(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6293198
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】薄肉成形品の成形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/76 20060101AFI20180305BHJP
【FI】
B29C45/76
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-90095(P2016-90095)
(22)【出願日】2016年4月28日
(65)【公開番号】特開2017-196818(P2017-196818A)
(43)【公開日】2017年11月2日
【審査請求日】2017年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100097696
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 嘉昭
(74)【代理人】
【識別番号】100147072
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 裕通
(72)【発明者】
【氏名】元山 貴史
(72)【発明者】
【氏名】石川 華奈
(72)【発明者】
【氏名】澤田 靖彦
【審査官】
関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−000721(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0022363(US,A1)
【文献】
特開2009−096076(JP,A)
【文献】
国際公開第2004/089599(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0315205(US,A1)
【文献】
特開平02−163946(JP,A)
【文献】
特開2015−013467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱シリンダと該加熱シリンダ内で回転方向と軸方向とに駆動可能なスクリュとからなる射出装置によって、前記スクリュを位置制御により軸方向に駆動して型締めされた金型のキャビティ内に樹脂を射出する射出工程と、該射出工程後に前記スクリュを圧力制御に切換えて所定の圧力を保持する保圧工程とを実施して薄肉成形品を得る薄肉成形方法であって、
前記薄肉成形方法は、試験的に成形を実施する試験成形段階と、薄肉成形品を成形する本成形段階とからなり、
前記試験成形段階は、射出工程をその完了時に少なくとも所定の大きさのスクリュ速度になるようにして完了して保圧工程に切換えるようにし、このとき最大の射出圧力である射出ピーク圧力と射出工程に要する時間である射出工程時間とを得るようにし、
前記本成形段階は、射出工程を前記試験成形段階における射出工程と同様にして開始すると共に所定の切換タイミングでスクリュ速度をゼロに切換えて所定の保持時間だけ保持して完了させ、その後保圧工程に切換えるようにし、
前記切換タイミングは、射出工程が前記射出工程時間で完了するように予め前記保持時間分だけ前倒しして決定することを特徴とする薄肉成形方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
所定の金型に対して第1の成形条件下で前記試験成形段階を実施して前記射出ピーク圧力である第1の射出ピーク圧力を得、そして前記第1の成形条件下で前記保持時間を色々と変えて前記本成形段階を複数回繰り返し、得られる薄肉成形品の寸法精度が最も高いときの前記保持時間を第1の最適保持時間とし、
前記金型に対して第2の成形条件下で前記試験成形段階を実施して前記射出ピーク圧力である第2の射出ピーク圧力を得、そして前記第2の成形条件下で前記保持時間を色々と変えて前記本成形段階を複数回繰り返し、得られる薄肉成形品の寸法精度が最も高いときの前記保持時間を第2の最適保持時間とし、
前記第1、2の射出ピーク圧力と、前記第1、2の最適保持時間とから、前記射出ピーク圧力を変数として前記保持時間の最適値を与える1次関数を決定し、
前記金型に対して前記第1、2の成形条件と異なる成形条件によって薄肉成形品を得るとき、前記試験成形段階を実施して得られる前記射出ピーク圧力と前記1次関数とから前記保持時間を決定することを特徴とする薄肉成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導光板等の、成形品の大きさに比して肉厚が薄い、いわゆる薄肉成形品を成形する成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出成形によって得られる成形品のうち、薄肉成形品は、成形品の投影面積に比して肉厚が薄い。このような薄肉成形品を得る金型はキャビティの間隔が狭い上、ゲートからの樹脂の流動長さが長くなり、反ゲート側つまりキャビティ内においてゲートから最も遠い反対側まで精度良く樹脂を充填することは難しい。キャビティへの樹脂の充填は薄肉になればなるほど難度が高くなる。液晶パネルを構成する部品である導光板も代表的な薄肉成形品の一つであり射出成形によって得られるが、液晶パネルに対する大型化と軽量化の要求から、より大型で薄い導光板が要求されるようになってきている。従って、薄肉成形にはますます技術が要求されている状況であると言える。薄肉成形品を得る成形方法には色々あるが、代表的な方法として2つの方法を説明する。まず第1の方法は、樹脂を射出するときに金型をわずかに開きキャビティの間隔が広い状態で射出し、射出中または射出後に型締め動作をして樹脂を潰してキャビティ全体に行き渡らせる、いわゆる圧縮成形方法である。この圧縮成形方法は、射出装置だけでなく型締装置を連動させて精度よく制御する必要があると共に金型構造が特殊になる。第2の方法は、圧縮成形をせずに射出条件の調整によって薄肉成形品を成形する方法であり、この場合には射出装置の制御だけで実施できる。射出成形においては後者の方法が一般的な方法であると言える。後者の方法において従来実施されている周知な方法は次のようにする。まず型締めした金型に樹脂を射出するとき、キャビティの隅々に十分に樹脂が充填されるようにスクリュを高速で駆動して短時間で樹脂を充填する。スクリュを高速で駆動するのでキャビティへの充填が進むにつれて射出圧力が増大する。これは樹脂の弾性によるものであり薄いキャビティに充填されるときに流動抵抗を受けて樹脂が圧縮されるからである。従って充填が完了した瞬間には射出圧力が最高圧力すなわち射出ピーク圧力に達し、ゲート近傍の樹脂に大きな圧力が残留する。仮にこの状態で固化してしまうと成形品のゲート近傍が厚くなって肉厚が不均一になってしまうが、射出工程の後の保圧工程においてスクリュを位置制御から圧力制御に切換える。一般的に薄肉成形においては保圧工程における設定圧力は低く設定されており、射出工程から保圧圧力の圧力制御に切換えられると低い設定圧力まで一気に減圧される。この減圧時にスクリュは後退し、ゲート近傍の樹脂圧力が解放され、残留圧力が小さくなり、比較的厚さが均一な薄肉成形品が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−13467号公報
【0004】
特許文献1には、圧縮成形を実施することなく、射出装置の制御のみで薄肉成形品を成形する他の方法が提案されている。特許文献1に記載の方法では、キャビティに樹脂を射出するときに、スクリュ速度を低速に変化させるようにする。具体的にはキャビティに樹脂が充填される前にスクリュ速度を大きく低下させる。例えばスクリュ速度をゼロにする。これによって射出装置から射出される樹脂の圧力が実質的に一定になるようにする。このようにして射出圧力を所定時間維持する。そうすると前記したような従来の射出方法における射出ピーク圧力より低い所定の圧力でキャビティへの充填が進む。このように射出するのでキャビティに完全に樹脂が充填された瞬間においてもゲート近傍の樹脂の圧力は小さい。キャビティへの充填が完了したらスクリュの駆動を圧力制御に切換える保圧工程に移行する。ゲート近傍の樹脂の圧力は小さいので、保圧工程に移行後のスクリュの後退量は少しだけで済む。その後スクリュには所定の押力が印加され樹脂が固化する。このようにすると肉厚が均一な精度の高い成形品が得られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圧縮成形によらない従来の射出方法によっても、あるいは特許文献1に記載の方法によっても、射出装置を制御するだけで薄肉成形品は得られる。しかしながら解決すべき問題も見受けられる。まず従来の方法については、高い射出速度で射出するようにしているので射出圧力が高くなってしまい、射出装置や金型に対する負荷が大きく、これらの寿命を短くしてしまうという問題がある。またシリンダ、射出ノズル内の樹脂に高圧が作用するので樹脂の物性が変化する虞もある。さらには、キャビティへの充填の完了のタイミングには高い射出ピーク圧力に達して、キャビティ内部において反ゲート側とゲート側とで大きな圧力差が生じる。そうするとキャビティへの充填完了後に保圧工程に移行してゲート近傍の樹脂の圧力を解放しても圧力差が残り、キャビティ内部の反ゲート側とゲート側の圧力のバラツキは完全には解消しない。この場合、得られる薄肉成形品は肉厚のバラツキが大きい、残留応力が大きい、反りが大きい等の不良が生じ易い。
【0006】
これに対して、特許文献1に記載の方法は、キャビティへの樹脂の充填の完了間近においてスクリュ速度を小さくして、あるいは実質的にゼロにして所定時間保持してキャビティへの充填を完了するようにしているので、射出圧力は抑制されて射出装置や金型を痛めることがない。また過剰な射出圧力が印加されないので、キャビティ内の反ゲート側とゲート側の樹脂の圧力のバラツキを小さくすることができ、得られる薄肉成形品の肉厚は均一になり前述した不良も発生し難い。しかしながら特許文献1に記載の方法についても解決すべき点がある。具体的には、キャビティへの充填が完了する前から実施する工程、つまり射出圧力を実質的に一定にする工程をどのタイミングから開始し、そしてどの程度の時間保持すればいいのかが不明であり、これが問題であると言える。つまり品質の優れた薄肉成形品を得るために、どのような指標を基準にしてこの工程の開始のタイミングを決定し、保持時間を決定すればいいのかが曖昧になっている。例えばこの工程の開始のタイミングに関しては定性的に次の点が判明している。すなわち、開始のタイミングが遅すぎると射出圧力が高い状態になってからこの工程が開始されるので、充填完了後のゲート近傍の樹脂の圧力は高くなってしまい肉厚の均一な精度の高い成形品は得られなくなる。逆に開始のタイミングが早すぎると、この工程においてキャビティに低い射出圧力で充填されるのでゲート近傍の樹脂の圧力は小さくなるが、キャビティ全体に十分な圧力で樹脂が充填されず、結果的にキャビティ内の反ゲート側とゲート側の樹脂の圧力のバラツキが大きくなり、得られる成形品の肉厚にバラツキが生じてしまう。つまり精度の良い薄肉成形品を得るには、射出圧力を実質的に一定にする工程の開始のタイミングの決定は重要な要素であると言える。またこの工程の保持時間についても、詳しくは説明しないがその長短によっては精度の高い成形ができず色々な問題が発生する。特許文献1に記載の方法では、この工程について、2個の独立した変数である開始のタイミングと保持時間の組合わせについて最適な組合わせを得る方法が記載されていないので、これらの膨大な組合わせを試験して、最適な組合わせを得なければならない。つまり試験に要するコストが大きくなるという問題がある。さらには、樹脂はその温度を変えると流動性が変化するし、使用する射出ノズルを交換すると流動抵抗が変化する。つまり成形条件を変えるとキャビティ内における樹脂の挙動が変化するが、挙動が変化すると射出圧力を実質的に一定にする工程の開始のタイミングと保持時間の最適な組合わせも変化してしまう。そうすると仮に所定の温度と所定の射出ノズルに関して、この工程の開始のタイミングと保持時間について適切な組合わせが判明したとしても、樹脂の温度が変更されたり、射出ノズルが他の射出ノズルに交換される等の成形条件の変更があると、最適な開始タイミングと保持時間の組合わせを調べるために試験を初めからやり直さなければならない。
【0007】
本発明は、上記したような問題点を解決した、薄肉成形方法を提供することを目的としており、具体的には型締された金型のキャビティに樹脂を射出するときに、所定の保持時間だけ射出圧力を実質的に一定にしてキャビティへの充填を完了させる薄肉成形方法において、射出圧力を実質的に一定にする工程の開始タイミングと、保持時間とを適切に決定でき、それによって品質の高い薄肉成形品を得られる薄肉成形方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、スクリュを位置制御により軸方向に駆動して樹脂を射出する射出工程と、スクリュを圧力制御により駆動して圧力を保持する保圧工程とにより薄肉成形品を得る薄肉成形方法を対象とする。そして薄肉成形方法は、試験的に成形を実施する試験成形段階と、薄肉成形品を成形する本成形段階とから構成する。試験成形段階は、射出工程をその完了時に少なくとも所定の大きさのスクリュ速度になるようにして完了して保圧工程に切換えるようにし、このとき最大の射出圧力である射出ピーク圧力と射出工程に要する射出工程時間とを得るようにする。一方、本成形段階は、射出工程を試験成形段階における射出工程と同様にして開始すると共に所定の切換タイミングでスクリュ速度をゼロに切換えて所定の保持時間だけ保持して完了させ、その後保圧工程に切換えるようにする。切換タイミングは、射出工程が射出工程時間で完了するように予め保持時間分だけ前倒したタイミングとする。射出ピーク圧力と、最適な保持時間は相関関係があり、これらは1次関数で表せる。本発明は、1次関数に基づいて最適な保持時間を射出ピーク圧力で与える。
【0009】
かくして、請求項1に記載の発明は、上記目的を達成するために、加熱シリンダと該加熱シリンダ内で回転方向と軸方向とに駆動可能なスクリュとからなる射出装置によって、前記スクリュを位置制御により軸方向に駆動して型締めされた金型のキャビティ内に樹脂を射出する射出工程と、該射出工程後に前記スクリュを圧力制御に切換えて所定の圧力を保持する保圧工程とを実施して薄肉成形品を得る薄肉成形方法であって、前記薄肉成形方法は、試験的に成形を実施する試験成形段階と、薄肉成形品を成形する本成形段階とからなり、前記試験成形段階は、射出工程をその完了時に少なくとも所定の大きさのスクリュ速度になるようにして完了して保圧工程に切換えるようにし、このとき最大の射出圧力である射出ピーク圧力と射出工程に要する時間である射出工程時間とを得るようにし、このとき最大の射出圧力である射出ピーク圧力と射出工程に要する時間である射出工程時間とを得るようにし、前記本成形段階は、射出工程を前記試験成形段階における射出工程と同様にして開始すると共に所定の切換タイミングでスクリュ速度をゼロに切換えて所定の保持時間だけ保持して完了させ、その後保圧工程に切換えるようにし、前記切換タイミングは、射出工程が前記射出工程時間で完了するように予め前記保持時間分だけ前倒しして決定することを特徴とする薄肉成形方法として構成される。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の方法において、所定の金型に対して第1の成形条件下で前記試験成形段階を実施して前記射出ピーク圧力である第1の射出ピーク圧力を得、そして前記第1の成形条件下で前記保持時間を色々と変えて前記本成形段階を複数回繰り返し、得られる薄肉成形品の寸法精度が最も高いときの前記保持時間を第1の最適保持時間とし、前記金型に対して第2の成形条件下で前記試験成形段階を実施して前記射出ピーク圧力である第2の射出ピーク圧力を得、そして前記第2の成形条件下で前記保持時間を色々と変えて前記本成形段階を複数回繰り返し、得られる薄肉成形品の寸法精度が最も高いときの前記保持時間を第2の最適保持時間とし、前記第1、2の射出ピーク圧力と、前記第1、2の最適保持時間とから、前記射出ピーク圧力を変数として前記保持時間の最適値を与える1次関数を決定し、前記金型に対して前記第1、2の成形条件と異なる成形条件によって薄肉成形品を得るとき、前記試験成形段階を実施して得られる前記射出ピーク圧力と前記1次関数とから前記保持時間を決定することを特徴とする薄肉成形方法として構成される。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明の薄肉成形方法は、試験的に成形を実施する試験成形段階と、薄肉成形品を成形する本成形段階とから構成されている。本成形段階は、射出工程を試験成形段階における射出工程と同様にして開始すると共に所定の切換タイミングでスクリュ速度をゼロに切換えて所定の保持時間だけ保持して完了させ、その後保圧工程に切換えるようにしている。このように本成形段階では、射出工程の途中からスクリュ速度をゼロにして射出工程を完了するようにしているので、切換タイミング後はゲートからキャビティ内に流入する樹脂はわずかになる。切換タイミング前にキャビティ内に射出された樹脂は圧縮されているので、樹脂はキャビティ内で膨張しながらキャビティ内に充?される。これによってゲート近傍の樹脂の圧力は以後高くならずに実質的に一定、あるいは緩やかに低下することになる。そうすると、キャビティ内の樹脂は全体として圧力が均一になる。これは肉厚の均一な精度の高い薄肉成形品を得るための必要条件であると言える。ところで、精度の高い薄肉成形品を得るには切換タイミングと保持時間とについて最適なものを探し出す必要があり、これらは独立した2個の変数であるのでそのために実施すべき試験の回数は膨大になるはずである。しかしながら本発明によると、試験成形段階は、射出工程をその完了時に少なくとも所定の大きさのスクリュ速度になるようにして完了して保圧工程に切換えるようにし、このとき最大の射出圧力である射出ピーク圧力と射出工程に要する時間である射出工程時間とを得るようにしている。そして切換タイミングは、射出工程が射出工程時間で完了するように予め前記保持時間分だけ前倒しして決定するように構成されている。つまり本発明によると切換タイミングは、保持時間を決定したら一意的に決定できるようになっている。そうすると切換タイミングは保持時間の従属変数として扱うことができ、精度の高い薄肉成形品を得るための成形条件を決定するとき、保持時間を決定するだけで済む。つまり最適な成形条件を決定するために実施する試験の回数が少なくて済み、コストが小さい。
【0011】
他の発明によると、所定の金型に対して第1の成形条件下で試験成形段階を実施して射出ピーク圧力である第1の射出ピーク圧力を得、そして第1の成形条件下で保持時間を色々と変えて本成形段階を複数回繰り返し、得られる薄肉成形品の寸法精度が最も高いときの保持時間を第1の最適保持時間とし、金型に対して第2の成形条件下で試験成形段階を実施して射出ピーク圧力である第2の射出ピーク圧力を得、そして第2の成形条件下で保持時間を色々と変えて本成形段階を複数回繰り返し、得られる薄肉成形品の寸法精度が最も高いときの保持時間を第2の最適保持時間とし、第1、2の射出ピーク圧力と、第1、2の最適保持時間とから、射出ピーク圧力を変数として保持時間の最適値を与える1次関数を決定し、金型に対して第1、2の成形条件と異なる成形条件によって薄肉成形品を得るとき、試験成形段階を実施して得られる射出ピーク圧力と1次関数とから保持時間を決定するように構成されている。つまり、所定の金型に対しては、本成形段階における保持時間の最適値は、試験成形段階において得られる射出ピーク圧力の1次関数として与えることができるので、1次関数が決定されたら、以後は試験成形段階を1回実施して射出ピーク圧力だけを測定すれば、格別に試験することなく最適な保持時間を決定することができる。そして保持時間が決定されたら前記した発明によって必然的に切換タイミングも決定される。従って、成形条件を変更しても、具体的には射出ノズルを交換したり樹脂の温度を変更したりしてその結果樹脂の挙動が変化しても、試験成形段階を実施して射出ピーク圧力と射出工程時間とを得るだけで、直ちに本成形段階における切換タイミングと保持時間とを決定でき、切換タイミングと保持時間の最適値の組合わせを決定するのに要するコストは実質的にゼロである。本発明によると、成形条件が変化して樹脂の流動性や挙動が変化したとしても、切換タイミングと保持時間の最適な組合わせを決定できるので、肉厚が均一な精度の高い薄肉成形品が得られることが保証できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係る射出成形機を断面で示す正面図である。
【
図2】本実施の形態に係る薄肉成形方法について、その試験成形段階と本成形段階のそれぞれにおけるスクリュ速度と射出圧力の関係を示すグラフである。
【
図3】その(ア)、(イ)は、本実施の形態に係る薄肉成形方法を実施して得られた実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施の形態に係る薄肉成形方法は、一般的な射出成形機であればどのような射出成形機であっても実施でき、特別な装置は不要である。従って本実施の形態に係る射出成形機1について、
図1を参照しながら簡略的に説明する。本実施の形態に係る射出成形機1は、射出装置2と、図示されていない型締装置とから構成されている。射出装置2は、加熱シリンダ4、この加熱シリンダ4内に設けられているスクリュ5等から構成され、加熱シリンダ4の先端には射出ノズル7が設けられている。この射出ノズル7は従来の射出装置2と同様に交換することができ、内径の異なる射出ノズル7に交換すると流動抵抗が変化してキャビティ内における樹脂の挙動が変化するようになっている。加熱シリンダ4の後端寄りにはホッパ8が設けられ、図には示されていないが外周面には加熱シリンダ4を加熱するバンドヒータが設けられている。スクリュ5は、スクリュ駆動機構10によって回転方向と軸方向とに駆動できるようになっている。射出成形機1の型締装置は、トグル式型締装置であっても直圧式型締装置であっても、あるいは他の種類の型締装置であってもよい。本実施の形態に係る薄肉成形品を得る金型11は、型締装置に設けられて型開閉されるようになっている。射出装置2の射出ノズル7は、このような金型11のスプルに当接しており、射出装置2から射出される樹脂は、ゲート13から金型11内のキャビティ14に充填されるようになっている。
【0014】
このような本実施の形態に係る射出成形機1によって薄肉成形品を成形する本実施の形態に係る薄肉成形方法も、射出装置2の制御のみで薄肉成形品を成形する従来の成形方法と同様に、型締めされた金型11に対してそのキャビティ14に樹脂を射出する射出工程と、射出工程後にヒケを防止するために樹脂に圧力を印加する保圧工程とから構成する。そしてスクリュ駆動装置10によるスクリュ5の制御は、従来と同様に射出工程においては位置制御、換言すると速度制御を実施する。つまりスクリュ5について目標位置あるいは目標速度を与え、スクリュ5の位置を検出してフィードバック制御する。そして保圧工程においては圧力制御つまりトルク制御を実施する。つまりスクリュ5を軸方向に駆動するとき、目標トルクを与え、トルクを検出してフィードバック制御するようにする。しかしながら本実施の形態に係る薄肉成形方法は、射出工程について、その途中から完了時にかけて特徴的な制御を実施するようにする。すなわち本実施の形態に係る薄肉成形方法は、所定の速度でスクリュを駆動している射出工程の途中において、スクリュ速度を実質的にゼロに低下させる。そしてその状態で所定の保持時間だけ保持して射出工程を完了するようにする。射出工程の完了後は従来と同様にスクリュを圧力制御、すなわちトルク制御に切換える。
【0015】
本実施の形態に係る薄肉成形方法は、このように射出工程の途中から完了まで実質的にスクリュ速度をゼロにするが、このスクリュ速度をゼロに切換えたときのキャビティ14内の樹脂の挙動は次のようになる。すなわちスクリュ速度をゼロに切換えるタイミング、すなわち切換タイミングにおいてはキャビティ14内には樹脂が未充填の空間が残っている。しかしながらこの直前まで所定の大きさのスクリュ速度で射出されているので樹脂は薄いキャビティ14内で強い流動抵抗を受けて圧縮されてゲート13近傍には所定の大きさの圧力が発生している。この圧力と同等の大きさの圧力が加熱シリンダ4内のスクリュ5の先端の樹脂にも発生しておりこの樹脂も圧縮されている。従って切換タイミング後においては加熱シリンダ4内の樹脂は膨張して圧力が実質的に一定の状態で、あるいはわずかに圧力が減少しながらゲート13から少しずつ供給され、キャビティ14内の樹脂も膨張してキャビティ14内に充?されることになる。つまり、射出工程において切換タイミング後は、実質的に圧力が一定、もしくは圧力がわずかに減少する状態でキャビティ14内に完全に充填されるので、樹脂の射出圧力は比較的低く抑制される。スクリュ5を圧力制御つまりトルク制御に切換えて保圧工程に移行すると、スクリュ5は必要に応じてわずかに後退してゲート13近傍の樹脂の圧力を解放し、その後所定の圧力を印加することになる。本実施の形態に係る薄肉成形方法は、このようにして射出工程と保圧工程とを実施するので、キャビティ14内の樹脂の圧力のバラツキは小さく、肉厚が均一な精度の高い薄肉成形品が得られる。
【0016】
ところで、上記の本実施の形態に係る薄肉成形方法においては、切換タイミングをどのように決定するか、保持時間をどのように決定するかが問題になる。そこでこれらを決定するために、本実施の形態に係る薄肉成形方法では、最初に試験的に成形する試験成形段階を実施する。そしてその後、上記の薄肉成形方法である本成形段階を実施するようにする。
【0017】
試験成形段階について説明する。試験成形段階は、従来の成形方法を実施する。すなわち射出工程では、
図2において点線のグラフ21によって示されているように、スクリュ5の速度を一定にして実施し、この速度で射出工程を完了させるようにする。そうすると樹脂の圧力すなわち射出圧力は点線のグラフ22によって示されているように射出工程において上昇し、完了時において最大値23に達する。射出成形機1は、この最大値23を射出ピーク圧力23として記録する。同様に、試験成形段階においては射出ピーク圧力23に達するまでの時間、すなわち射出工程に要する時間を射出工程時間24として記録する。試験成形段階において射出工程完了後にスクリュ5を圧力制御に切換えて保圧工程に移行すると、スクリュ5は逆向きに駆動されてゲート13近傍の樹脂の圧力が急速に解放され、それによって射出圧力は射出ピーク圧力23から急速に低下する。そしてスクリュ5には一定のトルクが付加されて射出圧力つまり樹脂の圧力は一定になる。
【0018】
本実施の形態に係る薄肉成形方法の本成形段階では、切換タイミング28は保持時間25の従属変数として扱い、保持時間25によって決定されるようにする。まずスクリュ速度をゼロにする保持時間25を任意の時間で決定する。そして切換タイミング28は、試験成形段階で得られた射出工程時間24から保持時間25だけ前倒ししたタイミングとし、射出工程が射出工程時間24で完了するようにする。つまり本成形段階においては射出工程は、射出工程時間24で完了するようにすることになる。このようにして実施する本成形段階による射出成形の様子が
図2の実線のグラフ26で示されている。本成形段階は試験成形段階と同様に開始し、切換タイミング28においてスクリュ5の速度を実質的にゼロにする。そしてこの状態で保持時間25だけ保持する。射出工程は射出工程時間24で完了する。このとき射出工程における射出圧力は、切換タイミング28に達するまでは試験成形段階と同様に上昇し、切換タイミング28以降は一定になる、もしくはわずかに低下する。射出工程時間24に達して射出工程を完了するとスクリュ5を圧力制御すなわちトルク制御に切換えて保圧工程にする。そうするとスクリュ5は必要に応じてわずかに後退し、射出圧力は減少し、その後スクリュ5によって一定の射出圧力、すなわち樹脂の圧力が印加されて保圧工程が完了する。本成形段階の射出工程が完了した時点では、ゲート13近傍の樹脂の圧力は高くないので、保圧工程においてスクリュ5が後退するとしても試験成形段階に比して後退量は小さい。あるいはスクリュ5は後退しないこともある。
【0019】
このようにすると、保持時間25を決定するだけで必然的に切換タイミング28が決定されるので本成形段階は容易に実施できる。しかしながらキャビティ14に樹脂が適切に充填できるか否かが不明である。本成形段階の射出工程では試験成形段階より低い射出圧力で完了するのに、試験成形段階の射出工程と同じ射出工程時間24しか射出工程を実施しないので、キャビティ14に十分に樹脂が充填されない可能性、つまりショートショットが発生する可能性があるからである。しかしながら、以下で説明する実験でも明らかなように、本実施の形態に係る本成形段階ではショートショットは発生しないことが判明している。ところで、ショートショットの問題は無いとしても保持時間25については最適な時間をどのように決定していいのか依然として不明である。しかしながら本発明者等は、最適な保持時間25は、射出ピーク圧力23によって一意的に決定できることを見いだした。具体的には最適な保持時間25は、射出ピーク圧力23を変数とする1次式で決定することができることを見いだした。これらの点を確認するため次の実験を実施した。
【実施例1】
【0020】
○ 装置、金型、樹脂について
図1に示されている、本実施の形態に係る射出成形機1を使用し、交換可能な射出ノズル7として第1〜3の射出ノズル7A、7B、7Cを用意した。金型11として、厚さ430μmで大きさが12.5cm×7cmの導光板を形成する金型を使用した。樹脂はポリカーボネート樹脂を使用した。
○ 実験の内容
(1)射出成形機1に第1の射出ノズル7Aを取付けて、試験成形段階を実施して導光板を成形した。このときに得られた射出ピーク圧力は410MPaであった。これを第1の射出ピーク圧力とする。成形された導光板にはショートショットは見られなかった。導光板のゲート13近傍の肉厚を測定したところ447μmであった。
(2)次に、第1の射出ノズル7Aを使用して、保持時間を0.02秒、0.03秒、0.04秒、0.05秒として、本成形段階を4回実施した。それぞれの保持時間で成形された導光板を調べたところ、いずれもショートショットは見られなかったが、ゲート13近傍の肉厚は、それぞれ439μm、437μm、435μm、443μmであった。
(3)第1の射出ノズル7Aによる試験成形段階と本成形段階のそれぞれのデータを
図3の(ア)においてグラフ31として示す。ゲート13近傍の肉厚が、導光板の理想的な肉厚430μmに最も近づいたのは、保持時間が0.04秒であったことがわかった。これにより第1の射出ノズル7Aを使用する場合における最適な保持時間、つまり第1の最適保持時間は0.04秒であることが分かった。なお、保持時間を0.02〜0.05秒で変更して本実施の形態に係る薄肉成形方法の本成形段階を実施してもショートショットが発生しないことも確認した。
(4)次に、射出成形機1に第2の射出ノズル7Bを取付けて試験成形段階を実施し、保持時間を変えて4回本成形段階を実施して、グラフ32を得た。第2の射出ノズル7Bによる試験成形段階で得られた射出ピーク圧力つまり第2の射出ピーク圧力は405MPaであった。最適な保持時間つまり第2の最適保持時間は、ゲート13近傍の肉厚が、理想的な肉厚である430μmに最も近づいた0.03秒であることが分かった。なお、試験成形段階、および4回の本成形段階で得られた導光板はいずれもショートショットが発生していないことを確認した。
(5)最後に、射出成形機1に第3の射出ノズル7Cを取付けて試験成形段階を実施し、保持時間を変えて3回本成形段階を実施して、グラフ33を得た。第3の射出ノズル7Bによる試験成形段階で得られた射出ピーク圧力つまり第3の射出ピーク圧力は390MPaであった。最適な保持時間つまり第3の最適保持時間は、ゲート13近傍の肉厚が、理想的な肉厚である430μmに最も近づいた0.02秒であることが分かった。なお、試験成形段階、および3回の本成形段階で得られた導光板はいずれもショートショットが発生していないことを確認した。
(6)第1〜3の射出ノズル7A、7B、7Cのそれぞれについて得られた第1〜3の射出ピーク圧力と、第1〜3の最適保持時間とをプロットして
図3の(イ)のグラフ35を得た。グラフ35は1次関数になっていることが確認できた。
【0021】
本来は、射出ノズル7を交換したり、あるいは樹脂の種類を変更したり樹脂温度を変更するような成形条件の変更を行うと、同一の金型を使用する成形であっても、肉厚が均一で精度の高い薄肉成形品を得るための最適な切換タイミング28と保持時間25との組合わせを調べるために、試験を繰り返す必要がある。しかしながら本発明に係る薄肉成形方法では、上記したような実験によって、グラフ35に示されているような1次関数を得た後は、成形条件が変化してそれによってキャビティ14内に射出される樹脂の挙動が変化しても、最適な切換タイミング28と保持時間25の組合わせは簡単に決定できる。つまり、その成形条件の下で試験成形段階を実施し、射出ピーク圧力23と射出工程時間24を得る。最適な保持時間25は、グラフ35の1次関数にこの射出ピーク圧力23を代入して得る。最適な切換えタイミング28は、射出工程時間24から、決定された保持時間25を前倒ししたタイミングとする。なお、グラフ35の1次式を得るために、上記した実験では第1〜3の射出ノズル7A、7B、7Cを使用して実験した。つまり射出ピーク圧力が異なる3種類の成形条件によって実験した。しかしながら1次関数を決定するには、射出ピーク圧力が異なる2種類の成形条件の下で試験を実施すれば十分である。
【0022】
本実施の形態に係る薄肉成形方法は色々な変形が可能である。例えば、上記した説明では、試験成形段階はスクリュ5の速度が一定として射出工程を実施し、本成形段階も切換タイミング28まではスクリュ5の速度が一定として実施している。しかしながらスクリュ5の速度は変更してもよい。例えば、試験成形段階において、スクリュ5の速度を2段にして途中で変更してもよい。この場合、試験成形段階の射出工程において、スクリュ5が非ゼロの所定の大きさの速度で完了するようにすればよい。また、このとき本成形段階の射出工程はスクリュ5の速度は3段に変更されることになる。すなわち本成形段階の射出工程は、試験成形段階の射出工程と同様にスクリュ5の速度が2段に変更後、切換タイミング28においてスクリュ5の速度を実質的にゼロにすることになるので、スクリュ5の速度は3段に変更されるからである。
【符号の説明】
【0023】
1 射出成形機 2 射出装置
4 加熱シリンダ 5 スクリュ
7 射出ノズル 11 金型
13 ゲート 14 キャビティ
23 射出ピーク圧力 24 射出工程時間
25 保持時間 28 切換タイミング