(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6293152
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】浸漬型電子デバイスのアレイ用冷却剤の圧力および液流を管理する方法および装置
(51)【国際特許分類】
H05K 7/20 20060101AFI20180305BHJP
G06F 1/20 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
H05K7/20 M
H05K7/20 U
G06F1/20 D
G06F1/20 A
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-534614(P2015-534614)
(86)(22)【出願日】2013年9月25日
(65)【公表番号】特表2015-536049(P2015-536049A)
(43)【公表日】2015年12月17日
(86)【国際出願番号】US2013061565
(87)【国際公開番号】WO2014052377
(87)【国際公開日】20140403
【審査請求日】2016年9月21日
(31)【優先権主張番号】61/705,409
(32)【優先日】2012年9月25日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515081763
【氏名又は名称】リキッドクール ソリューションズ, インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】レジンバル、ローラン
(72)【発明者】
【氏名】アーチャー、ショーン
(72)【発明者】
【氏名】シェーファー、スティーヴ
(72)【発明者】
【氏名】タフティ、ライル、 アール.
【審査官】
白石 圭吾
(56)【参考文献】
【文献】
特表2011−518395(JP,A)
【文献】
特開平11−089213(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0240281(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 7/20
G06F 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも垂直に2段になっており各段に電子デバイスを少なくとも1つ備え、各電子デバイスが冷却液によって浸漬冷却されるように構成されている電子デバイスのアレイと、
冷却液を前記電子デバイスに供給する流体供給装置であって、
前記流体供給装置は、前記アレイ内で電子デバイスのポジションが最も好ましくない場合に必要な分よりわずかに高いレベルで前記冷却液の圧力および液流を発生させ、またアレイ内の各電子デバイスに実質的に均一な冷却液圧力および液流の供給を実現するように構成され、
前記電子デバイスのアレイが、少なくとも垂直2段のラック上に設置され、各垂直ラックの段が前記電子デバイスを少なくとも1つ備え、
前記流体供給装置が各垂直段のラックにさらに冷却液供給マニホールドおよび冷却液帰還マニホールドを備え、冷却液供給マニホールドおよび冷却液帰還マニホールドがそれぞれ、前記複数の電子デバイス、各垂直段のラックの前記供給マニホールドと前記帰還マニホールドを流体接続するバイパスライン、ならびに前記バイパスラインを介して圧力および/または液流を局地的に制御する圧力および/または液流制御デバイスに接続されるように構成されている、装置。
【請求項2】
前記流体供給装置がさらに垂直供給マニホールドおよび垂直帰還マニホールドを備え、前記垂直供給マニホールドおよび前記垂直帰還マニホールドが前記少なくとも垂直2段のラックにそれぞれ送液する(service)、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
各垂直段のラックの前記冷却液供給マニホールドおよび前記冷却液帰還マニホールドが水平に配置され、水平に配置されている流体供給ラインが前記冷却液供給マニホールドおよび前記冷却液帰還マニホールドに流体接続されており、水平に配置された流体供給ラインが前記冷却液供給マニホールドおよび前記冷却液帰還マニホールドと同一平面上にあり互いに平行である、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記電子デバイスが、サーバ、ディスクアレイ/記憶装置、ソリッドステートメモリデバイス、記憶領域ネットワーク、ネットワークアタッチトストレージ、記憶通信装置、ルータ、遠隔通信インフラストラクチャ/スイッチ、有線、光学および無線通信デバイス、セルプロセッサデバイス、プリンタ、または電源を構成する(comprise)、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
冷却液への浸漬を利用して電子デバイスのアレイを冷却する方法であり、前記電子デバイスのアレイが少なくとも垂直2段に配置され、各垂直段が前記電子デバイスを少なくとも1つ備える方法であって、前記方法において、
冷却液を各垂直段の前記電子デバイスに供給する流体供給装置を設け、
前記流体供給装置を、前記アレイ内で電子デバイスのポジションが最も好ましくない場合に必要な分よりわずかに高いレベルで前記冷却液の圧力および液流を発生させ、またアレイ内の電子デバイスそれぞれへの実質的に均一な冷却液圧力および液流の供給を実現するように構成し、
前記電子デバイスのアレイが少なくとも垂直2段になっているラック上に設置され、垂直段のラックが前記電子デバイスをそれぞれ少なくとも1つ備える方法であり、さらに、
各垂直段のラックにさらに冷却液供給マニホールドおよび冷却液帰還マニホールドを有し、冷却液供給マニホールドおよび冷却液帰還マニホールドがそれぞれ、複数の前記電子デバイス、各垂直段のラックの前記供給マニホールドと前記帰還マニホールドを流体接続するバイパスライン、ならびに前記バイパスラインを介して圧力および/または液流を局地的に制御する圧力および/または液流制御デバイスに接続されるように前記流体供給装置を構成する、方法。
【請求項6】
さらに、垂直供給マニホールドおよび垂直帰還マニホールドを含むように前記流体供給装置を構成し、前記垂直供給マニホールドおよび前記垂直帰還マニホールドが前記少なくとも垂直2段のラックにそれぞれ送液する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
さらに、各垂直段のラックの前記冷却液供給マニホールドおよび冷却液帰還マニホールドが水平に配置され、水平に配置されている流体供給ラインが前記冷却液供給マニホールドおよび前記冷却液帰還マニホールドに流体接続され、水平に配置された前記流体供給ラインが前記冷却液供給マニホールドおよび前記冷却液帰還マニホールドと同一平面上にあり互いに平行であるように構成される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記電子デバイスがサーバ、ディスクアレイ/記憶装置、ソリッドステートメモリデバイス、記憶領域ネットワーク、ネットワークアタッチトストレージ、記憶通信装置、ルータ、遠隔通信インフラストラクチャ/スイッチ、有線、光学および無線通信デバイス、セルプロセッサデバイス、プリンタ、または電源を構成する、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
別々の垂直段のラックに設置された複数の浸漬冷却型電子デバイスに冷却液を供給するよう構成された流体供給装置であり、
各垂直段のラックの冷却液供給マニホールドおよび冷却液帰還マニホールドであり、各垂直段の前記電子デバイスの少なくとも1つに接続されるよう構成されている各冷却液供給マニホールドおよび冷却液帰還マニホールドと、
各垂直段で前記冷却液供給マニホールドおよび前記冷却液帰還マニホールドを流体接続しているバイパスラインと、
前記バイパスラインを介して圧力および/または液流を局地的に調整する圧力および/または液流調整デバイスとを備えた流体供給装置。
【請求項10】
流体供給装置が垂直供給マニホールドおよび垂直帰還マニホールドをさらに備え、前記垂直供給マニホールドおよび前記垂直帰還マニホールドが同じ垂直段のラックにそれぞれ送液する、請求項9に記載の流体供給装置。
【請求項11】
各垂直段の前記冷却液供給マニホールドおよび前記冷却液帰還マニホールドが水平に配置され、
水平に配置された流体供給ラインが前記冷却液供給マニホールドおよび前記冷却液帰還マニホールドに流体接続され、
前記水平に配置された流体供給ラインが前記冷却液供給マニホールドおよび前記冷却液帰還マニホールドと同一平面上にあり互いに平行である、請求項9に記載の流体供給装置。
【請求項12】
前記電子デバイスが、サーバ、ディスクアレイ/記憶装置、ソリッドステートメモリデバイス、記憶領域ネットワーク、ネットワークアタッチトストレージ、記憶通信装置、ルータ、遠隔通信インフラストラクチャ/スイッチ、有線、光学および無線通信デバイス、セルプロセッサデバイス、プリンタ、または電源を構成する、請求項9に記載の流体供給装置。
【請求項13】
シェルフに横方向に並置された複数の電子デバイスであって、前記各電子デバイスは、液体注入ポートと液体排出ポートとを備えた液密ケースと前記液密ケースの中に発熱電子素子とを備え、冷却液によって浸漬冷却されるように構成されている電子デバイスと、
前記各液密ケースの前記液体注入ポートに流体接続された冷却液供給マニホールドと、
前記各液密ケースの前記液体排出ポートに流体接続された冷却液帰還マニホールドと、
前記冷却液供給マニホールドと前記冷却液帰還マニホールドを流体接続するバイパスラインと、
前記バイパスラインに設けられ、前記バイパスラインを介して圧力を制御する圧力制御デバイスと、を備えた装置であって、
前記各電子デバイスにおける前記冷却液の液圧は実質的に同じであることを特徴とする装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えばリキッドサブマージドサーバ(LSS:liquid submerged server)コンピュータ、ブレードサーバ、ディスクアレイ/記憶装置、ソリッドステートメモリデバイス、記憶領域ネットワーク、ネットワークアタッチトストレージ、記憶通信装置、ルータ、遠隔通信インフラストラクチャ/スイッチ、有線、光学および無線通信デバイス、セルプロセッサデバイス、プリンタ、電源といった電子アレイ装置の浸漬冷却に関する。
【背景技術】
【0002】
浸漬冷却型電子デバイスのアレイを配置(deploy)する際、前記アレイのデバイスと流体用の冷却ポンプとの間を相互接続する流体分配装置が必要である。浸漬冷却型電子デバイスのアレイの一例が、ラック装置に配置されたリキッドサブマージドサーバ(LSS)のアレイである。ラック装置のLSSのアレイの一例が、米国特許第7,905,106号、第7,911,793号、および第8,089,764号に開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
アレイの浸漬冷却型電子デバイスを最大限に機能させるためには、液状冷却剤を特定の範囲内の流量および圧力でデバイスに供給しなければならない。ラック中のデバイスの配置および流体分配装置の設計それ自体が原因で、冷却剤を必要な流量および圧力で供給することが困難になっている。これは、ラックでの高さ(elevation)による圧力損失(静水頭)および、デバイスのアレイ内での位置/デバイス毎の流体の流路に沿った摩擦損失による漸増的な圧力降下等の変動要因による。
【課題を解決するための手段】
【0004】
流体供給装置の構成は、ラックに設置された浸漬冷却型電子デバイスのアレイと共に使用するものとして記載されている。このような流体供給装置によって、ポンピング装置が、アレイ内でのデバイス/ポジションが最も好ましくない(すなわち、アレイ内のこれらのデバイスが最も高い位置にある、および/または、ポンプから離れて設けられているために圧力降下と液流の減少が最も大きい)場合に必要な分よりもわずかに高いレベルで冷却装置流体の圧力および液流を発生させ、また、アレイ内のデバイス一つ一つへの均一な圧力と冷却剤の液流の供給を実現する。冷却液の液流および圧力を管理することにより、アレイのデバイスの適正な冷却が容易に実現し、アレイで浸漬冷却されているデバイスの損傷を防止する上で有用である。
【0005】
流体供給装置の具体的な適用例として、ラック装置に配置されたLSSのアレイと共に使用することが挙げられる。しかしながら、ここに記載された流体供給装置のコンセプトは、電子デバイスのアレイが浸漬冷却型である他の用途にも充てることが可能であり、その例としては、ブレードサーバ、ディスクアレイ/記憶装置、ソリッドステートメモリデバイス、記憶領域ネットワーク、ネットワークアタッチトストレージ、記憶通信装置、ルータ、遠隔通信インフラストラクチャ/スイッチ、有線、光学および無線通信デバイス、セルプロセッサデバイス、プリンタ、電源等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0006】
上述の通り、アレイ中の各電子デバイスには、アレイ中のどこに位置していても概ね同じ圧力が印加されていると考えられる。その上、ポンプ速度が変化しても流体圧力は概ね一定なのが好ましい。例えば、ポンプ速度が低いまたは最低速度である場合、一般的には第1の流体圧力が各電子デバイスに供給される。ポンプ速度が高いまたは最高速度である場合、第2の流体圧力も各電子デバイスに印加される。第1および第2の流体圧力の差は相対的に最小限度であり、あるいは実施態様によっては、互いに同値であってもよい。
【0007】
流体供給装置は、均一な圧力の供給が実現可能であれば、どのような構成であってもよい。前記流体供給装置はポンプ、フィルタ、熱交換器、流体マニホールド、流体通路等のエレメントを含むことができる。流体供給装置において流体が通過するエレメントはそれぞれ、供給圧力に影響を及ぼす液流の制限を引き起こす。ここに記載された流体供給装置は、自身の様々なエレメントにより生じる様々な液流の制限の結果、電子デバイスの内部ゲージ圧力が調整され、ポンプ速度の変化に対応する圧力変化の範囲が狭くなるように設計される。これにより、密封筐体である電子デバイスの筐体が保護され、筐体の「圧力容器」設計の簡素化が可能になる。
【0008】
一実施態様では、1つの装置が電子デバイスのアレイを1つ備え、そのアレイは少なくとも垂直2段になっており、各垂直段に、冷却液により浸漬冷却を行うよう構成された電子デバイスが少なくとも2つ含まれる。さらに、流体供給装置は、それらの電子デバイスに冷却液を供給する。流体供給装置は、アレイ内でのデバイスポジションが最も好ましくない場合に必要な分よりもわずかに高いレベルで冷却装置液の圧力および液流を発生させ、また、アレイ内のデバイス一つ一つに対し実質的に均一な冷却液圧力の供給を実現するように構成されている。
【0009】
別の実施態様では、冷却液への浸漬を利用して電子デバイスのアレイを冷却する方法が提示されている。電子デバイスのアレイは、少なくとも垂直2段に配置され、各垂直段が電子デバイスを少なくとも2つ備える。この方法においては、冷却液を各垂直段の電子デバイスに供給する流体供給装置を設け、前記アレイ内で電子デバイスのポジションが最も好ましくない場合に必要な分よりわずかに高いレベルで前記冷却液の圧力および液流を発生させ、またアレイ内の電子デバイスそれぞれに実質的に均一な冷却液圧力および液流の供給を実現するように、流体供給装置を構成する。
【0010】
別の実施態様では、ラックの別々の垂直段に設置された複数の浸漬冷却型電子デバイスに冷却液を供給するよう構成された流体供給装置が設けられる。このような流体供給装置は、ラックの各垂直段に冷却液供給マニホールドおよび冷却液帰還マニホールドを備えていてもよく、その場合に冷却液供給マニホールドおよび冷却液帰還マニホールドは、それぞれの垂直段の複数の電子デバイスに各自接続されるように構成されている。また同装置は、各垂直段で冷却液供給マニホールドと冷却液帰還マニホールドとを流体接続するバイパスライン、および、同バイパスラインを介して圧力および/または液流を局地的に調整する圧力および/または液流調整デバイスを備えていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、ここに記載されている流体供給装置に流体接続されたLSSのラック搭載型アレイの正面透視図である。
【
図2】
図2はLSSのアレイの背面透視図であり、関連するラック構造体は、本図では省略されている。
【
図3】
図3は、LSSを取り外した状態の流体供給装置の一部分の正面透視図である。
【
図5】
図5は、流体供給装置の一部分に接続されたLSSの垂直1段の背面透視図である。
【
図6】
図6は、流体供給装置の冷却剤分配ユニットの透視図であり、ユニットの内部を示すため筐体ケースが取り外されている。
【
図7】
図7は、
図6の冷却剤分配ユニットの正面透視図であり、分かりやすくするためにユニットの支持構造が取り外されている。
【
図8】
図8は、同冷却剤分配ユニットのポンプの1つと、ポンプ排出口に接続された分配マニホールドを示すものである。
【
図9】
図9は、アレイに流体接続された冷却剤分配ユニットの概略図である。
【
図10】
図10は、
図3の流体供給装置の一部分、および、使用時にそれが
図6の冷却剤分配ユニットに対しどのような位置関係にあるかを示す透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1および
図2に、浸漬冷却型電子デバイス12のラック搭載型アレイ10の一例を示す。デバイス12は、ラック14上に搭載されており、アレイ10は少なくとも垂直2段のA、B、…n段となっていて、垂直方向の段毎に、電子デバイス12が少なくとも1つ含まれる。図示されている例では、垂直段が8段あり、各段にデバイス12が8個ある。
【0013】
本実施例ではデバイス12はLSSであり、以下の説明では、デバイス12がLSSであるとする。しかしながら、ここに記載のコンセプトを、電子デバイスのアレイが浸漬冷却型である他の用途に用いてもよい。その例としては、ブレードサーバ、ディスクアレイ/記憶装置、ソリッドステートメモリデバイス、記憶領域ネットワーク、ネットワークアタッチトストレージ、記憶通信装置、ルータ、遠隔通信インフラストラクチャ/スイッチ、有線、光学、無線通信デバイス、セルプロセッサデバイス、プリンタ、電源等が挙げられるが、それらに限定されない。
【0014】
本件で参照用として全文引用されている米国特許第7,905,106号、第7,911,793号および第8,089,764号にさらに記載されているように、各LSSは封止型の液密ケースを備え、そのケースは、内部空間に設置された単数または複数のロジックボードを含む。そのようなロジックボードは、CPUまたはGPUといったプロセッサを少なくとも1つ含む発熱電子素子を多数備える。同ケースは液体注入ポートおよび液体排出ポートを備え、そこを通って冷却液が内部空間まで導入されるか、またはそこから排出される。使用時には、ケースの中にLSSの発熱素子を浸漬する冷却液を含有させて、浸漬した素子がケース内部で冷却液と直接接触するようにする。電子素子との熱交換の後、冷却液は液体排出ポートを通して排出され、熱交換器内で冷却され、そのようにして冷却された液が液体注入ポートを通ってケースに戻される。
【0015】
冷却液は誘電液であってもよいが、これに限定されない。冷却液は単相でも2相でもよい。浸漬された素子により発生した熱量を処理して冷却液の状態が変化しないようにするために、冷却液が十分に高い熱伝導性を有することが好ましい。各ケース中には、浸漬が望ましい発熱素子を浸漬するのに十分な液体が存在する。そのため、幾つかの例では液体をケース12の略全体に充填していてもよく、また別の例では液体をケース12に部分的に充填するだけでもよい。
【0016】
以下にさらに記載するが、流体供給装置20は、同装置を介して冷却液を供給する目的で用いられる。ラックにおける別々の段がA、B、…nの高さ(静水頭)にあり、またアレイ10内部の各デバイス12の位置毎の液体の流路に沿った摩擦損失により累積的な圧力降下があるため、必要とされる液流および圧力での液状冷却剤の供給は一層困難になる。流体供給装置20は、このような難点を補う目的で設計されている。流体供給装置20は、大気に直接脱気するのではなく気密になっている装置である。
【0017】
流体供給装置20は、アレイ内でデバイス12のポジションが最も好ましくない場合(すなわち、アレイ内のこれらのデバイスが最も高い位置にある、および/または、ポンプから離れすぎているせいで圧力降下と液流の減少が最大になっている)に必要な分よりもわずかに高いレベルで自身のポンピング装置に冷却液の圧力と液流を発生させるよう、また、アレイ10内のデバイス12一つ一つに対する均一な圧力および冷却剤流の供給が実現されるように設計されている。
【0018】
図3〜
図5では、複数の独自の特徴により、供給圧力と冷却剤流を均一にすることができる。これらの特徴は、個別に、一緒に、またはいくつかを組み合わせて用いてもよい。
【0019】
特に、
図3〜
図5に示すように、垂直段A、B、…nはそれぞれ、均一な供給静圧で各段の多数のデバイス12を流体接続するように構成された水平供給マニホールド22を備えていてもよい。
図3に示すように、供給マニホールド22はそれぞれ、使用時にはデバイス12表面の液体注入ポートに接続されるポート24を備える。ポート24およびデバイス表面の液体注入ポートは、デバイス12が供給マニホールド22に接続されている時は自動的に開き、デバイス12が取り外されているときは自動的に閉じるクイックコネクトバルブをそれぞれ有していてもよい。
【0020】
各垂直段A、B、…nは、また、均一な帰還静圧で各段の多数のデバイス12を流体接続するよう構成されている水平帰還マニホールド26を備えていてもよい。
図3に示すように、帰還マニホールド26はそれぞれ、使用時にはデバイス12の液体排出ポートに接続される複数のポート28を備える。ポート28およびデバイス表面の液体排出ポートは、デバイス12が帰還マニホールド26に接続されている時は自動的に開き、デバイス12が取り外されているときは自動的に閉じるクイックコネクトバルブをそれぞれ有していてもよい。
【0021】
さらに、
図4に示すように、流体供給装置20は、静供給圧力の異なるアレイの多数段のデバイス12を接続する垂直供給マニホールド30を備えていてもよい。垂直供給マニホールド30はどのような段数でも(例えば、2、3、4段等)接続することが可能であり、その場合、マニホールドによって接続される段の数は、冷却されるデバイス12のタイプ、またデバイス12の様々な液流の条件や電力密度冷却の必要性といった要因によって決まるが、それに限定されない。詳細は以下に述べるが、各段に供給される流体圧力は、その上側の冷却液の静水頭/柱によりわずかに変化するものである。しかしながら、バイパスラインに設置された圧力解放/バイパスバルブが、各段での圧力を互いに同じ正味圧力になるよう調整する。
【0022】
複数の供給ライン32は、垂直マニホールド30から水平供給マニホールド22まで液体を供給する。供給ライン32は、マニホールド22の側面のどこにでも接続できる。図示されている例は、同じ側面の中央部からずれた箇所でマニホールド22に接続されている供給ライン32を示すものである。しかしながら、実施態様によっては、各マニホールド22の別々の側面で接続する、あるいは、各マニホールド22の側面上の中央部に接続するほうがよい場合もある。
【0023】
流体供給装置20はさらに、静帰還圧の異なるアレイのデバイス12の複数のシェルフを接続する垂直帰還マニホールド34を備えていてもよい。図示された例では、垂直供給マニホールド30によって送液(service)されているデバイスのシェルフは、垂直帰還マニホールド34によって送液されているデバイスのシェルフと一致する。複数の供給ライン36が水平帰還マニホールド26から垂直帰還マニホールド34に液体を供給する。供給ライン36は、マニホールド26の側面のどこにでも接続することができる。図示された例には、同じ側面の中央部からずれた箇所でマニホールド26に接続されている供給ライン36を示す。しかしながら、実施態様によっては、各マニホールド26を別々の側面で接続する、あるいは、各マニホールド26の側面上の中央部に接続するほうがよい場合もある。
【0024】
一実施態様では、垂直供給マニホールド30、垂直帰還マニホールド34、またはその両方にリバースリターン構造を用いることも可能である。例えば、冷却流体を垂直供給マニホールド30の上部に投入し、垂直帰還マニホールドの底部から冷却流体を帰還させることもできる。そのようなリバースリターン構造は、装置内部の圧力降下を最小限に抑制する上で有効である。さらに、様々な供給ラインと帰還ラインの寸法を互いに対応させることにより、圧力降下をさらに抑制することが可能である。
【0025】
図4および
図5にもっともよく示されているように、供給ライン32と供給ライン36は、マニホールド22、26と同一の水平面上に配置されており、互いに平行である。このため、水平供給マニホールド22と水平帰還マニホールド26のグループ間で平行な流路が形成され、静圧のバランスをとるのに役立つ。さらに、これによって垂直マニホールド30、34のセット間で平行な流路が形成され、静圧のバランスをとるのに役立つ。さらに、ライン32、36を水平面に配置することにより、流体分配装置に接続された電子デバイスの背面パネルへの接近(access)がライン32、36により邪魔される恐れを最小限にすることができる。
【0026】
機能面からいえば、意図した通りの液状冷却剤流を実現する上で必要というわけではないが、実用的な観点からは、多数の電子デバイスの背面パネルへの接近を可能にすることは重要である。そうすることにより、デバイスポートが存在する場合に、電力ケーブル、入出力ケーブル等がデバイスポートに接続できるようになる。
【0027】
流体供給装置20はまた、
図5に示すように、アレイ内の各「シェルフ」または「高さ」で供給マニホールド22と帰還マニホールド26とを直接的に流体相互接続する圧力解放液バイパスライン40を備えていてもよい。前記バイパスライン40は、マニホールド22、26のいずれの面にでも接続可能である。
【0028】
各バイパスライン40は、バイパスライン40を介して適正な圧力閾値および流動性を確立するのに役立つ圧力および/または液流調整デバイス41を備える。一実施態様では、調整デバイス41は、ライン40が供給マニホールド22に接続されるポイントに位置している。しかしながら別の実施態様では、ラインが帰還マニホールド26に接続されているポイントに調整デバイス41が位置していてもよく、または、ライン40の長さ方向に沿ったいずれのポイントに位置していてもよい。調整デバイスの例としては、無励磁動作型バルブ(spring actuated valves)およびセンサーベース動作型調整デバイスが挙げられるが、それらに限定されない。一実施態様では、調整デバイス41の圧力および/または液流調整特性の調節を行うことを目的として、同デバイス41を手動および/または自動で調節することも可能である。
【0029】
調整デバイス41は、アレイ内部の段または「高さ」が共通するアレイ10内のデバイス12に供給されている最中の液体の圧力および/または液流を局地的に調整する。圧力閾値と流動性を調整することが望ましい理由は、デバイス12が1つだけ特定の段に接続されているときに、過圧または圧力不足の状態を引き起こすことなく、供給された液流を調整できるのに十分な流体の液流とそれに付随する圧力解放がその段のデバイス12により可能なようにしておく必要があるからである。過圧または圧力不足の状態になると、圧力および最小/最大流動の両方について設計点を下回るその1つのデバイスの筐体が破壊される恐れがある。
【0030】
例えば、図示されている例では、シェルフ1個につき8個のLSSが示されており、各LSSが約0.5ガロン/分の冷却剤の液流を必要とし、LSSハウジング毎に約3psiゲージ(psig)以下の圧力になることを目標とする工学的設計点を持つとすると、調整デバイス41とライン40は、本来は同じ段の他の7つのLSSデバイスに送液されているはずの液流を補うために、流入する冷却液を帰還水平マニホールド26まで十分に方向転換(divert)できるものでなければならない。換言すれば、エレメント40、41によって形成されたバイパス回路は、それぞれの高さのデバイス12の段に向けられた最大冷却剤流の7/8までを方向転換し、また、その段の1つのデバイスへの注入口での残留流が3psig以下になるよう調整する能力を持つものでなければならない。しかしながら、調整装置41およびライン40は、予想を極端に超える液流の方向転換をしてはならない。さもなければ、適切な液流を供給するという装置全体の能力、および、同一の垂直マニホールド34を共用しながらもラック内部のより高い位置にある他の段に対する圧力特性が低下するであろう。
【0031】
先の段落で述べたようなデバイス12のタイプ、各段でのデバイス12の具体的な数、流量および圧力が一例に過ぎないことは理解されなければならない。具体的な限定は、デバイス12の相違、デバイス12の数、および流体供給装置に接続されたデバイスハウジングの構造によって変動する。なぜなら、各デバイスが固有の電力密度および冷却条件を持ち、そのような電力密度や冷却条件が流体流の条件に影響を及ぼし、また各デバイスハウジングの設計は各自固有の最大圧力限界能および内部流圧力降下を有することが予測されるからである。
【0032】
図6〜10についていえば、流体供給装置20の一部が、
図10に示すようなラック14のベースに搭載可能な冷却剤分配ユニット(CDU:coolant distribution unit)50を備えていてもよい。CDU50は、1対のポンプ52a、52b、冷却液をろ過するためのろ過ユニット54、フィルタ分配マニホールド56、垂直帰還マニホールド34に接続された帰還マニホールド58、垂直供給マニホールド30に接続された供給マニホールド60、熱交換器注入口マニホールド62、および1対の熱交換器ユニット64a、64bを備える。
図10に示されるように、水等の流体を独立型熱交換回路から導出してCDUの熱交換ユニット64a、64bを流れる冷却流体と熱を交換するための温冷流ライン66を備えた独立型流体回路が、CDUから延びている。
【0033】
使用時には、垂直帰還マニホールドから帰還する暖められた冷却剤が、マニホールド58、それからポンプ52a、52bの注入口に流入する。ポンプの排出口はポンプ分配マニホールド68a、68bに接続され、それによって冷却剤はその後、分配マニホールド56に流入する。冷却剤は分配マニホールド56から、冷却剤をろ過するためのろ過ユニット54、その後に熱交換器マニホールド62に流入する。あるいは、例えばユニット54のフィルタを交換する時に、ろ過ユニット54を通過する液流を、適当なバルブを用いて遮断することもできる。液流はその後、熱交換器マニホールド62に接続されたバイパスライン70を介して誘導される。
【0034】
熱交換器マニホールド62から、冷却剤が各熱交換器ユニット64a、64bに流入することによって冷却剤が冷却される。そのようにして冷却された冷却剤はその後、各熱交換器ユニットから供給マニホールド60に流入し、垂直供給マニホールド30に供給される。
【0035】
CDUの素子は、流体供給装置20の他の部分に印加される圧力の調整が可能な方法で流路に配置されている。このため、流体供給装置20の残りの部分の静圧、ひいてはLSSデバイス12の静圧を最小限にすることが容易になる。
【0036】
さらに、CDUがあるおかげで、ポンプおよび/または熱交換器のいずれか1つを、残りのポンプおよび熱交換器を使って冷却剤をアレイに供給している最中に交換することが可能となる。
【0037】
バイパス回路40、41を備える流体供給装置20によって解決される問題の1つは、流体供給装置20の初期流体供給(initial fluid provisioning)に関する。最初にCDU50および流体供給装置20の残りの部分を装着するとき、デバイス12が1つも装着されていなければ、流体供給装置の注入路と排出路との間に流路が存在しない。これはポンプ52にとって問題となる。なぜなら、注入口システムと排出口システムが独立している(すなわち、互いに流体接続していない)ため、液流を生じさせるための経路が存在しないのである。1つまたは複数のデバイス12が装着されている時のみ、注入口と排出口との間に流体接続が形成される。最初のデバイス12を装着するとき、装置内で液流の供給の管理がなされないでいると、CDU50はポンプからの全液流を無理にでもその1つのデバイスに通過させようとするであろう。この結果、圧力が極端に上昇しそのたった1つのデバイスに供給されている液流がデバイス12を損傷、および/または、デバイス12からの流体の漏れを引き起こす恐れがある。
【0038】
封止型流体供給装置20は、ポンプ、フィルタ、熱交換器、デバイス12、マニホールド等のデバイスにより様々な液流の制限が生じ、その結果として、デバイス12の内部ゲージ圧力が制御され、ポンプ速度の変化に対する圧力変化の範囲が狭くなるように設計されている。これにより、電子デバイス12の筐体が保護され、筐体の「圧力容器」設計を単純化することが可能になる。この概念を理解しやすくするために、以下に例を挙げる。これは一例にすぎず、本発明の限定を意図するものではない。
【0039】
実施例(近似値)
ポンプが最低速度のとき
・注入ポンプ圧力:0psi
・排出ポンプ圧力:2.5psi
・デバイス12内部圧力:1psi
ポンプ速度を最大まで上げる:
・注入ポンプ圧力:−3psi
・排出ポンプ圧力:20psi
・デバイス12内部圧力:1.5psi
操作温度が一定の場合の各デバイス12に印加される圧力範囲:
・1〜1.5psi(高さによりわずかに変動し、その範囲は、ラックの位置毎のバイパス回路に対する圧力および/または液流を設定することで微調整可能である)。
【0040】
冷却剤分配ユニット(CDU)50の使用については上に述べた通りであるが、それ以外のポンピング機構を用いることも可能である。例えば、アレイのデバイスに冷却剤をポンプで送出するために、分配型ネットワークのポンプを用いることができる。
【0041】
ここに記載された装置20によって、装置の一部分を「亜大気圧(sub-ambient)」レベルで操作することができる。一実施態様では、装置中で用いられているホースを、対象となる圧力レベルで「非圧壊性(non-collapsible)」にすることができる。
【0042】
上記のような冷却剤流と望ましい圧力調整が容易に実現できるように、アレイ10のデバイス12を、流動性に対して略同等のインピーダンス/圧力降下を持つように設計することができる。
【0043】
また、ここに記載されている装置は、装置内に「ゾーン」を設け、それらのゾーン内で全部のデバイス12に均一な冷却剤流を異なるレベルで供給可能とすることができる。さらに、圧力バイパス機構により、「デルタP」をアレイ10内で局地的かつ異なる高さで調整しやすくなる。
【0044】
別の実施態様では、膨張室を用いることもできて、その場合、調整気室加圧/吸引を実施してもしなくてもよい。
【0045】
記載されている概念を、その精神または新規な特性を逸脱することなく他の形態で実施してもよい。本願で開示されている例は、全ての点において限定ではなく解説を目的とするものと考えられなければならない。