【実施例】
【0050】
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。
(実施例1)
本実施例の太陽電池モジュール1は、薄膜型であり、且つ集積型の太陽電池モジュールである。
すなわち、本実施例の太陽電池モジュール1は、ガラス基板2に、成膜手段によって、透明電極層10と、半導体薄膜光電変換層11と、裏面透明電極層12と、裏面金属電極層13とを成膜したものであり、薄膜型の太陽電池モジュールであると言える。
【0051】
本実施例の太陽電池モジュール1は次の工程によって製造されたものである。
この太陽電池モジュール1の製造工程は、光電変換部製造工程と、表面処理工程とに大別される。このうち、光電変換部製造工程は、公知の太陽電池モジュールの製造工程と同一であり、簡単に説明する。
【0052】
光電変換部製造工程では、
図5で示されるように、まず、ガラス基板2の裏面側(入光面と対向する位置にある面)に透明電極層10を製膜し(
図5(a)参照)、レーザースクライブを実施して、製膜した透明電極層10を分割する(
図5(b)参照)。
【0053】
続いて、透明電極層10の上に半導体薄膜光電変換層11を製膜し(
図5(c)参照)、レーザースクライブを実施して、製膜した半導体薄膜光電変換層11を分割する(
図5(d)参照)。さらに、裏面電極として、裏面透明電極層12、裏面金属電極層13を製膜する(
図5(e)及び
図5(f)参照)。そして、レーザースクライブを実施し、製膜した裏面透明電極層12及び裏面金属電極層13を適宜分割する(
図5(g)参照)
【0054】
これらの工程により、複数の太陽電池セル14が形成され、これらがそれぞれ相互に電気的に接続された状態となる。つまり、光電変換部3は、複数の層が重なって形成される積層体であり、複数の太陽電池セル14が集積されて形成される光半導体素子となっている。
【0055】
そして、形成した光電変換部3を樹脂及びバックシート4で保護することにより(
図1等参照)、光電変換部製造工程が完了する。
【0056】
続いて、ガラス基板2の入光面に対して表面処理を実施する表面処理工程を実施する。
【0057】
表面処理工程は、さらに凹凸化工程と、水洗工程及び反射防止膜形成工程に分けられる。
凹凸化工程では、ガラス基板2の入光面に凹凸面を形成するため、ガラス基板2の表面にブラスト加工を施す。
【0058】
このブラスト加工は、研磨材を使用してサンドブラストを実施するものである。研磨材としては、ホワイトアルミナを好適に採用可能であり、表示番手で#40から#600の範囲内である研磨材を好適に採用可能である。
この凹凸化工程を実施すると、ガラス基板2の入光面に凹凸面が形成されることとなる。すなわちブラスト加工を行うことにより、ガラス基板2の表面に、微小な横向きクラックが多数形成されてしまう。
【0059】
図6は、このブラスト加工後におけるガラス基板2の表面を示す顕微鏡写真(光学像)であり、白く写っている部位が横向きクラックである。
【0060】
そして、この凹凸化工程に続いて、水洗工程を実施する。すなわちブラスト加工されたガラス基板を水で洗う工程である。詳細に説明すると、この水洗工程は、ガラス基板2の入光面となる部分を市水を用いて洗浄する工程となっている。
【0061】
さらに、その後に反射防止膜形成工程を実施する。
【0062】
反射防止膜形成工程では、チタン酸化物及びシリコン酸化物からなる微粒子を含む水溶性チタニアシリコンコーティング剤をスプレーで塗布し、風乾することで反射防止膜19(
図2参照)を形成している。この反射防止膜形成工程は、親水処理剤等を利用した親水処理を実施することなく、反射防止膜19(
図2参照)を形成する工程となっている。
なお、この反射防止膜19を形成するのと同一の工程で平坦なガラス基板に反射防止膜を形成し、分光エリプソメトリーを用いて、波長600nmの屈折率を測定した。その結果、屈折率は1.43であった。
【0063】
この反射防止膜形成工程の完了をもって、太陽電池モジュール1が完成する。
【0064】
図7乃至
図10は、反射防止膜形成工程が終了した後におけるガラス基板2の断面拡大写真(走査型電子顕微鏡像:SEM像)である。
図7乃至
図10で明らかなように、横向きクラックの中に、反射防止膜19の一部が進入していることが確認された。
図7乃至
図10に示すような断面拡大写真(SEM像)は、数百倍から数千倍の倍率をもって得ることができる。
【0065】
すなわち、形成された凹凸面に注目すると、例えば
図10で示されるように、ガラス基板2の入光面側(
図10における上側)の近傍には、非常に微細なクラック18が多数形成されており、水平方向成分を含む方向に延びるものを含んでいる。そして、クラック18の内部には、反射防止膜19を形成するための物質(上述の水溶性チタニアシリコンコーティング剤)が入り込んだ状態となっている。
【0066】
このように、クラック18の内部に反射防止膜19を形成するための物質を入り込ませると、反射光が抑制され、太陽電池モジュール1の防眩性を向上させることができる。
【0067】
具体的に説明すると、クラック18の内部に反射防止膜19の一部が進入している場合、
図2(c)で示されるように、クラック18の反射防止膜19が侵入している部分で外部側への反射が抑制されて、光は光電変換部3側へと進んでいくこととなる。すなわち、クラック18の近傍の反射率が低くなっているといえる。
【0068】
これに対し、
図35(c)で示されるように、クラック104の内部に反射防止膜119を形成するための物質が充填されていない場合、すなわち、クラック104の内部に空気が充満している場合について考える。この場合、クラック104の内部に充満する空気によって、ガラス基板2の内部に空気の層が形成された状態となる。
【0069】
この場合、ガラス基板2の内部に空気の層が形成されていることから、クラック104の内部側から光電変換部3側(
図35(c)における下方側であり、太陽電池モジュール1の内部側)へと進入しようとする光の一部が、外部側へ向かって反射されることとなる。つまり、ガラス基板2の外部から照射された光は、最表面の反射に加えて、横向きのクラック104を通過するたびにガラス/空気の界面および空気/ガラス界面の2ヶ所でさらに反射されて、大きく反射することとなる。そして、光電変換部3に到達する光の量が少なくなり、太陽電池の出力が低下してしまうばかりか、反射する光の量も多くなってしまうこととなる。
【0070】
これに対し、本実施例の太陽電池モジュール1では、上記したように、クラック18の内部に反射防止膜19を形成するための物質が充填されており、クラック18の近傍で入射光が大きく反射しない構造となっている。したがって、光電変換部3に到達する光の量を多くすることが可能であり、反射する光の量を少なくすることができるので、太陽電池モジュール1の高出力化と防眩性の向上が可能となっている。
【0071】
このことを確認すべく、本実施例の太陽電池モジュール1と、特許文献3に開示された方法で製造された従来技術の太陽電池モジュールを比較した。すなわち、それぞれの太陽電池モジュールに対して60度の入射角でJIS Z8741−1997に記載されている鏡面光沢度測定方法に準拠する方法によって光沢度を測定した。その結果、本実施例の太陽電池モジュール1の光沢度は、従来技術の太陽電池モジュールの光沢度に対して12パーセント程度低いものであった。このことから、本実施例の太陽電池モジュール1は視認したときに眩しさを感じ難く、防眩性が高いことが確認された。
【0072】
(実施例2)
本発明の第2実施例の太陽電池モジュール1は、先の実施例と同様に、凹凸化工程と、水洗工程及び反射防止膜形成工程によって製造されたものであるが、凹凸化工程において、ブラスト加工を複数回に渡って施した。
すなわち、第1実施例における凹凸化工程を第1凹凸化工程とし、これに引き続いて第2凹凸化工程を実施した。
【0073】
ここで第1凹凸化工程は、先の実施例と同一の条件で行っている。
第2凹凸化工程もまた、研磨材を使用してサンドブラストを実施するものである。研磨材としては、ホワイトアルミナを好適に採用可能であり、表示番手で#400から#3000の範囲内である研磨材を好適に採用可能である。
【0074】
ここで、本実施形態の第2凹凸化工程では、第1凹凸化工程に比べて粒径の小さい研磨材を使用している。このような第2凹凸化工程を実施することにより、第1凹凸化工程で発生した表面上の欠損が除去される。
【0075】
上記した各工程を含む表面処理を実施することにより、算術平均粗さ0.4マイクロメートル〜10マイクロメートルの凹凸面が形成できると共に、第1凹凸化工程の完了時に存在していたガラス面上の欠損を殆ど無くすことができた。より具体的には、好適に採用可能である研磨材を利用することにより、算術平均粗さ0.4マイクロメートル〜2マイクロメートルの凹凸面、さらに具体的には、算術平均粗さ0.42マイクロメートルの凹凸面が形成できた。
【0076】
また、反射防止膜形成工程は先の実施例と同一の条件によって行った。
この反射防止膜形成工程の完了をもって、太陽電池モジュール1が完成する。
【0077】
図11は、第2凹凸化工程後のガラス基板2の表面を示す顕微鏡写真(光学像)であり、白く写っている部位が横向きクラックである。
図12は、反射防止膜形成工程後のガラス基板2の表面を示す顕微鏡写真(光学像)であり、白く写っている部位が横向きクラックのうちで反射防止膜が入り込んでいない部分である。
反射防止膜形成工程を実施することにより、クラックでの入射光の反射が小さくなる(白く光る部分が少なくなっている)ことが示された。
【0078】
図13乃至
図16は、本実施例において反射防止膜形成工程が終了した後のガラス基板の断面拡大写真(走査型電子顕微鏡像:SEM像)である。
図13乃至
図16で明らかなように、横向きクラックの中に、反射防止膜19の一部が進入していることが確認された。
図13乃至
図16に示すような断面拡大写真(SEM像)は、数百倍から数千倍の倍率をもって得ることができる。
【0079】
すなわち、形成された凹凸面に注目すると、例えば
図16で示されるように、ガラス基板の入光面側の近傍には、非常に微細なクラックが多数形成されており、水平方向成分を含む方向に延びるものを含んでいる。そして、クラックの内部には、反射防止膜を形成するための物質(上述の水溶性チタニアシリコンコーティング剤)が入り込んだ状態となっている。
その結果、クラックの反射防止膜が浸入している部分で入射光が大きく反射しないので、太陽電池モジュール1が高出力化され、防眩性が向上する。
【0080】
本実施例の太陽電池モジュール1に対し、ガラス表面割れ面積比率、短絡電流値保持率、入射面側の全反射率、表面の算術平均粗さ、光沢度、映り込みの各値を測定した。
より詳細には、表面処理の実施前、第1凹凸化工程の実施後、第2凹凸化工程の実施後、反射防止膜形成工程の実施後において、それぞれの値を測定した。
【0081】
ガラス表面割れ面積比率の測定を以下の方法で行った。
130マイクロメートル×130マイクロメートルのガラス表面の拡大像から、ガラス基板2の表面(入光面)の割れた部分を特定した。なお、割れた部分は、反射光による光学観察において、周辺の部分よりも反射が大きな領域とする(例えば、
図6、
図11、
図12で示される光学像のうちで白色で表示される領域)。測定は、レーザー顕微鏡(オリンパス株式会社製、型式LEXT OLS4000)を利用して行った。
【0082】
表面の算術平均粗さの測定方法を以下の方法で行った。
レーザー顕微鏡(オリンパス株式会社製、型式LEXT OLS4000)を使用し、カットオフλc80マイクロメートルの設定で測定した。
【0083】
光沢度の測定を以下の方法で行った。
光沢計(堀場製作所製、グロスチェッカIG−320)を使用し、入射角60度でJIS Z8741−1997に記載されている鏡面光沢度測定方法に準拠する方法によって光沢度を測定した。
【0084】
映り込みの測定を以下の方法で行った。
暗幕中で点灯したハロゲンランプを、モジュールガラス表面に対して法線角度60度で目視観察し、ハロゲンランプのフィラメントが確認できるか否かを判別した。
【0085】
このような測定の結果、下記表1で示される結果が得られた。
【0086】
【表1】
【0087】
上記した各工程を実施して形成した本実施例の太陽電池モジュールは、各工程を実施しない従来の太陽電池モジュール(光電変換部製造工程の終了時における太陽電池モジュール)と比べ、出力(短絡電流値保持率)が向上されると共に、防眩性が向上(全反射率が低減)されていることが確認された。
【0088】
さらに、本実施例の太陽電池モジュールと、従来技術で製造した太陽電池モジュールと、各種屋根材で入射角8度の正反射率を比較した。その結果を
図17で示す。
なお、比較対象とした屋根材は、陶器瓦、異なる2種類のスレート瓦(スレート瓦A、スレート瓦B)、金属瓦の異なる4種の屋根材である。そして、
図17のグラフの横軸は対象物に照射した光の波長、縦軸は正反射率を示す。
【0089】
この結果、本実施例の太陽電池モジュールは、従来技術で製造した太陽電池モジュールよりも正反射率が低減されていることが確認された。
【0090】
また、これらの本実施例の太陽電池モジュールと、従来技術で製造した太陽電池モジュールと、各種屋根材につき、60度入射による反射率の相対比較を実施した。その結果、下記表2で示される結果が得られた。なお、表2で示す各値は、陶器瓦の反射率を1としたときの反射率の割合となっている。
【0091】
【表2】
【0092】
この結果、本実施例の太陽電池モジュールは、従来技術で製造した太陽電池モジュールよりも60度入射による反射率が低減されていることが確認された。
【0093】
また、本実施例の太陽電池モジュールに積層させた反射防止膜と、従来技術で製造した太陽電池モジュールの反射防止膜につき、硬化前の粘度について比較した。すなわち、ガラス基板上に塗布した直後の反射防止膜(反射防止膜を形成するための物質)の粘度を比較した。その結果、下記表3で示される結果が得られた。なお、表3には参考のため純水の粘度も記した。
【0094】
【表3】
【0095】
本実施例の太陽電池モジュールは、硬化前の粘度が従来技術に比べて極めて低く、その粘度が純水に近似していることが確認された。つまり、本実施例では、反射防止膜の硬化前の粘度を低くし、ガラス基板に形成されたクラックに対して反射防止膜が十分に入り込むようにしている。
【0096】
また、本実施例の太陽電池モジュールと、従来技術で製造した太陽電池モジュールにつき、同じ光を照射した状態の写真をそれぞれ撮影し、人が感じる眩しさについて考察した。この結果、
図18で示されるように、従来技術で製造した太陽電池モジュールは、本実施例の太陽電池モジュールよりも輝いて見えることが確認された。つまり、本実施例の太陽電池モジュールは、光が照射された状態において、人が眩しさを感じ難く、防眩性が高いことが確認された。
【0097】
さらに、
図13乃至
図16の断面拡大写真(走査型電子顕微鏡像:SEM像)で示されるように、第2凹凸化工程によって形成された窪みの中に反射防止膜が入り込み、太陽電池モジュールの表面が滑らかになっている。
つまり、反射防止膜を積層するとき、ガラス基板の窪みの深い部分では反射防止膜が厚く積層された状態とされ、ガラス基板の窪みの浅い部分では反射防止膜が薄く積層されている。このため、ガラス基板自体には凹凸があるが、ガラス基板上に積層された反射防止膜の表面は、平滑化された状態となっている。また、反射防止膜は、ガラス基板の表面における角張った部位を覆っている。
【0098】
本実施例では、太陽電池モジュールの表面(入光面)を平滑化することにより、この表面に汚れが付着し難い構造としている。すなわち、第2実施例の太陽電池モジュールは、防眩性に加えて防汚性も向上させている。
【0099】
本実施例の太陽電池モジュールと従来技術で製造した太陽電池モジュールに対し、それぞれ横倒した状態で砂を散布した。そして、その後に一辺を持ち上げ、それぞれ地表面に対して45度傾斜した状態で直立させた。
【0100】
その結果、
図19(a)で示されるように、本実施例の太陽電池モジュールは、45度傾斜させると、砂を散布した全領域のうちの90パーセントの部分で砂が除去された。これに対し、従来技術で製造した太陽電池モジュールでは殆ど砂が除去されなかった。つまり、本実施例の太陽電池モジュールは、汚れが付着し難い構造であることが示された。
【0101】
本実施例の太陽電池モジュールと従来技術で製造した太陽電池モジュールに対し、鉛筆と油性マーカーを用いて汚れを付着させた。そして、それぞれに対して5回の水ぶきを実施し、汚れの落ち方について比較した。
【0102】
その結果、
図19(b)で示されるように、本実施例の太陽電池モジュールは、従来技術で製造した太陽電池モジュールよりも汚れが落ちやすいことが確認された。すなわち、本実施例の太陽電池モジュールは、防汚性が高いものであることが確認された。
【0103】
続いて、第1凹凸化工程、第2凹凸化工程、反射防止膜形成工程を実施したガラス板と、これらの工程を実施していない通常のガラス板についてそれぞれリング曲げ試験を実施し、強度を比較した。リング曲げ試験の測定をワイブルプロットで表した結果を
図20で示す。
【0104】
その結果、通常のガラス板が0.1パーセントの確率で破損する圧力が約20MPaであるのに対し(
図20(a)参照)、第1凹凸化工程、第2凹凸化工程、反射防止膜形成工程の各工程を実施したガラス板が0.1パーセントの確率で破損する圧力は約50MPaであった(
図20(b)参照)。
すなわち、本実施例の太陽電池モジュールは、高い強度を発揮することが示された。本発明で強度が通常のガラスより大きくなった理由は、ガラス板自体がもつ歪が第1凹凸化工程、第2凹凸化工程で緩和されたためと推察される。
【0105】
(比較例1)
特許文献3に記載された方法によって太陽電池モジュールを製造し、ガラス基板の断面拡大写真(走査型電子顕微鏡像:SEM像)を撮影した。この断面拡大写真を
図21乃至
図25で示す。
図21乃至
図25に示すような断面拡大写真(SEM像)は、数百倍から数千倍の倍率をもって得ることができる。
【0106】
この結果、ガラス基板202の表面に反射防止膜219が積層されているが、略全てのクラック218の中は空洞であった。つまり、上記したように、クラック218の中に隙間が形成され、クラック218の内面で光が反射してしまう構造となってしまっていることが示された。
【0107】
ここで、
図23に注目すると、
図23で示されるクラック218aの内部には、反射防止膜219を形成する物質が僅かに入り込んだ状態となっている。しかしながら、この物質は、クラック218aの上面(外側に位置する面)にだけ僅かにこびりついており、クラック218aの下面(内側に位置する面)の近傍では空間が形成されている。このため、クラック218aの内面で光が反射してしまうこととなる。
【0108】
具体的に説明すると、まず、上記した各実施例に係る太陽電池モジュールでは(
図7乃至
図10、及び
図13乃至
図16参照)、クラック18の内部空間のうちで反射防止膜19が入り込んでいる部分に注目すると、クラック18の上面から下面に至るまでの間に反射防止膜19を形成する物質が充填された状態となっている。つまり、クラック18の反射防止膜19が入り込んでいる部分では、ガラス基板2の厚さ方向における全域に亘って反射防止膜19が入り込んだ状態となっており、別言すると、ガラス基板2の厚さ方向において反射防止膜19が隙間なく充填された状態となっている。このことから、クラック18内の少なくとも一部では、反射防止膜19を形成する物質が隙間なく詰め込まれた状態となっており、この部分が反射防止膜19によって埋められた状態となっている。そのため、上記実施例に係る太陽電池モジュール1では、上記したように、クラック18が形成されている部分で光が大きく反射しない構造となっている。
【0109】
これに対して、
図23で示されるクラック218aの内部では、反射防止膜219を形成する物質がクラック218aの上面にのみ付着しており、クラック218aの下面近傍に大きな隙間が形成されている。すなわち、従来技術で製造した太陽電池モジュールでは、大きなクラック218aが形成されてしまい、そこに反射防止膜219が偶然に進入することはある。しかしながら、クラック218aの内部空間のうち、ガラス基板202の厚さ方向における全域に充填される程に十分な量の物質(反射防止膜219を形成する物質)が入り込んでしまうことはない。つまり、クラック218のいずれの部分においても、上面近傍(外側に位置する面の近傍)又は下面近傍(内側に位置する面の近傍)に隙間が形成されることとなる。このことから、本願発明のような効果を奏することはなく、クラック218aが形成されている部分で光が反射してしまうこととなってしまう。
【0110】
(比較例2)
第2比較例の太陽電池モジュール1は、先の比較例1と同様に、特許文献3に記載された方法によって製造したものであるが、ブラスト加工を複数回に渡って施した。
すなわち、従来技術の製造方法に対し、単にブラスト加工の回数だけを増加させた製造方法により、太陽電池モジュールを製造した。
【0111】
そして、製造した太陽電池モジュールのガラス基板の断面拡大写真(走査型電子顕微鏡像:SEM像)を撮影した。この断面拡大写真を
図26乃至
図31で示す。
図26乃至
図31に示すような断面拡大写真(SEM像)は、数百倍から数千倍の倍率をもって得ることができる。
【0112】
この結果、ガラス基板202の表面に反射防止膜219が積層されているが、殆ど全てのクラック218の中は空洞であった。また、いくつかのクラック218には、反射防止膜219を形成する物質が僅かに入り込んでいるものの、クラック218の内部に形成される空間のうち、ガラス基板202の厚さ方向における全領域を閉塞するに足る程の物質(反射防止膜219を形成する物質)が入り込んでいるものは確認されなかった。つまり、上記したように、クラック218の中に隙間が形成され、クラック218の内面で光が反射してしまう構造となってしまっていることが示された。すなわち、単にブラスト加工の回数を増加させただけの製造方法では、本願発明のようにクラック18の内部に反射防止膜19が入り込まないことが示された。
【0113】
さらに、上記した実施例2の太陽電池モジュールの表面と、本比較例(比較例2)の太陽電池モジュールの表面の顕微鏡写真を撮影した。
図32は、本比較例のガラス基板202の表面を示す顕微鏡写真(光学像)であり、白く写っている部位が横向きクラックである。
図33は、実施例2のガラス基板2の表面を示す顕微鏡写真(光学像)であり、白く写っている部位が横向きクラックのうちで反射防止膜が入り込んでいない部分である。
本発明の太陽電池モジュール(
図33)は、従来技術で製造した太陽電池モジュール(
図32)に比べて、クラックでの入射光の反射が小さくなる(白く光る部分が少なくなっている)ことが示された。