048】
そのため太陽電池モジュール1を表面から観察すると、図4で示されるように、従来技術の表面に比べて(図36参照)、クラック18での入射光の反射が小さくなる(白く光る部分が少なくなっている)。
【0049】
以上説明した太陽電池モジュール1は、所謂薄膜太陽電池と称されるものとなっている。しかしながら、本発明がこの例に限定されないことは当然である。所謂薄膜型と称される太陽電池モジュールに対して本発明を採用するだけでなく、例えば、結晶型と称される太陽電池を内蔵する太陽電池モジュールに対して、本発明を採用してもよい。
すなわち、多結晶シリコン等の半導体ウェハを使用し、当該半導体ウェハに、燐や、ホウ素等をドープして太陽電池を製作し、この表面を保護する目的でガラス板を設けた太陽電池モジュールに対し、本発明を適用してもよい。この種の太陽電池モジュールに使用される保護用ガラス板に本発明を適用してもよい。
つまりは、入光面にガラス(カバーガラス)を配する太陽電池であれば、本発明を好適に採用することができる。
【実施例】
【0050】
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。
(実施例1)
本実施例の太陽電池モジュール1は、薄膜型であり、且つ集積型の太陽電池モジュールである。
すなわち、本実施例の太陽電池モジュール1は、ガラス基板2に、成膜手段によって、透明電極層10と、半導体薄膜光電変換層11と、裏面透明電極層12と、裏面金属電極層13とを成膜したものであり、薄膜型の太陽電池モジュールであると言える。
【0051】
本実施例の太陽電池モジュール1は次の工程によって製造されたものである。
この太陽電池モジュール1の製造工程は、光電変換部製造工程と、表面処理工程とに大別される。このうち、光電変換部製造工程は、公知の太陽電池モジュールの製造工程と同一であり、簡単に説明する。
【0052】
光電変換部製造工程では、図5で示されるように、まず、ガラス基板2の裏面側(入光面と対向する位置にある面)に透明電極層10を製膜し(図5(a)参照)、レーザースクライブを実施して、製膜した透明電極層10を分割する(図5(b)参照)。
【0053】
続いて、透明電極層10の上に半導体薄膜光電変換層11を製膜し(図5(c)参照)、レーザースクライブを実施して、製膜した半導体薄膜光電変換層11を分割する(図5(d)参照)。さらに、裏面電極として、裏面透明電極層12、裏面金属電極層13を製膜する(図5(e)及び図5(f)参照)。そして、レーザースクライブを実施し、製膜した裏面透明電極層12及び裏面金属電極層13を適宜分割する(図5(g)参照)
【0054】
これらの工程により、複数の太陽電池セル14が形成され、これらがそれぞれ相互に電気的に接続された状態となる。つまり、光電変換部3は、複数の層が重なって形成される積層体であり、複数の太陽電池セル14が集積されて形成される光半導体素子となっている。
【0055】
そして、形成した光電変換部3を樹脂及びバックシート4で保護することにより(図1等参照)、光電変換部製造工程が完了する。
【0056】
続いて、ガラス基板2の入光面に対して表面処理を実施する表面処理工程を実施する。
【0057】
表面処理工程は、さらに凹凸化工程と、水洗工程及び反射防止膜形成工程に分けられる。
凹凸化工程では、ガラス基板2の入光面に凹凸面を形成するため、ガラス基板2の表面にブラスト加工を施す。
【0058】
このブラスト加工は、研磨材を使用してサンドブラストを実施するものである。研磨材としては、ホワイトアルミナを好適に採用可能であり、表示番手で#40から#600の範囲内である研磨材を好適に採用可能である。
この凹凸化工程を実施すると、ガラス基板2の入光面に凹凸面が形成されることとなる。すなわちブラスト加工を行うことにより、ガラス基板2の表面に、微小な横向きクラックが多数形成されてしまう。
【0059】
図6は、このブラスト加工後におけるガラス基板2の表面を示す顕微鏡写真(光学像)であり、白く写っている部位が横向きクラックである。
【0060】
そして、この凹凸化工程に続いて、水洗工程を実施する。すなわちブラスト加工されたガラス基板を水で洗う工程である。詳細に説明すると、この水洗工程は、ガラス基板2の入光面となる部分を市水を用いて洗浄する工程となっている。
【0061】
さらに、その後に反射防止膜形成工程を実施する。
【0062】
反射防止膜形成工程では、チタン酸化物及びシリコン酸化物からなる微粒子を含む水溶性チタニアシリコンコーティング剤をスプレーで塗布し、風乾することで反射防止膜19(図2参照)を形成している。この反射防止膜形成工程は、親水処理剤等を利用した親水処理を実施することなく、反射防止膜19(図2参照)を形成する工程となっている。
なお、この反射防止膜19を形成するのと同一の工程で平坦なガラス基板に反射防止膜を形成し、分光エリプソメトリーを用いて、波長600nmの屈折率を測定した。その結果、屈折率は1.43であった。
【0063】
この反射防止膜形成工程の完了をもって、太陽電池モジュール1が完成する。
【0064】
図7乃至図10は、反射防止膜形成工程が終了した後におけるガラス基板2の断面拡大写真(走査型電子顕微鏡像:SEM像)である。図7乃至図10で明らかなように、横向きクラックの中に、反射防止膜19の一部が進入していることが確認された。図7乃至図10に示すような断面拡大写真(SEM像)は、数百倍から数千倍の倍率をもって得ることができる。
【0065】
すなわち、形成された凹凸面に注目すると、例えば図10で示されるように、ガラス基板2の入光面側(図10における上側)の近傍には、非常に微細なクラック18が多数形成されており、水平方向成分を含む方向に延びるものを含んでいる。そして、クラック18の内部には、反射防止膜19を形成するための物質(上述の水溶性チタニアシリコンコーティング剤)が入り込んだ状態となっている。
【0066】
このように、クラック18の内部に反射防止膜19を形成するための物質を入り込ませると、反射光が抑制され、太陽電池モジュール1の防眩性を向上させることができる。
【0067】
具体的に説明すると、クラック18の内部に反射防止膜19の一部が進入している場合、図2(c)で示されるように、クラック18の反射防止膜19が侵入している部分で外部側への反射が抑制されて、光は光電変換部3側へと進んでいくこととなる。すなわち、クラック18の近傍の反射率が低くなっているといえる。
【0068】
これに対し、図35(c)で示されるように、クラック104の内部に反射防止膜119を形成するための物質が充填されていない場合、すなわち、クラック104の内部に空気が充満している場合について考える。この場合、クラック104の内部に充満する空気によって、ガラス基板2の内部に空気の層が形成された状態となる。
【0069】
この場合、ガラス基板2の内部に空気の層が形成されていることから、クラック104の内部側から光電変換部3側(図35(c)における下方側であり、太陽電池モジュール1の内部側)へと進入しようとする光の一部が、外部側へ向かって反射されることとなる。つまり、ガラス基板2の外部から照射された光は、最表面の反射に加えて、横向きのクラック104を通過するたびにガラス/空気の界面および空気/ガラス界面の2ヶ所でさらに反射されて、大きく反射することとなる。そして、光電変換部3に到達する光の量が少なくなり、太陽電池の出力が低下してしまうばかりか、反射する光の量も多くなってしまうこととなる。
【0070】
これに対し、本実施例の太陽電池モジュール1では、上記したように、クラック18の内部に反射防止膜19を形成するための物質が充填されており、クラック18の近傍で入射光が大きく反射しない構造となっている。したがって、光電変換部3に到達する光の量を多くすることが可能であり、反射する光の量を少なくすることができるので、太陽電池モジュール1の高出力化と防眩性の向上が可能となっている。
【0071】
このことを確認すべく、本実施例の太陽電池モジュール1と、特許文献3に開示された方法で製造された従来技術の太陽電池モジュールを比較した。すなわち、それぞれの太陽電池モジュールに対して60度の入射角でJIS Z8741−1997に記載されている鏡面光沢度測定方法に準拠する方法によって光沢度を測定した。その結果、本実施例の太陽電池モジュール1の光沢度は、従来技術の太陽電池モジュールの光沢度に対して12パーセント程度低いものであった。このことから、本実施例の太陽電池モジュール1は視認したときに眩しさを感じ難く、防眩性が高いことが確認された。
【0072】
(実施例2)
本発明の第2実施例の太陽電池モジュール1は、先の実施例と同様に、凹凸化工程と、水洗工程及び反射防止膜形成工程によって製造されたものであるが、凹凸化工程において、ブラスト加工を複数回に渡って施した。
すなわち、第1実施例における凹凸化工程を第1凹凸化工程とし、これに引き続いて第2凹凸化工程を実施した。
【0073】
ここで第1凹凸化工程は、先の実施例と同一の条件で行っている。
第2凹凸化工程もまた、研磨材を使用してサンドブラストを実施するものである。研磨材としては、ホワイトアルミナを好適に採用可能であり、表示番手で#400から#3000の範囲内である研磨材を好適に採用可能である。
【0074】
ここで、本実施形態の第2凹凸化工程では、第1凹凸化工程に比べて粒径の小さい研磨材を使用している。このような第2凹凸化工程を実施することにより、第1凹凸化工程で発生した表面上の欠損が除去される。
【0075】
上記した各工程を含む表面処理を実施することにより、算術平均粗さ0.4マイクロメートル〜10マイクロメートルの凹凸面が形成できると共に、第1凹凸化工程の完了時に存在していたガラス面上の欠損を殆ど無くすことができた。より具体的には、好適に採用可能である研磨材を利用することにより、算術平均粗さ0.4マイクロメートル〜2マイクロメートルの凹凸面、さらに具体的には、算術平均粗さ0.42マイクロメートルの凹凸面が形成できた。
【0076】
また、反射防止膜形成工程は先の実施例と同一の条件によって行った。
この反射防止膜形成工程の完了をもって、太陽電池モジュール1が完成する。
【0077】
図11は、第2凹凸化工程後のガラス基板2の表面を示す顕微鏡写真(光学像)であり、白く写っている部位が横向きクラックである。
図12は、反射防止膜形成工程後のガラス基板2の表面を示す顕微鏡写真(光学像)であり、白く写っている部位が横向きクラックのうちで反射防止膜が入り込んでいない部分である。
反射防止膜形成工程を実施することにより、クラックでの入射光の反射が小さくなる(白く光る部分が少なくなっている)ことが示された。
【0078】
図13乃至図16は、本実施例において反射防止膜形成工程が終了した後のガラス基板の断面拡大写真(走査型電子顕微鏡像:SEM像)である。図13乃至図16で明らかなように、横向きクラックの中に、反射防止膜19の一部が進入していることが確認された。図13乃至図16に示すような断面拡大写真(SEM像)は、数百倍から数千倍の倍率をもって得ることができる。
【0079】
すなわち、形成された凹凸面に注目すると、例えば図16で示されるように、ガラス基板の入光面側の近傍には、非常に微細なクラックが多数形成されており、水平方向成分を含む方向に延びるものを含んでいる。そして、クラックの内部には、反射防止膜を形成するための物質(上述の水溶性チタニアシリコンコーティング剤)が入り込んだ状態となっている。
その結果、クラックの反射防止膜が浸入している部分で入射光が大きく反射しないので、太陽電池モジュール1が高出力化され、防眩性が向上する。
【0080】
本実施例の太陽電池モジュール1に対し、ガラス表面割れ面積比率、短絡電流値保持率、入射面側の全反射率、表面の算術平均粗さ、光沢度、映り込みの各値を測定した。
より詳細には、表面処理の実施前、第1凹凸化工程の実施後、第2凹凸化工程の実施後、反射防止膜形成工程の実施後において、それぞれの値を測定した。
【0081】
ガラス表面割れ面積比率の測定を以下の方法で行った。
130マイクロメートル×130マイクロメートルのガラス表面の拡大像から、ガラス基板2の表面(入光面)の割れた部分を特定した。なお、割れた部分は、反射光による光学観察において、周辺の部分よりも反射が大きな領域とする(例えば、図6図11図12で示される光学像のうちで白色で表示される領域)。測定は、レーザー顕微鏡(オリンパス株式会社製、型式LEXT OLS4000)を利用して行った。
【0082】
表面の算術平均粗さの測定方法を以下の方法で行った。
レーザー顕微鏡(オリンパス株式会社製、型式LEXT OLS4000)を使用し、カットオフλc80マイクロメートルの設定で測定した。
【0083】
光沢度の測定を以下の方法で行った。
光沢計(堀場製作所製、グロスチェッカIG−320)を使用し、入射角60度でJIS Z8741−1997に記載されている鏡面光沢度測定方法に準拠する方法によって光沢度を測定した。
【0084】
映り込みの測定を以下の方法で行った。
暗幕中で点灯したハロゲンランプを、モジュールガラス表面に対して法線角度60度で目視観察し、ハロゲンランプのフィラメントが確認できるか否かを判別した。
【0085】
このような測定の結果、下記表1で示される結果が得られた。
【0086】
【表1】
【0087】
上記した各工程を実施して形成した本実施例の太陽電池モジュールは、各工程を実施しない従来の太陽電池モジュール(光電変換部製造工程の終了時における太陽電池モジュール)と比べ、出力(短絡電流値保持率)が向上されると共に、防眩性が向上(全反射率が低減)されていることが確認された。
【0088】
さらに、本実施例の太陽電池モジュールと、従来技術で製造した太陽電池モジュールと、各種屋根材で入射角8度の正反射率を比較した。その結果を図17で示す。
なお、比較対象とした屋根材は、陶器瓦、異なる2種類のスレート瓦(スレート瓦A、スレート瓦B)、金属瓦の異なる4種の屋根材である。そして、図17のグラフの横軸は対象物に照射した光の波長、縦軸は正反射率を示す。
【0089】
この結果、本実施例の太陽電池モジュールは、従来技術で製造した太陽電池モジュールよりも正反射率が低減されていることが確認された。
【0090】
また、これらの本実施例の太陽電池モジュールと、従来技術で製造した太陽電池モジュールと、各種屋根材につき、60度入射による反射率の相対比較を実施した。その結果、下記表2で示される結果が得られた。なお、表2で示す各値は、陶器瓦の反射率を1としたときの反射率の割合となっている。
【0091】
【表2】
【0092】
この結果、本実施例の太陽電池モジュールは、従来技術で製造した太陽電池モジュールよりも60度入射による反射率が低減されていることが確認された。
【0093】
また、本実施例の太陽電池モジュールに積層させた反射防止膜と、従来技術で製造した太陽電池モジュールの反射防止膜につき、硬化前の粘度について比較した。すなわち、ガラス基板上に塗布した直後の反射防止膜(反射防止膜を形成するための物質)の粘度を比較した。その結果、下記表3で示される結果が得られた。なお、表3には参考のため純水の粘度も記した。
【0094】
【表3】
【0095】
本実施例の太陽電池モジュールは、硬化前の粘度が従来技術に比べて極めて低く、その粘度が純水に近似していることが確認された。つまり、本実施例では、反射防止膜の硬化前の粘度を低くし、ガラス基板に形成されたクラックに対して反射防止膜が十分に入り込むようにしている。
【0096】
また、本実施例の太陽電池モジュールと、従来技術で製造した太陽電池モジュールにつき、同じ光を照射した状態の写真をそれぞれ撮影し、人が感じる眩しさについて考察した。この結果、図18で示されるように、従来技術で製造した太陽電池モジュールは、本実施例の太陽電池モジュールよりも輝いて見えることが確認された。つまり、本実施例の太陽電池モジュールは、光が照射された状態において、人が眩しさを感じ難く、防眩性が高いことが確認された。
【0097】
さらに、図13乃至図16の断面拡大写真(走査型電子顕微鏡像:SEM像)で示されるように、第2凹凸化工程によって形成された窪みの中に反射防止膜が入り込み、太陽電池モジュールの表面が滑らかになっている。
つまり、反射防止膜を積層するとき、ガラス基板の窪みの深い部分では反射防止膜が厚く積層された状態とされ、ガラス基板の窪みの浅い部分では反射防止膜が薄く積層されている。このため、ガラス基板自体には凹凸があるが、ガラス基板上に積層された反射防止膜の表面は、平滑化された状態となっている。また、反射防止膜は、ガラス基板の表面における角張った部位を覆っている。
【0098】
本実施例では、太陽電池モジュールの表面(入光面)を平滑化することにより、この表面に汚れが付着し難い構造としている。すなわち、第2実施例の太陽電池モジュールは、防眩性に加えて防汚性も向上させている。
【0099】
本実施例の太陽電池モジュールと従来技術で製造した太陽電池モジュールに対し、それぞれ横倒した状態で砂を散布した。そして、その後に一辺を持ち上げ、それぞれ地表面に対して45度傾斜した状態で直立させた。
【0100】
その結果、図19(a)で示されるように、本実施例の太陽電池モジュールは、45度傾斜させると、砂を散布した全領域のうちの90パーセントの部分で砂が除去された。これに対し、従来技術で製造した太陽電池モジュールでは殆ど砂が除去されなかった。つまり、本実施例の太陽電池モジュールは、汚れが付着し難い構造であることが示された。
【0101】
本実施例の太陽電池モジュールと従来技術で製造した太陽電池モジュールに対し、鉛筆と油性マーカーを用いて汚れを付着させた。そして、それぞれに対して5回の水ぶきを実施し、汚れの落ち方について比較した。
【0102】
その結果、図19(b)で示されるように、本実施例の太陽電池モジュールは、従来技術で製造した太陽電池モジュールよりも汚れが落ちやすいことが確認された。すなわち、本実施例の太陽電池モジュールは、防汚性が高いものであることが確認された。
【0103】
続いて、第1凹凸化工程、第2凹凸化工程、反射防止膜形成工程を実施したガラス板と、これらの工程を実施していない通常のガラス板についてそれぞれリング曲げ試験を実施し、強度を比較した。リング曲げ試験の測定をワイブルプロットで表した結果を図20で示す。
【0104】
その結果、通常のガラス板が0.1パーセントの確率で破損する圧力が約20MPaであるのに対し(図20(a)参照)、第1凹凸化工程、第2凹凸化工程、反射防止膜形成工程の各工程を実施したガラス板が0.1パーセントの確率で破損する圧力は約50MPaであった(図20(b)参照)。
すなわち、本実施例の太陽電池モジュールは、高い強度を発揮することが示された。本発明で強度が通常のガラスより大きくなった理由は、ガラス板自体がもつ歪が第1凹凸化工程、第2凹凸化工程で緩和されたためと推察される。
【0105】
(比較例1)
特許文献3に記載された方法によって太陽電池モジュールを製造し、ガラス基板の断面拡大写真(走査型電子顕微鏡像:SEM像)を撮影した。この断面拡大写真を図21乃至図25で示す。図21乃至図25に示すような断面拡大写真(SEM像)は、数百倍から数千倍の倍率をもって得ることができる。
【0106】
この結果、ガラス基板202の表面に反射防止膜219が積層されているが、略全てのクラック218の中は空洞であった。つまり、上記したように、クラック218の中に隙間が形成され、クラック218の内面で光が反射してしまう構造となってしまっていることが示された。
【0107】
ここで、図23に注目すると、図23で示されるクラック218aの内部には、反射防止膜219を形成する物質が僅かに入り込んだ状態となっている。しかしながら、この物質は、クラック218aの上面(外側に位置する面)にだけ僅かにこびりついており、クラック218aの下面(内側に位置する面)の近傍では空間が形成されている。このため、クラック218aの内面で光が反射してしまうこととなる。
【0108】
具体的に説明すると、まず、上記した各実施例に係る太陽電池モジュールでは(図7乃至図10、及び図13乃至図16参照)、クラック18の内部空間のうちで反射防止膜19が入り込んでいる部分に注目すると、クラック18の上面から下面に至るまでの間に反射防止膜19を形成する物質が充填された状態となっている。つまり、クラック18の反射防止膜19が入り込んでいる部分では、ガラス基板2の厚さ方向における全域に亘って反射防止膜19が入り込んだ状態となっており、別言すると、ガラス基板2の厚さ方向において反射防止膜19が隙間なく充填された状態となっている。このことから、クラック18内の少なくとも一部では、反射防止膜19を形成する物質が隙間なく詰め込まれた状態となっており、この部分が反射防止膜19によって埋められた状態となっている。そのため、上記実施例に係る太陽電池モジュール1では、上記したように、クラック18が形成されている部分で光が大きく反射しない構造となっている。
【0109】
これに対して、図23で示されるクラック218aの内部では、反射防止膜219を形成する物質がクラック218aの上面にのみ付着しており、クラック218aの下面近傍に大きな隙間が形成されている。すなわち、従来技術で製造した太陽電池モジュールでは、大きなクラック218aが形成されてしまい、そこに反射防止膜219が偶然に進入することはある。しかしながら、クラック218aの内部空間のうち、ガラス基板202の厚さ方向における全域に充填される程に十分な量の物質(反射防止膜219を形成する物質)が入り込んでしまうことはない。つまり、クラック218のいずれの部分においても、上面近傍(外側に位置する面の近傍)又は下面近傍(内側に位置する面の近傍)に隙間が形成されることとなる。このことから、本願発明のような効果を奏することはなく、クラック218aが形成されている部分で光が反射してしまうこととなってしまう。
【0110】
(比較例2)
第2比較例の太陽電池モジュール1は、先の比較例1と同様に、特許文献3に記載された方法によって製造したものであるが、ブラスト加工を複数回に渡って施した。
すなわち、従来技術の製造方法に対し、単にブラスト加工の回数だけを増加させた製造方法により、太陽電池モジュールを製造した。
【0111】
そして、製造した太陽電池モジュールのガラス基板の断面拡大写真(走査型電子顕微鏡像:SEM像)を撮影した。この断面拡大写真を図26乃至図31で示す。図26乃至図31に示すような断面拡大写真(SEM像)は、数百倍から数千倍の倍率をもって得ることができる。
【0112】
この結果、ガラス基板202の表面に反射防止膜219が積層されているが、殆ど全てのクラック218の中は空洞であった。また、いくつかのクラック218には、反射防止膜219を形成する物質が僅かに入り込んでいるものの、クラック218の内部に形成される空間のうち、ガラス基板202の厚さ方向における全領域を閉塞するに足る程の物質(反射防止膜219を形成する物質)が入り込んでいるものは確認されなかった。つまり、上記したように、クラック218の中に隙間が形成され、クラック218の内面で光が反射してしまう構造となってしまっていることが示された。すなわち、単にブラスト加工の回数を増加させただけの製造方法では、本願発明のようにクラック18の内部に反射防止膜19が入り込まないことが示された。
【0113】
さらに、上記した実施例2の太陽電池モジュールの表面と、本比較例(比較例2)の太陽電池モジュールの表面の顕微鏡写真を撮影した。
図32は、本比較例のガラス基板202の表面を示す顕微鏡写真(光学像)であり、白く写っている部位が横向きクラックである。
図33は、実施例2のガラス基板2の表面を示す顕微鏡写真(光学像)であり、白く写っている部位が横向きクラックのうちで反射防止膜が入り込んでいない部分である。
本発明の太陽電池モジュール(図33)は、従来技術で製造した太陽電池モジュール(図32)に比べて、クラックでの入射光の反射が小さくなる(白く光る部分が少なくなっている)ことが示された。
【符号の説明】
【0114】
1 太陽電池モジュール
2 ガラス基板(板体)
18 クラック
19 反射防止膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36